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特開2025-104852車両制御装置、車両制御方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025104852
(43)【公開日】2025-07-10
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20250703BHJP
【FI】
B60L15/20 J
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023222996
(22)【出願日】2023-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】山口 敬文
(72)【発明者】
【氏名】川崎 雄大
【テーマコード(参考)】
5H125
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AB03
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125CD02
5H125DD06
5H125EE08
5H125EE42
5H125EE44
(57)【要約】
【課題】鞍乗り型車両の発進時における操作性を向上させること。
【解決手段】車両制御装置は、鞍乗り型車両が停止しており且つブレーキおよびアクセルが同時に操作された状態において、ブレーキの操作が解除されて鞍乗り型車両が発進するときに、アクセルの操作量に応じたモータの目標トルクを設定するトルク設定部(112)と、鞍乗り型車両が発進した後の所定の初動時間の経過時に、設定された目標トルクに到達するように、モータのトルクを徐々に増大させるトルク制御部(114)と、初動時間の間におけるモータの回転数に応じて、初動時間の長さを変更する時間調整部(113)と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗り型車両(1)が停止しており且つブレーキ(3)およびアクセル(2)が同時に操作された状態において、前記ブレーキ(3)の操作が解除されて前記鞍乗り型車両(1)が発進するときに、前記アクセル(2)の操作量に応じたモータ(5)の目標トルクを設定するトルク設定部(112)と、
前記鞍乗り型車両(1)が発進した後の所定の初動時間の経過時に、設定された前記目標トルクに到達するように、前記モータ(5)のトルクを徐々に増大させるトルク制御部(114)と、
前記初動時間の間における前記モータ(5)の回転数に応じて、前記初動時間の長さを変更する時間調整部(113)と、
を備える、車両制御装置。
【請求項2】
前記時間調整部(113)は、前記鞍乗り型車両(1)が前進するときの前記モータ(5)の回転数を正とした場合において、前記初動時間の間における前記モータ(5)の回転数が負である場合、前記初動時間を短縮する、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記時間調整部(113)は、前記初動時間の間における前記モータ(5)の回転数の増加率が所定のしきい値以上である場合、前記初動時間を延長する、
請求項1または2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記鞍乗り型車両(1)の斜度および前記鞍乗り型車両(1)の乗員の重量の少なくとも一つに応じた前記アクセル(2)の操作量を通知する通知部(116)をさらに備える、
請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項5】
コンピュータが、
鞍乗り型車両(1)が停止しており且つブレーキ(3)およびアクセル(2)が同時に操作された状態において、前記ブレーキ(3)の操作が解除されて前記鞍乗り型車両(1)が発進するときに、前記アクセル(2)の操作量に応じたモータ(5)の目標トルクを設定し、
前記鞍乗り型車両(1)が発進した後の所定の初動時間の経過時に、設定された前記目標トルクに到達するように、前記モータ(5)のトルクを徐々に増大し、
前記初動時間の間における前記モータ(5)の回転数に応じて、前記初動時間の長さを変更する、
車両制御方法。
【請求項6】
コンピュータに、
鞍乗り型車両(1)が停止しており且つブレーキ(3)およびアクセル(2)が同時に操作された状態において、前記ブレーキ(3)の操作が解除されて前記鞍乗り型車両(1)が発進するときに、前記アクセル(2)の操作量に応じたモータ(5)の目標トルクを設定させ、
前記鞍乗り型車両(1)が発進した後の所定の初動時間の経過時に、設定された前記目標トルクに到達するように、前記モータ(5)のトルクを徐々に増大させ、
前記初動時間の間における前記モータ(5)の回転数に応じて、前記初動時間の長さを変更させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電動モータを駆動源として走行する鞍乗り型電動車両において、走行の安全性を高めるための様々な施策が行われている。例えば、電動スクータにおいて、ブレーキが動作されていない場合はスロットルを操作しても発進不可能とする誤発進防止装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、所定の国・地域においては、車両は、ブレーキをかけたときに自動的に電動モータへの電源供給を遮断する装置を1つ取り付けていなければならないという電源制御に関するルールが定められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-328970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような電源制御に関するルールに沿って設計された鞍乗り型車両の発進に際し、乗員がブレーキをかけ(ブレーキオン)且つアクセルを操作している(アクセルオン)状態から、ブレーキの操作を解除した(ブレーキオフ)瞬間には、車両に制動力も駆動力も働かない状態が生じる。この結果、登坂発進の場合、アクセル開度が小さすぎると車両がずり下がる可能性がある。一方、アクセル開度が大きすぎる場合はブレーキオフした瞬間に急に駆動力が加わりこととなり、乗員は急な加速感を感じ乗り味が悪くなる。
【0005】
本願の実施形態は上記の点に鑑みてなされたものであり、鞍乗り型車両の発進時における操作性を向上させることができる車両制御装置、車両制御方法、およびプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る車両制御装置、車両制御方法、およびプログラムは、以下の構成を採用した。
(1)この発明の一態様の車両制御装置は、鞍乗り型車両(1)が停止しており且つブレーキ(3)およびアクセル(2)が同時に操作された状態において、前記ブレーキ(3)の操作が解除されて前記鞍乗り型車両(1)が発進するときに、前記アクセル(2)の操作量に応じたモータ(5)の目標トルクを設定するトルク設定部(112)と、前記鞍乗り型車両(1)が発進した後の所定の初動時間の経過時に、設定された前記目標トルクに到達するように、前記モータ(5)のトルクを徐々に増大させるトルク制御部(114)と、前記初動時間の間における前記モータ(5)の回転数に応じて、前記初動時間の長さを変更する時間調整部(113)と、を備えるものである。
【0007】
(2)の態様は、上記(1)の態様に係る車両制御装置において、前記時間調整部(113)は、前記鞍乗り型車両(1)が前進するときの前記モータ(5)の回転数を正とした場合において、前記初動時間の間における前記モータ(5)の回転数が負である場合、前記初動時間を短縮するものである。
【0008】
(3)の態様は、上記(1)または(2)の態様に係る車両制御装置において、前記時間調整部(113)は、前記初動時間の間における前記モータ(5)の回転数の増加率が所定のしきい値以上である場合、前記初動時間を延長するものである。
【0009】
(4)の態様は、上記(1)から(3)のいずれかの態様に係る車両制御装置において、前記鞍乗り型車両(1)の斜度および前記鞍乗り型車両(1)の乗員の重量の少なくとも一つに応じた前記アクセル(2)の操作量を通知する通知部(116)をさらに備えるものである。
【0010】
(5)この発明の他の態様の車両制御方法は、コンピュータが、鞍乗り型車両(1)が停止しており且つブレーキ(3)およびアクセル(2)が同時に操作された状態において、前記ブレーキ(3)の操作が解除されて前記鞍乗り型車両(1)が発進するときに、前記アクセル(2)の操作量に応じたモータ(5)の目標トルクを設定し、前記鞍乗り型車両(1)が発進した後の所定の初動時間の経過時に、設定された前記目標トルクに到達するように、前記モータ(5)のトルクを徐々に増大し、前記初動時間の間における前記モータ(5)の回転数に応じて、前記初動時間の長さを変更するものである。
【0011】
(6)この発明の他の態様のプログラムは、コンピュータに、鞍乗り型車両(1)が停止しており且つブレーキ(3)およびアクセル(2)が同時に操作された状態において、前記ブレーキ(3)の操作が解除されて前記鞍乗り型車両(1)が発進するときに、前記アクセル(2)の操作量に応じたモータ(5)の目標トルクを設定させ、前記鞍乗り型車両(1)が発進した後の所定の初動時間の経過時に、設定された前記目標トルクに到達するように、前記モータ(5)のトルクを徐々に増大させ、前記初動時間の間における前記モータ(5)の回転数に応じて、前記初動時間の長さを変更させるものである。
【発明の効果】
【0012】
上述した(1)から(6)の構成によれば、鞍乗り型車両の発進時における操作性を向上させることができる。
また、上述した(2)の構成によれば、ブレーキオフ時にトルクが不足している場合は、速やかにトルクを増加させることができるので、例えば坂道で車両が大きくずり下がることを抑制できる。
また、上述した(3)の構成によれば、ブレーキオフ時に必要以上のトルクが出力された場合は、目標トルクまでゆっくりとトルクを増大させることができるため、急な加速感を抑制できる。
また、上述した(4)の構成によれば、乗員は、適切なアクセルの操作量を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る自動二輪車の左側面図である。
図2】実施形態に係る車両制御装置の機能ブロック図である。
図3】実施形態に係る車両制御装置の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図4】実施形態に係る自動二輪車の発進時における時間とトルクとの関係の一例を示すグラフである。
図5】実施形態に係る自動二輪車の発進時における時間とトルクとの関係の他の例(回転数<0)を示すグラフである。
図6】実施形態に係る自動二輪車の発進時における時間とトルクとの関係の他の例(回転数≧しきい値)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図面を参照しながら本願の実施形態に係る車両制御装置、車両制御方法、およびプログラムについて説明する。
【0015】
<車両全体の構成>
図1は、実施形態に係る鞍乗り型車両の一例として、スクータ型の自動二輪車1を示す。図1において、X軸は車両長さ方向を示し、Y軸は車両高さ方向を示し、Z軸は車幅方向を示す。自動二輪車1は、操向輪である前輪と、駆動輪である後輪とを備えている。前輪は、フロントフォークに支持され、バーハンドル(操向ハンドル)によって操向可能である。バーハンドルの左右両側には、グリップ部2およびブレーキ3が設けられている。乗員(運転者)は、例えば、右のグリップ部2に設けられたスロットルグリップ(アクセル2)を操作することで、自動二輪車1に駆動力を生じさせることができる。また、乗員は、ブレーキ3の左右の少なくとも一方を操作することで、自動二輪車1に制動力を生じさせることができる。
【0016】
後輪は、スイングアーム7の後端部に支持され、自動二輪車1の走行用の駆動力を発生するモータ5(電気モータ)およびモータ5の駆動力を減速する減速機構6によって駆動可能である。モータ5は、バッテリ4から供給される電力により駆動する。モータ5は、駆動軸を車幅方向に沿わせて配置されている。モータ5は、駆動軸と一体回転するロータと、ロータの外周を囲うとともにユニットケースに固定されるステータと、を備えている(何れも不図示)。モータ5は、例えばVVVF(variable voltage variable frequency)制御による可変速駆動がなされる。モータ5は、無段変速機を有する如く変速制御されるが、これに限らない。モータ5は、有段変速機を有する如く変速制御されてもよい。
【0017】
減速機構6は、モータ5の駆動軸に一体回転可能に設けられる小径ギヤと、小径ギヤに噛み合う大径ギヤと、を備えている(何れも不図示)。大径ギヤは、モータ駆動軸の後方でモータ駆動軸と平行に配置された出力軸に一体回転可能に設けられる。出力軸の軸方向一端部(例えば左端部)は、ユニットケースの外側に突出し、この突出部分と後輪とが、例えば無端状のベルト又はチェーンを用いた伝動装置を介して動力伝達可能に連結される。なお、モータの出力軸が後輪の回転軸にベルトやチェーンを介することなく直接動力伝達可能とされても良い。
【0018】
バッテリ4は、シートの下方に搭載されている。バッテリ4は、複数(例えばX軸方向の前後二つ)の単位バッテリ4a,4bを備えている。複数の単位バッテリ4a,4bは、互いに同一構成を有する。単位バッテリ4a,4bは、互いに平行に傾斜し、X軸方向に沿って一定間隔を空けて配置されている。バッテリ4は、単位バッテリ4a,4bを直列に結線することで、所定の高電圧を発生させる。単位バッテリ4a,4bは、それぞれ充放電可能なエネルギーストレージとして、例えばリチウムイオンバッテリで構成されている。
【0019】
自動二輪車1の車体本体には、制御ユニットであるPCU(Power control unit)10が設けられている。PCU10は、上下幅を抑えた偏平の直方体状の外形を有している。PCU10は、バッテリ4から供給される電力をモータ5に供給するための制御や、アクセル2の操作量(アクセル開度)に応じてモータ5を駆動する制御を行う。
【0020】
<車両制御装置の構成>
図2は、実施形態に係る車両制御装置100の機能ブロック図である。車両制御装置100は、例えば、ECU(Electric Control Unit)である。車両制御装置100およびPDU(Power Driver Unit)200は、一体の制御ユニットであるPCU10を構成している。PDU200は、バッテリ4から供給される直流電流を交流に変換してモータ5に供給するインバータを備えている。PDU200は、モータ5のステータ巻線に対する通電を制御する。モータ5は、PDU200による制御に応じて力行運転を行い、自動二輪車1を走行させる。PDU200の作動は車両制御装置100に制御されている。
【0021】
車両制御装置100は、例えば、制御部110と、記憶部120とを備える。制御部110は、例えば、取得部111と、トルク設定部112と、時間調整部113と、トルク制御部114と、電源制御部115と、通知部116とを備える。制御部110に含まれる各機能部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサ(コンピュータ)がプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め記憶部120(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体(非一過性の記憶媒体)がドライブ装置に装着されることで記憶部120にインストールされてもよい。
【0022】
取得部111は、例えば、ブレーキセンサ20、アクセルセンサ30、回転数センサ40、斜度センサ50、重量センサ60の各々から、検出信号を取得する。取得部111は、ブレーキセンサ20(フロントブレーキセンサ、リヤブレーキセンサ)から、乗員によるブレーキ3の操作の検出信号を取得する。ブレーキセンサ20は、例えば、液圧センサまたはストロークセンサ等である。また、取得部111は、アクセルセンサ(アクセルポジションセンサ)30から、乗員によるアクセル2の操作の検出信号を取得する。アクセルセンサ30は、例えば、無接点型のホール素子による磁気センサ等である。また、取得部111は、回転数センサ40から、自動二輪車1の速度に関する状態量(モータ5の回転数)の検出信号を取得する。回転数センサ40は、例えば、モータ5の回転数センサである。
【0023】
また、取得部111は、斜度センサ50から、自動二輪車1の傾きの検出信号を取得する。斜度センサ50は、例えば、車両本体に設けられたジャイロスコープである。また、取得部111は、重量センサ60から、自動二輪車1の乗員の重量および自動二輪車1に搭載された荷物の重量の検出信号を取得する。重量センサ60は、例えば、シートの下方に設けられたロードセルである。
【0024】
トルク設定部112は、取得されたアクセルセンサ30の検出信号と、予め記憶部120に記憶されたトルク参照情報TD(トルクマップ)とに基づいて、モータ5に生じさせるトルクを設定する。トルク参照情報TDは、アクセルの操作量(アクセル開度)とモータ5に生じさせるトルクとの関係を予め定義したものである。また、トルク設定部112は、乗員がブレーキをかけ(ブレーキオン)且つアクセルを操作している(アクセルオン)状態から、ブレーキの操作を解除して(ブレーキオフ)発進を行うときは(初動動作を行うときは)、取得されたアクセルセンサ30の検出信号と、予め記憶部120に記憶されたトルク参照情報TDとに基づいて、ブレーキオフした後の所定の初動時間(例えば、100ms)の経過時にモータ5に生じさせるトルク(目標トルク)を設定する。
【0025】
トルク設定部112は、「トルク設定部」の一例である。すなわち、トルク設定部112は、鞍乗り型車両(1)が停止しており且つブレーキ(3)およびアクセル(2)が同時に操作された状態において、ブレーキ(3)の操作が解除されて鞍乗り型車両(1)が発進するときに、アクセル(2)の操作量に応じたモータ(5)の目標トルクを設定する。
【0026】
時間調整部113は、初動時間内において、取得された回転数センサ40の検出信号(モータ回転数)に応じて、初動時間の長さを調整する。時間調整部113は、初動時間内において、取得された回転数センサ40の検出信号が示すモータ回転数の正負を判定し、モータ回転数の負である場合には、初動時間の長さを短縮する。一方、時間調整部113は、初動時間内において、取得された回転数センサ40の検出信号が示すモータ回転数の上昇(単位時間あたりの増加率)を判定し(しきい値よりも大きいか否かを判定し)、モータ回転数の増加率が大きい場合には(しきい値よりも大きい場合には)、初動時間の長さを延長する。
【0027】
時間調整部113は、「時間調整部」の一例である。すなわち、時間調整部113は、初動時間の間における前記モータ(5)の回転数に応じて、初動時間の長さを変更する。また、時間調整部113は、鞍乗り型車両(1)が前進するときのモータの回転数を正とした場合において、初動時間の間におけるモータの回転数が負である場合、初動時間を短縮する。また、時間調整部(113)は、初動時間の間におけるモータの回転数の増加率が所定のしきい値以上である場合、初動時間を延長する。
【0028】
トルク制御部114は、設定されたトルク(目標トルク)に応じたトルクをモータ5に生じさせる制御を行う。トルク制御部114は、ブレーキオン且つアクセルオン状態からブレーキオフした場合の発進後には、トルクを徐々に増大させ、所定の初動時間の経過時に、モータ5に生じさせるトルクが目標トルクに到達するように、モータ5のトルク制御を行う。例えば、トルク制御部114は、単位時間(例えば10ms)ごとに、トルクを徐々に増大させる。
【0029】
トルク制御部114は、「トルク制御部」の一例である。すなわち、トルク制御部114は、鞍乗り型車両(1)が発進した後の所定の初動時間の経過時に、設定された目標トルクに到達するように、モータ(5)のトルクを徐々に増大させる。
【0030】
電源制御部115は、PDU200を制御し、バッテリ4がモータ5に供給する電力を制御する。また、電源制御部115は、ブレーキオン且つアクセルオン状態では、バッテリ4からモータ5への電源供給を遮断するように制御を行う。
【0031】
通知部116は、取得された斜度センサ50の検出信号や重量センサ60の検出信号と、予め記憶部120に記憶されたアクセル操作量参照情報ADとに基づいて、適切なアクセルの操作量を乗員に通知する。アクセル操作量参照情報ADは、斜度や重量と、適切なアクセルの操作量との関係を予め定義したものである。通知部116は、例えば、自動二輪車1の前方の乗員が視認可能な位置に配置された表示装置等に適切なアクセル開度を表示させることで、乗員に通知する。
【0032】
通知部116は、「通知部」の一例である。すなわち、通知部116は、鞍乗り型車両(1)の斜度および鞍乗り型車両(1)の乗員の重量の少なくとも一つに応じたアクセルの操作量を通知する。
【0033】
記憶部120は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)等により実現される。記憶部120には、例えば、トルク参照情報TD、アクセル操作量参照情報AD、プログラム、その他各種情報が格納される。
【0034】
<処理フロー>
次に、自動二輪車1がブレーキオン且つアクセルオンの状態からブレーキオフした場合の発進時おける車両制御装置100の処理について説明する。図3は、実施形態に係る車両制御装置100の処理の流れの一例を示すフローチャートである。図3では、自動二輪車1が坂道で停止している状態から発進する状況を例に挙げて説明する。
【0035】
まず、取得部111は、アクセルセンサ30の検出信号(アクセルデータ)およびブレーキセンサ20の検出信号(ブレーキデータ)を取得する(ステップS101)。ここでは、アクセルデータはその時点での乗員によるアクセルの操作量を示し、ブレーキデータは乗員によるブレーキの操作が解除されたオフ状態を示す。
【0036】
次に、トルク設定部112は、取得されたアクセルデータと、予め記憶部120に記憶されたトルク参照情報TDとに基づいて、モータ5に生じさせる目標トルクを設定する(ステップS103)。
【0037】
次に、トルク制御部114は、設定された目標トルクに応じたトルクをモータ5に生じさせる制御を行う(ステップS105)。図4は、実施形態に係る自動二輪車1の発進時における時間とトルクとの関係の一例を示すグラフである。図4において、実トルク値は、トルク制御部114の制御に応じてモータ5に生じるトルクである。指令トルク値は、乗員のアクセル操作量(乗員からの指令)に対応するトルクである。時間Tm_0は、ブレーキオン且つアクセルオンの状態からブレーキオフした時間(発進開始時間)を示す。時間Tm_ta(時間Tm_0~初動時間Tm_ta)は、初動時間(例えば、100ms)を示す。トルクTq_taは、目標トルクを示す。図4に示すように、トルク制御部114は、初動時間Tm_taの間は、トルクTqを0から徐々に増大させるように制御する。初動時間Tm_taの間は、トルク制御部114の制御に応じてモータ5に生じる実トルクは、指令トルク値よりも小さいものとなる。そして、初動時間Tm_ta経過後は、トルク制御部114は、指令トルク値と実トルク値とが一致するように制御を行う。
【0038】
すなわち、トルク制御部114は、ブレーキオン且つアクセルオン状態からブレーキオフした場合の発進後には、モータ5に生じさせるトルクを徐々に増大させ、所定の初動時間(例えば、100ms)の経過時に、トルクが目標トルクに到達するように、モータ5のトルク制御を行う。このようなトルク制御を行うことで、発進時の急な加速感を抑制することができる。
【0039】
次に、取得部111は、初動時間の間において、回転数センサ40の検出信号(回転数データ)を取得する(ステップS107)。次に、時間調整部113は、初動時間内において、取得された回転数データ(モータ回転数)に応じて、初動時間の長さを調整する。時間調整部113は、初動時間内において、取得されたモータ回転数の正負を判定(回転数<0であるか否かを判定)する(ステップS109)。
【0040】
時間調整部113は、初動時間内において、取得されたモータ回転数が負であると判定した場合(ステップS109;YES)、初動時間の長さを短縮する(ステップS111)。図5は、実施形態に係る自動二輪車1の発進時における時間とトルクとの関係の他の例(回転数<0)を示すグラフである。図5に示す例では、時間Tm_1において、モータ回転数が負(回転数<0)となっており、自動二輪車1のずり下がりが生じていると判定できる。このようにモータ回転数が負(回転数<0)となった場合、時間調整部113は、初動時間Tm_taを、初動時間Tm_taよりも短い初動時間Tm_ta1に変更することで、初動時間の長さを短縮する。このような初動時間の制御(短縮)を行うことで、ブレーキオフ時にトルクが不足している場合は、速やかにトルクを増加させることができるので、例えば、坂道で車両が大きくずり下がることを抑制できる。
【0041】
時間調整部113は、初動時間内において、取得されたモータ回転数が負ではないと判定した場合(ステップS109;NO)、モータ回転数の単位時間あたりの増加率がしきい値以上であるか否かを判定する(ステップS115)。時間調整部113は、初動時間内において、取得されたモータ回転数がしきい値以上であると判定した場合(ステップS115;YES)、初動時間の長さを延長する(ステップS117)。一方、時間調整部113は、初動時間内において、取得されたモータ回転数がしきい値以上ではないと判定した場合(ステップS115;NO)、初動時間の長さを変更しない。
【0042】
図6は、実施形態に係る自動二輪車1の発進時における時間とトルクとの関係の他の例(回転数≧しきい値)を示すグラフである。図6に示す例では、時間Tm_2において、モータ回転数の増加率がしきい値以上(回転数≧しきい値)となっている。このようにモータ回転数の増加率がしきい値以上となった場合、時間調整部113は、初動時間Tm_taを、初動時間Tm_taよりも長い初動時間Tm_ta2に変更することで、初動時間の長さを延長短縮する。このような初動時間の制御(延長)を行うことで、ブレーキオフ時に必要以上のトルクが出力された場合は、目標トルクまでゆっくりとトルクを増大させることができるため、急な加速感を抑制できる。
【0043】
次に、トルク制御部114は、モータ5のトルクが目標トルクに到達したか否かを判定する(ステップS113)。トルク制御部114は、モータ5のトルクが目標トルクに到達していないと判定した場合(ステップS113;NO)、ステップS109に戻り、以降の処理を繰り返す。一方、トルク制御部114は、モータ5のトルクが目標トルクに到達したと判定した場合(ステップS113;YES)、本フローチャートの処理を終了する。
【0044】
以上に説明したように、本実施形態に係る車両制御装置100は、鞍乗り型車両1が停止しており且つブレーキ3およびアクセル2が同時に操作された状態において、ブレーキ3の操作が解除されて鞍乗り型車両1が発進するときに、アクセル2の操作量に応じたモータ5の目標トルクを設定するトルク設定部112と、鞍乗り型車両1が発進した後の所定の初動時間の経過時に、設定された目標トルクに到達するように、モータ5のトルクを徐々に増大させるトルク制御部114と、初動時間の間におけるモータ5の回転数に応じて、初動時間の長さを変更する時間調整部113と、を備えることで、鞍乗り型車両1の発進時における操作性を向上させることができる。
【0045】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
2 グリップ部(アクセル)
3 ブレーキ
4 バッテリ
5 モータ
6 減速機構
7 スイングアーム
20 ブレーキセンサ
30 アクセルセンサ
40 回転数センサ
50 斜度センサ
60 重量センサ
100 車両制御装置
110 制御部
111 取得部
112 トルク設定部
113 時間調整部
114 トルク制御部
115 電源制御部
116 通知部
120 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6