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特開2024-8478半導体レーザ素子、及び半導体レーザ素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008478
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子、及び半導体レーザ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/223 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
H01S5/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110391
(22)【出願日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】内藤 秀幸
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA05
5F173AA16
5F173AA41
5F173AB13
5F173AF33
5F173AF96
5F173AG01
5F173AH02
5F173AR03
(57)【要約】
【課題】基本モードの光を好適に出力することができる半導体レーザ素子、及び半導体レーザ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体レーザ素子1は、基板2と、第1クラッド層3と、活性層5と、リッジ部30が形成された第2クラッド層7と、リッジ部30の両側の側面30a及びリッジ部30の両側に位置する底面31aに配置された絶縁層10と、リッジ部30の両側に配置されており、光に対して吸収特性を有する第1埋込層11と、第1埋込層11上に配置された第2埋込層12と、リッジ部30及び第2埋込層12上に配置された電極層13と、を備える。第2クラッド層7は、第1半導体層71と、第1半導体層71上に配置された第2半導体層72と、第2半導体層72上に配置された第3半導体層73と、を有する。第2半導体層72の屈折率は、第1半導体層71の屈折率よりも低い。第2クラッド層7の屈折率は、第1クラッド層3の屈折率よりも低い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置された第1クラッド層と、
前記第1クラッド層上に配置された活性層と、
前記活性層上に配置されており、リッジ部が形成された第2クラッド層と、
前記リッジ部の両側の側面及び前記リッジ部の両側に位置する底面において、前記第2クラッド層上に配置された絶縁層と、
前記リッジ部の両側において前記絶縁層上に配置されており、前記活性層において発生する光に対して吸収特性を有する第1埋込層と、
前記リッジ部の両側において前記第1埋込層上に配置された第2埋込層と、
前記リッジ部及び前記第2埋込層上に配置されており、前記リッジ部の頂面において前記第2クラッド層と電気的に接続された電極層と、を備え、
前記第2クラッド層は、前記活性層上に配置された第1半導体層と、前記第1半導体層上に配置された第2半導体層と、前記第2半導体層上に配置された第3半導体層と、を有し、
前記第2半導体層の屈折率は、前記第1半導体層の屈折率よりも低く、
前記第2クラッド層の屈折率は、前記第1クラッド層の屈折率よりも低い、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記第2半導体層は、AlGaAsによって形成されており、
前記第2半導体層におけるAlの含有率は、70%以上である、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記第1クラッド層、前記第1半導体層及び前記第3半導体層のそれぞれは、AlGaAsによって形成されており、
前記第1クラッド層、前記第1半導体層及び前記第3半導体層のそれぞれにおけるAlの含有率は、30%以上50%以下である、請求項2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記リッジ部は、前記リッジ部の延在方向から見た場合に、前記基板側に向かって広がる台形状を呈している、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記第3半導体層と前記電極層との間に配置されたコンタクト層を更に備え、
前記コンタクト層は、前記リッジ部の延在方向から見た場合に、前記基板とは反対側に向かって広がる台形状を呈している、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記活性層において発生する光に対する前記第1埋込層の光吸収係数は、1×10cm―1以上である、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記第2埋込層は、絶縁材料又は樹脂材料によって形成されている、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記第3半導体層内に配置された回折格子層を更に備える、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記第1埋込層の少なくとも一部は、前記側面と前記底面との接続部上に配置されている、請求項1~8のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の半導体レーザ素子の製造方法であって、
前記基板上に前記第1クラッド層を形成する工程と、
前記第1クラッド層上に前記活性層を形成する工程と、
前記第1半導体層、前記第2半導体層及び前記第3半導体層が前記基板側からこの順で配置されるように、前記活性層上に前記第2クラッド層を形成する工程と、
前記第2クラッド層の一部をエッチングによって除去することにより前記リッジ部を形成する工程と、
前記側面及び前記底面にわたって前記第2クラッド層上に前記絶縁層を形成する工程と、
前記リッジ部の両側において前記絶縁層上に前記第1埋込層を形成する工程と、
前記リッジ部の両側において前記第1埋込層上に前記第2埋込層を形成する工程と、
前記リッジ部及び前記第2埋込層上に前記電極層を形成する工程と、を備える、半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項11】
前記リッジ部を形成する工程では、前記第2半導体層をエッチングストップ層として、前記第3半導体層の一部をエッチングによって除去する、請求項10に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子、及び半導体レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体レーザ素子として、基板と、基板上に配置されており、活性層を有する半導体積層体と、半導体積層体に形成されたリッジ部の両側に配置された樹脂層と、リッジ部及び樹脂層上に配置された電極層と、を備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-185815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような半導体レーザ素子では、基本モードの光を好適に出力することができない場合がある。例えば、高出力化を実現するために半導体レーザ素子の発光幅を広げると、基本モードの光だけでなく高次モードの光も出力されてしまい、基本モードの単一発振を維持することができなくなるといった問題が生じる。
【0005】
本発明は、基本モードの光を好適に出力することができる半導体レーザ素子、及び半導体レーザ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体レーザ素子は、[1]「基板と、前記基板上に配置された第1クラッド層と、前記第1クラッド層上に配置された活性層と、前記活性層上に配置されており、リッジ部が形成された第2クラッド層と、前記リッジ部の両側の側面及び前記リッジ部の両側に位置する底面において、前記第2クラッド層上に配置された絶縁層と、前記リッジ部の両側において前記絶縁層上に配置されており、前記活性層において発生する光に対して吸収特性を有する第1埋込層と、前記リッジ部の両側において前記第1埋込層上に配置された第2埋込層と、前記リッジ部及び前記第2埋込層上に配置されており、前記リッジ部の頂面において前記第2クラッド層と電気的に接続された電極層と、を備え、前記第2クラッド層は、前記活性層上に配置された第1半導体層と、前記第1半導体層上に配置された第2半導体層と、前記第2半導体層上に配置された第3半導体層と、を有し、前記第2半導体層の屈折率は、前記第1半導体層の屈折率よりも低く、前記第2クラッド層の屈折率は、前記第1クラッド層の屈折率よりも低い、半導体レーザ素子」である。
【0007】
[1]に記載の半導体レーザ素子では、活性層において発生する光に対して吸収特性を有する第1埋込層が、リッジ部の両側において絶縁層上に配置されている。これにより、活性層において発生する高次モードの光が第1埋込層によって吸収されるため、高次モードの光の出力が抑制されて、基本モードの光の単一発振が維持されやすくなる。また、[1]に記載の半導体レーザ素子では、第2クラッド層の屈折率が第1クラッド層の屈折率よりも低い。これにより、活性層において発生する光の光強度分布が屈折率の高い第1クラッド層側に移動するため、活性層において発生する光が第1埋込層に過度に染み出すことが抑制される。したがって、基本モードの光が第1埋込層によって過度に吸収されることによる損失を低減することができる。また、光強度分布が第1クラッド層側に移動することにより、光強度分布のピーク値が小さくなるため、より大きな幅の光強度分布を有する光成分が増加する。したがって、ビーム放射角を小さくすることができる。また、[1]に記載の半導体レーザ素子では、第2半導体層の屈折率が第1半導体層の屈折率よりも低く、第2半導体層が第1半導体層を介して活性層上に配置されている。仮に屈折率の低い第2半導体層が活性層に隣接して配置されていると、光強度分布が第1クラッド層側に過度に移動して光強度分布のピーク値が大きく低下するおそれがある。ピーク値が大きく低下すると、所望の出力を得るための電流値の閾値が上昇してしまう。これに対し、第1半導体層を介して第2半導体層が配置されている構成では、第1クラッド層側への光強度分布の過度な移動が抑制されるため、電流値の閾値の上昇が抑制される。また、[1]に記載の半導体レーザ素子では、リッジ部の両側に第1埋込層及び第2埋込層が配置されており、電極層がリッジ部及び第2埋込層上に配置されている。これにより、電極層が形成される面を平坦面状に近づけることができるため、電極層を形成する際に電極層の断線を抑制することができる。また、第1埋込層と第2埋込層とを互いに異なる材料で形成することができるため、半導体レーザ素子の設計自由度を向上することができる。また、[1]に記載の半導体レーザ素子では、絶縁層がリッジ部の両側の側面及びリッジ部の両側に位置する底面にわたって配置されている。リッジ部の両側の側面及びリッジ部の両側に位置する底面を絶縁層によって覆うことで、半導体レーザ素子の信頼性を向上させることができる。よって、[1]に記載の半導体レーザ素子によれば、基本モードの光を好適に出力することができる。
【0008】
本発明の半導体レーザ素子は、[2]「前記第2半導体層は、AlGaAsによって形成されており、前記第2半導体層におけるAlの含有率は、70%以上である、[1]に記載の半導体レーザ素子」であってもよい。[2]に記載の半導体レーザ素子によれば、リッジ部をエッチングによって形成する際に第2半導体層をエッチングストップ層として機能させることができる。そのため、リッジ部を精度良く形成することができる。
【0009】
本発明の半導体レーザ素子は、[3]「前記第1クラッド層、前記第1半導体層及び前記第3半導体層のそれぞれは、AlGaAsによって形成されており、前記第1クラッド層、前記第1半導体層及び前記第3半導体層のそれぞれにおけるAlの含有率は、30%以上50%以下である、[2]に記載の半導体レーザ素子」であってもよい。[3]に記載の半導体レーザ素子によれば、第2クラッド層の屈折率が第1クラッド層の屈折率よりも低く、且つ第2半導体層の屈折率が第1半導体層の屈折率よりも低い構成をより確実に実現することができる。そのため、基本モードの光を好適に出力することができる。
【0010】
本発明の半導体レーザ素子は、[4]「前記リッジ部は、前記リッジ部の延在方向から見た場合に、前記基板側に向かって広がる台形状を呈している、[1]~[3]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子」であってもよい。[4]に記載の半導体レーザ素子によれば、リッジ部の根元の強度が向上し、リッジ部の根元に負荷がかかりやすい高出力の半導体レーザ素子においても安定したレーザ発振を行うことができる。そのため、基本モードの光をより好適に出力することができる。
【0011】
本発明の半導体レーザ素子は、[5]「前記第3半導体層と前記電極層との間に配置されたコンタクト層を更に備え、前記コンタクト層は、前記リッジ部の延在方向から見た場合に、前記基板とは反対側に向かって広がる台形状を呈している、[1]~[4]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子」であってもよい。[5]に記載の半導体レーザ素子によれば、コンタクト層と電極層との接触面をより広く確保することができる。
【0012】
本発明の半導体レーザ素子は、[6]「前記活性層において発生する光に対する前記第1埋込層の光吸収係数は、1×10cm―1以上である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子」であってもよい。[6]に記載の半導体レーザ素子によれば、第1埋込層が、活性層において発生する高次モードの光をより確実に吸収することができる。そのため、基本モードの光をより好適に出力することができる。
【0013】
本発明の半導体レーザ素子は、[7]「前記第2埋込層は、絶縁材料又は樹脂材料によって形成されている、[1]~[6]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子」であってもよい。[7]に記載の半導体レーザ素子において第2埋込層が絶縁材料によって形成されている場合には、電極層からリッジ部へ効率よく電流を印加することができる。[7]に記載の半導体レーザ素子において第2埋込層が樹脂材料によって形成されている場合には、半導体レーザ素子に生じる応力を第2埋込層によって低減することができる。
【0014】
本発明の半導体レーザ素子は、[8]「前記第3半導体層内に配置された回折格子層を更に備える、[1]~[7]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子」であってもよい。[8]に記載の半導体レーザ素子によれば、分布帰還型の半導体レーザ素子として好適に機能させることができる。
【0015】
本発明の半導体レーザ素子は、[9]「前記第1埋込層の少なくとも一部は、前記側面と前記底面との接続部上に配置されている、[1]~[8]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子」であってもよい。[9]に記載の半導体レーザ素子によれば、第1埋込層が、活性層において発生する高次モードの光をより確実に吸収することができる。そのため、基本モードの光をより好適に出力することができる。
【0016】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[10]「[1]~[9]のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子の製造方法であって、前記基板上に前記第1クラッド層を形成する工程と、前記第1クラッド層上に前記活性層を形成する工程と、前記第1半導体層、前記第2半導体層及び第3半導体層が前記基板側からこの順で配置されるように、前記活性層上に前記第2クラッド層を形成する工程と、前記第2クラッド層の一部をエッチングによって除去することにより前記リッジ部を形成する工程と、前記側面及び前記底面にわたって前記第2クラッド層上に前記絶縁層を形成する工程と、前記リッジ部の両側において前記絶縁層上に前記第1埋込層を形成する工程と、前記リッジ部の両側において前記第1埋込層上に前記第2埋込層を形成する工程と、前記リッジ部及び前記第2埋込層上に前記電極層を形成する工程と、を備える、半導体レーザ素子の製造方法」である。
【0017】
[10]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、基本モードの光を好適に出力し得る半導体レーザ素子を得ることができる。
【0018】
本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、[11]「前記リッジ部を形成する工程では、前記第2半導体層をエッチングストップ層として、前記第3半導体層の一部をエッチングによって除去する、[10]に記載の半導体レーザ素子の製造方法」であってもよい。[11]に記載の半導体レーザ素子の製造方法によれば、リッジ部を形成する工程において、リッジ部を精度良く形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基本モードの光を好適に出力することができる半導体レーザ素子、及び半導体レーザ素子の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態の半導体レーザ素子の斜視図である。
図2図1に示されるII-II線に沿っての半導体レーザ素子の断面図である。
図3図2に示される半導体レーザ素子の断面の一部分の拡大図である。
図4図1に示される半導体レーザ素子の製造方法を示す図である。
図5図1に示される半導体レーザ素子の製造方法を示す図である。
図6図1に示される半導体レーザ素子の製造方法を示す図である。
図7図1に示される半導体レーザ素子の製造方法を示す図である。
図8】半導体レーザ素子の出力特性を示す図である。
図9】水平方向におけるビームパターンを示す図である。
図10】半導体レーザ素子の光強度を示す図である。
図11】半導体レーザ素子の光強度を示す図である。
図12】半導体レーザ素子の出力特性を示す図である。
図13】垂直方向におけるビームパターンを示す図である。
図14】半導体レーザ素子の出力特性を示す図である。
図15】半導体レーザ素子の出力特性を示す図である。
図16】垂直方向におけるビームパターンを示す図である。
図17】変形例に係る半導体レーザ素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する部分を省略する。
[半導体レーザ素子の構成]
【0022】
図1図2及び図3に示されるように、半導体レーザ素子1は、基板2と、第1クラッド層3と、光ガイド層4と、活性層5と、光ガイド層6と、第2クラッド層7と、回折格子層8と、コンタクト層9と、絶縁層10と、第1埋込層11と、第2埋込層12と、電極層13と、を備えている。半導体レーザ素子1は、例えば、長方形板状を呈している。以下の説明では、半導体レーザ素子1の幅方向をX方向といい、半導体レーザ素子1の長さ方向をY方向といい、半導体レーザ素子1の厚さ方向をZ方向という。
【0023】
半導体レーザ素子1は、Y方向において互いに対向する一対の端面1a,1bを有している。半導体レーザ素子1における共振方向は、一対の端面1a,1bが対向するY方向である。半導体レーザ素子1は、レーザ光をY方向に放射するリッジ導波路型半導体レーザ素子である。半導体レーザ素子1が放射するレーザ光は、X方向である水平方向において単峰性(横シングルモード)のビームパターンを有する。半導体レーザ素子1は、例えば、波長760nm程度での発振が可能な半導体レーザ素子である。
【0024】
基板2は、半導体基板である。基板2は、例えば、長方形板状を呈している。本実施形態では、基板2は、GaAsによって形成されており、例えば、n型の導電型を有している。基板2は、互いに対向する一対の主面2a,2bを有している。
【0025】
第1クラッド層3は、基板2の主面2a上に形成されている。すなわち、第1クラッド層3は、基板2上に配置されている。本実施形態では、第1クラッド層3は、AlGaAsによって形成されており、例えば、n型の導電型を有している。本実施形態では、第1クラッド層3におけるAlの含有率は、30%以上50%以下である。
【0026】
光ガイド層4は、第1クラッド層3上に配置されている。本実施形態では、光ガイド層4は、AlGaAsによって形成されている。活性層5は、光ガイド層4上に配置されている。すなわち、活性層5は、光ガイド層4を介して第1クラッド層3上に配置されている。本実施形態では、活性層5は、AlGaAsによって形成されている。活性層5は、単一の又は多重の量子井戸層として構成されている。量子井戸層は、異なるエネルギーバンドギャップを有する2種以上の材料が用いられ、バンドギャップの小さい材料の薄膜(井戸層)がバンドギャップの大きい材料の薄膜(バリア層)で挟まれたものであってもよい。活性層5は、電流が注入されることにより光を発生させる。活性層5において発生する光の波長は、例えば、760nm程度である。光ガイド層6は、活性層5上に配置されている。本実施形態では、光ガイド層6は、AlGaAsによって形成されている。
【0027】
第2クラッド層7は、光ガイド層6上に配置されている。すなわち、第2クラッド層7は、光ガイド層6を介して活性層5上に配置されている。第2クラッド層7は、第1半導体層71と、第1半導体層71上に配置された第2半導体層72と、第2半導体層72上に配置された第3半導体層73と、を有している。
【0028】
本実施形態では、第1半導体層71、第2半導体層72及び第3半導体層73は、次のように構成されている。すなわち、第1半導体層71、第2半導体層72及び第3半導体層73のそれぞれは、AlGaAsによって形成されている。第2半導体層72におけるAlの含有率は、第1半導体層71及び第3半導体層73のそれぞれにおけるAlの含有率よりも大きい。第2半導体層72におけるAlの含有率は、70%以上である。第1半導体層71及び第3半導体層73のそれぞれにおけるAlの含有率は、30%以上50%以下である。第2半導体層72におけるAlの含有率は、第1クラッド層3のAlの含有率よりも大きい。
【0029】
第2クラッド層7の屈折率は、第1クラッド層3の屈折率よりも低い。「第2クラッド層7の屈折率」とは、第2クラッド層7を構成している半導体層の屈折率の平均値である。本実施形態では、第2クラッド層7の屈折率は、第1半導体層71の屈折率、第2半導体層72の屈折率及び第3半導体層73の屈折率の平均値である。「第1クラッド層3の屈折率」とは、第1クラッド層3を構成している半導体層の屈折率の平均値である。本実施形態では、第1クラッド層3が単層であるので、第1クラッド層3の屈折率は、第1クラッド層3の屈折率そのものである。第1クラッド層3が複数の半導体層から構成されている場合、各半導体層の屈折率の平均値が第1クラッド層3の屈折率である。
【0030】
第2半導体層72の屈折率は、第1半導体層71の屈折率よりも低い。すなわち、第2半導体層72は、第2半導体層72よりも屈折率の高い第1半導体層71を介して活性層5上に配置されている。半導体層がAlを含む材料(例えばAlGaAs)によって形成されている場合、通常、Alの含有率が高いほど半導体層の屈折率は低くなる。例えば、第2半導体層72のAlの含有率が第1半導体層71のAlの含有率よりも高いため、第2半導体層72の屈折率が第1半導体層71の屈折率よりも低くなっている。また、第2半導体層72は高いAlの含有率を有することにより、所定のエッチャントに対してエッチングされ難い。そのため、半導体レーザ素子1の製造過程で第2クラッド層7がエッチングされる際、第2半導体層72はエッチングストップ層として機能し得る。
【0031】
回折格子層8は、第3半導体層73内に配置されている。「回折格子層8が第3半導体層73内に配置されている」とは、第3半導体層73における基板2側の表面73aから離れ、且つ第3半導体層73における基板2とは反対側の表面73bから離れた状態で、第3半導体層73に回折格子層8が配置されていることをいう。すなわち、回折格子層8は、第2半導体層72から離れ、且つ第3半導体層73上に配置されたコンタクト層9から離れている。回折格子層8は、半導体レーザ素子1において分布帰還構造として機能する。回折格子層8の屈折率は、第1クラッド層3及び第2クラッド層7の屈折率よりも高くてもよい。
【0032】
第2クラッド層7には、Y方向に延在するリッジ部30が形成されている。リッジ部30は、第3半導体層73及び回折格子層8によって構成されている。X方向におけるリッジ部30の幅は、X方向における基板2の幅よりも小さい。Y方向におけるリッジ部30の長さは、Y方向における基板2の長さに等しい。リッジ部30は、X方向において基板2の中央に位置している。リッジ部30は、Y方向に延在するように第2クラッド層7に形成された一対のトレンチ31の間に形成されている。
【0033】
リッジ部30は、Y方向から見た場合に、基板2側に向かって広がる台形状を呈している。すなわち、X方向におけるリッジ部30の幅は、基板2側に向かうほど大きくなっている。一例として、リッジ部30の幅は、数μm~数十μm程度である。リッジ部30の幅は、例えば4μm程度であってもよい。X方向におけるリッジ部30の両側の側面30aは、それぞれ、X方向及びZ方向に対して傾斜している。各側面30aは、リッジ部30の両側に位置する各底面31aと接続されている。例えば、各底面31aは、各トレンチ31の底面であり、第2半導体層72における基板2とは反対側の表面によって構成されている。底面31aは、X方向及びY方向に平行な面である。
【0034】
第2クラッド層7には、Y方向にそれぞれ延在する一対の凸部32が形成されている。一対の凸部32は、X方向においてリッジ部30及び一対のトレンチ31を挟んでいる。凸部32は、第3半導体層73及び回折格子層8によって構成されている。各凸部32におけるリッジ部30側の側面32aは、X方向における凸部32の幅が基板2側に向かうほど大きくなるように、X方向及びZ方向に対して傾斜している。各側面32aは、各底面31aと接続されている。各側面32aは、X方向においてリッジ部30の各側面30aと対向している。互いに接続された側面30a、底面31a及び側面32aによって、一つのトレンチ31が規定されている。一例として、X方向における各トレンチ31の幅(側面30aと側面32aとの間隔)は、数十μm~数百μm程度である。トレンチ31の幅は、例えば150μm程度であってもよい。各凸部32におけるリッジ部30とは反対側の側面32bは、Y方向及びZ方向に平行な面であり、X方向における半導体レーザ素子1の端面の一部を構成している。
【0035】
コンタクト層9は、第3半導体層73と後述する電極層13との間に配置されている。本実施形態では、コンタクト層9は、GaAsによって形成されており、例えば、n型の導電型を有している。「n型」とは、n型不純物の濃度が「n型」よりも高いことを意味する。コンタクト層9は、リッジ部30上に配置されたコンタクト層9Aと、一対の凸部32上に配置された一対のコンタクト層9Bと、を有している。コンタクト層9Aは、Y方向から見た場合に、基板2とは反対側に向かって広がる台形状を呈している。すなわち、X方向におけるコンタクト層9Aの幅は、基板2側とは反対側に向かうほど大きくなっている。X方向におけるコンタクト層9Aの両側の側面9aは、それぞれ、X方向及びZ方向に対して傾斜している。Y方向から見た場合に、各側面9aと、リッジ部30の各側面30aとは、リッジ部30の中心側に向かって凸のV字形状を呈するように互いに交差している。
【0036】
絶縁層10は、リッジ部30の側面30a及びトレンチ31の底面31aにわたって第2クラッド層7上に配置されている。この例では、絶縁層10は、コンタクト層9Aの側面9a、リッジ部30の側面30a、トレンチ31の底面31a、凸部32の側面32a及びコンタクト層9Bの表面にわたって配置されている。絶縁層10は、コンタクト層9Aにおける基板2とは反対側の表面9bには配置されていない。したがって、表面9bは絶縁層10から露出している。絶縁層10は、例えばSiNによって形成されている。
【0037】
第1埋込層11は、X方向におけるリッジ部30の両側において絶縁層10上に配置されている。第1埋込層11は、絶縁層10を介して各底面31a上に配置されている。X方向における第1埋込層11の端部は、側面30aと底面31aとの接続部33上に配置されている。すなわち、第1埋込層11は、側面30aと底面31aとが構成するトレンチ31の隅部に至るように配置されている。第1埋込層11が接続部33上に配置されているとは、第1埋込層11が接続部33に直接接触している場合だけでなく、本実施形態のように第1埋込層11と接続部33との間に他の層(例えば絶縁層10)が存在している場合を含む。本実施形態では、第1埋込層11は、絶縁層10のうち側面30aに形成された部分と絶縁層10のうち底面31aに形成された部分とが構成する隅部に至っている。第1埋込層11は、活性層5において発生する光に対して吸収特性を有している。第1埋込層11は、活性層5において発生し、リッジ部30の側面30a及びリッジ部30の両側の底面31aから染み出した高次モードの光を吸収する。第1埋込層11は、例えばTi又はCrによって形成されている。活性層5において発生する光に対する第1埋込層11の光吸収係数は、例えば1×10cm―1以上であってもよい。第1埋込層11の厚さは、例えば50nm~100nm程度である。
【0038】
第2埋込層12は、X方向におけるリッジ部30の両側において第1埋込層11上に配置されている。この例では、第2埋込層12は、第1埋込層11上に直接配置されている。第2埋込層12における基板2とは反対側の表面12aは、平坦に形成されている。表面12aは、Z方向において、コンタクト層9Aの表面9bとほぼ等しい高さに位置している。各トレンチ31内部の空間の全体に第1埋込層11及び第2埋込層12が埋め込まれている。本実施形態では、第2埋込層12は、絶縁材料の堆積物であり、第1埋込層11と電極層13とを電気的に絶縁している。本実施形態では、第2埋込層12はポリイミド等の樹脂材料によって形成されている。第2埋込層12の材料は、例えば、SiOであってもよい。第2埋込層12の材料は、第1埋込層11の材料と異なっていてもよいし、第1埋込層11の材料と同じであってもよい。第2埋込層12の厚さは、例えば1μm~3μm程度である。
【0039】
電極層13は、リッジ部30及び第2埋込層12上に配置されている。本実施形態では、電極層13は、コンタクト層9Aを介してリッジ部30上に配置されている。電極層13は、第2埋込層12上に直接配置されている。電極層13は、コンタクト層9Aの表面9b、第2埋込層12の表面12a及び絶縁層10における凸部32上の部分の表面にわたって配置されている。電極層13は、リッジ部30の頂面30bにおいて第2クラッド層7と電気的に接続されている。本実施形態では、電極層13は、コンタクト層9Aを介して第3半導体層73と電気的に接続されている。電極層13は、層状に形成されており、例えば、Tiからなる第1層、Ptからなる第2層、及びAuからなる第3層が蒸着又はスパッタリングにより積層されて構成されている。電極層13には、半導体レーザ素子1を外部に電気的に接続するワイヤ等の外部配線が接続されていてもよい。半導体レーザ素子1は、基板2の主面2b上に配置された電極層(不図示)を更に備えている。
【0040】
以上のように構成された半導体レーザ素子1では、電極層13及び基板2の主面2b上に配置された電極層を介して活性層5にバイアス電圧が印加されると、活性層5から光が発せられ、当該光のうち所定の中心波長を有する光が分布帰還構造において共振させられる。そして、所定の中心波長を有するレーザ光が端面1aから出射される。
[半導体レーザ素子の製造方法]
【0041】
上述した半導体レーザ素子1の製造方法について説明する。まず、図4の(a)に示されるように、基板2としてGaAs基板が準備され、基板2の主面2a上に第1クラッド層3が形成される。続いて、第1クラッド層3上に、光ガイド層4、活性層5及び光ガイド層6がこの順で形成される。続いて、光ガイド層6を介して活性層5上に第2クラッド層7が形成される。具体的には、第1半導体層71、第2半導体層72、及び第3半導体層73がこの順で形成される。これにより、第1半導体層71、第2半導体層72及び第3半導体層73が基板2側からこの順で配置される。第3半導体層73の形成過程では、回折格子層8が併せて形成される。具体的には、第3半導体層73における回折格子層8よりも基板2側に位置する部分が形成された後に、回折格子層8が形成される。その後、回折格子層8上に、第3半導体層73における回折格子層8よりも基板2とは反対側に位置する部分が形成される。
【0042】
続いて、第2クラッド層7の一部がエッチングによって除去されることにより、リッジ部30が形成される。具体的には、Y方向に沿う一対のトレンチ31が形成されるように、第3半導体層73及び回折格子層8の一部が除去される。これにより、一対のトレンチ31の間にリッジ部30が形成される。第2クラッド層7がエッチングされる際、第2半導体層72がエッチングストップ層として機能する。すなわち、第2クラッド層7が基板2とは反対側からエッチングされ、第2半導体層72が露出した時点でエッチングが停止する。これにより、第2半導体層72及び第1半導体層71がエッチングによって除去されない。続いて、第3半導体層73上にコンタクト層9が形成される。リッジ部30上にコンタクト層9Aが形成され、一対の凸部32上にコンタクト層9Bが形成される。
【0043】
続いて、図4の(b)に示されるように、絶縁層10が、リッジ部30の各側面30a及び一対のトレンチ31の底面31aにわたって形成される。この例では、絶縁層10が、コンタクト層9Aの表面9b、側面30a、底面31a、凸部32の側面32a、コンタクト層9Bの表面にわたって形成される。
【0044】
続いて、図5の(a)に示されるように、第1埋込層11が、X方向におけるリッジ部30の両側において絶縁層10上に形成される。第1埋込層11は、例えば蒸着によって、各底面31a上に絶縁層10を介して形成される。このとき、第1埋込層11は、リッジ部30及び一対の凸部32上にも絶縁層10を介して形成される。
【0045】
続いて、図5の(b)に示されるように、第2埋込層12が、X方向におけるリッジ部30の両側において第1埋込層11上に形成される。具体的には、第2埋込層12は、各底面31a上に絶縁層10及び第1埋込層11を介して形成される。このとき、第2埋込層12は、リッジ部30及び一対の凸部32上にも絶縁層10及び第1埋込層11を介して形成される。第2埋込層12は、例えば絶縁性の樹脂材料を堆積させることで形成される。各トレンチ31内部の空間の全体が第1埋込層11及び第2埋込層12で埋まるように、第2埋込層12が形成される。
【0046】
続いて、図6の(a)に示されるように、第2埋込層12におけるリッジ部30及び一対の凸部32上に位置する部分が除去される。これにより、各底面31a上のみに第2埋込層12が配置された状態となる。このとき、第2埋込層12における基板2とは反対側の表面12aが平坦化される。続いて、図6の(b)に示されるように、第1埋込層11におけるリッジ部30及び一対の凸部32上に位置する部分が除去される。これにより、各底面31a上のみに第1埋込層11が配置された状態となる。
【0047】
続いて、図7の(a)に示されるように、絶縁層10におけるリッジ部30上の部分が除去される。これにより、コンタクト層9Aの表面9bが絶縁層10から露出する。続いて、図7の(b)に示されるように、電極層13が、リッジ部30及び第2埋込層12上に形成される。具体的には、電極層13は、コンタクト層9Aの表面9b、第2埋込層12の表面12a、絶縁層10における凸部32上の部分の表面にわたって形成される。電極層13は、例えば、Tiからなる第1層、Ptからなる第2層、及びAuからなる第3層がこの順に蒸着又はスパッタリングにより積層されることにより形成される。同様の手法により、基板2の主面2b上にも電極層(不図示)が形成される。以上で、半導体レーザ素子1の製造工程が終了する。
[作用及び効果]
【0048】
従来の半導体レーザ素子では、高出力化を実現するために半導体レーザ素子の発光幅を広げると、単一の強度ピークを有する基本モードの光だけでなく二つ以上の強度ピークを有する高次モードの光も出力されてしまい、基本モードの単一発振を維持することが困難である。これに対して、半導体レーザ素子1では、活性層5において発生する光に対して吸収特性を有する第1埋込層11が、リッジ部30の両側において絶縁層10上に配置されている。これにより、活性層5において発生する高次モードの光が第1埋込層11によって吸収されるため、高次モードの光の出力が抑制されて、基本モードの光の単一発振が維持されやすくなる。また、半導体レーザ素子1では、第2クラッド層7の屈折率が第1クラッド層3の屈折率よりも低い。これにより、活性層5において発生する光の光強度分布が屈折率の高い第1クラッド層3側に移動するため、活性層5において発生する光が第1埋込層11に過度に染み出すことが抑制される。したがって、基本モードの光が第1埋込層11によって過剰に吸収されることによる損失を低減することができる。また、光強度分布が第1クラッド層3側に移動することにより、光強度分布のピーク値が小さくなるため、より大きな幅の光強度分布を有する光成分が増加する。したがって、ビーム放射角を小さくすることができる。これにより、半導体レーザ素子1を用いた装置の設計自由度が向上する。また、半導体レーザ素子1では、第2半導体層72の屈折率が第1半導体層71の屈折率よりも低く、第2半導体層72が第1半導体層71を介して活性層5上に配置されている。仮に屈折率の低い第2半導体層72が活性層5に隣接して配置されていると、光強度分布が第1クラッド層3側に過度に移動して光強度分布のピーク値が大きく低下するおそれがある。ピーク値が大きく低下すると、所望の出力を得るための電流値の閾値が上昇してしまう。これに対し、第1半導体層71を介して第2半導体層72が配置されている構成では、第1クラッド層3側への光強度分布の過度な移動が抑制されるため、電流値の閾値の上昇が抑制される。また、第2半導体層72は屈折率を低くするためにAlの含有率が高く調整されている。一般的に、Alは光によって劣化しやすい材料であるが、半導体レーザ素子1では、第2半導体層72が第1半導体層71を介して活性層5から離れて配置されているため、第2半導体層72が活性層5において発生する光によって劣化することを抑制することができる。そのため、半導体レーザ素子1の信頼性を向上することができる。また、半導体レーザ素子1では、リッジ部30の両側に第1埋込層11及び第2埋込層12が配置されており、電極層13がリッジ部30及び第2埋込層12上に配置されている。これにより、電極層13が形成される面を平坦面状に近づけることができるため、電極層13を形成する際に電極層13の断線を抑制することができる。また、第1埋込層11と第2埋込層12とを互いに異なる材料で形成することができるため、半導体レーザ素子1の設計自由度を向上することができる。また、半導体レーザ素子1では、絶縁層10がリッジ部30の側面30a及びリッジ部30の両側に位置する底面31aにわたって配置されている。側面30a及び底面31aを絶縁層10によって覆うことで、半導体レーザ素子1の信頼性を向上することができる。よって、半導体レーザ素子1によれば、基本モードの光を好適に出力することができる。
【0049】
半導体レーザ素子1では、第2半導体層72が、AlGaAsによって形成されており、第2半導体層72におけるAlの含有率が、70%以上である。これにより、リッジ部30をエッチングによって形成する際に第2半導体層72をエッチングストップ層として機能させることができる。そのため、リッジ部30を精度良く形成することができる。
【0050】
半導体レーザ素子1では、第1クラッド層3、第1半導体層71及び第3半導体層73のそれぞれが、AlGaAsによって形成されており、第1クラッド層3、第1半導体層71及び第3半導体層73のそれぞれにおけるAlの含有率が、30%以上50%以下である。これにより、第2クラッド層7の屈折率が第1クラッド層3の屈折率よりも低く、且つ第2半導体層72の屈折率が第1半導体層71の屈折率よりも低い構成をより確実に実現することができる。そのため、基本モードの光を好適に出力することができる。
【0051】
半導体レーザ素子1では、リッジ部30が、リッジ部30の延在方向(Y方向)から見た場合に、基板2側に向かって広がる台形状を呈している。これにより、リッジ部30の根元の強度が向上し、リッジ部30の根元に負荷がかかりやすい高出力の半導体レーザ素子1においても安定したレーザ発振を行うことができる。そのため、基本モードの光をより好適に出力することができる。
【0052】
半導体レーザ素子1は、第3半導体層73と電極層13との間に配置されたコンタクト層9Aを更に備え、コンタクト層9Aが、Y方向から見た場合に、基板2とは反対側に向かって広がる台形状を呈している。これにより、コンタクト層9Aと電極層13との接触面をより広く確保することができる。
【0053】
半導体レーザ素子1では、活性層5において発生する光に対する第1埋込層11の光吸収係数が、1×10cm―1以上である。これにより、第1埋込層11が、活性層5において発生する高次モードの光をより確実に吸収することができる。そのため、基本モードの光をより好適に出力することができる。
【0054】
半導体レーザ素子1では、第2埋込層12が、絶縁材料又は樹脂材料によって形成されている。第2埋込層12が絶縁材料によって形成されている場合には、電極層13からリッジ部30へ効率よく電流を印加することができる。具体的には、電極層13から第2埋込層12を介して第1埋込層11へと電流が流れることが抑制されることによって、リッジ部30へ効率よく電流を印加することができる。第2埋込層12が樹脂材料によって形成されている場合には、半導体レーザ素子1に生じる応力を第2埋込層12によって低減することができる。例えば、トレンチ31を金属層のみで埋めた場合、金属層は応力を発生させやすいため、リッジ部30に負荷がかかりビームパターンが乱れるおそれがある。これに対して、第2埋込層12が樹脂材料によって形成されている半導体レーザ素子1では、第2埋込層12によって応力が低減されるので、ビームパターンが乱れることを抑制することができる。
【0055】
半導体レーザ素子1は、第3半導体層73内に配置された回折格子層8を更に備えている。これにより、分布帰還型の半導体レーザ素子1として好適に機能させることができる。
【0056】
半導体レーザ素子1では、第1埋込層11の一部が、側面30aと底面31aとの接続部33上に配置されている。これにより、第1埋込層11が、活性層5において発生する高次モードの光をより確実に吸収することができる。そのため、基本モードの光をより好適に出力することができる。
【0057】
半導体レーザ素子1の製造方法によれば、基本モードの光を好適に出力し得る半導体レーザ素子1を得ることができる。
【0058】
半導体レーザ素子1の製造方法では、リッジ部30を形成する工程において、第2半導体層72をエッチングストップ層として、第3半導体層73の一部をエッチングによって除去する。これにより、リッジ部30を形成する工程において、リッジ部30を精度良く形成することができる。
【0059】
上述した作用及び効果は、回折格子層8を備えることによるものを除いて、回折格子層8を備えていない半導体レーザ素子1によっても奏される。すなわち、半導体レーザ素子1は、回折格子層8を備えていなくてもよい。
【0060】
続いて、半導体レーザ素子1の作用及び効果について、シミュレーション結果と共に更に説明する。まず、図8,9を用いて、半導体レーザ素子1が第1埋込層11を備えることにより、高次モードの光の出力が抑制されることに関して説明する。シミュレーションモデルとして、第1実施例に係る半導体レーザ素子と、第1比較例に係る半導体レーザ素子を用意した。第1実施例に係る半導体レーザ素子は、上述した半導体レーザ素子1である。第1比較例に係る半導体レーザ素子は、第1埋込層11を備えていない半導体レーザ素子である。半導体レーザ素子への注入電力を変化させたときの基本モード及び高次モードの光の出力についてシミュレーションを行った。
【0061】
図8は、半導体レーザ素子の出力特性を示す図である。グラフAは、第1比較例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力を示し、グラフBは、第1実施例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力を示している。グラフCは、第1比較例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力を示し、グラフDは、第1実施例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力を示している。グラフEは、第1比較例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力と高次モードの光出力との和を示し、グラフFは、第1実施例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力と高次モードの光出力との和を示している。
【0062】
グラフA,Bから、第1実施例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力が、第1比較例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力よりも大きくなることが確認できる。グラフC,Dから、第1実施例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力が、第1比較例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力よりも小さくなることが確認できる。また、高次モードの光出力が大きく増加し始める注入電流の閾値について、第1実施例の閾値が第1比較例の閾値よりも大きいことが確認できる。すなわち、第1埋込層11を備える半導体レーザ素子は、第1埋込層11を備えない半導体レーザ素子と比べて、高次モードの光の出力を抑制しつつ基本モードの光を出力することができる。なお、グラフE,Fから、第1比較例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力と高次モードの光出力との和が、第1実施例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力と高次モードの光出力との和よりも僅かに大きいことが確認できるが、これは第1比較例において高次モードの光出力を抑制できていないことに起因すると考えられる。
【0063】
また、第1実施例に係る半導体レーザ素子から出力される光の第1埋込層11での吸収についてシミュレーションを行った。具体的には、波長760nmの光に対する第1埋込層11の光吸収係数を4.5×10cm―1とした場合における、第1埋込層11での光吸収(光損失)についてシミュレーションを行った。第1埋込層11にかかる基本モードの光の強度は、6.7×10―7であり、第1埋込層11における光吸収は0.30cm―1であった。これに対して、第1埋込層11にかかる高次モードの光の強度は、3.0×10―6であり、第1埋込層11における光吸収は1.33cm―1であった。この結果から、第1埋込層11における高次モードの光吸収が、基本モードの光吸収よりも大きいことがわかる。
【0064】
さらに、第1実施例及び第1比較例に係る半導体レーザ素子の水平方向でのビーム広がり特性(ビーム放射角)についてシミュレーションを行った。図9は、水平方向におけるビームパターンを示す図である。図9に示されるビームパターンは、半導体レーザ素子の光出力端面(端面1a)から離れた場所における光強度分布(FFP:Far Field Pattern)である。図9の横軸は水平遠視野角θを示し、縦軸は出力される光の規格化強度を示している。水平遠視野角(Horizontal far field angle)θとは、半導体レーザ素子の光出力端面から離れた場所の水平方向(X方向)における位置を示す角度である。水平方向における位置が光出力端面と同じ場所の水平遠視野角θは、0°である。このシミュレーションでは、半導体レーザ素子への注入電流の大きさを80mAから200mAまで20mAずつ変化させて、光強度をシミュレーションした。グラフAは、第1比較例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度を示し、グラフBは、第1実施例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度を示している。
【0065】
図9に示されるように、半導体レーザ素子に印加される電流値が増加するにつれてグラフAの横幅(ビームパターンの広がり)が拡大している。これは、電流値が増加することによって基本モードに対する高次モードの相対的な光強度が増加し、モード間干渉に起因したビームステアリングが発生することによるものと考えられる。一方で、グラフBの横幅は、電流値が増加するにつれて徐々に拡大しているものの、グラフAと比べて拡大の程度は小さい。すなわち、第1実施例に係る半導体レーザ素子では、電流値が増加した場合であっても、ビームパターンの広がりが抑制されていることが確認できる。ビームパターンの広がりが抑制されるのは、第1実施例に係る半導体レーザ素子が備える第1埋込層11によって高次モードの光出力が抑制されているためと考えられる。よって、以上のシミュレーションから、第1埋込層11を備える半導体レーザ素子では、第1埋込層11を備えない半導体レーザ素子と比べて、高次モードの光の出力が抑制されることが確認できる。
【0066】
次に、図10図13を用いて、第2半導体層72の屈折率が第1半導体層71の屈折率よりも低く、第2クラッド層7の屈折率が第1クラッド層3の屈折率よりも低いことにより、基本モードの光の損失が低減されることについて説明する。すなわち、第2クラッド層7が屈折率の低い第2半導体層72を備えることによる作用及び効果について説明する。シミュレーションモデルとして、上記第1実施例に係る半導体レーザ素子と、第2比較例に係る半導体レーザ素子を用意した。第2比較例に係る半導体レーザ素子は、第2半導体層72の屈折率が第1半導体層71の屈折率と等しい半導体レーザ素子である。第2半導体層72の屈折率を除き、第2比較例に係る半導体レーザ素子は、第1実施例に係る半導体レーザ素子と同様の構成を有している。第1実施例及び第2比較例の半導体レーザ素子から出力される光の光強度分布についてシミュレーションを行った。
【0067】
図10は、半導体レーザ素子の光強度を示す図である。図10における横軸(位置Z)は、半導体レーザ素子1におけるZ方向の位置を示しており、活性層5の位置Zが「0」である。活性層5を基準として第1クラッド層3側に向かうほど位置Zの値が小さくなり、第2クラッド層7側に向かうほど位置Zの値が大きくなる。縦軸は、屈折率及び出力される光の強度を示している。
【0068】
グラフAは、第2比較例に係る半導体レーザ素子の屈折率を示し、グラフBは、第1実施例に係る半導体レーザ素子の屈折率を示している。第1実施例に係る半導体レーザ素子の屈折率は、第2半導体層72の屈折率に対応する部分を除いて第2比較例に係る半導体レーザ素子の屈折率と同じである。そのため、グラフBは、第2半導体層72の屈折率に対応する部分(位置Zが0.15μmである部分の近傍)を除いてグラフAと重なっている。
【0069】
グラフCは、第2比較例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度(光強度分布)を示し、グラフDは、第1実施例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度(光強度分布)を示している。グラフC,Dは、それぞれのグラフが囲む面積(光出力)が互いに等しく(この例では1W)なるように規格化されている。
【0070】
図10に示されるように、グラフDの大部分が、グラフCに対して位置Zが小さくなる側(活性層5に対して第1クラッド層3側)に位置している。すなわち、半導体レーザ素子が屈折率の低い第2半導体層72を備えることにより、光強度分布が第1クラッド層3側に移動することが確認できる。また、半導体レーザ素子が屈折率の低い第2半導体層72を備えることにより、光強度分布のピーク値が小さくなり、より大きな幅の光強度分布を有する光成分が増加することが確認できる。
【0071】
続いて、シミュレーションモデルとして、第2実施例に係る半導体レーザ素子と、第3比較例に係る半導体レーザ素子を用意した。第2実施例に係る半導体レーザ素子は、回折格子層8を備えていない点を除き、第1実施例に係る半導体レーザ素子と同様の構成を備えている。第3比較例に係る半導体レーザ素子は、回折格子層8を備えていない点を除き、第2比較例に係る半導体レーザ素子と同様の構成を備えている。
【0072】
図11は、図10と同様に、半導体レーザ素子の光強度を示している。グラフAは、第3比較例に係る半導体レーザ素子の屈折率を示し、グラフBは、第2実施例に係る半導体レーザ素子の屈折率を示している。第2実施例に係る半導体レーザ素子の屈折率は、第2半導体層72の屈折率に対応する部分を除いて第3比較例に係る半導体レーザ素子の屈折率と同じである。そのため、グラフBは、第2半導体層72の屈折率に対応する部分を除いてグラフAと重なっている。
【0073】
グラフCは、第3比較例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度(光強度分布)を示し、グラフDは、第2実施例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度(光強度分布)を示している。グラフC,Dは、それぞれのグラフが囲む面積(光出力)が互いに等しく(この例では1W)なるように規格化されている。
【0074】
図11に示されるように、グラフDの大部分が、グラフCに対して位置Zが小さくなる側(活性層5に対して第1クラッド層3側)に位置している。すなわち、半導体レーザ素子が回折格子層8を備えていない場合においても、半導体レーザ素子が屈折率の低い第2半導体層72を備えることにより、光強度分布が第1クラッド層3側に移動することが確認できる。また、半導体レーザ素子が屈折率の低い第2半導体層72を備えることにより、光強度分布のピーク値が小さくなり、より大きな幅の光強度分布を有する光成分が増加していることが確認できる。
【0075】
また、上記第1,2実施例及び第2,3比較例に係る半導体レーザ素子について、注入電力を変化させたときの基本モード及び高次モードの光の出力についてシミュレーションを行った。図12は、半導体レーザ素子の出力特性を示す図である。グラフAは、第2比較例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力を示し、グラフBは、第1実施例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力を示し、グラフCは、第3比較例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力を示し、グラフDは、第2実施例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力を示している。グラフEは、第2比較例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力を示し、グラフFは、第1実施例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力を示し、グラフGは、第3比較例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力を示し、グラフHは、第2実施例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力を示している。
【0076】
グラフA,Bから、第1実施例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力が、第2比較例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力よりも大きくなることが確認できる。同様に、グラフC,Dから、第2実施例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力が、第3比較例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力よりも大きくなることが確認できる。これは以下の理由によると考えられる。
【0077】
すなわち、図10,11を参照して説明したように、第1,2実施例のそれぞれでは、第2,3比較例と比べて光強度分布が第1クラッド層3側に移動する。これにより、活性層5において発生する光が第1埋込層11に過度に染み出すことが抑制され、第1埋込層11による基本モードの光の吸収損失が低減されると考えられる。また、一般的に、n型半導体はp型半導体と比べて光の吸収損失が小さい。そのため、光強度分布がn型半導層である第1クラッド層3側に移動することによって、基本モードの光の吸収損失が低減されると考えられる。吸収損失が低減されると、光出力特性におけるスロープ効率(図12におけるグラフの傾きに相当)が大きくなるため、第1,2実施例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力が大きくなる。
【0078】
グラフE,Fから、第1実施例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力が、第2比較例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力よりも小さくなることが確認できる。同様に、グラフG,Hから、第2実施例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力が、第3比較例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力よりも小さくなることが確認できる。これは以下の理由によると考えられる。すなわち、第1クラッド層3側に光強度分布が移動する第1,2実施例では、水平方向の光閉じ込め効果を有するリッジ部30における光強度が第1,2比較例と比べて小さくなる。そのため、第1,2実施例では、高次モードの光の発振が抑制され、高次モードの光出力が小さくなる。
【0079】
また、第1実施例及び第2比較例に係る半導体レーザ素子から出力される光の第1埋込層11での吸収についてシミュレーションを行った。具体的には、波長760nmの光に対する第1埋込層11の光吸収係数を4.5×10cm―1とした場合における、第1埋込層11での光吸収(光損失)についてシミュレーションを行った。まず、第2比較例における第1埋込層11にかかる基本モードの光の強度は、1.3×10―6であり、第1埋込層11における光吸収は0.59cm―1であった。これに対して、第1埋込層11にかかる高次モードの光の強度は、5.6×10―6であり、第1埋込層11における光吸収は2.52cm―1であった。そのため、第2比較例における基本モードと高次モードとの光吸収の差(損失差)は、1.93cm―1であった。損失差が1.00cm―1以上であれば高次モードの光を抑制しつつ基本モードの光を出力できていると判断される。したがって、第2比較例において高次モードの光を抑制しつつ基本モードを出力できていることが確認できた。また、第1実施例における第1埋込層11にかかる基本モードの光の強度は、1.1×10―6であり、第1埋込層11における光吸収は0.50cm―1であった。これに対して、第1埋込層11にかかる高次モードの光の強度は、4.5×10―6であり、第1埋込層11における光吸収は2.03cm―1であった。そのため、第1実施例における基本モードと高次モードとの光吸収(光損失)差は、1.53cm―1であった。したがって、第1実施例においても高次モードの光を抑制しつつ基本モードを出力できていることが確認できた。
【0080】
さらに、第1,2実施例及び第2,3比較例に係る半導体レーザ素子のビーム広がり特性(ビーム放射角)についてシミュレーションを行った。図13は、垂直方向におけるビームパターンを示す図である。図13に示されるビームパターンは、半導体レーザ素子の光出力端面から離れた場所における光強度分布(FFP)である。図13の横軸は垂直遠視野角θを示し、縦軸は出力される光の規格化強度を示している。垂直遠視野角(Vertical far field angle)θとは、半導体レーザ素子の光出力端面から離れた場所の垂直方向(Z方向)における位置を示す角度である。垂直方向における位置が光出力端面と同じ場所の垂直遠視野角θは、0°である。グラフAは、第2比較例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度を示し、グラフBは、第1実施例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度を示し、グラフCは、第3比較例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度を示し、グラフDは、第2実施例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度を示している。
【0081】
図13に示されるように、グラフBの横幅は、グラフAの横幅よりも小さい。グラフの横幅が小さいほど、半導体レーザ素子から出力される光の広がりが小さい(すなわち、ビーム放射角が小さい)。そのため、グラフA,Bから、第1実施例に係る半導体レーザ素子のビーム放射角は、第2比較例に係る半導体レーザ素子のビーム放射角よりも小さくなることが確認できる。同様に、グラフCの横幅は、グラフDの横幅よりも小さい。そのため、グラフC,Dから、第2実施例に係る半導体レーザ素子のビーム放射角は、第3比較例に係る半導体レーザ素子のビーム放射角よりも小さくなることが確認できる。第1,2実施例においてビーム放射角が小さくなる理由は、半導体レーザ素子が屈折率の低い第2半導体層72を備えることによって光強度分布のピーク値が小さくなり、同一強度における光強度分布の幅が大きくなるためであると考えられる。
【0082】
次に、図14図16を用いて、第2半導体層72の屈折率が第1半導体層71の屈折率よりも低く、第2半導体層72が第1半導体層71を介して活性層5上に配置されていることの効果について説明する。シミュレーションモデルとして、上記第1実施例に係る半導体レーザ素子と、第4比較例に係る半導体レーザ素子を用意した。第4比較例に係る第1半導体層71の屈折率は、第1実施例に係る第1半導体層71の屈折率よりも低い。すなわち、第4比較例に係る半導体レーザ素子では、屈折率の低い半導体層が活性層5に隣接して配置されている。第1半導体層71の屈折率を除き、第4比較例に係る半導体レーザ素子は、第1実施例に係る半導体レーザ素子と同様の構成を有している。第1実施例及び第4比較例の半導体レーザ素子から出力される光の光強度分布についてシミュレーションを行った。
【0083】
図14は、図10と同様に、半導体レーザ素子の光強度を示している。グラフAは、第4比較例に係る半導体レーザ素子の屈折率を示し、グラフBは、第1実施例に係る半導体レーザ素子の屈折率を示している。第1実施例に係る半導体レーザ素子の屈折率は、第1半導体層71の屈折率に対応する部分を除いて第4比較例に係る半導体レーザ素子の屈折率と同じである。そのため、グラフBは、第1半導体層71の屈折率に対応する部分(位置Zが0.1μmである部分の近傍)を除いてグラフAと重なっている。
【0084】
グラフCは、第4比較例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度(光強度分布)を示し、グラフDは、第1実施例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度(光強度分布)を示している。グラフC,Dは、それぞれのグラフが囲む面積(光出力)が互いに等しく(この例では1W)なるように規格化されている。
【0085】
図14に示されるように、グラフCの大部分が、グラフDに対して位置Zが小さくなる側(活性層5に対して第1クラッド層3側)に大きくずれており、グラフCのピーク値がグラフDのピーク値と比べて大きく低下している。すなわち、屈折率の低い半導体層が活性層5に隣接して配置されることにより、光強度分布が第1クラッド層3側に過度に移動し、ピーク値が大きく低下することが確認できる。
【0086】
また、第1実施例及び第4比較例に係る半導体レーザ素子について、注入電力を変化させたときの基本モード及び高次モードの光の出力についてシミュレーションを行った。図15は、半導体レーザ素子の出力特性を示す図である。グラフAは、第4比較例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力を示し、グラフBは、第1実施例に係る半導体レーザ素子の基本モードの光出力を示している。グラフCは、第4比較例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力を示し、グラフDは、第1実施例に係る半導体レーザ素子の高次モードの光出力を示している。
【0087】
グラフA,Bからわかるように、図15に示される注入電流の範囲では、基本モードの光について同じ出力を得ようとした場合、第4比較例に係る半導体レーザ素子の方が第1実施例に係る半導体レーザ素子と比べて注入電流を大きくする必要がある。すなわち、屈折率の低い半導体層が活性層5に隣接して配置されることにより、基本モードの光について所望の出力を得るための電流値の閾値が上昇してしまうことが確認できる。
【0088】
さらに、第1実施例及び第4比較例に係る半導体レーザ素子のビーム広がり特性(ビーム放射角)についてシミュレーションを行った。図16は、垂直方向におけるビームパターンを示す図である。図16に示されるビームパターンは、半導体レーザ素子の光出力端面から離れた場所における光強度分布(FFP)である。図16の横軸は垂直遠視野角θを示し、縦軸は出力される光の規格化強度を示している。グラフAは、第4比較例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度を示し、グラフBは、第1実施例に係る半導体レーザ素子から出力される光の規格化強度を示している。グラフA,Bから、第4比較例に係る半導体レーザ素子のビーム放射角は、第1実施例に係る半導体レーザ素子のビーム放射角よりも小さくなることが確認できる。
【0089】
したがって、図14図16を用いて説明した各シミュレーションに基づくと、屈折率の低い第2半導体層72が活性層5に隣接して配置されている構成では、ビーム放射角が小さくなる利点がある一方で、光強度分布が第1クラッド層3側に過度に移動して、光強度分布のピーク値が大きく低下するおそれがあることがわかる。そして、ピーク値が低下すると、所望の出力を得るための電流値の閾値が上昇してしまうことがわかる。これに対し、屈折率が低い第2半導体層72が第1半導体層71を介して活性層5から離れて配置されている構成では、第1クラッド層3側への光強度分布の過度な移動が抑制されるため、電流値の閾値の上昇が抑制されることがわかる。
[変形例]
【0090】
本発明は、上記実施形態に限定されない。例えば、図17に示されるように、リッジ部30は、Y方向から見た場合に、長方形状を呈していてもよい。すなわち、リッジ部30の両側の側面30aは、それぞれ、Y方向及びZ方向に平行な面であり、底面31aと垂直に交わっている。X方向におけるリッジ部30の幅は、一定であってもよい。リッジ部30の形状は限定されない。例えば、リッジ部30は、Y方向から見た場合に、基板2とは反対側に向かって広がる台形状を呈していてもよい。図17に示される構成において、回折格子層8は省略されてもよい。
【0091】
リッジ部30の側面30aは、平面でなくてもよい。例えば、側面30aの一部又は全部が曲面であってもよい。例えば、側面30aの全体がリッジ部30の内側に向かって凸の曲面であってもよいし、側面30aのうち頂面30b寄りの部分がX方向に垂直な平面であり、側面30aのうち底面31b寄りの部分がリッジ部30の内側に向かって凸の曲面であってもよい。側面30aは、底面31aと滑らかに連続していてもよい。側面30aが底面31aと滑らかに連続しているとは、例えば、Y方向から見た場合に、側面30a及び底面31aの接線の傾きが接続部33において連続的に変化することをいう。
【0092】
第1クラッド層3及び第2クラッド層7(第1半導体層71、第2半導体層72及び第3半導体層73)の材料は限定されず、AlGaAs以外の材料によって形成されていてもよい。第2半導体層72におけるAlの含有率は、70%以下であってもよい。第1クラッド層3、第1半導体層71及び第3半導体層73におけるAlの含有率は、30%以下であってもよいし、50%以上であってもよい。第1クラッド層3は、複数の半導体層から構成されていてもよい。この場合、上述したとおり、第1クラッド層3を構成する各半導体層の屈折率の平均値が第1クラッド層3の屈折率となる。
【0093】
第1埋込層11は、リッジ部30の両側において絶縁層10上に配置されていればよく、リッジ部30の側面30aとトレンチ31の底面31aとの接続部33上に配置されていなくてもよい。すなわち、第1埋込層11は、活性層5において発生する高次モードの光を吸収可能な位置に配置されていればよく、底面31aの全体にわたって配置されていなくてもよい。第2埋込層12は、絶縁材料及び樹脂材料以外の材料によって形成されていてもよい。第2埋込層12は、堆積物によって形成された層でなくてもよい。
【0094】
コンタクト層9Aは、Y方向から見た場合に、基板2とは反対側に向かって広がる台形状を呈していなくてもよい。例えば、コンタクト層9Aは、Y方向から見た場合に、矩形状を呈していてもよい。半導体レーザ素子1において、コンタクト層9は省略されてもよい。この場合、半導体レーザ素子1において、電極層13はリッジ部30の頂面30bに直接接触し、絶縁層10は対応する凸部の頂面に直接接触する。コンタクト層9のうちコンタクト層9Bのみが省略され、コンタクト層9Aはリッジ部30上に配置されていてもよい。
【0095】
活性層5において発生する光に対する第1埋込層11の光吸収係数は、1×10cm―1以下であってもよい。第1埋込層11は、リッジ部30の側面30aとトレンチ31の底面31aとの接続部33上に配置されていなくてもよい。第2埋込層12は、絶縁材料及び樹脂材料以外の材料によって形成されてもよい。
【0096】
一対の凸部32は形成されていなくてもよい。この場合、リッジ部30の両側に位置する底面31aは、X方向における半導体レーザ素子1の端面に接続された平坦な面であってもよい。この場合、第1埋込層11及び第2埋込層12は、X方向における半導体レーザ素子1の端面の位置に至るように形成されていてもよい。
【0097】
絶縁層10は、リッジ部30の側面30a及びトレンチ31の底面31aにおいて、第2クラッド層7上に配置されていればよく、側面30a及び底面31aにわたって(連続して)配置されていなくてもよい。すなわち、絶縁層10のうち側面30aに配置された部分と、絶縁層10のうち底面31aに配置された部分とは、互いに分離されていてもよい。この場合、例えば、絶縁層10は、側面30aの一部及び底面31aの一部に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1…半導体レーザ素子、2…基板、3…第1クラッド層、5…活性層、7…第2クラッド層、8…回折格子層、9,9A,9B…コンタクト層、10…絶縁層、11…第1埋込層、12…第2埋込層、13…電極層、30…リッジ部、30a…側面、30b…頂面、31a…底面、33…接続部、71…第1半導体層、72…第2半導体層、73…第3半導体層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17