(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024092219
(43)【公開日】2024-07-08
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリート板の固定治具、およびコンクリート構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/16 20060101AFI20240701BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20240701BHJP
【FI】
E04B1/16 L
E04B5/43 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207989
(22)【出願日】2022-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】313017001
【氏名又は名称】日本カイザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 佑典
(72)【発明者】
【氏名】片山 博之
(57)【要約】
【課題】プレキャストコンクリート板を確実に位置決めする。
【解決手段】プレキャストコンクリート板201を鉄骨に固定する固定治具501は、取付ボルト521が遊嵌されるボルト孔511aが形成された取付プレート部511と、鉄骨を介してプレキャストコンクリート板201と対向する対向プレート部とを有し、固定治具が、プレキャストコンクリート板201の縁部と対向プレート部との間に、鉄骨が介在しない解除位置と、鉄骨が介在し対向プレート部の雌ねじ512aに螺合された固定ボルト522が鉄骨の下面に当接する固定位置とに回動可能にされている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物を構築するためにあらかじめ製造されたプレキャストコンクリート板を、その縁部が支持鉄骨に載置された状態で位置決めして固定するプレキャストコンクリート板の固定治具であって、
上記プレキャストコンクリート板の下面に取り付けられる取付プレート部と、
上記支持鉄骨を介して、上記プレキャストコンクリート板の縁部と対向する対向プレート部とを有し、
上記取付プレート部には、上記プレキャストコンクリート板の下面に螺号された取付ボルトが遊嵌されるボルト孔が形成される一方、上記対向プレート部には、雌ねじが形成され、
上記取付ボルトが締め付けられていない状態で、当該固定治具が、
上記プレキャストコンクリート板の縁部と上記対向プレート部との間に上記支持鉄骨が介在しない解除位置と、
上記プレキャストコンクリート板の縁部と上記対向プレート部との間に上記支持鉄骨が介在し、上記雌ねじに螺合された固定ボルトが上記支持鉄骨の下面に当接する固定位置とに、上記取付ボルト回りに回動可能にされていることを特徴とするプレキャストコンクリート板の固定治具。
【請求項2】
請求項1のプレキャストコンクリート板の固定治具であって、
断面コの字形状のコの字部を有し、上記コの字部における一方の平行部によって上記対向プレート部が構成されるとともに、他方の平行部が上記取付プレート部に接合されていることを特徴とするプレキャストコンクリート板の固定治具。
【請求項3】
請求項1のプレキャストコンクリート板の固定治具を用いたコンクリート構造物の構築方法であって、
上記取付ボルトが締め付けられていない状態で、固定治具が上記解除位置になるようにして、上記プレキャストコンクリート板の縁部を上記支持鉄骨上に載置し、
上記固定治具を上記固定位置に回動させて、上記固定ボルトを締め付けた後、
上記対向プレート部に形成された雌ねじに螺合された固定ボルトが上記支持鉄骨の下面に当接させて、プレキャストコンクリート板を上記支持鉄骨に固定することを特徴とするコンクリート構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート板の固定治具に関し、特に、鉄骨造構造物に用いられる鉄筋コンクリート造りのバルコニーや、庇、廊下等に用いられる片持ちスラブ用のプレキャストコンクリート板の固定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造構造物に用いられる鉄筋コンクリート造りのバルコニー等は、プレキャストコンクリート板を用いた片持ちスラブによって構築されることがある。より詳しくは、例えば、プレキャストコンクリート板の根本側の縁部が鉄骨上に載置され、先端側部分は支保工に支持された状態で、上端筋等が配筋され、プレキャストコンクリート板上などにコンクリートが打設されることによって構築される。
【0003】
ここで、上記プレキャストコンクリート板の縁部が鉄骨上に載置される際には、高さ方向や出入り方向(根本側と先端側とを結ぶ方向)の位置を調整して位置合わせし、固定する必要がある。この位置合わせは、例えばプレキャストコンクリート板をわずかに吊り上げた状態で、根本側の縁部と鉄骨との間にライナープレートを挿入したり、レバーブロック(登録商標)などによってプレキャストコンクリート板を水平方向に移動させたりすることによって行われる。
【0004】
プレキャストコンクリート板の高さ方向の位置を調整する技術としては、例えばプレキャストコンクリートカーテンウォールの固定に関して、荷重受けナットが溶接されたアングルを荷重受けブロック部の下部に打ち込み、上記ナットにボルトをねじ込んで位置決めする技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように荷重受けナットが溶接されたアングルを荷重受けブロック部の下部に打ち込むなどした場合でも、その後、コンクリート打設作業時の振動や、地震動でハーフプレキャスト板が動いたりすると、位置合わせの精度を高くすることが困難である。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、施工時のプレキャストコンクリート板の確実な位置決めを容易にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、コンクリート構造物を構築するためにあらかじめ製造されたプレキャストコンクリート板を、その縁部が支持鉄骨に載置された状態で位置決めして固定するプレキャストコンクリート板の固定治具であって、上記プレキャストコンクリート板の下面に取り付けられる取付プレート部と、上記支持鉄骨を介して、上記プレキャストコンクリート板の縁部と対向する対向プレート部とを有し、上記取付プレート部には、上記プレキャストコンクリート板の下面に螺号された取付ボルトが遊嵌されるボルト孔が形成される一方、上記対向プレート部には、雌ねじが形成され、上記取付ボルトが締め付けられていない状態で、当該固定治具が、上記プレキャストコンクリート板の縁部と上記対向プレート部との間に上記支持鉄骨が介在しない解除位置と、上記プレキャストコンクリート板の縁部と上記対向プレート部との間に上記支持鉄骨が介在し、上記雌ねじに螺合された固定ボルトが上記支持鉄骨の下面に当接する固定位置とに、上記取付ボルト回りに回動可能にされていることを特徴とする。
【0009】
これにより、プレキャストコンクリート板の縁部を支持鉄骨に載置し、位置決めした後、取付ボルトと固定ボルトを締め込むことによって、プレキャストコンクリート板が固定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、施工時のプレキャストコンクリート板の確実な位置決めを容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】プレキャストコンクリート板の構成を示す側面図である。
【
図2】プレキャストコンクリート板の固定治具の構成を示す縦断面図である。
【
図3】プレキャストコンクリート板の固定治具の構成を示す平面図である。
【
図4】プレキャストコンクリート板の固定手順の例を示す側面図である。
【
図5】プレキャストコンクリート板の固定手順の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、またはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0013】
(コンクリート構造物の構成)
鉄骨造りのコンクリート構造物におけるバルコニー等は、例えば
図1に示すように、プレキャストコンクリート板201を用いた片持ちスラブによって構築される。より詳しくは、例えば、プレキャストコンクリート板201の根本側の縁部が梁としての支持鉄骨であるI形断面部材111(支持鉄骨)上にレベル調整用のライナープレート411を介して載置され、先端側部分はサポート311と大引312とを有する支保工に支持された状態で、プレキャストコンクリート板201上に、上端筋401等が配筋され、コンクリート402が打設されることによって構築される。
【0014】
上記I形断面部材111は、例えば上フランジ111a、下フランジ111b、およびウェブ111cを有して構成されている。
【0015】
(プレキャストコンクリート板201の構成)
上記プレキャストコンクリート板201は、バルコニー等の現場での施工に先立って、プレキャスト工場で製作されて、現場に運び込まれる。このプレキャストコンクリート板201は、例えば、トラス筋210の一部が、鉄筋コンクリート板220に埋設されて成っている。上記鉄筋コンクリート板220は、格子状に配置された図示しない下端配力筋や、下端主筋がコンクリート板に埋め込まれて形成されている。また、上記トラス筋210は、より詳しくは、1本のトップ筋211と、上記トップ筋211に平行な2本の図示しないボトム筋のそれぞれとが、波形の2本のラチス筋212で接合されて構成され、上記2本のボトム筋と、ラチス筋212の下方部分とが、鉄筋コンクリート板220に埋設されるようになっている。なお、トップ筋211やボトム筋は、より強度や剛性を高めるために、さらに1本以上設けられるなどしてもよい。上記のようなトラス筋210は、現場打ちコンクリート硬化後に、その現場打ちコンクリートとの一体性を保つ機能を有するとともに、上記現場打ちコンクリートを打設するときの荷重に抗する機能を有している。
【0016】
(プレキャストコンクリート板の固定治具501)
プレキャストコンクリート板201をI形断面部材111に載置して位置決めした後に固定する固定治具501は、
図2、
図3に示すように、プレキャストコンクリート板201の下面に取り付けられる取付プレート部511と、コの字部512とが接合されて構成されている。
【0017】
取付プレート部511には、取付ボルト521が遊嵌されるボルト孔511aが形成されている。上記取付ボルト521は、プレキャストコンクリート板201の下面にインサートを埋め込むなどして設けられた雌ねじ220aに螺号し、取付ボルト521が締め付けられることによって、固定治具501がプレキャストコンクリート板201に取り付けられるようになっている。一方、取付ボルト521が締め付けられていない状態では、固定治具501は取付ボルト521の回りに回動可能にされ、以下に詳述する解除位置と固定位置とに位置され得るようになっている。
【0018】
取付プレート部511に接合されるコの字部512は、1対の平行部が連結部で連結された断面コの字形状を有し、一方の平行部が溶接によって上記取付プレート部511に接合されている。他方の平行部は、固定治具501が固定位置にあるときに、I形断面部材111およびライナープレート411を介して、プレキャストコンクリート板201の縁部と対向する対向プレート部を構成している。上記対向プレート部には、雌ねじ512aが形成され、固定ボルト522がねじ込まれてI形断面部材111における上フランジ111aの下面に当接し、プレキャストコンクリート板201の下面と、固定ボルト522との間に上記上フランジ111aおよびライナープレート411が挟み込まれることにより、プレキャストコンクリート板201がI形断面部材111に対して高さ位置や水平方向位置について固定されるようになっている。
【0019】
また、固定治具501は、
図4、
図5に示すように解除位置に位置する場合には、I形断面部材111の上フランジ111aおよびライナープレート411から逃げた状態、すなわちプレキャストコンクリート板201の縁部とコの字部512の対向プレート部との間にI形断面部材111の上フランジ111aが介在しない状態となる。それゆえ、固定治具501が解除位置に取り付けられたプレキャストコンクリート板201は、固定治具501がI形断面部材111等に干渉しないように、上方から下降させて端部をI形断面部材111に載置されるようにすることが容易にできる。
【0020】
(プレキャストコンクリート板201の固定)
プレキャストコンクリート板201は、上記のように端部がI形断面部材111に載置されるように支保工上に複数敷き込みされた際に、互いに目違いや目開きが生じないように、高さ位置や出入り方向位置などの水平方向位置が調整される。その後、固定治具501を90°回転させて、取付ボルト521、および固定ボルト522を締め付けることにより、プレキャストコンクリート板201がI形断面部材111に固定される。次いで、プレキャストコンクリート板201上に、上端筋401等が配筋され、コンクリート402が打設されることによって、片持ちスラブによるバルコニー等が構築される。
【0021】
上記のように、取付ボルト521や固定ボルト522を締め込むことによって、固定治具501によりプレキャストコンクリート板201を固定することができ、上部配筋やコンクリート打設作業時の振動が加わった場合や、地震が起こった場合などでも、プレキャストコンクリート板201が動くのを容易に防ぐことができる。それゆえ、プレキャストコンクリート板201の面合わせ、固定治具を設置したり、鉄筋をトラス筋と梁のスタッドジベル等に溶接したりする手間をかける必要がなく、作業性を向上させることも容易にできる。
【0022】
しかも、上記のような固定治具501は、コンクリート402の打設後に取り外して、他の建設現場などで繰り返し使用することができる。
【0023】
(その他の事項)
上記のようなプレキャストコンクリート板201の設置においては、多層同時施工するようにしてもよい。すなわち、デッキ部の施工後に庇を下層階から上層階にかけて連層で施工し、連層で現場打ちコンクリートを打設するようにして、工期の短縮を図るようにしてもよい。
【0024】
また、上記の例では、取付プレート部511に、コの字部512の一方の平行部が接合される例を示したが、これに限らず、取付プレート部511のボルト孔511a付近から、取付プレート部511に対して平行な方向、および垂直な方向にオフセットした位置に対向プレート部の雌ねじ512aが形成される形状を有していればよく、例えば、断面L字状の部の端部が取付プレート部511に接合されるようにしてもよい。また、その場合、取付プレート部511は、ボルト孔511a付近の部分から上記断面L字状の部の端部が接合される部分までが設けられるだけでもよい。
【符号の説明】
【0025】
111 I形断面部材
111a 上フランジ
111b 下フランジ
111c ウェブ
201 プレキャストコンクリート板
210 トラス筋
211 トップ筋
212 ラチス筋
220 鉄筋コンクリート板
220a 雌ねじ
311 サポート
312 大引
401 上端筋
402 コンクリート
411 ライナープレート
501 固定治具
511 取付プレート部
511a ボルト孔
512 コの字部
512a 雌ねじ
521 取付ボルト
522 固定ボルト