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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061294
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】車両用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/205 20110101AFI20240425BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20240425BHJP
【FI】
B60R21/205
B60R21/2338
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169151
(22)【出願日】2022-10-21
(71)【出願人】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】安部 和宏
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一基
(72)【発明者】
【氏名】荒井 佑太
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA14
3D054BB16
3D054CC11
3D054DD09
3D054EE26
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】エアバッグクッションの膨張展開を効率よく調節することが可能な車両用エアバッグ装置を提供する。
【解決手段】車両用エアバッグ装置100のエアバッグクッション108は、インフレータ挿入部128と、乗員114を拘束する乗員拘束面122と、インストルメントパネル102の上方かつインフレータ挿入部128の後方の範囲に上下方向にかけ渡される内壁テザー130と、内壁テザー130の車幅方向両脇に形成される一対のガス通路146、148を有する。内壁テザー130は、エアバッグクッション108のうちインストルメントパネル102の上方で車両のウィンドシールド112に接触する部分に接合される上側接合部138と、エアバッグクッション108のうち収容部106とインストルメントパネル102の上面132との角部140近傍に接触する部分に接合される下側接合部136と、を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のインストルメントパネルの上面に窪んで設けられる収容部と、該収容部の中底に固定されるインフレータと、該インフレータのガスによって該収容部から該インストルメントパネルと前列座席との間にわたって膨張展開するエアバッグクッションとを備えた車両用エアバッグ装置において、
前記エアバッグクッションは、
前記インフレータの一部が挿入されるインフレータ挿入部と、
車両後側に設けられて前記前列座席の乗員を拘束する乗員拘束面と、
該エアバッグクッションの内部のうち前記インストルメントパネルの上方かつ前記インフレータ挿入部の後方の範囲に上下方向にかけ渡される1または複数の内壁テザーと、
該エアバッグクッションの内部のうち前記内壁テザーの車幅方向両脇に形成される一対のガス通路と、
を有し、
前記1または複数の内壁テザーはそれぞれ、
前記エアバッグクッションのうち前記インストルメントパネルの上方で前記車両のウィンドシールドに接触する部分に接合される上側接合部と、
前記エアバッグクッションのうち前記収容部と前記インストルメントパネルの上面との角部近傍に接触する部分に接合される下側接合部と、
を有することを特徴とする車両用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記内壁テザーは、上下方向の中央に車幅方向に延びるよう設けられる破断可能な破断部を有し、
前記破断部は、
前記内壁テザーの車幅方向の中央に設けられる開口部と、
前記開口部から前記内壁テザーの両縁それぞれに向かって延びる破線部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記破線部は、前記両縁に到達していることを特徴とする請求項2に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記内壁テザーは、上下方向の中央に形成され前記下側接合部および前記上側接合部よりも幅広になっている幅広部を有し、
前記破断部は、前記幅広部に設けられていて前記下側接合部および前記上側接合部よりも幅広であることを特徴とする請求項2または3に記載の車両用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記1または複数の内壁テザーは、複数設けられていて、
前記複数の内壁テザーのうち第1の内壁テザーと第2の内壁テザーは、前記上側接合部が車両前後方向に離間していることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インストルメントパネルと前列座席との間に膨張展開するエアバッグクッションとを備えた車両用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両は、エアバッグ装置がほぼ標準装備されている。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、ガス圧で膨張展開するエアバッグクッションを利用して乗員を受け止めて保護する。エアバッグ装置は、設置箇所や用途に応じて様々な種類がある。例えば、運転席では、ステアリングの中央にフロントエアバッグが設けられている。また、助手席では、インストルメントパネルやその周辺部位にパッセンジャエアバッグが設けられている。
【0003】
各種エアバッグ装置のうち特に助手席用のパッセンジャエアバッグは、インストルメントパネルの上面に設けた収容部から膨張展開し、ウィンドシールドに下方から接触することが多い。このとき、ウィンドシールドには相応の力が加わる。そこで、例えば特許文献1の図1に記載の助手席用エアバッグ102では、内部に複数のテザー30を設けることで、エアバッグ本体10がフロントウィンドシールド4に接触する時に与える荷重を減らしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-133485号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、引用文献1では、テザー30がインフレータ2に隣接して設けられていて、テザー30に向かってガスが噴出されるため、テザー30の位置が不安定になったり早期に破断したりするなど、エアバッグ本体10の膨張展開の調節に影響が出るおそれがある。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、エアバッグクッションの膨張展開を効率よく調節することが可能な車両用エアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用エアバッグ装置の代表的な構成は、車両のインストルメントパネルの上面に窪んで設けられる収容部と、収容部の中底に固定されるインフレータと、インフレータのガスによって収容部からインストルメントパネルと前列座席との間にわたって膨張展開するエアバッグクッションとを備えた車両用エアバッグ装置において、エアバッグクッションは、インフレータの一部が挿入されるインフレータ挿入部と、車両後側に設けられて前列座席の乗員を拘束する乗員拘束面と、エアバッグクッションの内部のうちインストルメントパネルの上方かつインフレータ挿入部の後方の範囲に上下方向にかけ渡される1または複数の内壁テザーと、エアバッグクッションの内部のうち内壁テザーの車幅方向両脇に形成される一対のガス通路と、を有し、1または複数の内壁テザーはそれぞれ、エアバッグクッションのうちインストルメントパネルの上方で車両のウィンドシールドに接触する部分に接合される上側接合部と、エアバッグクッションのうち収容部とインストルメントパネルの上面との角部近傍に接触する部分に接合される下側接合部と、を有することを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、内壁テザーがエアバッグクッションのウィンドシールドに向かう膨張展開に抵抗することで、エアバッグクッションがウィンドシールドに与える負担を抑えることができる。特に、内壁テザーの下側接合部は、エアバッグクッションのうち収容部とインストルメントパネルの上面との角部近傍に接合されている。この角部近傍は、インフレータからのガスの圧力がかかりやすく、位置が安定しやすい。そのため、当該内壁テザーであれば、安定した位置で上下方向に張ることができ、エアバッグクッションの膨張展開を効率よく調節することが可能になる。
【0009】
また、上記構成によれば、インフレータから乗員拘束面に向かうガスの流れが、その途中で内壁テザーによってその両脇のガス通路に二分される。これによって、エアバッグクッションを車幅方向に膨張展開させたうえで、乗員拘束面に向かってガスを送ることができる。したがって、当初からガスを乗員拘束面に向かって1つの流れで供給する場合に比べて、乗員拘束面を早期に広げることができ、かつ、乗員拘束面が乗員に接触したときに乗員に与える負担も抑えることができる。よって、上記構成によれば、乗員の傷害値を抑えて効率よく拘束することが可能になる。
【0010】
上記の内壁テザーは、上下方向の中央に車幅方向に延びるよう設けられる破断可能な破断部を有し、破断部は、内壁テザーの車幅方向の中央に設けられる開口部と、開口部から内壁テザーの両縁それぞれに向かって延びる破線部と、を有してもよい。
【0011】
上記の破断部を有する内壁テザーであれば、ガスの供給が開始した当初はガスに抵抗してガスの流れを左右に二分しつつ、エアバッグクッションの内圧がある程度に高まったタイミングで中央の開口部から一部または全部が破断し、ガスを後方に迅速に流して当該エアバッグクッションの膨張展開を完了させることが可能になる。
【0012】
上記の破線部は、両縁に到達していてもよい。この構成によって、内壁テザーはエアバッグクッションの内圧がある程度に高まったタイミングで破断し、ガスを後方に迅速に流すことが可能になる。
【0013】
上記の内壁テザーは、上下方向の中央に形成され下側接合部および上側接合部よりも幅広になっている幅広部を有し、破断部は、幅広部に設けられていて下側接合部および上側接合部よりも幅広であってもよい。
【0014】
上記の内壁テザーであれば、幅広部に設けた破断部が中央の開口部から破断していくときに、次第に上下方向に寸法が延びる。よって、内壁テザーが破断し切るまでのタイミングを遅くすることができ、これを利用してエアバッグクッションがウィンドシールドに接触するタイミングや、エアバッグクッションの膨張展開が完了するタイミングなどを調節することが可能になる。
【0015】
上記の1または複数の内壁テザーは、複数設けられていて、複数の内壁テザーのうち第1の内壁テザーと第2の内壁テザーは、上側接合部が車両前後方向に離間していてもよい。
【0016】
上記構成によれば、複数の内壁テザーによってエアバッグクッションがウィンドシールドに接触するタイミングを調節すると共に、エアバッグクッションは複数の内壁テザーの上側接合部の間の領域でウィンドシールドに面接触することが可能になり、ウィンドシールドに与える負担を効率よく抑えることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、エアバッグクッションの膨張展開を効率よく調節することが可能な車両用エアバッグ装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態にかかる車両用エアバッグ装置の概要を例示する図である。
図2図1(b)のエアバッグクッションの概略的なA-A断面図である。
図3図2の内壁テザーの各状態を例示した図である。
図4図3に対応したエアバッグクッションの膨張展開の過程を例示した図である。
図5図2のエアバッグクッションが膨張展開する過程をさらに例示した図である。
図6図3の内壁テザーの変形例である。
図7図5に対応した内壁テザーの変形例を例示した図である。
図8図4に対応したエアバッグクッションの膨張展開の過程における内壁テザーの状態を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態にかかる車両用エアバッグ装置100の概要を例示する図である。図1(a)は車両用エアバッグ装置100の作動前の車両を例示した図である。図1(a)その他の図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0021】
本実施形態では、車両用エアバッグ装置100を、左ハンドル車における助手席用(前列右側の座席104)のパッセンジャバッグとして実施している。以下では、前列右側の座席104を想定して説明を行うため、例えば車幅方向の車外側とは車両右側を意味し、車幅方向の車内側とは車両左側を意味する。また、上方とは座席104に正規に着座した姿勢の乗員114(図2参照)から見て頭部の方向のことであり、下方とは当該乗員114から見て下肢部の方向のことである。
【0022】
車両用エアバッグ装置100のエアバッグクッション108(図1(b)参照)は、当該車両のインストルメントパネル102に設けられた収容部106に収容されている。
【0023】
収容部106は、インストルメントパネル102の上面102aのうち、座席104の車両前方の箇所に設けられている。収容部106には、エアバッグクッション108の他、ガス発生装置であるインフレータ110(図2参照)も収納されている。
【0024】
図1(b)は図1(a)の車両用エアバッグ装置100の作動後の車両を例示した図である。エアバッグクッション108は袋状であって、その表面を構成する複数のパネルを重ねて縫製または接着すること等によって形成されている。
【0025】
例えば、エアバッグクッション108は、中央のメインパネル118と、左右のサイドパネル120a、120bを含んで構成されている。メインパネル118のうち、車両後側の範囲は、上下左右に広がって乗員114(図2参照)を拘束する乗員拘束面122になっている。
【0026】
図2は、図1(b)のエアバッグクッション108の概略的なA-A断面図である。図2に例示するように、収容部106は、インストルメントパネル102の上面102aから窪むように設けられている。収容部106の中底126には、インフレータ110およびエアバッグクッション108が固定されている。
【0027】
インフレータ110は、ガス発生装置であって、ガス噴出孔を有する一部がエアバッグクッション108の内部に挿入されている。インフレータ110は、収容部106の中底126にスタッドボルト(図示省略)を使用して固定されていて、所定のセンサから送られる衝撃の検知信号に起因して作動し、エアバッグクッション108の内部にガスを供給する。
【0028】
インフレータ110は、本実施例ではディスク型(円盤型)のものを採用している。現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ110としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0029】
エアバッグクッション108は、収容部106の中底126に固定される部分に、インフレータ110の一部を挿入するインフレータ挿入部128を有している。エアバッグクッション108は、インフレータ110からのガスによって膨張を始め、その膨張圧で収容部106のカバー107(図1(a)参照)を開裂等して座席104に向かって膨張展開する。
【0030】
エアバッグクッション108は、インストルメントパネル102の上面102aに接地した状態で、インストルメントパネル102とウィンドシールド112との間、およびインストルメントパネル102の車両後側の意匠面102bと座席104の乗員114との間に膨張展開し、乗員114を車両前方から拘束する。
【0031】
本実施形態では、エアバッグクッション108の内部には、内壁テザー130が設けられている。内壁テザー130は、エアバッグクッション108の膨張展開を調節する部材であって、エアバッグクッション108のガスで膨張する部分の内部のうちインストルメントパネル102の上方かつインフレータ挿入部128の後方の範囲にて、上下方向にかけ渡されている。
【0032】
図3は、図2の内壁テザー130の各状態を例示した図である。図3(a)は、図2のエアバッグクッション108の膨張展開の過程における初期の状態の内壁テザー130を例示した図である。
【0033】
内壁テザー130は、エアバッグクッション108の内部にて、エアバッグクッション108の上面132および下面134を形成するメインパネル118に上下方向にかけ渡されている。例えば、内壁テザー130の下縁はエアバッグクッション108の下面134の内側に下側接合部136によって接合されていて、内壁テザー130の上縁はエアバッグクッション108の上面132の内側に上側接合部138によって接合されている。内壁テザー130の上面132および下面134への接合や、縫製や熱溶着等によって行うことができる。
【0034】
再び図2を参照する。本実施形態では、下側接合部136は、エアバッグクッション108のうち、収容部106とインストルメントパネル102の上面102aとの角部140の近傍に接触する部分に接合されている。また、上側接合部138は、エアバッグクッション108のうち、インストルメントパネル102の上方でウィンドシールド112に接触する部分に接合されている。
【0035】
図3(a)に例示するように、内壁テザー130の側縁142、144は、エアバッグクッション108の左右の側面を形成するサイドパネル120a、120bから離間している。よって、エアバッグクッション108の内部のうち、内壁テザー130の車幅方向両脇には、一対のガス通路146、148が形成されている。エアバッグクッション108の膨張展開の初期においては、インフレータ110(図2参照)からのガスはガス通路146、148を通って後方に向かって流れる。
【0036】
内壁テザー130には、上下方向の中央側に、破断可能な破断部150が設けられている。破断部150は、開口部152と破線部154、156とを含み、全体的に車幅方向に延びるよう設けられている。
【0037】
開口部152は、内壁テザー130の車幅方向の中央に設けられた長い切れ込みやスリットなどによって形成されている。破線部154、156もまた、切れ込みやスリットなどを破線状に設けることで形成されて、開口部152から内壁テザー130の側縁142、144それぞれに向かって延びている。
【0038】
図3(b)は、図3(a)のエアバッグクッション108の膨張展開の過程における中期の状態の内壁テザー130を例示した図である。インフレータ110(図2参照)からのガスの供給が進むとエアバッグクッション108の内圧が高まり、エアバッグクッション108は上下左右に膨らもうとするため、内壁テザー130も上面132および下面134によって上下方向に引っ張られる。加えて、内壁テザー130は、インフレータ110からのガスを直接的に受けている。これらの力によって、中央の開口部152は上下に引っ張られるように広がって開口する。
【0039】
開口部152は、ガスを通すことができる。よって、ガスはガス通路146、148に加えて開口部152も通って後方に流れ、図3(a)に例示した初期の状態に比べて後方に向かう単位時間あたりのガスの量は増える。
【0040】
開口部152にガスが通るときの力、および上側接合部138と下側接合部136を上下それぞれに引っ張る力によって、破線部154、156は中央の開口部152から次第に両縁に向かって裂けていく。すなわち、内壁テザー130は、エアバッグクッション108の内圧が高まるにつれて、開口部152が次第に大きくなって開口部152を通るガスの量も増える。
【0041】
図3(c)は、図3(b)のエアバッグクッション108の膨張展開の過程における後期の状態の内壁テザー130を例示した図である。
【0042】
図3(b)に例示したように、破線部154は、内壁テザー130の側縁142、144に到達している。よって、図3(c)に例示するように、内壁テザー130は、エアバッグクッション108の内圧がある程度に高まったタイミングで破断部150の全部が破断し、上側部分130aおよび下側部分130bに別れる。
【0043】
内壁テザー130が全体的に破断すると、インフレータ110(図2参照)からのガスの流れに抵抗しなくなる。よって、インフレータ110のガスは、後方に向かって迅速に流れるようになる。
【0044】
図4は、図3に対応したエアバッグクッション108の膨張展開の過程を例示した図である。図4(a)は、図3(a)に対応したエアバッグクッション108の膨張展開の初期の状態を例示した図である。
【0045】
インフレータ110の後方に内壁テザー130が存在していることで、インフレータ110から乗員拘束面122に向かうガスの流れは途中で内壁テザー130によってその両脇のガス通路146、148に二分される。よって、当該エアバッグクッション108は、乗員拘束面122が後方に向かって突出するよう膨張することに先立って、まず車幅方向に膨張する。
【0046】
図4(b)は、図3(b)に対応したエアバッグクッション108の膨張展開の中期の状態を例示した図である。エアバッグクッション108の内圧が高まると、内壁テザー130の開口部152が広がって開口し、開口部152からもガスが後方に向かって流れる。よって、図4(a)に例示した初期の状態に比べて、後方の乗員拘束面122に向かって流れる単位時間あたりのガスの量は増える。
【0047】
図4(c)は、図4(c)のエアバッグクッション108の膨張展開の後期の状態を例示した図である。内壁テザー130(図4(b)参照)が破断すると、インフレータ110のガスの全部が後方に向かって迅速に流れるため、乗員拘束面122も広く展開し、エアバッグクッション108の膨張展開が完了する。
【0048】
これらのように、本実施形態では、図4(a)のようにインフレータ110から乗員拘束面122に向かうガスの流れが、その途中で内壁テザー130によってその左右両脇のガス通路146、148に二分される。これによって、エアバッグクッション108を車幅方向に膨張展開させたうえで、乗員拘束面122に向かってガスを送ることができる。したがって、当初からガスを乗員拘束面122に向かって1つの流れで供給する場合に比べて、乗員拘束面122を早期に広げることができ、かつ、乗員拘束面122が乗員114(図2参照)に接触したときに乗員114に与える負担も抑えることができる。よって、本実施形態の構成によれば、乗員114の傷害値を抑えて効率よく拘束することが可能になる。
【0049】
また、本実施形態の内壁テザー130は破断部150を有しているため、当初はガスの流れを左右に二分させつつも、エアバッグクッション108の内圧がある程度に高まったタイミングで、中央の開口部152から一部または全部が破断してガスを後方に迅速に流し、エアバッグクッション108の膨張展開を完了させることができる。
【0050】
図5は、図2のエアバッグクッション108が膨張展開する過程をさらに例示した図である。図5(a)は、図4(a)に対応したエアバッグクッション108の膨張展開の初期の状態を例示した図である。
【0051】
内壁テザー130は、力が加えられて無い状態における上側接合部138から下側接合部136までの寸法W1を、角部140からウィンドシールド112までの寸法W2よりも小さく設定することができる(W1<W2)。これによって、内壁テザー130は、エアバッグクッション108のウィンドシールド112に向かう膨張展開に抵抗することが可能になり、エアバッグクッション108がウィンドシールド112に接触するタイミングを遅らせることができる。
【0052】
図5(b)は、図4(c)に対応したエアバッグクッション108の膨張展開の後期の状態を例示した図である。内壁テザー130が破断すると、内壁テザー130による抵抗が無くなるため、エアバッグクッション108は解放されて膨張展開が進行し、ウィンドシールド112にも接触する。
【0053】
本実施形態よれば、内壁テザー130がエアバッグクッション108のウィンドシールド112に向かう膨張展開に抵抗することで、エアバッグクッション108がウィンドシールド112に与える負担を抑えることができる。特に、内壁テザー130の下側接合部136は、エアバッグクッション108のうち収容部106とインストルメントパネル102の上面102aとの角部140近傍に接合されている。この角部140近傍は、インフレータ110からのガスの圧力がかかりやすく、位置が安定しやすい。そのため、当該内壁テザー130であれば、安定した位置で上下方向に張ることができ、エアバッグクッション108の膨張展開を効率よく調節することが可能になる。
【0054】
(変形例)
以下、上述した各構成要素の変形例について説明する。図6は、図3の内壁テザー130の変形例(内壁テザー160)である。図6以降では、既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0055】
図6(a)は、図3(a)に対応して内壁テザー160を例示した図である。内壁テザー160は、上下方向の中央側に幅広部162を有している。幅広部162は、下側接合部136および上側接合部138よりも幅広になっている部位であり、サイドパネル120a、120b側に突出した形状になっている。
【0056】
破断部164は、幅広部162に設けられていて、下側接合部136および上側接合部138よりも幅広に形成されている。
【0057】
図6(b)は、図3(b)に対応して内壁テザー160を例示した図である。エアバッグクッション108の内圧が高まると、内壁テザー160は上下方向に引っ張られ、中央の開口部152が広がって開口する。
【0058】
図6(c)は、図3(c)に対応して内壁テザー160を例示した図である。内壁テザー160は、幅広部162に設けた破断部164が長尺であるため、中央の開口部152から破断していくときに、次第に上下方向に寸法が延びる。
【0059】
内壁テザー160は、破断部164が長尺であるため、破断し切るまでのタイミングを遅く、また、破断部164の開口部152を含む一部の範囲のみが破断して上下方向に寸法が延びる構成にすることもできる。当該内壁テザー160によっても、エアバッグクッション108がウィンドシールド112に接触するタイミングや、エアバッグクッション108の膨張展開が完了するタイミングなどを調節することができる。
【0060】
図7は、図5に対応した内壁テザー160の変形例(内壁テザー180、182)を例示した図である。図7(a)は、図5(a)に対応したエアバッグクッション108の膨張展開の初期の状態を例示した図である。
【0061】
本変形例のエアバッグクッション108には、二つの内壁テザー180、182が設けられている。第1の内壁テザー180と第2の内壁テザー182は、下側接合部184、186がエアバッグクッション108のうちの角部140近傍に接合されていて、上側接合部188、190が車両前後方向に離間して設けられている。
【0062】
図7(b)は、図5(b)に対応したエアバッグクッション108の膨張展開の後期の状態を例示した図である。
【0063】
上記構成によれば、複数の内壁テザー180、182によってエアバッグクッション108がウィンドシールド112に接触するタイミングを調節すると共に、エアバッグクッション108は複数の内壁テザー180、182の上側接合部188、190の間の領域E1でウィンドシールド112に面接触することが可能になり、ウィンドシールド112に与える負担を効率よく抑えることが可能になる。
【0064】
図8は、図4に対応したエアバッグクッション108の膨張展開の過程における内壁テザー180、182の状態を例示した図である。図8(a)は、図3(a)に対応してエアバッグクッション108の膨張展開の初期の状態を例示している。
【0065】
エアバッグクッション108においても、インフレータ110から乗員拘束面122に向かうガスの流れは途中で内壁テザー180、182によってその両脇のガス通路146、148に二分される。よって、当該エアバッグクッション108は、乗員拘束面122が後方に向かって突出するよう膨張することに先立って、まず車幅方向に膨張する。
【0066】
図8(b)は、図4(b)に対応したエアバッグクッション108の膨張展開の中期の状態を例示した図である。エアバッグクッション108の内圧が高まると、内壁テザー180、182の開口部192、194が広がって開口し、開口部192、194からもガスが後方に向かって流れる。よって、図8(a)に例示した初期の状態に比べて、後方の乗員拘束面122に向かって流れる単位時間あたりのガスの量は増える。
【0067】
図8(c)は、図4(c)に対応したエアバッグクッション108の膨張展開の後期の状態を例示した図である。内壁テザー180、182は、開口部192、194が広がっても、完全には破断しない構成になっている。当該内壁テザー180、182によっても、広がった開口部192、194からガスが後方に向かって迅速に流れるため、乗員拘束面122も広く展開し、エアバッグクッション108の膨張展開が完了する。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0069】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、インストルメントパネルと前列座席との間に膨張展開するエアバッグクッションとを備えた車両用エアバッグ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0071】
100…車両用エアバッグ装置、102…インストルメントパネル、102a…上面、102b…意匠面、104…座席、106…収容部、107…カバー、108…エアバッグクッション、110…インフレータ、112…ウィンドシールド、114…乗員、118…メインパネル、120a、120b…サイドパネル、122…乗員拘束面、126…中底、128…インフレータ挿入部、130…内壁テザー、130a…上側部分、130b…下側部分、132…上面、134…下面、136…下側接合部、138…上側接合部、140…角部、142、144…側縁、146、148…ガス通路、150…破断部、152…開口部、154、156…破線部、160…内壁テザー、162…幅広部、164…破断部、180、182…内壁テザー、184、186…下側接合部、188、190…上側接合部、192、194…開口部、E1…領域、W1、W2…寸法、
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8