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  • -ペリクル膜およびペリクル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025107607
(43)【公開日】2025-07-18
(54)【発明の名称】ペリクル膜およびペリクル
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20250711BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20250711BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20250711BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20250711BHJP
【FI】
G03F1/62
B82Y30/00
B82Y20/00
C01B32/174
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025078300
(22)【出願日】2025-05-08
(62)【分割の表示】P 2024557691の分割
【原出願日】2024-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023051777
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 秀平
(72)【発明者】
【氏名】河原 準
(72)【発明者】
【氏名】市川 功
(57)【要約】
【課題】縮小された空隙構造を備える場合であっても、EUV透過性を担保できるペリクル膜を提供すること。
【解決手段】多孔質構造を有するペリクル膜10であって、前記ペリクル膜10は、カーボンナノチューブを含み、前記カーボンナノチューブの長さが、1μm以上、250μm以下であり、前記ペリクル膜の単位面積当たりの重量は、0.71μg/cm以上、1μg/cm以下であり、前記多孔質構造の表面において測定される、空隙の平均空隙径が、30nm以上、60nm以下であり、かつ、空隙間の平均最隣接重心間距離が、50nm以上、70nm以下であり、波長550nmにおける光線透過率が50%以上、84.1%以下である、ペリクル膜10。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造を有するペリクル膜であって、
前記ペリクル膜は、カーボンナノチューブを含み、
前記カーボンナノチューブの長さが、1μm以上、250μm以下であり、
前記ペリクル膜の単位面積当たりの重量は、0.71μg/cm以上、1μg/cm以下であり、
前記多孔質構造の表面において測定される、空隙の平均空隙径が、30nm以上、60nm以下であり、かつ、空隙間の平均最隣接重心間距離が、50nm以上、70nm以下であり、
波長550nmにおける光線透過率が50%以上、84.1%以下である、
ペリクル膜。
【請求項2】
請求項1に記載のペリクル膜において、
前記カーボンナノチューブの断面直径が、0.2nm以上、50nm以下である、
ペリクル膜。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のペリクル膜において、
前記ペリクル膜は、前記カーボンナノチューブが堆積してなる多孔質構造体である、
ペリクル膜。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のペリクル膜において、
自立性を有する、
ペリクル膜。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のペリクル膜と、
枠部及び前記枠部に囲まれた開口部を有し、前記ペリクル膜を支持する支持体と、
を備える、
ペリクル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクル膜およびペリクルに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の製造工程では、例えば、半導体ウエハ等の基板にフォトレジストを塗布し、フォトレジストを塗布した基板上に、フォトマスクを用いて光を照射し、フォトレジストを除去することにより、基板上に目的とする回路パターンが形成される。
【0003】
フォトマスク上に異物が付着した状態で光が照射されると、付着した異物によって、基板上に形成された回路パターンに支障を来す場合がある。このため、フォトマスク上への異物の付着を抑制するために、異物を捕捉させるためのペリクル膜を備えたペリクルが使用される場合がある。ペリクルは、フォトマスクの上方に、ペリクル膜がフォトマスクに接しない距離で配置される。
【0004】
近年、より微細な回路パターンを形成するために、極端紫外線(EUV:Extreme Ultra Violet)の使用が検討されている。EUVは、波長1nm以上、100nm以下の光を指す。EUVとしては、例えば、具体的には、13.5nm±0.3nm程度の光線が使用されつつある。EUVがペリクル膜に照射された場合、EUVはペリクル膜を透過するものの、照射されたEUVの一部はペリクル膜に吸収される。吸収されたEUVの光エネルギーは熱エネルギーに変換されることにより、ペリクル膜の温度が上昇する。このため、ペリクル膜には、EUVの透過性、耐熱性および耐久性等が求められる。
【0005】
EUVを使用して回路パターンを形成する工程に使用されるペリクルにおいて、ペリクルが備えるペリクル膜に用いられる材料の一つとして、カーボンナノチューブが検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、少なくとも表層側に、炭素の少なくとも一部がケイ素に置き換えられた炭化ケイ素層を含有するカーボンナノチューブを含むペリクル膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2021-172104号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されるカーボンナノチューブを含むペリクル膜は、強度およびEUV透過性に優れるとされている。しかしながら、特許文献1に開示されるペリクル膜は、ペリクル膜の表面における空隙特性については言及されていない。空隙特性は、異物捕集性およびEUV透過性に影響を及ぼしやすい。例えば、EUV透過性の向上のために、空隙径および空隙間の平均最隣接重心間距離などの空隙構造を拡大させすぎると、異物捕集性は低下する。このため、ペリクル膜には、空隙構造を縮小させつつ、高いEUV透過性を担保することが要求されていた。
【0009】
本発明は、カーボンナノチューブを含むペリクル膜において、縮小された空隙構造を備える場合であっても、EUV透過性を担保できるペリクル膜、及び当該ペリクル膜を用いたペリクルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1]
多孔質構造を有するペリクル膜であって、
前記ペリクル膜は、カーボンナノチューブを含み、
前記多孔質構造の表面において測定される、空隙の平均空隙径が、60nm以下であり、かつ、空隙間の平均最隣接重心間距離が、70nm以下である、
ペリクル膜。
【0011】
[2]
[1]に記載のペリクル膜において、
前記平均空隙径が20nm以上、60nm以下である、
ペリクル膜。
【0012】
[3]
[1]又は[2]に記載のペリクル膜において、
前記平均最隣接重心間距離が、40nm以上、70nm以下である、
ペリクル膜。
【0013】
[4]
[1]から[3]のいずれか一項に記載のペリクル膜において、
前記カーボンナノチューブの長さが、0.1μm以上、1000μm以下である、
ペリクル膜。
【0014】
[5]
[1]から[4]のいずれか一項に記載のペリクル膜において、
前記カーボンナノチューブの断面直径が、0.2nm以上、50nm以下である、
ペリクル膜。
【0015】
[6]
[1]から[5]のいずれか一項に記載のペリクル膜において、
前記ペリクル膜は、前記カーボンナノチューブが堆積してなる多孔質構造体である、
ペリクル膜。
【0016】
[7]
[1]から[6]のいずれか一項に記載のペリクル膜において、
自立性を有する、ペリクル膜。
【0017】
[8]
[1]から[7]のいずれか一項に記載のペリクル膜と、
枠部及び前記枠部に囲まれた開口部を有し、前記ペリクル膜を支持する支持体と、
を備える、
ペリクル。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、カーボンナノチューブを含むペリクル膜において、縮小された空隙構造を備える場合であっても、EUV透過性を担保できるペリクル膜、及び当該ペリクル膜を用いたペリクルが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係るペリクルの一例を模式的に表す平面図である。
図2図1のII-II断面を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(ペリクル膜)
本実施形態に係るペリクル膜は、多孔質構造を有する。前記ペリクル膜は、カーボンナノチューブを含み、前記多孔質構造の表面において測定される、空隙の平均空隙径が、60nm以下であり、かつ、空隙間の平均最隣接重心間距離が、70nm以下である。
【0021】
本実施形態に係るペリクル膜は、上記構成を有することにより、比較的小さな空隙を多数備える空隙構造を有すると考えられるため、縮小された空隙構造を備えているといえる。そして、本実施形態に係るペリクル膜によれば、比較的小さな空隙を多数備えることによって、縮小された空隙構造を備える場合であっても、EUV透過性を担保できると考えられる。また、本実施形態に係るペリクル膜によれば、縮小された空隙構造を備えているため、EUV透過性の透過性を担保しつつ、異物捕集性も向上する。
なお、本実施形態に係るペリクル膜は、縮小された空隙構造を備えており、ある程度の大きさの空隙構造を有すると考えられるため、ペリクル膜を透過する透過光の透過性は担保されるとともに、異物捕集性が向上すると考えられる。ある程度の大きさの空隙構造として、例えば、平均空隙径であれば、平均空隙径が20nm以上である空隙構造が例示される。また、ある程度の大きさの空隙構造として、例えば、平均最隣接重心間距離であれば、平均最隣接重心間距離が40nm以上である空隙構造が例示される。
【0022】
多孔質構造の表面において測定される、空隙の平均空隙径が、60nm以下であり、かつ、空隙間の平均最隣接重心間距離が、70nm以下であるペリクル膜に調節する手段は特に限定されない。当該手段は、例えば、後述のペリクル膜の好ましい製造方法の一例において、ペリクル膜に含まれるカーボンナノチューブの量(例えば、ペリクル膜を形成するときの中間生成物であるカーボンナノチューブの膜化物に含まれるカーボンナノチューブの量、又はカーボンナノチューブの膜化物を形成するときのカーボンナノチューブ分散液中のカーボンナノチューブの量)と、カーボンナノチューブの分散強度とを調節する手段が挙げられる。
【0023】
本実施形態に係るペリクル膜に含まれるカーボンナノチューブは、特に限定されず、多層カーボンナノチューブ(MWCNT:Multi-Walled Carbon Nanotubes)、数層カーボンナノチューブ(FWCNT:Few-Walled Carbon Nanotubes)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT:Double-Walled Carbon Nanotubes)、及び単層カーボンナノチューブ(SWCNTS:Single-Walled Carbon Nanotube)からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0024】
カーボンナノチューブは、例えば、アーク放電法、レーザーアブレーション法、及び化学蒸着等の公知の製造方法によって得られる。
【0025】
カーボンナノチューブの長さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下であることが好ましい。
カーボンナノチューブの長さは、0.5μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましい。
カーボンナノチューブの長さは、600μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
カーボンナノチューブの断面直径は、0.2nm以上、50nm以下であることが好ましい。
カーボンナノチューブの断面直径は、0.5nm以上であることがより好ましく、1nm以上であることがさらに好ましい。
カーボンナノチューブの断面直径は、30nm以下であることがより好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。
なお、本明細書において、断面直径を、単に、直径と称する場合がある。
【0027】
EUV透過性を担保しやすくする観点で、ペリクル膜の多孔質構造の表面において測定される空隙における平均空隙径は、例えば、20nm以上、60nm以下であってもよい。平均空隙径は、25nm以上であってもよく、30nm以上であってもよい。平均空隙径は、55nm以下であってもよく、50nm以下であってもよい。
【0028】
本明細書において、空隙径とは、空隙の面積と同じ面積を持つ円を仮想した仮想円における直径(すなわち、円相当径)を意味する。
【0029】
EUV透過性を担保しやすくする観点で、ペリクル膜の多孔質構造の表面において測定される空隙における空隙間の平均最隣接重心間距離は、例えば、40nm以上、70nm以下であることが好ましい。空隙間の平均最隣接重心間距離は、45nm以上であってもよく、50nm以上であってもよい。空隙間の平均最隣接重心間距離は、68nm以下であってもよく、67nm以下であってもよい。
【0030】
本明細書において、空隙間の最隣接重心間距離とは、一つの空隙の重心と、当該一つ空隙に最も近くに隣接している空隙の重心との距離である。つまり、互いに隣接して隣り合う空隙同士において、一方の空隙の重心から他方の空隙の重心までの距離を意味する。
【0031】
すなわち、本実施形態に係るペリクル膜は、多孔質構造の表面において測定される空隙における空隙の平均空隙径が、20nm以上、60nm以下であってもよく、かつ、空隙間の平均最隣接重心間距離が、40nm以上、70nm以下であってもよい。
【0032】
ペリクル膜の多孔質構造の表面で測定される空隙特性において、平均空隙径および空隙間の平均最隣接重心間距離の空隙特性は、次に挙げる(1)~(10)のステップを有する方法で測定されてもよい。下記の測定方法を採用することにより、一意的な閾値が決定されるため、例えば、測定者によらずに、尤もらしい結果が得られやすい。前記空隙特性の測定方法は、具体的には、後述する実施例に示すとおりである。
【0033】
(1)ペリクル膜を準備するステップ。
(2)前記準備した前記ペリクル膜の表面を撮像して、前記ペリクル膜の画像データを取得するステップ。
(3)前記画像データに対して、第一の画素値から前記第一の画素値よりも大きい第二の画素値までの範囲内において、等間隔に、3以上の複数の異なる閾値を初期の閾値として設定し、前記初期の閾値のそれぞれに基づいて二値化処理を行い、前記初期の閾値に基づく二値化処理画像データを取得するステップ。
(4)前記初期の閾値に基づく二値化処理画像データに対して、ブロブ解析することにより、前記ペリクル膜の表面における空隙の空隙特性の分布を算出した初期の実測値を得るステップ。
(5)前記初期の実測値に基づいて、対数正規分布の確率密度関数で求められる空隙特性の分布の初期の理論値を求めるステップ。
(6)前記初期の実測値と、前記初期の理論値との誤差を求めるステップ。
(7)前記初期の実測値と、前記初期の理論値との誤差が最も小さくない場合には、閾値が再設定され、前記画像データに対して、前記再設定された再設定の閾値に基づいて二値化処理を行い、前記再設定の閾値に基づく二値化処理画像データを取得し、前記再設定の閾値に基づく二値化処理画像データに対して、ブロブ解析することにより、前記ペリクル膜の表面における空隙の空隙特性の分布を算出した再測定の実測値を得るステップ。
(8)前記再測定の実測値に基づいて、対数正規分布の確率密度関数で求められる空隙特性の分布の再測定の理論値との誤差を求めるステップ。
(9)前記再測定の実測値と、前記再測定の理論値との誤差が最も小さくない場合には、前記再測定の実測値と、前記再測定の理論値との誤差が最も小さくなるまで、前記再測定の実測値を得るステップおよび前記再測定の理論値との誤差を求めるステップを繰り返すステップ。
(10)前記初期の実測値と、前記初期の理論値との誤差、又は、前記再測定の実測値と、前記再測定の理論値との誤差が最も小さくなった場合の閾値に基づいて算出された空隙特性の分布を最終の実測値として得るステップ。
【0034】
誤差が最も小さくなった場合の閾値は、公知の各種の最適化アルゴリズムを用いることによって決定されることが好ましい。例えば、上記(4)から(9)までのステップにおいて、公知の各種の最適化アルゴリズムを利用して、前述の誤差が最小値になる場合の閾値が探索されることが好ましい。この場合、初期の閾値を決定した後は、最適化アルゴリズムを利用することにより、一意的な閾値が決定されることになる。
【0035】
前記初期の閾値に基づく二値化処理画像データを取得するステップにおいて、初期の閾値は、上記に限らず、第一の画素値から前記第一の画素値よりも大きい第二の画素値までの範囲内で、等間隔に、5以上の複数の異なる閾値を設定してもよく、7以上の複数の異なる閾値を設定してもよい。第一の画素値と第二の画素値との間隔は100以上であることが好ましい。第一の画素値は、20以上、50以下の範囲で設定することが好ましい。第二の画素値は、150以上、240以下の範囲で設定することが好ましい。等間隔とは、当該3以上の複数の異なる閾値として、n個の閾値を設定した場合、n番目の閾値とn-1番目の閾値との間隔、及び、n-1番目の閾値とn-2番目の閾値との間隔の両者の間隔が等しいというように、隣り合う閾値の間隔が等しいことを表す。初期の閾値は、具体的には、例えば、画素値20から画素値240までの範囲内で、等間隔に、3以上、12以下の複数の異なる閾値を初期の閾値として設定することができる。
なお、再測定の実測値を得るステップにおいて、再設定される閾値は、3以上の複数の異なる閾値ではなく、一つの閾値である。
【0036】
前記空隙特性は、例えば、上記(1)~(10)のステップをコンピュータに実行させるプログラムを備える装置によって測定されてもよい。当該プログラムは、記録媒体に記録されていてもよい。
【0037】
ペリクル膜の厚さは、3nm以上、1000nm以下であることが好ましい。ペリクル膜の厚さは、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。ペリクル膜の厚さは、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。ペリクル膜の厚さが、例えば、3nm以上、1000nm以下であれば、EUV透過性をより担保しやすくなる。また、ペリクル膜の操作性が向上する。
【0038】
ペリクル膜の単位面積当たりの重量は、特に限定されず、例えば、0.1μg/cm以上、20μg/cm以下であることが好ましい。ペリクル膜の単位面積当たりの重量は、0.5μg/cm以上であることがより好ましく、1μg/cm以上であることがさらに好ましい。ペリクル膜の単位面積当たりの重量は、15μg/cm以下であることがより好ましく、10μg/cm以下であることがさらに好ましい。ペリクル膜の単位面積当たりの重量が、例えば、0.1μg/cm以上、20μg/cm以下であれば、EUV透過性をより担保しやすくなる。
【0039】
本実施形態に係るペリクル膜は、カーボンナノチューブが堆積してなる多孔質構造体であることが好ましい。カーボンナノチューブが堆積してなる多孔質構造体は、後述のペリクル膜の好ましい製造方法の一例によって製造できる。カーボンナノチューブが堆積してなる多孔質構造体であれば、EUV透過性をより担保しやすくなる。
【0040】
本実施形態に係るペリクル膜は、露光光に対する透明性を向上させる観点で、自立性を有することが好ましい。ペリクル膜が自立性を有するとは、ペリクル膜自体で自立した状態である膜を表し、ペリクル膜が自立保持性を有する膜(自立膜とも称する)であることを表す。つまり、自立性を有するペリクル膜は、基材等が存在しなくても、ペリクル膜自体で形状を保持することが可能な膜である。
【0041】
(ペリクル膜の製造方法)
ペリクル膜の製造方法は、特に限定されない。ペリクル膜の好ましい製造方法の一例は、例えば、カーボンナノチューブを分散させる工程(P1)と、分散させたカーボンナノチューブを通気性部材上に沈降および堆積させて、通気性部材上にマット状に形成したカーボンナノチューブの膜化物を得る工程(P2)と、カーボンナノチューブの膜化物から通気性部材を取り除き、ペリクル膜を得る工程(P3)とを備える。
【0042】
まず、工程P1において、カーボンナノチューブを分散媒としての液体中に分散させ、カーボンナノチューブが液体中に分散されたカーボンナノチューブ分散液を調製する。液体は、水を含む液体であってもよい。カーボンナノチューブ分散液は、分散質として、カーボンナノチューブのみを含んでいてもよい。カーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの他に、カーボンナノチューブを分散させる分散剤等の各種の添加剤を含んでいてもよい。
【0043】
例えば、工程P1においてカーボンナノチューブを液体中に分散させるときの分散強度と、工程P2において、カーボンナノチューブの膜化物を作製するときのカーボンナノチューブの単位面積当たりの重量とのバランスを調節することによって、平均空隙径が、60nm以下であり、かつ、空隙間の平均最隣接重心間距離が、70nm以下であるペリクル膜が得られやすくなる。例えば、具体的には、前記カーボンナノチューブの単位面積当たりの重量をある程度の量以上とすると、平均空隙径が60nm以下の範囲を満足させやすくなり、前記カーボンナノチューブの単位面積当たりの重量を低下させすぎると、平均空隙径が60nmを超える傾向にある。また、例えば、前記分散強度をある程度までの範囲に抑えると、空隙間の平均最隣接重心間距離が70nm以下の範囲を満足させやすくなり、前記分散強度を増大させすぎると、空隙間の平均最隣接重心間距離が70nmを超える傾向にある。
【0044】
前記カーボンナノチューブの単位面積当たりの重量および前記分散強度は、例えば、工程P2で作製するカーボンナノチューブの膜化物に含まれるカーボンナノチューブの量として、0.1μg/cm以上、20μg/cm以下の範囲であることが挙げられる。また、前記分散強度は、カーボンナノチューブを分散させる分散機として撹拌機を用いる場合、例えば、撹拌機の周速として、10m/s以上、60m/s以下の範囲であることが挙げられ、撹拌機の撹拌時間として、例えば、5分以上、60分以下であることが挙げられる。
【0045】
次いで、工程P2において、分散させたカーボンナノチューブを通気性部材の上に、沈降および堆積させる。例えば、工程P1で調製したカーボンナノチューブ分散液を通気性部材としてのろ過膜によってろ過することで、カーボンナノチューブを沈降及び堆積させて、ろ過膜上に、マット状に形成したカーボンナノチューブの膜化物を形成させる。ろ過膜は、例えば、メンブレンフィルタなどを用いることが好ましい。
【0046】
次いで、工程P3において、マット状に形成したカーボンナノチューブの膜化物からろ過膜を取り除くことで、カーボンナノチューブを含むペリクル膜が得られる。マット状に形成した繊維の膜化物からろ過膜を取り除く前、又はマット状に形成した繊維の膜化物からろ過膜を取り除いた後に、必要に応じて、乾燥工程を設けてもよい。得られたペリクル膜は、自立膜である。
【0047】
(ペリクル)
本実施形態に係るペリクルは、前述した実施形態に係るペリクル膜と、枠部及び前記枠部に囲まれた開口部を有し、前記ペリクル膜を支持する支持体と、を備える。
【0048】
以下、図面を参照して、本実施形態に係るペリクルについて説明する。
なお、本明細書で図面を参照して説明する場合の図面においては、説明を容易にするために拡大又は縮小をして図示した部分がある。
【0049】
図1には、ペリクル膜10が架設されている面から平面視したペリクル100の平面図が示されており、図2には、図1に示されるペリクル100の断面図が示されている。ペリクル100は、ペリクル膜10と、ペリクル膜10を支持する支持体30とを備えている。支持体30は、枠部31と、枠部31に囲まれた開口部32とを備えており、開口部32は、支持体30における一方の面から他方の面に向かって貫通している。枠部31および開口部32はいずれも矩形に形成されており、枠部31の外形における四隅の角はいずれも丸みを帯びている。枠部31は、ペリクル膜10に対向する支持面33を備えている。ペリクル膜10は、矩形に形成されており、支持体30の支持面33に対向する第一ペリクル膜面11と、第一ペリクル膜面11とは反対側の第二ペリクル膜面12とを備えている。ペリクル膜10は、ペリクル膜10の周縁部13が枠部31の支持面33の一部において固定されており、支持体30の開口部32を覆っている。
【0050】
ペリクル膜10は、前述した本実施形態に係るペリクル膜が用いられる。支持体30の材料としては、例えば、樹脂材料(ポリエチレン等)、金属材料(アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ステンレス、及びチタン等)、セラミックス材料(SiC等)、及び繊維強化プラスチック材料(炭素繊維強化プラスチック等)などが用いられる。
【0051】
なお、ペリクル膜10において、支持体30の支持面33に対向する面とその反対側の面との位置関係を明確にするために、便宜上、第一ペリクル膜面11及び第二ペリクル膜面12の用語を用いている。このため、場合によっては、第一ペリクル膜面11及び第二ペリクル膜面12の両者を入れ替えて使用することができ、第一ペリクル膜面11及び第二ペリクル膜面12とは互いに区別なく使用することが可能である。
【0052】
以上、図1及び図2を参照して本実施形態に係るペリクルの一例について説明したが、本実施形態に係るペリクルは、これに限定されるものではない。本実施形態に係るペリクルは、前述の本実施形態に係るペリクル膜を用いたペリクルの効果が得られるのであれば、種々の形態を採用し得る。本実施形態に係るペリクルを構成する各部材の各部における形状および寸法等は、例えば、本実施形態に係るペリクルが使用されるときのフォトマスク(不図示)の寸法に応じて決定されればよい。
【0053】
例えば、図1及び図2に示されるペリクル100のペリクル膜10および支持体30は、いずれも矩形に形成されている。本実施形態に係るペリクルは、これに限られず、円形、楕円形、及び多角形等の目的とする任意の形状に形成されていればよい。
【0054】
また、例えば、図1及び図2に示されるペリクル100では、ペリクル膜10の周縁部13が支持体30の支持面33の一部で固定されている。ペリクル100は、これに限られず、ペリクル膜10の周縁部13が、支持体の支持面33の全面で固定されてもよい。
【0055】
また、例えば、図1及び図2において、ペリクル膜10と支持体30とは、図示しない接着層を設けることで固定されてもよい。接着層は、必要に応じて設けられる層である。接着層を構成する材料は、特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、及びフッ素樹脂等の各種接着剤、並びにカーボンナノチューブなどが使用されてもよい。
【0056】
(ペリクルの製造方法)
本実施形態に係るペリクルにおける好ましい製造方法の一例は、本実施形態に係るペリクル膜を準備する工程と、枠部および前記枠部に囲まれた開口部を有し、前記ペリクル膜を支持する支持体を準備する工程と、前記支持体に対して、前記開口部を覆うとともに、前記枠部の支持面で支持されるようにペリクル膜を設ける工程と、を有する。当該製造方法は、必要に応じて、前記枠部の支持面の少なくとも一部に接着層を設ける工程を有してもよい。
【0057】
本実施形態に係るペリクル膜を準備する工程は、前述した実施形態に係るペリクル膜を準備すればよい。支持体を準備する工程は、前述の支持体を構成する材料を用い、公知の方法によって、目的とする形状に形成された支持体を準備すればよい。ペリクル膜を設ける工程は、公知の方法で、開口部を覆うとともに、枠部の支持面で支持されるようにペリクル膜を架設すればよい。枠部の支持面の少なくとも一部に接着層が設けられる場合は、前記接着層を介して、枠部の支持面で支持されるようにペリクル膜が架設される。接着層に各種接着剤を使用する場合、接着層を設ける工程は、支持面に接着剤を塗布することで、接着剤を含む接着層が設けられる。接着層にカーボンナノチューブを使用する場合、接着層を設ける工程は、例えば、カーボンナノチューブの分散液を、支持面に塗布および乾燥させることで、カーボンナノチューブを含む接着層が設けられる。
【0058】
本実施形態に係るペリクルは、例えば、第一ペリクル膜面がフォトマスクと対向するように、フォトマスクの上方に、フォトマスクと離間して配置されて使用される。本実施形態に係るペリクルが使用されることによって、EUV透過性が担保される。また、本実施形態に係るペリクル膜は、空隙構造が縮小されているため、異物補足性が高まり、フォトマスクへの異物の付着抑制効果が高まる。
【0059】
なお、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0060】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されない。
【0061】
[実施例1]
<ペリクル膜の作製>
カーボンナノチューブ(以下、CNTと称する)として、直径が0.2nm以上、50nm以下であり、長さが1μm以上、250μm以下であるCNTを準備した。CNTの水分散液中における濃度が0.02質量%となるように、準備したCNTを秤量した。また、分散剤として、水分散液中における濃度が0.2質量%となるように、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)を秤量した。秤量したCNTと、秤量したCMCとを水中に投入し、薄膜旋回型高速撹拌機(プライミクス社製、製品名「フィルミックス」)を用いて、周速40m/sで、分散時間を25分として、CNTを水中に分散させて、CNTの水分散液を調製した。なお、CNTを分散させたときのせん断速度はおよそ4.0×10-1である。次いで、CNTの濃度が1ppmとなるようにCNTの水分散液を希釈した。次いで、ペリクル膜に含まれるCNTの質量(表1中、CNT膜内質量と表記)が0.71μg/cmとなるように、希釈後のCNTの水分散液をろ過器に投入した。次いで、ろ過器に投入したCNTの水分散液を、メンブレンフィルタでろ過して、メンブレンフィルタの上にマット状のCNTの膜化物を形成した。その後、マット状のCNTの膜化物をメンブレンフィルタから剥離し、CNTを含むペリクル膜を作製した。ペリクル膜は、自立性を有する膜であった。得られたペリクル膜から、後述のペリクル膜の空隙解析にしたがって、平均空隙径、及び空隙間の平均最隣接重心間距離を算出した。
【0062】
<ペリクル膜の空隙解析>
各例で得られたペリクル膜の表面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)(Carl Zeiss社製、CrossBeam550)で観察し、SEM画像の画像データを取得した。撮像条件は、加速電圧1kV、倍率1万倍とした。視野は、3視野以上とした。
【0063】
得られたSEM画像の画像データから、空隙径(ポアサイズ)を円相当径として解析した。まず、SEM画像の画像データの1視野に対して、初期の二値化閾値を、画素値40から画素値160までの間で、画素値20おきに等間隔に、40、60、80、100、120、140、及び160の7点の値で設定し、それぞれの二値化閾値で、7点の二値化処理画像データを得た。この操作を3視野以上の画像データについて行った。次いで、得られた二値化処理画像データに対して、初期の二値化閾値に基づく、初期の空隙径の分布を測定した。その後、空隙径の分布の実測値が対数正規分布によく近似(フィット)するように、ベイズ最適化を利用してフィッティングすることにより、空隙径の分布の実測値と、空隙径の分布の理論値との誤差を最小化する二値化閾値を自動で探索した。そして、空隙径の分布の実測値と、空隙径の分布の理論値との誤差が最小化したときの二値化閾値に基づいて測定された空隙径の分布および空隙間の最隣接重心間距離の分布から、平均空隙径および空隙間の平均最隣接重心間距離を算出した。
【0064】
<波長550nmの透過性評価>
各例で得られたペリクルについて、紫外可視近赤外分光光度計(株式会社島津製作所製、製品名「UV-VIS-NIR SPECTROPHOTOMETER UV-3600」)を用いて波長200nmから800nmまでの光線透過率を測定し、波長550nmにおける光線透過率(%)を抽出した。測定には、付属の大形試料室MPC-3100を用い、内蔵の積分球を使用せずに測定を行った。
【0065】
CNTを含むペリクル膜は、波長13.5nmにおける光線透過率と、波長550nmにおける光線透過率との間に相関があることが知られている(例えば、マリーナら、「スキャナーのような環境での CNT EUV ペリクルの調整可能性と性能」2021年3月23日の図4(a)(Marina,Y, et al. “CNT EUV pellicle tunability and performance in a scanner-like environment,”. Proc. SPIE 11609, Extreme Ultraviolet (EUV) Lithography XII, 116090Y, (23 March 2021). Figure 4(a). ; doi : 10.1117/12.2584519)を参照)。このため、波長550nmにおける光線透過率を評価することによって、波長13.5nmの光線透過率の評価(すなわち、EUV透過性の評価)を行うことが可能である。なお、波長550nmにおける光線透過率が85%以上であれば、例えば、高いEUV透過率(例えば、EUV透過率が94%以上)を担保しやすい。なお、本実施形態に係るペリクル膜において、波長550nmにおける光線透過率が50%以上であれば、EUV透過性も優れており、高いEUV透過性が得られていると判断できる。
【0066】
[実施例2~実施例5および比較例1~比較例4]
表1にしたがって、分散強度と、ペリクル膜に含まれるCNTの質量(CNT膜内質量)を変更した以外は、実施例1と同様にしてペリクル膜を作製して、ペリクル膜の空隙解析、及び波長550nmの透過性評価を行った。
【0067】
【表1】
【0068】
以上の結果から、平均空隙径が、60nm以下であり、かつ、空隙間の平均最隣接重心間距離が、70nm以下であるペリクル膜は、波長550nmの透過性評価結果が優れていることが分かる。したがって、本発明の一実施形態によれば、空隙構造が縮小されているのも関わらず、EUV透過性が担保されたペリクル膜、及び当該ペリクル膜を用いたペリクルが提供できる。また、本発明の一実施形態によれば、空隙構造が縮小されているため、異物の捕集効果も高いことが予測される。なお、各比較例の波長550nmの透過性は、各実施例よりも優れているが、これは、各比較例が比較的大きな空隙構造を有しているためである。そして、比較的大きな空隙構造を有している比較例は、異物の捕集効果が低いことが予測できる。
【符号の説明】
【0069】
10…ペリクル膜、11…第一ペリクル膜面、12…第二ペリクル膜面、13…周縁部、30…支持体、31…枠部、32…開口部、33…支持面、100…ペリクル。
図1
図2