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特開2024-69412区画貫通処理構造、区画貫通処理部材及び区画貫通処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024069412
(43)【公開日】2024-05-21
(54)【発明の名称】区画貫通処理構造、区画貫通処理部材及び区画貫通処理方法
(51)【国際特許分類】
   A62C 3/16 20060101AFI20240514BHJP
   F16L 5/04 20060101ALI20240514BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20240514BHJP
【FI】
A62C3/16 B
F16L5/04
E04B1/94 F
E04B1/94 D
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024038282
(22)【出願日】2024-03-12
(62)【分割の表示】P 2020048377の分割
【原出願日】2020-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 秀康
(72)【発明者】
【氏名】廣野 明津
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
(57)【要約】
【課題】建築物の防火構造に用いる部材が効率よく耐火性能及び消火性能を発揮し、かつ建築物の防火構造に用いる挿通部材のずれを抑制する区画貫通処理構造、区画貫通処理部材及び区画貫通処理方法を提供する。
【解決手段】建築物の仕切り部11に形成され、かつ内部に長尺の挿通体21が挿通される区画貫通部15を防火構造であって、区画貫通部15にスリーブ状で挿入された挿通部材3と、挿通部材3の少なくとも一端部30側、及び仕切り部11に接し、挿通部材3の位置を固定する係止部材4と、挿通部材3の少なくとも一端部30側に設けられ、仕切り部11に設けられる区画貫通部15の開口13Dと挿通体21との間隙50を覆うシート状の包覆部5とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の仕切り部に形成され、かつ内部に長尺の挿通体が挿通される区画貫通部を防火構造とする区画貫通処理構造であって、
前記区画貫通部にスリーブ状で挿入された挿通部材と、
前記挿通部材の少なくとも一端部側、及び前記仕切り部に接し、前記挿通部材の位置を固定する係止部材と、
前記挿通部材の少なくとも一端部側に設けられ、前記仕切り部に設けられる前記区画貫通部の開口と前記挿通体との間隙を覆うシート状の包覆部とを備える、区画貫通処理構造。
【請求項2】
前記包覆部が、前記挿通体の軸方向の動きに対する裕度を持って固定される、請求項1に記載の区画貫通処理構造。
【請求項3】
前記包覆部が、外側から巻き付けられた紐状部材又は粘着テープ、及び、内側に配置された粘着層又は耐火材の少なくともいずれかによって前記挿通体に固定される、請求項1又は2に記載の区画貫通処理構造。
【請求項4】
前記係止部材が、前記仕切り部と前記挿通部材との間隙を覆っている、請求項1~3のいずれか1項に記載の区画貫通処理構造。
【請求項5】
前記係止部材が、前記仕切り部と前記挿通部材との間隙に入っている、請求項1~4のいずれか1項に記載の区画貫通処理構造。
【請求項6】
前記係止部材が、前記仕切り部及び前記挿通部材の両端部側に接している、請求項1~5のいずれか1項に記載の区画貫通処理構造。
【請求項7】
前記係止部材が、耐火材、発泡体、パテ材及びコーキング材からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の区画貫通処理構造。
【請求項8】
建築物の仕切り部に形成され、かつ内部に長尺の挿通体が挿通される区画貫通部を防火構造とするために用いる区画貫通処理部材であって、
スリーブ状である、又は、スリーブ状に変形可能な挿通部材と、
前記仕切り部における前記挿通部材の位置を固定するための係止部材と、
前記仕切り部に設けられる貫通孔と前記挿通体との間隙を覆うためのシート状の包覆部とを備える、区画貫通処理部材。
【請求項9】
建築物の仕切り部に形成され、かつ内部に長尺の挿通体が挿通される区画貫通部を防火構造とする区画貫通処理方法であって、
請求項1~7に記載の区画貫通処理構造及び請求項8に記載の区画貫通処理部材の少なくともいずれかを前記区画貫通部に設ける工程を含む区画貫通処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の防火構造に用いられる区画貫通処理構造、区画貫通処理部材及び区画貫通処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅、オフィスビル、学校等の建築物において、壁等の仕切り部には、ケーブル類、配管類などの長尺の挿通体を挿通するために、区画貫通部が設けられることがある。区画貫通部は、いずれかの区画で火災が発生した際に、他の区画への延焼を防止するために、防火措置を施した構造(防火構造)にすることが求められている。仕切り部は、2枚の壁部からなり、壁部間が中空部となっている中空壁が一般的である。
【0003】
区画貫通部を防火構造とする方法は、例えば、長尺の挿通体と貫通孔の間隙に、耐火パテを充填する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、耐火パテを袋体内部に詰めた耐火パックなどの不定形充填材で挿通体と貫通孔の間隙を充填する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。不定形充填材を使用する場合、予め決められた量の耐火パテを袋体内部に詰めた耐火パックやスリーブをキット化した商品を使用することが一般的である。
また、上記の耐火パテや不定形充填材の設置を容易にし、耐火性及び消火性を向上させるために筒状の挿通部材が区画貫通部に配設されることがある。挿通部材は、区画貫通部において適切な位置に配置されることで、耐火性能及び消火性能を発揮する。挿通部材は、弾性突起部を有し、弾性突起部が貫通孔の外側に突き出て、貫通孔の外側に掛けることで貫通孔に簡単に設置することができる(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6348320号公報
【特許文献2】特許第6150933号公報
【特許文献3】特許第5779435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、挿通部材の内側には、ケーブル類及び配管類等の長尺の挿通体が通されており、挿通部材の設置後に挿通体を動かした場合には、挿通部材や挿通部材の内部の耐火パテなどが設置されていた適切な位置からずれてしまうことがある。また、地震等の外力によっても、挿通部材などが設置されていた適切な位置からずれてしまうことがある。このように、挿通部材や挿通部材の内部の耐火パテなどが設置されていた適切な位置からずれてしまうことによって、区画貫通部の防火構造として望まれる耐火性能及び消火性能を発揮することが困難となる。
【0006】
そこで、上記問題に鑑み、本発明は、建築物の防火構造に用いる部材が効率よく耐火性能及び消火性能を発揮し、かつ建築物の防火構造に用いる挿通部材のずれを抑制する区画貫通処理構造、区画貫通処理部材及び区画貫通処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記[1]~[9]を要旨とする。
[1]建築物の仕切り部に形成され、かつ内部に長尺の挿通体が挿通される区画貫通部を防火構造とする区画貫通処理構造であって、前記区画貫通部にスリーブ状で挿入された挿通部材と、前記挿通部材の少なくとも一端部側、及び前記仕切り部に接し、前記挿通部材の位置を固定する係止部材と、前記挿通部材の少なくとも一端部側に設けられ、前記仕切り部に設けられる前記区画貫通部の開口と前記挿通体との間隙を覆うシート状の包覆部とを備える、区画貫通処理構造。
[2]前記包覆部が、前記挿通体の軸方向の動きに対する裕度を持って固定される、[1]に記載の区画貫通処理構造。
[3]前記包覆部が、外側から巻き付けられた紐状部材又は粘着テープ、及び、内側に配置された粘着層又は耐火材の少なくともいずれかによって前記挿通体に固定される、[1]又は[2]に記載の区画貫通処理構造。
[4]前記係止部材が、前記仕切り部と前記挿通部材との間隙を覆っている、[1]~[3]のいずれかに記載の区画貫通処理構造。
[5]前記係止部材が、前記仕切り部と前記挿通部材との間隙に入っている、[1]~[4]のいずれかに記載の区画貫通処理構造。
[6]前記係止部材が、前記仕切り部及び前記挿通部材の両端部側に接している、[1]~[5]のいずれかに記載の区画貫通処理構造。
[7]前記係止部材が、耐火材、発泡体、パテ材及びコーキング材からなる群から選ばれる1種以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の区画貫通処理構造。
[8]建築物の仕切り部に形成され、かつ内部に長尺の挿通体が挿通される区画貫通部を防火構造とするために用いる区画貫通処理部材であって、スリーブ状である、又は、スリーブ状に変形可能な挿通部材と、前記仕切り部における前記挿通部材の位置を固定するための係止部材と、前記仕切り部に設けられる貫通孔と前記挿通体との間隙を覆うためのシート状の包覆部とを備える、区画貫通処理部材。
[9]建築物の仕切り部に形成され、かつ内部に長尺の挿通体が挿通される区画貫通部を防火構造とする区画貫通処理方法であって、[1]~[7]に記載の区画貫通処理構造及び[8]に記載の区画貫通処理部材の少なくともいずれかを前記区画貫通部に設ける工程を含む区画貫通処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、建築物の防火構造に用いる部材が効率よく耐火性能及び消火性能を発揮し、かつ建築物の防火構造に用いる挿通部材のずれを抑制する区画貫通処理構造、区画貫通処理部材及び区画貫通処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る区画貫通処理構造を示す断面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る区画貫通処理構造の係止部材の配置を示す断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る区画貫通処理方法を示す斜視図(その1)である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る区画貫通処理部材を示す断面図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る区画貫通処理方法を示す斜視図(その2)である。
図6】本発明の第2の実施形態に係る区画貫通処理部材を示す断面図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係る区画貫通処理方法を示す斜視図である。
図8】本発明の第3の実施形態に係る区画貫通処理構造を示す断面図である。
図9】本発明の第3の実施形態に係る区画貫通処理部材を示す断面図(その1)である。
図10】本発明の第3の実施形態に係る区画貫通処理部材を示す断面図(その2)である。
図11】本発明の第3の実施形態に係る区画貫通処理方法を示す斜視図である。
図12】本発明の第4の実施形態に係る区画貫通処理部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態を用いてより詳細に説明する。
【0011】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る区画貫通処理構造は、図1に示すように、建築物の仕切り部11に形成され、かつ内部に長尺の挿通体21が挿通される区画貫通部15を防火構造とする区画貫通処理構造である。
そして、本発明の第1の実施形態に係る区画貫通処理構造に用いる区画貫通処理部材は、挿通部材3と、係止部材4と、包覆部5とを備える。
【0012】
本発明の区画貫通処理構造における仕切り部11は、建築物の壁面において区画間(第1の区画Aと、第2の区画B)を仕切る部材であり、仕切り部11の一方の外面11A側から他方の外面11B側に貫通する区画貫通部15を有する。図1で示す仕切り部11は、中空壁であり、間隔(中空部13)を介して配置される2枚の壁材(仕切り材)12A,12Bから構成される。そのため、区画貫通部15は、一方の壁材12Aに形成された貫通孔13Aと、他方の壁材12Bに形成された貫通孔13Bと、これらの間にある中空部13によって構成される。そして、一方の壁材12Aの外面が仕切り部11の外面11Aを構成し、他方の壁材12Bの外面が仕切り部11の外面11Bを構成する。貫通孔13A,13Bは、後述する挿通部材3が挿入されたときに、挿通部材3の外周面が、貫通孔13A,13Bの内周面の形状に適合できるように、円形、楕円形、又は、これらに近似する形状を有すればよい。なお、外面11A、11Bそれぞれにおいて貫通孔13A,13Bは、仕切り部11に設けられた区画貫通部15の開口13C,13Dを構成する。
【0013】
〔挿通部材〕
挿通部材3は、区画貫通部15にスリーブ状で挿入され、かつスリーブ内部に挿通体21が通されるように区画貫通部15に配設される。ここで、スリーブ状の挿通部材3は、区画貫通部15において一方の貫通孔13Aから他方の貫通孔13Bまで通されている。挿通部材3は、中空部13と仕切り部11の外部が連通することを防止することができる。
挿通部材3は、スリーブ状であるか、又は、スリーブ状に変形可能である。ここで、挿通部材3がスリーブ状に変形可能なものとは、シート状である挿通部材3を、端部と端部とを向かい合わせてスリーブ状に変形して区画貫通部15に挿入するものをいう。シート状である挿通部材3は、当初からシート状のものに限られず、ロールから繰り出してシート状にしたものも含む。ただし、挿通部材3をスリーブ状に変形する際に、シート状である挿通部材3の端部同士は突き合わされる態様に限定されず、端部同士がオーバーラップするようにしてスリーブ状としてもよい。挿通部材3がスリーブ状に変形可能なものであることで、施工現場で貫通孔13A,13Bの大きさに合わせて、挿通部材3の大きさを調整してスリーブ状にすることができるので、様々な大きさの区画貫通部15に対応できる。シート状又はロール状の挿通部材3の厚さは特に限定されないが、例えば0.01~10mm、好ましくは0.05~5mmである。挿通部材3は、スリーブ状に変形可能なように、柔軟性を有するとよい。
【0014】
挿通部材3は、耐火材から構成される。耐火材は、加熱により膨張する熱膨張性部材であることが好ましい。熱膨張性部材は、火災時に膨張することで火災の延焼を防止する。
熱膨張性部材は、熱膨張性樹脂組成物より形成される。熱膨張性樹脂組成物は、樹脂成分と、熱膨張性材料を含有する。挿通部材3が、樹脂成分を含有する熱膨張性樹脂組成物により形成されることで、挿通部材3の湾曲形状の形成や変形が容易となり、上記のとおりにスリーブ状にすることができる。
熱膨張性材料としては、熱膨張性無機物が挙げられる。熱膨張性無機物を使用することで、火災の加熱により適切に膨張され、また、膨張後の膨張残渣の機械強度が優れ、耐火性を良好にしやすくなる。なお、ここでいう熱膨張性材料とは、後述する成形などによって実質的に膨張せず、熱膨張性樹脂組成物は、熱膨張性部材において熱膨張性が維持される。
【0015】
熱膨張性材料の膨張開始温度は、特に限定されないが、例えば、150~350℃であることが好ましく、170~300℃であることがより好ましく、180~280℃であることが更に好ましい。これら下限値以下とすることで、火災以外の加熱により、熱膨張性材料が誤って膨張することを防止する。また、上限値以下とすることで、火災の加熱により確実に熱膨張性材料を膨張させやすくなる。
また、熱膨張性材料の膨張開始温度は、所定量(例えば、100mg)の熱膨張性材料を一定の昇温速度(例えば、10℃/分)で昇温させ、法線方向の力が立ち上がる温度を計測することにより測定可能である。測定装置としては測定温度制御が可能であり、かつ法線方向の応力を測定できるものであればよく、例えばレオメーターを使用すればよい。
熱膨張性部材の膨張倍率は3倍以上であることが好ましく、10倍以上が好ましい。膨張倍率の上限は、特に限定されないが、例えば50倍である。なお、膨張倍率は、熱膨張性部材を電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)により算出するとよい。
【0016】
以下、熱膨張性材料が、熱膨張性黒鉛である場合の熱膨張性樹脂組成物について詳細に説明する。熱膨張性樹脂組成物の樹脂成分としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、エラストマーが挙げられる。
熱可塑性樹脂の例としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂(CPVC)、フッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリブタジエン、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリアミド、ポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)、エチレン酢酸ビニル(EVA)等のポリオレフィン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、クロロプレン(CR)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン(PS)、ポリフェニレンサルファイド、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリロニトリル共重合体(ASA)、アクリロニトリル/エチレン-プロピレン-ジエン/スチレン共重合体(AES)等が挙げられる。
硬化性樹脂の例としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
【0017】
エラストマーの例としては、天然ゴム、シリコーンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、およびフッ素ゴム等のゴムが挙げられる。また、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、および塩化ビニル系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマーも挙げられる。
熱膨張性樹脂組成物の樹脂成分は、1種であってもよいし2種以上を組み合わせてもよい。
【0018】
熱膨張性樹脂組成物は、可塑剤を含有してもよい。可塑剤は、樹脂成分がポリ塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂である場合に好ましく使用される。可塑剤の具体的としては、例えば、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤、ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等のアジピン酸エステルや、アジピン酸ポリエステルなどの脂肪酸エステル可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤、トリー2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤、トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)等の燐酸エステル可塑剤、鉱油等のプロセスオイルなどが挙げられる。
可塑剤は、1種であってもよいし2種以上を組み合わせてもよい。
熱膨張性樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、熱膨張性樹脂組成物における可塑剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、例えば0.3質量部以上150質量部以下の範囲であり、好ましくは10質量部以上100質量部以下の範囲である。
可塑剤は、これら下限値以上とすると、成形性が良好になりやすく、上限値以下となると、成形体に適度な強度が付与される。
【0019】
樹脂成分と可塑剤の合計含有量は、樹脂組成物全量基準で、10質量%以上90質量%以下が好ましく、25質量%以上80質量%以下がより好ましく、40質量%以上70質量%以下がさらに好ましい。これら下限値以上とすることで、熱膨張性部材の成形性などを良好にできる。また、柔軟性を確保して、スリーブ状に変形可能にしやすくなる。また、上限値以下とすることで、熱膨張性黒鉛、無機充填剤などの成分を十分な量配合することが可能になる。
なお、樹脂成分と可塑剤の合計含有量とは、樹脂成分と可塑剤の両方が含有される場合には、これらの合計含有量を意味し、可塑剤を含有しない場合には樹脂成分単独の含有量を意味する。
【0020】
熱膨張性黒鉛は、従来公知の物質であり、天然鱗片状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とにより処理してグラファイト層間化合物を生成させたものである。生成された熱膨張性黒鉛は炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
本発明に使用される熱膨張性黒鉛は、酸処理して得られた熱膨張性黒鉛がアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和されたものなども使用することもできる。
脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
【0021】
熱膨張性黒鉛の粒度は、特に限定されないが、20~200メッシュの範囲のものが好ましい。粒度は、下限値以上となると黒鉛の膨張度が大きくなりやすく、発泡性が良好になる。また、上限値以下とすることで、樹脂と混練する際の分散性が良好となり、成形性が向上する。
【0022】
熱膨張性樹脂組成物における熱膨張性黒鉛の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、例えば3質量部以上300質量部以下である。熱膨張性黒鉛の含有量は、3質量部以上となることで、熱膨張性が良好となる。また、300質量部以下となることで、成形性が良好となり、シール部材の表面性、機械的物性、柔軟性なども良好となる。これら観点から、熱膨張性黒鉛の含有量は、好ましくは10質量部以上200質量部以下の範囲であり、より好ましくは15質量部以上100質量部以下の範囲である。
【0023】
熱膨張性樹脂組成物は、さらに無機充填材を含有してもよい。無機充填材は、一般に熱膨張性樹脂組成物に使用されている無機充填材であれば、特に限定はない。具体的には、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーンナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、タルク、クレー、マイ力、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セビオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカバルン、窒化アルミニウム、亜リン酸アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコニア鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられる。無機充填材は一種もしくは二種以上を使用することができる。
無機充填剤を含有する場合、熱膨張性樹脂組成物における無機充填材の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましく3質量部以上200質量部以下の範囲であり、より好ましくは10質量部以上150質量部以下の範囲である。
【0024】
本発明に使用する熱膨張性樹脂組成物は、本発明の目的が損なわれない範囲で、必要に応じて各種の添加成分を含有させることができる。
この添加成分の種類は特に限定されず、各種添加剤を用いることができる。このような添加剤として、例えば、滑剤、収縮防止剤、結晶核剤、着色剤(顔料、染料等)、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、補強剤、難燃助剤、帯電防止剤、界面活性剤、加硫剤、及び表面処理剤等が挙げられる。添加成分の添加量は成形性等を損なわない範囲で適宜選択できる。添加成分は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明に使用する熱膨張性樹脂組成物は、樹脂、熱膨張性無機物及び任意成分をビーズミル、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、混練ロール、ライカイ機、及び遊星式撹拌機等の公知の装置を用いて混合することにより得ることができる。
【0026】
〔係止部材〕
係止部材4は、仕切り部11及び挿通部材3の少なくとも一端部30側に接し、挿通部材3の位置を固定する。係止部材4は、外面11Aにおいて貫通孔13A(すなわち、一方の開口13C)の外周に係止され、挿通部材3の一端部30側が仕切り部11に固定されることになる。なお、係止部材4の形状は、特に限定されず、例えば、ブロック状、柱状及び点状等が挙げられる。
【0027】
係止部材4は、仕切り部11及び挿通部材3を係止可能な材料であれば特に限定されず、例えば、耐火材、発泡体、パテ材及びコーキング材等が挙げられ、これら2種以上を複合した複合材料であってもよい。耐火材としては、耐火性を有する材料であれば特に限定されず、上記の熱膨張性材料を含有する熱膨張性樹脂組成物により形成される耐火材であることが好ましい。耐火材の詳細は、上記の通りである。発泡体は、発泡ポリエチレン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリスチレン及び発泡ポリウレタン等が挙げられる。パテ材及びコーキング材は、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂等の合成樹脂系材料を主成分に充填材及び難燃剤等を配合してなるものが挙げられる。
係止部材4は、挿通部材3と同じ材料からなる場合には、挿通部材3と一体に形成してもよい。また、挿通部材3と同じ材料又は異なる材料からなる場合には、別体として仕切り部11及び挿通部材3と接するように設けられる。
【0028】
係止部材4は、図2に示すように、仕切り部11と挿通部材3との間に、間隙40が形成されてしまう場合、間隙40を塞ぐように設けられることが好ましい。具体的には、図2(a)に示すように、係止部材4が、仕切り部11と挿通部材3との間隙40を覆うように配置されることで、間隙40を塞ぐことができる。また、図2(b)に示すように、係止部材4が、仕切り部11と挿通部材3との間隙40に入るように配置されることで、間隙40を塞ぐことができる。このように、係止部材4によって、仕切り部11と挿通部材3との間に形成される間隙40を塞ぐことで、区画貫通部15の耐火性を向上させることができる。
係止部材4が、例えば、耐火材、発泡体、パテ材及びコーキング材である場合には、図2(a)のような構成とすることが好ましい。また、係止部材4が、パテ材及びコーキング材である場合には、間隙40に入れることが容易であるので、図2(b)のような構成とすることが好ましい。また、係止部材4が、耐火材又は発泡体と、パテ材又はコーキング材の組み合わせたものでもよく、全てを組み合わせてもよく、その場合でもパテ材又はコーキング材を間隙40に入れることが好ましい。
【0029】
〔包覆部〕
包覆部5は、挿通部材3の少なくとも一端部側に設けられ、仕切り部11に設けられる区画貫通部15の開口13Dと挿通体21との間隙50を覆うシート状のものである。包覆部5が挿通部材3の少なくとも一端部31側に設けられる手段としては、例えば、接着剤、粘着剤及び粘着テープなどの公知の固定手段によって固定される手段が挙げられる。ここで、接着剤、粘着剤及び粘着テープは、不燃材料、準不燃材料又は難燃材料のいずれかであることが好ましく、接着剤、粘着剤などに難燃剤などを配合するとよい。
【0030】
包覆部5は、図1に示したように、区画貫通部15の開口13Dを覆う部分が、挿通体21を包囲し、かつ外側から巻かれた紐状部材22によって挿通体21に固定される。紐状部材22は、曲げることができる部材であればよく、ワイヤを含むワイヤ部材であることが好ましい。ワイヤ部材は、金属製のワイヤ単独でもよいし、ねじりっこ(登録商標)などの金属製のワイヤを樹脂で被覆した樹脂被覆ワイヤ、モールなどと呼ばれるワイヤと繊維を絡ませたものなどでもよい。ワイヤ部材を使用すると、ひねったり、ねじったりするだけで、包覆部5を挿通体21に固定できる。
【0031】
包覆部5は、挿通体21の軸方向の動きに対する裕度を持って固定される。包覆部5が裕度を持って挿通体21に固定されることで、挿通部材3の設置後に、挿通部材3の内側に配置された挿通体21を軸方向に動かした場合であっても、包覆部5の裕度によって挿通部材3が挿通体21と一緒に動いてしまうことを緩衝し、挿通部材3が区画貫通部15からずれることを抑制することができる。つまり、このような構成とすることで、挿通部材3を区画貫通部15における適切な位置に維持して配置し続けることができ、区画貫通部15の耐火性を維持することができる。
包覆部5が挿通体21の軸方向の動きに対して裕度を持って固定される構成としては、例えば、包覆部5の少なくとも一部が屈曲ないし湾曲できるような柔軟性や伸縮性を有する材料による構成、及び、包覆部5の少なくとも一部が挿通体21に対してたるみを有するように固定する構成等が挙げられる。
【0032】
包覆部5は、不燃材料で構成されるとよい。なお、不燃材料とは、建築基準法及び建築基準法施行令において定められるものである。包覆部5としては、具体的には、アルミニウム箔などの金属箔、ガラスクロス、アルミガラスクロスなどの金属箔とガラスクロスの複合体などが挙げられる。これらのなかでは、防火性の観点からアルミガラスクロスが好ましい。
包覆部5の厚みは、例えば0.01~1mm、好ましくは0.05~0.5mmである。
【0033】
以下に、スリーブ状である挿通部材3を備える区画貫通処理部材を用いる区画貫通処理方法の具体例について説明する。
図3に示すように、予めスリーブ状に成形した挿通部材3を用意する。また、挿通部材3の一端部31側に包覆部5が設けられている。
【0034】
スリーブ状である挿通部材3は、図3に示すように、配置した後、貫通孔13Aより外側には、挿通部材3の一端部30が延出され、延出された挿通部材3と貫通孔13Aの外周に接するように係止部材4を配置する。係止部材4が配置されることで、挿通部材3の位置が固定される。係止部材4は、耐火材、発泡体、パテ材及びコーキング材のいずれであってもよい。係止部材4として、耐火材及び発泡体を用いる場合は、予め環状に成形したものを用意し、挿通部材3を区画貫通部15に配置した後に設置することができる。係止部材4として、パテ材及びコーキング材を用いる場合は、挿通部材3を区画貫通部15に配置した後に、挿通部材3に施工して設けることができる。
【0035】
スリーブ状である挿通部材3は、図3に示すように、区画貫通部15に配置した後、貫通孔13Bより外側には、挿通部材3の一端部31に設けられた包覆部5が延出される。貫通孔13Bより延出する包覆部5は、適宜曲げられたり折られたりして、縮径させられ、挿通体21の外周に密接しつつ包囲する。そして、包覆部5は、その包囲する部分に紐状部材22が巻き付けられ、その紐状部材22によって挿通体21に固定され、これにより、区画貫通部15の一方の開口13Dが、包覆部5により覆われることになる。
【0036】
以下に、スリーブ状に変形可能な挿通部材3を備える区画貫通処理部材を用いる区画貫通処理方法の具体例について説明する。
スリーブ状に変形可能な挿通部材3は、シート状であり、図4に示すように、一方の面の一端部30側に係止部材4が積層されている。また、挿通部材3の一端部31側に包覆部5が設けられている。係止部材4は、図4の構成では、発泡体、耐火材が好ましい。また、係止部材4の端部同士も突き合わされることが好ましい。
【0037】
スリーブ状に変形可能な挿通部材3は、図5に示すように、区画貫通部15を構成する貫通孔13A,13Bの内周面の形状に適合するようにスリーブ状に変形する。すなわち、挿通部材3は、その外周面が、貫通孔13A,13Bの内周面の形状に沿うようにスリーブ状にするとよい。貫通孔13A,13Bの内周面の形状は、一般的に、円、楕円、またはこれらに近似する形状であるので、挿通部材3は丸められてスリーブ状にされるとよく、円、楕円、又はこれらに近似する形状にされるとよい。
また、挿通部材3がスリーブ状にされる際に、端部同士は突き合わされるが、この際、端部同士は、接着剤、粘着剤及び粘着テープなどにより接着されてもよい。ここで、接着剤、粘着剤及び粘着テープは、不燃材料、準不燃材料又は難燃材料のいずれかであることが好ましく、接着剤、粘着剤などに難燃剤などを配合するとよい。粘着テープは、基材と、基材の一方の面に設けられた粘着剤層とを備えるが、基材及び粘着剤層それぞれが、不燃材料、準不燃材料又は難燃材料のいずれかで構成されるとよい。ただし、挿通部材3がスリーブ状にされる際に、端部同士は突き合わされる態様に限定されず、端部同士がオーバーラップするようにしてスリーブ状としてもよい。
【0038】
スリーブ状の挿通部材3を区画貫通部15に配置した後、貫通孔13Bより外側には、挿通部材3の一端部31に設けられた包覆部5が延出される。貫通孔13Bより延出する包覆部5は、適宜曲げられたり折られたりして、縮径させられ、挿通体21の外周に密接しつつ包囲する。そして、包覆部5は、その包囲する部分に紐状部材22が巻き付けられ、その紐状部材22によって挿通体21に固定され、これにより、区画貫通部15の一方の開口13Dが、包覆部5により覆われることになる。
スリーブ状の挿通部材3を区画貫通部15に配置した後、仕切り部11と挿通部材3との間に、間隙が形成されてしまう場合、間隙を塞ぐように、さらに、パテ材及びコーキング材を用いて係止部材4を形成することが好ましい。
【0039】
本発明の第1の実施形態に係る区画貫通処理構造によれば、挿通部材3によって、中空部13と仕切り部11の外部が連通することが防止されるとともに、区画貫通部15の一方の開口13Dが、包覆部5によって覆われるので、区画貫通部15の一方の開口13Cと他方の開口13Dとが連通することを防止することができる。よって、第1の実施形態に係る区画貫通処理構造は、区画貫通部15を適切な防火構造とすることができる。
また、本発明の第1の実施形態に係る区画貫通処理構造によれば、係止部材4と包覆部5によって挿通部材3の区画貫通部15におけるずれを抑制することができ、区画貫通部15の耐火性を維持することができる。
【0040】
[第2の実施形態]
第2の実施形態において第1の実施形態と相違する点は、図6に示すように、区画貫通処理部材の挿通部材3、係止部材4及び包覆部5の積層構造が異なる点である。以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を説明する。また、以下では、異なる実施形態の説明でも、同一の構成を有する部材には同一の符号を付す。
【0041】
本実施形態に係る区画貫通処理部材は、図6に示すように、挿通部材3の一方の面上に、包覆部5が積層されている。包覆部5は、挿通部材3の一端部31から延出するように積層されている。そして、挿通部材3の一端部30側に積層された包覆部5上に、係止部材4が積層されている。本実施形態では、包覆部5上に挿通部材を積層する構成とすることで、挿通部材3は、包覆部5上に熱膨張性樹脂組成物を塗布などにより形成すればよいので、その製造を容易に行える。
スリーブ状に変形可能な挿通部材3は、図7に示すように、区画貫通部15を構成する貫通孔13A,13Bの内周面の形状に適合するようにスリーブ状に変形する。
【0042】
スリーブ状の挿通部材3を区画貫通部15に配置した後、貫通孔13Bより外側には、挿通部材3の一端部31に設けられた包覆部5が延出される。貫通孔13Bより延出する包覆部5は、適宜曲げられたり折られたりして、縮径させられ、挿通体21の外周に密接しつつ包囲する。そして、包覆部5は、その包囲する部分に紐状部材22が巻き付けられ、その紐状部材22によって挿通体21に固定され、これにより、区画貫通部15の一方の開口13Dが、包覆部5により覆われることになる。
スリーブ状の挿通部材3を区画貫通部15に配置した後、仕切り部11と挿通部材3との間に、間隙が形成されてしまう場合、間隙を塞ぐように、さらに、パテ材及びコーキング材を用いて係止部材4を形成することが好ましい。
【0043】
[第3の実施形態]
第3の実施形態において第1の実施形態と相違する点は、図8に示すように、係止部材4(4A,4B)が、仕切り部11及び挿通部材3の両端部側に接している点である。以下、第3の実施形態について、第1の実施形態との相違点を説明する。また、以下では、異なる実施形態の説明でも、同一の構成を有する部材には同一の符号を付す。
【0044】
本実施形態における区画貫通処理構造は、図8に示すように、仕切り部11及び挿通部材3の一端部13A側に係止部材4Aが接して設けられており、他端部13B側に係止部材4Bが接して設けられている。係止部材4A,4Bは、同じ材料からなるものであってもよく、異なる材料からなるものであってもよい。
係止部材4A,4Bは、仕切り部11及び挿通部材3の両端部13A,13B側に接し、仕切り部11の両端部13A,13B側で挿通部材3の動きを抑制する。
係止部材4A,4Bは、両端部13A,13B側において、仕切り部11と挿通部材3との間に間隙が形成されてしまう場合に、間隙を塞ぐことができる。
【0045】
本実施形態に係る区画貫通処理部材としては、例えば、図9に示すように、挿通部材3の一方の面の一端部30側に係止部材4Aが積層され、他端部31側に係止部材4Bが積層されている。また、挿通部材3の一端部31側に包覆部5が設けられている。
また、本実施形態に係る区画貫通処理部材としては、例えば、図10に示すように、挿通部材3の一方の面上に、包覆部5が積層されている。包覆部5は、挿通部材3の一端部31から延出するように積層されている。そして、挿通部材3の一端部30側に積層された包覆部5上に、係止部材4Aが積層され、他端部31側に積層された包覆部5上に、係止部材4Bが積層されている。
【0046】
以下に、本実施形態に係る区画貫通処理部材を用いる区画貫通処理方法の具体例について説明する。
スリーブ状に変形可能な挿通部材3は、図11に示すように、区画貫通部15を構成する貫通孔13A,13Bの内周面の形状に適合するようにスリーブ状に変形する。このとき、係止部材4Bが貫通孔13A,13Bを通過できる程度に、挿通部材3を縮径する必要がある。
【0047】
スリーブ状の挿通部材3を区画貫通部15に配置した後、貫通孔13Bより外側には、挿通部材3の一端部31に設けられた包覆部5が延出される。貫通孔13Bより延出する包覆部5は、適宜曲げられたり折られたりして、縮径させられ、挿通体21の外周に密接しつつ包囲する。そして、包覆部5は、その包囲する部分に紐状部材22が巻き付けられ、その紐状部材22によって挿通体21に固定され、これにより、区画貫通部15の一方の開口13Dが、包覆部5により覆われることになる。
スリーブ状の挿通部材3を区画貫通部15に配置した後、仕切り部11と挿通部材3との間に、間隙が形成されてしまう場合、間隙を塞ぐように、さらに、パテ材及びコーキング材を用いて係止部材4A,4Bを形成することが好ましい。
【0048】
係止部材4A又は係止部材4Bは、挿通部材3を区画貫通部15に配置した後に追加して設ける構成であってもよい。係止部材4A又は係止部材4Bを区画貫通部15に配置した後に追加して設ける構成である場合、挿通部材3は、予めスリーブ状のものを採用することができる。
【0049】
本発明の第3の実施形態に係る区画貫通処理構造によれば、係止部材4A,4Bが、仕切り部11及び挿通部材3の両端部13A,13B側に接して設けられていることで、仕切り部11の両端部13A,13B側で挿通部材3の動きをより抑制することができ、区画貫通部15の耐火性を維持することができる。
また、両端部13A,13B側において、仕切り部11と挿通部材3との間に間隙が形成された場合であっても、係止部材4A,4Bが設けられることによって、両側の間隙を防ぐことができ、区画貫通部の耐火性を向上させることができる。
【0050】
[第4の実施形態]
第4の実施形態において第1の実施形態と相違する点は、図12に示すように、スリープ状に変形可能な挿通部材3に、複数の切り込み41Bが形成されている点である。以下、第4の実施形態について、第1の実施形態との相違点を説明する。また、以下では、異なる実施形態の説明でも、同一の構成を有する部材には同一の符号を付す。
【0051】
第4の実施形態では、図12に示すように、スリープ状に変形可能な挿通部材3に複数の切り込み41Bが形成されている。各切り込み40Bは、シート状の挿通部材3の一端部41Aから挿通部材3の中途まで入れられている。挿通部材3は、切り込み40Bを有するため、図1に示したように、一端部41Aが外側に折り返されることで鍔状の係止部材4が形成される。係止部材4は、外面11Aにおいて貫通孔13A(すなわち、一方の開口13C)の外周又は貫通孔13Aの内部に係止され、挿通部材3の一端部30側が仕切り部11に固定されることになる。したがって、区画貫通部15に挿入された挿通部材3は、区画貫通部15の所望の位置に確実に固定されることになる。
【0052】
[その他の実施形態]
以上の説明では、区画貫通処理構造として、第1の実施形態から第4の実施形態を示したが、第1の実施形態態乃至第4の実施形態は適宜組み合わせてもよい。つまり、以上の説明で示した実施形態のそれぞれを適宜組み合わせてもよく、全てを組み合わせてもよい。
また、区画貫通処理構造においては、上記各実施形態に示した態様に限定されず、挿通部材と、係止部材と、包覆部とを備える区画貫通処理部材を用いる限りいかなる構成でもよい。
【0053】
例えば、以上の各実施形態では、包覆部は、挿通体に紐状部材によって固定されたが、紐状部材以外によって固定されてもよく、例えば、粘着層又は耐火材によって包覆部に固定されてもよい。粘着層又は耐火材は、包覆部の内側であって挿通体に接触する部分又は包覆部全体に、予め積層させておくとよい。粘着層としては、粘着剤層単体からなるものでもよいし、基材と基材の両面に設けた粘着剤層とを有する両面粘着テープであってもよい。また、耐火材は、上記した熱膨張性樹脂組成物により形成されればよいが、例えば未硬化又は溶剤で希釈された熱膨張性樹脂組成物を包覆部に塗布して、未硬化又は乾燥前の熱膨張性樹脂組成物を挿通体に接触させた状態で硬化、乾燥させて、耐火材を介して包覆部と挿通体を固定させればよい。また、包覆部の固定態様としては、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸化物、酸化マグネシウム等の酸化物、リン、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム及びリン化合物、硫酸カルシウム、硫酸鉛、硫酸バリウム等の硫酸化物、ベントナイト、バーミキュライト、マイカ、窒化ホウ素、アルミナ等から選択される少なくとも1つの無機材料を含む樹脂組成物であるパテ状混合物によって固定されていてもよい。
また、包覆部は、外側から巻き付けられた粘着テープによって固定されてもよい。粘着テープは、基材と、基材の一方の面に粘着剤層が設けられた片面粘着テープなどが使用されるとよい。基材と粘着剤層の詳細は上記の通りである。
【0054】
また、以上の各実施形態では、挿通部材は、耐火材によって構成されたが、不燃材料により構成されてもよい。挿通部材における不燃材料とは、建築基準法及び建築基準法施行令において定められるものである。挿通部材における不燃材料としては、モルタル、鋼製スリーブなどの金属管、無機繊維やその成形体などが挙げられる。
【符号の説明】
【0055】
3 挿通部材
4 係止部材
5 包覆部
11 仕切り部
12A,12B 壁材
13 中空部
13A,13B 貫通孔
13C,13D 開口
15 区画貫通部
21 挿通体
22 紐状部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2024-03-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の仕切り部に形成され、かつ内部に長尺の挿通体が挿通される貫通孔が形成された区画貫通部を防火構造とする区画貫通処理構造であって、
前記区画貫通部にスリーブ状で挿入された挿通部材と、
前記挿通部材の少なくとも一端部側であって前記挿通部材の前記仕切り部側に設けられ、前記仕切り部に接し、前記挿通部材の位置を固定する係止部材と、
前記挿通部材の少なくとも一端部側であって前記挿通部材の一方の面に積層するように設けられ、前記挿通部材から延出し、前記仕切り部に設けられる前記区画貫通部の開口と前記挿通体との間隙を覆うシート状の包覆部とを備える、区画貫通処理構造。
【請求項2】
前記包覆部が、前記挿通体の軸方向の動きに対する裕度を持って固定される、請求項1に記載の区画貫通処理構造。
【請求項3】
前記包覆部が、外側から巻き付けられた紐状部材又は粘着テープ、及び、内側に配置された粘着層又は耐火材の少なくともいずれかによって前記挿通体に固定される、請求項1又は2に記載の区画貫通処理構造。
【請求項4】
前記係止部材が、前記仕切り部と前記挿通部材との間隙を覆っている、請求項1~3のいずれか1項に記載の区画貫通処理構造。
【請求項5】
前記挿通部材はシート状であり、その端部と端部とを向かい合わせることでスリーブ状に変形可能であるとともに、前記貫通孔の大きさに合わせて調整可能なものである、請求項1~4のいずれか1項に記載の区画貫通処理構造。
【請求項6】
前記挿通部材が不燃材料から構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の区画貫通処理構造。
【請求項7】
前記包覆部の前記挿通体と接触する部位に、耐火材が積層されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の区画貫通処理構造。
【請求項8】
前記係止部材が、発泡体である、請求項1~のいずれか1項に記載の区画貫通処理構造。
【請求項9】
建築物の仕切り部に形成され、かつ内部に長尺の挿通体が挿通される貫通孔が形成された区画貫通部を防火構造とするために用いる区画貫通処理部材であって、
スリーブ状である、又は、スリーブ状に変形可能な挿通部材と、
前記挿通部材の少なくとも一端部側であって、前記挿通体が挿通される側とは反対側の面に設けられ、前記仕切り部における前記挿通部材の位置を固定するための係止部材と、
前記挿通部材の少なくとも一端部側に、前記挿通体と積層するように設けられ、前記挿通部材から延出しており、前記仕切り部に設けられる貫通孔と前記挿通体との間隙を覆うためのシート状の包覆部とを備える、区画貫通処理部材。