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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058660
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】遠位スタビライザ
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/01 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
A61M25/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023177860
(22)【出願日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2022165642
(32)【優先日】2022-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】521038773
【氏名又は名称】株式会社Bolt Medical
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 直希
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA42
4C267AA45
4C267AA47
4C267AA53
4C267AA54
4C267AA56
4C267BB26
4C267CC08
4C267CC10
4C267CC12
4C267HH18
(57)【要約】
【課題】アンカーデバイスとして大径のカテーテルをデリバリするために必要な血管壁との摩擦力を備え、且つ、小径のカテーテルに縮径して挿入した場合の摺動性にも優れた遠位スタビライザを提供すること。
【解決手段】生体管腔中でのカテーテルデリバリに用いられる遠位スタビライザ1であって、線状デリバリ部材3と、線状デリバリ部材3の遠位端から延び、生体管腔の内壁に係止される円筒形状部2とを備え、円筒形状部2は、ワイヤ状部材で囲まれた形状のセル20が長軸方向に沿って並んだ構造を有し、円筒形状部2の拡径状態における表面積は、長軸方向の寸法及び径方向の寸法が同一の仮想円筒の表面積に対して、5%以上20%以下であり、外径1.5mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力が0.015N/mm以上0.06N/mm以下、外径0.42mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力が0.1N/mm以上0.3N/mm以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔中でのカテーテルデリバリに用いられる遠位スタビライザであって、
線状デリバリ部材と、
前記線状デリバリ部材の遠位端から延び、生体管腔の内壁に係止される円筒形状部と、を備え、
前記円筒形状部は、ワイヤ状部材で囲まれた形状のセルが長軸方向に沿って並んだ構造を有し、
前記円筒形状部の拡径状態における表面積は、長軸方向の寸法及び径方向の寸法が同一の仮想円筒の表面積に対して、5%以上20%以下であり、
外径1.5mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力が0.015N/mm以上0.06N/mm以下、外径0.42mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力が0.1N/mm以上0.3N/mm以下である、遠位スタビライザ。
【請求項2】
前記円筒形状部は、下記の測定条件で測定した引張荷重が1.5N以下である、請求項1に記載の遠位スタビライザ。
使用機器:マイクロカテーテル:SL10(Excelsior Stryker社製)
デジタルフォースゲージ(プッシュプルゲージ)
引き込み装置
恒温槽
サーモメーター
試験条件:
スピード:100mm/min
引張距離:有効長+10mm
試験温度:37±2℃
試験方法:
恒温槽の温度が37±2℃であることをサーモメーターで確認する、
マイクロカテーテルを、37±2℃に保った人体の血管を解剖学的に模したモデルにおける脳血管の位置に先端があるように設置する、
円筒形状部の全体がマイクロカテーテルに収まるまでマイクロカテーテルの手元側から円筒形状部を挿入し、脳血管に円筒形状部を設置する、
引き込み装置に設置したデジタルフォースゲージと円筒形状部の手元側とを接続する、
マイクロカテーテルの手元側を直線状にした状態でマイクロカテーテルを固定し、引き込み装置により一定の規定スピードで円筒形状部を手元方向に引っ張る、
円筒形状部を有効長+10mmだけ引っ張ったときにデジタルフォースゲージで測定される引張荷重の最大値を記録する。
【請求項3】
前記円筒形状部は、クローズセル部分のみを有するセル、オープンセル部分のみを有するセル又はクローズセル部分及びオープンセル部分を有するセルにより構成される、請求項1又は2に記載の遠位スタビライザ。
【請求項4】
前記円筒形状部は、内径が0.017インチ以下のカテーテルに内挿して用いられる、請求項1又は2に記載の遠位スタビライザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーデバイスとして生体管腔内に係止される遠位スタビライザに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の動脈等の生体管腔中において、遠位端が標的位置の近傍まで誘導されたカテーテルの内腔を利用して、治療デバイスを標的位置にデリバリすることにより、治療デバイスによる治療やカテーテル自体を治療デバイスとして使用する治療が行われている。例えば、特許文献1には、デリバリワイヤの遠位端にアンカー用の係止ステントが接合された遠位スタビライザ(アンカーデバイス)が開示されている。この係止ステントをマイクロカテーテルから解放して拡張させると、生体管腔中の内壁に係止ステントがアンカリングされるため、マイクロカテーテルに外挿した目的カテーテルを標的位置の近傍へデリバリすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許968221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
頭蓋内の前大脳動脈(ACA)、前交通動脈(Acom)、中大脳動脈(MCA)等の血管は、動脈瘤が形成されやすい部位として知られている。これらの血管は、径が細く屈曲していることから、大径のカテーテルの送達が困難であるため、動脈瘤の近くには、内径0.0165インチ(約0.42mm)程度の小径のカテーテルしか送達できない場合が多い。一方、動脈瘤の治療デバイスとして、動脈瘤用ステントやフローダイバータが用いられているが、これらの治療デバイスを標的位置の近傍にデリバリするには、内径0.021インチ(約0.53mm)、内径0.027インチ(約0.69mm)程度の大径のカテーテルを用いる必要がある。
【0005】
上記治療デバイスを径の細い血管の動脈瘤に向けてデリバリする際、大径のカテーテルでは、一般的な手法であるガイドワイヤによる送達が困難若しくは不可能なため、アンカーデバイスとして係止ステント(遠位スタビライザ)を用いる必要がある。そのために、まず小径のカテーテルを動脈瘤の遠位側に送達して、係止ステントを動脈瘤の遠位側にアンカリングする。その際、小径のカテーテルに係止ステント(遠位スタビライザ)を内挿する必要がある。一方、係止ステントにおいて、大径のカテーテルをデリバリするために必要な血管壁との摩擦力を得るために拡張力を高めると、血管壁へのダメージだけでなく、カテーテルの内壁との摺動性が悪くなりやすいことが懸念される。また、血管壁との摩擦力を高めるために、係止ステントのメッシュ密度を高める必要がある。しかし、メッシュ密度の大きな係止ステントを、小径のカテーテルに内挿すると、係止ステントを構成するワイヤ(ストラット)同士が重なり合うことにより、係止ステントの径が嵩むため、カテーテルの内壁との摺動性が悪くなりやすい。これらの現象は、例えば、血管壁への愛護性の高いオープンセル構造を有する係止ステントにおいて、特に重大である。
【0006】
本発明の目的は、アンカーデバイスとして大径のカテーテルをデリバリするために必要な血管壁との摩擦力を備え、且つ、小径のカテーテルに縮径して挿入した場合の摺動性にも優れた遠位スタビライザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生体管腔中でのカテーテルデリバリに用いられる遠位スタビライザであって、線状デリバリ部材と、前記線状デリバリ部材の遠位端から延び、生体管腔の内壁に係止される円筒形状部(例えば、後述する係止ステント)と、を備え、前記円筒形状部は、ワイヤ状部材で囲まれた形状のセルが長軸方向に沿って並んだ構造を有し、前記円筒形状部の拡径状態における表面積は、長軸方向の寸法及び径方向の寸法が同一の仮想円筒の表面積に対して、5%以上20%以下であり、外径1.5mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力が0.015N/mm以上0.06N/mm以下、外径0.42mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力が0.1N/mm以上0.3N/mm以下である遠位スタビライザに関する。
【0008】
前記遠位スタビライザにおいて、前記円筒形状部は、下記の測定条件で測定した引張荷重が1.5N以下としてもよい。
使用機器:マイクロカテーテル:SL10(Excelsior Stryker社製)
デジタルフォースゲージ(プッシュプルゲージ)
引き込み装置
恒温槽
サーモメーター
試験条件:
スピード:100mm/min
引張距離:有効長+10mm
試験温度:37±2℃
試験方法:
恒温槽の温度が37±2℃であることをサーモメーターで確認する、
マイクロカテーテルを、37±2℃に保った人体の血管を解剖学的に模したモデルにおける脳血管の位置に先端があるように設置する、
円筒形状部の全体がマイクロカテーテルに収まるまでマイクロカテーテルの手元側から円筒形状部を挿入し、脳血管に円筒形状部を設置する、
引き込み装置に設置したデジタルフォースゲージと円筒形状部の手元側とを接続する、
マイクロカテーテルの手元側を直線状にした状態でマイクロカテーテルを固定し、引き込み装置により一定の規定スピードで円筒形状部を手元方向に引っ張る、
円筒形状部を有効長+10mmだけ引っ張ったときにデジタルフォースゲージで測定される引張荷重の最大値を記録する。
【0009】
前記遠位スタビライザにおいて、前記円筒形状部は、クローズセル部分のみを有するセル、オープンセル部分のみを有するセル又はクローズセル部分及びオープンセル部分を有するセルにより構成されてもよい。
【0010】
遠位スタビライザにおいて、前記円筒形状部は、内径が0.017インチ以下のカテーテルに内挿して用いられてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アンカーデバイスとして大径のカテーテルをデリバリするために必要な血管壁との摩擦力を備え、且つ、小径のカテーテルに縮径して挿入した場合の摺動性にも優れた遠位スタビライザを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る遠位スタビライザ1を備えるデリバリシステム10の全体構成を示す図である。
図2】係止ステント2を仮想的に平面に展開した状態を示す展開図である。
図3A図2に示す領域Aの拡大図である。
図3B図2に示す領域Aの他の実施形態を示す拡大図である。
図4】遠位スタビライザ1を含むデリバリシステム10による施術の一例を示す模式図である。
図5】遠位スタビライザ1を含むデリバリシステム10による施術の一例を示す模式図である。
図6】遠位スタビライザ1を含むデリバリシステム10による施術の一例を示す模式図である。
図7】遠位スタビライザ1を含むデリバリシステム10による施術の一例を示す模式図である。
図8】遠位スタビライザ1を含むデリバリシステム10による施術の一例を示す模式図である。
図9】遠位スタビライザ1を含むデリバリシステム10による施術の一例を示す模式図である。
図10】遠位スタビライザ1を含むデリバリシステム10による施術の一例を示す模式図である。
図11】遠位スタビライザ1を含むデリバリシステム10による施術の一例を示す模式図である。
図12】クローズセル構造の係止ステント2Aを仮想的に平面に展開した状態を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る遠位スタビライザの実施形態について説明する。なお、本明細書に添付した図面は、いずれも模式図であり、理解しやすさ等を考慮して、各部の形状、縮尺、縦横の寸法比等を、実物から変更又は誇張している。例えば、カテーテル等の長手方向を短くし、径方向を長く(大きく)図示している。本明細書等において、形状、幾何学的条件、これらの程度を特定する用語、例えば、「方向」、「直交」等の用語については、その用語の厳密な意味に加えて、概ねその方向とみなせる範囲、概ね直交するとみなせる範囲を含む。また、本明細書では、遠位スタビライザ1を直線状に延ばした状態での長軸方向を「軸方向LD」又は単に「軸方向」ともいう。そして、長軸方向LDにおいて、施術者に近い近位側を「D1」、施術者から離れた遠位側を「D2」として説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係る遠位スタビライザ1を備えるデリバリシステム10の全体構成を示す図である。図2は、係止ステント2を仮想的に平面に展開した状態を示す展開図である。図3Aは、図2に示す領域Aの拡大図である。図3Bは、図2に示す領域Aの他の実施形態を示す拡大図である。図2図3A及び図3Bは、係止ステント2の自然状態(後述)における展開図である。
【0015】
図1に示すデリバリシステム10は、例えば、頭蓋内の前大脳動脈(ACA)、前交通動脈(Acom)、中大脳動脈(MCA)等の生体管腔の血管における治療デバイスのデリバリに用いることができる。なお、デリバリシステム10が用いられる生体管腔の血管は、上記例に限定されない。生体管腔の血管は、例えば、脳の他、冠状、上下肢体の血管(動脈、静脈)、臓器等であってもよい。以下の説明では、生体管腔を「血管」ともいう。
【0016】
図1に示すように、デリバリシステム10は、遠位スタビライザ1と、第1カテーテル5及び第2カテーテル6を含む複数のカテーテルと、を備える。第1カテーテル5は、例えば、マイクロカテーテルと呼ばれるカテーテルである。第1カテーテル5には、第2カテーテル6が外挿される。第2カテーテル6は、大径のカテーテルである。第1カテーテル5の径は、第2カテーテル6をデリバリする標的位置及びそこに至る経路の生体管腔の内径や屈曲度に応じて設定され、特に限定されないが、第1カテーテル5の内径は、好ましくは0.017インチ以下、より好ましくは0.0165インチ以下である。カテーテルとしては、必要に応じて、第2カテーテル6に外挿される更に他の1又は複数のカテーテル(不図示)が用いられてもよい。一般的に、多くの数のカテーテルを用いることで、最終的に、内径の大きいカテーテルを生体管腔内に挿入し、前進させることができる。
【0017】
遠位スタビライザ1は、生体管腔中でのカテーテルデリバリに用いられるデバイスである。遠位スタビライザ1は、係止ステント(円筒形状部)2と、デリバリワイヤ(線状デリバリ部材)3と、を備える。
係止ステント2は、縮径された状態で第1カテーテル5に挿入され、血管内で第1カテーテル5から解放されて拡張することにより、生体管腔の内壁に係止されるアンカーデバイスである。係止ステント2は、デリバリワイヤ3の遠位端から延びるように連結されている。図1に示すように、係止ステント2は、本体部11と、アンテナ部12と、を備える。本体部11は、円筒形状に構成され、後述するメッシュパターンを有する。図1では、本体部11の構成を簡略化して描いている。アンテナ部12は、本体部11の近位側D1をデリバリワイヤ3へ収束する部分である。
【0018】
図2に示すように、係止ステント2の遠位側D2の端部には、遠位マーカー13が設けられている。係止ステント2の近位側D1の端部には、近位マーカー14が設けられている。各マーカーは、X線不透過の材料により構成されている。遠位マーカー13は、係止ステント2の遠位側D2の端部の位置を確認するための目印となる部分である。近位マーカー14は、係止ステント2の近位側D1の端部の位置を確認するための目印となる部分である。
【0019】
本体部11は、複数のセル20が係止ステント2の長軸方向LDに沿って並んだ構造を有する。本実施形態において、本体部11は、後述するオープンセル部分21及びクローズセル部分24を含む複数のセル20が、係止ステント2の長軸方向LDに対して螺旋状に配列したメッシュパターンを有する。本明細書では、係止ステントにおいて、一部のセルがオープンセル部分21を有する構造又はすべてのセルがオープンセル部分21を有する構造を総称して「オープンセル構造」ともいう。図2に示すように、複数のセル20は、長軸方向LDに対して傾斜するセルの配列方向(セルの設計上の配列方向)SDに沿って螺旋状に配列している。本実施形態において、セルの配列方向SDは、図2に示すように、係止ステント2の遠位側D2から近位側D1に向けて斜め左上がり方向に傾斜しているが、これに限定されない。セルの配列方向SDは、係止ステント2の遠位側D2から近位側D1に向けて斜め右がり方向(図2とは反転した方向)に傾斜していてもよい。「セルの配列方向SDに沿って」とは、セルの配列方向SDに平行又は略平行であることをいう。「略平行」とは、例えば、セル20の配列方向がセルの配列方向SDと交差する角度が1~15°程度の範囲をいう。係止ステント2において、長軸方向LDとセルの配列方向SDとが交差する角度は、45°未満であることが望ましい。
【0020】
本体部11は、アンカーデバイスとして大径のカテーテル(例えば、第2カテーテル6)をデリバリするために必要な血管壁との摩擦力が得られるように表面積が設定される。具体的には、本体部11の拡径状態におけるメッシュパターンの表面積S(セルの開口面積を含まない面積)は、長軸方向の寸法及び径方向の寸法が同一の仮想円筒の表面積Sに対して、5%以上20%以下に設定される。本体部11の表面積Sを仮想円筒の表面積Sに対して5%以上とすることにより、大径のカテーテルをデリバリするために必要な血管壁との摩擦力を得ることができる。本体部11の表面積Sを仮想円筒の表面積Sに対して20%以下とすることにより、係止ステント2を縮径した際のストラット同士の重なり合いを少なくできる。また、本体部11は、外径1.5mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力が0.015N/mm以上0.06N/mm以下となり、外径0.42mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力が0.1N/mm以上0.3N/mm以下となるように設定される。
係止ステント2の拡張力は、例えば以下の測定方法で測定することができる。
使用機器:Blockwise社製 Radial Force testing system
試験条件:
チャンバー内温度:37±2℃
クリンプヘッド収縮・拡張速度:0.5mm/s
最収縮径:0.4mm
試験方法:
試験機のチャンバー内温度を37±2℃に設定する、
ステント部をクリンプヘッドに挿入し、5分間静置する、
0.4mmになるまで0.5mm/sの速度で縮径し、その後拡張する、
拡張する際に発揮した拡張力を記録する。
【0021】
本体部11が上記表面積と力学特性を有する係止ステント2は、下記の測定条件で測定した引張荷重が1.0N以上4.0N以下である。
使用機器:マイクロカテーテル:SL10(Excelsior Stryker社製)
デジタルフォースゲージ(プッシュプルゲージ)
引き込み装置
恒温槽
サーモメーター
試験条件:
スピード:100mm/min
引張距離:有効長+10mm
試験温度:37±2℃
試験方法:
恒温槽の温度が37±2℃であることをサーモメーターで確認する、
マイクロカテーテルを、37±2℃に保った人体の血管を解剖学的に模したモデルにおける脳血管の位置に先端があるように設置する、
係止ステントの全体がマイクロカテーテルに収まるまでマイクロカテーテルの手元側から係止ステントを挿入し、脳血管に係止ステントを設置する、
引き込み装置に設置したデジタルフォースゲージと係止ステントの手元側とを接続する、
マイクロカテーテルの手元側を直線状にした状態でマイクロカテーテルを固定し、引き込み装置により一定の規定スピードで係止ステントを手元方向に引っ張る、
係止ステントを有効長+10mmだけ引っ張ったときにデジタルフォースゲージで測定される引張荷重の最大値を記録する。
対象となる係止ステントが、本発明に係る遠位スタビライザの係止ステントの摺動性に関する要件を満たしているか否かは、上記測定条件に基づいて試験を行うことにより検証できる。なお、試験条件の「有効長」とは、係止ステントにおいて、メッシュパターン構造の最も遠位側D2に位置するセル20の遠位側の端部と、最も近位側D1に位置するセル20の近位側の端部との間の長さをいう。
【0022】
セル20とは、開口又は隔室ともいい、本体部11のメッシュパターンを形成するワイヤ状のストラット(ワイヤ状部材)22で囲まれた部分をいう。オープンセル部分21は、セル20において、自由凸端23を有する部分である。本実施形態の係止ステント2において、すべてのセル20は、オープンセル部分21を有するオープンセルである。自由凸端23は、図3Aに示すように、2つのストラット22a、22bの遠位側D2が繋がった端部であり、別のストラットが繋がっていない部分である。自由凸端23の形状は、例えば、略V字状、略U字状、略Ω形状等である。自由凸端23の突出する方向は、係止ステント2をカテーテルに挿入する方向において、概ね遠位側D2であって、セルの配列方向SDに沿っていればよい。自由凸端23は、他のストラットにより拘束されにくいため、径方向(長軸方向LDと直交する方向)への変位や変形が制限されにくい。なお、自由凸端23の突出する方向は、本実施形態の例に限定されない。
【0023】
図3Aに示すように、自由凸端23を形成するストラット22a、22bのうち、セルの配列方向SDに延在するストラット22aは、セルの配列方向SDに対して横並びに隣接する他のセル20のストラット22cと略平行に配置される。セルの配列方向SDに延在するとは、セルの配列方向SDに、ほぼ直線的に延びていることをいう。セルの配列方向SDに延在するストラット22aの長さL1は、例えば、0.2~1.4mmである。ストラットの長さとは、ストラットの延在方向において、他のストラットと繋がっている部分を除いた部分の長さをいう。他のストラットと繋がっている部分とは、例えば、自由凸端23、閉鎖凸端25、頂部26(後述)等である。ストラットが非直線状である場合又は非直線状の部分を含む場合には、ストラットを仮想的に直線状に延ばした状態での仮想的な長さとなる。また、セルの配列方向SDに対して横並びに隣接するとは、セルの配列方向SDと直交又は略直交する方向に隣接することをいう。「略平行」に配置されるとは、後述するように、0°(平行)又は15°以下の角度で配置されることをいう。図3Aに示すように、ストラット22a、22bの近位側D1は、頂部26で繋がっている。また、ストラット22a、22bの近位側D1は、頂部26において、別のストラット22dの遠位側D2と繋がっている。セルの配列方向SDにおいて、ストラット22dの長さL2は、例えば、0.1~0.7mmである。ストラット22aの長さL1及びストラット22dの長さL2は、セル毎に同じでもよいし、セル毎に異なっていてもよい。なお、ストラット22aの長さL1とストラット22dの長さL2との比率は、例えば、2:1程度が好ましいが、この比率に限定されない。また、ストラット22aの長さL1とストラット22cの長さL3との比率は、例えば、1:1.2程度が好ましいが、この比率に限定されない。
【0024】
自由凸端23を形成するストラットのうち、セルの配列方向SDに延在するストラット22aは、自然状態において、セルの配列方向SDに対して横並びに隣接する他のセル20のストラット22cに対して0°となるように配置されるか又は10°以下の角度で交差するように配置される。自然状態とは、係止ステント2を縮径していない状態(無負荷状態)をいう。図3Aに示す構成において、ストラット22aの中心線c1は、隣接する他のセル20のストラット22cの中心線c2に対して0°(平行)となるように配置されている。また、図3Bに示す実施形態において、ストラット22aの中心線c1は、隣接する他のセル20のストラット22cの中心線c2に対して10°以下の角度、例えば、1~10°で交差するように配置されている。
【0025】
セルの配列方向SDに延在するストラット22aを、横並びに隣接する他のセル20のストラット22cと略平行に配置することにより、ストラット間に余剰なスペースが少なくなり、近接した状態でストラットを並べることが可能になる。そのため、縮径した際には、余剰なスペースが残っているストラット22bからストラットが折り畳まれ、ストラット22aと22cは、セルの配列方向SDに対する向きがほぼ変わることなくステントの縮径が進行する。ストラットの向きがほぼ変わらないように縮径することで、ストラットが略平行に並んでいる状態を保ったまま縮径することが可能となるため、ストラット22aと22cを、ストラット同士が径方向に交差することなく縮径させることができる。このような効果により、第1カテーテル5に縮径して収納された係止ステント2は、径が嵩みにくくなるため、第1カテーテル5の内壁との摺動性に優れている。このように、係止ステント2は、摺動性に優れるため、係止ステント2の遠位側D2への押し込みが容易になると共に、第2カテーテル6を標的位置へデリバリした後の第1カテーテル5へのリシース性に優れている。また、本体部11を形成する各セル20において、ストラット22aは、セルの配列方向SDに平行に整列する。本構成によれば、施術者の押し込みによる推進力がセルの配列方向SDに伝わりやすくなるため、係止ステント2の遠位側D2への送達性に優れている。
【0026】
クローズセル部分24は、セル20において、閉鎖凸端25を有する部分である。閉鎖凸端25は、図3Aに示すように、ストラット22b、22dの近位側D1が繋がった端部であるが、その端部に別のストラット22cが繋がっているため、自由凸端を構成しない端部である。なお、ストラット22bは、遠位側D2において自由凸端23の一部を形成し、近位側D1において閉鎖凸端25の一部を形成する。閉鎖凸端25の形状は、例えば、略V字状、略U字状、略Ω形状等である。閉鎖凸端25の突出方向は、概ね近位側D1であればよい。このように、クローズセル部分24の閉鎖凸端25は、近位側D1に突出するが、外方への跳ね上がりが別のストラット22cにより抑制されるため、第1カテーテル5へリシース(収納)する際の障害になりにくい。
【0027】
本体部11は、例えば、生体適合性材料、特に好ましくは超弾性合金から形成されたチューブを、レーザ加工することにより作製できる。超弾性合金チューブから作製する場合、2~3mm程度のチューブをレーザ加工した後、所望の径まで拡張させ、チューブに形状記憶処理を施すことにより作製することが好ましい。本体部11は、レーザ加工に限らず、例えば、切削加工等により作製することもできるし、ワイヤ状に成形した金属線を筒状に編み込むことによっても作製できる。
【0028】
本体部11の材料としては、材料自体の剛性が高く且つ生体適合性が高い材料が好ましい。このような材料としては、例えば、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、白金、金、銀、銅、鉄、クロム、コバルト、アルミニウム、モリブデン、マンガン、タンタル、タングステン、ニオブ、マグネシウム、カルシウム、これらを含む合金等が挙げられる。また、このような材料として、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネイト、ポリエーテル、ポリメチルメタクリレート等の合成樹脂材料を用いることもできる。更に、このような材料として、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリεカプロラクトン等の生分解性樹脂(生分解性ポリマー)等を用いることもできる。
【0029】
これらの中でも、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、白金、金、銀、銅、マグネシウム又はこれらを含む合金が望ましい。合金としては、例えば、Ni-Ti合金、Cu-Mn合金、Cu-Cd合金、Co-Cr合金、Cu-Al-Mn合金、Au-Cd-Ag合金、Ti-Al-V合金等が挙げられる。また、合金としては、マグネシウムと、Zr、Y、Ti、Ta、Nd、Nb、Zn、Ca、Al、Li、Mn等との合金が挙げられる。これらの合金の中では、Ni-Ti合金が望ましい。
【0030】
図1に戻り、デリバリワイヤ3は、生体管腔内において、係止ステント2を前進させたり、後退させたりする際に用いられる部材である。デリバリワイヤ3は、係止ステント2を生体管腔V内で前進させる際には遠位側D2へ送り出され、係止ステント2を生体管腔V内で後退させる際には近位側D1へ引き込まれる。デリバリワイヤ3は、例えば、ステンレス鋼等の弾性率の高い金属材料により構成される。また、デリバリワイヤ3の径は、生体管腔V内で前進や後退の操作を行うのに十分な物性を有し且つ第1カテーテル5に適合する限りにおいて特に限定されず、例えば、0.005~0.018インチであってもよい。なお、線状デリバリ部材は、デリバリワイヤのような金属材料に限らず、例えば、樹脂で作製してもよいし、金属と樹脂の複合材料で作製してもよい。
【0031】
第2カテーテル6を含む複数のカテーテルのうち、内径が第1カテーテル5よりも大きいカテーテルは、目的カテーテルとも呼ばれる。目的カテーテルは、治療デバイスを内挿するのに十分な内径を有する又はそれ自体を治療デバイスとして使用するのに十分な内径を有するカテーテルである。目的カテーテルは、治療デバイスを内挿する用途においては、ガイディングカテーテルと呼ばれることもある。治療デバイスとしては、例えば、血栓吸引デバイス、フローダイバータ、動脈瘤塞栓デバイス、血栓除去デバイス(ステントリトリーバ等)、動脈瘤治療用ステント、頭蓋内動脈狭窄症治療用ステント、バルーンカテーテル、シャント、液体塞栓物質放出手段(液体塞栓物質を通すルーメンを備えたカテーテル等)が挙げられる。目的カテーテルは、それ自体が治療デバイスとして使用されることがある。そのような用途において、目的カテーテルは、血栓吸引カテーテルと呼ばれることもある。後述の実施形態では、第2カテーテル6が目的カテーテルである場合を例として説明する。
【0032】
次に、本実施形態の遠位スタビライザ1を含むデリバリシステム10の使用形態について説明する。
図4図11は、遠位スタビライザ1を含むデリバリシステム10による施術の一例を示す模式図である。ここでは、生体管腔V中の標的位置に形成された動脈瘤を治療する例について説明する。本実施形態において、標的位置は、例えば、頭蓋内の前大脳動脈(ACA)、前交通動脈(Acom)、中大脳動脈(MCA)等の径が細く蛇行血管の遠位に形成された動脈瘤である。
【0033】
まず、患者の生体管腔Vの近位側D1に第2カテーテル6を配置する。図4に示すように、大径の第2カテーテル6の遠位端61は、径の細い生体管腔Vの屈曲部位や分岐部位に引っ掛かりやすく、それらの部位よりも遠位側へ前進させることが難しい。このような第2カテーテル6に対し、図5に示すように、第1カテーテル5を内挿して生体管腔V内に送り込む。そして、第1カテーテル5を第2カテーテル6の遠位端61から押し出した後、第1カテーテル5の遠位端51を標的位置TPの遠位側に配置する。次に、図6に示すように、第1カテーテル5に遠位スタビライザ1を内挿して、係止ステント2を標的位置TPの遠位側D“に配置する。このとき係止ステント2は、縮径状態で第1カテーテル5に収納される。
【0034】
本実施形態の遠位スタビライザ1において、各セル20のストラット22a(図3A参照)は、セルの配列方向SDに対して横並びに隣接する他のセル20のストラット22cと略平行に配置される。本構成によれば、係止ステント2を縮径した際のストラット同士の重なり合いが少なくなり、係止ステント2の径が嵩みにくくなるため、第1カテーテル5の内壁との摺動性の低下を抑制できる。これにより、係止ステント2の遠位側D2への押し込みが容易になる。また、本実施形態の遠位スタビライザ1において、各セル20のストラット22aは、セルの配列方向SDに平行に整列する。本構成によれば、施術者の押し込みによる推進力がセルの配列方向SDへ伝わりやすいため、係止ステント2の遠位側D2への送達性に優れている。なお、図6において、遠位スタビライザ1(係止ステント2+デリバリワイヤ3)は、第1カテーテル5の全域に亘って収納されているが、便宜上、第1カテーテル5の遠位側のみ、遠位スタビライザ1を破線で図示している。
【0035】
次に、図7に示すように、縮径状態で第1カテーテル5に収納された係止ステント2を第1カテーテル5の遠位端51から解放する。係止ステント2の解放は、第1カテーテル5を近位側D1へと後退させる操作によって行われる。第1カテーテル5の遠位端51から解放された係止ステント2は、その自己拡張力により拡径する。これにより、係止ステント2は、生体管腔Vの内壁(血管壁)V1を内側から外側に向けて押し、内壁V1に係止される。本実施形態の係止ステント2は、自由凸端23(図2参照)が突出するオープンセル部分21を有するため、強い係止力で内壁V1に係止できる。また、係止ステント2(本体部11)において、複数のセル20は、係止ステント2の長軸方向LDに対して螺旋状に配列したメッシュパターン(図2参照)を有するため、柔軟性が高く、生体管腔Vの屈曲に対して遠位スタビライザ1を追従させやすい。
【0036】
次に、図8に示すように、第1カテーテル5に外挿される第2カテーテル6を、第1カテーテル5に沿って遠位側D2へ前進させる。第2カテーテル6は、その外径が太く且つ剛性が高い。そのため、第2カテーテル6は、前進する過程で、剛性の低い第1カテーテル5やデリバリワイヤ3を近位側D1へ引っ張る力を幾度も与えることになる。第2カテーテル6を前進させにくい場合に、係止ステント2を生体管腔Vの内壁V1に係止させた状態でデリバリワイヤ3を近位側D1へ引っ張る操作を行うこともある。この引っ張り操作により、第2カテーテル6を遠位側D2へ前進させることができる。
【0037】
第2カテーテル6の遠位端61を生体管腔V内で前進させることにより、図9に示すように、第2カテーテル6の遠位端61を動脈瘤ARの近傍に配置できる。このようにして第2カテーテル6を標的位置TPの近傍までデリバリした後、図10に示すように、遠位スタビライザ1(係止ステント2)を近位側D1へ引き込み、第1カテーテル5(不図示)にリシースする。なお、遠位スタビライザ1を第1カテーテル5にリシースした後、第1カテーテル5及び遠位スタビライザ1を第2カテーテル6の近位側D1から抜去してもよい。或いは、第1カテーテル5を近位側D1から抜去した後、遠位スタビライザ1を第2カテーテル6に収納して、近位側D1から抜去してもよい。本実施形態の遠位スタビライザ1において、各セル20のストラット22a(図3A参照)は、セルの配列方向SDに対して横並びに隣接する他のセル20のストラット22cと略平行に配置される。本構成によれば、係止ステント2を縮径した際のストラット同士の重なり合いが少なくなり、係止ステント2の径が嵩みにくくなるため、第2カテーテル6を標的位置へデリバリした後の第1カテーテル5へのリシース性に優れている。
【0038】
次に、図示していないが、第2カテーテル6の近位側D1から縮径した留置ステント7を挿入する。留置ステント7は、動脈瘤治療用ステントである。そして、図11に示すように、デリバリワイヤ8を介して留置ステント7を遠位側D2に向けて送り込み、留置ステント7を標的位置TPで展開させて、その場に留置する。留置ステント7を標的位置TPに留置する目的は、例えば、標的位置TPに存在する動脈瘤ARに流入する血液を減らしたり、動脈瘤ARに留置する塞栓コイルを保持したりするためである。留置ステント7を標的位置TPに留置した後、第2カテーテル6に内挿したマイクロカテーテルを介して塞栓コイル(いずれも不図示)を遠位側D2へ送り込むことにより、塞栓コイルを留置ステント7の網目の間から動脈瘤ARに留置できる。
【0039】
本実施形態の遠位スタビライザ1によれば、例えば、以下のような効果を奏する。
遠位スタビライザ1の係止ステント2において、拡径状態におけるメッシュパターンの表面積Sは、長軸方向の寸法及び径方向の寸法が同一の仮想円筒の表面積Sに対して、5%以上20%以下に設定される。係止ステント2の表面積Sを仮想円筒の表面積Sに対して5%以上とすることにより、大径のカテーテルをデリバリするために必要な血管壁との摩擦力を得ることができる。また、係止ステント2の表面積Sを仮想円筒の表面積Sに対して20%以下とすることにより、係止ステント2を縮径した際のストラット同士の重なり合いを少なくできる。
【0040】
係止ステント2は、外径1.5mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力が0.015N/mm以上0.06N/mm以下となり、外径0.42mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力が0.1N/mm以上0.3N/mm以下となるように設定される。外径1.5mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力を0.06N/mm以下とすることにより、係止ステント2が屈曲血管を直線化して損傷を与えるリスクを低減できる。本願の発明者は、外径1.5mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力を0.07N/mmとした場合、係止ステント2が屈曲血管を直線化してしまうことを実験により確認した。また、係止ステント2において、外径1.5mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力を0.015N/mm以上とすることにより、摩擦力が足りずに係止ステント2が滑落するリスクを低減できる。本願の発明者は、外径1.5mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力を0.014N/mmとした場合、第2カテーテル6の送達を試みた際に、係止ステント2が滑落してしまうことを確認した。
【0041】
また、係止ステント2は、外径0.42mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力を0.3N/mm以下とすることにより、摺動抵抗がより小さくなるため、0.0165インチ以下のマイクロカテーテルに好適に用いることができる。本願の発明者は、外径0.42mmの縮径状態における単位長さ当たりの拡張力を0.4N/mmとした場合、0.0165インチのマイクロカテーテルに内挿した際の摺動抵抗が大きく、係止ステント2を遠位側に送達できないことを実験により確認した。
したがって、本実施形態の遠位スタビライザ1は、アンカーデバイスとして大径の第2カテーテル6をデリバリするために必要な血管壁との摩擦力を備えながら、小径の第1カテーテル5に縮径して挿入した場合の摺動性にも優れている。
【0042】
遠位スタビライザ1において、各セル20のストラット22aは、セルの配列方向SDに対して横並びに隣接する他のセル20のストラット22cと略平行に配置される。本構成によれば、係止ステント2を縮径した際のストラット同士の重なり合いが少なくなり、係止ステント2の径が嵩みにくくなるため、第1カテーテル5の内壁との摺動性の低下を抑制できる。
【0043】
本実施形態の遠位スタビライザ1は、摺動性に優れているため、小径のカテーテル(例えば、内径が0.017インチ以下、好ましくは0.0165インチ以下のマイクロカテーテル)に好適に用いることができる。その結果、本実施形態の遠位スタビライザ1は、これまで実現が困難であった頭蓋内の前大脳動脈(ACA)、前交通動脈(Acom)、中大脳動脈(MCA)等の径が細い血管へ、大径のカテーテルや各種の治療デバイスをデリバリできる。なお、遠位スタビライザ1が適合するカテーテルの内径は特に限定されず、例えば、0.017インチ超えであってもよい。
【0044】
本実施形態の遠位スタビライザ1は、上記構成により、第1カテーテル5の内壁との摺動性の低下が抑制されるため、第2カテーテル6を標的位置へデリバリした後の第1カテーテル5へのリシース性にも優れている。
本実施形態の遠位スタビライザ1において、各セル20のストラット22aは、セルの配列方向SDに平行に整列する。本構成によれば、施術者がデリバリワイヤ3に加えた推進力がセルの配列方向SDに伝わりやすくなるため、係止ステント2の遠位側D2への送達性にも優れている。
【0045】
本実施形態の遠位スタビライザ1において、複数のセル20は、係止ステント2の長軸方向LDに対して螺旋状に配列したメッシュパターンを有する。そのため、遠位スタビライザ1は、柔軟性が高く、生体管腔Vの屈曲に対して遠位スタビライザ1を追従させやすい。このように、遠位スタビライザ1は、生体管腔Vの屈曲に追従させやすいため、係止ステント2の長軸方向LDの両端部に応力が集中しにくくなる。これによれば、係止ステント2が係止される血管が直線化しにくくなるため、血管壁への愛護性の高いオープンセル構造となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、後述する変形形態のように種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内に含まれる。また、実施形態に記載した効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、実施形態に記載したものに限定されない。なお、上述の実施形態及び後述する変形形態は、適宜に組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。
【0047】
係止ステントは、すべてのセルがオープンセル部分21を有するオープンセル構造に限らず、オープンセル部分21を有さず且つクローズセル部分24のみを有するクローズセル構造であってもよい。図12は、クローズセル構造の係止ステント2Aを仮想的に平面に展開した状態を示す展開図である。図12に示す係止ステント2Aにおいて、本体部11を形成する各セル20Aは、部分拡大図に示すように、クローズセル部分24のみを有している。クローズセル部分24は、セル20Aにおいて、閉鎖凸端27を有する部分である。閉鎖凸端27は、セル20Aにおいて、長辺部分のストラット22eと短辺部分のストラット22fとが繋がった端部であるが、その端部に他のセル20Aのストラット22eと22fが繋がっており、自由凸端を構成しない端部である。
【0048】
また、図示していないが、係止ステント2は、オープンセル部分21を有するセル20(図3A参照)と、クローズセル部分24のみを有するセル20A(図12参照)とを備えた構造であってもよい。すなわち、係止ステント2は、本体部11を構成するセルのうち、一部のセルがオープンセル部分21を有するオープンセル構造であってもよい。その場合、オープンセル部分21を有するセル20を、係止ステント2の遠位側D2に配置することが望ましい。
【0049】
上述したクローズセル部分のみを有するクローズセル構造の係止ステント、オープンセル部分を有するセルとクローズセル部分のみを有するオープンセル構造の係止ステントにおいても、実施形態の係止ステントと同じ表面積及び力学特性とすることにより、アンカーデバイスとして大径の第2カテーテル6をデリバリするために必要な血管壁との摩擦力を備えながら、小径の第1カテーテル5に縮径して挿入した場合の摺動性にも優れた遠位スタビライザを得ることができる。
【0050】
係止ステント2において、図3Aに示すセルの構成と、図3Bに示すセルの構成とが混在していてもよい。例えば、係止ステント2の有効長の範囲の略中間から近位側D1に配置されるセル20を図3Aに示す構成とし、係止ステント2の有効長の範囲の略中間から遠位側D2に配置されるセル20を図3Bに示す構成としてもよい。
図3Bに示す係止ステント2において、ストラット22aが横並びに隣接するストラット22cに対して交差する方向が遠位側D2となるように構成してもよい。
係止ステント2の本体部11を、複数のセルが係止ステント2の長軸方向LDに沿って平行に配列したメッシュパターン構造としてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1 遠位スタビライザ
2 係止ステント
3 デリバリワイヤ
5 第1カテーテル
6 第2カテーテル
10 デリバリシステム
11 本体部
12 アンテナ部
20 セル
21 オープンセル部分
22(22a~22f) ストラット
23 自由凸端
24 クローズセル部分
25、27 閉鎖凸端
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12