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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025103097
(43)【公開日】2025-07-09
(54)【発明の名称】乾燥パスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20250702BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/109 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220197
(22)【出願日】2023-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100130661
【弁理士】
【氏名又は名称】田所 義嗣
(72)【発明者】
【氏名】千葉 勇太
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA06
4B046LB03
4B046LC01
4B046LE02
4B046LE05
4B046LG29
4B046LP01
4B046LP22
4B046LP34
4B046LP41
4B046LP51
4B046LQ02
4B046LQ04
(57)【要約】
【課題】適度な硬さがありモチモチとした食感の乾燥パスタが得られる乾燥パスタの製造方法を提供すること。
【解決手段】原料として体積基準の粒度分布における20%粒子径(D20)が170μm以上270μm以下、40%粒子径(D40)が270μm以上330μm以下、60%粒子径(D60)が330μm以上380μm以下であるデュラム小麦粉を50質量%以上80質量%以下含み、残余を国内産中力小麦粉からなる穀粉原料を使用し、乾燥開始から安定化工程が終了するまでの平均雰囲気温度が77℃以上82℃以下であることを特徴とする乾燥パスタの製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として体積基準の粒度分布における20%粒子径(D20)が170μm以上270μm以下、40%粒子径(D40)が270μm以上330μm以下、60%粒子径(D60)が330μm以上380μm以下であるデュラム小麦粉を50質量%以上80質量%以下含み、残余を国内産中力小麦粉からなる穀粉原料を使用し、乾燥開始から安定化工程が終了するまでの平均雰囲気温度が77℃以上82℃以下であることを特徴とする乾燥パスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥パスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥パスタの一般的な製造方法は(1)デュラム・セモリナに水を加え混捏して生地を調製し、これをダイスから押し出し麺線とする工程(2)得られた麺線を含水量13質量%程度の状態かつ麺線中の水分勾配がない状態とする乾燥および安定化工程(3)雰囲気温度を下げ製品の品温を室温に戻す冷却工程の3つに分けることができる。
上記の3つの工程を経て得られる乾燥パスタは一般的にプリッとした適度に硬い食感が特徴である。
前記(2)の乾燥および安定化工程は麺線の、ひび割れ等を防ぐため乾燥開始から雰囲気温度を徐々に上げて45℃~90℃で3時間~48時間程度行っている。
一方、生パスタは、乾燥せず製品の含水量が30質量%を超えるため乾燥パスタのような長期保存には向かないが、モチモチとした食感が特徴である。
【0003】
乾燥パスタでも生パスタのようなモチモチとした食感を提供できるよう、様々な工夫がなされているが、好まれてきた乾燥パスタらしいプリッとした適度に硬い食感が失われ、製品が柔らかい食感となりやすく、消費者に好まれない傾向があった。
乾燥パスタにおいて、生パスタのようなモチモチとした食感を得る方法として、例えば、生麺を調湿乾燥処理により水分含量15質量%以下に乾燥して乾麺類を製造する方法において、麺の水分含量が24~17質量%になるまでは、マイクロ波照射処理と調湿乾燥処理とを併用して生麺を乾燥させることを特徴とする乾麺類の製造方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
また、デュラム小麦セトデュールのセモリナ粉及び/又は小麦粉を使用したパスタ類の製造方法であって、前記セモリナ粉及び小麦粉の蛋白質含有量が10.5質量%以上であるパスタ類の製造方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-50280号公報
【特許文献2】特開2018-186793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、適度な硬さがありモチモチとした食感の乾燥パスタが得られる乾燥パスタの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、乾燥パスタの原料及び製造工程では乾燥方法を限定することにより、適度な硬さがありモチモチとした食感の乾燥パスタが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、原料として体積基準の粒度分布における20%粒子径(D20)が170μm以上270μm以下、40%粒子径(D40)が270μm以上330μm以下、60%粒子径(D60)が330μm以上380μm以下であるデュラム小麦粉を50質量%以上80質量%以下含み、残余を国内産中力小麦粉からなる穀粉原料を使用し、乾燥開始から安定化工程が終了するまでの平均雰囲気温度が77℃以上82℃以下であることを特徴とする乾燥パスタの製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の乾燥パスタの製造方法により適度な硬さがありモチモチとした食感の乾燥パスタを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
<デュラム小麦粉の粒度>
本発明のデュラム小麦粉は、デュラム小麦を原料とし、粉砕、篩分け、純化等の工程を組み合わせて得ることができるが、市販のデュラム・セモリナを空気分級や篩分けによって粒度を調整することでも得ることができる。
本発明で使用するデュラム小麦粉の粒度分布はD20が170μm以上270μm以下、D40が270μm以上330μm以下、D60が330μm以上380μm以下である。
より優れた食感を得るために、好ましい粒度分布としてはD20が200μm以上265μm以下、D40が285μm以上320μm以下、D60が340μm以上370μm以下、さらに好ましくはD20が230μm以上260μm以下、D40が300μm以上310μm以下、D60が350μm以上360μm以下である。
本発明において前記粒度分布より粒度が粗いデュラム小麦粉を使用した場合、モチモチした食感は得られるが食感が柔らかくなり適度な硬さが得られず不適である。
また、前記粒度分布より粒度が細かいデュラム小麦粉を使用した場合、麺の食感は適度な硬さとなるが、モチモチした食感が得られないため不適である。
なお、本明細書において粒度分布及び粒径は体積基準であり、D20は粒子径積算分布曲線において粒子の小さい方から積算した積算20%における粒径(20%粒子径)、D40、D60は同じく積算40%、60%における粒径を表す。
体積基準の粒子径の測定は、公知のレーザー回折・散乱法で測定することができ、具体的には例えば粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、商品名「MT3000」)等を使用することができる。
【0009】
<国内産中力小麦粉なる穀粉原料及びデュラム小麦粉の配合量>
本発明で使用する穀粉原料は国内産中力小麦を原料として得られる小麦粉であり、これらを原料としたうどんはモチモチとした食感になることが知られている。
原料となる国内産中力小麦の品種としては、例えば、アブクマワセ、あやひかり、イワイノダイチ、キタカミコムギ、きたほなみ、きたもえ、きぬあかり、きぬあずま、きぬいろは、きぬの波、キヌヒメ、コユキコムギ、さとのそら、さぬきの夢2000、さぬきの夢2009、しゅんよう、シラサギコムギ、シラネコムギ、シロガネコムギ、タイセツコムギ、ダイチノミノリ、タクネコムギ、タマイズミ、チクゴイズミ、チホクコムギ、つるぴかり、ナンブコムギ、ニシホナミ、ネバリゴシ、バンドウワセ、ふくさやか、ふくほのか、ホクシン、ホロシリコムギ、春のかがやき、農林26号、農林61号等を挙げることができる。
これらの国内産中力小麦は単独で、又は複数混合して使用することができる。
なお、本願発明において麺用粉の原料として輸入されているオーストラリア産の麺用小麦( Australian Standard White(オーストラリア スタンダード ホワイト)、以下「ASW」ともいう)等を原料とする外国産中力小麦粉を使用した場合、麺に適度な硬さは感じられるが、モチモチ感が弱く、不適である。
【0010】
本願発明において、穀粉原料中、デュラム小麦粉の配合量は、デュラム小麦粉が50質量%以上80質量%以下であり、残余は国内産中力小麦粉である。
例えば、穀粉原料中デュラム小麦粉が50質量%の場合、国内産中力小麦粉は50質量%となる。
デュラム小麦粉の配合量が80質量%を超えると、モチモチした食感が劣るため不適である。
デュラム小麦粉の配合量が50質量%未満では、モチモチした食感となるが柔らかい食感となり不適である。
【0011】
本発明のパスタ類の製造方法においては、前記デュラム小麦粉や中力小麦粉以外にも、必要に応じて、大麦粉、米粉、そば粉等などの副穀粉類;食塩、澱粉、鶏卵粉、増粘剤、酒精、乳化油脂、乳粉末、水等、通常パスタの製造に用いる副原料を使用することができる。
【0012】
<乾燥温度>
乾燥パスタは前記のとおり含水量が13質量%以下、かつ麺線中の水分勾配がなくなるよう乾燥および安定化工程を行うことで製造している。
このとき、麺線の、ひび割れ等を防ぐため雰囲気温度を徐々に上げて45℃以上90℃以下で3時間以上48時間以下程度、乾燥および安定化工程を行っている。
その後、冷却工程で雰囲気温度を下げ、品温を室温程度にしている。
最終的な乾燥パスタの水分は13質量%以下である。
本発明では、乾燥開始から安定化が終了するまでの平均雰囲気温度が77℃以上82℃以下となるように行う。
平均雰囲気温度が82℃を超えると食感が硬くなりすぎ不適である。
また、77℃未満であると食感が柔らかすぎ適度な硬さが得られず不適である。
なお、平均雰囲気温度は、時間平均であり、例えば、乾燥開始から安定化行程が終了するまでの雰囲気温度が40℃で5時間、80℃で5時間の場合、平均雰囲気温度は60℃となる。
【0013】
本発明の乾燥パスタの製造方法では、前記条件以外の限定条件は特になく、従来の乾燥パスタの製造方法が使用できる。
製造した乾燥パスタの保存、喫食方法も従来の乾燥パスタと同様でよく特に限定はない。
【実施例0014】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[デュラム小麦粉の粒度]
同一原料由来の表1に示す粒度のデュラム小麦粉と、国内産中力小麦粉(きたほなみを原料とする)を表1に示す割合で配合した穀粉原料100質量部に水を30質量部加え麺用ミキサーで10分間ミキシングして生地を調製した(実施例1~2、比較例1~2)。
なお、参考例1は市販のデュラム小麦粉を使用して実施例1と同様に生地を調製した。
表1中、粒度の単位はμmであり、配合率の単位は質量%である。
この生地を約80kPaの真空度に減圧しつつ、マカロニ類成形機にて孔径約1.9mmのロングパスタ用ダイスから100bar前後で押出し、生パスタ麺線を得た。
これを竿にかけ、乾燥機内で麺線中の水分勾配がなく、かつ含水量が11質量%になるよう直径1.7mmの乾燥パスタを製造した。
前記乾燥および安定化工程は平均雰囲気温度79℃となるよう、雰囲気温度45℃から1時間かけ81℃まで昇温し、その雰囲気温度で8時間保持した。その後、雰囲気温度を下げて品温が室温になるまで冷却した。
得られた乾燥パスタを水分値が62質量%になるよう茹で、粗熱をとった後、以下の評価基準で参考例1をコントロールとして10名のパネラーにより評価を行った。評価の全項目が4点以上のものを合格とした。
・食感(硬さ)
5点 非常に適度な硬さで、非常に良い
4点 適度な硬さで、良い
3点 普通
2点 やや硬すぎか、やや柔らかすぎで、悪い
1点 硬すぎか、柔らかすぎで非常に悪い
・食感(モチモチ感)
5点 非常に適度なモチモチ感で、非常に良い
4点 適度なモチモチ感で、良い
3点 普通
2点 モチモチ感がほとんどなく、悪い
1点 モチモチ感がなく、非常に悪い
【0015】
【表1】
【0016】
実施例1において、デュラム小麦粉と国内産中力小麦粉の配合割合を表2に示すとおり変更した以外は実施例1と同様にして評価を行った。
表2中、配合割合の単位は質量%である。
【0017】
【表2】
【0018】
実施例1において、乾燥および安定化工程中の平均雰囲気温度を表3に示すとおり変更した以外は実施例1と同様にして評価を行った。
【0019】
【表3】
【0020】
実施例1において、中力小麦粉の原料小麦を表4に示すとおり変更した以外は実施例1と同様にして評価を行った。
【0021】
【表4】
【0022】
得られた評価結果を表5、表6に示す。
【0023】
【表5】
【0024】
【表6】
【0025】
前記実施例より、粒度分布が細かいとき、満足できるモチモチ感が得られず、好ましくなかった(比較例1)。
前記実施例より粒度分布が粗いときは、麺が柔らかくなる傾向があり、満足できる硬さが得られず、好ましくなかった(比較例2)。
デュラム小麦粉の配合率が50質量%未満の場合、麺が柔らかくなる傾向があり、満足できる硬さが得られず、好ましくなかった(比較例3)。
デュラム小麦粉の配合率が80%を超えると、満足できるモチモチ感が得られず、好ましくなかった(比較例4)。
平均雰囲気温度が77℃未満では麺が柔らかくなる傾向があり、満足できる硬さが得られず、好ましくなかった(比較例5)。
平均雰囲気温度が82℃を超えると、麺が硬くなりすぎる傾向があるだけでなく、満足できるモチモチ感も得られないため、好ましくなかった(比較例6)。
原料小麦の産地が外国産のとき、満足できるモチモチ感が得られず、好ましくなかった(比較例7)。