(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074250
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】リチウム前駆体の回収システムおよびリチウム前駆体の回収方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/16 20060101AFI20240523BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240523BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240523BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20240523BHJP
C22B 3/00 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C25B1/16
H01M10/54
C25B9/00 Z
C22B26/12
C22B3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023182262
(22)【出願日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】10-2022-0155832
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ホン スク ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ベ ヒュン テ
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ミン
(72)【発明者】
【氏名】イ サン イク
(72)【発明者】
【氏名】イ イン エ
【テーマコード(参考)】
4K001
4K021
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001DB21
4K021AB01
4K021BA02
4K021DB10
4K021DB31
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】向上した経済性および効率性を有するリチウム前駆体の回収システムおよびリチウム前駆体の回収方法を提供すること。
【解決手段】リチウム前駆体の回収方法では、活物質を含む第1電極と、第2電極とを準備する。第1電極および第2電極をそれぞれ第1反応容器内の第1反応溶液および第2反応容器内の第2反応溶液に含浸させる。第1電極および第2電極に電圧または電流を印加することにより、活物質からリチウム前駆体を回収する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質を含む第1電極と、第2電極とを準備するステップと、
前記第1電極および前記第2電極をそれぞれ第1反応容器内の第1反応溶液および第2反応容器内の第2反応溶液に含浸させるステップと、
前記第1電極および前記第2電極に電圧または電流を印加して前記活物質からリチウム前駆体を回収するステップとを含む、リチウム前駆体の回収方法。
【請求項2】
前記活物質を含む前記第1電極を準備するステップは、前記活物質を前記第1電極の活物質収容部に収容すること、または前記第1電極の表面に活物質をコーティングすることを含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項3】
前記第1電極は、一端に前記活物質が収容される活物質収容部を含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項4】
前記活物質収容部は、パウチまたはバスケット形状を有する、請求項3に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項5】
前記活物質収容部は、カーボンフェルト(carbon felt)で形成される、請求項4に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項6】
前記第1電極は、前記活物質収容部に接続された電極バー(bar)を含む、請求項3に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項7】
前記第1電極は電極バーを含み、前記活物質が前記電極バーの表面に直接コーティングされる、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項8】
前記第1反応容器は酸化部として提供され、前記第2反応容器は還元部として提供される、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項9】
前記第1反応溶液は、リチウムイオン含有水溶液を含み、前記第2反応溶液は、水またはリチウムイオン含有水溶液を含む、請求項8に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項10】
前記第1反応容器および前記第2反応容器は、内部にイオン交換膜を含む接続部によって互いに接続される、請求項8に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項11】
前記イオン交換膜は、ナフィオン(Nafion)、ダイヤイオン(Diaion)、およびトリライト(Trilite)の少なくとも1つを含む、請求項10に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項12】
前記活物質はリチウムリン酸鉄を含む、請求項1に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項13】
前記活物質から分離されたリチウムイオンが前記第2反応容器に移動してリチウム水酸化物として収集される、請求項12に記載のリチウム前駆体の回収方法。
【請求項14】
内部に活物質が収容されているか又は表面に活物質がコーティングされている第1電極と、
前記第1電極が含浸される第1反応容器と、
第2電極が含浸される第2反応容器と、
前記第1反応容器と前記第2反応容器を接続し、内部にイオン交換膜を含む接続部と、
前記第1電極および前記第2電極に電圧または電流を印加する電源部とを含む、リチウム前駆体の回収システム。
【請求項15】
前記活物質はリチウムリン酸鉄を含む、請求項14に記載のリチウム前駆体の回収システム。
【請求項16】
前記第1電極は酸化電極として提供され、前記第2電極は還元電極として提供される、請求項14に記載のリチウム前駆体の回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願の開示は、リチウム前駆体の回収システムおよびリチウム前駆体の回収方法に関する。より詳細には、正極活物質からリチウム前駆体を回収するシステムおよび正極活物質からリチウム前駆体を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、充電と放電の繰り返しが可能な電池であり、情報通信及びディスプレイ産業の発展につれてカムコーダー、携帯電話、ノートパソコンなどの携帯用電子通信機器に広く適用されてきた。二次電池としては、例えば、リチウム二次電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-水素電池などが挙げられる。中でもリチウム二次電池は、動作電圧および単位重量当たりのエネルギー密度が高く、充電速度および軽量化に有利な点で積極的に開発及び適用されてきた。
【0003】
リチウム二次電池は、正極、負極及び分離膜(セパレーター)を含む電極組立体と、前記電極組立体を含浸させる電解液とを含むことができる。前記リチウム二次電池は、前記電極組立体および電解液を収容する、例えば、パウチ状の外装材をさらに含むことができる。
【0004】
前記リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム複合酸化物を用いることができる。前記リチウム複合酸化物は、有価金属を含有することができる。前記リチウム二次電池の需要と環境保護への関心が高まることによって、正極活物質のリサイクル方法の研究が進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の課題は、向上した経済性および効率性を有するリチウム前駆体の回収方法を提供することである。
【0006】
本開示の課題は、向上した経済性及び効率性を有するリチウム前駆体の回収システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
例示的な実施形態によるリチウム前駆体の回収方法では、活物質を含む第1電極と、第2電極とを準備する。前記第1電極および前記第2電極を、それぞれ第1反応容器内の第1反応溶液および第2反応容器内の第2反応溶液に含浸させる。前記第1電極および前記第2電極に電圧または電流を印加し、前記活物質からリチウム前駆体を回収する。
【0008】
いくつかの実施形態では、前記活物質を含む前記第1電極を準備することは、前記活物質を前記第1電極の活物質収容部に収容すること、または前記第1電極の表面に前記活物質をコーティングすることを含むことができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、前記第1電極は、一端に前記活物質が収容される活物質収容部を含むことができる。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記活物質収容部は、パウチまたはバスケット形状を有することができる。
【0011】
いくつかの実施形態では、前記活物質収容部は、カーボンフェルト(carbon felt)で形成することができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記第1電極は、前記活物質収容部に接続された電極バー(bar)を含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、前記第1電極は、電極バーを含み、前記活物質を前記電極バーの表面に直接コーティングすることができる。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記第1反応容器は酸化部として提供し、前記第2反応容器は還元部として提供することができる。
【0015】
いくつかの実施形態では、前記第1反応溶液は、リチウムイオン含有水溶液を含み、前記第2反応溶液は、水またはリチウムイオン含有水溶液を含むことができる。
【0016】
いくつかの実施形態では、前記第1反応容器および前記第2反応容器は、内部にイオン交換膜を含む接続部によって互いに接続することができる。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記イオン交換膜は、ナフィオン(Nafion)、ダイヤイオン(Diaion)、およびトリライト(Trilite)の少なくとも1つを含むことができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、前記活物質はリチウムリン酸鉄を含むことができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、前記活物質から分離されたリチウムイオンが前記第2反応容器に移動し、リチウム水酸化物として収集され得る。
【0020】
例示的な実施形態によるリチウム前駆体の回収システムでは、内部に活物質が収容されているか又は表面に活物質がコーティングされている第1電極と、前記第1電極が含浸される第1反応容器と、第2電極が含浸される第2反応容器と、前記第1反応容器と前記第2反応容器を接続し、内部にイオン交換膜を含む接続部と、前記第1電極および前記第2電極に電圧または電流を印加する電源部とを含むことができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、前記活物質はリチウムリン酸鉄を含むことができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、前記第1電極は酸化電極として提供し、前記第2電極は還元電極として提供することができる。
【発明の効果】
【0023】
例示的な実施形態によれば、例えば、沈殿剤、酸化剤および還元剤などの追加の添加剤を使用することなく、電気化学反応によってリチウム前駆体を回収することができる。これにより、環境汚染を引き起こすことなく回収工程の収率および経済性を向上させることができる。
【0024】
例示的な実施形態によれば、活物質を電極内に収容するか、または電極の表面にコーティングして反応溶液中に導入することができる。これにより、前記正極活物質への電気エネルギーの印加が直接行われ、前記電気化学反応を促進することができる。また、前記正極活物質からリチウムイオンを迅速に分離し、リン酸鉄も効率的に回収することができる。
【0025】
本開示により回収されたリチウム前駆体は、正極活物質およびリチウム二次電池に再利用することができる。前記リチウム二次電池は、電気自動車、バッテリー充電ステーション、その他のバッテリーを用いる太陽光発電、風力発電などのグリーンテクノロジーの分野で広く適用できる。また、前記リチウム二次電池は、大気汚染および温室効果ガスの放出を抑制して気候変動を防止するためのエコフレンドリー(eco-friendly)電気自動車(Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(hybrid vehicle)などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、例示的な実施形態によるリチウム前駆体の回収システムを示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、例示的な実施形態によるリチウム前駆体の回収システムを示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、例示的な実施形態によるリチウム前駆体の回収システムに含まれる第1電極を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示の実施形態は、電気化学反応によってリチウム前駆体を回収する方法(以下、「回収方法」と略することもある。)を提供する。また、前記リチウム前駆体の回収方法の実施に適用できるリチウム前駆体の回収システム(以下、「回収システム」と略することもある。)を提供する。
【0028】
以下では、添付の図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明することとする。しかし、これらの実施形態は例示的なものに過ぎず、本発明を限定するものではない。
【0029】
本明細書で使用される用語「前駆体」は、電極活物質に含まれる特定の金属を提供するために、前記特定の金属を含む化合物を包括的に指すものとして使用される。
【0030】
図1は、例示的な実施形態によるリチウム前駆体の回収システムを示す概略断面図である。例えば、本開示の実施形態によるリチウム前駆体の回収方法は、
図1のシステムを用いて実施することができる。
【0031】
以下では、
図1を参照してリチウム前駆体の回収方法も併せて説明する。
【0032】
図1に示すように、前記回収システムは、第1電極112と第2電極122とを含むことができる。第1電極112および第2電極122は、それぞれ第1反応容器110および第2反応容器120内に導入することができる。
【0033】
例えば、第1電極112は酸化電極として提供され、第2電極122は還元電極として提供され得る。
【0034】
本開示の実施形態によれば、第1電極112内にリチウム前駆体の回収のための活物質116を導入することができる。例示的な実施形態によれば、活物質116は、使用済みのリチウム二次電池(例えば、廃リチウム二次電池)から得られた正極活物質を含むことができる。
【0035】
前記リチウム二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に介在する分離膜とを含む電極組立体を含むことができる。前記の正極および負極は、それぞれ、正極集電体および負極集電体上にコーティングされた正極活物質層および負極活物質層を含むことができる。
【0036】
例えば、前記正極活物質層は、正極活物質としてリチウムリン酸鉄(例えば、LiFePO4)を含むことができる。
【0037】
前記正極活物質は、前記廃リチウム二次電池から前記正極を分離して回収することができる。前記正極は、前述のように正極集電体(例えば、アルミニウム(Al))および正極活物質層を含み、前記正極活物質層は、前述した正極活物質に加えて、導電材及びバインダーを含むことができる。
【0038】
前記導電材は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素系物質を含むことができる。前記バインダーは、例えば、ビニリデンフルオリド-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVDF-co-HFP)、ポリビニリデンフルオリド(polyvinylidenefluoride,PVDF)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)などの樹脂物質を含むことができる。
【0039】
例示的な実施形態によれば、回収された前記正極を粉砕して正極活物質を回収することができる。これにより、前記正極活物質は、粉末の一種としてブラックパウダー(black powder)の形態で回収することができる。一実施形態では、前記正極集電体から正極活物質層を剥ぎ取り、スクラップの形態で正極活物質を回収することもできる。
【0040】
回収された正極活物質は、前述のようにリチウムリン酸鉄を含むことができる。いくつかの実施形態では、回収された前記正極活物質は導電材及び/又はバインダーを含むこともできる。
【0041】
いくつかの実施形態では、回収された前記正極活物質は、前記回収システムに導入する前に熱処理することができる。前記熱処理によって前記導電材およびバインダーのような不純物を除去または低減して、高純度の正極活物質を前記回収システムに導入することができる。
【0042】
本開示の実施形態による回収システムおよび回収方法に適用される正極活物質は、リチウムリン酸鉄のみに限定されるものではなく、ニッケル系の正極活物質にも適用できる。
【0043】
しかし、電気化学反応を引き起こすために印加する電圧または標準還元電位などの点から、前記の回収方法および回収システムは、リチウムリン酸鉄を含む活物質に効果的に適用できる。
【0044】
したがって、以下では、活物質116がリチウムリン酸鉄を含む実施形態について詳細に説明する。
【0045】
いくつかの実施形態によれば、第1電極112は、活物質116を内部に収容できる活物質収容部114を一端に含むことができる。第1電極112は、活物質収容部114に接続された電極バー(bar)113を含むことができる。例えば、活物質収容部114は、電極バー113の末端に一体として接続され得る。
【0046】
電極バー113は中身が詰まった(solid)構造を有し、活物質収容部114は活物質116を収容するための空間を含むホロー(hollow)構造を有することができる。
【0047】
活物質収容部114はこれに限定されるものではないが、例えば、パウチ(pouch)またはバスケット(basket)形状を有することができる。
【0048】
活物質収容部114は、前記ホロー構造を容易に形成することができ、活物質116の酸化反応によって分離される電子(e-)の移動を促進できる物質および構造を有することができる。例示的な実施形態によれば、活物質収容部114は、メッシュ構造、フェルト構造、またはニット構造を有することができる。
【0049】
いくつかの実施形態では、活物質収容部114は、カーボンフェルト(carbon felt)で形成することができる。
【0050】
電極バー113は、前記酸化反応を誘導または促進できる金属材料または炭素系材料(例えば、黒鉛電極)で形成することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、電極バー113および活物質収容部114は、炭素系材料を用いて形成することができる。
【0052】
第2電極122は、第1電極112に対する対向電極として提供することができる。
【0053】
第2電極122はこれに限定されるものではないが、全体としてソリッド(solid)構造を有するバー(bar)形状を有することができる。
【0054】
第2電極122は、電子(e-)を得る還元反応を促進できる金属または遷移金属を含むことができる。例えば、第2電極122は、銅、ニッケル、チタン、アルミニウム、およびこれらの合金の少なくとも1つを含むことができる。一実施形態では、第2電極122は炭素系電極を含むこともできる。
【0055】
前述のように、第1反応容器110および第2反応容器120内には、それぞれ第1電極112および第2電極122を導入することができる。例示的な実施形態によれば、第1反応容器110および第2反応容器120内には、それぞれ第1反応溶液118および第2反応溶液128を含むことができる。
【0056】
例示的な実施形態によれば、第1電極112および第2電極122は、それぞれ第1反応溶液118および第2反応溶液128に含浸させることができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、第1電極112および第2電極122は、それぞれ第1反応溶液118および第2反応溶液128に部分的に含浸させることができる。例えば、第1電極112および第2電極122のそれぞれの全体積における10%~90%を、第1反応溶液118および第2反応溶液128に含浸させることができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、第1電極112および第2電極122のそれぞれの全体積における20%~70%、または40%~60%を含浸させることができる。前記範囲では、後述する電圧または電流の印加による電子及び/又はリチウムイオンの移動、および各反応容器110,120における酸化/還元反応速度を共に向上させることができる。
【0059】
いくつかの実施形態では、第1電極112に含まれる活物質収容部114は全体として第1反応溶液118に浸漬されてもよく、電極バー113は部分的に第1反応溶液118に浸漬されてもよい。
【0060】
第1反応溶液118は、リチウムイオン(Li+)含有水溶液を含むことができる。前記リチウムイオン含有水溶液は、水系電解液として機能することができる。第2反応溶液128は、水またはリチウムイオン含有水溶液を含むことができる。
【0061】
前記回収システムは、第1反応容器110と第2反応容器120とを互いに接続する接続部130を含むことができる。
【0062】
接続部130内には、イオン交換膜135を配置することができる。いくつかの実施形態では、イオン交換膜135は、陽イオンを選択的に移動させることができるイオン交換樹脂を含むことができる。
【0063】
イオン交換膜135は、例えば、ナフィオン(Nafion)、ダイヤイオン(Diaion)、トリライト(Trilite)などのイオン交換樹脂を含むことができ、好ましくは、ナフィオン(Nafion)を含むことができる。
【0064】
前記回収システムは、電源部140を含むことができる。電源部140および外部導線を介して、第1電極112と第2電極122は互いに電気的に接続することができる。
【0065】
電源部140を介して、第1電極112と第2電極122との間に電圧または電流を直接印加することができる。これにより、前記回収システムにおける電気化学反応を促進し、酸化還元反応を行うことができる。
【0066】
前記印加される電圧は、酸化反応および還元反応における標準還元電位値を考慮して設定できる。標準還元電位とは、標準水素電極と還元が起こる半電池を結合して作った電池で測定した電位を意味する。
【0067】
前記回収システムは、電解電池(Electrolytic Cell)と同様に動作することができる。前記回収システムで起こる反応は、下記の反応式1~反応式3で表すことができる。
【0068】
[反応式1]
Li+(aq)+e-+FePO4(s)⇔LiFePO4(s)→Eo(V)=0.46
【0069】
[反応式2-1]
Li+(aq)+H2O(l)⇔LiOH(aq)+H+(aq)
【0070】
[反応式2-2]
2LiOH(aq)+CO2(g)⇔Li2CO3(aq)+H2O(l)
【0071】
[反応式3]
O2(aq)+4H+(aq)+4e-⇔2H2O(l)→Eo(V)=1.23、E(V)=1.23-0.059×pH
【0072】
例えば、第1電極112では酸化反応が起こり、第2電極122では還元反応が起こり得る。前記酸化反応は電子を失う反応であり、前記還元反応は電子を得る反応と定義できる。
【0073】
第1電極112では、前記反応式1の逆反応(酸化反応)が起こり、第2電極122では前記反応式3の正反応(還元反応)が起こり得る。印加される電圧または電流は、前記反応式1と前記反応式3との標準還元電位値の差を反映して設定することができ、溶液のpHを反映して設定することができる。
【0074】
前記反応式1および反応式3におけるEoの値は、各反応式の正反応における標準還元電位を意味し得る。前記反応式3におけるEの値は、第2反応溶液128のpHによる還元電位を意味し得る。
【0075】
例えば、第2反応溶液128はリチウムイオン含有水溶液を含むことができ、pHが10であってもよい。この場合、前記反応式3におけるEの値は、0.64(=1.23-0.059×10)であり、電源部140を介して0.3V~1.0V、または0.4V~0.8Vの電圧を前記回収システムに印加することができる。
【0076】
前記範囲では、電気化学反応を誘導することができる。例えば、印加される電圧が0.3V未満であると、酸化還元反応が起こるための電圧が十分に印加されず、電気化学反応が起こらないことがある。印加電圧が1.0Vを超えると、酸化還元反応の促進なしに必要以上の電気エネルギーが使用および消費され、エネルギー効率が低くなり経済性が低下することがある。
【0077】
いくつかの実施形態では、活物質116から分離されたリチウムイオン(Li+)は、第2反応容器120に移動し、リチウム前駆体(例えば、リチウム水酸化物(LiOH)またはリチウム炭酸化物(Li2CO3))として収集され得る。
【0078】
前記反応式1の逆反応のように、第1電極112で酸化反応が起こり、リチウムイオン(Li+)と電子(e-)が分離され得る。
【0079】
生成されたリチウムイオン(Li+)は、第1反応溶液118に溶解し、水溶液状態で存在することができる。前述のように、第1反応溶液118はリチウムイオン(Li+)含有水溶液を含むことができる。前記リチウムイオン含有水溶液は、水系電解液として機能することができる。前記溶解したリチウムイオンは、第1反応溶液118内で移動することができ、接続部130を介して移動することもできる。
【0080】
リチウムイオンは、イオン交換膜135も通過することができる。イオン交換膜135は、選択的に陽イオンのみを透過させるので、溶媒(例えば、水(H2O))の移動を制限しながらリチウムイオン(Li+)のみを移動させることができる。
【0081】
例えば、電源部140を介して電圧または電流が印加されて第1電極112で酸化反応が起こり、リチウムイオン(Li+)が第1反応溶液118に溶解することができる。分離された電子(e-)は、電源部140に接続された外部導線を介して第2反応容器120の方向に移動することができる。前記回収システムの電気的中性を維持するために、リチウムイオン(Li+)は、第1反応容器110から第2反応容器120の方向に接続部130およびイオン交換膜135を介して移動することができる。
【0082】
前述のように、第2反応溶液128は、水またはリチウムイオン含有水溶液を含むことができる。前記回収システムは、空気中で行うことができる。第2反応溶液128には、空気中に存在する気体状態の二酸化炭素(CO2)が溶解することができ、二酸化炭素(CO2)は水溶液状態で存在することができる。
【0083】
第2反応容器120に移動したリチウムイオンは、第2反応溶液128と反応することができる。第2反応容器120内では、前述した反応式2-1の正反応及び/又は反応式2-2の正反応が起こり得る。第2反応容器120内でのリチウムイオンは、前記正反応によって前記リチウム前駆体に変換することができ、第2反応容器120内で前記リチウム前駆体が収集され得る。
【0084】
第1電極112で酸化反応が起こることで分離された電子(e-)は、電源部140によって印加される電圧または電流の影響で第1電極112から第2電極122の方向に移動することができる。電子(e-)と前記反応式2-1の正反応により生成及び溶解した水素イオン(H+)は、前記反応式3の正反応(還元反応)を起こすことができる。
【0085】
前記リチウム前駆体は、反応式2-1及び/又は反応式2-2の正反応によって回収することができる。
【0086】
前記回収システムを適用して実施される前記回収方法は、第2反応溶液128を乾燥させるステップをさらに含むことができる。この場合、リチウム前駆体粉末(powder)を回収することができる。
【0087】
前記反応式1の逆反応によってリチウムイオン(Li+)と電子(e-)が分離されることにより、活物質収容部114には、活物質116に由来するリン酸鉄(FePO4)が残存し得る。例えば、前記リン酸鉄(FePO4)は固体状態に残存し得る。これにより、前述の回収システムは、リン酸鉄(FePO4)も効率的に回収することができる。
【0088】
前述の回収システムは、沈殿剤、酸化剤および還元剤などの追加の添加剤を使用しなくてもよい。また、電気エネルギーのみを用いて行うことができ、環境汚染を引き起こさなくなる。
【0089】
図2は、例示的な実施形態によるリチウム前駆体の回収システムを示す概略断面図である。
図3は、例示的な実施形態によるリチウム前駆体の回収システムに含まれる第1電極112を示す概略断面図である。
【0090】
図1と同一または相当の構成および動作については、詳細な説明を省略する。例えば、活物質、第2電極122、及び前記回収システムで起こる酸化還元反応のメカニズムについては詳細な説明を省略する。
【0091】
図2及び
図3を参照すると、第1電極112は単一の電極バー115形状を有することができる。例えば、
図1で説明した活物質収容部114は、第1電極112から省略できる。
【0092】
第1電極112では、例えば酸化反応が起こり得、電極バー115は、前記酸化反応を誘導または促進できる金属材料(例えば、アルミニウム(Al))または炭素系材料で形成することができる。
【0093】
いくつかの実施形態では、活物質117は第1電極112の表面にコーティングすることができる。一実施形態では、第1電極112に含まれる電極バー115に直接コーティングすることができる。前記「直接コーティング」とは、活物質117と第1電極112の表面との間に任意の他の物質が形成されないことを意味し得る。
【0094】
活物質117から分離された電子(e-)は、第1電極112を経由して移動することができる。活物質117が第1電極112の表面に直接コーティングされることにより、電子(e-)は、より強く第1電極112によって生成することができる。
【0095】
活物質117は、第1電極112の表面を少なくとも部分的に覆うことができる。例えば、活物質117は、第1電極112の表面上に連続して均一に分布することができ、表面の少なくとも一部を覆う膜(film)の形態で存在することができる。この場合、活物質117と第1電極112との接触面積が広くなり、活物質117から分離された電子(e-)が円滑に外部導線を介して移動することができ、酸化還元反応をより促進できる。これにより、リチウム前駆体の回収率を改善することができる。
【0096】
いくつかの実施形態では、活物質117は第1電極112の表面上に不連続的に分布してもよい。例えば、第1電極112の外表面の局所領域に島(island)の形態に存在することができる。
【0097】
活物質117は、当技術分野で公知のコーティング工程によって形成することができる。例えば、活物質117は、スラリー状態で第1電極112の表面に薄膜の形態に塗布することができる。
【0098】
以下、本発明の理解を助けるために具体的な実施例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【実施例0099】
実施例及び比較例
実施例1
内部にパウチ(pouch)形状の空間が形成された炭素電極である第1電極が含浸されている第1反応器を設置した。第2電極としては、カーボンフェルト(carbon felt)電極を第2反応器に含浸させた。
【0100】
含浸されている両電極に電源を接続し、第1反応器と第2反応器を接続した。前記反応器の間には、ナフィオン(Nafion)を含むイオン交換膜を設置した。
【0101】
廃正極活物質は、0.5gのリチウムリン酸鉄(LiFePO4)を準備し、第1反応器内の活物質収容部に投入した。第1反応器内に第1電極が含浸されている0.1Mの水酸化リチウム(LiOH)溶液を充填し、第2反応器内に第2電極が含浸されている蒸留水を充填した。
【0102】
その後、第1電極及び第2電極に接続された前記電源に10mAの電流を印加し、電気化学反応を4時間行った。
【0103】
実施例2
20mAの電流を印加した以外は、実施例1と同様にして電気化学反応を行った。
【0104】
比較例
リチウム含有量4.4重量%のLiFePO4を含むリン酸化物系の正極活物質粉末10g、0.2mol/Lリン酸水溶液1000mlと平均粒度30μmの鉄粉末0.1gを共に反応器に入れ、常温で4時間撹拌して溶解した。
【0105】
溶解後、未反応の残留物質と鉄粉末などの固形成分をろ過して分離し、ろ液に苛性ソーダを加えてpHを9に調整した。
【0106】
溶解液に一部残っていた鉄成分は全て水酸化物の形態で沈殿し、溶解液にはリチウム成分のみが残っていた。ろ過プロセスで沈殿物を分離し、溶解液とエタノールを1:4の体積比で混合した。溶解液とエタノールの混合液を常温で30分間撹拌した。リン酸リチウム沈殿物(Li3PO4)が生成し、生成物をろ過プロセスにより分離した。
【0107】
その後、生成物をエタノールで洗浄し、乾燥して、最終製品である高純度のリン酸リチウムを製造した。
【0108】
実験例
(1)リチウムリン酸鉄(LiFePO4)中のLiの濃度の評価
各実施例では、実験前後の第1電極に存在するリチウムリン酸鉄(LiFePO4)中のリチウムイオンの重量%をICP-OESで測定した。
【0109】
比較例では、実験前後のリチウムリン酸鉄(LiFePO4)中のリチウムイオンの重量%をICP-OESで測定した。
【0110】
(2)リチウム回収率の評価
リチウムリン酸鉄(LiFePO4)中のLiの濃度を基準に、リチウム回収率は下記式1で定義される。
【0111】
[式1]
リチウム回収率(%)
={(反応前のリチウムリン酸鉄(LiFePO4)中のLiの濃度-反応後のリチウムリン酸鉄(LiFePO4)中のLiの濃度)/反応前のリチウムリン酸鉄(LiFePO4)中のLiの濃度}×100
【0112】
分析の結果を下記表1に示す。
【0113】
【0114】
表1を参照すると、実施例では、反応後のリチウムリン酸鉄(LiFePO4)中のLiの濃度が比較例よりも顕著に減少した。
【0115】
前記の結果から、電気化学的な方法によりリチウム前駆体が高純度で生成されたことを確認できる。
【0116】
また、リチウム前駆体を回収するに当たり、酸化剤、還元剤または沈殿剤のような追加の添加剤および追加の分離工程なしにリチウム前駆体が回収された。
【0117】
これにより、本開示の実施例によれば、電気エネルギーのみを用いて環境にやさしいリチウム前駆体の回収工程が実現された。さらに、リン酸鉄(FePO4)も活物質から回収された。