(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024070966
(43)【公開日】2024-05-24
(54)【発明の名称】液封筒型防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 13/14 20060101AFI20240517BHJP
【FI】
F16F13/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022181626
(22)【出願日】2022-11-14
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和希
(72)【発明者】
【氏名】岡田 勝三
【テーマコード(参考)】
3J047
【Fターム(参考)】
3J047AA05
3J047AB01
3J047CA06
3J047FA02
3J047FA03
3J047GA01
(57)【要約】
【課題】部品点数の少ない簡単な構造と、少ない製造工程数とによって、目的とする性能を実現することができる、新規な構造の液封筒型防振装置を提供する。
【解決手段】インナ軸部材16と中間スリーブ18の筒状部40とが本体ゴム弾性体20で連結されており、筒状部40がアウタ筒部材14に挿入状態で組み付けられており、本体ゴム弾性体20に形成された液室64,64がオリフィス通路66によって相互に連通されている液封筒形防振装置10であって、合成樹脂製とされた中間スリーブ18は、スリーブ分割体22a,22bからなる周方向二分割構造とされており、筒状部40の軸方向一端に外フランジ42を備えている。外周面に外周ゴム50が固着された中間スリーブ18の筒状部40が、アウタ筒部材14に圧入されて組み付けられており、外周ゴム50に形成されたオリフィス溝52がアウタ筒部材14で覆蓋されてオリフィス通路66が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材と中間スリーブの筒状部とが本体ゴム弾性体で連結されており、該中間スリーブの該筒状部がアウタ筒部材に対して挿入状態で組み付けられており、該本体ゴム弾性体には一対の液室が形成されて、それら一対の液室を相互に連通するオリフィス通路が設けられている液封筒型防振装置であって、
合成樹脂製とされた前記中間スリーブは、一対のスリーブ分割体からなる周方向に二分割された分割構造とされており、
該中間スリーブは、前記筒状部の軸方向の一端に外フランジを備えており、
該中間スリーブの該筒状部の外周面には外周ゴムが固着されて、該外周ゴムが固着された該筒状部は前記アウタ筒部材に圧入されて組み付けられており、
該外周ゴムに形成されたオリフィス溝が該アウタ筒部材で覆蓋されて前記オリフィス通路が形成されている液封筒型防振装置。
【請求項2】
前記アウタ筒部材は、ゴムが固着されていない金具単体によって構成されている請求項1に記載の液封筒型防振装置。
【請求項3】
軸方向で前記筒状部と反対側へ向けて突出するストッパゴムが、前記外フランジの軸方向一方の面に固着されており、
該外フランジと該アウタ筒部材との軸方向間に介在する当接ゴムが、該外フランジの軸方向他方の面に固着されている請求項2に記載の液封筒型防振装置。
【請求項4】
前記中間スリーブの前記筒状部は、軸方向の中間部分が両端部分よりも厚肉の厚肉部とされている請求項1又は2に記載の液封筒型防振装置。
【請求項5】
前記中間スリーブの前記筒状部を貫通する一対の窓部が設けられて、前記一対の液室が該一対の窓部を含んで構成されており、
該窓部の軸方向少なくとも一方の端部において、該窓部の周方向端縁部から該窓部内へ向かって延び出した周方向延出部が設けられており、
該周方向延出部に前記オリフィス溝の一部が形成されている請求項1又は2に記載の液封筒型防振装置。
【請求項6】
前記周方向延出部が前記窓部の軸方向両側にそれぞれ設けられている請求項5に記載の液封筒型防振装置。
【請求項7】
前記中間スリーブにおける前記一対のスリーブ分割体の周方向端面間の距離は、該中間スリーブの前記アウタ筒部材への圧入組付けに伴う前記本体ゴム弾性体の圧縮によって小さくされている請求項1又は2に記載の液封筒型防振装置。
【請求項8】
前記中間スリーブの前記筒状部における軸方向の他端には、外周へ突出して前記外フランジと軸方向で対向する位置決め突起が設けられており、
該外フランジと該位置決め突起との軸方向間で前記アウタ筒部材が該中間スリーブに組み付けられて、該アウタ筒部材が該中間スリーブに対して軸方向で位置決めされている請求項1又は2に記載の液封筒型防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のパワーユニットマウントやサブフレームマウント等に用いられる液封筒型防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンやモータ等を含むパワーユニットを支持するパワーユニットマウント、サブフレームと車両ボデーとを防振連結するサブフレームマウント、サスペンションアームと車両ボデーとを防振連結するサスペンションブッシュ等に適用される筒型防振装置が知られている。また、筒型防振装置の一種として、特開2016-133181号公報(特許文献1)に開示された液封ブッシュのように、内部に封入された液体の流動作用等に基づく防振作用を利用する液封筒型防振装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、液封筒型防振装置は、特許文献1にも示されているように、インナ軸部材と中間スリーブが本体ゴム弾性体によって連結された構造を有している。このような構造では、本体ゴム弾性体の加硫成形後の熱収縮による引張応力を低減乃至は解消するために、本体ゴム弾性体の成形後に中間スリーブを縮径加工して、本体ゴム弾性体に径方向の予圧縮を及ぼす必要がある。
【0005】
また、液封筒型防振装置は、中間スリーブの窓部に別体のオリフィス部材が差し入れられた状態で、中間スリーブにアウタ筒部材が外嵌装着されることによって形成されている。アウタ筒部材とオリフィス部材の重ね合わせ面間にオリフィス通路が形成されることから、アウタ筒部材とオリフィス部材の重ね合わせ面間が液密に封止されている必要がある。そこで、アウタ筒部材の内周面にシールゴム層が形成されており、アウタ筒部材が中間スリーブ及びオリフィス部材に外挿された状態で縮径加工されることによって、アウタ筒部材がオリフィス部材の外周面に対してシールゴム層を介した密着状態で重ね合わされている。
【0006】
このように、従来構造の液封筒型防振装置では、中間スリーブの縮径加工と、アウタ筒部材の縮径加工とを、それぞれ行う必要があり、製造工程数が多くなっていた。また、中間スリーブとアウタ筒部材の間にオリフィス部材を組み付ける必要があり、部品点数も多くなっていた。
【0007】
本発明の解決課題は、部品点数の少ない簡単な構造と、少ない製造工程数とによって、目的とする性能を実現することができる、新規な構造の液封筒型防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、インナ軸部材と中間スリーブの筒状部とが本体ゴム弾性体で連結されており、該中間スリーブの該筒状部がアウタ筒部材に対して挿入状態で組み付けられており、該本体ゴム弾性体には一対の液室が形成されて、それら一対の液室を相互に連通するオリフィス通路が設けられている液封筒型防振装置であって、合成樹脂製とされた前記中間スリーブは、一対のスリーブ分割体からなる周方向に二分割された分割構造体とされており、該中間スリーブは、前記筒状部の軸方向の一端に外フランジを備えており、該中間スリーブの該筒状部の外周面には外周ゴムが固着されて、該外周ゴムが固着された該筒状部は前記アウタ筒部材に圧入されて組み付けられており、該外周ゴムに形成されたオリフィス溝が該アウタ筒部材で覆蓋されて前記オリフィス通路が形成されているものである。
【0010】
本態様によれば、中間スリーブが一対のスリーブ分割体で構成された二分割構造とされている。それゆえ、例えばスリーブ分割体の間に隙間を設けた状態で本体ゴム弾性体を形成すれば、本体ゴム弾性体の熱収縮に際して、スリーブ分割体の相互接近変位によって本体ゴム弾性体に対する引張応力の作用が低減乃至は回避される。従って、本体ゴム弾性体の成形後に中間スリーブに対する縮径加工を行う必要がなく、製造工程数を少なくすることができる。
【0011】
中間スリーブの筒状部の外周面に固着された外周ゴムにオリフィス溝が形成されており、オリフィス溝の開口がアウタ筒部材によって覆われることで、オリフィス通路が形成されている。それゆえ、オリフィス通路を形成するための別部品(オリフィス形成用部材)が不要とされて、部品点数の削減が可能になると共に、アウタ筒部材の中間スリーブに対する組付け作業が簡単になる。なお、オリフィス溝は外周ゴムを利用して形成されて外周ゴムの表面に開口していれば良く、例えばオリフィス溝の底面が中間スリーブで形成されていても良い。
【0012】
別体のオリフィス形成用部材が不要とされることにより、中間スリーブをアウタ筒部材に圧入することが可能となる。それゆえ、アウタ筒部材に縮径加工を施すことなく、中間スリーブとアウタ筒部材を相互に固定することができる。また、中間スリーブの外周面に固着された外周ゴムがアウタ筒部材の内周面に押し当てられることで、オリフィス通路の壁部がシールされることから、オリフィス通路における液体のリークによる性能の低下が回避される。
【0013】
中間スリーブは、外周ゴムが固着される外周面の凹凸や液室を形成するための窓部等によって複雑な形状とされていることから、従来のような金属製では外フランジの形成が困難になり易かった。本態様の中間スリーブは、合成樹脂製の型成形品とされていることから、外周面の凹凸等を備えた複雑な形状であっても、外フランジを容易に形成することができる。また、中間スリーブが二分割構造とされて本体ゴム弾性体の成形後の縮径加工が不要とされていることから、中間スリーブに外フランジが設けられていても、外フランジが縮径加工の邪魔になることがない。
【0014】
第二の態様は、第一の態様に記載された液封筒型防振装置において、前記アウタ筒部材は、ゴムが固着されていない金具単体によって構成されているものである。
【0015】
本態様によれば、アウタ筒部材がシールゴムやストッパゴムを備えたゴム加硫成形体とされていた従来構造に比して、アウタ筒部材側の構造の簡略化やゴムの加硫成形工程の省略による製造の容易化等が図られる。
【0016】
第三の態様は、第二の態様に記載された液封筒型防振装置において、軸方向で前記筒状部と反対側へ向けて突出するストッパゴムが、前記外フランジの軸方向一方の面に固着されており、該外フランジと該アウタ筒部材との軸方向間に介在する当接ゴムが、該外フランジの軸方向他方の面に固着されているものである。
【0017】
本態様によれば、ストッパゴムと当接ゴムとが固着される外フランジが、アウタ筒部材ではなく中間スリーブに設けられていることから、アウタ筒部材をゴムが固着されていない金具単体としながら、ストッパゴムを含む軸方向のストッパや、当接ゴムを介した中間スリーブとアウタ筒部材の緩衝的な当接を実現することができる。
【0018】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された液封筒型防振装置において、前記中間スリーブの前記筒状部は、軸方向の中間部分が両端部分よりも厚肉の厚肉部とされているものである。
【0019】
本態様によれば、金属製に比して強度が低くなり易い合成樹脂製の中間スリーブを採用するに際して、筒状部において本体ゴム弾性体に固着される軸方向中間部分を厚肉の厚肉部とすることにより、中間スリーブの強度(耐久性)の向上が図られる。また、厚肉部を利用して中間スリーブにオリフィス通路形成用の凹溝等を形成することもできる。即ち、本態様においては、例えば中間スリーブの厚肉部にオリフィス通路と、該オリフィス通路の端部を液室に接続する窓部が形成され得る。
【0020】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された液封筒型防振装置において、前記中間スリーブの前記筒状部を貫通する一対の窓部が設けられて、前記一対の液室が該一対の窓部を含んで構成されており、該窓部の軸方向少なくとも一方の端部において、該窓部の周方向端縁部から該窓部内へ向かって延び出した周方向延出部が設けられており、該周方向延出部に前記オリフィス溝の一部が形成されているものである。
【0021】
本態様によれば、中間スリーブに周方向延出部が設けられていることによって、オリフィス通路の壁部において外周ゴムだけで形成される領域をより狭くすることで、オリフィス通路の壁部の変形による圧力損失が低減されることから、オリフィス通路を通じた流体流動を効率的に生じさせることができる。
【0022】
第六の態様は、第五の態様に記載された液封筒型防振装置において、前記周方向延出部が前記窓部の軸方向両側にそれぞれ設けられているものである。
【0023】
本態様によれば、例えば、窓部の軸方向両側に延びるオリフィス通路を形成する場合に、オリフィス通路の壁部の変形剛性がより長い範囲で高められて、オリフィス通路による防振効果の向上が図られる。
【0024】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された液封筒型防振装置において、前記中間スリーブにおける前記一対のスリーブ分割体の周方向端面間の隙間は、該中間スリーブの前記アウタ筒部材への圧入組付けに伴う前記本体ゴム弾性体の圧縮によって小さくされているものである。
【0025】
本態様によれば、一対のスリーブ分割体のアウタ筒部材への圧入組付け時に、一対のスリーブ分割体が相互に接近変位することで、本体ゴム弾性体に予圧縮が及ぼされることから、振動入力時の本体ゴム弾性体の変形に際して、本体ゴム弾性体に作用する引張応力が低減されて、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0026】
第八の態様は、第一~第七の何れか1つの態様に記載された液封筒型防振装置において、前記中間スリーブの前記筒状部における軸方向の他端には、外周へ突出して前記外フランジと軸方向で対向する位置決め突起が設けられており、該外フランジと該位置決め突起との軸方向間で前記アウタ筒部材が該中間スリーブに組み付けられて、該アウタ筒部材が該中間スリーブに対して軸方向で位置決めされているものである。
【0027】
本態様によれば、アウタ筒部材が中間スリーブに対して軸方向の適切な位置に位置決めされて組み付けられることにより、例えば、外周ゴムのオリフィス溝がアウタ筒部材によって確実に覆われて、オリフィス通路における液体の短絡的なリーク等が防止される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、液封筒型防振装置において、部品点数の少ない簡単な構造と、少ない製造工程数とによって、目的とする性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の第一の実施形態としてのメンバマウントを示す断面図であって、
図2のI-I断面に相当する図
【
図3】
図1に示すメンバマウントを構成する一体加硫成形品の正面図
【
図13】
図3に示す一体加硫成形品を構成するスリーブ分割体の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0031】
図1,
図2には、本発明に従う構造とされた液封筒型防振装置の第一の実施形態として、自動車のメンバマウント10が示されている。メンバマウント10は、一体加硫成形品12にアウタ筒部材14が取り付けられた構造を有している。一体加硫成形品12は、
図3~
図12に示されているように、インナ軸部材16と中間スリーブ18が本体ゴム弾性体20によって弾性連結された構造とされている。以下の説明において、原則として、上下方向とは
図1中の上下方向を、前後方向とは
図1中の左右方向を、左右方向とは
図2中の左右方向を、それぞれ言う。
【0032】
インナ軸部材16は、
図1,
図2,
図8~
図12に示されているように、小径筒形の部材であって、略一定の断面形状で前後方向に直線的に延びている。インナ軸部材16は、金属や合成樹脂等で形成された硬質の部材とされている。インナ軸部材16は、
図3に示されているように、内周面と外周面が何れも長円形断面とされており、内周面の長軸方向と外周面の長軸方向とが相互に直交する方向とされている。尤も、インナ軸部材は、例えば、内周面と外周面の少なくとも一方が、円形とされていてもよいし、多角形などの非円形とされていてもよい。
【0033】
インナ軸部材16の外周側には、
図8~
図12に示されているように、中間スリーブ18が配されている。中間スリーブ18は、ポリアミド等の合成樹脂によって形成された型成形品とされている。中間スリーブ18は、一対のスリーブ分割体22a,22bによって構成された分割構造とされている。スリーブ分割体22は、
図13~
図19に示されているように、全体として略半円筒形状とされており、半円筒部24の軸方向一方の端部に外周へ向けて突出するフランジ状部26が一体形成されている。なお、
図13~
図19には、上側のスリーブ分割体22aが示されているが、下側のスリーブ分割体22bは上側のスリーブ分割体22aを180°回転させた共通構造とされていることから、上側のスリーブ分割体22aについて説明することで下側のスリーブ分割体22bの説明は省略する。
【0034】
半円筒部24には、径方向に貫通する窓部28が形成されている。窓部28は、上下方向視において略矩形とされている。窓部28は、半円筒部24の周方向及び軸方向の中央部分に形成されている。窓部28は、周方向において半円筒部24の1/3周程度の長さに亘って形成されている。
【0035】
半円筒部24における軸方向の中間部分は、径方向厚さ寸法の大きい厚肉部30とされている。厚肉部30は、窓部28に対する周方向の両外側に設けられており、軸方向両端部分よりも内周へ突出して厚肉とされている。そして、半円筒部24の厚肉部30には、外周面に開口して周方向に延びる周溝32が形成されている。周溝32は、厚肉部30の軸方向両端部分にそれぞれ形成されている。周溝32は、窓部28に対する周方向両側の厚肉部30a,30bにそれぞれ形成されている。周溝32は、周方向一方の端部が半円筒部24の周方向端面に開口していると共に、周方向他方の端部が窓部28に向けて周方向で開口している。
【0036】
窓部28の四隅部分には、窓部28の周方向端縁部から窓部28内へ向けて延び出す周方向延出部34が設けられている。周方向延出部34は、
図16,
図19に示すような略L字形の断面形状で周方向に延びている。周方向延出部34が設けられていることにより、
図16に示すように、周溝32が窓部28の周方向両端部よりも周方向の内側まで延び出しており、周溝32が周方向に延長されている。周方向延出部34の内周の曲率は、
図15に示すように、厚肉部30の内周の曲率と異なっている。周方向延出部34の上下内側への突出寸法は、厚肉部30の左右内側への突出寸法よりも小さくされており、それによって後述する本体ゴム弾性体20の上下方向と左右方向のばね比が調節されている。周方向延出部34は、本実施形態では窓部28の軸方向両側にそれぞれ設けられているが、軸方向何れか一方だけに設けられていてもよい。また、周方向延出部34は、本実施形態では窓部28の周方向両側にそれぞれ設けられているが、周方向何れか一方だけに設けられていてもよい。これらからも分かるように、周方向延出部34の形成数は特に限定されず、必ずしも4つの周方向延出部34が設けられている必要はない。
【0037】
窓部28に対して周方向両側に設けられた厚肉部30a,30bは、
図16,
図19に示すように、一方の厚肉部30bにのみ軸方向に延びる縦溝36が形成されており、縦溝36によって軸方向両側の周溝32,32が相互に接続されている。縦溝36は、厚肉部30において周方向で窓部28に近い位置に設けられており、軸方向で直線的に延びている。
【0038】
このように、半円筒部24の軸方向中間に設けられた厚肉部30に周溝32,32と縦溝36とが形成されていることにより、周溝32,32と縦溝36の形成部分において半円筒部24が過度に薄肉になるのを防いで、半円筒部24の強度を確保することができる。
【0039】
半円筒部24の軸方向一方の端部(前端部)には、フランジ状部26が一体形成されて外周へ突出している。フランジ状部26は、周方向に略半周に亘って延びる半円環板形状とされている。フランジ状部26の周方向長さ寸法は、半円筒部24の周方向長さ寸法と略同じとされている。
【0040】
半円筒部24の軸方向他方の端部(後端部)には、位置決め突起38が一体形成されている。位置決め突起38は、半円筒部24の後端部から外周へ突出しており、フランジ状部26に対して軸方向で対向している。位置決め突起38は、フランジ状部26よりも周方向長さ寸法が小さくされており、半円筒部24の周方向の両端部分を外れた周方向の中央部分に設けられている。本実施形態では、位置決め突起38が設けられる半円筒部24の軸方向後端部も周方向長さが短くされており、半円筒部24の軸方向長さが周方向両端部分において短くされている。
【0041】
一対のスリーブ分割体22a,22bが互いに向かい合わせに組み合わされることにより、筒状の中間スリーブ18が構成されている。中間スリーブ18において、スリーブ分割体22a,22bが周方向端面が周方向で相互に対向しており、全体として略円筒形状の筒状部40が半円筒部24,24によって構成されていると共に、全体として円環板状の外フランジ42がフランジ状部26,26によって構成されている。中間スリーブ18には、一対の窓部28,28が上下方向の対向部分に形成されている。
【0042】
スリーブ分割体22a,22bの軸方向前側の各周溝32は、周方向で相互に接続されており、スリーブ分割体22a,22bの窓部28,28を周方向両側において相互に連通している。同様に、スリーブ分割体22a,22bの軸方向後側の各周溝32は、周方向で相互に接続されており、スリーブ分割体22a,22bの窓部28,28を周方向両側において相互に連通している。
【0043】
中間スリーブ18は、
図8~
図12に示すように、インナ軸部材16に対して外周側へ離隔した状態で外挿配置されており、それらインナ軸部材16と中間スリーブ18が本体ゴム弾性体20によって相互に連結されている。本体ゴム弾性体20は、全体として略円筒形状とされており、内周面がインナ軸部材16に加硫接着されていると共に、外周面が中間スリーブ18に加硫接着されている。本体ゴム弾性体20は、インナ軸部材16と中間スリーブ18とを備える一体加硫成形品12として形成されている。
【0044】
中間スリーブ18が一対のスリーブ分割体22a,22bからなる分割構造とされていることにより、本体ゴム弾性体20が成形後の冷却によって軸直角方向で収縮(熱収縮)しても、スリーブ分割体22a,22bが相互に接近方向へ移動することによって、本体ゴム弾性体20の引張歪が低減される。それゆえ、本体ゴム弾性体20の成形後に中間スリーブ18の縮径加工を行う必要がなく、縮径加工工程の省略による製造の容易化や製造時間の短縮、製造コストの低減等が実現される。なお、本体ゴム弾性体20の成形金型にスリーブ分割体22a,22bをセットする際には、本体ゴム弾性体20の熱収縮によるスリーブ分割体22a,22bの相互接近変位を考慮して、スリーブ分割体22a,22bの間に所定の隙間を設定することが望ましい。これにより、スリーブ分割体22a,22bの間には、本体ゴム弾性体20の一部が介在している。また、本体ゴム弾性体20の熱収縮後において、スリーブ分割体22a,22bの間には、所定の隙間が設けられていることが望ましい。
【0045】
本体ゴム弾性体20は、
図8~
図10に示すように、軸方向一方の端面(前端面)に開口する第一のすぐり溝44と、軸方向他方の端面(後端面)に開口する第二のすぐり溝46とを、備えている。各すぐり溝44,46の断面形状や深さを含む大きさ等は、特に限定されず、要求特性に応じて適宜に設定される。
【0046】
本体ゴム弾性体20は、一対の凹所48,48を備えている。凹所48,48は、
図8,
図11に示すように、インナ軸部材16に対して上下両側に設けられており、本体ゴム弾性体20の外周面において上下両側へ向けて開口している。凹所48,48は、中間スリーブ18の窓部28,28と位置合わせされており、窓部28,28を通じて外周側へ開放されている。
【0047】
中間スリーブ18における筒状部40の外周面には、外周ゴム50が固着されている。外周ゴム50は、本体ゴム弾性体20と一体形成されている。外周ゴム50は、軸方向において位置決め突起38よりも前方に設けられており、位置決め突起38が外周ゴム50で覆われることなく露出している。
【0048】
外周ゴム50が中間スリーブ18の筒状部40の外周面に固着されることによって、
図4~
図7に示すように、周溝32と縦溝36が外周ゴム50で適宜に埋められており、周方向に一周を超える長さで延びて一対の凹所48,48を相互に連通するオリフィス溝52が形成されている。オリフィス溝52の両端部は、
図4,
図5に示すように、軸方向内側へ延び出して、凹所48,48の周方向中央部分に接続されている。オリフィス溝52の一部は、周溝32の一部を構成する周方向延出部34に形成されている。
【0049】
外周ゴム50における周溝32よりも軸方向外側に位置する部分には、外周へ突出するシールリップ54が全周に亘って連続して形成されている。シールリップ54は、先細断面形状で外周へ向けて突出しており、本実施形態では、前側の周溝32,32よりも前方に2つのシールリップ54,54が相互に離隔して並列的に設けられていると共に、後側の周溝32,32よりも後方に2つのシールリップ54,54が相互に離隔して並列的に設けられている。
【0050】
外フランジ42は、本体ゴム弾性体20及び外周ゴム50と一体形成された被覆ゴム56によって覆われている。外フランジ42は、
図3~
図8に示すように、周方向の複数箇所において部分的に被覆ゴム56から露出している。
【0051】
被覆ゴム56は、外フランジ42の後面を覆う当接ゴム58を含んでいる。また、被覆ゴム56における外フランジ42の前面を覆う部分には、前方へ向けて突出する複数のストッパゴム60が設けられている。ストッパゴム60は、外フランジ42の前面に固着されており、略四角ブロック状とされて、突出先端に向けて縮小する先細形状とされている。本実施形態では、8つのストッパゴム60が周方向で相互に離れて設けられている。ストッパゴム60は、軸方向の投影面積が大きく且つ突出高さが小さいストッパゴム60aと、軸方向の投影面積が小さく且つ突出高さが大きいストッパゴム60bとを含んでおり、それらストッパゴム60aとストッパゴム60bとが周方向で交互に配置されている。
【0052】
図1,
図2に示すように、一体加硫成形品12の中間スリーブ18には、アウタ筒部材14が取り付けられている。アウタ筒部材14は、全体として円筒形状とされており、前端部に外周へ突出するフランジ部62を備えている。アウタ筒部材14は、本実施形態では金属製とされているが、例えば合成樹脂で形成されていてもよい。アウタ筒部材14は、ゴムが固着されておらず、金属又は合成樹脂の単体からなる部材とされており、本実施形態では金具単体とされている。
【0053】
アウタ筒部材14には、外周ゴム50で覆われた中間スリーブ18が挿入状態で組み付けられている。アウタ筒部材14が中間スリーブ18に組み付けられることによって、インナ軸部材16とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体20によって連結されている。
【0054】
中間スリーブ18の筒状部40は、アウタ筒部材14の内周へ外周ゴム50を介してゴム圧入されており、外周ゴム50が筒状部40とアウタ筒部材14との径方向間で圧縮されている。アウタ筒部材14は、フランジ部62が中間スリーブ18の外フランジ42に対して当接ゴム58を介して軸方向に重ね合わされることにより、中間スリーブ18に対して軸方向で位置決めされている。中間スリーブ18の外フランジ42とアウタ筒部材14のフランジ部62との間に当接ゴム58が介在することにより、部品寸法の公差等の誤差が当接ゴム58の変形によって吸収されて、中間スリーブ18とアウタ筒部材14とが軸方向の適切な相対位置で組み付けられると共に、外フランジ42とフランジ部62が直接接することによる傷等が回避される。
【0055】
本実施形態では、一体加硫成形品12において、スリーブ分割体22a,22bの周方向端面の対向面が相互に離隔しており、スリーブ分割体22a,22bの周方向端面の対向面間距離が中間スリーブ18のアウタ筒部材14への圧入組付けによって小さくなっている。従って、中間スリーブ18のアウタ筒部材14への圧入組付けによって本体ゴム弾性体20が軸直角方向で圧縮されており、振動入力時の本体ゴム弾性体20の引張歪がより低減されて、耐久性の向上が図られている。なお、スリーブ分割体22a,22bの周方向端面の対向方向は、主たる振動の入力方向である上下方向とされていることから、本体ゴム弾性体20が上下方向で予圧縮されて、主たる振動の入力に対する耐久性の向上が図られる。
【0056】
中間スリーブ18とアウタ筒部材14とが、外フランジ42とフランジ部62との重ね合わせによって位置決めされた状態において、アウタ筒部材14の中間スリーブ18に対する後方への抜けが、アウタ筒部材14の後面と位置決め突起38との係止によって防止される。換言すれば、アウタ筒部材14は、外フランジ42と位置決め突起38との軸方向対向面間で中間スリーブ18の筒状部40に組み付けられて、中間スリーブ18に対して軸方向で位置決めされている。これにより、アウタ筒部材14が中間スリーブ18に対する外挿組付け状態に保持されて、中間スリーブ18とアウタ筒部材14との軸方向での位置ずれが制限されている。
【0057】
本体ゴム弾性体20の凹所48,48の各開口部がアウタ筒部材14によって覆蓋されることにより、一対の液室64,64が形成されている。液室64は、窓部28,28の形成部分に設けられて、壁部が窓部28,28の内周面を覆う部分を含む本体ゴム弾性体20で構成されており、本体ゴム弾性体20の変形によって内圧変動が惹起される。液室64には、水、エチレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等の液体が封入されている。封入流体は、例示したものに限定されないが、好適には非圧縮性の液体とされる。また、封入流体は、低粘性の液体であることが望ましい。
【0058】
外周ゴム50に形成されたオリフィス溝52の外周開口部がアウタ筒部材14によって覆蓋されることにより、2つの液室64,64を相互に連通するオリフィス通路66が形成されている。そして、振動入力時には、液室64,64の相対的な内圧変動によって、オリフィス通路66を通じた液室64,64間での液体の流動が生じて、液体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。オリフィス通路66は、好適には、流動液体の共振周波数(チューニング周波数)が防振対象振動の周波数に調節されている。
【0059】
本実施形態では、オリフィス溝52が中間スリーブ18に形成された周溝32を利用して形成されており、中間スリーブ18とは別体のオリフィス形成用部材が設けられていない。それゆえ、中間スリーブ18をアウタ筒部材14にゴム圧入によって組み付けることが可能とされており、アウタ筒部材14を中間スリーブ18に対して外挿した状態で縮径加工して嵌着固定する必要がない。それゆえ、アウタ筒部材14の縮径加工工程が省略されて、製造の容易化や製造コストの低減、構造の簡略化等が図られる。
【0060】
中間スリーブ18に設けられた周溝32は、周方向延出部34によって周方向の長さが長く確保されており、オリフィス溝52(オリフィス通路66)の壁部において周溝32を外れてゴムだけで形成された範囲が狭くされている。これにより、液圧の作用によるオリフィス通路66の壁部の変形が抑えられており、オリフィス通路66を通じた流体流動による防振効果が安定して発揮される。
【0061】
なお、凹所48,48の各開口縁部とオリフィス溝52の開口縁部には、何れも外周ゴム50で構成されており、アウタ筒部材14の内周面が外周ゴム50に押し当てられることで、凹所48,48の各開口部とオリフィス溝52の開口部とがアウタ筒部材14によって液密に覆蓋されている。本実施形態では、液体の封入領域が軸方向の中央部分に設定されており、当該液体封入領域の軸方向両外側には、それぞれシールリップ54が設けられている。これにより、中間スリーブ18がアウタ筒部材14に圧入組付けされた状態において、シールリップ54がアウタ筒部材14の内周面に押し当てられてシール構造を構成することから、液体封入領域から軸方向外方への液漏れがより確実に防止される。
【0062】
メンバマウント10は、例えば、インナ軸部材16が車両ボデーに取り付けられると共に、アウタ筒部材14がサスペンションメンバに取り付けられることによって、車両ボデーとサスペンションメンバとを防振連結する。このようなメンバマウント10の車両への装着状態において、上下方向の振動が入力されると、一対の液室64,64間に相対的な圧力差が発生して、オリフィス通路66を通じた流体流動が生じ、液体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。
【0063】
また、インナ軸部材16に取り付けられる図示しない車両ボデー側の部材には、中間スリーブ18の外フランジ42に対して軸方向前方に対向するストッパ受部が設けられている。そして、当該ストッパ受部と外フランジ42とがストッパゴム60を介して当接することによって、インナ軸部材16のアウタ筒部材14に対する軸方向前方への変位量が制限されており、本体ゴム弾性体20の変形量が制限されることによる耐久性の向上が図られている。
【0064】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、中間スリーブを構成する一対のスリーブ分割体は、必ずしも相互に同一形状には限定されず、異なる形状のものを組み合わせることもできる。
【0065】
オリフィス通路の通路断面積、断面形状、経路等は、特に限定されず、例えば防振対象振動の周波数等に応じて適宜に変更設定され得る。また、オリフィス通路は、複数が設けられていてもよい。複数のオリフィス通路を形成する場合に、それらオリフィス通路のチューニング周波数は、相互に同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 メンバマウント(液封筒型防振装置 第一の実施形態)
12 一体加硫成形品
14 アウタ筒部材
16 インナ軸部材
18 中間スリーブ
20 本体ゴム弾性体
22(22a,22b) スリーブ分割体
24 半円筒部
26 フランジ状部
28 窓部
30(30a,30b) 厚肉部
32 周溝
34 周方向延出部
36 縦溝
38 位置決め突起
40 筒状部
42 外フランジ
44 第一のすぐり溝
46 第二のすぐり溝
48 凹所
50 外周ゴム
52 オリフィス溝
54 シールリップ
56 被覆ゴム
58 当接ゴム
60(60a,60b) ストッパゴム
62 フランジ部
64 液室
66 オリフィス通路