(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024067461
(43)【公開日】2024-05-17
(54)【発明の名称】デコンプ装置及びエンジン
(51)【国際特許分類】
F01L 13/08 20060101AFI20240510BHJP
【FI】
F01L13/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022177553
(22)【出願日】2022-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】河野 雄一
(72)【発明者】
【氏名】太田 秀邦
(72)【発明者】
【氏名】石田 新太郎
【テーマコード(参考)】
3G018
【Fターム(参考)】
3G018AA15
3G018AB02
3G018AB17
3G018BA09
3G018CA08
3G018DA31
3G018FA17
3G018GA02
3G018GA32
(57)【要約】
【課題】デコンプを安定させて運転中の圧縮抜けや異音の発生を抑える。
【解決手段】シリンダヘッドに排気カムシャフト(31)が支持され、排気カムシャフトにデコンプ装置(40B)が取り付けられている。デコンプ装置には、排気カムシャフトの排気カム(33B)のベース円に対して出没可能なデコンプカム(46B)が形成されたデコンプカムシャフトと、排気カムシャフトの回転に伴う遠心力によって開方向に動いてデコンプカムを突出させるデコンプアーム(51B)と、遠心力に抗するバネ力によってデコンプアームを閉方向に動かしてデコンプカムを没入させるスプリング(56B)と、が設けられている。気筒毎にデコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と同方向及び逆方向に変更可能になっている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダヘッドに排気カムシャフトが支持され、前記排気カムシャフトに取り付けられるデコンプ装置であって、
前記排気カムシャフトの排気カムのベース円に対して出没可能なデコンプカムが形成されたデコンプカムシャフトと、
前記排気カムシャフトの回転に伴う遠心力によって開方向に動いて前記デコンプカムを突出させるデコンプアームと、
遠心力に抗するバネ力によって前記デコンプアームを閉方向に動かして前記デコンプカムを没入させるスプリングと、を備え、
気筒毎に前記デコンプアームの開方向が前記排気カムシャフトの回転方向と同方向及び逆方向に変更可能であることを特徴とするデコンプ装置。
【請求項2】
前記排気カムシャフトの外面で前記デコンプカムシャフト、前記デコンプアーム、前記スプリングを保持するデコンプホルダを備え、
前記排気カムシャフトに対する前記デコンプホルダの取り付け向きによって前記デコンプアームの開方向が前記排気カムシャフトの回転方向と同方向及び逆方向に変更可能であることを特徴とする請求項1に記載のデコンプ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のデコンプ装置と、
前記複数の気筒が形成されたシリンダと、を備え、
前記複数の気筒の燃焼間隔が不等間隔であることを特徴とするエンジン。
【請求項4】
前記複数の気筒の燃焼間隔が270度と450度の不等間隔の2気筒であり、
先に燃焼する一方の気筒の前記デコンプアームの開方向が前記排気カムシャフトの回転方向と同方向であり、後から燃焼する他方の気筒の前記デコンプアームの開方向が前記排気カムシャフトの回転方向と逆方向であることを特徴とする請求項3に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デコンプ装置及びエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン始動時にシリンダ内の圧力を抜いてエンジンをスムーズに始動させるデコンプ(デコンプレッション)装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。デコンプ装置は、排気カムのカムベース面上からデコンプカムを出没させてデコンプの作動及び解除を切り替えている。カムシャフトの周囲にはC字板状のデコンプアームが設けられており、カムシャフトの回転方向の先導側のデコンプアームの基端がカムシャフト側に揺動可能に連結され、カムシャフトの回転方向の追従側のデコンプアームの先端がデコンプカムに連結されている。
【0003】
エンジン始動時にはスプリングによってデコンプアームが作動位置に引き付けられてデコンプアームが作動位置から動かされない。このとき、カムベース面からデコンプカムが突出しており、デコンプカムがバルブタペットに当たり、排気バルブが僅かに開いてエンジンの始動性が向上される。一方で、エンジン始動後にカムシャフトの回転速度が速くなると、遠心力によってデコンプアームが作動位置から解除位置に動かされる。このとき、カムベース面下にデコンプカムが没入しており、デコンプカムがバルブタペットに当たらないので排気バルブが閉じた状態が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、エンジン始動時にデコンプが解除されないように、カムシャフトの回転方向の先導側でデコンプアームがカムシャフト側に連結され、デコンプアームの開方向がカムシャフトの回転方向と同じ方向になっている。しかしながら、エンジン始動後の運転中に回転変動が加速側に大きくなるタイミングでデコンプアームが解除位置から作動位置に動く場合がある。多気筒エンジンだとデコンプがバルブタペットを乗り越えるタイミングで、回転変動の影響を受けてしまう気筒があり、運転中にデコンプが誤作動して圧縮抜けや異音が発生するという問題があった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、デコンプを安定させて運転中の圧縮抜けや異音の発生を抑えることができるデコンプ装置及びエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のデコンプ装置は、シリンダヘッドに排気カムシャフトが支持され、前記排気カムシャフトに取り付けられるデコンプ装置であって、前記排気カムシャフトの排気カムのベース円に対して出没可能なデコンプカムが形成されたデコンプカムシャフトと、前記排気カムシャフトの回転に伴う遠心力によって開方向に動いて前記デコンプカムを突出させるデコンプアームと、遠心力に抗するバネ力によって前記デコンプアームを閉方向に動かして前記デコンプカムを没入させるスプリングと、を備え、気筒毎に前記デコンプアームの開方向が前記排気カムシャフトの回転方向と同方向及び逆方向に変更可能であることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様のデコンプ装置によれば、エンジンの気筒毎にデコンプアームの開方向を変更することができる。通常の気筒では、エンジン始動時にデコンプが容易に解除されないように、デコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と同方向にされる。運転中にデコンプカムがバルブタペットを乗り越えるタイミングで回転変動の影響を受ける気筒では、デコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と逆方向にされる。回転変動の影響によってデコンプが作動しなくなって圧縮抜けや異音の発生が抑えられる。また、デコンプアームの重量調整やスプリングの荷重調整が不要になるため、工数や設計変更の増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】比較例のデコンプ装置のデコンプ動作の説明図である。
【
図4】ピストンの動きとデコンプ装置の作動タイミングを示す図である。
【
図5】本実施例の排気カムシャフトの斜視図である。
【
図7】本実施例の一方の気筒のデコンプ装置のデコンプ動作の説明図である。
【
図8】本実施例の他方の気筒のデコンプ装置のデコンプ動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様のシリンダヘッドに排気カムシャフトが支持されており、排気カムシャフトにはシリンダヘッドの気筒毎にデコンプ装置が取り付けられている。デコンプ装置にはデコンプカムシャフト、デコンプアーム、スプリングが設けられている。デコンプカムシャフトには排気カムシャフトの排気カムのベース円に対して出没可能なデコンプカムが形成されている。排気カムシャフトの回転に伴う遠心力によってデコンプアームが開方向に動いてデコンプカムが突出され、遠心力に抗するスプリングのバネ力によってデコンプアームが閉方向に動かされてデコンプカムを没入される。気筒毎にデコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と同方向及び逆方向に変更可能になっている。通常の気筒では、エンジン始動時にデコンプが容易に解除されないように、デコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と同方向にされる。運転中にデコンプカムがバルブタペットを乗り越えるタイミングで回転変動の影響を受ける気筒では、デコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と逆方向にされる。回転変動の影響によってデコンプが作動しなくなって圧縮抜けや異音の発生が抑えられる。また、デコンプアームの重量調整やスプリングの荷重調整が不要になるため、工数や設計変更の増加を抑えることができる。
【実施例0011】
以下、添付図面を参照して、本実施例のエンジンについて説明する。
図1は本実施例のエンジンの右側面図である。
図2は本実施例のシリンダヘッドの上面図である。
図3は比較例のデコンプ装置のデコンプ動作の説明図である。
図4はピストンの動きとデコンプ装置の作動タイミングを示す図である。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0012】
図1に示すように、エンジン10は、2気筒の4サイクルエンジンであり、自動二輪車等の鞍乗型車両に搭載されている。エンジン10のクランクケース11にはクランクシャフト17が収容されており、このクランクケース11の上部には、シリンダ12、シリンダヘッド13、シリンダヘッドカバー(不図示)を積層したシリンダアッセンブリが取り付けられている。クランクケース11の下部には、潤滑及び冷却用のオイルが貯留されるオイルパン14が取り付けられている。クランクケース11の右側面にはケース内のクラッチ室を覆うクラッチカバー15が取り付けられている。
【0013】
図2に示すように、シリンダ12(
図1参照)には気筒21A、21Bが形成されており、シリンダヘッド13には気筒21A、21Bに連なるプラグホール22A、22Bが形成されている。シリンダヘッド13の背面には気筒21A、21B用の吸気ポート23A、23Bが形成され、シリンダヘッド13の前面には気筒21A、21B用の排気ポート24A、24Bが形成されている。シリンダヘッド13には、気筒21A用に吸気バルブ(不図示)と排気バルブ(不図示)が2つずつ設置され、気筒21B用に吸気バルブと排気バルブが2つずつ設置されている。シリンダヘッド13の底面から各バルブのバルブタペット25A、25Bが露出している。
【0014】
シリンダヘッド13の背面側には吸気カムシャフト26が支持されており、シリンダヘッド13の前面側には排気カムシャフト31が支持されている。吸気カムシャフト26及び排気カムシャフト31は左右方向に延びており、吸気カムシャフト26及び排気カムシャフト31の左側端部には吸気カムスプロケット27及び排気カムスプロケット32が設けられている。吸気カムシャフト26には吸気バルブのバルブタペット25A、25Bに接する4つの吸気カム28A、28Bが形成されている。排気カムシャフト31には排気バルブのバルブタペット25A、25Bに接する4つの排気カム33A、33Bが形成されている。
【0015】
エンジン10を始動する際には、スタータモータ等を利用してクランクシャフト17(
図1参照)を助走回転させる必要があるが、ピストンの圧縮上死点の乗り越えトルクが高いと、クランクシャフト17をスムーズに回転させることが難しい。このため、排気カムシャフト31には、気筒21A、21B毎にデコンプ装置40A、40Bが取り付けられている。エンジン始動時ではデコンプが作動して気筒21A、21Bの排気バルブが僅かに開かれる。気筒21A、21Bから圧力を抜かれて、ピストンの圧縮上死点の乗り越えトルクが減少されてエンジン10がスムーズに始動される。
【0016】
図3(A)に示すように、比較例のデコンプ装置60は、カムシャフトの回転方向の先導側でデコンプアーム62の基端がデコンプホルダ61に連結され、カムシャフトの回転方向の追従側でデコンプアーム62の先端がデコンプカム63に連結されている。すなわち、デコンプアーム62の開方向がカムシャフトの回転方向と同じ方向である。エンジン始動時にはデコンプアーム62に作用する遠心力F1が弱く、スプリング64のバネ力F2によってデコンプアーム62が引き付けられている。デコンプアーム62が閉じた状態では、圧縮行程でデコンプカム63が排気カムのベース円から突出してデコンプが作動する。
【0017】
一方で、
図3(B)に示すように、エンジン始動後の運転中にはデコンプアーム62に作用する遠心力F1が強くなり、スプリング64のバネ力F2に抗してデコンプアーム62が開かれる。デコンプアーム62が開いた状態では、圧縮行程でデコンプカム63が排気カムのベース円に没入してデコンプが解除される。ところで、多気筒エンジンの場合、各気筒サイクルの組み合わせによってエンジンの加減速の特性が不規則になる。この特性によって一部の気筒では不規則な加減速の影響を受けてデコンプアーム62の開閉が不安定になる場合がある。
【0018】
例えば、
図3(C)に示すように、アイドリング以下に回転数が下がった後に回転変動が加速側に大きくなると、デコンプアーム62に遠心力F1やスプリング64のバネ力F2の他にも慣性力F3が強く作用する。カムシャフトの回転方向とデコンプアーム62の開方向が同方向であるため、デコンプアーム62には慣性力F3が閉方向に作用して、バネ力F2と慣性力F3によってデコンプアーム62が閉方向に動かされる。このように、エンジンの運転中に回転変動の急激な変化が生じると、デコンプが作動して圧縮抜けや異音が発生する場合がある。
【0019】
図4に示すように、2気筒の燃焼間隔が不等間隔(例えば、270度、450度)のエンジンの場合、一方の気筒の燃焼直後に他方の気筒のデコンプの作動タイミングが来ている。一方の気筒の燃焼によって回転数が加速側に急変動したときに、他方の気筒のデコンプがバルブタペットを乗り越えており、他方の気筒のデコンプが回転変動の影響を強く受けやすい。変形例のデコンプ装置60の場合にはデコンプアーム62が閉方向に動かされて作動位置と解除位置の中間に位置付けられ、デコンプカム63がバルブタペットに弾かれて異音が発生する。
【0020】
このように、先に燃焼する一方の気筒ではバルブタペットの乗り越えタイミングでデコンプアーム62が動かないが、後から燃焼する他方の気筒ではバルブタペットの乗り越えタイミングでデコンプアーム62が動いてしまう。特に、アイドリング以下に回転数が下がった後、一方の気筒の燃焼によって回転数が加速側に急変動したときに異音が発生しやすい。そこで、本実施例のエンジン10には、デコンプアーム51A、51B(
図5参照)の開方向が変更可能なデコンプ装置40A、40Bが使用されて、気筒21A、21Bに適した向きになるようにデコンプアーム51A、51Bの開方向が変更されている。
【0021】
図5及び
図6を参照して、デコンプ装置について説明する。
図5は本実施例の排気カムシャフトの斜視図である。
図6は本実施例のデコンプ装置の斜視図である。また、デコンプ装置には符号A、Bが付されているが、任意のデコンプ装置を特定しない場合にはA、Bを省略することもある。
【0022】
図5に示すように、排気カムシャフト31の左半部には気筒21A用の2つの排気カム33Aが設けられ、排気カムシャフト31の右半部には気筒21B用の2つの排気カム33Bが設けられている。排気カム33A、33Bは270度の位相差を持って設置されている。排気カムシャフト31には、これら4つの排気カム33A、33Bを挟むようにデコンプ装置40A、40Bが設けられている。デコンプ装置40A、40Bは排気カムシャフト31にサークリップ35A、35Bで抜け止めされている。排気カムシャフト31の外周面にはデコンプカムシャフト45A、45B用の収容溝36A、36Bが形成されている。
【0023】
図5及び
図6に示すように、デコンプ装置40は、デコンプホルダ41を介して排気カムシャフト31の外周面に取り付けられている。デコンプホルダ41にはデコンプカムシャフト45、デコンプアーム51、スプリング56が保持されている。デコンプホルダ41は中央が開口したリング板状に形成されており、デコンプホルダ41の内縁が表面側に筒状に突き出している。デコンプホルダ41の内縁には排気カムシャフト31用のキー溝42とデコンプカムシャフト45用の収容溝43が形成されており、デコンプホルダ41の外縁にはスプリング56用の掛け溝44が形成されている。
【0024】
デコンプカムシャフト45は、排気カムシャフト31の収容溝36とデコンプホルダ41の収容溝43に揺動可能に収容されている。デコンプカムシャフト45の一端側はデコンプホルダ41の背面から突き出しており、この突出部分の外周面が平坦に切り欠かれて断面視D字状のデコンプカム46が形成されている。デコンプカム46の揺動によって平坦面47の向きが変わることで、デコンプカム46が排気カム33のベース円に対して出没可能に形成されている。デコンプカムシャフト45の他端側にはデコンプピン48が固定されており、デコンプピン48が操作されることでデコンプカム46が揺動する。
【0025】
デコンプアーム51はC字板状に形成されており、デコンプアーム51の基端がピボット52を介してデコンプホルダ41の表面に揺動可能に連結されている。デコンプアーム51の先端側には一対の保持爪53が形成されており、デコンプカムシャフト45のデコンプピン48が一対の保持爪53の間に挿し込まれて、デコンプアーム51とデコンプカムシャフト45が連結されている。デコンプアーム51は排気カムシャフト31の回転に伴う遠心力を受けて揺動して、デコンプアーム51の揺動によってデコンプピン48が操作される。デコンプアーム51の基端側にはスプリング56用の掛け穴54(
図7参照)が形成されている。
【0026】
スプリング56の一端はデコンプホルダ41の掛け溝44に引っ掛けられ、スプリング56の他端はデコンプアーム51の掛け穴54に引っ掛けられている。スプリング56のバネ力によってデコンプアーム51が閉方向に引き付けられている。このようなデコンプ装置40では、排気カムシャフト31の回転に伴う遠心力によってデコンプアーム51が開方向に動かされてデコンプカム46が排気カム33のベース円から突出される。また、デコンプ装置40では、遠心力に抗するスプリング56のバネ力によってデコンプアーム51が閉方向に動かされてデコンプカム46が排気カム33のベース円に没入される。
【0027】
また、排気カムシャフト31に対するデコンプホルダ41の取り付け向きによってデコンプアーム51の開方向が排気カムシャフト31の回転方向と同方向及び逆方向に変更可能である。本実施例のエンジン10は、燃焼間隔が270度と450度の不等間隔の2気筒エンジンであり、気筒21Aの燃焼直後に気筒21Bのデコンプの作動タイミングが来ている。このため、先に燃焼する気筒21A側と後から燃焼する気筒21B側とで同じデコンプ装置40が用いられるが、気筒21Aと気筒21Bでは排気カムシャフト31に対するデコンプ装置40が逆向きに取り付けられている。
【0028】
図7及び
図8を参照して、デコンプ動作について説明する。
図7は本実施例の一方の気筒のデコンプ装置のデコンプ動作の説明図である。
図8は本実施例の他方の気筒のデコンプ装置のデコンプ動作の説明図である。
【0029】
図7(A)に示すように、先に燃焼する気筒21A用のデコンプ装置40Aは比較例のデコンプ装置60と同じ向きで排気カムシャフト31に取り付けられている。排気カムシャフト31の回転方向の先導側でデコンプアーム51Aの基端がデコンプホルダ41Aに連結され、排気カムシャフト31の回転方向の追従側でデコンプアーム51Aの先端がデコンプカム46Aに連結されている。すなわち、デコンプ装置40Aのデコンプアーム51Aの開方向が排気カムシャフト31の回転方向と同方向になっている。デコンプアーム51Aはデコンプの作動位置P1と解除位置P2の間で揺動可能に支持されている。
【0030】
エンジン始動時にはデコンプアーム51Aに遠心力F1が強く作用しない。スプリング56Aのバネ力F2によってデコンプアーム51Aが閉方向に引き付けられ、デコンプアーム51Aがデコンプの作動位置P1に位置付けられる。デコンプアーム51Aの先端にデコンプピン48Aを介してデコンプカム46Aが連結されており、デコンプカム46Aの平坦面47Aが収容溝36Aの側面側に向けられている。このため、排気カム33Aのベース円からデコンプカム46Aが部分的に突出して、バルブタペット25A(
図2参照)にデコンプカム46Aが円形面側から接触することでデコンプが作動される。
【0031】
図7(B)に示すように、エンジン始動後の運転中にはデコンプアーム51Aに遠心力F1が強く作用する。遠心力F1によってスプリング56Aのバネ力F2に抗してデコンプアーム51Aが開方向に動かされ、デコンプアーム51Aがデコンプの解除位置P2に位置付けられる。デコンプアーム51Aの先端によってデコンプピン48Aが操作されて、デコンプカム46Aの平坦面47Aが収容溝36Aの開口側に向けられる。このため、排気カム33Aのベース円にデコンプカム46Aが没入して、バルブタペット25Aとデコンプカム46Aの接触が回避されてデコンプが解除される。
【0032】
先に燃焼する気筒21A(一方の気筒)では、デコンプの作動タイミングが気筒21B(他の気筒)の燃焼直後になっていない(
図4参照)。気筒21Aのデコンプの作動タイミングは気筒21Bの排気行程中であり、気筒21Aのデコンプの作動タイミングでは気筒21Bの燃焼によって回転数が加速側に急変動することがない。このため、運転中にバルブタペット25Aを乗り越えるタイミングでは気筒21Aのデコンプが誤作動することがなく、バルブタペット25Aとデコンプカム46Aの接触が回避されて、気筒21Aの圧縮抜け及び異音の発生が防止される。
【0033】
図8(A)に示すように、後から燃焼する気筒21B用のデコンプ装置40Bは比較例のデコンプ装置60とは逆向きで排気カムシャフト31に取り付けられている。排気カムシャフト31の回転方向の追従側でデコンプアーム51Bの基端がデコンプホルダ41Bに連結され、排気カムシャフト31の回転方向の先導側でデコンプアーム51Bの先端がデコンプカム46Bに連結されている。すなわち、デコンプ装置40Bのデコンプアーム51Bの開方向が排気カムシャフト31の回転方向と逆方向になっている。デコンプアーム51Bはデコンプの作動位置P1と解除位置P2の間で揺動可能に支持されている。
【0034】
エンジン始動時にはデコンプアーム51Bに遠心力F1が強く作用しない。スプリング56Bのバネ力F2によってデコンプアーム51Bが閉方向に引き付けられ、デコンプアーム51Bがデコンプの作動位置P1に位置付けられる。デコンプアーム51Bの先端にデコンプピン48Bを介してデコンプカム46Bが連結されており、デコンプカム46Bの平坦面47Bが収容溝36Bの側面側に向けられている。このため、排気カム33Bのベース円からデコンプカム46Bが部分的に突出して、バルブタペット25B(
図2参照)にデコンプカム46Bが平坦面47B側から接触することでデコンプが作動される。
【0035】
図8(B)に示すように、エンジン始動後の運転中にはデコンプアーム51Bに遠心力F1が強く作用する。遠心力F1によってスプリング56Bのバネ力F2に抗してデコンプアーム51Bが開方向に動かされ、デコンプアーム51Bがデコンプの解除位置P2に位置付けられる。デコンプアーム51Bの先端によってデコンプピン48Bが操作されて、デコンプカム46Bの平坦面47Bが収容溝36Bの開口側に向けられる。このため、排気カム33Bのベース円にデコンプカム46Bが没入して、バルブタペット25Bとデコンプカム46Bの接触が回避されてデコンプが解除される。
【0036】
後から燃焼する気筒21B(他方の気筒)では、デコンプの作動タイミングが気筒21A(一方の気筒)の燃焼直後になっている(
図4参照)。気筒21Bのデコンプの作動タイミングは気筒21Aの燃焼行程中であり、気筒21Bのデコンプの作動タイミングで気筒21Aの燃焼によって回転数が加速側に急変動する。運転中にバルブタペット25Bを乗り越えるタイミングでデコンプアーム51Aに慣性力が作用するが、デコンプアーム51Bが閉方向に動かないのでデコンプが誤作動することがない。バルブタペット25Bとデコンプカム46Bの接触が回避されて、気筒21Aの圧縮抜け及び異音の発生が防止される。
【0037】
より詳細には、
図8(C)に示すように、エンジン10の回転数が加速側に急変動したときには、デコンプアーム51Bに遠心力F1やバネ力F2の他にも慣性力F3が作用する。上記したように、デコンプアーム51Bの開方向が排気カムシャフト31の回転方向とは逆方向であるため、デコンプアーム51Bには閉方向ではなく開方向に慣性力F3が作用している。バルブタペット25Bを乗り越えるタイミングでデコンプアーム51Bが閉方向に移動しないため、デコンプアーム51Bが解除位置P2に維持されて運転中のデコンプの誤作動が防止される。
【0038】
以上、本実施例のデコンプ装置40によれば、エンジン10の気筒21A、21B毎にデコンプアーム51A、51Bの開方向を変更することができる。気筒21Aでは、エンジン始動時にデコンプが容易に解除されないように、デコンプアーム51Aの開方向が排気カムシャフト31の回転方向と同方向にされる。運転中にデコンプカム46Bがバルブタペット25Bを乗り越えるタイミングで回転変動の影響を受ける気筒21Bでは、デコンプアーム51Bの開方向が排気カムシャフト31の回転方向と逆方向にされる。回転変動の影響によってデコンプが誤作動しなくなって圧縮抜けや異音の発生が抑えられる。また、デコンプアーム51A、51Bの重量調整やスプリング56A、56Bの荷重調整が不要になるため、工数や設計変更の増加を抑えることができる。
【0039】
なお、本実施例では、排気カムシャフトに対するデコンプホルダの取り付け向きによってデコンプアームの開方向が変更可能であるが、デコンプ装置はデコンプアームの開方向が変更可能に構成されていればよい。
【0040】
また、本実施例では、燃焼間隔が270度と450度の不等間隔の2気筒のエンジンを例示したが、エンジンは多気筒エンジンであればよく、燃焼間隔や気筒数は適宜変更が可能である。
【0041】
また、本実施例のデコンプ装置は上記の鞍乗型車両に限らず、自動四輪車等の他の乗り物に採用されてもよい。なお、鞍乗型車両とは、運転者がシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、運転者がシートに跨らずに乗車するスクータタイプの車両も含んでいる。
【0042】
以上の通り、第1態様は、シリンダヘッド(13)に排気カムシャフト(31)が支持され、排気カムシャフトに取り付けられるデコンプ装置(40)であって、排気カムシャフトの排気カム(33)のベース円に対して出没可能なデコンプカム(46)が形成されたデコンプカムシャフト(46)と、排気カムシャフトの回転に伴う遠心力によって開方向に動いてデコンプカムを突出させるデコンプアーム(51)と、遠心力に抗するバネ力によってデコンプアームを閉方向に動かしてデコンプカムを没入させるスプリング(56)と、を備え、気筒毎にデコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と同方向及び逆方向に変更可能である。この構成によれば、エンジンの気筒毎にデコンプアームの開方向を変更することができる。通常の気筒では、エンジン始動時にデコンプが容易に解除されないように、デコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と同方向にされる。運転中にデコンプカムがバルブタペットを乗り越えるタイミングで回転変動の影響を受ける気筒では、デコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と逆方向にされる。回転変動の影響によってデコンプが作動しなくなって圧縮抜けや異音の発生が抑えられる。また、デコンプアームの重量調整やスプリングの荷重調整が不要になるため、工数や設計変更の増加を抑えることができる。
【0043】
第2態様は、第1態様において、排気カムシャフトの外面でデコンプカムシャフト、デコンプアーム、スプリングを保持するデコンプホルダ(41)を備え、排気カムシャフトに対するデコンプホルダの取り付け向きによってデコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と同方向及び逆方向に変更可能である。この構成によれば、デコンプホルダの取り付け向きによってデコンプアームの開方向の向きを容易に変更することができる。
【0044】
第3態様は、第1態様及び第2態様において、上記のデコンプ装置と、複数の気筒(21)が形成されたシリンダ(12)と、を備え、複数の気筒の燃焼間隔が不等間隔である。この構成によれば、一方の気筒の燃焼直後に他方の気筒のデコンプの作動タイミングが来やすくなるが、他方の気筒のデコンプアームの開方向を排気カムシャフトの回転方向と逆方向にすることで回転変動によるデコンプの作動が抑えられる。
【0045】
第4態様は、第3態様において、複数の気筒の燃焼間隔が270度と450度の不等間隔の2気筒であり、先に燃焼する一方の気筒のデコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と同方向であり、後から燃焼する他方の気筒のデコンプアームの開方向が排気カムシャフトの回転方向と逆方向である。この構成によれば、一方の気筒の燃焼直後に他方の気筒のデコンプの作動タイミングが来るが、他方の気筒のデコンプアームの開方向を排気カムシャフトの回転方向と逆方向にすることで回転変動によるデコンプの作動が抑えられる。
【0046】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0047】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。