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特開2025-157791ステータコイルユニット及び流量調整弁
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025157791
(43)【公開日】2025-10-16
(54)【発明の名称】ステータコイルユニット及び流量調整弁
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/00 20060101AFI20251008BHJP
【FI】
H02K1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060028
(22)【出願日】2024-04-03
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】笠井 宣
(72)【発明者】
【氏名】高野 渉
【テーマコード(参考)】
5H601
【Fターム(参考)】
5H601AA15
5H601CC01
5H601HH18
(57)【要約】
【課題】防錆・耐食性能を高めつつ製造コストを抑えることができるステータコイルユニット及び流量調整弁を提供する。
【解決手段】ステータコイルユニット100が、ボビン111と、このボビン111に巻回されたステータコイル112と、めっき鋼板により形成され、ボビン111の少なくとも一部を覆うステータヨーク113と、を備え、ステータヨーク113には防錆手段が設けられ、この防錆手段はベンゾトリアゾール系の被膜であることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボビンと、
前記ボビンに巻回されたステータコイルと、
めっき鋼板により形成され、前記ボビンの少なくとも一部を覆うステータヨークと、を備え、
前記ステータヨークには防錆手段が設けられ、前記防錆手段はベンゾトリアゾール系の被膜であることを特徴とするステータコイルユニット。
【請求項2】
前記ステータヨークは、めっき層のない破断面を有し、該破断面に前記防錆手段が設けられることを特徴とする請求項1に記載のステータコイルユニット。
【請求項3】
前記ステータヨークには、前記防錆手段との密着強化手段がさらに設けられることを特徴とする請求項1に記載のステータコイルユニット。
【請求項4】
請求項1~3のうち何れか一項に記載のステータコイルユニットと、
前記ステータコイルユニットによって駆動される弁体と、
を備えることを特徴とする流量調整弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコイルユニット及び流量調整弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータヨークに少なくとも一部を覆われたボビンに巻回されたステータコイルを有するステータコイルユニットが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載のステータコイルユニットでは、防錆・耐食性能を高めるために、鋼板にメッキ等の防錆処理が施されたステータヨークにおける少なくとも一部がモールド樹脂で被覆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-220403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のステータコイルユニットでは、ステータコイルユニットの構造と、モールドのための成形金型が複雑となり、製造コストが嵩んで高価なものとなりがちである。
【0005】
本発明の目的は、防錆・耐食性能を高めつつ製造コストを抑えることができるステータコイルユニット及び流量調整弁を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、ステータコイルユニットは、ボビンと、前記ボビンに巻回されたステータコイルと、めっき鋼板により形成され、前記ボビンの少なくとも一部を覆うステータヨークと、を備え、前記ステータヨークには防錆手段が設けられ、前記防錆手段はベンゾトリアゾール系の被膜であることを特徴とする。
【0007】
上記のステータコイルユニットによれば、高価なNiを含有しためっき等を用いなくとも、ステータヨークについて、ベンゾトリアゾール系の被膜による防錆手段を設けることで防錆・耐食性能を高めることができる。そして、この防錆手段による効果を見越して安価なめっき鋼板でステータヨークを形成することが可能となることから、製造コストを抑えることができる。このように、上記のステータコイルユニットによれば、防錆・耐食性能を高めつつ製造コストを抑えることができる。
【0008】
ここで、前記ステータヨークは、めっき層のない破断面を有し、該破断面に前記防錆手段が設けられることが好適である。
【0009】
この構成によれば、例えばめっき鋼板からのプレス成型等によってステータヨークを得るときにめっき層のない破断面が生じたとしても、プレス後に改めてめっきを行わずに防錆手段によって破断面の防錆・耐食性能を安価に高めることができる。
【0010】
また、前記ステータヨークには、前記防錆手段との密着強化手段がさらに設けられることが好適である。
【0011】
この構成によれば、防錆手段としてのベンゾトリアゾール系の被膜の密着性が密着強化手段によって高められるので、防錆・耐食性能を一層高めることができる。
【0012】
また、上記課題を解決するために、流量調整弁は、上述のステータコイルユニットと、前記ステータコイルユニットによって駆動される弁体と、を備えることを特徴とする。
【0013】
上記の流量調整弁によれば、上述のステータコイルユニットを備えていることから、防錆・耐食性能を高めつつ製造コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0014】
上述のステータコイルユニット及び流量調整弁によれば、防錆・耐食性能を高めつつ製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態のステータコイルユニットを備えた流量調整弁について軸方向に沿った断面を示す断面図である。
図2図1に示されているステータコイルユニットを単体で示した断面図である。
図3図1及び図2に示されているステータコイルユニットのステータヨークに防錆手段としてベンゾトリアゾール系の被膜を形成する第1形成手法を示す模式図である。
図4図1及び図2に示されているステータコイルユニットのステータヨークに防錆手段としてベンゾトリアゾール系の被膜を形成する第2形成手法を示す模式図である。
図5図1及び図2に示されているステータコイルユニットのステータヨークに防錆手段としてベンゾトリアゾール系の被膜を形成する第3形成手法を示す模式図である。
図6図1及び図2に示されているステータコイルユニットのステータヨークに防錆手段としてベンゾトリアゾール系の被膜を形成する第4形成手法を示す模式図である。
図7】ステータヨークにおいてベンゾトリアゾール系の被膜が形成される箇所を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係るステータコイルユニット及び流量調整弁について説明する。本明細書の記載において、「上」、「下」とは、図面に示される方向を示す。本明細書の記載において、「一端」及び「他端」とは、図面における「下端」及び「上端」を示す。
【0017】
図1は、一実施形態のステータコイルユニットを備えた流量調整弁について軸方向に沿った断面を示す断面図である。
【0018】
本実施形態の流量調整弁1は、一対の配管が接続され、それら一対の配管の相互間における流体の流量を調整する電動弁である。この流量調整弁1は、ケース11、配管継手ハウジング12、弁本体13、弁体14、ステータコイルユニット100、及び弁体駆動機構15を備えている。ケース11は、SUS(Steel Use Stainless)材によって有蓋円筒状に形成された部材であり、ステータコイルユニット100が外挿されるとともに内部に弁体駆動機構15を収容する。配管継手ハウジング12は、配管の接続口121が一対形成されたアルミニウム製のブロック部材であり、内部に、弁本体13における弁座131から延出して開口した丸孔状の弁口132を介して一対の配管を繋ぐ流路122a,122bが形成されている。弁本体13は、アルミニウムやSUS材等の金属材料からなる円筒部材であり、内側に弁座131及び弁口132が形成された一端側が一方の流路122bに達するように配管継手ハウジング12に挿入固定されている。この配管継手ハウジング12の一対の流路122a,122bの間は例えば水素化ニトリルゴム(H-NBR)製のOリング123によってシールされている。また、弁本体13の他端側の外部環境と、配管継手ハウジング12の他方の流路122aとの間も同様のOリング124によってシールされている。そして、この弁本体13の他端側が、SUS材で円筒状に形成されたガイド本体133を介してケース11の開口端縁に連結固定されている。
【0019】
弁体14は、SUS材で丸棒状に形成された部材であって、弁本体13の内部において弁座131に対して接近及び離隔を行うことで、弁口132を介して配管継手ハウジング12の流路122a,122bを流れる流体の流量を調整する。ステータコイルユニット100は、この弁体14を駆動するための磁界を通電によって発生させる円環状の部材であり、ケース11の他端側に固定子として外挿固定されている。このステータコイルユニット100については、後で別図を参照して詳述する。
【0020】
弁体駆動機構15は、ステータコイルユニット100によって、弁口132を通る中心軸X11周りに回転駆動されるマグネットロータ151を有し、ケース11から弁本体13の内部にかけて収容された機構部位である。そして、弁体駆動機構15は、このマグネットロータ151の回転運動を、弁座131に対する弁体14の、中心軸X11に沿った直線運動に変換することで弁体14を駆動する。この弁体駆動機構15は、マグネットロータ151に加えて、ロータ軸152、支持部材153、弁ホルダ154、ばね受け155、及びばね156を備えている。
【0021】
ロータ軸152は、中心軸X11に沿って延在する、SUS材で丸棒状に形成された部材であって、他端側がブッシュ152aを介してマグネットロータ151に固定され、一端側に弁ホルダ154が連結されている。更に、ロータ軸152の中間部には雄ねじ部が形成されており、この雄ねじ部が後述の支持部材153の雌ねじ部に螺合することにより、ロータ軸152の回転運動が直線運動に変換され、中心軸X11に沿って移動する。
【0022】
支持部材153は、PPS(Polyphenylenesulfide)樹脂で円筒状に形成され、ロータ軸152及び弁ホルダ154を、中心軸X11に沿って移動可能に支持する部材である。この支持部材153は、支持部材153に一体成形されたSUS材の固定部153aを介してガイド本体133に溶接等で固定されている。また、ケース11の他端側にあってロータ軸152に貫通される部分には、雌ねじ部が形成されており、前述のロータ軸152の雄ねじ部が螺合される。更に、支持部材153の他端側の外周面には、螺旋状の突状からなるガイドレールが一体に形成されている。マグネットロータ151が回転すると、ガイドレールに回転可能に螺合したスライダ151aを円周方向に押し回す。これにより、スライダ151aが上限ストッパ(不図示)又は下限ストッパ(不図示)に突き当たり、スライダ151aの回転が規制されるとともに、マグネットロータ151の回転も規制される。これによって、弁体14が最大開度となる位置又は最小開度(あるいは弁閉状態)となる位置を超えて移動されることが規制される。
【0023】
弁ホルダ154は、SUS材で有蓋円筒状に形成され、蓋部分がロータ軸152の一端側端部に中心軸X11に沿って移動可能に連結され、一端側に弁体14を保持した状態で支持部材153に収容されている。ばね受け155は、弁ホルダ154の内側における他端側に配置されたPPS製で丸棒状の部材であり、ばね156によって弁ホルダ154の他端側内面へと押し付けられている。ばね156は、弁ホルダ154の内側においてばね受け155と弁体14との間に圧縮状態で介装されたSUS材製のコイルばねである。
【0024】
マグネットロータ151が、ロータ軸152を弁座131側へと向かわせる向きに回転すると、ロータ軸152とともに弁体14が弁座131側へと移動する。これにより、弁口132の開度が小さくなって流量が減少する。マグネットロータ151が逆向きに回転すると、ロータ軸152とともに弁体14が弁座131から離隔する方向に移動する。これにより、弁口132の開度が大きくなって流量が増大する。
【0025】
図2は、図1に示されているステータコイルユニットを単体で示した断面図である。
【0026】
このステータコイルユニット100は、ロータ軸152を上述のように直線運動するために、ステータコイル112への通電によってマグネットロータ151が回転運動する磁界を発生させる円環状の部材であり、中心軸X11に沿って二段重ねされた2つのコイルユニット110、外部接続部101、封止樹脂102、及びブラケット103を備えている。
【0027】
2つのコイルユニット110は、互いに同一の構成を有しており、各コイルユニット110が、ボビン111、ステータコイル112、ステータヨーク113を備えている。
【0028】
ボビン111は、円筒の両端縁それぞれから円環状のフランジが張り出した形状にPPS樹脂で形成された部材である。ステータコイル112は、ボビン111における両端縁のフランジ相互間に巻回された銅電線である。ステータヨーク113は、亜鉛めっき鋼板により形成され、ボビン111を介してステータコイル112が巻回される部材である。
【0029】
本実施形態では、ステータヨーク113は、外函ヨーク部113aとカバーヨーク部113bを備えている。外函ヨーク部113aは、有蓋円環函状に形成され、内側にボビン111及びステータコイル112を収める部位である。このとき、有蓋円環函状の内周側は、他端側から中心軸X11に沿って延出する複数の磁極歯113a-1が円環状に配列された形状となっている。カバーヨーク部113bは、外函ヨーク部113aにおける円環状開口部を塞ぐ概ね円環板状に形成された部位である。更に、このカバーヨーク部113bにおける円環板状の内周縁には、中心軸X11に沿って延出する複数の磁極歯113b-1が、外函ヨーク部113aにおける複数の磁極歯113a-1と互い違いの配置となるように円環状に配列されている。ステータコイル112が巻き回されたボビン111は、互い違いの円環状に並ぶこれら2種類の磁極歯113a-1,113b-1に外挿された状態でステータヨーク113の内側に収められる。
【0030】
ステータコイルユニット100では、各々がこのように構成された2つのコイルユニット110が、互いのカバーヨーク部113bが重なるように二段重ねされている。そして、各コイルユニット110におけるステータコイル112からの延出電線が外部接続部101に接続されている。延出電線の端部には端子112aが接続されており、その端子112aが、外部接続部101において外部引出し電線101bに繋がるコネクタ101aにグロメット101cを挟んで接続されている。
【0031】
このように2つのコイルユニット110が二段重ねされ、外部接続部101のコネクタ101aに接続された構造物が封止樹脂102によってモールドされて一体化されている。2つのコイルユニット110の内側の一部から外部接続部101の外側に掛けては、PPS樹脂による硬質封止樹脂102aでモールドされている。また、外部接続部101におけるコネクタ101aの周囲から外部引出し電線101bの根本に掛かる部分は、ポリウレタン樹脂による軟質封止樹脂102bでモールドされている。
【0032】
ブラケット103は、ステータコイルユニット100をケース11に固定する部材である。図1に示されているように、ケース11の外周面には係止凹部11aが、複数箇所形成されている。これら複数箇所の係止凹部11aのうちの何れかにブラケット103に設けられた凸部が係止することで、ステータコイルユニット100が、ケース11内のマグネットロータ151を囲むようにケース11に外挿された状態で固定される。
【0033】
ここで、本実施形態では、ステータコイルユニット100におけるステータヨーク113には防錆手段が設けられ、この防錆手段がベンゾトリアゾール系の被膜となっている。このベンゾトリアゾール系の被膜(防錆手段)は、以下に図3図6を参照して説明する複数の手法によりステータヨーク113に形成される。
【0034】
図3は、図1及び図2に示されているステータコイルユニットのステータヨークに防錆手段としてベンゾトリアゾール系の被膜を形成する第1形成手法を示す模式図である。
【0035】
この図3に示されている第1形成手法では、組立状態のステータコイルユニット100に対し、ベンゾトリアゾールを含む防錆剤を水やアルコールなどに溶かした溶液LQ1が、散布器A1を用いてステータコイルユニット100に散布される。そして、散布後の乾燥を経て、ステータヨーク113における、円環の上面、下面、外周面、及び、内周に互い違いの円環状に並ぶ磁極歯113a-1,113b-1の各表面に、ベンゾトリアゾール系の被膜が形成されることとなる。
【0036】
図4は、図1及び図2に示されているステータコイルユニットのステータヨークに防錆手段としてベンゾトリアゾール系の被膜を形成する第2形成手法を示す模式図である。
【0037】
この図4に示されている第2形成手法では、ベンゾトリアゾールを含む防錆シートA2が用いられる。第2形成手法では、組立状態のステータコイルユニット100がこの防錆シートA2に包まれて放置される。この放置中に、防錆シートA2からの揮発によりベンゾトリアゾールを含む防錆剤がステータヨーク113における、円環の上面、下面、外周面、及び、内周の磁極歯113a-1,113b-1の各表面に付着して被膜が形成されることとなる。
【0038】
図5は、図1及び図2に示されているステータコイルユニットのステータヨークに防錆手段としてベンゾトリアゾール系の被膜を形成する第3形成手法を示す模式図である。
【0039】
この図5に示されている第3形成手法では、ベンゾトリアゾールを含む防錆剤を水やアルコールなどに溶かした溶液LQ1が溶液槽A3に溜められ、組立状態のステータコイルユニット100がこの溶液LQ1に浸漬される。このとき、ステータコイルユニット100において外部引出し電線101bの根本を含む電線引出し端部100aは、溶液LQ1には漬けられずに露出状態に置かれる。一定時間の浸漬後に、ステータコイルユニット100が溶液LQ1から取り出され、乾燥される。以上の一連の作業により、ステータヨーク113における、円環の上面、下面、外周面、及び、内周に互い違いの円環状に並ぶ磁極歯113a-1,113b-1の各表面に、ベンゾトリアゾール系の被膜が形成されることとなる。
【0040】
図6は、図1及び図2に示されているステータコイルユニットのステータヨークに防錆手段としてベンゾトリアゾール系の被膜を形成する第4形成手法を示す模式図である。
【0041】
この図6に示されている第4形成手法では、ベンゾトリアゾールを含む防錆剤(粉末)が添加されたスラリーSL1を吹付器A4から吹き付ける湿式ショットブラストが用いられる。このとき、第4形成手法では、吹付対象がステータコイルユニット100ではなく、ステータヨーク113へと組立てられる前の外函ヨーク部113aとカバーヨーク部113bとなっている。図6(A)には、外函ヨーク部113aに対する湿式ショットブラストが示され、図6(B)には、カバーヨーク部113bに対する湿式ショットブラストが示されている。各湿式ショットブラストは、ステータコイルユニット100を構成する2個の外函ヨーク部113a及び2個のカバーヨーク部113bが、それぞれ並べられた状態で行われ、外函ヨーク部113a及びカバーヨーク部113bの向きは、適時に変えて、外函ヨーク部113a及びカバーヨーク部113bの全面にスラリーSL1を吹き付ける。このような湿式ショットブラストによってスラリーSL1が吹き付けられた後に、乾燥が行われて、各外函ヨーク部113a及び各カバーヨーク部113bそれぞれの表面に、ベンゾトリアゾール系の被膜が形成されることとなる。
【0042】
尚、図3図5の例では、第1~第3形成手法の処理対象が組立状態のステータコイルユニット100となっている。しかしながら、これら第1~第3形成手法においても、図6に示されているように組立前の外函ヨーク部113aとカバーヨーク部113bを処理対象としてもよい。
【0043】
以上に説明した手法により、ステータヨーク113には、次のような箇所にベンゾトリアゾール系の被膜が形成されることとなる。
【0044】
図7は、ステータヨークにおいてベンゾトリアゾール系の被膜が形成される箇所を示した図である。
【0045】
ステータヨーク113をなす外函ヨーク部113a及びカバーヨーク部113bは、亜鉛めっき鋼板を用いたプレス加工によって形成される。このとき、外函ヨーク部113a及びカバーヨーク部113bそれぞれにおける打抜き部分の周縁が、めっき層のない破断面113a-2,113b-2となる。このような破断面113a-2,113b-2は、めっき層の保護を受けられないために、防錆・耐食性能の点で他の箇所よりも不利となりがちである。本実施形態では、上述した第1~第4形成手法により、上記の破断面113a-2,113b-2を含む外函ヨーク部113a及びカバーヨーク部113bの一部表面又は全体表面にベンゾトリアゾール系の被膜が形成される。
【0046】
更に、本実施形態では、ステータヨーク113には、ベンゾトリアゾール系の被膜(防錆手段)の形成に先立って、当該被膜との密着強化手段が設けられる。ここにいう密着強化手段としては、被膜形成の前に例えばUV照射によってステータヨーク113の表面に形成されるCOOH、COO、CO、OH等の官能基が一例として挙げられる。
【0047】
次に、ベンゾトリアゾール系の被膜形成によって防錆・耐食性能がどのように高められるかについて、実験例に基づいて説明する。この実験では、第1~第3の3種類のステータヨークを実験サンプルとして用い、液中ヒートショック(-30℃⇔80℃)を50サイクルから300サイクル実行して腐食観察を行った。
【0048】
第1実験サンプルは、SECC(Steel Electrolytic Cold Commercial)の電気亜鉛めっき鋼板でステータヨークを形成し、上述したベンゾトリアゾール系の被膜形成は未実施としたものである。
【0049】
第2実験サンプルは、SECCでステータヨークを形成し、組立状態のステータコイルユニットに対し上述したベンゾトリアゾール系の被膜形成を行ったものである。このときのベンゾトリアゾール系の被膜形成は、図3に示されている散布器A1を用いた第1形成手法によって行われたものである。
【0050】
第3実験サンプルは、SPCC(Steel Plate Cold Commercial)の冷間圧延鋼板でステータヨークを形成し、形成後に電気亜鉛めっきを実施したものに第2実験サンプル同様に第1形成手法によるベンゾトリアゾール系の被膜形成を行ったものである。
【0051】
これらの実験サンプルのうち、第2実験サンプルと第3実験サンプルが上述の防錆手段が設けられた実施形態に対応している。第3実験サンプルは、ステータヨークの形成後に電気亜鉛めっきを後めっきとして実施したものであり、その分、高価なものとなっている。第1~第3実験サンプルの液中ヒートショックにおける腐食観察の結果は、以下の表1に示す通りとなった。
【0052】
【表1】
【0053】
まず、防錆手段としてのベンゾトリアゾール系の被膜形成が無い第1実験サンプルでは、50サイクルの段階で赤錆が発生し、その後は赤錆が増大し続ける結果となった。第2実験サンプルでは、200サイクルの段階で破断面に若干の赤錆が発生したものの、後めっきを実施した高価な第3実験サンプルと比べても遜色の無い防錆・耐食性能が得られている。
【0054】
以上に説明した実施形態のステータコイルユニット100及び流量調整弁1によれば、次のような効果を得ることができる。即ち、本実施形態によれば、高価なNiを含有しためっき等を用いなくとも、ステータヨーク113について、ベンゾトリアゾール系の被膜による防錆手段を設けることで防錆・耐食性能を高めることができる。そして、この防錆手段による効果を見越して安価なめっき鋼板でステータヨーク113を形成することが可能となることから、製造コストを抑えることができる。また、ステータコイルユニット100の完成品に対して、後工程で耐食性を向上させることができるので、顧客用途に応じて耐食性を向上することが可能となる。このように、本実施形態によれば、防錆・耐食性能を高めつつ製造コストを抑えることができる。尚、上述の実験例では、第1形成手法のベンゾトリアゾール系の被膜形成による液中ヒートショックにおける腐食観察の結果を示したが、この他の第2形成手法から第4形成手法においても、同様の防錆・耐食性能が得られる。
【0055】
ここで、本実施形態では、ステータヨーク113は、めっき層のない破断面113a-2,113b-2を有し、該破断面113a-2,113b-2に上記の防錆手段が設けられている。この構成によれば、例えばめっき鋼板からのプレス成型等によって破断面113a-2,113b-2が生じたとしても、高価な後めっきを行わずに防錆手段によって破断面113a-2,113b-2の防錆・耐食性能を安価に高めることができる。
【0056】
また、本実施形態では、ステータヨーク113には、防錆手段との密着強化手段がさらに設けられている。この構成によれば、防錆手段としてのベンゾトリアゾール系の被膜の密着性が密着強化手段によって高められるので、防錆・耐食性能を一層高めることができる。
【0057】
尚、以上に説明した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、これに限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によっても尚本発明のステータコイルユニット及び流量調整弁の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【0058】
例えば、上述した実施形態では、流量調整弁の一例として、ステータコイルユニット100で弁体駆動機構15のマグネットロータ151を回転させて弁体14を駆動する電動弁としての流量調整弁1が例示されている。しかしながら、流量調整弁は、このような電動弁に限るものではなく、ステータヨークとしての外函部材を備えたステータコイルユニットで駆動棒を直動させるソレノイドによって弁体を駆動する電磁弁(電磁式流量調整弁、電磁式開閉弁、電磁式流路切換弁)であってもよい。また、電動弁の場合でも、その具体的構造は、図1に示された構造に限るものではなく、任意の構造を採用し得るものである。
【0059】
また、上述した実施形態では、ステータコイルユニットの一例として、図2に示された構造を有したステータコイルユニット100が例示されている。しかしながら、ステータコイルユニットは、この図示の構造を有するものに限るものではなく、ボビンと、ステータコイルと、ステータヨークとを備えたものであれば、任意の構造を採用し得るものである。
【0060】
また、上述した実施形態では、ステータヨークの一例として、めっき層のない破断面113a-2,113b-2を有し、該破断面113a-2,113b-2に上記の防錆手段が設けられたステータヨーク113が例示されている。しかしながら、ステータヨークは、これに限るものではなく、破断面を有さずに、任意の一部箇所や全体に防錆手段が設けられたものであってもよい。ただし、破断面113a-2,113b-2に防錆手段が設けられる構造を採用することで、プレス成型等といった破断面を生じさせる可能性のある加工法を用いることができ、その場合でも防錆・耐食性能を安価に高めることができる点は上述した通りである。
【0061】
また、本実施形態では、ステータヨークの一例として、防錆手段との密着強化手段がさらに設けられたステータヨーク113が例示されている。しかしながら、ステータヨークは、これに限るものではなく、密着強化手段を設けることなく防錆手段が設けられたものであってもよい。ただし、密着強化手段を設けることで防錆手段としてのベンゾトリアゾール系の被膜の密着性が密着強化手段によって高められるので、防錆・耐食性能を一層高めることができる点は上述した通りである。尚、上述の実施形態では、この密着強化手段の一例として、UV照射によってステータヨーク113の表面に形成される官能基が例示されている。しかしながら、密着強化手段は、これに限るものではなく、ベンゾトリアゾール系の被膜の密着性を高めることができるものであれば、任意の手段を採用し得るものである。
【符号の説明】
【0062】
1 流量調整弁
11 ケース
11a 係止凹部
12 配管継手ハウジング
13 弁本体
14 弁体
15 弁体駆動機構
100 ステータコイルユニット
100a 電線引出し端部
101 外部接続部
101a コネクタ
101b 外部引出し電線
101c グロメット
102 封止樹脂
102a 硬質封止樹脂
102b 軟質封止樹脂
103 ブラケット
110 コイルユニット
111 ボビン
112 ステータコイル
112a 端子
113 ステータヨーク
113a 外函ヨーク部
113a-1,113b-1 磁極歯
113a-2,113b-2 破断面
113b カバーヨーク部
121 接続口
122a,122b 流路
123,124 Oリング
131 弁座
132 弁口
133 ガイド本体
151 マグネットロータ
151a スライダ
152 ロータ軸
152a ブッシュ
153 支持部材
153a 固定部
154 弁ホルダ
155 ばね受け
156 ばね
A1 散布器
A2 防錆シート
A3 溶液槽
A4 吹付器
LQ1 溶液
SL1 スラリー
X11 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7