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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007894
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】磁気検出装置及び電流検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20240112BHJP
   G01R 15/18 20060101ALI20240112BHJP
   G01R 15/20 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G01R33/02 A
G01R15/18
G01R15/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022109282
(22)【出願日】2022-07-06
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596157780
【氏名又は名称】横河計測株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】石田 博之
(72)【発明者】
【氏名】南 裕樹
【テーマコード(参考)】
2G017
2G025
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AB07
2G017AD02
2G017BA03
2G017BA05
2G017BA08
2G017CB02
2G017CB15
2G017CB22
2G017CC02
2G025AC01
2G025EC03
(57)【要約】
【課題】検出精度を向上できる磁気検出装置及び電流検出装置を提供する。
【解決手段】磁気検出装置1は、検出対象磁気が印加されるコアと、励磁信号で前記コアを励磁する励磁部と、コアで生じた磁束の時間変化に応じた誘導電圧を検出する検出部と、励磁信号に対応する検波信号によって誘導電圧に対応する信号から検波して検出対象磁気に応じた信号を生成する検波部と、励磁周波数を有する信号をスペクトラム拡散した励磁信号を生成して励磁部に出力し、励磁周波数の2倍の検波周波数を有する信号をスペクトラム拡散した検波信号を生成して検波部に出力する信号変換部とを備える。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象磁気が印加されるコアと、
励磁信号で前記コアを励磁する励磁部と、
前記コアで生じた磁束の時間変化に応じた誘導電圧を検出する検出部と、
前記励磁信号に対応する検波信号によって前記誘導電圧に対応する信号から検波して前記検出対象磁気に応じた信号を生成する検波部と、
励磁周波数を有する信号をスペクトラム拡散した励磁信号を生成して前記励磁部に出力し、前記励磁周波数の2倍の検波周波数を有する信号をスペクトラム拡散した検波信号を生成して前記検波部に出力する信号変換部と
を備える、磁気検出装置。
【請求項2】
前記信号変換部は、前記検波信号の周波数帯域の幅が、前記励磁信号の周波数帯域の幅の2倍になるように、前記励磁信号及び前記検波信号を生成する、請求項1に記載の磁気検出装置。
【請求項3】
前記検波部で生成された前記検出対象磁気に応じた信号の、カットオフ周波数以上の周波数の成分を減衰させるローパスフィルタを更に備え、
前記信号変換部は、前記励磁信号の周波数帯域の幅の値が前記カットオフ周波数の値の2倍の値より大きくなるように、前記励磁信号を生成する、請求項1又は2に記載の磁気検出装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気検出装置と、
前記磁気検出装置のコアが設置されている電流検出コアと、
前記電流検出コアに巻かれた帰還コイルと、
前記帰還コイルに対して前記磁気検出装置のローパスフィルタから出力される信号に応じた電流を流すアンプと
を備え、
前記電流検出コアは、検出対象電流が流れる電線を囲むように位置する、電流検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気検出装置及び電流検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気コア内の磁束を検出する磁気センサとしてフラックスゲートセンサを備えるゼロフラックス型電流センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-138796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フラックスゲートセンサは、磁束の時間変化を検出して検出信号を出力する。フラックスゲートセンサの励磁信号の周波数の倍数に近い周波数の成分が磁束の時間変化に含まれる場合、検出信号は、ビート信号に対応するノイズを含む。ノイズは、検出精度を低下させる。
【0005】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、検出精度を向上できる磁気検出装置及び電流検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
幾つかの実施形態に係る磁気検出装置は、検出対象磁気が印加されるコアと、励磁信号で前記コアを励磁する励磁部と、前記コアで生じた磁束の時間変化に応じた誘導電圧を検出する検出部と、検波部と、信号変換部とを備える。前記検波部は、前記励磁信号に対応する検波信号によって前記誘導電圧に対応する信号から検波して前記検出対象磁気に応じた信号を生成する。前記信号変換部は、励磁周波数を有する信号をスペクトラム拡散した励磁信号を生成して前記励磁部に出力し、前記励磁周波数の2倍の検波周波数を有する信号をスペクトラム拡散した検波信号を生成して前記検波部に出力する。このようにすることで、検波した信号に含まれるビート信号が低減され得る。その結果、検出対象磁気の検出精度が高められ得る。
【0007】
一実施形態に係る磁気検出装置において、前記信号変換部は、前記検波信号の周波数スペクトルと前記励磁信号の周波数スペクトルとが相似の関係になるように、前記励磁信号及び前記検波信号を生成してよい。このようにすることで、検波部で同期検波された信号に含まれる、コアで生じた磁束に対応する信号が変形しにくくなる。その結果、コアで生じた磁束及びその磁束を生じさせる検出対象磁気が高精度で検出され得る。
【0008】
一実施形態に係る磁気検出装置において、前記信号変換部は、前記検波信号の周波数帯域の幅が、前記励磁信号の周波数帯域の幅の2倍になるように、前記励磁信号及び前記検波信号を生成してよい。このようにすることで、検波部で同期検波された信号に含まれる、コアで生じた磁束に対応する信号が変形しにくくなる。その結果、コアで生じた磁束及びその磁束を生じさせる検出対象磁気が高精度で検出され得る。
【0009】
一実施形態に係る磁気検出装置は、前記検波部で生成された前記検出対象磁気に応じた信号の、カットオフ周波数以上の周波数の成分を減衰させるローパスフィルタを更に備えてよい。また、一実施形態に係る磁気検出装置において、前記信号変換部は、前記励磁信号の周波数帯域の幅の値が前記カットオフ周波数の値の2倍の値より大きくなるように、前記励磁信号を生成してよい。このようにすることで、検波した信号に含まれるビート信号の少なくとも一部の成分がローパスフィルタで減衰され得る。その結果、検出対象磁気の検出精度が高められ得る。
【0010】
幾つかの実施形態に係る電流検出装置は、前記磁気検出装置と、前記磁気検出装置のコアが設置されている電流検出コアと、前記電流検出コアに巻かれた帰還コイルと、アンプとを備える。前記アンプは、前記帰還コイルに対して前記磁気検出装置のローパスフィルタから出力される信号に応じた電流を流す。前記電流検出コアは、検出対象電流が流れる電線を囲むように位置する。このようにすることで、検波した信号に含まれるビート信号が低減され得る。その結果、検出対象電流の検出精度が高められ得る。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る磁気検出装置及び電流検出装置によれば、検出精度が高められ得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】比較例に係る磁気検出装置の構成を示す模式図である。
図2】比較例に係る信号処理部のブロック図である。
図3】比較例に係る磁気検出装置において検出対象磁気の周波数が低い場合の検波結果の周波数スペクトルを示す図である。
図4】比較例に係る磁気検出装置において検出対象磁気の周波数が励磁周波数に近い場合の検波結果の周波数スペクトルを示す図である。
図5】比較例に係る磁気検出装置において検出対象磁気の周波数が励磁周波数に近い場合に検波した信号の波形を示す図である。
図6図5に示される信号をLPFで処理した信号の波形を示す図である。
図7】一実施形態に係る磁気検出装置の構成例を示す模式図である。
図8】一実施形態に係る信号処理部のブロック図である。
図9】一実施形態に係る磁気検出装置において検出対象磁気の周波数が低い場合の検波結果の周波数スペクトルを示す図である。
図10】一実施形態に係る磁気検出装置において検出対象磁気の周波数が励磁周波数に近い場合の検波結果の周波数スペクトルを示す図である。
図11】一実施形態に係る磁気検出装置において検出対象磁気の周波数が励磁周波数に近い場合に検波した信号の波形を示す図である。
図12図11に示される信号をLPFで処理した信号の波形を示す図である。
図13】一実施形態に係る電流検出装置の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示に係る実施形態が、比較例と対比しながら説明される。
【0014】
(比較例)
図1に示されるように、比較例に係る磁気検出装置9は、コア90と、励磁部91と、検出部92と、信号処理部97とを備える。図2に示されるように、信号処理部97は、信号生成部95と、検波部93と、LPF(Low Pass Filter)94とを備える。
【0015】
コア90は、磁性体を含んで構成される。励磁部91は、コイルを含んで構成され、コイルに電流を流すことによって生じる磁界でコア90を励磁する。励磁によってコア90に生じる磁束は、ΦFG9と表される。ΦFG9は、f91で表される励磁周波数を有する交流磁束である。
【0016】
励磁部91において励磁のために流れる電流の信号は、信号生成部95によって生成される。信号生成部95は、励磁周波数を有する交流の励磁信号(S91)を生成して信号変換部16に出力する。
【0017】
励磁の有無にかかわらず、磁気検出装置9に対して外部から磁界が印加される場合、その磁界によってもコア90に磁束が生じる。外部から印加される磁界によってコア90に生じる磁束は、ΦE9と表される。ΦE9は、fE9で表される周波数を有する交流磁束である。
【0018】
コア90に生じる磁束は、ΦFG9とΦE9とを合わせた磁束であり、ΦT9と表される。図2において、ΦFG9とΦE9とを加算した磁束としてΦT9が出力されるように表されている。ΦT9は、検出部92に入力される。
【0019】
検出部92は、コイルを含んで構成され、コア90に生じる磁束(ΦT9)の時間変化に応じてコイルに誘導される電圧を検出して出力する。言い換えれば、検出部92は、コア90に生じる磁束(ΦT9)の時間変化に対応する信号として、コイルの誘導電圧の信号(S93)を検出して出力する。
【0020】
検波部93は、検出部92で検出された誘導電圧の信号(S93)から、検波信号に基づいて同期検波した信号(S94)を生成し、LPF94に出力する。検波信号は、信号生成部95によって生成される。
【0021】
LPF94は、検波部93で同期検波された信号(S94)について所定の周波数以上の周波数の成分を減衰させて出力する。所定の周波数は、カットオフ周波数とも称され、fC9で表される。
【0022】
検波部93で検波された信号(S94)は、図3及び図4に示されるように周波数成分に分けた周波数スペクトルとして表される。図3及び図4において、横軸は周波数を表し、縦軸は各周波数成分の強度を表す。周波数がf91の成分は、励磁部91に流れる電流信号(S91)に対応する。周波数がf91の成分は、基本波成分とも称される。周波数がf91よりも高い成分は、高調波成分とも称される。
【0023】
図3は、コア90に対して外部から印加される磁界に応じてコア90に生じる磁束(ΦE9)の周波数(fE9)が励磁周波数(f91)に対して大幅に低く、LPF94のカットオフ周波数(fC9)よりも低い場合の信号(S94)の周波数スペクトルを表す。図3の周波数スペクトルで表される信号(S94)の周波数成分のうちfC9より高い周波数の成分は、LPF94によって減衰する。LPF94から出力される信号は、周波数がfE9の成分だけになり、磁束(ΦE9)に対応する信号になる。その結果、信号処理部97は、磁束(ΦE9)を検出できる。
【0024】
一方で、図4は、コア90に対して外部から印加される磁界に応じてコア90に生じる磁束(ΦE9)の周波数(fE9)が励磁周波数(f91)又はf91の倍数に近く、LPF94のカットオフ周波数(fC9)よりも高い場合の信号(S94)の周波数スペクトルを表す。図4の周波数スペクトルに対応する信号は、図5に示される波形を有する。図5において、縦軸は信号強度を表し、横軸は時刻を表す。図5の波形は、励磁信号の周波数f91と磁束ΦE9の周波数fE9との差を周波数として有するビート信号の成分を含む。ビート信号の周波数は、fB9で表される。図4の周波数スペクトルは、ビート信号の周波数成分を含む。
【0025】
図4の周波数スペクトルで表される信号(S94)の周波数成分のうちfC9より高い周波数の成分は、LPF94によって減衰する。fB9がfC9よりも低い場合、LPF94から出力される信号は、周波数がfB9の成分だけになる。つまり、LPF94から出力される信号は、磁束(ΦE9)に対応する信号ではなくビート信号に対応する信号が含まれ、図6に示される波形を有する。図6において、縦軸は信号強度を表し、横軸は時刻を表す。LPF94から出力される信号にビート信号に対応する信号が含まれる結果、信号処理部97は、磁束(ΦE9)として誤ってビート信号を検出する。つまり、信号処理部97は、磁束(ΦE9)がLPF94のカットオフ周波数未満の低周波成分を含まない場合に、磁束(ΦE9)が低周波成分を含むと誤って検出する。
【0026】
以上述べてきたように、比較例に係る磁気検出装置9において、検出する磁界の周波数が励磁周波数又は励磁周波数の倍数に近い場合、ビート信号の成分が検出する信号にノイズとして含まれる。以下、ノイズを低減できる磁気検出装置1(図7及び図8参照)が説明される。
【0027】
(本開示の一実施形態に係る磁気検出装置1の構成例)
図7に示されるように、一実施形態に係る磁気検出装置1は、コア10と、励磁部11と、検出部12と、信号処理部17とを備える。信号処理部17は、図8に示されるように、信号生成部15と、信号変換部16と、検波部13と、LPF(ローパスフィルタ)14とを備える。磁気検出装置1は、磁気として、磁気検出装置1に外部から印加される磁界を検出する。磁気検出装置1が検出する磁気又は磁界は、検出対象磁気とも称される。
【0028】
コア10は、磁性体を含んで構成される。励磁部11は、コイルを含んで構成され、コイルに電流を流すことによって生じる磁界でコア10を励磁する。励磁によってコア10に生じる磁束は、ΦFGと表されるとする。ΦFGは、f1で表される励磁周波数を有する交流磁束であるとする。
【0029】
励磁部11において励磁のために流れる電流の信号は、信号生成部15及び信号変換部16によって生成される。信号生成部15は、励磁周波数を有する交流の信号(S1)を生成して信号変換部16に出力する。信号生成部15は、発振回路を含んで構成されてよい。信号変換部16は、信号(S1)をスペクトラム拡散した拡散信号(S1_SS)を生成して励磁信号として励磁部11に出力し、励磁信号に対応する電流を励磁部11に流す。信号変換部16は、信号のスペクトラム拡散を、例えば直接拡散方式、周波数ホッピング方式、又はハイブリッド方式等の種々の方式のいずれかで実行するように構成されてよい。
【0030】
励磁の有無にかかわらず、磁気検出装置1に対して外部から磁界が印加される場合、その磁界によってもコア10に磁束が生じる。外部から印加される磁界によってコア10に生じる磁束は、ΦEと表されるとする。ΦEは、fEで表される周波数を有する交流磁束であるとする。
【0031】
コア10に生じる磁束は、ΦFGとΦEとを合わせた磁束であり、ΦTと表されるとする。図8において、ΦFGとΦEとを加算した磁束としてΦTが出力されるように表されている。ΦTは、検出部12に入力される。
【0032】
検出部12は、コイルを含んで構成され、コア10に生じる磁束(ΦT)の時間変化に応じてコイルに誘導される電圧を検出して出力する。言い換えれば、検出部12は、コア10に生じる磁束(ΦT)の時間変化に対応する信号として、コイルの誘導電圧の信号(S3)を検出して出力する。
【0033】
検波部13は、検出部12で検出された誘導電圧の信号(S3)から、検波信号に基づいて同期検波した信号(S4)を生成し、LPF14に出力する。
【0034】
検波部13は、検波信号の強度に応じて出力する信号を切り替えるスイッチを含んで構成されてよい。スイッチは、検波信号(S2_SS)の強度が正の値になったときに誘導電圧の信号(S3)をそのままLPF14に出力し、検波信号の強度が負の値になったときに誘導電圧の信号(S3)を反転させてLPF14に出力するように構成されてよい。
【0035】
検波信号は、信号生成部15及び信号変換部16によって生成される。信号生成部15は、励磁周波数の2倍の検波周波数を有する交流の信号(S2)を生成して信号変換部16に出力する。信号変換部16は、信号(S2)をスペクトラム拡散した拡散信号(S2_SS)を生成し、検波信号として検波部13に出力する。
【0036】
信号変換部16は、検波信号として生成した拡散信号(S2_SS)の周波数帯域の幅が励磁信号として生成した拡散信号(S1_SS)の周波数帯域の幅の2倍になるように励磁信号及び検波信号を生成する。信号変換部16は、信号(S1)をスペクトラム拡散した信号(S1_SS)の周波数帯域の中心の周波数が拡散前の信号(S1)の周波数になり、かつ、信号(S1)をスペクトラム拡散した信号(S1_SS)の周波数帯域の上限値及び下限値が拡散前の信号(S1)の周波数の値に対して所定の割合で増減させた値になるように、拡散信号(S1_SS)を生成してよい。信号変換部16は、信号(S2)をスペクトラム拡散した信号(S2_SS)の周波数帯域の中心の周波数が拡散前の信号(S2)の周波数になり、かつ、信号(S2)をスペクトラム拡散した信号(S2_SS)の周波数帯域の上限値及び下限値が拡散前の信号(S2)の周波数の値に対して所定の割合で増減させた値になるように、拡散信号(S2_SS)を生成してよい。信号変換部16は、信号(S1及びS2)をスペクトラム拡散する際に、拡散信号(S1_SS及びS2_SS)の周波数帯域の上限値及び下限値を定める所定の割合として同じ値を設定する。信号変換部16は、所定の割合として、例えば±10%を設定してよい。
【0037】
信号変換部16は、拡散信号(S1_SS)の周波数と拡散信号(S2_SS)の周波数との関係を合わせるだけでなく、拡散信号(S1_SS)の位相と、拡散信号(S2_SS)の位相とを一致させるように、励磁信号及び検波信号を生成する。拡散信号(S1_SS)の位相と拡散信号(S2_SS)の位相とが一致する場合、検波によって低周波信号が検出され得る。
【0038】
信号変換部16は、信号(S1)と信号(S2)とを両方とも同じ拡散符号を用いて拡散し、拡散信号(S1_SS)と拡散信号(S2_SS)とを生成してよい。このようにすることで、拡散信号(S1_SS)と拡散信号(S2_SS)とで、周波数の関係が上述した関係になる。また、拡散信号(S1_SS)の位相と拡散信号(S2_SS)の位相とが一致する。
【0039】
信号変換部16は、信号生成部15から、励磁周波数の2倍の検波周波数を有する信号(S2)だけを取得し、信号(S2)をスペクトラム拡散した拡散信号(S2_SS)を生成してよい。信号変換部16は、拡散信号(S2_SS)の周波数を1/2に分周する回路によって、励磁周波数を有する信号(S1)をスペクトラム拡散した拡散信号(S1_SS)を生成してよい。つまり、信号変換部16は、信号(S1)をスペクトラム拡散せずに信号(S2)だけをスペクトラム拡散してよい。このようにすることで、拡散信号(S1_SS及びS2_SS)の周波数帯域の上限値及び下限値が中心の周波数に対して同じ割合で算出される値になる。また、拡散信号(S2_SS)を分周して拡散信号(S1_SS)を生成することによって、拡散信号(S1_SS)の位相と拡散信号(S2_SS)の位相とが一致する。
【0040】
信号生成部15は、信号(S1)及び信号(S2)を両方とも生成するように構成されてもよい。信号生成部15は、励磁周波数の2倍の検波周波数を有する信号(S2)を生成し、信号(S2)の周波数を1/2に分周する回路によって励磁周波数を有する信号(S1)を生成するように構成されてもよい。
【0041】
LPF14は、検波部13で同期検波された信号(S4)について所定の周波数以上の周波数の成分を減衰させて出力する。所定の周波数は、カットオフ周波数とも称され、fCで表される。LPF14は、例えばRC回路を含んで構成されてよい。
【0042】
検波部13で検波された信号(S4)は、図9及び図10に示されるように周波数成分に分けた周波数スペクトルとして表される。図9及び図10において、横軸は、周波数を表す対数軸であるとする。縦軸は、各周波数成分の強度を表す。中心の周波数がf1、かつ、周波数帯域の幅がf1SSとなっている成分は、励磁部11に流れる拡散励磁信号(S1_SS)に対応する。中心の周波数がf1の成分は、基本波成分とも称される。中心の周波数がf1よりも高い成分は、高調波成分とも称される。
【0043】
図9は、コア10に対して外部から印加される磁界に応じてコア10に生じる磁束(ΦE)の周波数(fE)が励磁周波数(f1)に対して大幅に低く、LPF14のカットオフ周波数(fC)よりも低い場合の信号(S4)の周波数スペクトルを表す。図9の周波数スペクトルで表される信号(S4)の周波数成分のうちfCより高い周波数の成分は、LPF14によって減衰する。LPF14から出力される信号は、周波数がfEの成分だけになり、磁束(ΦE)に対応する信号になる。その結果、信号処理部17は、磁束(ΦE)を検出できる。信号変換部16が励磁信号及び検波信号それぞれの周波数スペクトルを制御することによって、検波部13で同期検波された信号に含まれる、磁束(ΦE)に対応する信号が変形しにくくなる。その結果、磁束(ΦE)及びその磁束(ΦE)を生じさせる磁界が高精度で検出され得る。
【0044】
一方で、図10は、コア10に対して外部から印加される磁界に応じてコア10に生じる磁束(ΦE)の周波数(fE)が励磁周波数(f1)又はf1の倍数に近く、LPF14のカットオフ周波数(fC)よりも高い場合の信号(S4)の周波数スペクトルを表す。図10の周波数スペクトルに対応する信号は、図11に示される波形を有する。図11において、縦軸は信号強度を表し、横軸は時刻を表す。図11の波形は、励磁信号(S1)に含まれる周波数(中心の周波数がf1、かつ、周波数帯域の幅がf1SSとなっている範囲の周波数)と、磁束ΦEの周波数fEとの差を周波数として有するビート信号に対応する成分を含む。ビート信号に対応する成分は、図10において、中心の周波数がfB、かつ、周波数帯域の幅がf1SSとなっている成分として表される。
【0045】
図10の周波数スペクトルで表される信号(S4)の周波数成分のうちfCより高い周波数の成分は、LPF14によって減衰する。ビート信号に対応する成分の少なくとも一部の周波数は、fCより高いとする。この場合、ビート信号に対応する成分の少なくとも一部は、LPF14によって減衰する。その結果、LPF14から出力される信号に含まれるビート信号が小さくなる。LPF14から出力される信号は、ビート信号の周波数成分のような特定の周波数成分を有しない信号となり、図12に示される波形を有する。図12において、縦軸は信号強度を表し、横軸は時刻を表す。LPF14から出力される信号が特定の周波数成分を有しないことによって、信号処理部17は、磁束(ΦE)として誤ってビート信号を検出しにくくなる。つまり、信号処理部17は、磁束(ΦE)がLPF14のカットオフ周波数未満の低周波成分を含まない場合に、磁束(ΦE)が低周波成分を含まないとして、磁束(ΦE)に対応する信号を検出できる。
【0046】
以上述べてきたように、本実施形態に係る磁気検出装置1は、スペクトラム拡散した励磁信号でコア10を励磁する。磁気検出装置1は、コア10の励磁によって生じた誘導電圧の信号から、スペクトラム拡散した検波信号に基づいて同期検波する。磁気検出装置1は、同期検波した信号をLPF14に通し、コア10に生じる磁束(ΦE)に対応する信号を検出する。磁気検出装置1は、磁束(ΦE)に対応する信号に基づいて、磁気検出装置1に印加される磁界を磁気として検出する。磁気検出装置1は、検出対象の磁界に含まれる周波数が励磁信号の周波数又はこれらの周波数の倍数に近い場合であっても、励磁信号及び検波信号をスペクトラム拡散することによって、ビート信号を検出しにくくなる。その結果、本実施形態に係る磁気検出装置1は、検出対象の磁界に含まれる周波数にかかわらず、LPF14のカットオフ周波数よりも低い周波数領域における磁界の検出精度を向上できる。言い換えれば、本実施形態に係る磁気検出装置1は、検出対象磁気が励磁周波数又は検波周波数等の高い周波数の成分を含み得る場合でも、検出対象磁気に含まれる直流磁界又は低周波磁界の検出精度を向上できる。
【0047】
信号処理部17は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されてよい。信号処理部17は、所定のプログラムを実行することによって、励磁又は検波等の種々の動作を実行してよい。信号処理部17は、ソフトウェアの処理によって、信号生成部15、信号変換部16、検波部13、及びLPF14の動作を実現して、磁気検出装置1に対して外部から印加される磁界に応じてコア10に生じる磁束(ΦT)に対応する信号を検出してよい。信号処理部17は、磁束(ΦT)に対応する信号の検出結果に基づいて、磁束(ΦT)を生じさせる検出対象磁界を算出してよい。
【0048】
磁気検出装置1は、検出対象磁界の検出結果を外部装置に出力するインタフェースを更に備えてよい。インタフェースは、種々の通信インタフェースを含んでよい。磁気検出装置1は、検出対象磁界の検出結果を表示する表示デバイスを更に備えてよい。表示デバイスは、例えば液晶ディスプレイ等の種々のディスプレイを含んで構成されてよい。
【0049】
(電流検出装置20)
磁気検出装置1は、図13に例示される貫通型の電流検出装置20で用いられてよい。電流検出装置20は、磁気検出装置1と、コア21と、アンプ22と、帰還コイル23とを備える。コア21は、電流検出コアとも称される。コア21は、検出対象とする電流Iが流れる電線30が内側を貫通するように、環状に構成される。コア21は、検出対象とする電流Iによって生じる磁界に応じて磁束が生じるように磁性体を含んで構成される。コア21に生じる磁束は、ΦEと表される。電流Iが紙面の奥行方向に向かって流れる場合、右ねじの法則によって磁束(ΦE)は時計回りの向きに生じる。言い換えれば、コア21は、検出対象電流が流れる電線30を囲むように位置する。
【0050】
コア21は、内部に、磁気検出装置1の、励磁部11及び検出部12のコイルを巻いたコア10を備える。つまり、コア21に磁気検出装置1のコア10が設置される。検出対象電流である電流Iによって生じる磁界に応じた磁束は、磁気検出装置1のコア10にも生じる。コア21に生じる磁束の大きさとコア10に生じる磁束の大きさとは比例し得る。磁気検出装置1は、励磁部11によってコア10を励磁して磁束(ΦFG)を生じさせ、検出部12で誘導電圧を検出する。磁気検出装置1の信号処理部17は、磁気検出装置1のコア10に生じている磁束、つまり電流検出装置20のコア21に生じている磁束(ΦT)に対応する信号を検出する。
【0051】
信号処理部17は、電流検出装置20のコア21に生じている磁束(ΦT)に対応する信号をアンプ22に出力する。アンプ22は、磁束(ΦT)に対応する信号に応じた電流信号を生成して帰還コイル23に電流を流す。帰還コイル23は、アンプ22の出力とGNDとして表される接地点との間に接続される。アンプ22から入力された電流は、接地点に向かって流れる。帰還コイル23に流れる電流によって、コア21に磁束が生じる。帰還コイル23に流れる電流によってコア21に生じる磁束は、ΦIsと表される。
【0052】
電流検出装置20は、磁束(ΦIs)によって磁束(ΦT)を打ち消すように動作する。具体的に、帰還コイル23に流れる電流の向き、又は、帰還コイル23をコア21に巻く方向は、磁束(ΦIs)が磁束(ΦT)と反対の向きに生じるように設定される。図13において、磁束(ΦIs)は、反時計回りの向きに生じる。また、帰還コイル23に流れる電流の大きさは、磁束(ΦIs)の大きさが磁束(ΦT)に一致するように設定される。
【0053】
磁束(ΦIs)が磁束(ΦT)を打ち消した場合、磁気検出装置1によって測定される磁界が0になる。磁気検出装置1によって測定される磁界が0になった場合にアンプ22が帰還コイル23に流す電流Isの大きさは、磁束(ΦT)を生じさせている電流Iの大きさに対応する。電流検出装置20は、電流Isの大きさに基づいて電流Iの大きさを算出できる。
【0054】
電流検出装置20の一実施例として、以下の条件で電流検出装置20及び磁気検出装置1の動作のシミュレーションが実行された。
励磁周波数(f1):99kHz
スペクトラム拡散した励磁信号の周波数帯域の上限及び下限:99kHz±10%
LPF14のカットオフ周波数(fC):150Hz
電流Iの周波数:198.1kHz
電流Iの強度:0.2Arms相当
ビート信号の周波数:100Hz(=198.1-99×2kHz)
【0055】
上述の条件において、電流Iの周波数がLPF14のカットオフ周波数より高い。したがって、LPF14の出力に電流Iに対応する信号が含まれない。また、ビート信号の周波数がLPF14のカットオフ周波数より低い。したがって、LPF14の出力にビート信号がノイズとして含まれ得る。LPF14の出力に基づいてアンプ22が流す電流(Is)はノイズ電流である。
【0056】
励磁信号をスペクトラム拡散しない場合、磁束(ΦIs)が磁束(ΦT)を打ち消したときのアンプ22の出力電流(Is)は、0.221Armsとなった。一方で、励磁信号をスペクトラム拡散した場合、磁束(ΦIs)が磁束(ΦT)を打ち消したときのアンプ22の出力電流(Is)は、0.0268Armsとなった。ノイズ電流である出力電流(Is)は、励磁信号をスペクトラム拡散することによって低減した。低減率は、-18.3dBである。以上のことから、励磁信号をスペクトラム拡散することによるビート信号が低減されることが分かる。
【0057】
磁気検出装置1は、図13に例示される貫通型の電流検出装置20に限られず、クランプ型の電流検出装置で用いられてもよい。
【0058】
電流検出装置20において、磁気検出装置1による磁界の検出精度は、磁束(ΦIs)が磁束(ΦT)を打ち消しているかを検出する精度に影響を及ぼす。磁気検出装置1による磁界の検出精度が高められることによって、電流検出装置20による電流の検出精度が高められる。
【0059】
本開示に係る実施形態について、諸図面及び実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形又は改変を行うことが可能であることに注意されたい。従って、これらの変形又は改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 磁気検出装置(10:コア、11:励磁部、12:出力部、13:検波部、14:LPF、15:信号生成部、16:信号変換部、17:信号処理部)
20 電流検出装置(21:コア、22:アンプ、23:帰還コイル)
30 検出対象電流を流す電線
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