(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015463
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】制御方法、電気手術用ジェネレータ、及び電気手術設備
(51)【国際特許分類】
B06B 1/06 20060101AFI20250123BHJP
A61B 17/32 20060101ALI20250123BHJP
A61B 17/00 20060101ALI20250123BHJP
【FI】
B06B1/06 A
A61B17/32 510
A61B17/00 700
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024112888
(22)【出願日】2024-07-12
(31)【優先権主張番号】63/527,886
(32)【優先日】2023-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】516236908
【氏名又は名称】オリンパス・ヴィンター・ウント・イベ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】OLYMPUS WINTER & IBE GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イェレ ダイクストラ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フェーシング
【テーマコード(参考)】
4C160
5D107
【Fターム(参考)】
4C160JJ11
4C160MM32
5D107AA07
5D107AA14
5D107BB07
5D107CC02
5D107CD03
(57)【要約】
【課題】より確実に、超音波トランスデューサの機械的共振周波数を特定すること。
【解決手段】電気手術器具202の超音波トランスデューサを制御するための制御方法は、増幅器204が、交流全体電流信号i
mを超音波トランスデューサに提供し、超音波トランスデューサの位相差に応じて信号周波数fを機械的共振周波数に対して調整するように制御され、超音波トランスデューサの位相差を判定するために、主電流成分及び交流機器電圧信号u
mの信号係数を計算し、信号係数は共通基準信号に対する主電流成分又は交流機器電圧信号u
mのそれぞれの位相関係を表し、信号係数から超音波トランスデューサの位相差を計算する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気手術器具の超音波トランスデューサを制御するための制御方法であって、
前記超音波トランスデューサは、信号周波数を有する交流全体電流信号によって駆動され、
前記交流全体電流信号によって前記超音波トランスデューサを駆動すると、前記超音波トランスデューサの機械的振動に応じて、前記超音波トランスデューサの交流機器電圧信号を生じ、
前記交流機器電圧信号は、前記超音波トランスデューサの機械的振動に応じて、前記交流全体電流信号の主電流成分に対する前記超音波トランスデューサの位相差を有し、
前記超音波トランスデューサは、変動する機械的共振周波数を有し、
当該制御方法は、
増幅器が、前記交流全体電流信号を前記超音波トランスデューサに供給し、前記超音波トランスデューサの位相差に応じて、信号周波数を前記機械的共振周波数に対して調整するように制御され、
前記超音波トランスデューサの位相差を判定するために、
前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号の信号係数を計算し、
前記信号係数は、共通基準信号に対する前記主電流成分又は前記交流機器電圧信号のそれぞれの位相関係を表し、
前記信号係数から前記超音波トランスデューサの位相差を計算する、制御方法。
【請求項2】
計算された前記超音波トランスデューサの位相差に応じて、
前記機械的共振周波数に一致するように、又はそれに近づくように前記信号周波数を調整し、
前記信号周波数が前記機械的共振周波数を上回るか下回るかを判定し、
それに応じて前記信号周波数を上昇又は低下させて前記機械的共振周波数に近づけ、
又は、
計算された前記超音波トランスデューサの位相差に応じて、
前記機械的共振周波数の実際値を計算し、
計算された前記機械的共振周波数に応じて、前記信号周波数を設定する、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
前記信号係数の計算が、測定された前記交流全体電流信号のサンプル及び測定された前記超音波トランスデューサの前記交流機器電圧信号から判定された主電圧信号のサンプルに基づくことを特徴とする、請求項1に記載の制御方法。
【請求項4】
前記信号係数が、対応する信号の第1高調波を特徴付ける、請求項1に記載の制御方法。
【請求項5】
前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号のそれぞれについて、前記信号係数が、以下の式(1),(2)に従って計算された第1高調波フーリエ三角関数係数a
1及びb
1であり、前記サンプルは、所定の時間間隔及び/又は前記機械的共振周波数の公称値に対応する1周期の時間間隔について取得され、
x[k]は、対応する信号のサンプルであり、
Nは信号当たりのサンプル数である、
【数1】
【数2】
請求項3に記載の制御方法。
【請求項6】
前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号の信号係数が第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1である場合、
前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号の絶対位相差φaが、φa=atan2(a1,b1)に基づいて計算され、
前記超音波トランスデューサの位相差が、前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号の前記絶対位相差として計算される、請求項1に記載の制御方法。
【請求項7】
前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号の信号係数が第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1である場合、
前記超音波トランスデューサの位相差は、前記超音波トランスデューサの位相差φtが前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号の商a1/b1の差として計算されるように近似によって計算され、前記位相差φtは、φt=a1,i/b1,i-a1,u/b1,uを用いて計算され、
a1,i及びb1,iは、前記主電流成分の第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1であり、
a1,u及びb1,uは、前記交流機器電圧信号の第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1である、請求項1に記載の制御方法。
【請求項8】
前記超音波トランスデューサの位相差を計算すること、及び/又は前記機械的共振周波数に一致するように、若しくは前記機械的共振周波数に近づくように前記信号周波数を調整することが、前記機械的共振周波数の変化を追跡するために定期的に繰り返され、
前記計算すること又は調整することが、10信号周期あたり少なくとも1回の繰り返し、2信号周期あたり少なくとも1回の繰り返し、又は、1信号周期あたり1回の繰り返しである、所定の繰り返し周波数で繰り返される、請求項1に記載の制御方法。
【請求項9】
前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号の信号係数が第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1である場合、
前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号の信号係数が、
前記主電流成分のrms値、
前記交流機器電圧信号のrms値、
前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号の有効電力値の少なくともいずれかを計算するために使用され、
前記主電流成分及び前記交流機器電圧信号の各rms値及び/又は前記有効電力値が、前記主電流成分及び/又は前記交流機器電圧信号の第1高調波に基づいて計算される、請求項1に記載の制御方法。
【請求項10】
前記交流全体電流信号が、主電流成分及び容量電流成分を有し、前記容量電流成分は前記超音波トランスデューサの静電容量に依存し、
前記主電流成分が、前記超音波トランスデューサの測定された前記交流全体電流信号から前記容量電流成分を減算することによって計算され、及び/又は、
第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1が、前記容量電流成分を計算するために使用され、
前記容量電流成分iCが、iC=C*ω*a1*cos(ω*t)又はiC=-C*ω*b1*sin(ω*t)を用いて前記静電容量C及び前記機械的共振周波数ωについて計算される、請求項1に記載の制御方法。
【請求項11】
前記超音波トランスデューサの静電容量を計算するために、
前記交流全体電流信号が、少なくとも最小周波数差だけ前記機械的共振周波数の公称値とは異なる試験周波数を有して生成され、前記交流機器電圧信号を生じさせ、
前記信号係数が、前記交流全体電流信号、及び結果として生じる、前記試験周波数を有する前記交流機器電圧信号に基づいて計算され、
前記超音波トランスデューサの静電容量(C)が、前記信号係数に基づいて計算され、
前記最小周波数差が、少なくとも10kHz、または少なくとも20kHzである、請求項1に記載の制御方法。
【請求項12】
前記交流機器電圧信号の信号係数を計算するために、
前記交流機器電圧信号が、仮想電圧信号を加算することによって修正電圧信号に修正され、
前記仮想電圧信号が、前記主電流成分に所定の仮想抵抗を乗算することによって計算され、
前記主電流成分として、以前に計算された主電流成分が使用され、
以前に計算された前記主電流成分が、前記交流機器電圧信号及び前記主電流成分について以前に計算された前記信号係数に基づいて計算され、
前記修正電圧信号が、前記交流機器電圧信号及び前記主電流成分について以前に計算された前記信号係数を用いて直接計算され、及び/又は、
前記修正電圧信号の係数が、前記交流機器電圧信号及び前記主電流成分について以前に計算された前記信号係数を用い、所定の仮想抵抗を用いて直接計算される、請求項1に記載の制御方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の制御方法を実行するように適合された、電気手術器具の超音波トランスデューサを制御するための電気手術用ジェネレータ。
【請求項14】
請求項13に記載の電気手術用ジェネレータと、
前記電気手術用ジェネレータに接続された超音波トランスデューサを有する電気手術器具と、を備える電気手術設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気手術器具の超音波トランスデューサを制御する制御方法に関する。本発明はまた、電気手術器具の超音波トランスデューサを制御するための電気手術用ジェネレータに関する。本発明はまた、電気手術用ジェネレータと、電気手術用ジェネレータに接続された電気手術器具の超音波トランスデューサとを備えた電気手術設備に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波トランスデューサは、交流電気信号を、超音波周波数を有する電気手術器具の機械的振動に変換するために用いられる。この変換を行うため、交流電気信号は、基本的に超音波トランスデューサの共振周波数で機械的振動を促進する。
【0003】
超音波トランスデューサは、
図3に示す等価回路に従ってモデル化することができる。このモデルは、電気的等価物(CM+LM+RM)及び並列静電容量(CE)としての機械的共振回路を示す。
【0004】
超音波トランスデューサは、その機械的共振周波数で駆動させる必要がある。共振周波数は機械的負荷によって変化するので、変化する共振周波数を追跡するために制御ループが必要とされ得る。PLL(位相同期回路:Phase Locked Loop)を使用し、超音波トランスデューサの両端電圧と、機械的電流として理解され得る機械的共振回路の電気的等価物の電流との、測定された位相差にしたがって、周波数を調整することができる。位相差が正である場合、共振回路は誘導性であり周波数が高すぎる。位相差が負である場合、共振回路は容量性であり周波数が低すぎる。
【0005】
適用され得る制御ループは、アナログセンサ、ADC(A/D変換回路:Analog-to-Digital Converter)、及び計算された周波数で増幅器を駆動するデジタルコントローラ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)を含んでもよい。コントローラは、時間領域におけるそれぞれのゼロ交差を比較することによって、電流と電圧との位相差を判定してもよい。
【0006】
ゼロ交差検出はノイズに非常に敏感であるため、電流及び電圧信号は、ローパスフィルタを使用して非常に慎重にフィルタリングしなければならない。
【0007】
デジタル領域で信号をフィルタリングすることは困難である。一方では、信号が0を交差する事例を正確に判定するために、信号を高い係数でオーバーサンプリングしなければならない。また一方では、カットオフ周波数がサンプリング周波数よりも低い場合、強固なFIRローパスフィルタには多くのタップが必要となる。
【0008】
この問題を解決する1つの可能性は、信号をアナログ領域でフィルタリングすることである。これは、フィルタによって信号の位相差が生成されるという問題を提起する。したがって、追加の相対的な位相差を確実に生じさせないために、両方のアナログフィルタ経路を非常に厳密に一致させる必要がある。それには、許容範囲を厳しく限定した構成要素を有する、複雑なフィルタ構造が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、上記の問題の少なくとも1つに対処することである。特に、超音波トランスデューサの制御を改善するための解決策が提供されるべきであり、特に、改善された方法で、及び/又はより確実に、超音波トランスデューサの機械的共振周波数を特定するための解決策が提供されるべきである。少なくとも、既知の解決策に対する代替的な解決策となる解決策が提案されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、請求項1に記載の方法が提案される。すなわち、電気手術器具の超音波トランスデューサを制御する方法が提案される。そのような超音波トランスデューサは、信号周波数を有する交流全体電流信号によって駆動される。そのような超音波トランスデューサは、電圧制限を有する電流源によって主に駆動されてもよい。
【0011】
そのような交流全体電流信号は、超音波トランスデューサの機械的振動に応じて、超音波トランスデューサの交流機器電圧信号を生じさせる。言い換えれば、主に正弦波電流信号であり得る交流全体電流信号が超音波トランスデューサに印加される。超音波トランスデューサの機械的振動に応じて交流機器電圧信号が生じる。交流機器電圧信号の形状は、主に超音波トランスデューサの機械的振動に依存する。
【0012】
交流機器電圧信号は、超音波トランスデューサの機械的振動に応じて、交流全体電流信号の主電流成分に対する超音波トランスデューサの位相差を有する。したがって、超音波トランスデューサの機械的振動に応じて、位相差、すなわち交流機器電圧信号と主電流成分との位相差が生じる。
【0013】
超音波トランスデューサは、変動する機械的共振周波数を有する。そのような機械的共振周波数は、45kHz~50kHzの範囲、特に46kHz~49kHzの領域であってもよい。機械的共振周波数はこの範囲内で変動してもよい。当然、この範囲外であってもよい。しかしながら、機械的共振周波数は少なくともわずかに変動し、その変動は電気手術器具の使用に依存している可能性がある。例えば、電気手術器具が組織と接触しているか否かによって、機械的共振周波数が異なり得る。
【0014】
交流全体電流信号を供給し、超音波トランスデューサの位相差に応じて機械的共振周波数に対する信号周波数を調整するように制御される増幅器も存在する。このように、超音波トランスデューサの位相差は、交流機器電圧信号及び交流全体電流信号が機械的共振周波数に一致しているか、及び場合によってはどの程度良好に一致しているかを示す。位相差がない場合、機械的共振周波数は一致している。したがって、変換器の位相差を判定し、位相差の振幅が減少するように信号周波数を調整することが重要である。特に、正の位相差は、共振回路が誘導性であり周波数が高すぎるため、低減すべきであることを示す。一方、位相差が負である場合、共振回路は容量性であり周波数が低すぎるため、増加すべきであることを示す。
【0015】
超音波トランスデューサの位相差を判定するために、主電流成分及び交流機器電圧信号の信号係数を計算することが提案される。そのような信号係数は、共通の基準信号に対する、主電流成分又は交流機器電圧信号のそれぞれの位相関係を表すものとする。したがって、主電流成分の共通基準信号に対する位相関係を表す、主電流成分の計算された信号係数が存在し、また、交流機器電圧信号の共通基準信号に対する位相関係を表す、計算された交流機器電圧信号の信号係数が存在する。
【0016】
そのような共通基準信号は、比較のために予め決定してもよい。しかしながら、そのような共通基準信号は、単に理論的又は仮想的な基準信号であってもよい。以下で更に説明するように、主電流成分及び交流機器電圧信号の信号係数を計算するために、同じ時間間隔に対して、同じアルゴリズムを使用し、主電流成分及び交流機器電圧信号のそれぞれのサンプリング値を使用した計算が用いられる。このように、同じ時間間隔を使用することで、両信号の信号係数を計算するための同じ境界条件が得られ、結果として同じ共通の基準信号を有する。したがって、両信号について同じ共通の基準信号が考慮されるか、又はこの共通の基準信号は明示的に与えられないものの、この共通の基準信号が少なくとも計算の基礎となる場合に、超音波トランスデューサの位相差に関する関係を特定することができる。
【0017】
更に、信号係数から超音波トランスデューサの位相差を計算することが提案される。
【0018】
すなわち、特定の信号を、共通基準信号に対する両信号の位相関係に対しても特徴付ける信号係数を計算することができ、そのような位相関係は位相角としても表され得る。こうして、これらの信号係数は、両信号の位相角も特定し、特に一方の位相角を他方から減算することによって、超音波トランスデューサの位相差を計算することができる。このように、測定信号の信号波形を比較することなく、超音波トランスデューサの位相差を容易かつ確実に計算することができる。これは、ゼロ交差、又は2つの信号の他の有意点を特定することなく行うこともできる。
【0019】
特に、信号係数を計算するために、全時間又は少なくとも半分の時間における両信号のサンプリング値が考慮される。したがって、多くのサンプリング値に基づいて計算された、特に各信号に対して2つの係数、合計4つの係数が得られる。例えば、各信号は、1つの時間についてそれぞれ100サンプル、又はそれ以上を使用して測定してもよい。この例に関しては、サンプリングされた1つの信号の2つの係数は、100サンプルに基づいて計算される。
【0020】
このようにして、信号のノイズの問題を少なくとも低減することができる。
【0021】
一態様によれば、計算された超音波トランスデューサの位相差に応じて、信号周波数を、機械的共振周波数と一致するように、又はそれに近づくように調整することが提案される。したがって、超音波トランスデューサの位相差が計算され、その位相差は機械的共振周波数と信号周波数との間のずれを示す。そのため、信号周波数を、機械的共振周波数と一致するように、少なくとも機械的共振周波数とより良好に一致するように調整する。機械的共振周波数を特定する必要はなく、信号周波数が機械的共振周波数からずれているかを特定するだけでよいことが見出された。
【0022】
特に、信号周波数が機械的共振周波数を上回るか下回るかを判定し、次いで、それに応じて信号周波数を増加又は低減させて機械的共振周波数に近づけることが提案される。
【0023】
機械的共振周波数に近づけるための信号周波数の増加又は低減は、様々な方法で行うことができる。1つの可能性は、信号周波数を一定値だけ増加又は低減させることである。実際には、そのような増加又は低減を繰り返し実行する頻度が高いため、そのような離散的な方法はほぼ連続的な手法となる。こうして、信号周波数と機械的共振周波数との差があることによって、信号周波数を変化させ、特にわずかに変化させ、機械的共振周波数に少なくとも少し近づける。この工程は、超音波トランスデューサの位相差の計算を繰り返すことを含めて連続的に繰り返される。こうして、このような調整工程は非常に頻繁に繰り返され、信号周波数が機械的共振周波数にほぼ達するまで、その都度少しずつ機械的共振周波数に近づける。
【0024】
別の可能性は、PID又はPI制御を有するフィードバック制御ループを使用することである。制御の積分部分によれば、求められた信号周波数は、入力が0であるときにその値を維持する。
【0025】
したがって、そのようなフィードバック制御ループを設計するための様々な可能性がある。1つはPI又はPID制御を使用することであり、もう1つは一定値だけ増加させることである。どちらの場合も、フィードバックは、計算された超音波トランスデューサの位相差、又は、信号周波数と、計算された、少なくとも大まかに計算された、機械的共振周波数との間の計算された差であり得る。どちらの場合も、入力値は、信号周波数が機械共振周波数に一致した、0となる傾向がある。最も簡単なのは、計算された超音波トランスデューサの位相差を単にフィードバックし、比例係数を単に用いて、超音波トランスデューサの位相差を信号周波数と機械的共振周波数との周波数差に移すことであると見出された。そのような比例係数は、シミュレーションにおいて計算又は決定され得るか、又は試験動作中、機械的共振周波数が測定又は推定されるときに、測定によって決定され得る。
【0026】
しかしながら、計算された超音波トランスデューサの位相差に応じて機械的共振周波数の実際の値を計算し、計算された機械的共振周波数に応じて信号周波数を設定する、すなわち信号周波数を機械的共振周波数に設定することも可能であり、一態様として提案される。計算された超音波トランスデューサの位相差は、信号周波数と機械的共振周波数との周波数差と相関し得ることが見出された。信号周波数が既知であるので、交流全体電流信号が生成されると、機械的共振周波数を非常に正確に計算することができる。
【0027】
機械的共振周波数の変動率は高くなく、特に平均機械的共振周波数の10%未満、場合によってはそのような平均機械的共振周波数の5%未満になることが分かった。したがって、計算された超音波トランスデューサの位相差は、機械共振周波数と信号周波数との差にほぼ比例すると仮定することができる。それゆえに、機械的共振周波数は、このように非常に容易かつ非常に正確に計算することができる。
【0028】
一態様によれば、信号係数を、交流全体電流信号のサンプル及び交流機器電圧信号のサンプルに基づいて計算することが提案される。こうして、これらの値を制御サイクル中にサンプリングすることができ、新しい値を計算できるたびに、新しいトランスデューサの位相差を計算でき、それに応じて信号周波数を適合させることができる。
【0029】
このようにして、交流機器電圧信号が測定され、交流全体電流信号も測定され得る。しかしながら、交流全体電流信号は、この方法の一部として、特にそのような電流信号を生成する電気手術用ジェネレータによって生成されるため、単に既知であってもよい。
【0030】
そのようなサンプリング値に基づいて、各サンプル時間に対する超音波トランスデューサの位相差を計算し、更に各サンプル時間における信号周波数を調整する制御サイクルを実施することができる。
【0031】
一態様によれば、信号係数は、対応する信号の第1高調波を特徴付ける。すなわち、主電流成分の2つの信号係数は、主電流成分の第1高調波を特徴付け、交流機器電圧信号の2つの係数は、交流機器電圧信号の第1高調波を特徴付ける。このような係数は、高速フーリエ変換を使用して準連続的に計算することができる。
【0032】
このようにして、各制御サイクルについて、更には各サンプル時間について、主電流成分及び交流機器電圧信号の更新された信号係数を計算することができ、それに基づいて超音波トランスデューサ位相差を計算することができる。
【0033】
このようにして、特定の周波数及び特定の位相角を計算するために通常使用される特定の信号のゼロ交差を観察することを回避する、信頼性の高い計算方法が提供される。
【0034】
一態様によれば、各信号について、すなわち主電流成分及び交流機器電圧信号について、信号係数は、以下の式(1),(2)にしたがって計算された第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1であることが提案される。
【0035】
【0036】
【0037】
ここで、
x[k]は、対応する信号のサンプルであり、
Nは信号当たりのサンプル数であり、
サンプルは、所定の時間間隔及び/又は共振周波数の公称値に対応する1周期の時間間隔について取得される。
【0038】
信号係数を計算するこの方法はまた、対応する信号のサンプル、すなわち電流信号のサンプル及び主電圧信号のサンプルを使用する。変数kは、離散サンプル時間として理解することもでき、k=0からk=N-1までのサンプルは、信号周波数の1周期のサンプルを反映し得る。
【0039】
したがって、交流全体電流信号が生成され、その周波数が既知であるので、信号周波数が周知であることも分かった。したがって、そのような交流信号、すなわち主に正弦波信号の周期も周知である。こうして、信号係数を計算するための前記式は、正確に1つの信号周期のサンプリングされた信号に適用され、この第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1の非常に正確な計算結果をもたらす。
【0040】
当然、2以上の整数信号周期のサンプルを用いることも可能である。
【0041】
完全な信号周期を使用するこのような計算であっても、基礎となる信号周波数は40kHz~50kHzの範囲内にあると予想されるため、高速計算、ひいては高速制御が依然として可能である。信号周波数は、少し高くても、少し低くてもよい。しかしながら、信号周波数がこのように高いため、1信号周期の値をサンプリングするのに必要な時間は約20μsの範囲内である。また、信号周期ごとに電流信号の周波数を変化させればよいため、1信号周期についてサンプルを取得すれば十分であることが見出された。
【0042】
一態様によれば、各信号の信号係数が第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1である場合、各信号の絶対位相差φaは、式φa=atan2(a1,b1)に基づいて計算され、超音波トランスデューサの位相差は、両信号の絶対位相差の差として計算されることが提案される。すなわち、超音波トランスデューサ位相差は、主電流成分と交流機器電圧信号との間の絶対位相差の差として計算される。
【0043】
こうして、良好な結果を提供し、ゼロ交差の観察に依存しない、絶対位相差、ひいては超音波トランスデューサの位相差の非常に適切な計算がもたらされる。そのような計算はまた、対応する信号、すなわち電流信号又は主電圧信号の何らかのノイズ及び他の歪みにも耐性がある。
【0044】
一態様によれば、以下が提案される。
各信号の信号係数が第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1である場合、
超音波トランスデューサの位相差は、超音波トランスデューサの位相差φtが両信号の商a1/b1の差として計算されるように近似によって計算され、特にφtは以下の式を用いて計算される。
φt=a1,i/b1,i-a1,u/b1,u
ここで、
a1,i及びb1,iは、主電流成分の第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1であり、
a1,u及びb1,uは、交流機器電圧信号の第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1である。
【0045】
こうして、超音波トランスデューサの位相差を容易に計算することができ、三角法計算atan2(アークタンジェント)の使用を回避することができる。超音波トランスデューサの位相差、すなわち前出の対応する位相差角は非常に小さく、すなわち30°をはるかに下回ると予想され、そのような近似が実現可能であることが分かった。機械的共振周波数に対する信号周波数の提案された調整によれば、そのような制御によって、信号周波数を機械的共振周波数に良好に一致させ、超音波トランスデューサの位相差を小さくするように対処することが可能であることも見出された。このようにして、提案された近似を使用することができる。
【0046】
超音波トランスデューサの位相差の計算は、信号周波数を機械的共振周波数に対して調整するためのみに必要であることも見出された。したがって、計算された超音波トランスデューサの位相差の誤差は、信号周波数を調整する制御に影響しない、又はそれほど影響しない。特に、超音波トランスデューサ位相差が大きい場合にのみ、誤差が生じることが予想される。しかし、超音波トランスデューサの位相差が大きい場合、信号周波数の調整の誤差は許容可能である。信号周波数が機械的共振周波数にもう少しで一致する場合には、より高い精度が必要とされる。しかしながら、この段階では、近似による誤差も非常に小さくなり、たとえ顕著であったとしても、制御の誤差はかなり小さくなる。
【0047】
一態様によれば、超音波トランスデューサの位相差を計算すること、及び/又は機械的共振周波数に一致するように、若しくは機械的共振周波数に近づくように信号周波数を調整することは、機械的共振周波数の変化を追跡するために定期的に繰り返され、特に、この計算又は調整は、10信号周期あたり少なくとも1回の繰り返し、好ましくは2信号周期あたり少なくとも1回の繰り返し、特に1信号周期あたり1回の繰り返しである、所定の繰り返し周波数で繰り返されることが提案される。
【0048】
この永続的な繰り返しにより、信号周波数を機械的共振周波数に非常に近づけるように制御できることが見出された。超音波トランスデューサの位相差の計算及び/又は信号周波数の調整を繰り返すことにより、超音波トランスデューサ、ひいては対応する電気手術器具をほぼ常に効果的に動作させることができる。
【0049】
機械的共振周波数は、電気手術器具が組織又は他の素材と接触しているか、又はいかなる素材とも接触していないことに依存してもよい。したがって、動作中の電気手術器具のわずかな動きだけで前出の状況が変化する可能性があり、機械的共振周波数も変化する可能性がある。しかしながら、信号周期が約20μsの範囲内にあるため、信号周期ごとに1回の繰り返しで計算及び/又は調整を繰り返すことによって、変化した状況を高速で追跡する。それに比べて、動作中の電気手術器具の手動での移動は、前出の高い繰り返し周波数と比較した場合に非常に遅くなり得る。
【0050】
したがって、そのような状況の変化を十分迅速に追跡して、電気手術器具の良好な動作を維持することができる。上記で説明したように、電気手術器具として使用されるそのような超音波トランスデューサ、ひいてはそのような超音波電気手術器具は、交流全体電流信号及び結果として生じる交流機器電圧信号が機械的共振周波数とほぼ一致する場合にのみ良好に動作する。計算及び/又は調整のこの迅速な繰り返しにより、そのような良好な動作を確保することができる。
【0051】
当然、繰り返し周波数を、10信号周期あたり1回の繰り返し、又はこの10信号周期あたり1回の繰り返しと1信号周期あたり1回の繰り返しとの間の値まで遅くすることも可能である。
【0052】
一態様によれば、各信号の信号係数、特に第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1である信号係数は、電流信号、特に主電流成分のrms値、及び/又は電圧信号のrms値、及び/又は両信号の有効電力値を計算するために使用されることが提案される。したがって、両信号の各rms値及び/又は有効電力値は、電流信号及び/又は電圧信号の第1高調波に基づいて計算される。
【0053】
第1高調波によるこれらの周波数と、超音波トランスデューサ及び/又は超音波電気手術器具である電気手術器具の偏向との間に明確な関係があるため、このことは有利である。したがって、機械的偏向に対応する信号のこの部分は、この偏向を考慮するための特徴的な信号でもある。それゆえに、そのようなrms値及び/又は有効電力値を考慮することによって、考慮される電気信号と機械的挙動との間の最良の関係がもたらされる。
【0054】
一態様によれば、以下が提案される。
交流全体電流信号が主電流成分及び容量電流成分を有し、この容量電流成分は超音波トランスデューサの静電容量に依存し、
主電流成分は、交流全体電流信号、特に超音波トランスデューサの測定された交流全体電流信号から容量電流成分を減算することによって計算され、及び/又は、
第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1は、容量電流成分を計算するために使用され、特に、
容量電流成分iCは、以下の式を用いて静電容量C及び周波数ωについて計算される:
iC=C*ω*a1*cos(ω*t)又はiC=-C*ω*b1*sin(ω*t)。
【0055】
ωには公称機械的共振周波数ω0を用いることができる。これは、説明した全ての式に関連する。
【0056】
このように、全体電流、特に測定された電流は、主電流成分と容量電流成分とを有することが分かった。したがって、基本的に、主電流成分と容量電流成分とが付加的な成分として存在する。この容量電流成分は、超音波トランスデューサの静電容量に依存する。この容量電流成分は、基本的に、簡単に言えば、超音波電気手術器具の機械的運動の駆動には関与しない。
【0057】
しかしながら、そのような容量電流成分は、交流機器電圧信号と交流全体電流信号との間の位相角のずれを生じさせるが、それは信号周波数と機械的共振周波数との間のずれを示すものではない。主電流成分と交流機器電圧信号との間の位相角のずれのみが、信号周波数と機械共振周波数との間のずれを示す。したがって、この容量電流成分から交流全体電流信号がクリアされる。
【0058】
したがって、交流全体電流信号から容量電流成分を減算することにより、主電流成分が算出される。交流全体電流信号を測定することができ、測定された交流全体電流信号を交流全体電流信号として使用することができる。もちろん、特性が周知であり得る交流全体電流信号を生成することによって、交流全体電流信号、すなわち交流全体電流信号を測定する代わりにこれらの特性を使用することができる可能性がある。
【0059】
超音波トランスデューサの既知の静電容量を用いて、容量電流成分を計算することができる。これを行う1つの方法は、第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1を用いることである。それらは、上記で説明したように計算することができる。このように、電流信号の第1高調波のみが基本的に考慮されるが、容量によって生じる位相差に影響を及ぼすのは、基本的にこの第1高調波成分のみであるため、このことは有利である。更に、第1高調波フーリエ三角関数係数を用いることは信頼性があり、信号上のノイズ及び歪みに耐性がある。特に、所与の式は、容量電流成分を計算する簡単な方法を提供する。
【0060】
更なる態様によれば、以下が提案される。
超音波トランスデューサの静電容量を計算するために、
交流全体電流信号は、共振周波数の公称値とは少なくとも最小周波数差だけ異なる試験周波数を有して生成され、交流機器電圧信号を生じさせ、
信号係数は、交流全体電流信号及び結果として生じる、試験周波数を有する交流機器電圧信号に基づいて計算され、
超音波トランスデューサの静電容量は、これらの信号係数に基づいて計算され、特に、
最小周波数差は、少なくとも10kHz、特に少なくとも20kHzである。
【0061】
このように、超音波トランスデューサ、ひいては電気手術器具の機械的振動を駆動する主電流成分は、信号周波数が機械的共振周波数と大きく異なる場合にはあまり支配的ではないことが見出された。少なくとも10kHzの最小周波数差を有することによって達成されるこの場合において、容量は、超音波トランスデューサを介して駆動される交流全体電流信号に影響を及ぼす、基本的に唯一の超音波トランスデューサの特性である。したがって、交流全体電流信号と、結果として生じる交流機器電圧信号との関係によって、静電容量に関する明確な指標が与えられる。
【0062】
少なくとも10kHzの最小周波数を選択することは、機械的共振周波数が約40kHz~50kHzの範囲にあるという理解に基づいている。したがって、この10kHzの最小周波数は有意な周波数差であり、超音波トランスデューサ又は電気手術器具の機械的振動をほとんど誘発しない。最小周波数はまた、少なくとも20kHzとすることもできる。この方法では、周波数は機械的共振周波数から更に離れる。しかしながら、ずれが大きすぎる場合、静電容量の非線形性をもはや無視することができない可能性があるため、試験周波数は少なくとも過度にずれてはならないことに留意されたい。その場合、静電容量の計算に誤差が生じる可能性がある。
【0063】
一態様によれば、以下が提案される。
信号係数を計算するために、特に交流機器電圧信号の信号係数を計算するために、
交流機器電圧信号は、仮想電圧信号を加算することによって修正電圧信号に修正され、
仮想電圧信号は、主電流成分に所定の仮想抵抗を乗算することによって計算され、特に、
主電流成分として、以前に計算された主電流成分が用いられ、
以前に計算された主電流信号は、電圧信号及び主電流信号について以前に計算された信号係数に基づいて計算され、及び/又は、
修正電圧信号は、電圧信号及び主電流信号について以前に計算された信号係数を用いて直接計算され、及び/又は、
修正電圧信号の係数は、電圧信号及び主電流信号について以前に計算された信号係数を用い、所定の仮想抵抗を用いて直接計算される。
【0064】
この態様の基本的な考え方は、測定された電圧信号にしばしば存在するノイズゆえに、測定された電圧が非常に小さい振幅を有し得るということである。したがって、評価又は計算は、信号振幅に関してノイズレベルが高すぎる場合に、安定性の問題などの問題を生じる可能性がある。
【0065】
このような状況は、機器が動作しており、かつ機械的共振周波数又はそれに近い周波数で動作している場合に発生し得ることが分かった。その場合、ノイズを受けていないそのような仮想電圧信号が測定電圧信号に追加され、その結果、ノイズ振幅よりも十分に高い振幅を有する信号が得られる。
【0066】
この追加の仮想電圧信号は、超音波トランスデューサにおける実際の電圧を正確に反映していないため、わずかに異なった位相角を有し、周波数の測定値にわずかな変化をもたらす可能性がある。そのことは、理想的な機械的共振周波数からの周波数の小さなずれをもたらす可能性があるが、そのようなずれは許容可能である。また、周波数の設定が頻繁に繰り返されるため、周波数の理想値付近での変動は小さくなることが見出された。超音波トランスデューサの負荷に応じて理想的な共振周波数も変動し、周波数を非常に頻繁に調整しなければならないため、それは許容可能であることが見出された。
【0067】
しかしながら、周波数が機械的共振周波数に近すぎない場合には、測定された電圧も高く、問題なく測定するのに十分な高さ、すなわちノイズレベルと区別するのに十分な高さであることも見出された。したがって、仮想抵抗は、周波数が機械的共振周波数と同じであるか又は機械的共振周波数に近い場合にのみ仮想電圧信号が有意となるように選択することができる。信号周波数が機械的共振周波数から著しくずれる場合、仮想電圧信号は有意に高くならず、すなわち測定された電圧信号よりも低くなる。
【0068】
したがって、信号周波数が機械的共振周波数から著しくずれる場合、仮想抵抗及び/又は結果として生じる仮想電圧の影響を無視することができ、機械的共振周波数からのずれを高精度に検出することができ、動作点を機械的共振周波数に向かって移動させることができる。
【0069】
好ましくは、仮想電圧信号は、その平均rms値が機械的共振周波数における電圧信号のrms平均値の3から20倍、特に5から10倍になるように選択される。機械的共振周波数における電圧及び対応する主電流成分の既知の平均値に基づいて、仮想抵抗を計算することができる。仮想抵抗は、約100~200オームの範囲内であってもよい。それは経験に基づき選択することもできる。
【0070】
主電流成分を計算するために、以下で更に説明される以下の式(3)を用いることができる。
【0071】
【0072】
しかしながら、それに基づき、以下で更に説明される式(4)を用いて、電圧信号及び主電流信号について以前に計算された信号係数を用いて、修正電圧、すなわち修正電圧信号を直接計算することも可能である。
【0073】
【0074】
このようにして、修正電圧信号であっても、これらの係数を用いるだけで非常に容易に計算することができる。
【0075】
修正及び補償された電圧信号a1,u’及びb1,u’の係数が、電圧信号及び主電流信号について以前に計算された信号係数を用い、また、所定の仮想抵抗を用いて直接計算される態様については、以下でより詳細に説明される以下の関係を使用することができる。
u’(t)⇔a1,u+Rvirt(a1,i-CEω0b1,u),b1,u+Rvirt(b1,i+CEω0a1,u)
【0076】
したがって、a1,u’及びb1,u’は、以下のように計算することができる。
a1,u’=a1,u+Rvirt(a1,i-CEω0b1,u)
b1,u’=b1,u+Rvirt(b1,i+CEω0a1,u)
【0077】
一態様によれば、前述の態様のいずれかによる方法を実行するように適合された、電気手術器具の超音波トランスデューサを制御するための電気手術用ジェネレータも提案される。
【0078】
電気手術用ジェネレータは、コントローラに接続され、コントローラによって駆動されるデジタルコントローラ、例えばFPGA及び増幅器などの任意の対応する制御ユニットを有してもよい。コントローラは、増幅器に送信される計算された周波数を提供することができ、次いで、増幅器は対応する電流信号を生成する。コントローラは、電流と電圧との間の位相差を判定し、その判定に基づいて増幅器を制御する。
【0079】
したがって、説明された態様による任意の方法を、少なくとも部分的に、そのようなコントローラ上のコンピュータプログラムとして実施することができる。
【0080】
電気手術用ジェネレータはまた、増幅器によって生成された交流全体電流信号を測定し、結果として生じる交流機器電圧信号を測定するための電流及び電圧センサを備えてもよい。そのようなセンサは、特に、コントローラ及び/又は増幅器に接続されてもよい。
【0081】
上記で説明したような電気手術用ジェネレータ及び電気手術器具を備えた電気手術設備も提案される。電気手術器具は電気手術用ジェネレータに接続され、電気手術器具は超音波トランスデューサを有してもよい。特に、電気手術用ジェネレータの増幅器は超音波トランスデューサに接続され、超音波トランスデューサに全体電流信号を供給する。
【0082】
本発明は、添付の図面に基づいて例示的により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【
図1】電気手術器具が接続された電気手術用ジェネレータを示す図である。
【
図3】超音波トランスデューサの等価回路を示す図である。
【
図4】一次フーリエ係数を計算することによって再構成された2つのsin信号を示す。
【発明を実施するための形態】
【0084】
図1は、組織104上で動作する電気手術器具102が接続された、電気手術用ジェネレータ100を概略的に示す。
【0085】
電気手術用ジェネレータ100は、制御装置108によって制御される周波数変換器106を備える。動作中の周波数変換器は、その出力110において、取り付けられた電気手術器具102に印加される交流全体電流信号を供給し、機器電圧を生じさせる。機器電圧とは、交流機器電圧信号の簡略化された用語であり、その同義語である。
【0086】
電圧センサ112は電圧信号を測定し、電流センサ114は交流全体電流信号を測定する。これらのセンサ112、114は、更なる考慮のために制御装置108に接続される。
【0087】
制御装置108は、電流センサ114によって提供される電流サンプル値から信号係数を計算する。これに基づいて、制御装置108は周波数変換器106を制御する。こうして、周波数変換器出力において、計算された係数に応じて交流全体電流信号が生成される。
【0088】
電圧センサ112及び/又は電流センサ114を周波数変換器106に直接接続することも可能である。制御装置108が周波数変換器106の一部であることも可能である。
【0089】
図2は、電気手術器具の超音波トランスデューサを制御するための簡略化された制御構造200を示す。この目的のために、
図2は、超音波トランスデューサを有するそのような電気手術器具202を概略的に示す。電気手術器具202、ひいてはその超音波トランスデューサは、増幅器204に接続されている。増幅器204は、
図1の周波数変換器106と同一であってもよく、又は同様であってもよく、又はそのような周波数変換器の一部であってもよい。
【0090】
増幅器204は、電気手術器具202の超音波トランスデューサ206へ全体電流imを供給する。全体電流とは、交流全体電流信号の簡略化された用語であり、その同義語である。この全体電流imを供給して超音波トランスデューサ206を駆動することにより、機器電圧umが生じる。全体電流im、したがって機器電圧umは信号周波数fを有する。超音波トランスデューサ206は、この信号周波数fが超音波トランスデューサ206の機械的共振周波数と一致するときに最もよく機能する。それを確実にするために、全体電流im及び機器電圧umは、電圧センサ208及び電流センサ210を用いて測定される。こうして、機器電圧um及び全体電流imが測定される。簡略化のため、全体電流及びその測定値は同じであり、機器電圧及びその測定値も同じであると仮定する。
【0091】
測定された機器電圧umは、電圧信号の第1高調波フーリエ三角関数係数a1,u及びb1,uを計算する電圧フーリエ変換ブロック212に供給される。同様に、測定された全体電流imは、電流信号の第1高調波三角関数係数a1,i及びb1,iを計算する電流フーリエ変換ブロック214に供給される。
【0092】
したがって、測定された全体電流imの第1高調波フーリエ三角関数係数a1,i及びb1,iは、全体電流imを表す。しかしながら、機械的共振周波数fRからの信号周波数fのずれを特定することに関連する、位相差φの計算のために、全体電流imを容量電流成分によってクリアすることができる。この容量電流成分は、測定された機器電圧umの第1高調波フーリエ三角関数係数 a1,u及びb1,uを用い、超音波トランスデューサ206の既知の静電容量Cを用いて計算することができる。超音波トランスデューサ206の静電容量Cが既知でない場合は上記で説明したように測定することができるが、既知であってもよい。
【0093】
しかしながら、この第1高調波三角関数係数 a1,u及びb1,uと全体電流imをトランスデューサ206の既知の静電容量Cとに基づいて、全体電流imの容量電流成分を計算し、全体電流imから減算することができる。
【0094】
この計算は修正ブロック216で行われる。したがって、修正ブロック216は、測定された機器電圧umの第1高調波三角関数係数 a1,u及びb1,uを受け取り、電流信号の第1高調波フーリエ三角関数係数 a1,i及びb1,I 並びに超音波トランスデューサ206の静電容量Cも受け取る。
【0095】
その容量電流成分から全体電流imをクリアするための1つの可能性は、これらの第1高調波三角関数係数を用いることである。基本的な考え方は、電流全体の第1高調波のみ、及び機器電圧の第1高調波のみを考慮することである。なぜならそれのみが信号周波数fを設定することに関連し、それのみが容量電流成分を考慮することに関連するからである。したがって、全体電流imの全部を使用するのではなく、第1高調波のみを使用することで、全体電流及び機器電圧の、対応する第1高調波の係数のみを考慮することが可能である。これは修正ブロック216で行われ、第1高調波フーリエ三角関数係数 a1,i及びb1,Iをa’1,i及びb’1,iに修正するだけで容量電流成分を減算できることも分かった。
【0096】
したがって、全体電流imは、容量電流成分を減算することによって容量電流成分からクリアされ、その結果が残りの主電流成分である。したがって、この主電流成分の第1高調波は、修正された第1高調波フーリエ三角関数係数a’1,i及びb’1,iによって説明される。
【0097】
したがって、主電流成分と機器電圧との間の位相差を計算するために、対応する係数a’1,i及びb’1,i並びにa1,u及びb1,uが位相差計算ブロック218に提供される。こうして、この位相差計算ブロック218で位相差φが計算され、この計算された位相差φが周波数調整ブロック220に入力される。周波数調整ブロック220はまた、実際の信号周波数である信号周波数fを受け取り、計算された位相差φがゼロ又は関連する閾値未満である場合、小さいオフセットΔfを加算するか、又はそのような小さいオフセットΔfを減算するか、又は信号周波数fを変更しないままとする。
【0098】
したがって、周波数調整ブロック220の結果は、調整周波数faである。この調整周波数faが増幅器204に与えられ、増幅器204は、この調整周波数faを新たな信号周波数fとする。これにより、増幅器204は、この信号周波数fを有する全体電流imを生成して出力する。こうして、この全体電流imは電気手術器具202に供給され、上述したように機器電圧umが生じる。全体電流im及び機器電圧umのこれらの新しい値によって、次の制御サイクルを開始することができる。
【0099】
図3は、超音波トランスデューサの等価回路を示し、いわゆる機械的静電容量CM、機械的インダクタンスLM及び機械的抵抗RMによってもたらされる機械的直列共振回路を示す。これらの3つの要素は、これらの要素が超音波トランスデューサの機械的挙動に依存する限り、超音波トランスデューサの電気的挙動を表す。
【0100】
並行して、超音波トランスデューサの機械的挙動に依存しない、この超音波トランスデューサの容量的挙動を表す静電容量CEが存在する。
【0101】
したがって、この等価回路300は、動作中、超音波トランスデューサに駆動され、容量電流iC及び主電流成分i’に分割される、全体電流imの成分を説明する。等価回路300はまた、機器電圧umも示す。
【0102】
図4は、異なる位相角を有する、すなわち互いに対して位相差を有する2つのsin信号のグラフを示す。両方のsin信号はホワイトノイズを含み、両方のsin信号について第1高調波が計算され、第1高調波フーリエ三角関数係数a
1及びb
1を用いて再構成される。得られたsin信号A及びBを
図4に示す。このように、2つの信号A及びBは、それらの第1高調波フーリエ三角関数係数a
1及びb
1によってそれぞれ与えられ、上記で説明し以下で更に説明するようにatan2関数を使用して、それらのフーリエ係数を、信号AとBとの間の実際の位相差に変換することができる。
【0103】
本発明をよりよく理解するのに役立つ更なる態様及び説明を以下に示す。
【0104】
関連信号間の位相差、すなわち電圧と電流との間の位相差は、信号の第1高調波を自動的に抽出するためローパスフィルタリングを必要としない強固なアルゴリズムを用いて、デジタル領域で判定できることが分かった。この考え方は、以下の式(5),(6)にしたがって電流及び電圧の第1高調波フーリエ三角関数係数a1及びb1を計算することである。
【0105】
【0106】
【0107】
ここで、x[k]は電流/電圧サンプルであり、sin(2πk/N)は増幅器によって用いられ、数値制御発振器(NCO)を介して生成される基準信号に等しい。cos関数のサンプルは、同じNCOで効率的に生成することができる。
【0108】
次いで、信号の相対位相差をatan2(a1,b1)として計算することができる。
【0109】
合計で4つの係数を計算する必要があり、以下に示す通り、2つは測定電流imeas(t)であり、2つは測定電圧umeas(t)である。
imeas(t)⇔a1,i,b1,i
umeas(t)⇔a1,u,b1,u
【0110】
したがって、電圧と電流との間の位相差はatan2(a1,u,b1,u)-atan2(a1,i,b1,i)である。2つのatan2関数を別々に計算することもでき、あるいは、atan2減法定理を使用して計算を以下の単一のatan2関数に減じてもよい。
atan2(a1,u,b1,u)-atan2(a1,i,b1,i)=atan2(a1,ub1,i-a1,ib1,u,b1,ub1,i+a1,ua1,i)
【0111】
atan2関数は、CORDICアルゴリズムを用い、デジタル論理で効率的に計算することができるが、位相同期回路(PLL)は常に位相差を0近くにするため、atan2関数は、以下の式(7)のように、φ=0で関数を線形化することによって、除法に減ずることができる。
【0112】
【0113】
典型的には、超音波インバータが電圧、電流及び電力の制限を実施する。サイドキャッチとして、計算されたフーリエ係数を、以下の式(8),(9)にしたがってRMS電流/電圧及び有効電力に直接変換することができる。
【0114】
【0115】
【0116】
更なる改善が以下のように提案される。
【0117】
以下の改善は、基本的に位相差検出アルゴリズムとは無関係であるが、上述のフーリエ係数ベースのアルゴリズムを使用する場合に非常に効率的に実施することができる。
【0118】
電気トランスデューサの静電容量の補償は、以下のように行うことができる。
【0119】
機器を通る電流は、「機械的」部分として表すことができる主電流成分と、静電容量を流れる「容量」部分又は容量電流として表すことができる容量成分とからなる。この容量電流は、2つの理由で補償されるべきである。第1に、電圧と「機械的」電流との間の位相差を計算しなければならないためである。第2に、超音波増幅器は、通常、一定の「機械的」電流モードで動作するためである。
【0120】
電流は、測定された電圧の導関数に、機器の静電容量を乗じたものに等しい、静電容量を通る電流を減算することによって補償することができる。これは、i’(t)を主電流成分、すなわち容量部分のない電流とし、imeas(t)を全体電流とし、umeas(t)を機器電圧とし、iC(t)を容量電流成分とする以下の式(10)で表される。
【0121】
【0122】
時間領域で導関数を計算すること、すなわち時間領域で微分することは、ノイズに非常に敏感である。代わりに、フーリエ係数を使用して周波数領域で微分することができる。
【0123】
imeas(t)/umeas(t)の第1高調波フーリエ係数がa1,i,b1,i及びa1,u,b1,u,によって与えられる場合、電流及び電圧は、フーリエ級数を説明する式によって説明することができる。
imeas(t)=a1,i・cos(ω0t)+b1,i・sin(ω0t)+残差
umeas(t)=a1,u・cos(ω0t)+b1,u・sin(ω0t)+残差
【0124】
残差は更なる高調波を表し、考慮されるのは第1高調波のみであるため、残差は無視することができる。したがって、前記式は以下の式(11),(12)のように書くことができる。
【0125】
【0126】
【0127】
これに基づいて、係数は以下に考慮され、上記の式が考慮の基礎となっていることを示唆する。こうして、この関係は以下のように記号化及び説明することができ、二重矢印は、右辺の係数が上記のように、対応する式で使用されることを示す。
imeas(t)⇔a1,i,b1,i
umeas(t)⇔a1,u,b1,u
【0128】
これに基づいて、電圧導関数のフーリエ係数は、フーリエ級数(上記参照)の特性を用いて以下の式(13)~(15)のように計算することができる。
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
時間領域における微分は、周波数領域における乗算となっている。更なる考慮には、変更した係数を用いるだけで十分であり得るので、最後の式は、単に明確にする目的のものである。
【0133】
したがって、上述の容量電流成分の補償には、機械的共振周波数における静電容量アドミタンスの大きさに等しい係数CEω0(CE*ω0)が必要である。静電容量が未知である場合、それは、機器を共振から外して駆動し、以下の式(16)の通り計算することによって測定することができる。
【0134】
【0135】
すなわち、実際の機械的共振周波数と測定周波数との比によって計測された、機器の測定周波数における測定アドミタンスである。
【0136】
更なる提案は、仮想機器負荷を用いることである。
【0137】
機器の機械的負荷が低い場合、電圧の振幅は非常に小さくなり得る。これにより、電圧と電流との間の位相差を判断することが困難になり得る。アルゴリズムをより強固にするために、(補償された)電流に比例する仮想電圧を測定電圧に加えることによって、機器に仮想抵抗を加えることができる。こうして、仮想抵抗Rvirtを考慮した修正電圧u’(t)が得られる。
u’(t)=umeas(t)+Rvirt・i’(t)
【0138】
これもまた、周波数領域において非常に容易に実現することができる。上記の定義を使用して、
imeas(t)⇔a1,i,b1,i
umeas(t)⇔a1,u,b1,u
i’(t)⇔a1,i-CEω0b1,u,b1,i+CEω0a1,u
修正された(補償された)電圧のフーリエ係数:
u’(t)⇔a1,u+Rvirt(a1,i-CEω0b1,u),b1,u+Rvirt(b1,i+CEω0a1,u)
すなわち、以下の式(17)となる。
【0139】
【0140】
「ほぼ等しい」(approximately equal)は、更なる高調波が無視されることを示す。
【符号の説明】
【0141】
100 電気手術用ジェネレータ
102 電気手術器具
104 組織
106 周波数変換器
108 制御装置
110 出力
112 電圧センサ
114 電流センサ
200 制御構造
202 電気手術器具
204 増幅器
206 超音波トランスデューサ
208 電圧センサ
210 電流センサ
212 電圧フーリエ変換ブロック
214 電流フーリエ変換ブロック
216 修正ブロック
218 位相差計算ブロック
220 周波数調整ブロック
300 等価回路