(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001351
(43)【公開日】2025-01-08
(54)【発明の名称】分析方法、キット及び検出用デバイス
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20241225BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALI20241225BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20241225BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20241225BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20241225BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20241225BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12Q1/6837 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6886 Z
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023100877
(22)【出願日】2023-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 拓也
(72)【発明者】
【氏名】佐野 良威
(72)【発明者】
【氏名】高橋 友美
(72)【発明者】
【氏名】石原 美津子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
(57)【要約】
【課題】
乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、分析対象における罹患の可能性を簡便に判定することができる分析方法及びキットを提供する。
【解決手段】
実施形態によれば、分析対象由来の試料中の、標的miRNA群から選択された標的miRNAを定量することを含む、対象の乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性を判定する分析方法及びキットが提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象由来の試料中の、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-143-3p、hsa-miR-4770、hsa-miR-1296-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-409-3p、hsa-miR-99a-5p、hsa-miR-215-5pからなるmiRNA群から選択されるmiRNAを定量することと、
前記対象における乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することと
を含む、分析方法。
【請求項2】
対照由来の試料中の前記miRNAを定量することを更に含み、
前記判定は、前記対象における前記miRNAの定量値と、前記対照における前記miRNAの定量値とを比較することで、前記対象が乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対照は、健常体であるか、又は、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種であることが既知の検体である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記対照は、健常体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-128-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-4770、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-409-3p及びhsa-miR-215-5pからなるmiRNA群から選択される何れか1種のmiRNAの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんに罹患していると判定する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対照は、健常体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-143-3p又はhsa-miR-1296-5pの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がん、膵臓がん、肺がん又は胃がんに罹患していると判定する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記対照は、健常体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-99a-5pの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がん、膵臓がん、肺がん又は大腸がんに罹患していると判定する、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記対照は、大腸がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-128-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-143-3p及びhsa-miR-1296-5pのそれぞれの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がん、膵臓がん、肺がん又は胃がんに罹患していると判定する、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記対照は、大腸がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-4770の定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がん、膵臓がん又は胃がんに罹患していると判定する、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記対照は、大腸がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-409-3pの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がん又は膵臓がんに罹患していると判定する、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
対象由来の試料中の、hsa-miR-128-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-143-3p、hsa-miR-4770、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-99a-5pからなるmiRNA群から選択されるmiRNAを定量することと、
前記対象が乳がんに罹患している可能性があると判定することとを含む、分析方法。
【請求項11】
対照由来の試料中の前記miRNAを定量することを更に含み、
前記判定は、前記対象における前記miRNAの定量値と、前記対照における前記miRNAの定量値とを比較することで、前記対象が乳がんに罹患している可能性があると判定する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記対照は、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種であることが既知の検体である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記対照は、肺がん又は胃がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-128-3pの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がんに罹患していると判定する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記対照は、肺がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-151a-3p、hsa-miR-143-3p及びhsa-miR-4770の定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がんに罹患していると判定する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記対照は、大腸がん、肺がん又は胃がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-125a-5pの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がんに罹患していると判定する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記対照は、胃がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-99a-5pの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がんに罹患していると判定する、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
対象由来の試料中の、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-326、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-425-3p、hsa-miR-93-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-222-3p、hsa-miR-361-5p及びhsa-miR-342-3pからなるmiRNA群から選択されるmiRNAを定量することと、前記対象における乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することとを含む、分析方法。
【請求項18】
対照由来の試料中の前記miRNAを定量することを更に含み、
前記判定は、前記対象における前記miRNAの定量値と、前記対照における前記miRNAの定量値とを比較することで、前記対象が乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定する請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記対照は、健常体であるか、又は、乳がん、膵臓がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種であることが既知の検体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記対照は、健常体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-126-3p、hsa-miR-326、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-425-3p、hsa-miR-93-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-222-3p及びhsa-miR-361-5pの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が乳がん、膵臓がん又は大腸がんに罹患していると判定する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記対照は、健常体又は乳がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-342-3pの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が膵臓がん又は大腸がんに罹患していると判定する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
対象由来の試料中の、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-326、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-425-3p、hsa-miR-93-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-222-3p、hsa-miR-361-5p、hsa-miR-342-3p及びhsa-miR-10b-5pからなるmiRNA群から選択されるmiRNAを定量することと、
前記対象が大腸がんに罹患している可能性があると判定することとを含む、分析方法。
【請求項23】
対照由来の試料中の前記miRNAを定量することを更に含み、
前記判定は、前記対象における前記miRNAの定量値と、前記対照における前記miRNAの定量値とを比較することで、前記対象が大腸がんに罹患している可能性があると判定する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記対照は、健常体、乳がん及び膵臓がんのうち少なくとも何れか1種であることが既知の検体である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記対照は、乳がん又は膵臓がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-126-3p、hsa-miR-326、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-425-3p、hsa-miR-93-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-222-3p、hsa-miR-361-5pのそれぞれの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が大腸がんに罹患していると判定する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記対照は、膵臓がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-342-3pの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が大腸がんに罹患していると判定する、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記対照は、健常体、乳がん罹患体又は膵臓がん罹患体であり、
前記判定は、前記対象におけるhsa-miR-10b-5pの定量値が、前記対照における前記miRNAの定量値よりも小さい場合に、前記対象が大腸がんに罹患していると判定することを含む、請求項24に記載の分析方法。
【請求項28】
前記定量は、PCR法、LAMP法、又はマイクロアレイ法を用いて行われる、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記試料は、血清又は血漿である請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記対象由来の試料の前記miRNAの定量値、及び前記対照由来の試料の前記miRNAの定量値は、前記対象由来の試料及び前記対照由来の試料に共通して含有される標準miRNAによって補正される、請求項2~9、11~16、18~21及び23~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記標準miRNAは、hsa-miR-486-5pである請求項30に記載の方法。
【請求項32】
hsa-miR-128-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-143-3p、hsa-miR-4770、hsa-miR-1296-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-409-3p、hsa-miR-99a-5p、hsa-miR-215-5pからなるmiRNA群から選択される少なくとも1つのmiRNAと特異的に結合可能な核酸を含む、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性を検出するためのキット。
【請求項33】
前記miRNAと特異的に結合可能な核酸は、前記miRNAを逆転写するための逆転写用プライマー、前記miRNAを伸長するための伸長用プライマー、前記miRNAを増幅するための増幅用プライマーセット、又は前記miRNAを検出するための核酸プローブである請求項32に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、分析方法、キット及び検出用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、microRNA(miRNA)と疾患との関係が注目されている。miRNAは遺伝子発現を調節する機能を持ち、種々の疾患でその種類や発現量が初期の段階から変化していることが報告されている。即ち、ある疾患を持つ患者では、特定のmiRNA量が健常者と比較して増加又は減少している。そのため、被検者から採取された試料中の該miRNAの量を調べることは、患者がその疾患に罹患しているか否かを知る手段となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする課題は、分析対象について、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種の罹患の有無を簡便に判定することができる分析方法、キット及び検出用デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
実施形態によれば、対象由来の試料中のhsa-miR-128-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-143-3p、hsa-miR-4770、hsa-miR-1296-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-409-3p、hsa-miR-99a-5p、hsa-miR-215-5pのうちの少なくとも1つを定量することと、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することとを含む、分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、第1実施形態の分析方法の一例を示すフローチャートであり、(a)は、第1の標的miRNAのうちの何れか1種の定量工程を含む分析方法の一例であり、(b)は乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定する判定工程を含む分析方法の一例であり、(c)は予後又は再発の有無を判定する判定工程を含む分析方法の一例であり、(d)は対象に適用するための治療法の種類又は薬剤の種類を選択する選択工程を含む分析方法の一例である。
【
図2】
図2は、第2実施形態の分析方法の一例を示すフローチャートであり、(a)は、第2の標的miRNAのうちの何れか1種の定量工程を含む分析方法の一例であり、(b)は乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定する判定工程を含む分析方法の一例であり、(c)は予後又は再発の有無を判定する判定工程を含む分析方法の一例であり、(d)は対象に適用するための治療法の種類又は薬剤の種類を選択する選択工程を含む分析方法の一例である。
【
図3A】
図3Aは、例1の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-126-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図3B】
図3Bは、例1の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-326の検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図3C】
図3Cは、例1の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-28-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図3D】
図3Dは、例1の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-425-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図3E】
図3Eは、例1の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-93-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図3F】
図3Fは、例1の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-24-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図3G】
図3Gは、例1の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-222-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図3H】
図3Hは、例1の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-361-5pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図3I】
図3Iは、例1の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-342-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図3J】
図3Jは、例1の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-10b-5pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図4A】
図4Aは、例2の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-128-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図4B】
図4Bは、例2の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-151a-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図4C】
図4Cは、例2の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-143-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図4D】
図4Dは、例2の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-4770の検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図4E】
図4Eは、例2の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-1296-5pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図4F】
図4Fは、例2の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-125a-5pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図4G】
図4Gは、例2の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-409-3pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図4H】
図4Hは、例2の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-99a-5pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【
図4I】
図4Iは、例2の実験結果を示す箱ひげ図であり、hsa-miR-215-5pの検体のがん種別ごとの定量結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下に、図面を参照しながら実施形態の分析方法、キット及び検出用デバイスについて説明する。
・第1実施形態
(分析方法)
第1実施形態に従う分析方法は、対象由来の試料中のhsa-miR-128-3p、hsa-miR-151a-3p、hsa-miR-143-3p、hsa-miR-4770、hsa-miR-1296-5p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-409-3p、hsa-miR-99a-5p、hsa-miR-215-5pのうちの少なくとも1つを定量することと、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することとを含む、分析方法である。
【0007】
上述の計9種のmiRNAは、以下の説明において「第1の標的miRNA群」とも称する(省略して、単に「標的miRNA群」と称する場合もある)。また、標的miRNA群を構成する個々のmiRNAを「第1の標的miRNA」とも称する(省略して、単に「標的miRNA」と称する場合もある)。
【0008】
例えば、標的miRNAはそれぞれ下記の表1に示される塩基配列で表される。なお、本明細書において、各配列番号に対応する配列表上の「T」の表記は、「U」を意味する。定量される標的miRNAは、標的miRNA群のうちの1種類であればよい。
【0009】
【0010】
対象は、本方法において分析に供される動物、即ち、試料を提供する動物である。対象は、何らかの疾患を有する動物であってもよいし、健常な動物であってもよい。例えば、対象は、がんに罹患している可能性がある動物、或いは過去にがんに罹患したことのある動物等であってもよく、特に、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種に罹患している可能性がある動物、或いは過去に乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種に罹患したことのある動物等であってもよい。対象はヒトであることが好ましい。
【0011】
或いは、対象は他の動物であってもよい。他の動物は、例えば哺乳動物であり、例えば、サル等の霊長類、マウス、ラット又はモルモット等の齧歯類、イヌ、ネコ又はウサギ等の伴侶動物、ウマ、ウシ又はブタ等の家畜動物、或いは展示動物等に属する動物を含む。ヒト以外の動物である場合は、標的miRNAは、その動物に存在する、上記miRNAに対応したmiRNAである。
【0012】
対象由来の試料とは、対象から採取された試料又はそれを適切に処理した試料等を含む。試料は、好ましくは、血清又は血漿である。試料は、その他の体液、例えば、血液、白血球間質液、尿、便、汗、唾液、口腔内粘膜、鼻腔内粘膜、鼻水、咽頭粘膜、喀痰、消化液、胃液、リンパ液、髄液、涙液、母乳、羊水、精液又は膣液等であってもよい。或いは、試料は、組織又は細胞等であってもよく、対象から採取され、培養された組織又は細胞、或いはその上清であってもよい。
【0013】
本明細書における、各種の「がん」は、何れの病期のものも含み、例えば、発生母地の臓器内に留まった状態、更に周辺の組織まで及んだ状態、更にリンパ節へ転移した状態、及び更に離れた臓器への転移がある状態等を含む。例えば、本明細書において乳がんは、乳腺組織に形成される悪性腫瘍(新生物)をいう。また、例えば乳がんは、一般に「乳癌」又は「乳がん」と称されるものも含む。本明細書における、各種のがんは、例えば上皮性腫瘍、非上皮性腫瘍、又は、上皮性と非上皮性の両方からなる腫瘍を含む。
【0014】
以下、第1実施形態の方法の手順の一例について、
図1の(a)、(b)及び(c)を参照して説明する。
【0015】
図1の(a)に示す通り、分析方法は、例えば
対象由来の試料を用意すること(用意工程(S11))と、
対象由来の試料中の第1の標的miRNA群のうちの1種を定量すること(定量工程(S12))とを含む。
【0016】
まず、対象由来の試料を用意する(用意工程(S11))。試料は、その種類に従う一般的な方法を用いて採取することができる。試料は、採取後そのまま使ってもよいし、核酸の定量のための反応を阻害しない状態又は反応により適した状態となるように処理してもよい。処理は、例えば、細切、ホモジナイズ、遠心、沈殿、抽出及び/又は分離等であり、公知の何れかの手段により行うことができる。
【0017】
例えば、抽出は、市販の核酸抽出キットを用いて行ってもよい。核酸抽出キットとして、例えば、NucleoSpin(登録商標) miRNA Plasma(タカラバイオ製)、Quick-cfRNA Serum & Plasma Kit(ザイモリサーチ製)、miRNeasy Serum/Plasma キット(キアゲン製)、miRVana(登録商標)PARIS isolation kit(サーモフィッシャー製)、PureLink(登録商標) Total RNA Blood Kit(サーモフィッシャー製)、Plasma/Serum RNA Purification Kit (Norgen Biotek製) 、microRNA Extractor(登録商標) SP Kit(和光純薬製)、High Pure miRNA Isolation Kit(シグマアルドリッチ製)等を用いることができる。或いは、市販のキットを使用せずに、例えば、試料を緩衝液で希釈し、80~100℃の加熱処理を行い、遠心分離し、その上清を採取することによって抽出を行ってもよい。
【0018】
次に、対象由来の試料に含有される、第1の標的miRNA群のうちの1種を定量する(定量工程(S12))。定量工程(S12)は、RNA、特にmiRNA等の短鎖のRNAを定量するための一般的な方法を用いて行うことができる。一般的な方法として、例えば、標的miRNAを逆転写してcDNAを生成し、得られたcDNAを増幅し、増幅産物を検出及び定量する方法が挙げられる。RNAが短鎖である場合、増幅を容易にするため、短鎖RNAの末端に人工配列を付加するように伸長したのちに逆転写すること、または逆転写して得たcDNAの末端に人工配列を付加するように伸長することも一般的に実施されている。また、逆転写を経ず、試料中のRNAを直接増幅し、増幅産物を検出及び定量する技術としてローリングサークル増幅法が知られている。さらに、試料中の標的miRNAの濃度が比較的高い場合や高感度測定が可能な装置を使用できる場合は、標的miRNAを増幅することを経ずに、標的miRNA(又は、そのcDNA)を直接検出することも一般的な方法の一つである。直接検出が可能な装置として、例えば標的miRNAと特異的に結合する核酸プローブを備えたマイクロアレイ等が挙げられる。
【0019】
増幅には、例えば、PCR法(qPCR法を含む)、又はLAMP法を用いることができる。検出及び定量は、増幅の後に行われてもよいし、増幅中に経時的に行われてもよい。検出及び定量には、例えば、濁度若しくは吸光度に基づく信号を用いる測定法、光学的信号を用いる測定法又は電気化学的信号を用いる測定法、或いはこれらの組み合わせ等を用いることができる。例えば、増幅産物量に応じて得られる上記信号の強度又は変化量、或いは信号が閾値に達するまでの時間(立ち上がり時間)又はPCR法を用いる場合は立ち上がりサイクル数から標的miRNAの定量を行うことができる。また、検出及び定量には、例えば次世代シーケンシング(NGS)法の結果を用いてもよい。その場合、標的miRNAにアライメントされたリード数等の検出結果から標的miRNAの相対的な定量を行うことができる。
【0020】
標的miRNAの定量値は、上記信号の検出結果と標的miRNAの存在量との関係を表す検量線を用いて決定してもよい。検量線は、異なる既知の濃度で標的miRNAを含む複数の標準試料について信号の検出を行うことにより作成することができる。この検量線と、対象由来の試料について得られた信号の検出結果とを比較することによって、試料中の標的miRNAの存在量が算出され得る。試料中の標的miRNAの存在量は、例えば、試料の単位量当たりの標的miRNAのコピー数として算出してもよい。
【0021】
定量工程(S12)における定量は、例えば、市販のキットを用いて行ってもよい。市販のキットの例は、TaqMan(登録商標)Advanced miRNA Assays(サーモフィッシャー製、カタログNo.A25576)、miRCURY(登録商標)LNA(登録商標) miRNA PCR Assays(キアゲン製、カタログNo.339306、SYBR(登録商標)Green qPCR microRNA検出システム(オリジンテクノロジーズ製)等であり、標的miRNAを特異的に増幅するプライマーやプローブとともに用いられ得る。
【0022】
定量工程(S12)で得られた、第1の標的miRNAの検出に係るデータは、対象における乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があるとの判定のために用いることができる。例えば、第1実施形態の分析方法は、
図1の(b)に示す通り、定量工程(S12)の後に行われる、対象における乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定する工程(S13)を更に含み得る。
【0023】
なお、「乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定する」とは、対象は5種のがんの全てについて罹患の可能性があるものの、対象が罹患しているがんの種類は5種のがんの中の何れか一つには特定されない、と判定されるか、又は、対象は5種の何れのがんにも罹患していない、と判定されることを意味している。
【0024】
「対象は5種のがんの全てについて罹患の可能性があるものの、対象が罹患しているがんの種類は5種のがんの中の何れか一つには特定されない」と同義の表現として、「対象における乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種の罹患の有無を判定する」が挙げられる。
【0025】
さらに換言すれば、「乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定する」ことによって、対象が乳がんに罹患している可能性、対象が膵臓がんに罹患している可能性、対象が肺がんに罹患している可能性、対象が胃がんに罹患している可能性、及び、対象が大腸がんに罹患している可能性が一度に提示されるか、又は、対象が乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの何れにも罹患していないという可能性が提示される。
【0026】
すなわち、本実施形態の方法は、がん健診における一次スクリーニングとして、がんの早期発見・早期治療の重要性に鑑みて、出来るだけ多くのがん種の罹患可能性を見逃さずに提示することを意図するものである。
【0027】
判定工程(S13)では、対象が乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があるとの判定を補助する情報を提供し得る。
【0028】
例えば、判定工程(S13)は、対象由来の試料に対する定量工程(S12)と並列的に対照由来の試料に対して定量を行うことで得られる、対照由来の試料中の第1の標的miRNAの定量値を基準として、実施される。すなわち、第1実施形態の方法は、対照由来の試料中の第1の標的miRNAを定量すること;及び対象における第1の標的miRNAの定量値と、対照における第1の標的miRNAの定量値とを比較することで、対象が乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することを含む。
【0029】
対照における第1の標的miRNAの定量値は、例えば対象由来の試料と同じ又は類似する試料(例えば対象由来の試料が血清である場合、対照由来の試料は血清又は血漿とする)に対して、定量工程(S12)で用いられるのと同じ方法を用いて予め得られた、標的miRNAの定量値である。なお、対照に該当する検体を複数用意し、複数検体ごとに定量して得られた値からなる数値範囲を基準として、判定してもよい。
【0030】
対照は、例えば健常体であってもよい。健常体とは、少なくともがんに罹患していない個体をいう。健常体は、疾患や異常を有さない健康な個体であることが好ましい。
【0031】
対照として選択される個体は、本方法で分析される対象とは別の個体であってもよいが、同じ種に属する個体、即ち対象がヒトであればヒトであることが好ましい。また、対照の年齢、性別及び身長体重等の身体的条件又は人数は特に限定されるものではないが、身体的条件は、本分析方法で検査を受ける対象のものと同じ又は類似であることが好ましい。
【0032】
或いは、判定工程(S13)は、予め設定された閾値等を基準として実施してもよい。閾値は、例えば、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種に罹患していることが既知の試料(以下、「標準試料」と称する)における定量値と、健常体における定量値とを切り分けることができる、第1の標的miRNAの存在度である。標準試料は、例えば対象由来の別部位の試料、対象と類似する(例えば同種の)個体由来の試料、又は乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種の株化細胞を含む試料等である。標準試料における定量値は、対象の定量工程(S12)と同様の方法を適用して得ることが好ましい。標準試料における定量値と健常体における定量値とを切り分ける値は、統計的な基準をもって決定してもよいし、標準試料における定量値の最大値又は最小値を閾値としてもよいし、或いは、対照における定量値の最大値又は最小値を閾値としてもよい。さらに、閾値は、用いられる定量方法、試料の種類及び測定条件等に従って決定されてもよい。
【0033】
或いは、閾値は対象ごとに決定されてもよい。例えば、対象の健常な状態での第1の標的miRNA定量値をモニターしていれば(例えば定期的な健康診断等)、それを閾値として用いることにより、閾値よりも定量値が高い又は低いときに乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性ありとしてアラームを出すことができる。閾値は個人ごとに異なり得る。例えば、通常、miRNAの定量値が約103コピーで推移していた対象Aにおいて、ある時点で104コピーとなった場合に乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性ありと判定することができる。一方で、約102コピーで推移していた対象Bにおいては、ある時点で103コピーとなった場合に乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性ありと判定することができる。
【0034】
ここで、判定の基準となる、対照における定量値又は閾値は、文献等の過去の知見から決定してもよい。罹患しているとの判定は、罹患している可能性が高いことも含む。反対に、罹患していないとの判定は、罹患している可能性が低いことも含む。
【0035】
乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんに罹患した対象において、標的miRNA群の中には、対照と比較して発現量が多いもの(多発現標的miRNA)と少ないもの(少発現標的miRNA)とが含まれる。少発現標的miRNAは、対照と比較して定量値が低い場合に乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定され得る。一方で、多発現標的miRNAは、対照と比較して定量値が高い場合に乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定され得る。
【0036】
なお、本明細書において、「乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定」とは、対象が乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんに罹患していると判定されるか、乳がん、膵臓がん、肺がん又は胃がんに罹患していると判定されるか、乳がん、膵臓がん、肺がん又は大腸がんに罹患していると判定されるか、乳がん、膵臓がん又は胃がんに罹患していると判定されるか、乳がん又は膵臓がんに罹患していると判定されるか、を含む。
【0037】
詳述すると、hsa-miR-128-3p(配列番号1)、hsa-miR-151a-3p(配列番号2)、hsa-miR-4770(配列番号4)、hsa-miR-125a-5p(配列番号6)、hsa-miR-409-3p(配列番号7)及びhsa-miR-215-5p(配列番号9)のそれぞれは、対照を健常体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんに罹患していると判定することができる。hsa-miR-143-3p(配列番号3)又はhsa-miR-1296-5p(配列番号5)は、対照を健常体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が乳がん、膵臓がん、肺がん又は胃がんに罹患していると判定することができる。hsa-miR-99a-5p(配列番号8)は、対照を健常体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が乳がん、膵臓がん、肺がん又は大腸がんに罹患していると判定することができる。
【0038】
なお、対照における各miRNAの定量値と対象における各miRNAの定量値との差異は、統計的に有意であることが好ましい。統計的に有意であるかどうかは、各種がんに罹患していることが既知である試料を複数用意し、同試料における各miRNAの定量値がとりうる数値範囲を確認し、その確率分布を前もって算出しておくか、又は、既知の文献等の情報から算出しておくことで判定することができる。
【0039】
更なる実施形態によれば、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することは、対象における乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんの予後又は再発を判定することも含む。例えば、分析方法は、
図1の(c)に示すように、定量工程(S12)の後、定量の結果から対象における乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんの予後又は再発の有無を判定する予後再発判定工程(S14)を含む。予後再発判定工程(S14)においては、例えば、定量値が高い又は低い場合には、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんの予後が不良である、或いは乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんが再発している、或いはその可能性が高いと判定することが可能である。予後、再発の判定にも上記対照における定量値、閾値を用いることができる。特に対象ごとに決定された閾値を用いることが好ましい場合もあり得る。
【0040】
また、判定工程(S13)及び/又は予後再発判定工程(S14)の後、判定結果に従って対象に適用するための治療法の種類又は薬剤の種類を選択、及びその補助を行うことも可能である。例えば、分析方法は、
図1の(d)に示すように、判定工程(S13)及び/又は予後再発判定工程(S14)の後、判定結果から対象に適用するための治療法の種類又は薬剤の種類を選択する選択工程(S15)を含む。ここで治療法又は薬剤は、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんの治療のためのものである。治療法の種類又は薬剤の種類は、治療法又は薬剤の使用量、タイミング若しくは期間を含む。
【0041】
以上に説明した第1実施形態の分析方法によれば、対象由来の試料中の、第1の標的miRNA群のうち1種の標的miRNAを定量し、対照由来の試料中の同miRNAの定量値と比較することにより、簡便に対象における乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することが可能である。
【0042】
本実施形態の方法は、健康診断等で容易に採取できる血清または血漿を用いることが可能であるため、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんを早期に発見することができる。血清または血漿等を用いることで、細胞診等と比較して対象の肉体的及び経済的負担を大きく軽減することができるとともに、手順が容易であるため検査者にとっても負担が少ない。また、血清又は血漿は、そこに含まれるmiRNA濃度が安定しているため、より正確な検査を行うことが可能である。
【0043】
更なる実施形態によれば、対象由来の試料中の第1の標的miRNAを定量すること(定量工程(S12))を含む、対象における乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があるとの判定を補助するための分析方法も提供される。「判定を補助する」とは、例えば、対象が乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについての対象における罹患の可能性に関する情報を取得することを含む。「情報」とは、例えば、試料の分析結果に関する情報であり、例えば定量値であり得る。本方法によれば、対象における乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があるとの判定、予後判定、再発の有無判定、又は対象に適用される治療法若しくは薬剤の選択等を行うためのより精度の高い情報を取得することができる。
【0044】
更なる実施形態によれば、対照は、例えば乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんに罹患していることが検診等により確認された個体であってもよい。すなわち、対照は、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんに罹患しているか否かが既知の個体である。すなわち、対照は、そのような判定工程(S13)においては、対照が罹患しているがん種を、対象が罹患しているか否かが判定される。具体的には、対照由来の試料中の特定のがんに罹患していることを示すバイオマーカーの定量値を基準として、対象由来の試料中の同バイオマーカーを定量し、基準と比較することによって判断する。
【0045】
詳述すると、hsa-miR-128-3p(配列番号1)、hsa-miR-151a-3p(配列番号2)、hsa-miR-143-3p(配列番号3)及びhsa-miR-1296-5p(配列番号5)のそれぞれのmiRNAは、対照を大腸がん罹患体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が乳がん、膵臓がん、肺がん又は胃がんに罹患していると判定することができる。hsa-miR-4770(配列番号4)は、対照を大腸がん罹患体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が乳がん、膵臓がん又は胃がんに罹患していると判定することができる。hsa-miR-409-3p(配列番号7)は、対照を大腸がん罹患体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が乳がん又は膵臓がんに罹患していると判定することができる。
【0046】
また、第1の標的miRNA群のうちのいくつかのmiRNAは、対照を特定のがん種に設定することで、1つのがん種に特定するマーカーとして使用することもできる。すなわち、第1のmiRNA群のうちのいくつかのmiRNAは、「乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性がある」との判定以外にも使用されうる。例えば、対象が乳がんに罹患しているとの判定をすることができる。
【0047】
上述の第1の標的miRNA群のうちのいくつかのmiRNAとは、具体的には、hsa-miR-128-3p(配列番号1)、hsa-miR-151a-3p(配列番号2)、hsa-miR-143-3p(配列番号3)、hsa-miR-4770(配列番号4)、hsa-miR-125a-5p(配列番号6)、hsa-miR-99a-5p(配列番号8)である。hsa-miR-128-3p(配列番号1)は、対照を肺がん又は胃がん罹患体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象は乳がんに罹患していると判定することができる。hsa-miR-151a-3p(配列番号2)、hsa-miR-143-3p(配列番号3)及びhsa-miR-4770(配列番号4)のそれぞれは、対照を肺がん罹患体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が乳がんに罹患していると判定することができる。hsa-miR-125a-5p(配列番号6)は、対照を大腸がん、肺がん又は胃がん罹患体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が乳がんに罹患していると判定することができる。hsa-miR-99a-5p(配列番号8)は、対照を胃がん罹患体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が乳がんに罹患していると判定することができる。
【0048】
更なる実施形態によれば、本分析方法は、対象由来でない試料中における乳がん細胞、膵臓がん細胞又は大腸がん細胞の検出等にも使用することができる。例えば、乳がん細胞、膵臓がん細胞又は大腸がん細胞を人工的に製造する場合に、製造された細胞含有溶液中に同細胞が存在するか否かを確かめる際等にも使用することができる。
【0049】
(マーカー)
第1実施形態によれば、1種の標的miRNAを含む、対象の乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種を検出するためのマーカーが提供される。
【0050】
ここで、「マーカー」は、試料中のその有無又は濃度を検出することで、試料及び/又はその由来となる対象が特定の状態であるか否かを判定することのできる物質をいう。
【0051】
第1実施形態の乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性を検出するためのマーカーは、例えば、対象由来の試料中のその存在量(定量値)を測定することで、上記したように対象における乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性の判定、予後又は再発の有無の判定、又は対象に適用される治療法若しくは薬剤の選択等を行うことができる。
【0052】
(キット)
第1実施形態によれば、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性を検出するためのキットが提供される。
【0053】
キットは、RNA、特にmiRNA等の短鎖のRNAを定量するための一般的な方法に用いられ得る試薬類、及び、標的miRNAと特異的に結合可能な(すなわち、標的miRNAとハイブリダイズする)核酸を含む。標的miRNAの検出にqPCR法を用いる場合、標的miRNAと特異的に結合可能な核酸は、標的miRNAを逆転写するための逆転写用(RT)プライマーであってもよいし、標的miRNAを伸長するための伸長用(EL)プライマーであってもよいし、標的miRNAを増幅するための増幅用プライマーセットであってもよい。
【0054】
RTプライマーは、標的miRNAのcDNAを得るためのプライマーである。RTプライマーは、標的miRNAの少なくとも1部の配列に相補的な配列を含む。RTプライマーは、標的miRNAのcDNAを増幅しやすくするためにcDNAに付加する人工配列を更に含んでもよい。
【0055】
ELプライマーは、標的miRNAのcDNAを増幅しやすくするためにcDNAに人工配列を付加するためのプライマーである。ELプライマーは、標的miRNAのcDNAの少なくとも1部の配列に相補的な配列と、各cDNAの伸長用に付加する配列とを含み得る。
【0056】
増幅用プライマーセットは、例えばPCR法用であれば、少なくともフォワードプライマーとリバースプライマーとを含む。または、増幅用プライマーセットはLAMP法用であってもよく、一般的なLAMP法で使用される、標的miRNAの塩基配列に対応する配列のプライマー類を含んでもよい。または、増幅用プライマーセットは例えばNGS法用であってもよく、人工的なアダプター配列を含むフォワードプライマーとその相補的配列を含むリバースプライマーを含んでもよい。NGS法用の増幅用プライマーセットは、複数の検体を同時に解析するために、異なるバーコード配列を含むフォワードプライマーとリバースプライマーの組み合わせを複数種類含んでもよい。増幅用プライマーセットがローリングサイクル増幅法に用いられる場合、キットは、増幅用プライマーがハイブリダイズして増幅の鋳型となる環状1本鎖DNAをさらに含む。
【0057】
増幅用プライマーセットに含まれる各プライマーは、標的miRNAのcDNA又はその相補配列と結合するように設計されてもよいし、RTプライマー及び/又はELプライマーによって付加された人工配列と結合するように設計されてもよい。
【0058】
増幅するcDNAの検出には、標的cDNA又はその相補配列と結合するように設計された核酸プローブを用いてもよい。
【0059】
さらに、試料中の標的miRNAがマイクロアレイによって直接検出される場合、標的miRNAと特異的に結合可能な核酸は、マイクロアレイが備える核酸プローブである。核酸プローブは、標的miRNA、そのcDNA、或いはその増幅産物の少なくとも1部の配列又はその相補配列を有し得る。
【0060】
キットに含まれる上記核酸は、個別に又は何れかが組み合わされて適切な担体とともに容器に収容されて提供されてもよい。適切な担体は、例えば、水、生理的溶液又は緩衝液等である。容器は、例えば、チューブ又はマイクロタイタープレート等である。或いは、これら核酸はマイクロ流体チップ等の固相に固定されて提供されてもよい。
【0061】
キットは、上記核酸の他に、逆転写、伸長又は増幅に用いられる試薬、例えば酵素、基質及び/又は検出に用いられる光学的信号又は電気的化学信号を生じる標識物質等を含んでもよい。標識物質は、例えば、SYBR GreenやEvaGreen(登録商標)、SYTO(登録商標) 82などの蛍光色素、電流検出する場合はルテニウムヘキサアミンなどの金属錯体等の指示薬である。
【0062】
キットは、例えば、上記のように乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性の判定、予後判定、再発の有無判定、治療法の種類又は薬剤の種類の選択等に使用することができる。
【0063】
更なる実施形態によれば、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて対象における罹患の可能性を検出するためのキットは、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて対象における罹患の可能性を診断するための組成物又は診断薬として提供される。また、実施形態によれば、上記の診断用組成物又は診断薬の製造における、上記核酸の少なくとも1種の使用も提供される。
【0064】
・第2実施形態
(分析方法)
第2実施形態に従う分析方法は、対象由来の試料中のhsa-miR-126-3p、hsa-miR-326、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-425-3p、hsa-miR-93-3p、hsa-miR-24-3p、hsa-miR-222-3p、hsa-miR-361-5p及びhsa-miR-342-3pのうちの少なくとも1つを定量することと、乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することとを含む、分析方法である。
【0065】
第2実施形態の標的miRNA(以下、「第2の標的miRNA」と称する)はそれぞれ下記の表2に示される塩基配列で表される。すなわち、第2実施形態で定量される標的miRNAは、表2に示す、第2の標的miRNA群のうちの1種類であればよい。
【0066】
【0067】
図2の(a)に示す通り、第2実施形態の方法は、
対象由来の試料を用意すること(用意工程(S21))と、
対象由来の試料中の、第2の標的miRNA群のうちの1種を定量すること(定量工程(S22))と
を含む。
【0068】
定量工程(S22)で得られた、第2の標的miRNAの検出に係るデータは、対象における乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があるとの判定のために用いることができる。例えば、第2実施形態の分析方法は、定量工程(S22)の後に行われる、対象における乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定する工程(S23)を更に含み得る。
【0069】
例えば、判定工程(S23)は、対象由来の試料に対する定量工程(S22)と並列的に対照由来の試料に対して定量を行うことで得られる、対照由来の試料中の第2の標的miRNAの定量値を基準として、実施される。すなわち、第2実施形態の方法は、第1実施形態と同様に、対照由来の試料中のmiRNAを定量すること;及び対象におけるmiRNAの定量値と、対照におけるmiRNAの定量値とを比較することで、対象が乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することを含む。
【0070】
対照は、例えば健常体であってもよいし、乳がん、膵臓がん又は大腸がんに罹患していることが検診等により確認された個体であってもよい。すなわち、対照は、健常体、乳がん、膵臓がん又は大腸がんに罹患しているか否かが既知の個体である。
【0071】
対照が乳がん、膵臓がん又は大腸がんである場合、判定工程(S23)において、対照が罹患しているがん種を対象が罹患しているか否かが判定される。具体的には、対照由来の試料中の特定のがんに罹患していることを示すバイオマーカーの定量値を基準として、対象由来の試料中の同バイオマーカーを定量し、基準と比較することによって判断する。
【0072】
なお、「乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定する」とは、対象は3種のがんの全てについて罹患の可能性があるものの、対象が罹患しているがんの種類は3種のがんの中の何れか一つには特定されない、と判定されるか、又は、対象は3種の何れのがんにも罹患していない、と判定されることを意味している。
【0073】
「対象は3種のがんの全てについて罹患の可能性があるものの、対象が罹患しているがんの種類は3種のがんの中の何れか一つには特定されない」と同義の表現として、「対象における乳がん、膵臓がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種の罹患の有無を判定する」が挙げられる。
【0074】
さらに換言すれば、「乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定する」ことによって、対象が乳がんに罹患している可能性、対象が膵臓がんに罹患している可能性、及び、対象が大腸がんに罹患している可能性が一度に提示されるか、又は、対象が乳がん、膵臓がん及び大腸がんの何れにも罹患していないという可能性が提示される。
【0075】
すなわち、本実施形態の方法は、がん健診における一次スクリーニングとして、がんの早期発見・早期治療の重要性に鑑みて、出来るだけ多くのがん種の罹患可能性を見逃さずに提示することを意図するものである。
【0076】
なお、本明細書において、「乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定」とは、対象が乳がん、膵臓がん又は大腸がんに罹患していると判定されるか、膵臓がん又は大腸がんに罹患していると判定されるか、を含む。
【0077】
具体的には、hsa-miR-126-3p(配列番号10)、hsa-miR-326(配列番号11)、hsa-miR-28-3p(配列番号12)、hsa-miR-425-3p(配列番号13)、hsa-miR-93-3p(配列番号14)、hsa-miR-24-3p(配列番号15)、hsa-miR-222-3p(配列番号16)及びhsa-miR-361-5p(配列番号17)のそれぞれは、対照を健常体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が乳がん、膵臓がん又は大腸がんに罹患していると判定することができる。hsa-miR-342-3p(配列番号18)は、対照を健常体又は乳がん罹患体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が膵臓がん又は大腸がんに罹患していると判定することができる。
【0078】
さらに、第2の標的miRNA群のうちのいくつかのmiRNAは、特定の検体群を対照とすることで、1つのがん種に特定するマーカーとして使用することもできる。すなわち、第2の標的miRNA群のうちのいくつかのmiRNAは、「乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性がある」以外の判定に使用されうる。例えば、対象が大腸がんに罹患していると判定することができる。
【0079】
上述の第2の標的miRNA群のうちのいくつかのmiRNAとは、具体的には、hsa-miR-126-3p(配列番号10)、hsa-miR-326(配列番号11)、hsa-miR-28-3p(配列番号12)、hsa-miR-425-3p(配列番号13)、hsa-miR-93-3p(配列番号14)、hsa-miR-24-3p(配列番号15)、hsa-miR-222-3p(配列番号16)、hsa-miR-361-5p(配列番号17)及びhsa-miR-342-3p(配列番号18)である。さらに、hsa-miR-10b-5p(配列番号19:UACCCUGUAGAACCGAAUUUGUG)も1つのがん種に特定するマーカーとして使用することができる。
【0080】
hsa-miR-126-3p(配列番号10)、hsa-miR-326(配列番号11)、hsa-miR-28-3p(配列番号12)、hsa-miR-425-3p(配列番号13)、hsa-miR-93-3p(配列番号14)、hsa-miR-24-3p(配列番号15)、hsa-miR-222-3p(配列番号16)、hsa-miR-361-5p(配列番号17)のそれぞれのmiRNAは、対照を乳がん又は膵臓がんとし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が大腸がんに罹患していると判定することができる。hsa-miR-342-3p(配列番号18)は、対照を膵臓がん罹患体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が大腸がんに罹患していると判定することができる。hsa-miR-10b-5p(配列番号19)は、対照を健常体、乳がん罹患体又は膵臓がん罹患体とし、対象の定量値が対照の定量値よりも小さい場合に、対象が大腸がんに罹患していると判定することができる。
【0081】
更なる実施形態によれば、乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することは、対象における乳がん、膵臓がん又は大腸がんの予後又は再発を判定することも含む。例えば、分析方法は、
図2の(c)に示すように、定量工程(S22)の後、定量の結果から対象における乳がん、膵臓がん又は大腸がんの予後又は再発の有無を判定する予後再発判定工程(S24)を含む。予後再発判定工程(S24)においては、例えば、定量値が高い又は低い場合には、乳がん、膵臓がん又は大腸がんの予後が不良である、或いは乳がん、膵臓がん又は大腸がんが再発している、或いはその可能性が高いと判定することが可能である。予後、再発の判定にも上記対照における定量値、閾値を用いることができる。特に対象ごとに決定された閾値を用いることが好ましい場合もあり得る。
【0082】
また、判定工程(S23)及び/又は予後再発判定工程(S24)の後、判定結果に従って対象に適用するための治療法の種類又は薬剤の種類を選択、及びその補助を行うことも可能である。例えば、分析方法は、
図2の(d)に示すように、判定工程(S23)及び/又は予後再発判定工程(S24)の後、判定結果から対象に適用するための治療法の種類又は薬剤の種類を選択する選択工程(S25)を含む。ここで治療法又は薬剤は、乳がん、膵臓がん又は大腸がんの治療のためのものである。治療法の種類又は薬剤の種類は、治療法又は薬剤の使用量、タイミング若しくは期間を含む。
【0083】
以上に説明した第2実施形態の分析方法によれば、対象由来の試料中の、第2の標的miRNA群のうち1種の標的miRNAを定量し、対照由来の試料中の同miRNAの定量値と比較することにより、簡便に対象における乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することが可能である。
【0084】
更なる実施形態によれば、第2実施形態に係る分析方法は、対象由来でない試料中における乳がん細胞、膵臓がん細胞又は大腸がん細胞の検出等にも使用することができる。例えば、乳がん細胞、膵臓がん細胞又は大腸がん細胞を人工的に製造する場合に、製造された細胞含有溶液中に同細胞が存在するか否かを確かめる際等にも使用することができる。
【0085】
第2実施形態によれば、1種の第2の標的miRNAを含む、対象の乳がん、膵臓がん及び大腸がんのうち少なくとも何れか1種を検出するためのマーカーが提供される。
【0086】
第2実施形態の乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性を検出するためのマーカーは、例えば、対象由来の試料中のその存在量(定量値)を測定することで、上記したように対象における乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性の判定、予後又は再発の有無の判定、又は対象に適用される治療法若しくは薬剤の選択等を行うことができる。
【0087】
第2実施形態によれば、乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性を検出するためのキットが提供される。
【0088】
第2実施形態に係るキットは、第1実施形態と同様に、RNA、特にmiRNA等の短鎖のRNAを定量するための一般的な方法に用いられ得る試薬類、及び、標的miRNAと特異的に結合可能な核酸を含む。
【0089】
第2実施形態に係るキットは、例えば、乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性の判定、予後判定、再発の有無判定、治療法の種類又は薬剤の種類の選択等に使用することもできる。
【0090】
更なる実施形態によれば、乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて対象における罹患の可能性を検出するためのキットは、乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて対象における罹患の可能性を診断するための組成物又は診断薬として提供される。また、実施形態によれば、上記の診断用組成物又は診断薬の製造における、上記核酸の少なくとも1種の使用も提供される。
【0091】
[例]
以下に、本実施形態のマーカーを得るために行った実験について記載する。
【0092】
例1.各種がんの罹患体と健常体とを識別するmiRNAマーカーの探索と選定
乳がん罹患体、膵臓がん罹患体、及び大腸がん罹患体と、健常体とを識別することができるmiRNAマーカーを、以下に示すように探索した。
【0093】
・検体の用意
検体として、乳がん患者血清を24検体、膵臓がん患者血清を24検体、大腸がん検体を24検体及び健常者血清を24検体、計96検体分用意した。
【0094】
・検体の処理とmiRNAの定量
すべての血清300μLから、Nucleospin(登録商標) miRNA Plasma(タカラバイオ株式会社製)を用いてmiRNAを抽出した。
【0095】
cDNAの合成には、TaqMan miRNA cDNA Synthesis Kit(Applied Biosystems、Cat.A28007)を用いた。TaqMan miRNA cDNA Synthesis Kitは、成熟RNAの3’末端へのポリ(A)鎖の付加、及び5’末端へのアダプター配列のライゲーションを行うことで、ターゲット特異的ではなく、サンプル内に存在する全ての成熟RNAを全般的に逆転写させることを特徴とするキットである。従って、各検体中の、miRNA含む全成熟RNAに対応するcDNAを得た。
【0096】
得られたcDNAのうちmiRNAには、TaqMan Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems製)とTaqMan Advanced miRNA Assays(Applied Biosystems製)を用いたRT-qPCRを、同梱のプロトコルの通りに実施することで定量した。5’ヌクレアーゼアッセイの1つであるTaqMan PCR法は、ターゲットを増幅するためのプライマーと、その分子内で蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が生じており、かつ、ターゲットに特異的に結合するTaqManプローブとを併用することにより、検出精度が優れていることを特徴とする増幅方法である。このTaqMan PCR法を適用することで得られるcDNAの定量値は、例えば、各プローブ及びプライマーに対応するcDNAが検出基準に達するまでのサイクル数(Ct値)である。
【0097】
なお、定量値については、個体毎にmiRNA全体の活動レベルが異なる場合があること、及び、検体の処理において抽出や増幅反応の収率が細胞や検体の種類ごとに異なる場合があることを考慮し、健常者及び各種がん罹患体の血清試料に共通して存在するmiRNA(標準miRNA)の定量値をもって補正していた。具体的には、健常者及び各種がん罹患体のうちのいずれの検体においても発現量が多いことが知られているhsa-miR-486-5p(配列番号133)の定量値を用いた。各miRNAのCt値からhsa-miR-486-5pのCt値を引算することで正規化し、差分(△Ct値)が発現量の指標となるように補正した。
【0098】
なお、上述のように補正した各miRNAの定量値は、健常者、乳がん罹患体、膵臓がん罹患体又は大腸がん罹患体の個々の検体ごと(すなわち、個体ごと)に得られる値である。よって、同種の検体を複数集めてなる群(例えば健常者の検体群)ごとに、定量結果を取り扱う場合には、複数の定量値の集合が得られる。このような複数の定量値の集合は、同種の検体群であったとしても個体差があることから、ある程度の分散を有する数値分布である。
【0099】
本実施例では、同種の検体群において観察される各miRNAの定量値の数値分布が正規分布に従うものと仮定した。同正規分布における外れ値となる定量値は分析対象から除くことが好ましいので、外れ値にあたる定量値を除いたうえ、各検体群における各miRNAの定量値の平均値を算出した。同平均値は、各検体群を代表する定量値と解釈することもできる。
【0100】
・定量の結果
上述したように算出した、各がん種罹患体における各miRNAの定量値の平均値は、健常者の各miRNAの定量値の平均値で相対化し(すなわち、対健常者発現比に換算し)、表3-1~表3-7に示した。
【0101】
表3-1~表3-7に示すように、計94種類のmiRNAが検出可能であった。表3-1~表3-7中における「-」は、健常者、乳がん罹患体、膵臓がん罹患体及び大腸がん罹患体において、TaqMan PCR法による増幅が十分にみられず、検出の基準値に達しなかったデータを表している。
【0102】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【表3-7】
【0103】
・マーカーの選定
以下、前述の94種類のmiRNAの中から、乳がん罹患体、膵臓がん罹患体又は大腸がんのそれぞれに特徴的なmiRNA、すなわち、各がん種のマーカーを選定した。
【0104】
各miRNAががん種にとって特徴的であるか否かは、あるがん種の検体群(以下、検体群Aとする)を代表する定量値(例えば平均値)のlog2fold値と、他のがん種又は健常者の検体群(以下、検体群Bとする)を代表する定量値(例えば平均値)のlog2fold値との差が2以上かどうかを基準として決定することができる。換言すれば、あるmiRNAについて、検体群Aの定量値の平均が、検体群Bの定量値の平均の2倍以上であるか又は2分の1以下である場合に、同miRNAは検体群Aにとって特徴的であり、検体群Aのがん種の罹患の有無を示すマーカーであると決定してもよい。
【0105】
ただし、前述したように、各検体群における各miRNAの複数の定量値は、ある程度の分散を有する数値分布である。数値分布の重複度合いによっては、検体群Aと検体群Bとを区別できない場合がある。従って、検体群Aと検体群Bとを統計的に区別できるか否かを検証することで、より精度の高いマーカー候補の選定が可能である。
【0106】
本実施例においては、膵臓がん用のマーカーの候補として、少なくとも健常体、乳がん罹患体及び大腸がん罹患体のうちのいずれか1つの検体群の定量値の平均値の2倍以上又は1/2以下である、膵臓がん罹患体の検体群の定量値の平均値が測定されたmiRNAを選定した。さらに、選定した膵臓がんマーカーが統計的に有意であるか否かを検証した。
【0107】
同様に、大腸がん用のマーカーの候補として、健常体、乳がん罹患体、又は膵臓がん罹患体の検体群の定量値の平均値の2倍以上又は1/2以下である大腸がん罹患体の検体群の定量値の平均値から測定されたmiRNAを選定し、統計的に有意であるかを検証した。
【0108】
・マーカー選定の結果
マーカーとして選定されたmiRNAを、表4に示す。
【0109】
【0110】
表4に示すように、各がん種のがんマーカーを計19種類特定することができた。すなわち、hsa-miR-128-3p(配列番号1)、hsa-miR-151a-3p(配列番号2)、hsa-miR-143-3p(配列番号3)、hsa-miR-4770(配列番号4)、hsa-miR-1296-5p(配列番号5)、hsa-miR-125a-5p(配列番号6)、hsa-miR-409-3p(配列番号7)、hsa-miR-99a-5p(配列番号8)、hsa-miR-215-5p(配列番号9)、hsa-miR-126-3p(配列番号10)、hsa-miR-326(配列番号11)、hsa-miR-28-3p(配列番号12)、hsa-miR-425-3p(配列番号13)、hsa-miR-93-3p(配列番号14)、hsa-miR-24-3p(配列番号15)、hsa-miR-222-3p(配列番号16)、hsa-miR-361-5p(配列番号17)、hsa-miR-342-3p(配列番号18)及びhsa-miR-10b-5p(配列番号19)は、対象中のその存在度が健常体における存在度よりも小さいので、対象が乳がん、膵臓がん、または大腸がんに罹患していることを示す少発現標的miRNAのマーカーであることが分かった。
【0111】
上記のうち、配列番号10~19の各miRNAの健常体に対する比率を、それぞれ
図3A~
図3Jに示した(配列番号1~9の箱ひげ図については、後述の例2において同様の結果を示すので、その図示を省略する)。
図3A~
図3Jは箱ひげ図であり、横軸は各検体が罹患している各がん種を示し、縦軸は各検体において測定された各miRNAの対健常者発現比(log
2fold値)を示す。
【0112】
図3A~
図3Jに示す定量値の分布を示す各miRNAマーカーが、健常体、又はその他がん種と識別可能かどうかを検証した。具体的には、例えば対照を健常体とし、対象を乳がん、膵臓がん又は大腸がんの罹患体として、両者の間で各miRNAの定量値のとりうる数値範囲が有意に異なるかどうかを検証した。同様に、対照を大腸がん罹患体、対象を乳がん又は膵臓がんの罹患体とする場合や、対照を乳がん罹患体、対象を膵臓がん罹患体とする場合などについても、各マーカーが統計的に有意に識別できるかどうかを検証した。
【0113】
統計解析の結果を表5及び6に示す。表5において、「*」は有意水準(p値)を0.05よりも小さい値に設定した場合に有意であることを示し、「**」は有意水準(p値)を0.01よりも小さい値に設定した場合に有意であることを示し、「***」は有意水準(p値)を0.001よりも小さい値に設定した場合に有意であることを示し、「n.s」は有意な差異ではないことを示している。表6において、「減少」とは対照よりも対象の定量値の方が小さいことを示し、「増加」とは対照よりも対象の定量値の方が大きいことを示し、「n.s」は有意な差異ではないことを示している。なお、各miRNAは略称で示した(例えば、hsa-miR-126-3pは、「126-3p」と記載した)。
【0114】
【0115】
【0116】
表5及び6に示すように、配列番号10~19の各miRNAの存在度を測定、比較することによって、対照と対象とを統計的に有意に区別できることが分かる。従って、配列番号10~19の各miRNAは、乳がん、膵臓がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することが可能なマーカーであることが示された。
【0117】
例2.より広範に亘るマーカー探索と選定
例1と同様の方法によるmiRNAマーカーの探索を、検体数とその種類を増やして再度実行した。
【0118】
・検体の用意
検体として、乳がん患者血清、膵臓がん患者血清、肺がん患者血清、胃がん患者血清、大腸がん患者血清及び健常者血清を計576検体分用意した。それぞれの検体数は、表4に示したように、乳がん患者血清が100検体、膵臓がん患者血清が99検体、肺がん患者血清が99検体、胃がん患者検体が99検体、大腸がん検体が98検体及び健常者血清が81検体であった。
【0119】
・検体の処理とmiRNAの定量
上記の検体は、例1と同様の方法でmiRNAを抽出し、各種miRNAを定量した。各定量値については、標準miRNAであるhsa-miR-486-5pの定量値で補正し、健常者、乳がん、肺がん、膵臓がん、胃がん、及び大腸がんの群間でその発現量比を求めた。
【0120】
・定量結果と統計的検証
例2で特定された、9種のmiRNAマーカーの定量値を
図4A~
図4Iに示した。
図4A~
図4Iは箱ひげ図であり、横軸は各検体が罹患している各がん種を示し、縦軸は各検体において測定された定量値の相対比を示している。
【0121】
図4A~
図4Iに示す定量値の分布を示す各miRNAマーカーが、健常体、又はその他がん種と識別可能かどうかを検証した。具体的には、例えば対照を健常体とし、対象を乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん又は大腸がんの罹患体として、両者の間で各miRNAの定量値のとりうる数値範囲が有意に異なるかどうかを検証した。同様に、対照を大腸がん罹患体、対象を乳がん、膵臓がん、肺がん又は胃がんの罹患体とする場合、対照を乳がん罹患体、対象を膵臓がん、肺がん又は胃がんとする場合、並びに、対照を肺がん罹患体、対象を膵臓がん又は胃がんとする場合についても、各マーカーが統計的に有意に識別できるかどうかを検証した。
【0122】
統計解析の結果を表7及び表8に示す。表7において、「*」は有意水準(p値)を0.05よりも小さい値に設定した場合に有意であることを示し、「**」は有意水準(p値)を0.01よりも小さい値に設定した場合に有意であることを示し、「***」は有意水準(p値)を0.001よりも小さい値に設定した場合に有意であることを示し、「n.s」は有意な差異ではないことを示している。表8において、「減少」とは対照よりも対象の定量値の方が小さいことを示し、「増加」とは対照よりも対象の定量値の方が大きいことを示し、「n.s」は有意な差異ではないことを示している。なお、各miRNAは略称で示した(例えば、hsa-miR-190a-5pは、「190a-5p」と記載した)。
【0123】
【0124】
【0125】
以上の通り、配列番号1~9の各miRNAの存在度を測定、比較することによって、対照と対象とを統計的に有意に区別できることが分かる。従って、配列番号1~9の各miRNAは、乳がん、膵臓がん、肺がん、胃がん及び大腸がんの全てについて、対象における罹患の可能性があると判定することが可能なマーカーであることが示された。
【0126】
本発明の幾つかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【配列表】