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特開2024-96685高透明性エレクトロクロミックポリマー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096685
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】高透明性エレクトロクロミックポリマー
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1516 20190101AFI20240709BHJP
   G02F 1/15 20190101ALI20240709BHJP
   G02F 1/16756 20190101ALI20240709BHJP
   C09K 9/02 20060101ALI20240709BHJP
   E06B 9/24 20060101ALI20240709BHJP
【FI】
G02F1/1516
G02F1/15 502
G02F1/16756
C09K9/02 A
E06B9/24 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024000182
(22)【出願日】2024-01-04
(31)【優先権主張番号】18/093,287
(32)【優先日】2023-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/395,603
(32)【優先日】2023-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521095259
【氏名又は名称】アンビライト・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジアングオ・メイ
(72)【発明者】
【氏名】ジヤン・ワン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイデヒ・パンディット
(72)【発明者】
【氏名】リヤン・ヨウ
【テーマコード(参考)】
2K101
【Fターム(参考)】
2K101DB05
2K101EB14
(57)【要約】
【課題】中性状態の可視光領域で高い透明性を示す、メタ共役リンカー及び芳香族部分を含む、新しいタイプのエレクトロクロミックポリマーを提供すること。
【解決手段】エレクトロクロミック素子は、第1の絶縁基板;第1の絶縁基板上に配置された第1の導電層;第1の導電層上に配置されたエレクトロクロミック層であって、1つ又は複数のメタ共役リンカー(MCL)及び1つ又は複数の芳香族部分(Ar)を含むポリマー主鎖を有するエレクトロクロミックポリマーを含み、1つ又は複数のMCLのそれぞれが、1つ又は複数のMCLのメタ位で1つ又は複数のArの1つと部分的に共役している、エレクトロクロミック層;エレクトロクロミック層上に配置された電解質層;電解質層上に配置された第2の導電層;及び第2の導電層上に配置された第2の絶縁基板を含む。エレクトロクロミック層の厚さは10nmから1500nmであり、その結果、エレクトロクロミック層の中性状態において、波長550nmで85%~99.9%の透過率が得られる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の絶縁基板;
第1の絶縁基板上に配置された第1の導電層;
第1の導電層上に配置されたエレクトロクロミック層であって、1つ又は複数のメタ共役リンカー(MCL)及び1つ又は複数の芳香族部分(Ar)を含むポリマー主鎖を有するエレクトロクロミックポリマーを含み、1つ又は複数のMCLのそれぞれが、1つ又は複数のMCLのメタ位で1つ又は複数のArの1つと部分的に共役している、エレクトロクロミック層;
エレクトロクロミック層上に配置された電解質層;
電解質層上に配置された第2の導電層;及び
第2の導電層上に配置された第2の絶縁基板
を含むエレクトロクロミック素子であって、
エレクトロクロミック層の厚さが10nm~1500nmであり、その結果、エレクトロクロミック層の中性状態において、波長550nmで85%~99.9%の透過率が得られ;
素子の脱色状態において、波長550nmで60%以上の透過率を有する、エレクトロクロミック素子。
【請求項2】
エレクトロクロミック層が、エレクトロクロミック層の酸化状態において、波長550nmで40%~0.1%の透過率を有する、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項3】
イオン貯蔵層をさらに含み、イオン貯蔵層が電解質層と第2導電層との間に配置され、波長550nmで80%以上の透過率を有する、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項4】
イオン貯蔵層が、第4~12族の金属元素の1つ若しくは複数の酸化物、又は酸化物の混合物、又は異なる金属酸化物によってドープされた酸化物の1つ、又は遷移金属錯体、又は酸化還元活性ポリマーの1つ若しくは複数を含み、前記酸化還元活性ポリマーには、酸化還元活性ニトロキシル、ガルビノキシルラジカルポリマー及び共役ポリマーが含まれる、請求項3に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項5】
イオン貯蔵層がインジウムスズ酸化物(ITO)粒子を含み、イオン貯蔵層が波長550nmで90%以上の透過率を有する、請求項3に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項6】
第1の導電層及び第2の導電層の少なくとも1つが、ITO、酸化アルミニウム亜鉛(AZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、銀ナノワイヤ、グラフェン、カーボンナノチューブ、金属メッシュベースの透明導電性電極、又は銀ナノ粒子インク、又は有機導電性ポリマーを含む、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項7】
エレクトロクロミック層が60%以上の光学的コントラストを有する、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項8】
60%以上の光学的コントラストを有する、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項9】
酸化状態でのエレクトロクロミック層の色が、1つ又は複数のMCL及び1つ又は複数のArの共役長を変化させることによって変化する、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項10】
エレクトロクロミック層が、中間色を含まないエレクトロクロミックポリマーのブレンドを含む、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項11】
1つ又は複数のMCL及び対応するメタ位のそれぞれが、以下の式:
【化1A】
【化1B】
【化1C】
【化1D】
(式中、XはS、Se、N、C又はOであり;R1~R12のそれぞれは、水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルの1つから独立して選択され;波線のそれぞれは、メタ位の1つを表す)
の1つを含む、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項12】
1つ又は複数のArのそれぞれが、以下の式:
【化2】
(式中、R13、R14及びR15のそれぞれは、水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルの1つから独立して選択される)
の1つを有するチオフェン系単位、フラン系単位、セレノフェン系単位、又はピロール系単位の1つを含む、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項13】
チオフェン系単位は、以下の式:
【化3】
(式中、XはS、Se、N、C又はOであり;R15~R18のそれぞれは、水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルの1つから独立して選択され;Yは、Ar、若しくは芳香族構造、若しくは縮合芳香族構造のいずれか1つ若しくは複数、又はこれらの組み合わせである)
の1つを含む、請求項12に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項14】
エレクトロクロミックポリマーが、以下の式:
【化4A】
【化4B】
【化4C】
【化4D】
【化4E】
【化4F】
(式中、n及びmは0より大きい整数である)
を含む、請求項1に記載のエレクトロクロミック素子。
【請求項15】
エレクトロクロミックポリマーを含むエレクトロクロミック層であって、
エレクトロクロミックポリマーが、1つ又は複数のメタ共役リンカー(MCL)及び1つ又は複数の芳香族部分(Ar)を含むポリマー主鎖からなり、
1つ又は複数のMCLのそれぞれが、1つ又は複数のMCLのメタ位で1つ又は複数のArの1つと部分的に共役しており、
エレクトロクロミックポリマーの厚さが10nm~1500nmであり、その結果、エレクトロクロミック層の中性状態において、波長550nmで85%~99.9%の透過率が得られる、エレクトロクロミック層。
【請求項16】
エレクトロクロミック層の酸化状態において、波長550nmで40%~0.1%の透過率を有する、請求項15に記載のエレクトロクロミック層。
【請求項17】
60%以上の光学的コントラストを有する、請求項15に記載のエレクトロクロミック層。
【請求項18】
1つ又は複数のMCL及び対応するメタ位のそれぞれが、以下の式:
【化5A】
【化5B】
【化5C】
【化5D】
(式中、Xは、S、Se、N、C、又はOであり;R1~R12のそれぞれは、水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルの1つから独立して選択され;波線のそれぞれは、メタ位の1つを表す)
の1つを含む、請求項15に記載のエレクトロクロミック層。
【請求項19】
1つ又は複数のArのそれぞれが、以下の式:
【化6】
(式中、R13、R14及びR15のそれぞれは、水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルの1つから独立して選択される)
の1つを有するチオフェン系単位、フラン系単位、セレノフェン系単位、又はピロール系単位の1つを含む、請求項15に記載のエレクトロクロミック層。
【請求項20】
チオフェン系単位が、以下の式:
【化7】
(式中、Xは、S、Se、N、C、又はOであり;R15~R18のそれぞれは、水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルの1つから独立して選択され;Yは、Ar、若しくは芳香族構造、若しくは縮合芳香族構造のいずれか1つ若しくは複数、又はこれらの組み合わせである)
の1つを含む、請求項19に記載のエレクトロクロミック層。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2023年1月4日に出願された非仮出願第18/093,287号の一部継続出願であり、この出願は、2022年5月19日に出願された非仮出願第17/748,383号の一部継続出願であり、この出願は、2022年2月9日に出願された非仮出願第17/668,300号の一部継続出願である。上記全出願の全ての内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、メタ共役リンカー及び芳香族部分を含む新しいタイプのエレクトロクロミックポリマーに関し、これは中性状態(neutral state)において可視光領域で高い透明性を示す。このポリマーは、その膜を酸化すると、可視光及び近赤外領域で高度に吸収性となり、従って着色する。高い光学的コントラスト及び高い透過率を有する、こうした共役エレクトロクロミックポリマー膜を組み込んだ素子(device)もさらに開示される。
【背景技術】
【0003】
エレクトロクロミック素子は、光透過率の調節及び太陽熱利得の制御を可能にする。真空スパッタリングプロセスを通して製造される無機系エレクトロクロミック素子と比較して、ポリマー系エレクトロクロミックウィンドウは、ロールツーロールコーティング及び積層を通して製造することができる。従ってそれは、低コスト生産及び製造の柔軟性をもたらす。ポリマー系エレクトロクロミック素子は、典型的には、sp2混成炭素で作られた完全共役ポリマー主鎖を特徴とする共役エレクトロクロミックポリマー(ECP)から構成される。従来、ECPは典型的には可視光領域で強い吸光度を有し、従ってその中性状態で着色する。それらが酸化すると、その吸収は近赤外(近接IR)領域の方へシフトし、可視光領域で透過型になる。しかし、酸化したポリマーは可視光領域に弱い吸収を有し、残存する色(residue color)をもたらす。ポリマー膜が厚いと、問題はより深刻になる。その結果、それはポリマーの光学的コントラストにマイナスに影響する。さらに、それは共役エレクトロクロミックポリマーが達成することができる最も高い光透過率を限定する。加えて、中性状態での従来のECPは、膜を通る可視光を遮断して近接IR光を透過させる一方で透過型状態では、可視光を透過させて近接IR光を遮断する。この組み合わせは、熱の管理及び太陽熱利得(SHG)の制御にとって効率的ではない。SHGは、太陽からの放射線がウィンドウ製品を通して熱に変えられる様式を表す。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、新しいタイプのエレクトロクロミックポリマー及びこのポリマーを用いた素子に関する。
【0005】
一態様では、エレクトロクロミック素子が提供される。エレクトロクロミック素子は、第1の絶縁基板;第1の絶縁基板上に配置された第1の導電層;第1の導電層上に配置されたエレクトロクロミック層であって、1つ又は複数のメタ共役リンカー(MCL)及び1つ又は複数の芳香族部分(Ar)を含むポリマー主鎖を有するエレクトロクロミックポリマーを含み、1つ又は複数のMCLのそれぞれが、1つ又は複数のMCLのメタ位で1つ又は複数のArの1つと部分的に共役している、エレクトロクロミック層;エレクトロクロミック層上に配置された電解質層;電解質層上に配置された第2の導電層;及び第2の導電層上に配置された第2の絶縁基板を含む。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層の厚さは10nm~1500nmであり、その結果、エレクトロクロミック層の中性状態において、波長550nmで85%~99.9%の透過率が得られる。例えば、エレクトロクロミック層106の厚さが10nm~1500nmの場合、85%、87%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、又は上記の数値の任意の2つの間の透過率が得られる。エレクトロクロミック素子100は、素子の脱色状態において波長550nmで60%以上の透過率を有する。例えば、エレクトロクロミック層の材料及び厚さを調整することにより、エレクトロクロミック素子100は、その脱色状態において、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%、又は上記の数値の任意の2つの間の透過率を有し得る。
【0006】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック層の酸化状態において、波長550nmで40%~0.1%の透過率を有する。例えば、酸化状態でのエレクトロクロミック層は、波長550nmで40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、若しくは0.1%、又は上記の数値の任意の2つの間の透過率を有する。
【0007】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層は、60%以上の光学的コントラストを有する。例えば、エレクトロクロミック層は、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は上記の数値の任意の2つの間の光学的コントラストを有し得る。
【0008】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック素子が、電解質層108と第2の導電層との間に配置されるイオン貯蔵層110をさらに含む場合、イオン貯蔵層は、波長550nmで80%以上の透過率を有する。いくつかの実施形態では、イオン貯蔵層は、(1)第4~12族の金属元素の1つ若しくは複数の酸化物、又は(2)酸化物の混合物、又は(3)異なる金属酸化物によってドープされた酸化物の1つ、又は(4)遷移金属錯体、又は(5)酸化還元活性ニトロキシル、ガルビノキシルラジカルポリマー及び共役ポリマーを含む酸化還元活性ポリマーの1つ若しくは複数を含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態では、イオン貯蔵層はITO粒子を含み、イオン貯蔵層は波長550nmで90%以上の透過率を有する。いくつかの実施形態では、ITO粒子は、1~900nmのサイズを有するナノ粒子であってもよい。
【0010】
いくつかの実施形態では、第1の導電層及び第2の導電層の少なくとも1つは、ITO、酸化アルミニウム亜鉛(AZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、銀ナノワイヤ、グラフェン、カーボンナノチューブ、金属メッシュベースの透明導電性電極、銀ナノ粒子インク、又は有機導電性ポリマーを含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック素子は60%以上の光学的コントラストを有する。例えば、エレクトロクロミック素子は、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は上記の数値の任意の2つの間の光学的コントラストを有し得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、酸化状態でのエレクトロクロミック層の色は、1つ又は複数のMCL及び1つ又は複数のArの共役長を変化/調整することによって変化する。
【0013】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層は、中間色を含まない異なるエレクトロクロミックポリマーのブレンドを含む。
【0014】
別の態様では、エレクトロクロミック層が提供される。エレクトロクロミック層はエレクトロクロミックポリマーを含む。エレクトロクロミックポリマーは、1つ又は複数のメタ共役リンカー(MCL)及び1つ又は複数の芳香族部分(Ar)を含むポリマー主鎖からなる。1つ又は複数のMCLのそれぞれは、1つ又は複数のMCLのメタ位で1つ又は複数のArの1つと部分的に共役している。エレクトロクロミックポリマーの厚さは10nm~1500nmであり、その結果、エレクトロクロミック層の中性状態において、波長550nmで85%~99.9%の透過率が得られる。例えば、エレクトロクロミック層106の厚さが10nm~1500nmの場合、85%、87%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、又は上記の数値の任意の2つの間の透過率が得られる。
【0015】
いくつかの実施形態では、本出願で開示されるエレクトロクロミックポリマーは、1つ又は複数のメタ共役リンカー(MCL)及び1つ又は複数の芳香族部分(Ar)を含むポリマー主鎖からなる。1つ又は複数のMCLのそれぞれは、その1つ又は複数のMCLのメタ位で1つ又は複数のArと部分的に共役して、エレクトロクロミックポリマーのポリマー主鎖を形成している。いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは陽極着色(anodically-coloring)エレクトロクロミックポリマー(AC-ECP)であり、酸化すると着色する。
【0016】
いくつかの実施形態では、開示されるエレクトロクロミックポリマーは、中性状態で2.9eV以上4.0eV未満のエネルギーバンドギャップを有する。いくつかの実施形態では、吸収極大(λmax、ポリマーがその最も強い光子吸収を有する波長)は中性状態で410nm未満である。いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、中性状態では無色である一方、酸化状態では着色し可視であり、近赤外吸収性である。酸化エレクトロクロミックポリマーは、可視及び/又は近接IR領域で104cm-1より大きい吸収係数を有し、従って酸化状態で着色している。
【0017】
高いバンドギャップにもかかわらず、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、いくつかの実施形態ではAg/AgCl電極に対して両端を含む0.1~1.5Vの範囲の比較的低い酸化電位を依然として有する。
【0018】
MCLは、芳香族構造若しくは縮合芳香族構造の少なくとも1つ、又はこれらの組み合わせを含む。芳香族構造はベンゼン構造又は複素環構造を含む。縮合芳香族構造は、縮合ベンゼン構造、又は縮合複素環構造、又は縮合ベンゼン及び複素環構造を含む。
【0019】
いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーに対して、1つ又は複数のMCL及び1つ又は複数のArは、
【0020】
【化1】
【0021】
の一般式の交互の又はランダムな様式で配置される。
【0022】
この構造で、nは0より大きい整数であり、m1、m2、・・・、mnのそれぞれは0以上の整数であり、但し、m1、m2、・・・、mnの少なくとも1つが0より大きい。1つ若しくは複数のMCL(又は1つ若しくは複数のAr)は、互いと同じ又は互いと異なり得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数のMCL及び対応するメタ位は、以下の式:
【0024】
【化2A】
【0025】
【化2B】
【0026】
【化2C】
【0027】
【化2D】
【0028】
【化2E】
【0029】
(式中、波線のそれぞれは、1つ又は複数のArに隣接して連結するメタ位を表し;XはS、Se、N、C又はOであり;R1~R12は、これらに限定されないが、以下の、水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルを含む置換基から独立して選択される)
の1つを含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数のArは、以下の式:
【0031】
【化3】
【0032】
(式中、R13、R14及びR15のそれぞれは、これらに限定されないが、以下の、水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルを含む置換基から独立して選択される)
を有するチオフェン系単位、フラン系単位、セレノフェン系単位、若しくはピロール系単位の1つ、又はそれらの任意の組み合わせを含む。
【0033】
いくつかの実施形態では、チオフェン系単位は、以下の式:
【0034】
【化4】
【0035】
(式中、Xは、S、Se、N、C又はOであり;R15~R18のそれぞれは、これらに限定されないが、以下の水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルを含む置換基から独立して選択され;Yは、Ar、芳香族構造、若しくは縮合芳香族構造のいずれか1つ若しくは複数、又はこれらの組み合わせである)
又はその組み合わせを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、チオフェン系単位のXはOである。
【0037】
いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、以下の式:
【0038】
【化5A】
【0039】
【化5B】
【0040】
【化5C】
【0041】
【化5D】
【0042】
(式中、n及びmは、0より大きい整数であり、a及びbは、a及びbの少なくとも1つが0より大きい、0以上の整数である)
を含む。
【0043】
本技術の様々な実施形態のある特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本技術の特徴及び利点のより良好な理解は、本発明の原理が利用される例示的実施形態を説明した以下の詳細な記述、及び下記添付図面を参照することによって得られるであろう。本発明を説明する目的のために、図面は、本発明の1つ又は複数の実施形態の態様を示している。しかし、本発明は、図面に示される正確な装置及び手段に限定されないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1(A)】従来のECP(図1(B))と比較して、本開示のECPの異なる色変化メカニズムを表す図である。
図1(B)】従来のECPの色変化メカニズムを表す図である。
図2】一実施形態による実施例ECP-1を使用した、例示的なソリッドステート素子(solid-state device)のCVデータの図である。
図3】一実施形態による545nmでの実施例ECP-1を使用した、代表的なソリッドステート素子のスイッチング速度論(switching kinetics)の図である。
図4】一実施形態による異なる電圧での、例示的なECP-1薄膜の吸光度スペクトルの図である。
図5】一実施形態による別の実施例ECP-2を使用した、例示的なソリッドステート素子のCVデータの図である。
図6】一実施形態による550nmで実施例ECP-2を使用した、例示的なソリッドステート素子のスイッチング速度論の図である。
図7】一実施形態による異なる電圧での、例示的なECP-2薄膜の吸光度スペクトルの図である。
図8(A)】いくつかの実施形態による、3つの代表的なMCLを有する開示されたメタ共役ポリマーの計算された中性状態のUV-Visスペクトルを示す図である。
図8(B)】いくつかの実施形態による、3つの代表的なMCLを有する開示されたメタ共役ポリマーの計算された酸化状態のUV-Visスペクトルを示す図である。
図9(A)】いくつかの実施形態による、膜厚300nmのCBZ-ブレンドの中性状態から酸化状態に遷移する吸収分光電気化学を示す図である。下の線から上の線まで、電位はそれぞれ0.6v、0.65v、0.7v、0.75v、0.8v、0.85v、0.9v、0.95v、1.0v(対Ag/AgCl)である。
図9(B)】550nmにおけるCBZ-ブレンドの中性状態(破線)と酸化状態(実線)のBeer-Lambertプロットを示す図である。
図9(C)】いくつかの実施形態による、膜厚の関数としての、中性状態及び酸化状態におけるCBZ-ブレンドの550nmでの透過率を示す図である。実験結果は点であり、計算結果は実線と破線である。
図9(D)】いくつかの実施形態による、異なる厚さのEC層の中性状態及び酸化状態の両方におけるCBZ-ブレンドの透過率を示す図である。
図9(E)】いくつかの実施形態による、10000サイクル下でのEC層の中性(脱色)状態及び酸化状態の両方におけるCBZ-ブレンドの透過率を示す図である。
図10】本開示の例示的な一実施形態による、エレクトロクロミック素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下の記述では、本発明の様々な実施形態の完全な理解を提供するために、ある特定の細部が記載されている。しかし、本発明がこれらの細部なしで実行され得ることを、当業者は理解するであろう。そのうえ、本発明の様々な実施形態が本明細書に開示されているが、多くの改変及び修正は、当業者共通の一般知識に従って本発明の範囲内でなされ得る。こうした修正は、実質的に同じ方法で同じ結果を達成するために、本発明の任意の態様にとって公知の等価物の置換を含む。
【0046】
文脈で特に要求しない限り、本明細書及び特許請求の範囲を通して、「含む(comprise)」という単語、及び「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などのその変形は、開放的で包括的な意味、すなわち「含むが、限定されるものではない」と解釈すべきである。明細書を通した数値範囲の記述は、範囲を定義する値を含む範囲内にある各個別の値を個別に参照する略記法として機能する意図であり、各個別の値は、本明細書に個別に記載されたように明細書に組み込まれる。さらに、単数形の形態「1つの(a)」「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈で明白に指示しない限り複数の指示対象を含む。
【0047】
本明細書を通して「一実施形態(one embodiment)」又は「1つの実施形態(an embodiment)」への言及は、実施形態に関連して記述された特定の特徴、構造又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書を通して様々な場所での「一実施形態では」又は「1つの実施形態では」という成句の出現は、全てが必ずしも同じ実施形態を指しておらず、いくつかの例であり得る。さらに、特定の特徴、構造、又は特性を、1つ又は複数の実施形態で任意の好適な様式で組み合わせてよい。
【0048】
本開示は、新しいタイプのエレクトロクロミックポリマーに関する。本出願で開示されるエレクトロクロミックポリマーは、1つ又は複数のメタ共役リンカー(MCL)及び1つ又は複数の芳香族部分(Ar)を含むポリマー主鎖からなる。1つ又は複数のMCLのそれぞれは、その1つ又は複数のMCLのメタ位で1つ又は複数のArと部分的に共役して、エレクトロクロミックポリマーのポリマー主鎖を形成している。いくつかの実施形態では、本出願で開示されるエレクトロクロミックポリマーは、1つ又は複数のMCL及び1つ又は複数のArを含む繰り返し単位からなり、メタ共役は、MCLの使用を通してポリマー主鎖に沿って導入される。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミックポリマーは陽極着色エレクトロクロミックポリマー(AC-ECP)であり、酸化すると着色する。
【0049】
図1で示すように、従来の共役ECP(図1(B))は完全に共役して可視光領域に強い吸光度を有し、従ってその中性状態で着色する一方、酸化すると(酸化状態)その吸収は近接IR領域の方へシフトし、透過型になる。しかし、酸化ポリマーは可視光領域に依然として弱い吸収を有し、残存する色につながる。他方では、図1(A)のECPに開示する1つの実施例で説明するように、ECPは、中性状態では450nmの後に吸収を実質的に示さず、酸化状態では可視光範囲及び近赤外線範囲にいくつかの吸収ピークを有し、可視光範囲での着色及び近赤外吸収を示している。
【0050】
本開示のエレクトロクロミックポリマーは、可視光及び近接IR光の通過又は遮断を同期化することができ、これは、一実施形態では、太陽熱利得を管理するためのエレクトロクロミックウィンドウに非常に有用である。本開示のエレクトロクロミックポリマーは中性状態で透明であり、酸化状態で着色してIR吸収性であり、この特性は高い光学的コントラスト、高い透過率、及び相乗作用的な太陽熱の利得を達成するために、非常に望まれている。
【0051】
本開示のエレクトロクロミックポリマーは、中性状態の可視光領域で透明であり、酸化状態で着色する。例えば、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、中性状態の可視光範囲(例えば、450~750nm)で少なくとも60%の透過率を有し得る。いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、中性状態の450~750nmの範囲で少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、98%、又はそれ以上の透過率を有し得る。いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、中性状態の可視光範囲で透明である。酸化状態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、可視光範囲(例えば、約360~750nm)及び近接IR範囲(例えば、約750~1600ナノメートル)に吸収を有し、それによって着色し、近赤外吸収性である。
【0052】
本開示のエレクトロクロミックポリマーは、UV吸収及びエネルギーバンドギャップを有する。エネルギーバンドギャップは、電子の価電子帯と伝導帯の間のエネルギー差である。それは、伝導に関与することができる伝導帯の状態まで電子を励起するために必要なエネルギーの最小変化である。吸収開始(λc)は、ポリマーが光子吸収を有さないよりも高い波長である。エネルギーバンドギャップは、1240/吸収開始波長として計算することができる。いくつかの実施形態では、本出願で開示されるエレクトロクロミックポリマーは、中性状態で450nm以下の吸収開始を有する。いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、中性状態で440nm、430nm、420nm、410nm、405nm、又は400nm以下の吸収開始を有する。いくつかの実施形態では、吸収極大(λmax、ポリマーがその最も強い光子吸収を有する波長)は、中性状態で420nm未満である。いくつかの実施形態では、吸収極大は中性状態で410nm又は405nm又は400nm未満である。いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、中性状態で、2.8eV以上かつ4.0eV未満のエネルギーバンドギャップを有する。いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、中性状態で2.9、3.0又は3.1eV以上、かつ4.0eV未満のエネルギーバンドギャップを有する。いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、中性状態で無色(例えば、400~750nm若しくは410~750nm若しくは420~750nmに吸光度がない)又は黄色(例えば、400~500nm、若しくは410~500nm、若しくは420~500nm、若しくは400~480nm、若しくは410~480nm、若しくは420~480nm、若しくは400~450nm、若しくは410~450nm、若しくは420~450nmにテーリング吸収)であり、酸化状態で着色し、可視であり、近接IR吸収性である。酸化エレクトロクロミックポリマーは、可視及び/又は近接IR領域で104cm-1より大きい吸収係数を有し、従って酸化状態で着色する。
【0053】
中性状態の可視光範囲での実質的な吸光度不足、及び酸化状態の可視光範囲での高い吸光度に起因して、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、従来のECPに比較して高い光学的コントラスト及び高い光透過率を実証する。高いバンドギャップにもかかわらず、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、いくつかの実施形態では、Ag/AgCl電極に対して0.1~1.5V(両端を含む)の範囲の比較的低い酸化電位を有する。いくつかの実施形態では、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、Ag/AgCl電極に対して0.1~1V(両端を含む)の範囲の低い酸化電位を有する。比較的低い酸化電位は、ECPのサイクリング耐久性にプラスになり得る。従って、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、良好なサイクリング安定性/信頼性及び高い光学的コントラストを有する素子へうまく組み込むことができる。
【0054】
MCLは、芳香族構造若しくは縮合芳香族構造の少なくとも1つ、又はこれらの組み合わせを含む。芳香族構造はベンゼン構造又は複素環構造を含む。縮合芳香族構造は、縮合ベンゼン構造、又は縮合複素環構造、又は縮合ベンゼン及び複素環構造を含む。いくつかの実施形態では、MCLはベンゼン、若しくはナフタレン、若しくは5-員複素環、若しくはベンゼン縮合五員複素環の少なくとも1つ、又はこれらの構造の組み合わせを含む。MCLのパフォーマンス、例えば、溶解性又は加工性又は安定性を調節するために、MCL上に側鎖又は芳香族側鎖を導入することもできる。
【0055】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数のMCL及び1つ又は複数のArは、以下の一般式:
【0056】
【化6】
【0057】
の交互の又はランダムな様式で配置される。
【0058】
この構造で、nは0より大きい整数であり、m1、m2、・・・、mnのそれぞれは、0以上の整数であり、但し、m1、m2、・・・、mnの少なくとも1つが0より大きい。1つ又は複数のArは芳香族部分であり、芳香族部分は1つ又は複数の芳香族構造を含み得る。1つ又は複数のMCL(又はAr)のそれぞれは、互いと同じであっても、互いと異なっていてもよい。
【0059】
メタ共役は、1つ又は複数のMCLの使用を通してポリマー主鎖に導入される。1つ又は複数のMCLのそれぞれは、1つ又は複数のArとそのメタ位を通して連結することによって、ポリマー主鎖において部分的に共役する。例えば、メタ位は、MCLの芳香族構造又は縮合芳香族構造の2つの位置である。メタ位が接続される場合、芳香族構造又は縮合芳香族構造からのπ電子は、p軌道を通しては別の隣接して連結された単位に完全に非局在化することができない。
【0060】
いくつかの実施形態では、MCLの芳香族構造は、ベンゼン構造又は五員複素環構造を含み、MCLの芳香族構造はメタ位で置換され、メタ位は芳香族構造の1-位及び3-位である。いくつかの実施形態では、MCLの縮合芳香族構造はナフタレンを含み、縮合芳香族構造はメタ位で置換され、メタ位はナフタレン上の1-位及び3-位、又は1-位及び4-位、又は1-位及び6-位である。いくつかの実施形態では、MCLの縮合芳香族構造は5-員複素環と縮合したベンゼンを含み、縮合芳香族構造はメタ位で置換され、メタ位は、ベンゼン縮合複素環上の1-位及び3-位、又は1-位及び5-位である。
【0061】
1つ又は複数のMCLの例示構造及び対応するメタ位は以下:
【0062】
【化7A】
【0063】
【化7B】
【0064】
【化7C】
【0065】
【化7D】
【0066】
【化7E】
【0067】
(式中、XはS、Se、N、C又はOであり;R1~R12は、これらに限定されないが以下の、水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルを含む置換基から独立して選択され;波線はメタ位を表す)の1つを含み得る。
【0068】
1つ又は複数のArは、限定されるものではないが、以下:
【0069】
【化8】
【0070】
の式を有する、チオフェン系単位、フラン系単位、セレノフェン系単位、若しくはピロール系単位のいずれか1つ、又はそれらの任意の組み合わせを含み得る。
【0071】
上記の構造で、R13、R14及びR15のそれぞれは、これらに限定されないが、以下の水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルを含む置換基から独立して選択される。
【0072】
チオフェン系単位は、限定されるものではないが、以下:
【0073】
【化9】
【0074】
の式、又はこれらの組み合わせを含み得る。
【0075】
上記の構造で、XはS、Se、N、C又はOであり;R15~R18のそれぞれは、限定されるものではないが、以下の、水素、C1~C30アルキル、C2~C30アルケニル、C2~C30アルキニル、C2~C30アルキルカルボニル、C1~C30アルコキシ、C3~C30アルコキシアルキル、C2~C30アルコキシカルボニル、C4~C30アルコキシカルボニルアルキル、C1~C30アルキルチオ、C1~C30アミニルカルボニル、C4~C30アミニルアルキル、C1~C30アルキルアミニル、C1~C30アルキルスルホニル、C3~C30アルキルスルホニルアルキル、C6~C18アリール、C3~C15シクロアルキル、C3~C30シクロアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキルアミニル、C5~C30シクロアルキルアルキル、C5~C30シクロアルキルアルキルオキシ、C1~C12ヘテロシクリル、C1~C12ヘテロシクリルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアルキルオキシ、C1~C30ヘテロシクリルアミニル、C5~C30ヘテロシクリルアルキルアミニル、C2~C12ヘテロシクリルカルボニル、C3~C30ヘテロシクリルアルキル、C1~C13ヘテロアリール、又はC3~C30ヘテロアリールアルキルを含む置換基から独立して選択され;Yは、Ar、若しくは芳香族構造、若しくは縮合芳香族構造のいずれか1つ若しくは複数、又はこれらの組み合わせである。
【0076】
いくつかの実施形態では、チオフェン系単位のXはOである。
【0077】
エレクトロクロミックポリマー主鎖へメタ共役を導入することによって、ポリマー主鎖に沿った電子共役は妨げられ、高いバンドギャップ(>2.0eV)につながる。従って、本開示のエレクトロクロミックポリマーは、中性状態で高度に透過型に(又は透明にさえ)見える。ECPの酸化はより低いバンドギャップ(<1.5eV)をもたらし、ポリマーの吸収はUV領域から可視及び近接IR領域へレッドシフトする(red-shift)。従って、ポリマーは高度に着色する。
【0078】
1つ又は複数のArは、1つ又は複数の芳香族構造又は縮合芳香族構造を含み得る。Arのタイプ及び量を制御することによって、中性状態で可視光範囲内の高い透明性を維持しながら、本開示のエレクトロクロミックポリマーの酸化還元電位を容易に調整することができる。例えば、電子がより豊富な単位(例えば、ジオキシチオフェン)を主鎖上に導入して、ポリマーをより酸化されやすくし、その結果その開始電位(onset potential)を低下させ、その電気化学的安定性及びエレクトロクロミックサイクリング安定性を改善することができる。MCL上の置換基を変更する(例えば、アルコキシ側鎖を導入する)ことによって、本開示のエレクトロクロミックポリマーの酸化還元電位を調節することもできる。
【0079】
本開示のエレクトロクロミックポリマーを、溶媒、例えば、トルエン又はp-キシレンに溶解させることができ、溶液処理可能膜キャスティングプロセス(solution-processable film casting process)に使用することができる。ポリマー溶液の濃度を制御することによって、制御可能な厚さを有するポリマー薄膜を得ることができる。さらに、優れた溶解性は、本開示のエレクトロクロミックポリマーに様々なキャスティング法、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、及びドロップキャスティングとの適合性をもたらす。製造にフレンドリーなプロセスにより、そのより広範な応用が実現可能になる。
【0080】
実施例を以下に示す。
【0081】
実施形態
【実施例0082】
ECP-1
いくつかの実施形態では、本開示のECP-1は以下
【0083】
【化10】
【0084】
の式を有する。
【0085】
ECP-1は、カルバゾール含有反応単位を調製し、次いで、二量体単位とともにそれを重合することによって合成される。詳細な方法は以下の工程を含む:
【0086】
工程1:カルバゾール含有反応単位(化合物2)の調製。
【0087】
【化11】
【0088】
3,6-ジブロモカルバゾールを、DMFに溶解させる。その後、1.2当量のNaHを添加し、混合物を2時間撹拌する。次いで、1.2当量の化合物1を反応に添加し、混合物を終夜撹拌する。その後水を反応へ添加し、固体を沈殿させる。懸濁液をろ過して所望の生成物である化合物2を白色固体として得る。
【0089】
工程2:重合:カルバゾール含有反応単位の二量体単位との重合。
【0090】
【化12】
【0091】
化合物2(1当量)、化合物3(1当量)、K2CO3(2.6当量)、PivOH(0.3当量)、Pd(OAc)2(0.02当量)をシェンク管の中へ添加する。次いで吸引し(3~5分間)窒素で管を再び満たした。この手順を3回繰り返す。続いて、窒素脱気溶媒ジメチルアセトアミド(DMAc)を添加し、混合物を120℃に加熱して、14時間持続する。次いで、混合物をメタノールの中へ注ぎ、粗製ポリマー固体を沈殿させる。ろ過して固体を得、固体をクロロホルムへ再溶解させ、水で3回洗う。クロロホルム溶液を大量のメタノールへ添加し、ポリマーを沈殿させる。懸濁液をろ過して、所望の生成物であるポリマーECP-1を得る。
【0092】
得られたECP-1は、およそ0.75V(対Ag/AgCl)の酸化電位、及び3.0eVより高いエネルギーバンドギャップを有する。ECP-1は、エレクトロクロミック層として使用されるECP-1、電解質としてのPEGDA中0.2MのLiTFSI、及びイオン貯蔵層としてのVOxを用いて、ソリッドステートECDに組み立てられる。ソリッドステートECDは、-0.5V~1.5Vの間で安定して切り替えることができる(図2)。ECP-1の中性及び酸化状態の吸光度スペクトルを、405nmのλc及び320nmのλmaxとともに図4に示す。ソリッドステートECDは、中性状態で93%の高い透過率を有する高い透明性を示し(図3)、ECP-1が酸化されると、約614nmに1つの吸収ピーク及びおよそ900~1100nmの近接IR領域に別のより広い吸収帯を有して(図4)、鮮明な青色へ切り替わる。ソリッドステートECDの光学的コントラストは、約75%である(図3)。
【実施例0093】
ECP-2
いくつかの実施形態では、本開示のECP-2は以下の式
【0094】
【化13】
【0095】
を有する。
【0096】
ECP-2は、最初に置換ベンゼン反応単位を調製し、次いで非環式ジオキシチオフェン(AcDOT)単位とともにそれを重合することによって、合成される。詳細な方法は以下の工程を含む:
【0097】
工程2-1:2つの工程によって、ベンゼン含有反応単位(化合物4)を調製する工程。
【0098】
【化14】
【0099】
化合物5及びp-トルエンスルホン酸をアセトニトリルに溶解させる。続いて、N-ブロモスクシンイミドを添加し、混合物を終夜攪拌する。懸濁液をろ過して、所望の生成物を得る。生成物である化合物6は白色固体である。
【0100】
【化15】
【0101】
化合物6をN2下でDMFに溶解させる。K2CO3を溶液に添加し、反応混合物を15分間攪拌し、その後2-エチルヘキシルブロミドを添加する。反応混合物を、100℃で終夜撹拌する。反応を停止し、室温まで冷ます。真空中で溶媒を除去し、残留物をジエチルエーテルに溶解させる。有機相は水で洗い、水性相は酢酸エチルで抽出する。合わせた有機相を乾燥し、揮発性物質を真空によって除去する。原液を小さいシリカカラムに通過させ、溶媒を真空中で乾燥させ、黄色の油状物として化合物4を得る。
【0102】
工程2-2:重合:重合方法は、工程1-2と類似しており、置換ベンゼン反応単位(化合物4)及び
【0103】
【化16】
【0104】
の構造を有するAcDOT(化合物8)の反応単位を使用する。
【0105】
得られたECP-2は、およそ0.95V(対Ag/AgCl)の酸化電位及び3.1eVより高いエネルギーバンドギャップを有する。ECP-2は、エレクトロクロミック層として使用されるECP-2、電解質としてのPEGMEA中1MのLiPF6、及びイオン貯蔵層としてのVOxを用いて、ソリッドステートECDに組み立てられる。ソリッドステートECDは、-0.6V~1.7Vの間で安定して切り替えることができる(図5)。ECP-2の中性状態及び酸化状態の吸光度スペクトルを、410nmのλc及び350nmのλmaxとともに図7に示す。ソリッドステートECDは、中性状態の550nmで94%の高い透過率を有して(図6)高い透明性を示し、ECP-2が酸化されると、およそ546nmの1つの吸収ピーク及びおよそ800~1100nmの波長で別のより広い吸収帯(図7)を有して、鮮明な赤色へ切り替わる。ソリッドステートECDの光学的コントラストは87%である(図6)。
【実施例0106】
ECP-3
いくつかの実施形態では、本開示のECP-3は以下の式
【0107】
【化17】
【0108】
を有する。
【0109】
ECP-3は、ベンゼン含有反応単位を調製し、ProDot単位とともにそれを重合することによって合成される。詳細な方法は以下の工程を含む:
【0110】
工程3-1:工程2-1と同じ。
【0111】
工程3-2:重合:重合方法は、工程1-2と類似しており、ベンゼン含有反応単位(化合物4)、及び
【0112】
【化18】
【0113】
の構造を有する3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT、化合物9)の異なる反応単位を使用する。
【実施例0114】
ECP-4
いくつかの実施形態では、本開示のECP-4は以下の式
【0115】
【化19】
【0116】
を有する。
【0117】
ECP-4は、ナフタレン含有反応単位を調製し、次いでAcDOT単位とともにそれを重合することによって合成される。詳細な方法は以下の工程を含む:
【0118】
工程4-1:2つの工程により、ナフタレン含有反応単位(化合物10)を調製する。
【0119】
【化20】
【0120】
ジクロロメタン中の化合物11の溶液に、ジクロロメタン中の臭素の溶液を-78℃で15分にわたって滴下した。反応混合物を-78℃で2時間撹拌し、次いで室温に徐々に暖め、室温でさらに2時間置いた。過剰の臭素を飽和亜硫酸ナトリウム水溶液によって急冷し、室温で2時間撹拌した。ジクロロメタンで抽出した後、合わせた有機相をブラインで洗い、硫酸ナトリウム上で乾燥し、真空中で濃縮した。
【0121】
【化21】
【0122】
化合物12をN2下でDMFに溶解させ、K2CO3を溶液に添加し、反応混合物を15分間撹拌し、その後2-エチルヘキシルブロミドを添加する。反応混合物を、100℃で終夜撹拌する。反応を停止し、室温まで冷ます。真空中で溶媒を除去し、残留物をジエチルエーテルに溶解させる。有機相を水で洗い、水性相を酢酸エチルで抽出する。合わせた有機相を真空によって乾燥する。
【0123】
工程4-2:重合:重合方法は、工程1-2に類似しており、ナフタレン含有反応単位(化合物10)及びAcDOT(化合物8)の異なる反応単位を使用する。
【実施例0124】
ECP-5
いくつかの実施形態では、本開示のECP-5は以下の式
【0125】
【化22】
【0126】
を有する。
【0127】
ECP-5は、工程1-2と類似した重合方法によって合成され、1,5-ジブロモ-2,4-ビス(ヘキシルオキシ)ベンゼン及び3,4-ジメチルチオフェンの異なる反応単位を使用する。
【0128】
いくつかの実施形態では、本開示のECPは以下の式
【0129】
【化23A】
【0130】
【化23B】
【0131】
【化23C】
【0132】
(式中、n及びmは0より大きい整数であり、a及びbは、0以上の整数であり、但し、a及びbの少なくとも1つは0より大きい)
を有する。
【0133】
別の態様では、本開示のポリマーは蛍光性放射を有することができ、蛍光性製品に適用することができる。
【0134】
従来の共役エレクトロクロミックポリマーでは、電気化学的ドーピングによるポーラロン及びバイポーラロンの形成により、光学遷移のエネルギーが低下し、その結果、可視領域から近接IR領域への吸収のレッドシフトが生じ、着色から透過への変化として現れる。その結果、ドープされた状態では、可視領域全体に吸収が残存する。膜厚が増加するにつれて、この残存する吸収は激しくなり、残存する色が現れる。このように、共役エレクトロクロミックポリマーは、光学的コントラストとコントラスト比が比較的低く、これがポリマー系のECDの用途へのさらなる採用を制限する大きな要因となっている。
【0135】
従来の共役系ECPが着色から透過への変化を起こすのとは対照的に、開示された新規ECPは透明から着色への変化を起こす。開示されたポリマーは、より高いエネルギーバンドギャップを示すため、中性状態では可視領域で吸収することなく紫外領域で光を吸収し、その結果、透明な状態になり、いくつかの実施形態では、ほぼ100%透明になる。例えば、発色団基トリアリールアミンを含むポリマーは、透明から着色へのエレクトロクロミックスイッチングを達成する。エチレンジオキシチオフェン誘導体をベースとする従来の小分子には、透明状態から着色状態へのスイッチングが可能なものがある。しかし、このような設計には特有の課題もある。第一に、これらのポリマーは通常、スイッチング安定性が低い。これは、ドープされた状態で形成された電荷がポリマー鎖に沿って非局在化できないためで、安定性と耐久性に限界がある。第二に、有機小分子に基づくエレクトロクロミック素子は通常溶液相にあるため、色の変化は電極上への分子の拡散に依存し、スイッチング速度が遅く、中間色となり、フレキシブル素子への応用を妨げる。
【0136】
開示されたエレクトロクロミックポリマーは、中性状態ではほぼ100%の透過率(例えば、85%~99.9%)を示す一方、酸化状態では高い吸収を示すため、記録された光学的コントラストとコントラスト比が最も高くなる。ポリマー主鎖は、上述のように、メタ共役リンカー(MCL)及び芳香族部分(Ar)を含むか、又はそれらからなる。MCLはメタ位で芳香族部分を結合し、電荷の非局在化を中断する。従って、開示されたポリマーのバンドギャップは、メタ共役によって増大し、中性ポリマーの吸収を紫外領域に集中させ、ほぼ100%の透明状態を達成することができる。一方、MCLと芳香族部分は、共役を提供して、透明から着色へのスイッチングのための低い酸化電位と高いスイッチング安定性を実現する。ポリマーの色は、MCL及び芳香族部分の共役長を調整することによって容易に制御することができる。いくつかの実施形態では、開示されるポリマーは、カルバゾール、ビフェニル、ビナフタレン等のMCL、及び芳香族部分としてのチオフェンから作製することができる。この発明の概念に基づく開示されたポリマーは、95%超の光学的コントラスト及び10000サイクル超のスイッチング安定性を含む、幅広い色調整性及び良好なエレクトロクロミック特性を示す。
【実施例0137】
開示されたポリマーでは、各メタ共役ポリマーは、メタ位でMCLによって結合された芳香族コモノマーを含む。MCLとしてカルバゾール(CBZ)、ビフェニル(BP)、ビナフタレン(BNP)を含み、芳香族部分の長さを変えるためにチオフェンの数(T1、T2、及びT3)を変えた一連のポリマーを設計する。
【0138】
【化24】
【0139】
これらの設計の構造を以下に示す。
【0140】
【化25】
【0141】
実験を導き、分子軌道の観点から設計パラダイムを探るため、これらのメタ共役ポリマーに対して密度汎関数理論(DFT)計算を行い、中性及びラジカルカチオン状態の理論スペクトルを作成した。中性状態のCBZ-T1、BP-T1、及びBNP-T1の吸収スペクトルは、可視領域でほぼ100%の透明性を示し、顕著な吸収は紫外領域のみで生じる(図8(A))。CBZ-T1及びBNP-T1は、BP-T1に比べて吸収開始がわずかにレッドシフトしているが、3つのポリマーはいずれも400nm未満の吸収波長を維持している。ラジカルカチオン(酸化)状態では、紫外領域の吸収が減少し、可視領域の吸収が増加する(図8(B))。この透明から着色へのエレクトロクロミズムは、中性からラジカルカチオン状態へのポリマーの幾何学的変化によってさらに説明できる。ポリマーは、中性状態では非平面構造をとり、MCLと隣接するチオフェンとの間には約50~60度のねじれ角がある。この非平面構造と大きなねじれ障害により、電荷の非局在化が妨げられ、中性ポリマーのバンドギャップが増大するため、ポリマーは紫外領域のみで吸収する。一方、ラジカルカチオン状態では、ポリマーはねじれ角が25~40度に減少するにつれて平坦化されるため、電荷はポリマー鎖に沿って非局在化する可能性があり、吸収は着色のために可視領域にレッドシフトする。BP-T1とは対照的に、CBZ-T1とBNP-T1のラジカルカチオン吸収は、BNP単位からの共役の拡大により、よりレッドシフトしている。
【0142】
芳香族部分の長さは、ポリマーの光学特性に影響を与える。中性状態では、CBZ-T1、CBZ-T2、及びCBZ-T3はほぼ同じ吸収スペクトルを示すことから、チオフェン単位の数は中性状態におけるポリマーのバンドギャップには影響しないことが示唆される。計算に基づくと、MCLとチオフェンの間のねじれ角は、チオフェンの数が増えてもポリマー全体でほぼ等しいままであり、その結果、紫外領域で対応する吸収が生じ、透明性が得られる。しかし、ラジカルカチオン状態では、チオフェン単位の数を増やすとスペクトルがレッドシフトする。その結果、ラジカルカチオンポリマーは、それぞれCBZ-T1、CBZ-T2、CBZ-T3に対応して、明確な色、具体的にはオレンジ、紫、青を示す。この色の変化は、チオフェン間の大きなねじれ角の変化に起因すると考えられる。チオフェンが1つのポリマー(CBZ-T1)からチオフェンが2つのポリマー(CBZ-T2)に移行する場合、ねじれ角の変化(約5度)が観察された。同様の傾向は、2Tから3Tに移行する間にも観察され、ねじれ角はそれぞれ約15度であった。MCLは、中性ポリマーの電荷非局在化を妨げ、ほぼ100%の透明性をもたらす可能性がある。ラジカルカチオン状態のポリマーの色は、ポリマーの共役長を調節/変化させることで調整できる。
【0143】
エレクトロクロミックポリマーの合成例
カルバゾール、ビフェニル及びビナフタレンのMCLモノマーは、異なる拡大共役で合成される。ポリマーの溶解性と極性を調整するために、MCLに異なる側鎖を付加する。次に、オリゴマー3,4-ジメチルチオフェンT1、T2、T3が作られる。モノマーを得た後、直接アリール化重合(DArP)を行い、9つのメタ共役透明エレクトロクロミックポリマーを作る。それぞれのメタ共役ポリマー溶液は、作用電極としてITOガラス上にスピンコートされ、電気化学的及び光学的測定のためにキュベットに入れられる。酸化状態の吸収ピークの位置は、より長い芳香族部分の組み込みによるレッドシフト傾向を示している。開示された技術では、吸収ピークを合理的にシフトさせることができるため、可視領域全体で多種多様な色にアクセスすることができる。いくつかの実施形態では、芳香族部分の長さが異なる酸化ポリマーは、それぞれBPポリマーとCBZポリマーのT1、T2、T3に対応する明確な色、具体的にはオレンジ、紫、青を示す。中性及び酸化状態の全てのポリマーのCIELAB色座標が得られる。中性状態のポリマーはL*a*b*値が(100, 0, 0)に近く、完全に透明である。酸化状態では、これらのポリマーは色空間の広い範囲をカバーし、混色の可能性がある。1つ又は複数のMCL及び1つ又は複数のArの共役長を変化させることにより、開示されたエレクトロクロミックポリマーを制御して、広範囲の色を設計することができる。さらに、異なる色の開示された異なるエレクトロクロミックポリマーを異なる比率でブレンドすることにより、別の新しい色のバッチを製造することができ、これによりカラーライブラリが大幅に充実する。さらに、従来のエレクトロクロミックポリマーブレンドとは異なり、開示されたエレクトロクロミックポリマーの酸化電位が近いため、開示されたエレクトロクロミックポリマーブレンドには、一方で従来のエレクトロクロミックポリマーブレンドで一般的に観察される中間色の問題がない。いくつかの実施形態では、その高い透過率により、開示されたエレクトロクロミックポリマー又はブレンドは、中間色のない大きなカラーライブラリを有する高い光学的コントラストと良好な安定性を有する。この開示されたエレクトロクロミックポリマー/素子は、スマートウィンドウ及びガラス、バイオセンサー、電子ペーパー、ディスプレイ、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)、パターン化されたエレクトロクロミックディスプレイ、カーテンウォール、サンルーフを含む様々な用途に使用することができる。
【0144】
ポリマーの電気化学的特性は、サイクリックボルタンメトリーと微分パルスボルタンメトリー(DPV)で評価する。ポリマーは準可逆的な酸化を示す。DPVでポリマーを検査すると、CBZ-T1、CBZ-T2、及びCBZ-T3は、ラジカルカチオンの形成を示す1つのピークを示す。しかし、BP及びBNP単位を含むポリマーは、ジカチオンの形成に対応する2番目のピークとして2つのピークを示す。この酸化により電気化学は不可逆的になり、可視域に新たな吸収ピークが形成される。全てのポリマーが比較的低い酸化開始電位(CBZポリマーは約0.6~0.8V(対Ag/AgCl)、BPポリマーは約0.8~1.0V(対Ag/AgCl)、BNPポリマーは約0.8~1.0V(対Ag/AgCl))を示すことは注目に値するが、これは芳香族部分からの共役に起因する。酸化開始電位が低いことは、水の酸化等望ましくない副反応を避けることができるため、ポリマーの電気化学的安定性にとって有益である。これらのメタ共役ポリマーの特性はよく似ているが、全体的にCBZポリマーの方が酸化開始電位が低く、高電位での可逆性が優れている。
【0145】
より低いエネルギー吸収ピークは、電子スピンダウンの特異占有分子軌道(Sβ)から最低非占有分子軌道(Lβ)への電子遷移の結果である。従って、開示されたメタ共役ポリマーは、可視光と近接IRの両方を同期して変調することができる。
【0146】
開示された技術により、メタ共役エレクトロクロミックポリマーの色調整性及びその低い酸化電位が可能になる。この技術を使用して、集団吸収が可視スペクトルを完全にカバーする鮮やかな色の発色団をブレンドすることにより、黒色エレクトロクロミズムを提供することもできる。本発明者らは、開示されたポリマーをブレンドすることにより、所望の色が得られることを発見した。いくつかの実施形態では、CBZ-T1(オレンジ)及びCBZ-T3(青色)メタ共役ポリマーをブレンドして透明から黒色のエレクトロクロミックを得るために使用する。ブレンドする際には、酸化状態のポリマーの吸収係数を用いて、黒色を得るためにブレンドするポリマーの適切な比率を決定する。ポリマー膜のBeer-Lamberプロットは、酸化状態のCBZ-T1とCBZ-T3の吸収係数がほぼ同じであることを示しており、従ってCBZ-ブレンドの質量比は1:1と決定される。他の質量比のブレンド、又は開示された異なるポリマーのブレンドを使用して、他の望ましい色を作ることができる。
【0147】
膜厚300nmのCBZブレンドの吸収分光電気化学を図9(A)に示す。この中性膜は400nmで吸収開始を示し、可視領域でほぼ100%の透明性を示す。CBZ-ブレンドをラジカルカチオン状態に酸化すると、550nmと950nmにλmaxを持つ2つのブロードな吸収が可視領域と近接IR領域に生じ、光と熱が同期して変調することがわかる。膜厚の異なる多数のCBZ-ブレンド膜を調製し、図9(B)に示すように、吸収係数をBeer-Lambertプロットから導出する。CBZ-ブレンドの中性(脱色)状態の吸収係数は5×102cm-1と概算され、酸化(着色)状態の値3.7×104cm-1より2桁低い。図9(C)に示すように、中性状態と酸化状態の透過率を、それぞれの吸収係数の値を用いて膜厚の関数としてプロットする。膜厚が薄い場合、中性状態、酸化状態ともに透過率を100%に近づけることができる。中性状態の吸収係数はゼロに近いので、透過率はほぼ100%のままであり、膜が厚くなっても減衰が最小限に抑えられる。いくつかの実施形態では、中性状態と酸化状態との間の光学的コントラストは、ほぼ100%、例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%以上、又は上記のいずれかの値の間に達することができる。図9(D)は、いくつかの実施形態による、異なる厚さのエレクトロクロミック層の中性及び酸化状態の両方におけるCBZ-ブレンドの透過率を示す。光学的コントラストは、中性及び酸化状態の両方における透過率の差に等しい。中性状態で測定した異なる膜厚(270~700nm)の場合、図9(D)に示す光学的コントラストはそれぞれ78%、87.7%、92.1%、93.3%、92%である。コントラスト比は、酸化状態での透過率に対する中性状態での透過率の比によって計算される。中性状態で測定された異なる膜厚(270~700nm)の場合、図9(D)に示すコントラスト比は、それぞれ4.9%、9.8%、19.4%、47.65%、93%である。図9(D)に示すように、開示されたエレクトロクロミック膜の光学的コントラストは、膜厚が厚くなるにつれて増加する。開示されたEC膜の厚さが増加すると、応答時間が増加する。膜厚が1500nmより大きい場合、開示されたEC素子は、大きな光学的コントラスト、例えば、EC層の中性状態で約96%、酸化状態で約0.06%の透過率を有することができ、素子は、遅い応答時間、例えば、約1分を有することができる。膜厚が増加すると、EC層の中性状態での透過率は若干低下する場合がある。しかし、酸化状態のEC層の透過率は大きく低下する可能性があるため、膜厚の増加に伴い、EC層の光学的コントラスト(中性状態と酸化状態の透過率の差)は大きく増加する。しかしながら、膜厚の増加に伴う応答時間の増加によって制限されるため、いくつかの実施形態では、開示されるEC層の膜厚は1500nm以下に制限される。いくつかの実施形態では、開示されるEC層の膜厚は、1分未満の応答時間を得るために、1200nm、1000nm、900nm、800nm、700nm、600nm、500nm、400nm、300nm、200nm、又は100nmに制限される。
【0148】
開示されたメタ共役エレクトロクロミックポリマー層は、超高光学的コントラストと高速スイッチング速度を示す。また、光安定性やエレクトロクロミックスイッチング安定性等の高い安定性も示す。光安定性は、カプセル化されたポリマー膜を、標準的な空気質量1.5の光源に適合するソーラーシミュレータに暴露することによって調べられる。吸収スペクトルを測定し、照射時間の関数として最大吸収をプロットする。この結果は、開示されたポリマーが、ITO、電解質、イオン貯蔵層(例えば、ナノITO粒子)等の他の材料と併用しても安定であることを示している。ポリマー膜のサイクル安定性を明らかにするため、3電極セットアップで10,000回のCVスイッチングサイクルを適用し、電圧を-0.2Vから1.0Vまで80mV/sで印加する。中性及び着色状態の透過率を1000サイクルごとに記録する。ポリマーの光学的コントラストは10%低下し、メタ共役ポリマーが長期性能に適していることを示唆している。
【0149】
図10に示すように、いくつかの例示的実施形態によるエレクトロクロミック素子100は、第1の絶縁基板102、第1の絶縁基板102上に配置された第1の導電層104、第1の導電層104上に配置されたエレクトロクロミック層106、エレクトロクロミック層106上に配置された電解質層108、電解質層108上に配置された第2の導電層112、第2の導電層112上に配置された第2の絶縁基板114、及びエレクトロクロミック素子100を動作させる回路116を有し得る。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック素子100は、第2の導電層112と電解質層108との間に配置されたイオン貯蔵層110をさらに含み得る。エレクトロクロミック層106は、上記に開示したエレクトロクロミックポリマーを含み得る。例えば、エレクトロクロミックポリマーは、1つ若しくは複数のメタ共役リンカー(MCL)及び1つ若しくは複数の芳香族部分(Ar)を含むポリマー主鎖を含むか、又はそれらからなり、1つ又は複数のMCLのそれぞれは、1つ又は複数のMCLのメタ位で1つ又は複数のArの1つと部分的に共役している。いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層106の厚さは10nm~1500nmであり、その結果、エレクトロクロミック層の中性状態において波長550nmで85%~99.9%の透過率が得られる。例えば、エレクトロクロミック層106の厚さが10nm~1500nmの場合、85%、87%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%、又は上記の数値の任意の2つの間の透過率が得られる。エレクトロクロミック素子100は、素子の脱色状態において、波長550nmで60%以上の透過率を有する。例えば、エレクトロクロミック層106の材料及び厚さを調整することにより、エレクトロクロミック素子100は、その脱色状態において、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、若しくは99%、又は上記の数値の任意の2つの間の透過率を有し得る。
【0150】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層は、エレクトロクロミック層の酸化状態において、波長550nmで40%~0.1%の透過率を有する。例えば、酸化状態でのエレクトロクロミック層は、波長550nmで40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、若しくは0.1%、又は上記の数値の任意の2つの間の透過率を有する。
【0151】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層106は、60%以上の光学的コントラストを有する。例えば、エレクトロクロミック層106は、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は上記の数値の任意の2つの間の光学的コントラストを有し得る。
【0152】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック素子100がイオン貯蔵層110を含む場合、イオン貯蔵層110は、波長550nmで80%以上の透過率を有する。いくつかの実施形態では、イオン貯蔵層110は、(1)第4~12族の金属元素の1つ若しくは複数の酸化物、又は(2)酸化物の混合物、又は(3)異なる金属酸化物によってドープされた酸化物の1つ、又は(4)遷移金属錯体、又は(5)酸化還元活性ニトロキシル、ガルビノキシルラジカルポリマー及び共役ポリマーを含む酸化還元活性ポリマーの1つ若しくは複数を含み得る。
【0153】
いくつかの実施形態では、イオン貯蔵層110はITO粒子を含み、イオン貯蔵層は波長550nmで90%以上の透過率を有する。いくつかの実施形態では、ITO粒子は、1~900nmのサイズを有するナノ粒子であってもよい。
【0154】
いくつかの実施形態では、第1の導電層104及び第2の導電層112の少なくとも1つは、ITO、酸化アルミニウム亜鉛(AZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、銀ナノワイヤ、グラフェン、カーボンナノチューブ、金属メッシュベースの透明導電性電極、銀ナノ粒子インク、又は有機導電性ポリマーを含む。
【0155】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック素子100は、60%以上の光学的コントラストを有する。例えば、エレクトロクロミック素子100は、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、又は上記の数値の任意の2つの間の光学的コントラストを有し得る。
【0156】
いくつかの実施形態では、酸化状態でのエレクトロクロミック層106の色は、1つ又は複数のMCL及び1つ又は複数のArの共役長を変化させることによって変化する。
【0157】
いくつかの実施形態では、エレクトロクロミック層106は、中間色を含まない異なるエレクトロクロミックポリマーのブレンドを含む。エレクトロクロミック層106のポリマー(複数可)の構造は、上記で説明されており、簡潔にするために繰り返さない。
【0158】
本開示はさらに、透明と黒色との間でスイッチング可能なエレクトロクロミック素子を提供する。黒色状態と透過状態との間で可逆的にスイッチング可能なエレクトロクロミック材料は、様々な商業用途及び軍事用途にとって非常に重要である。例えば、本発明者らは、CBZ-T1とCBZ-T3が同様の吸収係数を有することを発見し、CBZ-T1(透明からオレンジ色へのスイッチング)とCBZ-T3(透明から青色へのスイッチング)を1:1の質量比で混合し、透明から黒色へのエレクトロクロミック素子を得る。透明-黒色エレクトロクロミック素子の構成は、上記で説明したエレクトロクロミック素子100と同様である。この素子は、エレクトロクロミック層としてCBZ-T1とCBZ-T3の混合物を用い、イオン貯蔵層(1.5μm)としてナノITO粒子を用いることにより、2電極構成で組み立てられる。分光電気化学の研究では、素子の電位が-0.6Vから2.4Vに増加する。電位が増加すると、CBZ-T1とCBZ-T3の混合物の酸化により可視領域の透過率が低下し、素子は透明状態から黒色状態に切り替わる。透過率の変化が見られなくなり、光学的コントラストが88%(1~89%)になるまで電位を上げる。透過率スペクトルは空気を基準としており、透過率損失にはガラス、ITO、電解質層、イオン貯蔵層が含まれることを意味する。異なる電圧におけるCIE L*a*b*色座標を調査する。電位が高くなるにつれて、CIE L*a*b*色座標の明度(L*)は95から36に減少し、a*とb*は0に近い値を維持し、これは、中間色なしで透明から黒色への色スイッチングを示している。素子のサイクル安定性を明らかにするために、10000回のCVスイッチングサイクルを適用し、透過率スペクトルを測定する。素子の透明状態と着色状態の550nmでの透過率は、光学的コントラストが元の値である85%から78%にわずかに低下したことを示しており(図9(E)に示す)、このような高い光学的コントラストを有する黒色エレクトロクロミック素子の最高のサイクル安定性を表している。
【0159】
要約すると、本開示では、広い色域、超高光学的コントラスト、低酸化電位、及び優れたスイッチング安定性を有する、透明から着色へのエレクトロクロミックスイッチングを可能にするメタ共役ポリマーが提供された。ポリマーブレンドに基づく透明から黒色へのエレクトロクロミック素子は、91%超の光学的コントラストと91%のコントラスト比を得ることに成功しており、黒色エレクトロクロミックの中で最も優れた性能を示している。透明エレクトロクロミックポリマーにアクセスするこのアプローチは、将来のエレクトロクロミックイノベーションに有望な展望を開くものである。
【0160】
開示されたエレクトロクロミック素子は、スマートウィンドウ及びガラス、バイオセンサー、電子ペーパー、ディスプレイ、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)、パターン化されたエレクトロクロミックディスプレイ、カーテンウォール、サンルーフ等、様々な用途に利用できる。従来のEC素子では、素子の脱色状態はEC層の酸化状態に対応することに留意されたい。しかし、開示されたEC素子では、素子の脱色状態はEC層の中性状態に対応する。
【0161】
本開示の前記述は、例証及び説明の目的で提供してきた。網羅的になること又は開示を正確な開示形態に限定することを意図していない。本開示の幅及び範囲は、上記の例示的実施形態のいずれによっても限定されるべきではない。多くの修正及び変更は当業者には明白であろう。修正及び変更は、本開示の特徴の任意の適切な組み合わせを含む。本開示の原理及びその実務的適用を最も良く説明し、それによって、想定される特定の使用に適した様々な修正とともに、様々な実施形態に対して本開示を他の当業者が理解できるように、実施形態を選択し記述した。本開示の範囲が、以下の特許請求の範囲及びその等価物によって規定されることを意図している。
【符号の説明】
【0162】
100 エレクトロクロミック素子
102 第1の絶縁基板
104 第1の導電層
106 エレクトロクロミック層
108 電解質層
110 イオン貯蔵層
112 第2の導電層
114 第2の絶縁基板
116 回路
図1(A)】
図1(B)】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8(A)】
図8(B)】
図9(A)】
図9(B)】
図9(C)】
図9(D)】
図9(E)】
図10
【外国語明細書】