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特開2025-11465光合成微生物の製造方法及び光合成微生物の製造装置
<図1>
  • 特開-光合成微生物の製造方法及び光合成微生物の製造装置 図1
  • 特開-光合成微生物の製造方法及び光合成微生物の製造装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025011465
(43)【公開日】2025-01-24
(54)【発明の名称】光合成微生物の製造方法及び光合成微生物の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20250117BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20250117BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12M1/00 E
C12M3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113596
(22)【出願日】2023-07-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「バイオジェット燃料生産技術開発事業/微細藻類基盤技術開発/微細藻バイオマスのカスケード利用に基づくバイオジェット燃料次世代事業モデルの実証研究」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅人
(72)【発明者】
【氏名】日根野谷 充
(72)【発明者】
【氏名】山本 恭士
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA09
4B029BB04
4B029CC01
4B029HA06
4B065AA83X
4B065BC02
4B065BD18
4B065CA41
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】低コストで効率よく光合成微生物を培養し回収できる光合成微生物の製造方法及び光合成微生物の製造装置の提供。
【解決手段】培養槽11に収容された培養液S中で光合成微生物を培養する培養工程と、分離膜を用いて光合成微生物を含む培養液Sを膜ろ過し、光合成微生物を濃縮する濃縮工程と、分離膜を透過した透過水の少なくとも一部を培養槽11に返送する返送工程と、分離膜を透過せず、光合成微生物が濃縮された濃縮水を回収する回収工程とを有する、光合成微生物の製造方法。培養槽11に収容された培養液S中で光合成微生物を培養する培養手段10と、分離膜を用いて光合成微生物を含む培養液Sを膜ろ過し、光合成微生物を濃縮する濃縮手段20と、前記透過水の少なくとも一部を培養槽11に返送する返送手段30と、前記濃縮水を回収する回収手段40とを備える、光合成微生物の製造装置1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養槽に収容された培養液中で光合成微生物を培養する培養工程と、
分離膜を用いて前記光合成微生物を含む前記培養液を膜ろ過し、前記光合成微生物を濃縮する濃縮工程と、
前記分離膜を透過した透過水の少なくとも一部を前記培養槽に返送する返送工程と、
前記分離膜を透過せず、前記光合成微生物が濃縮された濃縮水を回収する回収工程と、
を有する、光合成微生物の製造方法。
【請求項2】
前記培養槽に収容される前記培養液中の培地を調製する調製工程をさらに有する、請求項1に記載の光合成微生物の製造方法。
【請求項3】
前記分離膜に形成される微細孔の公称孔径が5μm以下である、請求項1又は2に記載の光合成微生物の製造方法。
【請求項4】
前記透過水中の溶存有機炭素濃度が20mg/L以下である、請求項1又は2に記載の光合成微生物の製造方法。
【請求項5】
前記光合成微生物が微細藻類である、請求項1又は2に記載の光合成微生物の製造方法。
【請求項6】
培養槽に収容された培養液中で光合成微生物を培養する培養手段と、
分離膜を用いて前記光合成微生物を含む前記培養液を膜ろ過し、前記光合成微生物を濃縮する濃縮手段と、
前記分離膜を透過した透過水の少なくとも一部を前記培養槽に返送する返送手段と、
前記分離膜を透過せず、前記光合成微生物が濃縮された濃縮水を回収する回収手段と、
を備える、光合成微生物の製造装置。
【請求項7】
前記培養槽に収容される前記培養液中の培地を調製する調製手段をさらに有する、請求項6に記載の光合成微生物の製造装置。
【請求項8】
前記分離膜に形成される微細孔の公称孔径が5μm以下である、請求項6又は7に記載の光合成微生物の製造装置。
【請求項9】
前記透過水中の溶存有機炭素濃度が20mg/L以下である、請求項6又は7に記載の光合成微生物の製造装置。
【請求項10】
前記光合成微生物が微細藻類である、請求項6又は7に記載の光合成微生物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光合成微生物の製造方法及び光合成微生物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオマス燃料や、食品、化粧品等の材料等として、光合成微生物、特に微細藻類が注目され、大規模プラントでの微細藻類の培養が盛んに行われている。
微細藻類の培養は、通常、培養槽で培地を調製した後、種藻を添加して増殖させる方法で行われる。培養後は、増殖した微細藻類を含む培養液の一部又は全部を培養槽から抜き出し、培養液から微細藻類を分離、濃縮して回収する。
培養液の全部を培養槽から抜き出した場合は、再度、培養槽で培地を調製し、種藻を添加して増殖させる。一方、培養液の一部を培養槽から抜き出した場合は、抜き出した培養液と同量の培地を培養槽に充填して微細藻類を増殖させる。
しかし、これらの方法では、大量の培地成分や水が必要であり、製造コストが増大する。加えて、培養液から微細藻類を分離、濃縮して回収する際に廃液が大量に発生するため、廃液の処理にも費用がかかる。
【0003】
そこで、培養後の溶液を再利用する方法が提案されている。
例えば特許文献1には、藻類回収済みの培養液を、藻類の回収装置を介して培養槽に返送する藻類の培養方法及び培養装置が開示されている。
特許文献2には、微細藻類を含む培養液を膜ろ過して濃縮し、濃縮された微細藻類を含む濃縮水を培養槽に返送するとともに、培養槽の上流に設置された、水と微細藻類の培養成分とを混合するための培養成分混合タンクに、分離膜を透過した透過水を返送する微細藻類の培養方法及び培養装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-230091号公報
【特許文献2】特開2014-76016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法の場合、培養槽から培養液を排出(藻類を回収)した後に、回収装置を介して、残った藻類回収済みの培養液を培養槽に返送するため、効率が悪い。
特許文献2に記載の方法では、効率よく透過水及び濃縮水の返送を行うことができるが、培養効率が低下しやすい。
本発明は、低コストで効率よく光合成微生物を培養し回収できる光合成微生物の製造方法及び光合成微生物の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、濃縮された微細藻類を含む濃縮水を培養槽へ返送する場合、分離膜を透過しなかったバクテリアや有機物等の不純物も微細藻類と共に培養槽へ返送されてしまい、培養効率が低下することを突き止めた。そこで、分離膜で培養液を濃縮した後、透過水を培養槽へ返送する一方で、濃縮水を回収することで、低コストで効率よく光合成微生物を培養し回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記の態様を有する。
[1] 培養槽に収容された培養液中で光合成微生物を培養する培養工程と、
分離膜を用いて前記光合成微生物を含む前記培養液を膜ろ過し、前記光合成微生物を濃縮する濃縮工程と、
前記分離膜を透過した透過水の少なくとも一部を前記培養槽に返送する返送工程と、
前記分離膜を透過せず、前記光合成微生物が濃縮された濃縮水を回収する回収工程と、
を有する、光合成微生物の製造方法。
[2] 前記培養槽に収容される前記培養液中の培地を調製する調製工程をさらに有する、前記[1]の光合成微生物の製造方法。
[3] 前記分離膜に形成される微細孔の公称孔径が5μm以下である、前記[1]又は[2]の光合成微生物の製造方法。
[4] 前記透過水中の溶存有機炭素濃度が20mg/L以下である、前記[1]~[3]のいずれかの光合成微生物の製造方法。
[5] 前記光合成微生物が微細藻類である、前記[1]~[4]のいずれかの光合成微生物の製造方法。
【0008】
[6] 培養槽に収容された培養液中で光合成微生物を培養する培養手段と、
分離膜を用いて前記光合成微生物を含む前記培養液を膜ろ過し、前記光合成微生物を濃縮する濃縮手段と、
前記分離膜を透過した透過水の少なくとも一部を前記培養槽に返送する返送手段と、
前記分離膜を透過せず、前記光合成微生物が濃縮された濃縮水を回収する回収手段と、
を備える、光合成微生物の製造装置。
[7] 前記培養槽に収容される前記培養液中の培地を調製する調製手段をさらに有する、前記[6]の光合成微生物の製造装置。
[8] 前記分離膜に形成される微細孔の公称孔径が5μm以下である、前記[6]又は[7]の光合成微生物の製造装置。
[9] 前記透過水中の溶存有機炭素濃度が20mg/L以下である、前記[6]~[8]のいずれかの光合成微生物の製造装置。
[10] 前記光合成微生物が微細藻類である、前記[6]~[9]のいずれかの光合成微生物の製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低コストで効率よく光合成微生物を培養し回収できる光合成微生物の製造方法及び光合成微生物の製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の光合成微生物の製造装置の一例を模式的に示す構成図である。
図2】本発明の光合成微生物の製造装置の他の例を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る光合成微生物の製造方法及び光合成微生物の製造装置の一実施形態を挙げ、図1、2を適宜参照しながら詳述する。
なお、以下の説明で用いる各図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
また、図2おいて、図1と同じ構成要素には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0012】
[光合成微生物の製造装置]
図1に、本発明の光合成微生物の製造装置の一例を示す。
図1に示す光合成微生物の製造装置1は、培養手段10と、濃縮手段20と、返送手段30と、回収手段40と、調製手段50とを備える。
【0013】
<培養手段>
培養手段10は、培養槽11に収容された培養液S中で光合成微生物を培養する手段である。
図1に示す培養手段10は、培養液Sを貯留する培養槽11と、培養液Sを濃縮手段20に供給する培養液流路12とを備える。
【0014】
培養槽11としては、光合成微生物の培養を閉鎖系で行う場合は閉鎖系の培養槽を用い、光合成微生物の培養を開放系で行う場合は開放系の培養槽を用いればよい。
閉鎖系の培養槽としては、例えばフォトバイオリアクター型水槽が挙げられる。フォトバイオリアクター型水槽には、半密閉水槽と、密閉水槽があり、具体的には平板型水槽、チューブ型水槽、太陽光集光型水槽、内部照射型水槽が挙げられる。
開放系の培養槽としては、例えばオープンポンド型水槽が挙げられる。オープンポンド型水槽としては、具体的にはレースウェイ型水槽が挙げられる。また、培養槽11に代えて、池等で光合成微生物の培養を行ってもよい。
また、培養槽11として、光合成微生物の培養を開放系と密閉系の両方で行うことができる、ハイブリッド水槽を用いてもよい。
【0015】
培養液Sは光合成微生物及び培地を含み、濃縮の対象となる原水である。
培養される光合成微生物としては、光合成を行う微生物であれば特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば微細藻類、光合成細菌が挙げられる。これらの中でも、バイオマス燃料や、食品、化粧品等の材料等として有用であることから、微細藻類が好ましい。
【0016】
微細藻類とは、光合成機能を有する単細胞生物であり、体長(細胞の長径)が100μm以下のものをいう。
微細藻類としては特に制限されないが、例えばユーグレナ属(ミドリムシ藻類)、コッコミクサ属、ナンノクロロプシス属、マイクロクロロプシス属、藍藻類、原核緑藻類、紅藻類、灰色藻類、クリプト藻類、渦鞭毛藻類、黄金色藻類、珪藻類、褐藻類、黄緑藻類、ハプト藻類、ラフィド藻類(緑色鞭藻類)、クロララクニオン藻類、プラシノ藻類、緑藻類、車軸藻類が挙げられる。これらの中でも、多くの栄養素を含み、食品、化粧品等に好適に利用できる観点から、ユーグレナ属、コッコミクサ属、ナンノクロロプシス属、マイクロクロロプシス属、藍藻類の一種であるスピルリナが好ましい。
光合成細菌としては特に制限されないが、例えば紅色細菌、緑色非硫黄細菌、緑色硫黄細菌、ヘリオバクテリアが挙げられる。
【0017】
培養液流路12は、培養槽11から培養液Sの一部を抜き出し、抜き出した培養液Sを濃縮手段20に供給する配管である。培養液流路12の一端は培養槽11に接続され、他端は後述する濃縮手段20の濃縮槽21に接続されている。
培養液流路12の途中には、原水ポンプP1が設置されている。原水ポンプP1は、培養槽11に貯留された培養液Sを培養槽11から抜き出し、濃縮槽21に加圧供給する手段である。原水ポンプP1としては、培養液Sを濃縮槽21に加圧供給できるものであれば、特に制限されない。
【0018】
<濃縮手段>
濃縮手段20は、分離膜を用いて光合成微生物を含む培養液Sを膜ろ過し、光合成微生物を濃縮する手段である。本実施形態の濃縮手段20は、光合成微生物の膜ろ過手段とも言える。
図1に示す濃縮手段20は、濃縮槽21と、分離膜を備える膜モジュール22とを備える。
濃縮槽21には培養液流路12が接続されており、培養手段10から濃縮槽21へ培養液Sが供給される。
【0019】
膜モジュール22は、濃縮槽21内に配置され、培養手段10から供給された培養液S中に浸漬している。
膜モジュール22は、分離膜に導入された培養液Sを膜ろ過することで、分離膜を透過した透過水と、分離膜を透過せず、光合成微生物が濃縮された濃縮水とに分離する手段である。
膜モジュール22では、培養液Sが分離膜で膜ろ過され、濃縮される。
【0020】
膜モジュール22の形態としては特に制限されないが、例えば、複数の分離膜同士が一定間隔離れて配置されたシート状物と、このシート状物を支持する一対のハウジングとを備えたものが挙げられる。なお、分離膜が複数束ねられて分離膜束を形成し、複数の分離膜束同士が一定間隔離れて配置されてシート状物を形成していてもよい。
【0021】
分離膜としては、精密濾過膜、限外濾過膜が挙げられる。また、ラボスケールでの実験の場合には、シリンジフィルターを用いてもよい。
分離膜に形成される微細孔の公称孔径は5μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましく、0.45μm以下が特に好ましく、0.4μm以下が最も好ましい。また、微細孔の公称孔径は0.02μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.2μm以上がさらに好ましい。微細孔の公称孔径が上記下限値以上であれば、目詰まりを抑制でき、分離効率を良好に維持できる。加えて、固液分離に要する圧力を十分小さく抑えられる。微細孔の公称孔径が上記上限値以下であれば、光合成微生物が透過水中に漏出しにくくなる。加えて、コンタミネーションの発生源となる培養液S中の不純物も透過水中に漏出しにくくなる。よって、不純物が十分に除去された透過水を培養槽11へ返送でき、培養効率の低下をより抑制できる。
ここで、不純物としては、培養する光合成微生物と光や栄養分を奪い合う目的外の光合成微生物、培養する光合成微生物摂食する動物プランクトン、増殖することで光を遮る光合成微生物以外の微生物、これら以外のバクテリア(光合成細菌を除く)等のコンタミネーションの発生源となりうる微生物(以下、「コンタミ微生物」ともいう。);光合成微生物から分泌されるタンパク質や多糖類、微生物の養分となる糖類等の成分、フミン質、微生物の屍骸等の有機物が挙げられる。
【0022】
なお、公称孔径とは、精密濾過膜の場合、各粒子径のラテックス粒子の阻止率を測定し、粒子径と阻止率の近似曲線から算出した阻止率90%の粒子径であり、限外濾過膜の場合、各ストークス径のデキストランの阻止率を測定し、ストークス径と阻止率の近似曲線から算出した阻止率90%のストークス径である。分離膜として市販品を用いる場合、カタログ値を公称孔径として採用してもよい。
【0023】
分離膜の形態としては、中空糸膜、管状膜(チューブラー膜、シングルボア型、マルチボア型等)、スパイラル膜、平膜、モノリス型膜が挙げられる。これらの中でも、容積充填率が高いことから、中空糸膜、管状膜が好ましい。分離膜としてモノリス型膜を用いる場合は、セラミック製の膜を用いることが好ましい。
【0024】
膜モジュール22の分離膜に中空糸膜を用いる場合、その材質としては、セルロース、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)が挙げられる。これらの中でも、中空糸膜の材質としては、耐薬品性やpH変化に強い点から、PVDF、PTFE、PESが好ましい。
中空糸膜の外径は、0.01~3mmが好ましく、0.05~1mmがより好ましい。
中空糸膜の内径は、0.005mm以上、1mm未満が好ましい。
なお、中空糸膜の外径は、中空糸膜の長手方向に対して垂直な任意の面で切断したとき、その切断面の外縁に内接する最小の円の直径を意味し、任意の2箇所以上、10箇所以下で測定した平均値として求める。中空糸膜の内径は、中空糸膜の長手方向に対して垂直な任意の面で切断したとき、その切断面の内縁に内接する最小の円の直径を意味し、任意の2箇所以上、10箇所以下で測定した平均値として求める。
【0025】
膜モジュール22の分離膜に管状膜を用いる場合、その材質としては、ポリオレフィン、PVDF、PTFE、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、酢酸セルロース、ポリスルホン、PES、セラミックが挙げられる。これらの中でも、管状膜の材質としては、耐薬品性や膜モジュールへの加工性に優れる点から、PVDF、PTFE、PESが好ましい。
管状膜の内径は、1mm以上が好ましい。また、管状膜の内径は、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、3mm以下がより好ましく、3mm未満がさらに好ましく、2mm以下が特に好ましい。
なお、管状膜の内径は、管状膜の長手方向に対して垂直な任意の面で切断したとき、その切断面の内縁に内接する最小の円の直径を意味し、任意の2箇所以上、10箇所以下で測定した平均値として求める。マルチボア型の管状膜の場合、任意の1箇所、又は2箇所以上の内径の平均値を、管状膜の内径とする。
【0026】
<返送手段>
返送手段30は、分離膜を透過した透過水の少なくとも一部を培養槽11に返送する手段である。本実施形態の返送手段30では、透過水の全量を培養槽11へ返送する。
図1に示す返送手段30は、透過水流路31を備える。
【0027】
透過水流路31は、膜モジュール22の分離膜を透過した透過水、すなわち培養液Sから光合成微生物等が除去された分離液を膜モジュール22から排出し、培養槽11へ返送する配管である。透過水流路31の一端は膜モジュール22に接続され、他端は培養槽11に接続されている。
透過水流路31の途中には、第一の吸引ポンプP3が設置されている。第一の吸引ポンプP3は、膜モジュール22の分離膜を透過した透過水を吸引して膜モジュール22から排出する手段である。第一の吸引ポンプP3としては、透過水を吸引できるものであれば、特に制限されない。
【0028】
<回収手段>
回収手段40は、分離膜を透過せず、光合成微生物が濃縮された濃縮水を回収する手段である。回収手段40では、濃縮水を培養槽11へ返送することなく回収する。
図1に示す回収手段40は、濃縮水流路41を備える。
【0029】
濃縮水流路41は、膜モジュール22の分離膜を透過せず、光合成微生物が濃縮された濃縮水を濃縮槽21から排出する配管である。濃縮水流路41の一端は濃縮槽21に接続され、他端は例えば濃縮水を収容する回収槽(図示略)に接続されている。
濃縮水流路41の途中には、第二の吸引ポンプP4が設置されている。第二の吸引ポンプP4は、光合成微生物が濃縮された濃縮水を吸引して濃縮槽21から排出する手段である。第二の吸引ポンプP4としては、濃縮水を吸引できるものであれば、特に制限されない。
【0030】
濃縮槽21から排出された濃縮水は回収され、様々な用途、例えば、バイオマス燃料や、食品、化粧品等の材料等に利用される。
なお、分離膜を透過しなかった、培養液S中の不純物も光合成微生物と共に回収されることとなるが、回収後に必要に応じて光合成微生物を抽出したり、精製・改質したりすることで、不純物を除去できる。
【0031】
<調製手段>
調製手段50は、培養槽11に収容される培養液S中の培地を調製する手段である。
図1に示す調製手段50は、光合成微生物の培養に用いられる新規な液体培地を収容するタンク51と、培地流路52を備える。
タンク51には、新規な液体培地が収容されている。液体培地の材料としては特に限定されてないが、例えば、海水、湖沼水、河川水、水道水が挙げられる。
【0032】
培地流路52は、タンク51に収容された新規な液体培地を培養槽11に収容される培養液Sに供給する配管である。
図示例の培地流路52は、一端がタンク51に接続され、他端が透過水流路31に接続されており、透過水流路31中で透過水に新規な液体培地が添加されることで、培地を調製できるようになっている。
透過水流路31及び培養槽11の少なくとも一方には、培地の濃度を測定する濃度計(図示略)が設けられていることが好ましい。
【0033】
[光合成微生物の製造方法]
以下、本発明の光合成微生物の製造方法の一例について説明する。なお、以下に説明する光合成微生物の製造方法は、図1に示す光合成微生物の製造装置1を用いた光合成微生物の製造方法の一例である。
本実施形態の光合成微生物の製造方法は、以下に示す培養工程と、濃縮工程と、返送工程と、回収工程と、調製工程とを有する。
【0034】
<培養工程>
培養工程は、培養槽11に収容された培養液S中で光合成微生物を培養する工程である。
培養液S中の光合成微生物の濃度が設定値に達成した後に、培養液流路12の途中に設けられた原水ポンプP1を駆動させ、培養した光合成微生物を含む培養液Sの一部を培養槽11から抜き出し、濃縮槽21へ供給する。
【0035】
<濃縮工程>
濃縮工程は、分離膜を用いて光合成微生物を含む培養液Sを膜ろ過し、光合成微生物を濃縮する工程である。
具体的には、第一の吸引ポンプP3を稼働させて膜モジュール22内を減圧にすることによって、培養液Sを膜ろ過して透過水と濃縮水とに分離する。
なお、このとき、膜モジュール22の下方に設置された散気手段(図示略)によって、空気等を散気しながら膜ろ過してもよい。空気等を散気することによって、膜モジュール22の分離膜(例えば、中空糸膜等)の表面を洗浄しながら、効率よく膜ろ過を行うことができる。
【0036】
<返送工程>
返送工程は、分離膜を透過した透過水の少なくとも一部を培養槽11に返送する工程である。
膜モジュール22の分離膜を透過した透過水は、透過水流路31を介して膜モジュール22から排出され、培養槽11に返送される。図示例の光合成微生物の製造装置1の場合、透過水の全量を培養槽11に返送する。
透過水には未利用の培地、すなわち培養に利用されずに残った栄養素が含まれているので、透過水を培養槽11に返送することで、培養に再利用できる。
【0037】
培養槽11に返送される透過水の溶存有機炭素(DOC)濃度は、20mg/L以下が好ましく、18mg/L以下がより好ましく、15mg/L以下がさらに好ましい。
濃縮槽21中で、光合成微生物がタンパク質や多糖類を分泌したり、死細胞からDOCを放出したりすることがある。これらDOCが分離膜を透過して透過水とともに培養槽11に返送されると、返送されたDOCを餌にしてバクテリア等が増殖してしまい、光合成微生物の増殖を妨げるおそれがある。透過水のDOC濃度が上記上限値以下であれば、光合成微生物の増殖を妨げることなく、より効率よく光合成微生物を培養できる。
【0038】
透過水のDOC濃度は、例えば、分離膜に形成される微細孔の公称孔径により制御でき、分離膜に形成された微細孔の公称孔径が小さいほど、透過水のDOC濃度が低減する傾向にある。例えば、公称孔径が5μm以下の微細孔が形成された分離膜を用いれば、透過水のDOC濃度を20mg/L以下に容易に制御できる。
透過水のDOC濃度は、例えば、透過水から無機炭素を除去した後に、有機物を燃焼して発生した二酸化炭素濃度を測定することで求められる。
【0039】
<回収工程>
回収工程は、分離膜を透過せず、光合成微生物が濃縮された濃縮水を回収する工程である。
具体的には、第二の吸引ポンプP4を稼働させて、濃縮水流路41を介して濃縮槽21から濃縮水を定期的に排出し、回収する。
【0040】
<調製工程>
調製工程は、培養槽11に収容される培養液S中の培地を調製する工程である。
例えば、培養槽11に収容される培養液Sの収容量が少ない場合は、培地流路52を介してタンク51に収容された新規な液体培地を透過水流路31中で透過水に添加する。
また、透過水流路31を通過する透過水中の培地の濃度、又は、培養槽11に収容された培養液S中の培地の濃度を測定し、濃度が低い場合に新規な液体培地を透過水流路31中で透過水に添加してもよい。
ここで、培地の濃度とは、培養液S中の窒素、リン、ビタミン、カリウムから選択される1種以上を含む化合物の濃度のことである。
【0041】
[作用効果]
以上説明した、本実施形態の光合成微生物の製造方法及び製造装置では、培養後の溶液、具体的には分離膜を用いて光合成微生物を含む培養液を濃縮したときに生じる、分離膜を透過した透過水を培養槽に返送することで、透過水を培養に再利用する。透過水には未利用の培地、すなわち培養に利用されずに残った栄養素が含まれているので、再利用に好適である。透過水を培養に再利用することで、培地調製に必要な新規の培地や水の量を削減でき、低コストかつ省エネルギーで光合成微生物を培養できる。また、透過水の廃棄処理には費用がかかるが、本実施形態であれは透過水を培養に再利用するので、透過水の処理費用も削減できる。
しかも、本実施形態では、透過水を培養槽へ直接返送するので、水と培養成分とを混合するための培養成分混合タンクを培養槽の上流に設置する必要がなく、省スペースの設備を実現できる。
【0042】
また、上述したように、濃縮水を培養槽へ返送する場合は、分離膜を透過しなかった不純物も培養槽へ返送されることとなり、培養効率の低下を招くが、本実施形態では、分離膜を透過せず、光合成微生物が濃縮された濃縮水を培養槽へ返送することなく回収する。よって、濃縮水に不純物が含まれていても不純物は光合成微生物とともに回収されるので、不純物が培養槽に返送されにくく、培養効率の低下を抑制できる。
しかも、本実施形態では、分離膜を用いて光合成微生物を含む培養液を膜ろ過し、透過水と濃縮水とを同時に得ており、透過水は培養槽へ返送し、濃縮水は回収している。よって、培養槽から培養液を排出(回収)した後に、回収装置を介して培養槽に残った培養液を培養槽に返送する場合に比べて、効率よく透過水の返送と濃縮水の回収を行うことができる。
このように、本実施形態の光合成微生物の製造方法及び製造装置であれば、低コストで効率よく光合成微生物を培養し回収できる。
【0043】
なお、図1に示す光合成微生物の製造装置1では、1つの培養槽11を備えているが、複数の培養槽を設置して光合成微生物を同時に培養してもよい。
また、図1に示す返送手段30では、濃縮手段20で得られた透過水の全量を培養槽11に返送しているが、透過水の一部を培養槽11に返送してもよい。この場合、培養槽11に返送されなかった残りの透過水は、廃棄されてもよいし、分離膜を逆洗するための逆洗液として使用してもよい。
また、図1に示す調製手段50では、培地流路52が透過水流路31に接続されており、培養槽11に返送される前に培地調製を行っているが、培地流路52を培養槽11に接続し、培養槽11に収容された培養液Sに新規な液体培地を添加してもよい。
【0044】
また、図1に示す光合成微生物の製造装置1では、濃縮手段20に備わる膜モジュール22が浸漬型であり、out-in方式で膜ろ過するものであるが、例えば、図2に示す光合成微生物の製造装置2のように、濃縮手段20に備わる膜モジュール23が加圧型で培養液Sを膜ろ過するものであってもよい。
【0045】
図2に示す濃縮手段20は、分離膜を備える膜モジュール23を備える。
膜モジュール23は、分離膜に導入された培養液Sを膜ろ過することで、分離膜を透過した透過水と、分離膜を透過せず、光合成微生物が濃縮された濃縮水とに分離する手段である。
膜モジュール23に備わる分離膜としては、図1に示す膜モジュール22の説明において先に例示した分離膜が挙げられる。中でも、中空糸膜、管状膜が好ましい。
【0046】
図2に示す膜モジュール23は、加圧型でろ過するものである。加圧方式は特に制限されず、内圧式であってもよいし、外圧式であってもよいが、内圧式が好ましい。
ここで、内圧式とは、例えば、分離膜が中空糸膜や管状膜等の中空部を有する場合、中空糸膜又は管状膜の内側に供給水を流し、外側で透過水を得るろ過方式(in-out方式)である。外圧式とは、中空糸膜又は管状膜の外側に供給水を流し、内側で透過水を得るろ過方式(out-in方式)である。
【0047】
膜モジュール23には培養液流路12が接続されており、培養手段10から膜モジュール23へ培養液Sが供給される。
また、膜モジュール23には透過水流路31が接続されており、分離膜を透過した透過水を膜モジュール23から排出できるようになっている。
また、膜モジュール23には濃縮水流路41が接続されており、分離膜を透過しなかった、光合成微生物が濃縮された濃縮水を膜モジュール23から排出できるようになっている。
【0048】
図2に示す光合成微生物の製造装置2を用いた光合成微生物の製造方法は、培養工程と、濃縮工程と、返送工程と、回収工程と、調製工程とを有し、濃縮工程において培養液Sを加圧型でろ過する以外は、図1に示す光合成微生物の製造装置1を用いた光合成微生物の製造方法と同じである。
【実施例0049】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の実施の形態は、本発明の要旨を変更しない限り、種々の変形が可能である。
【0050】
[実施例1]
図1に示す光合成微生物の製造装置1を用いて、以下のようにして光合成微生物を製造した。
膜モジュール22としては、浸漬型中空糸膜モジュール(三菱ケミカル株式会社製、商品名「50E0006SM」、公称孔径0.4μm、膜外径2.8mm、膜面積6m)を8枚用いた。
液体培地としては、Cramer and Myers培地(CM培地)を用いた。
【0051】
まず、光合成微生物として、微細藻類であるミドリムシを液体培地にて、pHを2.5~3.5に調整し、太陽光の当たる屋外に設置された培養槽11で培養した。屋外条件及び微細藻類の濃度は、以下の通りである。
・屋外条件:日中平均水温15~35℃の範囲内であり、全天日射量の月平均値は9~20MJ/m
・微細藻類の濃度:800mg/L。
【0052】
次いで、原水ポンプP1を駆動させ、培養槽11から培養液Sの一部を抜き出し、濃縮槽21へ供給した。
吸引ポンプP2を稼働させて膜モジュール22内を減圧にし、培養液Sを膜ろ過して透過水と濃縮水とに分離した。なお、このときの培養液Sの平均膜ろ過流束を0.6m/dとした。
膜モジュール22の分離膜を透過した透過水の全量を、透過水流路31を介して膜モジュール22から排出し、培養槽11に返送した。
第二の吸引ポンプP4を駆動させ、膜モジュール22の分離膜を透過せず、光合成微生物が濃縮された濃縮水を、濃縮槽21内が10倍濃縮となるように濃縮水流路41を介して濃縮槽21から定期的に排出し、回収した。
【0053】
培養槽11に返送される透過水の一部を採取し、以下に示す測定方法により、光のロス、DOC濃度及び溶存窒素(DN)濃度を測定し、コンタミ微生物の混入及びコンタミ微生物の増殖性を評価した。これらの結果を表1に示す。
なお、「コンタミ微生物」とは、コンタミネーションの発生源となりうる微生物のことであり、具体的には分離膜の説明において不純物として先に例示した微生物が挙げられる。
【0054】
<光のロスの測定>
濁度計(アズワン株式会社製、型番「TN100IR」)を使用し、未使用培地の濁度を分母に、透過水の濁度を分子に置いて、光のロスを測定した。光のロスが少ないほど、透過水中の不純物が少ないことを意味する。
【0055】
<DOC濃度の測定>
透過水を孔径0.45μmのシリンジフィルターで濾過した後、TOC・TN計(株式会社島津製作所、型式「TOC-VCPN」)を用いて全有機体炭素を測定し、DOC濃度を求めた。透過水中のDOC濃度が低いほど糖等の有機物が分離膜を透過しない、すなわちコンタミ微生物の養分となる有機物が十分に除去された透過水を培養槽に返送できたことを意味する。
【0056】
<DN濃度の測定>
透過水を孔径0.45μmのシリンジフィルターで濾過した後、TOC・TN計(株式会社島津製作所、型式「TOC-VCPN」)を用いて全窒素を測定し、DN濃度を求めた。透過水中のDN濃度が高いほど栄養素が分離膜を透過した、すなわち栄養素を多く含む透過水を培養槽に返送できたことを意味する。
【0057】
<コンタミ微生物の混入の評価>
光学顕微鏡を用いて透過水を検鏡し、ミドリムシ以外の微生物(コンタミ微生物)の多寡を観察し、コンタミ微生物の検出の有無を評価した。
【0058】
[実施例2]
図2に示す光合成微生物の製造装置2を用いて、以下のようにして光合成微生物を製造した。
膜モジュール23としては、内圧式加圧型膜モジュール(デュポン社製、商品名「dizzerXL 1.5MB40W」、内径1.5mm、膜面積:40m、マルチボア型の管状膜)を用いた。
液体培地としては、Cramer and Myers培地(CM培地)を用いた。
【0059】
まず、光合成微生物として、微細藻類であるミドリムシを液体培地にて、太陽光の当たる屋外に設置された培養槽11で培養した。屋外条件及び微細藻類の濃度は、以下の通りである。
・屋外条件:日中平均水温15~35℃の範囲内であり、全天日射量の月平均値は9~20MJ/m
・微細藻類の濃度:800mg/L。
【0060】
次いで、原水ポンプP1を駆動させ、培養槽11から培養液Sの一部を抜き出し、濃縮槽21へ供給した。
吸引ポンプP2を稼働させて膜モジュール23内を加圧し、培養液Sを膜ろ過して透過水と濃縮水とに分離した。なお、このときの培養液Sの平均膜ろ過流束を0.7m/dとした。
膜モジュール23の分離膜を透過した透過水の全量を、透過水流路31を介して膜モジュール23から排出し、培養槽11に返送した。
第二の吸引ポンプP4を駆動させ、膜モジュール23の分離膜を透過せず、光合成微生物が濃縮された濃縮水を、膜モジュール23内が10倍濃縮となるように濃縮水流路41を介して膜モジュール23から定期的に排出し、回収した。
【0061】
培養槽11に返送される透過水の一部を採取し、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0062】
[比較例1]
実施例1と同様にして光合成微生物を培養した。
遠心分離機を用いて、培養後の光合成微生物を含む培養液Sを遠心分離した。
遠心分離後の上澄み液の一部を採取し、実施例1と同様にして各種測定及び評価を行った。これらの結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1の結果から明らかなように、分離膜を透過した透過水は、遠心分離により得られた上澄み液と同程度の栄養素を含んでいながら、上澄み液に比べて光のロスが少ないため、不純物の量が少なかった。
また、実施例1、2の場合は透過水中にコンタミ微生物を検出しなかったが、比較例1の場合は上澄み液中にコンタミ微生物を検出した。
通常、有機物が存在する場合にはコンタミ微生物は増殖するが、有機物が存在しない場合にはコンタミ微生物は増殖しないと言われている。また、有機物が多いほど、コンタミ微生物が増殖しやすい傾向にある。実施例1、2の場合、透過水中のDOC濃度は20mg/L以下であるため、比較例1に比べてコンタミ微生物の増殖が抑制されていると推測される。
これらの結果より、本発明であれば、栄養素を含んだ透過水を培養槽に返送し、培養に再利用でき、しかも、透過水にはコンタミ微生物や有機物等の不純物の量が少なく、培養効率の低下を抑制できることが示された。
【0065】
[実施例3]
空気を給気する装置と、水槽(培養槽)とで構成されている光合成微生物の製造装置(図示せず)を用いて、以下に示すステップで微生物を含む培地を準備した。
ステップ1-1:700mLのダイゴIMK培地(富士フイルム和光純薬株式会社製)を調製し、培養槽に注入した。
ステップ1-2:N.gaditana培養液を500mg/Lになるように、前記ステップ1で調製した培地に接種した。
ステップ1-3:0.7L/minで空気(1体積%のCOを含む)を通気しながら、室温(25~30℃)、自然光で3週間培養した。
ステップ1-4:前記ステップ1-3の後、培養槽中の培養液250mLを別置し、残りの培養液を6000rpmで1分間遠心して上清(以下、「遠心上清」という。)を採取した。
ステップ1-5:前記ステップ1-4で採取した遠心上清のうち、70mLを採取し別置した。
ステップ1-6:孔径3μm、1μm、0.45μm、0.2μm及び0.1μmの5種類のシリンジフィルターを使用して、残りの遠心上清を70mLずつ濾過した。得られた濾液をそれぞれ3μm濾液、1μm濾液、0.45μm濾液、0.2μm濾液、0.1μm濾液と称する。
【0066】
次いで、準備した微生物を含む培地、すなわち、前記ステップ1-4で別置しておいた培養液を用いて、返送手段(返送工程)を有する場合の効果を模擬評価するため、以下に示すステップで微生物を培養(製造)した後に培養液を採取し、以下のようにして微細藻類の濃度を測定した。結果を表2に示す。なお、表2に示す微細藻類の濃度は、培養開始時の培養液中の微細藻類の濃度を1とした場合の、培養開始から5日経過した後の培養液中の微細藻類の濃度の相対値(相対濃度)である。
ステップ2-1:前記ステップ1-6で得られた各濾液(3μm濾液、1μm濾液、0.45μm濾液、0.2μm濾液、0.1μm濾液)70mLを別々の培養槽に注入した。
ステップ2-2:ハイポニカ液体肥料(協和株式会社製)を各培養槽に0.2mLずつ添加した。
ステップ2-3:ステップ1-4で別置しておいた培養液を各培養槽に30mLずつ接種した。
ステップ2-4:0.1L/minで空気(1体積%のCOを含む)を通気し、培養用照明(PPFD:140μmol/m/sec)を14hrsON/10hrsOFFで当てながら室温(25~30℃)で5日間培養した。
【0067】
<微細藻類の濃度の測定>
得られた微細藻類の培養液10mLをガラスフィルター(アドバンテック東洋株式会社製、商品名「GS-25」)で吸引濾過し、さらに吸引を続けながら純水30mLで洗浄した。その後、ガラスフィルターを105℃で一晩乾燥させて重量を測定し、培養液体積あたりの微細藻類重量を計算して、培養液中の微細藻類の濃度とした。
【0068】
[比較例2]
前記ステップ2-1において、濾液に代えて前記ステップ1-5で別置しておいた遠心上清70mLを用いた以外は、実施例3と同様にして微生物を培養し、微細藻類の濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0069】
[参考例A]
前記ステップ2-1において、濾液に代えて新規培地、すなわちダイゴIMK培地70mLを用いた以外は、実施例3と同様にして微生物を培養し、微細藻類の濃度を測定した。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2の結果から明らかなように、同じ種類の微細藻類を含む培地を用いて微細藻類を培養した場合、遠心上清をシリンジフィルターで濾過して得られた濾液を微細藻類の培養に利用した場合(返送手段(返送工程)を模擬評価した実施例3)、遠心上清を濾過せずに微細藻類の培養に利用した場合(比較例2)に比べて、培養開始から5日経過した後の培養液中の微細藻類の濃度が明らかに高かった。
また、実施例3における、培養開始から5日経過した後の培養液中の微細藻類の濃度は、新規培地を微細藻類の培養に利用した場合(参考例A)と同程度又はやや低い程度であった。
これらの結果より、シリンジフィルター(又は同じ公称孔径を有する膜)で培地を再利用すれば、微細藻類を活発に培養できることが示された。
【符号の説明】
【0072】
1 光合成微生物の製造装置
2 光合成微生物の製造装置
10 培養手段
11 培養槽
12 培養液流路
20 濃縮手段
21 濃縮槽
22 膜モジュール
23 膜モジュール
30 返送手段
31 透過水流路
40 回収手段
41 濃縮水流路
50 調製手段
51 タンク
52 培地流路
S 培養液
P1 原水ポンプ
P3 第一の吸引ポンプ
P4 第二の吸引ポンプ
図1
図2