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特開2025-15483二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを用いた幹細胞の培養方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025015483
(43)【公開日】2025-01-30
(54)【発明の名称】二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを用いた幹細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20250123BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20250123BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20250123BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12M1/00 C
C12M3/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024114381
(22)【出願日】2024-07-17
(31)【優先権主張番号】112126994
(32)【優先日】2023-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】202410196600.3
(32)【優先日】2024-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】522312366
【氏名又は名称】何鈞軒
【氏名又は名称原語表記】HO,CHUN-HSUAN
【住所又は居所原語表記】5F.,NO.133,SEC.1,DA-AN RD.,DA-AN DIST.,TAIPEI CITY 10685,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100122448
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】何鈞軒
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA21
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC13
4B065AA90X
4B065BC01
4B065BC46
(57)【要約】      (修正有)
【課題】構造強度が向上し、長期且つ安定的な内容物の放出が可能なゲルを用い、培養効率を向上させた幹細胞の培養方法を提供する。
【解決手段】二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、内層ポリマーを内層架橋物によってイオン架橋して得られた内層ゲル構造と、外層モノマーを外層架橋物によって共有結合的に架橋重合して得られ、内層ゲル構造を被覆する外層ゲル構造と、を含み、第1の内層ポリマーはアルギン酸ナトリウムであり、第2の内層ポリマーはカルボキシメチルセルロースであり、栄養成分は、内層ゲル構造の内部に位置する。二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの組成、アルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースの重量比及び栄養成分の位置を制御することで、幹細胞の成長速度を向上させる。カルボキシメチルセルロースの重量パーセントを制御することで、構造強度を確保することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及び栄養成分を提供する工程と、
前記幹細胞、前記二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及び前記栄養成分を混合し、ゲル化培地を得る工程と、
培養液を前記ゲル化培地に添加する工程と、
を含み、
前記二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、
内層ポリマーを内層架橋物によってイオン架橋して得られた内層ゲル構造と、
外層モノマーを外層架橋物によって共有結合的に架橋重合して得られ、前記内層ゲル構造を被覆する外層ゲル構造と、
を含み、
前記内層ポリマーは、第1の内層ポリマー及び第2の内層ポリマーを含み、前記第1の内層ポリマーはアルギン酸ナトリウムであり、前記第2の内層ポリマーはカルボキシメチルセルロースであり、前記アルギン酸ナトリウムと前記カルボキシメチルセルロースとの重量比は3:2であり、前記内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、前記カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、1%よりも大きく、
前記栄養成分は、前記内層ゲル構造の内部に位置する、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを用いた幹細胞の培養方法。
【請求項2】
前記幹細胞は、胚性幹細胞、造血幹細胞、乳腺幹細胞、間葉系幹細胞、内皮幹細胞、神経幹細胞、嗅覚幹細胞、脂肪幹細胞又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記内層ゲル構造は、互いに接続されて複数の内層孔で互いに隔てられる複数の内層シート状構造となり、
前記外層ゲル構造は、互いに接続されて各前記内層孔の孔径よりも小さい孔径を有する複数の外層孔で互いに隔てられる複数の外層シート状構造となる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記内層ゲル構造は、前記第1の内層ポリマーと前記第2の内層ポリマーとの相互貫入構造となる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記内層ポリマーと前記内層架橋物とは、互いに反対の電気特性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記外層モノマーは、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記外層架橋物は、N,N’-メチレンビスアクリルアミドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、前記アルギン酸ナトリウムの重量パーセントは、0.1%~5%である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、前記カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、1%~5%である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記栄養成分は、成長因子、ビタミンA酸、ペニシリン、ウシ血清アルブミン又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
幹細胞、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及び分子量が少なくとも500グラム/モルよりも大きい高分子タンパク質を含む栄養成分を提供する工程と、
前記幹細胞、前記二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及び前記栄養成分を混合し、ゲル化培地を得る工程と、
培養液を前記ゲル化培地に添加する工程と、
を含み、
前記二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、
内層ポリマーを内層架橋物によってイオン架橋して得られた内層ゲル構造と、
外層モノマーを外層架橋物によって共有結合的に架橋重合して得られ、前記内層ゲル構造を被覆する外層ゲル構造と、
を含み、
前記内層ポリマーは、第1の内層ポリマー及び第2の内層ポリマーを含み、前記第1の内層ポリマーはアルギン酸ナトリウムであり、前記第2の内層ポリマーはカルボキシメチルセルロースであり、前記アルギン酸ナトリウムと前記カルボキシメチルセルロースとの重量比は3:2であり、
前記栄養成分は、前記内層ゲル構造の内部に位置する、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを用いた幹細胞の培養方法。
【請求項12】
前記幹細胞は、胚性幹細胞、造血幹細胞、乳腺幹細胞、間葉系幹細胞、内皮幹細胞、神経幹細胞、嗅覚幹細胞、脂肪幹細胞又はそれらの組み合わせを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記内層ゲル構造は、互いに接続されて複数の内層孔で互いに隔てられる複数の内層シート状構造となり、
前記外層ゲル構造は、互いに接続されて各前記内層孔の孔径よりも小さい孔径を有する複数の外層孔で互いに隔てられる複数の外層シート状構造となる、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記内層ゲル構造は、前記第1の内層ポリマーと前記第2の内層ポリマーとの相互貫入構造となる、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記内層ポリマーと前記内層架橋物とは、互いに反対の電気特性を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記外層モノマーは、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド又はそれらの組み合わせを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記外層架橋物は、N,N’-メチレンビスアクリルアミドを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、前記アルギン酸ナトリウムの重量パーセントは、0.1%~5%である、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
前記内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、前記カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、1%よりも大きい、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
前記内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、前記カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、1%~5%である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示内容は、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及びその製造方法並びに使用に関し、特に、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを幹細胞の培養に使用する用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルは、担持された内容物を放出し、放出を遅延させる特性を有し、薬物放出の分野で広く適用されている。しかしながら、従来のゲルは、崩壊しやすく、構造強度が不足である制限があり、長期且つ安定的な内容物の放出を提供することが困難である。従って、ゲルを幹細胞の培養に用いる場合、幹細胞の培養効率に制限がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、幹細胞の培養効率を向上させるために、構造強度が向上し、放出時間が延長されたゲルを如何に提供できるかが、解決すべき問題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示内容の幾つかの実施形態において、幹細胞、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及び栄養成分を提供する工程と、幹細胞、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及び栄養成分を混合し、ゲル化培地を得る工程と、培養液をゲル化培地に添加する工程と、を備え、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、内層ポリマーを内層架橋物によってイオン架橋して得られた内層ゲル構造と、外層モノマーを外層架橋物によって共有結合的に架橋重合して得られ、内層ゲル構造を被覆する外層ゲル構造と、を含み、内層ポリマーは、第1の内層ポリマー及び第2の内層ポリマーを含み、第1の内層ポリマーはアルギン酸ナトリウムであり、第2の内層ポリマーはカルボキシメチルセルロースであり、アルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースとの重量比は3:2であり、内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、1%よりも大きく、栄養成分は、内層ゲル構造の内部に位置する二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを用いた幹細胞の培養方法を提供する。
【0005】
幾つかの実施形態において、幹細胞は、胚性幹細胞、造血幹細胞、乳腺幹細胞、間葉系幹細胞、内皮幹細胞、神経幹細胞、嗅覚幹細胞、脂肪幹細胞又はそれらの組み合わせを含む。
【0006】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造は、互いに接続されて複数の内層孔で互いに隔てられる複数の内層シート状構造となり、外層ゲル構造は、互いに接続されて各内層孔の孔径よりも小さい孔径を有する複数の外層孔で互いに隔てられる複数の外層シート状構造となる。
【0007】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造は、第1の内層ポリマーと第2の内層ポリマーとの相互貫入構造となる。
【0008】
幾つかの実施形態において、内層ポリマーと内層架橋物とは、互いに反対の電気特性を有する。
【0009】
幾つかの実施形態において、外層モノマーは、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド又はそれらの組み合わせを含む。
【0010】
幾つかの実施形態において、外層架橋物は、N,N’-メチレンビスアクリルアミドを含む。
【0011】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、アルギン酸ナトリウムの重量パーセントは、0.1%~5%である。
【0012】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、1%~5%である。
【0013】
幾つかの実施形態において、栄養成分は、成長因子、ビタミンA酸、ペニシリン、ウシ血清アルブミン又はそれらの組み合わせを含む。
【0014】
本開示内容の幾つかの実施形態において、幹細胞、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及び分子量が少なくとも500グラム/モルよりも大きい高分子タンパク質を含む栄養成分を提供する工程と、幹細胞、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及び栄養成分を混合し、ゲル化培地を得る工程と、培養液をゲル化培地に添加する工程と、を備え、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、内層ポリマーを内層架橋物によってイオン架橋して得られた内層ゲル構造と、外層モノマーを外層架橋物によって共有結合的に架橋重合して得られ、内層ゲル構造を被覆する外層ゲル構造と、を含み、内層ポリマーは、第1の内層ポリマー及び第2の内層ポリマーを含み、第1の内層ポリマーはアルギン酸ナトリウムであり、第2の内層ポリマーはカルボキシメチルセルロースであり、アルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースとの重量比は3:2であり、栄養成分は、内層ゲル構造の内部に位置することを特徴とする二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを用いた幹細胞の培養方法を提供する。
【0015】
幾つかの実施形態において、幹細胞は、胚性幹細胞、造血幹細胞、乳腺幹細胞、間葉系幹細胞、内皮幹細胞、神経幹細胞、嗅覚幹細胞、脂肪幹細胞又はそれらの組み合わせを含む。
【0016】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造は、互いに接続されて複数の内層孔で互いに隔てられる複数の内層シート状構造となり、外層ゲル構造は、互いに接続されて各内層孔の孔径よりも小さい孔径を有する複数の外層孔で互いに隔てられる複数の外層シート状構造となる。
【0017】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造は、第1の内層ポリマーと第2の内層ポリマーとの相互貫入構造となる。
【0018】
幾つかの実施形態において、内層ポリマーと内層架橋物とは、互いに反対の電気特性を有する。
【0019】
幾つかの実施形態において、外層モノマーは、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド又はそれらの組み合わせを含む。
【0020】
幾つかの実施形態において、外層架橋物は、N,N’-メチレンビスアクリルアミドを含む。
【0021】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、アルギン酸ナトリウムの重量パーセントは、0.1%~5%である。
【0022】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、1%よりも大きい。
【0023】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、1%~5%である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
下記の添付図面についての説明は、本発明の上記及び他の目的、特徴、メリットと実施例をより分かりやすくするためのものである。
図1】本開示内容の幾つかの実施形態におけるポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)とポリ(エチレングリコール)のABA型トリブロックコポリマー(ABA type triblock copolymer of poly(ε-caprolactone-co-glycolide)and poly(ethylene glycol;Tri-PCG)がリン酸緩衝生理食塩水に保存された時の、濃度と温度の変化に対応するゲル状態変化図を示す。
図2】本開示内容の幾つかの実施形態における二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの電子顕微鏡画像を示し、最上行のa~cはSA-CMC@PDMA-1群であり、2行目のd~fはSA-CMC@PDMA-3群であり、最下行のg~iはSA-CMC@PAA-1群である。
図3A】異なる内層ゲル構造の吸水膨張特性を示す。
図3B】ゲル構造の異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの吸水膨張特性を示す。
図4A】ゲル構造の異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアのそれぞれの異なるpH値での内容物の経時的な累積放出率を示す。
図4B】ゲル構造の異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアのそれぞれの異なるpH値での内容物の経時的な累積放出率を示す。
図5A】ゲル構造の異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアのそれぞれの異なるpH値での内容物の経時的な累積放出率を示す。
図5B】ゲル構造の異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアのそれぞれの異なるpH値での内容物の経時的な累積放出率を示す。
図6A】ゲル構造の異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアのそれぞれの異なるpH値での内容物の経時的な累積放出率を示す。
図6B】ゲル構造の異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアのそれぞれの異なるpH値での内容物の経時的な累積放出率を示す。
図7】重量パーセントの異なるアルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースを有するゲル構造の粘度と温度との関係図を示す。
図8A】アルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースの重量比の異なるゲル構造を用いて脂肪幹細胞を培養する場合の、脂肪幹細胞におけるリポタンパク質リパーゼ(lipoproteinlipase;LPL)及びグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase;GAPDH)に対応するmRNA発現比を示す。
図8B】アルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースの重量比の異なるゲル構造を用いて脂肪幹細胞を培養し、脂肪幹細胞を赤紫色に染色した後の、顕微鏡視野での細胞成長状態図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の叙述を詳しく完備にさせるために、以下、本発明の実施形態と具体的な実施例を詳しく説明するが、本発明の具体的な実施例を実施又は適用する唯一な形態ではない。以下、開示される各実施例は、有益な場合では組合せ又は取り替えることができ、更なる記載又は説明を必要せずに、一つの実施例に他の実施例を付加することができる。以下の説明では、読者が以下の実施例を十分に理解できるように数多くの特定の詳細を記述する。しかしながら、前記特定の詳細がない場合は、本発明の実施例を実施してもよい。
【0026】
本文では、特に限定されていない限り、「一つの」及び「上記」は一般に一つとそれ以上を指す。本明細書で使用される用語「含む」、「含まれ」、「有する」及び同様の言葉は、記載される特徴、領域、整数、工程、操作、素子及び/又は構成要素を示すが、他の特徴、領域、整数、工程、操作、素子、構成要素、及び/又はそれらの群を除外することではないと理解されるべきである。
【0027】
本明細書において、「約」という用語は、所定の量の値がその値の5%以内(例えば、値の±1%、±2%、±3%、±4%、5%)で変化することを意味する。これらの値は単なる例であり、限定することを意図するものではない。「約」という用語は、当業者によって本明細書の教示に鑑みて解釈する所定の量の値のパーセントを意味してよいことを理解すべきである。
【0028】
本明細書において、特に断りのない限り、「%」は、重量パーセント(wt%)として予め設定される。
【0029】
以下、一連の操作又は工程を用いてここで開示される方法を説明するが、これらの操作又は工程に示される順序は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。例えば、一部の操作又は工程は、異なる順序で行ってもよく、及び/又は他の工程と同時に行ってもよい。また、本発明の実施形態を実現するために、全ての操作、工程及び/又は特徴を実行する必要があるわけではない。更に、ここに記載の各操作又は工程は、複数のサブ工程又は動作を含んでよい。
【0030】
本開示内容の幾つかの実施形態は、内層ゲル構造及び外層ゲル構造を含む二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを提供する。内層ゲル構造は、内層ポリマーを内層架橋物によってイオン架橋して得られる。外層ゲル構造は、外層モノマーを外層架橋物によって共有結合的に架橋重合して得られ、内層ゲル構造を被覆する。
【0031】
二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの内層ゲル構造は、イオン架橋構造であり、構造が環境のpH値から影響を受けやすく、又は吸水膨張によりイオン力が弱くなって崩壊するという制限が存在する。本開示内容における共有結合した外層ゲル構造は、内層ゲル構造に対して物理的支持を提供し、内層ゲル構造が不安定になるという問題を回避し、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの構造強度を向上させることができる。また、外層ゲル構造は、バリア層とされてもよく、担持された内容物(例えば、栄養分子)の放出時間を更に遅延させ、バースト放出現象を減らし、担持された内容物を長期にわたって安定的に放出することができる。
【0032】
幾つかの実施形態において、外層ゲル構造は、多孔質膜状となり、内層ゲル構造を包むように内層ゲル構造を覆い、その厚さが内層ゲル構造よりも小さく、外層ゲル構造と内層ゲル構造の間に、互いに引き合うファンデルワールス力が存在するが、共有結合が存在しない。
【0033】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造は、互いに接続されて複数の内層孔で互いに隔てられる複数の内層シート状構造となり、外層ゲル構造は、互いに接続されて各内層孔の孔径よりも小さい孔径を有する複数の外層孔で互いに隔てられる複数の外層シート状構造となる。内層ゲル構造と外層ゲル構造との孔径の差により、外層ゲル構造に良好な構造強度を持たせることができ、且つ外層ゲル構造の小孔径の設計によって、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアに良好な内容物徐放効果を付与する。
【0034】
幾つかの実施形態において、横断面視において、各内層シート状構造(又は外層シート状構造)は、円弧形となり、それらの間が凹面で対向することで、内層孔(又は外層孔)が定義される。幾つかの実施形態において、内層孔の孔径は、内層孔の対向する両側に位置する2つの内層シート状構造の間の最長垂直距離を表す。外層孔の孔径は、外層孔の対向する両側に位置する2つの外層シート状構造の間の最長垂直距離を表す。幾つかの実施形態において、内層孔の孔径は、250ミクロン~1000ミクロン、例えば、250ミクロン、500ミクロン、750ミクロン、1000ミクロン又は前述した区間内の数値である。幾つかの実施形態において、外層孔の孔径は、50ミクロン~500ミクロン、例えば、50ミクロン、100ミクロン、150ミクロン、200ミクロン、250ミクロン、300ミクロン、350ミクロン、400ミクロン、450ミクロン、500ミクロン又は前述した区間内の数値である。孔径が大き過ぎると、構造が不安定になり、内容物の放出速度が速過ぎ、徐放を実現できないが、孔径が小さ過ぎると、担持された内容物を過度に遮断し、内容物の安定的且つ長期的な放出を実現することが困難である。
【0035】
幾つかの実施形態において、外層ゲル構造の厚さは、25ミクロン~1000ミクロンの間、例えば25ミクロン、50ミクロン、100ミクロン、200ミクロン、300ミクロン、400ミクロン、500ミクロン、600ミクロン、700ミクロン、800ミクロン、900ミクロン、1000ミクロン又は前述した区間内の数値であり、厚さが厚過ぎると、担持された内容物の放出速度が遅過ぎ、厚さが薄過ぎると、担持された内容物の放出速度が速過ぎ、且つ構造強度が不足する。厚さの増加につれて、内容物(例えば、脂溶性小分子(分子量が500グラム/モルよりも小さく、非極性溶媒での溶解度が0.1マイクログラム/1グラムよりも大きい)又は高分子タンパク質(分子量が少なくとも500グラム/モルよりも大きい))の放出を遅延させることができることが理解可能である。
【0036】
幾つかの実施形態において、内層ポリマーは、第1の内層ポリマー及び第2の内層ポリマーを含み、内層ゲル構造は、第1の内層ポリマーと第2の内層ポリマーとの相互貫入構造(つまり、第1の内層ポリマーと第2の内層ポリマーのポリマー鎖が互いに交差している)となり、相互貫入構造の設計により、良好な支持性を提供し、内層ゲル構造の構造強度を安定させることができる。
【0037】
幾つかの実施形態において、内層ポリマーと内層架橋物とは、互いに反対の電気特性を有し、例えば、内層ポリマーは負に帯電し、内層架橋物は正に帯電し、内層架橋物と内層ポリマーは、正電荷と負電荷の間に形成されるイオン結合によって架橋され、内層ゲル構造を形成し、又は内層ポリマーは正に帯電し、内層架橋物は負に帯電する。内層ポリマーが異なるpH値で異なる解離度を有する場合、イオン結合により架橋された内層ゲル構造は、pH感受性を有し、pH値の変化によってイオン結合の強さが変化し、それによって内層ゲル構造が変化する。
【0038】
幾つかの実施形態において、第1の内層ポリマーがアルギン酸ナトリウム(sodium alginate;SA)である場合、第2の内層ポリマーはカルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)である。アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースを選択して使用することで、保存・調製しやすく、安全で毒性がなく、常温でゲルを形成でき、人体に吸収されやすいなどの利点を有する。また、アルギン酸ナトリウムのみを使用する場合と比べ、アルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースの組み合わせは、内層ゲル構造の粘度と構造強度を向上させることができ、且つアルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースの配合割合を調整することで、内層孔の孔径を調整し、内層ゲル構造の選択に際してより高い柔軟性を提供する。また、アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースを選択して使用する場合、アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースがカルボキシ基を有し、酸性環境で遊離しにくいため、内層ゲル構造により形成された内層ゲル構造が比較的緻密であり、塩基性環境で遊離性が高いため、内層ゲル構造が比較的緩い。
【0039】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、アルギン酸ナトリウムの重量パーセントは、0.1%~5%、例えば0.1%、0.25%、0.5%、0.75%、1%、1.25%、1.5%、1.75%、2%、2.25%、2.5%、2.75%、3%、3.25%、3.5%、3.75%、4%、4.25%、4.5%、4.75%、5%、又は前述した区間内の数値である。カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、0.1%~5%、例えば0.1%、0.25%、0.5%、0.75%、1%、1.25%、1.5%、1.75%、2%、2.25%、2.5%、2.75%、3%、3.25%、3.5%、3.75%、4%、4.25%、4.5%、4.75%、5%、又は前述した区間内の数値である。両者とも高過ぎると、内層ゲル構造が緻密になり過ぎ、内層ゲル構造の放出効率が限られ、両者とも低過ぎると、コロイド構造が緩くて安定せず、又はゲルを形成できない。また、アルギン酸ナトリウムの重量パーセントの増加及びカルボキシメチルセルロースの重量パーセントの低下に伴い、内層孔の孔径は増加するようになり、内層ゲル構造の吸水時の膨張率及び内容物の放出効率を向上させ、逆に、アルギン酸ナトリウムの重量パーセントの低下及びカルボキシメチルセルロースの重量パーセントの増加に伴い、内層孔の孔径は縮小するようになり、内層ゲル構造の膨張率及び放出効率を低下させる(例えば、高分子タンパク質の放出を低減させる)。
【0040】
幾つかの実施形態において、第1の内層ポリマーがポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーである場合、第2の内層ポリマーは、アシル基を有するポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーの誘導体である。一実施形態において、ポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーは、ポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)とポリ(エチレングリコール)のABA型トリブロックコポリマー(Tri-PCG)を含み、且つアシル基がアクリレート基であるため、アシル基を有するポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーの誘導体は、アクリレート基を有するポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマー(Tri-PCG-acryl)である。なお、Tri-PCG及びTri-PCG-acrylを選択して使用した内層ゲル構造では、人体の適用温度区間内に、温度の変化に応じてコロイド性質を変化させ(例えば、25℃~37℃で溶液からコロイドに変換する)、内層ゲル構造の粘性及び放出能力を変化させることができ、且つ構造が比較的安定して崩壊しにくい。幾つかの実施形態において、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、内層ゲル構造に存在する内層補助分子(例えば、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)(dipentaerythritolhexakis(3-mercaptopropionate);DPMP)を更に含み、温度が徐々に上昇するにつれて、DPMPは、Tri-PCG-acrylと共有結合構造を形成し、コロイド性質を強化し、内層ゲル構造の温度感受性を向上させることができる。
【0041】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、Tri-PCG及びTri-PCG-acrylの重量パーセントの合計は、15%~30%、例えば15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、又は前述した区間内の数値である。重量パーセントが高過ぎると、内層ゲル構造が緻密になり過ぎ、内層ゲル構造の放出効率が限られ、重量パーセントが低く過ぎると、コロイド構造が緩くて安定せず、又はゲルを形成できない。
【0042】
幾つかの実施形態において、内層ポリマーが負に帯電している場合、内層架橋物は、内層ポリマーと架橋可能なカルシウムイオン(Ca2+)を含む。他の内層架橋物に対して、カルシウムイオンは、入手しやすく、コストが低く、環境に対する危害が低いなどの利点を有する。
【0043】
幾つかの実施形態において、外層モノマーは、N,N-ジメチルアクリルアミド(N,N-dimethylacrylamide;DMAA)、アクリルアミド(acrylamide;AA)又はそれらの組み合わせを含む。AAに対して、DMAAを選択して使用する場合、形成された外層ゲル構造の外層孔の孔径が比較的大きく、担持された内容物の放出率が比較的高く(例えば、高分子タンパク質の放出率を向上させる)、且つ二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアが吸水する時に大きな膨張率を有する。
【0044】
幾つかの実施形態において、外層架橋物は、DMAA又はAAと共有結合を形成し、DMAAをポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)(poly(N,N-dimethylacrylamide;PDMA)に架橋するか、又はAAをポリ(アクリルアミド)(poly(acrylamide);PAA)に架橋することができるN,N’-メチレンビスアクリルアミド(N,N’-Methylene-Bis-Acrylamide(BIS))を含む。
【0045】
本開示内容の幾つかの実施形態は、内層ポリマー及び内層架橋物を提供する工程と、内層ポリマーと内層架橋物からイオン架橋によって内層ゲル構造を得るように、内層ポリマーと内層架橋物を混合する工程と、外層モノマー及び外層架橋物を提供する工程と、外層モノマー及び外層架橋物から共有結合的な架橋重合によって外層ゲル構造を得るように、内層ゲル構造、外層モノマー及び外層架橋物を混合し、且つ外層ゲル構造が内層ゲル構造を被覆し、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを得る工程と、を備える二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの製造方法を提供する。内層ゲル構造、外層モノマー及び外層架橋物を混合することで、内層ゲル構造を被覆する外層ゲル構造を形成することができ、外層ゲル構造は、内層ゲル構造に物理的支持を提供し、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの構造強度を向上させ、担持された内容物の放出時間を遅延させ、長期の安定的な放出を実現することができる。
【0046】
幾つかの実施形態において、内層ポリマー及び内層架橋物を提供する工程は、第1の内層ポリマー、第2の内層ポリマー及び内層架橋物を提供することを含む。
【0047】
幾つかの実施形態において、第1の内層ポリマーはアルギン酸ナトリウム(SA)であり、第2の内層ポリマーはカルボキシメチルセルロース(CMC)であり、保存・調製しやすく、安全で毒性がなく、常温でゲルを形成でき、人体に吸収されやすいなどの利点を有する。
【0048】
幾つかの実施形態において、第1の内層ポリマーがポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーである場合、第2の内層ポリマーは、アシル基を有するポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーの誘導体である。一実施形態において、ポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーは、ポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)とポリ(エチレングリコール)のABA型トリブロックコポリマー(Tri-PCG)であり、アシル基を有するポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーの誘導体は、アクリレート基を有するポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマー(Tri-PCG-acryl)である。Tri-PCG及びTri-PCG-acrylにより製造された内層ゲル構造は比較的緻密であり、且つ人体の適用温度区間内に、温度の変化に応じてコロイド性質を変化させ(例えば、25℃~37℃で溶液からコロイドに変換する)、内層ゲル構造の粘性及び放出能力を変化させることができ、且つ構造が比較的安定して崩壊しにくい。
【0049】
幾つかの実施形態において、内層ポリマーと内層架橋物とは、互いに反対の電気特性を有する。幾つかの実施形態において、内層ポリマーが負に帯電している場合、内層架橋物はカルシウムイオンを含む。
【0050】
幾つかの実施形態において、内層ポリマーと内層架橋物を混合する工程は、第1の内層ポリマー、第2の内層ポリマー、内層架橋物、ラジカル発生剤及び水を混合することを含む。この工程でラジカル発生剤を添加することで、内層ゲル構造に保存されたラジカル発生剤が、その後に外層モノマー、外層架橋物及び触媒を添加する時に外層に拡散し、外層モノマー、外層架橋物及び触媒と作用し、外層において外層ゲル構造を形成する反応を開始させる。従って、この工程でラジカル発生剤を添加することで、ラジカル発生剤が外層モノマー、外層架橋物及び触媒と同時に添加される場合の尚早反応や、外層ゲル構造が内層ゲル構造を良好に被覆していない状況を回避することができる。
【0051】
幾つかの実施形態において、第1の内層ポリマーと第2の内層ポリマーの重量比は、1:5~5:1、例えば1:5、1:4、1:3、1:2、1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、又は前述した区間内の数値である。酸性環境に対して、塩基性環境で第1の内層ポリマーが多くの遊離可能な負電荷基(例えば、カルボキシ基)を有する場合、重量比の増加につれて、内層ゲル構造の膨張率が高くなる。
【0052】
幾つかの実施形態において、内層ポリマーと内層架橋物を混合する工程は、第1の内層ポリマー、第2の内層ポリマー、内層架橋物、ラジカル発生剤及び水を混合することを含む。
【0053】
幾つかの実施形態において、第1の内層ポリマー、第2の内層ポリマー、内層架橋物、ラジカル発生剤及び水の重量パーセントの合計を100%とすると、アルギン酸ナトリウムの重量パーセントは、0.1%~5%であり、カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、0.1%~5%である。重量パーセントが高過ぎると、内層ゲル構造が緻密になり過ぎ、内層ゲル構造の放出効率が限られ、重量パーセントが低過ぎると、コロイド構造が緩くて安定せず、又はゲルを形成できず、カルボキシメチルセルロースの重量パーセントが1%よりも大きい場合(例えば、1%、1.25%、1.5%、1.75%、2%、2.25%、2.5%、2.75%、3%、3.25%、3.5%、3.75%、4%、4.25%、4.5%、4.75%、5%、又は前述した区間内の数値)、崩壊することなく幹細胞を数日間連続培養するために十分な構造強度を二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアに付与することができる。幾つかの実施形態において、アルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースの重量比が3:2である場合、内層ゲル構造の孔径の大きさを制御することで、栄養成分を適切な速度で安定的に放出することができるため、幹細胞が栄養成分を安定的に摂取するように確保し、幹細胞の成長速度を向上させることができる。
【0054】
幾つかの実施形態において、第1の内層ポリマー、第2の内層ポリマー、内層架橋物、ラジカル発生剤及び水の重量パーセントの合計を100%とすると、ポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーと、アシル基を有するポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーの誘導体の重量パーセントの合計は15%~30%である。重量パーセントが高過ぎると、内層ゲル構造が緻密になり過ぎ、内層ゲル構造の放出効率が限られ、重量パーセントが低過ぎると、コロイド構造が緩くて安定せず、又はゲルを形成できない。
【0055】
幾つかの実施形態において、第1の内層ポリマー、第2の内層ポリマー、内層架橋物、ラジカル発生剤及び水を混合する工程は、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、ウシ胎児血清アルブミン又はそれらの組み合わせを添加することを更に含む。幾つかの実施形態において、第1の内層ポリマー、第2の内層ポリマー、内層架橋物、ラジカル発生剤及び水を混合する工程は、第1の溶液、第2の溶液、カルシウムイオン及び硫酸アンモニウムを混合することを含み、第1の溶液は、ポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマー、又はポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマー及びジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)(DPMP)を含み、第2の溶液は、アシル基を有するポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)・ポリ(エチレングリコール)コポリマーの誘導体及びウシ胎児血清アルブミンを含む。
【0056】
温度の上昇につれて、DPMPがアシル基と共有結合を形成する傾向があり、内層ゲル構造の緻密度を向上させるため、DPMPを添加することで、温度の上昇時に内層ゲル構造の徐放能力を向上させることができ、人体への適用に有利であることが理解される。幾つかの実施形態において、第1の溶液の重量パーセントを100%とすると、DPMPの重量パーセントは、5%~15%、例えば5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%又は前述した区間内の数値である。また、ウシ胎児血清アルブミンを添加することで、ウシ胎児血清アルブミンを二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア内に被覆することができ、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを細胞の培養に用いる場合、ウシ胎児血清アルブミンを持続的に放出し、細胞栄養源を長期提供することができる。
【0057】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造、外層モノマー及び外層架橋物を混合する工程は、内層ゲル構造、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(BIS)及び触媒を混合し、又は内層ゲル構造、アクリルアミド(AA)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド及び触媒を混合することを含む。BISとDMAA又はAAが共有結合的な外層ゲル構造を形成することで、内層ゲル構造の物理的支持を向上させ、内層ゲル構造よりも緻密な孔を形成し、担持された内容物の放出を延ばすことができる。
【0058】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造、外層モノマー及び外層架橋物の重量パーセントの合計を100%とすると、内層ゲル構造の重量パーセントは50%~80%(例えば、50%、60%、70%、80%又は前述した区間内の数値)であり、外層モノマーの重量パーセントは、15%~40%(例えば、15%、20%、25%、30%、35%、40%又は前述した区間内の数値)であり、外層架橋物の重量パーセントは5%~10%(例えば、5%、6%、7%、8%、9%、10%又は前述した区間内の数値)である。内層ゲル構造又は外層ゲル構造の重量パーセントが低過ぎると、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを形成しにくい。内層ゲル構造又は外層ゲル構造の重量パーセントが高過ぎると、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアに担持された内容物の放出率が低過ぎる。
【0059】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造と外層モノマーの重量比は、5:4~16:3(例えば、5:4、5:3、2:1、8:3、10:3、4:1、16:3又は前述した区間内の数値)である。重量比が高過ぎると、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの構造が不安定になり、重量比が低過ぎると、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの外層が厚過ぎ、担持された内容物の放出率が低過ぎる。
【0060】
幾つかの実施形態において、内層ゲル構造、外層モノマー及び外層架橋物を混合する工程において、混合時間は、0.5分~5分、例えば0.5分、1分、2分、3分、4分、5分、又は前述した区間内の数値である。混合時間を制御することで、外層ゲル構造の厚さを制御し、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの構造強度と放出率を制御することができる。
【0061】
本開示内容の幾つかの実施形態は、幹細胞、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及び栄養成分を提供する工程と、幹細胞、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア及び栄養成分を混合し、ゲル化培地を得る工程と、培養液をゲル化培地に添加する工程と、を備える前述した二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを用いた幹細胞の培養方法を更に提供する。二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、内層ゲル構造及び外層ゲル構造を含み、内層ゲル構造は、内層ポリマーを内層架橋物によってイオン架橋して得られ、内層ポリマーは、第1の内層ポリマー及び第2の内層ポリマーを含み、第1の内層ポリマーはアルギン酸ナトリウムであり、第2の内層ポリマーはカルボキシメチルセルロースであり、アルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースとの重量比は3:2であり、内層ゲル構造の重量パーセントを100%とすると、カルボキシメチルセルロースの重量パーセントは、1%よりも大きく、外層ゲル構造は、外層モノマーを外層架橋物によって共有結合的に架橋重合して得られ、この内層ゲル構造を被覆し、栄養成分は、内層ゲル構造の内部に位置する。カルボキシメチルセルロースの重量パーセントを制御することで、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアに良好な構造安定性を付与することができ、アルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースの重量比及び栄養成分の位置を定義することで、担持された栄養成分の放出時間を延ばすことができる。従って、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを用いて幹細胞を培養する場合、崩壊するまで長時間維持し、単位面積当たりの幹細胞の培養量を増加させ、内容物のバースト放出を回避することができ、内容物を幹細胞に持続的に放出し、幹細胞の培養時間及び栄養成分の添加回数を増やし、培養フローを簡略化することができる。
【0062】
幾つかの実施形態において、幹細胞は、胚性幹細胞、造血幹細胞、乳腺幹細胞、間葉系幹細胞、内皮幹細胞、神経幹細胞、嗅覚幹細胞、脂肪幹細胞又はそれらの組み合わせを含む。
【0063】
幹細胞の異なる特性に応じて、構造強度と放出率の異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを選択して使用することができることが理解される。例えば、成長速度の速い脂肪幹細胞を培養する場合、内層孔の孔径の大きいアルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースを選択して使用してよく、成長速度の遅い神経幹細胞を培養する場合、内層孔の孔径の小さいTri-PCG及びTri-PCG-acrylを選択して使用してよい。
【0064】
本開示内容の各実施形態により提供される二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの製造方法及び幹細胞の培養方法を更に説明するために、以下の実施を行う。下記実施例は、例示するために提供されるものに過ぎず、本発明を限定するものではないことに留意されたい。
【0065】
実施例1、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの製造方法
【0066】
1.内層ゲル構造
【0067】
以下、異なる内層ポリマーに対応するプロセスを提供する。
【0068】
1.1、アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロース
【0069】
アルギン酸ナトリウム(SA)とカルボキシメチルセルロース(CMC)をそれぞれ異なる重量比(SA:CMC=4:1、2:3、3:2、1:4)で混合した後、1.5%過硫酸アンモニウム(ammonium persulfate;APS)を含有する5%塩化カルシウム水溶液(calcium chloride;CaCl2)に注入して混合溶液を形成し、20分間撹拌し、SAとCMCをカルシウムイオンによって架橋し、SA及びCMCの濃度の異なる複数群の内層ゲル構造を形成し、内層ヒドロゲルを得た。各群のSA及びCMCは、それぞれ2.0%/0.5%、1.0%/1.5%、1.5%/1.0%、0.5%/2.0%であり、APSの反応濃度は1%であり、カルシウムイオンの反応濃度は4%である。
【0070】
混合溶液を形成する過程で(アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースを内層ポリマーとして使用する例に限定されない)、後続の幹細胞の培養要件に応じて、培養液を添加するか、又は栄養成分(例えば、成長因子)を混合溶液に添加し、栄養成分の最終濃度を5ミリグラム/ミリリットル~10ミリグラム/ミリリットルにし、今後の臨床上の応用に備えることができることが理解される。
【0071】
1.2 ポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)とポリ(エチレングリコール)のABA型トリブロックコポリマー(Tri-PCG)及びアクリレート基を有するTri-PCG誘導体(又はTri-PCG-acrylと称される)
【0072】
1.2.1、Tri-PCGの調製
【0073】
ポリエチレングリコール(poly(ethylene glycol);PEG)(15.0グラム、10ミリモル)を120℃で3時間減圧乾燥した。ε-カプロラクトン(ε-caprolactone)(33.3グラム、291ミリモル)、グリコール酸(glycolide)(5.87グラム、50.6ミリモル)及び触媒としての2-エチルヘキサン酸スズ(tin 2-ethylhexanoate;Sn(Oct)2)(149ミリグラム、367マイクロモル)を、PEGを含有するフラスコに添加し、反応液を得た。
【0074】
続いて、液体窒素で反応液を凍結し、減圧乾燥し、反応物を得た。その後、反応物を含有するフラスコを160℃の油浴に浸漬して12時間反応させ、開環重合反応を行った。続いて、反応物を100ミリリットルのクロロホルム(chloroform)に溶解し、1000ミリリットルのジエチルエーテル(diethyl ether)で沈殿させ、溶解工程及び沈殿工程を3回繰り返した。続いて、上清液を除去してから、沈殿を減圧乾燥によって処理し、白色固体であるTri-PCGを得た。
【0075】
1.2.2、Tri-PCG-acrylの調製
【0076】
アクリル酸(acrylic acid)(2.0ミリリットル、29.2ミリモル)を250ミリリットルのジクロロメタン(dichloromethane;CH2Cl2)に溶解し、アクリル酸溶液を得て、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(N,N’-dicyclohexyl carbodiimide;DCC)(6.24グラム、30.2ミリモル)を250ミリリットルのジクロロメタンに溶解し、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド溶液を得た。続いて、氷浴で、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド溶液をアクリル酸溶液に加えて1時間撹拌し、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド溶液とアクリル酸溶液の体積比は1:1である。続いて、250ミリリットルのジクロロメタンに溶解したTri-PCG(20.3グラム、5.1ミリモル)及び4-ジメチルアミノピリジン(4-dimethylaminopyridine;DMAP)(299.5ミリグラム、2.5ミリモル)をアクリル酸及びN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドを含有する混合溶液に添加し、25℃で24時間撹拌した。その後、副生成物のジシクロヘキシル尿素(dicyclohexylurea)をろ過除去した。ジクロロメタンが蒸発した後、クロロホルム(chloroform)を良溶媒(溶質に対して高い溶解能力を有し、高分子溶質との相互作用パラメータが0.5よりも小さい溶媒)とし、高分子長鎖を溶液中で拡張状態にし、n-ヘキサン(n-hexane)とエタノール(ethanol)の混合物(n-ヘキサンとエタノールの体積比は8/2)を貧溶媒(溶質に対して低い溶解能力を有し、高分子溶質との相互作用パラメートが0.5に近いか又はそれよりも大きい溶媒)とし、再沈殿を3回行った。続いて、減圧乾燥により、黄白色固体であるTri-PCG-acrylを得た。
【0077】
1.2.3、Tri-PCG水溶液、Tri-PCG-acryl水溶液及びTri-PCG/DPMP水溶液の調製
【0078】
Tri-PCG水溶液について、まず、Tri-PCG(246.5ミリグラム)を、10%ウシ胎児血清を含有する脂肪幹細胞培養液(986マイクロリットル、製品名:StemProTM MSC SFM、製品番号:GibcoTM A1033201)に溶解した。約90℃の水浴に5秒浸漬した後、連続的に撹拌して室温で冷却し、浸漬工程及び冷却工程を3回繰り返した。続いて、水浴条件(20℃~25℃)で冷却し、30分間超音波処理して気泡を除去し、水酸化ナトリウム及び脂肪幹細胞培養液でpH値を7.4に調節し、20%のTri-PCG水溶液(コロイドの要件に応じて、後続のTri-PCG/DPMP水溶液と置き換えることができる)を得た。
【0079】
Tri-PCG-acryl水溶液について、Tri-PCG-acryl(165ミリグラム)を、10%ウシ胎児血清を含有する脂肪幹細胞培養液(660マイクロリットル)に溶解し、4℃で一晩撹拌した。続いて、低温条件(20℃~25℃)で30分間超音波処理して気泡を除去し、水酸化ナトリウム及び脂肪幹細胞培養液でpH値を7.4に調節し、20%のTri-PCG-acryl水溶液を得た。
【0080】
Tri-PCG/DPMP水溶液について、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)(dipentaerythritolhexakis(3-mercaptopropionate);DPMP)(90.4ミリグラム)を1ミリリットルのアセトンに溶解した後、DPMP溶液を得た。DPMP溶液を750ミリグラムのTri-PCGを含有する試料管に添加し、7ミリリットルのアセトンを補充した後、混合溶液を得た。混合溶液を63ミリリットルの水に加え、撹拌して30分間超音波処理し、続いて、アセトンを除去して凍結乾燥し、Tri-PCG/DPMP混合物を得た(DPMPはTri-PCG/DPMP混合物において約10.8%を占める)。
【0081】
続いて、Tri-PCG/DPMP混合物を、10%ウシ胎児血清を含有する脂肪幹細胞培養液(354マイクロリットル)に溶解した。約90℃の水浴に5秒浸漬した後、連続的に撹拌して室温で冷却し、浸漬工程及び冷却工程を3回繰り返した。続いて、低温条件(20℃~25℃)で30分間超音波処理して気泡を除去し、水酸化ナトリウム及び脂肪幹細胞培養液でpH値を7.4に調節し、20%のTri-PCG/DPMP水溶液を得た。
【0082】
1.2.4、内層ヒドロゲルの調製
【0083】
Tri-PCG/DPMP水溶液とTri-PCG-acryl水溶液を適切な割合で混合した後、1.5%過硫酸アンモニウム(ammonium persulfate;APS)を含有する5%塩化カルシウム水溶液(calcium chloride;CaCl2)に注入して混合溶液を形成し、20分間撹拌し、Tri-PCG及びTri-PCG-acrylをカルシウムイオンによって架橋して内層ゲル構造を形成し、内層ヒドロゲルを得て、Tri-PCG/DPMPとTri-PCG-acrylの反応濃度はそれぞれ70%~79%及び16%~25%であり、APSの反応濃度は1%であり、カルシウムイオンの反応濃度は4%であり、内層ゲル構造Tri-PCG及びTri-PCG-acrylの重量パーセントの合計は16%~33%であり、それにより内層ヒドロゲルが作用温度範囲でコロイド状態となることを確保する。
【0084】
温度の上昇につれて、Tri-PCGとTri-PCG-acryl、又はDPMPとTri-PCG-acrylのアクリレート基は、共有結合を生成し、ゲル形態を変化させることができるため、Tri-PCG-acryl及びTri-PCG/DPMP、又はTri-PCG-acryl及びTri-PCGを用いて調製された内膜ゲル構造は温度感受性を有する。
【0085】
例えば、図1を参照されたく、Tri-PCGの異なる濃度と温度でのゲル状態変化図(この例におけるTri-PCGがリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline;PBS)に保存されている)であり、Tri-PCGの濃度(例えば、本実施例におけるTri-PCG/DPMPとTri-PCG-acrylの濃度の合計に対応する)又は温度を調整することで、ゲル状態を変化させ、且つゲル状態の変化に応じて、ゲルの粘度及び放出能力を調整することを示す。
【0086】
他の例において、Tri-PCG/DPMP水溶液の代わりにTri-PCG水溶液を使用し、Tri-PCG-acrylと混合してもよい。Tri-PCG水溶液に対して、Tri-PCG/DPMP水溶液に昇温時にTri-PCG-acrylと共有結合を生成できるDPMPが存在するため、Tri-PCG/DPMP水溶液を用いて調製された内膜ゲル構造は良好な温度感受性を有することが理解される。
【0087】
「1.1、アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロース」により調製された内層ゲル構造と「1.2 ポリ(ε-カプロラクトン-co-グリコール酸)とポリ(エチレングリコール)のABA型トリブロックコポリマー(Tri-PCG)及びアクリレート基を有するTri-PCG誘導体(又はTri-PCG-acrylと称される)」により調製された内層ゲル構造は、Tri-PCG/DPMP及びTri-PCG-acrylを使用した内層ゲル構造が比較的安定して崩壊しにくいが、調製プロセスが複雑で、有機溶媒を使用する必要があるという点で異なることが理解される。SA及びCMCを使用した内層ゲル構造は、調製プロセスが簡単で、且つ環境に対する優しさが高いという利点を有するが、構造もpH値の影響を受けるという制限がある。
【0088】
従って、後で培養しようとする幹細胞の成長特性に応じて、適切な成分を選択して使用して内層ゲル構造を調製することができ、例えば、調製しやすいSA及びCMCを選択して使用し、成長速度が比較的速い脂肪幹細胞を培養し、構造強度が比較的高いTri-PCG/DPMP及びTri-PCG-acrylを選択して使用し、成長速度が比較的遅い神経幹細胞を培養する。
【0089】
2.外層ゲル構造及び二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア
【0090】
続いて、外層モノマーとしてのN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)又はアクリルアミド(AA)、外層架橋物としてのN,N’-メチレンビスアクリルアミド(BIS)、触媒としてのテトラメチルエチレンジアミン(tetra-methylethylenediamine(TEMED))を混合した後、前に調製した内層ヒドロゲル(ここで、「1.1、アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロース」により得られた内層ヒドロゲルを選択して使用した)を加えて異なる時間だけ混合し、DMAA又はAAとBISを架橋してポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)(PDMA)又はポリ(アクリルアミド)(PAA)を形成し、外層ゲル構造の厚さが異なるか又は外層成分が異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを得て、DMAA又はAAの反応濃度は1モル/リットルであり、BISの反応濃度は2.2モル/リットルであり、TEMEDの反応濃度は15ミリグラム/ミリリットルであった。
【0091】
具体的には、混合過程で内層ヒドロゲルにおけるAPSは外部に拡散し、ラジカルを提供して外層ゲル構造を形成する反応を開始させた。外層モノマーは、APSのラジカル、TEMEDの触媒により、BISとPDMA又はPAAに共有結合し、外層ゲル構造を形成した。
【0092】
最後に、撹拌及び水洗により、未反応の外層モノマーを除去した。
【0093】
実施例2、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを用いた幹細胞の培養方法
【0094】
まず、1x107粒/ミリリットルの脂肪幹細胞を含有する脂肪幹細胞懸濁液(即ち、脂肪幹細胞が脂肪幹細胞培養液に懸濁したもの)及び二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを体積比1:1で幹細胞混合ゲルとして混合し、37℃で30分間静置し、ゲル化度を向上させた。
【0095】
続いて、400マイクロリットルの脂肪幹細胞培養液を幹細胞混合ゲルの表面に滴下した後、37℃、5%二酸化炭素を含有する環境に置いて培養し、2日ごとに、200マイクロリットルの脂肪幹細胞培養液(上清液)を取り出し、新鮮な脂肪幹細胞培養液に交換した。二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアが破裂するまで培養した後、PBSで脂肪幹細胞を収集して他の培養成分を除去した。
【0096】
外層ゲル構造を設置することで、内層ゲル構造に対して物理的な安定度を提供し、内層ゲル構造の吸水による膨張と破裂又は塩基性時の構造崩壊を回避しつつ、栄養成分の過剰な放出及び外漏れを回避し、栄養成分の安定的な放出を維持することができることが理解される。
【0097】
実施例3、有効性試験
【0098】
まず、前述した実施例1の方法に従って二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを調製し、特定の成分、重量パーセント及び外層ゲル構造の形成時間(即ち、「2.外層ゲル構造及び二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア」における混合時間)を調整し、異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの間の構造特性及び内容物の放出効率の差を比較し、各群の条件は以下のように例示される。
【0099】
【表1】
【0100】
1.電子顕微鏡でのゲル形態
【0101】
まず、走査型電子顕微鏡により、異なる倍率で各群の二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを観察し、結果は図2を参照し、最上行のa~cはSA-CMC@PDMA-1群であり、2行目のd~fはSA-CMC@PDMA-3群であり、最下行のg~iはSA-CMC@PAA-1群である。
【0102】
図2から分かるように、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの内層及び外層は、それぞれ互いに接続されたシート状構造であり、当該シート構造は三次元の孔で互いに隔間され、且つ、内層と外層との間の境界が明らかに認められる。また、内層ゲル構造と外層ゲル構造とでは孔径が異なり、外層ゲル構造の孔径は内層ゲル構造の孔径よりも小さい。
【0103】
また、図c(SA-CMC@PDMA-1群)と図f(SA-CMC@PDMA-3群)を比較したところ、外層の架橋時間が1分から3分に増加すると、外層ゲル構造の厚さは、約100ミクロンから約450ミクロンに増加することが分かった。
【0104】
また、図b(SA-CMC@PDMA-1群)と図e(SA-CMC@PDMA-3群)を比較したところ、SAの濃度の低下につれて、内層及び外層の孔の孔径に顕著な変化が見られ、SAの割合が高いほど、内層孔の孔径が大きくなることが分かった。
【0105】
図2から分かるように、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、二層骨格構造を有し、内層ゲル構造の孔の孔径が比較的大きく、栄養成分の吸着に有利であり、外層ゲル構造が比較的緻密であり、内層ゲル構造に物理的支持を提供し、内層ゲル構造の崩壊を回避し、栄養成分の過剰な放出を回避することができる。従って、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、幹細胞の3次元成長のための足場を提供して栄養成分を長時間保持し、幹細胞の培養数を増やし、持続的に培養可能な時間を延ばすことができ、以下、関連する有効性を更に検証する。
【0106】
2.吸水膨張性
【0107】
単独の内層ゲル構造(単層ゲル)及び二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの吸水膨張性を検出するために、内層ゲル構造(4群、各群のSAの濃度及びCMCの濃度はそれぞれ0.5%のSA/2.0%のCMC、1.0%のSA/1.5%のCMC、1.5%のSA/1.0%のCMC、2.0%のSA/0.5%のCMC)及び二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア(SA-CMC@PDMA-1群、SA-CMC@PDMA-2群、SA-CMC@PDMA-3群、SA-CMC@PAA-1群)を自然に風乾し、風乾後の内層ゲル構造及び風乾後の二層複合ヒドロゲルマイクロキャリア(以下、試料と称される)を適量秤量し、膨張性試験を行い、フローは以下の通りである。
【0108】
まず、試料をpH値が1.2の酸性溶液(0.5Mの塩酸)に2時間入れ、続いて、重量が平衡に達するか又は低下するまで(溶解が開始したことを表す)、pH値が7.4の塩基性溶液(1Mのトリヒドロキシメチルアミノメタン)に変換し、その過程で、30分ごとに試料を溶液から取り出し、残留溶液を除去した後に秤量し、以下の式を用いて各時点の膨張率SR(swelling ratio)を計算した。
【0109】
SR=[(m0-mt)/m0]
【0110】
SRは二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの膨張率であり、mtは二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの時点tでの質量(膨潤状態)であり、m0はヒドロゲルの初期質量である。
【0111】
上記試験から得られた内層ゲル構造の膨張率の傾向は図3Aを参照されたく、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの膨張率の傾向は図3Bを参照されたい。
【0112】
図3Aは、異なる内層ゲル構造の吸水膨張特性を示す。4種類の内層ゲル構造の酸性環境での膨張率が低いのは、SA及びCMCに多いカルボキシ基(-COOH)が存在するが、酸性溶液において、カルボキシ基が遊離せず、ポリマー間の静電反発力が低く、ゲルネットワーク構造が緻密であり、SA及びCMCの親水性が低下するからである。従って、塩基性溶液と比べ、酸性溶液で、内層ゲル構造(単層ゲル)の膨張率が低い。また、酸性溶液で、CMCの濃度の低下につれて、膨張率も低下することを観察することもできた。
【0113】
これに対して、塩基性環境で、膨張率は経時的に増加し、徐々に増加した後に低下した。具体的には、カルボキシ基は遊離状態(COO-)となり、カルボキシ基の間に静電反発力を形成し、且つ経時的に増加し、反発力が徐々に増加し、単層ゲルが膨張してネットワークギャップを拡大し、構造が変化し、親水性が増加し、水分子を吸収し、膨張率を向上させる。作用の後期に、構造の変化につれて、カルボキシ基とカルシウムイオンで形成されたイオン架橋は徐々に不安定になり、カルボキシ基の濃度が低下し、更にカルボキシ基とカルシウムイオンの架橋反応をより弱くし、単層ゲルを徐々に崩壊させる。
【0114】
図3Bは、ゲル構造の異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの吸水膨張特性を示す。図3Aの単層ゲル(内層ゲル構造のみ)の吸水膨張時間(崩壊まで吸水する時間)が4.5時間であることと比べ、図3Bは、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの吸水膨張時間が12時間まで明らかに延ばされ、且つ全体の膨張率が単層ゲルより高いことを示す。つまり、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの内層ゲル構造はpH値に対して感受性を有するが、外層ゲル構造は、pH値に対して感受性がないため、塩基性環境でも、外層ゲル構造は、ゲル構造の完全性を維持することができ、崩壊しにくい。
【0115】
また、SA-CMC@PDMA-2群(外層架橋時間が2時間)とSA-CMC@PDMA-3群(外層架橋時間が3時間)を比較したところ、外層ゲル構造の厚さを増加させるために外層架橋時間を延ばすことにより、ゲルの崩壊を遅延させることができることが分かった。
【0116】
SA-CMC@PDMA-1群(1.5%のSA/1.0%のCMC)とSA-CMC@PDMA-2群(0.5%のSA/2.0%のCMC)を比較したところ、SAの濃度を低下させる群では、4時間後に膨張率が比較的低いことが分かった。従って、塩基性環境で、SAの濃度を低下させることを、栄養成分の放出時間を延ばす手段とすることができる。
【0117】
最後に、SACMC@PDMA-1群(PDMA)とSA-CMC@PAA-1群(PAA)を比較したところ、PAAと比べて、PDMAを外層ゲル構造として、より高い膨張率を示し、より高い吸水膨張能力を有することが分かった。
【0118】
3.内容物の放出挙動
【0119】
3.1、試験方法
【0120】
各群の二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの内容物の放出挙動を試験するために、以下のフローに従って内容物の放出試験を行う。
【0121】
まず、分子量及び溶解度特性の異なる3種類の内容物を選択し、それぞれ異なる群の二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアと混合し、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアに各内容物を担持し、内容物について、それぞれビタミンA酸(tretinoin;TR)を脂溶性成分として、ペニシリン(ampicillin;AM)を水溶性成分として、ウシ血清アルブミン(bovine serum;BS)を幹細胞培養液の成分として選択して使用し、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアにおけるビタミンA酸の濃度は0.5ミリグラム/リットルであり、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアにおけるペニシリンの濃度は100ミリグラム/ミリリットルであり、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアにおけるウシ血清アルブミンの重量パーセントは5%であった。内容物が担持された二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアをpH値が1.2の酸性溶液に2時間浸漬し、36.5℃±0.5℃でpH値が7.4の弱塩基性溶液に移した。続いて、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを秤量した後、100ミリリットルのPBSに浸漬し、温度36.5℃±0.5℃の条件で、適切な回転速度で回転振とうし、一定時間ごとに定量のPBSを抽出し、紫外線分光光度計で内容物の濃度(TR測定波長が350ナノメートルで、AM測定波長が463ナノメートルで、BS測定波長が595ナノメートルである)を測定し、等量のPBSを補充した。続いて、以下の式に基づき、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの内容物の累積放出率Qnを測定し、結果を図4A図6Bにまとめた。
【0122】
Qn(%)=(V0Cn+VC(n-1))/(W)×100
【0123】
Cn及びC(n-1)は、n回及びn-1回サンプリングした内容物の濃度であり、V0はPBSの初期体積であり、Vはサンプリング体積であり、Wは二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアに担持された内容物の重量である。
【0124】
3.2、結果分析
【0125】
二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアにおける成分、重量パーセント及び外層架橋時間による内容物の放出挙動への影響を理解しやすくするために、後で図4A(SA-CMC@PDMA-2)と図4B(SA-CMC@PDMA-3)、図5A(SA-CMC@PDMA-1)と図5B(SA-CMC@PDMA-2)、及び図6A(SA-CMC@PDMA-1)と図6B(SA-CMC@PAA-1)を互いに比較するように論述する。
【0126】
3.2.1、外層厚さによる内容物の放出挙動の比較
【0127】
まず、図4A及び図4Bを参照されたく、2群間の二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、外層架橋時間が2分(SA-CMC@PDMA-2群)から3分(SA-CMC@PDMA-3群)に延ばされ、外層ゲル構造の厚さを増加させるという点で異なる。
【0128】
図4A及び図4Bの結果から分かるように、最初の酸性環境で、2種類の二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、脂溶性のビタミンA酸(TR)及びウシ血清アルブミン(BS)のいずれに対しても良好な徐放効果を有するが、水溶性のペニシリン(AM)に対して、同様の制御作用を奏しない。AMの分子量が小さく、溶液に拡散しやすいため、AMには深刻な放出効果が発生し、SA-CMC@PDMA-2群では、2時間の放出率は約90%と高く、外層が比較的厚いSA-CMC@PDMA-3群では、拡散抵抗が増加したため、2時間の放出率は約65%と高く、外層の厚さが酸性環境で水溶性成分AMに対して依然として放出遅延効果を有することを示す。
【0129】
弱塩基性環境で、内層ゲル構造は吸水して膨張し始め、ネットワーク構造が崩壊し、ビタミンA酸(TR)及びウシ血清アルブミン(BS)を徐々に放出した。SA-CMC@PDMA-2群では、TRの放出率が36時間の時に90%以上に達し、分子構造が比較的大きいBSの放出率は約64%のみに達し、二層構造の設計による幹細胞培養液の成分(BSで表される)に対する徐放効果が脂溶性成分(TRで表される)よりも優れることを示す。これに対して、外層が比較的厚いSA-CMC@PDMA-3群は、36時間の時にTMの放出率が約80%に低下し、BSの放出率が35%のみに達し、弱塩基性環境で、脂溶性成分(TR)及び幹細胞培養液成分(BS)に対して放出の遅延・制御作用をより発揮することができることを示す。
【0130】
従って、図4A及び図4Bから分かるように、外層の厚さを増加させることにより、拡散抵抗を向上させ、更に内容物の放出を顕著に遅延させることができる。
【0131】
3.2.2、内層組成の濃度による内容物の放出挙動の比較
【0132】
図5A及び図5Bを参照されたく、2群間の二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、内層ポリマーの重量パーセントが異なる(SA-CMC@PDMA-1群は1.5%のSA/1.0%のCMCであり、SA-CMC@PDMA-2群は0.5%のSA/2.0%のCMCである)という点で異なる。
【0133】
図5A及び図5Bの結果から、最初の酸性環境で、内層ゲル構造の組成による二層ヒドロゲルに対する徐放作用が明らかに変化せず、脂溶性のビタミンA酸(TR)及びウシ血清アルブミン(BS)のいずれに対しても良好な徐放効果を有し、水溶性のペニシリン(AM)に対して依然として深刻な放出効果が発生し、2時間の速度が70%~90%と高いことを示す。
【0134】
弱塩基性環境で、2群間のTR及びAMの放出率には有意差がないが、SAの濃度の比較的低いSA-CMC@PDMA-2(「1.電子顕微鏡でのゲル形態」においてSA-CMC@PDMA-2の孔径がSA-CMC@PDMA-1より明らかに小さいことが例示される)は、BSの放出に対してより良好な制御効果を有する。
【0135】
高分子のBSと比べて、脂溶性のTR及び水溶性のペニシリンAMは、いずれも小分子に属する。図5A及び図5Bから分かるように、内層ゲル構造の組成の変化による小分子内容物への影響が大きくないが、SAの濃度を低下させることにより、高分子内容物の拡散率を遅延させ、放出率を低下させることができる。
【0136】
3.2.3、外層組成の成分による内容物の放出挙動の比較
【0137】
図6A及び図6Bを参照されたく、2群間の二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアは、外層モノマーの成分が異なる(SA-CMC@PDMA-1群はPDMAであり、SA-CMC@PAA-1群はPAAである)という点で異なる。
【0138】
図6A及び図6Bの結果から、2群の二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアにおける脂溶性のビタミンA酸(TR)及び水溶性のペニシリン(AM)の放出率には有意差がないが、ウシ血清アルブミン(BS)の放出率は、外層ポリマーの成分がPDMAから低い膨張率及び小さい孔径を有するPAAに変化した場合、放出率が顕著に低下することを示す。
【0139】
つまり、PDMAを選択して使用することに対して、外層ゲル構造の成分としてPAAを選択して使用する場合、小分子内容物に対する影響が大きくないが、高分子内容物の拡散率を遅延させ、放出率を低下させることができる。
【0140】
4.構造強度
【0141】
ゲル構造における特定成分の含有量と構造強度との関連性を試験するために、実施例1の第1.1の工程に実質的に類似し、下記表2の配合に基づき、単層ゲル構造を調製し、更に単層ゲル構造の粘度と温度との関連性を測定し、結果を図7に示す。
【0142】
【表2】
【0143】
図7から、37.5℃でカルボキシメチルセルロース(CMC)の濃度の増加につれて、ゲル構造の粘度が増加することを示す。ゲル構造の粘度が上昇する時、構造強度がそれに伴って上昇することが理解される。従って、CMCの濃度の増加につれて、ゲル構造の構造強度もそれに伴って向上する。
【0144】
なお、粘性が1パスカル・秒(Pa・s)に近いか又はそれより高い場合(例えば、群1のSAは5wt%であり、CMCは2wt%であり、群2のSAは5wt%であり、CMCは1wt%である)、ゲル構造の構造強度は、容易に破裂することなく幹細胞の培養に適することができる。
【0145】
これに対して、ゲル構造の粘度が低過ぎると(例えば、群3のSAは5wt%であり、CMCは0.1wt%である)、ゲル構造が幹細胞の培養に用いられる場合、ゲル構造の破裂リスクが比較的高い。
【0146】
従って、群1、2のゲル構造は、内層ゲル構造とされる場合(CMCの重量パーセントが1wt%よりも大きい)、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアに良好な構造強度を付与し、幹細胞の成長足場として備えることができる。
【0147】
5.幹細胞の培養効率
【0148】
まず、表1におけるSA-CMC@PDMA-1(SAは1.5%であり、CMCは1%である)及びSA-CMC@PDMA-2(SAは0.5%であり、CMCは2%である)というSAとCMの重量比の異なる2群の二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを選択して使用し、実施例2に類似する方法で脂肪幹細胞を培養し、同時に、培養条件を、栄養成分としてのウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin;BSA)を添加するか否かの群に分けて同期観察した。
【0149】
後で以下の2つの部分を分析することで、成分比の異なる二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアが脂肪幹細胞の培養に用いられる場合、脂肪幹細胞の成長効率に影響を与えるか否かを観察した。
【0150】
第1の部分はmRNA分析である。脂肪幹細胞を7日まで培養した時、脂肪幹細胞の特有タンパク質(リポタンパク質リパーゼ、lipoproteinlipase;LPL)及び細胞の一般的なタンパク質(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase;GAPDH)に対応するmRNA発現比を分析し、脂肪幹細胞の成長状況を判定し、比率が大きいほど、脂肪幹細胞の含有量が高くなることを示し、結果を図8Aに示す。
【0151】
図8Aは、BSAを添加するか否かにかかわらず、SA-CMC@PDMA-2(SAは0.5%であり、CMCは2wt%である)と比べて、SA-CMC@PDMA-1(SA1.5%+CMC1%)はいずれも好ましい脂肪幹細胞の成長効率を有することを示す。
【0152】
第2の部分は、顕微鏡視野における観察である。顕微鏡により、各群の脂肪幹細胞を7日間培養した時における顕微鏡視野での細胞成長数を観察し、脂肪幹細胞をCD44モノクローナル抗体によって認識し、オイルレッド(Oil Red O)で染色した後、赤紫色となるため、赤紫色の割合が高いほど、脂肪幹細胞の含有量が高くなることを示す。結果を図8Bに示す。
【0153】
図8Bは、高分子の栄養分子(BSA)を添加する時、SA-CMC@PDMA-2(SAは0.5%であり、CMCは2wt%である)と比べて、SA-CMC@PDMA-1(SA1.5%+CMC1%)の脂肪幹細胞の割合が高いことを示す。つまり、栄養成分を添加する場合、SA-CMC@PDMA-1の重量比の条件を採用し、高い幹細胞培養効率を有することができる。
【0154】
本開示内容の幾つかの実施形態により提供される二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアを用いた幹細胞の培養方法は、内層ゲル構造及び外層ゲル構造の設計により、内層ゲル構造に物理的支持を提供し、酸塩基度による構造への影響を回避し、拡散抵抗を向上させ、栄養成分の放出を遅延させることができる。アルギン酸ナトリウムとカルボキシメチルセルロースの重量比及び栄養成分の位置を定義することで、内層ゲル構造の孔径の大きさを制御し、栄養成分が二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアから放出される速度を調整・制御し、幹細胞に栄養成分を安定的に摂取させ、幹細胞の成長速度を向上させることができる。カルボキシメチルセルロースの重量パーセントを制御することで、二層複合ヒドロゲルマイクロキャリアの構造強度を確保し、幹細胞の成長足場として備えることができる。
【0155】
本開示内容は、実施形態により前述の通りに開示されたが、当該実施形態は、本開示内容を限定するためのものではなく、当業者であれば、本開示内容の精神と範囲から逸脱しない限り、多様の変更や修飾を加えることができる。従って、本開示内容の保護範囲は、下記特許請求の範囲で指定した内容を基準とするものである。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B