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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073076
(43)【公開日】2024-05-29
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240522BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240522BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20240522BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240522BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16J15/3256
F16J15/3232 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184079
(22)【出願日】2022-11-17
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楊 曉菲
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AB05
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE37
3J006AE42
3J006CA01
3J043AA17
3J043CA02
3J043CA05
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA09
3J043DA20
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB04
3J216CB07
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC33
3J216CC41
3J216GA03
3J216GA10
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701BA78
3J701FA31
3J701GA03
3J701XB24
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】密封装置のスリンガが軸方向に移動することを抑制しつつ、密封装置の寿命を次向上することができる車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】車輪用軸受装置1のアウター側シール部材10は、車輪取り付けフランジ3bの基部3dに設けられ、ハブ輪3の外周面に嵌装される円筒部12aと、円筒部13aのアウター側端部に連結され、車輪取り付けフランジ3bと対向する円板部13bとを有するスリンガ13と、外輪2のアウター側端部に嵌合される芯金11と、芯金11に一体的に接合されるシール部材12であって、円筒部13aと接触するラジアルリップ12bと、円板部13bと接触するサイドリップ12cとを有するシール部材12とを備え、ハブ輪3の外周面3jは周方向に沿って延びる溝3mを有し、スリンガ13の円筒部13aは、内周面から内径側に突出し、溝3mと係合する爪部131を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
軸方向の一端部に車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを有し、外周に軸方向に延びる小径段部を有するハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、
前記密封装置は、
前記車輪取り付けフランジの基部に設けられ、前記ハブ輪の外周面に嵌装される円筒部と、前記円筒部の軸方向一端部に連結され、前記車輪取り付けフランジと対向する円板部とを有するスリンガと、
前記外方部材における軸方向一端側の内周に篏合される芯金と、
前記芯金に一体的に接合されるシール部材であって、前記芯金から内径側へ向けて延出し、前記スリンガの前記円筒部と接触するラジアルリップと、前記芯金から軸方向の一側へ向けて延出し、前記スリンガの前記円板部と接触するサイドリップとを有するシール部材と、を備え、
前記ハブ輪の前記外周面は、周方向に沿って延びる溝を有し、
前記スリンガの前記円筒部は、内周面から内径側に突出し、前記溝と係合する爪部を有する車輪用軸受装置。
【請求項2】
前記爪部は、周方向に沿った複数箇所に断続的に設けられる請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、
軸方向の一端部に車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを有し、外周に軸方向に延びる小径段部を有するハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置と、を備える車輪用軸受装置であって、
前記密封装置は、
前記車輪取り付けフランジの基部に設けられ、前記ハブ輪の外周面に嵌装される円筒部と、前記車輪取り付けフランジと対向する円板部とを有するスリンガと、
前記外方部材における軸方向一端側の内周に嵌合される芯金と、
前記芯金に一体的に接合されるシール部材であって、前記芯金から内径側へ向けて延出し、前記スリンガの前記円筒部と接触するラジアルリップと、前記芯金から軸方向の一側へ向けて延出し、前記スリンガの前記円板部と接触するサイドリップとを有するシール部材と、を備え、
前記ハブ輪の前記外周面は、周方向に沿って延びる突起を有し、
前記スリンガの前記円筒部は、内周面から外径側に凹陥し、前記突起と係合する係合凹部を有する車輪用軸受装置。
【請求項4】
前記係合凹部は前記円筒部の軸方向における途中部に形成され、
前記円筒部は、前記係合凹部よりも軸方向の一側に位置する第1円筒部と、前記係合凹部よりも軸方向の他側に位置する第2円筒部とを有し、
前記第1円筒部の内径は、前記第2円筒部の内径よりも大きい請求項3に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
前記係合凹部は、軸方向の一側へいくに従って外径側へ傾斜する第1傾斜面と、前記第1傾斜面の軸方向一側に位置し、軸方向の他側へいくに従って外径側へ傾斜する第2傾斜面とを有し、
前記第2傾斜面の軸方向に対する傾斜角度は、前記第1傾斜面の軸方向に対する傾斜角度よりも大きい請求項3または請求項4に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
前記第1傾斜面と前記突起との間に隙間を有する請求項5に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置には、外方部材と内方部材とによって形成された環状空間の開口端を塞ぎ、泥水等の異物の入り込みを防止する密閉装置が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示される車輪用軸受装置の密封装置は、内方部材であるハブ輪に嵌合されるスリンガと、外方部材である外輪の内周に嵌合される芯金と、芯金に一体的に接合されるシール部材とを備えている。スリンガは、ハブ輪に形成されるフランジに接触する円環部と、円環部から軸方向のインナ側に延びる筒部とを有している。
【0004】
ここで、ハブ輪に嵌合されるスリンガが軸方向のインナ側に移動すると、ハブ輪のフランジとスリンガとの間に隙間が生じて、軸受内部に泥水等の異物が浸入するおそれがある。また、スリンガの円環部と、円環部に接触するシール部材のサイドリップとの摩擦抵抗が増加して、サイドリップに異常摩耗や発熱による劣化が生じるおそれがある。
【0005】
従って、引用文献1に開示される密封装置においては、スリンガの筒部は、軸方向のインナ側端部に、ハブ輪の外周面に形成された凹部に係合する爪部を有しており、スリンガが軸方向のインナ側変位することを阻止している。これにより、ハブ輪のフランジとスリンガとの間から軸受内部に泥水等の異物が浸入することを抑制するとともに、サイドリップに異常摩耗や発熱による劣化が生じることを抑制可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-207124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述の爪部を有するスリンガは、軸方向に摺動しながらハブ輪に嵌合されるが、スリンガの爪部はハブ輪に対して締め代をもって圧入されるため、スリンガをハブ輪に嵌合する際に、スリンガの爪部によってハブ輪の外周面に傷が付くおそれがある。
【0008】
一方、特許文献1に開示される密封装置においては、密封装置におけるシール部材のラジアルリップは、スリンガに接触することなくハブ輪の外周面に直接接触しているため、ハブ輪の外周面に付いた傷により摩耗が促進されて、密封装置の寿命が短くなるおそれがある。
【0009】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、密封装置のスリンガが軸方向に移動することを抑制しつつ、密封装置の寿命を次向上することができる車輪用軸受装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、軸方向の一端部に車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを有し、外周に軸方向に延びる小径段部を有するハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置を備える車輪用軸受装置であって、前記密封装置は、前記車輪取り付けフランジの基部に設けられ、前記ハブ輪の外周面に嵌装される円筒部と、前記円筒部の軸方向一端部に連結され、前記車輪取り付けフランジと対向する円板部とを有するスリンガと、前記外方部材における軸方向一端側の内周に嵌合される芯金と、前記芯金に一体的に接合されるシール部材であって、前記芯金から内径側へ向けて延出し、前記スリンガの前記円筒部と接触するラジアルリップと、前記芯金から軸方向の一側へ向けて延出し、前記スリンガの前記円板部と接触するサイドリップとを有するシール部材と、を備え、前記ハブ輪の前記外周面は、周方向に沿って延びる溝を有し、前記スリンガの前記円筒部は、内周面から内径側に突出し、前記溝と係合する爪部を有する。
【0011】
また、車輪用軸受装置は、内周に複列の外側軌道面を有する外方部材と、軸方向の一端部に車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジを有し、外周に軸方向に延びる小径段部を有するハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪からなり、前記複列の外側軌道面に対向する複列の内側軌道面を有する内方部材と、前記外方部材と前記内方部材との両軌道面間に転動自在に収容された複列の転動体と、前記外方部材と前記内方部材とによって形成された環状空間の軸方向一端側の開口端を塞ぐ密封装置を備える車輪用軸受装置であって、前記密封装置は、前記車輪取り付けフランジの基部に設けられ、前記ハブ輪の外周面に嵌装される円筒部と、前記車輪取り付けフランジと対向する円板部とを有するスリンガと、前記外方部材における軸方向一端側の内周に嵌合される芯金と、前記芯金に一体的に接合されるシール部材であって、前記芯金から内径側へ向けて延出し、前記スリンガの前記円筒部と接触するラジアルリップと、前記芯金から軸方向の一側へ向けて延出し、前記スリンガの前記円板部と接触するサイドリップとを有するシール部材と、を備え、前記ハブ輪の前記外周面は、周方向に沿って延びる突起を有し、前記スリンガの前記円筒部は、内周面から外径側に凹陥し、前記突起と係合する係合凹部を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、密封装置のスリンガが軸方向に移動することを抑制しつつ、密封装置の寿命を次向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】車輪用軸受装置を示す側面断面図である。
図2】第1実施形態に係る車輪用軸受装置のアウター側シール部材を示す側面断面図である。
図3】第1実施形態に係る車輪用軸受装置のスリンガの円筒部とハブ輪の外周面との係合部を示す側面断面である。
図4】爪部が周方向の全周にわたって連続して形成されたスリンガを示す斜視図である。
図5】爪部が周方向に沿った複数箇所に断続的に形成されたスリンガを示す斜視図である。
図6】第2実施形態に係る車輪用軸受装置のアウター側シール部材を示す側面断面図である。
図7】第2実施形態に係る車輪用軸受装置のスリンガの円筒部とハブ輪の外周面との係合部を示す側面断面である。
図8】第3実施形態に係る車輪用軸受装置のアウター側シール部材を示す側面断面図である。
図9】第3実施形態に係る車輪用軸受装置のスリンガの円筒部とハブ輪の外周面との係合部を示す側面断面である。
図10】第4実施形態に係る車輪用軸受装置のアウター側シール部材を示す側面断面図である。
図11】第4実施形態に係る車輪用軸受装置のスリンガの円筒部とハブ輪の外周面との係合部を示す側面断面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0015】
[車輪用軸受装置の第1実施形態]
図1に示す車輪用軸受装置1は、本発明に係る車輪用軸受装置の第1実施形態であり、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。
【0016】
以下の説明において、軸方向とは車輪用軸受装置1の回転軸心Xに沿った方向を表す。また、アウター側とは、軸方向の一側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表し、インナー側とは、軸方向の他側であって車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表す。
【0017】
車輪用軸受装置1は第3世代と称呼される構成を備えており、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ輪3および内輪4と、転動列である二列のインナー側ボール列5及びアウター側ボール列6と、インナー側シール部材9およびアウター側シール部材10とを具備する。
【0018】
外輪2のインナー側端部には、インナー側シール部材9が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材10が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。外輪2の内周面には、インナー側の外側軌道面2cと、アウター側の外側軌道面2dとが形成されている。外輪2の外周面には、外輪2を車体側部材に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体的に形成されている。
【0019】
ハブ輪3の外周面3jにおけるインナー側端部には、アウター側端部よりも縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、複数のボルト孔3fが形成されている。ボルト孔3fには、ハブ輪3と車輪またはブレーキ部品とを締結するためのハブボルトが圧入可能である。
【0020】
ハブ輪3の外周面3jには、外輪2のアウター側の外側軌道面2dに対向するようにアウター側の内側軌道面3cが設けられている。つまり、内方部材のアウター側には、ハブ輪3によって内側軌道面3cが構成されている。アウター側シール部材10は、外輪2とハブ輪3とによって形成された環状空間Sのアウター側開口端に嵌合されており、当該アウター側開口端を塞いでいる。アウター側シール部材10は、密封装置の一例である。
【0021】
ハブ輪3の小径段部3aには、内輪4が設けられている。内輪4は、圧入によりハブ輪3の小径段部3aに固定されている。内輪4は、転動列であるインナー側ボール列5およびアウター側ボール列6に予圧を付与している。
【0022】
内輪4の外周面には、外輪2のインナー側の外側軌道面2cと対向するようにインナー側の内側軌道面4aが設けられている。つまり、内方部材のインナー側には、内輪4によって内側軌道面4aが構成されている。
【0023】
転動列であるインナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、転動体である複数のボール7が保持器8によって保持されることにより構成されている。インナー側ボール列5は、内輪4の内側軌道面4aと、外輪2のインナー側の外側軌道面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列6は、ハブ輪3の内側軌道面3cと、外輪2のアウター側の外側軌道面2dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5とアウター側ボール列6とは、外方部材と内方部材との両軌道面間に転動自在に収容されている。
【0024】
車輪用軸受装置1においては、外輪2と、ハブ輪3及び内輪4と、インナー側ボール列5と、アウター側ボール列6とによって複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、車輪用軸受装置1は複列アンギュラ玉軸受に替えて複列円錐ころ軸受を構成していてもよい。
【0025】
[アウター側シール部材]
図2に示すように、アウター側シール部材10は、外輪2におけるアウター側の内周に嵌合される芯金11と、芯金11に一体的に接合されるシール部材12と、ハブ輪3における車輪取り付けフランジ3bの基部3dに設けられるスリンガ13とを備えている。
【0026】
芯金11は、例えば鋼板により構成されており、外輪2のアウター側開口部2bの内周に嵌合される円筒状の嵌合部11aと、嵌合部11aのインナー側端部から内径側へ延びる内側部11bと、嵌合部11aのアウター側端部から外径側へ延びる外側部11cと、外側部11cの外径側端部からインナー側へ延びる外縁部11dとを有している。内側部11bは、嵌合部11aのインナー側端部から屈曲されて、アウター側かつ内径側へ延びた後、内径側へ延びている。外縁部11dは、外輪2の外周面2hと所定の間隔を開けてインナー側へ延びている。
【0027】
シール部材12は、例えば合成ゴム等の弾性部材によって形成されており、芯金11に加硫接着によって接合されている。シール部材12は、基部12aと、ラジアルリップ12bと、サイドリップ12cと、堰部12dとを有している。基部12aは、芯金11の内側部11bから嵌合部11aおよび外側部11cを経由して、外縁部11dに至るまでの範囲に接合されている。
【0028】
ラジアルリップ12bは、シール部材12の内径側端部に位置しており、芯金11の内側部11bから、内径側かつインナー側へ向けて延出している。ラジアルリップ12bは、グリースの油膜を介してスリンガ13に摺接している。
【0029】
サイドリップ12cは、ラジアルリップ12bよりも外径側において、芯金11の内側部11bから、車輪取り付けフランジ3b側かつ外径側へ向けて延出している。サイドリップ12cは、グリースの油膜を介してスリンガ13に摺接している。
【0030】
堰部12dは、芯金11の外縁部11dを覆っており、外輪2の外周面2hよりも外径側に突出するとともに、外輪2の外周面2hに接触している。
【0031】
スリンガ13は、例えば鋼板により構成されており、円筒部13aと、円板部13bと、突出部13cとを有している。スリンガ13は、ハブ輪3の外周面3jにインナー側からアウター側へ向けて圧入されることにより、ハブ輪3に嵌装される。
【0032】
円筒部13aは円筒状に形成されており、車輪取り付けフランジ3bよりもインナー側において、ハブ輪3の外周面3jに嵌装されている。円筒部13aは、径方向においてラジアルリップ12bと対向しており、円筒部13aとラジアルリップ12bとは接触している。
【0033】
円板部13bは円板状に形成されており、円筒部13aのアウター側端部に連結されている。円板部13bは、軸方向において車輪取り付けフランジ3bのインナー側面3kと対向している。円板部13bとインナー側面3kとは接触している。円板部13bは、軸方向においてサイドリップ12cと対向しており、円板部13bとサイドリップ12cとは接触している。
【0034】
突出部13cは、円板部13bの外径側端部からインナー側へ向かって突出している。突出部13cは、径方向においてサイドリップ12cの外径側に位置している。また、突出部13cは、径方向において外輪2におけるアウター側開口部2bの内周面よりも内径側に位置している。突出部13cのインナー側端部は、軸方向においてシール部材12の基部12aと隙間をもって対向している。
【0035】
スリンガ13の突出部13cを、シール部材12のサイドリップ12cよりも外径側に配置することで、泥水等の異物がアウター側シール部材10の内部に浸入することを抑制している。
【0036】
スリンガ13における円板部13bの外径側端部と、車輪取り付けフランジ3bとの間には、環状の止水部材14が介在している。円板部13bと車輪取り付けフランジ3bとの間に止水部材14が介在することで、スリンガ13と車輪取り付けフランジ3bとの間から軸受内部に泥水等の異物が浸入することを抑制している。
【0037】
図2図3に示すように、ハブ輪3の外周面3jにおける車輪取り付けフランジ3bと内側軌道面3cとの間には、周方向に沿って延びる溝3mが形成されている。溝3mは、全周にわたって連続して形成されている。
【0038】
スリンガ13における円筒部13aのインナー側端部には、円筒部13aの内周面から内径側に突出する爪部131が形成されている。爪部131は溝3mと係合している。爪部131は、周方向に沿って形成されている。図4に示すように、爪部131は、周方向の全周にわたって連続して形成することができる。
【0039】
爪部131は、軸方向に対して、インナー側へ向かうに従って内径側に傾斜している。爪部131は、円筒部13aのインナー側端部を内径側へ屈曲することにより形成することができる。
【0040】
スリンガ13の円筒部13aが有する爪部131が、ハブ輪3の外周面3jの溝3mに係合することで、スリンガ13がインナー側へ移動することが抑制されている。
【0041】
これにより、スリンガ13がインナー側へ移動した場合のように、車輪取り付けフランジ3bとスリンガ13との間から軸受内部に泥水等の異物が浸入することを抑制することができる。また、円板部13bとサイドリップ12cとの摩擦抵抗が増加して、サイドリップ12cに異常摩耗や発熱による劣化が生じることを抑制できる。
【0042】
さらに、ラジアルリップ12bはスリンガ13の円筒部13aと接触しており、円筒部13a上で摺動するため、スリンガ13のハブ輪13への装着時にハブ輪13の外周面3jに傷が付いた場合でも、ラジアルリップ12bの摩耗を抑制することができ、アウター側シール部材10の寿命を向上することができる。
【0043】
爪部131の、円筒部13aの内周面からの内径側への突出量hは、例えば0<h≦5mmとなるように設定することができ、爪部131の軸方向に対する傾斜角度θは、0<θとなるように設定することができる。
【0044】
爪部131の突出量hおよび傾斜角度θをこのように設定することで、スリンガ13をハブ輪3の外周面3jに圧入する際に、爪部131が破損したり、塑性変形したりすることを抑制できる。
【0045】
ハブ輪13の溝3mは、アウター側へいくに従って内径側へ傾斜するインナー側傾斜面301と、インナー側傾斜面301のアウター側に位置し、インナー側へいくに従って内径側へ傾斜するアウター側傾斜面302とを有している。インナー側傾斜面301の軸方向に対する傾斜角度α1は、アウター側傾斜面302の軸方向に対する傾斜角度β1よりも大きく形成されている。
【0046】
これにより、スリンガ13がハブ輪3に対してインナー側へ移動しようとした場合の、爪部131と溝3mとの係合度合いを高めることができ、スリンガ13がインナー側へ移動することをより抑制することが可能となっている。
【0047】
また、スリンガ13の爪部131とハブ輪3の溝3mとが係合している状態においては、爪部131と溝3mのインナー側傾斜面301とは当接していることが好ましい。一方、爪部131と溝3mのアウター側傾斜面302との間には、隙間を有していてもよい。
【0048】
図5に示すように、爪部131は、周方向に沿った複数箇所に断続的に形成することもできる。このように、爪部131を周方向に沿って断続的に形成することで、スリンガ13の爪部131をハブ輪3の溝3mに係合させるときに、爪部131が塑性変形することを抑制し、スリンガ13の爪部131とハブ輪3の溝3mとを容易に係合させることが可能となる。
【0049】
[車輪用軸受装置の第2実施形態]
第1実施形態に係る車輪用軸受装置1は、第2実施形態に係る車輪用軸受装置1Aのように構成することもできる。
【0050】
図6に示すように、車輪用軸受装置1Aは、ハブ輪3およびアウター側シール部材10に代えて、ハブ輪3Aおよびアウター側シール部材10Aを備えている点で、車輪用軸受装置1と異なっている。アウター側シール部材10Aは、スリンガ13に代えて、スリンガ13Aを有している点で、アウター側シール部材10と異なっている。
【0051】
図6図7に示すように、ハブ輪3Aは、外周面3jにおける車輪取り付けフランジ3bと内側軌道面3cとの間に、ハブ輪3の溝3mの代わりに、周方向に沿って延びる突起3nを有している。突起3nは、全周にわたって連続して形成されている。
【0052】
スリンガ13Aにおける円筒部13aのインナー側端部には、スリンガ13の爪部131の代わりに、円筒部13aの内周面から外径側に凹陥する係合凹部132が形成されている。係合凹部132は、ハブ輪3Aの突起3nにアウター側から係合している。係合凹部132は、周方向に沿って形成されている。係合凹部132は、周方向の全周にわたって連続して形成することができる。
【0053】
スリンガ13Aの円筒部13aが有する係合凹部132が、ハブ輪3の外周面3jの突起3nに係合することで、スリンガ13Aがインナー側へ移動することが抑制されている。
【0054】
これにより、車輪取り付けフランジ3bとスリンガ13Aとの間から軸受内部に泥水等の異物が浸入することを抑制することができる。また、アウター側シール部材10Aのサイドリップ12cに異常摩耗や発熱による劣化が生じることを抑制できる。さらにアウター側シール部材10Aの寿命を向上することができる。
【0055】
また、ハブ輪3Aは、スリンガ13と係合するための突起3nを有しているため、ハブ輪に溝を形成した場合に比べて、ハブ輪3Aの強度を向上することができる。
【0056】
ハブ輪3Aおよびアウター側シール部材10Aのその他の構成は、ハブ輪3およびアウター側シール部材10と同様であるため、説明を省略する。
【0057】
[車輪用軸受装置の第3実施形態]
第2実施形態に係る車輪用軸受装置1Aは、第3実施形態に係る車輪用軸受装置1Bのように構成することもできる。
【0058】
図8に示すように、車輪用軸受装置1Bは、ハブ輪3Aおよびアウター側シール部材10Aに代えて、ハブ輪3Bおよびアウター側シール部材10Bを備えている点で、車輪用軸受装置1Aと異なっている。アウター側シール部材10Bは、スリンガ13Aに代えて、スリンガ13Bを有している点で、アウター側シール部材10Aと異なっている。
【0059】
図8図9に示すように、ハブ輪3Bは、外周面3jにおける車輪取り付けフランジ3bと内側軌道面3cとの間に、ハブ輪3Aの突起3nの代わりに、周方向に沿って延びる突起3pを有している。突起3pは、全周にわたって連続して形成されている。
【0060】
スリンガ13Bの円筒部13aの軸方向における途中部には、スリンガ13Aの係合凹部132の代わりに、円筒部13aの内周面から外径側に凹陥する係合凹部133が形成されている。係合凹部133は、ハブ輪3Bの突起3pに係合している。係合凹部133は、周方向に沿って形成されている。係合凹部133は、周方向の全周にわたって連続して形成されている。
【0061】
スリンガ13Bの円筒部13aが有する係合凹部133が、ハブ輪3Bの外周面3jの突起3pに係合することで、スリンガ13Bがインナー側へ移動することが抑制されている。
【0062】
これにより、車輪取り付けフランジ3bとスリンガ13Bとの間から軸受内部に泥水等の異物が浸入することを抑制することができる。また、アウター側シール部材10Bのサイドリップ12cに異常摩耗や発熱による劣化が生じることを抑制できる。さらにアウター側シール部材10Bの寿命を向上することができる。
【0063】
スリンガ13Bの円筒部13aは、係合凹部133のアウター側に位置する第1円筒部134と、係合凹部133のインナー側に位置する第2円筒部135とを有している。第1円筒部134のアウター側端部には、円板部13bが連結されている。
【0064】
第1円筒部134の内径(回転軸心Xから第1円筒部134の内周面までの距離)R1は、第2円筒部135の内径(回転軸心Xから第2円筒部135の内周面までの距離)R2よりも大きく形成されている(R1>R2)。
【0065】
スリンガ13Bの円筒部13aをハブ輪3Bに圧入する際には、少なくとも第2円筒部135をハブ輪3Bに圧入すればよく、第1円筒部134はハブ輪3Bに圧入することなく嵌装してもよい。
【0066】
従って、第1円筒部134の内径R1を第2円筒部135の内径R2よりも大きく形成して、第1円筒部134はハブ輪3Bに圧入されることなく嵌合するように構成することで、円筒部13aをハブ輪3Bに圧入した際に、第1円筒部134に連結される円板部13bが塑性変形することを抑制できる。これにより、円板部13bを車輪取り付けフランジ3bのインナー側面3kに広範囲にわたって接触させることができる。
【0067】
また、スリンガ13Bにおける係合凹部133の、第1円筒部134の内周面からの外径側への深さD1は、0.1mm<D1≦1.0mmとなるように設定することができる。深さD1をこのように設定することで、スリンガ13Bの円筒部13aをハブ輪3Bに圧入した際に、スリンガ13Bが塑性変形することを抑制することが可能である。
【0068】
スリンガ13Bの係合凹部133は、アウター側へいくに従って外径側へ傾斜する第1傾斜面133aと、第1傾斜面133aのアウター側に位置し、インナー側へいくに従って外径側へ傾斜する第2傾斜面133bとを有している。第2傾斜面133bの軸方向に対する傾斜角度β2は、第1傾斜面133aの軸方向に対する傾斜角度α2よりも大きく形成されている。
【0069】
ハブ輪3Bの突起3pは、アウター側へいくに従って外径側へ傾斜するインナー側傾斜面303と、インナー側傾斜面303のアウター側に位置し、インナー側へいくに従って外径側へ傾斜するアウター側傾斜面304とを有している。
【0070】
インナー側傾斜面303の軸方向に対する傾斜角度は、係合凹部133における第1傾斜面133aの傾斜角度α2に対応した角度に形成され、アウター側傾斜面304の軸方向に対する傾斜角度は、係合凹部133における第2傾斜面133bの傾斜角度β2に対応した角度に形成されている。アウター側傾斜面304の軸方向に対する傾斜角度は、インナー側傾斜面303の軸方向に対する傾斜角度よりも大きく形成されている。
【0071】
このように形成することで、スリンガ13Bがハブ輪3Bに対してインナー側へ移動しようとした場合の、係合凹部133と突起3pとの係合度合いを高めることができ、スリンガ13Bがインナー側へ移動することをより抑制することが可能となっている。
【0072】
また、スリンガ13Bをインナー側からハブ輪3Bに圧入する際には、突起3pにおけるインナー側傾斜面303の軸方向に対する傾斜角度は、アウター側傾斜面304の軸方向に対する傾斜角度よりも小さく形成されているため、スリンガ13Bをハブ輪3Bに円滑に圧入することが可能である。
【0073】
また、円筒部13aにおける係合凹部133の軸方向長さL1は、0.1mm<L1≦5.0mmとなるように設定することができる。軸方向長さL1をこのように設定することで、係合凹部133と突起3pとの係合度合いを高めることが可能である。
【0074】
また、スリンガ13Bの係合凹部133とハブ輪3Bの突起3pとが係合している状態においては、係合凹部133の第2傾斜面133bと突起3pのアウター側傾斜面304とは当接していることが好ましい。一方、係合凹部133の第1傾斜面133aと、突起3pのインナー側傾斜面303との間には、隙間G1を有していてもよい。
【0075】
第1傾斜面133aと突起3pのインナー側傾斜面303との間に隙間G1を有することで、スリンガ13Bをハブ輪3Bの外周面3jに圧入した際に発生する金属粉を、隙間G1に貯留することができ、ハブ輪3Bの外周面3jとスリンガ13Bの円筒部13aとの間に金属粉が挟み込まれることを抑制できる。
【0076】
[車輪用軸受装置の第4実施形態]
第3実施形態に係る車輪用軸受装置1Bは、第4実施形態に係る車輪用軸受装置1Cのように構成することもできる。
【0077】
図10に示すように、車輪用軸受装置1Cは、ハブ輪3Bおよびアウター側シール部材10Bに代えて、ハブ輪3Cおよびアウター側シール部材10Cを備えている点で、車輪用軸受装置1Bと異なっている。アウター側シール部材10Cは、スリンガ13Bに代えて、スリンガ13Cを有している点で、アウター側シール部材10Bと異なっている。
【0078】
図10図11に示すように、ハブ輪3Cは、外周面3jにおける車輪取り付けフランジ3bと内側軌道面3cとの間に、ハブ輪3Bの突起3pの代わりに、周方向に沿って延びる突起3qを有している。突起3qは、全周にわたって連続して形成されている。突起3qは、軸方向において複数形成されている。
【0079】
スリンガ13Cの円筒部13aの軸方向における途中部には、スリンガ13Bの係合凹部133の代わりに、円筒部13aの内周面から外径側に凹陥する係合凹部136が形成されている。係合凹部136は、ハブ輪3Cに形成される突起3qの数に対応して複数形成されている。係合凹部136は、ハブ輪3Cの突起3qに係合している。係合凹部136は、周方向に沿って形成されている。係合凹部136は、周方向の全周にわたって連続して形成されている。
【0080】
スリンガ13Cの円筒部13aが有する係合凹部136が、ハブ輪3Cの外周面3jの突起3qに係合することで、スリンガ13Cがインナー側へ移動することが抑制されている。
【0081】
これにより、車輪取り付けフランジ3bとスリンガ13Cとの間から軸受内部に泥水等の異物が浸入することを抑制することができる。また、アウター側シール部材10Cのサイドリップ12cに異常摩耗や発熱による劣化が生じることを抑制できる。さらにアウター側シール部材10Cの寿命を向上することができる。
【0082】
この場合、スリンガ13Cの係合凹部136、およびハブ輪3Cの突起3qは、それぞれ軸方向に複数形成されているため、係合凹部136と突起3qとの係合度合いを高めることができ、スリンガ13Cがインナー側へ移動することをより抑制することが可能となっている。
【0083】
スリンガ13Cの円筒部13aは、最もアウター側に位置する係合凹部136のアウター側に位置する第1円筒部137と、最もインナー側に位置する係合凹部136のインナー側に位置する第2円筒部138とを有している。第1円筒部137のアウター側端部には、円板部13bが連結されている。
【0084】
第1円筒部137の内径R3は、第2円筒部138の内径R4よりも大きく形成されている。
【0085】
スリンガ13Cの円筒部13aをハブ輪3Cに圧入する際には、少なくとも第2円筒部138をハブ輪3Cに圧入すればよく、第1円筒部137はハブ輪3Bに圧入することなく嵌装してもよい。
【0086】
従って、第1円筒部137の内径R3を第2円筒部138の内径R4よりも大きく形成して、第1円筒部137はハブ輪3Cに圧入されることなく嵌合するように構成することで、円筒部13aをハブ輪3Cに圧入した際に、第1円筒部137に連結される円板部13bが塑性変形することを抑制でき、円板部13bを車輪取り付けフランジ3bのインナー側面3kに広範囲にわたって接触させることができる。
【0087】
また、スリンガ13Cにおける係合凹部136の、第1円筒部137の内周面からの外径側への深さD2は、0.1mm<D2≦1.0mmとなるように設定することができる。深さD2をこのように設定することで、スリンガ13Cの円筒部13aをハブ輪3Cに圧入した際に、スリンガ13Cが塑性変形することを抑制することが可能である。
【0088】
係合凹部136の深さD2は、第3実施形態における係合凹部133の深さD1よりも小さく設定することができる。係合凹部136の深さD2を深さD1よりも小さく設定することで、スリンガ13Cをハブ輪3Cに圧入する際に要する力を小さくすることができ、スリンガ13Cのハブ輪3Cに対する圧入作業を容易にすることができる。
【0089】
なお、係合凹部136は軸方向に複数設けられているため、深さD2を深さD1よりも小さく設定しても、スリンガ13Cのインナー側への移動を安定して抑制することが可能である。
【0090】
スリンガ13Cの係合凹部136は、アウター側へいくに従って外径側へ傾斜する第1傾斜面136aと、第1傾斜面136aのアウター側に位置し、インナー側へいくに従って外径側へ傾斜する第2傾斜面136bとを有している。第2傾斜面136bの軸方向に対する傾斜角度β3は、第1傾斜面136aの軸方向に対する傾斜角度α3よりも大きく形成されている。
【0091】
ハブ輪3Cの突起3qは、アウター側へいくに従って外径側へ傾斜するインナー側傾斜面305と、インナー側傾斜面305のアウター側に位置し、インナー側へいくに従って外径側へ傾斜するアウター側傾斜面306とを有している。
【0092】
インナー側傾斜面305の軸方向に対する傾斜角度は、係合凹部136における第1傾斜面136aの傾斜角度α3に対応した角度に形成され、アウター側傾斜面306の軸方向に対する傾斜角度は、係合凹部136における第2傾斜面136bの傾斜角度β3に対応した角度に形成されている。アウター側傾斜面306の軸方向に対する傾斜角度は、インナー側傾斜面305の軸方向に対する傾斜角度よりも大きく形成されている。
【0093】
このように形成することで、スリンガ13Cがハブ輪3Cに対してインナー側へ移動しようとした場合の、係合凹部136と突起3qとの係合度合いを高めることができ、スリンガ13Cがインナー側へ移動することをより抑制することが可能となっている。
【0094】
また、スリンガ13Cをインナー側からハブ輪3Cに圧入する際には、突起3qにおけるインナー側傾斜面305の軸方向に対する傾斜角度は、アウター側傾斜面306の軸方向に対する傾斜角度よりも小さく形成されているため、スリンガ13Cをハブ輪3Cに円滑に圧入することが可能である。
【0095】
また、円筒部13aにおいて、最もアウター側に位置する係合凹部136のアウター側端部から、最もインナー側に位置する係合凹部136のインナー側端部までの軸方向長さL2は、0.1mm<L2≦5.0mmとなるように設定することができる。軸方向長さL2をこのように設定することで、係合凹部136と突起3qとの係合度合いを高めることが可能である。
【0096】
また、スリンガ13Cの係合凹部136とハブ輪3Cの突起3qとが係合している状態においては、係合凹部136の第2傾斜面136bと突起3qのアウター側傾斜面306とは当接していることが好ましい。一方、係合凹部136の第傾斜面136aと、突起3qのインナー側傾斜面305との間には、隙間G2を有していてもよい。
【0097】
第1傾斜面136aと突起3qのインナー側傾斜面305との間に隙間G2を有することで、スリンガ13Cをハブ輪3Cの外周面3jに圧入した際に発生する金属粉を、隙間G2に貯留することができ、ハブ輪3Cの外周面3jとスリンガ13Cの円筒部13aとの間に金属粉が挟み込まれることを抑制できる。
【0098】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0099】
1 車輪用軸受装置
2 外輪
2b アウター側開口部
2c (インナー側の)外側軌道面
2d (アウター側の)外側軌道面
3 ハブ輪
3a 小径段部
3b 車輪取り付けフランジ
3c 内側軌道面
3d 基部
3j 外周面
3m 溝
3n、3p、3q 突起
4 内輪
4a 内側軌道面
5 インナー側ボール列
6 アウター側ボール列
10、10A、10B、10C アウター側シール部材
11 芯金
12 シール部材
12b ラジアルリップ
12c サイドリップ
13、13A、13B、13C スリンガ
13a 円筒部
13b 円板部
131 爪部
132、133、136 係合凹部
134、137 第1円筒部
135、138 第2円筒部
133a、136a 第1傾斜面
133b、136b 第2傾斜面
α2、α3 (第1傾斜面の)傾斜角度
β1、β3 (第2傾斜面の)傾斜角度
G1、G2 (第1傾斜面と突起との)隙間
R1、R3 (第1円筒部の)内径
R2、R4 (第2円筒部の)内径
S 環状空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11