(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025154626
(43)【公開日】2025-10-10
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
H01G 4/30 20060101AFI20251002BHJP
【FI】
H01G4/30 201M
H01G4/30 201D
H01G4/30 201C
H01G4/30 201L
H01G4/30 515
H01G4/30 514
H01G4/30 513
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024057736
(22)【出願日】2024-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 篤
(72)【発明者】
【氏名】田辺 智由貴
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雫
(72)【発明者】
【氏名】奥井 保弘
(72)【発明者】
【氏名】井口 俊宏
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC01
5E001AE01
5E001AE03
5E082AB03
5E082BC33
(57)【要約】
【課題】温度特性を良好に維持しつつサーマルクラックの発生を抑制した積層セラミック電子部品を提供すること。
【解決手段】
積層されている誘電体層と内部電極層とを有する積層セラミック電子部品である。内部電極層のうち積層方向に沿って最も外側にある内部電極層を第1内部電極層とし、誘電体層のうち積層方向に沿って第1内部電極層より外側にある誘電体層を外装誘電体層とし、外装誘電体層には第1内部電極層の近傍から積層方向に沿って外側に向かってMn濃度が上昇する濃度勾配が存在する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層されている誘電体層と内部電極層とを有する積層セラミック電子部品であって、
前記内部電極層のうち積層方向に沿って最も外側にある内部電極層を第1内部電極層とし、
前記誘電体層のうち前記積層方向に沿って前記第1内部電極層より外側にある誘電体層を外装誘電体層とし、
前記外装誘電体層には前記第1内部電極層の近傍から前記積層方向に沿って外側に向かってMn濃度が上昇する濃度勾配が存在する積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記外装誘電体層の厚みが150um以上500um以下である請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記外装誘電体層のうち前記第1内部電極層からの距離が100um以下である部分に前記濃度勾配が存在する請求項2に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記外装誘電体層において、前記第1内部電極層からの距離が100um以上である部分におけるMn濃度と比較して、前記第1内部電極層からの距離が1um以上50um以下である部分におけるMn濃度が80%以上90%以下であり、かつ、前記第1内部電極層からの距離が50um以上100um以下である部分におけるMn濃度が90%以上100%以下である請求項3に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
前記第1内部電極層におけるMn濃度が他の内部電極層におけるMn濃度よりも高い請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項6】
前記内部電極層のうち、前記第1内部電極層よりも内側にありギャップ対応部を有する内部電極層を第2内部電極層とし、
前記第2内部電極層よりも内側にありギャップ対応部を有さない内部電極層を第3内部電極層とし、
前記第1内部電極層におけるMn濃度をC1、前記第2内部電極層の前記ギャップ対応部におけるMn濃度をC2A、前記第3内部電極層におけるMn濃度をC3として、
C3<C2A<C1を満たす請求項5に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項7】
C1/C3が2.5以上4.0以下である請求項6に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項8】
前記第2内部電極層の前記ギャップ対応部以外の部分におけるMn濃度をC2Bとして、C2A/C2Bが1.5以上3.0以下である請求項6に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項9】
C1/C2Aが1.2以上2.0以下である請求項6に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項10】
前記誘電体層のうち前記積層方向に沿って前記第1内部電極層より内側にある誘電体層を内部誘電体層として、前記内部誘電体層の厚みが3.0um以上15um以下である請求項1~9のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項11】
前記内部電極層の積層数が50以上300以下である請求項1~9のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項12】
前記誘電体層がCa、Sr、Zr、TiおよびOを含む請求項1~9のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、積層セラミックコンデンサに関する発明が記載されている。具体的には、最外層内部電極と、その外側に位置する最外誘電体セラミック層と、の境界にMgとMnとを含有する境界層が形成されることでセラミック積層体への水分の侵入を抑制、防止できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、温度特性を良好に維持しつつサーマルクラックの発生を抑制した積層セラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明に係る積層セラミック電子部品は、
積層されている誘電体層と内部電極層とを有する積層セラミック電子部品であって、
前記内部電極層のうち積層方向に沿って最も外側にある内部電極層を第1内部電極層とし、
前記誘電体層のうち前記積層方向に沿って前記第1内部電極層より外側にある誘電体層を外装誘電体層とし、
前記外装誘電体層には前記第1内部電極層の近傍から前記積層方向に沿って外側に向かってMn濃度が上昇する濃度勾配が存在する積層セラミック電子部品である。
【0006】
前記外装誘電体層の厚みが150um以上500um以下であってもよい。
【0007】
前記外装誘電体層のうち前記第1内部電極層からの距離が100um以下である部分に前記濃度勾配が存在してもよい。
【0008】
前記外装誘電体層において、前記第1内部電極層からの距離が100um以上である部分におけるMn濃度と比較して、前記第1内部電極層からの距離が1um以上50um以下である部分におけるMn濃度が80%以上90%以下であってもよく、かつ、前記第1内部電極層からの距離が50um以上100um以下である部分におけるMn濃度が90%以上100%以下であってもよい。
【0009】
前記第1内部電極層におけるMn濃度が他の内部電極層におけるMn濃度よりも高くてもよい。
【0010】
前記内部電極層のうち、前記第1内部電極層よりも内側にありギャップ対応部を有する内部電極層を第2内部電極層とし、
前記第2内部電極層よりも内側にありギャップ対応部を有さない内部電極層を第3内部電極層とし、
前記第1内部電極層におけるMn濃度をC1、前記第2内部電極層の前記ギャップ対応部におけるMn濃度をC2A、前記第3内部電極層におけるMn濃度をC3として、
C3<C2A<C1を満たしてもよい。
【0011】
C1/C3が2.5以上4.0以下であってもよい積層セラミック電子部品。
【0012】
前記第2内部電極層の前記ギャップ対応部以外の部分におけるMn濃度をC2Bとして、C2A/C2Bが1.5以上3.0以下であってもよい。
【0013】
C1/C2Aが1.2以上2.0以下であってもよい。
【0014】
前記誘電体層のうち前記積層方向に沿って前記第1内部電極層より内側にある誘電体層を内部誘電体層として、前記内部誘電体層の厚みが3.0um以上15um以下であってもよい。
【0015】
前記内部電極層の積層数が50以上300以下であってもよい。
【0016】
前記誘電体層がCa、Sr、Zr、TiおよびOを含んでもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面を示す模式図である。
【
図4】
図4は、第1内部電極層からの距離とMnの特性X線の強度との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、第1内部電極層からの距離とMnの特性X線の強度との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面の一部を示す模式図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面の一部を示す模式図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面の一部を示す模式図である。
【
図9】
図9は、各誘電体層用シートの配置の一例を示す模式図である。
【
図10】
図10は、各誘電体層用シートの配置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき説明する。
【0019】
本実施形態に係る積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1が
図1に示される。積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成の素子本体10を有する。この素子本体10の両端部には、一対の外部電極4が形成してある。
【0020】
そして、
図1に示される互いに異なる外部電極4と導通する一対の内部電極層3と、
図1に示されるいずれの外部電極4とも導通しない内部電極層3と、が素子本体10の中で積層方向(
図1の上下方向)に沿って交互に配置されている。
【0021】
素子本体10の形状に特に制限はないが、通常、直方体状とされる。また、素子本体10の寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0022】
誘電体層2の組成には特に制限はない。例えば、誘電体層2が誘電体磁器組成物から構成されていてもよい。誘電体層2の組成には特に制限はない。例えば、誘電体層2がCa、Sr、Zr、TiおよびOを主に含んでいてもよく、Aサイト元素としてCaおよびSrを含み、Bサイト元素としてZrおよびTiを含むペロブスカイト化合物であってもよい。ペロブスカイト化合物とは、一般式ABO3(AはAサイト元素、BはBサイト元素)で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する化合物である。誘電体層2がCa、Sr、Zr、TiおよびOを主に含む場合には、後述する技術手法によって温度特性を好適に維持しつつサーマルクラックの発生を抑制する効果が大きくなる。
【0023】
誘電体層2がCa、Sr、Zr、TiおよびOを主に含むとは、誘電体層2におけるCa、Sr、Zr、TiおよびOの合計含有割合が90at%以上であることを指す。
【0024】
誘電体層2がAサイト元素としてCaおよびSrを含み、Bサイト元素としてZrおよびTiを含むペロブスカイト化合物を含む場合において、当該ペロブスカイト化合物のAサイト元素全体に対するCaおよびSrの合計含有割合が50at%以上であってもよい。当該ペロブスカイト化合物のBサイト元素全体に対するZrおよびTiの合計含有割合が90at%以上であってもよい。
【0025】
なお、当該ペロブスカイト化合物のAサイト元素全体に対するCaおよびSrの合計含有割合が50at%未満である場合、特にAサイト元素としてBaを多く含む場合には、後述する技術手法によって温度特性を好適に維持しつつサーマルクラックの発生を抑制する効果が小さくなりやすい。
【0026】
誘電体層2が上記のペロブスカイト化合物以外に例えばSiO2および/またはAl2O3を含んでもよい。具体的には、ペロブスカイト化合物のBサイト元素100モル部に対して、Siを0モル部以上4.0モル部以下、含んでいてもよい。Alを0モル部以上2.0モル部以下、含んでいてもよい。
【0027】
誘電体層2のうち後述する第1内部電極層3aより積層方向に沿って外側にある誘電体層を外装誘電体層2aとし、後述する第1内部電極層3aより積層方向に沿って内側にある誘電体層を内部誘電体層2bとする。
【0028】
外装誘電体層2aがMnを含む。そして、外装誘電体層2には第1内部電極層3aの近傍から積層方向に沿って外側に向かってMn濃度が上昇する濃度勾配が存在する。上記の濃度勾配が存在することにより、温度特性を良好に維持しつつサーマルクラックの発生を抑制することができる。
【0029】
上記の濃度勾配が外装誘電体層2aのどこに存在するかについては特に制限はない。例えば、第1内部電極層2aからの距離が100um以下である部分に上記の濃度勾配が存在してもよい。
【0030】
さらに具体的には、第1内部電極層3aからの距離が1um以上50um以下である部分におけるMn濃度の平均が、第1内部電極層3aからの距離が50um以上100um以下である部分におけるMn濃度の平均よりも低い場合に上記の濃度勾配が存在するとみなしてもよい。
【0031】
外装誘電体層2aにおいて、第1内部電極層3aからの距離が100um以上である部分におけるMn濃度の平均と比較して、第1内部電極層3aからの距離が1um以上50um以下である部分におけるMn濃度の平均が50%以上90%以下であってもよく、かつ、第1内部電極層3aからの距離が50um以上100um以下である部分におけるMn濃度の平均が80%以上110%以下であってもよい。
【0032】
外装誘電体層2aにおいて、第1内部電極層3aからの距離が100um以上である部分におけるMn濃度の平均と比較して、第1内部電極層3aからの距離が1um以上50um以下である部分におけるMn濃度の平均が80%以上90%以下であり、かつ、第1内部電極層3aからの距離が50um以上100um以下である部分におけるMn濃度の平均が90%以上100%以下であってもよい。
【0033】
Mn濃度の分布が上記の範囲内である場合に、サーマルクラックの発生、特に外装誘電体層2aと第1内部電極層3aとの界面や外装誘電体層2aと外部電極4との界面におけるサーマルクラックの発生を抑制しやすい。
【0034】
上記の濃度勾配の有無、および、Mn濃度の分布を確認する方法としては、SEM-EDSまたはSTEM-EDSを用いてMnの特性X線の強度を測定する方法が挙げられる。
【0035】
Mnの特性X線の強度はMn濃度に比例する。したがって、積層方向に沿って第1内部電極層3aから外装誘電体層2aに向かってMnの特性X線の強度をライン分析し、第1内部電極層3aからの距離が大きくなるほどMnの特性X線の強度が上昇する箇所がある場合に上記の濃度勾配を有するといえる。
【0036】
上記のライン分析において、特性X線の測定箇所同士の間隔は十分に短くする。具体的には、2um以下とする。
【0037】
また、第1内部電極層3aからの距離が1um以上50um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が、第1内部電極層3aからの距離が50um以上100um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度よりも低い場合に上記の濃度勾配が存在するとみなしてもよい。
【0038】
また、第1内部電極層3aからの距離が100um以上である部分におけるMnの特性X線の平均強度と比較して、第1内部電極層3aからの距離が1um以上50um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が80%以上90%以下であり、かつ、第1内部電極層3aからの距離が50um以上100um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が90%以上100%以下であってもよい。この場合には、第1内部電極層3aからの距離が100um以上である部分におけるMn濃度の平均と比較して、第1内部電極層3aからの距離が1um以上50um以下である部分におけるMn濃度が平均で80%以上90%以下であり、かつ、第1内部電極層3aからの距離が50um以上100um以下である部分におけるMn濃度が平均で90%以上100%以下である。
【0039】
第1内部電極層3aからの距離が100um以上である部分におけるMnの特性X線の平均強度を算出する際において、外装誘電体層2aの厚さが200um未満である場合には、第1内部電極層3aからの距離が100um以上である部分全体についてMnの特性X線の平均強度を算出する。
【0040】
また、外装誘電体層2aの厚さが200um以上である場合には、第1内部電極層3aからの距離が100um以上200um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度を第1内部電極層3aからの距離が100um以上である部分におけるMnの特性X線の平均強度とみなしてもよい。
【0041】
横軸に第1内部電極層3aからの距離、縦軸にMnの特性X線の強度を記載して得られたグラフを
図4および
図5に示す。
図4は第1内部電極層3aからの距離が1um以上50um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が、第1内部電極層3aからの距離が50um以上100um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度よりも低い場合を示す。
図5は第1内部電極層3aからの距離が1um以上50um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が、第1内部電極層3aからの距離が50um以上100um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度と同一である場合を示す。
【0042】
外装誘電体層2aに上記の濃度勾配が存在することによりサーマルクラックの発生を抑制することができるのは、上記の濃度勾配の存在により外装誘電体層2aの焼結が抑制されることで焼結による外装誘電体層2aの収縮率が低下するためであると考えられる。
【0043】
なお、第1内部電極層3aの近傍から積層方向に沿って外側に向かってMn濃度が下降する濃度勾配が存在する場合には、サーマルクラックが発生しやすくなる。
【0044】
外装誘電体層2aの厚みは特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。例えば、50umを上回り800um以下であってもよく、150um以上500um以下であってもよい。外装誘電体層2aが厚いほどサーマルクラックが発生しやすくなる。逆に、外装誘電体層2aが薄いほどサーマルクラックの発生しやすさが上記の濃度勾配の有無に依存しにくくなる。
【0045】
内部誘電体層2bの1層あたりの厚み(層間厚み)は特に限定されず、所望の特性や用途等に応じて任意に設定することができる。例えば、1.0um以上20um以下であってもよく、3.0um以上15um以下であってもよい。内部誘電体層2bが厚いほど、サーマルクラックの発生しやすさが上記の濃度勾配の有無に依存しにくくなる。内部誘電体層2bが薄いほど、サーマルクラックが発生しやすくなる。
【0046】
内部電極層3は、各端面が素子本体10の対向する2つの端部の表面に露出するように積層してある。
【0047】
内部電極層3のうち積層方向に沿って最も外側にある内部電極層を第1内部電極層3aとする。第1内部電極層3aよりも内側にあり後述するギャップ対応部を有する内部電極層を第2内部電極層とする。第2内部電極層よりも内側にあり後述するギャップ対応部を有さない内部電極層を第3内部電極層3cとする。
【0048】
ギャップ対応部とは、第1内部電極層3a以外の内部電極層3において、積層方向に沿って外側に他の内部電極層が存在しない部分のことである。
【0049】
ギャップ対応部は外部電極4の厚さ方向(
図1の左右方向)の長さが10um以上である部分とする。言いかえれば、積層方向に沿って外側に他の内部電極層が存在しない部分であっても、外部電極4の厚さ方向の長さが10um未満である部分はギャップ対応部とはみなさない。
【0050】
図1に示すように、第2内部電極層は、第2内部電極層のギャップ対応部3b1と、第2内部電極層のギャップ対応部以外の部分3b2と、からなる。
【0051】
図1の左右方向における第2内部電極層の長さ(ギャップ対応部3b1とギャップ対応部以外の部分3b2との合計長さ)に対するギャップ対応部3b1の長さの割合には特に制限はない。例えば、2.5%以上20%以下であってもよい。
【0052】
内部電極層3に含有される導電材の主成分は金属である。金属としては特に限定されず、たとえばPd、Pd系合金、Pt、Pt系合金、Ni、Ni系合金Cu、Cu系合金、など、金属として公知の導電材を用いればよい。
【0053】
第1内部電極層3aなどの一部の内部電極層3がMnを含んでいてもよく、第1内部電極層3aにおけるMn濃度が他の内部電極層におけるMn濃度よりも高くてもよい。
【0054】
第1内部電極層3aにおけるMn濃度が高いことにより、第1内部電極層3aにおける線膨張係数が小さくなりやすい。そして、外装誘電体層2aと第1内部電極層3aとで線膨張係数の差が小さくなりやすくなる。そのため、サーマルクラックが発生しにくくなると考えられる。
【0055】
また、全ての内部電極層におけるMn濃度を均等に高くする場合よりも、相対的に第1内部電極層におけるMn濃度を高くする場合の方が、積層セラミックコンデンサ1の温度特性が向上しやすくなる。
【0056】
全ての内部電極層におけるMn濃度が均等に低い場合はサーマルクラックが発生しやすくなり、全ての内部電極層におけるMn濃度が均等に高い場合は温度特性を良好に維持しにくくなる。
【0057】
第1内部電極層3aにおけるMn濃度には特に制限はない。例えば、0.1wt%以上3.0wt%以下であってもよい。
【0058】
第1内部電極層3aにおけるMn濃度をC1、第2内部電極層のギャップ対応部3b1におけるMn濃度をC2A、第2内部電極層のギャップ対応部以外の部分3b2におけるMn濃度をC2B、第3内部電極層3cにおけるMn濃度をC3として、C3<C2A<C1を満たしてもよい。
【0059】
さらに、C1/C3が2.5以上4.0以下であってもよい。C2A/C2Bが1.5以上3.0以下であってもよい。C1/C2Aが1.2以上2.0以下であってもよい。なお、C2B/C3については特に制限はないが、C2B/C3が0.9以上1.1以下であってもよく、1.0であってもよい。C2A/C3についても特に制限はないが、C2A/C3が1.1以上4.0未満であってもよい。
【0060】
各内部電極層におけるMn濃度が上記の関係を満たすことにより、サーマルクラックが発生しにくくなり、かつ、温度特性を良好に維持しやすくなる。なお、C1/C3、C2A/C2B、および/または、C1/C2Aが大きい場合には温度特性が低下しやすくなる傾向にある。
【0061】
それぞれ
図1の一部分を示す模式図である
図6~
図8を示す。
図6~
図8に示すように、各内部電極層にはMnの濃度が周囲よりも高いMn偏析11が含まれていてもよい。
【0062】
各内部電極層にMn偏析11が含まれていることは、積層セラミックコンデンサ1の断面についてSEM-EDSまたはSTEM-EDS等を用いてMn元素マッピング画像を作成することにより確認できる。
【0063】
図6は第1内部電極層3a、第2内部電極層のギャップ対応部以外の部分3b2、および、第3内部電極層3cが含まれる部分の概略図である。Mn偏析11は第1内部電極層3aに多く含まれていることがわかる。また、第2内部電極層のギャップ対応部以外の部分3b2と、第3内部電極層3cとではMn偏析11の含有割合も実質的に等しいことがわかる。
【0064】
図7は第2内部電極層のギャップ対応部3b1および第3内部電極層3cが含まれる部分の概略図である。Mn偏析11は第2内部電極層のギャップ対応部3b1に多く含まれていることがわかる。
【0065】
図6および
図7より、第1内部電極層3aと、第2内部電極層のギャップ対応部とでは第1内部電極層3aの方がMn偏析11の含有割合が大きいことがわかる。
【0066】
図8は多数の第3内部電極層3cが含まれる部分の概略図である。第3内部電極層3c同士の間ではMn偏析11の含有割合が実質的に等しいことがわかる。
【0067】
C1、C2A、C2BおよびC3の測定方法には特に制限はない。例えば、SEM-EDSまたはSTEM-EDSを用いてMnの特性X線の強度を測定する方法が挙げられる。
【0068】
Mnの特性X線の強度はMn濃度に比例する。したがって、各内部電極層の内部において、外部電極4の厚さ方向(
図1の左右方向)に沿ってMnの特性X線の強度をライン分析し、平均することにより、C3<C2A<C1を満たすことを確認できる。さらに、C1/C3、C2A/C2BおよびC1/C2Aを算出することができる。
【0069】
上記のライン分析における特性X線の測定箇所同士の間隔は十分に短くする。具体的には、2um以下とする。また、C1、C2A、C2BおよびC3を確認するためには、少なくとも30um以上の長さでライン分析を行う。
【0070】
また、内部電極層3には、P等の各種微量成分が0.1質量%程度以下含まれていてもよい。内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0071】
内部電極層3の積層数には特に制限はない。40以上400以下であってもよく、50以上300以下であってもよい。内部電極層3の積層数が多いほど、サーマルクラックが発生しやすくなる。内部電極層3の積層数が少ないほど、サーマルクラックの発生しやすさが上記の濃度勾配の有無に依存しにくくなる。
【0072】
外部電極4に含有される導電材は特に限定されない。たとえばNi、Cu、Sn、Ag、Pd、Pt、Auあるいはこれらの合金、導電性樹脂など公知の導電材を用いればよい。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0073】
次に、
図1に示す積層セラミックコンデンサ1の製造方法の一例を説明する。
【0074】
まず、素子本体10の製造工程について、説明する。素子本体10の製造工程では、焼成後に誘電体層2となる誘電体用ペーストと、焼成後に内部電極層12となる内部電極用ペーストとを準備する。
【0075】
誘電体用ペーストは、たとえば以下のような方法で製造される。まず、誘電体原料を湿式混合等の手段によって均一に混合し、乾燥させる。誘電体原料は金属元素の酸化物であってもよく、熱処理により金属元素の酸化物となる化合物(例えば炭酸塩)であってもよい。その後、所定の条件で熱処理することで、仮焼粉を得る。次に、得られた仮焼粉に、公知の有機ビヒクルまたは公知の水系ビヒクルを加えて混練し、誘電体用ペーストを調製する。なお、誘電体用ペーストには、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、誘電体、副成分化合物、ガラスフリットなどから選択される添加物が含有されていてもよい。
【0076】
ここで、外装誘電体層2aにおいてMn濃度の勾配を形成するため、および、必要であれば各内部電極層にMn偏析を形成するために、互いにMnの含有量が異なる複数種類の誘電体層用ペーストを準備する。Mnの含有量は、具体的にはMn酸化物の粉末または熱処理によりMn酸化物となる化合物の粉末の添加量を制御することで調整する。
【0077】
一方、内部電極用ペーストは、導電性金属またはその合金からなる導電性粉末(好ましくはNi粉末もしくはNi合金粉末)を混練して調製する。また、必要であれば各内部電極層にMn偏析を形成するために、Mn酸化物の粉末または熱処理によりMn酸化物となる化合物の粉末を適宜、添加してもよい。また、互いにMnの含有量が異なる複数種類の内部電極層用ペーストを準備してもよい。
【0078】
なお、内部電極用ペーストには、必要に応じて、共材としてセラミック粉末が含まれていてもよい。共材は、焼成過程において導電性粉末の焼結を抑制する作用を奏する。
【0079】
次に、誘電体用ペーストを、ドクターブレード法などの手法によりシート化することで、グリーンシートを得る。
【0080】
以下の記載では、複数種類の誘電体層用ペーストを用いてMn多量添加シート21、Mn適量添加シート22およびMnなしシート23を作製してグリーンシートとして用いるとする。
【0081】
そして、各グリーンシート上に、スクリーン印刷等の各種印刷法や転写法により、内部電極用ペーストを所定のパターンで塗布し、内部電極パターン31を形成する。内部電極パターン31を形成したグリーンシートを複数層に渡って積層した後、積層方向にプレスすることでグリーンチップを得る。
【0082】
この際に、
図9に示すように各グリーンシートを積層する。具体的には、Mn多量添加シート21を最終的に第1内部電極層3aとなる内部電極パターン31に接するように配置する。そして、最終的に内部誘電体層2bとなる部分にはMn適量添加シート22を配置する。そして、Mn多量添加シート21より外側には、Mn適量添加シート22とMnなしシート23とを適宜、配置する。
【0083】
この際に、
図9に示すように、内部電極パターン31に近い部分により多くのMnなしシート23を配置する。このようにすることで、外装誘電体層2aにおける上記のMnの濃度勾配を形成することができる。
【0084】
また、Mn多量添加シート21を最終的に第1内部電極層3aとなる内部電極パターンの上に配置することにより、Mn多量添加シートに含まれるMnの多くが誘電体中に拡散する。そして、内部電極にMnが取り込まれMn偏析が生じる。その結果、C1が高く、C2aがC1の次に高く、C2bおよびC3が低い状態を生じさせることができる。
【0085】
他方、
図10に示すようにMnなしシート23を用いずにグリーンチップを作製する場合には、外装誘電体層2aにおいて、上記のMnの濃度勾配が形成されにくい。
【0086】
得られたグリーンチップに対し、必要に応じて、脱バインダ処理を行ってもよい。脱バインダ処理条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、保持温度を200℃以上900℃以下としてもよく、保持時間を1時間以上48時間以下としてもよい。また、脱バインダ時の雰囲気にも特に制限はない。
【0087】
脱バインダ処理後、グリーンチップの焼成を行い、素子本体10を得る。本実施形態では、焼成時の雰囲気は酸素分圧が2.0×10-13atm以上1.0×10-7atm以下の還元性雰囲気としてもよい。その他の焼成条件は、公知の条件とすればよく、たとえば、保持温度は1100℃以上1350℃以下としてもよく、保持時間は0.5時間以上5時間以下としてもよい。
【0088】
焼成後には、必要に応じてアニール処理を行ってもよい。アニール処理の条件には特に制限はない。たとえば、保持温度を500℃以上1150℃以下、保持時間を0.5時間以上20時間以下としてもよい。アニール雰囲気中の酸素分圧は、例えば1.0×10-9atm以上3.0×10-5atm以下とする。
【0089】
上記のようにして得られた素子本体10に必要に応じて端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼き付けし、外部電極4を形成する。そして、必要に応じて、外部電極4の表面に、めっき等により被覆層を形成する。外部電極用ペーストの作製方法には特に制限はなく、内部電極用ペーストと同様の方法で作製してもよい。
【0090】
このようにして、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ1が製造される。
【0091】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0092】
例えば、
図2に示す積層セラミックコンデンサ1aのように、素子本体10の両端部には素子本体10の内部で交互に配置された内部電極層3と各々導通する一対の外部電極4が形成してあってもよい。また、
図3に示す積層セラミックコンデンサ1bのように、第1内部電極層3aを外部電極4と導通しないようにしてもよい。
【0093】
本実施形態では、積層セラミック電子部品の一つである積層セラミックコンデンサ1を例示したが、本発明の積層セラミック電子部品は、積層セラミックコンデンサに限られない。
【実施例0094】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0095】
実施例では、以下の手順で、
図1に示す積層セラミックコンデンサ1を作製した。
【0096】
まず、互いにMnの含有量が異なる3種類の誘電体用ペーストを準備した。各誘電体層用ペーストの作製方法は共通している。
【0097】
主相粒子の主成分として含まれるペロブスカイト化合物の原料粉末(以下、主成分原料粉末と記載する場合がある)を作製した。具体的には、組成式が(Ca0.70Sr0.30)(Zr0.96Ti0.04)O3であるペロブスカイト化合物(表1では略してCSZT)が得られるように、Ca酸化物の原料粉末、Sr酸化物の原料粉末、Zr酸化物の原料粉末およびTi酸化物の原料粉末を準備し、秤量した。なお、「γ酸化物の原料粉末」は、γの酸化物の粉末、および/または、熱処理によりγの酸化物の粉末となる化合物の粉末を指す。その後、各粉末を純水中に分散させ、乾燥させ、さらに熱処理(保持温度1200~1250℃、保持時間0.5~5時間)を行うことで、BET法により測定される比表面積が5.0m2/g程度である主成分原料粉末を作製した。熱処理時の保持温度および保持時間は各試料に応じて適宜、設定した。
【0098】
別途、MnCO3粉末、SiO2粉末およびAl2O3粉末を準備した。そして、Siの含有量がAlの含有量よりも原子数基準で大きくなるように秤量した。また、Mn多量添加シートの作製に用いられる誘電体層用ペーストではMnの含有量が4.0~10.0モル部、Mn適量添加シートの作製に用いられる誘電体層用ペーストではMnの含有量が1.5~3.0モル部となるように、MnCO3粉末を準備し、秤量した。また、Mn多量添加シートおよびMn適量添加シートでは、Mnの含有量がSiの含有量よりも原子数基準で大きくなるように秤量した。
【0099】
主成分原料粉末と、添加物元素の酸化物の粉末と、を純水中に分散させ、乾燥させ、さらに熱処理を行うことで、誘電体粉末を得た。保持温度は400℃、保持時間は0.5~5時間とした。熱処理時の保持時間は各試料に応じて適宜設定した。
【0100】
誘電体粉末と有機ビヒクルとを混ぜ合わせて各誘電体用ペーストを作製した。誘電体粉末100質量部に対してポリビニルブチラール樹脂10質量部と、可塑剤としてのジオクチルフタレート(DOP)5質量部と、溶媒としてのアルコール100質量部とをボールミルで混合してペースト化して誘電体層用ペーストを得た。
【0101】
内部電極用ペーストの作製方法を以下に示す。まず、Ni粉末、テルピネオール、エチルセルロースおよびベンゾトリアゾールを、質量比が44.6:52.0:3.0:0.4となるように準備した。そして、これらを3本ロールにより混練し、ペースト化することにより、内部電極用ペーストを作製した。
【0102】
次に、上記の各誘電体用ペーストと内部電極用ペーストとを用いて、シート法によりグリーンチップを製造した。この際に、外装誘電体層にMn濃度勾配を形成する場合には、
図9に示すように各誘電体層用シートを配置した。外装誘電体層にMn濃度勾配を形成しない場合には、
図10に示すように
図9のMnなしシートを全てMn適量添加シートに置き替えた。
【0103】
そして、当該グリーンチップに対して、脱バインダ処理、焼成処理、およびアニール処理を施し、積層方向に垂直な面の寸法が3.2mm×2.5mmである直方体形状の素子本体10を得た。上記の寸法は
図1の横方向が3.2mmである。積層方向の長さは後述する内部誘電体層の積層数、内部誘電体層の平均厚みおよび外装誘電体層の厚みにより異なる。焼成処理時の保持温度は1200℃、保持時間は2.0時間とし、焼成時の雰囲気は酸素分圧が2.0×10
-13atm以上1.0×10
-7atm以下の還元雰囲気とした。また、得られた素子本体10において、内部誘電体層の積層数、内部誘電体層の平均厚みおよび外装誘電体層の厚みは各表に示す値とした。
【0104】
次に、上記の素子本体10の外面に、Cuを含む焼付電極層と、Niメッキ層と、Snメッキ層とを、記載の順に形成することで外部電極4を形成し、積層セラミックコンデンサ1を得た。
【0105】
(誘電体磁器組成物の組成)
誘電体磁器組成物の組成に関しては、内部誘電体層についてICP発光分光分析法を用いて組成分析を行った。そして、内部誘電体層に含まれるペロブスカイト化合物の組成が上記の組成であり、添加物元素の含有量がMn適量添加シートの作製に用いられる誘電体層用ペーストにおける含有量であることを確認した。
【0106】
(Mn濃度勾配)
Mn濃度勾配の有無については、
図1に示す方向の断面、すなわち積層方向に平行であり外部電極の厚み方向に平行な断面について、STEM-EDSを用いて第1内部電極層から積層方向に沿って外側に向かって200umの長さでライン分析を行うことにより、Mnの特性X線の強度を測定した。1um~50umの平均強度、50~100umの平均強度、100um~200umの平均強度をそれぞれ測定した。Mnの特性X線の強度とMn濃度とが比例することから、平均濃度の比率を算出した。Mn濃度勾配の有無についても確認した。結果を各表に示す。
【0107】
(内部電極層のMn濃度、Mn偏析の有無)
内部電極層のMn濃度については、
図1に示す方向の断面において、各内部電極層の内部について積層方向に垂直な方向に沿ってライン分析を行い、Mnの特性X線の強度を測定した。第1内部電極層における平均強度、第2内部電極層のギャップ対応部における平均強度、第2内部電極層のギャップ対応部以外の部分における平均強度、および、第3内部電極層における平均強度を測定した。Mnの特性X線の強度とMn濃度とが比例することから、C1/C3、C2A/C2BおよびC1/C2Aを算出した。さらに、STEM-EDSを用いて内部誘電体層を含むMnマッピング画像を作成し、Mnマッピング画像を観察することで、Mn偏析の含有割合を確認した。Mn偏析の含有割合については、第1内部電極層におけるMn偏析の含有割合が第3内部電極層におけるMn偏析の含有割合と比較して多いか同等であるか、を表1に示す。
【0108】
(サーマルクラック試験)
各試料番号につき60個の積層セラミックコンデンサに対して、400℃のはんだ槽に3秒間浸漬し、取り出した。そして、各積層セラミックコンデンサに対して、倍率10倍の光学顕微鏡によりサーマルクラックが生じているか否かを確認し、サーマルクラックが生じている積層セラミックコンデンサの個数割合を評価した。結果を各表に示す。なお、サーマルクラックの発生率が10/60以下である場合を良好とし、5/60以下である場合を更に良好とし、1/60未満である場合、すなわち本実施例では0/60である場合を最も良好とした。
【0109】
(温度特性)
積層セラミックコンデンサ1の温度特性は容量温度係数τC(単位:ppm/℃)を測定することにより評価した。具体的には、25℃および125℃において、積層セラミックコンデンサに対して周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、各温度帯における静電容量を測定した。そして、25℃における静電容量C25と、125℃における静電容量C125と、から、以下の式により容量温度係数τCを算出した。
τC={(C125-C25)/C25}×{1/(125-25)}
【0110】
各試料番号につき10個の積層セラミックコンデンサ1に対して容量温度係数τCを測定し、平均した。温度特性は、容量温度係数τCの平均値が-15ppm/℃以上+15ppm/℃以下である場合を良とし、容量温度係数τCの平均値が-20ppm/℃以上-15ppm/℃未満、または、+20ppm/℃を上回り+20ppm/℃以下である場合を可とし、-20ppm/℃未満、または、+20ppm/℃を上回る場合を不可とした。なお、本実験例では温度特性が不可である場合が無かった。
【0111】
【0112】
実施例1~5はMn多量添加シートの作製に用いられる誘電体層用ペーストにおけるMnの添加量を変化させた点以外は同条件で実施した。実施例6はMn多量添加シートを用いず、代わりにMn適量添加シートを用いた。
【0113】
実施例1~6はいずれも外装誘電体層に第1内部電極層の近傍から積層方向に沿って外側に向かってMn濃度が上昇する濃度勾配が存在した。さらに、第1内部電極層からの距離が100um以上200um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度と比較して、第1内部電極層からの距離が1um以上50um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が80%以上90%以下であり、かつ、第1内部電極層からの距離が50um以上100um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が90%以上100%以下であった。
【0114】
実施例1~5は第1内部電極層におけるMn濃度が他の内部電極層におけるMn濃度よりも高かった。これに対し、実施例6は第1内部電極層におけるMn濃度と他の内部電極層におけるMn濃度とが同一であった。そのため、実施例1~5は実施例6と比較してサーマルクラック試験の結果が良好であった。また、実施例1~5および後述する他の実施例では第1内部電極層等の各内部電極層にMn偏析が含まれ、かつ、第1内部電極層により多くのMn偏析が含まれることが確認された。これに対し、実施例6では、全ての内部電極層におけるMn偏析の含有割合が同等であった。
【0115】
特に、C1/C3が2.5以上4.0以下であり、C1/C2Aが1.2以上2.0以下であり、かつ、C2A/C2Bが1.5以上3.0以下である実施例2~4はサーマルクラック試験の結果がさらに良好であった。
【0116】
C1/C3、C2A/C2BおよびC1/C2Aがいずれも高かった実施例1は、実施例2~6と比較して温度特性が低下した。
【0117】
実施例7~9は外装誘電体層の厚みを変化させ、それに伴い積層セラミックコンデンサの積層方向のサイズを変化させた点以外は実施例3と同条件で実施した。実施例3、7~9はいずれもサーマルクラック試験の結果も温度特性も良好であった。
【0118】
特に外装誘電体層の厚みが150um以上500um以下である実施例3、7、8は、外装誘電体層の厚みが550umである実施例9と比較してサーマルクラック試験の結果が特に良好であった。
【0119】
実施例10、11は内部誘電体層の厚みを変化させ、それに伴い積層セラミックコンデンサの積層方向のサイズを変化させた点以外は実施例3と同条件で実施した。実施例3、10、11はいずれもサーマルクラック試験の結果も温度特性も良好であった。
【0120】
実施例12、13は内部電極層の積層数を変化させ、それに伴い内部誘電体層の積層数および積層セラミックコンデンサの積層方向のサイズを変化させた点以外は実施例3と同条件で実施した。実施例3、12、13はいずれもサーマルクラック試験の結果も温度特性も良好であった。
【0121】
実施例14~17は外装誘電体層におけるMnの濃度勾配を変化させた点以外は実施例3と同条件で実施した。具体的には、Mnなしシートの配置を適宜、変化させることでMnの濃度勾配を変化させた。
【0122】
実施例3、14~17はいずれもサーマルクラック試験の結果も温度特性も良好であった。ただし、第1内部電極層からの距離が1um以上50um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が低かった実施例14、第1内部電極層からの距離が1um以上50um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が高かった実施例15、第1内部電極層からの距離が50um以上100um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が低かった実施例16、第1内部電極層からの距離が50um以上100um以下である部分におけるMnの特性X線の平均強度が高かった実施例17は、いずれも実施例3と比較してサーマルクラックが発生しやすかった。
【0123】
実施例18はペロブスカイト化合物をBaTiO3(表1では略してBT)に変更した点以外は実施例3と同条件で実施した。実施例3、18はいずれもサーマルクラック試験の結果も温度特性も良好であった。
ここで、外装誘電体層2aにおいてMn濃度の勾配を形成するため、および、必要であれば各内部電極層にMn偏析を形成するために、互いにMnの含有量が異なる複数種類の誘電体用ペーストを準備する。Mnの含有量は、具体的にはMn酸化物の粉末または熱処理によりMn酸化物となる化合物の粉末の添加量を制御することで調整する。
一方、内部電極用ペーストは、導電性金属またはその合金からなる導電性粉末(好ましくはNi粉末もしくはNi合金粉末)を混練して調製する。また、必要であれば各内部電極層にMn偏析を形成するために、Mn酸化物の粉末または熱処理によりMn酸化物となる化合物の粉末を適宜、添加してもよい。また、互いにMnの含有量が異なる複数種類の内部電極用ペーストを準備してもよい。
また、Mn多量添加シート21を最終的に第1内部電極層3aとなる内部電極パターンの上に配置することにより、Mn多量添加シートに含まれるMnの多くが誘電体中に拡散する。そして、内部電極にMnが取り込まれMn偏析が生じる。その結果、C1が高く、C2AがC1の次に高く、C2BおよびC3が低い状態を生じさせることができる。
各試料番号につき10個の積層セラミックコンデンサ1に対して容量温度係数τCを測定し、平均した。温度特性は、容量温度係数τCの平均値が-15ppm/℃以上+15ppm/℃以下である場合を良とし、容量温度係数τCの平均値が-20ppm/℃以上-15ppm/℃未満、または、+15ppm/℃を上回り+20ppm/℃以下である場合を可とし、-20ppm/℃未満、または、+20ppm/℃を上回る場合を不可とした。なお、本実験例では温度特性が不可である場合が無かった。