(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068420
(43)【公開日】2024-05-20
(54)【発明の名称】水処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20240513BHJP
【FI】
C02F1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022178857
(22)【出願日】2022-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】菊池 陽介
(72)【発明者】
【氏名】川中 良生
(57)【要約】
【課題】冷凍機などの被冷却装置の冷媒と熱交換するために、冷却塔を介して循環される循環水の温度、及び循環水に注入される薬剤を一元的に管理することができる水処理システムを提供すること。
【解決手段】水処理システムは、被冷却装置と冷却装置とを備え、冷却塔の設置環境の温度に関する情報を取得する気温情報取得手段と、冷却塔からの出口及び冷却塔への入口における循環水の温度に関する情報を取得する水温情報取得手段と、被冷却装置の消費電力に関する情報を取得する第1の電力情報取得手段と、冷却装置の消費電力に関する情報を取得する第2の電力情報取得手段と、の各情報取得手段が取得した情報の少なくとも一部に基づいて、循環水の設定温度、冷却ファンの稼働温度範囲、薬剤の種類、薬剤の注入量及び循環水の補給量のうちの少なくとも1つの項目について、推奨する数値又は種類を導出する情報処理部と、を更に備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却装置と、
冷却ファンを備える冷却塔、及び前記被冷却装置と前記冷却塔との間で薬剤を含む循環水を循環させる循環水ラインを備える冷却装置と、を備える水処理システムであって、
前記冷却塔の設置環境の温度に関する情報を取得する気温情報取得手段と、
前記冷却塔からの出口及び前記冷却塔への入口における前記循環水の温度に関する情報を取得する水温情報取得手段と、
前記被冷却装置の消費電力に関する情報を取得する第1の電力情報取得手段と、
前記冷却装置の消費電力に関する情報を取得する第2の電力情報取得手段と、
前記の各情報取得手段が取得した情報の少なくとも一部に基づいて、前記循環水の設定温度、前記冷却ファンの稼働温度範囲、前記薬剤の種類、前記薬剤の注入量及び前記循環水の補給量のうちの少なくとも1つの項目について、推奨する数値又は種類を導出する情報処理部と、を更に備える水処理システム。
【請求項2】
前記の推奨する数値又は種類は、費用を抑制するとの観点から導出される、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記費用は、前記薬剤の費用、補給する前記循環水の費用、前記被冷却装置の稼働費用、及び前記冷却装置の稼働費用のうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記情報処理部は、請求項1に記載の項目のうちの1つの項目について、2つ以上の推奨する数値又は種類を導出し、
前記情報処理部は、当該2つ以上の推奨する数値又は種類のうちの少なくとも2つについて、費用の差を導出する、請求項2に記載の水処理システム。
【請求項5】
被冷却装置と、
冷却ファンを備える冷却塔、及び前記被冷却装置と前記冷却塔との間で薬剤を含む循環水を循環させる循環水ラインを備える冷却装置と、を備える水処理システムにおいて、
前記冷却塔からの出口における前記循環水の温度に関する情報、前記冷却塔への入口における前記循環水の温度に関する情報、前記被冷却装置の消費電力に関する情報及び前記冷却装置の消費電力に関する情報のうちの少なくとも1つに関する情報を取得するステップと、
前記の取得された情報のうちの少なくとも一部に基づいて、前記循環水の設定温度、前記冷却塔に備えられた冷却ファンの稼働温度範囲、前記薬剤の種類、前記薬剤の注入量、及び前記循環水の補給量のうちの少なくとも1つの項目について、推奨する数値又は種類を導出する情報処理ステップと、を備える、推奨値の導出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍機及び冷却塔を備え、冷凍機内を循環する冷媒と、冷却塔を介して循環する循環水との間で熱交換を行う水処理システムが知られている。そして、冷凍機を効率良く運転させるために、循環水の適切な温度を算出する方法が提案されている。例えば特許文献1には、冷凍機の運転状況に応じて、冷媒と熱交換させる循環水の温度、具体的には、冷凍機の凝縮器への入口における循環水の温度の下限値を算出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷却塔を介して循環される循環水には、薬剤が注入されている場合がある。循環水の中でスケールが成長することなどを抑制するためである。この薬剤は、循環水の温度が変わると、薬剤の好ましい種類、又は好ましい量が変わる場合がある。そのため、循環水の温度と、循環水に注入される薬剤とは、一元的に管理されていることが好ましい。しかし、これまで、循環水の温度、及び循環水に注入される薬剤を一元的に管理する技術は提案されていない。
【0005】
そこで、本発明は、冷凍機などの被冷却装置の冷媒と熱交換するために、冷却塔を介して循環される循環水の温度、及び循環水に注入される薬剤を一元的に管理することができる水処理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)被冷却装置と、冷却ファンを備える冷却塔、及び前記被冷却装置と前記冷却塔との間で薬剤を含む循環水を循環させる循環水ラインを備える冷却装置と、を備える水処理システムであって、前記冷却塔の設置環境の温度に関する情報を取得する気温情報取得手段と、前記冷却塔からの出口及び前記冷却塔への入口における前記循環水の温度に関する情報を取得する水温情報取得手段と、前記被冷却装置の消費電力に関する情報を取得する第1の電力情報取得手段と、前記冷却装置の消費電力に関する情報を取得する第2の電力情報取得手段と、前記の各情報取得手段が取得した情報の少なくとも一部に基づいて、前記循環水の設定温度、前記冷却ファンの稼働温度範囲、前記薬剤の種類、前記薬剤の注入量及び前記循環水の補給量のうちの少なくとも1つの項目について、推奨する数値又は種類を導出する情報処理部と、を更に備える水処理システム。
【0007】
(2)前記の推奨する数値又は種類は、費用を抑制するとの観点から導出される、(1)に記載の水処理システム。
【0008】
(3)前記費用は、前記薬剤の費用、補給する前記循環水の費用、前記被冷却装置の稼働費用、及び前記冷却装置の稼働費用のうちの少なくとも1つを含む、(2)に記載の水処理システム。
【0009】
(4)前記情報処理部は、請求項1に記載の項目のうちの1つの項目について、2つ以上の推奨する数値又は種類を導出し、前記情報処理部は、当該2つ以上の推奨する数値又は種類のうちの少なくとも2つについて、費用の差を導出する、(2)又は(3)に記載の水処理システム。
【0010】
(5)被冷却装置と、冷却ファンを備える冷却塔、及び前記被冷却装置と前記冷却塔との間で薬剤を含む循環水を循環させる循環水ラインを備える冷却装置と、を備える水処理システムにおいて、前記冷却塔からの出口における前記循環水の温度に関する情報、前記冷却塔への入口における前記循環水の温度に関する情報、前記被冷却装置の消費電力に関する情報及び前記冷却装置の消費電力に関する情報のうちの少なくとも1つに関する情報を取得するステップと、前記の取得された情報のうちの少なくとも一部に基づいて、前記循環水の設定温度、前記冷却塔に備えられた冷却ファンの稼働温度範囲、前記薬剤の種類、前記薬剤の注入量、及び前記循環水の補給量のうちの少なくとも1つの項目について、推奨する数値又は種類を導出する情報処理ステップと、を備える、推奨値の導出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、冷凍機などの被冷却装置の冷媒と熱交換するために、冷却塔を介して循環される循環水の温度、及び循環水に注入される薬剤を一元的に管理することができる水処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の水処理システムの概略構成を示す図である。
【
図2】冷却装置の温度設定と水処理システムの消費電力との関係を示す図である。
【
図3】循環水の温度と主要なコストの増減傾向との関係を示す図である。
【
図4】本実施形態の水処理システムの機能的な概略構成を示す、機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(水処理システム)
以下、本発明の水処理システム10の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、水処理システム10の概略構成を示す図である。
図1に示すように、水処理システム10は、被冷却装置20、冷却装置40、及び冷温水装置60を備える。
【0014】
(各装置の関係)
水処理システム10に備えらえる3つの装置は、例えば以下のように稼働する。冷温水装置60において冷却された用水70が必要とされる場合を考える。用水70の冷却は被冷却装置20との熱交換により行う。そして、被冷却装置20は、冷温水装置60から取り込んだ熱を、冷却装置40との熱交換により放熱する。そして、冷却装置40は、被冷却装置20から取り込んだ熱を、冷却塔42から放熱する。
【0015】
(具体的な構成例)
水処理システム10の具体的な構成例を説明する。
(冷温水装置(空調機))
冷温水装置60は、例えば空調機とすることができる。冷温水装置60が空調機である場合、室内の空気を冷やすために、空気と熱交換する冷却された用水70が必要となる。用水70を冷却して、冷却された用水70を得るために、被冷却装置20を用いる。
【0016】
(被冷却装置(冷凍機))
被冷却装置20は、例えば冷凍機とすることができる。冷凍機では、冷媒30が圧縮機22を介して循環している。そして、液体の冷媒30が気化する際の吸熱により、用水70を冷却する。用水70から吸熱した冷媒30は、気体の冷媒30となる。気体の冷媒30を再び液体の冷媒30にするために、冷却装置40を用いる。
【0017】
(冷却装置(屋外冷却機))
冷却装置40は、例えば冷却塔42を備える屋外冷却機とすることができる。屋外冷却機では、循環水50が冷却塔42を介して循環している。この循環水50と、被冷却装置20の気体の冷媒30とが熱交換することで、気体の冷媒30が有する熱が放熱される。水温が上昇した屋外冷却機の循環水50は、冷却塔42で冷却される。これにより、循環水50は、被冷却装置20の気体の冷媒30と繰り返して熱交換することが可能になる。
【0018】
(消費電力)
水処理システム10において、消費電力が多い装置は被冷却装置20である。被冷却装置20のなかでも、圧縮機22の消費電力が多い。そこで、水処理システム10の全体の消費電力を低減させるためには、圧縮機22の消費電力を低減させることが有効である。以下、消費電力低減の観点も踏まえて、水処理システム10についてより詳細に説明する。
【0019】
(被冷却装置)
被冷却装置20の構成について説明する。被冷却装置20は、圧縮機22、凝縮器32、膨張弁26及び蒸発器34を備えている。これらは、冷媒ライン24を介して順に接続されている。冷媒ライン24には、冷媒30が流されている。冷媒ライン24は、全体として環を形成している。そのため、冷媒30は冷媒ライン24を流れることで、圧縮機22、凝縮器32、膨張弁26及び蒸発器34を介して循環することができる。
【0020】
(冷媒の吸放熱)
被冷却装置20における冷媒30の吸放熱について説明する。膨張弁26が開くことで膨張させられた液体の冷媒30は、蒸発器34で気化し、気体の冷媒30となる。冷媒30は、蒸発器34で気化する際、冷温水装置60の用水70から熱を吸収する。熱を吸収した気体の冷媒30は、圧縮機22で圧縮される。
【0021】
圧縮された気体の冷媒30は、凝縮器32で液化され液体の冷媒30となる。冷媒30は、凝縮器32で液化する際、冷却装置40に対して熱を放出する。熱を放出した液体の冷媒30は、膨張弁26が開くことで膨張させられ、蒸発器34に送られる。このように、冷媒30は冷媒ライン24を循環する。以降、冷媒30は、同様の循環を繰り返す。
【0022】
この循環の中で、消費電力が多いのは、圧縮機22による冷媒30の圧縮である。被冷却装置20の消費電力は、圧縮機22の消費電力に近似することができる。ここで、圧縮機22の消費電力は、凝縮器32からの放熱を受ける循環水50の温度に依存する。
【0023】
(冷却装置)
循環水50が循環される冷却装置40について説明する。冷却装置40は、循環水ポンプ46及び冷却塔42を備えている。これらは、循環水ライン44を介して接続されている。循環水ライン44には、循環水50が流されている。循環水50には、薬剤80が注入されている。循環水ライン44は、全体として環を形成している。そのため、循環水50は循環水ライン44を流れることで、循環水ポンプ46及び冷却塔42を介して循環することができる。
【0024】
(循環水の吸放熱)
冷却装置40における循環水50の吸放熱について説明する。循環水50は、被冷却装置20の凝縮器32において、被冷却装置20の冷媒30と熱交換する。具体的には、循環水50は、被冷却装置20の冷媒30から熱を吸収する。熱を吸収した循環水50は、冷却塔42で冷却される。冷却された循環水50は、再び、被冷却装置20の凝縮器32において、被冷却装置20の冷媒30と熱交換する。このように、循環水50は循環水ライン44を循環する。以降、循環水50は、同様の循環を繰り返す。
【0025】
冷却ファン52の稼働のさせ方により、循環水50の温度が変化する。循環水50の温度が変化すると、被冷却装置20の消費電力が変化する。前述のように、圧縮機22の消費電力は、循環水50の温度に依存するからである。そして、冷却装置40の消費電力と、被冷却装置20の消費電力との関係は、二律背反になる。以下、具体的に説明する。
【0026】
一般に、被冷却装置20の凝縮器32に導入される循環水50の温度が下がると、被冷却装置20の消費電力は低下する。そのため、冷却ファン52を多く稼働させると、冷却装置40の消費電力は上昇するが、循環水50の温度は低下し、延いては、被冷却装置20の消費電力が低下する。逆に、冷却ファン52を少なく稼働させると、冷却装置40の消費電力は低下するが、循環水50の温度は上昇し、延いては、被冷却装置20の消費電力が上昇する。
【0027】
図2に基づいて、冷却装置40の温度設定と、水処理システム10の消費電力との関係について具体例を説明する。
図2のG1は、各種温度の経時変化を示すグラフである。グラフG1の横軸は時刻であり、縦軸は温度である。
図2のG2は、被冷却装置20の圧縮機22及び冷却装置40の冷却ファン52の消費電力の経時変化を示すグラフである。グラフG2の横軸は時刻であり、縦軸は消費電力である。グラフG1とグラフG2の横軸の時刻は揃っている。
【0028】
(グラフG1)
図1に、冷却装置40の循環水ライン44における冷却塔42からの出口の部分をP1で示す。同様に、循環水ライン44における冷却塔42への入口の部分をP2で示す。循環水50の出口P1での温度を出口温度とする。循環水50の入口P2での温度を入口温度とする。グラフG1において、T-1は、出口温度を示す。また、T-2は、入口温度を示す。グラフG1に示すように、出口温度T-1は、入口温度T-2よりも低くなっている。これは、循環水50が冷却塔42で冷却されたためである。また、グラフG1において、T-3は、冷却塔42の近傍での外気湿球温度を示す。
【0029】
(設定変更)
グラフG1に示す例では、時刻10:30と時刻11:00との間に示す「設定変更」において、冷却塔42の冷却ファン52の稼働に関する設定を変更している。具体的には、設定変更前の設定は、出口温度T-1が20℃以上に上昇した場合に冷却ファン52を稼働させ、出口温度T-1が16℃以下に低下した場合に冷却ファン52の稼働を停止させるというものである。これに対して、設定変更後の設定は、出口温度T-1が20℃以上に上昇した場合に冷却ファン52を稼働させ、出口温度T-1が12℃以下に低下した場合に冷却ファン52の稼働を停止させるというものである。この設定変更により、出口温度T-1の平均値は、約17℃から約13℃に低下している。また、入口温度T-2の平均値も、設定変更前の約20℃から、設定変更後の約16℃に低下している。
【0030】
(グラフG2)
次に、グラフG2について説明する。グラフG2におけるCは、被冷却装置20の圧縮機22の消費電力を示す。グラフG2におけるFANは、冷却塔42の冷却ファン52の消費電力を示す。時刻10:30と時刻11:00との間での「設定変更」により、冷却ファン52の稼働時間が長くなっている。それに伴い、冷却ファン52の消費電力FANが増加している。循環水50の温度を低下させるためには、より多く冷却ファン52を稼働させる必要があるためである。冷却ファン52の平均消費電力は、設定変更前は2.7kWであったのに対して、設定変更後は8.9kWとなった。
【0031】
一方、圧縮機22の消費電力は、設定変更により低下している。圧縮機22の平均消費電力は、設定変更前は、32.0kWであったのに対して、設定変更後は、23.0kWとなった。
【0032】
このように、循環水50の温度に関する設定の変更により、冷却装置40の消費電力は増加し、逆に、被冷却装置20の消費電力は低下している。
【0033】
(合計消費電力)
ここで、冷却装置40の消費電力と、被冷却装置20の消費電力との和を合計消費電力とする。この合計消費電力は、前述のように、冷却ファン52の消費電力と、圧縮機22の消費電力との和と考えることができる。
【0034】
設定変更前の冷却ファン52の消費電力は2.7kWであり、設定変更前の圧縮機22の消費電力は32.0kWである。設定変更前の合計消費電力は、34.7kWとなる。これに対して、設定変更後の冷却ファン52の消費電力は8.9kWであり、設定変更後の圧縮機22の消費電力は23.0kWである。設定変更後の合計消費電力は、31.9kWとなる。設定変更により、合計消費電力は、約8%減少している。
【0035】
(他の設定変更例)
他の設定変更の例を示す。
設定変更前の設定は、冷却ファン52の稼働を開始させる循環水50の温度は22℃、冷却ファン52の稼働を停止させる循環水50の温度は18℃であった。これに対し、設定変更後の設定は、冷却ファン52の稼働を開始させる循環水50の温度は18℃、冷却ファン52の稼働を停止させる循環水50の温度は15℃とした。この設定変更により、循環水50の温度変化幅は、設定変更前の18℃以上22℃以下から、15℃以上18℃以下に変化した。
【0036】
また、設定変更により、設定変更前の冷却ファン52の電流値が3A、被冷却装置20の電流値が98Aから、冷却ファン52の電流値が5A、被冷却装置20の電流値が86Aに変化した。また、冷却ファン52の電流値と被冷却装置20の電流値との合計の電流値は、設定変更前の101Aから、91Aに変化した。
【0037】
この例においても、設定変更により、冷却装置40の消費電力は増加するものの、被冷却装置20の消費電力は減少し、その結果、合計の消費電力は減少している。なお、この例において、外気温は15℃、相対湿度は50%、外気湿球温度は10℃であった。
【0038】
このように、二律背反の関係にある冷却装置40の消費電力と、被冷却装置20の消費電力とについて、冷却ファン52を稼働させる基準となる循環水50の温度設定を調節することで、合計の消費電力を低減させることができる。
【0039】
(冷温水装置)
ここで、冷温水装置60の構成例について説明する。冷温水装置60の構成は特には限定されない。以下、冷温水装置60が空調機である場合について説明する。冷温水装置60は、用水弁66及び室内機62を備えている。これらは、冷温水ライン64を介して接続されている。冷温水ライン64には、用水70が流されている。冷温水ライン64は、全体として環を形成している。そのため、用水70は冷温水ライン64を流れることで、用水弁66及び室内機62を介して循環することができる。そして、用水70は被冷却装置20の蒸発器34での熱交換により、熱を放出して冷却される。冷却された用水70は、室内機62を介して室内の空気と熱交換する。これにより、室内の空気が冷却される。室内の空気との熱交換により暖められた用水70は、再び、被冷却装置20の蒸発器34での熱交換により冷却される。このように、用水70は冷温水ライン64を循環する。以降、用水70は、同様の循環を繰り返す。
【0040】
(薬剤)
冷却装置40の循環水50に注入される薬剤80について説明する。前述のように、薬剤80は、循環水50の温度が変わると、薬剤80の好ましい種類、又は好ましい量が変わる場合がある。
【0041】
また、循環水50の設定温度が変わると、循環水50の補給が必要となり、延いては、薬剤80の追加が必要となる場合がある。例えば、循環水50の設定温度を下げた場合、冷却塔42の冷却ファン52の稼働時間が長くなる。冷却ファン52の稼働時間が長くなると、循環水50の蒸発水量が増加する。これにより、循環水50の補給が必要となる。そして、循環水50の補給に伴い、補給量に対応する薬剤の追加注入が必要になる、というものである。
【0042】
(全体のコスト)
水処理システム10の全体のコストを、それを構成する3つの主要なコストの和として考える。3つの主要なコストとは、水処理コスト、冷却装置40の消費電力及び被冷却装置20の消費電力である。水処理コストは、補給する循環水50の費用、及び補給する薬剤80の費用の和である。冷却装置40の消費電力は、主に冷却ファン52の消費電力である。被冷却装置20の消費電力は、主に圧縮機22の消費電力である。
【0043】
(増減の傾向)
図3に、循環水50の設定温度と、3つの主要なコストの増減との関係を示す。ここで、循環水50の設定温度とは、例えば、冷却ファン52の稼働の開始及び稼働の停止の閾値となる温度である。具体的には、例えば、循環水50の温度が設定温度まで下がると、冷却ファン52の稼働を停止し、循環水50の温度が設定温度まで上がると、冷却ファン52の稼働を開始するようにすることができる。
(水処理コスト)
水処理コストは、循環水50の設定温度が下がると、それに伴い増加する。循環水50の温度を下げるためには、冷却ファン52をより長時間稼働させる必要がある。冷却ファン52を長時間稼働させると、循環水50の蒸発量が増加する。そのため、循環水50をより多く補給する必要が生じる。また、補給する循環水50に対して新たに薬剤を注入する必要が生じる。このように、循環水50の設定温度が下がると、補給する循環水50の費用、及び補給する薬剤80の費用が増加するため、水処理コストが増加する。
【0044】
(冷却装置の消費電力)
冷却装置40の消費電力は、循環水50の設定温度が下がると、それに伴い増加する。冷却装置40の消費電力は、冷却ファン52の消費電力で近似することができる。循環水50の設定温度が下がると、循環水50の温度を下げるために、冷却ファン52の稼働時間が長くなる。そのため、冷却ファン52の消費電力が増加し、延いては、冷却装置40の消費電力が増加する。
【0045】
(冷却装置の消費電力)
被冷却装置20の消費電力は、循環水50の設定温度が下がると、それに伴い減少する。被冷却装置20の消費電力は、圧縮機22の消費電力で近似することができる。圧縮機22の消費電力は、循環水50の温度が下がると、それに伴い低下する。例えば、被冷却装置20が冷凍機である場合、冷却水の冷凍機への入口温度が低下すると、冷凍機の効率を示す成績係数COP(COP:Coefficient of Performance)が大きくなり、効率が向上するからである。
【0046】
以上のように、循環水50の設定温度を上げたり下げたりすることに対して、処理コスト及び冷却装置40の消費電力と、被冷却装置20の消費電力とは、逆の増減傾向を示す。そこで、水処理システム10の全体のコストを低減するためには、逆の増減傾向を示すコストをバランスさせ、全体のコストが最小となる循環水50の設定温度を見出すことが好ましい。
【0047】
循環水50の好ましい設定温度などを見出すために、水処理システム10は、各種の情報取得手段及び情報処理部100を備える。
図4に基づいて説明する。
図4は、本実施形態の水処理システム10の機能的な概略構成を示す機能ブロック図である。
図4に示すように、水処理システム10は、冷却装置40、被冷却装置20及び冷温水装置60を備える。そして、冷却装置40と被冷却装置20との間で熱交換が行われる。また、被冷却装置20と冷温水装置60との間で熱交換が行われる。
【0048】
(情報取得手段)
水処理システム10には、情報取得手段として、気温情報取得手段110、水温情報取得手段120、第1の電力情報取得手段130及び第2の電力情報取得手段140が備えられている。
【0049】
(気温情報取得手段)
気温情報取得手段110は、冷却塔42の設置環境の外気湿球温度に関する情報を取得する手段である。外気湿球温度は、外気温度と湿度とから計算することが可能である。具体的には、外気湿球温度は、(1)外気温と湿度をセンサで測定する、(2)気象庁データを使う、(3)外気温は測定して、湿度は気象庁データを使う、などの方法によって求めることができる。そこで、気温情報取得手段110の一例としては、冷却塔42の近傍に配置される、外気温と湿度とを測定可能なセンサなどとすることができる。
【0050】
(水温情報取得手段)
水温情報取得手段120は、冷却塔42からの出口及び冷却塔42への入口における循環水50の温度に関する情報を取得する手段である。水温情報取得手段120は、例えば、循環水ライン44に設置される温度センサ又は温度計などとすることができる。
【0051】
なお、冷却塔42からの出口における循環水50の温度は、被冷却装置20への入口における循環水50の温度と同温度であると考えることができる。また、冷却塔42への入口における循環水50の温度は、被冷却装置20からの出口における循環水50の温度と同温度であると考えることができる。
【0052】
より具体的には、被冷却装置20への入口における循環水50の温度とは、被冷却装置20の凝縮器32への入口における循環水50の温度である。また、被冷却装置20からの出口における循環水50の温度とは、被冷却装置20の凝縮器32からの出口における循環水50の温度である。
【0053】
(電力情報取得手段)
第1の電力情報取得手段130は、被冷却装置20の消費電力に関する情報を取得する手段である。被冷却装置20の消費電力は、圧縮機22の消費電力に近似することができる。
また、第2の電力情報取得手段140は、冷却装置40の消費電力に関する情報を取得する手段である。冷却装置40の消費電力は、冷却装置40に備えられる冷却塔42の冷却ファン52の消費電力に近似することができる。
【0054】
(情報処理部)
水処理システム10には、情報処理部100が備えられている。情報処理部100は、各情報取得手段が取得した情報を取得する。そして、取得した情報の少なくとも一部に基づいて、循環水50の設定温度、冷却ファン52の稼働温度範囲、薬剤80の種類、薬剤80の注入量及び循環水50の補給量のうちの少なくとも1つの項目について、推奨する数値又は種類を導出する。
【0055】
情報処理部100は、前述の推奨する数値又は種類を、費用を抑制するとの観点から導出することができる。
【0056】
また、前述の費用は、薬剤80の費用、補給する循環水50の費用、被冷却装置20の稼働費用、及び冷却装置40の稼働費用のうちの少なくとも1つを含むようにすることができる。
【0057】
さらに、情報処理部100は、循環水50の設定温度、冷却ファン52の稼働温度範囲、薬剤80の種類、薬剤80の注入量及び循環水50の補給量のうちの少なくとも1つの項目について、2つ以上の推奨する数値又は種類を導出するようにすることができる。また、情報処理部100は、これらの2つ以上の推奨する数値又は種類のうちの少なくとも2つについて、費用の差を導出するようにすることができる。
【0058】
(蒸発水量)
前述の推奨する数値又は種類を導出するにあたり、冷却塔42における循環水50の蒸発量は、例えば下記のようにして算出することができる。
蒸発水量(m3/h)=循環水量(m3/h)×冷却温度(℃)×比熱(kJ/kg・K)×負荷率/蒸発潜熱(kJ/kg)
前記式において、循環水量は、循環水ライン44を循環する循環水50の水量である。また、冷却温度は、冷却塔42の入口における循環水50の温度と、冷却塔42の出口における循環水50の温度との差である。比熱は、循環水50の比熱である。
【0059】
(補給水量)
また、補給すべき循環水50の量は、例えば下記のようにして算出することができる。
補給水量(m3/h)=蒸発量(m3/h)×濃縮倍率/(濃縮倍率-1)
【0060】
図4に示す水処理システム10における前述の推奨する数値又は種類を導出する方法は、以下のように示すことができる。すなわち、被冷却装置20と、冷却ファン52を備える冷却塔42、及び被冷却装置20と冷却塔42との間で薬剤80を含む循環水50を循環させる循環水ライン44を備える冷却装置40と、を備える水処理システム10において、冷却塔42からの出口における循環水50の温度に関する情報、冷却塔42への入口における循環水50の温度に関する情報、被冷却装置20の消費電力に関する情報及び冷却装置40の消費電力に関する情報のうちの少なくとも1つに関する情報を取得するステップと、取得された情報のうちの少なくとも一部に基づいて、循環水50の設定温度、冷却塔42に備えられた冷却ファン52の稼働温度範囲、薬剤80の種類、薬剤80の注入量、及び循環水50の補給量のうちの少なくとも1つの項目について、推奨する数値又は種類を導出する情報処理ステップと、を備える、推奨値の導出方法、と示すことができる。情報を取得するステップは、気温情報取得手段110、水温情報取得手段120、第1の電力情報取得手段130及び第2の電力情報取得手段140が担う。また、推奨する数値又は種類を導出する情報処理ステップは、情報処理部100が担う。
【0061】
情報処理部100は、各情報取得手段が取得した情報に基づいて、前述の推奨する数値又は種類を導出する。これにより、全体のコストを抑制しながらの水処理システム10の運用が可能になる。
【0062】
例えば、夏場と冬場とで、冷却ファン52を稼働させる循環水50の温度範囲を異ならせることができる。夏場など、外気湿球温度から判断して、循環水50の温度がこれ以上冷えない温度に達したのちに、さらに冷却ファン52を稼働させ続けることを防ぐことができる。これにより、循環水50の温度は下がらないにもかかわらず、冷却ファン52を稼働させ続けることで、循環水50が蒸発していくことを抑制することができる。
【0063】
また、循環水50の温度が下がりすぎると、被冷却装置20の運転が不安定になる場合がある。冷却ファン52が稼働する温度範囲を適切に設定すること、循環水50の温度が下がりすぎないようにすることができる。
【0064】
なお、情報処理部100は、各情報取得手段が取得した情報に基づいて、前述の推奨する数値又は種類を導出することには限定されず、例えば蓄積されている過去のデータを参照しながら、実例に基づいて前述の推奨する数値又は種類を導出することもできる。例えば、情報処理部100は、過去の同じような時期に取得されたデータを参照して、循環水50の推奨する設定温度を導出することもできる。
【0065】
また、第1の電力情報取得手段130又は第2の電力情報取得手段140が電力情報を取得する手段は、特には限定されない。例えば、消費電力を測定することで電力情報を取得してもよく、又は、設備の稼働時間から消費電力を算出することで電力情報を取得してもよい。さらに、過去の実績などを参照しながら、例えば、外気湿球温度及び循環水50の温度などから消費電力を予測することもできる。これらの手法は、冷却塔42の冷却ファン52の消費電力にも、被冷却装置20の圧縮機22の消費電力にも適用することができる。
【0066】
また、気温情報取得手段110が外気湿球温度などの気温情報を取得する手段は、特には限定されない。例えば、外気温及び湿度センサで外気温及び湿度を実測し、それらに基づいて外気湿球温度を取得してもよく、又は、気象庁などから公表されている外気温及び湿度から算出することで、外気湿球温度を取得してもよい。
【0067】
また、水温情報取得手段120は、冷却塔42からの出口における循環水50の温度、及び冷却塔42への入口における循環水50の温度を水温情報として取得してもよく、又は、冷却塔42からの出口における循環水50の温度に代わって、被冷却装置20への入口における循環水50の温度を取得し、冷却塔42への入口における循環水50の温度に代わって、被冷却装置20からの出口における循環水50の温度を取得してもよい。
【0068】
以上のようにして、本実施形態の水処理システム10は、各装置の消費電力に加えて、水処理コスト(薬剤代及び水代)も含めた総合的な判断として、水処理に関係する推奨する設定値を顧客に提示することができる。
【符号の説明】
【0069】
10 水処理システム
20 被冷却装置(冷凍機)
22 圧縮機
24 冷媒ライン
26 膨張弁
30 冷媒
32 凝縮器
34 蒸発器
40 冷却装置(屋外冷却機)
42 冷却塔
44 循環水ライン
46 循環水ポンプ
50 循環水
52 冷却ファン
60 冷温水装置(空調機)
62 室内機
64 冷温水ライン
66 用水弁
70 用水
80 薬剤
100 情報処理部
110 気温情報取得手段
120 水温情報取得手段
130 第1の電力情報取得手段
140 第2の電力情報取得手段
P1 冷却塔からの出口
P2 冷却塔への入口