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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093880
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】MMP-1産生抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/81 20060101AFI20240702BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 31/78 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K8/81
A61Q19/08
A61K31/78
A61P17/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210511
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】市原 直弥
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】服部 莉奈
(72)【発明者】
【氏名】原 真佐夫
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AC102
4C083AD091
4C083AD092
4C083CC01
4C083DD23
4C083DD28
4C083EE12
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086FA02
4C086FA03
4C086FA05
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
(57)【要約】
【課題】アルコールによる皮膚からの水分の蒸散、及びコラーゲン分解酵素の産生を抑制し、乾燥や肌荒れを抑制し得るMMP-1産生抑制剤を提供すること。
【解決手段】本発明のMMP-1産生抑制剤は、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(1)と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(2)からなり、前記構成単位(1)と前記構成単位(2)との含有量の比がモル比にて70:30~90:10であり、重量平均分子量が10,000以上5,000,000以下である共重合体(P-1)を1種以上と、前記構成単位(1)と、前記構成単位(2)とからなり、前記構成単位(1)と前記構成単位(2)との含有量の比がモル比にて20:80~40:60であり、重量平均分子量が10,000以上5,000,000以下である共重合体(P-2)を1種以上とを合わせて0.001w/v%以上1.0w/v%以下含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(1)と、下記式(2)で表されるアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(2)とからなり、前記構成単位(1)と前記構成単位(2)との含有量の比がモル比にて70:30~90:10であり、重量平均分子量が10,000以上5,000,000以下である共重合体(P-1)を1種以上と、
前記構成単位(1)と、前記構成単位(2)とからなり、前記構成単位(1)と前記構成単位(2)との含有量の比がモル比にて20:80~40:60であり、重量平均分子量が10,000以上5,000,000以下である共重合体(P-2)を1種以上とを合わせて0.001w/v%以上1.0w/v%以下含むMMP-1産生抑制剤。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
【化2】
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数4~22のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記共重合体(P-1)は、重量平均分子量が10,000以上300,000未満である共重合体からなる群、重量平均分子量が300,000以上800,000未満である共重合体からなる群、及び重量平均分子量が800,000以上5,000,000以下である共重合体からなる群の、少なくとも2つの群より選択される2種以上を含む、請求項1に記載のMMP-1産生抑制剤。
【請求項3】
前記共重合体(P-1)は、重量平均分子量が10,000以上300,000未満である共重合体を1種以上と、重量平均分子量が300,000以上800,000未満である共重合体を1種以上とを含む、請求項1に記載のMMP-1産生抑制剤。
【請求項4】
炭素数1~3の1価の低級アルコールを35w/v%以上75w/v%以下含む請求項1~3のいずれか一項に記載のMMP-1産生抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MMP-1産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化学物質により皮膚がバリア機能を損なうと、皮膚表面が乾燥し、水分や脂質の蒸散を引き起こす。また、しわ形成の原因となるコラーゲン分解酵素(例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ-1:MMP-1)の産生が誘導される。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルコール、カチオン界面活性剤、及びアルカリ剤を含有する組成物が開示されており、この組成物が大腸菌、黄色ブドウ球菌、ネコカリシウイルス、マウスノロウイルス及びインフルエンザウイルス等に対して、優れた殺菌効果及び抗ウイルス効果を発揮することが開示されている。また、特許文献2には、エタノール、ポビドンヨード及び水を含有する組成物が開示されており、この組成物が、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、クロカビ、インフルエンザウイルス、ヒトコロナウイルスに対して、優れた消毒効果及び除ウイルス効果を発揮することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-155368号公報
【特許文献2】特開2022-55267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エタノールやイソプロパノールに代表される1価の低級アルコールは、消毒作用、防腐作用、収れん作用、清涼作用、または揮発性などを利用し、外用剤や整髪料などに使用されている。これらのアルコールは幅広い部位に使用可能であり、各種市販品に配合されている。一般的にアルコールを含む製品は、充填容器から液状、あるいはミスト状に手指や身体へ吐出されることによる使用が多い。特に製品が長時間皮膚に触れた場合や、アルコール過敏症患者が使用する場合には、アルコールの脱脂効果により、皮膚がバリア機能を損なうおそれがある。この点、特許文献1及び2に記載の組成物においては、細菌やウイルスに対する抑制、不活化効果を有すると記載があるものの、手指や身体への影響については示されていない。すなわち、特許文献1及び2に記載の組成物が手指や身体に付着すると乾燥や肌荒れ、しわが生じる可能性がある。そのため、乾燥や肌荒れの原因となりにくい、より人体への影響が少ないMMP-1産生抑制剤の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、コラーゲン分解酵素の産生を抑制し、乾燥や肌荒れ、しわの発生を抑制し得るMMP-1産生抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した。その結果、以下で説明する特定の構造を有する共重合体(P-1)1種以上及び共重合体(P-2)1種以上を特定範囲の含有量で含むMMP-1産生抑制剤を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は次の通りである。
[1]下記式(1)で表される2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(1)と、下記式(2)で表されるアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(2)からなり、前記構成単位(1)と前記構成単位(2)との含有量の比がモル比にて70:30~90:10であり、重量平均分子量が10,000以上5,000,000以下である共重合体(P-1)を1種以上と、前記構成単位(1)と、前記構成単位(2)とからなり、前記構成単位(1)と前記構成単位(2)との含有量の比がモル比にて20:80~40:60であり、重量平均分子量が10,000以上5,000,000以下である共重合体(P-2)を1種以上とを合わせて0.001w/v%以上1.0w/v%以下含むMMP-1産生抑制剤。
【化1】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
【化2】
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数4~22のアルキル基を示す。)
[2]前記共重合体(P-1)は、重量平均分子量が10,000以上300,000未満である共重合体からなる群、重量平均分子量が300,000以上800,000未満である共重合体からなる群、及び重量平均分子量が800,000以上5,000,000以下である共重合体からなる群の、少なくとも2つの群より選択される2種以上を含む、上記[1]に記載のMMP-1産生抑制剤。
[3] 前記共重合体(P-1)は、重量平均分子量が10,000以上300,000未満である共重合体を1種以上と、重量平均分子量が300,000以上800,000未満である共重合体を1種以上とを含む、上記[1]に記載のMMP-1産生抑制剤。
[4]炭素数1~3の1価の低級アルコールを35w/v%以上75w/v%以下含む上記[1]~[3]のいずれかに記載のMMP-1産生抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、コラーゲン分解酵素の産生を抑制し、乾燥や肌荒れを抑制しながら手指や身体へ適用することができるMMP-1産生抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
なお、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等)を段階的に記載した場合、各下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10以上100以下、より好ましくは20以上90以下」という記載において、「好ましい下限値:10」と「より好ましい上限値:90」とを組み合わせて、「10以上90以下」とすることができる。
【0011】
本発明のMMP-1産生抑制剤は、以下の(b)成分を以下の含有量で含む。
(b)2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(1)と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(2)とからなり、構成単位(1)と構成単位(2)との含有量の比がモル比にて70:30~90:10であり、重量平均分子量が10,000以上5,000,000以下である共重合体(P-1)と、前記構成単位(1)と、前記構成単位(2)からなり、構成単位(1)と構成単位(2)との含有量の比がモル比にて20:80~40:60であり、重量平均分子量が10,000以上5,000,000以下である共重合体(P-2)とを合わせて0.001w/v%以上1.0w/v%以下含有する。
なお、本発明において「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイル又はメタアクリロイル(メタクリロイル)を意味し、「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタアクリル(メタクリル)を意味する。
【0012】
本発明の「コラーゲン分解酵素の産生抑制」とは、コントロール(例、消毒用エタノールにおけるMMP-1の産生量)を100とした場合、90%未満、好ましくは75%未満であることを意味する。
【0013】
<(b)共重合体(P-1)、及び(P-2)>
本発明のMMP-1産生抑制剤は、下記式(1)で表される2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(1)と、下記式(2)で表されるアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(2)とからなる共重合体(P-1)を1種以上、及び上記構成単位(1)と構成単位(2)とからなる共重合体(P-2)を1種以上含有する。共重合体(P-1)及び(P-2)は、構成単位(1)と構成単位(2)のモル比が異なる2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位を含む共重合体である。
【化3】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
式(1)中、Rは水素原子又はメチル基であり、メチル基であることが好ましい。
【0014】
【化4】
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数4~22のアルキル基を示す。)
式(2)中、Rは水素原子又はメチル基であり、メチル基であることが好ましい。
【0015】
上記式(2)中、Rで示されるアルキル基は、炭素数4~22の直鎖又は分岐のアルキル基であり、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等を挙げることができ、好ましくはブチル基である。
【0016】
従って、式(2)で表されるアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位としては、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ドコシル等に基づく構成単位が挙げられるが、特に好ましいのは(メタ)アクリル酸ブチルに基づく構成単位である。
【0017】
(b)成分である共重合体(P-1)及び共重合体(P-2)のMMP-1産生抑制剤中の含有量は、0.001w/v%以上1.0w/v%以下である。なお、前記含有量は、共重合体(P-1)及び共重合体(P-2)の合計の含有量を意味する。
(b)成分のMMP-1産生抑制剤中の含有量が0.001w/v%未満の場合は、皮膚からの水分の蒸散抑制効果、及びコラーゲン分解酵素の産生抑制効果が発揮できない可能性がある。また、(b)成分のMMP-1産生抑制剤中の含有量が1.0w/v%を超える場合は、固形分量が多くなるため、使用方法によっては皮膚に付着した場合の刺激性の増加、及び速乾性を低下させる場合がある。さらに、MMP-1産生抑制剤効果から、(b)成分のMMP-1産生抑制剤中の含有量は、好ましくは0.0025w/v%以上0.75w/v%以下であり、より好ましくは0.005w/v%以上0.25w/v%以下であり、更に好ましくは0.02w/v%以上0.1w/v%以下である。
【0018】
[共重合体(P-1)]
共重合体(P-1)は、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(1)と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(2)とを、構成単位(1)と構成単位(2)の含有量の比がモル比(構成単位(1):構成単位(2))にて70:30~90:10となるよう自体公知の共重合方法で共重合させた、重量平均分子量が10,000以上5,000,000以下の共重合体である。
共重合体(P-1)における構成単位(1)と構成単位(2)の含有量のモル比は、MMP-1産生抑制剤の水分の蒸散抑制効果、及びコラーゲン分解酵素の産生抑制効果を向上させる観点から、好ましくは75:25~85:15であり、より好ましくは78:22~83:17である。
【0019】
共重合体(P-1)の重量平均分子量は、10,000以上5,000,000以下であり、皮膚へ付着した場合における刺激性を鑑み、好ましくは10,000以上2,000,000以下、より好ましくは10,000以上1,500,000以下、更に好ましくは10,000以上1,000,000以下である。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定できる。
【0020】
共重合体(P-1)のMMP-1産生抑制剤中の含有量は、併用する共重合体(P-2)と合計して0.001w/v%以上1.0w/v%以下であれば特に限定されないが、皮膚からの水分の蒸散抑制効果、及びコラーゲン分解酵素の産生抑制効果における共重合体(P-2)との相加効果の観点から、好ましくは0.00125w/v%以上0.375w/v%以下であり、より好ましくは0.0025w/v%以上0.125w/v%以下、更に好ましくは0.01w/v%以上0.1w/v%以下である。
【0021】
共重合体(P-1)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、MMP-1産生抑制剤の水分の蒸散抑制効果、及びコラーゲン分解酵素の産生抑制効果を向上させる観点から、2種以上を併用することが好ましい。
MMP-1産生抑制剤の水分の蒸散抑制効果、及びコラーゲン分解酵素の産生抑制効果を向上させる観点から、前記共重合体(P-1)は、重量平均分子量が10,000以上300,000未満である共重合体からなる群、重量平均分子量が300,000以上800,000未満である共重合体からなる群、及び重量平均分子量が800,000以上5,000,000以下である共重合体からなる群の、少なくとも2つの群より選択される2種以上を含むことが好ましい。
中でも、共重合体(P-1)は、重量平均分子量が10,000以上300,000未満である共重合体を1種以上と、重量平均分子量が300,000以上800,000未満である共重合体を1種以上とを含むことが好ましく、重量平均分子量が50,000以上200,000以下である共重合体を1種以上と、重量平均分子量が450,000以上700,000以下である共重合体を1種以上とを含むことがより好ましい。
【0022】
[共重合体(P-2)]
共重合体(P-2)は、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位(1)と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位(2)とを、構成単位(1)と構成単位(2)の含有量の比がモル比(構成単位(1):構成単位(2))にて、20:80~40:60となるよう自体公知の共重合方法で共重合させた、重量平均分子量が10,000以上5,000,000以下の共重合体である。
共重合体(P-2)における構成単位(1)と構成単位(2)の含有量のモル比は、MMP-1産生抑制剤の水分の蒸散抑制効果、及びコラーゲン分解酵素の産生抑制効果を向上させる観点から、好ましくは25:75~35:65であり、より好ましくは28:72~32:68である。
【0023】
共重合体(P-2)の重量平均分子量は、10,000以上5,000,000以下であり、皮膚へ付着した場合における刺激性を鑑み、好ましくは10,000以上2,000,000以下、より好ましくは10,000以上1,000,000以下、更に好ましくは10,000以上200,000以下である。重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定できる。
【0024】
共重合体(P-2)のMMP-1産生抑制剤中の含有量は、併用する共重合体(P-1)と合計して0.001w/v%以上1.0w/v%以下であれば特に限定されないが、皮膚からの水分の蒸散抑制効果、及びコラーゲン分解酵素の産生抑制効果における共重合体(P-1)との相加効果の観点から、好ましくは0.00125w/v%以上0.375w/v%以下であり、より好ましくは0.0025w/v%以上0.125w/v%以下、更に好ましくは0.01w/v%以上0.075w/v%以下である。
【0025】
本発明の(b)成分である共重合体(P-1)、及び(P-2)(2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位を含む共重合体)の重合形態は特に限定されず、ランダム共重合であっても、ブロック共重合であっても構わないが、ランダム共重合が好ましい。
本発明の(b)成分である共重合体(P-1)、及び(P-2)(2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位を含む共重合体)は、公知の製造方法により製造することができる。例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、及びアルキル基含有(メタ)アクリル系単量体を含む単量体混合物を、ラジカル重合開始剤の存在下、窒素等の不活性ガス雰囲気下において、溶液重合等の公知の方法により重合させて製造することができる。各単量体の含有量比は、共重合体(P)中における各構成単位の含有量比に相当する比とすればよい。本発明の共重合体(P-1)、及び(P-2)(2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位を含む共重合体)は、上記の重合方法により製造して用いることもできるが、水や多価アルコールの溶液もしくは分散液として市販されている製品を用いてもかまわない。
本発明の(b)成分である共重合体(P-1)、及び(P-2)(2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位を含む共重合体)としては、医薬品、化粧品用として市販されている製品を用いることができる。
【0026】
<(a)炭素数1~3の1価の低級アルコール>
本発明のMMP-1産生抑制剤は、(a)炭素数1~3の1価の低級アルコールを含有してもよい。
本発明のMMP-1産生抑制剤に含有される炭素数1~3の1価の低級アルコールは、特に制限されないが、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール(1-プロパノール)、イソプロパノール(2-プロパノール)等が挙げられ、環境に対する影響、及び身体に対する安全性の観点から、エタノール、及びイソプロパノールが好ましい。
本発明の(a)成分である上記炭素数1~3の1価の低級アルコールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いても構わない。本発明のMMP-1産生抑制剤における(a)成分の含有量は、(a)成分を2種以上併用する場合は、その合計量を意味する。
また、(a)成分である上記炭素数1~3の1価の低級アルコールは、医薬品、化粧品用として市販されている製品を用いることができる。
【0027】
本発明のMMP-1産生抑制剤における(a)成分の含有量は35w/v%以上75w/v%以下であり、除菌効果、及び速乾性の観点から、好ましくは40w/v%以上70w/v%以下であり、より好ましくは、55w/v%以上70w/v%以下である。(a)成分の含有量が35w/v%未満の場合には、除菌効果、及び速乾性が発揮できない可能性がある。また、(a)成分の含有量が75w/v%を超える場合には、消毒作用、防腐作用、収れん作用、清涼作用、または揮発性除菌効果、及び速乾性の向上はほとんど見られず、費用対効果の観点から好ましくない。
【0028】
<水>
本発明のMMP-1産生抑制剤において、上記した(a)成分、(b)成分、及び後述する必要に応じて配合される添加剤以外の残部は水であることが好ましい。水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、精製水などを使用することができる。水の含有量は、MMP-1産生抑制剤において、好ましくは25~95w/v%であり、より好ましくは30~60w/v%である。
【0029】
本発明のMMP-1産生抑制剤は、本発明の効果を阻害しない限り、上記の成分以外に、必要に応じて外用剤等に使用できる保湿剤、エモリエント剤、殺菌剤、pH調整剤、及び香料等の添加剤を含有してもよい。
【0030】
保湿剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ソルビトール、乳酸ナトリウム、ヒアルロン酸及びその塩、ピロリドンカルボン酸及びその塩、N-ココイル-L-アルギニンエチルエステル、DL-ピロリドンカルボン酸塩、及び尿素等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
エモリエント剤としては、例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソプロピル、オレイン酸イソブチル、及びマレイン酸イソブチル等の脂肪酸エステル等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0031】
殺菌剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩、パラオキシ安息香酸エチル、及びフェノキシエタノール等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
pH調整剤としては、例えば、塩酸、グルコン酸、第一級アミン、第二級アミン、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
香料としては、例えば、メントール、ハッカ油、サリチル酸メチル、バニリン、ベンジルサクシネート、メチルオイゲノール、アネトール、リモネン、オシメン、シトロネニルアセテート、シネオール、エチルリナロール、スペアミント油、ペパーミント油、及びユーカリ油等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0032】
本発明のMMP-1産生抑制剤は、常法に従って製造することができる。例えば、上記した2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンに基づく構成単位と、アルキル基含有(メタ)アクリル系単量体に基づく構成単位を含む共重合体に、必要に応じて炭素数1~3の1価の低級アルコール、水、湿潤剤や一般的な他の添加剤を加えて適宜混合し、均一とすることで製造することができる。また、本発明のMMP-1産生抑制剤は、例えば医薬品、医薬部外品、及びそれらの成分として用いることができる。
【0033】
本発明のMMP-1産生抑制剤は、液状、ペースト状等の半固形状等の流動性を有する形態で提供され得る。使用時の簡便性、安全性等の観点から、本発明のMMP-1産生抑制剤は、液状の形態とすることが好ましい。
本発明のMMP-1産生抑制剤を含む製品は、ポンプ容器、もしくはスプレー容器等に収容することができる。詳しくは、ディスペンサーポンプ付き容器に充填した液吐出型、スプレーポンプ付き容器に充填した噴霧型、フォーマーポンプ付き容器またはエアゾール容器に充填した泡吐出型、清拭ワイプ等に含浸させた含浸型等の製品とすることが好ましい。使用時の簡便性、安全性等の観点から、液吐出型、噴霧型の形態が特に好ましい。
【0034】
本発明のMMP-1産生抑制剤は、各種分野、用途において広く使用することができ、例えば、細菌又はウイルスが付着した又は付着のおそれのある対象物に対して使用することができる。本発明のMMP-1産生抑制剤は、例えば、医療機器、調理機器、工業機器、介護機器、日用品等の物品表面を対象とし、本発明のMMP-1産生抑制剤を、紙、布、不織布、ワイプ等の基剤に含ませ、清拭して使用することができる。なお、本発明のMMP-1産生抑制剤を清拭ワイプに含浸させる場合には、清拭ワイプ100質量部に対して本発明のMMP-1産生抑制剤を10質量部以上400質量部以下程度含浸させ、前記ワイプにて対象物を清拭して使用することができる。また、本発明のMMP-1産生抑制剤を両手の手指消毒に用いる場合には、本発明のMMP-1産生抑制剤を含む消毒剤を適量(1mL以上3mL以下程度)取り、手に擦り込みながら塗布して使用できる。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
なお、実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
【0036】
<成分(a)>
エタノール
イソプロパノール
<成分(b)>
ポリマーA:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体[共重合体比(モル比)80/20、重量平均分子量:600,000]
ポリマーB:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体[共重合体比(モル比)80/20、重量平均分子量:100,000]
ポリマーC:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体[共重合体比(モル比)80/20、重量平均分子量:1,000,000]
ポリマーD:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体[共重合体比(モル比)30/70、重量平均分子量:100,000]
<成分(b)’>
グリセリン
プロピレングリコール
【0037】
<重量平均分子量の測定方法>
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定された、PEG(ポリエチレングリコール)換算の値を意味し、詳細な測定条件は以下の通りである。
(測定条件)
GPCシステム:EcоSECシステム(東ソー株式会社製)
カラム:Shоdex ОHpak SB-802.5HQ(昭和電工株式会社製)、及びSB-806HQ(昭和電工株式会社製)を直列に接続
展開溶媒:20mM りん酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)
検出器:示差屈折率検出器
注入量:100μL
カラム温度:40℃
サンプル:共重合体を終濃度0.1重量%となるよう展開溶媒で希釈する。
【0038】
(実施例1)
エタノール(成分(a))を80 mL(約63.3g)はかりとり、攪拌しながらポリマーB(成分(b))0.025g及びポリマーD(成分(b))0.05gを添加した後、全量が100 mLとなるよう、適量の精製水を加え、実施例1のMMP-1産生抑制剤を得た。なお各成分の配合量は、下記表1の記載の通りである。なお、表1に記載の単位「g/100mL」は、「w/v%」と同義である。
【0039】
(実施例2~5及び比較例1~3)
実施例2~5及び比較例1~3のMMP-1産生抑制剤は、表1及び2の配合組成に従い、実施例1の製造方法と同様な方法で製造した。
実施例及び比較例のMMP-1産生抑制剤に関し、以下に示すMMP-1相対産生率評価を行った。
【0040】
MMP-1相対産生率評価
<LabCyte EPI-MODELの取り扱い>
本実施例では、ヒト3次元培養表皮 LabCyte EPI-MODEL24 プレート(ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング製、品番:401151)を用いて評価した。なお、LabCyte EPI-MODELの培養方法に関しては、2013年7月26日採択のOECD TG439(in vitro皮膚刺激性:再構築ヒト表皮試験法)を参考にした。詳細には、以下の通りである。
(1)前培養したLabCyte EPI-MODELの角質表面から50 μLの各実施例、及び比較例のMMP-1産生抑制剤又は消毒用エタノール(健栄製薬社製)を接触させ、1分間暴露した後に30分間風乾した。この処理を4回繰り返した後、新たなアッセイ培地にて培養した。
(2)培養48時間後、アッセイ培地を回収(以下、回収培地)し、MMP-1を定量した。
【0041】
<MMP-1定量>
RayBio(登録商標)Human MMP-1 ELISA kit(メーカー:RayBiotech, Inc.、カタログ番号:ELH-MMP1)に付属のマニュアル(RayBio(登録商標)Human MMP-1 ELISA kit User Manual(Last revised June 14, 2021.))に記載の試験方法に準拠した。
(1)回収培地、試薬各種を室温にて放置し、解凍した。
(2)測定プレートの各ウェルに回収培地、及び標準液希釈系列を100 μL添加し、カバーをした状態で穏やかに振盪しながらインキュベートした(r.t., 2.5 h)。なお、r.t. は室温(25℃を意味する)。
(3)内液を廃棄し、専用の洗浄バッファーを用いて洗浄後、プレートをタッピングし残存した内液を除去した。
(4)測定プレートの各ウェルにMMP-1検出抗体液を100 μL添加し、カバーをした状態で穏やかに振盪しながらインキュベートした(r.t., 1 h)。
(5)(3)に示した洗浄工程を同様に実施した。
(6)測定プレートの各ウェルにHRP標識ストレプトアビジン液を100 μL添加し、カバーをした状態で穏やかに振盪しながらインキュベートした(r.t., 45 min)。
(7)(3)に示した洗浄工程を同様に実施した。
(8)測定プレートの各ウェルに3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)液を100 μL添加し、遮光した状態で穏やかに振盪しながらインキュベートした(r.t., 30 min)。
(9)測定プレートの各ウェルに反応停止液を50 μL添加し、即座にマイクロプレートリーダーを用いて吸光度(A450)を測定した。
(10)標準液希釈系列より検量線を作製し、各回収培地のMMP-1量(ng/mL)を算出した。なお、各回収培地の繰り返し3回分の平均値を、各組成物のMMP-1量とした。
【0042】
<MMP-1相対産生率評価>
各組成物の回収培地におけるMMP-1量(ng/mL)を消毒用エタノールにおけるMMP-1量(ng/mL)で除した値を、MMP-1相対産生率とした。
MMP-1相対産生率について、75%未満のとき「A(3点)」、75%以上かつ90%未満のとき「B(2点)」、90%以上かつ100%未満のとき「C(1点)」、100%以上のとき「D(0点)」とした。
【0043】
【表1】
*1:精製水の配合組成は、組成分から成分(a)、及び(b)を除いた残部である。
【0044】
【表2】
*1:精製水の配合組成は、組成分から成分(a)、及び(b)’を除いた残部である。
【0045】
以上の結果、各実施例で用いた本発明のMMP-1産生抑制剤は、コラーゲン分解酵素の産生を抑制し、乾燥や肌荒れを抑制し得ることが分かった。
これに対して、比較例に示すMMP-1産生抑制剤は、実施例と比較して、コラーゲン分解酵素の産生を抑制する効果が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、コラーゲン分解酵素の産生を抑制し、乾燥や肌荒れを抑制し得るMMP-1産生抑制剤を提供することができる。