(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058167
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】振動低減仮設構造並びにその構築方法及び撤去方法
(51)【国際特許分類】
E02D 31/08 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
E02D31/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165346
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 友己
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 泰
(72)【発明者】
【氏名】沼田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宮城 衛
(57)【要約】
【課題】部材を再利用可能に容易に撤去することができる振動低減仮設構造並びにその構築方法及び撤去方法を提供する。
【解決手段】振動低減仮設構造1は、地盤Gに設けられて所定方向に延在する受容溝9と、受容溝9内に埋設され、所定方向に延在し、内部に気体を保持した気体層保持部材3とを備える。気体層保持部材3は、気体の注入及び排出が可能であり、少なくとも受容溝9の幅方向に対して、気体を注入することにより膨らみ、気体を排出することにより萎む。気体層保持部材3から気体を排出することにより、気体層保持部材3を傷つけずに容易に受容溝9から抜き取ることができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を伝達する振動を低減するための振動低減仮設構造の構築方法であって、
前記地盤に所定方向に延在する掘削溝を掘削する掘削ステップと、
内部に気体を保持可能であり、前記気体の注入及び排出が可能であり、少なくとも前記掘削溝の幅方向に対して、前記気体を注入することにより膨らみ前記気体を排出することにより萎む気体層保持部材を、前記掘削溝内に配置する気体層保持部材配置ステップと、
前記気体層保持部材配置ステップの前及び/又は後に行われる、前記気体層保持部材に前記気体を注入する気体注入ステップと
を備える、構築方法。
【請求項2】
前記掘削ステップの後に行われる、前記掘削溝内に配置された前記気体層保持部材を前記幅方向から支持可能な支持体を、前記掘削溝内に設置する支持体設置ステップと、
前記気体層保持部材配置ステップ、前記気体注入ステップ及び前記支持体設置ステップの後に行われる、前記支持体を前記掘削溝内から取り除きながら、前記掘削溝と前記気体層保持部材との間の空間を埋め戻す埋め戻しステップとを更に備える、請求項1に記載の構築方法。
【請求項3】
前記気体注入ステップの少なくとも一部は、前記気体層保持部材配置ステップの後に行われ、前記気体層保持部材に前記気体を注入することによって、前記掘削溝の前記幅方向に互いに対向する1対の側面に前記気体層保持部材を密着させることを含む、請求項1に記載の構築方法。
【請求項4】
前記気体層保持部材は、前記所定方向に分割されて上下方向に延在する複数の分室を含む、請求項1に記載の構築方法。
【請求項5】
請求項1~3の何れか一項に記載された構築方法で構築された振動低減仮設構造の撤去方法であって、
前記気体層保持部材から前記気体を排出して、前記気体層保持部材を前記幅方向に萎ませるステップと、
前記気体層保持部材を前記掘削溝から取り出すステップと、
前記掘削溝内における前記気体層保持部材が受容されていた空間である受容溝を埋め戻すステップと
を備える、撤去方法。
【請求項6】
前記気体層保持部材は、上下方向に延在して、互いに前記所定方向に連結された複数のチューブ体であって、各々が、内部に前記気体を保持可能であり、前記気体の注入及び排出が可能であり、少なくとも前記幅方向に対して、前記気体を注入することにより膨らみ前記気体を排出することにより萎む、複数の該チューブ体を含む、請求項5に記載の撤去方法。
【請求項7】
前記気体層保持部材は、前記幅方向に2列以上に配置された前記チューブ体を含む、請求項6に記載の撤去方法。
【請求項8】
前記気体層保持部材は、内部にコア層を画成する袋状の内膜と、前記内膜を内部に収容して、前記内膜の外面との間に外周層を画成する袋状の外膜と、前記気体層保持部材の外部と前記コア層との間の前記気体の流通を許容する状態と規制する状態とを選択できる注入排出口と、前記コア層から前記外周層への前記気体の流通を許容する逆止弁を有する連通路と、前記外周層と外部との間の前記気体の流通を許容する状態と規制する状態とを選択できる排出口とを含み、
前記内膜は、前記気体が内部に充填された状態において、前記幅方向の長さが下方に向かうにつれて短くなるように構成され、
前記萎ませるステップは、前記注入排出口における前記気体の流通を規制した状態で、前記排出口における前記気体の流通を許容することにより行われる、請求項5に記載の撤去方法。
【請求項9】
地盤を伝達する振動を低減するための振動低減仮設構造であって、
前記地盤に設けられて所定方向に延在する受容溝と、
前記受容溝内に埋設され、前記所定方向に延在し、内部に気体を保持した気体層保持部材と
を備え、
前記気体層保持部材は、前記気体の注入及び排出が可能であり、少なくとも前記受容溝の幅方向に対して、前記気体を注入することにより膨らみ前記気体を排出することにより萎む、振動低減仮設構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を伝達する振動を低減するための振動低減仮設構造、並びにその構築方法及び撤去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤を伝達する振動対策として、加振側地盤と受振側地盤との間の地盤を掘削して空溝を形成し、この空溝によって振動を遮断することが知られている。空溝には、地崩れ対策として法面を設けると設置に必要な面積が大きくなるという問題や、人が転落するおそれがあるという問題があった。そこで、特許文献1及び2に記載の発明では、空溝の側面を垂直にして板状部材で保護することにより、地崩れを防止するとともに設置面積を小さくし、また、蓋部材を設けることにより、人の転落を防止している。また、特許文献3に記載の発明では、高剛性の壁体によって溝を形成して、溝内に壁体よりも柔軟な防振材を充填している。
【0003】
また、特許文献4~7には、空気層を有する部材を地盤中に埋設することによって振動の伝達を低減することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-125151号公報
【特許文献2】特開2021-152262号公報
【特許文献3】特開平9-291557号公報
【特許文献4】特開昭62-165042号公報
【特許文献5】特開平4-312607号公報
【特許文献6】特開2008-196251号公報
【特許文献7】特開2014-148823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の従来技術は、撤去が不要な、工場振動や交通振動のように比較的長期間発生する振動への対策構造として好適である。一方、建設工事振動のような比較的短期間に発生する振動への対策構造は、仮設構造として設置されて、振動発生工程の終了後に撤去が求められることが多い。特許文献1~3に記載の振動低減構造を撤去するには、板状部材や壁体を破壊する必要がある。また、特許文献4~7に記載の振動低減構造を撤去するために、周囲の地盤を掘削する必要があり、また、地盤の掘削中に重機によって空気層を有する部材を破損する可能性が高く、部材の再利用ができなかった。しかし、近年では、持続可能な開発のため、廃棄物を削減し、部材を再利用することが求められている。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、部材を再利用可能に容易に撤去することができる振動低減仮設構造並びにその構築方法及び撤去方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、地盤(G)を伝達する振動を低減するための振動低減仮設構造(1,21)の構築方法であって、前記地盤に所定方向に延在する掘削溝(2)を掘削する掘削ステップと、内部に気体を保持可能であり、前記気体の注入及び排出が可能であり、少なくとも前記掘削溝の幅方向に対して、前記気体を注入することにより膨らみ前記気体を排出することにより萎む気体層保持部材(3,11,13,22)を、前記掘削溝内に配置する気体層保持部材配置ステップと、前記気体層保持部材配置ステップの前及び/又は後に行われる、前記気体層保持部材に前記気体を注入する気体注入ステップとを備える。
【0008】
この態様によれば、気体層保持部材が空気を排出することによって萎むため、気体層保持部材と土砂との間に隙間ができ、気体層保持部材を再利用可能に容易に取り出すことができ、振動低減仮設構造の撤去が容易になる。
【0009】
上記の態様において、前記掘削ステップの後に行われる、前記掘削溝(2)内に配置された前記気体層保持部材(3,11,13)を前記幅方向から支持可能な支持体(8)を、前記掘削溝内に設置する支持体設置ステップと、前記気体層保持部材配置ステップ、前記気体注入ステップ及び前記支持体設置ステップの後に行われる、前記支持体を前記掘削溝内から取り除きながら、前記掘削溝と前記気体層保持部材との間の空間を埋め戻す埋め戻しステップとを更に備えても良い。
【0010】
この態様によれば、支持体によって気体層保持部材が支持されるため、気体層保持部材が倒れることによる埋め戻し作業の阻害を防止できる。
【0011】
上記の態様において、前記気体注入ステップの少なくとも一部は、前記気体層保持部材配置ステップの後に行われ、前記気体層保持部材(3,11,13,22)に前記気体を注入することによって、前記掘削溝(2)の前記幅方向に互いに対向する1対の側面に前記気体層保持部材を密着させることを含んでも良い。
【0012】
この態様によれば、振動低減仮設構造を構築するための埋め戻し作業が不要になるか、又は埋め戻し作業量が大幅に減るため、作業効率が向上する。また、気体層保持部材と掘削溝との間の摩擦力が増加し、雨水等による気体層保持部材の浮き上がりが抑制される。
【0013】
上記の態様において、前記気体層保持部材(13)は、前記所定方向に分割されて上下方向に延在する複数の分室(15)を含んでも良い。
【0014】
この態様によれば、気体層保持部材の内部が分割されているため、気体層保持部材に気体が注入された時に、気体層保持部材の厚さ方向の側面の中央がその周囲に比べて膨出することが抑制される。
【0015】
本発明のある態様は、上記の態様で構築された振動低減仮設構造(1,21)の撤去方法であって、前記気体層保持部材(3,11,13,22)から前記気体を排出して、前記気体層保持部材を前記幅方向に萎ませるステップと、前記気体層保持部材を前記掘削溝(2)から取り出すステップと、前記掘削溝内における前記気体層保持部材が受容されていた空間である受容溝(9)を埋め戻すステップとを備える。
【0016】
この態様によれば、気体層保持部材が空気を排出することによって萎むため、気体層保持部材と土砂との間に隙間ができ、気体層保持部材を再利用可能に容易に取り出すことができ、振動低減仮設構造を容易に撤去できる。
【0017】
上記の態様において、前記気体層保持部材(3)は、上下方向に延在して、互いに前記所定方向に連結された複数のチューブ体(5)であって、各々が、内部に前記気体を保持可能であり、前記気体の注入及び排出が可能であり、少なくとも前記幅方向に対して、前記気体を注入することにより膨らみ前記気体を排出することにより萎む、複数の該チューブ体を含む。
【0018】
この態様によれば、気体層保持部材が複数のチューブ体を含むことによって、気体層保持部材によって空溝の土圧を保持し、空気層を確保することで振動伝搬が抑制される。
【0019】
上記の態様において、前記気体層保持部材は、前記幅方向に2列以上に配置された前記チューブ体を含んでも良い。
【0020】
この態様によれば、一部のチューブ体から気体が排出されなくとも、これに隣接するチューブ体から気体が排出されることにより、気体層保持部材が掘削溝の幅方向に萎んで、気体層保持部材と土砂との間に隙間ができ、容易に気体層保持部材を取り出すことができる。
【0021】
上記の態様において、前記気体層保持部材(22)は、内部にコア層(23)を画成する袋状の内膜(24)と、前記内膜を内部に収容して、前記内膜の外面との間に外周層(25)を画成する袋状の外膜(26)と、前記気体層保持部材の外部と前記コア層との間の前記気体の流通を許容する状態と規制する状態とを選択できる注入排出口(27)と、前記コア層から前記外周層への前記気体の流通を許容する逆止弁(30)を有する連通路(28)と、前記外周層と外部との間の前記気体の流通を許容する状態と規制する状態とを選択できる排出口(29)とを含み、前記内膜は、前記気体が内部に充填された状態において、前記幅方向の長さが下方に向かうにつれて短くなるように構成され、前記萎ませるステップは、前記注入排出口における前記気体の流通を規制した状態で、前記排出口における前記気体の流通を許容することにより行われても良い。
【0022】
この態様によれば、気体層保持部材を掘削溝から取り出す時に、気体層保持部材が下方に向かうにつれて幅方向の長さが短くなる形状となるため、気体層保持部材の取り出しが容易になる。
【0023】
本発明のある態様は、地盤(G)を伝達する振動を低減するための振動低減仮設構造(1,21)であって、前記地盤に設けられて所定方向に延在する受容溝(9)と、前記受容溝内に埋設され、前記所定方向に延在し、内部に気体を保持した気体層保持部材(3,11,13,22)とを備え、前記気体層保持部材は、前記気体の注入及び排出が可能であり、少なくとも前記受容溝の幅方向に対して、前記気体を注入することにより膨らみ前記気体を排出することにより萎む。
【0024】
この態様によれば、気体層保持部材が空気を排出することによって萎むため、気体層保持部材と受容溝との間に隙間ができ、気体層保持部材を再利用可能に容易に取り出すことができ、振動低減仮設構造の撤去が容易になる。
【発明の効果】
【0025】
以上の態様によれば、部材を再利用可能に容易に撤去することができる振動低減仮設構造並びにその構築方法及び撤去方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1実施形態に係る気体層保持部材を示す斜視図
【
図2】第1実施形態に係る振動低減仮設構造の構築方法を示す断面図
【
図3】第1実施形態に係る振動低減仮設構造の構築方法を示す断面図
【
図4】第1実施形態に係る振動低減仮設構造の構築方法を示す断面図
【
図5】第1実施形態に係る振動低減仮設構造の構築方法を示す断面図
【
図6】第1実施形態に係る振動低減仮設構造の撤去方法を示す断面図
【
図7】第1実施形態に係る振動低減仮設構造の撤去方法を示す断面図
【
図8】第1実施形態の第1変形例に係る気体層保持部材を示す斜視図
【
図9】第1実施形態の第2変形例に係る気体層保持部材を示す斜視図
【
図10】第2実施形態に係る振動低減仮設構造の構築方法を示す断面図
【
図11】第2実施形態に係る振動低減仮設構造の構築方法を示す断面図
【
図12】第2実施形態に係る振動低減仮設構造の構築方法を示す断面図
【
図13】第2実施形態に係る振動低減仮設構造の撤去方法を示す断面図
【
図14】第2実施形態に係る振動低減仮設構造の撤去方法を示す断面図
【
図15】第2実施形態に係る振動低減仮設構造の撤去方法を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。まず、
図1~
図7を参照して、第1実施形態に係る振動低減仮設構造1を説明する。
【0028】
図5は、地盤Gに設けられた振動低減仮設構造1を示す縦断面図である。
図5に示すように、振動低減仮設構造1は、地盤Gに設けられた掘削溝2と、掘削溝2内に配置された気体層保持部材3と、掘削溝2内に埋め戻された土砂等の埋め戻し部4とを備える。
【0029】
図1は、気体層保持部材3を示す斜視図である。
図1に示すように、気体層保持部材3は、上下方向に延在する複数のチューブ体5と、各々のチューブ体5に連通する注入排出口6とを含む。
【0030】
各々のチューブ体5は、可撓性を有する樹脂等を素材とする外膜を含み、外膜内に空気等の気体が注入されることにより膨らみ、気体が排出されることにより萎む。複数のチューブ体5は、気体層保持部材3の厚さ方向に2列で、気体層保持部材3の長さ方向に互いに連結される。なお、複数のチューブ体5は、気体層保持部材3の厚さ方向に1列で配置されても良く、3列以上で配置されても良い。
【0031】
注入排出口6は、各々のチューブ体5に対して気体を注入及び排出するためのものである。注入排出口6は、気体の流通を許容する状態と、気体の流通を規制する状態とを選択できる弁7を有する。注入排出口6が弁7を有することに代えて、注入排出口6を選択的に塞ぐことができる栓(図示せず)が設けられても良い。気体層保持部材3は、全てのチューブ体5に連通する1つの注入排出口6を有しても良く、各々のチューブ体5に対して1つずつ注入排出口6を有しても良く、チューブ体5が複数のブロックに分けられて各ブロックに1つずつ、そのブロックに属する全てのチューブ体5に連通する注入排出口6を有しても良い。
【0032】
気体層保持部材3は、複数のチューブ体5に気体を注入することによって少なくとも厚さ方向に膨らみ、複数のチューブ体5から気体を排出することによって少なくとも厚さ方向に萎む。気体層保持部材3は、気体が充填された状態において、上下方向長さが掘削溝2の深さ以上になるように構成されている。気体層保持部材3は、チューブ体5に気体が十分に注入されていない状態で自立できるように、気体が十分に注入されていない状態のチューブ体5よりも高い剛性を有して、上下方向に延在する長尺部材(図示せず)、又は上下方向及び掘削溝2(
図5参照)の延在方向に延在する板状若しくは枠状部材(図示せず)を更に含んでも良い。
【0033】
図2~
図7を参照して、振動低減仮設構造1の構築方法及び撤去方法を説明する。
図2~
図5は、振動低減仮設構造1の構築方法を示し、
図6及び
図7は、振動低減仮設構造1の撤去方法を示す。
図2~
図7は、上下方向及び掘削溝2の幅方向に平行な断面を示す。
【0034】
作業員は、
図2に示すように、バックホウ等の重機(図示せず)を用いて、地盤Gにおける工事現場等の振動を発生させる加振側地盤と振動の伝達を低減したい受振側地盤との間の部分を掘削して、所定方向に延在する掘削溝2を形成する。所定方向は、直線状であってもよく、湾曲していても良い。掘削溝2における幅方向に対向する1対の側面は、鉛直方向に平行であることが好ましい。
【0035】
次に、作業員は、
図3に示すように、チューブ体5が上下方向に延在し、気体層保持部材3の厚さ方向が掘削溝2の幅方向に一致し、気体層保持部材3の長さ方向が掘削溝2の延在方向に一致するように、萎んだ状態の気体層保持部材3を掘削溝2内に配置する。気体層保持部材3は、下端において掘削溝2の底面に当接する。
【0036】
次に、作業員は、
図4に示すように、気体層保持部材3の各々のチューブ体5に気体を注入し、気体層保持部材3を掘削溝2の幅方向に膨らませ、掘削溝2内に気体層保持部材3を掘削溝2の幅方向から支持する支持体8を設置する。支持体8は、上下方向に延在する1又は複数の長尺材であり、下端部において掘削溝2の底部に突き刺さり、上端部において気体層保持部材3の上端よりも上方に突出している。気体層保持部材3は、掘削溝2の一方の側面と支持体8とに挟持される。
【0037】
なお、気体層保持部材3の各々のチューブ体5への気体の注入の全部又は一部は、気体層保持部材3の掘削溝2内への配置の前に行われても良い。また、支持体8の設置は、気体層保持部材3の掘削溝2内への配置の前に行われても良く、この場合、気体層保持部材3への気体の注入の少なくとも一部は、支持体8の設置後に行われると良い。
【0038】
次に、作業員は、支持体8を抜きながら、バックホウ等の重機(図示せず)を用いて、気体層保持部材3と掘削溝2の他方の側面との間を土砂等で埋め戻し、
図5に示すように、掘削溝2内の空隙を埋める埋め戻し部4を形成する。このようにして、振動低減仮設構造1が構築される。以下、掘削溝2内において、地盤Gと埋め戻し部4とによって画成される空間、すなわち、掘削溝2内における気体層保持部材3が受容されている部分を、受容溝9と記す。
【0039】
工事における大きな振動が発生する工程の終了後、作業員は、
図6に示すように、気体層保持部材3の各々のチューブ体5から気体を排出して、気体層保持部材3を少なくとも掘削溝2の幅方向に萎ませ、受容溝9から気体層保持部材3を取り出す。
【0040】
次に、作業員は、
図7に示すように、バックホウ等の重機(図示せず)を用いて、受容溝9を土砂等で埋め戻し、受容溝9を埋める撤去後埋め戻し部10を形成する。このようにして、振動低減仮設構造1(
図5参照)が撤去される。
【0041】
図1~
図7を参照して、振動低減仮設構造1の作用効果について説明する。
【0042】
気体層保持部材3が気体を内部に含むため、加振側地盤から受振側地盤への振動の伝達が振動低減仮設構造1によって低減される。
【0043】
振動低減仮設構造1の設置スペースを狭くするため掘削溝2の幅方向に対向する1対の側面を鉛直方向に平行にしても、掘削後すぐに、気体層保持部材3及び埋め戻し部4によって掘削溝2を埋めることができるため、掘削溝2を画成する地盤Gの地崩れが生じ難く、掘削溝2内に形成された空気層が保持される。
【0044】
気体層保持部材3の内部から気体を排出することにより、気体層保持部材3が萎み、受容溝9の幅方向の側面と気体層保持部材3との間に隙間ができるため、気体層保持部材3を傷つけずに容易に受容溝9から取り出すことができ、気体層保持部材3の再利用が可能となる。
【0045】
気体層保持部材3が上下方向及び掘削溝2の延在方向に拡がる板形状であれば、気体が注入された気体層保持部材3の一部が、土圧によってつぶれ、その部分で振動が伝達するおそれが生じるが、気体層保持部材3が複数のチューブ体5を含むため、そのようなおそれが低減される。
【0046】
チューブ体5が上下方向に延在するため、水平方向に延在する場合に比べて、土圧によって気体の排出が阻害されるおそれが小さい。また、チューブ体5が、掘削溝2の幅方向に2列以上に配置されている場合は、一部のチューブ体5から気体が排出されない場合でも、そのチューブ体5に幅方向に隣接するチューブ体5から気体が排出されれば、受容溝9の幅方向の側面と気体層保持部材3との間に隙間ができるため、気体層保持部材3を傷つけずに容易に受容溝9から取り出すことができる。
【0047】
掘削溝2内に配置された気体層保持部材3が支持体8によって支持されるため、気体層保持部材3が倒れることによって埋め戻し作業が阻害されることを防止できる。
【0048】
図8は、第1実施形態の第1変形例に係る気体層保持部材11を示す。気体層保持部材11のその形状が、上記の気体層保持部材3と相違し、空気等の気体を注排出可能である点は、上述の気体層保持部材3と一致する。
図8に示すように、気体層保持部材11は、掘削溝2(
図5参照)の幅方向に厚さを有し、上下方向及び掘削溝2の延在方向に拡がる板状の袋体を含む。気体層保持部材11の少なくとも一方の厚さ方向を向いた表面は、土圧が1箇所に集中することを緩和するため、また、地盤Gとの摩擦力を増加させて雨水等による浮力に抵抗するため、複数の凹部12を有することが好ましい。
【0049】
図9は、第1実施形態の第2変形例に係る気体層保持部材13を示す。気体層保持部材13は、掘削溝2(
図5参照)の幅方向に厚さを有し、上下方向及び掘削溝2の延在方向に拡がる板状状を呈する。気体層保持部材13内は、仕切り膜14によって複数の分室15に区画されている。仕切り膜14は、気体層保持部材13の外膜における上部及び下部の裏面、並びに、厚さ方向の側部の裏面に連結しており、複数の分室15は、掘削溝2の延在方向に互いに隣接する。気体層保持部材13は、注入排出口6を介して各分室15に対して気体の注排出が可能に構成されている。複数の分室15が設けられることによって、気体が気体層保持部材13に充填された時、板形状の気体層保持部材13の厚さ方向の側面の中央が、その周囲に比べて膨出することが抑制される。このため、掘削溝2内に気体層保持部材13を配置する前に、気体層保持部材13内に気体を注入する場合に、気体層保持部材13は好適である。
【0050】
図10~
図15を参照して、第2実施形態に係る振動低減仮設構造21を説明する。説明に当たって、第1実施形態と同様の構成については、第1実施形態と同じ符号を付し、説明を省略する。
【0051】
図12に示すように、第2実施形態に係る振動低減仮設構造21は、地盤Gに設けられた掘削溝2と、掘削溝2内に配置された気体層保持部材22とを備える。気体層保持部材22は、掘削溝2の幅方向に厚さを有し、上下方向及び掘削溝2の延在方向に拡がる板形状を呈する。気体層保持部材22は、内部にコア層23を画成する袋状の内膜24と、内膜24を内部に収容して、内膜24の外面との間に外周層25を画成する袋状の外膜26と、気体層保持部材22の外部とコア層23とを連通させる注入排出口27と、コア層23と外周層25とを連通させる連通路28と、外周層25と気体層保持部材22の外部とを連通させる排出口29とを含む。
【0052】
袋形状の内膜24及び外膜26は、可能性を有する樹脂等を素材とし、少なくとも厚さ方向に対して、内部に空気等の気体が注入されることにより膨らみ、気体が排出されることにより萎む。外膜26は、気体層保持部材22の外形の主要部を画定し、気体が充填された状態で概ね厚さ方向に扁平な直方体形状を呈する。外膜26の厚さは、拘束されていない状態で気体が充填された時、掘削溝2の幅より厚くなることが好ましい。気体が充填された状態における外膜26の上下方向長さは、掘削溝2の深さ以上である。内膜24は、気体が充填された状態において、気体が充填された状態の外膜26よりも小さな外形を有する板形状を呈し、その上面においては掘削溝2の幅よりも小さい厚さを有し、下方に向かうにつれてその厚さが小さくなっている。
【0053】
注入排出口27は、コア層23に対して空気等の気体を注入及び排出するためのものである。排出口29は、外周層25から気体を排出するためのものである。注入排出口27及び排出口29は、気体の流通を許容する状態と、気体の流通を規制する状態とを選択できる弁7を有する。弁7に代えて、注入排出口27及び排出口29に栓(図示せず)が設けられても良い。連通路28は、コア層23から外周層25への気体の流出を許容するが、その逆方向への気体の流れを規制する逆止弁30を有する。従って、注入排出口27から気体が注入されることにより、コア層23及び外周層25に気体が充填され、排出口29から気体を排出することにより、外周層25及びコア層23から気体が排出される。なお、注入排出口27からもコア層23の気体は排出可能である。
【0054】
図10~
図15を参照して、振動低減仮設構造21の構築方法及び撤去方法を説明する。
図10~
図12は、振動低減仮設構造21の構築方法を示し、
図13~
図15は、振動低減仮設構造21の撤去方法を示す。
図10~
図15は、上下方向及び掘削溝2の幅方向に平行な断面を示す。
【0055】
まず、作業員は、第1実施形態と同様に地盤Gを掘削して、掘削溝2を形成する。次に作業員は、
図10に示すように、注入排出口27及び排出口29が上部に位置し、長さ方向が掘削溝2の延在方向に一致し、厚さ方向が掘削溝2の幅方向に一致するように、萎んだ状態の気体層保持部材22を掘削溝2内に配置する。気体層保持部材22は、下端において掘削溝2の底面に当接する。
【0056】
次に、作業員は、
図11に示すように、排出口29の弁7が閉じた状態で、注入排出口27から空気等の気体を内膜24内に注入する。内膜24内に注入された気体の一部が内膜24内に留まってコア層23を形成し、その残部が連通路28を通って内膜24と外膜26との間に注入され外周層25を形成する。気体の注入排出口27からの注入は、
図12に示すように、気体層保持部材22が掘削溝2の深さ方向及び幅方向の略全体に拡がったと推定できるまで行われる。気体の注入の完了の時宜は、例えば、注入排出口27及び排出口29の圧力によって管理される。この時、コア層23及び外周層25の圧力は大気圧より大きく、この圧力をもって気体層保持部材22が掘削溝2の側面に当接する。気体の注入排出口27からの注入の終了後、作業員は、注入排出口27の弁7を閉じる。このようにして、振動低減仮設構造21が構築される。注入排出口27からの気体の注入の一部が、気体層保持部材22の掘削溝2への配置の前に行われても良い。第2実施形態では、掘削溝2が受容溝9でもある。
【0057】
工事における大きな振動が発生する工程の終了後、作業員は、
図13に示すように、排出口29の弁7を開き、外周層25から気体を排出する。この時、コア層23と外周層25との圧力差によってコア層23の気体が連通路28を介して外周層25に流れるが、コア層23の圧力が大気圧近くまで下がった後は、気体のコア層23から外周層25への気体が流れにくくなる。このため、内膜24は、大きくは萎まずに下方に向かうにつれて厚さ方向に細くなる形状が概ね維持され、外膜26が内膜24に比べて大きく萎む。気体層保持部材22は全体としては、その形状が概ね維持された内膜24に沿った形状に萎み、掘削溝2の側面から離間する。
【0058】
次に、作業員は、
図14に示すように、掘削溝2から気体層保持部材22を取り出す。取り出した気体層保持部材22は、運搬及び保管が容易になるように、注入排出口27の弁7を開いてコア層23から気体を排出することにより、萎ませても良い。
【0059】
次に、作業員は、
図15に示すように、バックホウ等の重機(図示せず)を用いて、掘削溝2(受容溝9)を土砂等で埋め戻して撤去後埋め戻し部31を形成する。このようにして、振動低減仮設構造21(
図12参照)が撤去される。
【0060】
図10~
図15を参照して、振動低減仮設構造21の作用効果について説明する。
【0061】
第2実施形態に係る振動低減仮設構造21は、第1実施形態と同様に、加振側地盤から受振側地盤への振動の伝達を低減し、振動低減仮設構造21の構築時の掘削溝2の地崩れを生じ難くし、撤去後の気体層保持部材22を再利用可能とする。
【0062】
コア層23と外周層25との間に逆止弁30を有する連通路28があるため、コア層23に連通する注入排出口27から気体が注入されることにより、コア層23だけでなく外周層25にも気体が充填される。
【0063】
気体層保持部材22が掘削溝2の互いに対向する1対の側面の双方に当接するまで膨張するため、振動低減仮設構造21の構築時に、第1実施形態の埋め戻し部4(
図5参照)に相当する部分がなく、埋め戻し部4への土砂の充填及び締固めが不要になる。また、気体層保持部材22の膨張圧が掘削溝2の幅方向の側面に加わるため、気体層保持部材22の厚さ方向の側面と掘削溝2の幅方向の側面との摩擦力が大きくなり、雨水等による気体層保持部材22の浮き上がりが抑制される。
【0064】
気体層保持部材22が、掘削溝2からの取り出し時に、下方に向かうほど厚さが薄くなる形状をなすため、撤去時の気体層保持部材22の取り出しが容易となる。すなわち、掘削溝2の幅方向の側面は、上部ほど気体層保持部材22の厚さ方向の側面に近接するため崩れにくく、仮に崩れたとしても、下方に向かうほど気体層保持部材22の厚さが薄くなるため、崩れた土砂が気体層保持部材22の厚さ方向の側面と掘削溝2の幅方向の側面との間に詰まらずに下方に落下し易く、土砂の詰まりによる気体層保持部材22と掘削溝2との間の摩擦力の増加が抑制される。
【実施例0065】
第1実施形態の振動低減仮設構造1と空溝との効果を比較した。幅0.8m、深さ1.2m、長さ10mの縦断面視で矩形の掘削溝2に、空気の注入した状態で幅0.1mの気体層保持部材3を配置して、掘削溝2を埋め戻し、振動低減仮設構造1を構築した。また、幅0.8m、深さ1.2m、長さ10mの縦断面視で矩形の空溝を構築した。
【0066】
バックホウの走行振動に対する、対策を行っていない地盤Gと、振動低減仮設構造1及び空溝とが設けられた地盤Gとの振動を測定し、幅方向、長さ方向及び鉛直方向について、振動レベルの算出と1/3オクターブバンド分析とを行った。
【0067】
振動低減仮設構造1と空溝との振動レベルの低減効果は、鉛直方向で、何れも約8dBと同等であり、また、効果の卓越周波数も31.5Hzで同様であった。このことから、振動低減仮設構造1が、空溝と同様の振動低減効果を有することが確認された。
【0068】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。第1実施形態において気体層保持部材3,11,13が、掘削溝2内で自立するように剛性の高い長尺材、板状部材又は枠状部材等を含む場合には、支持体8の設置を省略しても良い。第1実施形態において気体層保持部材3,11,13への気体の注入の全部又は一部を、気体層保持部材3,11,13の掘削溝2への配置後に行い、気体層保持部材3,11への気体の注入によって、気体層保持部材3,11を掘削溝2の幅方向の1対の側面に密着させ、支持体8の設置及び撤去を省略しても良い。この場合、受容溝9が掘削溝2に一致し、埋め戻し部4を形成するための埋め戻し作業が不要となるか、作業量が大幅に減るため、作業効率が向上する。第2実施形態において、支持体8が設置されて埋め戻し部4が設けられても良く、この場合、気体層保持部材22の掘削溝2への配置の前に、気体層保持部材22に気体の全部が注入されても良い。第2実施形態に、第1実施形態の第1変形例又は第2変形例が組み合わされても良い。