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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099921
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】質量分析システム及びピーク評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240719BHJP
【FI】
G01N27/62 Y
G01N27/62 D
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003556
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 博一
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA06
2G041MA02
2G041MA10
(57)【要約】
【課題】複数の化合物から得られた複数のピークセットの評価結果をユーザーが俯瞰できるようにする。
【解決手段】複数の化合物に由来する複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークに基づいて、複数の第1誤差(複数の保持時間誤差)及び複数の第2誤差(複数のピーク比誤差)が演算される。第1誤差軸及び第2誤差軸を有する座標系上に、複数の第1誤差及び複数の第2誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の要素74aをプロットすることにより、チャート72が生成される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から順次分離された複数の化合物の質量分析により、前記複数の化合物に由来する複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークを生成する質量分析部と、
前記複数の定量イオンピーク及び前記複数の確認イオンピークに基づいて、前記複数の化合物に対応する複数の実測保持時間及び複数の実測ピーク比を特定する第1処理部と、
前記複数の実測保持時間を前記複数の化合物についての複数の基準保持時間と比較することにより複数の保持時間誤差を演算し、前記複数の実測ピーク比を前記複数の化合物についての複数の基準ピーク比と比較することにより複数のピーク比誤差を演算する第2処理部と、
保持時間誤差軸及びピーク比誤差軸を有する座標系上に、前記複数の保持時間誤差及び前記複数のピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の要素をプロットすることにより、前記複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークを評価するためのチャートを生成する第3処理部と、
を含むことを特徴とする質量分析システム。
【請求項2】
請求項1記載の質量分析システムにおいて、
前記複数の保持時間誤差及び前記複数のピーク比誤差を評価する評価部を含み、
前記チャートには、前記評価部の評価結果を表す情報が含まれる、
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項3】
請求項2記載の質量分析システムにおいて、
前記評価部は、前記各保持時間誤差が第1許容範囲内にあるか否かを判定し、前記各ピーク比誤差が第2許容範囲内にあるか否かを判定し、
前記評価部の評価結果には、前記各保持時間誤差が前記第1許容範囲内にあるか否かについての判定結果、及び、前記各ピーク比誤差が前記第2許容範囲内にあるか否かについての判定結果が含まれる、
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項4】
請求項3記載の質量分析システムにおいて、
前記情報には、前記第1許容範囲及び前記第2許容範囲を示すオブジェクトが含まれる、
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項5】
請求項3記載の質量分析システムにおいて、
前記第3処理部は、前記評価部の評価結果に基づいて前記複数の要素の表示態様を変更し、
前記情報には、前記複数の要素の表示態様が含まれる、
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項6】
請求項1記載の質量分析システムにおいて、
前記第3処理部は、前記複数の要素の中からユーザーにより選択された特定の要素に対応する特定の定量イオンピーク及び特定の確認イオンピークを表示し、
前記ユーザーの指示に従って、前記特定の定量イオンピーク及び前記特定の確認イオンピークを修正する修正部が設けられ、
前記特定の定量イオンピーク及び前記特定の確認イオンピークの修正に応じて、前記チャートにおいて前記特定の要素の表示位置が変化する、
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項7】
請求項1記載の質量分析システムにおいて、
前記各確認イオンピークには、第1確認イオンピーク及び第2確認イオンピークが含まれ、
前記各実測ピーク比には、第1実測ピーク比及び第2実測ピーク比が含まれ、
前記各ピーク比誤差には、第1ピーク比誤差及び第2ピーク比誤差が含まれ、
前記複数の要素には、前記複数の保持時間誤差及び複数の第1ピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の第1要素、並びに、前記複数の保持時間誤差及び複数の第2ピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の第2要素、が含まれる、
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項8】
請求項7記載の質量分析システムにおいて、
前記チャートには、前記複数の第1要素と前記複数の第2要素の間の対応関係を表す複数のリンクが含まれる、
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項9】
請求項8記載の質量分析システムにおいて、
前記複数のリンクは、前記ピーク比誤差軸に平行な複数のラインであって前記複数の第1要素と前記複数の第2要素とを繋ぐ複数のラインである、
ことを特徴とする質量分析システム。
【請求項10】
複数の化合物に由来する複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークに基づいて、前記複数の化合物に対応する複数の実測保持時間及び複数の実測ピーク比を特定する工程と、
前記複数の実測保持時間を前記複数の化合物についての複数の基準保持時間と比較することにより複数の保持時間誤差を演算し、前記複数の実測ピーク比を前記複数の化合物についての複数の基準ピーク比と比較することにより複数のピーク比誤差を演算する工程と、
保持時間誤差軸及びピーク比誤差軸を有する座標系上に、前記複数の保持時間誤差及び前記複数のピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の要素をプロットすることにより、前記複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークを評価するためのチャートを生成する工程と、
を含むことを特徴とするピーク評価方法。
【請求項11】
情報処理装置において実行されるプログラムであって、
複数の化合物に由来する複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークに基づいて、前記複数の化合物に対応する複数の実測保持時間及び複数の実測ピーク比を特定する機能と、
前記複数の実測保持時間を前記複数の化合物についての複数の基準保持時間と比較することにより複数の保持時間誤差を演算し、前記複数の実測ピーク比を前記複数の化合物についての複数の基準ピーク比と比較することにより複数のピーク比誤差を演算する機能と、
保持時間誤差軸及びピーク比誤差軸を有する座標系上に、前記複数の保持時間誤差及び前記複数のピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の要素をプロットすることにより、前記複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークを評価するためのチャートを生成する機能と、
を含むことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析システム及びピーク評価方法に関し、特に、定量イオンピーク及び確認イオンピークの評価に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の定量分析に際しては、質量分析システムが利用される。質量分析システムは、例えば、ガスクロマトグラフ、質量分析装置、及び、情報処理装置により構成される。ガスクロマトグラフにおいて、試料から複数の化合物が順次抽出される。それらの複数の化合物が質量分析装置へ順次導入される。質量分析装置において、複数の化合物に対して質量分析が順次実行される。その際、各化合物の定量のために、化合物ごとに定められた定量イオン(Quantification ion)及び確認イオン(Identification ion)が検出される。これにより、複数の化合物に対応する複数のピークセットが得られる。各ピークセットは、具体的には、定量イオンの検出により生じた定量イオンピーク、及び、確認イオンの検出により生じた確認イオンピークにより構成される。それらのピークは、いずれも、化合物特有の代表ピークである。
【0003】
例えば、化合物のマススペクトルにおいて、最も大きなピークが定量イオンピークとして定められ、2番目に大きなピークが確認イオンピークとして定められる。定量イオンピークは、ターゲットイオンピークとも呼ばれる。確認イオンピークは、参照イオンピークとも呼ばれる。化合物ごとに複数の確認イオンピークが参照されることもある。
【0004】
質量分析システム内の情報処理装置において、複数の化合物から生じた複数のピークセットが評価される。一般に、化合物ごとに、定量イオンピークが生じた実測保持時間が当該化合物の基準保持時間と比較され、これにより保持時間誤差が演算される。また、化合物ごとに、定量イオンピークと確認イオンピークの間で実測ピーク比が演算され、その実測ピーク比が当該化合物の基準ピーク比と比較され、これによりピーク比誤差(具体的にはピーク比誤差率)が演算される。ピーク比は、IQ比又はI/Qとも呼ばれる。ピーク比誤差の評価はレシオチェックとも呼ばれる。
【0005】
化合物ごとに、保持時間誤差が評価され、且つ、ピーク比誤差が評価される。複数の化合物に対応する複数のピークセットが適正なものであると判定された後、当該複数のピークセットに基づいて、検量線が作成され、あるいは、各化合物の定量結果が適正なものであると判断される。
【0006】
ユーザーは、試料から分離された多数の化合物に対応する多数のピークセットの評価結果を確認する必要がある。複数の試料が測定対象となる場合、更に多くの評価結果を確認する必要がある。
【0007】
特許文献1には、質量分析システムが開示されている。その質量分析システムでは、定量イオンピークと確認イオンピークを表示する際に、許容誤差を示す2つのラインが表示されている。特許文献1には、複数のピークセットの評価結果を一目で認識できる画像は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-242255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、複数の化合物から得られた複数のピークセットの評価結果をユーザーが一覧できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、複数の化合物から得られた複数のピークセットの評価結果それ全体の傾向を表す情報をユーザーに提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る質量分析システムは、試料から順次分離された複数の化合物の質量分析により、前記複数の化合物に由来する複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークを生成する質量分析部と、前記複数の定量イオンピーク及び前記複数の確認イオンピークに基づいて、前記複数の化合物に対応する複数の実測保持時間及び複数の実測ピーク比を特定する第1処理部と、前記複数の実測保持時間を前記複数の化合物についての複数の基準保持時間と比較することにより複数の保持時間誤差を演算し、前記複数の実測ピーク比を前記複数の化合物についての複数の基準ピーク比と比較することにより複数のピーク比誤差を演算する第2処理部と、保持時間誤差軸及びピーク比誤差軸を有する座標系上に、前記複数の保持時間誤差及び前記複数のピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の要素をプロットすることにより、前記複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークを評価するためのチャートを生成する第3処理部と、を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係るピーク評価方法は、複数の化合物に由来する複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークに基づいて、前記複数の化合物に対応する複数の実測保持時間及び複数の実測ピーク比を特定する工程と、前記複数の実測保持時間を前記複数の化合物についての複数の基準保持時間と比較することにより複数の保持時間誤差を演算し、前記複数の実測ピーク比を前記複数の化合物についての複数の基準ピーク比と比較することにより複数のピーク比誤差を演算する工程と、保持時間誤差軸及びピーク比誤差軸を有する座標系上に、前記複数の保持時間誤差及び前記複数のピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の要素をプロットすることにより、前記複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークを評価するためのチャートを生成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数の化合物から得られた複数のピークセットの評価結果を一目で理解することが可能となる。あるいは、本発明によれば、複数の化合物から得られた複数のピークセットの評価結果それ全体の傾向を理解することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る質量分析システムを示すブロック図である。
図2】ピークアレイ及び抽出イオンクロマトグラムを示す図である。
図3】第1誤差演算及び第2誤差演算を示す図である。
図4】表示例を示す図である。
図5】チャートの第1例を示す図である。
図6】チャートの第2例を示す図である。
図7】チャートの第3例を示す図である。
図8】ピーク修正の具体例を示す図である。
図9】実施形態に係るピーク評価方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(1)実施形態の概要
本実施形態に係る質量分析システムは、質量分析部、第1処理部、第2処理部、及び、第3処理部を有する。質量分析部は、試料から順次分離された複数の化合物の質量分析により、複数の化合物に由来する複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークを生成する。第1処理部は、複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークに基づいて、複数の化合物に対応する複数の実測保持時間及び複数の実測ピーク比を特定する。第2処理部は、複数の実測保持時間を複数の化合物についての複数の基準保持時間と比較することにより複数の保持時間誤差を演算し、複数の実測ピーク比を複数の化合物についての複数の基準ピーク比と比較することにより複数のピーク比誤差を演算する。第3処理部は、保持時間誤差軸及びピーク比誤差軸を有する座標系上に、複数の保持時間誤差及び複数のピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の要素をプロットすることにより、複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークを評価するためのチャートを生成する。
【0016】
上記構成によれば、チャートの観察を通じて、複数のピークセットの評価結果を一目で直感的に把握することができる。例えば、複数の要素からなる要素集団の密集度、形態、重心、等から複数のピークセットの全体的な傾向を把握できる。また、大きな誤差を生じさせているピークセットを容易に特定でき、その際、誤差の種類や誤差の大きさを容易に特定できる。
【0017】
実施形態において、チャートは二次元座標系を有するが、三次元座標系を有するチャートが生成されてもよい。複数の試料に含まれる複数の化合物を表すチャートが生成されてもよいし、選択された複数の化合物を表すチャートが生成されてもよい。上記のピーク比誤差の概念には、ピーク比誤差率が含まれる。上記の保持時間の概念には、リテンションインデックス(RI)が含まれる。上記の誤差セットの概念には、誤差ペアが含まれる。
【0018】
実施形態に係る質量分析システムは、複数の保持時間誤差及び複数のピーク比誤差を評価する評価部を含む。チャートには、評価部の評価結果を表す情報が含まれる。この構成によれば、ピークセットごとにその良否を判断することが容易となる。
【0019】
実施形態において、評価部は、各保持時間誤差が第1許容範囲内にあるか否かを判定し、各ピーク比誤差が第2許容範囲内にあるか否かを判定する。上記の評価結果には、各保持時間誤差が第1許容範囲内にあるか否かについての判定結果、及び、各ピーク比誤差が第2許容範囲内にあるか否かについての判定結果が含まれる。
【0020】
実施形態において、上記の情報には、第1許容範囲及び第2許容範囲を示すオブジェクトが含まれる。オブジェクトは例えば図形である。その図形に、第1許容範囲を示す第1図形と、第2許容範囲を示す第2図形と、が含まれてもよい。実施形態においては、複数の化合物間で共通の第1許容範囲が定められ、また、複数の化合物間で共通の第2許容範囲が定められているが、化合物ごとに、第1許容範囲及び第2許容範囲が定められてもよい。
【0021】
実施形態において、第3処理部は、評価部の評価結果に基づいて複数の要素の表示態様を変更する。上記の情報には、複数の要素の表示態様が含まれる。表示態様には、要素の形、色等が含まれ得る。
【0022】
実施形態において、第3処理部は、複数の要素の中からユーザーにより選択された特定の要素に対応する特定の定量イオンピーク及び特定の確認イオンピークを表示する。修正部は、ユーザーの指示に従って、特定の定量イオンピーク及び特定の確認イオンピークを修正する。特定の定量イオンピーク及び特定の確認イオンピークの修正に応じて、チャートにおいて特定の要素の表示位置が変化する。
【0023】
チャート中の各要素は、各誤差セットに対応付けられており、換言すれば、各ピークセットに対応付けられている。選択された特定の要素に基づいて、それに対応付けられたピークセットが特定される。ピーク修正の結果がチャートに反映されれば、ピーク修正作業の妥当性の確認やピーク修正結果の確認が容易となる。
【0024】
実施形態において、各確認イオンピークには、第1確認イオンピーク及び第2確認イオンピークが含まれる。各実測ピーク比には、第1実測ピーク比及び第2実測ピーク比が含まれる。各ピーク比誤差には、第1ピーク比誤差及び第2ピーク比誤差が含まれる。複数の要素には、複数の保持時間誤差及び複数の第1ピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の第1要素、並びに、複数の保持時間誤差及び複数の第2ピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の第2要素、が含まれる。この構成によれば、化合物の同定をより正確に行える。
【0025】
実施形態において、チャートには、複数の第1要素と複数の第2要素の間の対応関係を表す複数のリンクが含まれる。複数のリンクは、ピーク比誤差軸に平行な複数のラインであって複数の第1要素と複数の第2要素とを繋ぐ複数のラインである。この構成によれば、個々の化合物に対応する要素列を特定し易くなる。
【0026】
実施形態に係るピーク評価方法は、第1処理工程、第2処理工程、及び、第3処理工程を含む。第1処理工程では、複数の化合物に由来する複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークに基づいて、複数の化合物に対応する複数の実測保持時間及び複数の実測ピーク比が特定される。第2処理工程では、複数の実測保持時間が複数の化合物についての複数の基準保持時間と比較され、これにより複数の保持時間誤差が演算され、複数の実測ピーク比が複数の化合物についての複数の基準ピーク比と比較され、これにより複数のピーク比誤差が演算される。第3処理工程では、保持時間誤差軸及びピーク比誤差軸を有する座標系上に、複数の保持時間誤差及び複数のピーク比誤差からなる複数の誤差セットを表す複数の要素がプロットされ、これにより複数の定量イオンピーク及び複数の確認イオンピークを評価するためのチャートが生成される。
【0027】
上記方法を実行するためのプログラムは、ネットワーク又は可搬型記憶媒体を介して、情報処理装置へインストールされる。情報処理装置は、そのプログラムが格納される非一時的記憶媒体を含む。
【0028】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る質量分析システムが示されている。この質量分析システムは、試料に含まれる複数の化合物の定量分析において用いられる。質量分析システムは、測定部10及び情報処理装置12により構成される。測定部10は、ガスクロマトグラフ14及び質量分析装置15により構成される。
【0029】
ガスクロマトグラフ14において、試料から複数の化合物が順次分離される。それらの化合物が質量分析装置15へ順次導入される。ガスクロマトグラフ14に代えて液体クロマトグラフが用いられてもよい。
【0030】
質量分析装置15は、そこに順次導入される複数の試料に対して質量分析を順次実行する。質量分析装置15は、イオン源16、質量分析器18、及び、検出器20を有する。イオン源16において、各試料がイオン化される。イオン化方法として各種のイオン化方法を採用し得る。イオン化により生じたイオンが質量分析器18へ導入される。質量分析器18は、例えば、四重極型質量分析器により構成される。質量分析器18を通過したイオンが検出器20で検出される。
【0031】
実際には、試料ごとに事前に設定されている質量電荷比(m/z)条件を満たす複数のイオン(複数の抽出イオン)に対して質量分析が適用される。当該複数のイオンは、具体的には、定量イオン及び確認イオンである。各試料に対応する検出期間において、定量イオンを検出するための第1の質量電荷比、及び、確認イオンを検出するための第2の質量電荷比が交互に設定される。これにより、定量イオンピーク及び確認イオンピークの情報を含む検出信号22が得られる。検出信号22に対して信号処理を適用する電気回路についてはその図示が省略されている。
【0032】
なお、化合物ごとに複数の確認イオンが検出されてもよい。保持時間軸上の各時刻において質量電荷比を走査することによりマススペクトル列が取得されてもよい。一般に、化合物のマススペクトルにおいて、もっとも大きいピークが定量ピークとされ、2番目に大きいピークが確認ピークとされる。
【0033】
情報処理装置12は、具体的には、コンピュータにより構成される。情報処理装置12は、情報処理部24、入力器26、表示器28、メモリ30等を有している。情報処理部24は、プロセッサにより構成され、そのプロセッサは、例えば、プログラムを実行するCPUである。情報処理部24が複数のプロセッサにより構成されてもよい。
【0034】
入力器26は、キーボード、ポインティングデバイス等により構成される。表示器28は、液晶表示器、有機EL表示デバイス等により構成される。メモリ30には、質量分析及び定量分析において必要となる情報が格納されている。メモリ30には、質量分析及び定量分析により生成された情報も格納される。実施形態においては、後述するように、メモリ30に試料リスト及び化合物リストを構成する情報が格納される。
【0035】
図1においては、情報処理部24が発揮する複数の機能が複数のブロックにより表現されている。情報処理部24は、EIC生成部34、ピーク検出部36、保持時間判定部38、IQ比演算部40、第1誤差演算部42、第2誤差演算部44、評価部46、表示処理部48、及び、ピーク修正部51を含む。情報処理部24により、質量分析装置15の動作が制御されている。
【0036】
EIC生成部34は、質量分析装置15から出力された検出信号22に基づいて、抽出イオンクロマトグラム(EIC:Extracted Ion Chromatogram)を生成するモジュールである。保持時間軸上には、複数の化合物に対応する複数の検出期間が定められる。化合物ごとに、その化合物に対応する検出期間内において、定量イオンを検出するための第1質量電荷比、及び、確認イオンを検出するための第2質量電荷比、が交互に設定される。EIC生成部34は、複数の検出期間にわたって得られる一連の検出信号に基づいて、抽出イオンクロマトグラムとして、定量イオンクロマトグラム及び確認イオンクロマトグラムを生成する。
【0037】
ピーク検出部36は、定量イオンクロマトグラムに含まれる、複数の化合物に対応した複数の定量イオンピークを検出する。また、ピーク検出部36は、確認イオンクロマトグラムに含まれる、複数の化合物に対応した複数の確認イオンピークを検出する。ピークの検出に際しては公知のピーク検出方法が用い得る。これにより、複数の化合物に対応した複数のピークセットが特定される。各ピークセットは、各化合物特有の定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成される。
【0038】
保持時間判定部38は、化合物ごとに、定量イオンピークが生じた保持時間を特定するものである。確認イオンピークを基準として保持時間が特定されてもよいし、定量イオンピーク及び確認イオンピークの両方に基づいて保持時間が特定されてもよい。ピークの重心又は頂点に基づいて保持時間が特定されてもよい。以下においては、保持時間判定部38により判定された保持時間を実測保持時間と称する。
【0039】
IQ比演算部40は、化合物ごとに、ピーク比であるIQ比(I/Q)を演算する。IQ比は、具体的には、定量イオンピークの強度を分母とし、確認イオンピークの強度を分子とする比率である。各ピークの強度は例えば各ピークの面積である。各ピークの高さ等によって各ピークの強度が特定されてもよい。以下においては、IQ比演算部40が演算したIQ比を実測IQ比と称する。
【0040】
第1誤差演算部42は、メモリ30内の情報を参照し、化合物ごとに、基準保持時間を特定する。その上で、第1誤差演算部42は、化合物ごとに、実測保持時間と基準保持時間とを比較し、それらの差として第1誤差(保持時間誤差)を演算する。具体的には、実測保持時間-基準保持時間の計算により、第1誤差を求める。保持時間に関する他の誤差を第1誤差と定めてもよい。
【0041】
第2誤差演算部44は、メモリ30内の情報を参照し、化合物ごとに、基準IQ比を特定する。その上で、第2誤差演算部44は、化合物ごとに、実測IQ比及び基準IQ比に基づいて、第2誤差(IQ比誤差)を演算する。具体的には、[(実測IQ比-基準IQ比)/基準IQ比]*100(%)の計算により、第2誤差を求める。第2誤差の実体は誤差率である。IQ比に関する他の誤差(他の誤差率)を第2誤差と定めてもよい。化合物ごとに、第1誤差及び第2誤差からなる誤差ペア(誤差セット)が特定される。
【0042】
評価部46は、化合物ごとに演算された第1誤差及び第2誤差を個別的に評価する。具体的には、第1誤差が、基準保持時間を中心とする第1許容範囲内に属しているか否かを判定し、第2誤差が、誤差率許容範囲としての第2許容範囲内に属しているか否かを判定する。評価結果つまり2つの判定結果は表示処理部48に送られている。実施形態においては、複数の化合物に対して共通の第1許容範囲が用いられており、これと同様に、複数の化合物に対して共通の第2許容範囲が用いられている。もっとも、化合物ごとに、第1許容範囲及び第2許容範囲が個別的に定められてもよい。
【0043】
表示処理部48は、表示器28に表示される画像を生成するモジュールである。実施形態に係る表示処理部48は、チャート生成部50を有している。チャート生成部50は、所定の座標系上に、複数の化合物に対応する複数の誤差ペアを表す複数の要素(実際には、複数の点)をプロットすることにより、チャートを生成するものである。そのチャートには、第1許容範囲及び第2許容範囲を示す図形が含まれる。そのチャートには、必要に応じて、評価部46の評価結果が反映される。チャートについては後に詳述する。
【0044】
ピーク修正部51は、ユーザーの指示に従って、ユーザーにより選択されたピーク(定量イオンピーク又は確認イオンピーク)に対して修正を施すものである。例えば、選択されたピークの形状が修正され、あるいは、選択されたピークにおいて面積演算の対象となる部分が修正される。ピーク修正の結果がチャートに反映される。ピーク修正の完了時点でピーク修正の結果がチャートに反映されてもよいし、ピーク修正の内容がリアルタイムでチャートに反映されてもよい。
【0045】
実施形態においては、保持時間判定部38及びIQ比演算部40が第1処理部200として機能する。第1誤差演算部42及び第2誤差演算部が第2処理部202として機能する。表示処理部48が第3処理部として機能する。入力器26を用いて質量分析条件等がユーザーにより設定される。表示器28には後に示す画像が表示される。その画像にはチャートが含まれる。
【0046】
図2には、保持時間軸(RT軸)、質量電荷比軸(m/z軸)及び強度軸によって定義される座標空間が示されている。座標空間にはピークアレイ52が含まれる。例えば、第1検出期間において、質量分析器に対して質量電荷比a及び質量電荷比bを交互に設定することにより、定量イオンピークP1a及び確認イオンピークP1bが観測される。それらのピークはそれぞれ保持時間軸上のピークである。第1検出期間内において定量イオンピークP1aが生じた保持時間T1が特定される。第2検出期間においては、定量イオンピークP2a及び確認イオンピークP2bが観測され、第2検出期間内において保持時間T2が特定される。第3検出期間においては、定量イオンピークP3a及び確認イオンピークP3bが観測され、第3検出期間内において保持時間T3が特定される。このような観測の結果、保持時間軸上の複数の定量イオンピークP1a,P2a,P3aを含む定量イオンクロマトグラム54が生成される。同様に、保持時間軸上の複数の確認イオンピークP1b,P2b,P3bを含む確認イオンクロマトグラム(図示せず)が生成される。
【0047】
図3には、化合物リスト110が例示されている。化合物リスト110は、試料Aから順次抽出される複数の化合物に対応する複数のレコード111を有している。各レコード111には、化合物を特定する情報(化合物名)の他、基準保持時間、実測保持時間、第1誤差、第1判定結果、基準IQ比、実測IQ比、第2誤差、及び、第2判定結果を示す情報が含まれる。上記の第1処理部は、基準保持時間及び実測保持時間に基づいて第1誤差を演算し(符号112を参照)、また、基準IQ比及び実測IQ比に基づいて第2誤差を演算する(符号114を参照)。上記の第2処理部は、第1誤差が第1許容範囲内にあるか否かを判定し(符号113を参照)、また、第2誤差が第2許容範囲内にあるか否かを判定する(符号115を参照)。図3において、NG判定項目がグレー表現されている。
【0048】
図4には、表示器に表示される画像の一例が示されている。図示された画像56には、4つの領域56A,56B,56C,56Dが含まれる。
【0049】
領域56A内には試料リスト58が表示される。試料リスト58には、複数の試料に対応した複数のレコードが含まれる。各レコードには、例えば、試料番号、測定メソッド名、測定データ名、測定日時、試料名、試料種別(標準試料、定量試料等)、コメント、等が含まれる。いずれかの行の選択により、測定対象が指定される。
【0050】
領域56Bには化合物リスト60が表示される。化合物リスト60は、図3に示したように、特定の試料を構成する複数の化合物に対応する複数のレコードにより構成される。各レコードには、化合物番号、化合物名、基準保持時間、実測保持時間、第1誤差、第1許容範囲、第1判定結果、基準IQ比、実測IQ比、第2誤差、第2許容範囲、第2判定結果、定量イオンピーク面積、定量イオンピーク高さ、確認イオンピーク面積、確認イオンピーク高さ、定量値、等が含まれる。
【0051】
ピーク修正時においては、後述するチャート上において特定の点を選択することにより、特定の化合物(つまり特定のピークセット)を指定でき、また、化合物リスト60において特定の行を選択することにより、特定の化合物(つまり特定のピークセット)を指定できる。
【0052】
なお、定量イオンピークを検出できなかった場合には、実測保持時間及び実測IQ比は演算されず、それらの実測値に対応する2つのセルはそれぞれ空欄のままとなる。確認イオンピークを検出できなかった場合には、実測IQ比は演算されず、その実測値に対応するセルは空欄のままとなる。そのような空欄が生じた化合物については、誤差評価は実施されず、チャートへのプロットも実施されない。
【0053】
領域56Cにはチャート62が表示される。チャート62には、第1誤差軸(保持時間誤差軸)及び第2誤差軸(IQ比誤差軸)が含まれる。第1誤差軸及び第2誤差軸は直交しており、それらによって定義される二次元座標空間に点群68がマッピングされている。点群68は、複数の化合物(具体的には複数の誤差ペア)に対応する複数の点により構成される。符号70は、第1許容範囲及び第2許容範囲によって特定される適正領域を示しており、その適正領域70の外側が非適正領域である。点群68の内で適正領域70に属している部分の割合から、複数のピークセットそれ全体の適正さを一目で評価できる。点群68の広がり、重心、密集度等から複数のピークセットの傾向を読み取れる。チャート62については、後に幾つかの具体例を用いて詳述する。
【0054】
領域56Dには、定量イオンクロマトグラム64及び確認イオンクロマトグラム66が表示される。その表示に当たって、各クロマトグラムそれ全体が表示されてもよいし、各クロマトグラムの一部が拡大表示されてもよい。ピーク修正に際しては、特定の化合物に対応する特定のピークセットを含む部分が拡大表示される。
【0055】
図5には、チャートの第1例が示されている。図示されたチャート72において、横軸は第1誤差軸であり、縦軸は第2誤差軸である。それらを入れ替えてもよい。二次元座標系の原点がOで示されている。点群74は、二次元座標系において分散する複数の点74aにより構成される。個々の点74aが特定の化合物に対応しており、つまり、特定のピークセットに対応している。マーカー80は、第1許容範囲w1及び第2許容範囲w2で特定される適正領域を示す表示オブジェクトであり、図示の例では、マーカー80は適正領域76の4つの隅を特定する4つの図形により構成されている。マーカー80として、適正領域76の4辺を定義する2つの垂直ライン及び2つの水平ラインを表示してもよい。適正領域76の周囲が非適正領域78である。
【0056】
定量化対象となった化合物に対応する点が非適正領域78に属する場合、必要に応じて、ピーク修正が適用される。点群74それ全体が右方向及び左方向へシフトしている場合、保持時間軸それ自体が補正されてもよい。非適正領域78に属する点の個数が多い場合、再測定の必要性が判断されてもよい。点ごとに化合物識別子が付記されてもよい。複数の試料の測定結果がチャートに反映される場合、各点の色や形が試料ごとに変更されてもよい。
【0057】
図6には、チャートの第2例が示されている。化合物ごとに、確認イオンとして、第1の確認イオン~第4の確認イオンが検出されている。これにより、第1のIQ比から第4のIQ比までが演算され、それらに基づいて第1のIQ比誤差から第4のIQ比誤差までが演算されている。
【0058】
チャート72Aにおいては、化合物ごとに、誤差セットが点列として表現されている。すなわち、点群74Aは、複数の化合物に対応した複数の点列82,86により構成されている。例えば、化合物Aに対応する点列82は、点p1から点p4までの4つの点により構成され、化合物Bに対応する点列86は、点p5から点p8までの4つの点により構成されている。点列82においては、4つの点p1~p4がライン84によって繋がっている。点列86においては、4つの点p5~p8がライン88によって繋がっている。
【0059】
ライン84,88は、化合物ごとの点列を識別するためのリンク情報と言い得る。化合物ごとに保持時間誤差が一意に特定されるので、各点列82,86を構成する4つの点は一直線上に並ぶ。すなわち、ライン84,88は、それぞれ、IQ比誤差軸(第2誤差軸)に対して平行となる。
【0060】
図7には、チャートの第3例が示されている。第3例に係るチャート72Bにおいても、横軸は第1誤差軸であり、縦軸は第2誤差軸である。原点Oを中心とした二次元座標系上に、複数の化合物つまり複数のピークセットに対応する複数の点からなる点群74Bがプロットされている。各点は表示要素である。第1許容範囲w1及び第2許容範囲w2により、二次元座標系上に、複数の領域90A,90B1,90B2,90C1,90C2,90D1,90D2,90D3,90D4が定義される。
【0061】
領域90Aは、第1許容範囲w1内且つ第2許容範囲w2内の領域(適正領域)である。領域90Aに属する各点92は、図示の例では、円の形態を有し、第1色(例えば緑色)で表示される。
【0062】
領域90B1及び領域90B2は、それぞれ、第1許容範囲w1外且つ第2許容範囲w2内の領域(非適正領域)である。領域90B1及び領域90B2に属する各点94は、図示の例では、三角形の形態を有し、第2色(例えば黄緑色)で表示される。
【0063】
領域90C1及び領域90C2は、それぞれ、第1許容範囲w1内且つ第2許容範囲w2外の領域(非適正領域)である。領域90C1及び領域90C2に属する各点96は、図示の例では、逆三角形の形態を有し、第3色(例えばオレンジ色)で表示される。
【0064】
領域90D1、領域90D2、領域90D3及び領域90D4は、それぞれ、第1許容範囲w1外且つ第2許容範囲w2外の領域(非適正領域)である。領域90D1、領域90D2、領域90D3及び領域90D4に属する各点98は、図示の例では、クロス形態を有し、第4色(例えば赤色)で表示される。
【0065】
このような表示形式を採用することにより、各点に対応するピークセットの状態を直感的に理解することが可能となる。また、修正すべきピークセットを容易に特定することが可能となる。
【0066】
例えば、ユーザーにより点120が選択されると、点120に対応するピークセットが画面上に表示される。そのピークセットは、定量イオンピーク及び確認イオンピークにより構成される。それらの一方又は両方がユーザーにより修正される。例えば、ピーク形状が修正され、あるいは、ピーク面積の定義が修正される。そのようなピーク修正の結果がチャート72Bに反映される。具体的には、点120が消失し、それに代わる点122が表示される。点122は、円の形状を有し、その色は第1色(上記例では緑色)である。ピーク修正の内容がリアルタイムでチャート72Bの内容に反映されてもよい。その場合、チャート72B上を点120が移動する。
【0067】
以上のようなピーク修正を繰り返すことにより、不適切なピーク検出に由来する見かけ上の誤差を消失させることが可能である。
【0068】
図8には、ピーク修正が例示されている。図8の左側には、修正前の定量イオンピーク100及び確認イオンピーク102が示されている。ピーク分離が適切に行われておらず、定量イオンピーク100に隣接するピークまでが面積演算の対象となっている。演算された面積はSAである。これと同様に、確認イオンピーク102に隣接するピークまでが面積演算の対象となっている。演算された面積はSBである。
【0069】
図8の右側には、修正後の定量イオンピーク104及び確認イオンピーク106が示されている。定量イオンピーク104においては、ベースラインシフト108により、面積演算の対象から隣接ピークが除外されている。ピーク修正後に演算された面積はSA’である。
【0070】
確認イオンピーク106においては、垂直線による分割109により、面積演算の対象から隣接ピークが除外されている。ピーク修正後に演算された面積はSB’である。ピーク修正前においては、保持時間Taが特定されていたが、ピーク修正後においては、保持時間Ta’が特定されている。
【0071】
チャートの観察を通じて、ピーク修正が必要なピークセットを容易に特定でき、また、ピーク修正の結果を容易に確認することが可能である。
【0072】
図9には、実施形態に係るピーク評価方法がフローチャートとして示されている。S10では、試料から分離された複数の化合物に対する質量分析が実施される。これにより、定量イオンクロマトグラム及び確認イオンクロマトグラムからなる抽出イオンクロマトグラムセットが生成される。
【0073】
S12では、定量イオンクロマトグラム及び確認イオンクロマトグラムのそれぞれに対してピーク検出が適用される。S14では、化合物ごとに、保持時間が特定され、またIQ比が演算される。それに続いて、化合物ごとに、第1誤差及び第2誤差からなる誤差ペアが演算される。S16では、複数の化合物に対応する複数の誤差ペアに基づいて、二次元座標系上に複数の表示要素つまり複数の点がプロットされる。これによりチャートが生成される。
【0074】
S18では、チャートを観察したユーザーによりピーク修正の要否が判断される。その必要が判断された場合、S20において、ユーザーの指示に従うピーク修正が実施される。その後、S14において、第1誤差及び第2誤差が再演算され、S16において、チャートが更新される。修正対象が無くなるまでピーク修正が繰り返される。ピーク修正が不要になった時点で、本処理が終了する。
【0075】
上記の実施形態によれば、チャートの観察を通じて、複数の化合物から得られた複数のピークセットの評価結果を一目で把握することが可能となる。また、チャートの観察を通じて、複数の化合物から得られた複数のピークセットの評価結果それ全体の傾向を把握することが可能となる。更に、チャートの観察を通じて、ピーク修正の対象を容易に特定でき、ピーク評価結果の妥当性を確認できる。
【0076】
なお、上記のピーク評価方法をダイオキシンの定量に応用してもよい。その場合に、上記のピーク比に代えて、異性体間のピーク比を採用してもよい。上記のピーク評価方法を、定量条件の妥当性の評価に利用してもよいし、組成推定において化合物の絞り込みに利用してもよいし、質量分析装置の動作の検証に利用してもよい。
【符号の説明】
【0077】
10 測定部、14 ガスクロマトグラフ、15 質量分析装置、12 情報処理装置、24 情報処理部、38 保持時間判定部、40 IQ比演算部、42 第1誤差演算部、44 第2誤差演算部、46 評価部、48 表示処理部(第3処理部)、50 チャート生成部、200 第1処理部、202 第2処理部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9