IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024078789
(43)【公開日】2024-06-11
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/10 20060101AFI20240604BHJP
   G01S 13/58 20060101ALI20240604BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20240604BHJP
【FI】
G01S13/10
G01S13/58 200
H01Q21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191347
(22)【出願日】2022-11-30
(71)【出願人】
【識別番号】322003857
【氏名又は名称】パナソニックオートモーティブシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸上 高明
【テーマコード(参考)】
5J021
5J070
【Fターム(参考)】
5J021AA09
5J021AB06
5J021HA04
5J070AB08
5J070AB18
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD05
5J070AE01
5J070AE09
5J070AF03
5J070AG04
(57)【要約】
【課題】レーダ装置における物標の検知精度を向上する。
【解決手段】レーダ装置は、第1ビームを形成する第1送信アンテナ、及び、第1ビームと異なる第2ビームを形成する第2送信アンテナを含む複数の送信アンテナと、ドップラシフト量と符号系列との組み合わせに対応する位相回転量が付与された送信信号を、複数の送信アンテナから多重送信する送信回路と、を具備する。複数の送信アンテナのそれぞれに対して、ドップラシフト量及び前記符号系列の少なくとも一方が異なる組み合わせが対応付けられ、第1送信アンテナに対して割り当てられるドップラシフト量及び符号系列の第1パターンと、第2送信アンテナに対して割り当てられるドップラシフト量及び符号系列の第2パターンと、が異なる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のビームを形成する第1の送信アンテナ、及び、前記第1のビームと異なる第2のビームを形成する第2の送信アンテナを含む複数の送信アンテナと、
ドップラシフト量と符号系列との組み合わせに対応する位相回転量が付与された送信信号を、前記複数の送信アンテナから多重送信する送信回路と、
を具備し、
前記複数の送信アンテナのそれぞれに対して、前記ドップラシフト量及び前記符号系列の少なくとも一方が異なる前記組み合わせが対応付けられ、
前記第1の送信アンテナに対して割り当てられるドップラシフト量及び符号系列の第1のパターンと、前記第2の送信アンテナに対して割り当てられるドップラシフト量及び符号系列の第2のパターンと、が異なる、
レーダ装置。
【請求項2】
前記複数の送信アンテナの数は、前記組み合わせの総数よりも少ない、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記第1のパターン及び前記第2のパターンは、ドップラシフト量の間隔に関し、
前記第1の送信アンテナにより送信される前記送信信号のドップラ多重数と、前記第2の送信アンテナにより送信される前記送信信号のドップラ多重数と、が同じであり、
前記第1の送信アンテナに対応付けられるドップラシフト量の間隔のうち少なくとも一つは、前記第2の送信アンテナに対応付けられるドップラシフト量の間隔と異なる、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記第1のパターン及び前記第2のパターンは、ドップラ多重数に関し、
前記第1の送信アンテナにより送信される前記送信信号のドップラ多重数と、前記第2の送信アンテナにより送信される前記送信信号のドップラ多重数とは異なる、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記第1のパターン及び前記第2のパターンは、前記ドップラシフト量の間隔の順序に関し、
前記第1の送信アンテナに対応付けられる前記ドップラシフト量間の複数の第1のドップラシフト間隔と、前記第2の送信アンテナに対応付けられる前記ドップラシフト量間の複数の第2のドップラシフト間隔と、が同じであり、
前記複数の第1のドップラシフト間隔のドップラ周波数軸上での順序は、前記複数の第2のドップラシフト間隔の前記ドップラ周波数軸上での順序と異なる、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記第1のパターン及び前記第2のパターンは、前記符号系列に関し、
複数の前記組み合わせにおいて、前記第1の送信アンテナに対応付けられる前記符号系列のドップラ周波数軸上での順序と、前記第2の送信アンテナに対応付けられる前記符号系列のドップラ周波数軸上での順序と、は異なる、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記第1のパターン及び前記第2のパターンは、前記符号系列による符号多重数に関し、
複数の前記組み合わせにおいて、前記第1の送信アンテナに対応付けられる前記符号系列による前記符号多重数のドップラ周波数軸上での順序と、前記第2の送信アンテナに対応付けられる前記符号系列による前記符号多重数のドップラ周波数軸上での順序と、は異なる、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項8】
複数の前記組み合わせにおいて、前記第1の送信アンテナ及び前記第2の送信アンテナの少なくとも一方に関して、少なくとも1つの前記ドップラシフト量に対応付けられる前記符号系列による符号多重数は、他の前記ドップラシフト量に対応付けられる前記符号系列による符号多重数と異なる、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記送信信号がターゲットで反射した反射波信号を受信する複数の受信アンテナと、
前記反射波信号を用いて前記ターゲットの方向推定を行う受信回路と、
を更に具備する、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項10】
第1の方向に第1の間隔で配置される複数の受信アンテナを更に具備し、
前記第1の送信アンテナに含まれる各アンテナは、前記第1の方向に前記第1の間隔で配置され、前記第1の方向と直交する第2の方向において異なる位置に配置され、
前記第2の送信アンテナに含まれる各アンテナは、前記第1の方向に前記第1の間隔で配置され、前記第1の方向と直交する第2の方向において異なる位置に配置され、
前記第1の方向において、前記第1の送信アンテナと、前記第2の送信アンテナとは、前記複数の受信アンテナの開口長より大きい間隔で配置される、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項11】
第1の方向に第1の間隔で配置される複数の受信アンテナを更に具備し、
前記第1の送信アンテナに含まれる各アンテナは、前記第1の方向に第2の間隔で配置され、前記第1の方向と直交する第2の方向において異なる位置に配置され、
前記第2の送信アンテナに含まれる各アンテナは、前記第1の方向に前記第2の間隔で配置され、前記第1の方向と直交する第2の方向において異なる位置に配置され、
前記第1の方向において、前記第1の送信アンテナと、前記第2の送信アンテナとは、前記複数の受信アンテナの開口長より大きい間隔で配置され、
前記第1の間隔と前記第2の間隔との差は、前記送信信号の波長に基づく規定値である、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記規定値は、前記波長の0.45倍から0.8倍の範囲の何れかの値である、
請求項11に記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記第1のビームと前記第2のビームとは、ビーム方向及びビーム幅の少なくとも一つが異なる、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記複数の送信アンテナのうち、前記送信信号の多重送信に用いる送信アンテナの組み合わせは、前記送信信号の送信周期、前記符号系列の符号長に対応する周期、又は、前記レーダ装置における測定周期毎に切り替わる、
請求項1又は2に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分解能が得られるマイクロ波又はミリ波を含む波長の短いレーダ送信信号を用いたレーダ装置の検討が進められている。レーダ装置として、例えば、受信部に加え、送信部にも複数のアンテナ(アレーアンテナ)を備え、送受信アレーアンテナを用いた信号処理によりビーム走査を行う構成(MIMO(Multiple Input Multiple Output)レーダと呼ぶこともある)が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-211388号公報
【特許文献2】米国特許公開第2022/0066012号明細書
【特許文献3】特開2008-304417号公報
【特許文献4】特開2014-119344号公報
【特許文献5】特開2020-204603号公報
【特許文献6】特開2022-92247号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Li, and P. Stoica, "MIMO Radar with Colocated Antennas", Signal Processing Magazine, IEEE Vol. 24, Issue: 5, pp. 106-114, 2007
【非特許文献2】M. Kronauge, H.Rohling,"Fast two-dimensional CFAR procedure", IEEE Trans. Aerosp. Electron. Syst., 2013, 49, (3), pp. 1817-1823
【非特許文献3】Direction-of-arrival estimation using signal subspace modeling Cadzow, J.A.; Aerospace and Electronic Systems, IEEE Transactions on Volume: 28 , Issue: 1 Publication Year: 1992 , Page(s): 64 - 79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レーダ装置(例えば、MIMOレーダ)において物標(又はターゲット)を検知する方法について十分に検討されていない。
【0006】
本開示の非限定的な実施例は、物標の検知精度を向上するレーダ装置の提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、第1のビームを形成する第1の送信アンテナ、及び、前記第1のビームと異なる第2のビームを形成する第2の送信アンテナを含む複数の送信アンテナと、ドップラシフト量と符号系列との組み合わせに対応する位相回転量が付与された送信信号を、前記複数の送信アンテナから多重送信する送信回路と、を具備し、前記複数の送信アンテナのそれぞれに対して、前記ドップラシフト量及び前記符号系列の少なくとも一方が異なる前記組み合わせが対応付けられ、前記第1の送信アンテナに対して割り当てられるドップラシフト量及び符号系列の第1のパターンと、前記第2の送信アンテナに対して割り当てられるドップラシフト量及び符号系列の第2のパターンと、が異なる。
【0008】
なお、これらの包括的または具体的な実施例は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または、記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施例によれば、レーダ装置における物標の検知精度を向上できる。
【0010】
本開示の一実施例における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】時分割多重(TDM:Time Division Multiplexing)送信の一例を示す図
図2】ドップラ多重(DDM:Doppler Division Multiplexing)送信の一例を示す図
図3】不等間隔ドップラ多重送信の一例を示す図
図4】マルチビーム送信MIMOレーダの一例を示す図
図5】マルチビーム送信MIMOレーダにおけるドップラ多重送信の一例を示す図
図6】マルチビーム送信MIMOレーダにおけるドップラ多重送信の一例を示す図
図7】レーダ装置の構成例を示すブロック図
図8】チャープ信号を用いた場合の送信信号の一例を示す図
図9】チャープ信号の一例を示す図
図10】チャープ信号を用いた場合の送信信号及び受信信号の一例を示す図
図11】ドップラシフト量の設定例を示す図
図12】ドップラ多重送信における受信信号の一例を示す図
図13】マルチビーム送信MIMOレーダの一例を示す図
図14】ドップラシフト量の設定例を示す図
図15】ドップラ多重送信における受信信号の一例を示す図
図16】ドップラシフト量の設定例を示す図
図17】ドップラシフト量の設定例を示す図
図18】ドップラ多重信号の分離の動作例を示すフローチャート
図19】送信アンテナの構成例を示す図
図20】マルチビーム送信MIMOレーダの一例を示す図
図21】MIMOアンテナ配置及び仮想受信アンテナ配置の一例を示す図
図22】符号化ドップラ多重送信の一例を示す図
図23】マルチビーム送信MIMOレーダの一例を示す図
図24】マルチビーム送信MIMOレーダの一例を示す図
図25】マルチビーム送信MIMOレーダの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
[マルチビームレーダについて]
例えば、主ビーム方向(以下、「ビーム方向」、「送信ビーム方向」又は「受信ビーム方向」と記載することもある)の異なる複数の異なる指向特性(又は、単に「指向性」と呼ぶ)の送信アンテナあるいは受信アンテナを用いて、MIMOレーダを構成する方法がある(例えば、特許文献1又は特許文献2を参照)。
【0013】
送信アンテナあるいは受信アンテナの複数の異なる指向特性として、例えば、ビーム幅が同等であり、ビーム方向が異なる指向特性、ビーム方向及びビーム幅の両方が異なる指向特性、又は、ビーム方向が同等であり、ビーム幅が異なる指向特性等が挙げられる。
【0014】
以下では、上記のような異なる指向特性を有する送信アンテナ(例えば、異なるビームを形成する送信アンテナ)を複数用いるMIMOレーダを「マルチビーム送信MIMOレーダ」と呼ぶ。ここで、マルチビーム送信MIMOレーダには、異なる指向特性を有する送信アンテナが複数含まれる。なお、マルチビーム送信MIMOレーダは、同一の指向性の送信アンテナを1個あるいは複数個を含む構成でもよい。
【0015】
また、以下では、上記のような異なる指向特性を有する受信アンテナ(例えば、異なるビームを形成する受信アンテナ)を複数用いるMIMOレーダを「マルチビーム受信MIMOレーダ」と呼ぶ。ここで、マルチビーム受信MIMOレーダには、異なる指向特性を有する受信アンテナが複数含まれる。なお、マルチビーム受信MIMOレーダは、同一の指向性の受信アンテナを1個あるいは複数個含む構成でもよい。
【0016】
同様に、以下では、上記のような異なる指向特性を有する送信アンテナ及び受信アンテナを複数用いるMIMOレーダを「マルチビーム送受信MIMOレーダ」(又は、マルチビームMIMOレーダ)と呼ぶ。
【0017】
例えば、複数の送信アンテナを用いたMIMOレーダの多重送信方法の例として、時分割多重(TDM:Time Division Multiplexing)送信(例えば、特許文献3)、又は、ドップラ多重(DDM:Doppler Division Multiplexing)送信が挙げられる(例えば、特許文献4)。
【0018】
時分割多重送信又はドップラ多重送信は、割り当てた送信時間又はドップラ周波数領域を用いて、複数の送信アンテナからの送信信号に対応する反射波を分離できる。その一方で、時分割多重送信及びドップラ多重送信では、送信アンテナ数が増加すると、ドップラ周波数の検出範囲が狭まりやすい。例えば、時分割多重及びドップラ多重分割では、検出可能なドップラ周波数範囲は、-1/(2Nt×Tr)≦fd<1/(2Nt×Tr)となり、送信アンテナ数に反比例してドップラ周波数の検出範囲が狭まる。ここで、Ntは送信アンテナ数であり、Trは送信信号の送信周期である。
【0019】
[符号化ドップラ多重送信について]
特許文献5(例えば、特許文献5の図1)には、ドップラ多重と符号多重とを組み合わせた多重送信方法(以下、「符号化ドップラ多重送信」又は「Coded DDM」と呼ぶ)について開示されている。
【0020】
例えば、図1は、レーダ送信波(例えば、チャープ信号)を送信周期Tr毎に送出する場合、3個の送信アンテナ(例えば、Tx#1~Tx#3)に対して、符号長Loc=2の直交符号(例えば、code#1, code#2)で符号多重した信号を、2個のドップラ多重信号(例えば、Δfd1, Δfd2)を用いて送信する場合の送信ドップラ周波数及び符号の割り当ての一例を示す。
【0021】
符号に基づく位相回転は、例えば、チャープ信号に付与する動作を、符号長回の送信周期Loc×Tr(図1では、2送信周期(2Tr))で巡回的に繰り返すことにより行われる。この際、ドップラ多重信号に基づく位相回転は、符号長2の符号を付与する符号長回の送信周期(図1では、2送信周期(2Tr))において一定とする。例えば、ドップラ多重信号に基づく位相回転は、2Tr送信周期毎に変化させて付与されてよい。
【0022】
例えば、図1では、割り当てる送信ドップラシフト量は、それぞれΔfd1=‐1/(4Tr)、Δfd2=0[Hz]に設定される。例えば、n番目の送信周期毎に送信ドップラシフト量Δfd1が付与されるため、位相回転Φ1(n)=ΔΦ1×(floor(n/Loc)+1)が、レーダ送信波(チャープ信号)に付与される。また、n番目の送信周期毎に送信ドップラシフト量Δfd2が付与されるため、位相回転Φ2(n)=ΔΦ2×(floor(n/Loc)+1)が、レーダ送信波(チャープ信号)に付与される。ここで、ΔΦ1=-π、ΔΦ2=0である。ドップラ多重間隔はΔfd=1/(4Tr)である。また、符号長2の直交符号は、例えば、code#1=[1, 1]、及び、code#2=[1, -1]が用いられてよい。図1では、例えば、送信アンテナTx#1~Tx#3に対して、ドップラ多重信号及び符号を組み合わせた符号化ドップラ多重信号として、それぞれ、DopCode#1=(Δfd1,code#1)、DopCode#2=(Δfd1,code#2)、DopCode#3 = (Δfd2,code#1)が割り当てられて送信される。また、floor[x]は実数xを超えない最大の整数を出力する演算子である。
【0023】
これらの同時多重送信された信号は、レーダ装置(例えば、受信信号処理部)において受信される。レーダ装置は、例えば、レーダ反射波受信信号を、符号長の送信周期、例えば、奇数番目の送信周期毎の受信信号、及び偶数番目の送信周期毎の受信信号に、個別のドップラ解析部(例えば、V-FFT#1及びV-FFT#2)にてドップラ周波数解析し、ドップラ周波数解析の出力に基づいて、符号多重分離及びドップラ多重分離することにより、多重送信信号を分離受信する。
【0024】
ここで、レーダ装置(例えば、ドップラ解析部)では符号長回(図1ではLoc=2)の送信周期(図1では2送信周期(2Tr))の受信信号が用いられるため、±1/(2 Loc Tr)(図1では±1/(4Tr))を超えるドップラ周波数は、折り返して検出される。レーダ反射波受信信号に折り返しの周波数範囲の成分が含まれるか否かは、例えば、特許文献5に開示されるように、送信アンテナを割り当てない未使用の符号とドップラ多重信号との組み合わせの符号化ドップラ多重信号(図1では、DopCode#4=(Δfd2,code#1))を用いて判断される。例えば、レーダ反射波受信信号に折り返しの周波数範囲の成分が含まれるか否かは、送信アンテナを割り当てない未使用の符号とドップラ多重信号との組み合わせの符号化ドップラ多重信号に対して符号多重分離及びドップラ多重分離した信号の受信電力は、ノイズレベル程度であることを利用する。
【0025】
このように、レーダ装置は、ドップラ多重信号間の符号多重数を不均一とし、複数の送信アンテナから多重送信し、受信信号レベルを検出することにより、折り返し信号の有無を検出でき、折り返し無しでドップラ周波数検出できるドップラ周波数範囲(最大ドップラ)を±1/(2Tr)に広げることができ、送信アンテナの判定も可能となる。
【0026】
例えば、図2の(a)は、図1に示す符号化ドップラ多重信号に対して、物標のドップラ周波数fdtarget=0の場合に、code#1及びcode#2のそれぞれで分離した場合の受信ドップラ信号を示す。図2の(a)に示すように、code#1で分離される受信ドップラ多重信号には、Δfd1とΔfd2とのドップラ多重間隔Δfdに一致するドップラ周波数間隔の2つのドップラ周波数における受信レベルが高く検出され、レーダ装置は、これらの成分をTx#1及びTx#3の受信信号と判定できる。また、図2の(a)に示すように、code#2で分離される受信ドップラ信号には、高い受信レベルの1つのドップラ周波数が検出され、また、検出されたドップラ周波数に対する、Δfd1とΔfd2とのドップラ多重間隔Δfdに一致するドップラ周波数間隔のドップラ周波数の受信レベルがノイズレベル程度である。このことから、レーダ装置は、高い受信レベルの1つのドップラ周波数の成分を、Tx#2の受信信号と判定できる。また、レーダ装置は、それぞれの送信アンテナに対する送信時のドップラシフト量からのずれ量が、物標のドップラ周波数となるため、物標のドップラ周波数を確定できる。
【0027】
また、例えば、図2の(b)は、図1に示す符号化ドップラ多重信号に対して、物標のドップラ周波数fdtarget=-1/(2Tr)の場合に、code#1及びcode#2のそれぞれで分離した場合の受信ドップラ信号を示す。図2の(b)に示すように、code#2で分離される受信ドップラ信号には、Δfd1とΔfd2とのドップラ多重間隔Δfdに一致するドップラ周波数間隔の2つのドップラ周波数における受信レベルが高く検出され、レーダ装置は、これらの成分をTx#1及びTx#3の受信信号と判定できる。また、図2の(b)に示すように、code#1で分離される受信ドップラ信号には、高い受信レベルの1つのドップラ周波数が検出され、また、検出されたドップラ周波数に対する、Δfd1とΔfd2とのドップラ多重間隔Δfdに一致するドップラ周波数間隔のドップラ周波数の受信レベルがノイズレベル程度である。このことから、レーダ装置は、高い受信レベルの1つのドップラ周波数の成分を、Tx#2の受信信号と判定できる。また、レーダ装置は、それぞれの送信アンテナに対する送信時のドップラシフト量からのずれ量が、物標のドップラ周波数となることから、物標のドップラ周波数を確定できる。
【0028】
なお、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(4Tr)あるいは1/(4Tr)≦fdtarget<1/(2Tr)の場合、ドップラ解析部(例えば、V-FFT#1及びV-FFT#2)では、折り返されたドップラ周波数が観測される。この際、実際のドップラ周波数は、ドップラ解析部(V-FFT#1及びV-FFT#2)において検出されるドップラ周波数に対し、2Trの送信周期間で2π位相が異なるため、V-FFT#1とV-FFT#2との間の検出時間差Tr間では、πの位相回転が加わる。したがって、レーダ装置は、図2の(b)のように、code#1の分離においてTx#2の受信信号が判定される場合、折り返し有りと判定できる。
【0029】
このような符号化ドップラ多重信号の分離受信処理により、レーダ装置は、ドップラ周波数範囲±1/(2 Tr)においてレーダ反射波のドップラ周波数の推定が可能となる。このように、符号化ドップラ多重送信することにより、検出可能なドップラ周波数範囲を±1/2Trにまで拡大される。例えば、特許文献3あるいは4と比較して、検出可能なドップラ周波数範囲はNt倍に拡大される。
【0030】
[マルチビーム送信MIMOレーダへの符号化ドップラ多重送信の適用について]
上述したように、符号化ドップラ多重(例えば、「符号化DDM」とも呼ぶ)を用いたMIMOレーダは、ドップラ多重送信(DDM)を用いたMIMOレーダと異なり、一部のドップラ周波数領域が送信信号に割り当てられず、MIMOレーダは、符号多重分離後の物標からの反射波の受信ドップラ周波数の受信電力に基づいて、物標のドップラ周波数を推定するドップラ多重信号の分離処理(以下、「符号化ドップラ多重分離」と呼ぶ)を行う。
【0031】
このため、マルチビーム送信MIMOレーダに、符号化ドップラ多重を適用する場合には、以下のことが想定され得る。
【0032】
マルチビーム送信MIMOレーダでは、例えば、ビーム方向(又は、送信ビーム方向)と物標方向とに依存して、反射波の受信レベルが大きく変動する現象が発生し得る。マルチビーム送信MIMOレーダにおいて、ビーム方向及び物標方向が一致する場合と、ビーム方向及び物標方向が一致しない場合とで、送信アンテナからの反射波受信レベルが大きく変動し得る。そのため、マルチビーム送信MIMOレーダにおいて、符号化ドップラ多重を用いて多重送信する場合、異なるビーム方向のマルチビーム間における反射波受信レベルの差(
あるいは比)が大きいと、符号化ドップラ多重によるドップラ多重分離が困難となり得る。ドップラ多重分離が困難になると、MIMOレーダにおける物標の検出性能の劣化、あるいは、符号化ドップラ多重分離を誤り、ドップラ誤推定又は測角性能の劣化が発生し得る。
【0033】
以下、符号化ドップラ多重を適用するマルチビーム送信MIMOレーダにおいてドップラ多重分離が困難となる例について説明する。
【0034】
例えば、2つのビーム方向のそれぞれに2個の送信アンテナが含まれる4Tx MIMOレーダの場合について説明する。例えば、2つのビーム方向のそれぞれに対応する送信アンテナ数を「NTxBeam#1」及び「NTxBeam#2」と表す(NTxBeam#1=NTxBeam#2=2)。
【0035】
例えば、図3に示すように、4個の送信アンテナTx#1~#4のうち2個の送信アンテナを用いて異なる2方向の各送信ビーム(TxBeam#1、TxBeam#2)を形成するマルチビーム送信MIMOレーダについて説明する。図3において、Tx#1及びTx#2の送信ビーム(ビーム方向)をTxBeam#1とし、Tx#3及びTx#4の送信ビーム(ビーム方向)をTxBeam#2とする。また、例えば、受信アンテナの指向特性は、無指向性でもよく、複数の異なる指向性の送信アンテナがカバーする視野角(FOV:field of view)内でほぼ均一の指向特性でもよい。
【0036】
例えば、4個の送信アンテナTx#1~#4に対して、図4の(a)に示すように、ドップラ多重数NDM=3、符号多重数NCM=2を用いて符号化したドップラ多重信号が割り当てられる場合について説明する。
【0037】
例えば、物標方向が図3に示す物標方向(1)の場合、TxBeam#1を形成するTx#1及びTx#2から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の方向は、物標方向(1)に一致するため、図4の(b)に示すように、TxBeam#1を形成するTx#1及びTx#2に対応する受信信号の受信レベル(例えば、反射波受信レベル)は比較的高くなる。その一方で、物標方向が図3に示す物標方向(1)の場合、TxBeam#2を形成するTx#3及びTx#4から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の方向は、物標方向(1)に一致せず、物標方向(1)はTxBeam#2の指向性ヌル方向(以下、ヌル方向とも呼ぶ)に該当する。このため、例えば、図4の(b)に示すように、TxBeam#2を形成するTx#3及びTx#4に対応する受信信号の受信レベルは、TxBeam#1(Tx#1及びTx#2)に対応する受信信号の受信レベルと比較して低くなる。例えば、TxBeam#2に対応する受信レベルは、TxBeam#1に対応する受信レベルと大きく異なり、TxBeam#2のヌル方向のビーム指向特性によっては10dB以上小さくなることもあり得る。
【0038】
また、例えば、物標方向がTxBeam#1のビーム方向とTxBeam#2のビーム方向との中間的な方向であり、両ビームの3dB又は6dB程度となるビーム幅が互いに重なるエリア方向にある場合(例えば、図3に示す物標方向(2)の場合)、TxBeam#1を形成するTx#1及びTx#2から送信されるレーダ送信波に対応する反射波と、TxBeam#2を形成するTx#3及びTx#4から送信されるレーダ送信波に対応する反射波とは、図4の(c)に示すように、同様なレベルで受信される。
【0039】
また、例えば、物標方向が図3に示す物標方向(3)の場合、TxBeam#2を形成するTx#3及びTx#4から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の方向は、物標方向(3)に一致するため、図4の(d)に示すように、TxBeam#2を形成するTx#3及びTx#4に対応する受信信号の受信レベル(例えば、反射波受信レベル)は比較的高くなる。その一方で、物標方向が図3に示す物標方向(3)の場合、TxBeam#1を形成するTx#1及びTx#2から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の方向は、物標方向(3)に一致せず、物標方向(3)はTxBeam#1のヌル方向に該当する。このため、例えば、図4の(d)に示すように、TxBeam#1を形成するTx#1及びTx#2に対応する受信信号の受信レベルは、TxBeam#2(Tx#3及びTx#4)に対応する受信信号の受信レベルと比較して低くなる。例えば、TxBeam#1に対応する受信レベルは、TxBeam#2に対応する受信レベルと大きく異なり、TxBeam#1のヌル方向のビーム指向特性によっては10dB以上小さくなることもあり得る。
【0040】
例えば、図4の(c)のような場合、TxBeam#1を形成するTx#1及びTx#2から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の受信レベルと、TxBeam#2を形成するTx#3及びTx#4から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の受信レベルとは同程度である。ドップラ多重信号間の符号多重数は不均一であるので、マルチビーム送信MIMOレーダは、これらの受信信号の受信レベルに基づいて、検出されるドップラ周波数のピークが、符号化ドップラ多重送信に用いる何れの送信アンテナに対応する信号であるかを判別できる。また、図4の(c)では、物標反射波のドップラ周波数fdは、-1/(2Tr)≦fd<1/(2Tr)の範囲で確定できる。
【0041】
その一方で、図4の(b)又は図4の(d)のような場合、マルチビーム送信MIMOレーダは、物標のドップラ周波数が不明であるため、受信信号の受信レベルに基づいて、TxBeam#1を形成するTx#1及びTx#2から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の受信レベルが低下したか(例えば、図4の(d)のケース)、TxBeam#2を形成するTx#3及びTx#4から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の受信レベルが低下したか(例えば、図4の(b)のケース)を判別することは困難である。このため、マルチビーム送信MIMOレーダは、受信信号の受信レベルに基づいて、検出されるドップラ周波数のピークが、符号化ドップラ多重送信に用いる何れの送信アンテナに対応する信号であるかを判別することが困難である。このため、マルチビーム送信MIMOレーダは、ドップラ多重信号の分離が困難となり、物標からの反射波(例えば、「物標反射波」と呼ぶ)のドップラ周波数fdを、-1/(2Tr)≦fd<1/(2Tr)の範囲で確定することが困難となる。
【0042】
このように、符号化ドップラ多重では、各送信アンテナに対応する反射波の受信レベルが同程度であり、ドップラ多重されないドップラ多重間隔の受信レベルがノイズレベル程度に十分に低いことを前提に、符号化ドップラ多重分離処理が行われる。符号化ドップラ多重を用いるマルチビーム送信MIMOレーダでは、図4の(b)及び(d)のように、符号化ドップラ多重の分離処理での前提が崩れる場合(一部のビームに対応する受信レベルが低下する場合)があり、符号化ドップラ多重分離処理を誤る可能性がある。
【0043】
本開示の非限定的な実施例では、符号化ドップラ多重送信を用いたマルチビーム送信MIMOレーダの検出性能を向上する方法について説明する。
【0044】
以下、本開示の一実施例に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施の形態において、同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は重複するので省略する。
【0045】
以下では、レーダ装置において、送信ブランチにおいて、複数の送信アンテナから同時に多重された異なる送信信号を送出し、受信ブランチにおいて、各送信信号を分離して受信処理を行う構成(例えば、MIMOレーダ構成)について説明する。
【0046】
また、以下では、一例として、チャープ(chirp)パルスのような周波数変調したパルス波を用いたレーダ方式(例えば、チャープパルス送信(fast chirp modulation)とも呼ぶ)の構成について説明する。ただし、変調方式は、周波数変調に限定されない。例えば、本開示の一実施例は、パルス列を位相変調又は振幅変調して送信するパルス圧縮レーダを用いたレーダ方式についても適用可能である。
【0047】
また、レーダ装置は、例えば、ドップラ多重送信を行う。更に、レーダ装置は、例えば、ドップラ多重送信においてドップラ多重数分の異なる位相回転(例えば、位相シフト)を付与した信号(以下、「ドップラ多重送信信号」と呼ぶ)を、符号化(例えば、CDM(Code Division Multiplexing))して、多重送信する(以下、「符号化ドップラ多重(Coded Doppler Multiplexing)」と呼ぶ)。
【0048】
[レーダ装置の構成]
図5のレーダ装置10は、レーダ送信部(送信ブランチ)100と、レーダ受信部(受信ブランチ)200と、を有する。
【0049】
レーダ送信部100は、レーダ信号(レーダ送信信号)を生成し、複数の送信アンテナ(例えば、Nt個)によって構成される送信アンテナ部109(例えば、送信アレーアンテナ)を用いて、レーダ送信信号を規定された送信周期(以下、「レーダ送信周期」と呼ぶ)にて送信する。
【0050】
レーダ受信部200は、物標(ターゲット。図示せず)により反射したレーダ送信信号である反射波信号を、複数の受信アンテナ202-1~202-Naを含む受信アンテナ部202(例えば、受信アレーアンテナ)を用いて受信する。レーダ受信部200は、各受信アンテナにおいて受信した反射波信号を信号処理し、例えば、物標の有無検出又は反射波信号の到来距離、ドップラ周波数(例えば、相対速度)、及び到来方向の推定を行い、推定結果に関する情報(例えば、測位情報)を出力する。
【0051】
なお、レーダ装置10は、例えば、車両といった移動体に搭載されてよく、レーダ受信部200の測位出力(推定結果に関する情報)は、例えば、衝突安全性を高める先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driver Assistance System)又は自動運転システムといった制御装置ECU(Electronic Control Unit)(図示なし)に接続され、車両駆動制御又は警報発呼制御に利用されてもよい。
【0052】
また、レーダ装置10は、例えば、路側の電柱又は信号機といった比較的高所の構造物(図示なし)に取り付けられてよい。また、レーダ装置10は、例えば、通行する車両又は歩行者の安全性を高める支援システム又は不審者の侵入防止システム(図示なし)におけるセンサとして利用されてもよい。また、レーダ受信部200の測位出力は、例えば、安全性を高める支援システム又は不審者侵入防止システムにおける制御装置(図示なし)に接続され、警報発呼制御又は異常検出制御に利用されてもよい。なお、レーダ装置10の用途はこれらに限定されず、他の用途に利用されてもよい。
【0053】
また、物標はレーダ装置10が検出する対象の物体であり、例えば、車両(4輪及び2輪を含む)、人、ブロック又は縁石などを含む。
【0054】
[レーダ送信部100の構成]
レーダ送信部100は、レーダ送信信号生成部101と、位相回転量設定部105と、位相回転部108と、送信アンテナ部109と、を有する。
【0055】
レーダ送信信号生成部101は、レーダ送信信号を生成する。レーダ送信信号生成部101は、例えば、送信信号生成制御部102、変調信号発生部103及びVCO(Voltage Controlled Oscillator:電圧制御発信器)104を有する。以下、レーダ送信信号生成部101における各構成部について説明する。
【0056】
送信信号生成制御部102は、例えば、レーダ送信周期毎の送信信号発生タイミングを設定し、設定した送信信号発生タイミングに関する情報を、変調信号発生部103及び位相回転量設定部105(例えば、ドップラシフト設定部106)に出力する。ここで、レーダ送信周期をTrとする。
【0057】
変調信号発生部103は、送信信号生成制御部102から入力されるレーダ送信周期Tr毎の送信信号発生タイミングに関する情報に基づいて、例えば、のこぎり歯形状の変調信号を周期的に発生させる。
【0058】
VCO104は、変調信号発生部103から入力される変調信号に基づいて、例えば、図6に示すようなレーダ送信信号(レーダ送信波)として、周波数変調信号(以下、例えば、周波数チャープ信号又はチャープ信号と呼ぶ)を位相回転部108、及び、レーダ受信部200(後述するミキサ部204)へ出力する。
【0059】
位相回転量設定部105は、送信信号生成制御部102から入力されるレーダ送信周期Tr毎の送信信号発生タイミングに関する情報に基づいて、位相回転部108におけるレーダ送信周期Tr毎にレーダ信号に付与する位相回転量(例えば、符号化ドップラ多重送信に対応する位相回転量)を設定する。位相回転量設定部105は、例えば、ドップラシフト設定部106と、符号化部107と、を有する。
【0060】
ドップラシフト設定部106は、例えば、レーダ送信周期Tr毎の送信信号発生タイミングに関する情報に基づいて、レーダ送信信号(例えば、チャープ信号)に対して付与するドップラシフト量に対応する位相回転量を設定する。
【0061】
符号化部107は、例えば、レーダ送信周期Tr毎の送信信号発生タイミングに関する情報に基づいて、符号化に対応する位相回転量を設定する。符号化部107は、例えば、ドップラシフト設定部106から入力される位相回転量と符号化に対応する位相回転量とに基づいて、位相回転部108に対する位相回転量を算出し、位相回転部108に出力する。また、符号化部107は、例えば、符号化に用いる符号系列(例えば、直交符号系列の各要素)に関する情報をレーダ受信部200(例えば、出力切替部209)に出力する。
【0062】
位相回転部108は、VCO104から入力されるチャープ信号に対して、符号化部107から入力される位相回転量を付与し、位相回転後の信号を送信アンテナ部109に出力する。例えば、位相回転部108は、位相器及び位相変調器等を含む(図示せず)。位相回転部108の出力信号は、規定された送信電力に増幅され各送信アンテナから空間に放射される。例えば、レーダ送信信号は、ドップラシフト量と直交符号系列との組み合わせに対応する位相回転量が付与されることによって、複数の送信アンテナから多重送信される。
【0063】
次に、位相回転量設定部105における位相回転量の設定方法の一例を説明する。
【0064】
ドップラシフト設定部106は、ドップラシフト量DOPndmを付与するための位相回転量φndmを設定して、符号化部107へ出力する。ここで、ndm=1~NDMである。NDMは、異なるドップラシフト量の設定数であり、以下では、「ドップラ多重数」と呼ぶ。
【0065】
レーダ装置10では、符号化部107による符号化を併用するため、ドップラ多重数NDMは、多重送信に用いる送信アンテナの数Ntよりも少なく設定してよい。なお、ドップラ多重数NDMは2以上とする。
【0066】
ドップラシフト量DOP1、DOP2,~,DOPN_DM(「N_DM」は「NDM」とも表される)としては、例えば、等間隔のドップラシフト量が設定されてもよく、或いは、不等間隔のドップラシフト量が設定されてもよい。各ドップラシフト量DOP1,DOP2,~,DOPN_DMは、後述する符号化部107による符号化を併用するため、例えば、0≦DOP1,DOP2,~,DOPN_DM<(1/TrLoc)を満たすように設定されてよい。あるいは、ドップラシフト量DOP1,DOP2,~,DOPN_DMは、例えば、式(1)を満たすように設定されてもよい。
【数1】
【0067】
また、例えば、ドップラシフト量DOP1,DOP2,~,DOPN_DM間において最小のドップラシフト間隔ΔfMinIntervalは次式(2)を満たしてよい。なお、ドップラシフト間隔(ドップラ多重間隔、ドップラ間隔とも記載)は、ドップラシフト量DOP1,DOP2,~,DOPN_DMのうちの任意の2つのドップラシフト量の差分の絶対値で定義されてよい。ここで、Locは符号要素数を表す。例えば、Locは、符号化部107において用いられる符号の符号長を表す。
【数2】
【0068】
また、各ドップラシフト量DOP1,DOP2,~,DOPN_DMを付与するための位相回転量φndmは、例えば、次式(3)のように割り当てられてよい。
【数3】
【0069】
なお、間隔が等間隔でΔfMinIntervalとなるドップラシフト量が設定される場合(以下、「等間隔ドップラシフト量設定」と呼ぶ)、ドップラシフト量DOPndmを付与するための位相回転量φndmは、例えば、次式(4)のように割り当てられる。
【数4】
【0070】
なお、最小ドップラシフト間隔ΔfMinIntervalが狭いほど、ドップラ多重信号間の干渉が発生しやすくなり、ターゲット検出精度が低減(例えば、劣化)する可能性が高くなるため、式(2)の制約条件を満たす範囲において、ドップラシフト量の間隔をより拡げることが好適になる。例えば、式(2)において等号が成り立つ場合(例えば、ΔfMinInterval=1/(TrNDMLOC))は、ドップラ多重信号間のドップラ領域における間隔を最大限に拡げることができる(以下、「最大等間隔ドップラシフト量設定」と呼ぶ)。この場合、ドップラシフト量DOP1,DOP2,~,DOPN_DMは、0以上2π未満の位相回転範囲をNDM個に等分割して、それぞれ異なる位相回転量が割り当てられる。例えば、ドップラシフト量DOPndmを付与するための位相回転量φndmは、次式(5)のように割り当てられる。なお、以下では、角度はラジアン単位で示している。
【数5】
【0071】
式(5)において、例えば、ドップラ多重数NDM=2の場合、ドップラシフト量DOP1を付与する位相回転量φ1=0、及び、ドップラシフト量DOP2を付与する位相回転量φ2=πとなる。例えば、各ドップラシフト量DOPndmを付与する位相回転量φndmは等間隔である。
【0072】
なお、ドップラシフト量DOP1,DOP2,~,DOPN_DMを付与する位相回転量の割り当ては、このような割り当て方法に限定されない。例えば、位相回転量の割り当てテーブルを用いて、ドップラシフト量DOP1,DOP2,~,DOPN_DMに対して位相回転量φ12,~, φN_DM(ただし、「N_DM」はNDMに相当する)をランダム的に割り当ててもよい。
【0073】
また、等間隔ドップラシフト量設定において、式(4)でΔfMinInterval=1/(Tr(NDM+Nint)LOC)に設定されることにより、次式(6)のような位相回転量の設定を用いてもよい。ここで、Nintは整数値をとる。
【数6】
【0074】
符号化部107は、ドップラシフト設定部106から入力されるNDM個のドップラシフト量を付与する位相回転量φ1,~,φN_DMのそれぞれに対して、1個、又は、NCM個以下の複数の直交符号系列に基づく位相回転量を設定する。また、符号化部107は、ドップラシフト量及び直交符号系列の双方に基づく位相回転量、例えば、符号化したドップラ多重信号を生成する「符号化ドップラ位相回転量」を設定し、位相回転部108に出力する。
【0075】
以下、符号化部107における動作の一例について説明する。
【0076】
例えば、符号化部107は、符号長Locからなる符号数(例えば、符号多重数)NCM個の相互に相関が低い符号系列あるいは無相関となる符号系列を用いることが好適であり、例えば、直交符号系列を用いる。なお、直交符号系列を構成する符号要素には、実数に限らず、複素数値が含まれてもよい。
【0077】
以下では、符号長LocからなるNCM個の直交符号系列をCodencm={OCncm(1), OCncm(2),~, OCncm(Loc)}と表記する。OCncm(noc)は第ncm番目の直交符号系列Codencmにおけるnoc番目の符号要素を表す。ここで、nocは符号要素のインデックスであり、noc=1~Locである。
【0078】
符号化部107において用いる直交符号系列は、例えば、Walsh-Hadamard-符号でもよい。符号化部107は、符号数NCM個の直交符号系列を生成可能な所定の符号長LOCを用いて直交符号系列を生成する。
【0079】
例えば、NCM=2の場合、Walsh-Hadamard-符号の符号長Loc=2であり、直交符号系列は、Code1={1,1}、Code2={1,-1}となる。
【0080】
符号化部107において、ドップラシフト設定部106から入力されるndm番目のドップラシフト量DOPndmを用いたドップラ多重信号を符号化する際の符号多重数(以下、符号化ドップラ多重数と呼ぶ)を「NDOP_CODE(ndm)」と表記する。ここで、ndm=1~NDMである。
【0081】
符号化部107は、例えば、ドップラ多重信号を符号化する際の符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1), NDOP_CODE(2),~, 及びNDOP_CODE(NDM)の総和が、多重送信に用いる送信アンテナの数Ntと等しくなるように符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を設定する。これにより、レーダ装置10は、Nt個の送信アンテナを用いてドップラ領域及び符号領域における多重送信(以下、符号化ドップラ多重送信と呼ぶ)が可能となる。
【0082】
さらに、符号化部107は、例えば、最大等間隔ドップラシフト量設定を含む等間隔ドップラシフト量設定を用いて、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1), NDOP_CODE(2),~, NDOP_CODE(NDM)に関して、1以上NCM個以下の範囲の異なる符号化ドップラ多重数を含むように設定してもよい。例えば、符号化部107は、符号化ドップラ多重数の全てにおいて符号数NCM個とせずに、少なくとも1つのドップラシフト量DOPndmに対応する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)をNCM個より小さく設定する。よって、ドップラシフト量DOPndmと直交符号系列との複数の組み合わせにおいて、少なくとも1つのドップラシフト量DOPndmに対応付けられる直交符号系列による多重数(符号化ドップラ多重数)NDOP_CODE(ndm)は、他のドップラシフト量に対応付けられる符号化ドップラ多重数と異なってよい。例えば、符号化部107は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数を不均一に設定する。この設定により、レーダ装置10は、例えば、後述する受信処理における折り返し判定処理によって、±1/2Trのドップラ範囲に亘って、複数の送信アンテナから符号化ドップラ多重送信された信号を個別に分離して受信できる。
【0083】
符号化部107は、第m番目の送信周期Trにおいて、第ndm番目のドップラシフト量DOPndmを付与する位相回転量φndmに対して、次式(7)に示す符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を設定して、位相回転部108に出力する。
【数7】
【0084】
ここで、下付き添え字の「ndop_code(ndm)」は、ドップラシフト量DOPndmを付与する位相回転量φndmに対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)以下のインデックスを表す。例えば、ndop_code(ndm)=1,~, NDOP_CODE(ndm)である。また、angle[x]は実数xのラジアン位相を出力する演算子であり、例えば、angle[1]=0、angle[-1]=π、angle[j]=π/2である。jは虚数単位である。
【0085】
例えば、式(7)に示すように、符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)は、符号化に用いる符号長Loc回の送信周期の期間においてドップラシフト量DOPndmを付与する位相回転量を一定(例えば、式(7)の第1項)にし、符号化で用いる符号Code ndop_code(ndm)のLoc個の各符号要素OCndop_code(ndm)(1),~,OCndop_code(ndm)(Loc)の各々に対応する位相回転量を付与する(式(7)の第2項目)。
【0086】
また、符号化部107は、送信周期(Tr)毎に、直交符号要素インデックスOC_INDEXをレーダ受信部200(後述する出力切替部209)に出力する。OC_INDEXは、直交符号系列Codendop_code(ndm)の要素を指示する直交符号要素インデックスであり、送信周期(Tr)毎に、次式(8)のように、1からLocの範囲で巡回的に可変する。
【数8】
【0087】
ここで、mod(x, y)はモジュロ演算子であり、xをyで割った後の余りを出力する関数である。また、m=1~Ncである。Ncはレーダ測位に用いる送信周期数(以下では、「レーダ送信信号送信回数」と呼ぶ)である。また、レーダ送信信号送信回数Ncは、Locの整数倍(Ncode倍)となるように設定される。例えば、Nc=Loc×Ncodeである。
【0088】
次に、符号化部107において、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定する方法の一例について説明する。
【0089】
例えば、符号化部107は、下記の条件を満たす直交符号系列数(例えば、符号多重数又は符号数)NCMを設定する。例えば、直交符号系列数NCM及びドップラ多重数NDMは、多重送信に用いる送信アンテナの数Ntに対して、以下の関係を満たす。
(直交符号系列数NCM)×(ドップラ多重数NDM)>多重送信に用いる送信アンテナ数Nt
【0090】
次に、符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)の設定例について説明する。
【0091】
例えば、符号化部107において、多重送信に用いる送信アンテナ数Nt=3、ドップラ多重数NDM=2、符号多重数NCM=2とし、符号長Loc=2の直交符号系列Code1={1,1}、Code2={1,-1}を用いる場合について説明する。この場合、例えば、図7に示すように、符号化ドップラ多重数をNDOP_CODE(1)=1、NDOP_CODE(2)=2とすると、符号化部107は、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(m), ψ1, 2(m), ψ2, 2(m)を設定して、位相回転部108に出力する。例えば、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(m)を設定する場合、符号化部107は、次式(9)のような設定を行う。なお、図7において、「〇」は使用されるドップラシフト量と直交符号を表し、「×」は使用されないドップラシフト量と直交符号の割り当てを表す。
【数9】
【0092】
ここで、一例として、ドップラシフト量DOPndmを付与する位相回転量を式(5)のφndm=2π(ndm-1)/NDMとし、ドップラシフト量DOP1を付与する位相回転量φ1=0、及び、ドップラシフト量DOP2を付与する位相回転量φ2=πを用いて、符号化部107は、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(m), ψ1, 2(m), ψ2, 2(m)を設定して、位相回転部108に出力する。なお、位相回転量は、2πによるモジュロ演算を行い、0以上2π未満のラジアンの範囲で記載してもよい。
【0093】
例えば、送信アンテナの数Ntが何れの値でも、位相回転量に用いる位相数は、多重送信に用いる送信アンテナの数Ntよりも少なく設定されてよい。また、ドップラシフト量を付与する位相回転量に用いる位相数は、多重送信に用いるドップラシフト量の数NDMに等しくしてよい。
【0094】
また、上記の例では、最大等間隔ドップラシフト量設定で示した位相回転量の設定を用いて説明したが、位相回転量の設定は、これに限定されず、例えば、等間隔ドップラシフト量設定で示した位相回転量の設定、例えば、式(6)を用いてもよい。
【0095】
以上、位相回転量設定部105における位相回転量の設定方法について説明した。
【0096】
図1において、位相回転部108は、位相回転量設定部105において設定された符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)に基づいて、レーダ送信信号生成部101から入力されるチャープ信号に対して、送信周期Tr毎に位相回転量を付与する。ここで、ndm=1~NDMであり、ndop_code(ndm)=1~NDOP_CODE(ndm)である。
【0097】
Nt個の位相回転部108からの出力(例えば、符号化ドップラ多重信号と呼ぶ)は、規定された送信電力に増幅後に、送信アンテナ部109のNt個の送信アンテナからそれぞれ空間に放射される。
【0098】
なお、以下では、符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を付与する位相回転部108を、「位相回転部PROT#[ndop_code(ndm), ndm]」と表記する。同様に、位相回転部PROT#[ndop_code(ndm), ndm]の出力を空間に放射する送信アンテナを、「送信アンテナTx#[ndop_code(ndm), ndm]」とも表記する。ここで、ndm=1~NDMであり、ndop_code(ndm)=1~NDOP_CODE(ndm)である。あるいは、Nt個の送信アンテナは、Tx#1、Tx#2、~、Tx#Ntとも表記する。送信アンテナTx#1、Tx#2、~、Tx#Ntから送信されるレーダ送信信号に付与される符号化ドップラ位相回転量は、予め既知のテーブルなどを用いて関係付けることも可能である。例えば、符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)が判定(あるいは検出)されることで、送信アンテナの判定(あるいは検出)が可能となる。
【0099】
例えば、図7に示した例の場合、符号化部107から位相回転部108に対して、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(m), ψ1, 2(m), ψ2, 2(m)が送信周期毎に入力される。
【0100】
例えば、位相回転部PROT#[1, 1]は、レーダ送信信号生成部101で送信周期毎に生成されたチャープ信号cp(t)に対して、第m番目の送信周期において位相回転量ψ1, 1(m)を付与した信号exp[jψ1, 1(m)]cp(t)を出力する。また、位相回転部PROT#[1, 1]の出力は、送信アンテナTx#[1, 1]から出力される。ここでcp(t)は送信周期毎のチャープ信号を表す。 同様に、位相回転部PROT#[1, 2]の出力は、送信アンテナTx#[1, 2]から出力され、位相回転部PROT#[2, 2]の出力は、送信アンテナTx#[2, 2]から出力される。
【0101】
以上、符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)の設定例について説明した。
【0102】
また、本実施の形態では、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定する場合、ドップラシフト量DOPndmと直交符号系列Codencmとの組み合わせにおいて、各ドップラシフト量DOPndmに対応する直交符号系列Codencmの多重数(例えば、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm))は異なってよい。
【0103】
また、本実施の形態では、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を均一に設定する場合、ドップラシフト量DOPndmと直交符号系列Codencmとの組み合わせにおいて、ドップラシフト量DOPndmそれぞれに対応する直交符号系列Codencmの多重数(例えば、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm))は同一でよい。この場合、ドップラシフト量DOPndmと直交符号系列との複数の組み合わせの数と、送信アンテナNt個と、が同数となってもよい(例えば、NDM×NCM=Ntとしてもよい)。
【0104】
また、本実施の形態では、送信アンテナTx#1~Tx#Ntは、少なくとも2種類の異なる主ビーム方向(又は、ビーム方向)の送信アンテナを含むマルチビーム送信レーダを構成してよい。なお、送信アンテナTx#1~Tx#Ntには、異なるビーム方向に対応する送信アンテナが複数含まれてよい。また、送信アンテナTx#1~Tx#Ntには、同一ビーム方向に対応する送信アンテナが複数含まれてもよい。
【0105】
例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向の異なる送信アンテナTx#1~Tx#Ntの構成を考慮して、チャープ信号が送信される送信アンテナ毎に異なる符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)をチャープ信号に付与して出力してよい。これにより、異なるビーム方向の送信アンテナから送信されるチャープ信号に対応する受信信号間において、反射波の受信電力レベルが大きく異なる場合でも、レーダ装置10は、符号化ドップラ多重信号の分離が可能となり、レーダ装置10の測位性能、及び、レーダ検出性能を向上できる。
【0106】
以下、少なくとも2種類の異なるビーム方向となる送信アンテナを含むマルチビーム送信レーダを構成する場合のレーダ送信部100における位相回転量設定部105の動作例について説明する。
【0107】
以下の説明では、マルチビーム送信MIMOレーダにおいて用いる複数のビーム方向(又は、複数のビーム)のうち、第1のビーム方向(又は、ビーム)を「B1」と記載し、第2のビーム方向(又は、ビーム)を「B2」と記載する。また、例えば、ビーム方向の異なるマルチビーム数を「NB」と記載し、第qのビーム方向(又は、ビーム)を「Bq」と記載する。qは、異なるビーム方向数(例えば、マルチビーム数NB)内の整数値である。例えば、マルチビーム数NB=2の場合、q=1又は2である。
【0108】
また、例えば、送信アンテナ数Nt≧3、ドップラ多重数NDM≧2、符号多重数NCM≧2とし、Nt<NDM×NCMである。
【0109】
また、送信アンテナ部109において、ビーム方向B1に対応する送信アンテナの数をNB1とし、ビーム方向B2に対応する送信アンテナの数をNB2とする。この場合、NB1+NB2=Ntとなる。また、ビーム方向Bqに対応する送信アンテナ数をNBqとする。NBq≧1であり、各ビーム方向Bqの送信アンテナ数の総和はNt個である。
【0110】
また、ビーム方向B1の送信アンテナに割り当てられるドップラ多重数をNDM_B1と表記し、ビーム方向B2の送信アンテナに割り当てられるドップラ多重数をNDM_B2と表記する。ここで、NDM_B1、NDM_B2≦NDMである。
【0111】
位相回転量設定部105は、例えば、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定し、また、下記の<条件1>を満たすように符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を設定する。ここで、ndm=1~NDMであり、ndop_code(ndm)=1~NDOP_CODE(ndm)である。
【0112】
<条件1>
例えば、ビーム方向B1の送信アンテナに対して割り当てられるドップラシフト量及び符号系列のパターン(例えば、符号化ドップラ多重パターン)と、ビーム方向B2の送信アンテナに対して割り当てられる符号化ドップラ多重パターンとを異ならせる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B1の送信アンテナ及びビーム方向B2の送信アンテナのそれぞれに、異なるドップラ多重パターン(例えば、ドップラシフト量の割り当てパターン)の条件、異なる符号多重パターン(例えば、ドップラ多重信号間で異なる符号多重数)の条件、あるいは、ドップラ多重及び符号多重の異なるパターンの条件を満たす符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を設定する。
【0113】
例えば、異なるドップラ多重パターン条件は、以下の何れか一つの条件(例えば、「条件1A」とも呼ぶ)でもよい。
(A-1)各ビーム方向に対応するドップラ多重数(例えば、各ビーム方向の送信アンテナから送信される送信信号のドップラ多重数)が同一であり(例えば、NDM_B1=NDM_B2。ただし、NDM_B1=NDM_B2≧2の場合)、各ビーム方向において異なるドップラシフト間隔(例えば、各ビーム方向の送信アンテナに対応付けられるドップラシフト量の間隔)を含む。
(A-2)ビーム方向毎のドップラ多重数が異なる(NDM_B1≠NDM_B2)。
(A-3)NDM_B1 ≧3、NDM_B2 ≧3の場合に、ビーム方向毎のドップラシフト間隔において、同一のドップラシフト間隔を含む場合に、ドップラシフト間隔の順序が異なる(巡回不一致)。
【0114】
また、例えば、異なる符号多重パターン条件は、以下の何れか一つの条件(例えば、「条件1B」とも呼ぶ)でもよい。
(B-1)各ドップラ多重信号に割り当てる符号間隔(例えば、符号インデックス間隔)が異なる(巡回不一致)。
(B-2)各ドップラ多重信号に割り当てる符号多重数が異なる(巡回不一致)。
【0115】
また、位相回転量設定部105は、例えば、更に、以下の条件2を満たすように符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を設定してもよい。
【0116】
<条件2>
同一ビーム方向の送信アンテナから送信される信号は、ドップラ多重信号間において不均一となる符号多重数によって多重送信され、符号多重数は、1以上でNCM-1以下の範囲の何れかを含む。例えば、ドップラシフト量及び符号系列の複数の組み合わせにおいて、ビーム方向B1及びビーム方向B2の少なくとも一方の送信アンテナに関して、少なくとも1つのドップラシフト量に対応付けられる符号系列による符号多重数は、他のドップラシフト量に対応付けられる符号系列による符号多重数と異なる。
【0117】
例えば、条件1のA-3では、ビーム方向B1の送信アンテナとビーム方向B2の送信アンテナとで、割り当てられるドップラシフト量の複数の間隔のそれぞれの値(例えば、ドップラシフト間隔の組み合わせ)が同一である場合、ビーム方向B1の送信アンテナに対応する複数のドップラシフト間隔のドップラ周波数軸上での順序と、ビーム方向B2の送信アンテナに対応する複数のドップラシフト間隔のドップラ周波数軸上の順序と、が異なってよい。例えば、ビーム方向B1の送信アンテナに割り当てられるドップラシフト量の間隔をドップラ周波数軸の小さい方から順に並べた配列に含まれる各間隔の組み合わせと、ビーム方向B2の送信アンテナに割り当てられるドップラシフト量の間隔をドップラ周波数軸の小さい方から順に並べた配列に含まれる各間隔の組み合わせとが一致し、かつ、第1の配列と第2の配列とは、円順列において異なる配列である。条件1のA-3を満たす場合、ビーム方向B1の送信アンテナのドップラシフト間隔、及び、ビーム方向B2の送信アンテナのドップラシフト間隔は、何れか一方をドップラ周波数領域において巡回シフトしても一致しない(巡回不一致となる)。
【0118】
また、例えば、条件1のB-1では、ビーム方向B1の送信アンテナに対応付けられる符号系列のドップラ周波数軸上での順序と、ビーム方向B2の送信アンテナに対応付けられる符号系列のドップラ周波数軸上での順序と、が異なってよい。例えば、ビーム方向B1の送信アンテナに割り当てられるドップラシフト量に対応する符号系列のインデックスをドップラ周波数軸の小さい方から順に並べた配列と、ビーム方向B2の送信アンテナに割り当てられるドップラシフト量に対応する符号系列のインデックスをドップラ周波数軸の小さい方から順に並べた配列とは、円順列において異なる配列である。条件1のB-1を満たす場合、ビーム方向B1の送信アンテナの各ドップラシフト量に対応する符号系列のインデックス、及び、ビーム方向B2の送信アンテナの各ドップラシフト量に対応する符号系列のインデックスは、何れか一方をドップラ周波数領域において巡回シフトしても一致しない(巡回不一致となる)。
【0119】
また、例えば、条件1のB-2では、ビーム方向B1の送信アンテナに対応付けられる符号系列による符号多重数のドップラ周波数軸上での順序と、ビーム方向B2の送信アンテナに対応付けられる符号系列による符号多重数のドップラ周波数軸上での順序と、が異なってよい。例えば、ビーム方向B1の送信アンテナに割り当てられるドップラシフト量に対応する符号多重数をドップラ周波数軸の小さい方から順に並べた配列と、ビーム方向B2の送信アンテナに割り当てられるドップラシフト量に対応する符号多重数をドップラ周波数軸の小さい方から順に並べた配列とは、円順列において異なる配列である。条件1のB-2を満たす場合、ビーム方向B1の送信アンテナの各ドップラシフト量に対応する符号多重数、及び、ビーム方向B2の送信アンテナの各ドップラシフト量に対応する符号多重数は、何れか一方をドップラ周波数領域において巡回シフトしても一致しない(巡回不一致となる)。
【0120】
位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定が条件1を満たすことにより、異なるビーム方向の送信アンテナからの受信信号間において、反射波の受信電力レベルが大きく異なる場合でも、レーダ装置10は、ドップラ多重信号の分離を可能とし、測位性能及びレーダ検出性能の劣化を抑制できる(例については後述する)。
【0121】
また、位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定が条件2を満たすことにより、レーダ装置10において検出可能なドップラ周波数範囲は、-1/(2Tr)≦fd<1/(2Tr)の範囲となり、1送信アンテナの場合のドップラ検出範囲と同等の範囲に拡大できる(例については後述する)。
【0122】
例えば、レーダ装置10による符号化ドップラ多重送信において、条件1及び条件2の双方を満たしてもよく、条件1を満たし、条件2を満たさなくてもよい。例えば、条件1を満たし、条件2を満たさないケースとして、以下の3つのケースが挙げられる。
【0123】
(ケース1)
ケース1は、ビーム方向B1及びビーム方向B2の何れとも条件2を満たさないケースである。ケース1では、検出可能なドップラ周波数範囲fdは、物標方向に依存して、-1/(2 Tr)≦fd <1/(2Tr)の範囲、-1/(2Loc NDM_B1Tr)≦fd < 1/(2Loc NDM_B1Tr)の範囲、あるいは、-1/(2Loc NDM_B2Tr)≦fd < 1/(2Loc NDM_B2Tr)の範囲となる。ここで、ビーム方向B1の送信アンテナ間に割り当てられるドップラ多重信号には、未使用となる符号を含まない場合、NDM_B1=NB1/ Locとなり、検出可能なドップラ周波数範囲fdは、-1/(2 NB1Tr)≦fd < 1/(2 NB1Tr)の範囲となる。同様に、ビーム方向B2の送信アンテナ間に割り当てられるドップラ多重信号には、未使用となる符号を含まない場合、NDM_B2=NB2/Locとなり、検出可能なドップラ周波数範囲fdは、-1/(2 NB2Tr)≦fd <1/(2 NB2Tr)の範囲となる。
【0124】
(ケース2)
ケース2は、ビーム方向B2が条件2を満たさないケースである。ケース2では、検出可能なドップラ周波数範囲fdは、物標方向に依存して、-1/(2Tr)≦fd < 1/(2Tr)の範囲、あるいは、-1/(2Loc NDM_B2Tr)≦fd < 1/(2Loc NDM_B2Tr)の範囲となる。例えば、ビーム方向B2の送信アンテナ間に割り当てられるドップラ多重信号には、未使用となる符号を含まない場合、NDM_B2=NB2/Locとなり、検出可能なドップラ周波数範囲fdは、-1/(2 NB2Tr)≦fd < 1/(2 NB2Tr)の範囲となる。
【0125】
(ケース3)
ケース3は、ビーム方向B1が条件2を満たさないケースである。ケース3では、検出可能なドップラ周波数範囲fdは、物標方向に依存して、-1/(2Tr)≦fd < 1/(2Tr)の範囲、あるいは、-1/(2Loc NDM_B1Tr)≦fd < 1/(2Loc NDM_B1Tr)の範囲となる。例えば、ビーム方向B1の送信アンテナ間に割り当てられるドップラ多重信号には、未使用となる符号を含まない場合、NDM_B1=NB1/ Locとなり、検出可能なドップラ周波数範囲fdは、-1/(2 NB1Tr)≦fd < 1/(2 NB1Tr)の範囲となる。
【0126】
ケース1~3の何れのケースでも、検出可能なドップラ周波数範囲を、等間隔ドップラ多重の場合のドップラ検出範囲-1/(2 Nt Tr)≦fd < 1/(2 Nt Tr)よりも拡大できる。
【0127】
以下、位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定例について説明する。なお、以下では、Tx#n1及びTx#n2に付与するドップラシフト量の間隔をドップラシフト間隔「Δfd(n1, n2)」と表記する。ここで、Δfd(n1, n2)は、Tx#n1に付与されたドップラシフト量DOPn1を基準としたTx#n2に付与されたドップラシフト量DOPn2の間隔(DOPn2-DOPn1)を表す。なお、ドップラシフト間隔Δfd(n1, n2)が負値となる場合(例えば、(DOPn2-DOPn1)<0となる場合)は、ドップラ解析部での観測範囲である-1/(2 Loc Tr)以上、かつ、1/(2 Loc Tr)未満の範囲での折り返しを考慮して、Δfd(n1, n2)=1/(Loc Tr)-Δfd(n1, n2)を用いてドップラシフト間隔Δfd(n1, n2)を算出し、正値として表す。
【0128】
<設定例1>
設定例1は、条件1(異なる符号多重パターン条件を満たす場合)、及び、条件2を満たす場合の符号化ドップラ位相回転量の設定例である。
【0129】
図8は、送信アンテナ数Nt=4、NB1=2、NB2=2の場合の位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定例を示す。
【0130】
図8において、Tx#1及びTx#2はビーム方向B1の送信アンテナであり、Tx#3及びTx#4はビーム方向B2の送信アンテナである。図8において、網掛けの丸印はビーム方向B1の送信アンテナ(Tx#1及びTx#2)の符号化ドップラ多重信号の割り当て、白丸印はビーム方向B2の送信アンテナ(Tx#3及びTx#4)の符号化ドップラ多重信号の割り当てを示す。
【0131】
また、図8において、ドップラ多重数NDM=3であり、ドップラシフト設定部106は、3つのドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を、例えば、式(5)に示す最大等間隔ドップラシフト量設定を用いて設定してよい。図8において、ドップラシフト量DOP1=0を付与する位相回転量φ1=0、ドップラシフト量DOP2=Δfdを付与する位相回転量φ2=2π/3、ドップラシフト量DOP3=-Δfdを付与する位相回転量φ3=4π/3(φ3=-2π/3としてもよい)となる。図8に示すように、ドップラ多重信号間の間隔(ドップラ多重間隔、ドップラシフト間隔、あるいはドップラ間隔とも呼ぶ)Δfdは等間隔となり、Δfd=1/(6Tr)である。
【0132】
また、図8において、符号多重数NCM=2であり、符号化部107は、例えば、Walsh-Hadamard-符号の符号長Loc=2の直交符号系列であるCode1={1,1}、Code2={1,-1}を用いる。なお、以下の設定例2~5も符号多重数NCM=2であり、同様な符号を用いる。
【0133】
図8では、送信アンテナ数Nt=4、ドップラ多重数NDM=3、符号多重数NCM=2であり、Nt <NDM×NCMであるので、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定できる(ここで、ndm=1~NDM)。
【0134】
図8に示すように、符号化部107において、ドップラシフト設定部106から入力される3つのドップラシフト量DOP1、DOP2、DOPを用いたドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数の設定は、それぞれ、NDOP_CODE(1)=1、NDOP_CODE(2)=1、NDOP_CODE(3)=2である。このように、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数を、NDOP_CODE(1)=NDOP_CODE(2)≠ NDOP_CODE(3)として不均一に設定する。
【0135】
また、図8では、ドップラシフト設定部106は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1及びTx#2に対して、ドップラ多重数NDM=3のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP3を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B1=2)。また、符号化部107は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1及びTx#2に対して割り当てたドップラシフト量DOP1、DOP3を用いたドップラ多重信号に対して、Code2、Code1をそれぞれ割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1及びTx#2のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ2, 1(m)、ψ1, 3(m)を設定する。
【0136】
また、図8では、ドップラシフト設定部106は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3及びTx#4に対して、ドップラ多重数NDM=3のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B2=2)。また、符号化部107は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3及びTx#4に対して割り当てたドップラシフト量DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号に対して、Code2、Code2をそれぞれ割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3及びTx#4のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ2, 2(m)、ψ2, 3(m)を設定する。
【0137】
図8において、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナに対して、ドップラシフト設定部106が割り当てるドップラ多重数は、NDM_B1=NDM_B2=2であり、同一である。また、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1及びTx#2に割り当てられるドップラ多重信号のドップラ間隔は、Δfd(1,2)=2Δfd、Δfd(2,1)=Δfdであり、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3及びTx#4に割り当てられるドップラ多重信号のドップラ間隔はΔfd(3,4)=Δfd、Δfd(4,3)=2Δfdであり、同一である。
【0138】
よって、図8に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件1Aの異なるドップラ多重パターン条件の何れにも合致しない。
【0139】
また、図8において、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナに対して割り当てられる符号は、[Code2,割り当て無し,Code1]であり、各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数は、0又は1である。
【0140】
なお、以降、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナに対して割り当てられる符号Indexを、「CodeIndex_B1=(2,*,1)」のように記載する。CodeIndex_B1において、「*」は符号の割り当てが無い場合を表す。また、一つのドップラ多重信号に対して複数の符号が割り当てられる場合は、「&」を用いて表す。例えば、一つのドップラ多重信号に対してCode1とCode2とが割り当てられる場合は、「1&2」のように表記する。符号Indexは「符号間隔」とも呼ぶ。
【0141】
また、以降、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナに対して割り当てられる符号多重数を「N_Code_B1=(1,0,1)」(図8の場合)のように記載する。
【0142】
図8において、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B2の送信アンテナに対して割り当てられる符号は、[割り当て無し,Code2,Code2]であり、各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数は、0又は1である。なお、ビーム方向B1と同様に、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B2の送信アンテナに対して割り当てられる符号Indexを、「CodeIndex_B2=(*,2,2)」と表記する。また、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B2の送信アンテナに対して割り当てられる符号多重数を「N_Code_B2=(0,1,1)」のように記載する。
【0143】
このように、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナに対して、各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1=(1,0,1)及びN_Code_B2=(0,1,1)であり、巡回一致となるため、条件1のB-2を満たさない。
【0144】
その一方で、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナに対して、各ドップラ多重信号に割り当てられる符号Indexは、CodeIndex_B1=(2,*,1)及びCodeIndex_B2=(*,2,2)であり、異なる(又は、巡回不一致となる。以降、符号INDEX間隔が異なるとも表現する)。
【0145】
また、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(4Tr)あるいは1/(4Tr)≦fdtarget<1/(2Tr)の場合、後述するドップラ解析部210では折り返したドップラ周波数が観測される。この場合の符号Indexは、CodeIndex_B1_alias=(1,*,2)、及び、CodeIndex_B2_alias=(*,1,1)となり、異なる(巡回不一致となる)。よって、図8の例では、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(2Tr)の範囲において、符号Indexは巡回不一致となり、符号間隔が異なる。したがって、マルチビーム間において各ドップラ多重信号に割り当てる符号間隔が異なるので、条件1のB-1を満たし、異なる符号多重パターン条件に合致する。
【0146】
以上より、図8に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件1を満たす設定例である。
【0147】
また、図8では、ビーム方向B1の送信アンテナにおいて、各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1=(1,0,1)であり、ビーム方向B2の送信アンテナにおいて、各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数は、N_Code_B2=(0,1,1)であり、両者ともドップラ多重信号間で不均一となる符号多重数で多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲に含まれる。
【0148】
よって、図8の例では、同一ビーム方向(例えば、ビーム方向B1及びB2のそれぞれ)の送信アンテナから送信される信号は、ドップラ多重信号間において不均一となる符号多重数で多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲に含まれる。したがって、図8に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、ビーム方向B1及びビーム方向B2の双方において条件2を満たす設定例である。
【0149】
以下、送信アンテナ部109が、図8に示す符号化ドップラ位相回転量の設定に基づくビーム方向B1及びB2の送信アンテナを含み、受信アンテナ部202が、無指向性アンテナ(又は、ビーム方向B1及びビーム方向B2の双方の送信アンテナがカバーする視野角内においてほぼ均一の指向特性のアンテナ)である場合のドップラ解析部210の出力における受信信号の例について説明する。
【0150】
図9は、或る距離インデックスにおける物標反射波のドップラ解析部210の出力例を示す。例えば、物標反射波には、fdtargetの物標のドップラ周波数が含まれる。したがって、レーダ装置10は、レーダ送信部100において設定したドップラシフト量からfdtarget分のドップラシフトを受けた信号を受信する。図9では、一例として、物標反射波のドップラ周波数fdtarget=0の場合、及び、fdtarget=1/(2Tr)の場合を示す。
【0151】
また、図10は、ビーム方向B1(Tx Beam#1)及びビーム方向B2(Tx Beam#2)の送信ビームを形成するマルチビーム送信MIMOレーダ(例えば、レーダ装置10)の一例を示す。
【0152】
例えば、物標方向が図10に示す物標方向(1)の場合(例えば、ビーム方向B1の周辺に物標が存在する場合)、ビーム方向B1のTx#1及びTx#2から送信されるレーダ送信波の放射方向は、物標方向に一致する。このため、図9の(a)に示すように、レーダ装置10におけるTx#1及びTx#2に対応する物標からの反射波の受信信号の受信レベルは、比較的高くなる。その一方で、物標方向が図10に示す物標方向(1)の場合、ビーム方向B2のTx#3及びTx#4から送信されるレーダ送信波の放射方向は、物標方向に一致せず、物標方向は送信ビームB2のヌル方向に該当する。このため、図9の(a)に示すように、レーダ装置10におけるTx#3及びTx#4に対応する物標からの反射波の受信信号の受信レベルは、ビーム方向B1の各送信アンテナ(例えば、Tx#1,Tx#2)に対応する受信信号の受信レベルと比較して低くなる。例えば、図9の(a)に示すように、Tx#3及びTx#4に対応する受信信号の受信レベルは、Tx#1及びTx#2に対応する受信信号の受信レベルと大きく異なり、Tx#3及びTx#4のヌル方向のビーム指向特性に依存して、10dB以上小さい受信レベルとなり得る。ここで図9において、網掛けの丸印あるいは白丸印のサイズは受信電力を表している。丸印のサイズが小さいものは、大きなものよりに比べ、受信電力が小さい(例えば、ノイズレベル程度に受信電力が小さい)ことを表す。
【0153】
また、例えば、物標方向がビーム方向B1とビーム方向B2の中間的な方向であり、物標方向が、両方のビームの3dB又は6dB程度となるビーム幅が互いに重なるエリア方向である場合(例えば、図10に示す物標方向(2))、図9の(b)に示すように、ビーム方向B1のTx#1及びTx#2に対応する受信信号(レーダ送信波の反射波)の受信レベルと、ビーム方向B2のTx#3及びTx#4に対応する受信信号(レーダ送信波の反射波)の受信レベルとは同程度である。
【0154】
また、例えば、物標方向が図10に示す物標方向(3)の場合(例えば、ビーム方向B2の周辺に物標が存在する場合)、ビーム方向B2のTx#3及びTx#4から送信されるレーダ送信波の放射方向は、物標方向に一致する。このため、図9の(c)に示すように、レーダ装置10におけるTx#3及びTx#4に対応する物標からの反射波の受信信号の受信レベルは、比較的高くなる。その一方で、物標方向が図10に示す物標方向(3)の場合、ビーム方向B1のTx#1及びTx#2から送信されるレーダ送信波の放射方向は、物標方向に一致せず、物標方向は送信ビームB1のヌル方向に該当する。このため、図9の(c)に示すように、レーダ装置10におけるTx#1及びTx#2に対応する物標からの反射波の受信信号の受信レベルは、ビーム方向B2の各送信アンテナ(例えば、Tx#3,Tx#4)に対応する受信信号の受信レベルと比較して低くなる。例えば、図9の(c)に示すように、Tx#1及びTx#2に対応する受信信号の受信レベルは、Tx#3及びTx#4に対応する受信信号の受信レベルと大きく異なり、Tx#1及びTx#2のヌル方向のビーム指向特性に依存して、10dB以上小さい受信レベルとなり得る。
【0155】
例えば、図9の(b)のように、物標方向がビーム方向B1とビーム方向B2との中間的な方向(図10に示す物標方向(2))の場合、レーダ装置10は、各ビーム方向の送信アンテナに対応する受信信号を、ほぼ同程度の受信レベルで受信する。したがって、ビーム方向B1及びビーム方向B2のそれぞれの送信アンテナを含むNt本の送信アンテナから送信される信号は、既知の符号化ドップラ多重信号の設定を用いて符号化ドップラ多重送信される。よって、レーダ装置10は、既存の符号化ドップラ多重信号の分離動作に基づいて符号化ドップラ多重信号を分離可能となる。なお、既存の符号化ドップラ多重信号の分離動作については、例えば、特許文献5や6等に開示されている。以下の実施の形態においても同様である。
【0156】
また、図9の(a)に示すように物標方向がビーム方向B1の場合(図10に示す物標方向(1))と、図9の(c)に示すように物標方向がビーム方向B2の場合(図10に示す物標方向(3))とでは、レーダ装置10は、同様のドップラ間隔の2つのドップラ多重信号を受信する。このため、レーダ装置10において、ドップラシフト量に基づくドップラ多重信号の判別は困難である。その一方で、図9の(a)及び(c)に示すように、ドップラ多重信号に対する符号多重信号が異なるため(例えば、符号間隔が異なり、条件1のB-1を満たすため)、レーダ装置10は、図9の(a)と(c)とで互いに異なる符号化ドップラ多重信号を受信する。
【0157】
これにより、物標方向がビーム方向B1又はB2の場合、レーダ装置10は、ビーム方向B1の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合と、ビーム方向B2の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合とを、後述する符号化ドップラ多重分離部212において判別可能となる。
【0158】
また、この判別結果により、ビーム方向B1の送信アンテナ(Tx#1,Tx#2)の受信信号であると判別された場合、ビーム方向B1のTx#1,Tx#2に対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、レーダ装置10は、例えば、特許文献5、6等に開示される動作により、多重信号を分離可能となる。また、ビーム方向B2の送信アンテナ(Tx#3,Tx#4)の受信信号であると判別された場合も、ビーム方向B2のTx#3,Tx#4に対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、同様にレーダ装置10は多重信号を分離可能となる。
【0159】
また、位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定が、条件1に加え、条件2を満たすことにより、ドップラ検出範囲を、1送信アンテナ時と同等の範囲(±1/(2Tr)の範囲)に拡大できる(例については後述する)。
【0160】
このような符号化ドップラ多重分離部212の動作により、レーダ装置10は、物標のドップラ周波数fdを、-1/(2Tr)≦fd<1/(2Tr)の範囲で確定でき、それぞれの符号化ドップラ多重信号に対する送信アンテナを対応付けた出力を得ることができる。
【0161】
<設定例2>
設定例2は、条件1(異なる符号多重パターン条件を満たす場合)、及び、条件2を満たす場合の符号化ドップラ位相回転量の設定例である。
【0162】
図11は、送信アンテナ数Nt=6、NB1=3、NB2=3の場合の位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定例を示す。
【0163】
図11において、Tx#1~#3はビーム方向B1の送信アンテナであり、Tx#4~#6はビーム方向B2の送信アンテナである。図11において、網掛けの丸印はビーム方向B1の送信アンテナ(Tx#1~#3)の符号化ドップラ多重信号の割り当て、白丸印はビーム方向B2の送信アンテナ(Tx#4~#6)の符号化ドップラ多重信号の割り当てを示す。
【0164】
また、図11において、ドップラ多重数NDM=4であり、ドップラシフト設定部106は、4つのドップラシフト量DOP1=0、DOP2=Δfd、DOP3=-2Δfd、DOP4=-Δfdを、例えば、式(5)に示す最大等間隔ドップラシフト量設定を用いて設定してよい。図11において、ドップラシフト量DOP1~DOP4を付与する位相回転量は、それぞれ、φ1=0、φ2=π/4、φ3=π/2、φ2=3π/4となる。図11に示すように、ドップラ多重間隔Δfdは等間隔となり、Δfd=1/(8Tr)である。
【0165】
図11では、送信アンテナ数Nt=6、ドップラ多重数NDM=4、符号多重数NCM=2であり、Nt <NDM×NCMであるので、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定できる(ここで、ndm=1~NDM)。
【0166】
図11に示すように、符号化部107において、ドップラシフト設定部106から入力される4つのドップラシフト量DOP1~DOP4を用いたドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数の設定は、それぞれ、NDOP_CODE(1)=2, NDOP_CODE(2)=1, NDOP_CODE(3)=2, NDOP_CODE(4)=1である。このように、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数を、NDOP_CODE(1)≠ NDOP_CODE(2)、あるいはNDOP_CODE(3)≠ NDOP_CODE(4)として不均一に設定する。
【0167】
また、図11では、ビーム方向B1方向の送信アンテナTx#1~#3に対して、ドップラシフト設定部106は、ドップラ多重数NDM=4のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP3、DOP4を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B1=3)。また、符号化部107は、ドップラシフト量DOP1、DOP3、DOP4を用いたドップラ多重信号に対して、Code1、Code1、Code2をそれぞれ割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1~#3のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(m)、ψ1,3(m)、ψ2, 4(m)を設定する。
【0168】
また、図11では、ビーム方向B2の送信アンテナTx#4~#6に対して、ドップラシフト設定部106は、ドップラ多重数NDM=4のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B2=3)。また、符号化部107は、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号に対して、Code2、Code2、Code2をそれぞれ割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#4~#6のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ2, 1(m)、ψ2, 2(m)、ψ2, 3(m)を設定する。
【0169】
図11において、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナに対して、ドップラシフト設定部106が割り当てるドップラ多重数は、NDM_B1=NDM_B2=3であり、同一である。また、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1~#3に割り当てられるドップラ多重信号のドップラ間隔は、Δfd(1,3)=2Δfd、Δfd(3,4)=Δfd、Δfd(4,1)=Δfdであり、ビーム方向B2の送信アンテナTx#4~#6に割り当てられるドップラ多重信号のドップラ間隔は、Δfd(1,2)=Δfd、Δfd(2,3)=Δfd、Δfd(3,1)=2Δfdであり、同一(巡回一致)である。
【0170】
よって、図11に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件1Aの異なるドップラ多重パターン条件の何れにも合致しない。
【0171】
また、図11において、ドップラ多重信号DOP1~DOP4を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナのそれぞれに対して割り当てられる符号Indexは、CodeIndex_B1=(1,*,1,2)、CodeIndex_B2=(2,2,2,*)であり、巡回不一致となり、符号INDEX間隔が異なるため、条件1のB-1を満たす。
【0172】
また、図11において、ドップラ多重信号DOP1~DOP4を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナのそれぞれに対して割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1=(1,0,1,1), N_Code_B2=(1,1,0,1)であり、巡回一致となり、符号多重数が同一であるため、条件1のB-2を満たさない。
【0173】
なお、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(4Tr)あるいは1/(4Tr)≦fdtarget<1/(2Tr)の場合、後述するドップラ解析部210では折り返したドップラ周波数が観測される。この場合の符号IndexはCodeIndex_B1_alias=(2,*,2,1)、及び、CodeIndex_B2_alias=(1,1,1,*)となり、異なる(巡回不一致となる)。よって、図11の例では、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(2Tr)の範囲において、符号Indexは巡回不一致となり、符号間隔が異なる。したがって、条件1のB-1を満たし、異なる符号多重パターン条件に合致する。
【0174】
以上より、図11に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件1を満たす設定例である。
【0175】
また、図11では、ビーム方向B1の送信アンテナにおいて、各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1=(1,0,1,1)であり、ビーム方向B2の送信アンテナにおいて、各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数は、N_Code_B2=(1,1,0,1)であり、両者ともドップラ多重信号間で不均一となる符号多重数で多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲に含まれる。
【0176】
よって、図11の例では、同一ビーム方向(例えば、ビーム方向B1及びB2のそれぞれ)の送信アンテナから送信される信号は、ドップラ多重信号間において不均一となる符号多重数で多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲に含まれる。したがって、図11に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、ビーム方向B1及びビーム方向B2の双方において条件2を満たす設定例である。
【0177】
以下、送信アンテナ部109が、図11に示すドップラシフト量の設定に基づくビーム方向B1及びB2の異なるビーム方向の送信アンテナを含み、受信アンテナ部202が、無指向性アンテナ(又は、ビーム方向B1及びビーム方向B2の双方の送信アンテナがカバーする視野角内においてほぼ均一の指向特性のアンテナ)である場合のドップラ解析部210の出力における受信信号の例について説明する。
【0178】
例えば、物標方向が図10に示す物標方向(1)の場合(例えば、ビーム方向B1の周辺に物標が存在する場合)、あるいは、物標方向が図10に示す物標方向(3)の場合(例えば、ビーム方向B2の周辺に物標が存在する場合)、ドップラ多重信号数、符号間隔、及び、符号多重数がビーム方向B1の送信アンテナとビーム方向B1の送信アンテナとで異なるので、レーダ装置10は、ビーム方向B1の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合と、ビーム方向B2の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合とを、後述する符号化ドップラ多重分離部212において判別可能となる。
【0179】
また、この判別結果により、ビーム方向B1の送信アンテナ(Tx#1~#3)の受信信号であると判別された場合、ビーム方向B1のTx#1~#3に対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、レーダ装置10は、例えば、特許文献5、6等に開示される動作により、多重信号を分離可能となる。また、ビーム方向B2の送信アンテナ(Tx#4~#6)の受信信号であると判別された場合、ビーム方向B2のTx#4~#6に対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、レーダ装置10は、同様に、多重信号を分離可能となる。
【0180】
また、位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定が、条件1に加え、条件2を満たすことにより、ドップラ検出範囲を、1送信アンテナ時と同等の範囲(±1/(2Tr)の範囲)に拡大できる(例については後述する)。
【0181】
このような符号化ドップラ多重分離部212の動作により、レーダ装置10は、物標のドップラ周波数fdを、-1/(2Tr)≦fd<1/(2Tr)の範囲で確定でき、それぞれの符号化ドップラ多重信号に対する送信アンテナを対応付けた出力を得ることができる。
【0182】
<設定例3>
設定例3は、条件1(異なる符号多重パターン条件及びドップラ多重パターン条件を満たす場合)、及び、条件2を満たす場合の符号化ドップラ位相回転量の設定例である。
【0183】
図12は、送信アンテナ数Nt=6、NB1=3、NB2=3の場合の位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定例を示す。
【0184】
図12において、Tx#1~#3はビーム方向B1の送信アンテナであり、Tx#4~#6はビーム方向B2の送信アンテナである。図12において、網掛けの丸印はビーム方向B1の送信アンテナ(Tx#1~#3)の符号化ドップラ多重信号の割り当て、白丸印はビーム方向B2の送信アンテナ(Tx#4~#6)の符号化ドップラ多重信号の割り当てを示す。
【0185】
また、図12において、ドップラ多重数NDM=4であり、ドップラシフト設定部106は、4つのドップラシフト量DOP1~DOP4を、例えば、式(5)に示す最大等間隔ドップラシフト量設定を用いて設定してよい。図12において、ドップラシフト量DOP1=0、DOP2=Δfd、DOP3=-2Δfd、DOP4=-Δfdを付与する位相回転量は、それぞれ、φ1=0、φ2=π/4、φ3=π/2、φ2=3π/4となる。図12に示すように、ドップラ多重間隔Δfdは等間隔となり、Δfd=1/(8Tr)である。
【0186】
図12では、送信アンテナ数Nt=6、ドップラ多重数NDM=4、符号多重数NCM=2であり、Nt<NDM×NCMであるので、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定できる(ここで、ndm=1~NDM)。
【0187】
図12に示すように、符号化部107において、ドップラシフト設定部106から入力される4つのドップラシフト量DOP1~DOP4を用いたドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数の設定は、それぞれ、NDOP_CODE(1)=2, NDOP_CODE(2)=1, NDOP_CODE(3)=2, NDOP_CODE(4)=1である。このように、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数を、NDOP_CODE(1)≠ NDOP_CODE(2)、あるいはNDOP_CODE(3)≠ NDOP_CODE(4)として不均一に設定する。
【0188】
また、図12では、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1~#3に対して、ドップラシフト設定部106は、ドップラ多重数NDM=4のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP3を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B1=2)。また、符号化部107は、ドップラシフト量DOP1、DOP3を用いたドップラ多重信号に対して、Code1、Code1及びCode2をそれぞれ割り当てる(例えば、2符号を使用)。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1~#3のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(m)、ψ1,3(m)、ψ2, 3(m)を設定する。
【0189】
また、図12では、ビーム方向B2の送信アンテナTx#4~#6に対して、ドップラシフト設定部106は、ドップラ多重数NDM=4のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP4を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B2=3)。また、符号化部107は、ドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP4を用いたドップラ多重信号に対して、Code2、Code2、Code2をそれぞれ割り当てる(例えば、1符号を使用)。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#4~#6のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ2, 1(m)、ψ2, 2(m)、ψ2, 4(m)を設定する。
【0190】
図12において、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナに対して、ドップラシフト設定部106が割り当てるドップラ多重数は、NDM_B1=2、NDM_B2=3の異なるドップラ多重数であるため、条件1のA-2を満たす。
【0191】
また、図12において、ドップラ多重信号DOP1~DOP4を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナのそれぞれに対して割り当てられる符号Indexは、CodeIndex_B1=(1,*,1&2,*)、CodeIndex_B2=(2,2,*,2)であり、巡回不一致となり、符号INDEX間隔が異なるため、条件1のB-1を満たす。
【0192】
また、図12において、ドップラ多重信号DOP1~DOP4を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナのそれぞれに対して割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1=(1,0,2,0), N_Code_B2=(1,1,0,1)であり、符号多重数が異なるため、条件1のB-2を満たす。
【0193】
なお、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(4Tr)あるいは1/(4Tr)≦fdtarget<1/(2Tr)の場合、後述するドップラ解析部210では折り返したドップラ周波数が観測される。この場合の符号IndexはCodeIndex_B1_alias=(2,*,1&2,*)、及び、CodeIndex_B2_alias=(1,1,*,1)となり、異なる(巡回不一致となる)。よって、図12の例では、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(2Tr)の範囲において、符号Indexは巡回不一致となり、符号間隔が異なる。したがって、条件1のB-1を満たし、異なる符号多重パターン条件に合致する。
【0194】
以上より、図12に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件1を満たす設定例である。
【0195】
また、図12では、ビーム方向B1及びビーム方向B2のそれぞれの送信アンテナにおける各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1=(1,0,2,0), N_Code_B2=(1,1,0,1)である。よって、図12の例では、同一ビーム方向の送信アンテナから送信される信号は、ドップラ多重信号間において不均一となる符号多重数で多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲に含まれる。したがって、図12に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、ビーム方向B1及びビーム方向B2の双方において条件2を満たす設定例である。
【0196】
以下、送信アンテナ部109が、図12に示すドップラシフト量の設定に基づくビーム方向B1及びB2の異なるビーム方向の送信アンテナを含み、受信アンテナ部202が、無指向性アンテナ(又は、ビーム方向B1及びビーム方向B2の双方の送信アンテナがカバーする視野角内においてほぼ均一の指向特性のアンテナ)である場合のドップラ解析部210の出力における受信信号の例について説明する。
【0197】
例えば、物標方向が図10に示す物標方向(1)の場合(例えば、ビーム方向B1の周辺に物標が存在する場合)、あるいは、物標方向が図10に示す物標方向(3)の場合(例えば、ビーム方向B2の周辺に物標が存在する場合)、ドップラ多重信号数、符号間隔、及び、符号多重数がビーム方向B1の送信アンテナとビーム方向B1の送信アンテナとで異なるので、レーダ装置10は、ビーム方向B1の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合と、ビーム方向B2の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合とを、後述する符号化ドップラ多重分離部212において判別可能となる。
【0198】
また、この判別結果により、ビーム方向B1の送信アンテナ(Tx#1~#3)の受信信号であると判別された場合、ビーム方向B1のTx#1~#3に対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、レーダ装置10は、例えば、特許文献5、6等に開示される動作により、多重信号を分離可能となる。また、ビーム方向B2の送信アンテナ(Tx#4~#6)の受信信号であると判別された場合、ビーム方向B2のTx#4~#6に対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、レーダ装置10は、同様に、多重信号を分離可能となる。
【0199】
また、位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定が、条件1に加え、条件2を満たすことにより、ドップラ検出範囲を、1送信アンテナ時と同等の範囲(±1/(2Tr)の範囲)に拡大できる(例については後述する)。
【0200】
このような符号化ドップラ多重分離部212の動作により、レーダ装置10は、物標のドップラ周波数fdを、-1/(2Tr)≦fd<1/(2Tr)の範囲で確定でき、それぞれの符号化ドップラ多重信号に対する送信アンテナを対応付けた出力を得ることができる。
【0201】
<設定例4>
設定例4は、条件1(異なる符号多重パターン条件)を満たし、条件2を満たさない場合の符号化ドップラ位相回転量の設定例である。
【0202】
図13は、送信アンテナ数Nt=3、NB1=2、NB2=1の場合の位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定例を示す。
【0203】
図13において、Tx#1及びTx#2はビーム方向B1の送信アンテナであり、Tx#3はビーム方向B2の送信アンテナである。図13において、網掛けの丸印はビーム方向B1の送信アンテナ(Tx#1及びTx#2)の符号化ドップラ多重信号の割り当て、白丸印はビーム方向B2の送信アンテナ(Tx#3)の符号化ドップラ多重信号の割り当てを示す。
【0204】
また、図13において、ドップラ多重数NDM=2であり、ドップラシフト設定部106は、2つのドップラシフト量DOP1、DOP2を、例えば、式(5)に示す最大等間隔ドップラシフト量設定を用いて設定してよい。図13において、ドップラシフト量DOP1=0を付与する位相回転量φ1=0、ドップラシフト量DOP2=-Δfdを付与する位相回転量φ2=πとなる。図13に示すように、ドップラ多重間隔Δfdは等間隔となり、Δfd=1/(4Tr)である。
【0205】
図13では、送信アンテナ数Nt=3、ドップラ多重数NDM=2、符号多重数NCM=2であり、Nt <NDM×NCMであるので、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定できる(ここで、ndm=1~NDM)。
【0206】
図13に示すように、符号化部107において、ドップラシフト設定部106から入力される2つのドップラシフト量DOP1、DOP2を用いたドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数は、それぞれ、NDOP_CODE(1)=1, NDOP_CODE(2)=2である。このように、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1)≠ NDOP_CODE(2)として不均一に設定する。
【0207】
また、図13では、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1、Tx#2に対して、ドップラシフト設定部106は、ドップラ多重数NDM=2のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP、DOP2を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B1=2)。また、符号化部107は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1、Tx#2に対して割り当てたドップラシフト量DOP、DOP2を用いたドップラ多重信号対して、それぞれ、Code1、Codeを割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1、Tx#2のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(m)、ψ1, 2(m)を設定する。
【0208】
また、図13では、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3に対して、ドップラシフト設定部106は、ドップラ多重数NDM=2のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP2を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B2=1)。また、符号化部107は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3に対して割り当てたドップラシフト量DOP2を用いたドップラ多重信号対して、Code2を割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3に対して、符号化ドップラ位相回転量ψ2, 2(m)を設定する。
【0209】
図13において、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナに対して、ドップラシフト設定部106が割り当てるドップラ多重数は、NDM_B1=2、NDM_B2=1の異なるドップラ多重数であるため、条件1のA-2を満たす。
【0210】
また、図13において、ドップラ多重信号DOP1、DOP2を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナのそれぞれに対して割り当てられる符号Indexは、CodeIndex_B1=(1,1)、CodeIndex_B2=(*,2)であり、巡回不一致となり、符号INDEX間隔が異なるため、条件1のB-1を満たす。
【0211】
また、図13において、ドップラ多重信号DOP1、DOP2を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナのそれぞれに対して割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1=(1,1), N_Code_B2=(0,1)であり、符号多重数が異なるため、条件1のB-2を満たす。
【0212】
なお、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(4Tr)あるいは1/(4Tr)≦fdtarget<1/(2Tr)の場合、後述するドップラ解析部210では折り返したドップラ周波数が観測される。この場合の符号IndexはCodeIndex_B1_alias=(2,2)、及び、CodeIndex_B2_alias=(*,1)となり、異なる(巡回不一致となる)。よって、図13の例では、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(2Tr)の範囲において、符号Indexは、巡回不一致となり、符号間隔が異なる。したがって、条件1のB-1、B-2を満たし、異なる符号多重パターン条件に合致する。
【0213】
以上より、図13に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件1を満たす設定例である。
【0214】
また、図13では、ビーム方向B1の送信アンテナにおける各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数はN_Code_B1=(1,1)であり、ドップラ多重信号間で均一となる符号多重数で多重送信されるため、条件2を満たさない。
【0215】
その一方で、図13では、ビーム方向B2の送信アンテナにおける各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数はN_Code_B2=(0,1)であり、ドップラ多重信号間で不均一となる符号多重数で多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲に含まれる。したがって、図12に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件2を満たす設定例である。
【0216】
以上より、図13に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、ビーム方向B1の送信アンテナに対して条件2を満たさず、ビーム方向B2の送信アンテナに対して条件2を満たす設定例である。
【0217】
以下、送信アンテナ部109が、図13に示すドップラシフト量の設定に基づくビーム方向B1及びB2の異なるビーム方向の送信アンテナを含み、受信アンテナ部202が、無指向性アンテナ(又は、ビーム方向B1及びビーム方向B2の双方の送信アンテナがカバーする視野角内においてほぼ均一の指向特性のアンテナ)である場合のドップラ解析部210の出力における受信信号の例について説明する。
【0218】
例えば、物標方向が図10に示す物標方向(1)の場合(例えば、ビーム方向B1の周辺に物標が存在する場合)、あるいは、物標方向が図10に示す物標方向(3)の場合(例えば、ビーム方向B2の周辺に物標が存在する場合)、符号多重数がビーム方向B1の送信アンテナとビーム方向B1の送信アンテナとで異なるので、レーダ装置10は、ビーム方向B1の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合と、ビーム方向B2の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合とを、後述する符号化ドップラ多重分離部212において判別可能となる。
【0219】
また、この判別結果により、ビーム方向B1の送信アンテナ(Tx#1、Tx#2)の受信信号であると判別された場合、ビーム方向B1のTx#1、Tx#2に対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、レーダ装置10は、例えば、特許文献5、6等に開示される動作により、多重信号を分離可能となる。また、ビーム方向B2の送信アンテナ(Tx#3)の受信信号であると判別された場合、ビーム方向B2のTx#3に対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、レーダ装置10は、同様に、多重信号を分離可能となる。
【0220】
また、設定例4では、位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定が、ビーム方向B1に対して条件2を満たさない。この場合、検出可能なドップラ周波数範囲fdは、物標方向に依存して、-1/(2 Tr)≦fd < 1/(2Tr)の範囲、あるいは、-1/(2Loc NDM_B1Tr)≦fd < 1/(2 Loc NDM_B1Tr)の範囲であり、等間隔DDMのドップラ検出範囲-1/(6 Tr)≦fd < 1/(6 Tr)よりも、物標方向に依存して、ドップラ検出範囲拡大できる効果が得られる。
【0221】
<設定例5>
設定例5は、条件1(異なるドップラ多重パターン条件及び符号多重パターン条件)を満たし、条件2を満たさない場合の符号化ドップラ位相回転量の設定例である。
【0222】
図14は、送信アンテナ数Nt=4、NB1=2、NB2=2の場合の位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定例を示す。
【0223】
図14において、Tx#1及びTx#2はビーム方向B1の送信アンテナであり、Tx#3及びTx#4はビーム方向B2の送信アンテナである。図14において、網掛けの丸印はビーム方向B1の送信アンテナ(Tx#1及びTx#2)の符号化ドップラ多重信号の割り当て、白丸印はビーム方向B2の送信アンテナ(Tx#3及びTx#4)の符号化ドップラ多重信号の割り当てを示す。
【0224】
また、図14において、ドップラ多重数NDM=3であり、ドップラシフト設定部106は、3つのドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を、例えば、式(5)に示す最大等間隔ドップラシフト量設定を用いて設定してよい。図14において、ドップラシフト量DOP1=0、DOP2=Δfd、DOP3=-Δfdを付与する位相回転量は、それぞれ、φ1=0、φ2=2π/3、φ3=4π/3(あるいはφ3=-2π/3としてもよい)となる。図14に示すように、ドップラ多重間隔Δfdは等間隔となり、Δfd=1/(6Tr)である。
【0225】
図14では、送信アンテナ数Nt=4、ドップラ多重数NDM=3、符号多重数NCM=2であり、Nt <NDM×NCMであるので、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定できる(ここで、ndm=1~NDM)。
【0226】
図14に示すように、符号化部107において、ドップラシフト設定部106から入力される3つのドップラシフト量DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数は、それぞれ、NDOP_CODE(1)=1, NDOP_CODE(2)=1, NDOP_CODE(3)=2である。このように、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1)= NDOP_CODE(2)≠ NDOP_CODE(3)として不均一に設定する。
【0227】
また、図14では、ビーム方向B1方向の送信アンテナTx#1、Tx#2に対して、ドップラシフト設定部106は、ドップラ多重数NDM=3のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP2を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B1=2)。また、符号化部107は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1、Tx#2に対して割り当てたドップラシフト量DOP1、DOP2を用いたドップラ多重信号対して、それぞれ、Code2、Code2を割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1、Tx#2のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ2, 1(m)、ψ2, 2(m)を設定する。
【0228】
また、図14では、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3、Tx#4に対して、ドップラ多重数NDM=3のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP3を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B2=1)。また、符号化部107は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3、Tx#4に対して割り当てたドップラシフト量DOP3を用いたドップラ多重信号対して、Code1及びCode2の2符号を割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3、Tx#4に対して、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 3(m)、ψ2, 3(m)を設定する。
【0229】
図14において、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナに対して、ドップラシフト設定部106が割り当てるドップラ多重数は、NDM_B1=2、NDM_B2=1の異なるドップラ多重数であるため、条件1のA-2を満たす。
【0230】
また、図14において、ドップラ多重信号DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナのそれぞれに対して割り当てられる符号Indexは、CodeIndex_B1=(1,1,*)、CodeIndex_B2=(*,*,1&2)であり、巡回不一致となり、符号INDEX間隔が異なるため、条件1のB-1を満たす。
【0231】
また、図14において、ドップラ多重信号DOP1、DOP2、DOP3を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1の送信アンテナ、及び、ビーム方向B2の送信アンテナのそれぞれに対して割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1=(1,1,0), N_Code_B2=(0,0,2)であり、符号多重数が異なるため、条件1のB-2を満たす。
【0232】
なお、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(4Tr)あるいは1/(4Tr)≦fdtarget<1/(2Tr)の場合、後述するドップラ解析部210では折り返したドップラ周波数が観測され、この場合の符号IndexはCodeIndex_B1_alias=(2,2,*)、及び、CodeIndex_B2_alias=(*,*,1&2)となり、異なる(巡回不一致となる)。よって、図14の例では、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(2Tr)の範囲において、符号Indexは、巡回不一致となり、符号間隔が異なる。したがって、条件1のB-1、B-2を満たし、異なる符号多重パターン条件に合致する。
【0233】
以上より、図14に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件1を満たす設定例である。
【0234】
また、図14では、ビーム方向B1の送信アンテナにおける各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数はN_Code_B1=(1,1,0)であり、ドップラ多重信号間で不均一となる符号多重数で多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲に含まれるので、条件2を満たす。
【0235】
その一方で、図14では、ビーム方向B2の送信アンテナにおける各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数はN_Code_B2=(0,0,2)であり、ドップラ多重信号間で不均一となる符号多重数で多重送信されるが、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲に含まれないため、条件2を満たさない。
【0236】
以上より、図14に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、ビーム方向B1の送信アンテナに対して条件2を満たし、ビーム方向B2の送信アンテナに対して条件2を満たさない設定例である。
【0237】
以下、送信アンテナ部109が、図14に示すドップラシフト量の設定に基づくビーム方向B1及びB2の異なるビーム方向の送信アンテナを含み、受信アンテナ部202が、無指向性アンテナ(又は、ビーム方向B1及びビーム方向B2の双方の送信アンテナがカバーする視野角内においてほぼ均一の指向特性のアンテナ)である場合のドップラ解析部210の出力における受信信号の例について説明する。
【0238】
例えば、物標方向が図10に示す物標方向(1)の場合(例えば、ビーム方向B1の周辺に物標が存在する場合)、あるいは、物標方向が図10に示す物標方向(3)の場合(例えば、ビーム方向B2の周辺に物標が存在する場合)、符号多重数がビーム方向B1の送信アンテナとビーム方向B1の送信アンテナとで異なるので、レーダ装置10は、ビーム方向B1の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合と、ビーム方向B2の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合とを、後述する符号化ドップラ多重分離部212において判別可能となる。
【0239】
また、この判別結果により、ビーム方向B1の送信アンテナ(Tx#1、Tx#2)の受信信号であると判別された場合、ビーム方向B1のTx#1、Tx#2に対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、レーダ装置10は、例えば、特許文献5、6等に開示される動作により、多重信号を分離可能となる。また、ビーム方向B2の送信アンテナ(Tx#3、Tx#4)の受信信号であると判別された場合、ビーム方向B2のTx#3、Tx#4に対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、レーダ装置10は、同様に多重信号を分離可能となる。
【0240】
また、設定例5では、位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定が、ビーム方向B2に対して、条件2を満たさない。この場合、検出可能なドップラ周波数範囲fdは、物標方向に依存して、-1/(2 Tr)≦fd < 1/(2Tr)の範囲、あるいは、-1/(2Loc NDM_B2Tr)≦fd < 1/(2 Loc NDM_B2Tr)の範囲であり、等間隔DDMのドップラ検出範囲-1/(6 Tr)≦fd < 1/(6 Tr)よりも、物標方向に依存して、ドップラ検出範囲拡大できる効果が得られる。
【0241】
以上、位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定例について説明した。
【0242】
なお、符号化ドップラ位相回転量の設定は、上述した設定例1~5に限定されない。例えば、送信アンテナ数Nt、ビーム方向B1の送信アンテナ数NB1、ビーム方向B2の送信アンテナ数NB2、ドップラ多重数(NDM、NDM_B1、NDM_B2)、符号多重数(NCM、NCM_B1、NCM_B2)、マルチビーム数NB、符号間隔、ドップラシフト間隔の少なくとも一つは他の値でもよい。
なお、上記の設定例1~5は、符号多重数NCM=2の符号を用いた設定例を示したが、これに限定されず、例えば、符号多重数NCM≧3として設定しても同様な符号化ドップラ位相回転量の設定が可能である。
【0243】
[レーダ受信部200の構成]
図5において、レーダ受信部200は、Na個の受信アンテナRx#1~Rx#Naを含む受信アンテナ部202を備える。また、レーダ受信部200は、Na個のアンテナ系統処理部201-1~201-Naと、CFAR(Constant False Alarm Rate)部211と、符号化ドップラ多重分離部212と、方向推定部213と、を有する。なお、Na個のアンテナ系統処理部201-1~201-Naと、CFAR部211と、符号化ドップラ多重分離部212と、方向推定部213と、をまとめて、受信回路と称してもよい。なお、受信回路は、送信信号が物標(ターゲット)で反射した反射波信号を用いてターゲットの方向推定を行う。
【0244】
受信アンテナ部202の受信アンテナRx#1~Rx#Naは、物標(ターゲット)で反射したレーダ送信信号である反射波信号を受信し、受信した反射波信号を、対応するアンテナ系統処理部201へ受信信号として出力する。
【0245】
各アンテナ系統処理部201は、受信無線部203と、信号処理部206とを有する。
【0246】
Na個の受信アンテナRx#1~Rx#Naにおいて受信された各信号は、それぞれNa個の受信無線部203に出力される。また、Na個の受信無線部203からの出力信号は、それぞれNa個の信号処理部206に出力される。
【0247】
受信無線部203は、ミキサ部204と、LPF(low pass filter)205と、を有する。ミキサ部204は、受信した反射波信号と、レーダ送信信号生成部101から入力される、送信信号であるチャープ信号とのミキシングを行う。受信無線部203は、例えば、ミキサ部204の出力にLPF205を通過させる。これにより、反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が出力される。例えば、送信信号(レーダ送信波)である送信チャープ信号(送信周波数変調波)の周波数と、受信信号(レーダ反射波)である受信チャープ信号(受信周波数変調波)の周波数との差分周波数がビート周波数として得られる。
【0248】
各アンテナ系統処理部201-z(ただし、z=1~Naの何れか)の信号処理部206は、AD変換部207と、ビート周波数解析部208と、出力切替部209と、ドップラ解析部210と、を有する。
【0249】
LPF205から出力された信号(例えば、ビート信号)は、信号処理部206において、AD変換部207によって、離散的にサンプリングされた離散サンプルデータに変換される。
【0250】
ビート周波数解析部208は、送信周期Tr毎に、規定された時間範囲(レンジゲート)において得られたNdata個の離散サンプルデータを周波数解析処理(例えば、FFT処理)する。これにより、信号処理部206では、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。
【0251】
ここで、第m番目のチャープパルス送信によって得られる第z番目の信号処理部206におけるビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答を「RFT(fb, m)」で表す。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、FFTのインデックス(ビン番号)に対応する。例えば、fb=0,~,(Ndata/2)-1であり、z=1~Naであり、m=1~NCである。ビート周波数インデックスfbが小さいほど、反射波信号の遅延時間が小さい(例えば、物標との距離が近い)ビート周波数を示す。
【0252】
また、ビート周波数インデックスfbは、次式(10)を用いて距離情報R(fb)に変換できる。そのため、以下では、ビート周波数インデックスfbを「距離インデックスfb」と呼ぶ。
【数10】
【0253】
ここで、Bwは、チャープ信号におけるレンジゲート内での周波数変調帯域幅を表し、C0は光速度を表す。また、式(10)において、C0/(2Bw)は、距離分解能を表す。
【0254】
出力切替部209は、位相回転量設定部105の符号化部107から入力される直交符号要素インデックスOC_INDEXに基づいて、送信周期毎のビート周波数解析部208の出力を、Loc個のドップラ解析部210のうち、OC_INDEX番目のドップラ解析部210に選択的に切り替えて出力する。例えば、出力切替部209は、第m番目の送信周期Trにおいて、式(8)により得られるOC_INDEX番目のドップラ解析部210を選択する。
【0255】
信号処理部206は、Loc個のドップラ解析部210-1~210-Locを有する。例えば、第noc番目のドップラ解析部210には、出力切替部209によってLoc回の送信周期(Loc×Tr)毎にデータが入力される。このため、第noc番目のドップラ解析部210は、Nc回の送信周期のうち、Ncode回の送信周期のデータ(例えば、ビート周波数解析部208から入力されるビート周波数応答RFT(fb, m))を用いて、距離インデックスfb毎にドップラ解析を行う。ここで、nocは符号要素のインデックスであり、noc=1~Locである。
【0256】
例えば、Ncodeが2のべき乗値である場合、ドップラ解析においてFFT処理を適用できる。この場合、FFTサイズはNcodeであり、サンプリング定理から導出される折り返しが発生しない最大ドップラ周波数は±1/(2Loc×Tr)である。また、ドップラ周波数インデックスfsのドップラ周波数間隔は1/(Ncode×Loc×Tr)であり、ドップラ周波数インデックスfsの範囲はfs = -Ncode/2,~, 0,~,Ncode/2-1である。
【0257】
以下では、一例として、Ncodeが2のべき乗値である場合について説明する。なお、Ncodeが2のべき乗でない場合には、例えば、ゼロ埋めしたデータを含めることで2のべき乗個のデータサイズ(FFTサイズ)としてFFT処理が可能である。
【0258】
例えば、第z番目の信号処理部206のドップラ解析部210の出力VFT noc(fb, fs)は、次式(11)に示される。なお、jは虚数単位であり、z=1~Naである。
【数11】
【0259】
以上、信号処理部206の各構成部における処理について説明した。
【0260】
[CFAR部211の動作例]
図5において、CFAR部211は、第1~第Na番目の信号処理部206それぞれのLoc個のドップラ解析部210の出力を用いて、CFAR処理(例えば、適応的な閾値判定)を行い、ピーク信号を与える距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_cfarを抽出する。
【0261】
CFAR部211は、例えば、次式(12)のように、第1~第Na番目の信号処理部206のドップラ解析部210の出力VFTz noc(fb, fs)を電力加算し、距離軸とドップラ周波数軸(相対速度に相当)とからなる2次元のCFAR処理、又は、1次元のCFAR処理を組み合わせたCFAR処理を行う(例えば、非特許文献2に開示された処理が適用されてよい。)。
【数12】
【0262】
CFAR部211は、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となる距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfs_cfar、及び、受信電力情報PowerFT(fb_cfar, fs_cfar)を符号化ドップラ多重分離部212に出力する。
【0263】
なお、ドップラシフト量DOPndmを付与するための位相回転量φndmとして、例えば、式(5)を用いる場合、ドップラ解析部210の出力におけるドップラ周波数領域のドップラシフト量の間隔は等間隔となり、ドップラ周波数インデックスの間隔でドップラシフト量の間隔ΔFDを表すと、ΔFD=Ncode/NDMとなる。そのため、ドップラ解析部210の出力において、ドップラ周波数領域では、ドップラシフト多重される各信号に対して、ΔFDの間隔でピークがそれぞれ検出される。
【0264】
図15の(a)は、NDM=2の場合に3つのターゲットの反射波が存在する距離におけるドップラ解析部210の出力の一例を示す。例えば、図15の(a)に示すように、3つのターゲットの反射波がドップラ周波数インデックスf1、f2及びf3で観測される場合、当該反射波は、f1、f2及びf3それぞれに対して、ΔFDの間隔のドップラ周波数インデックス(例えば、f1-ΔFD、f2-ΔFD、f3-ΔFD+Ncode)においても観測される。
【0265】
したがって、CFAR部211は、ドップラ解析部210の各出力に対して、ドップラシフト量の間隔ΔFDの範囲で分割し、分割した各範囲に対して、次式(13)に示すように、ドップラ多重した各信号ピーク位置を電力加算(例えば、「ドップラ領域圧縮」と呼ぶ)した後に、CFAR処理(例えば、「ドップラ領域圧縮CFAR処理」と呼ぶ)を行ってよい。ここで、fs_comp=-ΔFD/2,…,- ΔFD/2-1である。例えば、ΔFD=Ncode/NDMの場合は、fs_comp =Ncode/(2NDM),…,Ncode/(2NDM)-1である。
【数13】
【0266】
ただし、式(13)において、
【数14】
の場合は、Ncodeを加えたドップラ周波数インデックスを用いる。
【0267】
同様に、式(13)において、
【数15】
の場合は、更に、Ncodeを減算したドップラ周波数インデックスを用いる。
【0268】
図15の(b)は、図15の(a)で示したドップラ解析部210の出力に対して、式(13)に示すドップラ領域圧縮処理を適用後の出力例を示す。図15の(b)に示すように、NDM=2の場合、CFAR部211は、ドップラ領域圧縮処理によって、ドップラ周波数インデックスf1の電力成分と、f1-ΔFDの電力成分とを加算して出力する。同様に、図15の(b)に示すように、CFAR部211は、ドップラ周波数インデックスf2の電力成分と、f2-ΔFDの電力成分とを加算して出力する。また、ドップラ周波数インデックスf3の電力成分について、f3-ΔFDが-Ncode/2よりも小さいため、CFAR部211は、ドップラ周波数インデックスf3の電力成分と、f3-ΔFD+Ncode(例えば、NDM=2の場合はf3+ΔFD)の電力成分とを加算して出力する。
【0269】
ドップラ領域圧縮の結果、ドップラ周波数領域においてドップラ周波数インデックスfs_compの範囲は、-ΔFD/2以上,~, ΔFD/2-1以下(ΔFD=Ncode/NDM の場合、-Ncode/(2NDM)以上,…,Ncode/(2NDM)-1以下)に削減される。
【0270】
ドップラ領域圧縮CFAR処理を用いたCFAR部211は、例えば、適応的に閾値を設定し、閾値よりも大きい受信電力となる距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfs_comp_cfar、及び、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力情報PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)、nfd=1,…,NDMを符号化ドップラ多重分離部212に出力する。
【0271】
[符号化ドップラ多重分離部212の動作例]
次に、図5に示す符号化ドップラ多重分離部212の動作例について説明する。
【0272】
なお、以下では、CFAR部211において、ドップラ領域圧縮CFAR処理を用いた場合の符号化ドップラ多重分離部212の処理の一例について説明する。また、複数の受信アンテナとして、無指向性アンテナ(あるいは複数の異なるビーム方向の送信アンテナがカバーする視野角全体でほぼ均一な指向特性のアンテナ)を用いた場合の符号化ドップラ多重分離部212の動作を説明する。
【0273】
図16は、符号化ドップラ多重分離部212における分離動作の例を示すフローチャートである。
【0274】
<ステップA-1>
符号化ドップラ多重分離部212は、Nt個の符号化ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重分離処理を行う。
【0275】
例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、CFAR部211から入力される距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfs_comp_cfar、及び、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力情報(PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)、nfd=1~NDM)に基づいて、ドップラ解析部210の出力を用いて、Nt個の符号化ドップラ多重送信された信号を分離し、送信アンテナの判別(例えば、判定又は識別)、及び、ドップラ周波数(例えば、ドップラ速度又は相対速度)の判別を行う。
【0276】
上述したように、位相回転量設定部105の符号化部107は、最大等間隔ドップラシフト量の設定を含む等間隔ドップラシフト量の設定を用いる場合、例えば、NDM個の符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1), NDOP_CODE(2),…, NDOP_CODE(NDM)の全てをNCM個に設定せず、少なくとも1つの符号化ドップラ多重数をNCM個より小さい値に設定(不均一に設定)することを利用する。
【0277】
例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、(1)符号分離処理を行い、符号化ドップラ多重数をNCM個より小さく設定した符号化ドップラ多重信号を検出し(例えば、多重送信に用いない未使用の符号化ドップラ多重信号を検出し)、折り返し判定を行う。その後、符号化ドップラ多重分離部212は、(2)折り返し判定結果に基づいて、多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号のドップラ符号分離処理を行う。
【0278】
このような符号化ドップラ多重分離部212の動作は、既存の符号化ドップラ多重送信を用いたMIMOレーダにおける符号化ドップラ多重分離部と同様な動作であり、例えば、特許文献5,6に記載されているので、その詳細な動作説明は省略する。
【0279】
なお、最大等間隔ドップラシフト量設定を含む等間隔ドップラシフト量設定として、例えば、NDM個の符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1), NDOP_CODE(2),~, NDOP_CODE(NDM)の全てをNCM個に設定せず、少なくとも1つの符号化ドップラ多重数をNCM個より小さい値に設定する場合、上述した符号化ドップラ多重分離部212の動作により、-1/(2Tr) ≦ fd <1/(2Tr)の範囲で推定した物標のドップラ周波数が検出可能となる(例えば、特許文献5,6)。
【0280】
<ステップA-2>
符号化ドップラ多重分離部212は、Nt個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出されたか否かを判定する。符号化ドップラ多重分離部212は、Nt個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出される場合はステップA-3の処理を行い、正常に検出されない場合はステップB-1の処理を行う。
【0281】
例えば、ステップA-1の処理において、マルチビームの主ビーム方向と物標方向との一致性に依存して、Nt個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出されない場合がある。
【0282】
例えば、2つのビーム方向B1及びビーム方向B2の送信アンテナを用いてマルチビームMIMOレーダを構成し、位相回転量設定部105の設定がNDM>NDM_B1、あるいは、NDM>NDM_B2とする(ここで、NDM_B1、NDM_B2<NDM)。この場合、マルチビームの主ビーム方向と物標方向とが一致せず、ヌル方向に物標が存在する場合、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)間において、所定値以上に受信電力が異なるか、あるいは、ノイズレベル程度に受信電力が小さい成分が含まれることになる。このような場合、符号化ドップラ多重分離部212は、NDM個よりも少ない符号化ドップラ多重信号を検出するため、正常な検出でないと判定し、ステップB-1の処理を行う。
【0283】
また、例えば、ビーム方向B1の送信アンテナに対して、位相回転量設定部105の設定がNDM=NDM_B1であり、マルチビームの主ビーム方向B2と物標方向とが一致せず、ヌル方向に物標方向がある場合、あるいは、ビーム方向B2の送信アンテナに対して、位相回転量設定部105の設定がNDM=DM_B2であり、マルチビームの主ビーム方向B2と物標方向とが一致せず、ヌル方向に物標方向がある場合、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)間において、所定範囲内の受信電力が受信されることになる。この場合、符号分離処理の際に、多重送信に用いない未使用の符号化ドップラ多重信号が、想定している(NDM-Nt)個よりも多くなるため、符号化ドップラ多重分離部212は、折り返し判定に失敗し、Nt個の符号化ドップラ多重信号を正常に検出することが困難となる。したがって、符号化ドップラ多重分離部212は、多重送信に用いない未使用の符号化ドップラ多重信号が、想定している(NDM-Nt)個よりも多く検出されるため、正常な検出でないと判定し、ステップB-1の処理を行う。
【0284】
<ステップA-3>
符号化ドップラ多重分離部212は、折り返し判定結果に基づいて、多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号の符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ncm,ndm)を、距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックス fs_comp_cfarと共に、方向推定部213へ出力する。
【0285】
ここで、Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)は、第z番のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_comp_cfar、における、ドップラシフト量DOPndm及び直交符号Codendop_code(ndm)を用いた符号化ドップラ多重信号の分離した出力(例えば、符号化ドップラ多重分離結果)である。例えば、Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)は、送信アンテナTx#[ndop_code(ndm), ndm]から送信され、物標により反射されて、第z番のアンテナ系統処理部201で受信された受信信号を表す。なお、z=1~Naであり、ncm=1~NCMである。また、ndm=1~NDMであり、ndop_code(ndm)=1~NDOP_CODE(ndm)である
【0286】
また、符号化ドップラ多重分離部212は、例えば、検出された物標のドップラ周波数に関する情報を方向推定部213へ出力してもよい。
【0287】
なお、条件2を満たす場合、符号化ドップラ多重分離部212は、折り返し判定結果を用いることにより、-1/(2Tr) ≦ fd <1/(2Tr)の範囲で推定した物標のドップラ周波数を検出できる。
【0288】
<ステップB-1>
符号化ドップラ多重分離部212は、物標方向がビーム方向B1となる場合を想定して、NB1個の符号化ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重分離処理を行う。
【0289】
例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、CFAR部211から入力される距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfs_comp_cfar、及び、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力情報(PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)、nfd=1~NDM)に基づいて、ドップラ解析部210の出力を用いて、NB1個の符号化ドップラ多重送信された信号を分離し、送信アンテナの判別(例えば、判定又は識別)、及び、ドップラ周波数(例えば、ドップラ速度又は相対速度)の判別を行う。
【0290】
ここで、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)間で、所定値以上に受信電力が異なる場合、あるいは、ノイズレベル程度に受信電力が小さい成分が(NDM-NDM_B1)個含まれる場合がある。なお、位相回転量設定部105の設定が、NDM=NDM_B1である場合は、(NDM-NDM_B1)=0であり、ノイズレベル程度に受信電力が小さい成分は含まれない。これらのドップラ多重信号は、多重送信に用いない未使用のドップラ多重信号である。
【0291】
したがって、符号化ドップラ多重分離部212は、例えば、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)間において、電力上位のNDM_B1個のドップラ多重信号を抽出する。
【0292】
例えば、抽出した電力上位のNDM_B1個のドップラ多重信号のドップラ多重間隔が、ビーム方向B1の送信アンテナに割り当てられるドップラ多重間隔に一致する場合、符号化ドップラ多重分離部212は、(1)符号分離処理を行い、ビーム方向B1の送信アンテナに割り当てられる符号化ドップラ多重信号から、符号化ドップラ多重数をNCM個より小さく設定した符号化ドップラ多重信号を検出し(例えば、多重送信に用いない未使用の符号化ドップラ多重信号を検出し)、折り返し判定を行う。その後、符号化ドップラ多重分離部212は、(2)折り返し判定結果に基づいて、多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号のドップラ符号分離処理を行う。
【0293】
このような符号化ドップラ多重分離部212の動作は、既存の符号化ドップラ多重送信を用いたMIMOレーダにおける符号化ドップラ多重分離部と同様な動作であり、例えば、特許文献5,6に記載されているので、その詳細な動作説明は省略する。
【0294】
なお、符号化ドップラ位相回転量の設定が条件2を満たすことにより、例えば、上述した符号化ドップラ多重分離部212の動作により、-1/(2Tr) ≦ fd <1/(2Tr)の範囲で推定した物標のドップラ周波数が検出可能となる(例えば、特許文献5,6)。
【0295】
<ステップB-2>
符号化ドップラ多重分離部212は、ビーム方向B1に含まれるNB1個の送信アンテナに対して割り当てられるNB1個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出されるかを判定する。符号化ドップラ多重分離部212は、NB1個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出される場合はステップB-3の処理を行い、正常に検出されない場合はステップC-1の処理を行う。
【0296】
例えば、ステップB-1の処理において、マルチビームの主ビーム方向と物標方向との一致性に依存して、NB1個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出されない場合がある。
【0297】
符号化ドップラ多重分離部212は、例えば、抽出した電力上位のNDM_B1個のドップラ多重信号と、他の電力下位の(NDM-NDM_B1)個のドップラ多重信号との間において、所定レベル以上の電力差(あるいは電力比)とならない場合、物標方向がビーム方向B1ではない場合と判定し、ステップC-1の処理を行う。
【0298】
また、抽出した電力上位のNDM_B1個のドップラ多重信号のドップラ多重間隔が、ビーム方向B1の送信アンテナに割り当てたドップラ多重間隔に一致しない場合、符号化ドップラ多重分離部212は、物標方向がビーム方向B1ではない場合と判定し、ステップC-1の処理を行う。
【0299】
また、例えば、ビーム方向B1に対して、位相回転量設定部105の設定がNDM_B1=NDM_B2とする。この場合、マルチビームの主ビーム方向B2と物標方向とが一致せず、ヌル方向に物標が存在する場合、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)間において、所定範囲内の受信電力が受信されることになる。このような場合、符号分離処理の際に、多重送信に用いない未使用の符号化ドップラ多重信号が、想定しているNB1個の符号化ドップラ多重信号の符号間隔と異なる。このため、符号化ドップラ多重分離部212は、折り返し判定に失敗し、NB1個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出することが困難となる。このような場合、符号化ドップラ多重分離部212は、NB1個の符号化ドップラ多重信号に対する正常な検出ではないと判定し、ステップC-1の処理を行う。
【0300】
<ステップB-3>
符号化ドップラ多重分離部212は、ステップB-2の処理結果に基づいて、ビーム方向B1のNB1個の送信アンテナの多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号の符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号YB1z(fb_cfar,fs_comp_cfar,ncm,ndm)を、距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックス fs_comp_cfarと共に、方向推定部213へ出力する。
【0301】
ここで、YB1z(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)は、第z番のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_comp_cfar、における、ドップラシフト量DOPndm及び直交符号Codendop_code(ndm)を用いた符号化ドップラ多重信号の分離した出力(例えば、符号化ドップラ多重分離結果)である。例えば、YB1z(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)は、ビーム方向B1のNB1個の送信アンテナTx#[ndop_code(ndm), ndm]から送信され、物標により反射されて、第z番のアンテナ系統処理部201で受信された受信信号を表す。なお、z=1~Naである。また、ndm=1~NDMであり、ndop_code(ndm)=1~NDOP_CODE(ndm)であり、ビーム方向B1となるNB1個の送信アンテナに割り当てた信号以外はゼロとして出力される。
【0302】
また、符号化ドップラ多重分離部212は、検出された物標のドップラ周波数を方向推定部213へ出力してもよい。
【0303】
なお、条件2を満たす場合、符号化ドップラ多重分離部212は、折り返し判定結果を用いることにより、-1/(2Tr) ≦ fd <1/(2Tr)の範囲で推定した物標のドップラ周波数を検出できる。
【0304】
<ステップC-1>
符号化ドップラ多重分離部212は、物標方向がビーム方向B2となる場合を想定して、NB2個の符号化ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重分離処理を行う。
【0305】
例えば、符号化ドップラ多重分離部212は、CFAR部211の出力である距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfs_comp_cfar、及び、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力情報(PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)、nfd=1~NDM)に基づいて、ドップラ解析部210の出力を用いて、NB2個の符号化ドップラ多重送信された信号を分離し、送信アンテナ判別(例えば、判定又は識別)、及び、ドップラ周波数(例えば、ドップラ速度又は相対速度)の判別を行う。
【0306】
ここで、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)間で、所定値以上に受信電力が異なる場合、あるいはノイズレベル程度に受信電力が小さい成分が(NDM-NDM_B2)個含まれる場合がある。なお、位相回転量設定部105の設定が、NDM=NDM_B2である場合は(NDM-NDM_B2)=0であり、ノイズレベル程度に受信電力が小さい成分は含まれない。これらのドップラ多重信号は、多重送信に用いない未使用のドップラ多重信号である。
【0307】
したがって、符号化ドップラ多重分離部212は、例えば、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)間において、電力上位のNDM_B2個のドップラ多重信号を抽出する。
【0308】
例えば、抽出した電力上位のNDM_B2個のドップラ多重信号のドップラ多重間隔が、ビーム方向B2の送信アンテナに割り当てられるドップラ多重間隔に一致する場合、符号化ドップラ多重分離部212は、(1)符号分離処理を行い、ビーム方向B2の送信アンテナに割り当てられる符号化ドップラ多重信号から、符号化ドップラ多重数をNCM個より小さく設定した符号化ドップラ多重信号を検出し(例えば、多重送信に用いない未使用の符号化ドップラ多重信号を検出し)、折り返し判定を行う。その後、符号化ドップラ多重分離部212は、(2)折り返し判定結果に基づいて、多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号のドップラ符号分離処理を行う。
【0309】
このような符号化ドップラ多重分離部212の動作は、既存の符号化ドップラ多重送信を用いたMIMOレーダにおける符号化ドップラ多重分離部と同様な動作であり、例えば、特許文献5,6に記載されているので、その詳細な動作説明は省略する。
【0310】
なお、符号化ドップラ位相回転量の設定が条件2を満たすことにより、例えば、上述した符号化ドップラ多重分離部212の動作により、-1/(2Tr) ≦ fd <1/(2Tr)の範囲で推定した物標のドップラ周波数が検出可能となる(例えば、特許文献5,6)。
【0311】
<ステップC-2>
符号化ドップラ多重分離部212は、ビーム方向B2に含まれるNB2個の送信アンテナに対して割り当てられるNB2個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出されるかを判定する。符号化ドップラ多重分離部212は、NB2個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出される場合はステップC-3の処理を行い、正常に検出されない場合はステップDの処理を行う。
【0312】
例えば、ステップC-1の処理において、マルチビームの主ビーム方向と物標方向との一致性に依存して、NB2個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出されない場合がある。
【0313】
符号化ドップラ多重分離部212は、例えば、抽出した電力上位のNDM_B2個のドップラ多重信号と、他の電力下位の(NDM-NDM_B2)個のドップラ多重信号との間において、所定レベル以上の電力差(あるいは電力比)とならない場合、物標方向がビーム方向B2ではない場合と判定し、ステップDの処理を行う。
【0314】
また、抽出した電力上位のNDM_B2個のドップラ多重信号のドップラ多重間隔が、ビーム方向B2の送信アンテナに割り当てたドップラ多重間隔に一致しない場合、符号化ドップラ多重分離部212は、物標方向がビーム方向B2ではない場合と判定し、ステップDの処理を行う。
【0315】
また、例えば、ビーム方向B2に対して、位相回転量設定部105の設定がNDM_B1=NDM_B2とする。この場合、マルチビームの主ビーム方向B2と物標方向とが一致せず、ヌル方向に物標が存在する場合、NDM個のドップラ多重信号のドップラ周波数インデックス(fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)における受信電力PowerFT(fb_cfar, fs_comp_cfar+(nfd-ceil(NDM/2)-1)×ΔFD)間において、所定範囲内の受信電力が受信されることになる。このような場合、符号分離処理の際に、多重送信に用いない未使用の符号化ドップラ多重信号が、想定しているNB2個の符号化ドップラ多重信号の符号間隔と異なる。このため、符号化ドップラ多重分離部212は、折り返し判定に失敗し、NB2個の符号化ドップラ多重信号が正常に検出することが困難となる。このような場合、符号化ドップラ多重分離部212は、NB2個の符号化ドップラ多重信号に対する正常な検出ではないと判定し、ステップDの処理を行う。
【0316】
<ステップC-3>
符号化ドップラ多重分離部212は、ステップC-2の処理結果に基づいて、ビーム方向B2のNB2個の送信アンテナの多重送信に用いた符号化ドップラ多重信号の符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号YB2z(fb_cfar,fs_comp_cfar,ncm,ndm)を、距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックス fs_comp_cfarと共に、方向推定部213へ出力する。
【0317】
ここで、YB2z(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)は、第z番のアンテナ系統処理部201におけるドップラ解析部210の距離インデックスfb_cfar及びドップラ周波数インデックスfs_comp_cfar、における、ドップラシフト量DOPndm及び直交符号Codendop_code(ndm)を用いた符号化ドップラ多重信号の分離した出力(例えば、符号化ドップラ多重分離結果)である。例えば、YB2z(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)は、ビーム方向B2のNB2個の送信アンテナTx#[ndop_code(ndm), ndm]から送信され、物標により反射されて、第z番のアンテナ系統処理部201で受信された受信信号を表す。なお、z=1~Naである。また、ndm=1~NDMであり、ndop_code(ndm)=1~NDOP_CODE(ndm)であり、ビーム方向B2となるNB1個の送信アンテナに割り当てた信号以外はゼロとして出力する。
【0318】
また、符号化ドップラ多重分離部212は、検出された物標のドップラ周波数を方向推定部213へ出力してもよい。
【0319】
なお、条件2を満たす場合、符号化ドップラ多重分離部212は、折り返し判定結果を用いることにより、-1/(2Tr) ≦ fd <1/(2Tr)の範囲で推定した物標のドップラ周波数を検出できる。
【0320】
<ステップD>
符号化ドップラ多重分離部212は、ステップC-2の条件を満たさない場合、受信信号が雑音成分又は干渉成分であると判定し、方向推定部213への出力を行わなくてもよい。
【0321】
なお、上述した符号化ドップラ多重分離部212の動作例では、マルチビーム数NB=2の場合について説明したが、マルチビーム数NBは、これに限定されず、例えば、NBは3以上でもよい。例えば、マルチビーム数NB=3の場合、符号化ドップラ多重分離部212は、ステップD(又は、ステップC-2とステップDとの間)において、更に、ビーム方向B1及びB2と異なるビーム方向(又は、重複ビーム範囲あるいは異なるビーム。例えば、ビーム方向B3)に対するドップラ多重分離処理を継続して行ってもよい。これにより、マルチビーム数が更に増加する場合でも同様なドップラ多重分離動作が可能である。
【0322】
以上、符号化ドップラ多重分離部212の動作例について説明した。
【0323】
なお、CFAR部211から入力される距離インデックスfb_cfar、ドップラ周波数インデックスfsddm_cfar、及び、受信電力情報(PowerFT(fb_cfar, fsddm_cfar +(ndm-1)×NΔfd))が複数ある場合、符号化ドップラ多重分離部212は、例えば、距離インデックス、ドップラ周波数インデックス、及び、受信電力情報のそれぞれに対して上述した符号化ドップラ多重分離の動作を複数回行ってもよい。
【0324】
[方向推定部213の動作例]
次に、図5に示す方向推定部213の動作例について説明する。
【0325】
なお、以下の説明では、受信アンテナ部202の複数の受信アンテナが同一の無指向性のアンテナ又は複数の異なるビーム方向の送信アンテナの視野角内においてほぼ均一な指向特性のアンテナである場合の方向推定部213の動作例について説明する。
【0326】
方向推定部213は、例えば、符号化ドップラ多重分離部212から入力される信号(例えば、距離インデックスfb_cfar、符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)あるいはYBqz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)に基づいて、物標の方向推定処理を行う。ここで、q=1~NB である。マルチビーム数が2個の場合(NB=2の場合)、q=1又は2である。
【0327】
なお、符号化ドップラ多重分離処理が行われる受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)は、符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を用いた送信アンテナからの受信信号であるので、送信アンテナTx#1、Tx#2、~、Tx#Ntに対応付けることができる。
【0328】
したがって、以下では、受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)における符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)に対して、送信アンテナTx#1~Tx#Ntの何れかに対応付けられた表記YTz(fb_cfar,fs_comp_cfar,nt)を用いる。ここで、nt=1~Ntである。
【0329】
同様に、受信信号YBqz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)における符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)に対して、送信アンテナTx#1~Tx#Ntの何れかに対応付けられた表記YBTz(fb_cfar,fs_comp_cfar,nt)を用いる。ここで、nt=1~Nt、q=1~NBである。マルチビーム数が2個の場合(NB=2の場合)、q=1又は2である。
【0330】
以下、方向推定部213の動作例1及び動作例2について説明する。
【0331】
<方向推定部213の動作例1>
動作例1では、例えば、方向推定部213は、距離インデックスfb_cfar及び符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)に基づいて、次式(14)に示すような方向推定部213の仮想受信アレー相関ベクトルh(fb_cfar、fs_comp_cfar)を生成し、方向推定処理を行う。
【0332】
ここで、符号化ドップラ多重分離部212から入力される情報は、符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)を含む場合、Nt個の送信アンテナに対する符号化ドップラ多重分離受信信号を含む。よって、方向推定部213の仮想受信アレー相関ベクトルh(fb_cfar、fs_comp_cfar)は、式(14)に示すように、送信アンテナ数Ntと受信アンテナ数Naとの積であるNt×Na個の要素を含む。方向推定部213は、仮想受信アレー相関ベクトルh(fb_cfar、fs_comp_cfar)を用いて、物標からの反射波信号に対して各送受アンテナ間の位相差に基づく方向推定を行う。
【数16】
【0333】
式(14)において、hcal[b]は、送信アンテナ間及び受信アンテナ間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正値である。b=1~(Nt×Na)の整数である。
【0334】
方向推定部213は、例えば、仮想受信アレー相関ベクトルh(fb_cfar, fs_comp_cfar)を用いて、方向推定評価関数PH(θu, fb_cfar, fs_comp_cfar)における方位方向θuを所定の角度範囲内で可変して空間プロファイルを算出する。
【0335】
方向推定部213は、算出した空間プロファイルの極大ピークを大きい順に所定数抽出し、極大ピークの方位方向を、到来方向推定値(例えば、測位出力)として出力してよい。
【0336】
なお、方向推定評価関数値PH(θu, fb_cfar, fs_comp_cfar)は、到来方向推定アルゴリズムによって各種の方法がある。例えば、非特許文献3に開示されているアレーアンテナを用いた推定方法を用いてもよい。
【0337】
また、上述した例では、方向推定部213が到来方向推定値として方位方向を算出する例について説明したが、これに限定されず、仰角方向の到来方向推定、又は、矩形の格子状に配置されたMIMOアンテナを用いることにより、方位方向及び仰角方向の到来方向推定も可能である。例えば、方向推定部213は、異なるビーム方向の送信アンテナ毎に、到来方向推定値として方位方向及び仰角方向を算出して、測位出力としてもよい。なお、後述する方向推定部213の動作例2においても同様な適用が可能である。
【0338】
以上の動作により、レーダ装置10の方向推定部は、例えば、測位出力として、距離インデックスfb_cfar及び符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)に基づいて、到来方向推定値を出力してよい。また、方向推定部213は、更に、測位出力として、距離インデックスfb_cfar、及び、物標のドップラ周波数推定値を出力してもよい。
【0339】
また、距離インデックスfb_cfarは、式(10)を用いて距離情報に変換して出力されてもよい。なお、後述する方向推定部213の動作例2においても同様な適用が可能である。
【0340】
また、符号化ドップラ多重分離部212から入力される情報(例えば、距離インデックスfb_cfar、及び、符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm))が複数ある場合、方向推定部213は、それらに対して、上述した処理と同様に到来方向推定値を算出し、測位結果を出力してもよい。
【0341】
<方向推定部213の動作例2>
動作例2では、例えば、方向推定部213は、距離インデックスfb_cfar及び符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号YBqz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)に基づいて、次式(15)に示す方向推定部213の仮想受信アレー相関ベクトルhq(fb_cfar、fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)を生成し、ビーム方向Bqの送信アンテナからの受信信号に基づいて方向推定処理を行う。
【0342】
ここで、q=1~NBである。例えば、マルチビーム数NB=2の場合、q=1又は2である。以下、一例として、NB=2の場合の動作について説明するが、NBの値はこれに限定されない。
【0343】
方向推定部213は、符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号YBqz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)と一致するqに対応するビーム方向Bqの方向推定処理を行う。
【0344】
ここで、符号化ドップラ多重分離部212から入力される情報は、符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号YBqz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)を含む場合、Nt個の送信アンテナに対する符号化ドップラ多重分離受信信号を含むが、NBq個の送信アンテナに対する符号化ドップラ多重分離信号以外は受信信号が得られないため、ゼロ値の信号を含む。よって、方向推定部213の仮想受信アレー相関ベクトルhq(fb_cfar、fs_comp_cfar)は、式(15)に示すように、送信アンテナ数Ntと受信アンテナ数Naとの積であるNt×Na個の要素を含む。方向推定部213は、仮想受信アレー相関ベクトルhq(fb_cfar、fs_comp_cfar)を用いて、物標からの反射波信号に対して各送受アンテナ間の位相差に基づく方向推定を行う。
【数17】
【0345】
例えば、ビーム方向B1の送信アンテナがTx#1及びTx#3であり、ビーム方向B2の送信アンテナがTx#2及びTx#4であり、NB1=2、NB2=2、Nt=4であり、受信アンテナ数Na=4の場合、ビーム方向B1の送信アンテナに対応する受信信号を抽出するB1ビームアンテナ抽出ベクトルSPB1、及び、ビーム方向B2の送信アンテナに対応する受信信号を抽出するB2ビームアンテナ抽出ベクトルSPB2は、次式(16)及び式(17)のような16(=Nt×Na)次の列ベクトルで表されてよい。ここで、上付き文字のTはベクトル転置を表す。
【数18】
【数19】
【0346】
方向推定部213は、例えば、B1ビームアンテナ抽出ベクトルSPB1の要素が1となる要素インデックスを用いて、仮想受信アレー相関ベクトルh1(fb_cfar, fs_comp_cfar)から当該要素インデックスの要素成分を抽出し、当該要素インデックスの小さい順に並べた列ベクトルを、B1ビームアンテナによる仮想受信アレー相関ベクトルhB1(fb_cfar, fs_comp_cfar)として生成する。例えば式(16)に示すB1ビームアンテナ抽出ベクトルSPB1は、第1~第4及び第9~第12番目の要素インデックスにおける要素が1である。この場合、方向推定部213は、仮想受信アレー相関ベクトルh1(fb_cfar, fs_comp_cfar)から、第1~第4及び第9~第12番目の要素インデックスの順に要素成分を抽出し、B1ビームアンテナ仮想受信アレー相関ベクトルhB1(fb_cfar, fs_comp_cfar)を生成する。
【0347】
同様に、方向推定部213は、例えば、B2ビームアンテナ抽出ベクトルSPB2の要素が1となる要素インデックスを用いて、仮想受信アレー相関ベクトルh2(fb_cfar, fs_comp_cfar)から当該要素インデックスの要素成分を抽出し、当該要素インデックスの小さい順に並べた列ベクトルを、B2ビームアンテナによる仮想受信アレー相関ベクトルhB2(fb_cfar, fs_comp_cfar)として生成する。例えば式(17)に示すB2ビームアンテナ抽出ベクトルSPB2は、第5~第8及び第13~第16番目の要素インデックスにおける要素が1である。この場合、方向推定部213は、仮想受信アレー相関ベクトルh2(fb_cfar, fs_comp_cfar)から、第5~第8及び第13~第16番目の要素インデックスの順に要素成分を抽出し、B2ビームアンテナ仮想受信アレー相関ベクトルhB2(fb_cfar, fs_comp_cfar)を生成する。
【0348】
方向推定部213は、例えば、Bqビームアンテナ仮想受信アレー相関ベクトルhBq(fb_cfar, fs_comp_cfar)を用いて、方向推定評価関数PH-Bqu, fb_cfar, fs_comp_cfar)における方位方向θuを所定の角度範囲内で可変してそれぞれのBqビームによる空間プロファイルを算出する。ここでq=1又は2である。
【0349】
方向推定部213は、算出したビーム方向Bqの送信アンテナに対応する受信信号に基づく空間プロファイルの極大ピークを大きい順に所定数抽出し、極大ピークの方位方向をBqビームによる到来方向推定値(例えば、測位出力)として出力してよい。
【0350】
なお、方向推定評価関数値PH-Bqu, fb_cfar, fs_comp_cfar)は、到来方向推定アルゴリズムによって各種の方法がある。例えば、非特許文献3に開示されているアレーアンテナを用いた推定方法を用いてもよい。
【0351】
以上の動作により、レーダ装置10の方向推定部213は、例えば、測位出力として、距離インデックスfb_cfar、ビーム方向Bqの送信アンテナからの受信信号である符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号YBz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)に基づいて、Bqビームによる到来方向推定値を出力してよい。また、方向推定部213は、更に、測位出力として、距離インデックスfb_cfar、及び、物標のドップラ周波数推定値を出力してもよい。
【0352】
また、符号化ドップラ多重分離部212から入力される情報(例えば、距離インデックスfb_cfar、及び、符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号YBqz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm))が複数ある場合、方向推定部213は、それらに対して、上述した処理と同様に到来方向推定値を算出し、測位結果を出力してもよい。
【0353】
以上、方向推定部213の動作例1及び動作例2について説明した。
【0354】
次に、MIMOアンテナの配置例、及び、MIMOアンテナの配置例を用いた場合の方向推定部213の動作例について説明する。なお、以下ではMIMOレーダにおける送信アンテナ及び受信アンテナを総称してMIMOアンテナと呼ぶ。
【0355】
なお、以下の説明において、送信アンテナ部109に含まれる各送信アンテナは、例えば、図17に示すように、複数の平面パッチアンテナを縦方向及び横方向に並べたサブアレー構成でもよい。図17の例では、送信アンテナは、縦方向に8個、横方向に4個の平面パッチアンテナから構成される。例えば、1つの送信アンテナに含まれる各パッチアンテナに対する給電位相を変えることにより、所望の方向に指向性ビームを向けたビームパターン(送信アンテナのエレメントパターン)の形成が可能である。また、例えば、1つの送信アンテナを構成する水平(又は、垂直)方向の平面パッチアンテナ数が多いほど、水平(又は、垂直)方向の指向性ビームを鋭く形成できる。1つの送信アンテナは、例えば、所望のビーム幅を満たすような平面パッチ数から構成されてよい。
【0356】
なお、1つの送信アンテナの構成は、図17に示す例に限定されず、1つの送信アンテナを構成するパッチアンテナ数(例えば、総数、横方向の数、及び、縦方向の数の少なくとも一つ)は、図17に示す個数に限定されない。また、1つの送信アンテナは、平面パッチアンテナに限定されず、縦方向及び横方向の何れか一方の方向にパッチアンテナを並べた構成でもよい。また、例えば、複数の送信アンテナのそれぞれのパッチアンテナの構成は異なってもよい。
【0357】
以下では、一例として、送信ビーム毎に2個の送信アンテナが対応する場合のMIMOアンテナの配置例について説明する。各送信ビームは、例えば、2個の送信アンテナによって形成されてよい。
【0358】
以下では、一例として、送信アンテナ数Nt=4(例えば、Tx#1~Tx#4)、受信アンテナ数Na=3(例えば、Rx#1~Rx#3)のMIMOレーダのアンテナ配置について説明する。
【0359】
例えば、図18又は図19に示すように、送信アンテナTx#1~Tx#4は、送信ビーム方向(又は、指向性ビーム方向)が異なる指向性パターンを有する。図18及び図19において、Tx#1及びTx#2はビーム方向B1(ビームB1)の指向性パターンであり、Tx#3及びTx#4はビーム方向B2(ビームB2)の指向性パターンである。図18及び図19に示すように、ビーム方向B1及びビーム方向B2のそれぞれの指向性パターンを有する送信アンテナ数は2個であり、NB1=2、NB2=2である。
【0360】
また、以下では、受信アンテナ(例えば、Rx#1~Rx#3)の指向性は、無指向性、又は、複数のビーム方向の送信アンテナ(例えば、Tx#1~Tx#4)の視野角内においてほぼ均一の指向特性でもよい。
【0361】
例えば、多重送信に用いる送信アンテナ数Nt=4の場合に、レーダ装置10は、位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定として、設定例1を用いた符号かドップラ多重信号(ドップラ多重数NDM=3、符号多重数NCM=2)を用いてレーダ送信信号を送信する。この場合、例えば、上述したドップラシフト量の設定において、NB1=2、NB2=2のドップラ多重信号の割り当てを適用できる。
【0362】
また、例えば、送信アンテナTx#1~Tx#4、及び、受信アンテナRx#1~Rx#3の配置から、仮想受信アンテナ(又は、MIMO仮想アンテナ)の配置VA#1~VA#12が構成される。
【0363】
ここで、仮想受信アンテナ(仮想受信アレー)の配置は、例えば、送信アンテナ部109を構成する送信アンテナの位置(例えば、給電点の位置)及び受信アンテナ部202を構成する受信アンテナの位置(例えば、給電点の位置)に基づいて、次式(18)のように表されてよい。
【数20】
【0364】
ここで、送信アンテナ部109を構成する送信アンテナ(例えば、Tx#n)の位置座標を(XT_#n,YT_#n)(例えば、n=1~Nt)と表し、受信アンテナ部202を構成する受信アンテナ(例えば、Rx#z)の位置座標を(XR_#z,YR_#z)(例えば、z=1~Na)と表し、仮想受信アレーアンテナを構成する仮想アンテナVA#bの位置座標を(XV_#b,YV_#b)(例えば、b=1~Nt×Na)と表す。
【0365】
なお、式(18)では、例えば、VA#1を仮想受信アレーの位置基準(0,0)として表す。
【0366】
以下、MIMOアンテナの配置例について説明する。なお、以下では、XT_#nは水平方向の位置座標を表し、YT_#nは垂直方向の位置座標を表すものとして説明するが、これに限定されない。
【0367】
図18及び図19は、MIMOレーダに用いる送信アンテナ及び受信アンテナ配置(MIMOアンテナ配置)の例を示す。以下では、図18に示すMIMOアンテナ配置の例を「配置例A」と呼び、図19に示すMIMOアンテナ配置の例を「配置例B」と呼ぶ。図18及び図19の(a)は、MIMOアンテナ(Tx#1~Tx#4、Rx#1~Rx#3)の配置例を示し、図18及び図19の(b)は、図18及び図19の(a)のMIMOアンテナ配置によって構成される仮想受信アンテナ(VA#1~VA#12)の配置例を示す。
【0368】
図18及び図19の(a)に示すように、配置例A及び配置例Bでは、受信アンテナRx#1~Rx#3は、水平方向(図18及び図19の横方向)にDrの間隔で配置される。また、配置例A及び配置例Bでは、ビーム方向B1に対応する送信アンテナTx#1及びTx#2は、水平方向にDrの間隔(Dt=Dr)で配置され、垂直方向(図18及び図19の縦方向)において異なる位置(例えば、Dvの間隔)に配置される。また、配置例A及び配置例Bでは、ビーム方向B2に対応する送信アンテナTx#3及びTx#4は、水平方向にDtの間隔で配置され、垂直方向において異なる位置(例えば、Dvの間隔)に配置される。また、図18及び図19の(a)に示すように、送信アンテナTx#1及びTx#3(又は、Tx#2及びTx#4)は、垂直方向において同じ位置に配置され、水平方向に受信アンテナRx#1~Rx#3の開口(2Dr)より大きい間隔(例えば、3Drの間隔)で離れて配置される。
【0369】
例えば、図18及び図19の(a)に示す送信アンテナTx#1~Tx#4の配置(XT_#1,YT_#1)=(0,0),(XT_#2,YT_#2)=(Dr, DV)、(XT_#3,YT_#3)=(3Dr, 0)、(XT_#4,YT_#4)=(Dt+3Dr, DV)、及び、受信アンテナRx#1~Rx#3の配置(XR_#1,YR_#1)=(ax,ay),(XR_#2,YR_#2)=(ax+Dr,ay),(XR_#3,YR_#3)=(ax+2Dr,ay)の場合、仮想受信アンテナを構成する仮想アンテナVA#1~VA#12の位置座標は、式(18)より算出される。ここで、ax及びayは任意の定数である。
【0370】
例えば、仮想アンテナVA#1~VA#12の位置座標は、図18及び図19の(b)に示ように、ax及びayに依らず、(XV_#1,YV_#1)=(0,0)、(XV_#2,YV_#2)=(Dr, 0)、(XV_#3,YV_#3)=(2Dr, 0)、(XV_#4,YV_#4)=(Dt,DV)、(XV_#5,YV_#5)=(Dt+Dr, DV)、(XV_#6,YV_#6)=(Dt+2Dr, DV) 、(XV_#7,YV_#7)=(3Dr, 0)、(XV_#8,YV_#8)=(4Dr, 0)、(XV_#9,YV_#9)=(5Dr, 0)、(XV_#10,YV_#10)=(Dt+3Dr,DV)、(XV_#11,YV_#11)=(Dt+4Dr, DV)、(XV_#12,YV_#12)=(Dt+5Dr, DV)となる。
【0371】
ここで、配置例A(図18)では、Dt=Drを用いた配置例を示す。また、配置例B(図19)では、DtとDrとの差分の絶対値が0.5波長程度(|Dt-Dr|≒0.5)となるDr及びDtを用いた配置例を示す。例えば、図19は、Dt=1.5Drとなる配置例であり、Dt-Dr=Dr/2の例を示す。これは、例えば、Dt=1.5波長、Dr=1波長を想定すると、Dt-Dr=Dr/2=0.5波長となる配置である。
【0372】
例えば、上述した方向推定部213の動作例1では、方向推定部213は、符号化ドップラ多重分離部212から入力される情報が、符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)を含む場合、式(14)に示す仮想受信アレー相関ベクトルh(fb_cfar、fs_comp_cfar)を生成し、方向推定処理を行う。
【0373】
ここで、第b番目の仮想アンテナVA#bによる受信信号は、仮想受信アレー相関ベクトルh(fb_cfar、fs_comp_cfar)の第b番目の要素で表される。b=1~(Nt×Na)の整数である。
【0374】
また、符号化ドップラ多重分離部212から入力される符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)は、Nt個の送信アンテナに対する符号化ドップラ分離信号を含む。これは、物標方向が、例えば、図10に示す物標方向(2)の場合であり、送信アンテナTx#1~Tx#4のビーム方向が重複する領域に対応するケースである。このケースでは、送信アンテナTx#1~Tx#4からのレーダ送信信号が物標に反射されて受信アンテナRx#1~Rx#3により受信される。よって、このケースでは、方向推定部213は、Tx#1~Tx#4に対応する仮想アンテナVA#1~VA#12の受信信号を用いて方向推定を行うことができる。
【0375】
図18及び図19の(a)のMIMOアンテナ配置において、Tx#1及びTx#2はビーム方向B1の指向特性を有し、Tx#3及びTx#4はビーム方向B2の指向特性を有し、互いに異なるビーム方向に対応する。また、図10に示すように、ビーム方向B1とビーム方向B2とは、ビーム幅程度内の角度領域において重複する。ここで、図18及び図19の(a)に示すように、Tx#1及びTx#2の配置、及び、Tx#3及びTx#4の配置のそれぞれは、垂直方向にオフセット(例えば、オフセット値Dv)され、方向推定部213において、水平方向に加え、垂直方向の測角が可能となる配置である。また、Tx#1及びTx#2の配置、及び、Tx#3及びTx#4の配置のそれぞれは、ビーム方向B1とビーム方向B2との重複領域(例えば、図10に示す物標方向(2))に物標が存在する場合、水平方向に仮想受信アンテナの開口長が拡張でき、方向推定部213の測角処理において、水平方向の推定精度及び角度分解能を向上できる配置である。
【0376】
また、配置例Aでは、図18の(a)に示すTx#1及びTx#2の配置(又は、Tx#3及びTx#4の配置)に示すように、水平方向のオフセットDtは、Dt=Drである。このように、Tx#1及びTx#2(又は、Tx#3及びTx#4)は、水平方向において、受信アンテナRx#1~Rx#3の素子間隔Drに等しい素子間隔でオフセットされて配置される。このため、図18の(b)に示すように、仮想受信アンテナ配置において、複数の仮想アンテナ(例えば、VA#2とVA#4、又は、VA#3とVA#5)の水平位置が一致し、垂直位置がDv異なる配置が含まれる。このような仮想受信アンテナの配置により、方向推定部213は、例えば、水平位置が一致する2つの仮想アンテナ(例えば、VA#2とVA#4、又は、VA#3とVA#5)間の受信位相差に基づいて、垂直方向の測角を簡易に行うことができる。
【0377】
また、配置例Bは、図19の(a)に示すTx#1及びTx#2の配置(又は、Tx#3及びTx#4の配置)に示すように、DtとDrとの差分の絶対値が0.5波長程度(|Dt-Dr|≒0.5)となるDr及びDtを用いた配置である。この配置により、例えば、図19の(b)に示すように、仮想アンテナVA#2とVA#4との間隔(又は、VA#3とVA#5との間隔、VA#7とVA#6との間隔、VA#8とVA#10との間隔、VA#9とVA#11との間隔)は、Dt>Drの場合、Dt-Drであり、Dr>Dtの場合、Dr-Dtとなる。例えば、送信アンテナ間隔Dtと受信アンテナ間隔Drとの間の差分の絶対値|Dt-Dr|が半波長に設定される場合、レーダ装置10では、±90°範囲の視野角内でグレーティングローブを抑圧できる。例えば、Dt=1.5λ、Dr=1λの場合、|Dt-Dr|=0.5λとなる。
【0378】
なお、DtとDrとの差分|Dt-Dr|(規定値)が半波長(0.5λ)に設定される場合について説明したが、これに限定されず、例えば、|Dt-Dr|は、0.45λ~0.8λ程度の範囲の何れかの値(例えば、レーダ送信信号の波長の0.5倍から0.8倍の範囲の何れかの値)に設定されてもよい。
【0379】
例えば、|Dt-Dr|は、レーダ装置10の水平方向の視野角に応じて設定されてよく、視野角内でのグレーティングローブを抑圧できる。例えば、水平方向の視野角が±70度~±90度の範囲程度の広視野角の場合、|Dt-Dr|は0.5λ程度に設定されてもよい。または、水平方向の視野角が±20度~±40度の範囲程度の狭視野角の場合、|Dt-Dr|は、より広い間隔として、例えば、0.7λ程度に設定されてもよい。
【0380】
また、上述した方向推定部213の動作例2では、方向推定部213は、符号化ドップラ多重分離部212から入力される符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号YB1z(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)、あるいは、YB2z(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)に基づいて、仮想受信アレー相関ベクトルhB1(fb_cfar, fs_comp_cfar)、あるいはhB2(fb_cfar, fs_comp_cfar)を生成し、方向推定処理を行う。
【0381】
ここで、第b番目の仮想アンテナVA#bによる受信信号は、仮想受信アレー相関ベクトルhq(fb_cfar, fs_comp_cfar)の第b番目の要素で表される。ここで、q=1又は2である。
【0382】
また、符号化ドップラ多重分離部212から入力される符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号YBqz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)は、NBq個のビーム方向Bqの送信アンテナに対する受信信号を含む。これは、物標方向が、例えば、図10に示す物標方向(1)(例えば、ビーム方向B1の場合)又は物標方向(3)(例えば、ビーム方向B2の場合)の場合であり、ビーム方向Bqの領域に対応するケースである。このケースでは、ビーム方向Bqの送信アンテナからのレーダ送信信号が物標に反射されて受信アンテナRx#1~Rx#3により受信される。
【0383】
よって、このケースでは、例えば、q=1の場合(物標方向が図10に示す物標方向(1)の場合)、方向推定部213は、ビーム方向B1に含まれる送信アンテナTx#1及びTx#2に対応する仮想アンテナVA#1~VA#6の受信信号を用いて方向推定を行う。また、例えば、q=2の場合(物標方向が図10に示す物標方向(3)の場合)、方向推定部213は、ビーム方向B2に含まれる送信アンテナTx#3及びTx#4に対応する仮想アンテナVA#7~VA#12の受信信号を用いて、方向推定を行う。
【0384】
なお、配置例Aでは、図18の(a)において、Dt及びDrは、例えば、1波長以上に設定されてもよい。この場合、方向推定部213における方向推定処理の結果、グレーティングローブが発生し、水平方向の方向推定に曖昧性が生じ得る。その一方で、方向推定部213は、符号化ドップラ多重分離部212から入力される符号化ドップラ多重分離処理を行った受信信号Yz(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)、YB1z(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)、あるいは、YB2z(fb_cfar,fs_comp_cfar,ndop_code(ndm),ndm)に基づいて方向推定処理を行う。これにより、方向推定部213は、ビーム方向B1、ビーム方向B2、及び、ビーム方向B1とB2との重複領域の方向の何れかに物標があることを特定できるので、グレーティングローブが発生しても、真値方向を検出できる。
【0385】
また、配置例A及びBにおけるDvは、例えば、それぞれ0.45λ~0.8λ程度の値(例えば、レーダ送信信号の波長の0.5倍から0.8倍の範囲の何れかの値)に設定されてもよい。Dvは、例えば、レーダ装置10の垂直方向の視野角に応じて設定されてよい。例えば、垂直方向の視野角が±70度~±90度の範囲程度の広視野角の場合、Dvは0.5λ程度に設定されてもよい。または、垂直方向の視野角が±20度~±40度の範囲程度の狭視野角の場合、Dvはより広い間隔として、例えば、0.7λ程度に設定されてもよい。
【0386】
ここで、λはレーダ送信信号のキャリア周波数の波長を表す。例えば、レーダ送信信号としてチャープ信号を用いる場合、λは、チャープ信号の周波数掃引帯域における中心周波数の波長である。
【0387】
なお、配置例A及び配置例Bでは、受信アンテナ(Rx#1~Rx#3)の配置について、垂直方向の位置を同じ位置とし、水平方向の配置を等間隔でDr間隔ずつオフセットさせた配置の場合について説明したが、受信アンテナの配置はこれに限定されない。例えば、受信アンテナの水平方向の配置において、受信アンテナ間の間隔は不等間隔でもよい。
【0388】
また、配置例A及び配置例Bにおいて説明したMIMOアンテナ配置は一例であり、限定されない。例えば、配置例A及び配置例Bにおいて説明したMIMOアンテナ配置に対して、他のアンテナ(送信アンテナ及び受信アンテナの少なくとも一方)が更に配置される構成でもよい。また、配置例A及び配置例Bにおいて、水平方向と垂直方向とを入れ替えたアンテナ配置でもよい。また、配置例A及び配置例Bにおいて説明した送信アンテナ間の間隔を受信アンテナ間の間隔に適用し、配置例A及び配置例Bにおいて説明した受信アンテナ間の間隔を送信アンテナ間の間隔に適用してもよい。
【0389】
方向推定部213は、以上のような動作により、マルチビーム送信において、物標方向に応じて符号化ドップラ多重分離部212の分離動作が異なることに対応して方向推定処理を行うことができる。
【0390】
例えば、方向推定部213は、符号化ドップラ多重分離部212が全ての送信アンテナからのドップラ多重信号を分離可能である場合(例えば、物標方向(2)の場合)には、Nt×Na個の仮想受信アンテナの受信信号を用いて方向推定を行うことにより、測角精度及び測角分解能を向上できる。
【0391】
また、例えば、方向推定部213は、符号化ドップラ多重分離部212がビーム方向Bqの送信アンテナからのドップラ多重信号を分離可能である場合(例えば、物標方向(1)又は(3)の場合)には、NBq×Na個の仮想受信アンテナの受信信号を用いて方向推定を行うことにより、測角精度及び測角分解能を向上できる。
【0392】
以上、方向推定部213の動作例について説明した。
【0393】
以上のように本実施の形態では、レーダ装置10は、符号化ドップラ多重を用いるマルチビーム送信MIMOレーダにおいて、位相回転量設定部105において少なくとも条件1を満たすマルチビーム間で異なる符号化ドップラ多重信号(例えば、ドップラ多重パターン及び符号多重パターンの少なくとも一つが異なる信号)を割り当てる。これにより、レーダ装置10は、異なる指向特性を有する送信アンテナに対応する反射波間の受信レベルが大きく異なる場合でも、符号化ドップラ多重分離部212において送信アンテナを判別でき、符号化ドップラ多重分離が可能となる。よって、本実施の形態によれば、物標検出性能の劣化、又は、ドップラ周波数の誤推定又は測角性能の劣化を抑制できる。
【0394】
また、例えば、位相回転量設定部105における符号化ドップラ多重信号の割り当てにおいて、上述した条件1及び条件2を満たす場合、レーダ装置10では、異なる指向特性を有する送信アンテナに対応する反射波間の受信レベルが大きく異なる場合でも、検出可能なドップラ周波数範囲fdが-1/(2Tr)≦fd < 1/(2Tr)の範囲となり、1送信アンテナを用いる場合と同様のドップラ周波数範囲に拡大できる。
【0395】
また、本実施の形態におけるレーダ装置10では、マルチビーム送受信MIMOレーダ構成として、指向性を有する受信アンテナ(又は、受信アレーアンテナを用いた指向性受信処理)を用いたビーム方向判定処理を用いずに、ドップラ多重分離が可能となるため、受信処理演算量を低減できる。
【0396】
また、例えば、マルチビーム送受信MIMOレーダ構成として、受信アンテナにビーム方向が異なる受信アンテナを用いる場合、測角時に利用可能な受信アンテナ数が、物標方向によっては減少し得るため、レーダ装置10の測角精度又は測角分解能が低下し得る。本実施の形態では、例えば、指向性を有する受信アンテナを用いずに、物標方向に依らずドップラ多重分離が可能となるため、測角精度及び測角分解能の低下を抑制できる。
【0397】
よって、本実施の形態によれば、符号化ドップラ多重送信を用いたマルチビーム送信MIMOレーダの検出性能を向上できる。
【0398】
(変形例1)
上記実施の形態では、マルチビーム数NB=2の場合について説明したが、マルチビーム数NBは3以上でもよい。変形例1では、マルチビーム数NB≧3の場合について説明する。
【0399】
マルチビーム数NB≧3の場合、位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定は、上述した条件1の代わりに、後述する条件1-a、条件1-bを適用することにより、上記実施の形態と同様に、異なるビーム方向の送信アンテナからの受信信号間において反射波の受信電力レベルが大きく異なる場合でも、ドップラ多重信号の分離を可能とし、測位性能及びレーダ検出性能の劣化を抑制する効果を得ることができる。
【0400】
以下、マルチビーム数NB≧3の場合の位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定条件の例について説明する。
【0401】
例えば、送信アンテナ部109において、異なるQ個のビーム方向Bqの送信アンテナを、各々(NB1,NB2,~,NBQ)個含む。例えば、マルチビーム送信するMIMOレーダ(例えばレーダ装置10)におけるレーダ送信部100の位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定し、また、下記の<条件1-a>、<条件1-b>を満たすように符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を設定する。ここで、ndm=1~NDMであり、ndop_code(ndm)=1~NDOP_CODE(ndm)である。
【0402】
<条件1-a>
位相回転量設定部105は、各ビーム方向Bqの送信アンテナ毎に、異なるドップラ多重パターンの条件、異なる符号多重パターンの条件、あるいは、ドップラ多重及び符号多重の異なるパターンの条件を満たす符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を設定する。ここで、q=1~Qである。
【0403】
<条件1-b>
位相回転量設定部105は、各ビーム方向Bq間において重複する視野角領域を含む場合、重複領域(又は、重複ビーム領域と呼ぶ)に含まれる複数の送信アンテナの組(以下、「送信アンテナセット」と呼ぶ)を含めて、異なる符号多重パターンの条件、あるいは、ドップラ多重及び符号多重の異なるパターンの条件を満たす符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を設定する。ここで、q=1~Qである。
【0404】
各ビームBqの送信アンテナ、及び、重複領域に含まれる送信アンテナセットに対して割り当てられる符号及びドップラ多重信号は、下記の少なくとも一つの条件を満たす。
【0405】
例えば、異なるドップラ多重パターン条件は、以下の何れか一つの条件(例えば、条件1A-aとも呼ぶ)でもよい。
(A-1)各ビーム方向に対応するドップラ多重数が同一であり、各ビーム方向において異なるドップラ間隔を含む(ただし、NDM_Bq≧2の場合)。
(A-2)ビーム方向毎のドップラ多重数が異なる。
(A-3)ドップラ多重数が3以上の場合に、ビーム方向毎のドップラシフト間隔において、同一のドップラ間隔を含む場合に、ドップラ間隔の順序が異なる(巡回不一致)。
【0406】
また、異なる符号多重パターン条件は、以下の何れか一つの条件(例えば、条件1B-aとも呼ぶ)でもよい。
(B-1)各ドップラ多重信号に割り当てる符号間隔(符号INDEX間隔)が異なる(巡回不一致)。
(B-2)各ドップラ多重信号に割り当てる符号多重数が異なる(巡回不一致)。
【0407】
ここで、マルチビーム数NB≧3の場合、送信アンテナ数Nt≧4、ドップラ多重数NDM≧2、最大符号多重数NCM≧2であり、Nt<NDM×NCMである。また、ビーム方向Bqの送信アンテナ数NBqと表記する。NBq≧1であり、各ビーム方向Bqの送信アンテナの総和はNt個(NB1+ NB2 + ~ + NBQ =Nt)である。また、ビーム方向Bqの送信アンテナに割り当てられるドップラ多重数NDM_Bqと表記する。NDM_Bq<NDMである。
【0408】
また、異なるQ個のビーム方向Bqの送信アンテナを、各々(NB1,NB2,~,NBQ)個用いてマルチビーム送信するMIMOレーダ(例えば、レーダ装置10)において、レーダ送信部100の位相回転量設定部105は、条件1-a、条件1-bに加え、更に、下記の条件2-a、条件2-bを満たすように符号化ドップラ位相回転量ψndop_code(ndm), ndm(m)を設定してもよい。
【0409】
<条件2-a>
各ビームBqの送信アンテナから送信される信号は、ドップラ多重信号間において不均一となる符号多重数によって多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲の何れかである。ここで、q=1~Qである。
【0410】
<条件2-b>
各ビームBq間において重複ビーム領域を含む場合、重複ビーム領域に含まれる送信アンテナセットから送信される信号は、ドップラ多重信号間において不均一となる符号多重数によって多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲の何れかである。
【0411】
位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定が、条件1-a,条件1-bに加え、条件2-a、条件2-bを満たすことにより、レーダ装置10において検出可能なドップラ検出範囲は、上記実施の形態と同様、1送信アンテナ時と同等の範囲(例えば、±1/(2Tr)の範囲)に拡大できる。また、条件1-a、条件1-bを満たし、条件2-a、条件2-bを満たさない場合でも、上記実施の形態と同様、等間隔DDMのドップラ検出範囲(例えば、-1/(2 Nt Tr)≦fd < 1/(2 Nt Tr))よりもドップラ検出範囲を拡大できる。
【0412】
以下、レーダ装置10の動作例について説明する。
【0413】
<動作例1>
動作例1では、マルチビーム数NB=3であり、各ビーム方向Bq間において重複ビーム領域を含まない。
【0414】
例えば、図20は、マルチビーム数NB=3の場合のビーム方向B1、B2、B3の送信アンテナのビームパターン例を示す。図20に示すように、各ビーム方向の送信アンテナのビームパターンに重複する部分が無い場合(又は、少ない場合)、条件1-a及び条件2-aを適用してよい。
【0415】
例えば、図20において、物標方向がビーム方向B1、ビーム方向B2、及び、ビーム方向B3の何れかとなる場合、ドップラシフト設定部106によるドップラ多重信号の割り当ては、条件1-aを満たしてよい。これにより、レーダ装置10は、ビーム方向B1の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合と、ビーム方向B2の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合と、ビーム方向B3の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルが低下する場合とを、符号化ドップラ多重分離部212において判別可能となる。
【0416】
また、この判別結果により、ビーム方向B1(又は、B2、B3)の送信アンテナの受信信号であると判別された場合、位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の割り当てが条件2-aを満たすことにより、ビーム方向B1(又は、B2、B3)の送信アンテナに対する符号化ドップラ多重信号は、既存の符号化ドップラ多重信号分離部の動作を用いて分離可能となる。このような符号化ドップラ多重分離部212の動作により、レーダ装置10は、物標のドップラ周波数fdを、-1/(2Tr)≦fd < 1/(2Tr)の範囲で確定でき、それぞれの符号化ドップラ多重信号に対する送信アンテナを対応付けた出力を得ることができる。
【0417】
<動作例2>
動作例2では、マルチビーム数NB=3であり、各ビーム方向Bq間において重複ビーム領域を含む。
【0418】
例えば、図21は、マルチビーム数NB=3の場合のビーム方向B1、B2、B3の送信アンテナのビームパターン例を示す。図21に示すように、各ビーム方向の送信アンテナのビームパターンに重複する部分(重複ビーム領域)を含む場合、条件1-a、条件1-b、条件2-a、及び、条件2-bを適用してよい。
【0419】
例えば、図21において、物標方向が、重複ビーム範囲外の送信ビーム方向B1、B2又はB3となる場合(図21において、物標方向(1)、(3)又は(5)の場合)、位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の割り当ては、条件1-aを満してよい。これにより、レーダ装置10は、ビーム方向B1、B2及びB3の何れの送信アンテナに対応する受信信号であるかを、符号化ドップラ多重分離部212において判別可能となる。
【0420】
また、例えば、図21において、物標方向が、重複ビーム範囲内の場合(図21において、物標方向(2)又は(4)の場合)、位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の割り当ては、条件1-a及び条件1-bを満たしてよい。これにより、レーダ装置10は、ビーム方向B1、B2及びB3の何れの送信アンテナに対応する受信信号であるかを判定することに加え、ビーム方向B1及びB2の送信アンテナの重複ビーム領域からの受信信号であるか、ビーム方向B2及びB3の送信アンテナの重複ビーム領域からの受信信号であるかを、符号化ドップラ多重分離部212において判別可能となる。
【0421】
また、この判別結果により、ビーム方向B1(又は、B2、B3)の送信アンテナに対応する受信信号であると判別された場合、位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の割り当てが条件2-aを満たすことにより、ビーム方向B1(又は、B2、B3)の送信アンテナに対する符号化ドップラ多重信号は、既存の符号化ドップラ多重信号分離部の動作を用いて分離可能となる。このような符号化ドップラ多重分離部212の動作により、レーダ装置10は、物標のドップラ周波数fdを、-1/(2Tr)≦fd < 1/(2Tr)の範囲で確定でき、それぞれの符号化ドップラ多重信号に対する送信アンテナを対応付けた出力を得ることができる。
【0422】
また、ビーム方向B1とB2(又は、ビーム方向B2とB3)の送信アンテナの重複ビーム領域からの受信信号であると判別された場合、位相回転量設定部105における符号化ドップラ多重信号の割り当てが条件2-bを満たすことにより、ビーム方向B1とB2(又は、ビーム方向B2とB3)の送信アンテナの重複ビーム領域に含まれる送信アンテナに対する符号化ドップラ多重信号は、既存の符号化ドップラ多重信号分離部の動作を用いて分離可能となる。このような符号化ドップラ多重分離部212の動作により、レーダ装置10は、物標のドップラ周波数fdを、-1/(2Tr)≦fd < 1/(2Tr)の範囲で確定でき、それぞれの符号化ドップラ多重信号に対する送信アンテナを対応付けた出力を得ることができる。
【0423】
以上、レーダ装置10の動作例について説明した。
【0424】
次に、位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定例について説明する。
【0425】
以下では、条件1(例えば、条件1-a、条件1-b)及び条件2(例えば、条件2-a、条件2-b)を満たす場合の符号化ドップラ位相回転量の設定例(NB=3の場合)について説明する。
【0426】
図22は、送信アンテナ数Nt=6、NB1=2、NB2=2、NB2=3の場合の位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定例を示す。
【0427】
図22において、Tx#1及びTx#2はビーム方向B1の送信アンテナであり、Tx#3及びTx#4はビーム方向B2の送信アンテナであり、Tx#5及びTx#6はビーム方向B3の送信アンテナである。
【0428】
また、図22において、ドップラ多重数NDM=5であり、ドップラシフト設定部106は、5個のドップラシフト量DOP1~DOP5を、例えば、式(5)に示す最大等間隔ドップラシフト量設定を用いて設定してよい。図22において、ドップラシフト量DOP1=0、DOP2=Δfd、DOP3=2Δfd、DOP4=-2Δfd、DOP5=-Δfdを付与する位相回転量は、それぞれ、φ1=0、φ2=2π/5、φ3=4π/5、φ4=6π/5(又はφ4=-4π/5でもよい)、φ5=8π/5(又はφ5=-2π/5でもよい)となる。図22に示すように、ドップラ多重間隔Δfdは等間隔となり、Δfd=1/(10Tr)である。
【0429】
また、図22において、符号多重数NCM=2であり、符号化部107は、例えば、Walsh-Hadamard-符号の符号長Loc=2の直交符号系列であるCode1={1,1}、Code2={1,-1}を用いる。
【0430】
図22では、送信アンテナ数Nt=6、ドップラ多重数NDM=5、符号多重数NCM=2であり、Nt <NDM×NCMであるので、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(ndm)を不均一に設定できる(ここで、ndm=1~NDM)。
【0431】
図22に示すように、符号化部107において、ドップラシフト設定部106から入力される5つのドップラシフト量DOP1~DOP5を用いたドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数は、それぞれNDOP_CODE(1)=2、NDOP_CODE(2)=1、NDOP_CODE(3)=1、NDOP_CODE(4)=1、NDOP_CODE(5)=1である。このように、位相回転量設定部105は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数を不均一に設定する。
【0432】
また、図22では、ドップラシフト設定部106は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1及びTx#2に対して、ドップラ多重数NDM=5のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP2を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B1=2)。また、符号化部107は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1及びTx#2に対して割り当てたドップラシフト量DOP1、DOP2を用いたドップラ多重信号対して、それぞれCode2、Code1を割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B1の送信アンテナTx#1及びTx#2のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ2, 1(m)、ψ1, 2(m)を設定する。
【0433】
また、図22では、ドップラシフト設定部106は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3及びTx#4に対して、ドップラ多重数NDM=5のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP4、DOP5を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B2=2)。また、符号化部107は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3及びTx#4に対して割り当てたドップラシフト量DOP4、DOP5を用いたドップラ多重信号に対して、それぞれCode1、Code1を割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#3及びTx#4のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 4(m)、ψ1, 5(m)を設定する。
【0434】
また、図22では、ドップラシフト設定部106は、ビーム方向B3の送信アンテナTx#5及びTx#6に対して、ドップラ多重数NDM=5のドップラ多重信号のうち、例えば、ドップラシフト量DOP1、DOP3を用いたドップラ多重信号を割り当てる(NDM_B3=2)。また、符号化部107は、ビーム方向B2の送信アンテナTx#5及びTx#6に対して割り当てたドップラシフト量DOP1、DOP3を用いたドップラ多重信号対して、それぞれCode1、Code2を割り当てる。例えば、位相回転量設定部105は、ビーム方向B3の送信アンテナTx#5及びTx#6のそれぞれに対して、符号化ドップラ位相回転量ψ1, 1(5)、ψ2, 3(m)を設定する。
【0435】
図22において、ビーム方向B1、B2及びB3のそれぞれの送信アンテナに対して、ドップラシフト設定部106が割り当てるドップラ多重数は、NDM_B1=NDM_B2=NDM_B3=2であり、同一である。よって、図22に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件1A-aの異なるドップラ多重パターン条件に合致しない。
【0436】
その一方で、図22において、ドップラ多重信号DOP1~DOP5を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1、B2及びB3のそれぞれの送信アンテナに対して割り当てられる符号Indexは、CodeIndex_B1=(2,1,*,*,*)、CodeIndex_B2=(*,*,*,1,1)、CodeIndex_B3=(1,*,2,*,*)であり、巡回不一致となり、符号INDEX間隔が異なるため、条件1B-a(B-1)を満たす。
【0437】
また、図22において、ドップラ多重信号DOP1~DOP5を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1、B2及びB3のそれぞれの送信アンテナに対して割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1=(1,1,0,0,0), N_Code_B2=(0,0,0,1,1), N_Code_B3=(1,0,1,0,0)であり、巡回一致となる符号多重数が含まれ、符号多重数は同一であるため、条件1B-a(B-2)を満たさない。
【0438】
なお、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(4Tr)あるいは1/(4Tr)≦fdtarget<1/(2Tr)の場合、ドップラ解析部210では折り返したドップラ周波数が観測される。この場合の符号IndexはCodeIndex_B1_alias=(1,2,*,*,*)、CodeIndex_B2_alias=(*,*,*,2,2)及びCodeIndex_B3_alias=(2,*,1,*,*)となり、異なる(巡回不一致となる)。よって、図22の例では、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(2Tr)の範囲で、符号Indexは巡回不一致となり、符号間隔が異なる。したがって、条件1-aを満たし、異なる符号多重パターン条件に合致する。
【0439】
以上より、図22に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件1-aを満たす設定例である。
【0440】
また、図22において、ドップラ多重信号DOP1~DOP5を用いたドップラ多重信号のそれぞれに対する、ビーム方向B1及びB2の重複ビーム領域(送信アンテナセット)、及び、ビーム方向B2及びB3の重複ビーム領域(送信アンテナセット)に対して割り当てられる符号Indexは、CodeIndex_B1&B2=(2,1,*,1,1)、CodeIndex_B2&B3=(1,*,2,1,1)であり、巡回不一致となる。また、CodeIndex_B1&B2、CodeIndex_B2&B3に加えて、CodeIndex_B1、CodeIndex_B2及びCodeIndex_B3を含めても、符号INDEX間隔が異なる(巡回不一致)関係となるので、条件1-bを満たす。
【0441】
なお、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(4Tr)あるいは1/(4Tr)≦fdtarget<1/(2Tr)の場合、ドップラ解析部210では折り返したドップラ周波数が観測される。この場合の符号Indexは、CodeIndex_B1&B2_alias=(1,2,*,2,2), CodeIndex_B2&B3_alias=(2,*,1,2,2)となり、異なる(巡回不一致となる)。よって、図22の例では、物標のドップラ周波数が-1/(2Tr)≦fdtarget<-1/(2Tr)の範囲で、CodeIndex_B1_alias、CodeIndex_B2_alias及びCodeIndex_B3_aliasを含めても符号Indexは巡回不一致となり、符号INDEX間隔が異なる関係となるので、条件1-bを満たす。
【0442】
以上より、図22に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件1-bを満たす設定例である。
【0443】
また、図22では、ビーム方向B1、B2及びB3のそれぞれの送信アンテナにおいて、各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1=(1,1,0,0,0), N_Code_B2=(0,0,0,1,1), N_Code_B3=(1,0,1,0,0)であり、ドップラ多重信号間で不均一となる符号多重数で多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲に含まれる。よって、図22に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件2-aを満たす設定例である。
【0444】
また、図22では、ビーム方向B1及びB2の重複ビーム領域、及び、ビーム方向B2及びB3の重複ビーム領域のそれぞれの送信アンテナにおいて、各ドップラ多重信号に割り当てられる符号多重数は、N_Code_B1&B2=(1,1,0,1,1), N_Code_B2&B3=(1,0,1,1,1)であり、ドップラ多重信号間で不均一となる符号多重数で多重送信され、符号多重数は、1以上からNCM-1以下の範囲に含まれる。よって、図22に示す符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件2-bを満たす設定例である。
【0445】
以下、送信アンテナ部109が、図22に示すドップラシフト量の設定に基づくビーム方向B1、B2及びB3の異なるビーム方向の送信アンテナを含み、受信アンテナ部202が、無指向性アンテナ(又は、ビーム方向B1及びビーム方向B2の双方の送信アンテナがカバーする視野角内においてほぼ均一の指向特性のアンテナ)である場合のドップラ解析部210の出力における受信信号の例について説明する。
【0446】
例えば、物標方向が図21に示す物標方向(1)、(3)又は(5)の場合(例えば、ビーム方向B1、B2又はB3の周辺に物標が存在する場合)、あるいは、物標方向が物標方向(2)又は(4)の場合(例えば、重複ビーム領域B2&B3又はB2&B3の周辺に物標が存在する場合)、符号間隔が、各ビーム方向の送信アンテナ及び各重複ビーム方向の送信アンテナセットにおいて異なる。よって、レーダ装置10は、ビーム方向B1、B2又はB3、あるいは、重複ビーム領域B2&B3又はB2&B3の何れかに含まれる送信アンテナに対応する受信信号の受信レベルの低下を、符号化ドップラ多重分離部212において判別可能となる。
【0447】
この判別結果により、ビーム方向Bqあるいは重複ビーム領域(例えば、B2&B3又はB2&B3)の送信アンテナの受信信号であると判別された場合、ビーム方向Bqあるいは重複ビーム領域(B2&B3あるいはB2&B3)の送信アンテナに対する符号化ドップラ多重信号の設定は既知であるので、レーダ装置10は、例えば、特許文献5、6等に開示される動作により、多重信号を分離可能となる。
【0448】
また、図22の例では、位相回転量設定部105による符号化ドップラ位相回転量の設定は、条件2-a及び条件2-bを満たすので、検出可能なドップラ周波数範囲fdは、物標方向に依存して、-1/(2 Tr)≦fd < 1/(2Tr)の範囲となり、等間隔ドップラ多重のドップラ検出範囲よりもドップラ検出範囲を拡大できる。
【0449】
(変形例2)
上記実施の形態及び変形例では、図10図20及び図21に示すように、マルチビームにおける各ビーム方向が互いに異なる場合について説明したが、マルチビームの設定(例えば、ビーム方向及びビーム幅)は、上述した例に限定されない。例えば、マルチビームを構成する各ビームは、ビーム方向及びビーム幅の少なくとも一つが異なってよい。また、マルチビーム数NB≧2であってよい。
【0450】
以下、マルチビームの設定例について説明する。
【0451】
<マルチビームの設定例1>
設定例1では、例えば、図23に示すように、マルチビーム(例えば、ビーム方向B1、B2及びB3)において、ビーム方向が互いに異なり、また、ビーム幅が異なってもよい。マルチビーム(例えば、ビーム方向B1、B2及びB3)において、水平方向(又は、水平面)のビーム方向が互いに異なり、また、水平方向(又は、水平面)のビーム幅が異なってもよい。垂直方向(又は、垂直面)のビーム方向が互いに異なり、また、垂直方向(又は、垂直面)のビーム幅が異なってもよい。
【0452】
<マルチビームの設定例2>
上記実施の形態では、図10に示すように、水平方向(又は、水平面)においてビーム方向が異なる例について説明したが、これに限定されない。設定例2では、例えば、垂直方向(又は、垂直面)においてもビーム方向が異なってもよい。
【0453】
例えば、図24の(a)に示すように、マルチビーム(例えば、ビーム方向B1及びB2)において、水平方向(又は、水平面)では各ビーム方向がほぼ同一であり、垂直方向(又は、垂直面)では、各ビーム方向が異なってもよい。
【0454】
また、例えば、図24の(b)に示すように、マルチビーム(例えば、ビーム方向B1、B2及びB3)において、水平方向(又は、水平面)及び垂直方向(又は、垂直面)の双方においてビーム方向が異なってもよい。
【0455】
<マルチビームの設定例3>
設定例3では、例えば、図25に示すように、マルチビーム(例えば、ビーム方向B1及びB2)において、ビーム方向がほぼ同一であり、ビーム幅が異なってもよい。また、マルチビーム(例えば、ビーム方向B1及びB2)において、水平方向(又は、水平面)のビーム方向がほぼ同一であり、水平方向(又は、水平面)のビーム幅が異なってもよい。また、マルチビーム(例えば、ビーム方向B1及びB2)において、垂直方向(又は、垂直面)のビーム方向がほぼ同一であり、垂直方向(又は、垂直面)のビーム幅が異なってもよい。
【0456】
設定例3では、例えば、上記実施の形態において説明した「ビーム方向が異なる送信アンテナ」の代わりに、「ビーム幅が異なる送信アンテナ」(以下では、「ビームが異なる」と表記する)と置き換えることにより、上記実施の形態と同様に適用が可能である。
【0457】
以下、一例として、符号化ドップラ位相回転量の設定例1を用いて、ビーム方向が同一であり、ビーム幅が異なる場合のレーダ装置10の動作例について説明する。なお、符号化ドップラ位相回転量の設定は、設定例1に限定されず、他の符号化ドップラ位相回転量の設定例を用いた場合も同様に動作でき、上記実施の形態と同様な効果が得られる。
【0458】
例えば、送信アンテナ数Nt=4(例えば、Tx#1、Tx#2、Tx#3、Tx#4)、NB1=2、NB2=2の場合に、上述した位相回転量設定部105における符号化ドップラ位相回転量の設定例1を適用する。なお、例えば、Tx#1及びTx#2は、図25に示すビーム幅B1(例えば、ビームB1)の送信アンテナであり、Tx#3及びTx#4は、図25に示すビーム幅B2(例えば、ビームB2)の送信アンテナである。図25において、ビームB1のビーム幅は、ビームB2のビーム幅よりも広い場合の例を示す。ここで、ビームB1、ビームB2のビーム幅は水平方向(又は、水平面)としてもよく、あるいは垂直方向(又は、垂直面)としてもよく、あるいは、水平方向(又は、水平面)及び垂直方向(又は、垂直面)の両者としてもよく、同様な効果が得られる。
【0459】
また、レーダ装置10において、受信アンテナは、無指向性アンテナ(又は、ビームB1及びビームB2の双方の送信アンテナがカバーする視野角内においてほぼ均一の指向特性のアンテナ)でよい。
【0460】
例えば、物標位置が、図25に示す物標位置(1)又は物標位置(3)の場合、物標位置はビームB1のビーム幅内にあり、視野角内にあるため、ビームB1のTx#1及びTx#2から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の受信レベルは比較的高くなる。その一方で、物標位置(1)及び物標位置(3)は、ビームB2のビーム幅外であり、視野角外にあるため、ビームB2のTx#3及びTx#4から送信されるレーダ送信波の放射方向は、物標位置(1)及び(3)の方向に一致せず、物標位置(1)及び物標位置(3)は、ビームB2の送信アンテナTx#3のヌル方向に該当する。このため、レーダ装置10におけるTx#3及びTx#4に対応する受信信号の受信レベルは、Tx#1及びTx#2に対応する受信信号の受信レベルと比較して低くなる。例えば、Tx#3及びTx#4に対応する受信信号の受信レベルは、Tx#1及びTx#2に対応する受信信号の受信レベルと大きく異なり、Tx#3及びTx#4のヌル方向のビーム指向特性に依存して、例えば、10dB以上小さい受信レベルとなり得る。このような場合、レーダ装置10が受信する受信信号は、図9の(a)に示す受信信号となる。
【0461】
また、例えば、物標位置が、図25に示す物標位置(4)のように、ビームB1及びビームB2の双方の視野角が重なる領域にある場合(例えば、近距離にある場合)、レーダ装置10は、ビームB1のTx#1及びTx#2から送信されるレーダ送信波に対応する反射波、及び、ビームB2のTx#3及びTx#4から送信されるレーダ送信波に対応する反射波を受信する。この場合、レーダ装置10が受信する受信信号は、例えば、図9の(b)のような受信信号となり得る。または、例えば、ビームB2の指向性利得がビームB1と比較して10dB程度以上高い場合、レーダ装置10が受信する受信信号は、例えば、図9の(c)のような受信信号となり得る。
【0462】
また、例えば、物標位置が、図25に示す物標位置(2)のように、ビームB2の視野角内にあり、ビームB1の視野角外となる場合(例えば、遠方距離にある場合)、ビームB2のTx#3及びTx#4から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の受信レベルは比較的高くなる。その一方で、ビームB1の指向性利得はビームB2の指向性利得よりも小さいため、ビームB1のTx#1及びTx#2から送信されるレーダ送信波に対応する反射波の受信レベルは、Tx#3及びTx#4に対応する受信信号の受信レベルと比較して低くなる。例えば、Tx#1及びTx#2に対応する受信信号の受信レベルは、Tx#3及びTx#4に対応する受信信号の受信レベルと大きく異なり、Tx#1及びTx#2のビーム指向特性によっては、例えば、10dB以上小さい受信レベルとなり得る。このような場合、レーダ装置10が受信する受信信号は、図9の(c)に示す受信信号となる。
【0463】
例えば、図9の(b)のように、レーダ装置10が、各ビームの送信アンテナに対応する受信信号をほぼ同程度の受信レベルで受信する場合、ビームB1及びビームB2のそれぞれの送信アンテナを含むNt本の送信アンテナから送信される信号は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数を不均一に設定されて符号化ドップラ多重送信される。よって、レーダ装置10は、既存の符号化ドップラ多重信号の分離動作に基づいて符号化ドップラ多重信号を分離可能となる。
【0464】
また、図9の(a)及び図9の(c)に示すように、レーダ装置10が、ビームB1及びビームB2の何れか一方からの反射波を受信する場合(受信レベルが大きく異なる場合)、物標位置に依存して、異なる符号化ドップラ多重信号(例えば、条件1を満たすドップラ多重信号)を受信する。このため、レーダ装置10は、ビームB1の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベル低下が発生したか、ビームB2の送信アンテナに対応する受信信号の受信レベル低下が発生したかを、符号化ドップラ多重分離部212において判別可能となる。
【0465】
例えば、ビームB1(又は、ビームB2)の送信アンテナから送信される符号化ドップラ多重信号は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数を不均一に設定されて符号化ドップラ多重送信されている。よって、例えば、符号化ドップラ多重分離部212の判別結果により、受信信号が、ビームB1(又は、ビームB2)の送信アンテナに対応する受信信号であると判別された場合、レーダ装置10は、既存の符号化ドップラ多重信号の分離動作を用いて、符号化ドップラ多重信号を分離可能となる。
【0466】
このような符号化ドップラ多重分離部212の動作により、レーダ装置10は、物標のドップラ周波数fdを、-1/(2Tr)≦fd<1/(2Tr)の範囲で確定でき、それぞれの符号化ドップラ多重信号に対する送信アンテナを対応付けた出力を得ることができる。
【0467】
以上、本開示の実施の形態について説明した。
【0468】
[他の実施の形態]
(1)本開示の一実施例に係るレーダ装置において、レーダ送信部及びレーダ受信部は、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。また、本開示の一実施例に係るレーダ受信部において、方向推定部と、他の構成部とは、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。
【0469】
(2)本開示の一実施例において用いた、送信アンテナ数Nt、受信アンテナ数Na、ドップラ多重数NDM、マルチビームにおけるビーム数NB、各ビーム方向の送信アンテナ数NBq、ドップラシフト量、ドップラシフト間隔、符号多重数NCM、符号間隔(符号Index)といったパラメータの数値は一例であり、それらの値に限定されない。また、例えば、レーダ装置が具備している送信アンテナの一部を、送信アンテナ数Ntとして用いてよく、レーダ装置が具備している受信アンテナの一部を、受信アンテナ数Naとして用いてよい。
【0470】
(3)本開示の一実施例において用いたMIMOアンテナの配置例(例えば、配置例A、配置例B)は、符号化ドップラ多重送信を用いて複数の送信アンテナからレーダ送信信号を送信する場合として説明を行ったが、これに限定されない。例えば、時分割多重送信、又は、符号多重送信を用いて複数の送信アンテナからレーダ送信信号を送信する場合にも適用することができ、開示したMIMOアンテナの配置による効果を得ることができる。
【0471】
(4)上記実施の形態では、符号化ドップラ多重送信を用いるマルチビーム送信MIMOレーダにおいて、Nt個の異なる指向性を含む送信アンテナに対して、検出可能なドップラ周波数範囲を±1/(2Tr)範囲に拡大するために、ドップラ多重信号間の符号多重数を不均一に設定し、複数送信アンテナから符号化ドップラ多重送信することを前提条件とした。上記実施の形態では、更に、条件1及び条件2を満たす符号化ドップラ多重送信を適用することにより、マルチビーム送信MIMOレーダの検出性能の向上を図る方法について説明した。例えば、想定する物標の移動速度が比較的低速である場合、又は、レーダ装置と物標との間の相対速度が狭い範囲に限定される場合は、上記前提条件を適用しなくてもよい。
【0472】
例えば、符号化部107は、最大等間隔ドップラシフト量設定よりも狭い間隔の等間隔ドップラシフト量設定を用いて、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1), NDOP_CODE(2),~, NDOP_CODE(NDM)を、1以上NCM個以下の範囲において全て同数の符号化ドップラ多重数を含むように設定してもよい。例えば、符号化部107は、符号化ドップラ多重数の全てにおいて符号数NCM個を設定してもよい。よって、ドップラシフト量DOPndmと直交符号系列との複数の組み合わせにおいて、ドップラシフト量DOPndmそれぞれに対応付けられる直交符号系列による多重数(符号化ドップラ多重数)NDOP_CODE(ndm)は同一でよい。例えば、符号化部107は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数を均一に設定してもよい。この設定により、ドップラ多重信号は不等間隔ドップラ多重となるため、レーダ装置10は、±1/(2×Loc×Tr)のドップラ範囲に亘って、複数の送信アンテナから符号化ドップラ多重送信された信号を個別に分離して受信できる。このような符号化ドップラ多重送信の設定を適用し、更に、条件1を満たす符号化ドップラ多重送信の適用により、マルチビーム送信MIMOレーダの検出性能の向上を図ることができる。
【0473】
あるいは、符号化部107は、例えば、最大等間隔ドップラシフト量設定を用いて、符号化ドップラ多重数NDOP_CODE(1), NDOP_CODE(2),~,NDOP_CODE(NDM)を、1以上NCM個以下の範囲において全て同数の符号化ドップラ多重数を含むように設定してもよい。例えば、符号化部107は、符号化ドップラ多重数の全てにおいて符号数NCM個を設定してよい。この場合、ドップラシフト量DOPndmと直交符号系列との複数の組み合わせの数と、送信アンテナNt個と、が同数となってもよい(例えば、NDM×NCM=Ntとしてもよい)。例えば、符号化部107は、ドップラ多重信号に対する符号化ドップラ多重数を均一に設定してもよい。この設定の場合、レーダ装置10の受信処理における折り返し判定処理が適用されない。また、レーダ装置10は、例えば、±1/(2Loc×NDM×Tr)のドップラ範囲に亘って、複数の送信アンテナから符号化ドップラ多重送信された信号を個別に分離して受信できる。このような符号化ドップラ多重送信の設定を適用し、更に、条件1を満たす符号化ドップラ多重送信の適用により、マルチビーム送信MIMOレーダの検出性能の向上を図ることができる。
【0474】
(5)本開示の一実施例において、レーダ装置10が備える送信アンテナNt個のすべてを用いずに一部を用いて、本開示の一実施例における符号多重送信を行ってもよい。
【0475】
また、レーダ装置10が備える送信アンテナNt個のすべてを用いずに一部を用いて符号多重送信を適用する場合、レーダ装置10は、符号ドップラ多重送信に用いる送信アンテナの組み合わせ、及び、多重送信数の少なくとも一つを時分割に設定(又は、変更)して送信してもよい。この場合、例えば、レーダ装置10は、送信周期毎、又は、符号送信周期(例えば、符号系列の符号長に対応する周期)毎に、送信アンテナの組み合わせを時分割切り替えてもよい。または、例えば、レーダ装置10は、測定周期毎(Nc回のレーダ送信信号送信回数毎)に、送信アンテナの組み合わせ又は多重する送信アンテナ数を切り替えてもよい。このような動作を適用しても、上述した実施の形態の効果を同等に得ることができる。
【0476】
また、レーダ装置10が備える送信アンテナNt個のすべてを用いずに一部を用いて符号多重送信を適用する場合、レーダ装置10は、符号ドップラ多重送信に用いる送信アンテナの組み合わせを時分割に設定(例えば、変更)するともに、異なるチャープ信号を用いて送信してもよい。例えば、レーダ装置10は、チャープ信号の送信帯域、周波数掃引時間、中心周波数の少なくとも一つを変更して、あるいは、これらのパラメータを複数組み合わせて異なるチャープ信号を用いて送信してもよい。
【0477】
(6)本開示の一実施例に係るレーダ装置は、図示しないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体、およびRAM(Random Access Memory)等の作業用メモリを有する。この場合、上記した各部の機能は、CPUが制御プログラムを実行することにより実現される。但し、レーダ装置のハードウェア構成は、かかる例に限定されない。例えば、レーダ装置の各機能部は、集積回路であるIC(Integrated Circuit)として実現されてもよい。各機能部は、個別に1チップ化されてもよいし、その一部または全部を含むように1チップ化されてもよい。
【0478】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0479】
また、上述した実施の形態における「・・・部」という表記は、「・・・回路(circuitry)」、「・・・アッセンブリ」、「・・・デバイス」、「・・・ユニット」、又は、「・・・モジュール」といった他の表記に置換されてもよい。
【0480】
上記各実施形態では、本開示はハードウェアを用いて構成する例にとって説明したが、本開示はハードウェアとの連携においてソフトウェアでも実現することも可能である。
【0481】
また、上記各実施形態の説明に用いた各機能ブロックは、典型的には集積回路であるLSIとして実現される。集積回路は、上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックを制御し、入力端子と出力端子を備えてもよい。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部または全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0482】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサを用いて実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、LSI内部の回路セルの接続又は設定を再構成可能なリコンフィギュラブル プロセッサ(Reconfigurable Processor)を利用してもよい。
【0483】
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術により、LSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックを集積化してもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
【0484】
<本開示のまとめ>
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、第1のビームを形成する第1の送信アンテナ、及び、前記第1のビームと異なる第2のビームを形成する第2の送信アンテナを含む複数の送信アンテナと、ドップラシフト量と符号系列との組み合わせに対応する位相回転量が付与された送信信号を、前記複数の送信アンテナから多重送信する送信回路と、を具備し、前記複数の送信アンテナのそれぞれに対して、前記ドップラシフト量及び前記符号系列の少なくとも一方が異なる前記組み合わせが対応付けられ、前記第1の送信アンテナに対して割り当てられるドップラシフト量及び符号系列の第1のパターンと、前記第2の送信アンテナに対して割り当てられるドップラシフト量及び符号系列の第2のパターンと、が異なる。
【0485】
本開示の一実施例において、前記複数の送信アンテナの数は、前記組み合わせの総数よりも少ない。
【0486】
本開示の一実施例において、前記第1のパターン及び前記第2のパターンは、ドップラシフト量の間隔に関し、前記第1の送信アンテナによるドップラ多重数と、前記第2の送信アンテナによるドップラ多重数と、が同じであり、前記第1の送信アンテナによるドップラシフト量の間隔のうち少なくとも一つは、前記第2の送信アンテナによるドップラシフト量の間隔と異なる。
【0487】
本開示の一実施例において、前記第1のパターン及び前記第2のパターンは、ドップラ多重数に関し、前記第1の送信アンテナによるドップラ多重数と、前記第2の送信アンテナによるドップラ多重数とは異なる。
【0488】
本開示の一実施例において、前記第1のパターン及び前記第2のパターンは、前記ドップラシフト量の間隔の順序に関し、前記第1の送信アンテナによる複数の第1のドップラシフト間隔と、前記第2の送信アンテナによる複数の第2のドップラシフト間隔と、が同じであり、前記複数の第1のドップラシフト間隔のドップラ周波数軸上での順序は、前記複数の第2のドップラシフト間隔の前記ドップラ周波数軸上での順序と異なる。
【0489】
本開示の一実施例において、前記第1のパターン及び前記第2のパターンは、前記符号系列に関し、複数の前記組み合わせにおいて、前記第1の送信アンテナに対応付けられる前記ドップラシフト量のそれぞれに対応する前記符号系列のインデックスと、前記第2の送信アンテナに対応付けられる前記ドップラシフト量のそれぞれに対応する前記符号系列のインデックスと、は異なる。
【0490】
本開示の一実施例において、前記第1のパターン及び前記第2のパターンは、前記符号系列による符号多重数に関し、複数の前記組み合わせにおいて、前記第1の送信アンテナに対応付けられる前記ドップラシフト量のそれぞれに対応する前記符号系列による前記符号多重数と、前記第2の送信アンテナに対応付けられる前記ドップラシフト量のそれぞれに対応する前記符号系列による前記符号多重数と、は異なる。
【0491】
本開示の一実施例において、複数の前記組み合わせにおいて、前記第1の送信アンテナ及び前記第2の送信アンテナの少なくとも一方に関して、少なくとも1つの前記ドップラシフト量に対応付けられる前記符号系列による符号多重数は、他の前記ドップラシフト量に対応付けられる前記符号系列による符号多重数と異なる。
【0492】
本開示の一実施例において、前記送信信号がターゲットで反射した反射波信号を受信する複数の受信アンテナと、前記反射波信号を用いて前記ターゲットの方向推定を行う受信回路と、を更に具備する。
【0493】
本開示の一実施例において、第1の方向に第1の間隔で配置される複数の受信アンテナを更に具備し、前記第1の送信アンテナは、前記第1の方向に前記第1の間隔で配置され、前記第1の方向と直交する第2の方向において異なる位置に配置され、前記第2の送信アンテナは、前記第1の方向に前記第1の間隔で配置され、前記第1の方向と直交する第2の方向において異なる位置に配置され、前記第1の方向において、前記第1の送信アンテナと、前記第2の送信アンテナとは、前記複数の受信アンテナの開口長より大きい間隔で配置される。
【0494】
本開示の一実施例において、第1の方向に第1の間隔で配置される複数の受信アンテナを更に具備し、前記第1の送信アンテナは、前記第1の方向に前記第2の間隔で配置され、前記第1の方向と直交する第2の方向において異なる位置に配置され、前記第2の送信アンテナは、前記第1の方向に前記第2の間隔で配置され、前記第1の方向と直交する第2の方向において異なる位置に配置され、前記第1の方向において、前記第1の送信アンテナと、前記第2の送信アンテナとは、前記複数の受信アンテナの開口長より大きい間隔で配置され、前記第1の間隔と前記第2の間隔との差は、前記送信信号の波長に基づく規定値である。
【0495】
本開示の一実施例において、前記規定値は、前記波長の0.45倍から0.8倍の範囲の何れかの値である。
【0496】
本開示の一実施例において、前記第1のビームと前記第2のビームとは、ビーム方向及びビーム幅の少なくとも一つが異なる。
【0497】
本開示の一実施例において、前記複数の送信アンテナのうち、前記送信信号の多重送信に用いる送信アンテナの組み合わせは、前記送信信号の送信周期、前記符号系列の符号長に対応する期間に対応する周期、又は、前記レーダ装置における測定周期毎に切り替わる。
【産業上の利用可能性】
【0498】
本開示は、広角範囲を検知するレーダ装置として好適である。
【符号の説明】
【0499】
10 レーダ装置
100 レーダ送信部
101 レーダ送信信号生成部
102 送信信号生成制御部
103 変調信号発生部
104 VCO
105 位相回転量設定部
106 ドップラシフト設定部
107 符号化部
108 位相回転部
109 送信アンテナ部
200 レーダ受信部
201 アンテナ系統処理部
202 受信アンテナ部
203 受信無線部
204 ミキサ部
205 LPF
206 信号処理部
207 AD変換部
208 ビート周波数解析部
209 出力切替部
210 ドップラ解析部
211 CFAR部
212 符号化ドップラ多重分離部
213 方向推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25