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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007765
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】ガス回収システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/32 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
B01D53/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109070
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 信彦
(72)【発明者】
【氏名】越前 秀憲
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 裕規
(57)【要約】
【課題】回収対象ガスの回収能力の低下を抑制可能なガス回収システムを提供する。
【解決手段】二酸化炭素回収システム1は、電気化学反応によって混合ガスから回収対象ガスを回収するガス回収システムであって、電気化学セル101と、対極包囲部材110と、を備える。電気化学セル101は、作用極104と、対極106と、セパレータ107と、作用極集電材103と、対極集電材105と、を積層配置して構成されている。作用極104は回収対象ガスを吸着する。対極106は作用極104と電子の授受を行う。対極包囲部材110は、電気化学セル101に対して対極106及び対極集電材105を覆うように配置され、混合ガスと対極106との接触を抑制する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応によって混合ガスから回収対象ガスを回収するガス回収システムであって、
前記回収対象ガスを吸着する作用極(104)と、前記作用極と電子の授受を行う対極(106)と、前記作用極と前記対極の間に配置され、前記作用極と前記対極の物理的接触を防いで電気的短絡を抑制するセパレータ(107)と、前記作用極に当接して前記作用極と前記対極とを電気的に接続する作用極集電材(103)と、前記対極に当接して前記作用極と前記対極とを電気的に接続する対極集電材(105)と、を積層配置して構成された電気化学セル(101)と、
前記電気化学セルに対して前記対極及び前記対極集電材を覆うように配置され、前記混合ガスと前記対極との接触を抑制する対極包囲部材(110)と、を備えるガス回収システム。
【請求項2】
前記対極包囲部材(110)は、前記混合ガスに対する不透過性を有する材料で形成されたフィルム部材(111、112、113)により構成されており、
前記フィルム部材は、前記対極及び前記対極集電材を覆うように配置され、少なくとも前記セパレータの外縁を含む状態で接着されている請求項1に記載のガス回収システム。
【請求項3】
前記対極包囲部材(110)は、前記混合ガスに対する不透過性を有する材料で形成され、前記電気化学セルを収容する収容容器(115)を含んでおり、前記収容容器の内部に対する前記混合ガスの流入を禁止するように構成されている請求項1に記載のガス回収システム。
【請求項4】
前記収容容器の内側の表面と、前記電気化学セルの前記対極集電材及び前記対極との間の空間には、前記混合ガスに対する不透過性を有する樹脂(116)が充填されており、充填された前記樹脂によって前記対極集電材及び前記対極に対する前記混合ガスの接触が禁止されている請求項3に記載のガス回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回収対象ガスを含有する混合ガスから回収対象ガスを回収するガス回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、二酸化炭素が含まれる混合ガスから回収対象ガスである二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収システムが開示されている。特許文献1の二酸化炭素回収システムは、電気化学反応によって二酸化炭素を吸着する電気化学セルを備えている。
【0003】
電気化学セルは、それぞれ平板状に形成された作用極、対極、作用極集電材、対極集電材等を積層した積層体として形成されている。作用極は、混合ガスから二酸化炭素を吸収する二酸化炭素吸着材を含んでいる。対極は、作用極と電子の授受を行う電気活性補助材を含んでいる。作用極集電材は、作用極に当接する電極である。対極集電材は、対極に当接する電極である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2018-533470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、二酸化炭素回収システムでは、二酸化炭素を作用極の二酸化炭素吸着材に吸着させるために、作用極を混合ガスに曝露させる必要がある。そこで、特許文献1では、作用極集電材をガス透過膜で形成している。
【0006】
その一方で、対極を混合ガスに曝露させると、対極に印加した電位によって対極の電気活性補助材が酸化されてしまう可能性がある。電気活性補助材が酸化されてしまうと、ガス回収システムにおける回収対象ガスの回収能力が低下してしまうことが考えられる。
【0007】
本開示は、上記点に鑑み、回収対象ガスの回収能力の低下を抑制可能なガス回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係るガス回収システムは、電気化学反応によって混合ガスから回収対象ガスを回収するガス回収システムであって、電気化学セル(101)と、対極包囲部材(110)と、を備える。
【0009】
電気化学セルは、作用極(104)と、対極(106)と、セパレータ(107)と、作用極集電材(103)と、対極集電材(105)と、を積層配置して構成されている。作用極は回収対象ガスを吸着する。対極は作用極と電子の授受を行う。セパレータは、作用極と対極の間に配置され、作用極と対極の物理的接触を防いで電気的短絡を抑制する。作用極集電材は、作用極に当接して作用極と対極とを電気的に接続する。対極集電材は、対極に当接して作用極と対極とを電気的に接続する。対極包囲部材は、電気化学セルに対して対極及び対極集電材を覆うように配置され、混合ガスと対極との接触を抑制する。
【0010】
ガス回収システムによれば、電気化学セルに対して配置された対極包囲部材によって、混合ガスと対極との接触を抑制している。この結果、ガス回収システムは、対極が酸化されてしまうことを抑制することができ、ガス回収システムにおける回収対象ガスの回収能力の低下を抑制できる。
【0011】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態の二酸化炭素回収システムの全体構成を示す概念図である。
図2】二酸化炭素回収装置の構成を示す説明図である。
図3】二酸化炭素回収装置における電気化学セルの構成を示す説明図である。
図4】第1実施形態に係る電気化学セルの分解斜視図である。
図5】第1実施形態に係る電気化学セルの構成を示す断面図である。
図6】第2実施形態に係る電気化学セルの構成を示す断面図である。
図7】第3実施形態に係る電気化学セルの分解斜視図である。
図8】第3実施形態に係る電気化学セルの構成を示す断面図である。
図9】第4実施形態に係る電気化学セルの構成を示す断面図である。
図10】第5実施形態に係る電気化学セルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各実施形態において、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の実施形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0014】
(第1実施形態)
本開示における第1実施形態について、図面を参照して説明する。第1実施形態は、本開示におけるガス回収システムを、二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を分離して回収する二酸化炭素回収システム1に適用している。従って、本実施形態の回収対象ガスは、二酸化炭素である。
【0015】
図1に示すように、第1実施形態に係る二酸化炭素回収システム1は、二酸化炭素回収装置10、ポンプ11、流路切替弁12、二酸化炭素利用装置13、制御装置14を備えている。
【0016】
二酸化炭素回収装置10は、混合ガスから二酸化炭素を分離して回収する。混合ガスとしては、大気や内燃機関の排気ガスを用いることができる。混合ガスは、二酸化炭素以外のガスも含有している。二酸化炭素回収装置10には、混合ガスが供給される。二酸化炭素回収装置10は、二酸化炭素が除去された後の混合ガス、或いは、回収した二酸化炭素を排出する。二酸化炭素回収装置10の詳細な構成については後述する。
【0017】
二酸化炭素回収装置10の出口には、ポンプ11の吸入口側が接続されている。ポンプ11は、二酸化炭素回収装置10から、二酸化炭素が除去された後の混合ガス、或いは、回収した二酸化炭素を吸引する。更に、ポンプ11の吸引作用によって、混合ガスが二酸化炭素回収装置10に供給される。
【0018】
尚、本実施形態では、二酸化炭素回収装置10のガス流れ方向の下流側にポンプ11を配置した例を説明しているが、二酸化炭素回収装置10のガス流れ方向の上流側にポンプ11を配置してもよい。
【0019】
ポンプ11の吐出口には、流路切替弁12の流入口側が接続されている。流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置10から流出したガスの流路を切り替える三方弁である。流路切替弁12の流出口の一方は、大気側に接続されており、流路切替弁12の流出口の他方は、二酸化炭素利用装置13側に接続されている。従って、流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置10から流出したガスを大気側へ流出させる流路と、二酸化炭素回収装置10から流出したガスを二酸化炭素利用装置13側へ流出させる流路とを切り替える。
【0020】
二酸化炭素利用装置13は、二酸化炭素を利用する装置である。二酸化炭素利用装置13としては、例えば、二酸化炭素を貯蔵する貯蔵タンクや二酸化炭素を燃料に変換する変換装置を用いることができる。変換装置は、二酸化炭素をメタン等の炭化水素燃料に変換する装置である。炭化水素燃料は、常温常圧で気体の燃料であってもよく、常温常圧で液体の燃料であってもよい。
【0021】
制御装置14は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置14は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種制御対象機器の作動を制御する。より具体的には、本実施形態の制御装置14は、二酸化炭素回収装置10、ポンプ11、流路切替弁12の作動を制御する。
【0022】
次に、二酸化炭素回収システム1に用いられる二酸化炭素回収装置10の構成について、図2図3を用いて説明する。図2に示すように、二酸化炭素回収装置10は、筐体100及び複数の電気化学セル101を有している。本実施形態の筐体100は、金属材料によって形成されている。筐体100は、樹脂材料によって形成されていてもよい。
【0023】
筐体100には、ガス流入部、およびガス流出部が形成されている。ガス流入部は、混合ガスを筐体100内へ流入させるための開口部である。ガス流出部は、二酸化炭素が除去された後の混合ガス、或いは、回収した二酸化炭素を筐体100内から流出させるための開口部である。
【0024】
電気化学セル101は、電気化学反応によって二酸化炭素を吸着して、混合ガスから二酸化炭素を分離して回収する。又、電気化学セル101は、電気化学反応によって二酸化炭素を脱離させて、吸着した二酸化炭素を放出する。複数の電気化学セル101は、筐体100に収容されている。
【0025】
電気化学セル101は、矩形の平板状に形成されている。複数の電気化学セル101は、筐体100の内部で、板面同士が互いに平行となるように、一定の間隔を開けて積層配置されている。
【0026】
隣り合う電気化学セル101同士の間には、ガス流入部から流入した混合ガスを流通させる複数のガス流路102が形成される。従って、混合ガスの流れ方向は、電気化学セル101の板面に対して平行となり、複数の電気化学セル101の積層方向に対して垂直となる。
【0027】
図3に示すように、電気化学セル101は、作用極集電材103、作用極104、対極集電材105、対極106、セパレータ107、電解質層108を有している。作用極集電材103、作用極104、対極集電材105、対極106、セパレータ107は、いずれも矩形の平板状に形成されている。
【0028】
電気化学セル101は、作用極集電材103、作用極104、対極集電材105、対極106、セパレータ107を積層した積層体として形成されている。個々の電気化学セル101において作用極集電材103等が積層される積層方向と、筐体100の内部で複数の電気化学セル101が積層される積層方向は一致している。
【0029】
作用極集電材103は、作用極104に当接して、作用極104と対極106とを電気的に接続する導電性部材である。図4等に示すように、作用極集電材103には、作用極側引出部103aが形成されており、作用極側引出部103aを介して、電源109に接続されている。
【0030】
又、作用極集電材103は、一方の平坦面が混合ガスに露出している。作用極集電材103は、他方の平坦面が作用極104に接触している。作用極集電材103には、一方の平坦面側の混合ガスを他方の平坦面側の作用極104に曝露させる為に、作用極開口部103bが複数形成されている。
【0031】
具体的には、本実施形態の作用極集電材103は、金属多孔質体で形成されている。従って、本実施形態の作用極開口部103bは、作用極集電材103の内部に形成された複数の空隙同士が互いに連通することによって形成されている。作用極集電材103としては、空隙率が50%以上の金属多孔質体を採用することができる。空隙率は、見かけの体積に対する空隙の体積の比率で定義される。
【0032】
作用極104は、混合ガスから二酸化炭素を吸着して回収し、回収した二酸化炭素を脱離させて放出することができる。作用極104は、二酸化炭素吸着材、導電助剤、およびバインダを有している。二酸化炭素吸着材、導電助剤、およびバインダは、混合物の状態で用いられる。より詳細には、二酸化炭素吸着材の細粒、および導電助剤の細粒が、バインダによって保持された状態で用いられる。
【0033】
二酸化炭素吸着材は、電子を受け取ることで二酸化炭素を吸着し、電子を放出することで吸着していた二酸化炭素を脱離する電気活性種である。二酸化炭素吸着材としては、例えば、ポリアントラキノンを用いることができる。
【0034】
導電助剤は、二酸化炭素吸着材への導電路を形成する。導電助剤としては、例えばカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン等の炭素材料を用いることができる。
【0035】
バインダは、二酸化炭素吸着材および導電助剤を保持する結合剤である。バインダとしては、例えば高分子ポリマーの導電性樹脂を用いることができる。導電性樹脂としては、導電性フィラーとしてAg等を含有するエポキシ樹脂やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂等の有機物を用いることができる。
【0036】
対極集電材105は、対極106に当接して、作用極104と対極106とを電気的に接続する導電性部材である。図4等に示すように、対極集電材105には、対極側引出部105aが形成されており、対極側引出部105aを介して、電源109に接続されている。そして、対極集電材105は、一方の平坦面が混合ガスに露出している。対極集電材105は、他方の平坦面が対極106に接触している。
【0037】
対極106は、二酸化炭素吸着材が二酸化炭素を吸着あるいは脱離する際に、作用極104と電子の授受を行う。対極106は、電気活性補助材、導電助剤、およびバインダを有している。電気活性補助材、導電助剤、およびバインダは、混合物の状態で用いられる。より詳細には、本実施形態では、電気活性補助材の細粒、および導電助剤の細粒が、バインダによって保持された状態で用いられる。
【0038】
対極106の導電助剤、およびバインダの基本的構成は、作用極104の導電助剤、およびバインダと同様である。電気活性補助材は、作用極104の二酸化炭素吸着材との間で電子の授受を行う補助的な電気活性種であり、酸化還元性を持つ活物質である。活物質としては、π結合を有する有機化合物、複数の酸化数をとる遷移金属化合物、金属イオンの価数が変化することで電子の授受を可能とする金属錯体を用いることができる。
【0039】
このような金属錯体としては、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、あるいはポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。これらの金属錯体は、ポリマーでもモノマーでもよい。
【0040】
セパレータ107は、作用極104と対極106の間に配置されており、作用極104と対極106を分離している。セパレータ107は、作用極104と対極106の物理的接触を防いで電気的短絡を抑制すると共に、イオンを透過させる絶縁性イオン透過膜である。セパレータ107としては、セルロース膜やポリマー、ポリマーとセラミックの複合材料等を用いることができる。
【0041】
電解質層108は、作用極104、セパレータ107、対極106を浸漬させる浸漬層である。電解質層108としては、例えば、イオン液体を採用することができる。イオン液体は、常温常圧下で不揮発性を有する液体の塩である。
【0042】
更に、電気化学セル101の作用極集電材103及び対極集電材105には、電源109が接続されている。電源109は、作用極104と対極106に所定の電圧を印加し、作用極104と対極106の電位差を変化させることができる。作用極104は負極であり、対極106は正極である。
【0043】
電気化学セル101は、作用極104と対極106の電位差を変化させることで、作用極104で二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収モード、及び作用極104から二酸化炭素を放出させる二酸化炭素放出モードで作動する。二酸化炭素回収モードは、電気化学セル101を充電する充電モードであり、二酸化炭素放出モードは、電気化学セル101を放電させる放電モードである。
【0044】
具体的には、二酸化炭素回収モードでは、作用極104と対極106の間に第1電圧V1が印加され、対極106から作用極104に電子が供給される。第1電圧V1では、作用極電位<対極電位となっている。第1電圧V1は、例えば0.5~2.0Vの範囲内とすることができる。
【0045】
二酸化炭素放出モードでは、作用極104と対極106の間に第2電圧V2が印加され、作用極104から対極106に電子が供給される。第2電圧V2は、第1電圧V1と異なる電圧である。第2電圧V2は、第1電圧V1より低い電圧であればよく、作用極電位と対極電位の大小関係は限定されない。つまり、二酸化炭素放出モードでは、作用極電位<対極電位でもよく、作用極電位=対極電位でもよく、作用極電位>対極電位でもよい。
【0046】
続いて、二酸化炭素回収システム1の作動について説明する。上述の如く、二酸化炭素回収システム1は、二酸化炭素回収モードと二酸化炭素放出モードを交互に切り替えて作動する。二酸化炭素回収システム1の作動は、制御装置14によって制御される。
【0047】
先ず、二酸化炭素回収モード時の二酸化炭素回収システム1の作動について説明する。二酸化炭素回収モードでは、ポンプ11を作動させる。これにより、二酸化炭素回収装置10に混合ガスが供給される。二酸化炭素回収装置10では、電気化学セル101の作用極104と対極106の間に印加される電圧を第1電圧V1とする。これにより、対極106の電気活性補助材の電子供与と、作用極104の二酸化炭素吸着材の電子求引を同時に実現できる。
【0048】
対極106から電子を受け取った作用極104の二酸化炭素吸着材は二酸化炭素の結合力が高くなり、混合ガスに含まれる二酸化炭素を結合して吸着する。これにより、二酸化炭素回収装置10は、混合ガスから二酸化炭素を回収することができる。二酸化炭素が除去された後の混合ガスは、二酸化炭素回収装置10から排出される。
【0049】
そして、二酸化炭素回収モードでは、流路切替弁12が、二酸化炭素回収装置10から排出された混合ガスを大気側へ流出させる流路に切り替える。これにより、二酸化炭素回収装置10から排出された混合ガスは大気に排出される。
【0050】
次に、二酸化炭素放出モード時における二酸化炭素回収システム1の作動について説明する。二酸化炭素放出モードでは、ポンプ11を停止させる。これにより、二酸化炭素回収装置10への混合ガスの供給が停止される。二酸化炭素回収装置10では、電気化学セル101の作用極104と対極106の間に印加される電圧を第2電圧V2とする。これにより、作用極104の二酸化炭素吸着材の電子供与と、対極106の電気活性補助材の電子求引を同時に実現できる。
【0051】
作用極104の二酸化炭素吸着材は電子を放出し、酸化状態となる。二酸化炭素吸着材は二酸化炭素の結合力が低下し、二酸化炭素を脱離して放出する。二酸化炭素吸着材から放出された二酸化炭素は、二酸化炭素回収装置10から排出される。
【0052】
二酸化炭素放出モードでは、流路切替弁12が、二酸化炭素回収装置10から排出された二酸化炭素を二酸化炭素利用装置13の入口側へ流出させる流路に切り替える。これにより、二酸化炭素回収装置10から排出された二酸化炭素は二酸化炭素利用装置13に供給される。
【0053】
以上の如く、本実施形態の二酸化炭素回収システム1によれば、混合ガスから二酸化炭素を回収して、回収された二酸化炭素を有効に利用することができる。
【0054】
次に、上述した電気化学セル101の製造方法を説明する。本実施形態の電気化学セル101の製造方法は、作用極集電材103に作用極104を付着させる作用極側の集電材付着工程、および対極集電材105に対極106を付着させる対極側の集電材付着工程を有している。作用極側の集電材付着工程と対極側の集電材付着工程は、別々に実施することができる。
【0055】
作用極側の集電材付着工程と対極側の集電材付着工程は、基本的に同等である。そこで、先ず、作用極側の集電材付着工程について説明する。作用極側の集電材付着工程では、準備工程、塗布工程、乾燥工程、剥離工程が実行される。準備工程では、平面上に配置された離型紙の上に作用極集電材103を配置する。離型紙は、一時的に粘着を示す物質の成形工程に使用する剥離紙である。
【0056】
塗布工程では、準備工程後の作用極集電材103の上面、すなわち離型紙の反対側の面に、二酸化炭素吸着材、導電助剤、およびバインダを混合させてペースト状とした作用極104をスクリーン印刷等によって塗布する。これにより、ペースト状になっている作用極104は、作用極集電材103の上面のみならず、作用極開口部103bの内部に入り込む。
【0057】
乾燥工程では、塗布工程後の作用極集電材103に塗布された作用極104を乾燥させる。これにより、作用極104が硬化する。従って、作用極104は、二酸化炭素吸着材の細粒、および導電助剤の細粒をバインダとともに固めることによって形成されている。乾燥工程では、乾燥速度を速めるために、作用極集電材103及び作用極104を加熱してもよい。また、作用極集電材103及び作用極104を低圧環境下に配置してもよい。
【0058】
剥離工程では、作用極集電材103から離型紙を剥がす。剥離工程では、作用極集電材103から離型紙を剥がす際に、作用極104の一部が離型紙とともに剥がれ、作用極104の一部が欠損してしまう可能性がある。そのため、剥離工程では、作用極104に欠損が形成されないように離型紙を剥がすことが望ましい。
【0059】
以上の工程により、作用極側の集電材付着工程では、作用極集電材103に作用極104を付着させる。対極集電材105に対極106を付着させる対極側の集電材付着工程においても、同様の準備工程、塗布工程、乾燥工程、剥離工程が実行される。
【0060】
そして、作用極側の集電材付着工程によって付着した作用極集電材103および作用極104と、対極側の集電材付着工程によって付着した対極集電材105および対極106とを、セパレータ107を介在させて貼り合わる貼合工程を行う。貼合工程では、図3図4から明らかなように、作用極104側の面と対極106側の面がセパレータ107に当接するように、貼り合わせる。
【0061】
その後、作用極集電材103の作用極側引出部103aおよび対極集電材105の対極側引出部105aに、電源109を接続する。これにより、電気化学セル101が製造される。
【0062】
第1実施形態に係る二酸化炭素回収システム1においては、こうして製造された電気化学セルに対して対極包囲部材110が配置される。第1実施形態においては、対極包囲部材110として、ガス不透過性を有する材料で構成されたフィルム部材111が用いられている。
【0063】
尚、電気化学セル101に対してフィルム部材111を配置する際には、減圧環境下または不活性ガス環境下において、作用極側フィルム112及び対極側フィルム113の配置作業が行われる。
【0064】
具体的には、図4に示すように、フィルム部材111として、作用極側フィルム112と対極側フィルム113が電気化学セル101に対して配置される。そして、作用極側フィルム112及び対極側フィルム113は、図5に示すように、内部に電気化学セル101を収容するように、電気化学セル101の周囲に囲むように配置される。
【0065】
作用極側フィルム112は、電気化学セル101の作用極側を覆うように配置されるフィルム部材111である。作用極側フィルム112は、電気化学セル101における作用極集電材103及び作用極104の表面に密着するように配置されている。
【0066】
作用極側フィルム112は、電気化学セル101の作用極側の面積よりも大きく形成されており、その中央部分には、開口部112aを有している。作用極側フィルム112の開口部112aは、作用極104と同等のサイズで開口されており、作用極104に対して混合ガスを曝露させる為に形成されている。
【0067】
一方、対極側フィルム113は、電気化学セル101の対極側を覆うように配置されるフィルム部材111である。対極側フィルム113は、電気化学セル101における対極集電材105及び対極106の表面に密着するように配置されている。
【0068】
更に、作用極側フィルム112の外周縁は、全周に亘って、対極側フィルム113の外周縁に対して接着されている。これにより、図5に示すように、作用極側フィルム112及び対極側フィルム113で構成される空間の内部に、電気化学セル101が配置された状態になる。ガス不透過性を有する作用極側フィルム112及び対極側フィルム113で構成されている為、電気化学セル101が配置されている空間には、開口部112aを除いて、混合ガスの流出・流入が困難な状態になっている。
【0069】
従って、第1実施形態によれば、作用極側フィルム112及び対極側フィルム113からなる対極包囲部材110で、電気化学セル101を被覆することによって、対極集電材105及び対極106に対する混合ガスの接触を抑制することができる。
【0070】
ここで、酸素を含む混合ガスが対極106と接触した場合について考察する。混合ガスに酸素が含まれている場合、対極106に接触した酸素が電気エネルギを受け取ることによって、スーパーオキサイド等の活性酸素種が発生する。
【0071】
このような活性酸素種は、対極106のうち有機加工物で形成された電気活性補助材やバインダを容易に酸化させてしまう。そして、電気活性補助材が酸化されてしまうと、電気活性補助材の電子の授受能力が低下してしまう。又、バインダが酸化されてしまうと、電気活性補助材を止めておくことができなくなってしまう。その結果、作用極104における二酸化炭素の回収能力が低下してしまう可能性がある。
【0072】
この点、第1実施形態に係る二酸化炭素回収システム1では、対極包囲部材110としての作用極側フィルム112、対極側フィルム113で電気化学セル101を包囲しているので、対極106を混合ガスに曝露させにくい。従って、対極106の電気活性補助材やバインダが酸化されてしまうことを抑制して、二酸化炭素回収システム1における回収対象ガスの回収能力の低下を抑制することができる。
【0073】
尚、フィルム部材111として利用可能な材料を選定する際には、以下の点を考慮することが望ましい。先ず、第1実施形態では、作用極側フィルム112と対極側フィルム113の外周縁を接着する為、外周縁における封止方法に対応する材質又は性状を有している必要がある。
【0074】
例えば、熱圧着(熱板溶着)、レーザ溶着、超音波溶着等で外周縁を封止する場合、熱可塑性を有していることが必要であり、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、塩化ビニル等の表面層又は被膜を有する構成を採用することができる。
【0075】
又、接着剤による接着で外周縁を封止する場合、フィルム部材111として、接着剤の濡れ性が良い状態(即ち、表面エネルギが大きい状態)であること、又は粗面であることが望ましい。例えば、レーザブラスト、プラズマ処理等を施すことで接着剤による接着に適した状態を作り出すことができる。ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリエチレンテレフタラート等の表面層又は被膜を有する構成とすることで、接着剤による接着に適した構成とすることができる。
【0076】
そして、上述したように、フィルム部材111は、ガス不透過性を有している必要がある。換言すると、フィルム部材111はガスバリア性を有する材料又は構成であることが望ましい。例えば、アルミ、銅等の金属蒸着層、アルミ等の金属箔層、ポリ塩化ビニリデン等の難透過性樹脂層の何れかを有する構成をフィルム部材111として採用することができる。
【0077】
以上説明したように、第1実施形態に係る二酸化炭素回収システム1によれば、対極包囲部材110である作用極側フィルム112、対極側フィルム113によって、電気化学セル101を被覆することで、対極106を混合ガスに曝露させにくい状態にできる。これにより、二酸化炭素回収システム1は、対極106の電気活性補助材やバインダが酸化されてしまうことを抑制して、二酸化炭素回収システム1における回収対象ガスの回収能力の低下を抑制することができる。
【0078】
(第2実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第2実施形態について、図6を参照して説明する。第2実施形態では、対極包囲部材110として配置されるフィルム部材111を電気化学セル101に対して配置する態様が相違している。その他の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0079】
第2実施形態に係る二酸化炭素回収システム1において、電気化学セル101は、上述した実施形態と同様に、作用極集電材103、作用極104、セパレータ107、対極106、対極集電材105の順に積層して構成されている。
【0080】
図6に示すように、第2実施形態に係る電気化学セル101に対しては、対極包囲部材110として、フィルム部材111である対極側フィルム113が配置されている。そして、第2実施形態におけるセパレータ107は、対極側フィルム113に対する溶着性を有する材料によって、対極集電材105及び対極106よりも大きなサイズとなるように構成されている。従って、第2実施形態に係る電気化学セル101では、セパレータ107の外周縁は、対極集電材105及び対極106の外縁よりも外側に配置されている。
【0081】
第2実施形態に係る対極側フィルム113は、電気化学セル101の対極側を覆うように配置されており、対極集電材105及び対極106の表面に密着している。対極側フィルム113の外周縁は、全周に亘って、セパレータ107の外周縁に対して溶着により接着されている。
【0082】
尚、対極側フィルム113とセパレータ107との接着方法については、溶着に限定されるものではなく、融着、化学結合、物理結合等の種々の方法を採用することができる。又、対極側フィルム113とセパレータ107との接着に際して、他の構成を利用しても良く、例えば、接着剤を介して、対極側フィルム113とセパレータ107を接着しても良い。又、対極側フィルム113の構成材料として要求される性状等については、第1実施形態と同様である。
【0083】
図6に示すように、第2実施形態では、ガス不透過性を有する対極側フィルム113によって、対極集電材105及び対極106を覆うように配置され、セパレータ107の外周縁に対して接着されている。この為、セパレータ107と対極側フィルム113との間の空間には、混合ガスが流入することはない。
【0084】
又、第2実施形態において、セパレータ107に対する対極側フィルム113の接着作業は、減圧環境下又は不活性ガス環境下において行われる。従って、セパレータ107と対極側フィルム113との間の空間には、初期状態から混合ガスが含まれることもない。
【0085】
第2実施形態に係る二酸化炭素回収システム1によれば、対極側フィルム113とセパレータ107により、対極集電材105及び対極106を区画して、対極106に対する混合ガスの接触を禁止することができる。従って、第2実施形態に係る二酸化炭素回収システム1は、少ない部品点数で、対極106の電気活性補助材やバインダが酸化されてしまうことを抑制して、二酸化炭素回収システム1における回収対象ガスの回収能力の低下を抑制することができる。
【0086】
以上説明したように、第2実施形態に係る二酸化炭素回収システム1によれば、セパレータ107及び対極側フィルム113にて対極集電材105及び対極106に区画した場合、上述した実施形態と共通の構成及び作動から奏される作用効果を得ることができる。
【0087】
図6に示すように、セパレータ107に対して対極側フィルム113を接着することで、対極集電材105及び対極106を混合ガスから隔離できる為、少ない部品点数にて、対極106の劣化及びそれに伴う回収対象ガスの回収能力の低下を抑制できる。
【0088】
(第3実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第3実施形態について、図7図8を参照して説明する。第3実施形態では、対極包囲部材110として、作用極側フィルム112、対極側フィルム113を用いて、対極106の劣化を抑制すると同時に、電気化学セル101の構成部材の密着性を担保している。その他の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0089】
図7図8に示すように、第3実施形態に係る二酸化炭素回収システム1において、電気化学セル101は、上述した実施形態と同様に、作用極集電材103、作用極104、セパレータ107、対極106、対極集電材105の順に積層して構成されている。
【0090】
第3実施形態に係る電気化学セル101のセパレータ107には、複数の穴部107aが形成されている。第3実施形態に係るセパレータ107において、複数の穴部107aは、セパレータ107の外周縁に沿って配置されており、セパレータ107を厚み方向に貫通している。
【0091】
セパレータ107は、作用極集電材103、作用極104、対極集電材105、対極106よりも大きなサイズで形成されている。そして、複数の穴部107aは、作用極集電材103、作用極104、対極集電材105、対極106のそれぞれの外縁よりも外側に位置するように形成されている。
【0092】
尚、セパレータ107の構成材料として、第2実施形態では、フィルム部材111に対する溶着性を有する材料が採用されているが、第3実施形態では、フィルム部材111に対する溶着性を必要としない。第3実施形態では、作用極104と対極106の物理的な接触を防いで電気的短絡を抑制可能な材料であれば、種々の材料でセパレータ107を構成することができる。
【0093】
図7図8に示すように、第3実施形態に係る電気化学セル101に対しては、対極包囲部材110として、フィルム部材111である作用極側フィルム112、対極側フィルム113が配置されている。
【0094】
作用極側フィルム112は、上述した実施形態と同様に、電気化学セル101の作用極側を覆うように配置されるフィルム部材111である。作用極側フィルム112は、電気化学セル101における作用極集電材103及び作用極104の表面に密着するように配置されている。
【0095】
作用極側フィルム112は、電気化学セル101の作用極側の面積よりも大きく形成されており、その中央部分には、開口部112aを有している。作用極側フィルム112の開口部112aは、作用極104と同等のサイズで開口されており、作用極104に対して混合ガスを曝露させる為に形成されている。
【0096】
作用極側フィルム112の外周縁は、図8に示すように、作用極集電材103及び作用極104の外周縁よりも外側であって、セパレータ107の外周縁よりも外側に位置している。
【0097】
そして、第3実施形態に係る対極側フィルム113は、電気化学セル101の対極側を覆うように配置されるフィルム部材111である。対極側フィルム113は、電気化学セル101における対極集電材105及び対極106の表面に密着するように配置されている。
【0098】
対極側フィルム113の外周縁は、図8に示すように、対極集電材105及び対極106の外周縁よりも外側であって、且つ、セパレータ107の外周縁よりも外側に位置している。
【0099】
第3実施形態においては、セパレータ107に形成された複数の穴部107aの内側において、作用極側フィルム112と対極側フィルム113が溶着により接着される。これにより、作用極側フィルム112、対極側フィルム113、セパレータ107の相対的な位置関係が固定される。更に、第3実施形態では、セパレータ107の外周縁の外側において、作用極側フィルム112の外周縁と、対極側フィルム113の外周縁とが全周に亘って溶着される。
【0100】
つまり、ガス不透過性を有する対極側フィルム113によって、対極集電材105及び対極106を覆うように配置され、セパレータ107の穴部107aを介して、作用極側フィルム112に対して接着されている。この為、セパレータ107と対極側フィルム113との間の空間には、混合ガスが流入することを禁止することができる。
【0101】
尚、上述した実施形態と同様に、電気化学セル101に対する作用極側フィルム112、対極側フィルム113の配置動作は、減圧環境下又は不活性ガス環境下において実行される。従って、セパレータ107と対極側フィルム113との間の空間には、初期状態から混合ガスが含まれることもない。
【0102】
第3実施形態に係る二酸化炭素回収システム1によれば、作用極側フィルム112、対極側フィルム113、セパレータ107により、対極集電材105及び対極106を区画して、対極106に対する混合ガスの接触を禁止することができる。従って、第3実施形態に係る二酸化炭素回収システム1は、対極106の電気活性補助材やバインダが酸化されてしまうことを抑制して、二酸化炭素回収システム1における回収対象ガスの回収能力の低下を抑制することができる。
【0103】
又、図8に示すように、複数の穴部107aの内部にて、作用極側フィルム112と対極側フィルム113を溶着させている為、セパレータ107、作用極側フィルム112、対極側フィルム113の相対的な位置関係を固定することができる。
【0104】
つまり、セパレータ107と作用極側フィルム112との間において、作用極集電材103及び作用極104に対して積層方向への圧力をかけることができ、電気化学セル101における作用極側の構成部材の密着性を高めることができる。
【0105】
同様に、セパレータ107と対極側フィルム113との間において、対極集電材105及び対極106に対して積層方向へ圧力をかけることができ、電気化学セル101における対極側の構成部材の密着性を高めることができる。即ち、第3実施形態に係る二酸化炭素回収システム1においては、セパレータ107、作用極側フィルム112、対極側フィルム113を用いることで、内部に配置された電気化学セル101の構成部材の密着性を向上させることができる。
【0106】
尚、第3実施形態における作用極側フィルム112、対極側フィルム113に要求される性状等については、上述した実施形態と同様である。第3実施形態においては、セパレータ107、作用極側フィルム112、対極側フィルム113により、電気化学セル101によって積層方向に圧力をかける必要がある。
【0107】
この為、第3実施形態に係る作用極側フィルム112、対極側フィルム113は、電気化学セル101を保持する機械強度を有することが望ましい。例えば、ポリエチレン等の可塑性層を有し、プレス成型が可能な構成とすることで、機械強度を有する作用極側フィルム112、対極側フィルム113とすることができる。
【0108】
以上説明したように、第3実施形態に係る二酸化炭素回収システム1によれば、対極包囲部材110としての作用極側フィルム112、対極側フィルム113を用いた場合でも、上述した実施形態と共通の構成及び作動から奏される作用効果を得ることができる。
【0109】
又、第3実施形態では、セパレータ107に形成された複数の穴部107aの内部にて、作用極側フィルム112と対極側フィルム113を溶着させて、セパレータ107、作用極側フィルム112、対極側フィルム113の相対的な位置関係を保持している。これにより、作用極側フィルム112、対極側フィルム113で構成される空間の内部に配置された電気化学セル101に対して、積層方向に圧力をかけることができ、電気化学セル101の構成部材の密着性を向上させることができる。
【0110】
(第4実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第4実施形態について、図9を参照して説明する。第4実施形態では、対極包囲部材110として、収容容器115及び樹脂116が採用されている。その他の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0111】
図9に示すように、第4実施形態に係る二酸化炭素回収システム1において、電気化学セル101は、上述した実施形態と同様に、作用極集電材103、作用極104、セパレータ107、対極106、対極集電材105の順に積層して構成されている。
【0112】
第4実施形態に係る二酸化炭素回収システム1では、対極包囲部材110として、収容容器115及び樹脂116が採用されている。図9に示すように、収容容器115は、一面(図9中では上面)が開放された箱状に形成されている。収容容器115は、ガス不透過性を有する材質により構成されており、内部に電気化学セル101を収容可能に形成されている。
【0113】
収容容器115の内部には、電気化学セル101が配置される。電気化学セル101の対極106の側が収容容器115の底面に接触し、作用極104側が露出する状態となるように配置される。
【0114】
図9に示すように、収容容器115の内部において、収容容器115の内側表面と電気化学セル101との間の空間には、樹脂116が配置される。樹脂116は、ガス不透過性を有する樹脂材料であり、樹脂ポッティングにより収容容器115と電気化学セル101の間の空間に充填される。
【0115】
樹脂ポッティングにより充填される樹脂116に要求される材質又は性状としては、以下の点を挙げることができる。先ず、作用極104及び対極106を同時に封止する為、樹脂116として電気絶縁性があることを挙げることができる。又、樹脂ポッティングを実現する為、樹脂116として、流動性及び硬化性があることが挙げられる。更に、収容容器115内に電気化学セル101をとどめておく為、樹脂116は、他の対極包囲部材110である収容容器115に対して接着性を有していることが挙げられる。これらの条件を満たす樹脂116の例としては、2液硬化エポキシ樹脂、2液硬化シリコーン樹脂を挙げることができる。
【0116】
樹脂ポッティングにより収容容器115の内部に充填される樹脂116の量は、内部に配置された電気化学セル101の対極106及び対極集電材105の表面を覆うと共に、作用極104が樹脂116から露出した状態を保つように定められる。樹脂ポッティングにより収容容器115内に充填された樹脂116を硬化させることで、第4実施形態に係る電気化学セル101に対する対極包囲部材110の配置は完了する。
【0117】
尚、収容容器115内部に対する電気化学セル101の配置や、収容容器115の内部に対する樹脂ポッティングに係る作業は、減圧環境下又は不活性ガス環境下において実行される。
【0118】
図9に示すように、第4実施形態に係る電気化学セル101は、対極包囲部材110である収容容器115及び樹脂116によって、少なくとも、対極集電材105及び対極106が覆われることになる。この為、収容容器115の内部にて電気化学セル101との間に形成される空間には、混合ガスが流入することを禁止することができる。
【0119】
第4実施形態に係る二酸化炭素回収システム1によれば、収容容器115及び樹脂116により、対極集電材105及び対極106を被覆して、対極106に対する混合ガスの接触を禁止することができる。従って、第4実施形態に係る二酸化炭素回収システム1は、対極106の電気活性補助材やバインダが酸化されてしまうことを抑制して、二酸化炭素回収システム1における回収対象ガスの回収能力の低下を抑制することができる。
【0120】
以上説明したように、第4実施形態に係る二酸化炭素回収システム1によれば、対極包囲部材110として、収容容器115を採用した場合でも、上述した実施形態と共通の構成及び作動から奏される作用効果を得ることができる。
【0121】
収容容器115の内部に電気化学セル101を配置して、収容容器115の内部に対する混合ガスの流入を禁止することにより、対極106の電気活性補助材やバインダが酸化されてしまうことを抑制することができる。
【0122】
又、収容容器115の内部において、電気化学セル101との間の空間に対して、ガス不透過性を有する樹脂116を充填することで、電気化学セル101の対極集電材105及び対極106に対する混合ガスの接触を確実に禁止することができる。従って、第4実施形態に係る二酸化炭素回収システム1は、二酸化炭素回収システム1における回収対象ガスの回収能力の低下を抑制することができる。
【0123】
尚、第4実施形態においては、対極包囲部材110としての収容容器115を樹脂により構成していたが、この態様に限定されるものではない。収容容器115の構成材料がガス不透過性を有していれば、種々の材質で構成することができ、例えば、金属を利用してもよい。
【0124】
又、第4実施形態においては、対極包囲部材110として、収容容器115と共に利用する部材として、樹脂ポッティングで充填される樹脂116を採用しているが、この態様に限定されるものではない。収容容器115の内部に対する混合ガスの流出入を抑制することができれば、異なる部材や方法を採用することができる。例えば、収容容器115の開口縁と電気化学セル101の間を塞ぐように、ガス不透過性を有するフィルム部材111を配置して、対極106等と収容容器115の内部の間に生じる空間に対する混合ガスの流出入を抑制してもよい。
【0125】
(第5実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第5実施形態について、図10を参照して説明する。第5実施形態においては、上述した実施形態とは異なる対極包囲部材110を採用している。その他の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0126】
第5実施形態に係る二酸化炭素回収システム1において、電気化学セル101は、上述した実施形態と同様に、作用極集電材103、作用極104、セパレータ107、対極106、対極集電材105の順に積層して構成されている。
【0127】
図10に示すように、第5実施形態に係る二酸化炭素回収システム1では、対極包囲部材110として、樹脂116が採用されている。第5実施形態における樹脂116は、モールド加工によって、電気化学セル101に対して配置される。
【0128】
具体的には、モールド加工により電気化学セル101に対して樹脂116を配置する手順の一例について説明する。先ず、電気化学セル101を収容可能な大きさの空間を有する金型を準備する。次に、金型に形成された空間の内部に対して、対極側が下面となる状態で電気化学セル101を配置する。
【0129】
電気化学セル101が配置された金型の内部に、対極包囲部材110としての樹脂116を注入する。樹脂116は、熱可塑性及びガス不透過性を有しており、流動性を有する状態で空間内に注入される。空間内に注入される樹脂116の量は、対極106及び対極集電材105の表面を覆うと共に、作用極104が樹脂116から露出した状態を保つように定められる。
【0130】
金型の空間内部に所定量の樹脂116を注入した後、金型を冷却して空間内部の樹脂116を硬化させる。樹脂116の硬化が完了した後、図10に示すように、樹脂116が配置された電気化学セル101を、金型から取得して、モールド加工を終了する。
【0131】
尚、この電気化学セル101に対する樹脂116のモールド加工は、減圧環境下又は不活性ガス環境下で行われることが望ましい。
【0132】
第5実施形態においては、上述のモールド加工工程を実施することで、対極包囲部材110として、樹脂116が配置された電気化学セル101を取得することができる。樹脂116は、少なくとも、対極集電材105及び対極106を被覆している為、対極106に対する混合ガスの接触を禁止することができる。従って、第5実施形態に係る二酸化炭素回収システム1は、対極106の電気活性補助材やバインダが酸化されてしまうことを抑制して、二酸化炭素回収システム1における回収対象ガスの回収能力の低下を抑制することができる。
【0133】
モールド加工に用いられる樹脂116に要求される材質又は性状としては、以下の点を挙げることができる。先ず、作用極104及び対極106を同時に封止する為、樹脂116として電気絶縁性があることを挙げることができる。又、モールド加工を実現する為、樹脂116として、流動性及び硬化性があることが挙げられる。
【0134】
更に、対極106に対する混合ガスの接触を禁止する為、樹脂116として、ガス不透過性(即ち、ガスバリア性)を有していることを挙げることができる。又、モールド加工した樹脂116の内部に電気化学セル101を保持しておく為、樹脂116として、一定の機械強度を有していることが挙げられる。これらの条件を満たす樹脂116の例としては、シリカフィラー配合エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0135】
以上説明したように、第5実施形態に係る二酸化炭素回収システム1によれば、対極包囲部材110として、モールド加工した樹脂116を採用した場合でも、上述した実施形態と共通の構成及び作動から奏される作用効果を得ることができる。
【0136】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0137】
(a)上述した実施形態では、本開示に係るガス回収システムを、混合ガスから二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収システム1に適用した例について説明したが、本開示に係るガス回収システムの適用はこれに限定されない。本開示に係るガス回収システムを、混合ガスから二酸化炭素以外の特定種類のガスを回収するシステムに適用してもよい。例えば、ガス回収システムにおける回収対象ガスとして、窒素酸化物ガス(NOx)、硫黄酸化物ガス(SOx)を採用することも可能である。
【0138】
(b)又、上述した第3実施形態では、作用極側フィルム112の開口部112aとして、作用極104と同程度のサイズで開口された一つの開口部を採用していたが、この態様に限定されるものではない。開口部112aは、混合ガスに対して作用極104が曝露していればよく、開口部の数を複数にすることも可能である。
【0139】
作用極104と同程度の範囲に対して複数の開口部を配置した場合、作用極104と同程度の範囲内には、複数の開口部の開口縁を構成する枠部が配置されることになる。枠部は、作用極104の範囲内において、電気化学セル101の構成材料を積層方向に押し付ける方向に圧力を作用させることができる。つまり、作用極側フィルム112の開口部112aを複数の開口部で構成することで、電気化学セル101における構成材料の密着性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0140】
1 二酸化炭素回収システム
101 電気化学セル
103 作用極集電材
104 作用極
105 対極集電材
106 対極
107 セパレータ
110 対極包囲部材
111 フィルム部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10