(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025106430
(43)【公開日】2025-07-15
(54)【発明の名称】細胞保存材料
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20250708BHJP
【FI】
C12N1/00 L
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025063371
(22)【出願日】2025-04-07
(62)【分割の表示】P 2023173130の分割
【原出願日】2018-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2017173479
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(72)【発明者】
【氏名】畑中 大輔
(72)【発明者】
【氏名】林 寿人
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、細胞又は組織を非凍結状態で、良好な生存性を維持したまま保存する技術を提供することを課題とする。
【解決手段】脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類又はその塩を含有する液体組成物中で、細胞又は組織を非凍結状態で保存する。該酸性多糖類は、アルギン酸であり得る。該液体組成物は、カルシウムイオン等の金属カチオンを更に含有し得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞又は組織を非凍結状態で保存するための液体組成物、及び該液体組成物を用いた細胞又は組織の保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、iPS細胞や間葉系幹細胞等の幹細胞を利用した移植医療研究においては、細胞バ
ンクが幹細胞を大量に調製した上で、これを凍結保存し、各研究機関や医療機関は、当該細胞バンクのストックから所望の幹細胞を凍結保存された状態で取り寄せて、これを融解・起眠し、必要に応じて所望の細胞へ分化させた上で、種々の用途に供している。しかしながら、将来的に期待されている、自家移植体制を運営し、多数の他家細胞ストックを管理及び保管する細胞バンクシステムにおいては、細胞の凍結を前提とする現在の輸送技術では、移植に適した状態の細胞を大量且つ安定的に供給することが困難である。即ち、移植に際しては、凍結保存した細胞を融解して、培養し、必要に応じて目的の細胞まで分化させた上で、良好な状態の細胞を大量に提供する必要があるが、細胞を凍結した状態で輸送しなければならない場合、移植実施施設は、細胞を保存・管理する細胞バンクから凍結細胞を取り寄せて、該施設にて自前で大量培養を行わざるを得ない。そのため、移植実施施設が、細胞の大量培養設備(例えば、セルプロセシングセンター(CPC))を備える必
要があり、該設備を有していない施設では、移植医療を実施することが困難となってしまう。一方、細胞バンクは、通常、細胞を大量培養する技術や設備を有しているので、細胞バンク側で、移植に適した良好な状態の細胞を大量に調製した上で、得られた細胞を良好な状態を維持したまま移植実施施設に速やかに供給できれば、細胞の大量培養設備を有していない施設であっても、移植医療を実施することが可能となる。この課題を解決するには、凍結せずに大量の細胞を良好な状態を維持したまま保存、輸送する技術が不可欠である。
【0003】
脱アシル化ジェランガム(DAG)等の多糖類は、金属カチオン(例えばカルシウムイオ
ン等の二価金属カチオン)を介して集合することにより、水中で三次元ネットワーク(不定型な構造体)を形成する。この三次元ネットワークを含む液体培地中で細胞を培養すると、培地中の細胞は、この三次元ネットワークにトラップされ、沈まないため、振とう、回転操作等を要することなく、細胞を浮遊状態で均一に分散させたまま、培養する(浮遊静置培養する)ことが可能となる。また、液体培地の粘度を実質的に高めることなく、上述の三次元ネットワークを形成することが可能なため、該三次元ネットワークを含む培地組成物は、継代培養等における操作性にも優れている(特許文献1)。この浮遊静置培養
可能な培地組成物は、種々の細胞の増殖活性を亢進する等、様々な優れた特性を有しているので、再生医療、タンパク質等の大量生産等幅広い技術分野への応用が期待されている。
【0004】
特許文献2には、ナノファイバーを含む培地組成物を、細胞や組織の保存や輸送に用い
ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/017513号
【特許文献2】国際公開第2015/111686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、細胞又は組織を非凍結状態で、良好な生存性を維持したまま保存する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、脱アシル化ジェランガム及びアルギン酸を含む培地組成物中に懸濁することにより、細胞や組織を室温にて、良好な生存性を維持したまま長期間保存可能であることを見出した。該培地組成物中で、スフェアを保存すると、スフェア同士の凝集が回避され、スフェア内部のネクローシスの発生が抑制された。該培地組成物中では、輸送時の環境を想定した振動条件においても、細胞を室温にて良好な生存性を維持したまま長期間保存できた。これらの知見に基づき、更に検討を加えることにより、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記のとおりである:
[1]脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイ
ル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類又はその塩を含む、細胞又は組織を非凍結状態で保存するための液体組成物。
[2]該液体組成物中の脱アシル化ジェランガム又はその塩の濃度が、フリー体の脱アシ
ル化ジェランガム換算で、0.002~0.01 (w/v)%であり、該酸性多糖類又はその塩の濃度
が、フリー体換算で、0.004~0.1 (w/v)%であり、脱アシル化ジェランガム又はその塩に対する該酸性多糖類又はその塩の質量比が、フリー体換算で、1以上である、[1]記載の液体組成物。
[3]該酸性多糖類が、アルギン酸、ペクチン及びペクチン酸からなる群から選択される
いずれかである、[1]又は[2]記載の液体組成物。
[4]該酸性多糖類が、アルギン酸である、[3]記載の液体組成物。
[5]さらに、金属カチオンを含有する、[1]~[4]のいずれか記載の液体組成物。
[6]該金属カチオンが、カルシウムイオンである、[5]記載の液体組成物。
[7]該酸性多糖類又はその塩が、高圧蒸気滅菌処理されている、[1]~[6]のいずれ
か記載の液体組成物。
[8][1]~[7]のいずれか記載の液体組成物中で、細胞又は組織を非凍結状態で保存
することを含む、細胞又は組織の保存方法。
[9]該液体組成物中に浮遊した状態で細胞又は組織を保存する、[8]記載の方法。
[10]1℃~30℃にて、細胞又は組織を保存する、[8]又は[9]記載の方法。
[11]密閉した容器内で、細胞又は組織を保存する、[8]~[10]のいずれか記載の方
法。
[12]振動を伴う環境下で、細胞又は組織を保存する、[8]~[11]のいずれか記載の
方法。
[13]スフェアの状態の細胞を保存する、[8]~[12]のいずれか記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体組成物を用いることにより、細胞や組織を、例えば室温等にて、非凍結状態で、良好な生存性を維持したまま長期間保存することができる。本発明の液体組成物中でスフェアを保存すると、スフェア同士の凝集が回避され、スフェア内部のネクローシスの発生が抑制される。
【0010】
本発明の液体組成物は、細胞や組織の非凍結状態での輸送にも有用である。例えば、プレート上で細胞を接着培養し、これをそのまま輸送する場合、輸送中の振動により、細胞がプレートから剥離する等して、細胞が有する本来の機能が低下する場合があったが、本発明の液体組成物を用いると、細胞や組織を浮遊した状態で保持できるため、輸送中の振動によるプレートからの剥離等による細胞のダメージを回避し、細胞の本来の機能を維持した状態で、細胞や組織を保存および輸送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】保存前後のスフェアの形態を示す。左図は、保存開始時におけるスフェアの形態を示す。中央図は、保存7日後のスフェアの形態を示す。右図は、保存7日後において維持された浮遊状態のスフェアを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、更に詳細に本発明を説明する。
【0013】
液体組成物
本発明は、細胞又は組織を非凍結状態で保存するための液体組成物を提供する。当該液体組成物は、生存を維持したまま、細胞や組織を非凍結状態で保存することを可能にする。
【0014】
本発明における細胞とは、動物或いは植物を構成する最も基本的な単位であり、その要素として細胞膜の内部に細胞質と各種の細胞小器官をもつものである。この際、DNAを内
包する核は、細胞内部に含まれても含まれなくてもよい。例えば、本発明における動物由来の細胞には、精子や卵子などの生殖細胞、生体を構成する体細胞、幹細胞、前駆細胞、生体から分離された癌細胞、生体から分離され不死化能を獲得して体外で安定して維持される細胞(細胞株)、生体から分離され人為的に遺伝子改変が成された細胞、生体から分離され人為的に核が交換された細胞等が含まれる。生体を構成する体細胞の例としては、以下に限定されるものではないが、線維芽細胞、骨髄細胞、Bリンパ球、Tリンパ球、好中球、赤血球、血小板、マクロファージ、単球、骨細胞、骨髄細胞、周皮細胞、樹枝状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、間葉細胞、上皮細胞、表皮細胞、内皮細胞、血管内皮細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経系細胞、グリア細胞、ニューロン、オリゴデンドロサイト、マイクログリア、星状膠細胞、心臓細胞、食道細胞、筋肉細胞(たとえば、平滑筋細胞または骨格筋細胞)、膵臓ベータ細胞、メラニン細胞、造血前駆細胞、及び単核細胞等が含まれる。当該体細胞は、例えば皮膚、腎臓、脾臓、副腎、肝臓、肺、卵巣、膵臓、子宮、胃、結腸、小腸、大腸、膀胱、前立腺、精巣、胸腺、筋肉、結合組織、骨、軟骨、血管組織、血液、心臓、眼、脳または神経組織などの任意の組織から採取される細胞が含まれる。幹細胞とは、自分自身を複製する能力と他の複数系統の細胞に分化する能力を兼ね備えた細胞であり、その例としては、以下に限定されるものではないが、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経
幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞などが含まれる。前駆細胞とは、前記幹細胞から特定の体細胞や生殖細胞に分化する途中の段階にある細胞である。癌細胞とは、体細胞から派生して無限の増殖能を獲得した細胞である。細胞株とは、生体外での人為的な操作により無限の増殖能を獲得した細胞であり、その例としては、以下に限定されるものではないが、CHO
(チャイニーズハムスター卵巣細胞株)、HCT116、Huh7、HEK293(ヒト胎児腎細胞)、HeLa(ヒト子宮癌細胞株)、HepG2(ヒト肝癌細胞株)、UT7/TPO(ヒト白血病細胞株)、MDCK、MDBK、BHK、C-33A、HT-29、AE-1、3D9、Ns0/1、Jurkat、NIH3T3、PC12、S2、Sf9、Sf21、High Five(登録商標)、Vero等が含まれる。
【0015】
本発明における植物由来の細胞には、植物体の各組織から分離した細胞が含まれ、当該細胞から細胞壁を人為的に除いたプロトプラストも含まれる。
【0016】
本発明における組織とは、何種類かの異なった性質や機能を有する細胞が一定の様式で集合した構造の単位であり、動物の組織の例としては、上皮組織、結合組織、筋組織、神経組織等が含まれる。植物の組織の例としては、分裂組織、表皮組織、同化組織、葉肉組織、通道組織、機械組織、柔組織、脱分化した細胞塊(カルス)等が含まれる。
【0017】
本発明の液体組成物中で保存する細胞又は組織は、前記に記載した細胞又は組織から任意に選択することができる。細胞又は組織は、動物或いは植物体より直接採取することができる。細胞又は組織は、特定の処理を施すことにより動物或いは植物体から誘導させたり、成長させたり、または形質転換させた後に採取してもよい。この際、当該処理は生体内であっても生体外であってもよい。動物としては、例えば魚類、両生類、爬虫類、鳥類、汎甲殻類、六脚類、哺乳類等が挙げられる。哺乳動物の例としては、限定されるものではないが、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、リス、ハムスター、ハタネズミ、カモノハシ、イルカ、クジラ、イヌ、ネコ、ヤギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ゾウ、コモンマーモセット、リスザル、アカゲザル、チンパンジーおよびヒトが挙げられる。植物としては、採取した細胞又は組織が液体培養可能なものであれば、特に限定はない。例えば、生薬類(例えば、サポニン、アルカロイド類、ベルベリン、スコポリン、植物ステロール等)を生産する植物(例えば、薬用人参、ニチニチソウ、ヒヨス、オウレン、ベラドンナ等)や、化粧品・食品原料となる色素や多糖体(例えば、アントシアニン、ベニバナ色素、アカネ色素、サフラン色素、フラボン類等)を生産する植物(例えば、ブルーベリー、紅花、セイヨウアカネ、サフラン等)、或いは医薬品原体を生産する植物などがあげられるが、それらに限定されない。
【0018】
好ましい態様において、本発明の液体組成物は、浮遊状態を維持したまま、生きた細胞や組織を非凍結状態で保存することを可能にする。
【0019】
本発明における細胞又は組織の浮遊とは、保存又は培養容器に対して細胞又は組織が接着しない状態(非接着)であることをいう。さらに、本発明において、液体組成物中で細胞又は組織を保存する際、液体組成物に対する外部からの圧力や振動、或いは当該液体組成物の振とう、回転操作等を伴わずに細胞又は組織が当該液体組成物中で均一に分散し尚且つ浮遊状態にある状態を「浮遊静置」といい、当該状態で細胞又は組織を保存することを「浮遊静置保存」という。また、「浮遊静置」において浮遊させることのできる期間としては、5分以上(例、少なくとも5~60分)、1時間以上(例、1時間~24時間)、24時間以上(例、1日~21日)、48時間以上、7日以上等が含まれるが、浮遊状態を保つ限りこれらの期間に限定されない。
【0020】
好ましい態様において、本発明の液体組成物は、細胞や組織の非凍結状態での保存が可能な温度範囲(例えば、0~37℃)の少なくとも1点において、細胞又は組織の浮遊静置が可能である。本発明の液体組成物は、好ましくは1~30℃の温度範囲の少なくとも1点、より好ましくは15~30℃の温度範囲の少なくとも1点、更に好ましくは22~28℃の温度範囲
の少なくとも1点、より更に好ましくは24~26℃の温度範囲の少なくとも1点、最も好ましくは少なくとも25℃において、細胞又は組織の浮遊静置が可能である。
【0021】
浮遊静置が可能か否かは、例えば、保存対象の細胞を、2×104cells/mlの濃度で、評価対象の液体組成物中に均一に分散させ、15 mlコニカルチューブ中に10 ml注入し、少なくとも5分以上(例、1時間以上、24時間以上、48時間以上、7日以上)、所望の温度(例、25℃、37℃)にて静置し、当該細胞の浮遊状態が維持されるか否かを観察することにより
、評価することができる。全細胞のうちの70%以上が浮遊状態の場合、浮遊状態が維持されたと結論できる。細胞に代えて、ポリスチレンビーズ(Size 500-600 μm、Polysciences Inc.製)に代替して評価してもよい。
【0022】
本発明の液体組成物は、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類又はその塩を含む。本発明の液体組成物は、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋
できる酸性多糖類又はその塩を含むことにより、良好な生存性を維持しながら、細胞又は組織を非凍結状態で保存することができる。好ましい態様において、本発明の液体組成物は、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類又はその塩を含むことにより、細胞又は組織の浮遊状態での保存(好ましくは、浮遊静置保存)を可能にする特性(細胞や組織の浮遊状態を維持する効果)を備える。
【0023】
脱アシル化ジェランガムは、1-3結合したグルコース、1-4結合したグルクロン酸、1-4
結合したグルコース及び1-4結合したラムノースの4分子の糖を構成単位とする直鎖状の高分子多糖類であり、以下の一般式(I)(ここで、R1、R2が共に水素原子であり、nは2以
上の整数である)で表わされる多糖類である。ただし、R1がグリセリル基を、R2がアセチル基を含んでいてもよいが、アセチル基及びグリセリル基の含有量は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは1%以下である。
【0024】
【0025】
脱アシル化ジェランガムは、発酵培地でジェランガム生産微生物を培養し、菌体外に生産された粘膜物をアルカリ処理に付し、1-3結合したグルコース残基に結合したグリセリ
ル基とアセチル基を脱アシル化した後に回収し、乾燥、粉砕等の工程後、粉末状にすることにより、製造することが出来る。精製方法としては、例えば、液-液抽出、分別沈澱、
結晶化、各種のイオン交換クロマトグラフィー、セファデックスLH-20等を用いたゲル濾
過クロマトグラフィー、活性炭、シリカゲル等による吸着クロマトグラフィーもしくは薄層クロマトグラフィーによる活性物質の吸脱着処理、あるいは逆相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー等を単独あるいは任意の順序に組み合わせ、また反復して用いることにより、不純物を除き精製することができる。ジェランガムの生産微生物の例としては、これに限定されるものではないが、スフィンゴモナス・エロディア(Sphingomonas elodea)及び当該微生物の遺伝子を改変した微生物が挙げられる。
【0026】
脱アシル化ジェランガムはリン酸化したものを使用することもできる。当該リン酸化は公知の手法で行うことができる。
【0027】
一般式(I)で表される化合物のR1及び/又はR2に当たる水酸基を、C1-3アルコキシ基
、C1-3アルキルスルホニル基、グルコースあるいはフルクトースなどの単糖残基、スクロース、ラクトースなどのオリゴ糖残基、グリシン、アルギニンなどのアミノ酸残基などに置換した脱アシル化ジェランガムの誘導体も本発明に使用できる。また、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等のクロスリンカーを用いて脱アシル化ジェランガムを架橋することもできる。
【0028】
塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムといったアルカリ金属の塩;カルシウム、バリウム、マグネシウムといったアルカリ土類金属の塩;アルミニウム、亜鉛、銅、鉄等の塩;アンモニウム塩;テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ベンジルメチルヘキシルデシルアンモニウム、コリン等の四級アンモニウム塩;ピリジン、トリエチルアミン、ジイ
ソプロピルアミン、エタノールアミン、ジオラミン、トロメタミン、メグルミン、プロカイン、クロロプロカイン等の有機アミンとの塩;グリシン、アラニン、バリン等のアミノ酸との塩;等が挙げられる。
【0029】
脱アシル化ジェランガム又はその塩の重量平均分子量は、好ましくは10,000乃至50,000,000であり、より好ましくは100,000乃至20,000,000、更に好ましくは1,000,000乃至10,000,000である。例えば、当該分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるプル
ラン換算で測定できる。
【0030】
脱アシル化ジェランガム又はその塩として、市販の製品、例えば、三晶株式会社製「KELCOGEL(シーピー・ケルコ社の登録商標)CG-LA」、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製
「ケルコゲル(シーピー・ケルコ社の登録商標)」等を使用することができる。
【0031】
二価金属カチオン(例、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオン、銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオン、スズイオン、鉛イオン等、好ましくはカルシウムイオン)媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類又はその塩としては、アルギン酸、ペクチン、ペクチン酸、それらの塩等を挙げることができ、好ましくは、アルギン酸又はその塩である。
【0032】
アルギン酸は、α1-4結合したL-グルクロン酸とβ1-4結合したD-マンヌロン酸の両方のウロン酸が直鎖重合した構造を有する多糖類である。
【0033】
アルギン酸又はその塩は、コンブやワカメに代表される褐藻類から、アルギン酸が有するカルボキシル基に対するイオン交換反応を行うことにより、抽出、精製することが出来る。藻体中のアルギン酸はカルシウムイオンなどの多価カチオンと不溶性の塩を作っているので、これをNaとイオン交換させ水溶性のアルギン酸ナトリウムとすることで、藻体外へ抽出する。更に、アルギン酸ナトリウムの水溶液に対して酸を加えることにより、不溶性のアルギン酸を凝固析出させ、凝固析出したアルギン酸を単離することにより、精製されたアルギン酸を得ることができる。
【0034】
塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウムといったアルカリ金属の塩;カルシウム、バリウム、マグネシウムといったアルカリ土類金属の塩;アルミニウム、亜鉛、銅、鉄等の塩;アンモニウム塩;テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、ベンジルメチルヘキシルデシルアンモニウム、コリン等の四級アンモニウム塩;ピリジン、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、エタノールアミン、ジオラミン、トロメタミン、メグルミン、プロカイン、クロロプロカイン等の有機アミンとの塩;グリシン、アラニン、バリン等のアミノ酸との塩;等が挙げられる。本発明においては、水への溶解性の観点から、アルギン酸ナトリウムが好適に使用される。
【0035】
アルギン酸又はその塩の重量平均分子量は、好ましくは300乃至50,000,000であり、よ
り好ましくは500乃至10,000,000、更に好ましくは1,000乃至5,000,000である。例えば、
当該分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるプルラン換算で測定できる。
【0036】
アルギン酸又はその塩として、市販の製品、例えば、以下の製品を使用することもできる。
株式会社キミカ:
キミカアルギンシリーズ IL-2、IL-6、I-1、I-3、I-5、I-8、ULV-L3、ULV-L5、ULV-1、ULV-3、ULV-5、ULV-20、ULV-L3G、IL-6G、I-1G、I-3G、IL-6M、BL-2、BL-6、B-1、B-3、B-5、B-8、SKAT-ONE、SKAT-ULV
アルギテックスシリーズ LL、L、M、H
キッコーマンバイオケミファ株式会社:
ダックアルギンNSPH2R、NSPHR、NSPMR、NSPLR、NSPLLR
三晶株式会社:
スコーギン、サンアルギン
北海道三井化学株式会社:
アルギン酸オリゴ糖 ALGIN
【0037】
脱アシル化ジェランガム、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類は、環内或いは環外異性化により生成する互変異性体、幾何異性体、互変異性体若しくは幾何異性体の混合物、又はそれらの混合物の形で存在してもよい。脱アシル化ジェランガム及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類は、異性化により生じるか否かに拘わらず、不斉中心を有する場合は、分割された光学異性体或いはそれらを任意の比率で含む混合物の形で存在してよい。
【0038】
脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類又はその塩は、液体組成物中の金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合し、三次元のネットワーク(不定型な構造体)を形成する。多糖類が金属カチオンを介してマイクロゲルを形成することは公知であり(例えば、特開2004-129596号公報)、前記不
定型な構造体には、一態様として当該マイクロゲルも包含される。脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類又はその塩が金属カチオンを介して集合したものとしては、その一態様としてフィルム状の構造体が挙げられる。本発明の液体組成物は、この脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類又はその塩が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合することにより形成された、三次元のネットワーク(不定型な構造体)を含む。本発明の液体組成物中に、細胞又は組織を懸濁し保存すると、液体組成物中に懸濁された細胞又は組織は、この三次元ネットワークにトラップされ、沈降しないため、振とう、回転操作等を要することなく、細胞又は組織を浮遊状態で均一に分散させたまま、保存する(浮遊静置保存する)ことが可能となる。本発明の液体組成物は、好ましくは、前記三次元のネットワーク(不定型な構造体)を均一に分散された態様で含む。
【0039】
好ましい態様において、上記三次元のネットワーク(不定型な構造体)の形成は、本発明の液体組成物の粘度を実質的に高めない。「液体組成物の粘度を実質的に高めない」とは、液体組成物の粘度が8 mPa・sを上回らないことを意味する。この際の当該液体組成物の粘度は、25℃において、8 mPa・s以下であり、好ましくは4 mPa・s以下であり、より好ましくは2 mPa・s以下である。
【0040】
液体組成物の粘度は、例えば後述の実施例に記載の方法で測定することができる。具体的には25℃条件下でE型粘度計(東機産業株式会社製、TV-22型粘度計、機種:TVE-22L、
コーンロータ:標準ロータ 1°34’×R24、回転数100rpm)を用いて測定することができる。
【0041】
本発明の液体組成物は、「脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類又はその塩」以外の多糖類又はその塩を含んでいてもよい。該多糖類は、好ましくはアニオン性の官能基を有する酸性多糖類である。酸性多糖類とは、その構造中にアニオン性
の官能基を有すれば特に制限されないが、例えば、ウロン酸(例えば、グルクロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸)を有する多糖類、構造中の一部に硫酸基又はリン酸基を有する多糖類、或いはその両方の構造を持つ多糖類であって、天然から得られる多糖類のみならず、微生物により産生された多糖類、遺伝子工学的に産生された多糖類、或いは酵素を用いて人工的に合成された多糖類も含まれる。より具体的には、ヒアルロン酸、ネイティブジェランガム、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン、ザンタンガム、ヘキスロン酸、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ラムナン硫酸、又はそれらの塩が例示される。
【0042】
本発明の液体組成物中の脱アシル化ジェランガム又はその塩の濃度(フリー体の脱アシル化ジェランガム換算)は、例えば0.002~0.01 (w/v)%、好ましくは0.002~0.009 (w/v)%、より好ましくは0.003~0.009 (w/v)%、より更に好ましくは0.0033~0.0066 (w/v)%で
ある。
【0043】
本発明の液体組成物中の二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の濃度(フリー体換算)は、例えば、0.004~0.1 (w/v)%、好ましくは0.004~0.02 (w/v)%、より好
ましくは0.004~0.015 (w/v)%であり、更に好ましくは0.005~0.015 (w/v)% 、より更に
好ましくは0.0066~0.0133 (w/v)%である。
【0044】
脱アシル化ジェランガム又はその塩の濃度は、細胞又は組織を浮遊させる十分な作用を確保する観点から、0.002 (w/v)%以上、好ましくは0.003 (w/v)%以上とすることが好ましい。一方、この濃度が高すぎると、浮遊作用が強くなることにより細胞回収率が低下したり、培地自体の取扱い性が低下するおそれがあるので、0.01 (w/v)%以下、好ましくは0.009 (w/v)%以下とすることが好ましい。二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を
維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の濃度は、せん断力によって、細胞や組織の浮遊状態を維持する効果を速やかに消失する特性(細胞や組織の浮遊状態を維持する効果のせん断力に対する脆弱性)を確保する観点から、0.004 (w/v)%以上、好ましくは、0.005 (w/v)%以上とすることが好ましい。一方、この濃度が高すぎるとゲル化する恐れがあるので、0.1 (w/v)%以下、好ましくは0.02 (w/v)%以下、より好ましくは0.015(w/v)%以下とすることが好ましい。
【0045】
本発明の液体組成物中に含まれる、脱アシル化ジェランガム又はその塩と、二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の質量比(フリー体換算)は、せん断力によって、細胞や組織の浮遊状態を維持する効果を速やかに消失する特性を達成する観点から、脱アシル化ジェランガム又はその塩 1質量部に対して、二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を1質量部以上、好ましくは2質量部以上とする。一態様において、脱アシル化ジェランガム又はその塩 1質量部に対して、二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を例えば1~4質量部、好ましくは1~3質量部、より好ましくは1~2質量部とする。
【0046】
尚、液体組成物中の化合物濃度は、以下の式で算出できる。
【0047】
濃度[(w/v)%]=化合物の質量(g)/液体組成物の容量(ml)×100
【0048】
本発明の液体組成物は、上記の含有量で脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価
金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を含むことにより、非凍結状態で保存された細胞又は組織の良好な生存性を維持する効果を奏する。本発明の液体組成物は、上記の含有量で脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を含むことにより、細胞や組織の浮遊状態を維持する効果を奏する。
【0049】
本発明の液体組成物は上記の含有量で脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を含むことにより、細胞や組織の浮遊状態を維持する効果が、ピペッティングやフィルター濾過等のせん断力により速やかに喪失するという特性(細胞や組織の浮遊状態を維持する効果のせん断力に対する脆弱性)をも備える。
【0050】
本発明の液体組成物は、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合して形成した、三次元のネットワーク(不定型な構造体)を含み、これが細胞や組織の浮遊状態を維持する効果を生じるが、二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が含まれることにより、三次元ネットワークが、キレート剤又はせん断力に対して脆弱となり、ピペッティングやフィルター濾過等のせん断力により、この三次元ネットワークが容易に破壊され、細胞や組織の浮遊状態を維持する効果が速やかに喪失する。脱アシル化ジェランガムは、比較的直線的な構造の構成単位を有し、液体組成物中で複数の脱アシル化ジェランガム鎖がバンドル化することにより、タイトで安定な三次元ネットワークを形成するため、キレート剤やピペッティングやフィルター濾過等ではこの三次元ネットワークが破壊され難いのに対して、α1-4結合したL-グルクロン酸と
β1-4結合したD-マンヌロン酸の両方のウロン酸を含むことにより比較的嵩高い構造を有
する二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を液体組成物中に添加すると、脱アシル化ジェランガムのバンドル化が抑制されることにより、三次元ネットワークがピペッティングやフィルター濾過等のせん断力に対して脆弱になると考えられるが、この理論に特に束縛されるものではない。
【0051】
上述のように、本発明の液体組成物においては、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、液体組成物中の金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合し、三次元のネットワーク(不定型な構造体)を形成するため、本発明の液体組成物は、金属カチオン、例えば二価の金属カチオン(カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオンおよび銅イオン等)、好ましくはカルシウムイオンを含有する。当該金属カチオンは、例えばカルシウムイオンとマグネシウムイオン、カルシウムイオンと亜鉛イオン、カルシウムイオンと鉄イオン、カルシウムイオンと銅イオンのように、2種類以上を組み合わせて使
用することができる。当業者は適宜その組み合わせを決定することができる。本発明の液体組成物中の金属カチオン濃度は0.1 mM乃至300 mMで、好ましくは、0.5 mM乃至100 mMであるが、これらに限定されない。
【0052】
ピペッティングやフィルター濾過等のせん断力による、三次元ネットワークの破壊(細胞や組織の浮遊状態を維持する特性の喪失)は、可逆的な反応である。せん断力により破壊された三次元のネットワーク(不定型な構造体)の断片が、金属カチオン(例えば、カ
ルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して再度集合することにより、三次元のネットワーク(不定型な構造体)が再生されるからである。
【0053】
本発明の液体組成物は、保存する細胞又は組織の培養に用いられる培地(好ましくは液体培地)を含むことが好ましい。この場合、本発明の液体組成物は、保存する細胞又は組織の培養に用いられる培地(好ましくは液体培地)と、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩とを混合することにより調製することができる。
【0054】
動物(例えば、哺乳動物)由来の細胞又は組織を培養する際に用いられる培地としては、例えばライボビッツL-15培地(Leibovitz's L-15 Medium)、ダルベッコ改変イーグル
培地(Dulbecco’s Modified Eagles’s Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、DMEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)、イーグルMEM培地(Eagle’s Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagle’s Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMI1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer’s培地、NutriStem MSC XF(バイオロジカルインダストリーズ社製)、NutriStem hPSC XF(バイオロジカルインダス
トリーズ社製)、StemPro34(インビトロジェン社製)、X-VIVO 10(ケンブレックス社製)、X-VIVO 15(ケンブレックス社製)、HPGM(ケンブレックス社製)、StemSpan H3000
(ステムセルテクノロジー社製)、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)、StemlineII(シグマアルドリッチ社製)、QBSF-60(クオリティバイオロジカル社製)、StemProhESCSFM(インビトロジェン社製)、mTeSR1或いは2培地(ステムセルテクノロジー社製)、Sf-900II(インビトロジェン社製)、Opti-Pro(インビトロジェン社製)、HFDM-1(ニプロ社製)、ニプロEIDF(ニプロ社製)、BMPro(ニプロ社製)などが挙げられる。
【0055】
細胞又は組織が植物由来である場合、植物組織培養に通常用いられるムラシゲ・スクーグ(MS)培地、リンズマイヤー・スクーグ(LS)培地、ホワイト培地、ガンボーグB5培地、ニッチェ培地、ヘラー培地、モーレル培地等の基本培地、或いは、これら培地成分を至適濃度に修正した修正培地(例えば、アンモニア態窒素濃度を半分にする等)に、オーキシン類及び必要に応じてサイトカイニン類等の植物生長調節物質(植物ホルモン)を適当な濃度で添加した培地が培地として挙げられる。これらの培地には、必要に応じて、カゼイン分解酵素、コーンスティープリカー、ビタミン類等をさらに補充することができる。オーキシン類としては、例えば、3-インドール酢酸(IAA)、3-インドール酪酸(IBA)、1-ナフタレン酢酸(NAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)等が挙げられるが、それらに限定されない。オーキシン類は、例えば、約0.1~約10 ppmの濃度で培地に添加さ
れ得る。サイトカイニン類としては、例えば、カイネチン、ベンジルアデニン(BA)、ゼアチン等が挙げられるが、それらに限定されない。サイトカイニン類は、例えば、約0.1
~約10 ppmの濃度で培地に添加され得る。
【0056】
上記の培地には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、各種アミノ酸、各種ビタミン、抗生物質、血清、脂肪酸、糖などを当業者は目的に応じて自由に添加してもよい。動物由来の細胞又は組織の培養の際には、当業者は目的に応じてその他の化学成分あるいは生体成分を一種類以上組み合わせて添加することもできる。動物由来の細胞及び/又は組織の培地に添加される成分としては、ウシ胎児血清、ヒト血清、ウマ血清、インシュリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コレステロール、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、モノチオグリセロール、2-メルカプトエタノール、ウシ血清アルブミン、ピルビン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、各種ビタミン、各種アミノ酸、寒天、アガロース、コラーゲン、メチルセルロース、各種サイトカイン、
各種ホルモン、各種増殖因子、各種細胞外マトリックスや各種細胞接着分子などが挙げられる。培地に添加されるサイトカインとしては、例えばインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-11(IL-11)、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-14(IL-14)、インターロイキン-15(IL-15)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-21(IL-21)、インターフェロン-
α(IFN-α)、インターフェロン-β(IFN-β)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、単球コロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球-マクロファー
ジコロニー刺激因子(GM-CSF)、幹細胞因子(SCF)、flk2/flt3リガンド(FL)、白血病細胞阻害因子(LIF)、オンコスタチンM(OM)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポ
エチン(TPO)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0057】
培地に添加されるホルモンとしては、メラトニン、セロトニン、チロキシン、トリヨードチロニン、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、抗ミュラー管ホルモン、アディポネクチン、副腎皮質刺激ホルモン、アンギオテンシノゲン及びアンギオテンシン、抗利尿ホルモン、心房ナトリウム利尿性ペプチド、カルシトニン、コレシストキニン、コルチコトロピン放出ホルモン、エリスロポイエチン、卵胞刺激ホルモン、ガストリン、グレリン、グルカゴン、ゴナドトロピン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ヒト胎盤性ラクトーゲン、成長ホルモン、インヒビン、インスリン、インスリン様成長因子、レプチン、黄体形成ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、オキシトシン、副甲状腺ホルモン、プロラクチン、セクレチン、ソマトスタチン、トロンボポイエチン、甲状腺刺激ホルモン、チロトロピン放出ホルモン、コルチゾール、アルドステロン、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオン、ジヒドロテストステロン、エストラジオール、エストロン、エストリオール、プロゲステロン、カルシトリオール、カルシジオール、プロスタグランジン、ロイコトリエン、プロスタサイクリン、トロンボキサン、プロラクチン放出ホルモン、リポトロピン、脳ナトリウム利尿ペプチド、神経ペプチドY、ヒスタミン、エンドセリン、膵臓ポリペプチド、レニン
、及びエンケファリンが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0058】
培地に添加される増殖因子としては、トランスフォーミング成長因子-α(TGF-α)、
トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)、マクロファージ炎症蛋白質-1α(MIP-1α)、上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子-1、2、3、4、5、6、7、8、又は9(FGF-1、2、3、4、5、6、7、8、9)、神経細胞増殖因子(NGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、白血病阻止因子(LIF)、プロテアーゼネキシンI、プロテアーゼネキシンII、血小板由来成長因子(PDGF)、コリン作動性分化因子(CDF)、ケモカイン、Notchリガンド(Delta1など)、Wnt蛋白質、アンジオポエチン様蛋白質2、3、5または7(Angpt2、3、5、7)、インスリン様成長因子(IGF)、インスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0059】
また、遺伝子組替え技術によりこれらのサイトカインや増殖因子のアミノ酸配列を人為的に改変させたものも添加させることもできる。その例としては、IL-6/可溶性IL-6受容体複合体あるいはHyper IL-6(IL-6と可溶性IL-6受容体との融合タンパク質)などが挙げられる。
【0060】
各種細胞外マトリックスや各種細胞接着分子の例としては、コラーゲンI乃至XIX、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン-1乃至12、ニトジェン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド(von Willebrand)因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン、各種エラスチン、各種プロテオグリカン、各種カドヘリン、デスモコリン、デ
スモグレイン、各種インテグリン、E-セレクチン、P-セレクチン、L-セレクチン、免疫グロブリンスーパーファミリー、マトリゲル、ポリ-D-リジン、ポリ-L-リジン、キチン、キトサン、セファロース、ヒアルロン酸、アルギン酸ゲル、各種ハイドロゲル、さらにこれらの切断断片などが挙げられる。
【0061】
培地に添加される抗生物質の例としては、サルファ製剤、ペニシリン、フェネチシリン、メチシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、ナフシリン、アンピシリン、ペニシリン、アモキシシリン、シクラシリン、カルベニシリン、チカルシリン、ピペラシリン、アズロシリン、メクズロシリン、メシリナム、アンジノシリン、セファロスポリン及びその誘導体、オキソリン酸、アミフロキサシン、テマフロキサシン、ナリジクス酸、ピロミド酸、シプロフロキサン、シノキサシン、ノルフロキサシン、パーフロキサシン、ロザキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ピペミド酸、スルバクタム、クラブリン酸、β-ブロモペニシラン酸、β-クロロペニシラン酸、6-アセチルメチレン-ペニシラン酸、セフォキサゾール、スルタンピシリン、アディノシリ
ン及びスルバクタムのホルムアルデヒド・フードラートエステル、タゾバクタム、アズトレオナム、スルファゼチン、イソスルファゼチン、ノカルディシン、m-カルボキシフェノール、フェニルアセトアミドホスホン酸メチル、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メタサイクリン、並びにミノサイクリンが挙げられる。
【0062】
好ましい態様において培地(好ましくは、液体培地)は、金属カチオン(例えば二価の金属カチオン(カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、鉄イオンおよび銅イオン等)、好ましくはカルシウムイオン)を含有する。液体培地と混合した際に、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、液体培地中の金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合し、三次元のネットワーク(不定型な構造体)を形成するためである。培地中の金属カチオン(好ましくはカルシウムイオン)濃度は、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、該金属カチオンを介して集合し、三次元のネットワーク(不定型な構造体)を形成するのに十分な濃度であれば、特に限定されないが、例えば、0.1 mM乃至300 mMで、好ましくは、0.5 mM乃至100 mMである。当該金属カチオンを含む液体培地と、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩とを混合してもよいし、当該金属カチオンを含まない培地と、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩とを混合し、その後、別途調製しておいた当該金属カチオンを含む水溶液を、混合液に添加してもよい。
【0063】
本発明の液体組成物は、上述の組成に加えて、細胞や組織の非凍結状態での保存の際に、細胞延命効果がある各種成分が含まれていてもよい。該成分としては、糖類(但し、多糖類を除く)(例、単糖類(グルコース等)、二糖類)、抗酸化剤(例、SOD、ビタミンE、グルタチオン、ポリフェノール)、親水性ポリマー(例、ポリビニルピロリドン)、キレート剤(例、EDTA)、糖アルコール(例、マンニトール、ソルビトール)、グリセロール等を挙げることができるが、これらに限定されない。一態様において、本発明の液体組成物は、糖類(但し、多糖類を除く)(例、単糖類(グルコース等)、二糖類)、抗酸化剤(例、SOD、ビタミンE、グルタチオン、ポリフェノール)、親水性ポリマー(例、ポリビニルピロリドン)、キレート剤(例、EDTA)、糖アルコール(例、マンニトール、ソルビトール)、及びグリセロールからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含有
する。
【0064】
尚、本発明の液体組成物は、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を含有することにより、非凍結状態で保存された細胞又は組織の良好な生存性を維持する効果を奏するので、細胞や組織の非凍結状態での保存の際に、細胞延命効果があるその他の成分を含まなくてもよい。一態様において、本発明の液体組成物は、糖類(但し、多糖類を除く)(例、単糖類(グルコース等)、二糖類)、抗酸化剤(例、SOD、ビタミンE、グルタチオン、ポリフェノール)、親水性ポリマー(例、ポリビニルピロリドン)、キレート剤(例、EDTA)、糖アルコール(例、マンニトール、ソルビトール)、及びグリセロールからなる群から選択される少なくとも1つの化合
物を含有しない。
【0065】
本発明の液体組成物は、非凍結状態で細胞又は組織を保存するためのものなので、凍結保護剤を含まなくてもよい。凍結保護剤としては、DMSO、グリセロール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、メタノール、ジメチルアセトアミド、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルスターチ、デキストラン、アルブミン等を挙げることができる。一態様において、本発明の液体組成物は、DMSO、グリセロール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、メタノール、ジメチルアセトアミド、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルスターチ、デキストラン、及びアルブミンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含有しない。
【0066】
脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を上記の液体培地に添加する場合には、まず適切な溶媒にて、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を溶解または分散させる(これを、培地添加剤とする。)。その後、液体組成物中の最終的な脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の濃度が、上に詳述した濃度となるように、当該培地添加剤を液体培地中に添加すれば良い。脱アシル化ジェランガム又はその塩を含む培地添加剤と、二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を含む培地添加剤を別々に調製し、それぞれを、液体培地中に添加してもよいし、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の両方を含む培地添加剤(即ち、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の混合物)を調製し、これを液体培地中に添加してもよい。好ましくは、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の両方を含む培地添加剤(即ち、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の混合物)を調製し、これを液体培地中に添加する。
【0067】
ここで、培地添加剤の調製に用いる適切な溶媒の例としては、水、生理食塩水、PBS等
の水性溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノール、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の各種アルコールなどの親水性溶媒が挙げられるが、これらに限られるわけではない。この際、培地添加
剤中の脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の濃度は、上に詳述した本発明の液体組成物中の最終濃度の例えば10~500倍
、好ましくは25~100倍程度の濃度とすることが望ましい。
【0068】
脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩は、必要に応じて滅菌処理を施してもよい。滅菌方法は特に制限はなく、例えば、放射線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)、フィルター滅菌等が挙げられる。フィルター滅菌(以下、ろ過滅菌という場合もある)を行う際のフィルター部分の材質は特に制限されないが、例えば、グラスファイバー、ナイロン、PES(ポリエーテルスルホン)、親水性PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、セルロース混
合エステル、セルロースアセテート、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。フィルターの細孔の大きさは特に制限されないが、好ましくは、0.1 μm乃至10 μm、より好
ましくは、0.1 μm乃至1 μm、最も好ましくは、0.1 μm乃至0.5 μmである。これらの滅菌処理は、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が固体の状態で行っても、溶液の状態で行ってもよい。
【0069】
高圧蒸気滅菌処理における温度は、通常105~135℃、好ましくは、115℃~130℃、より好ましくは118~123℃(例、121±1℃)である。滅菌処理時の圧力は、通常0.12~0.32 MPa、好ましくは、0.17~0.27 MPa、より好ましくは、0.19~0.23 MPa(例、0.21±0.1 MPa)である。滅菌処理時間は、通常1~60分、好ましくは5~45分、より好ましくは15~25
分(例、20±1分)である。
【0070】
高圧蒸気滅菌処理条件の組み合わせは、
例えば、105~135℃、0.12~0.32 MPa、1~60分であり;
好ましくは、115℃~130℃、0.17~0.27 MPa、5~45分であり;
より好ましくは、118~123℃(例、121±1℃)、0.19~0.23 MPa(例、0.21±0.1MPa)、15~25分(例、20±1分)である。
【0071】
脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の溶液又は分散液を液体培地に添加することにより、液体培地中で、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合することにより、三次元のネットワーク(不定型な構造体)が形成され、本発明の液体組成物を得ることができる。培地には通常、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が集合し、三次元のネットワーク(不定型な構造体)を形成するのに十分な濃度の金属カチオン(例えば、カルシウムイオン)が含まれるので、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の溶液又は分散液を液体培地に添加するのみで、本発明の液体組成物を得ることができる。あるいは、本発明の培地添加剤(脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の溶液又は分散液)に培地を添加してもよい。さらに、本発明の液体組成物は、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸
性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩と培地成分(粉末培地や濃縮培地)とを、水性溶媒(例えばイオン交換水や超純水等を含む水)中で混合して調製することもできる。混合の態様としては、(1)液体培地と培地添加剤(溶液)とを混合する、(2)液体培地に脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の固体(粉末等)を添加する、(3)培地添加剤(溶液)に粉末培地を混合する、(4)粉末培地及び脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の固体(粉末等)を水性溶媒と混合する、等が挙げられるが、これらに限定されない。液体組成物における脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の分布が不均一になるのを防ぐために、(1)の
態様が好ましい。
【0072】
脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を溶媒(例、水、液体培地等の水性溶媒)へ溶解する、または、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩、並びに粉末培地を溶媒へ溶解する際、溶解促進のため、当該混合液を加熱してもよい。加熱する温度としては、例えば80℃~130℃、好ましくは加熱滅菌されるような100℃~125℃(例、121℃)が挙げられる。加熱後、得られた脱アシル化ジェランガム又はその塩及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の溶液を室温まで冷却する。当該溶液に、上述の金属カチオン(例、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を添加することにより(例えば、当該溶液を液体培地へ添加することにより)、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合することにより、三次元のネットワーク(不定型な構造体)が形成され、本発明の液体組成物を得ることができる。或いは、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を、上述の金属カチオン(例、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を含む溶媒(例、水、液体培地等の水性溶媒)へ溶解する際に、加熱(例えば80℃~130℃、好まし
くは100℃~125℃(例、121℃))し、得られた溶液を室温まで冷却することによっても
、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合することにより、三次元のネットワーク(不定型な構造体)が形成される。
【0073】
尚、脱アシル化ジェランガム又はその塩は、比較的直線的な構造の構成単位を有するため、溶媒(例、水)中に添加した際に、複数の糖鎖がバンドル化するため、溶解しにくいが、ここに二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を加えると、α1-4結合し
たL-グルクロン酸とβ1-4結合したD-マンヌロン酸の両方のウロン酸を含むことにより比
較的嵩高い構造を有するため、脱アシル化ジェランガム又はその塩のバンドル化が抑制され、比較的容易に溶解するようになる。従って、脱アシル化ジェランガム又はその塩及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩は、加熱することなく、比較的低温(例えば0~37℃、好ましくは、10~30℃)で溶媒(例、水、液体培地等の水性溶媒)へ溶
解することができる。
【0074】
本発明の液体組成物の製造方法を例示するが、これによって限定されるものではない。
【0075】
脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩をイオン交換水あるいは超純水に添加する。そして、脱アシル化ジェランガム又はその塩及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を溶解できる温度(例えば、5~60℃、好ましくは5~40℃、さらに好ましくは10~30℃)で撹拌して透明な状態になるまで溶解させる。
【0076】
溶解後、必要に応じて撹拌しながら放冷し、滅菌(例えば、121℃にて20分でのオート
クレーブ滅菌、フィルター濾過)を行う。任意の培地を撹拌(例えば、ホモミキサー等)しながら、当該培地に前記滅菌後の水溶液を添加し、当該培地と均一になるように混合する。本水溶液と培地の混合方法は特に制限はなく、例えばピペッティング等の手動での混合、マグネティックスターラーやメカニカルスターラー、ホモミキサー、ホモジナイザー等の機器を用いた混合が挙げられる。
【0077】
脱アシル化ジェランガム又はその塩及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、均一に液体培地中に分散するように、例えば、コニカルチューブ内に液体培地を入れ、ボルテックス等により撹拌状態を維持し、そこへシリンジ針を装着したシリンジから、脱アシル化ジェランガム又はその塩及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩の水溶液を勢いよく液体培地中にフラッシュしてもよい。培地作成キット(日産化学工業 FCeMTM-series Preparation Kit)を用いることにより、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合することにより形成された三次元のネットワーク(不定型な構造体)が、均一に分散された、本発明の液体組成物を容易に調製することができる。
【0078】
混合後に、本発明の液体組成物をフィルターにてろ過してもよい。ろ過処理をする際に用いるフィルターの細孔の大きさは、5μm乃至100μm、好ましくは5μm乃至70μm、より
好ましくは10μm乃至70μmである。
【0079】
[細胞又は組織の保存方法]
また、本発明は、上記本発明の液体組成物中で、細胞又は組織を非凍結状態で保存することを含む、細胞又は組織の保存方法を提供する。好ましい態様において、本発明の保存方法においては、本発明の液体組成物中に、細胞又は組織を浮遊した状態で(好ましくは、浮遊静置状態で)、保存又は輸送することができる。
【0080】
本発明の液体組成物中で保存する細胞及び組織としては、上述の[液体組成物]の項に詳述したものを挙げることが出来る。
【0081】
本発明の方法で保存する細胞及び組織の形態や状態は、当業者が任意に選択することができる。保存する細胞の状態の具体例としては、単一細胞に分散した状態、細胞が担体表面上に接着した状態、細胞が担体内部に包埋された状態、複数個の細胞が集合し細胞塊(例、スフェア)を形成した状態、2種以上の細胞が集合して細胞塊(例、スフェア)を形
成した状態等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの状態の内、細胞塊(例、スフェア)を形成した状態は、生体内環境に近い細胞-細胞間相互作用及び細胞構造体が再構築されており、細胞機能を長期的に維持したまま保存でき、また細胞の回収が比較的容易であるため、本発明の方法で保存する最も好ましい状態として挙げることができる。細胞塊は、好適には、哺乳動物の幹細胞(例、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性腫瘍細胞、胚性生殖幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞
、肝幹細胞、膵幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞、腸幹細胞、癌幹細胞、毛包幹細胞、癌幹細胞)又は前駆細胞を含むスフェアである。本発明におけるスフェアとしては、例えば、細胞が数十~数百個からなる凝集塊を形成したものが挙げられる。スフェアは公知の方法で製造することができる。
【0082】
本発明の液体組成物中で細胞を保存する場合、細胞濃度は、良好な生存性を維持しながら、非凍結状態で保存することができる限り特に限定されないが、通常0.1×104~200×104個/ml、好ましくは1×104~100×104個/mlである。
【0083】
本発明の保存方法においては、所望の細胞又は組織を、本発明の液体組成物中に分散した上で、密閉可能な容器中に入れる。該容器としては、フラスコ、プラスチックバック、テフロン(登録商標)バック、チューブ、培養バック等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。保存中に、内容物の漏れや外界からの細菌等のコンタミネーションを回避するため、細胞や組織の本発明の液体組成物中の分散物を入れた容器は、好適には密閉される。
【0084】
上述の通り、本発明の液体組成物においては、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合することにより、三次元のネットワーク(不定型な構造体)が形成されており、本発明の液体組成物中で、細胞又は組織を保存すると、液体組成物中に懸濁された細胞又は組織は、この三次元ネットワークにトラップされ、沈降しないため、細胞又は組織を浮遊状態で均一に分散させたまま、保存する(浮遊静置保存する)ことが可能となる。その一方で、この三次元ネットワークは、二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を含むことにより、せん断力に対して脆弱であり、本発明の液体組成物、及び細胞又は組織を含有する、保存調製物に対して、必要に応じてキレート剤を加えて、ピペッティング等によりこの三次元ネットワークを破壊するのに十分なせん断力を加えると、この三次元ネットワークに基づく細胞又は組織を浮遊させる特性が速やかに失われる。そのため、保存開始時に、ピペッティングや撹拌等のせん断力により、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合して形成された、三次元のネットワーク(不定型な構造体)を破壊することにより、細胞や組織を速やかに本発明の液体組成物中に均一に分散し懸濁することが可能である。重要なことに、せん断力による、三次元のネットワーク(不定型な構造体)の破壊(細胞や組織の浮遊状態を維持する効果の喪失)は、可逆的な反応であり、得られた細胞や組織の懸濁物を静置しておくと、時間の経過とともに、破壊された三次元のネットワーク(不定型な構造体)の断片が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して再度集合することにより、三次元のネットワーク(不定型な構造体)が再生し、細胞や組織の浮遊状態を維持する特性を再び示し、細胞や組織を浮遊状態を維持したまま、保存することができる。
【0085】
保存時の温度は、細胞又は組織の生存が維持される限り特に限定されないが、通常は、
37℃以下である。温度が低い方が、保存中の細胞又は組織の生存性の低下を回避することができるが、細胞又は組織が凍結してしまわないよう、通常、本発明の液体組成物の融点を上回る温度で保存する。従って、保存時の温度は、通常0~37℃、好ましくは1~30℃、より好ましくは15~30℃(例、15~25℃での常温保存)、更に好ましくは22~28℃、より更に好ましくは24~26℃(例、25℃)で維持される。
【0086】
浮遊静置状態での、細胞又は組織の保存を可能とするため、保存時の温度は、本発明の液体組成物が、保存する細胞又は組織の浮遊静置を可能とする温度であることが好ましい。
【0087】
保存の期間は、本発明の液体組成物中で、保存する細胞又は組織の生存状態を維持できる範囲内で特に限定されないが、通常1時間以上(例、12時間以上、24時間(1日)以上、2日以上)である。保存期間の上限は、本発明の液体組成物中で、保存する細胞又は組織
の生存状態を維持できる限り特に限定されないが、通常28日以内(例、21日以内、14日以内、7日以内、3日以内)である。保存期間は、保存する目的に応じ、適宜設定される。保存又は輸送期間中、細胞又は組織は本発明の液体組成物中で浮遊静置状態が維持されることが好ましい。
【0088】
一態様において、振動を伴う環境下で、細胞又は組織を、本発明の液体組成物中に保存する。「振動を伴う環境」としては、細胞又は組織の輸送時を挙げることができる。即ち、本発明の保存方法は、本発明の液体組成物中で、細胞又は組織を非凍結状態で保存しながら、細胞又は組織を輸送する方法としても捉えることができる。
【0089】
本発明の保存方法を用いると、細胞や組織を浮遊した状態で保持できるため、輸送中の振動によるプレートからの剥離や、沈降により接触した細胞や組織同士の凝集による細胞や組織のダメージを回避し、本来の機能を維持した状態で細胞や組織を保存することができる。本発明の方法により、スフェアを保存すると、スフェアを浮遊した状態で保持できるため、輸送中の振動や振動によるスフェア同士の凝集を回避し、スフェアの形態を維持したまま、スフェアを保存することができる。
【0090】
保存した細胞又は組織の回収
本発明の液体組成物中で、細胞又は組織を保存することにより得られた保存調製物から、当該細胞又は組織を効率的に回収する方法をも、本発明は提供する。本発明の回収方法は、該保存調製物に対して、せん断力を加えることを特徴とする。
【0091】
上述の通り、本発明の液体組成物においては、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合することにより、三次元のネットワーク(不定型な構造体)が形成されており、本発明の液体組成物中で、細胞又は組織を保存すると、液体組成物中に懸濁された細胞又は組織は、この三次元ネットワークにトラップされ、沈降しないため、細胞又は組織を浮遊状態で均一に分散させたまま、保存する(浮遊静置保存する)ことが可能となる。その一方で、この三次元ネットワークは、二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩を含むことにより、せん断力に対して脆弱であり、本発明の液体組成物、及び細胞又は組織を含有する、保存調製物に対して、必要に応じてキレート剤を加えて、この三次元ネットワークを破壊するのに十分なせん断力を加えると、この三次元ネットワークに基づく細胞又は組織を浮遊させる特性が速やかに失われ、細胞又は組織が重力により沈降しやすくなる。このような状態で、当該保存調製物を遠心分離に付すと、そこに含まれる細胞又は組織が容易に沈降し、上清の液体組成物を除去す
ることにより、該細胞又は組織を回収することが出来る。
【0092】
保存調製物に対してせん断力を加える操作は、脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩が、金属カチオン(例えば、カルシウムイオン等の二価金属カチオン)を介して集合することにより形成した三次元のネットワーク(不定型な構造体)を破壊することができれば、特に限定されないが、例えば、ピペッティング、フィルター濾過、撹拌、超音波等を挙げることが出来る。
【0093】
保存調製物に対して十分なせん断力を加えるため、比較的細い先端のピペット(先端の内径が、例えば 5mm以下、好ましくは0.1~3.0 mm、より好ましくは、0.5~2.0 mm)を用いて、ピペッティングを行うことが好ましい。
【0094】
また、保存調製物全体を速やかに撹拌できるように、保存調製物の体積の例えば1%以
上、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上、より更に好ましくは50%以上を、1回で吸入及び吐出することが好ましい。
【0095】
保存調製物に対して十分なせん断力を加えるため、例えば、1ml/秒以上、好ましくは2
~20 ml/秒、より好ましくは5~10 ml/秒の流速で、吸入及び/又は吐出の操作を行うこ
とが好ましい。
【0096】
ピペッティングの回数は、上記三次元ネットワークを破壊するのに十分であれば、特に限定されないが、通常1回以上、好ましくは3回以上、より好ましくは5回以上を連続して
行う。ピペッティング回数は、多ければ多いほど、上記三次元ネットワークがより確実に破壊されるので、好ましく、理論的にはその上限はないが、ピペッティング回数が多すぎると、細胞又は組織の生存率が低下してしまうので、通常50回以下、好ましくは20回以下、より好ましくは15回以下とするのが好ましい。ピペッティングの回数は、通常1~50回
、好ましくは3~20回、より好ましくは5~15回である。
【0097】
フィルターの細孔の大きさ(孔径)は、上記三次元ネットワークを破壊可能な範囲であれば特に限定されないが、通常500 μm以下、好ましくは200 μm以下、より好ましくは100 μm以下である。孔径が小さければ小さいほど、保存調製物に対して強いせん断力が作
用し、上記三次元ネットワークをより確実に破壊することができるが、あまり小さすぎると、液体組成物がフィルターを通過し難くなる。そのため、フィルターの細孔の大きさ(孔径)は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは40μm以上である。
【0098】
フィルターの孔径は、保存調製物中の細胞又は組織が通過可能な大きさであることが好ましい。ここで、「細胞又は組織が通過可能な大きさ」とは、生存を維持したまま、細胞又は組織を通過させることが出来る大きさを意味する。例えば、フィルターの孔径が、保存する細胞又は組織の直径よりも大きい場合のみならず、保存調製物中の、細胞塊(例、スフェア)や組織が、その直径よりも小さい孔径のフィルターを通過することにより、生存を維持したまま、複数の細胞、細胞塊(例、スフェア)又は組織に分割される態様も、「細胞又は組織が通過可能な大きさ」に包含される。細胞の大きさは、細胞の種類に依存するために一概に規定することはできないが、直径7.5~20 μm程度の一般的な細胞であ
れば、単一細胞の状態で、20 μm以上、好ましくは40 μmの孔径のフィルターを良好な生存性を維持したまま容易に通過することができる。従って、細胞又は組織の良好な生存性を維持しつつ、上記三次元ネットワークを効率的に破壊する観点から、フィルターの孔径は、例えば20~200 μm、好ましくは40~100 μmの範囲内とすることが好ましい。
【0099】
フィルターの素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルフォン、ポリプロピレン、アクリル、ポリ乳酸、セルロース混合エステル、ポリカーボン、ポリエステル、ガラス等が挙げられるが、特に限定されない。素材により、極性、帯電性、親水性等の性能が異なるが、これらの性能と回収率との相関性は弱く、いずれの素材を用いた場合においても良好な回収率が期待できる。ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレン、ポリエステル、ガラス等が入手容易性等の観点から好ましい。
【0100】
これらのフィルターは市販品を用いてもよく、その具体例としては、Partec社製CellTricsフィルター(商標):孔径5μm(型番06-04-004-2323)、10 μm(型番06-04-004-2324)、20 μm(型番06-04-004-2325)、30 μm(型番06-04-004-2326)、50 μm(型番06-04-004-2327)、100 μm(型番06-04-004-2328)及び150 μm(型番06-04-004-2329)、
ベクトンディッキンソン社製Cell Strainer(商標):孔径40 μm(型番352340)、70 μm(型番352350)及び100 μm(型番352360)、アズワン社製フィルコンS(商標):孔径20μm(型番2-7211-01)、30 μm(型番2-7211-02)、50 μm(型番2-7211-03)、70 μm
(型番2-7211-04)、100 μm(型番2-7211-05)及び200μm(型番2-7211-06)等が挙げられる。
【0101】
フィルターに通過させる回数は、1回でもよいが、必要に応じて、複数回のフィルター
通過により、細胞又は組織の回収率を向上させることが出来る。フィルターに通過させる回数は、通常1~10回である。
【0102】
フィルターに複数回通過させる場合、細胞又は組織の保存調製物を1枚のフィルターに
通過させて、通過した懸濁液を回収する操作を複数回行ってもよいし、複数の枚数(例えば、3~5枚)を重ねたフィルターメンブレンを含む多重フィルターに、細胞又は組織の保存調製物を通過させてもよい。多重フィルターを用いる方が、操作効率の観点からは有利である。フィルターに複数回通過させる場合、同一の孔径の複数のフィルターを用いてもよいし、異なる孔径の複数のフィルターを組み合わせて用いてもよい。好ましくは、同一の孔径(例えば40~100 μm)のフィルターを複数(例えば、3~5枚)重ねて用いる。
【0103】
撹拌操作としては、ボルテックス、転倒混和、マグネティックスターラー、パドル等を挙げることが出来る。ボルテックスの速度は、例えば、200~3,000 rpmである。
【0104】
保存調製物に対して、せん断力を加える際に、必要に応じて該培養調製物にキレート剤を添加してもよい。キレート剤を添加することで、液体組成物中に含まれる上記三次元ネットワークから金属カチオン(好ましくは、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の二価金属カチオン)が除去されて、当該三次元ネットワーク中の金属カチオンを介した多糖類(脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩)同士の結合がルーズになり、当該三次元ネットワークが部分的に破壊され、細胞又は組織の回収率が向上することが期待される。
【0105】
キレート剤としては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の二価金属カチオン(好ましくは、カルシウムイオン)と錯体を形成することが可能な化合物であれば、特に限定されないが、例えば、クエン酸又はその塩(例、クエン酸3ナトリウム);EDTA又はそ
の塩(例、EDTA2Na、EDTA3Na、EDTA4Na等のエデト酸ナトリウム塩);HEDTA3Na等のヒド
ロキシエチルエチレンジアミン三酢酸塩;EGTA又はその塩;ペンテト酸塩(ジエチレントリアミン五酢酸塩);フィチン酸;エチドロン酸等のホスホン酸及びそのナトリウム塩等の塩類;シュウ酸ナトリウム;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸等のポリアミノ酸類;ポリリン酸ナトリウム;メタリン酸ナトリウム;リン酸;アラニン;ジヒドロキシエチルグリシン;グルコン酸;アスコルビン酸;コハク酸;酒石酸等を挙げることができる
。細胞又は組織の回収率を向上する観点から、クエン酸又はその塩(例、クエン酸3ナト
リウム)或いはEDTA又はその塩(例、EDTA2Na、EDTA3Na、EDTA4Na等のエデト酸ナトリウ
ム塩)が好ましい。キレート剤は2種以上を混合して用いることもできる。キレート剤の
組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば、クエン酸又はその塩(例、クエン酸3ナトリウム)と、EDTA又はその塩(例、EDTA2Na、EDTA3Na、EDTA4Na等のエデト酸ナトリウム塩)との組み合わせを挙げることが出来る。
【0106】
キレート剤の添加量は、本発明の液体組成物に含まれる上記三次元ネットワーク中の金属カチオンを介した多糖類(脱アシル化ジェランガム又はその塩、及び二価金属カチオン媒体中でランダムコイル状態を維持し、かつ二価金属イオンを介して架橋できる酸性多糖類(例、アルギン酸)又はその塩)同士の結合をルーズにすることができる量である。
例えば、クエン酸又はその塩(例、クエン酸3ナトリウム)の場合、通常、添加直後の
終濃度として、0.001 w/v%以上、好ましくは、0.005 w/v%以上である。理論的には、上限値は、クエン酸又はその塩の飽和濃度であるが、濃度が高すぎると細胞又は組織の生存性への影響が懸念されるため、通常、0.2 w/v%以下、より好ましくは0.1 w/v%以下である。
また、EDTA又はその塩(例、EDTA2Na、EDTA3Na、EDTA4Na等のエデト酸ナトリウム塩)
の場合、通常、添加直後の終濃度として、0.001w/v%以上、好ましくは、0.005 w/v%以
上である。理論的には、上限値は、EDTA又はその塩の飽和濃度であるが、濃度が高すぎると細胞又は組織の生存性への影響が懸念されるため、通常、0.2 w/v%以下、より好まし
くは0.1 w/v%以下である。
【0107】
前記保存調製物に対して、キレート剤を添加した後、キレート剤が均一となるように、上述の保存調製物に対してせん断力を加える操作を行うことにより、よく撹拌することが好ましい。
【0108】
上記の前処理工程の後、得られた細胞又は組織を含む混合物を、遠心分離に付し、細胞又は組織を沈殿させ、細胞又は組織以外の画分(例えば、上清の本発明の液体組成物)を除去することにより、最終的に細胞又は組織の保存調製物から、細胞又は組織を回収することができる。遠心分離により細胞や組織を沈殿させる技術は、当業者に周知であり、細胞や組織の種類に応じて、当業者であれば適切な条件を設定することができる。一般的には、10~400G程度の遠心力で遠心分離を行うことにより、細胞や組織を沈殿させて、上清と分離させることができる。
【0109】
上述のとおり、ピペッティングやフィルター濾過等のせん断力による、細胞や組織の浮遊状態を維持する効果の喪失は、可逆的な反応なので、上記の前処理工程の後、三次元のネットワーク(不定型な構造体)が再生される前に、遠心分離に付すのが好ましい。例えば、上記前処理工程完了後、60分以内、好ましくは30分以内、より好ましくは10分以内に、遠心分離を開始する。
【0110】
以下に本発明の液体組成物の実施例を具体的に述べることで、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例0111】
[試験例1]多糖混合液の作製
ガラス製培地ビンへ1質量部のアルギン酸ナトリウム(ALG)(キミカアルギンIL-2、株式会社キミカ製)および99質量部の精製水を加え、オートクレーブ滅菌処理(121℃、20
分)を行う事で、1質量%濃度のALG水溶液を作製した。
同様にして1質量%濃度の脱アシル化ジェランガム(DAG)(KELCOGEL CG-LA、三晶株
式会社製)水溶液を作製した。
ALG水溶液およびDAG水溶液を2:1(v/v)の割合でコニカルチューブへ分取し、シリン
ジ針を装着したディスポシリンジを使用して念入りにピペッティング混合して均一化し、多糖混合液を作製した。
【0112】
[試験例2]液体組成物の作製
培地作製キット(日産化学工業 FCeM(R)-series Preparation Kit)を使用し、本発明の液体組成物の作製を行った。コニカルチューブ(住友ベークライト 50mL遠沈管)に所定量の各種培地を分注し、キットの構成品であるアダプターキャップを装着した。所定量の試験例1で得た多糖混合液を充填したディスポーザブルシリンジの先端部をアダプタ
ーキャップの円筒部に嵌め込んで接続し、シリンジのプランジャーを人力で押圧し、勢い良くシリンジ内の多糖混合液を容器内へと射出して培地と瞬時に混合させて本発明の液体組成物を作製した。作製した液体組成物を表1に示す。
【0113】
【0114】
[分析]液体組成物の粘度測定
試験例2にて調製した液体組成物の粘度測定を行った。代表例として、DHb087をE型粘
度計(東機産業株式会社製、ViscometerTVE-22L、標準ロータ1°34´×R24)を用いて、25℃条件下にて回転数100rpmで5分間測定した結果、3回測定した値の平均値は、2.07 mPa・s(1回目1.95 mPa・s、2回目2.21 mPa・s、3回目2.05 mPa・s)であった。
【0115】
[試験例3]細胞保存(細胞種:NHDF)
正常ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞(NHDF、倉敷紡績社製)を152×104細胞含む細胞懸濁液を準備し、4本のコニカルチューブに38×104細胞ずつ分注した。遠心分離(300 x g
,3分)を行い上清除去した後、表1に示すDAG及びALG(合計濃度 0.016(w/v)%)を含む液体組成物(DHb086乃至DHb090)または比較としてDAG及びALGを含まない液体組成物(比較例1又は比較例2)1.9mLを加えて再懸濁し、それぞれの液体組成物を含む細胞懸濁液
(20×104細胞/mL)を作製した。これらを1.5mL丸底マイクロチューブ各18本に100μLず
つ分注し、ふたを閉め25(±1)℃で静置保管した。保管開始日、保管後1日目、4日目、7日目、14日目、21日目の各日に各3本ずつ取り出し、細胞中に含まれるATP量をCellTiter-Glo試薬(プロメガ社製)を用いてプレートリーダー(infiniteM200PRO、テカン社製)により定量した。保管開始日に測定して得られたRLU値を基準(細胞生存率100%)として、各日数保管後に測定して得られるRLU値を比較し、時間経過後の細胞生存率を算出するこ
とで細胞保存性を評価した。以上の試験にて測定した3回の平均値を表2に記した。
【0116】
【0117】
表2より、多糖組成物を配合していない比較例1では3割まで生存率が減少したのに対し
、DAG及びALGを配合した液体組成物であるDHb086では3週間後も約7割の生存を、DHb090では4日後5割の生存を確認した。このことからDAG及びALGを配合した液体組成物が細胞保存効果を示すことを確認した。
【0118】
[試験例4]細胞保存(細胞種:NHDF)
正常ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞(NHDF、倉敷紡績社製)を310×104細胞含む細胞懸濁液を準備し、5本のコニカルチューブに62×104細胞ずつ分注した。遠心分離(300 x g
,3分)を行い上清除去した後、表1に示すDAG及びALG(合計濃度 0.010、0.013、0.016
、0.020(w/v)%)を含む液体組成物(表1 DHb084、DHb085、DHb086、又はDHb087)ま
たは比較としてDAG及びALGを含まない液体組成物(比較例1)3.1mLを加えて再懸濁し、それぞれの液体組成物を含む細胞懸濁液(20×104細胞/mL)を作製した。これらを96穴U底
細胞培養用プレート(住友ベークライト社製、MS―309UR)各5ウェルに1ウェルあたり100μLずつ各6枚に分注し、ふたを被せて25(±1)℃で静置保管した。保管開始日、保管後1日目、3日目、7日目、14日目、21日目の各日に各5ウェルずつの細胞中に含まれるATP量をCellTiter-Glo試薬(プロメガ社製)を用いてプレートリーダー(infiniteM200PRO、テカン社製)により定量した。保管開始日に測定して得られたRLU値を基準(細胞生存率100%)として、各日数保管後に測定して得られるRLU値を比較し、時間経過後の細胞生存率を
算出することで細胞保存性を評価した。以上の試験にて測定した5回の平均値を表3に記した。
【0119】
【0120】
表3より、いずれの多糖濃度においても3週間で約7割以上の生存率を示し、DAG及びALG
を配合した液体組成物の高い細胞保存効果が確認された。
【0121】
[試験例5]細胞保存(細胞種:h-MSC)
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(h-MSC、LONZA社製)を104×104細胞含む細胞懸濁液を準備し、4本のコニカルチューブに26×104細胞ずつ分注した。遠心分離(300 x g,3分)を行い上清除去した後、表1に示すDAG及びALG(合計濃度 0.016(w/v)%)を含む液体組成
物(実施例DHb086乃至DHb090)、または比較としてDAG及びALGを含まない液体組成物(比較例1乃至比較例2)1.3mLを加えて再懸濁し、それぞれの液体組成物を含む細胞懸濁液(20×104細胞/mL)を作製した。これらを1.5mL丸底マイクロチューブ各12本に100μLずつ分注し、ふたを閉め25(±1)℃で静置保管した。保管開始日、保管後3日目、7日目の各日
に各3本ずつ取り出し、細胞中に含まれるATP量をCellTiter-Glo試薬(プロメガ社製)を
用いてプレートリーダー(infiniteM200PRO、テカン社製)により定量した。保管開始日
に測定して得られたRLU値を基準(細胞生存率100%)として、各日数保管後に測定して得られるRLU値を比較し、時間経過後の細胞生存率を算出することで細胞保存性を評価した
。以上の試験にて測定した3回の平均値を表4に記した。
【0122】
【0123】
表4より、DHb086では1週間後も約7割、DHb090では約6割の生存を示し、DAG及びALGを含む液体組成物の方が約2倍の生存率向上を示したことから、DAG及びALGを配合した液体組
成物の優れた細胞保存効果が確認された。
【0124】
[試験例6]細胞播種密度および保存温度を変えた細胞保存試験(細胞種:h-MSC)
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(h-MSC、LONZA社製)を510×104細胞含む細胞懸濁液17mLを準備し、4本のコニカルチューブに3×104細胞(0.1mL)、30×104細胞(1mL)、150×104細胞(5mL)、300×104細胞(10mL)ずつ分注した。遠心分離(300 x g,3分)を行い上
清除去した後、表1に示すDAG及びALG(合計濃度 0.016(w/v)%)を含む液体組成物(DHb086)を加えて再懸濁し、各細胞密度の細胞懸濁液(1×104細胞/mL、10×104細胞/mL、50×104細胞/mL、100×104細胞/mL)を作製した。これらを1.5mL丸底マイクロチューブ各24本に100μLずつ分注し、ふたを閉め25(±1)℃または37℃で静置保管した。保管開始
日、保管後1日目、3日目、7日目の各日に各3本ずつ取り出し、細胞中に含まれるATP量をCellTiter-Glo試薬(プロメガ社製)を用いてプレートリーダー(infiniteM200PRO、テカ
ン社製)により定量した。保管開始日に測定して得られたRLU値を基準(細胞生存率100%)として、各日数保管後に測定して得られるRLU値を比較し、時間経過後の細胞生存率を
算出することで細胞保存性を評価した。以上の試験にて測定した3回の平均値を表5に記した。
【0125】
【0126】
表5より、DAG及びALGを含む液体組成物は、25℃での保存試験ではいずれの細胞播種密
度においてもすぐれた細胞保存性を示した。一方で、37℃での保存試験では生存率が顕著に低下したことから、常温での保存に対する有効性が確認された。
【0127】
[試験例7]スフェアの保存(細胞種:h-MSC)
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(h-MSC、LONZA社製)を32.4×10
4細胞含む細胞懸濁液を準
備し、スフェア調製用6穴プレート(Elplasia Spheroid Generators MPc500、クラレ社製)へ32.4×10
4細胞分の細胞懸濁液を1ウェルに4mL加え、37℃、5%炭酸ガス条件下において血清入りDMEM-Low Glucose培地にて3日間培養を行うことでh-MSCのスフェアを調製した。ウェル底面には直径500μmのピンホールが650個開けられているため、ハンギングドロ
ップ状のピンホール底面あたり500細胞の密度で播種され、各ピンホール中で形成された
スフェア約650個を得た。得られたスフェアを15mLコニカルチューブに回収し、遠心分離
(100 x g,1分)を行い上清除去した後、表1に示すDAG及びALG(合計濃度 0.020(w/v
)%)を含む液体組成物(DHb087)1.3mLを加えて再懸濁し、スフェア懸濁液(50個/100
μL)を作製した。これらを1.5mL丸底マイクロチューブ12本に100μLずつ分注し、ふたを閉め25(±1)℃で静置保管した。保管開始日、保管後3日目、5日目、7日目の各日に各3
本ずつ取り出し、細胞中に含まれるATP量をCellTiter-Glo試薬(プロメガ社製)を用いてプレートリーダー(infiniteM200PRO、テカン社製)により定量した。保管開始日に測定
して得られたRLU値を基準(細胞生存率100%)として、各日数保管後に測定して得られるRLU値を比較し、時間経過後の細胞生存率を算出することで細胞保存性を評価した。以上
の試験にて測定した3回の平均値を表6に記した。また、7日間静置後のスフェア保存懸濁
液の外観および保存前後のスフェア観察写真を
図1に示した。
【0128】
【0129】
表6より、スフェアは保存5日経過後も死滅することなく生存し、7日経過後も80%以上
生存していることを確認した。比較例1の培地中で保存すると、スフェア同士が凝集し凝
集塊の内部がネクローシスを起こすことから試験から除外した(データ示さず)。
【0130】
図1より、保存前後でスフェアの形態は維持されており、保存7日後もDAG及びALGを含む液体組成物中で浮遊状態を保っていることが確認された。
【0131】
[試験例8]振動環境でのスフェア保存(細胞種:h-MSC)
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(h-MSC、LONZA社製)を64.8×104細胞含む細胞懸濁液を準
備し、スフェア調製用6穴プレート(Elplasia Spheroid Generators MPc500、クラレ社製)へ32.4×104細胞分の細胞懸濁液を2ウェルに各4mLずつ加え、37℃、5%炭酸ガス条件下において血清入りDMEM-Low Glucose培地にて3日間培養を行うことでh-MSCのスフェアを調製した。ウェル底面には直径500μmのピンホールが650個開けられているため、ハンギン
グドロップ状のピンホール底面あたり500細胞の密度で播種され、各ピンホール中で形成
されたスフェア約650個/ウェルを得た。得られたスフェアをウェル毎にそれぞれ15mLコニカルチューブに回収し、遠心分離(100 x g,1分)を行い上清除去した後、表1に示すDAG及びALG(合計濃度 0.020(w/v)%)を含む液体組成物(DHb087)または比較としてDAG及びALGを含まない液体組成物(比較例1)1.3mLを加えて再懸濁し、それぞれのスフェア
懸濁液(50個/100μL)を作製した。これらを1.5mL丸底マイクロチューブ各12本に100μLずつ分注し、ふたを閉め25(±1)℃で振動環境(高速振とう機ASCM-1(1.5mL用チューブラック装着、300rpm)、アズワン社製)にて保管した。保管開始日、保管後3日目、7日目の各日に各3本ずつ取り出し、細胞中に含まれるATP量をCellTiter-Glo試薬(プロメガ社
製)を用いてプレートリーダー(infiniteM200PRO、テカン社製)により定量した。保管
開始日に測定して得られたRLU値を基準(細胞生存率100%)として、各日数保管後に測定して得られるRLU値を比較し、時間経過後の細胞生存率を算出することで細胞保存性を評
価した。以上の試験にて測定した3回の平均値を表7に記した。
【0132】
【0133】
輸送時の環境を想定した振動条件にてh-MSCスフェアの保存試験を実施したところ、表7より、DAG及びALGを含む液体組成物は、振動条件でも良好な細胞保存性を示した。比較例1では、振動のためスフェア同士の凝集はやや抑制されたが、生存率の低下がみられた。
【0134】
[参考例1]多糖混合液の作製
ガラス製培地ビンへ1質量部または2質量部のアルギン酸ナトリウム(ALG)(キミカア
ルギン、株式会社キミカ製)および99質量部または98質量部の精製水を加え、オートクレーブ滅菌処理(121℃、20分)を行う事で、1質量%濃度または2質量%濃度のALG水溶液を作製した。
同様にして1質量%濃度および2質量%濃度の脱アシル化ジェランガム(DAG)(KELCOGEL CG-LA、三晶株式会社製)水溶液を作製した。
所定量のALG水溶液及びDAG水溶液をマイクロチューブへ分取し、シリンジ針を装着したディスポシリンジを使用して念入りにピペッティング混合して均一化し、多糖混合液を作製した。
【0135】
[参考例2]液体組成物の作製
(1)ボルテックスミキサーを使用した液体組成物の作製
コニカルチューブ(住友ベークライト 15 mL、50 mL、または225 mL遠沈管)に所定量
の培地を分注し、開放したままボルテックスミキサーにより撹拌状態とした。そこへ所定量の参考例1で得た多糖混合液を充填したシリンジ針(フチガミ器械 FN5200)を装着したディスポーザブルシリンジ(テルモ テルモシリンジ)から、勢い良く多糖混合液を培地
へ加えることにより液体組成物を作製した。
【0136】
(2)培地作製キット(日産化学工業 FCeMTM-series Preparation Kit)を使用した液体
組成物の作製
コニカルチューブ(住友ベークライト 50 mL遠沈管)に所定量の培地を分注し、キットの構成品であるアダプターキャップを装着した。所定量の参考例1で得た多糖混合液を充
填したディスポーザブルシリンジの先端部をアダプターキャップの円筒部に嵌め込んで接続し、シリンジのプランジャーを人力で押圧し、勢い良くシリンジ内の多糖混合液を容器内へと射出して培地と接触させて液体組成物を作製した。
【0137】
[参考例3]浮遊作用の確認
参考例2にて作製した液体組成物中に、浮遊する細胞を模擬的に再現するためのポリス
チレンビーズ(直径500~600 μm、Polysciences Inc.製)を添加して撹拌し、撹拌停止
から10分後に、液中のビーズの分散状態を目視にて確認した。DAG及びALGが二価金属カチオン(Ca2+等)を介して架橋されることにより形成される構造体の十分量が液中に適切
に細かく分散している場合、ビーズも液中に分散して浮遊したままになる。一方、当該構造体の分散が十分でないと、それに応じてビーズも沈降する。ビーズの分散状態については、好ましく分散し浮遊した状態を○、分散しているが一部が沈降した状態を△、全てのビーズが沈降した状態を×として表す。
【0138】
(1)DAG及びALG(1:1)を用いた場合の浮遊作用
【0139】
【0140】
(2)DAG及びALG(0.5:1)を用いた場合の浮遊作用
【0141】
【0142】
[参考例4]ピペッティングによる細胞回収
対数増殖期にある正常ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞(NHDF、倉敷紡績)を1800×104
細胞準備し、300×104細胞ずつ分注した。遠心分離(300 x g、3分)を行い上清除去した後、DAG及びALG(合計濃度 0.015(w/v)%)を種々の比で含む液体組成物(表10の実施例C369乃至C373)30mLを加えて緩やかに撹拌し細胞懸濁液を作製した(10×104細胞/mL)。24穴細胞培養用プレート(住友ベークライト社製)へ10×104細胞分の細胞懸濁液を1ウェルあたり1 mLずつ加え、37℃、5%炭酸ガス条件下において1週間培養を行った。培養後の細胞懸濁液の細胞濃度をセルカウンター(TC-20、BIO-RAD)を用いて計測した後、同懸濁液を1.5 mLマイクロチューブへ移し、0.2 mLに吸引・吐出容量を設定したマイクロピペット(サーモサイエンティフィック社製、クリップチップ1000 μL)により20回ピペッティングすることにより均一化した。その後遠心分離(300 x g、3分)を行い、上清液1.1 mLを除去して10%ウシ胎児血清含有DMEM-LGを0.9mL添加して再懸濁させた後、細胞中に含まれるATP量をCellTiter-Glo(プロメガ社)を用いてプレートリーダー(テカン社製)により定量した。細胞回収操作前の培養後細胞懸濁液を測定して得られたRLU値を基準(細
胞回収率100%)として、浮遊阻害剤を添加して細胞回収操作をした際に得られるRLU値を比較して細胞回収率を算出した。以上の試験は全て3回実施し、その平均値を表に記した
。
【0143】
【0144】
[参考例5]ピペッティング回数の検討
対数増殖期にある正常ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞(NHDF、倉敷紡績)を1440×104
細胞準備し、表10の実施例C371の液体組成物48mLへ懸濁させ、30×104細胞(1 mL)ずつ24穴細胞培養用プレート(住友ベークライト社製)へ分注し、37℃、5%炭酸ガス条件下において3日間培養を行った。培養後の細胞懸濁液の細胞濃度をセルカウンター(TC-20、BIO-RAD)を用いて計測した後、同懸濁液を1.5 mLマイクロチューブへ移し、0.2mLに吸引・吐出容量を設定したマイクロピペット(サーモサイエンティフィック社製、クリップチッ
プ1000μL)により所定回数ピペッティングした。その後遠心分離(300 x g、3分)を行
い、上清液1.1mLを除去して10%ウシ胎児血清含有DMEM-LGを0.9 mL添加して再懸濁させた後、細胞中に含まれるATP量をCellTiter-Glo(プロメガ社)を用いてプレートリーダー(テカン社製)により定量し、細胞回収率を算出した。以上の試験は全て5回実施し、その
平均値を表に記した。
【0145】
【0146】
[参考例6]キレート剤の添加
対数増殖期にある正常ヒト新生児包皮皮膚線維芽細胞(NHDF、倉敷紡績)を450×104細胞準備して表10の実施例C371の液体組成物15 mLへ懸濁させ、30×104細胞(1 mL)ずつ24穴細胞培養用プレート(住友ベークライト社製)へ分注し、37℃、5%炭酸ガス条件下に
おいて3日間培養を行った。培養後の細胞懸濁液の細胞濃度をセルカウンター(TC-20、BIO-RAD)を用いて計測した後、同懸濁液を1.5 mLマイクロチューブへ移し、所定量のキレ
ート剤(EDTA-2Na 0.033 (w/v)%とクエン酸ナトリウム0.007(w/v)%の混合水溶液)0
乃至0.1 mLを加えて、0.2 mLに吸引・吐出容量を設定したマイクロピペット(サーモサイエンティフィック社製、クリップチップ1000 μL)により0または10回ピペッティングし
た。その後遠心分離(300 x g、3分)を行い、上清液1.1 mLを除去して10%ウシ胎児血清含有DMEM-LGを0.9 mL添加して再懸濁させた後、細胞中に含まれるATP量をCellTiter-Glo
(プロメガ社)を用いてプレートリーダー(テカン社製)により定量し、細胞回収率を算出した。以上の試験は全て3回実施し、その平均値を表に記した。
【0147】
【0148】
[試験例7]Jurkat細胞増殖
対数増殖期にあるヒトT細胞性白血病由来細胞(Jurkat E6.1、DSファーマバイオメディカル株式会社)を240×104細胞準備し、40×104細胞ずつ遠心分離(300 x g、3分)を行
い上清除去した後、DAG及びALG(質量比 1:0.5)を種々の濃度で含む液体組成物(表13
の実施例DHb020乃至DHb023)、及びDAGを含みALGを含まない液体組成物(表13の比較例DHb024)を8mL加えて緩やかに撹拌し細胞懸濁液を作製した(5×104細胞/mL)。96穴U底細
胞培養用プレート(住友ベークライト社製、MS-309UR)へ0.5×104細胞分の細胞懸濁液を1ウェルあたり0.1mLずつ加え、37℃、5%炭酸ガス条件下において1又は4日間培養を行っ
た。培養前後の細胞数を細胞中に含まれるATP量としてCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社、G7571)を用いてプレートリーダー(テカン社製、infiniteM200PRO)により比較した。以上の試験は全て4回実施し、その平均値を表に記した。
【0149】
【0150】
評価の結果、本発明の液体組成物を用いても、比較例と同等の細胞増殖性が達成された。
【0151】
[参考例8]A549細胞増殖
対数増殖期にあるヒト肺胞基底上皮腺癌細胞(A549、DSファーマバイオメディカル株式会社)を86.4×104細胞準備し、遠心分離(300 x g、3分)を行い上清除去した後、DAG及びALG(質量比 1:0.5)を種々の濃度で含む液体組成物(表14の実施例E041及び実施例E045、E047、E048)、及びDAGを含みALGを含まない液体組成物(表14の比較例E049)を8 mLを加えて緩やかに撹拌し細胞懸濁液を作製した(5×104細胞/mL)。96穴U底細胞培養用プレート(住友ベークライト社製、MS-309UR)へ0.5×104細胞分の細胞懸濁液を1ウェルあ
たり0.1 mLずつ加え、37℃、5%炭酸ガス条件下において1又は4日間培養を行った。培養
前後の細胞数を細胞中に含まれるATP量としてCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社、G7571)を用いてプレートリーダー(テカン社製、infiniteM200PRO)により比較した。以上の試験は全て6回実施し、その平均値を表に記した。
【0152】
【0153】
評価の結果、本発明の液体組成物を用いても、比較例と同等の細胞増殖性が達成された。
【0154】
[参考例9]10mLスケールでの細胞回収
表14の実施例E041の液体組成物200 mLへ10×104細胞/mLとなるようにA549細胞を播種し、37℃、5%炭酸ガス条件下において二日間培養した。培養後、細胞懸濁液を10mLずつ分
取し、キレート剤(EDTA-2Na 0.033 (w/v)%とクエン酸ナトリウム0.007(w/v)%の混合水溶液)を1mL添加し、直ちにセルストレーナー(40μm、70μm、100μm、Falcon(R) セ
ルストレーナー)を通して種々条件にて遠心分離(3分間)を行った(50×g、100×g、300×g、g:gravity 重力加速度)。前述の細胞回収操作前後の細胞数を細胞中に含まれるATP量としてCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(Promega社、G7571)を
用いてプレートリーダー(テカン社製、infiniteM200PRO)により比較した。
【0155】
【0156】
評価の結果、本発明の液体組成物はピペッティング操作の代わりにメッシュ(セルストレーナー)を通すことでも高い細胞回収率を達成できることが示された。
本発明の液体組成物を用いることにより、細胞や組織を、例えば室温等にて、非凍結状態で、良好な生存性を維持したまま長期間保存することができる。本発明の液体組成物中でスフェアを保存すると、スフェア同士の凝集が回避され、スフェア内部のネクローシスの発生が抑制される。
ここで述べられた特許、特許出願明細書、科学文献を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。