(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025142281
(43)【公開日】2025-09-30
(54)【発明の名称】塔体の建て起こし装置
(51)【国際特許分類】
E04G 21/16 20060101AFI20250919BHJP
【FI】
E04G21/16
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025125805
(22)【出願日】2025-07-28
(62)【分割の表示】P 2022035097の分割
【原出願日】2022-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大谷 英夫
(72)【発明者】
【氏名】大竹 明朗
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 哲史
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】成原 弘之
(57)【要約】
【課題】大掛かりな設備やその設置施工を不要としながら、効率的な塔体の荷下ろしと建て起こしを実現できる、塔体の建て起こし装置と建て起こし方法を提供する。
【解決手段】塔体の建て起こし装置100であり、塔体Tを搭載する運搬車両Dが進入する離間tを置いて配設されている、一対の支持構造体50を有し、それぞれの支持構造体50は、脚材10と、脚材10に支持される受け材20を備え、運搬された塔体Tの一端Taに着脱自在な回動軸60が取付けられ、該回動軸60を受け材20に載置した状態から、受け材20の上で回動軸60が移動(滑動)および回動しながら塔体Tが建て起こされる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塔体の建て起こし装置であって、
前記塔体を搭載する運搬車両が進入する離間を置いて配設されている、一対の支持構造体を有し、それぞれの該支持構造体は、脚材と、該脚材に支持される受け材と、該受け材に支持される回動軸を備え、
前記回動軸は、前記塔体の下部と着脱自在な接合部を有しており、
前記受け材は下に凸の湾曲面材を含み、前記湾曲面材は前記回動軸の半径よりも大きい曲率半径を有しており、
前記塔体の建て起こし時は、該塔体の下部と前記接合部を介して一体化させた前記回動軸が、前記受け材の前記湾曲面材の上で移動および回動しながら該塔体が建て起こされるようになっていることを特徴とする、塔体の建て起こし装置。
【請求項2】
前記受け材が、前記脚材に対してジャッキを介して取り付けられており、
前記ジャッキの上下方向の伸縮により、前記脚材に対して前記受け材が上下に昇降することを特徴とする、請求項1に記載の塔体の建て起こし装置。
【請求項3】
前記受け材の表面、もしくは、前記回動軸の表面に、低摩擦材が設けられていることを特徴とする、請求項1もしくは請求項2に記載の塔体の建て起こし装置。
【請求項4】
前記脚材にカウンターウェイトが取り付けられていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の塔体の建て起こし装置。
【請求項5】
前記塔体の一端には、第一ボルト孔を備えた取り付けフランジが設けられ、
前記回動軸には、前記取り付けフランジに直接的もしくは間接的に当接される被取り付けフランジが設けられており、
前記被取り付けフランジには、径の異なる複数の前記塔体の前記取り付けフランジの前記第一ボルト孔に対応する複数の第二ボルト孔が設けられていることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の塔体の建て起こし装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塔体の建て起こし装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光や風力、地熱、水力、バイオマスといった再生可能エネルギーは、温室効果ガスを排出せず、国内生産が可能であり、エネルギー安全保障にも寄与できる重要な低炭素の国産エネルギーである。その中で、風力エネルギーは、高効率で電気エネルギーに変換できること、太陽光発電と異なり風さえあれば夜間でも発電できることから注目されており、陸上と洋上の双方で発電システムが開発され、建設されている。陸上の風力発電システムにおいては、その主たる構成要素である発電用風車(塔状建造物)を構成するタワーの高さが、例えば50mかそれ以上にも及び得る。
上記する長尺のタワーは、複数の塔体に分割され、分割された塔体が設置場所において建て起こされて設置され、複数の塔体が順次上方に積層されることにより、所定長さのタワーが施工される。
複数に分割された塔体も基本的には長尺であり、重量も大きいことから、運搬車両にて施工場所に搬送されてきた塔体を荷下ろし、次いで建て起こす作業においては、例えば二台のクレーンを用いて塔体の両端をそれぞれ吊り上げる、相吊りが一般的に適用される。
しかしながら、陸上の風力発電施設は山間部に設けられていることが多く、タワーの設置場所が狭隘な設置エリアとなる場合も往々にしてあることから、二台の大型のクレーンを配置するスペースを確保できない場合には、塔体の荷下ろし及び建て起こし作業ができなくなる恐れがある。
また、仮に二台のクレーンを配置するスペースを確保できたとしても、二台の大型のクレーンを作業期間中常備する必要があり、施工コストが高騰するといった課題もある。
【0003】
そこで、特許文献1には、一台のクレーンにより建材の建て起こしを実現できる、建材の建て起こし装置が提案されている。具体的には、一端が固定部材に回動可能に固定された第1の支持部材と、第1の支持部材の他端に、一端が回動可能に接続され、他端が水平方向に移動可能な第2の支持部材と、第2の支持部材の上部に沿うように設けられた載置架台とを備え、載置架台の上に建材を載置した状態で載置架台の上方を吊り上げ、第2の支持部材が他端を中心に回動されることにより、建材を建て起こすようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の建材の建て起こし装置では、一台のクレーンにより建材の建て起こしを実現できるものの、トレーラ等の運搬車両から建材の荷下ろしを行った後、荷下ろした建材を載置架台に一旦載置する工程を必須とすることから、効率的な建て起こし作業を実現し難い。
また、第1の支持部材の回動支点となる一端には、建て起こしの際に多大な水平力が作用することから、基礎等に対して第1の支持部材の回動支点を大掛かりな固定構造として施工する必要があることから、工費の増大と工期の長期化に繋がり得るといった課題がある。
さらには、このように大掛かりな固定構造として基礎等に対して第1の支持部材の回動支点を固定することから、建て起こし装置を容易に盛り替えることができず、基礎等から第1の支持部材を取り外す施工も大掛かりなものとなり、取り外し作業にも時間を要する。
【0006】
本発明は、大掛かりな設備やその設置施工を不要としながら、効率的な塔体の荷下ろしと建て起こしを実現できる、塔体の建て起こし装置と建て起こし方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成すべく、本発明による塔体の建て起こし装置の一態様は、
前記塔体を搭載する運搬車両が進入する離間を置いて配設されている、一対の支持構造体を有し、それぞれの該支持構造体は、脚材と、該脚材に支持される受け材を備え、
前記塔体の一端に回動軸が設けられており、前記運搬車両から該回動軸が前記受け材に移載され、該受け材の上で該回動軸が回動しながら前記塔体が建て起こされるようになっていることを特徴とする。
【0008】
本態様によれば、塔体を搭載する運搬車両が進入する離間を置いて配設されている、一対の支持構造体の受け材に対して、塔体の一端に設けられている回動軸が移載され、受け材の上で回動軸が回動しながら塔体が建て起こされることにより、大掛かりな設備やその設置施工を不要としながら、効率的な塔体の荷下ろしと建て起こしを実現できる。ここで、回動軸そのものは塔体に対して回動することなく固定され、塔体の例えば上端が建て起こされる際に、受け材の上で塔体と同期して回動軸が回動する構造でもよいし、塔体に対して回動する構造でもよく、軸受け上をスムーズに動けばよい。
また、塔体を建て起こす支持構造体が一対の構成を有していること(二つに分離していること)から、各支持構造体を可及的にコンパクトにでき、搬送性や設置性も良好になる。
さらに、支持構造体は、脚材にて自立することから、例えば塔体の設置場所における基礎(例えば鉄筋コンクリート製の基礎)に対して強固に固定接続する必要がなく、設置や盛り替え等も短時間でかつ速やかに行うことができる。
【0009】
塔体が、その一端(下端)に設けられている回動軸を中心として受け材の上で回動しながら建て起こされることから、塔体の他端(上端)を一台のクレーンで吊り上げることで足り、従って従来の建て起こし方法のように二台のクレーンを常備する必要もなく、そのためのスペースも不要になることから、狭隘な施工スペースにおける塔体の建て起こしを実現できる。
【0010】
また、本発明による塔体の建て起こし装置の他の態様は、
前記受け材が、下に凸の湾曲面材を有し、該湾曲面材の上で前記回動軸が移動するようになっていることを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、受け材の有する下に凸の湾曲面材の上で回動軸が移動(もしくは滑動)することにより、回動軸の円滑な回動と湾曲面材の底部への移動(もしくは滑動)を実現でき、塔体を速やかで安定的に建て起こすことが可能になる。また、塔体を鉛直に建て起こした後、クレーンにて鉛直姿勢の塔体を上方に吊り上げて回動軸を湾曲面材から離脱させる際に、スムーズな離脱を実現できる。さらに、クレーンが旋回しながら塔体を建て起こす場合に、建て起こされる塔体は、厳密には、回動軸を中心した鉛直軸回りで水平回転しようとする。この水平回転により、一対の受け材のうち、一方の受け材において回動軸が前方にずれた際に、他方の受け材において回動軸は反対の後方にずれることになる。このような場合でも、受け材が下に凸の湾曲面材であることにより、塔体と回動軸に作用する重力によって回動軸が双方の受け材の底部へ戻る効果が奏されることから、回動軸の水平回転によるずれを速やかに解消することが可能になる。
また、本態様によれば、建て起こし時(クレーン巻上げ、あるいはブーム起こし時)に、塔体は吊点に対して鉛直線上へ復元力を受けるため、受け材の有する下に凸の湾曲面材の上で回動軸が移動(もしくは滑動)する。このことにより、塔体は立ち上げりやすくなるため、建て起こし時に発生する水平力が減少するといった効果が奏される。
さらに、本態様によれば、受け材の湾曲面材が湾曲していることにより、上記する復元力による回動軸の移動をクレーンオペが操作可能な程度に制限することができ、支持構造体を形成する脚材等への激しい衝突を防ぐことが可能になる。
【0012】
また、本発明による塔体の建て起こし装置の他の態様は、
前記湾曲面材の曲率半径が、前記回動軸の半径よりも大きいことを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、受け材の湾曲面材の曲率半径が回動軸の半径よりも大きいことにより、塔体の建て起こしの際に、湾曲面材の内部で回動軸が回動しながら揺動や水平移動することが許容される。このことにより、回動する回動軸を湾曲面材が拘束することがなく、回動軸から湾曲面材が係脱する恐れもなく、回動軸の重心(回動軸の上部にある塔体の重心)を常時湾曲面材の底部に移動させながら塔体を建て起こすことが可能にある。
【0014】
また、本発明による塔体の建て起こし装置の他の態様において、
前記受け材が、前記脚材に対してジャッキを介して取り付けられており、
前記ジャッキの上下方向の伸縮により、前記脚材に対して前記受け材が上下に昇降することを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、ジャッキの上下方向の伸縮(ロッドの上下方向のストローク)によって受け材が上下に昇降することにより、ジャッキをジャッキアップすることで運搬車両から塔体をスムーズに地切り(離脱)することができ、複数台の重機(クレーン等)が必要になるといった課題を解消できる。
【0016】
また、本発明による塔体の建て起こし装置の他の態様において、
前記受け材の表面、もしくは、前記回動軸の表面に、低摩擦材が設けられていることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、受け材の表面もしくは回動軸の表面に低摩擦材が設けられていることにより、塔体の建て起こしの際の受け材と回動軸の間の摩擦力により、回動軸の円滑な回動や揺動、水平移動等が妨げられることを解消できる。
【0018】
また、本発明による塔体の建て起こし装置の他の態様は、
前記脚材にカウンターウェイトが取り付けられていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、塔体が設置される基礎に固定されず、基礎の上に載置されるに過ぎない支持構造体が、建て起こしの際に作用する水平力等によって滑動することを、カウンターウェイトにより抑制することができる。
【0020】
また、本発明による塔体の建て起こし装置の他の態様において、
前記塔体の一端には、第一ボルト孔を備えた取り付けフランジが設けられ(接合部(塔体側))、
前記回動軸には、前記取り付けフランジに直接的もしくは間接的に当接される被取り付けフランジが設けられており(接合部(回動部側))、
前記被取り付けフランジには、径の異なる複数の前記塔体の前記取り付けフランジの前記第一ボルト孔に対応する複数の第二ボルト孔が設けられていることを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、塔体の一端において第一ボルト孔を備えた取り付けフランジが設けられ、取り付けフランジに対して直接的もしくは間接的に当接される被取り付けフランジが回動軸に設けられていて、被取り付けフランジにおいて径の異なる複数の塔体の取り付けフランジの第一ボルト孔に対応する複数の第二ボルト孔が設けられていることにより、共通(一つ)の回動軸を径の異なる複数の塔体の建て起こしの際に転用することができる。
ここで、「回動軸において、取り付けフランジに直接的もしくは間接的に当接される被取り付けフランジが設けられている」とは、取り付けフランジに直接的に当接される被取り付けフランジが回動軸に設けられている形態と、取り付けフランジに取り付け治具が取り付けられ、この取り付け治具に対して取り付けられる被取り付けフランジが回動軸に設けられている(従って、取り付けフランジに間接的に当接される被取り付けフランジが設けられている)形態の双方を含む意味である。
【0022】
例えば、発電用風車のタワーは、鋼製で、上方に向かうに従い断面が漸次低減する筒状体であり、タワーが複数に分割された塔体は、その上端と下端に取り付けフランジを備えており、下方に位置する塔体の上端にある取り付けフランジと、上方に位置する塔体の下端にある取り付けフランジが相互に当接され、双方の対応する第一ボルト孔にボルトが挿通され、ボルト接合されることにより塔体同士が接合されるのが一般的である。
塔体の建て起こしの際には、塔体の一端(下端)にある取り付けフランジに対して、回動軸に固定されている被取り付けフランジを直接的もしくは間接的にボルト接合することにより、回動軸を塔体の一端に仮固定することができる。この被取り付けフランジにおいて、径の異なる複数の塔体の一端にある取り付けフランジの第一ボルト孔に対応する第二ボルト孔が設けられていることにより、一つの回動軸(もしくは、一つの回動軸と被取り付けフランジとからなる回動軸ユニット)を、複数の塔体の建て起こしの際に転用することが可能になる。
【0023】
ここで、回動軸の一方側に被取り付けフランジが固定されていることから、回動軸と被取り付けフランジとからなる回動軸ユニットをクレーンで吊って設置場所まで移載する過程で、回動軸ユニットの重心が被取り付けフランジ側となることから、回動軸ユニットが回転等して、空中における安定した吊り姿勢を欠く恐れがある。
そこで、回動軸において、被取り付けフランジと反対側に被取り付けフランジと同程度の重量のカウンターウェイトを固定しておくことにより、回動軸を吊った際の回動軸の安定姿勢を保証することが可能になる。
【0024】
また、本発明による塔体の建て起こし方法の一態様は、
塔体の建て起こし方法であって、
脚材と、該脚材に支持される受け材を備えている、一対の支持構造体の離間に、前記塔体を搭載する運搬車両を進入させ、
前記塔体の一端に設けられている回動軸を、前記運搬車両から前記受け材に移載し、該受け材の上で該回動軸を回動させながら前記塔体を建て起こすことを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、塔体を搭載する運搬車両が進入する離間を置いて配設されている、一対の支持構造体の受け材に対して、塔体の一端に設けられている回動軸を移載し、受け材の上で回動軸を回動させながら塔体を建て起こすことにより、大掛かりな設備やその設置施工を不要としながら、効率的な塔体の荷下ろしと建て起こしを実現できる。
【0026】
また、本発明による塔体の建て起こし方法の他の態様は、
前記塔体の他端に、重機から垂下するワイヤが取り付けられており、
前記ワイヤの巻き上げと、前記重機の所定角度の旋回と、ブームの所定長の起伏を一セットの建て起こしステップとして、複数セットの該建て起こしステップを実行することにより、前記塔体の一端にある前記回動軸を回動支点としながら建て起こし、
前記建て起こしの際に前記塔体から作用する水平荷重に関する閾値を設定しておき、該水平荷重が該閾値以下となるようにして該塔体の建て起こしを行うことを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、ワイヤの巻き上げと、重機の所定角度の旋回(例えばクレーンの旋回体の所定角度の旋回)と、ブームの所定長の起伏を一セットの建て起こしステップとして、複数セットの建て起こしステップを実行しながら塔体を徐々に建て起こす際に、塔体から作用する水平荷重が予め設定されている閾値以下となるようにして建て起こしステップを行うことにより、過度の水平力がクレーンに作用してクレーンの安定姿勢が阻害され、クレーンの転倒事故等が生じることを防止できる。特に、ワイヤの巻き上げの際に水平荷重(水平力)が発生し易いことから、例えば、一セットの建て起こしステップを細かくする(ワイヤの巻き上げ量、クレーンの旋回角度、及びブームの起伏量をいずれも小さくする等)ことにより、発生する水平荷重を低減できる。例えば、重機のフックブロック等にワイヤレス傾斜計を装備しておき、水平荷重の閾値に相関するように傾斜角度の閾値を設定しておき、傾斜計により計測された傾斜角度が傾斜角度に関する閾値を超えた際に、過度の水平荷重が作用していることをリアルタイムに検知するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明の塔体の建て起こし装置と建て起こし方法によれば、大掛かりな設備やその設置施工を不要としながら、効率的な塔体の荷下ろしと建て起こしを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1A】実施形態に係る建て起こし方法により施工される、塔体を備えた発電用風車の一例の側面図である。
【
図1B】
図1Aのb方向矢視図であって、発電用風車の一例の正面図である。
【
図2】実施形態に係る建て起こし装置の一例の平面図である。
【
図3】
図2のIII-III矢視図であって、実施形態に係る建て起こし装置の一例の正面図である。
【
図4】
図2のIV方向矢視図であって、実施形態に係る建て起こし装置の一例の側面図である。
【
図6】建て起こし方法を実施する際の、建て起こし装置と重機、及び運搬車両により搬送されてきた塔体の、各配置関係の一例を示す平面図である。
【
図7】実施形態に係る塔体の建て起こし方法の一例の工程図である。
【
図8】(a)は、
図7に続き、実施形態に係る塔体の建て起こし方法の一例の工程図であり、(b)は、
図8(a)のb部の拡大図である。
【
図9】(a)は、
図8に続き、実施形態に係る塔体の建て起こし方法の一例の工程図であり、(b)は、
図9(a)のb部の拡大図である。
【
図10】(a)は、
図9に続き、実施形態に係る塔体の建て起こし方法の一例の工程図であり、(b)は、
図10(a)のb部の拡大図である。
【
図11】回動軸と被取り付けフランジのユニットの一例を示す斜視図である。
【
図12】(a)は、
図10に続き、実施形態に係る塔体の建て起こし方法の一例の工程図であり、(b)は、
図12(a)のb部の拡大図である。
【
図13】(a)は、
図12に続き、実施形態に係る塔体の建て起こし方法の一例の工程図であり、(b)は、
図13(a)のb部の拡大図である。
【
図14A】
図13に続き、実施形態に係る塔体の建て起こし方法の一例の工程図である。
【
図14B】
図14Aに続き、実施形態に係る塔体の建て起こし方法の一例の工程図である。
【
図15】建て起こし過程における、重機のブーム先端の軌跡を説明する模式図である。
【
図16】(a)、(b)、(c)は順に、
図14Bに続き、実施形態に係る塔体の建て起こし方法の一例の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施形態に係る塔体の建て起こし装置と建て起こし方法について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0031】
[実施形態に係る塔体の建て起こし装置と建て起こし方法]
図1乃至
図16を参照して、実施形態に係る塔体の建て起こし装置と建て起こし方法の一例について説明する。ここで、
図1Aは、実施形態に係る建て起こし方法により施工される、塔体を備えた発電用風車の一例の側面図であり、
図1Bは、
図1Aのb方向矢視図であって、発電用風車の一例の正面図である。
【0032】
図1Aと
図1Bに示すように、図示例の建て起こし対象でかつ施工対象の塔状建造物は、風力発電システムを構成する発電用風車WMである。ここで、実施形態に係る建て起こし方法は、発電用風車WM以外にも、様々な塔状建造物の建て起こしに適用される。
【0033】
発電用風車WMは、中空を備えたタワーTWと、タワーTWの頂部に設けられているナセルNと、ナセルNの側面に取り付けられている複数のブレードBLとを有し、タワーTWの脚部は鉄筋コンクリート製の基礎Kにより支持され、基礎K(の大部分もしくは全部)は地盤に埋設されている。ここで、図示例の基礎Kは直接基礎であるが、場所打ち杭や既製杭等の杭により支持されていてもよい。
【0034】
タワーTWは、鋼製で、上方に向かうに従い断面が漸次低減する複数の筒状の塔体T1乃至T3により形成され、各塔体Tの端部には不図示のフランジ(取り付けフランジ)が設けられており、双方の取り付けフランジ同士が当接され、双方の取り付けフランジの対応する位置にある不図示のボルト孔(第一ボルト孔)にボルトが挿通され、ボルト接合されている。図示例のタワーTWは、三基の塔体T1乃至T3が鉛直方向に積層されることにより、所定長のタワーとなっている。
【0035】
ナセルNはブレードBLの回転を利用して発電する装置であり、ナセルNを形成するケーシングCはブレードBLの回転軸方向に延設し、その内部には、ブレードBLが固定される動力回転軸と、増速機と、ブレーキ装置と、発電機(いずれも図示せず)が内蔵されている。ここで、ブレーキ装置は、例えばメンテナンスの際に動力回転軸の回転を停止させる装置である。
【0036】
ブレードBLは、ナセルNの前方に設けられているハブHに対して複数本(例えば120度間隔で三本)設けられており、ハブHを中心に放射状に配設されている。
【0037】
以下、タワーTWを構成する塔体Tを建て起こす際に適用される、建て起こし装置100と、この建て起こし装置100を用いた建て起こし方法について説明する。
【0038】
まず、
図2乃至
図5を参照して、実施形態に係る建て起こし装置の一例について説明する。ここで、
図2は、実施形態に係る建て起こし装置の一例の平面図であり、
図3は、
図2のIII-III矢視図であって、実施形態に係る建て起こし装置の一例の正面図であり、
図4は、
図2のIV方向矢視図であって、実施形態に係る建て起こし装置の一例の側面図である。また、
図5Aは、
図4のV部の拡大図であり、
図5Bは、
図5Aのb方向矢視図である。
【0039】
建て起こし装置100は、一対の支持構造体50を有し、塔体の建て起こし方法を実施する際には、図示するように離間tを置いて施工エリアに設置される。この離間tは、以下で説明するように、荷台に塔体Tを搭載する運搬車両がX1方向に進入する幅に設定される。より具体的には、荷台に搭載される塔体Tの一端が余裕を持って入り込む幅である。
【0040】
支持構造体50は、脚材10と、脚材10に支持される受け材20とを備えている。脚材10は、複数の横材11と縦材12と斜材13がフレーム状に組み付けられることにより構成されており、各部材には、溝形鋼や山形鋼等の形鋼材、H形鋼、平鋼等が適用されている。
【0041】
受け材20は、受け架構21と、受け架構21により支持される下に凸の湾曲面材22とを有する。脚材10を構成する各部材と同様に、受け架構21も、複数の溝形鋼や山形鋼等の形鋼材、H形鋼、平鋼等がフレーム状に組み付けられることにより構成されている。
【0042】
図5Aに示すように、湾曲面材22は、平鋼が所定の曲率半径Rを形成するようにして曲げ加工されており、湾曲面材22の表面には、低摩擦材25が取り付けられている。この低摩擦材25としては、PTFE(polytetrafluorethylene)等のフッ素樹脂シートや、ブリキ板等が適用できる。
【0043】
図5Aに示すように、湾曲面材22の曲率半径Rは、塔体Tの一端に取り付けられる回動軸60の半径rよりも大きくなるように設定されている。この構成により、塔体Tを建て起こす過程で、湾曲面材22の内部において回動軸60がX2方向に回動しながらX3方向に揺動や水平移動することが許容される。
【0044】
受け材20は、複数(図示例は二基)の油圧ジャッキ等のジャッキ30を介して、脚材10に取り付けられている。ジャッキ30は上下方向であるX4方向に伸縮し、ジャッキ30の伸縮により、脚材10に対して受け材20が上下に昇降するようになっている。
【0045】
例えば、ジャッキ30をジャッキアップすることにより、運搬車両から塔体Tをスムーズに地切りすることができ、複数台の重機(クレーン等)が必要になるといった課題を解消できる。
【0046】
また、脚材10の例えば横材11の上には、所定重量のカウンターウェイト40が搭載されている。カウンターウェイト40は、例えばコンクリートブロック等により形成される。
【0047】
脚材10や受け材20を構成する各部材が、形鋼材や平鋼等の一般の山留材により形成されることにより、支持構造体50の製作コストが安価となる。
【0048】
また、建て起こし装置100が、相互に分離した一対の支持構造体50により形成されること、各支持構造体50は施工エリアに載置されるのみでよいことから、建て起こし装置100は極めてコンパクトとなり、その搬送や設置も極めて容易となる。
【0049】
ここで、一対の支持構造体50の一体性をもたせるべく、相互に離間tを置いて配設された一対の支持構造体50を、不図示の複数の繋ぎ材で繋いでもよい。
【0050】
また、塔体Tの建て起こしの際には、各支持構造体50に水平力が作用し、施工エリアに単に載置されているだけの支持構造体50は水平力にて滑動する恐れがあるが、支持構造体50が所定重量のカウンターウェイト40を備えていることにより、各支持構造体50の滑動が抑制される。すなわち、カウンターウェイト40の重量は、塔体Tの建て起こしの際に支持構造体50に作用する水平力に対して、支持構造体50の滑動を抑止できる重量に設定される。
【0051】
ここで、カウンターウェイト40が無い状態でも支持構造体50の滑動の恐れがない場合は、カウンターウェイト40を不要にできる。
【0052】
また、建て起こし装置100によれば、塔体Tの建て起こしの際に、受け材20の有する下に凸の湾曲面材22の上で塔体Tの下端に取り付けられている回動軸60が回動することにより、回動軸60の円滑な回動を実現でき、このことにより塔体Tを円滑かつ安定的に建て起こすことが可能になる。
【0053】
さらに、受け材20の湾曲面材22に低摩擦材25が設けられていることにより、塔体Tの建て起こしの際の湾曲面材22と回動軸60の間の摩擦力によって、回動軸60の円滑な回動や揺動、水平移動等が抑制されることを解消できる。ここで、低摩擦材は、回動軸60の周囲に取り付けられていてもよいし、湾曲面材22と回動軸60の双方に取り付けられていてもよい。
【0054】
尚、建て起こし装置100は、一対の支持構造体50を基本構成としながら、塔体Tの脚部に取り付けられる回動軸60も装置の構成要素として含まれる。
【0055】
次に、
図6乃至
図16を参照して、実施形態に係る建て起こし方法の一例について説明する。ここで、
図6は、建て起こし方法を実施する際の、建て起こし装置と重機、及び運搬車両により搬送されてきた塔体の、各配置関係の一例を示す平面図である。また、
図7乃至
図10、及び
図12乃至
図16は順に、実施形態に係る塔体の建て起こし方法の一例の工程図である。さらに、
図11は、回動軸と被取り付けフランジのユニットの一例を示す斜視図である。尚、
図8乃至
図10、
図12及び
図13において、(b)は(a)におけるb部の拡大図である。
【0056】
図6に示すように、塔体Tの施工エリアには複数の敷き鉄板PLが敷設され、塔体Tの設置位置を挟むようにして一対の支持構造体50により形成される、建て起こし装置100が載置される。
【0057】
運搬車両であるトレーラDが建て起こし装置100にアクセスするルートにも、複数の敷き鉄板PLが敷設され、トレーラDは、荷台RDに塔体Tを載置した状態で、バックしながら一対の支持構造体50の離間tに塔体Tの一端Ta(下端)を位置決めする。
【0058】
トレーラDの側方には、塔体Tの建て起こしの際に、塔体Tの他端Tb(上端)をワイヤにて吊り上げるクレーンM(重機の一例)が横付けされている。
【0059】
実施形態に係る建て起こし方法は、まず、
図7に示すように、荷台RDに塔体Tを搭載したトレーラDを後方の建て起こし装置100側へZ1方向にバックさせる。
【0060】
次に、
図8(a)と
図8(b)に示すように、塔体Tの一端Taが一対の支持構造体50の離間tに位置決めされる前にトレーラDを停止させ、塔体Tの一端Taの有する取り付けフランジFに対して、クレーンMのワイヤWに吊持されて搬送されてきた取り付け治具Jを取り付ける。
【0061】
より具体的には、塔体Tの一端Taにある取り付けフランジFには、複数の第一ボルト孔Faが開設されており、作業員Lは、取り付け治具Jの有する各ボルト孔を対応する第一ボルト孔Faに位置合わせし、ボルトBを挿通して双方をボルト接合する。この取り付け治具Jは、塔体Tの一端Taのうち、一対の支持構造体50に対応する二つの領域にそれぞれボルト接合される。
【0062】
次に、
図9(a)と
図9(b)に示すように、トレーラDを後方へZ2方向にさらにバックさせて、塔体Tの一端Taを一対の支持構造体50の離間tに位置決めする。
【0063】
次に、
図10(a)と
図10(b)に示すように、作業員Lは、塔体Tの一端Taに取り付けられている取り付け治具Jに対して、回動軸60を取り付ける。
【0064】
より具体的には、
図11に示すような回動軸ユニット75がクレーンMにて搬送され、取り付け治具Jに対して回動軸ユニット75が取り付けられる。回動軸ユニット75は、二つの取り付け治具Jに対してボルト接合される、二つの被取り付けフランジ70の有する複数(図示例は三つ)の貫通リブ71に対して回動軸60が挿通され、回動軸60と各貫通リブ71が相互に溶接接合されることにより製作される。
【0065】
二つの被取り付けフランジ70にはそれぞれ、複数組(図示例は四組)の第二ボルト孔72が開設されている。尚、被取り付けフランジ70の視認できない奥側にも、第二ボルト孔72が開設されていて、計四組(八つ)の第二ボルト孔72が開設されている。
【0066】
各被取り付けフランジ70が四組の第二ボルト孔72を有することにより、各被取り付けフランジ70の内側の第二ボルト孔72の間の離間φ1から順に、離間φ2乃至φ4と四種の離間が形成される。
【0067】
回動軸60のうち、二つの被取り付けフランジ70の間の領域における被取り付けフランジ70と反対側には、平鋼により形成されるカウンターウェイト73が溶接接合されている。
【0068】
このように、回動軸60と、一対の被取り付けフランジ70と、それらの間のカウンターウェイト73とにより、回動軸ユニット75が形成される。
【0069】
回動軸ユニット75がワイヤWにより吊持され、搬送される際に、回動軸60の一方側に被取り付けフランジ70が取り付けられていることにより、全体の重心が被取り付けフランジ70側に移動して吊り姿勢が不安定になる(例えば回動軸60が回転する等)ことを抑制するべく、例えば二つの被取り付けフランジ70と同程度の重量のカウンターウェイト73が回動軸60に取り付けられている。回動軸ユニット75がカウンターウェイト73を備えていることにより、ユニット全体が安定した姿勢でワイヤWにて吊り搬送される。
【0070】
図1Aに示すように、タワーTWは三基の塔体T1乃至T3により形成され、各塔体T1乃至T3の下端の径は相互に異なっている。例えば、
図1Aに示す例では、塔体T1の下端の取り付けフランジの径はφ3であり、塔体T2の下端の取り付けフランジの径はφ2であり、塔体T3の下端の取り付けフランジの径はφ1である。
【0071】
図11に示すように、複数種の取り付けフランジの径φ1乃至φ3に対応するように、第二ボルト孔72の間の離間が設けられていることにより、各塔体T1乃至T3の建て起こしの際に、
図11に示す回動軸ユニット75を転用して各塔体T1乃至T3の一端Ta(下端)に取り付けることが可能になる。
【0072】
尚、図示例は、塔体Tの下端Taの取り付けフランジFに対して取り付け治具Jをボルト接合し、この取り付け治具Jに対して回動軸ユニット75を構成する被取り付けフランジ70をボルト接合する(従って、取り付けフランジFに対して被取り付けフランジ70を間接的にボルト接合する)ものであるが、取り付け治具Jを使用せず、取り付けフランジFの第一ボルト孔Faに対して被取り付けフランジ70の第二ボルト孔72を位置合わせし、ボルト接合する(従って、取り付けフランジFに対して被取り付けフランジ70を直接的にボルト接合する)方法が適用されてもよい。
【0073】
次に、
図12(a)と
図12(b)に示すように、トレーラDを若干後方のZ3方向にバックさせて、回動軸60を湾曲面材22の中央位置に位置合わせする。
【0074】
次に、
図13(a)と
図13(b)に示すように、塔体Tの他端Tb(上端)にクレーンから垂下するワイヤWを掛けて吊り、建て起こし装置100のジャッキ30をZ5方向にジャッキアップして回動軸60を湾曲面材22に当接させる。すなわち、
図13(a)においては、塔体Tの下端Taと上端Tbが湾曲面材22とワイヤWによりそれぞれ支持される。
【0075】
このように、塔体Tの下端Taと上端Tbを湾曲面材22とワイヤWによりそれぞれ支持させることで、塔体TをトレーラDの荷台RDから地切りし、トレーラDを塔体Tから離れたZ4方向に退避させることができる。
【0076】
トレーラDを塔体Tから離れた位置に退避させた後、
図14Aに示すように、クレーンMによるワイヤリングにより、塔体Tの上端TbをY1方向に吊り上げながら塔体Tを建て起こしていく。
【0077】
この塔体Tの建て起こしにおいては、
図14Bに示すように、塔体Tの下端Taに取り付けられている回動軸60が、建て起こし装置100の湾曲面材22で回動する回動支点となることから、塔体Tが下端の回動軸60を中心にY2方向にスムーズに建て起こされる。
【0078】
この塔体Tの建て起こしは、
図15に示すように、ワイヤWの所定長の巻き上げと、クレーンMの旋回体の所定角度の旋回と、ブームの所定長の起伏を一セットの建て起こしステップとして、複数セットの建て起こしステップを繰り返し実行することにより、塔体Tを徐々に建て起こしていく。
【0079】
図15において、点Pはブーム先端を示しており、この点PではワイヤWの所定長の巻き上げが実行される。ワイヤWの所定長の巻き上げと、実線で示すクレーンMの旋回体の所定角度の旋回と、点線で示すブームの所定長の起伏が、Y3方向に示す軌跡に沿って順次実行される。
【0080】
この塔体Tの建て起こしの過程で、塔体Tの下端Taに取り付けられている回動軸60は、湾曲面材22の上で回動しながら、湾曲面材22の表面においてX4方向に揺動や水平移動する。しかしながら、回動軸60がその半径rよりも大きな湾曲面材22の曲率半径Rの内部に収容されていることから、回動軸60は湾曲面材22から係脱することなく、湾曲面材22の内部における回動を継続することができる。
【0081】
さらに、回動軸60が水平移動や水平回転等しても、回動軸60は常に曲率半径Rの湾曲面材22の下端に戻されるように移動(滑動)することから、回動軸60の安定した回動を保証することができる。
【0082】
また、湾曲面材22の表面に低摩擦材25が設けられていることにより、湾曲面材22の上を回動軸60が摺動する際の双方の間の摩擦力が抑制され、回動軸60の円滑な回動が保証される。
【0083】
ここで、塔体Tの建て起こしの際に、塔体Tから作用する水平荷重に関する閾値を予め設定しておき、水平荷重が閾値以下となるようにして塔体Tの建て起こしを行うことが望ましい。
【0084】
例えば、塔体の建て起こしの際には、建て起こし装置100やクレーンMに対して水平力(水平荷重)が作用し得る。この水平力に関して、過度の水平力がクレーンに作用してクレーンの安定姿勢が阻害される等の問題を防止するべく、これらクレーンの安定姿勢を阻害する水平力等に関する閾値を設定しておく。
【0085】
クレーンMに作用する水平力と、クレーンMから垂下されるワイヤWの傾斜角との間には幾何学的な相関(一対一の関係)があることから、例えば、クレーンMのフックブロック等に対してワイヤWの傾斜角を計測するワイヤレス傾斜計等を設置しておき、施工管理者の携帯する端末(スマートフォンやタブレット端末等)において、ワイヤレス傾斜計から送信される現状のワイヤWの傾斜角度と、傾斜角度に対応した水平力と、さらには、水平力に関する閾値が表示されることにより、クレーンMの安全性をリアルタイムに確認しながら、塔体Tの建て起こし作業を行うことができる。
【0086】
本発明者等によれば、塔体Tが鉛直姿勢に近い状態(水平面から90度近傍)となった際に、水平力が増大することが特定されていることから、建て起こしの後半においてより厳格な施工管理が必要になる。ただし、図示する建て起こし方法では、塔体Tの下端Taに取り付けられている回動軸60が、建て起こし装置100の備える湾曲面材22の内部で回動しながら塔体Tが建て起こされることから、生じ得る水平力が緩和されることになる。尚、塔体の建て起こしにおける特にワイヤの巻き上げの際に、上記する水平力が発生し易いことから、例えば、上記する一セットの建て起こしステップを細かくすること、より具体的には、ワイヤの巻き上げ量やクレーンの旋回角度、ブームの起伏量をいずれも小さくすることにより、発生する水平力を低減できる。
【0087】
図16(a)に示すように塔体Tが鉛直姿勢とされた後、
図16(b)に示すようにクレーンMにて塔体Tを上方へY5方向に吊り上げ、塔体Tの設置場所から建て起こし装置100を撤去する。
【0088】
次いで、
図16(c)に示すように、塔体Tの設置場所に仮台Gを設置し、塔体TをY6方向に吊り下ろして仮台Gの上に仮置きし、塔体Tの下端Taから回動軸ユニット75を取り外して回収する。
【0089】
図示例の塔体Tが
図1に示す最下段の塔体T1の場合は、その下端にある取り付けフランジと基礎Kをアンカーボルト等で固定する。一方、塔体Tが中段や上段の塔体T2、T3の場合は、下段にある塔体の上端の取り付けフランジに対して自身の下端にある取り付けフランジをボルト接合する。
【0090】
図示する建て起こし装置100を用いた建て起こし方法によれば、大掛かりな設備やその設置施工を不要としながら、効率的な塔体TのトレーラDからの荷下ろしと建て起こしを実現できる。
【0091】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0092】
10:脚材
11:横材
12:縦材
13:斜材
14:ジャッキ架台
20:受け材
21:受け架構
22:湾曲面材
25:低摩擦材
30:ジャッキ
40:カウンターウェイト
50:支持構造体
60:回動軸
70:被取り付けフランジ
71:貫通リブ
72:第二ボルト孔
73:カウンターウェイト
75:回動軸ユニット
100:建て起こし装置(塔体の建て起こし装置)
WM:発電用風車
N:ナセル
C:ケーシング
H:ハブ
BL:ブレード
TW:タワー
T、T1、T2、T3:塔体
Ta:一端(下端)
Tb:他端(上端)
F:取り付けフランジ
Fa:第一ボルト孔
J:取り付け治具
B:ボルト
K:基礎
R:曲率半径
r:半径
M:重機(クレーン)
D:運搬車両(トレーラ)
RD:荷台
PL:敷き鉄板
L:作業員
W:ワイヤ