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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024068913
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】運転支援装置及び車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/182 20200101AFI20240514BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20240514BHJP
   B60W 50/08 20200101ALI20240514BHJP
   B60K 31/02 20060101ALI20240514BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240514BHJP
   B60T 8/175 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
B60W30/182
B60W30/14
B60W50/08
B60K31/02
B60T7/12 F
B60T8/175
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022179594
(22)【出願日】2022-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】深澤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】江畑 達郎
【テーマコード(参考)】
3D241
3D244
3D246
【Fターム(参考)】
3D241BA01
3D241BA02
3D241BA10
3D241BA18
3D241BA57
3D241BB05
3D241BB06
3D241BB41
3D241BB42
3D241BC01
3D241CC01
3D241CC08
3D241CD15
3D241CE04
3D241CE05
3D241DA13Z
3D241DA39Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB23Z
3D241DC02Z
3D241DC03Z
3D241DC12Z
3D241DD11Z
3D244AA01
3D244AB01
3D244AC16
3D244AC24
3D246DA01
3D246EA02
3D246GB02
3D246GB33
3D246HA51A
3D246HA52A
3D246HA64A
3D246HB11A
3D246JB03
3D246JB05
3D246JB32
3D246JB33
3D246JB43
(57)【要約】
【課題】路面状況が安定的な高速道路のみならず、雪道や泥道などの一般道における路面状況や運転者の嗜好に応じた追従走行制御を発動する運転支援装置及び車両を提供する。
【解決手段】 運転支援装置10は、車両100の運転者による走行モードの選択に従い走行モードを決定する走行モード決定部11と、走行モード毎に規定されるトラクション制御条件に従って、駆動輪のスリップ量が介入閾値を超えた場合にエンジン25及びブレーキシステム26の少なくとも一方を制御して駆動輪のスリップを抑制するトラクション制御部12と、走行モード毎に規定される追従制御条件に従って、先行車に追従する追従走行を制御する追従走行制御部15と、を備え、追従走行制御部15は、走行モードが切り替えられた場合に切り替え後の走行モードで規定される追従制御条件に変更して追従走行を制御する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者による走行モードの選択に従い走行モードを決定する走行モード決定部と、
前記走行モード毎に規定されるトラクション制御条件に従って、駆動輪のスリップ量が介入閾値を超えた場合にエンジン及びブレーキシステムの少なくとも一方を制御して前記駆動輪のスリップを抑制するトラクション制御部と、
前記走行モード毎に規定される追従制御条件に従って先行車に追従する追従走行を制御する追従走行制御部と、を備え、
前記追従走行制御部は、前記走行モードが切り替えられた場合に切り替え後の前記走行モードで規定される前記追従制御条件に変更して前記追従走行を制御することを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記走行モードは、
前記トラクション制御条件で規定する前記介入閾値及びトラクション制御量の少なくとも一方及び前記追従制御条件で規定するエンジントルク及びブレーキ制動力の少なくとも一方がいずれもデフォルト値である第1のモードと、
前記第1のモードとは異なる前記トラクション制御条件を有する選択モードと、を含む請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記選択モードは、前記トラクション制御条件の前記ブレーキ制動力に対する前記介入閾値が前記第1のモードよりも小さく規定される第2のモードを含み、
前記第2のモードの前記追従制御条件において、
発進時の前記エンジントルク制御量は第1のモードより低く設定され、
所定の車速以上となったときの前記エンジントルクの上昇率は前記第1のモードより大きく設定される請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記第2のモードにおける前記追従制御条件において、
前記車両と先行車との車間距離は第1のモードよりも大きく設定され、
前記車両のブレーキシステムの作動タイミングは前記第1のモードよりも早く設定される請求項3に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記選択モードは、既定の車速以下の車速帯において、前記トラクション制御部による前記エンジンのトルクダウンが抑制または禁止され、かつ、前記トラクション制御条件の前記ブレーキ制動力が前記第1のモードより大きく設定される第3のモードを含み、
前記第3のモードの前記追従制御条件において、発進時の前記エンジントルクは前記第1のモードより大きく設定される請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項6】
前記第3のモードでの前記追従制御中にスタックを検知した場合、前記エンジントルクを段階的に上昇させ、前記スタックの検知後所定時間を経過したとき前記追従制御を中止し、前記運転者による操作を報知する請求項5に記載の運転支援装置。
【請求項7】
前記選択モードは、前記トラクション制御部の前記介入閾値が前記第1のモードより大きく設定される第4のモードを含み、
前記エンジントルクの大きさ及び上昇率の少なくとも一方は前記第1のモードより大きく設定される請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項8】
前記第3のモードの前記追従制御条件において、さらに発進時の前記エンジントルクが第1のモードよりも大きく設定され、
前記選択モードは、さらに前記トラクション制御部の前記介入閾値が前記第1のモードより大きく設定される第4のモードを含み、
前記追従制御条件における前記発進時の前記追従制御中の前記エンジントルクの大きさは、前記第3のモードの方が前記第4のモードより小さい請求項5に記載の車両の運転支援装置。
【請求項9】
車両の運転者に操作されて走行モードを切り替える走行モード切替スイッチと、
車輪の回転状態を監視する車輪センサーと、
前記走行モード毎に規定されるトラクション制御条件に従って、駆動輪のスリップ量が介入閾値を超えた場合にエンジン及びブレーキシステムの少なくとも一方を制御して前記駆動輪のスリップを抑制するトラクション制御部と、
前記車両の前方を走行する先行車を検知する先行車検知部と、
前記運転者に操作されて前記走行モード毎に規定される追従制御条件に従って前記先行車に追従する追従走行の発動指令を発信する追従走行開始スイッチと、
前記走行モードが切り替えられた場合に切り替え後の前記走行モードで規定される前記追従制御条件に変更して前記追従走行を制御する追従走行制御部と、を備えることを特徴とする車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の加減速を支援する運転支援技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年製造される車両の多くは、予め設定された車速内で車両が自動的に加減速して運転者による運転の支援をする追従走行制御(ACC:Adaptive Cruise Control)機能を搭載している。ACCは、イグニッション始動後に運転者のACCスイッチのON操作により起動する。その後、ACCは、走行中の運転者によるACCスイッチのON操作又はアクセル操作で発動し、ブレーキ操作で一時的に停止する。ACCによる走行態様は、各種車載センサーで検知される先行車の有無で異なる。先行車が検知されている場合、車両はACCの制御の下、先行車に所定の車間距離を維持して追従する。一方、先行車が検知されない場合、予め設定された車速まで加減速して走行する。ACCは、従来、高速道路などの自動車専用道路での使用が前提とされてきた。よって、従来は、走行モードが自動車専用道路での走行に適しているノーマルモードのときのみ、ACCの使用が推奨されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-168722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年では、自動運転技術の進歩により、一般道におけるACCの使用も想定されるようになってきた。よって、雪道や泥道などの路面状況及び運転者の嗜好にもACCを対応させることが求められるようになってきている。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、路面状況が安定的な高速道路のみならず、雪道や泥道などの一般道における路面状況や運転者の嗜好に応じた追従走行制御を発動する運転支援装置及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る運転支援装置は、車両の運転者による走行モードの選択に従い走行モードを決定する走行モード決定部と、前記走行モード毎に規定されるトラクション制御条件に従って、駆動輪のスリップ量が介入閾値を超えた場合にエンジン及びブレーキの少なくとも一方を制御して前記駆動輪のスリップを抑制するトラクション制御部と、前記走行モード毎に規定される追従制御条件に従って先行車に追従する追従走行を制御する追従走行制御部と、を備え、前記追従走行制御部は、前記走行モードが切り替えられた場合に切り替え後の前記走行モードで規定される前記追従制御条件に変更して前記追従走行を制御するものである。
【0007】
本実施形態に係る車両は、車両の運転者に操作されて走行モードを切り替える走行モード切替スイッチと、車輪の回転状態を監視する車輪センサーと、前記走行モード毎に規定されるトラクション制御条件に従って、駆動輪のスリップ量が介入閾値を超えた場合にエンジン及びブレーキの少なくとも一方を制御して前記駆動輪のスリップを抑制するトラクション制御部と、前記車両の前方を走行する先行車を検知する先行車検知部と、前記運転者に操作されて前記走行モード毎に規定される追従制御条件に従って前記先行車に追従する追従走行の発動指令を発信する追従走行開始スイッチと、前記走行モードが切り替えられた場合に切り替え後の前記走行モードで規定される前記追従制御条件に変更して前記追従走行を制御する追従走行制御部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、路面状況が安定的な高速道路のみならず、雪道や泥道などの一般道における路面状況や運転者の嗜好に応じた追従走行制御を発動する運転支援装置及び車両が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る運転支援装置を搭載した車両の概略構成図。
図2】運転席から見たインストルメントパネル周辺部の概略図。
図3】走行モード毎に規定されるACC条件及びTCS条件を表す図。
図4】各走行モードにおける時間とエンジントルクとの関係を示す図。
図5】追従走行制御部による追従走行の発動及び一時禁止の態様を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る運転支援装置10を搭載した車両100の概略構成図である。
運転支援装置10は、車両100に対して追従走行制御(ACC: Adaptive Cruise Control)及び駆動輪のトラクション制御(TC: Traction Control)を適時に行い運転者の運転支援をする運転自動化システムの一種である。運転支援とは、運転自動化システムが、車両100の操舵と、車両100の発進及び停止を含む加減速と、のうちのいずれか一方の操作を、限定的かつ持続的に実行することである。
【0012】
ACC機能は、予め設定された車速内で車両100が自動的に加減速を行い、車両100の前方に先行車がある場合に、先行車に所定距離まで近づき、この所定距離を維持して追従走行をする機能である。この機能により、運転者は、必要時を除き、アクセルペダル又はブレーキペダルを踏み込まずに運転することができる。
また、トラクション制御機能は、駆動輪の回転を制御することで、駆動輪の空転などのスリップを防止する機能である。この機能により、駆動輪のスリップが発生しやすい状況下での適切な駆動力及び操縦性が確保される。
【0013】
以下、図1を用いて、運転支援装置10について詳述する。
運転支援装置10は、走行モード決定部11、トラクション制御部(TC部)12を備えるブレーキECU13、追従走行発動指令部(ACC発動指令部)14、追従制御部(ACC部)15、エンジンECU16、及び記憶部17を備える。
【0014】
また、運転支援装置10は、車両100の車内ネットワーク20を介して、走行モード切替スイッチ21、車輪速センサー22、追従制御開始スイッチ(ACC開始スイッチ)23、先行車検知部24、エンジン25、及びブレーキシステム26に接続される。
【0015】
走行モード決定部11は、運転者による走行モード切替スイッチ21の操作によって選択される走行モードを運転支援装置10で実行する走行モードとして決定する。
ここで、図2は運転席から見たインストルメントパネル30周辺部の概略図である。運転席と助手席とを区切るコンソールボックス31の頂面の前半部にはシフトレバー32を挿入するコンソールアッパーパネル33が設けられる。例えばこのコンソールアッパーパネル33に、ダイヤル式又はプッシュ式の走行モード切替スイッチ21が設けられる。運転者は、走行中又はイグニッションスイッチのON操作後の走行開始前に走行モード切替スイッチ21を操作して走行モードを切り替える。走行モードが選択されると、インストルメントパネル30に設けられたメータパネル34上又はナビゲーションパネル35上に選択された走行モードが表示される。
【0016】
走行モード選択機能で選択可能な走行モードは、例えば、スノーモード(第2のモード)、ロックモード(第3のモード)、及びスポーツモード(第4のモード)である。また、これらの走行モードのいずれも選択されていない状態はノーマルモード(第1のモード)と呼ばれる。各走行モードの詳細については後述する。
【0017】
図1に戻って、車両100及び運転支援装置10の説明を続ける。
車輪速センサー22は、車輪の回転速度を監視して、駆動輪の空転などのスリップを検出する。
【0018】
ブレーキECU13は、車輪速センサー22で検出されるスリップが予め規定した介入閾値を超えた場合、TC部12の機能によって駆動輪のスリップを抑制する。ブレーキECU13は、ブレーキシステム26を制御し、エンジンECU16を介してエンジン25を制御する。ブレーキECU13は、エンジン25のエンジントルクの抑制及びブレーキシステム26のブレーキ発動の少なくとも一方を実行することで、駆動輪のスリップを抑制する。なお、ECUとは、CPU、ROM、及びRAMで構成される電子制御装置(Electronic Control Unit)の略称である。エンジンECU16は、エンジン25の出力を電子的に制御する。同様に、ブレーキECU13は、ブレーキシステム26の動作を電子的に制御する。このようにトラクション制御機能を発揮するTC部12を搭載したブレーキECU13、エンジンECU16、及びトランクション制御条件を記憶する記憶部17は、全体としてトラクションコントロールシステム(TCS: Traction Control System)と呼ばれる。
【0019】
TC部12によるトラクション制御は、走行モード毎に規定されるTCS条件に従って実行される。また、TCS条件では、制御態様に加えてTC部12による介入タイミングを規定する介入閾値も適宜各走行モード毎に規定される。
【0020】
ACC発動指令部14は、運転者によるACC開始スイッチ23の押下をトリガーにして追従制御の発動指令をACC部15に発信する。ACC開始スイッチ23は、例えば図2に示されるように、ステアリングホイール37のピラー部37aに設けられる。運転者はACCを発動させたい場合、走行中又はイグニッションスイッチのON後の走行開始前にACC開始スイッチ23を押下する。ACCによる追従走行は、走行速度が予め設定された車速閾値を超えた場合に開始される。この車速閾値は、0km/hに設定されることもある。この場合、ACC部15は車両100の発進及び停車も制御する。
【0021】
ACC部15は、ACC発動指令部14による発動指令後に走行速度が車速閾値を超えた場合に、エンジンECU16及びブレーキECU13をそれぞれ介してエンジン25及びブレーキシステム26を制御する。ACCによる走行態様は、例えばカメラ24a及びミリ波レーダー24bで構成される先行車検知部24により検知される先行車の有無で異なる。
【0022】
前述のように、先行車検知部24が車両100前方の先行車を検知している場合、車両100はACC部15のACCの下、先行車に所定の車間距離を維持して追従する。この車間距離は、ACC開始スイッチ23のサブスイッチで例えば4段階で運転者が変更することができる。なお、この車間距離及び先行車との速度差は先行車検知部24で監視される。一方、先行車検知部24が車両100の前方に先行車を検知していない場合、ACC部15は、予め定められた設定車速まで加減速して走行する。この設定速度もまた、運転者がACC開始スイッチ23のサブスイッチで変更することができる。
【0023】
実施形態に係る運転支援装置10では、前述の各走行モードに合わせたACCの制御態様を規定するACC条件が設定される。
ACC部15は、このACC条件に従って追従走行を制御する。また、ACC部15は、追従制御の発動指令の後に走行モードが切り替えられた場合、切り替え後の走行モードで規定されるACC条件に従った追従走行に変更して車両100を制御する。
【0024】
なお、運転支援装置10の各構成は、CPU等のプロセッサ、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、或いはHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置、を具備するコンピュータとして構成することができる。
この場合、運転支援装置10の各構成のうち、TC部12、走行モード決定部11、ACC発動指令部14、及びACC部15の搭載機能は、記憶装置に記憶された所定のプログラムをプロセッサが実行することによって実現することができる。
また、このようなソフトウェア処理に換えて、ASIC(Application Specific Integration Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等のハードウェアで実現することもできる。
【0025】
次に、図3及び図4を用いて、各走行モードについて説明する。
図3は、走行モード毎に規定されるACC条件及びTCS条件を表す図である。
また、図4は、各走行モードにおける時間とエンジントルクとの関係を示す図である。
記憶部17には、図1及び図3に示されるように、TCS条件及びACC条件がそれぞれ走行モード毎に保持される。ACC条件では、エンジン25及びブレーキシステム26で制御される加速及び減速に加えて、先行車との車間距離や、制御のタイミングなどが規定される。また、TCS条件では、エンジン25のエンジントルクの抑制量及びブレーキ制動力に加えて、介入タイミングが規定される。介入タイミングはスリップ量に設定された閾値である介入閾値で規定される。このスリップ量の閾値すなわち介入閾値は、TCSによるエンジ制御及びブレーキ制御のそれぞれのスリップ量に対して設定される。
【0026】
ACC部15及びTC部12は、選択された走行モードについて規定されるこれらのTCS条件及びACC条件に基づいて、エンジン25及びブレーキシステム26を相互に介入させながら制御する。この結果、ACC及びTCSの発動時の運転者の運転操作に対するエンジン25及びブレーキシステム26のレスポンスが各走行モードで異なることになる。
なお、TCS条件及びACC条件は、例えばブレーキECU13内の記憶装置(不図示)に保持されてもよい。つまり、記憶部17は、運転支援装置10内のいずれに設けられていてもよい。
【0027】
[ノーマルモード(第1のモード)]
ノーマルモードは、乾燥した舗装路走行に適した走行モードである。前述のように、運転者が走行モードの選択をしなかった場合の走行モードがノーマルモードである。高速道路などの自動車専用道路を想定した走行モードであるため、従来からACCの発動に適した走行モードとして想定されてきた。
【0028】
ノーマルモードでは、TCSによる介入タイミングすなわち介入閾値及びトラクション制御量の少なくとも一方がTCS条件として規定される。ノーマルモードにおけるTCS条件及びACC条件内の各パラメータが標準値(デフォルト値)とされる。つまり、図3に示されるように、TCS条件におけるスリップ量に設定される介入閾値及びトラクション制御量、さらにはACC条件におけるエンジントルク及びブレーキ制動力がいずれもデフォルト値となる。
【0029】
なお、TC部12は、必ずしもエンジントルク及びブレーキ制動力の両方を制御しなくてもよい。つまり、TC部12は、エンジントルク及びブレーキ制動力のいずれか一方のみでトラクション制御をすることもある。また、ACC部15も、エンジントルク及びブレーキ制動力のいずれか一方のみで制御することもある。なお、図4において、太い実線で表されるグラフがノーマルモードにおけるグラフである。
【0030】
[スノーモード(第2のモード)]
スノーモードは、凍結路や雪道などの滑りやすい路面での走行に適した走行モードである。スノーモードでは、特に発進時の車輪のスリップを防止する必要がある。そこで、スノーモードでは、図3に示されるように、ACC条件において、発進時のエンジントルクがノーマルモードより低く設定される。
また、スリップのおそれが十分低くなる程度に車速が大きくなった後は、先行車への追従遅れを抑制することが求められる。そこで、ACC条件において、車速が所定の閾値以上となったときのエンジントルクの上昇率はノーマルモードより大きく設定される。
【0031】
この結果、スノーモードでのエンジントルクは、図4のグラフ中の細い実線で表されるように、ノーマルモードよりも緩やかに増加した後、エンジントルクが急上昇して他の走行モードと同程度になる。このように、ACC部15は、車速が得られて安定して加速ができると判断できる状態で、加速度を大きくし、先行車への追従加速度を強める。よって、滑りやすい路面での走行に不慣れな運転者でもアクセルペダルを強く踏み込むことができる。また、途中で運転者自身がアクセル操作をした場合でも、低いエンジントルクから発進するため、車輪のスリップの発生を抑制することができる。さらに、ACC時には、運転者が操作しなくても、車両100がある程度安定した車速に到達するとジャークを大きくするため、先行車への追従性が向上する。
【0032】
また、滑りやすい路面では、先行車との衝突がより発生しやすい。そこで、スノーモードでは、ACC条件において、車両100と先行車との車間距離がノーマルモードよりも大きく設定される。また、同様の理由で、ACC条件におけるブレーキシステム26の作動タイミングはノーマルモードよりも早く設定される。スノーモードでは、運転者自らがアクセル操作する場合にスノーモードでのトラクション制御機能を信頼して強めにアクセルペダルを踏み込むことが想定される。この場合においてACCが停止して想像より車両100が加速した場合にも、先行車との車間距離が広く設定されているため、安全が確保される。
【0033】
また、同様に滑りやすい路面を考慮して、TCS条件において、スリップ量に設定される介入閾値がデフォルト値よりも小さく規定される。この結果、TC部12は、車輪の僅かなスリップを感知して早期にTCSを発動することができる。よって、運転者は滑りやすい路面でもスリップの発生による駆動力及び操縦性を低下させることなく運転することができる。
【0034】
なお、スノーモードについては、運転者による走行モード切替スイッチ21の押下がなくても自動で切り替えられる仕様にしてもよい。例えば、路面μ推定をしてμ値が低い場合に、走行モード決定部11が自動でスノーモードに切り替えてもよい。
以上のようにACC条件及びTCS条件をスノーモードに合わせて設定することで、運転者は滑りやすい路面でも安心して走行することができる。
【0035】
[ロックモード(第3のモード)]
ロックモード(第3のモード)は、ぬかるみや砂地、雪道での立ち往生すなわちスタックから車両100を脱出させるのに適した走行モードである。
ロックモードでは、TC部12によるブレーキ制動力は、ノーマルモードのデフォルト値よりも大きく設定される。また、既定の車速以下の車速帯において、TC部12によるエンジン25のトルクダウンが抑制または禁止される。ロックモードでは、TCSによるブレーキ制動力を大きくしており、高いエンジントルクを発生させるため、スタックからの脱出性に優れる。
【0036】
また、ACC条件では、発進時のエンジントルクはノーマルモードのデフォルト値より大きく設定される。発進時にエンジントルクをデフォルト値よりも大きくすることで、ACCの発動中でもスリップ検知が早くなるため、早期にブレーキ制動を作動させことができる。ただし、悪路から脱出したときの急発進を防止する観点から、ロックモードにおけるスポーツモードより小さいエンジントルクに設定される。特に、図4のグラフ中の太い破線で表されるように、発進時にACCが発動している場合のロックモードのエンジントルクの大きさは、スポーツモードより小さく設定される。悪路から脱出したときの急発進を防止することで、運転者の恐怖心を拭うことができる。
【0037】
なお、ACC条件では、ロックモードにおけるACCの発動中にスタックが検知された場合、エンジントルクを段階的に上昇させる設定にすることが望ましい。運転者が全くスタックしていない状況でロックモードを選択していた場合にも、運転者に急発進の感覚を与えないためである。
【0038】
また、車輪速センサー22により車両100がスタックしていると判断された場合、スタックの検知後所定時間を経過したときは、ACCの発動を停止することが望ましい。そして、ACC部15は、報知により運転者自身による操作を促進して、運転者によるアクセル操作に制御を移管することが望ましい。ACCによるエンジントルクの段階的上昇によってもスタックから脱出できない場合には、運転者の操作の下でスタックからの脱出を試みることが望ましいためである。運転者が操作をすることで、より高いエンジントルクで、ブレーキ制御も積極的に行いながらスタックからの脱出操作を行うことができる。また、この場合の操作を運転者に委ねることで、運転者は恐怖心なく悪路脱出の操作ができる。
【0039】
[スポーツモード(第4のモード)]
スポーツモードは、例えば、4WD駆動へより頻繁に切り替えることで、山道などカーブの多い道路でのハンドル操作の多い走行を快適にする。また、エンジン25の回転数をより高く維持するため、高速道路での合流及び追い越しに適している。スポーツモードでは、ある程度のスリップを許容して、運転者による挙動制御の自由度を高めた走行や強い加速が求められる。そこで、ACCによる運転支援の発動中でもこのような運転者の嗜好性を反映させた走行を可能にするように、ACC条件及びTCS条件が設定される。
【0040】
スポーツモードでは、TCS条件における介入閾値が、エンジン25のトルクダウン及びブレーキ制御のいずれにおいてもノーマルモードより大きく設定される。トラクション制御のための介入閾値を大きな値に設定してブレーキ制御による介入をしづらくすることで、ACCの加速が大きいことによるスリップの発生も許容することができる。また、TCS条件における介入閾値を大きな値に設定することで、TCSの作動によりエンジントルクが抑制されてしまうことも抑制することができる。また、TCSによるブレーキ制御が介入しづらくなることで、音振や消費電力を向上させながら発進性を向上できる。
【0041】
また、ACC条件では、エンジントルクの大きさ及び上昇率の少なくとも一方はノーマルモードより大きな値に設定される。このような設定により、加速感を求める運転者が不用意にアクセルペダルを踏むことでACCが中断してしまうことを抑制することができる。この結果、図4のグラフ中の細い一点破線で表されるように、スポーツモードでACCを発動する場合にも、高い加速性を維持することができる。つまり、ACCにおいても運転者にスポーツモード特有の加速感を与えることができる。
【0042】
次に、ACC部15によるACCの発動及び一時禁止の態様を図5のフローチャートを用いて説明する。
【0043】
まず、ACC開始スイッチ23がONにされない場合、ACC部15は起動しない(ステップS11においてNOの場合、ステップS12後ENDへ)。ACC開始スイッチ23がONにされると(ステップS11においてYES)、ACCはスタンバイの状態になる。そして、運転者によるブレーキペダルの踏み込み(以下、「運転者ブレーキ」という)がある場合(ステップS13においてNO)、ACCの発動は一時禁止される(ステップS14)。ACCの一時禁止状態が解除されない限り(ステップS15においてNO)、ACCは発動しない(END)。つまり、ACCの一時禁止状態が解除されない限り、車両100の走行速度は運転者の運転によってのみ制御される。
【0044】
一方、ACCの一時禁止状態が解除されると(ステップS15においてYES)、ACCの発動が許可される(ステップS17)。ACCの発動が許可されると(ステップS17)、車両100が所定の走行速度になったときに、ACCによる走行制御が開始される。
また、運転者ブレーキがかけられていない場合(ステップS13においてYES)、ACC部15は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み(以下、「運転者アクセル」という)の有無を確認する(ステップS16)。
【0045】
アクセルペダルが踏み込まれている場合(ステップS16においてNO)、ACCの発動は一時禁止され、運転者アクセルによる走行が継続される(ステップS18)。運転者アクセルペダルが踏み込まれている間は、運転者による走行速度の制御が継続される(ステップS19においてNO)。アクセルペダルが踏み込まれなくなると(ステップS19においてYES)、ACCの発動は許可される(ステップS17後にEND)。
【0046】
ここで、選択された走行モードがロックモード以外のとき(ステップS20においてYES)、ACCの発動許可は継続される(ステップS17の後にEND)。つまり、車両100の走行速度が所定速度以上になるとACCによる走行制御が開始される。
【0047】
一方、選択された走行モードがロックモードであるときにスタックが発生した場合(ステップS20においてNO、かつ、ステップS21においてYES)、エンジントルクが大きく設定される(ステップS22)。そして、エンジントルクが大きい状態で所定時間が経過するまでは(ステップS23においてNO)、ロックモードにおけるACCの制御が行われる(ステップS26後にEND)。このとき、ACCによる制御量は、ロックモードのACC制御条件で規定される初期値で実行される。エンジントルクが大きいままで所定時間が経過した場合(ステップS23においてYES)、スタック時間が所定時間だけ経過するまでは(ステップS24においてNO)、ACCの発動は継続される(END)。
【0048】
一方、エンジントルクが大きいままで所定時間の経過後、さらにスタック時間も所定時間だけ経過した場合(ステップS23においてYES、かつ、ステップS24においてYES)、ACCは一時禁止され、ACCが一時禁止された旨がメータパネル上などに表示されて運転者に報知される(ステップS25後にEND)。
【0049】
また、スタックが発生していない場合(ステップS21においてNO)、ACCの制御量は、ロックモードのACC条件で規定される初期値になって実行される(ステップS26後にEND)。
【0050】
以上のように、実施形態に係る運転支援装置10及び車両100によれば、路面状況が安定的な高速道路のみならず、雪道や泥道などの一般道における路面状況や運転者の嗜好に応じたACC機能を使用することができる。よって、運転者のACCの使い方に幅が広がる。また、自動運転を視野に入れた制御が可能になる。
【0051】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0052】
例えば、選択可能な走行モードは車種によって異なる。例えば、燃費を優先させて走行するエコモードを搭載する車種もある。
【符号の説明】
【0053】
10…運転支援装置、11…走行モード決定部、12…トラクション制御部(TC部)、13…ブレーキECU、14…追従走行発動指令部(ACC発動指令部)、15…追従制御部(ACC部)、16…エンジンECU、17…記憶部、21…走行モード切替スイッチ、22…車輪速センサー、23…追従制御開始スイッチ(ACC開始スイッチ)、24(24a,24b)…先行車検知部(カメラ,ミリ波レーダー)、25…エンジン、26…ブレーキシステム、30…インストルメントパネル、31…コンソールボックス、32…シフトレバー、33…コンソールアッパーパネル、34…メータパネル、35…ナビゲーションパネル、37(37a)…ステアリングホイール(ピラー部)、100…車両。
図1
図2
図3
図4
図5