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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055521
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】ボールねじ装置および直動機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20240411BHJP
   F16D 27/01 20060101ALI20240411BHJP
   F16D 27/04 20060101ALI20240411BHJP
   F16D 55/06 20060101ALI20240411BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20240411BHJP
   H02K 7/06 20060101ALI20240411BHJP
   H02K 49/00 20060101ALI20240411BHJP
   H02K 49/10 20060101ALI20240411BHJP
   F16D 121/22 20120101ALN20240411BHJP
【FI】
F16H25/22 A
F16D27/01
F16D27/04
F16D55/06 A
F16D65/18
H02K7/06 A
H02K49/00 B
H02K49/10 B
F16D121:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162533
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸幸
【テーマコード(参考)】
3J058
3J062
5H607
5H649
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA58
3J058AA73
3J058AA78
3J058AA79
3J058AA88
3J058BA12
3J058CC07
3J058CC13
3J058CC14
3J058CC72
3J058FA01
3J058FA31
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA31
3J062CD04
3J062CD23
3J062CD79
3J062CG83
5H607BB01
5H607CC03
5H607DD19
5H607EE52
5H649AA01
5H649BB03
5H649GG01
5H649GG08
5H649GG16
5H649HH08
5H649HH16
(57)【要約】
【課題】ボールねじ軸を任意位置に無給電でロックできるボールねじ装置および直動機構を提供する。
【解決手段】ロック機構は、外径側永久磁石と、内径側永久磁石と、外径側永久磁石と内径側永久磁石との間に介在されるコイルとを有する磁気力発生器とを備える。磁気力発生器にて発生する磁気吸引力にて、第1係合部と第2係合部とが相対的に装置軸方向に接近・離間する。接近状態では、第1係合部と第2係合部とが係合してナット部材の回転を規制し、離間状態では、第1係合部と第2係合部の係合が解除されてナット部材の離間状態では前記ナット部材の回転を許容し、接近・離間の切り換え時のみコイルに電流を供給する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじ溝が設けられたボールねじ軸と、ボールねじ軸に挿入され、内周面にねじ溝が設けられたナット部材と、ボールねじ軸のねじ溝とナット部材のねじ溝との間に嵌合される複数のボールと、前記ナット部材の回転を規制する口ック機構を備えたボールねじ装置であって、
前記ロック機構は、少なくとも、外径側永久磁石と、内径側永久磁石と、外径側永久磁石と内径側永久磁石との間に介在されるコイルとを有する磁気力発生器とを備え、前記磁気力発生器にて発生する磁気吸引力にて、前記第1係合部と第2係合部とが相対的に装置軸方向に接近・離間して、接近状態では、前記第1係合部と第2係合部とが係合してナット部材の回転を規制し、離間状態では、前記第1係合部と第2係合部の係合が解除されてナット部材の離間状態では前記ナット部材の回転を許容し、接近・離間の切り換え時のみコイルに電流を供給することを特徴とするボールねじ装置。
【請求項2】
前記第2係合部が、前記ナット部材側に固着された磁性材からなる基板に設けられるとともに、前記第1係合部を前記第2係合部から離間する方向に押圧する押圧部材を備え、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを逆方向に着磁して、前記内・外径側永久磁石を流れて前記基板には流れない中巡回磁束を発生させて、前記第1係合部が前記第2係合部に吸着される磁気吸引力を発生させず、かつ、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを同一方向に着磁して、内径側永久磁石および前記基板を流れる大巡回磁束と外径側永久磁石および前記基板を流れる小巡回磁束とを発生させて、前記押圧部材の押圧力に抗して、前記第1係合部を第2係合部に接近させて係合させる磁気吸引力を発生させることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記第2係合部が設けられる磁性材からなる往復動板を装置軸方向に往復動可能として前記ナット部材側に設けるとともに、前記往復動板を前記第1係合部から離間する方向に引っ張る引張り部材を備え、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを逆方向に着磁して、前記内・外径側永久磁石を流れて前記往復動板には流れない中巡回磁束を発生させて、前記第1係合部に前記第2係合部が吸着される磁気吸引力を発生させず、かつ、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを同一方向に着磁して、内径側永久磁石および前記往復動板を流れる大巡回磁束と外径側永久磁石および前記往復動板を流れる小巡回磁束とを発生させて、前記引張り部材の引張り力に抗して、往復動板を第1係合部側に引き寄せて、第1係合部と第2係合部とを係合させる磁気吸引力を発生させることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記第1係合部が設けられる磁性材からなる往復動体を装置軸方向に往復動可能に設けるとともに、前記第2係合部をナット部材側に固定し、前記往復動体を前記第2係合部に接近させる方向に押圧する押圧部材を備え、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを逆方向に着磁して、前記内・外径側永久磁石を流れて前記往復動体には流れない中巡回磁束を発生させて、前記第1係合部を第2係合部から離間させる磁気吸引力を発生させず、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを同一方向に着磁して、内径側永久磁石および前記往復動板を流れる大巡回磁束と外径側永久磁石および前記往復動板を流れる小巡回磁束とを発生させて、前記押圧部材の押圧力に抗して、前記往復動体を前記第1係合部側へ引き寄せて第1係合部と第2係合部を相対的に離間させる磁気吸引力を発生させることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
前記第1係合部と前記第2係合部とが、凹凸係合又は摩擦材係合にて係合することを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記第1係合部と第2係合部とが相対的に装置軸方向に接近・離間時においては、形成される磁路中の径方向キャップが変化しないことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項7】
磁気力発生器は、反第1係合部側に設けられる第1ヨークと、第1係合部側に設けられる第2ヨークとを備え、第1ヨークと第2ヨークとで、外径側永久磁石とコイルと内径側永久磁石を挟持し、第1ヨークには外径側永久磁石より外径側に外径側永久磁石を囲むように配設される第3ヨークが連設され、前記第2ヨークよりも反第1ヨーク側に配設される第4ヨークを有し、外径側永久磁石と第3ヨークとの間のギャップをg1とし、第1・第2係合部が離間した状態の第1・第2係合部間のギャップをg2とし、第3ヨークと第4ヨークとの間のギャップをg3としたときに、g1>g2>g3とすることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項8】
内径側永久磁石に低保磁力磁石を用い、外径側永久磁石に高保磁力磁石を用い、内径側永久磁石の着磁状態を変更する励磁コイル電流では、外径側永久磁石の着磁状態は変更されないことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項9】
第1・第2係合部の接近時と第1・第2係合部の離間時とで、内径側永久磁石の着磁状態を変更する励磁コイル電流の変化速度を調整し、磁気力発生器の磁気吸引力変化速度を変えることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項10】
内径側永久磁石の低保磁力磁石に、アルニコル磁石または鉄クロムコバルト磁石を用いることを特徴とする請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項11】
前記請求項1~請求項10に記載のボールねじ装置を用いたことを特徴とする直動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置および直動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置を構成するボールねじは、伝達効率が高いため、各種直動機構(アクチュエータ)に用いられる。一般に、ボールねじは、ねじ軸、ナット、及びボール等から構成され、ねじ軸とナットのどちらかを回転させると、もう一方が直線運動する機械部品である。このため、直線運動を行う側に対してその位置を保持するため、モータ等の駆動源から常時動力を供給する必要があった。しかしながら、常時動力を供給する場合、エネルギー損失していることになる。そこで、従来には、ボールねじの位置保持機構は種々提案されている(特許文献1~特許文献3)。
【0003】
ところで、ボールねじは、回転運動を直線運動に変換する正効率、直線運動を回転運動に変換する逆効率いずれもが高いという特徴を持つ。このため、小さなモータでナットを直線運動させることができるという利点がある反面、力の逆入力、すなわちナットに作用する軸力によってねじ軸が回転してしまうという課題がある。ねじ軸を回転させないためには、モータに電流を供給してモータから保持力を発生させる必要がある。
【0004】
力の逆入力に対して、モータに電流を供給しなくても、ナットが軸方向に移動しないようにするためには、モータの回転運動を減速する減速機構にセルフロック性、すなわち力の逆入力に起因する回転力に対して自己保持性を持たせる必要がある。
【0005】
特許文献1では、運動変換機構部の駆動を防止するロック機構部を備えた電動アクチュエータが記載されている。この場合、周方向に複数の係合孔が形成されたギヤと、ギヤに対して軸方向に進退して係合孔に対して嵌合するロック部材を有するものである。
【0006】
特許文献2では、減速機構にセルフロック機能を持たせるものであり、セルフロック機能を持たせるために減速機を高減速比に設定する必要があった。
【0007】
特許文献3は、ボールねじを用いた転舵装置が記載されている。そして、この転舵装置は電磁ブレーキ装置を備えるものであり、電磁ブレーキ装置は、モータ出力軸に取り付けられたディスクにブレーキシューを押し付けてロックするものである。この場合、ロック時はブレーキシューがコイルばねによってディスクに押し付けられたおり、ソレノイドに通電することでブレーキシューがディスクから引き離されてロックが解除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2018-13183号公報
【特許文献2】特開2014-025515号公報
【特許文献3】特開2016-92891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のものでは、ギヤに形成された係合孔の数は有限であり、任意の位置でロックすることができない。また、減速機歯車の回転を止めてもバックラッシ分はボールねじナットが回転し、ねじ軸が動くことになる。
【0010】
前記特許文献2に記載されたものでは、セルフロック機能を持たせるために高減速比に設定する必要があるため、高応答性を供給される用途には対応できず、しかも、一般的な減速機に比べて効率も悪いものとなる。また完全に逆入力を遮断できるわけではないため駆動力を断った状態で変動荷重が加わると位置保持ができない。逆入力を低減させるために台形ねじやウォームギヤ等を用いた直動アクチュエータも同様である。
【0011】
特許文献3に記載されたものでは、ロック解除時にはソレノイドに常時通電する必要があり、エネルギが消費される。ロック解除時に荷重によりボールねじ軸が動かないよう、予め解除前から位置制御を施すことになる。この場合、ソレノイドはON/OFF動作のため、荷重と駆動力が釣り合わない状態でロック解除されると位置制御系にはステップ状の外乱が入力されることになって、ボールねじ軸に振動が生じる。
【0012】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて、ボールねじ軸を任意位置に無給電でロックできるボールねじ装置および直動機構を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のボールねじ装置は、外周面にねじ溝が設けられたボールねじ軸と、ボールねじ軸に挿入され、内周面にねじ溝が設けられたナット部材と、ボールねじ軸のねじ溝とナット部材のねじ溝との間に嵌合される複数のボールと、前記ナット部材の回転を規制する口ック機構を備えたボールねじ装置であって、前記ロック機構は、少なくとも、外径側永久磁石と、内径側永久磁石と、外径側永久磁石と内径側永久磁石との間に介在されるコイルとを有する磁気力発生器とを備え、前記磁気力発生器にて発生する磁気吸引力にて、第1係合部と第2係合部とが相対的に装置軸方向に接近・離間して、接近状態では、前記第1係合部と第2係合部とが係合してナット部材の回転を規制し、離間状態では、前記第1係合部と第2係合部の係合が解除されてナット部材の離間状態では前記ナット部材の回転を許容し、接近・離間の切り換え時のみコイルに電流を供給するものである。
【0014】
本発明のボールねじ装置によれば、第1係合部と第2係合部が相対的に接近すれば、第1係合部と第2係合部とが係合して、ナット部材の回転を規制し、第1係合部と第2係合部が離間すれば、第1係合部と第2係合部との係合が解除され、ナット部材の回転駆動が許容される。また、接近・離間の切り換え時のみコイルに電流を供給するものであるので、ロック機構として、常時通電する必要がない。
【0015】
前記第2係合部が、前記ナット部材側に固着された磁性材からなる基板に設けられるとともに、前記第1係合部を前記第2係合部から離間する方向に押圧する押圧部材を備え、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを逆方向に着磁して、前記内・外径側永久磁石を流れて前記基板には流れない中巡回磁束を発生させて、前記第1係合部が前記第2係合部に吸着される磁気吸引力を発生させず、かつ、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを同一方向に着磁して、内径側永久磁石および前記基板を流れる大巡回磁束と外径側永久磁石および前記基板を流れる小巡回磁束とを発生させて、前記押圧部材の押圧力に抗して、前記第1係合部を第2係合部に接近させて係合させる磁気吸引力を発生させるものであってもよい。
【0016】
このように構成することによって、外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを逆方向に着磁することによって、第1係合部が前記第2係合部に吸着される磁気吸引力を発生させない状態では、押圧部材の押圧力で、第1係合部と第2係合部とが離間して、係合しない状態となって、ナット部材の回転駆動が可能な状態となる。また、外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを同一方向に着磁することによって、第1係合部を第2係合部に接近させて係合させる磁気吸引力を発生させることができ、これによって、第1係合部と第2係合部とが係合して、ナット部材の回転が規制される。
【0017】
前記第2係合部が設けられる磁性材からなる往復動板を装置軸方向に往復動可能として前記ナット部材側に設けるとともに、前記往復動板を前記第1係合部から離間する方向に引っ張る引張り部材を備え、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを逆方向に着磁して、前記内・外径側永久磁石を流れて前記往復動板には流れない中巡回磁束を発生させて、前記第1係合部に前記第2係合部が吸着される磁気吸引力を発生させず、かつ、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを同一方向に着磁して、内径側永久磁石および前記往復動板を流れる大巡回磁束と外径側永久磁石および前記往復動板を流れる小巡回磁束とを発生させて、前記引張り部材の引張り力に抗して、往復動板を第1係合部側に引き寄せて、第1係合部と第2係合部とを係合させる磁気吸引力を発生させるものであってもよい。
【0018】
このように構成することによって、外径側永久磁石と内径側永久磁石とを逆方向に着磁して、第1係合部に第2係合部が吸着される磁気吸引力を発生させない状態では、引張り部材にて、第2係合部側が第1係合部から離間する方向に引っ張られることになって、第1係合部と第2係合部とが非係合状態となり、ナット部材の回転駆動が許容される状態となる。また、外径側永久磁石と内径側永久磁石とを同一方向に着磁することによって、第1係合部と第2係合部とを係合させる磁気吸引力を発生させることができ、この磁気吸引力が発生することによって、第1係合部と第2係合部とが係合して、ナット部材の回転を規制する。
【0019】
前記第1係合部が設けられる磁性材からなる往復動体を装置軸方向に往復動可能に設けるとともに、前記第2係合部をナット部材側に固定し、前記往復動体を前記第2係合部に接近させる方向に押圧する押圧部材を備え、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを逆方向に着磁して、前記内・外径側永久磁石を流れて前記往復動体には流れない中巡回磁束を発生させて、前記第1係合部を第2係合部から離間させる磁気吸引力を発生させず、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを同一方向に着磁して、内径側永久磁石および前記往復動板を流れる大巡回磁束と外径側永久磁石および前記往復動板を流れる小巡回磁束とを発生させて、前記押圧部材の押圧力に抗して、前記往復動体を前記第1係合部側へ引き寄せて第1係合部と第2係合部を相対的に離間させる磁気吸引力を発生させるものであってもよい。
【0020】
このように構成することによって、前記外径側永久磁石と前記内径側永久磁石とを逆方向に着磁して、往復動体を磁気力発生器側に引き寄せる磁気吸引力を発生させない状態では、押圧部材の押圧力で、第1係合部と第2係合部とが係合する状態となって、ナット部材の回転駆動が規制される状態となる。また、外径側永久磁石と内径側永久磁石とを同一方向に着磁して、前記往復動体を前記第1係合部側へ引き寄せて第1係合部と第2係合部が相対的に離間する状態となって、ナット部材が回転可能な状態となる。
【0021】
第1係合部と第2係合部とは、凹凸係合又は摩擦材係合にて係合することができ、簡単な構成にて、係脱動作を行うことができる。
【0022】
前記第1係合部と第2係合部とが相対的に装置軸方向に接近・離間時においては、形成される磁路中の径方向キャップが変化しないように構成するのが好ましい。このように、磁路中の径方向ギャップが変化しないように構成することによって、第1係合部と第2係合部との係脱動作を安定して行うことができる。
【0023】
磁気力発生器は、反第1係合部側に設けられる第1ヨークと、第1係合部側に設けられる第2ヨークとを備え、第1ヨークと第2ヨークとで、外径側永久磁石とコイルと内径側永久磁石を挟持し、第1ヨークには外径側永久磁石より外径側に外径側永久磁石を囲むように配設される第3ヨークが連設され、かつ、前記第2ヨークよりも反第1ヨーク側に配設される第4ヨークを有し、外径側永久磁石と第3ヨークとの間のギャップをg1とし、第1・第2係合部が離間した状態の第1・第2係合部間のギャップをg2とし、第3ヨークと第4ヨークとの間のギャップをg3としたときに、g1>g2>g3とするのが好ましい。このように構成することによって、磁気力発生器は、磁気吸引力を安定して発生させることができる。
【0024】
内径側永久磁石に低保磁力磁石を用い、外径側永久磁石に高保磁力磁石を用い、内径側永久磁石の着磁状態を変更する励磁コイル電流では、外径側永久磁石の着磁状態は変更されないものとするのが好ましい。ここで、保磁力とは、磁化された磁性体を磁化されない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の強さをいう。このように構成することによって、外径側永久磁石と内径側永久磁石との着磁方向を同一方向としたり、逆方向としたりする場合、内径側永久磁石の着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイルに流すことによって行うことができる。すなわち、外径側永久磁石と内径側永久磁石との着磁方向が同一方向である場合、内径側永久磁石の着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイルに流せば、内径側永久磁石の着磁方向を逆方向にでき、その際、外径側永久磁石が高保磁力磁石であって、着磁状態は変更されない。このため、外径側永久磁石と内径側永久磁石との着磁方向を逆方向とすることができる。また、外径側永久磁石と内径側永久磁石との着磁方向が逆方向である場合、内径側永久磁石の着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイルに流せば、内径側永久磁石の着磁方向を逆方向にでき、その際、外径側永久磁石が高保磁力磁石であって、着磁状態は変更されない。このため、外径側永久磁石と内径側永久磁石との着磁方向を同一方向とすることができる。
【0025】
第1・第2係合部の接近時と第1・第2係合部の離間時とで、内径側永久磁石の着磁状態を変更する励磁コイル電流の変化速度を調整し、磁気力発生器の磁気吸引力変化速度を変えるようにするのが好ましい。すなわち、接近時において、変化速度を小さくすることにより、第1係合部と第2係合部とをいわゆるソフトランディングさせることができ、係合時の係合音や衝撃乃至衝撃よる振動等が軽減される。また、離間する際においても、第1係合部と第2係合部とが離れる際の摩擦状態を変えることができる。すなわち、係合状態から解除する場合、摩擦力を考慮すれば、変化速度が高い方がよい。
【0026】
内径側永久磁石の低保磁力磁石に、アルニコル磁石または鉄クロムコバルト磁石を用いることができる。
【0027】
本発明に係る直動機構は、前記ボールねじ装置を用いるものである。ここで、直動機構は、ボールねじ装置を用いた直動アクチュエータ全般を指す。具体的には、建機/農機用電動パワーシリンダ、ロボット腕脚用直動アクチュエータ、自動車サスペンション用車高調整機構、自動車用各輪独立転舵機構、工作機ワークステージ用直動アクチュエータ、介護機器用直動アクチュエータ等の任意位置での位置保持機能が必要なものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、ボールねじ軸を軸方向の目標位置において無給電でロック状態を保持できるので、位置を保持するために、モータ等の駆動源からロック状態において、動力を供給する必要がなく、エネルギー損失が生じない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係る第1のボールねじ装置の要部断面図である。
図2】ボールねじ装置の制御部の簡略図である。
図3】内径側永久磁石の着磁動作を示すグラフ図である。
図4】本発明に係る第2のボールねじ装置の要部断面図である。
図5】本発明に係る第3のボールねじ装置の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下本発明の実施の形態を図1図5に基づいて説明する。図1は、本発明に係るボールねじ装置を示し、このボールねじ装置は、外周面1に第1ねじ溝(図示省略)が設けられたねじ軸3と、ねじ軸3に挿入され、内周面4に第1ねじ溝に対応する第2ねじ溝(図示省略)が設けられたナット部材6と、第1ねじ溝2と第2ねじ溝との間である転動路(図示省略)に配置される複数のボール(図示省略)とを備えたものである。この場合、駆動手段を構成する駆動源31(図2参照)からの駆動トルクにてナット部材6は回転駆動され、かつ、ナット部材6の回転方向の変更が可能とされる。このため、ナット部材6が回転駆動されることによって、ねじ軸3はその軸方向に沿って往復動することができる。なお、駆動源31としては、例えば、DCモータを用いることができる。
【0031】
ところで、ボールねじ装置においては、多数のボールを無限に循環させる機能を必要とする。この機能としては、リターンプレート式、こま式、エンドキャップ式、エンドデフレクタ式、およびリターンチューブ式等があり、本ボールねじ装置では、これらのいずれも採用できる。また、このボールねじ装置は、ハウジング10に収納される。この場合のハウジング10は、円筒形状の胴部11と、胴部11の一方の開口部を塞ぐ蓋部12とを備えたものであり、軸3が蓋部12に設けられた貫通孔12aを貫通している。
【0032】
この場合、このボールねじ装置は、ロック機構Mを備える。ここで、ロック機構Mは、ナット部材6の回転を停止して、ナット部材6に対するボールねじ軸3の軸方向の往復動を規制するものであり、ロック機構Mは、磁気力発生器15と、この磁気力発生器15側に設けられる第1係合部16と、ナット部材6側に設けられる第2係合部17とを備える。
【0033】
磁気力発生器15は、少なくとも、短筒形状の外径側永久磁石18と、短筒形状の内径側永久磁石19と、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との間に介在されるコイル20とを備えたものである。すなわち、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19とコイル20とが同心円状に配設され、短円筒形状に巻設されたコイル20が、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19とに介在されるものである。この場合、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19とコイル20との軸方向長さが同一に設定される。なお、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19とコイル20とで、円盤形状の磁気力発生器要部15aを成す。
【0034】
外径側永久磁石18は高保磁磁石で構成され、内径側永久磁石19は低磁磁石で構成される。ここで、保磁力とは、磁化された磁性体を磁化されない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の強さをいう。内径側永久磁石19の着磁状態を変更する励磁コイル電流では、外径側永久磁石18の着磁状態は変更されないものとする。
【0035】
磁気力発生器15は、磁気力発生器要部15aの反第1係合部側に設けられる第1ヨーク21と、磁気力発生器要部15aの第1係合部側に設けられる第2ヨーク22とを備え、第1ヨーク21と第2ヨーク22とで、外径側永久磁石18とコイル20と内径側永久磁石19を挟持している。また、第1ヨーク21には外径側永久磁石18より外径側に外径側永久磁石18を囲むように配設される第3ヨーク23が連設される。さらに、第2ヨーク22よりも反第1ヨーク側に配設されて、後述する大巡回磁路B及び小巡回磁路Cを形成するための第4ヨーク24を有している。ナット部材6の磁気力発生器側端面に基板としての第4ヨーク24が固定されている。この場合、第2ヨーク22に第1係合部16が付設され、第4ヨーク24に第2係合部16が付設され、第1係合部16と第2係合部17とが相対面する状態となる。
【0036】
また、第1ヨーク21と第3ヨーク23とは一体状に形成されたものであり、短円形状をなす第3ヨーク23が、ハウジング10の胴部11の内径面に形成される周方向凹部11a内に収納状となっている。第1ヨーク21,第3ヨーク23、磁気力発生器要部15a、第2ヨーク22、および第1係合部16が、一体的にねじ軸3の軸方向に沿って往復動が可能となっている。このため、第1ヨーク21,第3ヨーク23、磁気力発生器要部15a、第2ヨーク22、および第1係合部16にて一体的に往復動する往復動体Rを構成する。
【0037】
また、第2係合部17は、ナット部材6側の第4ヨーク24に設けられるものであり、この第4ヨーク24及び第2係合部17は、ナット部材6が回転駆動されることによって一体的に回転駆動する。
【0038】
往復動体Rは、弾性体にて構成される押圧部材25の弾性力にて、ハウジング10の蓋部12側へ押圧される。また、第1ヨーク21と蓋部12との間に、周方向に沿って所定ピッチで複数本配設される廻り止めピン26が配置される。すなわち、蓋部12の内面12bに、周方向に沿って所定ピッチで複数個配設される凹部27を設けるとともに、第1ヨーク21の蓋部側外面に、周方向に沿って所定ピッチで複数個配設される凹部28を設ける。そして、凹部27に廻り止めピン26の蓋側を挿入するとともに、凹部28に廻り止めピン26の第1ヨーク側を挿入する。
【0039】
このように構成することによって、往復動体Rは、ねじ軸3の軸方向には往復動可能あるが、廻り止めピン26が介在されることによって、その軸心廻りに回転できない状態となっている。また、押圧部材25の弾性力(押圧力)にて往復動体Rが蓋部側に押圧され、図1の上半分部位を示すように、第1ヨーク21が蓋部12に接触する状態となっている。
【0040】
第1ヨーク21が蓋部12に接触する状態となっていれば、第1係合部16と第2係合部17とが離間した状態になって、第1係合部16と第2係合部17とが係合しない状態となる。また、図1の下半分部位では、往復動体Rが第2係合部17へ移動した状態では、第1係合部16と第2係合部17とが係合した状態となっている。
【0041】
ここで、係合した状態とは、凹凸係合した状態をいう。すなわち、第1係合部16と第2係合部17とは軸方向に沿って相対面し、第1係合部16の第2係合部対応面に凹凸部(図示省略)が形成されるとともに、第2係合部17の第1係合部対応面に凹凸部(図示省略)が形成されている。そして、係合状態とは、第1係合部16の凸部が第2係合部17の凹部に嵌合し、第2係合部17の凸部が第1係合部16の凹部に嵌合した状態である。第1係合部16の凹部は、第2係合部側に開口し、第2係合部17の凹部は、第1係合部側に開口している。このため、第1係合部16と第2係合部17とが離間している状態から、ねじ軸3の軸方向に沿って相対的に接近していけば、第1係合部16の凸部が第2係合部17の凹部に嵌入し、第2係合部17の凸部が第1係合部16の凹部に嵌入することができる。また、係合状態から、第1係合部16と第2係合部17とがねじ軸3の軸方向に沿って相対的に離間していけば、各嵌合状態が解除される。なお、第1係合部16と第2係合部17とが凹凸係合する場合、第1。第2係合部16、17は鋼材を使用し、特に軟磁性材が好ましい。軟磁性材は、磁場が印加されると磁化されやすく、磁場を取り去ると元に戻りやすい(逆向きの磁場により磁化が反転されやすい)、すなわち透磁率μが大きく、保持力Hcが小さい材料である。
【0042】
ところで、外径側永久磁石18と第3ヨーク23との間のギャップをg1とし、第1・第2係合部16,17が離間した状態の第1・第2係合部間のギャップをg2とし、第3ヨーク23と第4ヨーク24との間のギャップをg3としたときに、g1>g2>g3とする。なお、第3ヨーク23と、ハウジング10の胴部11の周方向凹部11aの底面との間には、往復動体Rの往復動を規制しないように、微小隙間が設けられる。
【0043】
図2は、本ボールねじ装置の制御部を示し、駆動源31は制御器30によって制御され、また、ロック機構Mの一部を構成する外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との間のコイル20には、電流供給源32から励磁用電流が供給される(流される)。
【0044】
次に、図1に示すボールねじ装置の動作を説明する。図1の上半分図では、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19とは逆方向に着磁された状態である。すなわち、外径側永久磁石18は、第1ヨーク21側がS極とされ、第2ヨーク22側がN極とされ、内径側永久磁石19は、第1ヨーク21側がN極とされ、第2ヨーク22側がS極とされている。
このような着磁状態では、磁束は、両磁石18,19と、第1ヨーク21,第2ヨーク22を矢印のように第4ヨーク24を流れない中巡回磁束Aを構成する。このため、外部磁性体である第4ヨーク24に磁気力(磁気吸引力)を及ぼさない。
【0045】
この状態では、第1係合部16側、つまり、往復動体Rが押圧部材25の弾性力にて、ハウジング10の蓋部12側へ押圧されて、第1係合部16と第2係合部17とが係合しない状態となっている。この状態では、駆動源31からナット部材6に起動トルクを付与することによって、ナット部材6が回転駆動して、ねじ軸3の軸方向の往復動が可能となる。
【0046】
図1の下半分図では、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19とが同一方向に着磁された状態である。すなわち、外径側永久磁石18は、第1ヨーク21側がS極とされ、第2ヨーク22側がN極とされ、内径側永久磁石19も、第1ヨーク21側がS極とされ、第2ヨーク22側がN極とされている。このような着磁状態では、磁気力発生器15の外側の第3ヨーク23および第4ヨーク24に流れる大巡回磁束Bを形成する。すなわち、この大巡回磁束Bは、第1ヨーク21、内径側永久磁石19、第4ヨーク24および第3ヨーク23へと流れる磁束である。また、この場合、第1ヨーク21、外径側永久磁石18、第4ヨーク24、及び第3ヨーク23を流れる中巡回磁束Cを形成する。この大巡回磁束Bおよび中巡回磁束Cを形成するには、外径側永久磁石18と第3ヨーク23との間のギャップをg1とし、第1・第2係合部16,17が離間した状態の第1・第2係合部間のギャップをg2とし、第3ヨーク23と第4ヨーク24との間のギャップをg3としたときに、g1>g2>g3とするのが好ましい。
【0047】
このため、第1係合部16と第2係合部17との間に、磁気力(磁気吸引力)が発生して、図1の下半分図のように、往復動体Rが、第2係合部17側へ引き寄せられ、第1係合部16と第2係合部17とが係合する状態となる。このように、第1係合部16と第2係合部17とが係合すれば、いわゆるロック状態となって、ナット部材6の回転駆動が規制される。これによって、ねじ軸3の軸方向の往復動が規制される。
【0048】
ところで、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との着磁方向を変更する場合、内径側永久磁石19の着磁状態を変更すればよい。すなわち、本ロック機構Mでは、内径側永久磁石19に低保磁力磁石を用い、外径側永久磁石19に高保磁力磁石を用い、内径側永久磁石の着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイル20に流すものである。このように、内径側永久磁石19の着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイル20に流せば、内径側永久磁石19の着磁状態が変更されることになるが、外径側永久磁石18は、高保磁力磁石であり、着磁状態が変更されない。
【0049】
このため、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との着磁方向を同一方向としたり、逆方向としたりする場合、内径側永久磁石19の着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイルに流すことによって行うことができる。すなわち、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との着磁方向が同一方向である場合、内径側永久磁石19の着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイルに流せば、内径側永久磁石19の着磁方向を逆方向にでき、その際、外径側永久磁石18が高保磁力磁石であって、着磁状態は変更されない。このため、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との着磁方向を逆方向とすることができる。また、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との着磁方向が逆方向である場合、内径側永久磁石19の着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイルに流せば、内径側永久磁石19の着磁方向を逆方向にでき、その際、外径側永久磁石が高保磁力磁石であって、着磁状態は変更されない。このため、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との着磁方向を同一方向とすることができる。
【0050】
次に、内径側永久磁石の着磁動作を図3に示す。図1の上半分図における、内径側永久磁石19の残留磁束密度はB0+で動作点(a)(着磁済み状態)にあるとする。コイル20に流す電流をマイナス側に大きくすることで外部磁界をマイナス方向に大きくしていくと動作点は減磁曲線上を(a)→(b)→(c)と下降する。動作点(c)においてコイル電流をゼロに戻すとリコイル比透磁率μrの傾きを持つ直線に沿って動作点(d)((a)から逆向きに着磁された状態)に達する。この時、内径側永久磁石19の残留磁束密度はB0-となり、図1の下半面図の状態になる。この状態からコイル20に今までと逆の電流を流すと動作点は(d)→(e)→(f)と変化する。動作点(f)でコイル電流をゼロにすると初期の残留磁束密度B0+の動作点(a)に戻る。
【0051】
動作点(a)から動作点(c)に至るまでのコイル電流の変化速度を調整することで、磁気力発生器15が第4ヨーク24を吸引する磁力の増加速度を変えられる。変化速度を小さくし、ソフトランディングできれば、係合時の音、振動を低減することが可能である。同様に、動作点(d)から動作点(f)に至るまでのコイル電流の変化速度を調整することで、第1係合部16と第2係合部17が離れる際の摩擦状態を変えることができる。係合部16、17を噛み合いにした場合は変化速度を高めることが望ましい。
【0052】
本発明のボールねじ装置によれば、第1係合部16と第2係合部17が接近すれば、第1係合部16と第2係合部17とが係合して、ナット部材6の回転を規制し、第1係合部と第2係合部が離間すれば、第1係合部16と第2係合部17との係合が解除され、ナット部材6の回転駆動が許容される。また、接近・離間の切り換え時のみコイル20に電流を供給するものであるので、ロック機構として、常時通電する必要がない。
【0053】
すなわち、本発明では、ボールねじ軸を軸方向の目標位置において無給電でロック状態を保持できるので、位置を保持するために、モータ等の駆動源からロック状態において、動力を供給する必要がなく、エネルギー損失が生じない。
【0054】
第1係合部16と第2係合部17とは、凹凸係合(凹凸嵌合)にて係合することができ、簡単な構成にて、係脱動作を行うことができる。
【0055】
前記第1係合部16と第2係合部17とが相対的に装置軸方向に接近・離間時においては、形成される磁路中の径方向ギャップが変化しないように構成するのが好ましい。このように、磁路中の径方向ギャップが変化しないように構成することによって、第1係合部16と第2係合部17との係脱動作を安定して行うことができる。
【0056】
外径側永久磁石18と第3ヨーク23との間のギャップをg1とし、第1・第2係合部16,17が離間した状態の第1・第2係合部間のギャップをg2とし、第3ヨーク23と第4ヨーク24との間のギャップをg3としたときに、g1>g2>g3とするのが好ましい。このように構成することによって、磁気力発生器15は、磁気吸引力を安定して発生させることができる。
【0057】
内径側永久磁石19に低保磁力磁石を用い、外径側永久磁石18に高保磁力磁石を用ることによって、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との着磁方向を同一方向としたり、逆方向としたりする場合、内径側永久磁石19の着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイルに流すことによって行うことができる。
【0058】
第1・第2係合部16,17の接近時と第1・第2係合部16,17の離間時とで、内径側永久磁石19の着磁状態を変更する励磁コイル電流の変化速度を調整し、磁気力発生器15の磁気吸引力変化速度を変えるようにするのが好ましい。すなわち、接近時において、変化速度を小さくすることにより、第1係合部16と第2係合部17とをいわゆるソフトランディングさせることができ、係合時の係合音や衝撃乃至衝撃による振動等が軽減される、また、離間する際においても、第1係合部16と第2係合部17とが離れる際の摩擦状態を変えることができる。すなわち、係合状態から解除する場合、摩擦力を考慮すれば、変化速度が高い方がよい。
【0059】
内径側永久磁石19の低保磁力磁石に、アルニコル磁石または鉄クロムコバルト磁石を用いることができる。
【0060】
次に、図4は第2の実施形態を示し、この場合、磁気力発生器要部15a側が固定されてねじ軸3の軸方向に往復動しないものである。すなわち、第3ヨーク23が、ハウジング10の胴部11の内周面11bに固着している。また、第4ヨーク24が、ナット部材6の磁気力発生器側の端面に固着される基板35に対して、ねじ軸3の軸方向に沿って往復動可能とされている。この場合、第1係合部16が第2ヨーク22に付設され、往復動体33を構成する第4ヨーク24に第2係合部17が付設され、第1係合部16と第2係合部17とが相対面する状態となる。
【0061】
この場合、引張りスプリング等からなる引張り部材36と、廻り止めピン37とを介して、第4ヨーク24が基板35に付設される。すなわち、基板35の第4ヨーク側の端面に周方向に沿って所定ピッチで複数の凹部38が設けられるとともに、第4ヨーク24に基板側の端面に周方向に沿って所定ピッチで複数の凹部39が設けられ、基板35の凹部38とこれに相対応する第4ヨーク24の凹部39に引張り部材36が嵌入されている。また、引張り部材36よりも内径側において、基板35の第4ヨーク側の端面に周方向に沿って所定ピッチで複数の凹部40が設けられるとともに、第4ヨーク24に基板側の端面に周方向に沿って所定ピッチで複数の凹部41が設けられ、基板35の凹部40とこれに相対応する第4ヨーク24の凹部41に、廻り止めピン37が嵌入されている。
【0062】
また、この場合も、外径側永久磁石18と第3ヨーク23との間のギャップをg1とし、第1・第2係合部16,17が離間した状態の第1・第2係合部間のギャップをg2とし、第3ヨーク23と第4ヨーク24との間のギャップをg3としたときに、g1>g2>g3とする。
【0063】
他の構成は、図1に示すボールねじ装置と同様であるので、同一の部材は、図1に示す符号を付して、それらの説明を省略する。
【0064】
次に図4に示すボールねじ装置の動作について説明する。図4の上半分図に示す状態では、図1に示す上半分図に示す状態と同様であり、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19とは逆方向に着磁された状態である。すなわち、外径側永久磁石18は、第1ヨーク21側がS極とされ、第2ヨーク22側がN極とされ、内径側永久磁石19は、第1ヨーク21側がN極とされ、第2ヨーク22側がS極とされている。このような着磁状態では、磁束は、両磁石18,19と、第1ヨーク21,第2ヨーク22を矢印のように磁気力発生器側のみに流れる中巡回磁束Aを構成する。このため、外部磁性体である第4ヨーク24に磁気力(磁気吸引力)を及ぼさない。
【0065】
この状態では、第4ヨーク24が引張り部材36にて、ナット部材6側へ引っ張られ、第1係合部16と第2係合部17とが離間した状態となって、ナット部材6が回転可能となっている。この状態では、駆動源31からナット部材6に起動トルクを付与することによって、ナット部材6が回転駆動して、ねじ軸3の軸方向の往復動が可能となる。
【0066】
図4の下半分図では、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19とが同一方向に着磁された状態である。すなわち、外径側永久磁石18は、第1ヨーク21側がS極とされ、第2ヨーク22側がN極とされ、内径側永久磁石19も、第1ヨーク21側がS極とされ、第2ヨーク22側がN極とされている。このような着磁状態では、磁気力発生器15の外径側の第3ヨーク23および第4ヨーク24に流れる大巡回磁束Bを形成し、第1ヨーク21,外径側永久磁石18,第4ヨーク24、及び第3ヨーク23を流れる小巡回磁束Cを形成する。
【0067】
図4の下半分図で示す状態では、第4ヨーク24が磁気力発生器15側へ引っ張られる磁気吸引力が発生し、第1係合部16と第2係合部17とが係合した状態となる。これによって、第4ヨーク24はその回転が規制され、ナット部材6も回転が規制された状態となる。このため、ねじ軸3の軸方向の往復動が規制される。
【0068】
この実施形態においても、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との着磁状態の変更は、内径側永久磁石19に、着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイルに流すことによって行うことができる。また、内径側永久磁石19の着磁動作も、図3に示す図1の内径側永久磁石に対する着磁動作と同様である。
【0069】
このため、図4に示すボールねじ装置は、図1に示すボールねじ装置が奏する作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0070】
次に、図5は第3実施形態を示し、この場合も、図4に示すボールねじ装置と同様、磁気力発生器要部15a側が固定されてねじ軸3の軸方向に往復動しないものである。すなわち、第3ヨーク23が、ハウジング10の胴部11の内周面11bに固着している。また、第4ヨーク24が、ナット部材6の磁気力発生器側の端面に固着される基板35に対して、ねじ軸3の軸方向に沿って往復動可能とされる往復動体43を構成する。この場合、第1係合部16が第4ヨーク24に付設され、第2係合部17がナット部材6に固着された基板35に付設され、第1係合部16と第2係合部17とが相対面する状態となる。
【0071】
この場合、内径側永久磁石19に、非磁性体からなる円筒体45が嵌入されて一体化されている。また、円筒体45は、ハウジング10の蓋部12,第1ヨーク21及び第2ヨーク22にも固着されている。そして、第4ヨーク24が第2ヨーク22に、ねじ軸3の軸方向に沿って往復動可能に付設されている。すなわち、第4ヨーク24は、廻り止めピン46にて、円筒体45に対しての回転が規制され、押圧部材47にて、第2ヨーク22から離間する方向に押圧されている。この場合、第4ヨーク24が基板35に対して接近・離間する往復動体43を構成する。
【0072】
すなわち、円筒体45のナット部材側の端面に、周方向に沿って所定ピッチで凹部48が設けられるとともに、第4ヨーク24の第2ヨーク対応面に、周方向に沿って所定ピッチで凹部49が設けられている。そして、廻り止めピン46が、円筒体45の凹部48および第4ヨーク24の凹部49に嵌入される。また、円筒体45のナット部材側の端面に、周方向に沿って所定ピッチで凹部50が設けられるとともに、第4ヨーク24の第2ヨーク対応面に、周方向に沿って所定ピッチで凹部51が設けられている。この場合、凹部50と凹部51とは、周方向に沿って所定ピッチずれ、凹部48と凹部50も、周方向に沿って所定ピッチずれている。そして、押圧部材47が、円筒体40の凹部50および第4ヨーク24の凹部51に嵌入される。
【0073】
また、この場合も、外径側永久磁石18と第3ヨーク23との間のギャップをg1とし、第1・第2係合部16,17が離間した状態の第1・第2係合部間のギャップをg2とし、第3ヨーク23と第4ヨーク24との間のギャップをg3としたときに、g1>g2>g3とする。
【0074】
他の構成は、図1及び図4に示すボールねじ装置と同様であるので、同一の部材は、図1及び図4に示す符号を付して、それらの説明を省略する。
【0075】
次に図5に示すボールねじ装置の動作について説明する。図5の下半分図に示す状態では、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19とは逆方向に着磁された状態である。すなわち、外径側永久磁石18は、第1ヨーク21側がS極とされ、第2ヨーク22側がN極とされ、内径側永久磁石19は、第1ヨーク21側がN極とされ、第2ヨーク22側がS極とされている。このような着磁状態では、磁束は、両磁石18,19と、第1ヨーク21,第2ヨーク22を矢印のように磁気力発生器側のみに流れる中巡回磁束Dを構成する。
【0076】
このため、外部磁性体である第4ヨーク24に磁気力(磁気吸引力)を及ぼさない。したがって、第4ヨーク24は、押圧部材42にて、ナット部材6側に押圧された状態となっている。この状態では、第1係合部16と第2係合部17とが係合された状態となって、ナット部材6の回転が規制されている。
【0077】
図5の上半分図では、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19とが同一方向に着磁された状態である。すなわち、外径側永久磁石18は、第1ヨーク21側がS極とされ、第2ヨーク22側がN極とされ、内径側永久磁石19は、第1ヨーク21側がS極とされ、第2ヨーク22側がN極とされている。この着磁状態では、磁気力発生器15の外径側の第3ヨーク23および第4ヨーク24に流れる大巡回磁束Eを形成する。また、第1ヨーク21,外径側永久磁石18,第4ヨーク24、及び第3ヨーク23を流れる小巡回磁束Fを形成する。
【0078】
図5の上半分図で示す状態では、往復動体43である第4ヨーク24が磁気力発生器15側へ引っ張られる磁気吸引力が発生し、第1係合部16と第2係合部17とが係合が解除された状態となる。これによって、ナット部材6の回転が許容された状態となる。この状態では、駆動源31からナット部材6に起動トルクを付与することによって、ナット部材6が回転駆動して、ねじ軸3の軸方向の往復動が可能となる。
【0079】
この実施形態においても、外径側永久磁石18と内径側永久磁石19との着磁状態の変更は、内径側永久磁石19に、着磁状態を変更する励磁コイル電流をコイルに流すことによって行うことができる。また、内径側永久磁石19の着磁動作は、着磁方向を逆流させる以外、図3に示す図1の内径側永久磁石に対する着磁動作と同様である。
【0080】
このため、図5に示すボールナット装置は、図1及び図4に示すボールねじ装置が奏する作用効果と同様の作用効果を奏することができる。
【0081】
本発明の直動機構は、前記記載のボールねじ装置を用いたものである。ここで、直動機構は、ボールねじ装置を用いた直動アクチュエータ全般を指す。具体的には、建機/農機用電動パワーシリンダ、ロボット腕脚用直動アクチュエータ、自動車サスペンション用車高調整機構、自動車用各輪独立転舵機構、工作機ワークステージ用直動アクチュエータ、介護機器用直動アクチュエータ等の任意位置での位置保持機能が必要なものである。
【0082】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、ボールねじ装置としては、自動車のトランスミッション、電動パーキングブレーキ、車高調整機構、転蛇機構、工作機用直動アクチュエータ、射出成型機等に用いることができる。すなわち、任意位置で保持機能が必要な産業機械や工作機械等に使用することができる。
【0083】
第1係合部16と第2係合部17との係合は、凹凸係合(凹凸嵌合)であったが、摩擦材係合であってよい。たとえば、第1・第2係合部に摩擦材を使用することによって、第1・第2係合部16,17が相対的に接近して、押圧状態になれば、摩擦力にて回転が規制される。この場合、第1係合部16と第2係合部17とが同じ摩擦材であっても、相違する摩擦材であってもよい。また、いずれか一方のみ摩擦材にて構成し、他方を第2ヨーク、第4ヨーク自体、基板自体等で構成してもよい。摩擦材には、一般には、有機系摩擦材と無機系摩擦材とがあり、いずれを用いてもよい。有機系摩擦材は、繊維基材に各種の添加材料を加え、熱硬化樹脂で結合した複合材であり、スチール繊維を使用したセミメタリック系摩擦材もある。また、無機系摩擦材は、焼結金属や炭素繊維強化材料(CCコンポジット)等で構成される。
【0084】
各実施形態における廻り止めピン26,37,46の数、断面形状、及び断面積等は、任意であるが、廻止めピンとしての機能を発揮できるものであればよい。また、図1の押圧部材25や図4に示す引張り部材36としては、周方向に沿って所定ピッチで複数個配設されるものであっても、1つの円筒形状のものであってもよい。なお、図5に示す押圧部材は、構成上、周方向に沿って所定ピッチで複数個配設されるもの限られる。また、押圧部材25、47,及び引張り部材36として、実施形態では、コイルばねを用いたが、コイルばね以外の例えば、樹脂やゴムからなる弾性材で構成してもよい。
【符号の説明】
【0085】
C、F 小巡回磁束
A、D 中巡回磁束
B、E 大巡回磁束
M ロック機構
1 外周面
3 ねじ軸
4 内周面
6 ナット部材
15 磁気力発生器
16 第1係合部
17 第2係合部
18 外径側永久磁石
19 内径側永久磁石
20 コイル
21 第1ヨーク
22 第2ヨーク
23 第3ヨーク
24 第4ヨーク
25、47 押圧部材
26、37、46 廻り止めピン
36 引張り部材
図1
図2
図3
図4
図5