(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024080027
(43)【公開日】2024-06-13
(54)【発明の名称】結晶欠陥要素の面内分布の予測方法及びこれを用いたシリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240606BHJP
C30B 15/22 20060101ALI20240606BHJP
【FI】
C30B29/06 502Z
C30B15/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022192842
(22)【出願日】2022-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(72)【発明者】
【氏名】太田 淳
(72)【発明者】
【氏名】末若 良太
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EA02
4G077EG19
4G077EG25
4G077EH07
4G077EH09
4G077HA12
4G077PF16
4G077PF17
4G077PF34
4G077PF35
4G077PF55
(57)【要約】
【課題】炉内条件が異なる複数水準の結晶欠陥要素の面内分布を短時間で精度良く予測する方法を提供する。
【解決手段】本発明による予測方法は、単結晶育成中の温度勾配分布の決定因子を変化させて得られる複数水準(x1~x5)の結晶欠陥要素の面内分布を計算機シミュレーションにより計算する第1ステップS21と、複数水準の結晶欠陥要素の面内分布の各々を結晶径方向に分割して、結晶欠陥要素の制御値を結晶径方向の分割位置(d1~d3)毎に抽出する第2ステップS22と、結晶欠陥要素の制御値と水準との関係を示す近似式を分割位置毎に導出する第3ステップS23と、複数の近似式を用いて、追加水準(x')の結晶欠陥要素の制御値を分割位置毎に算出する第4ステップS24と、分割位置毎に算出された追加水準の結晶欠陥要素の制御値に基づいて、追加水準の結晶欠陥要素の面内分布を新たに生成する第5ステップS25とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶育成中の温度勾配分布の決定因子を変化させて得られる複数水準の結晶欠陥要素の面内分布を計算機シミュレーションにより計算する第1ステップと、
前記第1ステップで計算された前記複数水準の結晶欠陥要素の面内分布の各々を結晶径方向に分割して、前記結晶欠陥要素の制御値を結晶径方向の分割位置毎に抽出する第2ステップと、
前記第2ステップで抽出された前記結晶欠陥要素の制御値と前記水準との関係を示す近似式を前記分割位置毎に導出する第3ステップと、
前記第3ステップで前記分割位置毎に導出した複数の前記近似式を用いて、追加水準の結晶欠陥要素の制御値を前記分割位置毎に算出する第4ステップと、
前記第4ステップで前記分割位置毎に算出された前記追加水準の前記結晶欠陥要素の制御値に基づいて、前記追加水準の結晶欠陥要素の面内分布を新たに生成する第5ステップと、を備えることを特徴とするシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法。
【請求項2】
前記温度勾配分布の決定因子は、シリコン融液の上方に設置され、前記シリコン融液から引上げられる前記シリコン単結晶を取り囲む熱遮蔽体の下端とシリコン融液の表面との間の距離であるギャップである、請求項1に記載のシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法。
【請求項3】
前記温度勾配分布の決定因子は、シリコン融液の上方に設置され、前記シリコン融液から引上げられる前記シリコン単結晶を取り囲む熱遮蔽体の下端の開口の内径である、請求項1に記載のシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法。
【請求項4】
前記温度勾配分布の決定因子は、シリコン融液の上方に設置され、前記シリコン融液から引上げられる前記シリコン単結晶を取り囲む熱遮蔽体の下端から径方向内側に張り出した膨出部の内径部の上端までの高さである、請求項1に記載のシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法。
【請求項5】
前記計算機シミュレーションにより求める前記結晶欠陥要素のある決定因子である任意の炉内条件の水準数は、3以上7以下である、請求項1に記載のシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法。
【請求項6】
前記結晶欠陥要素は、Grown-in欠陥を含む結晶欠陥であり、
前記結晶欠陥要素の制御値は、前記シリコン単結晶の引上速度である、請求項1に記載のシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法。
【請求項7】
前記結晶欠陥要素は、熱応力であり、
前記結晶欠陥要素の制御値は、熱応力値である、請求項1に記載のシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法。
【請求項8】
前記結晶欠陥要素の面内分布は、
OSF領域が発生する引上速度とPv領域が発生する引上速度との境界を示すOSF-Pv境界分布と、
前記Pv領域が発生する引上速度と前記Pi領域が発生する引上速度との境界を示すPv-Pi境界分布と、
前記Pi領域が発生する引上速度とL/DL領域が発生する引上速度との境界を示すPi-L/DL境界分布と、を含む、請求項6に記載のシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法。
【請求項9】
前記複数水準及び前記追加水準の結晶欠陥要素の面内分布に基づいて、前記OSF-Pv境界分布の下限値と前記Pi-L/DL境界分布の上限値との差であるPvPiマージンの最大値が得られる前記温度勾配分布の決定因子の値を決定する第6ステップをさらに備える、請求項8に記載のシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載した結晶欠陥要素の面内分布の予測方法に基づいて設計された単結晶製造装置を用いて実際にシリコン単結晶の育成を行うことを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計算機シミュレーションを用いた結晶欠陥要素の面内分布の予測方法及びこれを用いたチョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板材料となるシリコン単結晶の多くはCZ法により製造されている。CZ法は、石英ルツボ内に収容されたシリコン融液に種結晶を浸漬し、種結晶を石英ルツボと共に回転させながら徐々に引上げることにより、種結晶の下方に大きな直径の単結晶を成長させる。CZ法によれば、高品質のシリコン単結晶を高い歩留まりで製造することが可能である。
【0003】
CZ法により育成されるシリコン単結晶に含まれる結晶欠陥の種類及び分布は、結晶引上速度Vと結晶引上方向の結晶内温度勾配Gとの比であるV/Gに依存することが知られている。
【0004】
V/Gと結晶欠陥の種類及び分布との一般的な関係を
図17に示す。図示のように、V/Gが大きい場合には空孔が過剰となり、その凝集体であるボイドが発生する。ボイドは一般的にCOP(Crystal Originated Particle)と称される結晶欠陥である。一方、V/Gが小さい場合には格子間シリコン原子が過剰となり、その凝集体である転位クラスターが発生する。COPや転位クラスターなどのGrown-in欠陥を含まないシリコン単結晶を育成するためには、V/Gの厳密な制御が必要である。
【0005】
COP及び転位クラスターを含まないシリコン単結晶であっても、その結晶品質は必ずしも同じでなく、熱処理された場合の挙動が異なる複数の領域を含んでいる。具体的には、COPが発生する領域と転位クラスターが発生するL/DL(Large Dislocation Loop)領域との間には、V/Gが大きいほうから順に、OSF領域、Pv領域、Pi領域の三つの領域が存在する。
【0006】
OSF領域とは、As-grown状態(単結晶成長後に何も熱処理されていない状態)で板状酸素析出物(OSF核)を含んでおり、高温(一般的には1000~1200℃)で熱処理した場合にOSF(Oxidation induced Stacking Fault)が発生する領域である。Pv領域とは、As-grown状態で酸素析出核を含んでおり、低温及び高温(例えば800℃と1000℃)の2段階の熱処理を施した場合に酸素析出物が発生しやすい領域である。Pi領域とは、As-grown状態で酸素析出核をほとんど含んでおらず、熱処理を施しても酸素析出物が発生しにくい領域である。こうしたPv領域とPi領域とを作り分けた高品質なシリコン単結晶を育成するためには、V/Gのさらに厳密な制御が必要である。
【0007】
結晶引上方向のV/Gは、結晶引上速度Vに大きく依存する。したがって、結晶引上方向のV/Gの制御は、結晶引上速度Vを調整することにより行われる。一方、結晶引上速度Vは、結晶引上方向と直交する単結晶の径方向のどの位置でも同じであるため、単結晶の径方向のV/Gを制御するためには、単結晶の径方向の温度勾配Gを調整する必要があり、単結晶の中心部における温度勾配Gと外周部における温度勾配Gの差が所定の範囲内に収まるようにチャンバー内に適切な高温領域(ホットゾーン)を構築する必要がある。単結晶の径方向の温度勾配Gは、シリコン融液の上方に設けられた熱遮蔽体によって制御され、これにより固液界面付近に適切なホットゾーンを構築することができる。
【0008】
シリコン単結晶の結晶欠陥分布をシミュレーションする方法に関し、例えば特許文献1には、点欠陥の拡散を、結晶成長軸に平行な拡散と、結晶径方向の拡散とを、それぞれ1次元の拡散として計算することにより、点欠陥濃度を短時間で正確に計算する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来は、結晶欠陥分布の決定因子である任意の炉内条件の最適な水準を決定する場合、任意の炉内条件における異なる複数の水準毎に計算機シミュレーションによる結晶欠陥分布の計算を繰り返し行っていた。しかし、結晶欠陥分布の計算には時間がかかることから、短時間で最適な水準を予測するためには、水準の数を際限なく増やすことはできず、ある程度の範囲に絞って水準を決める必要があった。そして、その限られた水準数で計算機シミュレーションを行い、そこから抽出された計算値を基に近似曲線を導出するため、最適な水準を予測する精度が低いという問題がある。
【0011】
特許文献1に記載された従来の計算方法は、ある炉内条件のときの結晶欠陥分布を短時間で精度良く予測する技術であって、任意の炉内条件における異なる複数水準の結晶欠陥分布の計算時間を短縮できるものではない。
【0012】
したがって、本発明の目的は、任意の炉内条件における異なる複数水準の結晶欠陥要素の面内分布を短時間で精度良く予測することが可能なシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法及びこれを用いたシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、結晶径方向のある位置で結晶欠陥境界を示す引上速度が、任意の炉内条件における水準の変化に対しておおよそ線形の関係にあるため、近似式での精度の高い表現が可能であり、任意の炉内条件における異なる複数水準の全てで計算機シミュレーションを行わなくても追加水準の結晶欠陥分布を近似式から求めることにより、短時間で計算機シミュレーションと同等の結果が得られることを見出した。
【0014】
本発明はこのような技術的知見に基づくものであり、本発明によるシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法は、単結晶育成中の温度勾配分布の決定因子である任意の炉内条件の水準を変化させて得られる複数水準の結晶欠陥要素の面内分布を計算機シミュレーションにより計算する第1ステップと、前記第1ステップで計算された前記複数水準の結晶欠陥要素の面内分布の各々を結晶径方向に分割して、前記結晶欠陥要素の制御値を結晶径方向の分割位置毎に抽出する第2ステップと、前記第2ステップで抽出された前記結晶欠陥要素の制御値と前記水準との関係を示す近似式を前記結晶径方向の分割位置毎に導出する第3ステップと、前記第3ステップで前記分割位置毎に導出した複数の前記近似式を用いて、追加水準の結晶欠陥要素の制御値を前記結晶径方向の分割位置毎に算出する第4ステップと、前記第4ステップで前記結晶径方向の分割位置毎に算出された前記追加水準の前記結晶欠陥要素の制御値に基づいて、前記追加水準の結晶欠陥要素の面内分布を新たに生成する第5ステップとを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、複数水準の結晶欠陥要素の面内分布から求めた近似式から追加水準の結晶欠陥要素の面内分布を求めることにより、短時間で最適な水準を精度良く予測することができる。
【0016】
前記温度勾配分布の決定因子は、シリコン融液の上方に設置され、前記シリコン融液から引上げられる前記シリコン単結晶を取り囲む熱遮蔽体の下端とシリコン融液の表面との間の距離であるギャップであることが好ましい。ギャップ値が異なる複数水準の結晶欠陥要素の面内分布を求めることにより、無欠陥結晶を引上げることができる最適なギャップ値を予測することができる。
【0017】
前記温度勾配分布の決定因子は、シリコン融液の上方に設置され、前記シリコン融液から引上げられる前記シリコン単結晶を取り囲む熱遮蔽体の下端の開口の内径であってもよく、或いは熱遮蔽体の下端から径方向内側に張り出した膨出部の内径部の上端までの高さであってもよい。このように、本発明は様々な炉内条件の評価に用いることができる。
【0018】
前記計算機シミュレーションにより求める前記結晶欠陥要素のある決定因子である任意の炉内条件の水準数は、3以上7以下であることが好ましい。これにより、予測精度を低下させることなく、複数水準の結晶欠陥要素の面内分布を短時間で精度良く予測することができる。
【0019】
前記結晶欠陥要素は、Grown-in欠陥を含む結晶欠陥であり、前記結晶欠陥要素の制御値は、前記シリコン単結晶の引上速度であることが好ましい。これにより、複数水準の結晶欠陥分布を短時間で精度良く予測することができる。
【0020】
前記結晶欠陥要素は、熱応力であり、前記結晶欠陥要素の制御値は、熱応力値であってもよい。これにより、複数水準の熱応力分布を短時間で精度良く予測することができる。
【0021】
前記結晶欠陥要素の面内分布は、OSF領域が発生する引上速度とPv領域が発生する引上速度との境界を示すOSF-Pv境界分布と、前記Pv領域が発生する引上速度と前記Pi領域が発生する引上速度との境界を示すPv-Pi境界分布と、前記Pi領域が発生する引上速度とL/DL領域が発生する引上速度との境界を示すPi-L/DL境界分布を含むことが好ましい。これにより、結晶欠陥要素の面内分布から、無欠陥結晶を引き上げることができる結晶引上速度の許容幅(以下、「PvPiマージン」という)を求めることができる。
【0022】
前記複数水準及び前記追加水準の結晶欠陥要素の面内分布に基づいて、前記OSF-Pv境界分布の下限値と前記Pi-L/DL境界分布の上限値との差であるPvPiマージンの最大値が得られる前記温度勾配分布の決定因子の値を決定する第6ステップをさらに備えることが好ましい。これにより、PvPiマージンの最大値が得られる温度勾配分布の決定因子の最適値を効率よく求めることができる。
【0023】
また本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、上記特徴を有する本発明による結晶欠陥要素の面内分布の予測方法に基づいて設計された単結晶製造装置を用いて実際にシリコン単結晶の育成を行うことを特徴とする。本発明によれば、無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、任意の炉内条件における異なる複数水準の結晶欠陥要素の面内分布を短時間で精度良く予測することが可能なシリコン単結晶の結晶欠陥要素の面内分布の予測方法及びこれを用いたシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を示す略側面断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造工程を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の結晶欠陥分布の予測方法を概略的に説明するフローチャートである。
【
図5】
図5は、計算機シミュレーションによる結晶欠陥分布の算出方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、ギャップ値をx1からx5まで計5水準で変化させたときの計算機シミュレーションによる結晶欠陥分布の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、x1からx5までの各ギャップ値における結晶欠陥分布のOSF-Pv境界線と結晶径方向の分割位置d1、d2、d3に引いた垂直線との交点を表したグラフである。
【
図8】
図8(a)、(b)、(c)は、結晶径方向の分割位置d1、d2、d3におけるOSF-Pv境界線上の引上速度値の変化をそれぞれ示すグラフである。
【
図9】
図9は、本発明による結晶欠陥分布の予測方法により算出した追加水準であるギャップ値x'のときの結晶欠陥分布を示すグラフである。
【
図10】
図10は、本発明による結晶欠陥分布の予測方法で計算したときの計算時間を従来の方法と比較して示すグラフである。
【
図11】
図11は、計算機シミュレーションにより算出した計7水準のギャップ値における結晶欠陥分布から求めたPvPiマージンの変化を示すグラフである。
【
図12】
図12は、本発明による結晶欠陥分布の予測方法により算出した追加水準の結晶欠陥分布から求めたPvPiマージンを、ギャップ(相対値)が3mmのときの計算機シミュレーションによる計算結果と比較して示すグラフである。
【
図13】
図13は、本発明による結晶欠陥分布の予測方法により求めたPvPiマージンを従来の結晶欠陥分布の予測方法、及び計算機シミュレーションで追加水準を計算した場合と比較して示すグラフである。
【
図14】
図14は、本発明の予測方法で計算したギャップ(相対値)が3mmのときの結晶欠陥分布を計算機シミュレーションで計算した結晶欠陥分布の結果と共に示すグラフである。
【
図15】
図15は、本発明の他の実施の形態による熱応力分布の予測方法により求めた熱応力分布を示すグラフである。
【
図16】
図16は、本発明による追加水準の熱応力分布の計算結果を計算機シミュレーションの結果と比較して示すグラフである。
【
図17】
図17は、V/Gと結晶欠陥の種類及び分布との一般的な関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶製造装置の構成を示す略側面断面図である。
【0028】
図1に示すように、単結晶製造装置1は、水冷式のチャンバー10と、チャンバー10内においてシリコン融液2を保持する石英ルツボ11と、石英ルツボ11を保持する黒鉛ルツボ12と、黒鉛ルツボ12を支持する回転シャフト13と、回転シャフト13を回転及び昇降駆動するシャフト駆動機構14と、黒鉛ルツボ12の周囲に配置されたヒーター15と、ヒーター15の外側であってチャンバー10の内面に沿って配置された断熱材16と、石英ルツボ11の上方に配置された熱遮蔽体20と、石英ルツボ11の上方であって回転シャフト13と同軸上に配置された単結晶引上用のワイヤー18と、チャンバー10の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構19とを備えている。
【0029】
チャンバー10は、メインチャンバー10aと、メインチャンバー10aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー10bとで構成されており、石英ルツボ11、黒鉛ルツボ12、ヒーター15及び熱遮蔽体20はメインチャンバー10a内に設けられている。プルチャンバー10bにはチャンバー10内にアルゴンガス等の不活性ガス(パージガス)やドーパントガスを導入するためのガス導入口10cが設けられており、メインチャンバー10aの下部にはチャンバー10内の雰囲気ガスを排出するためのガス排出口10dが設けられている。また、メインチャンバー10aの上部には覗き窓10eが設けられており、シリコン単結晶3の育成状況を覗き窓10eから観察可能である。
【0030】
石英ルツボ11は、円筒状の側壁部と湾曲した底部とを有する石英ガラス製の容器である。黒鉛ルツボ12は、加熱によって軟化した石英ルツボ11の形状を維持するため、石英ルツボ11の外表面に密着して石英ルツボ11を包むように保持する。石英ルツボ11及び黒鉛ルツボ12はチャンバー10内においてシリコン融液を支持する二重構造のルツボを構成している。
【0031】
黒鉛ルツボ12は回転シャフト13の上端部に固定されており、回転シャフト13の下端部はチャンバー10の底部を貫通してチャンバー10の外側に設けられたシャフト駆動機構14に接続されている。黒鉛ルツボ12、回転シャフト13及びシャフト駆動機構14は石英ルツボ11の回転機構及び昇降機構を構成している。
【0032】
ヒーター15は、石英ルツボ11内に充填されたシリコン原料を融解してシリコン融液2を生成すると共に、シリコン融液2の溶融状態を維持するために用いられる。ヒーター15はカーボン製の抵抗加熱式ヒーターであり、黒鉛ルツボ12内の石英ルツボ11を取り囲むように設けられている。ヒーター15の外側には断熱材16がヒーター15を取り囲むように設けられており、これによりチャンバー10内の保温性が高められている。
【0033】
熱遮蔽体20は、シリコン融液2の温度変動を抑制して結晶成長界面近傍に適切なホットゾーンを形成するとともに、ヒーター15及び石英ルツボ11からの輻射熱によるシリコン単結晶3の加熱を防止するために設けられている。熱遮蔽体20は略円筒状の黒鉛製の部材であり、シリコン単結晶3の引上経路を除いたシリコン融液2の上方の領域を覆うように設けられている。熱遮蔽体20の下端部には内径方向内側に張り出した膨出部20cが設けられており、固液界面近傍のホットゾーンの最適化が図られている。
【0034】
熱遮蔽体20の下端20bの開口20aの内径はシリコン単結晶3の直径よりも大きく、これによりシリコン単結晶3の引上経路が確保されている。また熱遮蔽体20の下端20bの外径は石英ルツボ11の口径よりも小さく、熱遮蔽体20の下端20bは石英ルツボ11の内側に位置するので、石英ルツボ11のリム上端を熱遮蔽体20の下端20bよりも上方まで上昇させても熱遮蔽体20が石英ルツボ11と干渉することはない。
【0035】
シリコン単結晶3の成長と共に石英ルツボ11内の融液量は減少するが、融液面2aと熱遮蔽体20との間のギャップ値xが一定になるように石英ルツボ11を上昇させることにより、シリコン融液2の温度変動を抑制すると共に、融液面近傍を流れるガスの流速を一定にしてシリコン融液2からのドーパントの蒸発量を制御することができる。したがって、シリコン単結晶3の引上軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
【0036】
石英ルツボ11の上方には、シリコン単結晶3の引上軸であるワイヤー18と、ワイヤー18を巻き取るワイヤー巻き取り機構19が設けられている。ワイヤー巻き取り機構19はワイヤー18と共にシリコン単結晶3を回転させる機能を有している。ワイヤー巻き取り機構19はプルチャンバー10bの上方に配置されており、ワイヤー18はワイヤー巻き取り機構19からプルチャンバー10b内を通って下方に延びており、ワイヤー18の先端部はメインチャンバー10aの内部空間まで達している。
図1には、育成途中のシリコン単結晶3がワイヤー18に吊設された状態が示されている。シリコン単結晶3の引上げ時には石英ルツボ11とシリコン単結晶3とをそれぞれ回転させながらワイヤー18を徐々に引上げることによりシリコン単結晶3を成長させる。
【0037】
図2は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の製造工程を示すフローチャートである。また、
図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
【0038】
図2に示すように、本実施形態によるシリコン単結晶3の製造工程は、石英ルツボ11内のシリコン原料をヒーター15で加熱することによりシリコン融液2を生成する原料融解工程S11と、ワイヤー18の先端部に取り付けられた種結晶を降下させてシリコン融液2に着液させる着液工程S12と、シリコン融液2との接触状態を維持しながら種結晶を徐々に引上げて単結晶を育成する結晶育成工程(S13~S16)を有している。
【0039】
結晶育成工程(S13~S16)では、無転位化のために結晶直径が細く絞られたネック部3aを形成するネッキング工程S13と、結晶成長と共に結晶直径が徐々に増加したショルダー部3bを形成するショルダー部育成工程S14と、規定の結晶直径に維持されたボディー部3cを形成するボディー部育成工程S15と、結晶成長と共に結晶直径が徐々に減少したテイル部3dを形成するテイル部育成工程S16とが順に実施される。
【0040】
その後、シリコン単結晶3を融液面から切り離して冷却する冷却工程S17が実施される。以上により、
図3に示すようなネック部3a、ショルダー部3b、ボディー部3c及びテイル部3dを有するシリコン単結晶インゴット3eが完成する。
【0041】
図17に示したように、シリコン単結晶3に含まれる結晶欠陥の種類や分布は、結晶の引上速度Vと結晶内温度勾配Gとの比であるV/Gに依存する。V/Gが大きい場合には空孔が過剰となり、空孔の凝集体であるボイド(COP)が発生する。一方、V/Gが小さい場合には格子間シリコン原子が過剰となり、格子間シリコンの凝集体である転位クラスターが発生する。さらに、COPが発生する領域と転位クラスターが発生するL/DL領域との間には、V/Gが大きいほうから順に、OSF領域、Pv領域、Pi領域の三つの領域が存在する。シリコン単結晶3が無欠陥結晶であると言うためには、COPや転位クラスターなどのGrown-in欠陥を含まず、且つ、評価熱処理後にOSFリングが発生しないことが必要であり、単結晶の断面内の全面が無欠陥結晶であることが必要である。
【0042】
結晶引上速度Vを制御して無欠陥結晶を高い歩留まりで育成するためには、PvPiマージンができるだけ広いことが好ましい。PvPiマージンは具体的には
図17で示されるVmgnであり、シリコン単結晶3中の任意の領域をPv領域又はPi領域とすることができる結晶の引上速度Vの許容幅のことを言う。通常、PvPiマージンVmgnはOSF-Pv境界からPi-L/DL境界までのV/Gの幅の広さに相関する。すなわち、OSF-Pv境界の下限値からPi-L/DL境界の上限値までのV/Gの幅が大きくなるほど、PvPiマージンVmgnは大きくなり、逆にOSF-Pv境界の下限値からPi-L/DL境界の上限値までのV/Gの幅が小さいなるほど、PvPiマージンVmgnは小さくなる。
【0043】
このように、ある任意の炉内条件下でPvPiマージンがどの程度の広さとなっているかを評価するためには結晶欠陥分布を求める必要があり、計算機シミュレーションを用いて結晶欠陥分布を計算する方法が有効である。しかし、結晶欠陥分布を求めるためには膨大な計算が必要となり、計算結果が出るまでに長時間を要することになる。炉内条件が異なる複数水準の結晶欠陥分布を求める場合、計算時間の問題が顕著である。本発明はこのような複数水準の結晶欠陥分布を求める場合にその計算量の低減を実現するものである。以下、本発明によるシリコン単結晶の結晶欠陥分布の予測方法について説明する。
【0044】
図4は、本発明の実施の形態によるシリコン単結晶の結晶欠陥分布の予測方法を概略的に説明するフローチャートである。
【0045】
図4に示すように、この結晶欠陥分布の予測方法は、まずシリコン単結晶育成中の温度勾配分布の決定因子を水準(可変パラメータ)とし、複数水準の結晶欠陥分布を計算機シミュレーションにより計算する(第1ステップS21)。温度勾配分布の決定因子は、例えば、熱遮蔽体20の下端20bと融液面2aとの間のギャップxであり、このギャップ値を変化させたときの結晶欠陥分布をシミュレーションにより求める。
【0046】
図5は、計算機シミュレーションによる結晶欠陥分布の算出方法を示すフローチャートである。
【0047】
図5に示すように、結晶欠陥分布の算出では、まず結晶欠陥分布を算出するために必要な部品の形状や寸法、物性含めた全ての炉内条件を準備し(S31)、伝熱解析の計算を行う(S32)。次に、伝熱解析の計算結果に基づいて、実際の固液界面形状を考慮した結晶温度分布を計算し(S33)、これに基づいて熱応力分布の計算を行う(S34)。さらに、この熱応力分布の計算結果に基づき点欠陥シミュレーションを行う(S35)ことにより、各種結晶欠陥の面内分布を示す結晶欠陥分布を算出することができる。
【0048】
そして、ある任意の炉内条件における最適な水準を決定するため、
図5に示す結晶欠陥分布の算出を水準毎に複数回実施する必要がある。
【0049】
図6は、ギャップ値をx1からx5まで変化させた5水準の結晶欠陥分布のシミュレーション結果を示すグラフであって、横軸は単結晶の中心からの径方向の距離(mm)、縦軸は単結晶の引上速度(相対値)(mm/min)をそれぞれ示している。単結晶の引上速度(相対値)は、ある単結晶の引上速度の基準速度との差である。またグラフ中の実線はOSF-Pv境界線、点線はPv-Pi境界線、破線はPi-L/DL境界線である。PvPiマージンVmgnは、
図6に示す結晶欠陥分布の5つのグラフの各々から、ギャップ値x1~x5に対応する値として求めることができる。
【0050】
結晶欠陥分布の決定因子の一つであるギャップ値の水準数は3以上7以下が好ましい。水準数が3よりも小さい場合、結晶欠陥分布の予測精度が大幅に低下するからであり、水準数が7よりも大きい場合、計算機シミュレーションによる結晶欠陥分布の計算量が増加し、計算時間の短縮効果が得られないからである。結晶欠陥分布の決定因子はギャップ値に限定されず、熱遮蔽体20の下端20bの開口20aの内径や熱遮蔽体20の下端20bから膨出部20cの内径部の上端までの高さh(
図1参照)など、様々な炉内条件を結晶欠陥分布の水準とすることができる。
【0051】
次に、複数水準の結晶欠陥分布の各々を結晶径方向に分割して、結晶欠陥境界の引上速度値を分割位置毎に抽出する(第2ステップS22)。例えば、ギャップ値x1のときの結晶欠陥分布を4分割し、分割位置d1、d2、d3に引いた垂直線と結晶欠陥境界との交点を求める。ギャップ値x2~x5のときの結晶欠陥分布についてもこれと同様に求める。
図7は、ギャップ値x1~x5における結晶欠陥分布のOSF-Pv境界線と分割位置d1、d2、d3に引いた垂直線との交点を一つのグラフに表したものである。また
図8(a)、(b)、(c)は、分割位置d1、d2、d3におけるOSF-Pv境界の引上速度値の変化をそれぞれ示すグラフである。図示のように、結晶欠陥境界の引上速度の値は水準の変化に対して線形的に変化し、結晶径方向の中心側ほどその傾向が強いことが分かる。
【0052】
結晶欠陥分布における結晶径方向の分割数(サンプリング数)はできるだけ多いほうが良い。分割数が多いほどより多くのプロット値が得られ、後述する近似式による近似精度が高くなるからである。また近似式から任意のギャップ値のときの結晶欠陥分布を再現する場合においてもその再現の精度を向上させることができる。
【0053】
次に、
図8(a)、(b)、(c)に示す結果を用いて、結晶欠陥境界の引上速度値とギャップ値との関係を示す近似式を導出する(第3ステップS23)。本実施形態においては、5個のプロット値を用いた4次元多項式による近似が行われる。なお多項式近似の次数は特に限定されず、1次であってもよく、2次以上であってもよい。
【0054】
次に、分割位置毎に求められた複数の近似式を用いて、任意のギャップ値x'の水準を追加したときの結晶欠陥境界の引上速度値を結晶径方向の分割位置毎に算出し、(第4ステップS24)。
図8(a)、(b)、(c)の各々において、x3とx4との間のギャップ値x'を求めた結果を示している。
【0055】
次に、結晶径方向の分割位置毎に算出されたギャップ値x'における結晶欠陥境界の引上速度値に基づいて、最初に計算機シミュレーションで求めた複数水準の結晶欠陥分布とは異なる水準の結晶欠陥分布を新たに生成する(第5ステップS25)。
【0056】
図9は、追加水準であるギャップ値x'のときの結晶欠陥分布を示すグラフである。この結晶欠陥分布は、計算機シミュレーションで計算したものではなく、一般的なグラフ作成ソフト(表計算ソフト)を用いて作成することができる。そのため、追加水準の結晶欠陥分布を短時間で簡単に生成することができる。
【0057】
その後、追加水準であるギャップ値x'のときの結晶欠陥分布からもPvPiマージンを求め、既に求めたギャップ値をx1~x5まで可変させたときの結晶欠陥分布のPvPiマージンのグラフに新たなプロットを追加する。こうしてプロット値が補完されたPvPiマージンのグラフから多項式近似曲線を計算し、近似曲線のピークを最適なギャップ値とする。すなわち、PvPiマージンの最大値が得られる任意の炉内条件(ギャップ)における最適な水準を決定する(第6ステップS26)。
【0058】
図10は、本発明による結晶欠陥分布の予測方法で結晶欠陥分布を計算したときの計算時間を従来の方法と比較して示すグラフである。
【0059】
図10に示すように、例えば一つの結晶欠陥分布を計算機シミュレーションで計算するために30分の計算時間を要する場合において、結晶欠陥分布を求める度に計算機シミュレーションを行う従来の方法では、10水準の結晶欠陥分布を用意するためには、30×10=300分を必要とする。これに対し、本発明の予測方法では、5水準の結晶欠陥分布を計算機シミュレーションで求めた後は、追加水準の結晶欠陥分布を計算機シミュレーションではなく単純な計算により求めることができ、一つの追加水準につき2分程度の計算時間で足りる。したがって、10水準分の結晶欠陥分布を用意するために必要な時間は30×5+2×5=160分でよく、多数の水準の結晶欠陥分布を計算するために必要な時間を短くすることができる。このことは、PvPiマージンが最大となる炉内条件の最適な水準を短時間で導出することができ、ひいては、無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができることを意味する。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によるシリコン単結晶の結晶欠陥分布の予測方法は、シリコン単結晶育成中の温度勾配分布の決定因子であるギャップ値を変化させて得られる複数水準の結晶欠陥分布を計算機シミュレーションにより計算し、複数水準の結晶欠陥分布の各々から結晶欠陥境界の引上速度値を結晶径方向の複数の位置毎に抽出し、複数の結晶欠陥境界の引上速度値における近似式を用いて任意の水準における結晶欠陥分布を新たに生成するので、任意のギャップ値のときの結晶欠陥分布を再現するために必要な計算機シミュレーションによる計算時間を低減することができ、結晶欠陥分布の予測時間の短縮化を図ることができる。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0062】
例えば、上記実施形態においては、シリコン単結晶の結晶欠陥の面内分布を予測する場合を例に挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、結晶欠陥分布を予測する際に必要となる熱応力分布等の他の結晶欠陥要素の面内分布の予測(S34)にも適用することができる。熱応力分布を計算する場合、結晶引上速度値ではなく熱応力値を結晶欠陥要素の制御値とすることができる。
【実施例0063】
<結晶欠陥分布の評価>
熱遮蔽体の下端と融液面との間のギャップの変化に応じたPvPiマージン(mm/min)の変化の挙動を調査するため、以下の計算を行った。
【0064】
計算機シミュレーションを用いて、ギャップ(相対値)を-30mmから+30mmまで10mm間隔で変化させた合計7水準の結晶欠陥分布を計算した。そして、得られた結晶欠陥分布から各ギャップ値におけるPvPiマージンを算出した。さらに、各ギャップ値におけるPvPiマージンのプロット値の多項式近似を行った。その結果を
図11に示す。図示のように、PvPiマージンはギャップ(相対値)が約-10mmのときに最大となることが分かる。
【0065】
上記の計算機シミュレーションの結果をもとに、ギャップ(相対値)を-15mmから0mmまで1mm間隔で変化させた合計15水準の結晶欠陥分布を本発明による方法で計算し、得られた結晶欠陥分布から各ギャップ値におけるPvPiマージンを算出すると共に、本発明との比較として、計算機シミュレーションを用いて、ギャップ(相対値)が-7mmのときの結晶欠陥分布も計算し、そのPvPiマージンを算出した。その結果を
図12に示す。
【0066】
図12に示すように、本発明による方法で算出したPvPiマージンの挙動は、従来の方法による計算機シミュレーションで計算した多項式近似曲線(実線参照)と異なるものとなった。すなわち、従来の方法による計算機シミュレーションの結果では、PvPiマージンのピークが得られるギャップ(相対値)は約-9mmと予測できるが、本発明の方法によれば、PvPiマージンのピークが得られるギャップ(相対値)は-8mmと予測できる。
【0067】
またギャップ(相対値)が-7mmのときのPvPiマージンを計算機シミュレーションにより求めた結果(白丸参照)は、従来の多項式近似曲線より求めたものよりも本発明による方法で求めた結果に近いものとなった。各方法で算出したPvPiマージンの比較結果を
図13に示す。図示のように、計算機シミュレーション結果(追加水準)に対する多項式近似結果(従来方法)の誤差は-66%であるが、本発明による計算結果の誤差は+14%となった。
【0068】
図14は、本発明の予測方法で計算したギャップ(相対値)が-7mmのときの結晶欠陥分布を計算機シミュレーション結果と共に示すグラフである。図示のように、本発明による予測方法で計算した結晶欠陥分布は、計算機シミュレーションで計算した結晶欠陥分布とほぼ一致することが分かった。
【0069】
本発明は、熱応力分布の評価にも適用可能である。
【0070】
<熱応力分布の評価>
計算機シミュレーションを用いて、ギャップ(相対値)を-30mmから+10mmまで10mm間隔で変化させた合計5水準の熱応力分布を計算した。その結果を
図15に示す。
【0071】
次いで、
図15の熱応力分布を結晶径方向に4mm間隔で分割し、各分割位置における応力値とギャップ(相対値)との関係式を多項式近似により求め、当該近似式からギャップ(相対値)が-7mmのときの応力分布を生成した。さらに、計算機シミュレーションを用いて、ギャップ(相対値)が-7mmのときの応力分布を追加計算した。追加計算結果を
図16に示す。図示のように、応力分布においても、本発明による予測方法で計算した熱応力分布は、計算機シミュレーションで計算した熱応力分布とほぼ一致することが確認できた。