(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055519
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ボールねじ装置および直動機構
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240411BHJP
F16D 55/06 20060101ALI20240411BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20240411BHJP
H02K 7/06 20060101ALI20240411BHJP
H02K 7/102 20060101ALI20240411BHJP
F16D 121/22 20120101ALN20240411BHJP
【FI】
F16H25/22 A
F16D55/06 A
F16D65/18
H02K7/06 A
F16H25/22 J
H02K7/102
F16D121:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162531
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸幸
【テーマコード(参考)】
3J058
3J062
5H607
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA58
3J058AA73
3J058AA78
3J058AA79
3J058AA88
3J058BA12
3J058CC07
3J058CC13
3J058CC14
3J058CC72
3J058CC77
3J058FA01
3J058FA31
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA31
3J062CD04
3J062CD23
3J062CD79
3J062CG83
5H607BB01
5H607BB26
5H607CC03
5H607DD19
5H607EE52
(57)【要約】
【課題】ボールねじ軸を任意位置に無給電でロックできるボールねじ装置および直動機構を提供する。
【解決手段】ロック機構は、ナット部材に一体状に固着されるディスク板と、ボールねじ軸の軸心方向の往復動が可能な磁性材からなる規制板と、規制板をディスク板側へ押圧して、規制板に付設された摩擦材をディスク板に押し当ててナット部材の回転を規制する押圧部材と、押圧部材の押圧力に抗して摩擦材のディスク板への押し当てを解除する解除機構とを備える。解除機構は、永久磁石が内蔵された電磁石コアと、電磁石コアに配設される一対のコイルとを有する電磁石を備える。一対のコイルに電流を流すことにより、電磁吸引力を発生させて規制板を電磁石側へ吸引する。一対のコイルに流す電流の方向を変更することにより、永久磁石の起磁力の調整を可能とした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじ溝が設けられたボールねじ軸と、ボールねじ軸に挿入され、内周面にねじ溝が設けられたナット部材と、ボールねじ軸のねじ溝とナット部材のねじ溝との間に嵌合される複数のボールと、前記ナット部材の回転を規制する口ック機構を備えたボールねじ装置であって、
前記ロック機構は、前記ナット部材に一体状に固着されるディスク板と、ボールねじ軸の軸心方向の往復動が可能な磁性材からなる規制板と、前記規制板を前記ディスク板側へ押圧して、前記規制板に付設された摩擦材をディスク板に押し当てて前記ナット部材の回転を規制する押圧部材と、前記押圧部材の押圧力に抗して前記摩擦材のディスク板への押し当てを解除する解除機構とを備え、
前記解除機構は、永久磁石が内蔵された電磁石コアと、電磁石コアに配設される一対のコイルとを有する電磁石を備え、一対のコイルに電流を流すことにより、電磁吸引力を発生させて前記規制板を電磁石側へ吸引し、かつ、一対のコイルに流す電流の方向を変更することにより、前記永久磁石の起磁力の調整を可能としたことを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
前記解除機構は、大径の第1コイルと、小径の第2コイルと、第1コイルと第2コイルとの間に介装される前記永久磁石とを備え、第1コイルに流す電流の方向と第2コイルに流す電流の方向と同一方向として前記電磁石コア内に磁気ループを生じさせるとともに前記永久磁石に磁束を通過させない同方向励磁モードと、第1コイルに流す電流の方向と第2コイルに流す電流の方向とが逆方向として前記電磁石コア内に前記永久磁石に磁束を通過させる磁気ループを生じさせる逆方向励磁モードとがあることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記摩擦材をディスク板に押し当てて前記ナット部材の回転を規制している状態で、前記第1・第2コイルに同一方向の電流を流す同方向励磁モードとして、前記電磁石と規制板との間に磁気吸引力を作用させて、摩擦材のディスク板への押し当て力の軽減を可能としたことを特徴とする請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
ナット部材の回転を規制するロック状態におけるボールねじ軸に係る軸方向荷重を検出る荷重センサを備えたことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
ナット部材の回転を規制するロック状態の解除時において、前記電磁石の磁気吸引力を増加させて前記摩擦材の押し付け力を弱めるとともに、前記ナット部材の駆動トルクを増加させて、ナット部材の駆動トルクの逆方向の回転を規制する制御を行うことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記電磁石と規制板との間の隙間寸法を検出する隙間検出センサを備え、この隙間寸法に応じて電磁石の一対のコイルに流すコイル電流を調整して前記電磁石の磁気吸引力を制御することを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項7】
前記電磁石が規制板を吸着した状態で、一対のコイルに逆方向の電流を流して、前記永久磁石が軸方向に沿って通る磁束にて着磁し、一対のコイルへの電流停止でも、規制板が電磁石に吸着状態を維持することを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項8】
一対のコイルに電流を流して、前記永久磁石が軸方向に沿って通る磁束にて着磁している状態で、一対のコイルに逆方向の電流を流すことにより、前記永久磁石の消磁を可能としたことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項9】
前記永久磁石の着磁状態を、磁路中の磁束密度から求め、コイル電流の大きさ、向き、流す時間を調整して所望の着磁状態とすることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項10】
永久磁石が軸方向に沿って通る磁束にて着磁している状態での規制板の電磁石への吸着が可能な低保磁力磁石であることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項11】
前記請求項1~請求項10に記載のボールねじ装置を用いたことを特徴とする直動機構。
【請求項12】
ボールねじ軸の軸方向の停止目標位置付近において、ナット部材の駆動トルクと、規制板の電磁石への吸着力である制動トルクとの協調制御にて制動力乃至ダンピング力を付与する制御を行うことを特徴とする請求項11に記載の直動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置および直動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置を構成するボールねじは、伝達効率が高いため、各種直動機構(直動アクチュエータ)に用いられる。一般に、ボールねじは、ねじ軸、ナット、及びボール等から構成され、ねじ軸とナットのどちらかを回転させると、もう一方が直線運動する機械部品である。このため、直線運動を行う側に対してその位置を保持するため、モータ等の駆動源から常時動力を供給する必要があった。しかしながら、常時動力を供給する場合、エネルギー損失していることになる。そこで、従来には、ボールねじの位置保持機構は種々提案されている(特許文献1~特許文献3)。
【0003】
ところで、ボールねじは、回転運動を直線運動に変換する正効率、直線運動を回転運動に変換する逆効率いずれもが高いという特徴を持つ。このため、小さなモータでナットを直線運動させることができるという利点がある反面、力の逆入力、すなわちナットに作用する軸力によってねじ軸が回転してしまうという課題がある。ねじ軸を回転させないためには、モータに電流を供給してモータから保持力を派生させる必要がある。
【0004】
力の逆入力に対して、モータに電流を供給しなくても、ナットが軸方向に移動しないようにするためには、モータの回転運動を減速する減速機構にセルフロック性、すなわち力の逆入力に起因する回転力に対する自己保持性を持たせる必要がある。
【0005】
特許文献1では、運動変換機構部の駆動を防止するロック機構部を備えた電動アクチュエータが記載されている。この場合、周方向に複数の係合孔が形成されたギヤと、ギヤに対して軸方向に進退して係合孔に対して嵌合するロック部材を有するものである。
【0006】
特許文献2では、減速機構にセルフロック機能を持たせるものであり、セルフロック機能を持たせるために高減速比に設定する必要があった。
【0007】
特許文献3は、ボールねじを用いた転舵装置が記載されている。そして、この転舵装置は電磁ブレーキ装置を備えるものであり、電磁ブレーキ装置は、モータ出力軸に取り付けられたディスクにブレーキシューを押し付けてロックするものである。この場合、ロック時はブレーキシューがコイルばねによってディスクに押し付けられており、ソレノイドに通電することでブレーキシューがディスクから引き離されてロックが解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-13183号公報
【特許文献2】特開2014-025515号公報
【特許文献3】特開2016-92891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のものでは、ギヤに形成された係合孔の数は有限であり、任意の位置でロックすることができない。また、減速機歯車の回転を止めてもバックラッシ分はボールねじナットが回転し、ねじ軸が動くことになる。
【0010】
前記特許文献2に記載されたものでは、セルフロック機能を持たせるために減速機を高減速比に設定する必要があるため、高応答性を供給される用途には対応できず、しかも、一般的な減速機に比べて効率も悪いものとなる。また高減速比にしても完全に逆入力を遮断できるわけではないため駆動力を断った状態で変動荷重が加わると位置保持ができない場合がある。逆入力を低減させるために台形ねじやウォームギヤ等を用いた直動アクチュエータも同様である。
【0011】
特許文献3に記載されたものでは、ロック解除時にはソレノイドに常時通電する必要があり、エネルギーが消費される。ロック解除時に荷重によりボールねじ軸が動かないよう、予め解除前から位置制御を施すことになる。この場合、ソレノイドはON/OFF動作のため、荷重と駆動力が釣り合わない状態でロック解除されると位置制御系にはステップ状の外乱が入力されることになって、ボールねじ軸に振動が生じる。
【0012】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、ボールねじ軸を任意位置に無給電でロックできるボールねじ装置および直動機構を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のボールねじ装置は、外周面にねじ溝が設けられたボールねじ軸と、ボールねじ軸に挿入され、内周面にねじ溝が設けられたナット部材と、ボールねじ軸のねじ溝とナット部材のねじ溝との間に嵌合される複数のボールと、前記ナット部材の回転を規制する口ック機構を備えたボールねじ装置であって、前記ロック機構は、前記ナット部材に一体状に固着されるディスク板と、ボールねじ軸の軸心方向の往復動が可能な磁性材からなる規制板と、前記規制板を前記ディスク板側へ押圧して、前記規制板に付設された摩擦材をディスク板に押し当てて前記ナット部材の回転を規制する押圧部材と、前記押圧部材の押圧力に抗して前記摩擦材のディスク板への押し当てを解除する解除機構とを備え、前記解除機構は、永久磁石が内蔵された電磁石コアと、電磁石コアに配設される一対のコイルとを有する電磁石を備え、一対のコイルに電流を流すことにより、電磁吸引力を発生させて前記規制を電磁石側け吸引し、かつ、一対のコイルに流す電流の方向を変更することにより、前記永久磁石の起磁力の調整を可能としたものである。
【0014】
本発明のボールねじ装置によれば、ロック機構の押圧部材にて、規制板に付設された摩擦材をディスク板に押し当てることができ、この際、ナット部材に駆動トルクを付与しないようにすれば、規制板の摩擦材がディスク板に押し当てられているので、ディスク板が回転停止状態となり、このディスク板に一体状に固着されているナット部材は回転停止状態となる。この回転停止状態においては、電磁石の一対のコイルに電流を流さない無給電状態である。また、電磁石の一対のコイルに電流を流すことより、電磁吸引力を発生させて前記規制板を電磁石側へ吸引することによって、ディスク板の回転停止状態が解除となって、ナット部材に駆動トルクの付与でもって、ナット部材が回転駆動して、ボールねじ軸の軸心方向の往復動が可能となる。
【0015】
前記解除機構は、大径の第1コイルと、小径の第2コイルと、第1コイルと第2コイルとの間に介装される前記永久磁石とを備え、第1コイルに流す電流の方向と第2コイルに流す電流の方向と同一方向として前記電磁石コア内に磁気ループを生じさせるとともに前記永久磁石に磁束を通過させない同方向励磁モードと、第1コイルに流す電流の方向と第2コイルに流す電流の方向とが逆方向として前記電磁石コア内に前記永久磁石に磁束を通過させる磁気ループを生じさせる逆方向励磁モードとがあるように設定することができる。
【0016】
同方向励磁モードとすることによって、永久磁石に磁束を通過させないが、電磁石コア内に磁気ループを生じ、電磁石側に規制板を吸引する電磁吸引力を発生させることができる。また、この同方向励磁モードでは、永久磁石に磁束を通過させないので、永久磁石は着磁しない。これに対して、逆方向励磁モードとすることによって、永久磁石が着磁することになる。また、永久磁石が着磁した状態で、着磁させた逆方向励磁モードとは相違する電流の流れの逆方向励磁モードとすることによって、永久磁石の着磁を消磁させることができる。
【0017】
このため、前記摩擦材をディスク板に押し当てて前記ナット部材の回転を規制している状態で、前記第1・第2コイルに同一方向の電流を流す同方向励磁モードとして、前記電磁石と規制板との間に磁気吸引力を作用させて、摩擦材のディスク板への押し当て力の軽減を可能とすることができる。
【0018】
ナット部材の回転を規制するロック状態におけるボールねじ軸に係る軸方向荷重を検出る荷重センサを備えたものであってもよい。このように荷重センサを設ければ、ロック時におけるボールねじ軸にかかる荷重がわかる。すなわち、ナット部材の制動トルクがわかる。
【0019】
ナット部材の回転を規制するロック状態の解除時において、前記電磁石の磁気吸引力を増加させて前記摩擦材の押し付け力を弱めるとともに、前記ナット部材の駆動トルクを増加させて、ナット部材の駆動トルクの逆方向の回転を規制する制御を行うのが好ましい。
【0020】
このような制御を行うものでは、ロック状態から滑らかにナット部材の回転駆動状態に移行でき、しかもナット部材は所望の回転方向と逆方向に回転することを防止できる。
【0021】
前記電磁石と規制板との間の隙間寸法を検出する隙間検出センサを備え、この隙間寸法に応じて電磁石の一対のコイルに流すコイル電流を調整して前記電磁石の磁気吸引力を制御するように設定できる。すなわち、電磁石の磁気吸引力は、コイルに印加する電流(コイル電流)及び電磁石と規制板との間の隙間寸法によって変化する。このため、この隙間寸法を隙間検出センサで検出することによって、この隙間寸法に応じてコイル電流を調節することで、磁気吸引力を制御することができる。これにより、ロック解除時の制御を安定して正確に行うことができる。さらには、規制板の電磁石に吸着する(接触する)際にソフトランディング(穏やかに接触)させることができる。
【0022】
前記電磁石が規制板を吸着した状態で、一対のコイルに逆方向の電流を流して、前記永久磁石が軸方向に沿って通る磁束にて着磁し、一対のコイルへの電流停止でも、規制板が電磁石に吸着状態を維持するように設定できる。コイルへの電流停止状態でも、規制板が電磁石に吸着状態が維持されるので、この状態でナット部材に駆動トルクを付与することによって、ナット部材が回転駆動する。
【0023】
一対のコイルに電流を流して、前記永久磁石が軸方向に沿って通る磁束にて着磁している状態で、一対のコイルに逆方向の電流を流すことにより、前記永久磁石の消磁を可能となる。このように永久磁石の消磁を行えば、初期状態に戻すことができる。
【0024】
前記永久磁石の着磁状態を、磁路中の磁束密度から求め、コイル電流の大きさ、向き、流す時間を調整して所望の着磁状態とすることができる。
【0025】
永久磁石が軸方向に沿って通る磁束にて着磁している状態での規制板の電磁石への吸着が可能な低保磁力磁石であり、起磁力が高く、保磁力の比較的小さい磁石、例えば鉄-クロム-コバルト(FeCrCo)或いはアルニコ磁石(Alnico)で構成できる。
【0026】
本発明の直動機構は、前記記載のボールねじ装置を用いたものである。ここで、直動機構は、ボールねじ装置を用いた直動アクチュエータ全般を指す。具体的には、建機/農機用電動パワーシリンダ、ロボット腕脚用直動アクチュエータ、自動車サスペンション用車高調整機構、自動車用各輪独立転舵機構、工作機ワークステージ用直動アクチュエータ、介護機器用直動アクチュエータ等の任意位置での位置保持機能が必要なものである。
【0027】
ボールねじ軸の軸方向の停止目標位置付近において、ナット部材の駆動トルクと、規制板の電磁石への吸着力である制動トルクとの協調制御にて制動力乃至ダンピング力を付与する制御を行うように設定できる。
【0028】
このように、制動力乃至ダンピング力を付与することによって、応答速度向上やオーバーシュート防止を図ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、ボールねじ軸を軸方向の目標位置において無給電でロック状態を保持できるので、位置を保持するために、モータ等の駆動源からロック状態において、動力を供給する必要がなく、エネルギー損失が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係るボールねじ装置の要部断面図である。
【
図2】本発明に係るボールねじ装置の動作工程図である。
【
図3】本発明に係るボールねじ装置の制御部の簡略ブロック図である。
【
図4】制動トルクと駆動トルクとの関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下本発明の実施の形態を
図1~
図4に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るボールねじ装置を示し、このボールねじ装置は、外周面1に第1ねじ溝(図示省略)が設けられたねじ軸3と、ねじ軸3に挿入され、内周面4に第1ねじ溝に対応する第2ねじ溝(図示省略)が設けられたナット部材6と、第1ねじ溝2と第2ねじ溝5との間である転動路(図示省略)に配置される複数のボール(図示省略)とを備えたものである。この場合、駆動手段を構成する駆動源36(
図3参照)らの駆動トルクにて回転駆動され、かつ、回転方向の変更が可能とされる。このため、ナット部材6が回転駆動されることによって、ねじ軸3はその軸方向に沿って往復動することができる。なお、駆動源36としては、例えば、DCモータを用いることができる。
【0032】
ところで、ボールねじ装置においては、多数のボールを無限に循環させる機能を必要とする。この機能としては、リターンプレート式、こま式、エンドキャップ式、エンドデフレクタ式、およびリターンチューブ式等があり、本ボールねじ装置では、これらのいずれも採用できる。
【0033】
この場合、このボールねじ装置は、ロック機構Mを備える。ここで、ロック機構Mは、ナット部材6の回転を停止して、ナット部材6に対するボールねじ軸3の軸方向の往復動を規制するものであり、ロック機構Mは、ナット部材6に一体状に固着されるディスク板10と、ボールねじ軸3の軸心方向の往復動が可能な磁性材からなる規制板11と、規制板11をディスク板10側へ押圧して、規制板11に付設された摩擦材12をディスク板10に押し当ててナット部材6の回転を規制する押圧部材13と、押圧部材13の押圧力に抗して摩擦材12のディスク板10への押し当てを解除する解除機構Kとを備える。
【0034】
ナット部材6は、内周面4に第2ねじ溝が形成された円筒体からなり、一方の端面に、ディスク板10が固着されている。なお、ディスク板10には中心孔が設けられ、この中心にボールねじ軸3が挿通されている。
【0035】
規制板11は、ディスク板10に相対面するように、反ナット部材側に配置される円盤体からなり、ディスク板10に対向する端面11bに、平板リング状の摩擦材12が付設されている。摩擦材12は、ディスク板10に直接接触することによって制動力を発生する部品であり、一般には、有機系摩擦材と無機系摩擦材とがあり、いずれを用いてもよい。有機系摩擦材は、繊維基材に各種の添加材料を加え、熱硬化樹脂で結合した複合材であり、スチール繊維を使用したセミメタリック系摩擦材もある。また、無機系摩擦材は、焼結金属や炭素繊維強化材料(CCコンポジット)等で構成される。
【0036】
解除機構Kは、ボールねじ装置が収納される固定側の非磁性材のハウジング15に固定される電磁石16を備えるものである。電磁石16は、永久磁石17が内蔵された電磁石コア18と、電磁石コア18に配設される一対のコイル20A、20Bとを備えたものである。電磁石コア18は、中心孔18aが設けられた円盤形状の磁性材からなり、規制板側の端面18cに開口して、コイル20、20が収納される周方向凹溝19が設けられている。一対のコイル20、20は、大径側のリング形状に巻設された第1コイル20Aと、小径側のリング形状に巻設された第2コイル20Bとを有し、この第1コイル20Aと第2コイル20Bとの間に、リング形状に永久磁石17が介装(介在)されている。永久磁石17は低保磁力磁石で構成され、低保磁力磁石は、起磁力が高く、保磁力の比較的小さい磁石、例えば鉄-クロム-コバルト(FeCrCo)或いはアルニコ磁石(Alnico)で構成できる。
【0037】
ところで、ハウジング15は円筒形状の胴部15aを有し、この胴部15aの内周面15a1に、電磁石コア18の外周面18bが固定される。このため、電磁石16は固定部材となる。規制板11は、廻止めピン21や規制板11をディスク板10へ押圧する押圧部材13(例えば、圧縮コイルばねからなる)を介して、ボールねじ軸3の軸方向に往復動可能に、電磁石16側に付設される。すなわち、電磁石コア18の規制板11側の端面18cに、押圧部材13の反ナット部材側が嵌合する凹所22、及び廻止めピン21の反ナット部材側が嵌合する凹所23が設けられ、これに対向して、規制板11の電磁石コア側の端面に、廻止めピン21のナット部材側が嵌合する凹所24と、廻止めピン21のナット部材側が嵌合する凹所25とが設けられている。このため、電磁石コア18側の凹部22とこれに対向する規制板11の凹所24とに押圧部材13が嵌合され、電磁石コア18側の凹部23とこれに対向する規制板11の凹部25とに廻止めピン21が嵌合される。これによって、電磁石コア18に対して回ることが規制され、ボールねじ軸3の軸方向に往復することが許容される。
【0038】
ところで、電磁石16の中心孔18a及び規制板11の中心孔11aにボールねじ軸3が遊嵌状に挿入され、ボールねじ軸3の軸心方向の往復動を規制しない。また、規制板11の外径及びディスク板10の外径はほぼ同一寸に設定されるとともに、ハウジング15は円筒形状の胴部15aの内径よりも小さく設定され、ディスク板10の回転、及び規制板11の往復動を規制しない。なお、規制板11の肉厚及びディスク板10の肉厚はほぼ同一寸に設定され、摩擦材12は、これらよりも薄く設定されている。また、電磁石16の電磁石コア18の肉厚は、規制板11の肉厚及びディスク板10の肉厚よりも厚く設定されている。
【0039】
ところで、本ボールねじ装置は、
図3に示すように、電磁石16と規制板11との間の隙間を検出する隙間検出センサ30と、ボールねじ軸3に掛かる軸方向荷重を検出する荷重センサ31と、形成される磁路の磁束密度を測定する磁束密度検出センサ32とを備える。隙間検出センサ30は、例えば、渦電流式センサやリラクタンス式センサ等の磁気式変位センサ等で構成できる。荷重センサ(圧力センサ)31には、半導体ゲージ式、ひずみケージ式、金属薄膜式等のケージ式のもの、さらには、ゲージ式の圧力センサ以外に、静電容量式、光ファイバー式、振動式等の圧力センサがある。なお、荷重センサ31として、ナット部材支持軸受部分に取り付けられた軸受アキシアル荷重センサによって構成されるのが好ましい。また、このアキシアル荷重センサは固定輪側支持部の歪みを検出するものが好ましい。
【0040】
磁束密度検出センサ32には、コイルを用いたもの、リードスイッチを用いたもの、ホール素子を用いたもの、磁気抵抗素子を用いたもの等がある。なお、磁気抵抗素子には、半導体磁気抵抗素子、異方性磁気抵抗素子、巨大磁気抵抗素子、及びトンネル磁気抵抗素子がある。このため、検出器(磁束密度検出センサ32)として、これらのものから種々選択して使用することができる。
【0041】
ところで、各センサ30,31,32は、それぞれのセンサとして機能を発揮でき、しかも、本ボールねじ装置の動作を妨げない位置に設けられる。
【0042】
各センサ30,31,32の信号が、制御器35に入力されて演算され、駆動源36およびロック機構Mを制御する
【0043】
すなわち、制御器35からの指令信号が、ナット部材6の回転力(駆動トルク)を付与する駆動源36に入力されて、ナット部材6が回転駆動する。この際、ナット部材の回転方向、駆動トルク、回転数等が制御される。また、制御器35からの指令信号が、電流供給源37に入力され、この電流供給源37からロック機構Mの各コイル20A、20Bに供給される。この場合、各
図2(a)(b)(c)(d)の磁力線が発生するような電流を流すことができる。
【0044】
次に
図2を用いて本ボールねじ装置の動作を説明する。まず、
図2(a)に示す状態(初期状態)は、コイル20A,20Bには電流を流さない状態とする。また、永久磁石17は着磁されていない状態とする。この状態では、押圧部材13の弾性付勢力にて、規制板11がディスク板10側へ押圧され、摩擦材12がディスク板10を押し付けることになる。この状態では、規制板11とディスク板10と一体化して、ナット部材6が回転しないロック状態となっており、ナット部材6には駆動源36からの駆動トルクが付与されていない状態となっている。
【0045】
この
図2(a)に示す状態から、
図2(b)に示すように、各コイル20A、20Bに電流を流す。この場合、電磁石コア18内に磁気ループAを生じさせるとともに永久磁石17に磁束を通過させない同方向励磁モードとする。この場合、いずれのコイル20A、20Bに紙面の裏側から表側への電流を流すものである。これによって、電磁石コア18内に矢印方向の磁気ループAが形成され、電磁石16の磁気吸着力が発生し、規制板11がディスク板10から離間することになる。
【0046】
次に、
図2(c)に示すように、第1コイル20Aに流す電流の方向と第2コイル20Bに流す電流の方向とが逆方向として電磁石コア18内に永久磁石17に磁束を通過させる磁気ループB1,B2を生じさせる逆方向励磁モードとする。この場合、第1コイル20Aには、紙面の裏側から表側への電流を流すとともに、第2コイル20Bには、第1コイル20Aとは逆の紙面の表側から裏側への電流を流す。このため、第1コイル20Aと第2コイル20Bとの間の永久磁石17には、第1・第2コイル20A、20Bで形成される磁気ループB1、B2の方向が、規制板11側に向かうことになる。これによって、永久磁石17は軸方向に着磁される。すなわち、永久磁石17には、規制板11を電磁石コア18に吸引する方向の磁気吸着力が発生し、規制板11を電磁石16に吸着することができる。
【0047】
この状態において、
図2(d)に示すように、第1コイル20A及び第2コイル20Bへの電流の供給を停止する。しかしながら、電流の供給が停止されても、永久磁石17も着磁されたままであるので、規制板11を電磁石16に吸着している状態が維持される。この状態では、ナット部材6に、駆動源からの駆動トルクが付与されて、ナット部材6が回転駆動される状態とすることができる。
【0048】
ナット部材6の駆動源36からの駆動トルクの付与を停止して、再度、ナット部材6の回転停止(ロック)状態とするには、まず
図2(e)に示すように、第1コイル20Aに流す電流の方向と第2コイル20Bに流す電流の方向とが逆方向として電磁石コア18内に永久磁石17に磁束を通過させる磁気ループB3,B4を生じさせる逆方向励磁モードとする。この場合、第1コイル20Aには、紙面の表側から裏側への電流を流すとともに、第2コイル20Bには、第1コイル20Aとは逆の紙面の裏側から表側への電流を流す。これによって、第1コイル20Aと第2コイル20Bとの間の永久磁石17には、第1・第2コイル20A、20Bで形成される磁気ループB3、B4の方向が、規制板11側から反規制板側に向かうことになる。すなわち、永久磁石17を、
図2(c)に示す永久磁石17を着磁する磁束方向とは、逆方向の軸方向の磁束が通過することにる。このため、永久磁石17の着磁が打ち消され、永久磁石17が消磁されることになる。
【0049】
このように、永久磁石17が消磁された後は、第1コイル20A、20Bの電流を流して、
図2(f)に示すように、電磁石コア18内に磁気ループCを生じさせるとともに永久磁石17に磁束を通過させない同方向励磁モードとする。いずれのコイル20A、20Bにも紙面の表側から裏側への電流を流すものである。これによって、電磁石コア18内に矢印方向の磁気ループC(
図2(b)と反対)が形成され、永久磁石17は電磁石16が着磁されない状態となっているが、磁気ループCによって、規制板11が電磁石16が吸着される状態となっている。そして、この状態から、コイル20A、20Bへの電流供給を弱めて、電磁石16の磁気吸引力を弱めることによって、押圧部材13の弾性付勢力が磁気吸引力よりも大きくなれば、この
図2(f)に示すように、規制板11が電磁石16から離れ、摩擦材12がディスク板10を押し付けることになって、ロック状となる。このロック状態ではナット部材6の駆動トルクを付与しない。
【0050】
ところで、
図2(b)に示すように、電磁石16の磁気吸引力により、規制板11が電磁石16側に引き寄せられていけば、ナット部材6への制動力が低下する。また、
図2(a)に示すように、摩擦材12がディスク板10を押し付けることになって、ロック状態において、ボールねじ軸3に掛かる軸方向荷重は、荷重センサにて検出することができる。このため、このセンサ出力を基に電磁石16の磁気吸引力と駆動トルク、ひいてはディスク板制動力とナット部材6の駆動トルクを協調制御することで、ロックモードから駆動モードにスムーズに遷移させることができる。すなわち、電磁石16の磁気吸引力が徐々に増して規制板11を電磁石16側に吸引し、制動力を弱めると同時に駆動源(モータ等)からの駆動トルクを増すことで、ナット部材6は駆動トルクと逆方向に回転させられることが無くなる。
【0051】
電磁石16の磁気吸引力はコイル電流及び規制板11の距離(隙間)によって変化するため、隙間検出センサ30を用いて隙間を検出し、隙間に応じてコイル電流を調整することで磁気吸引力を制御することができる。これにより、ロック解除時の制御が精密に実行でき、また規制板11が電磁石16に接触する際にはソフトランディング(穏やかに接触)させることもできる。
【0052】
さらに、
図2(c)に示すように、第1コイル20Aに流す電流の方向と第2コイル20Bに流す電流の方向とが逆方向として電磁石コア18内に永久磁石17に磁束を通過させる磁気ループB1,B2を生じさせる逆方向励磁モードとして、永久磁石17に着磁する場合、磁束密度検出センサ32にて、磁路中の磁束密度を測定することによって、この測定した磁束密度に基づいて、コイル電流の大きさ、向き、流す時間を調整することにより、所望の着磁状態になるように調整できる。また、
図2(e)に示すように、永久磁石を消磁する際も、磁束密度検出センサ32にて、磁路中の磁束密度を測定することによって、この測定した磁束密度に基づいて、コイル電流の大きさ、向き、流す時間を調整することにより、所望の状態になるように調整できる。
【0053】
ボールねじ軸3の目標停止位置付近においては、駆動源と協調制御して制動力、ダンピング力を付与できるため応答速度向上、オーバーシュート防止を図ることもできる。
【0054】
ところで、
図4はロック解除時の制御の一例を示す。すなわち、
図4において、(I)の領域は制動モードであって、ロック機構Mによる制動トルクを徐々に下げて、ボールねじ軸3からナット部材6に入力される負荷トルクに近づける。(II)の領域は遷移モードであって、制動トルクを下げると同時に駆動源(モータ)からの駆動トルクを増加させて急激なトルク変動を生じないようにする。(III)の領域は駆動モードであって、制動トルクは零になり、駆動モードに移行する。すなわち、ロック解除時のロック機構Mと駆動源36の協調制御を行うことができる。この制御には、前記したように、隙間検出センサ30にて、ディスク板10と規制板11との間の隙間を検出して、この隙間に応じてコイル電流を調整することで磁気吸引力を制御でき、これによって、ロック解除時の制御を精密に行うことができ、また、規制板11が電磁石16に接触する際にはいわゆるソフトランディングさせることができる。
【0055】
本発明のボールねじ装置によれば、ロック機構Mの押圧部材13にて、規制板11に付設された摩擦材12をディスク板10に押し当てることができ、この際、ナット部材6に駆動トルクを付与しないようにすれば、規制板11の摩擦材12がディスク板10に押し当てられているので、ディスク板10が回転停止状態となり、このディスク板10に一体状に固着されているナット部材6は回転停止状態となる。この回転停止状態においては、電磁石16の一対のコイル20A、20Bに電流を流さない無給電状態である。また、電磁石16の一対のコイル20A、20Bに電流を流すことより、電磁吸引力を発生させて規制板11を電磁石16側へ吸引することによって、ディスク板10の回転停止状態が解除となって、ナット部材6に駆動トルクの付与でもって、ナット部材6が回転駆動して、ボールねじ軸3の軸心方向の往復動が可能となる。
【0056】
このため、本発明では、ボールねじ軸3を軸方向の目標位置において無給電でロック状態を保持できるので、位置を保持するために、モータ等の駆動源36からロック状態において、動力を供給する必要がなく、エネルギー損失が生じない。
【0057】
解除機構Kは、大径の第1コイル20Aと、小径の第2コイル20Bと、第1コイル20Aと第2コイル20Bとの間に介装される永久磁石17とを備え、第1コイル20Aに流す電流の方向と第2コイル20Bに流す電流の方向と同一方向として電磁石コア18内に磁気ループを生じさせるとともに永久磁石18に磁束を通過させない同方向励磁モードと、第1コイル20Aに流す電流の方向と第2コイル20Bに流す電流の方向とが逆方向として電磁石コア18内に永久磁石17に磁束を通過させる磁気ループを生じさせる逆方向励磁モードとがあるように設定することができる。
【0058】
同方向励磁モードとすることによって、永久磁石17に磁束を通過させないが、電磁石コア18内に磁気ループを生じ、電磁石16側に規制板11を吸引する電磁吸引力を発生させることができる。また、この同方向励磁モードでは、永久磁石17に磁束を通過させないので、永久磁石17は着磁しない。これに対して、逆方向励磁モードとすることによって、永久磁石17が着磁することになる。また、永久磁石17が着磁した状態で、着磁させた逆方向励磁モードとは相違する電流の流れの逆方向励磁モードとすることによって、永久磁石17の着磁を消磁させることができる。
【0059】
このため、摩擦材12をディスク板10に押し当ててナット部材6の回転を規制している状態で、第1・第2コイル20A、20Bに同一方向の電流を流す同方向励磁モードとして、電磁石16と規制板11との間に磁気吸引力を作用させて、摩擦材12のディスク板10への押し当て力の軽減を可能とすることができる。
【0060】
ナット部材6の回転を規制するロック状態におけるボールねじ軸3に係る軸方向荷重を検出る荷重センサ31を備えたものであってもよい。このように荷重センサ31を設ければ、ロック時におけるボールねじ軸3にかかる荷重がわかる。すなわち、ナット部材6の制動トルクがわかる。
【0061】
ナット部材6の回転を規制するロック状態の解除時において、電磁石16の磁気吸引力を増加させて摩擦材12の押し付け力を弱めるとともに、ナット部材6の駆動トルクを増加させて、ナット部材6の駆動トルクの逆方向の回転を規制する制御を行うのが好ましい。
【0062】
このような制御を行うものでは、ロック状態から滑らかにナット部材6の回転駆動状態に移行でき、しかもナット部材6は所望の回転方向と逆方向に回転することを防止できる。
【0063】
電磁石16と規制板11との間の隙間寸法を検出する隙間検出センサ30を備え、この隙間寸法に応じて電磁石16の一対のコイル20A、20Bに流すコイル電流を調整して電磁石16の磁気吸引力を制御するように設定できる。すなわち、電磁石16の磁気吸引力は、コイル20A、20Bに印加する電流(コイル電流)及び電磁石16と規制板11との間の隙間寸法によって変化する。このため、この隙間寸法を隙間検出センサ30で検出することによって、この隙間寸法に応じてコイル電流を調節することで、磁気吸引力を制御することができる。これにより、ロック解除時の制御を安定して正確に行うことができる。さらには、規制板11が電磁石16に吸着する(接触する)際にソフトランディング(穏やかに接触)させることができる。
【0064】
電磁石16が規制板11を吸着した状態で、一対のコイル20A、20Bに逆方向の電流を流して、永久磁石17が軸方向に沿って通る磁束にて着磁し、一対のコイル20A、20Bへの電流停止でも、規制板11が電磁石16に吸着状態を維持するように設定できる。コイル20A、20Bへの電流停止状態でも、規制板11が電磁石16に吸着状態が維持されるので、この状態でナット部材6に駆動トルクを付与することによって、ナット部材6が回転駆動する。
【0065】
一対のコイル20A、20Bに電流を流して、永久磁石17が軸方向に沿って通る磁束にて着磁している状態で、一対のコイル20A、20Bに逆方向の電流を流すことにより、永久磁石17の消磁が可能となる。このように永久磁石17の消磁を行えば、初期状態に戻すことができる。
【0066】
永久磁石17の着磁状態を、磁路中の磁束密度から求め、コイル電流の大きさ、向き、流す時間を調整して所望の着磁状態とすることができる。
【0067】
永久磁石17が軸方向に沿って通る磁束にて着磁している状態での規制板の電磁石への吸着が可能な低保磁力磁石であり、低保磁力磁石は、起磁力が高く、保磁力の比較的小さい磁石、例えば鉄-クロム-コバルト(FeCrCo)或いはアルニコ磁石(Alnico)で構成できる。
【0068】
本発明の直動機構は、前記記載のボールねじ装置を用いたものである。ここで、直動機構は、ボールねじ装置を用いた直動アクチュエータ全般を指す。具体的には、建機/農機用電動パワーシリンダ、ロボット腕脚用直動アクチュエータ、自動車サスペンション用車高調整機構、自動車用各輪独立転舵機構、工作機ワークステージ用直動アクチュエータ、介護機器用直動アクチュエータ等の任意位置での位置保持機能が必要なものである。
【0069】
ボールねじ軸3の軸方向の停止目標位置付近において、ナット部材6の駆動トルクと、規制板11の電磁石への吸着力である制動トルクとの協調制御にて制動力乃至ダンピング力を付与する制御を行うように設定できる。
【0070】
このように、制動力乃至ダンピング力を付与することによって、応答速度向上やオーバーシュート防止を図ることができる。
【0071】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、ボールねじ装置としては、自動車のトランスミッション、電動パーキングブレーキ、車高調整機構、転蛇機構、工作機用直動アクチュエータ、射出成型機等に用いることができる。すなわち、任意位置で保持機能が必要な産業機械や工作機械等に使用することができる。
【0072】
実施形態では、第1コイル20Aよりも第2コイル20Bの方が、巻設数が多く設定されているが、同じであっても、第2コイル20Bよりも第1コイル20Aの方の巻設数を多く設定してもよい。また、
図2(a)の初期状態から、各コイル20A、20Bに電流を流して、同方向励磁モードとする場合、
図2(b)では、いずれのコイル20A、20Bに紙面の裏側から表側への電流を流すものであったが、いずれのコイル20A、20Bに紙面の表側から裏側への電流を流すようにしてもよい。このように流した場合、各
図2(c)(e)(f)において、コイル20A、20Bには図例と逆方向に流すことになる。
【0073】
押圧部材13および廻止めピン21の数は、任意であるが、それぞれ、少なくとも、周方向に沿って180°ピッチで、1対ずつ配設する。規制板11の機能を有効に発揮するためには、それぞれ、周方向に沿って120°ピッチで配設され、押圧部材13と廻止めピン21とが60°ピッチで配設するのが好ましい。また、押圧部材13として、実施形態では、コイルばねを用いたが、コイルばね以外の例えば、樹脂やゴムからなる弾性材で構成してもよい。また、廻止めピン21は、電磁石16に対して規制板11を回転させないものであればよいので、数、断面形状、軸方向長さ、断面積、及び材質等等は任意に設定できる。
【符号の説明】
【0074】
K 解除機構
M ロック機構
1 外周面
2、5 ねじ溝
3 ボールねじ軸
4 内周面
6 ナット部材
8 ボール
10 ディスク板
11 規制板
12 摩擦材
13 押圧部材
16 電磁石
17 永久磁石
18 電磁石コア
20、20A、20B コイル
30 隙間検出センサ
31 荷重センサ
32 磁束密度検出センサ