(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024055630
(43)【公開日】2024-04-18
(54)【発明の名称】発泡粒子の製造方法及び発泡粒子用樹脂原料
(51)【国際特許分類】
C08J 9/18 20060101AFI20240411BHJP
【FI】
C08J9/18 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162720
(22)【出願日】2022-10-07
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北原 泰三
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA24
4F074AA24L
4F074AA98
4F074AB03
4F074AB05
4F074AC02
4F074BA32
4F074BC12
4F074CA34
4F074CA39
4F074CA49
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA12
(57)【要約】
【課題】自動車用部材に由来する樹脂成分を有効に活用できると共に、型内成形性が良好な発泡粒子を製造可能な発泡粒子の製造方法及び発泡粒子の製造方法に用いられる樹脂原料を提供する。
【解決手段】発泡粒子の製造方法においては、ポリプロピレン系樹脂組成物からなる樹脂粒子をダイレクト発泡法により発泡させる。樹脂粒子は、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを含む融点が160℃以上であるポリプロピレン系樹脂組成物Aと、融点が130℃以上160℃未満であるポリプロピレン系樹脂Bとの溶融混合物から構成されている。樹脂粒子におけるポリプロピレン系樹脂組成物Aとポリプロピレン系樹脂Bとの質量比が、ポリプロピレン系樹脂組成物A:ポリプロピレン系樹脂B=3:97~60:40である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内の水性媒体中に分散している、発泡剤が含浸されたポリプロピレン系樹脂組成物からなる樹脂粒子を、前記水性媒体とともに、前記容器から前記容器内の圧力よりも低い圧力の雰囲気下に放出することにより、前記樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得る発泡粒子の製造方法であって、
前記樹脂粒子は、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを含む融点が160℃以上であるポリプロピレン系樹脂組成物Aと、融点が130℃以上160℃未満であるポリプロピレン系樹脂Bとの溶融混合物から構成されており、
前記樹脂粒子における前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aと前記ポリプロピレン系樹脂Bとの質量比が、ポリプロピレン系樹脂組成物A:ポリプロピレン系樹脂B=3:97~60:40である、発泡粒子の製造方法。
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aの融点TmAと前記ポリプロピレン系樹脂Bの融点TmBとの差TmA-TmBが10℃以上30℃以下である、請求項1に記載の発泡粒子の製造方法。
【請求項3】
温度230℃、荷重2.16kgで測定した場合における前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aのメルトフローレイトが10g/10分以上40g/10分以下である、請求項1または2に記載の発泡粒子の製造方法。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aの灰分量が1質量%以上25質量%以下である、請求項1または2に記載の発泡粒子の製造方法。
【請求項5】
前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aは、ポリプロピレン系樹脂をマトリックスとし、エチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体をドメインとするモルフォロジーを示し、曲げ弾性率が800MPa以上1200MPa以下である、請求項1または2に記載の発泡粒子の製造方法。
【請求項6】
発泡粒子の製造に用いられる発泡粒子用樹脂原料であって、
前記樹脂原料は、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを含むポリプロピレン系樹脂組成物であり、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物の融点が160℃以上である、発泡粒子用樹脂原料。
【請求項7】
前記樹脂原料の、温度230℃、荷重2.16kgで測定した場合におけるメルトフローレイトが10g/10分以上40g/10分以下である、請求項6に記載の発泡粒子用樹脂原料。
【請求項8】
前記樹脂原料の灰分量が1質量%以上25質量%以下である、請求項6または7に記載の発泡粒子用樹脂原料。
【請求項9】
前記樹脂原料は、ポリプロピレン系樹脂をマトリックスとし、エチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体をドメインとするモルフォロジーを示し、前記樹脂原料の曲げ弾性率が800MPa以上1200MPa以下である、請求項6または7に記載の発泡粒子用樹脂原料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡粒子の製造方法及び発泡粒子用樹脂原料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、限られた資源をより有効に利用するため、自動車や電化製品等の消費財が廃棄された後、その廃棄物から有用な部品や金属などを回収し、再資源化する取り組みが行われている。
【0003】
このような再資源化が検討されている材料の一つとして、例えば、自動車の廃棄の過程で生じる自動車破砕残渣(Automobile Shredder Residue、以下「ASR」という。)が挙げられる。ASRは、従来、セメント製造時の燃料(例えば、特許文献1)やサーマルリサイクルによる熱エネルギーとして再利用されているが、一部は再利用がなされず、埋め立てや焼却により処分されることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、限られた資源をより有効に利用する観点から、使用済の自動車用部材等に含まれる樹脂や、ASR中に含まれる樹脂等をマテリアルリサイクル、つまり、樹脂製品の原料として再利用する取り組みが進められている。
【0006】
自動車用部材として用いられる樹脂のうち、ポリプロピレン系樹脂は、バンパーなどの外装部品及びインストルメントパネルなどの内装部品などの様々な態様で用いられている。それ故、資源の有効利用の観点から、自動車用部材から回収したポリプロピレン系樹脂を樹脂製品の原料として再利用することが望まれていた。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、自動車用部材に由来する樹脂成分を有効に活用できると共に、型内成形性が良好な発泡粒子を製造可能な発泡粒子の製造方法及び発泡粒子の製造方法に用いられる発泡粒子用樹脂原料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、以下の〔1〕~〔5〕に係る発泡粒子の製造方法にある。
〔1〕容器内の水性媒体中に分散している、発泡剤が含浸されたポリプロピレン系樹脂組成物からなる樹脂粒子を、前記水性媒体とともに、前記容器から前記容器内の圧力よりも低い圧力の雰囲気下に放出することにより、前記樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得る発泡粒子の製造方法であって、
前記樹脂粒子は、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを含む融点が160℃以上であるポリプロピレン系樹脂組成物Aと、融点が130℃以上160℃未満であるポリプロピレン系樹脂Bとの溶融混合物から構成されており、
前記樹脂粒子における前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aと前記ポリプロピレン系樹脂Bとの質量比が、ポリプロピレン系樹脂組成物A:ポリプロピレン系樹脂B=3:97~60:40である、発泡粒子の製造方法。
【0009】
〔2〕前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aの融点TmAと前記ポリプロピレン系樹脂Bの融点TmBとの差TmA-TmBが10℃以上30℃以下である、〔1〕に記載の発泡粒子の製造方法。
〔3〕温度230℃、荷重2.16kgで測定した場合における前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aのメルトフローレイトが10g/10分以上40g/10分以下である、〔1〕または〔2〕に記載の発泡粒子の製造方法。
【0010】
〔4〕前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aの灰分量が1質量%以上25質量%以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の発泡粒子の製造方法。
〔5〕前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aは、ポリプロピレン系樹脂をマトリックスとし、エチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体をドメインとするモルフォロジーを示し、曲げ弾性率が800MPa以上1200MPa以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の発泡粒子の製造方法。
【0011】
本発明の他の態様は、以下の〔6〕~〔9〕に係る発泡粒子用樹脂原料にある。
【0012】
〔6〕発泡粒子の製造に用いられる発泡粒子用樹脂原料であって、
前記樹脂原料は、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを含むポリプロピレン系樹脂組成物であり、
前記ポリプロピレン系樹脂組成物の融点が160℃以上である、発泡粒子用樹脂原料。
〔7〕前記ポリプロピレン系樹脂組成物の、温度230℃、荷重2.16kgで測定した場合におけるメルトフローレイトが10g/10分以上40g/10分以下である、〔6〕に記載の発泡粒子用樹脂原料。
【0013】
〔8〕前記ポリプロピレン系樹脂組成物の灰分量が1質量%以上25質量%以下である、〔6〕または〔7〕に記載の発泡粒子用樹脂原料。
〔9〕前記樹脂原料は、ポリプロピレン系樹脂をマトリックスとし、エチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体をドメインとするモルフォロジーを示し、前記樹脂原料の曲げ弾性率が800MPa以上1200MPa以下である、〔6〕~〔8〕のいずれか1つに記載の発泡粒子用樹脂原料。
【発明の効果】
【0014】
前記の態様によれば、自動車用部材に由来する樹脂成分を有効に活用できると共に、型内成形性が良好な発泡粒子を製造可能な発泡粒子の製造方法及び発泡粒子の製造方法に用いられる発泡粒子用樹脂原料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、高温ピークの融解熱量の算出方法を示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施例におけるポリプロピレン系樹脂組成物A1の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発泡粒子の製造方法)
〔ポリプロピレン系樹脂粒子〕
前記発泡粒子の製造方法においては、まず、ポリプロピレン系樹脂組成物からなる樹脂粒子を準備する。前記樹脂粒子は、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを含み、融点が160℃以上であるポリプロピレン系樹脂組成物Aと、融点が130℃以上160℃未満であるポリプロピレン系樹脂Bとの溶融混合物から構成されている。
【0017】
・ポリプロピレン系樹脂組成物A
樹脂粒子に用いられるポリプロピレン系樹脂組成物A(以下、「樹脂組成物A」という。)は、160℃以上の融点を有している。発泡粒子の型内成形性をより高め、良好な発泡粒子成形体(以下、「成形体」という。)が得られる成形圧の範囲をより広くする観点からは、樹脂組成物Aの融点は、165℃以下であることが好ましい。なお、本明細書において、ポリプロピレン系樹脂組成物とは、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂組成物をいう。ポリプロピレン系樹脂組成物中におけるポリプロピレン系樹脂の質量比率が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0018】
樹脂組成物Aの融点は、JIS K7121:1987に基づき求められる。具体的には、まず、樹脂組成物Aからなる試験片を準備し、JIS K7121:1987における「3.試験片の状態調節」の「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」に基づいて試験片の状態調節を行う。状態調節における加熱速度及び冷却速度はいずれも10℃/分とする。状態調節された試験片を10℃/分の加熱速度で30℃から230℃まで昇温することによりDSC曲線を取得し、DSC曲線に現れた融解ピークの頂点温度を融点とする。なお、DSC曲線に複数の融解ピークが現れる場合は、ベースラインを基準とした融解ピークの高さが最も高い融解ピークの頂点温度を樹脂組成物Aの融点とする。
【0019】
樹脂組成物Aには、少なくとも、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aが含まれている。資源の有効利用及びマテリアルリサイクルの観点から、樹脂組成物Aは、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを主成分として含むことが好ましい。より具体的には、樹脂組成物A中の自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aの質量比率が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0020】
なお、本明細書において、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単量体の単独重合体(つまり、プロピレン単独重合体)、プロピレンに由来する構成単位を70質量%以上含むプロピレン系共重合体及びプロピレン単独重合体と前記プロピレン系共重合体との混合物をいう。前記プロピレン系共重合体としては、プロピレンと、エチレン及び/または炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。また、プロピレン系共重合体における、エチレンに由来する構成単位の含有量と炭素数4以上のα-オレフィンに由来する構成単位の含有量との合計は、1~15質量%であることが好ましく、2~12質量%であることがより好ましい。なお、ポリプロピレン系樹脂と、エチレンプロピレン系ラバー等のエラストマーとは互いに異なる物質であり、当業者であれば両者を区別することが可能である。
【0021】
また、本明細書において、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aには、例えば、バンパーやインストルメントパネル等のポリプロピレン系樹脂組成物からなる自動車用部材、自動車用部材の製造過程において生じる不良品及び端材等を原料とする再生ポリプロピレン系樹脂組成物、自動車の廃棄の過程で生じるASR(つまり、自動車破砕残渣)から回収されたポリプロピレン系樹脂組成物を主成分とする再生ポリプロピレン系樹脂組成物等が包含される。
【0022】
また、本明細書において、ASRとは、平成14年法律第87号「使用済自動車の再資源化等に関する法律」の第二条の5で定義されている「自動車破砕残さ」をいう。より具体的には、使用済自動車からエンジンやバッテリー等の再生可能な部品等を取り外した後の解体自動車を破砕し、破砕物から金属その他有用なものを分別し、これらを回収した後に残存する物をASRという。ASRを得るための方法の一例として、使用済自動車から再利用できる部品と再利用できない部品とを取り外す解体工程と、解体工程を経た解体自動車から自動車付属部品を取り外す付属品分離工程と、分離工程を経た解体自動車及び/又は自動車付属部品を破砕し、得られる破砕物から金属類を分別してASRを回収する破砕選別工程とを備える方法が挙げられる。より具体的には、特許第6609877号、特許第6627142号、特許第6762071号等に記載された方法により、ASRを得ることができる。
【0023】
ASRには、通常、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂の他に、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)などのポリプロピレン系樹脂以外の他のプラスチックやゴム、種々の金属などが含まれている。なお、樹脂組成物Aの原料となる自動車用部材は、融点が160℃以上であるポリプロピレン系樹脂中にエチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体が分散したインパクトポリプロピレンから構成されていることが好ましい。
【0024】
ASRからポリプロピレン系樹脂組成物a1を回収する方法は特に限定されることはなく、公知の選別方法を適宜組み合わせてASRからポリプロピレン系樹脂組成物a1を回収することができる。ポリプロピレン系樹脂組成物a1の回収には、例えば、以下の(α)~(δ)に示す選別工程を単独で、または2種以上組み合わせて実施する方法を採用することができる。
(α)磁力により金属類と非金属類とを選別する磁力選別工程
(β)風力により軽量物と重量物とを選別する風力選別工程
(γ)溶媒により軽比重物と重比重物とを選別する湿式比重選別工程
(δ)帯電のしやすさにより樹脂を選別する静電選別工程
【0025】
例えば、湿式比重選別工程(γ)では、特許第3711472号に記載されているように、水流分級と沈降速度とを利用する方法や、特開2004-58032号公報に記載されているように、気泡を間欠的に排出させる脈動バブリング槽と沈降槽とを備え、水より軽い物質と重い物質とを分離するための浮遊物分離槽を有する装置を用いる方法等により、ASR中に含まれるポリプロピレン系樹脂組成物a1を選別することができる。また、特開2008-178846号公報や、特許第6762071号に記載されているように、これらの選別工程は組み合わせて行うことができる。例えば、風力選別工程と湿式比重選別工程とを組み合わせ、風力によりASR中に含まれる軽量物と重量物とを分離した後、それぞれを別個に選別液に浸漬して比重選別することでASR中に含まれるポリプロピレン系樹脂組成物a1を選別することができる。このような選別工程を行うことで得られる、ASRから回収されたポリプロピレン系樹脂組成物a1を含む樹脂組成物Aは、例えば株式会社プラニック等から入手することができる。
【0026】
樹脂組成物Aには、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aの他に、1種類以上の他のポリプロピレン系樹脂組成物が含まれていてもよい。樹脂組成物A中に含まれ得る他のポリプロピレン系樹脂組成物としては、例えば、家電製品に由来するポリプロピレン系樹脂組成物等の、自動車以外の消費財に由来するポリプロピレン系樹脂組成物が挙げられる。消費財に由来するポリプロピレン系樹脂組成物には、例えば、消費財の製造過程において生じる不良品や端材等を原料とする再生ポリプロピレン系樹脂組成物、消費財の廃棄の過程で回収されるポリプロピレン系樹脂組成物を主成分とする再生ポリプロピレン系樹脂組成物等が含まれる。なお、樹脂組成物Aの原料となる、前述した消費財に含まれる樹脂部材は、融点が160℃以上であるポリプロピレン系樹脂中にエチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体が分散したインパクトポリプロピレンから構成されていることが好ましい。
【0027】
資源の有効利用及びマテリアルリサイクルの観点から、樹脂組成物Aは、ASRから回収されたポリプロピレン系樹脂組成物a1を主成分として含むことが好ましい。より具体的には、樹脂組成物A中のASRから回収されたポリプロピレン系樹脂組成物a1の質量比率が50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0028】
ASRから回収されたポリプロピレン系樹脂組成物には、自動車用部材を成形するための成形加工による熱履歴を受けたポリプロピレン系樹脂が主成分として含まれている。また、ASRから回収されたポリプロピレン系樹脂組成物には、通常、多数の自動車用部材や多数の使用済自動車から回収されたポリプロピレン系樹脂が含まれている。これらの理由により、従来、ASRから回収されたポリプロピレン系樹脂組成物を発泡粒子の製造に用いることは難しいと考えられてきた。これに対し、前記製造方法においては、前記樹脂組成物Aと前記樹脂Bとを前記特定の質量比で混合して用いることにより、ASRから回収されたポリプロピレン系樹脂組成物を原料として用いる場合においても、良好な発泡粒子を容易に製造することができる。
【0029】
前記樹脂粒子における、樹脂組成物Aとポリプロピレン系樹脂B(以下、「樹脂B」という。)との質量比は、樹脂組成物A:樹脂B=3:97~60:40である。すなわち、前記樹脂粒子における、樹脂組成物Aと樹脂Bとの合計に対する樹脂組成物Aの質量比率は3質量%以上60質量%以下である。
【0030】
前記樹脂組成物Aの質量比率を3質量%以上とすることにより、樹脂粒子中に配合可能な自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aの量を多くし、自動車由来の樹脂成分をより有効に活用することができる。前記樹脂組成物Aの質量比率が過度に低い場合には、樹脂粒子中に配合可能な自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aの量が少なくなり、資源の有効利用の観点から好ましくない。
【0031】
樹脂粒子中に配合可能な自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aの量をより多くし、自動車由来の樹脂成分をより有効に活用する観点から、樹脂組成物Aと樹脂Bとの合計に対する樹脂組成物Aの質量比率は、4質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましい。
【0032】
また、前記樹脂組成物Aの質量比率を60質量%以下とすることにより、良好な型内成形性を有する発泡粒子を容易に得ることができる。前記樹脂組成物Aの質量比率が過度に高い場合には、発泡粒子の型内成形性の低下を招くおそれがある。優れた型内成形性を有する発泡粒子をより容易に得ることができる観点からは、樹脂組成物Aと樹脂Bとの合計に対する樹脂組成物Aの質量比率は、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることが特に好ましく、20質量%以下であることが最も好ましい。
【0033】
樹脂組成物Aの質量比率の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した樹脂組成物Aの質量比率の上限の値と下限の値とを任意に組み合わせることができる。例えば、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比の好ましい範囲は、樹脂組成物A:樹脂B=3:97~50:50であってもよく、3:97~30:70であってもよく、3:97~20:80であってもよい。
【0034】
前記樹脂組成物Aの融点TmAと前記樹脂Bの融点TmBとの差TmA-TmBは10℃以上30℃以下であることが好ましく、15℃以上25℃以下であることがより好ましい。この場合には、自動車用部材に由来する樹脂成分を含有させつつ、発泡粒子の型内成形性をより高め、良好な発泡粒子成形体が得られる成形圧の範囲をより広くすることができる。
【0035】
樹脂Bの融点TmBは、JIS K7121:1987に基づき求められる。具体的には、まず、樹脂Bからなる試験片を準備する。この際、樹脂粒子の製造に当たり、樹脂Bとして2種類以上のポリプロピレン系樹脂を使用する場合には、樹脂粒子における質量比と同一の質量比となるように複数種類のポリプロピレン系樹脂を溶融混合し、これらのポリプロピレン系樹脂の溶融混合物からなる試験片を準備する。
【0036】
次に、JIS K7121:1987における「3.試験片の状態調節」の「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」に基づいて試験片の状態調節を行う。状態調節における加熱速度及び冷却速度はいずれも10℃/分とする。状態調節された試験片を10℃/分の加熱速度で30℃から230℃まで昇温することによりDSC曲線を取得し、DSC曲線に現れた融解ピークの頂点温度を樹脂Bの融点TmBとする。なお、DSC曲線に複数の融解ピークが現れる場合は、ベースラインを基準とした融解ピークの高さが最も高い融解ピークの頂点温度を融点TmBとする。
【0037】
温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した場合における樹脂組成物Aのメルトフローレイト(MFR)は10g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、15g/10分以上35g/10分以下である樹脂組成物Aが含まれていることがより好ましく、20g/10分以上30g/10分以下である樹脂組成物Aが含まれていることがさらに好ましい。この場合には、自動車用部材に由来する樹脂成分を含有させつつ、発泡粒子の型内成形性をより高め、良好な発泡粒子成形体が得られる成形圧の範囲をより広くすることができる。
【0038】
また、樹脂組成物AのメルトフローレイトMFRAと樹脂BのメルトフローレイトMFRBとの差MFRA-MFRBは10g/10分以上25g/10分以下であることが好ましく、15g/10分以上22g/10分以下であることがより好ましい。この場合には、発泡粒子の型内成形性のばらつきをより低減し、優れた型内成形性を有する発泡粒子をより容易に得ることができる。
【0039】
前述した樹脂組成物A及びポリプロピレン系樹脂BのMFRは、JIS K7210-1:2014に基づき、試験温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。なお、樹脂粒子の製造に当たり、樹脂Bとして、2種類以上のポリプロピレン系樹脂を使用する場合には、樹脂粒子における質量比と同一の質量比となるように複数種類のポリプロピレン系樹脂を溶融混合し、得られた溶融混合物のMFRを樹脂BのMFRとする。
【0040】
前記樹脂組成物Aの灰分量は1質量%以上25質量%以下であることが好ましい。この場合には、樹脂組成物AのMFRが比較的高い場合においても、樹脂粒子の発泡性を維持しつつ発泡粒子の型内成形性をより高め、良好な発泡粒子成形体が得られる成形圧の範囲をより広くすることができる。
【0041】
灰分量が前記特定の範囲内である樹脂組成物Aを用いることにより、前述した作用効果が得られる理由としては、例えば以下の理由が考えられる。樹脂粒子の発泡性を高める観点からは、MFRが比較的高いポリプロピレン系樹脂を用いることが好ましい。しかし、高いMFRを有するポリプロピレン系樹脂を用いて得られる発泡粒子は、型内成形時において樹脂が過度に伸びやすくなるためか、高い成形圧で型内成形を行うと成形体が収縮しやすくなるという問題があった。これに対し、灰分量が前記特定の範囲内である樹脂組成物Aを用いることにより、発泡粒子の気泡径を比較的小さくするとともに、気泡膜を薄くすることができる。そして、このような発泡粒子は、加熱による軟化が生じやすい一方、樹脂が過度に伸びにくくなると考えられる。それ故、灰分量が前記特定の範囲内である樹脂組成物Aを用いることにより、高い成形圧で型内成形を行った場合においても成形体の収縮が抑制され、樹脂粒子の発泡性を維持しつつ、成形可能範囲を広くすることができると考えられる。
【0042】
前記樹脂組成物Aの灰分量は、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。この場合には、例えば自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物a等の、比較的灰分量が多いポリプロピレン系樹脂組成物をより容易に配合することができ、自動車用部材に由来する樹脂成分をより容易に活用することができる。
【0043】
また、樹脂粒子の発泡性を維持しつつ発泡粒子の型内成形性をより高める観点からは、樹脂組成物Aの灰分量は、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが一層好ましく、8質量%以下であることが特に好ましく、6質量%以下であることが最も好ましい。
【0044】
樹脂組成物Aの灰分量の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した灰分量の上限の値と下限の値とを任意に組み合わせることができる。例えば、樹脂組成物Aの灰分量の好ましい範囲は、1質量%以上20質量%以下であってもよく、2質量%以上15質量%以下であってもよく、2質量%以上10質量%以下であってもよく、3質量%以上8質量%以下であってもよく、3質量%以上6質量%以下であってもよい。
【0045】
前述した樹脂組成物Aの灰分量は、樹脂組成物Aを燃焼させた後に残る残渣の質量から算出することができる。なお、樹脂組成物Aの燃焼残渣に含まれる灰分は、主に、無機充填材等の樹脂組成物A中に含まれていた無機物から構成されている。
【0046】
前記樹脂組成物Aは、エチレンプロピレン系ラバーを含むことが好ましく、自動車用部材に由来するエチレンプロピレン系ラバーを含むことがより好ましい。また、この場合、前記樹脂組成物Aは、ポリプロピレン系樹脂をマトリックス(つまり、連続相)とし、エチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体をドメイン(つまり、分散相)とするモルフォロジーを示し、曲げ弾性率が800MPa以上1200MPa以下であることがさらに好ましい。この場合には、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aの量が比較的多い場合であっても発泡粒子の型内成形性をより高め、良好な発泡粒子成形体が得られる成形圧の範囲をより広くすることができる。また、この場合、前記マトリックスを構成するポリプロピレン系樹脂の融点が160℃以上であることがより好ましい。さらに、樹脂組成物A中のゴム状体のドメインには、前記エチレンプロピレン系ラバーの他にポリエチレン系樹脂が含まれていてもよい。
【0047】
なお、エチレンプロピレン系ラバーとは、エチレン成分とプロピレン成分とを含むエチレンプロピレン系共重合体から構成されるゴム状の物質である。すなわち、エチレンプロピレン系ラバーは、エチレンとプロピレンとの共重合体(つまり、EPM)であってもよい。また、エチレンプロピレン系ラバーは、前述した作用効果を損なわない範囲において、ジエン等の、エチレン及びプロピレン以外のモノマーに由来する成分を含むエチレンプロピレン系共重合体(例えばEPDM)であってもよい。エチレンプロピレン系ラバーにおける、エチレンに由来する成分とプロピレンに由来する成分との質量比(エチレンに由来する成分:プロピレンに由来する成分)は、通常、30:70~80:20である。エチレンプロピレン系ラバーは、ポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂とは異なる物質であり、当業者であれば両者を区別することができる。
【0048】
前記樹脂組成物Aのモルフォロジーの観察方法は、以下の通りである。まず、前記樹脂組成物Aから観察用サンプルを切り出す。観察用サンプルの切り出し方は特に限定されることはないが、例えば、樹脂組成物Aの形状が円柱状のペレットである場合には、ペレットの中心部を通るように、ペレットをペレットの高さ方向に対して垂直に切断すればよい。このようにして、前記樹脂組成物Aからなるペレットの中心部の断面が露出した観察用サンプルを得ることができる。次いで、この観察用サンプルをエポキシ樹脂に包埋し、四酸化ルテニウムにより電子染色を行った後、ウルトラミクロトーム等を用いてサンプルから切片を作製する。この切片を透過型電子顕微鏡(例えば、日本電子社製「JEM-1040Flash」)のグリッドに載せ、所定の倍率(例えば、5000倍)で観察すると共に、樹脂組成物Aの断面写真(すなわち、TEM写真)を撮影する。断面写真から、樹脂組成物Aにおけるポリプロピレン系樹脂の相とエチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体の相とのモルフォロジーを目視にて観察する。
【0049】
発泡粒子の型内成形性を安定して高めることができる観点からは、樹脂組成物Aにおけるエチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体のドメインの平均径は0.5μm以上5μm以下であることが好ましく、0.8μm以上3μm以下であることがより好ましく、1μm以上2μm以下であることがさらに好ましい。前記ドメインの平均径は、前記TEM写真に基づいて算出される。具体的には、TEM写真に現れたドメインの中から無作為に選択した50個のドメインの最長径及び最短径をそれぞれ計測した後、これらの相加平均を算出する。このようにして得られた最長径と最短径との相加平均値を、エチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体のドメインの平均径とする。
【0050】
また、発泡粒子の型内成形性を安定して高めることができる観点からは、前記モルフォロジーにおける前記ドメインの面積割合が、20%以上40%以下であることが好ましく、25%以上35%以下であることが好ましい。
【0051】
前記ドメインの面積割合は、前記TEM写真に基づいて算出される。より具体的には、画像解析ソフト(例えば、三谷商事株式会社製「WinROOF2013」)を用いて、TEM写真におけるドメイン部分を黒色、ドメイン以外の部分を白色にするモノトーン処理をし、測定対象とする。その後、上記画像解析ソフトにより、測定対象における前記ドメイン部分が占める面積の合計を算出すると共に、測定対象全体の面積に対する前記ドメイン部分が占める面積の合計の割合を算出する。このようにして得られた前記ドメイン部分が占める面積の合計の割合を、樹脂組成物Aのモルフォロジーにおける前記ドメインの面積割合とする。なお、前記ドメイン以外の部分には、マトリックスや、タルク等の無機物が含まれる。
【0052】
樹脂組成物Aが前記特定のモルフォロジーを有する場合、前述した作用効果をより確実に得る観点から、前記樹脂組成物A中のエチレンに由来する成分(つまり、エチレンに由来する構成単位)の含有量が10質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上35質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以上30質量%以下であることが特に好ましい。
【0053】
前記樹脂組成物A中のエチレンに由来する成分の含有量は、例えば、IRスペクトルに基づいて求めることができる。前記樹脂組成物A中のエチレンに由来する成分の含有量の測定方法については、実施例において詳説する。
【0054】
前記樹脂Bの曲げ弾性率MBと、前記樹脂組成物Aの曲げ弾性率MAとの差MB-MAは、-100MPa以上500MPa以下であることが好ましく、-50MPa以上300MPa以下であることがより好ましい。この場合には、型内成形時における発泡粒子の二次発泡性を高めやすくなる。その結果、比較的低い成形圧力条件での発泡粒子の型内成形性をより高め、良好な発泡粒子成形体が得られる成形圧の範囲をより広くすることができる。
【0055】
なお、樹脂組成物Aの曲げ弾性率MA及び樹脂Bの曲げ弾性率MBは、JIS K7171:2008に基づき、求めることができる。
【0056】
前述した効果が得られる理由としては、例えば以下の理由が考えられる。一般に、インパクトポリプロピレン等のエチレンプロピレン系ラバーを含むポリプロピレン系樹脂組成物においては、融点が高くなると曲げ弾性率も高くなる傾向がある。一方、前記製造方法に用いられる、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを含む樹脂組成物Aは、融点に対する曲げ弾性率の比が比較的低い傾向にある。このような融点と曲げ弾性率との関係を有する樹脂組成物Aと、樹脂Bとを用いて樹脂粒子を製造することで、樹脂粒子の発泡性が良好であると共に、比較的低い成形圧力条件でも良好に成形が可能な発泡粒子を得やすくなると考えられる。そのため、前記樹脂組成物Aを用いることで、自動車由来の樹脂成分をより有効に活用しつつ、型内成形性に優れる発泡粒子を安定して得ることができると考えられる。
【0057】
かかる観点から、前記樹脂組成物Aの融点TmA(単位:℃)に対する前記樹脂組成物Aの曲げ弾性率MA(単位:MPa)の比(単位:MPa/℃)は4以上8以下であることが好ましく、5以上7以下であることがより好ましく、5以上6以下であることがさらに好ましい。
【0058】
前記樹脂組成物Aには、前述した作用効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂やエチレンプロピレン系ラバー以外のエラストマー等が含まれていてもよい。樹脂組成物Aに含まれ得る樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂及びアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂などが挙げられ、エラストマーとしては、エチレンブテンラバー、エチレンオクテンラバーなどが挙げられる。なお、これらの樹脂やエラストマーは、ASRに由来するものであってもよい。
【0059】
前記樹脂組成物Aには、前述した作用効果を損なわない範囲で、タルクやシリカ、ガラス繊維などの無機物が含まれていてもよい。前記樹脂組成物A中に含まれる無機物の主成分はタルクであることが好ましい。この場合には、比較的高い融点を有する樹脂組成物Aを用いる場合においても発泡粒子の融着性をより向上させることができる。その結果、発泡粒子の型内成形性をより向上させることができる。この理由としては、発泡粒子の平均気泡径が小さくなりやすいことなどが考えられる。
【0060】
前記樹脂組成物Aには、前述した作用効果を損なわない範囲で、気泡調整剤、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌剤、着色剤等の添加剤が含まれていてもよい。また、樹脂組成物Aは、着色剤としてカーボンブラックを含むことが好ましい。この場合、例えば、樹脂組成物A中のカーボンブラックの含有量は、0.1質量%以上2質量%以下であってもよく、0.2質量%以上1質量%以下であってもよい。この場合、比較的淡い黒色(灰色)と白色とによるまだら模様が付与された、意匠性に優れる発泡粒子成形体を得ることができる。
【0061】
・ポリプロピレン系樹脂B
樹脂粒子に用いられるポリプロピレン系樹脂Bは、130℃以上160℃未満の融点を有している。前記製造方法においては、160℃以上の融点を有する樹脂組成物Aと130℃以上160℃未満の融点を有する樹脂Bとの溶融混合物からなり、かつ、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比率が前記特定の範囲である樹脂粒子を発泡させることにより、型内成形性に優れた発泡粒子を容易に得ることができる。かかる作用効果をより確実に得る観点からは、樹脂Bの融点は135℃以上155℃以下であることが好ましく、138℃以上152℃以下であることがより好ましく、140℃以上150℃以下であることがさらに好ましい。
【0062】
樹脂Bの融点が過度に高い場合には、良好な発泡性を有する樹脂粒子や、良好な型内成形性を有する発泡粒子を得ることが困難となるおそれがある。
【0063】
樹脂Bは、自動車用部材等の成形品を成形するための成形加工等による熱履歴を受けていないポリプロピレン系樹脂(つまり、非再生ポリプロピレン系樹脂)であってもよく、熱履歴を受けたポリプロピレン系樹脂(つまり、再生ポリプロピレン系樹脂)であってもよい。型内成形性に優れた発泡粒子をより容易に得ることができる観点からは、樹脂Bは、非再生ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0064】
樹脂粒子の製造には、樹脂Bとして、前記特定の範囲内の融点を有する1種類のポリプロピレン系樹脂を使用してもよく、前記特定の範囲内の融点を有する2種類以上のポリプロピレン系樹脂を使用してもよい。樹脂粒子の製造に用いられる樹脂Bは、プロピレンに由来する構成単位を70質量%以上含むプロピレン系共重合体であることが好ましく、プロピレンに由来する構成単位を80質量%以上含むプロピレン系共重合体であることがより好ましい。なお、樹脂Bには、2種類以上のプロピレン系共重合体が含まれていてもよい。
【0065】
発泡粒子の型内成形性をより高め、良好な発泡粒子成形体が得られる成形圧の範囲をより広くする観点からは、樹脂Bは、プロピレンと、エチレン及び/又は炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体であることが好ましい。また、前記共重合体は、ランダム共重合体(つまり、プロピレン系ランダム共重合体)であることがより好ましい。
【0066】
前記プロピレン系共重合体に用いられるα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、4-メチル-1-ブテン等が挙げられる。前記プロピレン系共重合体における、エチレンに由来する構成単位の含有量と炭素数4以上のα-オレフィンに由来する構成単位の含有量との合計(つまり、コモノマー成分の含有量)は、1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、2質量%以上12質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
なお、樹脂Bとして2種類以上のポリプロピレン系樹脂を使用する場合には、これらのポリプロピレン系樹脂の合計質量(つまり、樹脂Bの合計質量)に対するコモノマー成分の質量の比率を前述したコモノマー成分の含有量とする。すなわち、樹脂Bとして2種類以上のポリプロピレン系樹脂を使用する場合のコモノマー成分の含有量は、樹脂粒子を製造する際の質量比と同一の質量比で複数種類のポリプロピレン系樹脂を溶融混合した試料における、エチレンに由来する構成単位の含有量と炭素数4以上のα-オレフィンに由来する構成単位の含有量との合計である。
【0068】
樹脂Bの主成分は、共重合成分としてエチレンに由来する構成単位(つまり、エチレン成分)を含有するポリプロピレン系樹脂b1及び/又は共重合成分としてエチレン及び1-ブテンに由来する構成単位(つまり、エチレン成分及びブテン成分)を含有するポリプロピレン系樹脂b2であることが好ましい。このようなポリプロピレン系樹脂b1としては、プロピレン-エチレンランダム共重合体などが挙げられる。また、ポリプロピレン系樹脂b2としては、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体等が挙げられる。前記樹脂粒子中に含まれる樹脂Bの合計質量に対する前記ポリプロピレン系樹脂b1の割合とポリプロピレン系樹脂B2の割合との合計は60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0069】
前記樹脂Bが、ポリプロピレン系樹脂b1を主成分として含む場合、ポリプロピレン系樹脂b1中のエチレン成分の含有量は1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。この場合には、低い成形圧で型内成形を行う場合における発泡粒子の型内成形性をより高めることができる。
【0070】
また、ポリプロピレン系樹脂b1中のエチレン成分の含有量は、6質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、4質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることが特に好ましい。この場合には、圧縮強度等が良好な発泡粒子成形体をより容易に得ることができる。
【0071】
前記樹脂Bが、ポリプロピレン系樹脂b2を主成分として含む場合、ポリプロピレン系樹脂b2中のエチレン成分の含有量とブテン成分の含有量との合計は2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることがさらに好ましい。この場合には、低い成形圧で型内成形を行う場合における発泡粒子の型内成形性をより高めることができる。
【0072】
また、ポリプロピレン系樹脂b2中のエチレン成分の含有量とブテン成分の含有量との合計は、15質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましい。この場合には、圧縮強度等が良好な発泡粒子成形体をより容易に得ることができる。
【0073】
また、比較的低い成形圧力での成形が可能であると共に、圧縮強度等が良好な発泡粒子成形体をより容易に得ることができる観点から、ポリプロピレン系樹脂b2における、エチレン成分の含有量に対するブテン成分の含有量の比は、7以上25以下であることが好ましく、8以上20以下であることがより好ましく、10以上18以下であることがさらに好ましい。
【0074】
前記樹脂B中の、エチレンに由来する成分及びブテンに由来する成分の含有量は、例えば、IRスペクトルに基づいて求めることができる。樹脂B中の、エチレンに由来する成分及びブテンに由来する成分の含有量の測定方法については、実施例において詳説する。
【0075】
樹脂Bのコモノマー成分の含有量等の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した上限の値と下限の値とを任意に組み合わせることができる。
【0076】
樹脂Bの灰分量は1質量%未満であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。この場合には、樹脂粒子の発泡性を維持しつつ発泡粒子の型内成形性をより高め、良好な発泡粒子成形体が得られる成形圧の範囲をより広くすることができる。なお、樹脂Bとして2種類以上のポリプロピレン系樹脂を使用する場合、これらのポリプロピレン系樹脂の合計質量(つまり、樹脂Bの合計質量)に対するポリプロピレン系樹脂の灰分の合計質量の比率を、樹脂Bの灰分量とする。すなわち、樹脂Bの灰分量は、樹脂粒子を製造する際の質量比と同一の質量比で複数種類のポリプロピレン系樹脂を溶融混合した試料を作製し、この試料に対して後述する灰分量の測定を行うことにより得られる。
【0077】
前述した樹脂Bの灰分量は、樹脂Bを燃焼させた後に残る残渣の質量から算出することができる。
【0078】
また、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した場合における樹脂BのMFRは6g/10分以上9g/10分以下であることが好ましい。この場合には、良好な型内成形性を有する発泡粒子をより容易に得ることができる。なお、樹脂Bとして2種類以上のポリプロピレン系樹脂を使用する場合、樹脂粒子を製造する際の質量比と同一の質量比で複数種類のポリプロピレン系樹脂を溶融混合した試料のメルトフローレイトを、樹脂Bのメルトフローレイトとする。
【0079】
前記樹脂Bには、前述した作用効果を損なわない範囲で、気泡調整剤、結晶核剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、抗菌剤、着色剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0080】
〔樹脂粒子の準備〕
前記製造方法においては、まず、前記樹脂組成物Aと前記樹脂Bとの溶融混合物からなる樹脂粒子を準備する。樹脂粒子を準備する方法は特に限定されることはない。例えば、ストランドカット法により樹脂粒子を作製する場合には、前記樹脂組成物Aと前記樹脂Bとを押出機に供給し、押出機内で前記樹脂組成物Aと前記樹脂Bとを加熱しつつ混練することにより、溶融状態の混合物を得る。この溶融状態の混合物を押出機の下流側に付設されたダイの小孔からストランド状に押し出す。このストランド状の押出物を引き取りつつ所望の長さに切断することにより、樹脂組成物Aと前記樹脂Bとの溶融混合物(より具体的には、溶融混練物)からなる樹脂粒子を得ることができる。
【0081】
樹脂組成物Aと前記樹脂Bとの溶融混合物を製造する作業と、溶融混合物から樹脂粒子を製造する作業とは、上記したように同一の押出機で行ってもよい。また、例えば、前述した2つの作業を別々の押出機等を用いて行ってもよい。
【0082】
なお、前記樹脂粒子には、前述した作用効果を損なわない範囲で、ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂やエチレンプロピレン系ラバー以外のエラストマー等が含まれていてもよい。樹脂粒子に含まれ得る樹脂としては、例えば、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系共重合体などが挙げられ、エラストマーとしては、エチレンブテンラバー、エチレンオクテンラバーなどが挙げられる。なお、これらの樹脂やエラストマーは、ASRに由来するものであってもよい。
【0083】
〔発泡〕
前記製造方法においては、容器内において水性媒体中に分散させた、発泡剤を含むポリプロピレン系樹脂粒子を、水性媒体とともに容器内の圧力よりも低い圧力の雰囲気下に放出する、「ダイレクト発泡法」と呼ばれる方法により樹脂粒子を発泡させる。以下に、発泡方法の好ましい態様を説明する。
【0084】
樹脂粒子を発泡させるに当たっては、まず、樹脂粒子を容器内に入れ、水性媒体中に分散させる。この際、必要に応じて、容器内の水性媒体に樹脂粒子を分散させるための分散剤や分散助剤、界面活性剤等を添加してもよい。
【0085】
分散剤としては、例えば、酸化アルミニウム、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、酸化亜鉛、カオリン、マイカ等の無機微粒子を使用することができる。これらの無機微粒子は、単独で使用されてもよいし、2種以上の無機微粒子が併用されてもよい。分散助剤としては、例えば、硫酸アルミニウム等を使用することができる。また、界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム等のアニオン系界面活性剤を使用することができる。これらの界面活性剤は、単独で使用されてもよいし、2種以上の界面活性剤が併用されてもよい。
【0086】
次に、容器内に発泡剤を供給し、容器内の圧力を上昇させることにより樹脂粒子に発泡剤を含浸させる。これにより、発泡剤を含む樹脂粒子を得ることができる。この際、容器内の樹脂粒子を水性媒体とともに加熱することにより、樹脂粒子への発泡剤の含浸を促進することができる。
【0087】
発泡工程において使用される発泡剤としては、例えば、二酸化炭素、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン等の無機物理発泡剤や、プロパン、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の炭化水素、エチルクロライド、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、トランス-1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン等のハロゲン化炭化水素等の有機物理発泡剤を使用することができる。環境に対する負荷や取扱い性の観点から、発泡剤としては、好ましくは二酸化炭素が用いられる。発泡剤の添加量は、樹脂粒子100質量部に対して0.1質量部以上30質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上15質量部以下であることが好ましい。
【0088】
発泡直前の容器内の圧力はゲージ圧において0.5MPa(G)以上であることが好ましい。一方、容器内の圧力はゲージ圧において4.0MPa(G)以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、容器の破損や爆発等のおそれがなく安全に発泡粒子を製造することができる。
【0089】
樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後に、容器の内容物を容器よりも低い圧力の雰囲気下へ放出する。これにより、樹脂粒子が発泡して気泡構造が形成されるとともに、外気(つまり、雰囲気)によって冷却されて気泡構造が安定化し、発泡粒子が得られる。
【0090】
前記製造方法においては、樹脂粒子を水性媒体中に分散させてから樹脂粒子を発泡させるまでの間に、樹脂粒子を構成する樹脂成分の結晶構造を調整する工程を行ってもよい。樹脂成分の結晶構造を調整した後に発泡させることにより、優れた型内成形性を有するとともに機械的強度にも優れる発泡粒子を容易に得ることができる。
【0091】
樹脂成分の結晶構造を調整する方法は、例えば以下の通りである。まず、(樹脂粒子を構成する溶融混合物の融点-15℃)以上、(溶融混合物の融点+10℃)以下の温度で十分な時間、好ましくは10~60分程度保持する保持工程を行う。この保持工程が行われた樹脂粒子を発泡させることで、後述する特定の融解ピークが現れる結晶構造を有する発泡粒子を得ることができる。なお、発泡時における容器内の温度は、(溶融混合物の融点)以上(溶融混合物の融点+10℃)以下であることが好ましい。
【0092】
前記発泡粒子の製造方法においては、前記保持工程が行われた樹脂粒子を予め準備し、この樹脂粒子を発泡させることで、発泡粒子を得てもよい。発泡粒子の生産性を高める観点からは、発泡剤の存在下で、容器内の分散媒中に分散させた樹脂粒子を加熱して上記保持工程を行った後、密閉容器の内容物を容器内から容器内の圧力よりも低い圧力の雰囲気下に放出して、樹脂粒子を発泡させることにより、後述する特定の融解ピークが現れる結晶構造を有する発泡粒子を得ることが好ましい。
【0093】
前述した条件での加熱及び発泡によって発泡粒子の機械的強度及び成形性を向上させることができる理由としては、発泡粒子を構成する樹脂成分中にポリプロピレン系樹脂の二次結晶が形成されること等が考えられる。ポリプロピレン系樹脂の二次結晶が形成されているか否かは、DSC曲線における高温ピークの有無によって判断することができる。なお、高温ピークの有無の判断方法等については後述する。
【0094】
前記発泡粒子の製造方法においては、樹脂粒子を発泡させる際に、前述したように一段階で樹脂粒子を発泡させてもよく、2段階以上の複数の段階に分けて樹脂粒子を発泡させてもよい。樹脂粒子を2段階で発泡させる場合には、まず、一段回目の発泡工程において、ダイレクト発泡法により樹脂粒子を発泡させ、一段発泡粒子を得る。二段階目の発泡工程は、例えば、一段発泡粒子を空気等により加圧処理して一段発泡粒子の気泡内の圧力(内圧)を高めた後、一段発泡粒子をスチーム等で加熱してさらに発泡させればよい。このようにして樹脂粒子を複数段階で発泡させることにより、より発泡倍率の高い(つまり、嵩密度の低い)発泡粒子を容易に得ることができる。
【0095】
(発泡粒子)
前記の製造方法により得られる発泡粒子は、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを含む融点が160℃以上であるポリプロピレン系樹脂組成物Aと、融点が130℃以上160℃未満であるポリプロピレン系樹脂Bとから構成されている。前記樹脂粒子における前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aと前記ポリプロピレン系樹脂Bとの質量比が、ポリプロピレン系樹脂組成物A:ポリプロピレン系樹脂B=3:97~60:40である。
【0096】
前記発泡粒子におけるポリプロピレン系樹脂組成物A及びポリプロピレン系樹脂Bは、それぞれ、前記製造方法において用いられる樹脂組成物A及び樹脂Bと同一である。従って、前記発泡粒子におけるポリプロピレン系樹脂組成物A及びポリプロピレン系樹脂Bの詳細な構成については、適宜、前記製造方法における樹脂組成物A及び樹脂Bの説明を参照することができる。
【0097】
また、前記発泡粒子は、その表面に、型内成形時の発泡粒子同士の融着性を高めるための融着層を有していてもよい。融着層は、発泡粒子の表面全体に存在していてもよく、表面の一部に存在していてもよい。融着層を構成する樹脂としては、発泡粒子を構成する溶融混合物の融点よりも低い融点を有する結晶性ポリオレフィン系樹脂、発泡粒子を構成する溶融混合物の融点よりも低い軟化点を有する非晶性ポリオレフィン系樹脂などが例示される。
【0098】
発泡粒子表面に融着層を形成する方法は特に限定されず、例えば、表面に融着層を有する樹脂粒子を発泡させる方法や、発泡粒子を得てから発泡粒子の表面に融着層を付着させる方法等を例示できる。表面に融着層を有する樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得る場合には、樹脂粒子を製造する際に、共押出が可能な押出装置を用いて、樹脂粒子本体を形成するための溶融混合物と、融着層を形成するための樹脂溶融物とを共押出することで、樹脂粒子の表面に融着層を積層する方法を採用することが好ましい。
【0099】
〔発泡粒子の嵩密度〕
前記発泡粒子の嵩密度は、10kg/m3以上200kg/m3以下であることが好ましく、12kg/m3以上100kg/m3以下であることがより好ましく、15kg/m3以上80kg/m3以下であることがさらに好ましく、20kg/m3以上70kg/m3以下であることが特に好ましい。この場合には、幅広い成形圧の範囲において、軽量であるとともに、機械的強度が良好な成形体を容易に得ることができる。
【0100】
発泡粒子の嵩密度の算出方法は以下の通りである。まず、相対湿度50%、温度23℃、気圧1atmの環境下で発泡粒子を24時間以上静置し、発泡粒子の状態を調節する。このようにして得られる発泡粒子をメスシリンダー内に充填し、メスシリンダー底面で床面を数度、軽く叩くことにより、メスシリンダー内の発泡粒子群の充填高さを安定させる。メスシリンダーの目盛から発泡粒子群の嵩体積(単位:L)を読み取る。そして、メスシリンダー内の発泡粒子群の質量(単位:g)を前述した嵩体積で除した値を単位換算することにより、発泡粒子の嵩密度(単位:kg/m3)を得ることができる。
【0101】
〔発泡粒子の平均気泡径〕
前記発泡粒子の平均気泡径は40μm以上100μm以下であることが好ましく、45μm以上90μm以下であることがより好ましく、50μm以上80μm以下であることがさらに好ましい。この場合には、発泡粒子の型内成形性をより高め、幅広い成形圧の範囲において良好な成形体を容易に得ることができる。
【0102】
発泡粒子の平均気泡径は、以下の方法により算出される値である。まず、発泡粒子を概ね2等分となるように切断する。次に、露出した切断面が視野内に全て納まるように拡大写真を取得する。得られた拡大写真上に、発泡粒子の最表面から中央部を通って反対側の最表面に至る線分を、隣り合う線分のなす角度が等しくなるようにして(つまり、隣り合う線分のなす角度が45°となるようにして)4本引く。このようにして得られた4本の線分の合計長さを線分と交差する気泡の総数で除した値を、個々の発泡粒子の気泡径とする。
【0103】
以上の操作を無作為に抽出した10個以上の発泡粒子に対して行い、それぞれの発泡粒子について得られた発泡粒子の気泡径を算術平均した値を、発泡粒子の平均気泡径とする。
【0104】
〔発泡粒子の独立気泡率〕
発泡粒子の独立気泡率は、80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。この場合には、発泡粒子の型内成形性をより高め、幅広い成形圧の範囲において良好な成形体を容易に得ることができる。
【0105】
発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて測定される値である。発泡粒子の独立気泡率の測定方法は、具体的には以下の通りである。状態調節後の嵩体積約20cm3の発泡粒子を測定用サンプルとし、測定用サンプルをエタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の液面の上昇分から測定用サンプルの見掛けの体積Vaを測定する。見掛けの体積Vaを測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、空気比較式比重計(東京サイエンス株式会社製「Beckman Model1000 Air Comparison Pycnometer」)により測定される測定用サンプルの真の体積の値Vxを測定する。そして、これらの体積の値Va及びVxを用い、下記の式(1)に基づいて測定用サンプルの独立気泡率を計算する。以上の操作を測定用サンプルを変更して5回行い、5つの測定用サンプルにおける独立気泡率の算術平均値(N=5)を発泡粒子の独立気泡率とする。
【0106】
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(1)
ただし、上記式(1)における記号の意味は以下の通りである。
Vx:上記方法で測定される発泡粒子の真の体積、即ち、発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm3)
Va:発泡粒子を、エタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の液面の上昇量から測定される発泡粒子の見掛けの体積(単位:cm3)
W:発泡粒子(測定用サンプル)の質量(単位:g)
ρ:発泡粒子を構成する樹脂の密度(単位:g/cm3)
【0107】
〔発泡粒子の灰分量〕
前記発泡粒子の灰分量は、0.02質量%以上4質量%以下であることが好ましい。この場合には、自動車用部材に由来する樹脂成分をより容易に配合することができる。さらに、樹脂組成物AのMFRが比較的高い場合であっても、発泡粒子の型内成形性をより容易に向上させることができる。
【0108】
樹脂組成物Aの含有量をより多くし、自動車用部材に由来する樹脂成分をより有効に利用する観点からは、前記発泡粒子の灰分量は0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましく、0.2質量%以上であることが特に好ましい。一方、発泡粒子の型内成形性をより確実に向上させる観点からは、前記発泡粒子の灰分量は3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0109】
なお、発泡粒子の灰分量の好ましい範囲を構成するに当たっては、前述した発泡粒子の灰分量の上限の値と下限の値とを任意に組み合わせることができる。例えば、発泡粒子の灰分量の好ましい範囲は、0.02質量%以上3質量%以下であってもよく、0.1質量%以上3質量%以下であってもよく、0.2質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0110】
前述した発泡粒子の灰分量は、発泡粒子を燃焼させた後に残る残渣の質量から算出することができる。
【0111】
〔高温ピーク〕
前記発泡粒子は、加熱速度10℃/分で23℃から230℃まで加熱した際に得られるDSC曲線に、発泡粒子を構成する樹脂成分固有の融解による融解ピークと、この融解ピークよりも高温側に位置する1以上の融解ピークとが現れる結晶構造を有することが好ましい。このような結晶構造を備えた発泡粒子は、優れた型内成形性を有するとともに、機械的特性にも優れている。なお、以下において、前記DSC曲線に現れる樹脂成分固有の融解による融解ピークを「樹脂固有ピーク」といい、樹脂固有ピークよりも高温側に現れる融解ピークを「高温ピーク」という。樹脂固有ピークは、発泡粒子を構成する樹脂成分が通常有する結晶の融解によって現れる。一方、高温ピークは、発泡粒子の製造過程で樹脂成分中に形成された二次結晶の融解によって現れると推定される。すなわち、DSC曲線に高温ピークが現れた場合、樹脂成分中に二次結晶が形成されていると推定される。
【0112】
発泡粒子が前述した結晶構造を有するか否かは、JIS K7122:1987に準拠し、前述した条件により示差走査熱量測定(DSC)を行うことにより得られるDSC曲線に基づいて判断すればよい。また、DSCを行うにあたっては、発泡粒子1~3mgを試料として用いればよい。
【0113】
具体的には、上記のように10℃/分の加熱速度で23℃から230℃までの加熱(つまり、第1回目の加熱)を行ったときに得られるDSC曲線には、発泡粒子を構成する樹脂成分の樹脂固有ピークと、高温ピークとの両方のピークが現れる。これに対し、第1回目の加熱を行った後、10℃/分の冷却速度で230℃から23℃まで冷却し、その後再び10℃/分の加熱速度で23℃から230℃までの加熱(つまり、第2回目の加熱)を行ったときに得られるDSC曲線においては、発泡粒子を構成する樹脂成分の樹脂固有ピークのみが見られる。従って、第1回目の加熱時に得られるDSC曲線と第2回目の加熱時に得られるDSC曲線とを比較することにより、樹脂固有ピークと高温ピークとを見分けることができる。
【0114】
発泡粒子の型内成形性及び機械的特性をさらに向上させる観点からは、発泡粒子の高温ピークの融解ピーク温度は、155℃以上170℃以下であることが好ましく、158℃以上170℃以下であることがより好ましい。同様の観点から、高温ピークの融解熱量は、5J/g以上40J/g以下であることが好ましく、7J/g以上35J/g以下であることがより好ましく、10J/g以上25J/g以下であることがさらに好ましい。
【0115】
前述した高温ピークの融解熱量は、次のようにして求められる値である。まず、状態調節を行った後の発泡粒子1~3mgを試料として用い、加熱速度10℃/分で23℃から230℃まで加熱するという条件で示差走査熱量測定を行うことによりDSC曲線を得る。
図1にDSC曲線の一例を示す。発泡粒子が高温ピークを有する場合、DSC曲線には、
図1に示すように、樹脂固有ピークΔH1と、樹脂固有ピークΔH1の頂点よりも高温側に頂点を有する高温ピークΔH2とが現れる。
【0116】
次に、DSC曲線上における80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Tに相当する点βとを結ぶ直線L1を引く。なお、融解終了温度Tは、高温ピークΔH2における高温側の端点、つまり、DSC曲線における、高温ピークΔH2と、高温ピークΔH2よりも高温側のベースラインとの交点である。
【0117】
直線L1を引いた後、樹脂固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間に存在する極大点γを通り、グラフの縦軸に平行な直線L2を引く。この直線L2により樹脂固有ピークΔH1と高温ピークΔH2とが分割される。高温ピークΔH2の吸熱量は、DSC曲線における高温ピークΔH2を構成する部分と、直線L1と、直線L2とによって囲まれた部分の面積に基づいて算出することができる。
【0118】
(発泡粒子成形体)
前記発泡粒子を成形型に充填した後、成形型内にスチームなどの加熱媒体を供給して型内成形することにより、発泡粒子成形体を得ることができる。成形体の密度は10kg/m3以上200kg/m3以下であることが好ましい。この場合には、成形体の軽量性と機械的強度とをバランスよく向上させることができる。
【0119】
成形体の機械的強度をより高める観点からは、成形体の密度は、12kg/m3以上であることがより好ましく、15kg/m3以上であることがさらに好ましく、20kg/m3以上であることが特に好ましい。成形体の軽量性をより高める観点からは、成形体の密度は、100kg/m3以下であることがより好ましく、80kg/m3以下であることがさらに好ましく、70kg/m3以下であることが特に好ましく、60kg/m3以下であることが最も好ましい。成形体の密度は、成形体の質量(単位:g)を成形体の外形寸法から求められる体積(単位:L)で除し、単位換算することにより算出される。成形体の外形寸法から体積を求めることが容易でない場合には、水没法により成形体の体積を求めることができる。
【0120】
また、成形体の機械的特性をより向上させる観点からは、成形体の独立気泡率は70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0121】
成形体の独立気泡率は、ASTM2865-70手順Cに準じて測定される。具体的には、まず、成形体の中心部から縦25mm×横25mm×高さ30mmの試験体を切り出し、試験体の幾何学的体積Va(単位:cm3)、つまり、縦寸法(単位:cm)と横寸法(単位:cm)と高さ寸法(単位:cm)との積を算出する。次に、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、空気比較式比重計(具体的には、東京サイエンス株式会社製「Beckman Model1000 Air Comparison Pycnometer」)により、試験体の真の体積の値Vxを測定する。なお、空気比較式比重計により得られる真の体積の値Vxは、測定用サンプルを構成する樹脂の容積と、測定用サンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm3)である。
【0122】
試験体の独立気泡率(単位:%)は、試験体の質量W(単位:g)と、発泡粒子を構成する樹脂の密度ρ(単位:g/cm3)と、前述した方法により得られる試験体の幾何学的体積Va及び試験体の真の体積Vxとを用い、下記式(2)により表される。
独立気泡率=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(2)
【0123】
以上の操作を5個の試験体について行い、各試験体の独立気泡率を算出する。そして、これら5個の試験体における独立気泡率の算術平均値を成形体の独立気泡率とする。
【0124】
(樹脂原料)
前記発泡粒子の製造方法において用いられる発泡粒子用樹脂原料は、
自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを含み、かつ、融点が160℃以上のポリプロピレン系樹脂組成物である。
かかる発泡粒子用樹脂原料を、前記製造方法におけるポリプロピレン系樹脂組成物Aとして用いることにより、型内成形性に優れる発泡粒子を製造することが可能となり、さらに自動車用部材に由来する樹脂成分を資源として有効に活用することができる。
【0125】
前記樹脂原料には、少なくとも、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物a、つまり、バンパーやインストルメントパネル等のポリプロピレン系樹脂組成物からなる自動車用部材、自動車用部材の製造過程で生じる不良品や端材等に由来する再生ポリプロピレン系樹脂組成物、ASRから回収されたポリプロピレン系樹脂組成物を主成分とする再生ポリプロピレン系樹脂組成物が含まれている。前記樹脂原料には、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aの他に、家電製品などの、自動車以外の消費財に由来する再生ポリプロピレン系樹脂組成物や、非再生ポリプロピレン系樹脂が含まれていてもよい。
【0126】
自動車用部材に由来する樹脂成分のマテリアルリサイクルの観点からは、前記樹脂原料中に含まれる自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0127】
同様に、ASRに由来する樹脂成分のマテリアルリサイクルの観点からは、前記樹脂原料中に含まれるASRから回収されたポリプロピレン系樹脂組成物a1の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。
【0128】
前記樹脂原料は、前述したように、前記製造方法においてポリプロピレン系樹脂組成物Aとして用いることができるように構成されている。そのため、より詳細な前記樹脂原料の構成については、前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aに関する説明を適宜参照することができる。
【0129】
前記樹脂原料の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを押出機に供給して溶融混練する。この際、必要に応じて、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aを破砕するなどの前処理を行ってもよい。また、必要に応じて、押出機に、自動車用部材に由来するポリプロピレン系樹脂組成物aの他に自動車以外の消費財に由来する再生ポリプロピレン系樹脂組成物、非再生ポリプロピレン系樹脂及び添加剤などを添加することもできる。
【0130】
押出機内においてポリプロピレン系樹脂等を溶融混練した後、溶融状態の混合物を押出機から押出する。このようにして得られた押出物を冷却した後、適当な長さに切断してペレット化することにより、樹脂原料を得ることができる。
【実施例0131】
前記発泡粒子の製造方法の実施例を説明する。
【0132】
(ポリプロピレン系樹脂組成物A)
表1に、発泡粒子の製造に使用したポリプロピレン系樹脂組成物Aの性状等を示す。なお、本例において使用した樹脂組成物A1は株式会社プラニックにより製造されている「PLC-A02」である。樹脂組成物Aの主成分は、いずれも、ASRから回収されたポリプロピレン系樹脂組成物a1である。また、ポリプロピレン系樹脂組成物Aの形状は円柱状のペレットであり、ペレットの高さ方向における平均長さ(ペレット製造時の押出方向における平均長さ)は3mm、ペレットの直径は3mm、ペレットの平均質量は16mgである。また、ポリプロピレン系樹脂組成物Aには、タルクを主成分とする無機物が含まれている。後述する方法により、本例において使用した樹脂組成物Aのモルフォロジーを観察したところ、樹脂組成物Aは、ポリプロピレン系樹脂をマトリックスとし、エチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体をドメインとするモルフォロジーを示した。
【0133】
【0134】
表1に示した樹脂組成物Aの物性値の測定方法は以下の通りである。
【0135】
〔前記樹脂組成物A中のエチレンに由来する成分の含有量〕
樹脂組成物Aにおけるエチレン成分の含有量は、IRスペクトルにより決定する公知の方法により求めた。具体的には、高分子分析ハンドブック(日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、出版年月:1995年1月、出版社:紀伊国屋書店、ページ番号と項目名:615~616「II.2.3 2.3.4 プロピレン/エチレン共重合体」、618~619「II.2.3 2.3.5 プロピレン/ブテン共重合体」)に記載されている方法、つまり、エチレンの吸光度を所定の係数で補正した値とフィルム状の試験片の厚み等との関係から定量する方法により求めた。
【0136】
より具体的には、まず、樹脂組成物Aを180℃の環境下でヒートプレスしてフィルム状に成形し、厚み0.1~0.3mmの厚みの異なる複数の試験片を作製した。次いで、各試験片のIRスペクトルを測定することにより、エチレン由来の722cm-1、733cm-1における吸光度(A722、A733)と、高エチレン含量の結晶バンドに由来する729cm-1における吸光度(A729)とを読み取った。次いで、各試験片について、以下の式(3)~(5)を用いて樹脂組成物A中のエチレン成分含有量(単位:質量%)を算出した。各試験片について得られたエチレン成分含有量を算術平均した値を樹脂組成物A中のエチレン成分含有量(単位:質量%)とした。
【0137】
(K’733)c=2.33(K’733)a+0.687(K’722)a-2.02(K’729)a ・・・(3)
(K’722)c=1.05(K’722)a+0.275(K’733)a-0.61(K’729)a ・・・(4)
エチレン成分含有量(単位:質量%)=0.575{(K’722)c+(K’733)c}・・・(5)
【0138】
ただし、式(3)~(5)におけるK´aは各波数における見かけの吸光係数(K´a=A/ρt)であり、K´cは補正後の吸光係数であり、Aは吸光度であり、ρは樹脂の密度(単位:g/cm3)であり、tはフィルム状の試験片の厚み(単位:cm)である。
【0139】
〔樹脂組成物Aのモルフォロジー〕
以下の方法により前記樹脂組成物A1のモルフォロジーを観察した。まず、前記樹脂組成物Aからなる円柱状のペレットを、その中心部を通るように、ペレットの高さ方向に対して垂直に切断し、ペレットの中心部の断面が露出した観察用サンプルを準備した。次いで、この観察用サンプルをエポキシ樹脂に包埋し、四酸化ルテニウムにて電子染色を行った後、ウルトラミクロトーム等を用いてサンプルからペレットの中心部を含む切片を作製した。この切片を透過型電子顕微鏡(例えば、日本電子社製「JEM-1040Flash」)のグリッドに載せ、倍率5000倍で観察すると共に、樹脂組成物Aの断面写真(すなわち、TEM写真)を撮影した。
【0140】
断面写真から、樹脂組成物Aにおけるポリプロピレン系樹脂の相とエチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体の相のモルフォロジーを目視にて観察した。一例として、
図2に樹脂組成物A1の断面写真を示す。
図2において、エチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体のドメインDは比較的暗い色調で示されており、ポリプロピレン系樹脂のマトリックスMはドメインDに対して明るい色調で示されている。
【0141】
また、エチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体のドメインの平均径を、前記TEM写真に基づいて算出した。より具体的には、前記TEM写真に現れたドメインの中から無作為に選択した50個のドメインの最長径及び最短径をそれぞれ計測した。このようにして得られた最長径及び最短径の相加平均値を、エチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体のドメインの平均径とした。その結果、樹脂組成物A1のエチレンプロピレン系ラバーを含むゴム状体のドメインの平均径は1.2μmであった。
【0142】
また、前記モルフォロジーにおける、前記ドメインの面積割合を、前記TEM写真に基づいて算出した。より具体的には、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製「WinROOF2013」)を用いて、TEM写真におけるドメイン部分を黒色、ドメイン以外の部分を白色にするモノトーン処理をし、測定対象とした。その後、上記画像解析ソフトにより、測定対象における前記ドメイン部分が占める面積の合計を算出すると共に、測定対象全体の面積に対する前記ドメイン部分が占める面積の合計の割合を算出した。その結果、樹脂組成物A1のモルフォロジーにおける前記ドメインの面積割合は28%であった。
【0143】
〔灰分量〕
約5gの樹脂組成物Aを精秤した後、樹脂組成物Aをるつぼに入れた。雰囲気温度を600℃に設定した電気炉内でるつぼ内の樹脂組成物Aを1時間加熱することにより、樹脂組成物Aを燃焼させた。加熱が完了した後、るつぼ内に残った残渣の質量を測定した。そして、加熱前の樹脂組成物Aの質量に対する残渣の質量の比率を百分率で表した値を、樹脂組成物Aの灰分量(単位:質量%)とした。
【0144】
〔融点〕
樹脂組成物Aの融点TmAは、JIS K7121:1987に基づき求めた。具体的には、まず、JIS K7121:1987に記載の「3.試験片の状態調節」の「(2)一定の熱処理を行なった後、融解温度を測定する場合」に基づいて樹脂組成物Aからなる試験片の状態を調節した。状態調節後の試験片を10℃/分の加熱速度で30℃から230℃まで昇温することによりDSC曲線を取得した。そして、DSC曲線に現れた融解ピークの頂点温度を融点TmAとした。なお、測定装置としては、熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)を用いた。
【0145】
〔メルトフローレイトMFRA〕
JIS K7210-1:2014に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で樹脂組成物Aのメルトフローレイト(つまり、MFRA)を測定した。
【0146】
〔曲げ弾性率MA〕
樹脂組成物Aを230℃でヒートプレスして4mmのシートを作製し、このシートから長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの試験片を切り出した。この試験片の曲げ弾性率MAを、JIS K7171:2008に準拠して求めた。なお、圧子の半径R1及び支持台の半径R2は共に5mmであり、支点間距離は64mmであり、試験速度は2mm/分である。
【0147】
(ポリプロピレン系樹脂B)
表2に、発泡粒子の製造に使用したポリプロピレン系樹脂Bの性状等を示す。なお、本例において使用した樹脂Bは、いずれも、非再生ポリプロピレン系樹脂から構成されている。また、本例において使用した樹脂Bは、プロピレン-エチレンランダム共重合体(B1~B3)、プロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体(B4)またはプロピレン単独重合体(B5)のいずれかである。なお、表2においては、プロピレン系ランダム共重合体を「rPP」と記載し、プロピレン単独重合体を「hPP」と記載した。
【0148】
表2に示した物性値の測定方法は、前述した樹脂組成物Aにおける物性値の測定方法と同様である。なお、表2における樹脂Bの「エチレン成分の含有量」及び「ブテン成分の含有量」の算出方法は以下の通りである。
【0149】
樹脂Bにおけるエチレン成分の含有量は、IRスペクトルにより決定する公知の方法により求めた。具体的には、高分子分析ハンドブック(日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、出版年月:1995年1月、出版社:紀伊国屋書店、ページ番号と項目名:615~616「II.2.3 2.3.4 プロピレン/エチレン共重合体」、618~619「II.2.3 2.3.5 プロピレン/ブテン共重合体」)に記載されている方法、つまり、エチレン及びブテンの吸光度を所定の係数で補正した値とフィルム状の試験片の厚み等との関係から定量する方法により求めた。
【0150】
より具体的には、まず、樹脂Bを180℃の環境下でヒートプレスしてフィルム状に成形し、厚み0.1~0.3mmの厚みの異なる複数の試験片を作製した。次いで、各試験片のIRスペクトルを測定することにより、エチレン由来の722cm-1及び733cm-1における吸光度(A722、A733)と、ブテン由来の766cm-1における吸光度(A766)とを読み取った。次いで、各試験片について、以下の式(6)~(8)を用いて樹脂B中のエチレン成分含有量(単位:質量%)を算出した。各試験片について得られたエチレン成分含有量を算術平均した値を樹脂B中のエチレン成分含有量(単位:質量%)とした。
【0151】
(K´733)c=1/0.96{(K´733)a-0.268(K´722)a}・・・(6)
(K´722)c=1/0.96{(K´722)a-0.150(K´733)a}・・・(7)
エチレン成分含有量=0.575{(K´722)c+(K´733)c}・・・(8)
【0152】
ただし、式(6)~(8)におけるK´aは各波数における見かけの吸光係数(K´a=A/ρt)であり、K´cは補正後の吸光係数であり、Aは吸光度であり、ρは樹脂の密度(単位:g/cm3)であり、tはフィルム状の試験片の厚み(単位:cm)である。
【0153】
また、各試験片について、以下の式(9)を用いて樹脂B中のブテン成分含有量(単位:質量%)を算出した。各試験片について得られたブテン成分含有量を算術平均した値を樹脂B中のブテン成分含有量(単位:質量%)とした。
ブテン成分含有量=12.3(A766/L)・・・(9)
ただし、式(9)におけるAは吸光度であり、Lはフィルム状の試験片の厚み(単位:mm)である。
【0154】
【0155】
次に、本例の発泡粒子の構成及び製造方法を説明する。
【0156】
(実施例1)
表3に示す樹脂組成物Aと、樹脂Bと、気泡調整剤とを、表3に示す質量比で押出機に投入し、押出機内で樹脂組成物Aと樹脂Bとを含む溶融状態の混合物を形成した。なお、気泡調整剤としてはホウ酸亜鉛を使用した。ホウ酸亜鉛の添加量は、樹脂組成物Aと樹脂Bとの合計に対して500質量ppmとした。
【0157】
その後、押出機の下流側に設けられたダイの小孔から前記溶融状態の混合物をストランド状に押し出した。このストランド状の押出物を引き取り、冷却した後にペレタイザーを用いて適当な長さに切断することにより樹脂粒子を得た。
【0158】
このようにして得られた樹脂粒子をダイレクト発泡法により発泡させた。具体的には、まず、樹脂粒子1kgを、水性媒体としての3Lの水とともに内容積5Lの容器内に投入した。次いで、容器内に、樹脂粒子100質量部に対して0.3質量部の分散剤と、分散助剤として0.02質量部のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムと0.01質量部の硫酸アルミニウムとを添加し、樹脂粒子を水性媒体中に分散させた。分散剤としてはカオリンを使用した。
【0159】
その後、容器内を攪拌しながら密閉容器内に発泡剤としての二酸化炭素を供給し、容器内の温度を155.5℃まで上昇させた。このときの容器内圧力は2.1MPa(G)であった。その後、容器内の温度を156℃に調整した後、この温度を15分保持することにより、樹脂粒子に発泡剤を含浸させた。その後、容器を開放し、内容物を大気圧雰囲気下に放出することにより樹脂粒子を発泡させた。この発泡粒子を温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で24時間乾燥させた。以上により、実施例1の発泡粒子を得た。
【0160】
(実施例2)
実施例2の発泡粒子の製造方法は、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比率を表3に示すように変更したこと、及び発泡時の容器内の温度を152.5℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0161】
(実施例3)
実施例3の発泡粒子の製造方法は、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比率を表3に示すように変更したこと、及び発泡時の容器内の温度を161℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0162】
(実施例4)
実施例4の発泡粒子の製造方法は、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比率を表3に示すように変更したこと、及び発泡時の容器内の温度を158.5℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0163】
(実施例5)
実施例5の発泡粒子の製造方法は、樹脂Bの種類を表3に示すように変更したこと、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比率を表3に示すように変更したこと、及び発泡時の容器内の温度を158.5℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0164】
(実施例6)
実施例6の発泡粒子の製造方法は、樹脂Bの種類を表3に示すように変更したこと、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比率を表3に示すように変更したこと、及び発泡時の容器内の温度を158.5℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0165】
(実施例7)
実施例7の発泡粒子の製造方法は、樹脂Bの種類を表4に示すように変更したこと、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比率を表4に示すように変更したこと、及び発泡時の容器内の温度を158.5℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0166】
(実施例8)
実施例8の発泡粒子の製造方法は、樹脂組成物Aの種類を表4に示すように変更したこと、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比率を表4に示すように変更したこと、及び発泡時の容器内の温度を158.5℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0167】
(実施例9)
実施例9の発泡粒子の製造方法は、樹脂組成物Aの種類を表4に示すように変更したこと、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比率を表4に示すように変更したこと、及び発泡時の容器内の温度を158.5℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0168】
(実施例10)
実施例10の発泡粒子の製造方法は、発泡時の容器内の温度を155.5℃及び容器内圧力を2.8MPa(G)に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0169】
(比較例1)
比較例1の発泡粒子は、樹脂組成物Aのみから構成されている。比較例1の発泡粒子の製造方法は、表4に示す樹脂組成物Aのみを用い、発泡時の容器内の温度を164℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0170】
(比較例2)
比較例2の発泡粒子の製造方法は、樹脂Bの種類を表4に示すように変更したこと、樹脂組成物Aと樹脂Bとの質量比率を表4に示すように変更したこと、及び発泡時の容器内の温度を164℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0171】
(参考例)
参考例の発泡粒子は、樹脂Bのみから構成されている。参考例の発泡粒子の製造方法は、表4に示す樹脂Bのみを用い、発泡時の容器内の温度を149.5℃に変更したこと以外は、概ね実施例1の発泡粒子の製造方法と同様である。
【0172】
以上により得られた樹脂粒子、発泡粒子及び発泡粒子を型内成形してなる成形体の評価方法は以下の通りである。
【0173】
〔樹脂粒子及び発泡粒子の灰分量〕
樹脂粒子の灰分量及び発泡粒子の灰分量の測定方法は、樹脂組成物Aに替えて樹脂粒子または発泡粒子を用いたこと以外は、前述した樹脂組成物Aの灰分量の測定方法と同様である。
【0174】
〔発泡粒子の嵩密度〕
相対湿度50%、温度23℃、気圧1atmの環境下で発泡粒子を24時間以上静置し、発泡粒子の状態を調節した。このようにして得られる発泡粒子をメスシリンダー内に充填し、メスシリンダー底面で床面を数度、軽く叩くことにより、メスシリンダー内の発泡粒子群の充填高さを安定させた。その後、メスシリンダーの目盛から発泡粒子群の嵩体積(単位:L)を読み取った。そして、メスシリンダー内の発泡粒子群の質量(単位:g)を前述した嵩体積で除した値を単位換算することにより、発泡粒子の嵩密度(単位:kg/m3)を算出した。
【0175】
〔発泡粒子の平均気泡径〕
発泡粒子を概ね2等分となるように切断した。次に、露出した切断面が視野内に全て納まるように拡大写真を取得した。得られた拡大写真上に、発泡粒子の最表面から中央部を通って反対側の最表面に至る線分を、隣り合う線分のなす角度が等しくなるようにして(つまり、隣り合う線分のなす角度が45°となるようにして)4本引いた。このようにして得られた4本の線分の合計長さを線分と交差する気泡の総数で除した値を、個々の発泡粒子の気泡径とした。
【0176】
以上の操作を無作為に抽出した10個以上の発泡粒子に対して行い、それぞれの発泡粒子について得られた発泡粒子の気泡径を算術平均した値を、発泡粒子の平均気泡径とした。
【0177】
〔発泡粒子の独立気泡率〕
ASTM-D2856-70手順Cに基づき空気比較式比重計を用いて発泡粒子の独立気泡率を測定した。具体的には、まず、状態調節後の嵩体積約20cm3の発泡粒子を測定用サンプルとし、測定用サンプルをエタノールの入ったメスシリンダーに沈めた。この時の液面の上昇量から測定用サンプルの見掛けの体積Vaを測定した。見掛けの体積Vaを測定した測定用サンプルを十分に乾燥させた後、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、空気比較式比重計(東京サイエンス株式会社製「Beckman Model1000 Air Comparison Pycnometer」)により測定される測定用サンプルの真の体積の値Vxを測定した。そして、これらの体積の値Va及びVxを用い、下記の式(1)に基づいて測定用サンプルの独立気泡率を計算した。以上の操作を測定用サンプルを変更して5回行い、5つの測定用サンプルにおける独立気泡率の算術平均値(N=5)を発泡粒子の独立気泡率とした。
【0178】
独立気泡率(%)=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(1)
ただし、上記式(1)における記号の意味は以下の通りである。
Vx:上記方法で測定される発泡粒子の真の体積、即ち、発泡粒子を構成する樹脂の容積と、発泡粒子内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm3)
Va:発泡粒子を、エタノールの入ったメスシリンダーに沈めた際の液面の上昇量から測定される発泡粒子の見掛けの体積(単位:cm3)
W:発泡粒子(測定用サンプル)の質量(単位:g)
ρ:発泡粒子を構成する樹脂の密度(単位:g/cm3)
【0179】
〔発泡粒子の融点Tr〕
熱流束示差走査熱量測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)社製、型番:DSC7020)を用い、発泡粒子を10℃/分の加熱速度で30℃から230℃まで加熱した。その後、発泡粒子を10℃/分の冷却速度で230℃から23℃まで冷却した。冷却が完了した後、再び発泡粒子を10℃/分の加熱速度で23℃から230℃までの加熱(つまり、第2回目の加熱)を行い、DSC曲線を取得した。そして、第2回目の加熱におけるDSC曲線に現れた融解ピークの頂点温度を発泡粒子の融点Trとした。
【0180】
〔樹脂固有ピーク及び高温ピーク〕
樹脂固有ピーク及び高温ピークの頂点温度及び融解熱量の測定方法は、前述した通りである。なお、表3及び表4には、高温ピークの頂点温度Th及び樹脂固有ピークの頂点温度Tlに加え、両者の差Th-Tlを合わせて記載した。
【0181】
〔発泡可能範囲〕
前述した発泡粒子の製造方法において、発泡時の温度を150℃から165℃の範囲で0.5℃ずつ段階的に変更して樹脂粒子を発泡させた。この際、容器内の平衡蒸気圧は、2.1MPa(G)とした。
【0182】
その後、各発泡温度での発泡により得られた発泡粒子の嵩密度と状態とを評価した。そして、嵩密度が60kg/m3以下であり、発泡粒子に明確なシワがなく、発泡粒子の収縮がほとんど確認されなかった発泡温度を発泡可能温度と判断し、発泡可能温度のうち最も低い温度を発泡可能範囲の下限、最も高い温度を発泡可能範囲の上限とした。良品を得られる発泡温度範囲の下限から上限までの幅が広いものほど、樹脂粒子の発泡時における発泡性が良好であり、好適である。
【0183】
〔成形可能範囲〕
成形可能範囲の評価においては、本加熱時の成形圧を0.26~0.38MPa(G)の間で0.01MPaずつ変化させて型内成形を行うことにより発泡粒子成形体を作製し、得られた成形体の表面性、融着性及び回復性に基づいて成形下限圧力及び成形可能範囲を決定した。
【0184】
発泡粒子成形体の製造方法は以下の通りである。まず、発泡粒子を耐圧容器内に入れ、耐圧容器内を空気や二酸化炭素等の無機ガスで加圧して発泡粒子に無機ガスを含浸させ、発泡粒子に0.10MPa(G)の内圧を付与した。次に、内圧が付与された発泡粒子を、クラッキング充填法により成形型に充填した。本例においては、縦250mm、横200mm、厚み50mmの平板状の発泡粒子成形体を成形可能なキャビティを有する成形型を使用した。クラッキング充填においては、成形体の厚み方向に5mmのクラッキング隙間(つまり、10%のクラッキング量)を開けた状態で発泡粒子を成形型内に充填した後、成形型を完全に閉じることにより成形型内の発泡粒子を機械的に圧縮した。
【0185】
次に、成形型内にスチームを供給して型内成形を行った。型内成形においては、まず、成形型のドレン弁を開放した状態で成形型内にスチームを5秒間供給して予備加熱を行った。次いで、ドレン弁を閉鎖し、本加熱時の成形圧より0.08MPa(G)低い圧力に達するまで、成形型の一方の面側からスチームを供給して一方加熱を行った。次に、本加熱時の成形圧より0.04MPa(G)低い圧力に達するまで成形型の他方の面側よりスチームを供給して一方加熱を行った。その後、本加熱時の成形圧に達するまで成形型の両面からスチームを供給して本加熱を行った。本加熱が完了した後、成形型内の圧力を解放し、成形体の発泡力による表面圧力が0.04MPa(G)になるまで成形型内において成形体を冷却した。
【0186】
その後、成形型から取り出した発泡粒子成形体を80℃のオーブン中で12時間静置して養生工程を行った。養生工程後、発泡粒子成形体を相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて24時間静置することにより、発泡粒子成形体の状態調節を行った。状態調節後の発泡粒子成形体の表面性、融着性及び回復性を評価し、後述する評価基準でいずれの項目でも合格となった成形圧(つまり、合格品が取得可能であった成形圧)の範囲を成形可能範囲とした。成形可能範囲が広いほど、成形性に優れていると判断することができる。
【0187】
成形可能範囲の評価における表面性、融着性及び回復性の評価方法は以下の通りである。
【0188】
・表面性
発泡粒子成形体の厚み方向における一方のスキン面の中央部に100mm×100mmの正方形を描き、次いでこの正方形のいずれか1の角から対角線を引いた。そして、対角線上に存在するボイド、つまり、発泡粒子同士の間に形成される隙間のうち、1mm×1mm以上の大きさを有するボイドの数を数えた。そして、ボイドの数が2個以下の場合に合格と判断し、3個以上である場合に不合格と判断した。
【0189】
・融着性
発泡粒子成形体を長手方向に概ね等分となるように破断させた。破断面に露出した発泡粒子のうち無作為に選択した100個以上の発泡粒子を目視により観察し、粒子内部で破断した発泡粒子(つまり、材料破壊した発泡粒子)であるか、発泡粒子同士の界面で破断した発泡粒子であるかを判別した。そして、観察した発泡粒子の総数に対する粒子内部で破断した発泡粒子の数の比率を百分率で表した値(つまり、材料破壊率)を算出し、この値を融着率とした。そして、融着率が80%以上である場合を合格と判断し、80%未満である場合を不合格と判断した。
【0190】
・回復性
発泡粒子成形体を厚み方向から見た平面視において、各頂点より中心方向に10mm内側となる4か所の位置における発泡粒子成形体の厚みと、中央部における発泡粒子成形体の厚みとをそれぞれ計測した。次いで、計測した箇所のうち最も厚みの厚い箇所の厚みに対する最も厚みの薄い箇所の厚みの比(単位:%)を算出した。このようにして得られた厚みの比が95%以上である場合に合格と判断し、95%未満である場合に不合格と判断した。
【0191】
〔成形体の密度〕
前述した成形可能範囲のうち、最も低い成形圧で型内成形を行い、発泡粒子成形体を得た。この発泡粒子成形体の質量(単位:g)を当該成形体の外形寸法から求められる体積(単位:L)で除した後、単位換算することにより成形体の密度(単位:kg/m3)を算出した。
【0192】
〔成形体の独立気泡率〕
前述した成形可能範囲のうち、最も低い成形圧で型内成形を行い、発泡粒子成形体を得た。この成形体の中心部から縦25mm×横25mm×高さ30mmの試験体を切り出し、試験体の幾何学的体積Va(単位:cm3)、つまり、縦寸法(単位:cm)と横寸法(単位:cm)と高さ寸法(単位:cm)との積を算出した。次に、ASTM-D2856-70に記載されている手順Cに準じ、空気比較式比重計(具体的には、東京サイエンス株式会社製「Beckman Model1000 Air Comparison Pycnometer」)により、試験体の真の体積の値Vxを測定した。なお、空気比較式比重計により得られる真の体積の値Vxは、測定用サンプルを構成する樹脂の容積と、測定用サンプル内の独立気泡部分の気泡全容積との和(単位:cm3)である。
【0193】
以上により得られた試験体の質量W(単位:g)と、発泡粒子を構成する樹脂の密度ρ(単位:g/cm3)と、前述した方法により得られる試験体の幾何学的体積Va及び試験体の真の体積Vxとを用い、下記式(2)により試験体の独立気泡率(単位:%)を算出した。
独立気泡率=(Vx-W/ρ)×100/(Va-W/ρ)・・・(2)
【0194】
以上の操作を5個の試験体について行い、各試験体の独立気泡率を算出した。そして、これら5個の試験体における独立気泡率の算術平均値を成形体の独立気泡率とした。
【0195】
〔成形体の50%圧縮強度〕
成形体の中心部から、縦50mm、横50mm、厚み25mmの直方体状の試験片を採取した。JIS K7220:2006に規定された方法に基づいて10mm/minの圧縮速度で試験片の圧縮試験を行い、応力-ひずみ曲線を取得した。なお、圧縮試験は23℃の実験室において行った。この応力-ひずみ曲線に基づいて試験片の50%変形圧縮応力を算出し、この値を成形体の50%圧縮強度とした。
【0196】
【0197】
【0198】
表3及び表4に示すように、実施例1~10の製造方法における樹脂粒子は、前記特定の範囲内の融点を有する前記ポリプロピレン系樹脂組成物A及び前記ポリプロピレン系樹脂Bを含み、かつ、前記ポリプロピレン系樹脂組成物Aと前記ポリプロピレン系樹脂Bとの質量比率が前記特定の範囲内である溶融混合物から構成されている。そのため、かかる樹脂粒子を発泡させてなる発泡粒子は、良好な型内成形性を有している。
【0199】
また、実施例1~10の樹脂粒子を発泡させてなる発泡粒子から得られた成形体は、良好な圧縮物性を示した。さらに、得られた成形体には、比較的淡い黒色(灰色)と白色とによるまだら模様が付与されており、意匠性に優れる成形体が得られた。
【0200】
これらの中でも、特に、実施例1及び実施例2の製造方法により得られる発泡粒子は、ASRに由来するポリプロピレン系樹脂組成物a1を含んでいるにもかかわらず、表4に示す参考例、つまり、未使用のポリプロピレン系樹脂のみを用いて作製されたポリプロピレン系樹脂発泡粒子と同程度の良好な型内成形性を有している。
【0201】
一方、表4に示すように、比較例1の製造方法における樹脂粒子には樹脂Bが含まれておらず、樹脂組成物Aのみから構成されている。そのため、比較例1においては、嵩密度が60kg/m3以下であると共に、明確なシワがなく、発泡粒子の収縮がほとんど確認されない発泡粒子を得ることはできず、樹脂粒子を良好に発泡させることができなかった。また、成形可能範囲の評価において、種々の成形圧で得られた発泡粒子を型内成形したところ、いずれの成形圧においても良好な成形体を得ることはできなかった。
【0202】
また、比較例2の製造方法においては、樹脂Bの融点が前記特定の範囲よりも高いため、樹脂粒子を発泡させることができなかった。そのため、比較例2においては、嵩密度が60kg/m3以下であると共に、明確なシワがなく、発泡粒子の収縮がほとんど確認されない発泡粒子を得ることはできず、樹脂粒子を良好に発泡させることができなかった。また、成形可能範囲の評価において、種々の成形圧で得られた発泡粒子を型内成形したところ、いずれの成形圧においても良好な成形体を得ることはできなかった。
【0203】
以上、実施例に基づいて本発明に係る発泡粒子の製造方法及び発泡粒子用樹脂原料の具体的な態様を説明したが、本発明に係る発泡粒子の製造方法及び発泡粒子用樹脂原料の具体的な態様は実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。