(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073863
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】溶銑の脱珪方法
(51)【国際特許分類】
C21C 1/04 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
C21C1/04 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184818
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】久志本 惇史
(72)【発明者】
【氏名】右衛門佐 寛
【テーマコード(参考)】
4K014
【Fターム(参考)】
4K014AA01
4K014AB03
4K014AC08
4K014AD01
4K014AD23
(57)【要約】
【課題】簡単な方法により、溶銑鍋で脱珪処理を高効率にかつスラグ溢れを防止しながら実施する溶銑の脱珪方法を提供する。
【解決手段】トーピードカーまたは移送鍋から溶銑鍋への溶銑の払い出しを開始してから、溶銑鍋でインペラーにより攪拌を行うまでの間の任意のタイミングで脱珪剤を添加して脱珪処理を行う際に、払い出しされる溶銑量からフリーボードを推定するとともに、溶銑面からの到達スラグ高さを脱珪剤の全投入量およびインペラーの回転数から計算し、スラグ溢れが生じない条件を設定する。また、脱珪剤の量が多い場合には、CaO源を添加することによりスラグの粘度を下げ、脱珪反応を促進させるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーピードカーまたは移送鍋から溶銑鍋への溶銑の払い出しを開始してから、溶銑鍋でインペラーにより攪拌を行うまでの間の任意のタイミングで脱珪剤を投入して脱珪処理を行う溶銑の脱珪方法であって、
前記払い出しされる溶銑量から、前記溶銑鍋内における溶銑面から前記溶銑鍋の上端までの距離Hを推定し、前記推定した距離Hと(2)式および(3)式から算出される溶銑面からの到達スラグ高さHCal.との関係で(1)式の条件を満たすように、脱珪剤の全投入量、および前記インペラーの回転数を設定することを特徴とする溶銑の脱珪方法。
H>HCal. ・・・(1)
HCal.=0.023・Wde-Si
1.72・I0.19 ・・・(2)
I=1.0×10-5・n3・D5/Wm ・・・(3)
ここで、H:該当チャージの溶銑量から推定した溶銑鍋における溶銑面から溶銑鍋の上端までの距離(m)、HCal.:溶銑面からの到達スラグ高さ(m)、Wde-Si:脱珪剤の全投入量(kg/t-steel)、I:攪拌指数(-)、n:インペラー回転数(rpm)、D:インペラー直径(m)、Wm:溶銑量(t)である。
【請求項2】
トーピードカーまたは移送鍋から溶銑鍋への溶銑の払い出しを開始してから、溶銑鍋でインペラーにより攪拌を行うまでの間の任意のタイミングで脱珪剤およびCaO源を投入して脱珪処理を行う溶銑の脱珪方法であって、
前記払い出しされる溶銑量から、前記溶銑鍋内における溶銑面から前記溶銑鍋の上端までの距離Hを推定し、前記推定した距離Hと(4)式および(3)式から算出される溶銑面からの到達スラグ高さHCal.との関係で(1)式の条件を満たすように、脱珪剤の全投入量、および前記インペラーの回転数を設定し、かつ前記CaO源の投入量を0.5kg/t-steel以上とすることを特徴とする溶銑の脱珪方法。
H>HCal. ・・・(1)
HCal.=0.023・Wde-Si
1.72・I0.19・exp(-0.5・WCaO) (4)
I=1.0×10-5・n3・D5/Wm ・・・(3)
ここで、H:該当チャージの溶銑量から推定した溶銑鍋における溶銑面から溶銑鍋の上端までの距離(m)、HCal.:溶銑面からの到達スラグ高さ(m)、Wde-Si:脱珪剤の全投入量(kg/t-steel)、I:攪拌指数(-)、n:インペラー回転数(rpm)、D:インペラー直径(m)、Wm:溶銑量(t)、WCaO:CaO源の投入量(kg/t-steel)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォーミングによるスラグ溢れを防止するための溶銑の脱珪方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製鋼工程において、転炉スラグの削減が求められている。転炉吹錬においては、酸素吹錬で溶銑中のSiが酸化して生成したSiO2量に対し、スラグの塩基度(CaO)/(SiO2)を調整しながらCaO源を投入するため、溶銑中のSi濃度が低い場合はCaO源の投入量を少なくすることができ、転炉スラグの排出量を削減することができる。そこで、転炉スラグを削減するために、転炉操業を行う前に溶銑の脱珪処理が行われる。
【0003】
転炉に溶銑を装入する前の溶銑の脱珪方法としては、トーピードカー(TPC)で脱珪剤をインジェクションにより投入する手法、溶銑を溶銑鍋へ払い出す際に脱珪剤を同時に投入する手法、KRでのインペラー攪拌を用いた手法が挙げられる。特許文献1には、スラグの塩基度を高め、CaF2やCaCl2等の精錬剤を投入することでスラグ流動性を高め、KRでの脱珪反応を促進させる方法が開示されている。また、特許文献2には、脱珪剤の添加完了後に容器内浴面から500~1350mmの深さ位置でガスの吹込みを行ってバブリング処理を実施する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-158524号公報
【特許文献2】特開2017-141481号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Shinji Nagata :Mixing, Kodansha, Tokyo, (1975)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方で、FeOなどの脱珪剤を溶銑に投入すると、溶銑中の炭素と反応してCOガスが生成し、スラグのフォーミングが発生する。フォーミングが過剰になると、溶銑鍋からスラグが溢れ出す現象(以下、スラグ溢れ)が起こり、操業が中断されてしまう。特に溶銑鍋に溶銑が収容されている状態では、溶銑面から溶銑鍋の上端までの距離(以下、フリーボード)が小さいため、スラグ溢れが起こりやすい。
【0007】
特許文献1に記載の方法では、脱珪処理中においてフォーミングを抑制してスラグ溢れを防止することを考慮しておらず、条件によってはスラグ溢れが起こる可能性がある。また、特許文献2に記載の方法は、脱珪反応中のスラグのフォーミングおよびスラグ溢れを抑制するが、KRでインペラー回転中に溶銑のバブリング処理を実施するのは極めて困難であり、さらに設備負荷が大きい。
【0008】
本発明は前述の問題点を鑑み、簡単な方法により、溶銑鍋で脱珪処理を高効率にかつスラグ溢れを防止しながら実施する溶銑の脱珪方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高炉から出銑された溶銑に対して脱珪処理を行う方法として、最も脱珪効率が高いKRでの脱珪処理と、その直前の工程である溶銑を溶銑鍋へ払い出す工程での脱珪処理とに着目した。一方で、KRでの脱珪処理を行う場合、溶銑鍋における溶銑面からのフリーボードが小さく、スラグのフォーミングによりスラグ溢れが生じやすいため、処理時間を十分に確保するのが難しい。そこで本発明者らは、スラグのフォーミングを抑制しながら、脱珪処理を十分に進行させるための操業条件を検討したところ、フォーミングによるスラグの到達高さと、脱珪剤量と、インペラーの回転数及び直径との関係を定式化することにより、脱珪処理を十分に進行させながらスラグ溢れを防止できることを見出した。
【0010】
本発明は以下のとおりである。
(1)
トーピードカーまたは移送鍋から溶銑鍋への溶銑の払い出しを開始してから、溶銑鍋でインペラーにより攪拌を行うまでの間の任意のタイミングで脱珪剤を投入して脱珪処理を行う溶銑の脱珪方法であって、
前記払い出しされる溶銑量から、前記溶銑鍋内における溶銑面から前記溶銑鍋の上端までの距離Hを推定し、前記推定した距離Hと(2)式および(3)式から算出される溶銑面からの到達スラグ高さHCal.との関係で(1)式の条件を満たすように、脱珪剤の全投入量、および前記インペラーの回転数を設定することを特徴とする溶銑の脱珪方法。
H>HCal. ・・・(1)
HCal.=0.023・Wde-Si
1.72・I0.19 ・・・(2)
I=1.0×10-5・n3・D5/Wm ・・・(3)
ここで、H:該当チャージの溶銑量から推定した溶銑鍋における溶銑面から溶銑鍋の上端までの距離(m)、HCal.:溶銑面からの到達スラグ高さ(m)、Wde-Si:脱珪剤の全投入量(kg/t-steel)、I:攪拌指数(-)、n:インペラー回転数(rpm)、D:インペラー直径(m)、Wm:溶銑量(t)である。
(2)
トーピードカーまたは移送鍋から溶銑鍋への溶銑の払い出しを開始してから、溶銑鍋でインペラーにより攪拌を行うまでの間の任意のタイミングで脱珪剤およびCaO源を投入して脱珪処理を行う溶銑の脱珪方法であって、
前記払い出しされる溶銑量から、前記溶銑鍋内における溶銑面から前記溶銑鍋の上端までの距離Hを推定し、前記推定した距離Hと(4)式および(3)式から算出される溶銑面からの到達スラグ高さHCal.との関係で(1)式の条件を満たすように、脱珪剤の全投入量、および前記インペラーの回転数を設定し、かつ前記CaO源の投入量を0.5kg/t-steel以上とすることを特徴とする溶銑の脱珪方法。
H>HCal. ・・・(1)
HCal.=0.023・Wde-Si
1.72・I0.19・exp(-0.5・WCaO) (4)
I=1.0×10-5・n3・D5/Wm ・・・(3)
ここで、H:該当チャージの溶銑量から推定した溶銑鍋における溶銑面から溶銑鍋の上端までの距離(m)、HCal.:溶銑面からの到達スラグ高さ(m)、Wde-Si:脱珪剤の全投入量(kg/t-steel)、I:攪拌指数(-)、n:インペラー回転数(rpm)、D:インペラー直径(m)、Wm:溶銑量(t)、WCaO:CaO源の投入量(kg/t-steel)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡単な方法により、溶銑鍋で脱珪処理を高効率にかつスラグ溢れを防止しながら実施する溶銑の脱珪方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第一工程および第二工程の概要を説明するための図である。
【
図2】脱珪剤の投入量およびインペラーの回転数と到達スラグ高さとの関係を示す図である。
【
図3】溶銑量とフリーボードとの関係を示す図である。
【
図4】CaO投入量と到達スラグ高さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態では、溶銑を溶銑鍋に払い出す際に脱珪剤を添加して脱珪処理を行う工程(以下、第一工程)と、溶銑鍋に払い出した後の溶銑に対して脱珪剤を添加して、インペラーによる機械攪拌を実施して脱珪処理を行う工程(KR法、以下、第二工程)について説明する。
【0014】
図1は、第一工程および第二工程の概要を説明するための図である。
図1(a)に示すように、高炉から出銑した溶銑がトーピードカー2で搬送され、トーピードカー2から溶銑鍋1に向けて溶銑3が払い出される。このとき、脱珪剤4を添加することにより、溶銑内で脱珪剤が攪拌され、以下の(5)式の反応により脱珪剤中の酸化鉄が溶銑中のSiと反応する。
Si+2Fe
tO→SiO
2+2tFe ・・・(5)
【0015】
また、第二工程で脱珪処理を行う場合には、
図1(b)に示すように溶銑鍋に収容された溶銑に脱珪剤を投入し、インペラー5を回転させて溶銑を攪拌し、上記(5)式の反応を促進させる。
【0016】
一方で、第一工程および第二工程で脱珪剤を投入すると、脱珪剤中の酸化鉄は溶銑中のCとも反応し、以下の(6)式の反応により一酸化炭素が発生し、スラグのフォーミングが起こる。
C+FetO→CO↑+tFe ・・・(6)
【0017】
特にKR(第二工程)では、溶銑鍋における溶銑面からのフリーボードが小さいため、第二工程では、フォーミングによるスラグ高さを抑えることが重要である。そこで、本発明者らは脱珪処理中のフォーミングによるスラグ高さに影響する因子として、脱珪剤の投入量とインペラーの回転数に着目し、
図2(a)に示すように、脱珪剤の投入量が多いほど到達スラグ高さが大きくなり、
図2(b)に示すように、インペラーの回転数が大きいほど到達スラグ高さが大きくなることが実験により判明した。
【0018】
ここで、インペラーによる攪拌動力密度ε(W/t)は、以下の(7)式で規定される(非特許文献1参照)。
ε=ρn3D5N/Wm ・・・(7)
【0019】
(7)式中、ρは溶銑密度(t/m
3)、Nは動力数(無次元数)である。また、nはインペラーの回転数(rpm)で、Dはインペラー直径(m)、W
mは溶銑量(t)である。ここで、ρは溶銑を扱う限りほぼ同じ値であり、動力数Nは導出方法が極めて煩雑であるため、インペラーによる攪拌は、以下の(3)式の攪拌指数で簡易的に導出した。また、
図2に示した実験結果に基づき、到達スラグ高さの実績と、脱珪剤量および攪拌指数Iとの重回帰解析により以下の(2)式を得た。そして、スラグ溢れを防止するために、脱珪処理では、以下の(1)式を満たすように、溶銑鍋への溶銑の払い出しを開始してから溶銑鍋でインペラーにより攪拌を行うまでの間に投入する脱珪剤の全投入量W
de-Siおよび第二工程で用いるインペラーの回転数nを制御する。
H>H
Cal. ・・・(1)
H
Cal.=0.023・W
de-Si
1.72・I
0.19 ・・・(2)
I=1.0×10
-5・n
3・D
5/W
m ・・・(3)
ここで、H:該当チャージの溶銑量から推定した溶銑鍋における静止状態の溶銑面から鍋上端までの距離(m)、H
Cal.:静止状態の溶銑面からの到達スラグ高さ(m)、W
de-Si:脱珪剤の全投入量(kg/t-steel)、I:攪拌指数(-)である。
【0020】
(1)式を満たさない場合(溶銑面からの到達スラグ高さH
Cal.が該当チャージの溶銑量から推定した溶銑鍋における溶銑面から鍋上端までの距離H以上になる場合)は、スラグが溶銑鍋から溢れ出すことになり、操業を停止しなければならなくなる。溶銑鍋における溶銑面から鍋上端までの距離(フリーボード)Hは、溶銑量と溶銑鍋の寸法から幾何学的に求めることができる。なお、
図3に示すように、過去のデータから、溶銑量とフリーボードとの関係を予め作成しておき、この関係に基づいた計算式からフリーボードを算出してもよい。
【0021】
溶銑面からの到達スラグ高さHCal.の下限については特に限定されないが、(2)式からわかるとおり、溶銑面からの到達スラグ高さHCal.は、全脱珪剤投入量Wde-Siと攪拌指数Iによって決まる。ここで、脱珪剤の全投入量は狙いとする鋼種等によって決まるものであり、攪拌指数Iは(3)式からわかるとおり、インペラーの回転数nによって決まる。現実的な処理時間内に脱珪処理を終了させるためには、インペラーによりある程度攪拌させる必要がある。したがって、インペラーの回転数を80rpm以上とすることが好ましい。一方で、インペラーの回転数が大きすぎると、脱珪剤の投入量が制約され、溶銑を目標とするSi濃度まで低下させることができなくなる場合がある。また、インペラーを回転させる装置にも過大な負荷が生じる。したがって、インペラーの回転数は150rpm以下とすることが好ましい。
【0022】
また、脱珪剤は、溶銑鍋への溶銑の払い出しを開始してから溶銑鍋でインペラーにより攪拌を行うまでの間の任意のタイミングですべて投入すればよい。但し、第一工程では、溶銑払い出しの時間が短時間で終了することから、投入できる脱珪剤の量に上限が存在する。また、第二工程では、フリーボードが小さいことによる投入量の制約や、引き続き脱硫処理が行われることによる時間的制約がある。したがって、脱珪剤を投入する場合は、第一工程と第二工程とに分けて投入することが好ましい。なお、フリーボードに余裕がある場合や脱珪剤の投入量が少ない場合には、第二工程でのみ脱珪剤を投入してもよい。
【0023】
上述したように脱珪剤の全投入量は狙いとする鋼種等によって決まるが、脱珪剤の投入量が多すぎると、第一工程と第二工程とに分けて脱珪剤を投入しても、処理時間内に脱珪剤がすべて反応し切れない可能性がある。後述するようにCaO源を投入する場合には、脱珪反応をより促進させることができる。
【0024】
本実施形態では、当該チャージでの溶銑量がわかった段階でフリーボードを算出し、(1)式を満たすような条件を決定し、その条件に基づいて脱珪処理を行うものとする。なお、脱珪剤の種類は特に問わないが、基本的には酸化鉄を主体とするものであり、鉄鉱石、焼結鉱、スケールのような酸化鉄を主成分である鉱石であることが好ましい。
【0025】
また、脱珪処理によって生成される脱珪スラグはSiO2の濃度が高いことから粘度が高くなりやすく、(5)式の反応速度が小さくなりやすい。特に脱珪剤の投入量が多い場合は、現実的な処理時間内に脱珪処理を完了させることが困難となる。そこで、脱珪剤とは別にCaO源を投入してもよい。脱珪処理中にさらにCaO源を投入することによりスラグの塩基度を上げて脱珪スラグの粘度を下げ、(5)式の反応速度を上げることができる。
【0026】
CaO源を投入するタイミングは、脱珪剤と同様に、銑鍋への溶銑の払い出しを開始してから溶銑鍋でインペラーにより攪拌を行うまでの間の任意のタイミングとし、脱珪剤と同時であってもよく、脱珪剤の投入とは異なるタイミングであってもよい。また、第一工程と第二工程とに分けて投入してもよく、どちらか一方の工程のみ投入するようにしてもよい。
【0027】
CaO源の投入量については、本発明者らは到達スラグ高さとの関係を調べるために実験を行った。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、CaOの投入量が多いほど溶銑面からの到達スラグ高さが低くなる傾向がみられた。前述した(2)式はCaO源を投入しないことを前提とした条件であり、CaO源を投入する場合は(2)式に代えて以下の(4)式により溶銑面からの到達スラグ高さH
Cal.を算出するようにする。なお、(4)式は
図4に示した到達スラグ高さとCaOの投入量との関係を定式化し、(2)式に組み込むことで得られたものである。インペラーの回転数、並びに(1)式および(3)式については、CaO源を投入しない場合と同じである。
H
Cal.=0.023・W
de-Si
1.72・I
0.19・exp(-0.5・W
CaO) (4)
ここで、W
CaO:CaO源の投入量(kg/t-steel)である。
【0028】
上述のように、CaO源を投入することにより、脱珪スラグの粘度を下げて脱珪の反応速度を増加させるが、
図4からわかるようにCaO源の投入量が0.5kg/t-steel未満の場合、反応速度が十分に改善せず、処理時間内に脱珪処理を完了させることができない。したがって、CaO源を投入する場合は、CaO源の投入量を0.5kg/t-steel以上とする。
【0029】
CaO源の種類は特に限定されないが、生石灰、石灰石などが好ましい。また、CaO源として転炉スラグや二次精錬スラグなどのリサイクルスラグを用いてもよい。この場合、リサイクルスラグの種別は特に限定しないが、脱珪スラグの塩基度を調整する観点では転炉スラグが好ましい。また、CaO源としてリサイクルスラグを用いる場合は生石灰を用いる場合と比べて脱珪スラグの量が増加することも考慮する必要がある。
【0030】
以上のように本実施形態では、溶銑鍋への溶銑の払い出しを開始してから溶銑鍋でインペラーにより攪拌を行うまでの間の任意のタイミングで脱珪剤を投入し、その際に溶銑面からの到達スラグ高さがフリーボードよりも小さくなるようにインペラーの回転数などを制御する。これにより、溶銑鍋で脱珪処理を高効率にかつスラグ溢れを防止しながら実施することができる。
【実施例0031】
次に、本発明の実施例について説明するが、この条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一条件例であり、本発明は、この実施例の記載に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する種々の手段にて実施することができる。
【0032】
高炉から270t規模の溶銑をトーピードカーに注銑し、製鋼工場まで溶銑を搬送した後、トーピードカーから溶銑鍋に溶銑を払い出した。まず、第一工程にて溶銑の払い出し処理時に脱珪剤を投入し、その後、KR処理位置まで溶銑鍋を移動させた。続いて第二工程にて追加の脱珪剤を投入し、投入後にインペラー(直径D=1.4m)による攪拌を開始した。本実験において、インペラー攪拌時間は10分とし、スラグ溢れが発生した場合はその時点で脱珪処理は終了とした。
【0033】
発明の効果は、投入した脱珪剤による理論脱珪量のうち、脱珪に寄与した分の割合である脱珪割合で評価し、以下の(8)式および(9)式を用いて脱珪割合を算出した。
理論脱珪量=100×全脱珪剤投入量×脱珪剤中(FeO)
/100×MO/MFeO×MSi/2MO/1000 ・・・(8)
脱珪割合=100×([Si]脱Si前-[Si]脱Si後)/理論脱珪量 ・・・(9)
【0034】
式中、脱珪剤中(FeO)は、脱珪剤中の酸化鉄濃度(質量%)を表す。MO、MSiはそれぞれ酸素、珪素の原子量を表し、MFeOは酸化鉄(FeO)の分子量を表す。また、[Si]脱Si前、[Si]脱Si後はそれぞれ脱珪処理前、脱珪処理後の溶銑中Si濃度を表す。
【0035】
本実験では、脱珪剤として、酸化鉄濃度が80%の焼結鉱を使用し、脱珪剤中の酸素源である酸化鉄はFeOして計算した。また、CaO源については生石灰を使用した。また、本実験では脱珪割合が70%以上で発明の効果が得られたと判断し、脱珪割合が90%以上で発明の効果が顕著に得られたと判断した。以下の表1に実験の条件および結果を示す。
【0036】
【0037】
Ch.No.1~3は、(1)式の条件を満たしていたため、発明の効果が得られた。Ch.No.4~5は、(1)式の条件を満たし、かつCaO源の投入量が0.5kg/t-steel以上であったため、脱珪スラグの粘度が下がり、発明の効果が顕著に得られた。
【0038】
一方、Ch.No.6、7は、計算で得た溶銑面からの到達スラグ高さHCal.が溶銑量から推定した溶銑鍋における溶銑面から鍋上端までの距離Hを上回り、スラグ溢れが生じた。投入した脱珪剤が十分に反応し切る前にスラグ溢れが起こったため、脱珪割合が低かった。
【0039】
Ch.No.8は、脱珪剤を7kg/t-steel以上投入しているが、CaO源の投入量が0.5kg/t-steelを下回っていたため、処理時間(インペラー攪拌時間)内に脱珪剤を反応させ切ることができず、脱珪割合が低かった。また、スラグ溢れは発生しなかったが、溶銑面からの到達スラグ高さHCal.が鍋上端に近接したことから、CaOを全く投入しなかった場合は、スラグ溢れが生じていたものと推定される。
【0040】
Ch.No.9は、脱珪剤を7kg/t-steel以上かつCaO源を0.5kg/t-steel以上投入しているが、投入した脱珪剤が十分に反応し切る前にスラグ溢れが起こったため、脱珪割合が低位であった。