(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025160565
(43)【公開日】2025-10-23
(54)【発明の名称】化粧シート、化粧部材及び化粧シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20251016BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20251016BHJP
E04F 15/16 20060101ALI20251016BHJP
E04F 15/10 20060101ALI20251016BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B7/023
E04F15/16 A
E04F15/10 104A
E04F15/10 104E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063152
(22)【出願日】2024-04-10
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】明石 彩
(72)【発明者】
【氏名】野口 祥太
(72)【発明者】
【氏名】緒方 夢人
(72)【発明者】
【氏名】平形 政菜
【テーマコード(参考)】
2E220
4F100
【Fターム(参考)】
2E220AA11
2E220AA33
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(57)【要約】
【課題】建材に使用される木材や石材等の表面の質感に近い質感を持ち、優れた意匠性を有する化粧シートを提供する。
【解決手段】化粧シート1は、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に順に積層された絵柄層3、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5と、着色熱可塑性樹脂層2の他方の面に積層され、所定波長の光に対して他の光よりも光吸収性を有し、且つ着色熱可塑性樹脂層2よりも光吸収性を有する所定の材料が絵柄層3の絵柄と同調して配置されたグロスマット発現用柄部6と、表面保護層5の、平面視でグロスマット発現用柄部6と重なる部分に形成された鏡面領域5aを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色樹脂層の一方の面に順に積層された絵柄層、透明樹脂層及び表面保護層と、
前記着色樹脂層の他方の面に前記絵柄層の絵柄と同調して配置され、所定の波長の光に対して他の波長の光よりも光吸収性を有し且つ当該所定の波長の光に対して前記着色樹脂層よりも光吸収性を有する所定の材料で形成されたグロスマット発現用柄部と、
を備え、
前記表面保護層の、平面視で前記所定の材料が配置された部分と重なる位置に、鏡面領域を備えることを特徴とする化粧シート。
【請求項2】
前記表面保護層の、前記鏡面領域を除いた領域である非鏡面領域に、凹凸形状が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の化粧シート。
【請求項3】
前記表面保護層の、前記鏡面領域と、当該鏡面領域を除いた領域である非鏡面領域との光沢度差が3以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化粧シート。
【請求項4】
前記鏡面領域の光沢度は12以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化粧シート。
【請求項5】
前記所定の材料は、カーボンブラックを有する墨インキを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化粧シート。
【請求項6】
基材と、
当該基材の少なくとも一方の面に設けられた請求項1又は請求項2に記載の化粧シートと、を備え、
前記基材は、木質基材、樹脂基材、不燃基材及び金属基材のうちいずれかであることを特徴とする化粧部材。
【請求項7】
着色樹脂層、絵柄層、透明樹脂層及び表面保護層をこの順に積層する工程と、
前記着色樹脂層の他方の面の前記絵柄層の絵柄と同調した位置に、所定波長の光を他の波長の光よりも吸収し且つ前記着色樹脂層よりも吸収する特性を有する所定の材料を用いてグロスマット発現用柄部を形成する工程と、
前記積層する工程及び前記グロスマット発現用柄部を形成する工程の後に、前記所定波長の光のパワーが他の波長の光のパワーよりも大きい波長の光を照射する工程と、
当該光を照射する工程の後に、前記表面保護層に、当該表面保護層の表面を鏡面にする鏡面加工を施して鏡面領域を形成する工程と、を備えることを特徴とする化粧シートの製造方法。
【請求項8】
前記鏡面加工は、前記表面保護層に鏡面からなる鏡面版を版押しする工程であることを特徴とする請求項7に記載の化粧シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シート、化粧部材及び化粧シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合板や、MDF(中質繊維板)、パーティクルボード等の木質基材、樹脂基材、無機不燃基材、金属基材等に化粧シートを貼り合わせた化粧材が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、化粧シートの意匠としては、木材や石材等の表面が模されることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、化粧シートは、本物の木材や石材等と比較すると、表面の質感が平坦になりやすい。実際の木材や石材は、表面の材質や構造等の違いによって場所ごとに凹凸に差があり質感の差が存在する。質感が違う部分では、色味も異なることが多いが、化粧シートではその表現がされておらず、意匠面では高価な本物の方が優れている。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、建材に使用される木材や石材等の表面の質感に近い質感を持ち、耐久性に優れた意匠性を有する化粧シート、化粧部材及び化粧シートの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、着色樹脂層の一方の面に順に積層された絵柄層、透明樹脂層及び表面保護層と、着色樹脂層の他方の面に絵柄層の絵柄と同調して配置され、所定の波長の光に対して他の波長の光よりも光吸収性を有し且つ所定の波長の光に対して着色樹脂層よりも光吸収性を有する所定の材料で形成されたグロスマット発現用柄部と、を備え、表面保護層の、平面視で所定の材料が配置された部分と重なる位置に、鏡面領域を備える化粧シートが提供される。
【0007】
また、本発明の他の態様によれば、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられた上記態様の化粧シートと、を備え、基材は、木質基材、樹脂基材、不燃基材及び金属基材のうちいずれかである化粧部材が提供される。
【0008】
さらに、本発明の他の態様によれば、着色樹脂層、絵柄層、透明樹脂層及び表面保護層をこの順に積層する工程と、着色樹脂層の他方の面の絵柄層の絵柄と同調した位置に、所定波長の光を他の波長の光よりも吸収し且つ着色樹脂層よりも吸収する特性を有する所定の材料を用いてグロスマット発現用柄部を形成する工程と、積層する工程及びグロスマット発現用柄部を形成する工程の後に、所定波長の光のパワーが他の波長の光のパワーよりも大きい波長の光を照射する工程と、光を照射する工程の後に、表面保護層に、表面保護層の表面を鏡面にする鏡面加工を施して鏡面領域を形成する工程と、を備える化粧シートの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、建材に使用される木材や石材などの表面の質感に近い質感を持ち、耐久性に優れた意匠性を有する化粧シート及び化粧部材を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る化粧シートの一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る化粧シートの製造工程の一例を示す工程図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る化粧部材の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本技術の実施形態を説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。本開示の範囲内にあるものであれば、必ずしも図面に示す順に積層してある必要はない。またこの図面に記載されていない層が付加されていても良い。また、以下に示す実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本開示の技術的思想は、構成部品の材質、形状、及び構造等が下記のものに特定されるものではない。本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
また、以下の説明における「左右」や「上下」の方向は、単に説明の便宜上の定義であって、本開示の技術的思想を限定するものではない。よって、例えば、紙面を90度回転すれば「左右」と「上下」とは交換して読まれ、紙面を180度回転すれば「左」が「右」になり、「右」が「左」になることは勿論である。
【0013】
〔化粧シートの構成〕
本発明の一実施形態に係る化粧シート1は、例えば
図1に示すように、着色熱可塑性樹脂層(着色樹脂層)2と、絵柄層3と、透明熱可塑性樹脂層(透明樹脂層)4と、表面保護層5とがこの順に積層して形成され、表面保護層5には、鏡面領域5aが形成されている。また、着色熱可塑性樹脂層2の、絵柄層3とは逆側の面には、グロスマット発現用柄部6が形成され、グロスマット発現用柄部6及び着色熱可塑性樹脂層2を覆うようにプライマー層7が形成されている。
【0014】
〔着色熱可塑性樹脂層〕
着色熱可塑性樹脂層2は、例えばポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等が挙げられる。なかでも環境適合性や加工性、価格の点でポリオレフィン系樹脂を好ましく用いることができる。樹脂のグレードや組成は、その他にシーティングの容易さや印刷適性、曲げ加工に対する適性を考慮して選択することができる。
【0015】
着色熱可塑性樹脂層2は、絵柄層3の下地色として色相を適宜、選択することができる。着色熱可塑性樹脂層2は、例えば熱可塑性樹脂のシーティングに際して、顔料等の着色剤を混合、又は練りこむ等をしておくことで着色することができる。或いはグロスマット発現用柄部6を設ける前にベタインキ層として、コーティングあるいは印刷の手法を用いて着色熱可塑性樹脂層を設けることもできる。
着色熱可塑性樹脂層2の厚みは、特に限定されるものではない。
【0016】
〔絵柄層〕
絵柄層3は、化粧シート1に意匠性を付与するために、絵柄模様が印刷された印刷層である。絵柄層3の形成方法としては、既知の印刷手法を採用できる。印刷手法は、特に限定されるものではないが、生産性、絵柄の品質を考慮すれば、グラビア印刷法が好ましい。また例えば、着色熱可塑性樹脂層2が巻取りの状態で用意できる場合には、ロールツーロールの印刷装置を用いることで、絵柄層3の形成のための印刷を行うことができる。これらの他にも、印刷手法としては、例えば、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法、転写シートからの転写印刷法等が挙げられる。このような印刷手法を用いる場合、絵柄層3の絵柄模様は、通常の黄色、赤色、青色及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成することができる他、絵柄模様を構成する個々の色の板を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成することができる。
【0017】
また、絵柄層3の絵柄模様は、床材又は建具としての意匠性を考慮して任意の絵柄模様を採用すればよい。例えば、大理石等の石材の床をイメージして、大理石の石目等を絵柄模様とすることもできる。また、例えば、木質系の絵柄であれば、各種木目、コルクを絵柄模様とすることもできる。また、例えば、天然材料の絵柄模様以外にも、これらをモチーフとした人工的絵柄模様や幾何学模様等の人工的絵柄模様も用いることができる。これらの他にも、絵柄模様としては、例えば、年輪断面の春材領域及び秋材領域、導管部等から構成される木目模様、レザー(皮シボ)模様、大理石、花崗岩、砂岩等の石材表面の石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様、草花模様、風景、キャラクター等が挙げられる。
【0018】
印刷インキは、溶剤と、着色剤、バインダー樹脂等の固形分との混合物である。
溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の石油系有機溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸-2-メトキシエチル、酢酸-2-エトキシエチル等のエステル系有機溶剤;メチルアルコール、エチルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系有機溶剤;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系有機溶剤;ジクロロメタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の塩素系有機溶剤;水等の無機溶剤等が挙げられる。溶剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
また、バインダー樹脂としては、塩素系樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ニトロセルロース樹脂(硝化綿)、酢酸セルロース樹脂等が挙げられる。塩素系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、エチレン-塩化ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体等のポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化プロピレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリルは、アクリル又はメタクリルの意味である。バインダー樹脂は、1種の単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
【0020】
また、着色剤としては、例えば、カーボンブラック、鉄黒、チタン白(酸化チタン)、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料;キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料等が挙げられる。着色剤は、1種の単独でもよいし、2種以上を組み合わせでもよい。
ここで、印刷インキに含まれる溶剤は、最終的に揮発する。そのため、絵柄層3は、主として、着色剤、バインダー樹脂等の固形分により形成される。
【0021】
また、印刷インキは、その他の成分として、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等を含んでもよい。印刷インキとしては、印刷方式に応じたインキを採用すればよい。特に、着色熱可塑性樹脂層2に対する密着性や印刷適性、床材又は建具としての耐候性を考慮して選択することが好ましい。絵柄層3の厚さは、絵柄層3に求められる装飾性、化粧シート1の三次元成形性等を考慮して適宜調整できる。絵柄層3の厚さは、通常1μm以上1mm以下、好ましくは2μm以上0.1mm以下、さらに好ましくは2μm以上50μm以下である。
【0022】
絵柄層3と透明熱可塑性樹脂層4との接着性向上を目的として、絵柄層3の透明熱可塑性樹脂層4と接する側の面に接着層(不図示)を設けてもよい。これらの接着を強固にすることによって、化粧シート1に対し、曲面や直角面に追随する曲げ加工性を付与することができる。接着層(不図示)に用いる樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、2液硬化型ウレタン系樹脂を採用できる。また、接着性樹脂をウレタン系接着剤により絵柄層3に接着してもよい。接着層(不図示)に用いる樹脂の塗布には、例えば、コーティング装置、グラビア印刷装置を採用できる。
【0023】
また、化粧シート1の奥行感や、輝度感といった意匠効果を好適に付与することを目的として、絵柄層3と透明熱可塑性樹脂層4との間に光輝性層(不図示)を設けてもよい。光輝性層(不図示)は、光輝性顔料及びバインダー樹脂を含むことが好ましい。光輝性顔料としては、パール顔料及び金属顔料等が挙げられる。特に、パール顔料は、光輝性層の光透過率が低下することを抑制できるため、絵柄層3の視認性を損なわないため好ましい。
【0024】
パール顔料は、真珠光沢を付与し得る顔料である。例えば、母体粒子の表面を金属酸化物で被覆したものが挙げられる。母体粒子としては、雲母等の鱗片状粒子が好ましい。金属酸化物としては、チタン、鉄、ジルコニウム、ケイ素、アルミニウム及びセリウム等金属の酸化物が挙げられる。金属酸化物は、1種単独でもよいし、2種類以上であってもよい。具体例としては、雲母チタン、酸化鉄被覆雲母、酸化鉄被覆雲母チタン、紺青被覆雲母チタン、紺青-酸化鉄被覆雲母チタン、酸化クロム被覆雲母チタン、カルミン被覆雲母チタン、有機顔料被覆雲母チタン、酸化チタン被覆雲母、酸化チタン被覆合成マイカ等の酸化物被覆雲母;酸化チタン被覆ガラス粉末、酸化鉄被覆ガラス粉末等の酸化物被覆ガラス粉末;酸化チタン被覆アルミニウム粉末等の酸化物被覆金属粒子;塩基性炭酸鉛、砒酸水素鉛、酸化塩化ビスマス等の鱗片状箔片;魚鱗粉、貝殻片、真珠片等が挙げられる。
【0025】
また、金属顔料としては、アルミニウム、真鍮、ステンレス鋼、錫、亜鉛、銅、ニッケル、金粉及び銀等の金属、これらの金属の合金等からなる顔料が挙げられる。金属顔料は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
光輝性顔料の平均粒子径は、優れた意匠効果を付与する観点から、例えば、グラビア印刷を用いて光輝性層を形成する場合には、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。同様の観点から、[光輝性顔料の平均粒子径/光輝性層の厚み]の比は、0.01以上15以下であることが好ましく、0.5以上10以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50として求めることができる値である。
【0027】
また、バインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂、硬化型樹脂組成物の硬化物等が挙げられ、耐久性の観点から硬化型樹脂組成物の硬化物が好ましい。硬化型樹脂組成物の硬化物としては、熱硬化型樹脂組成物の硬化物及び電離放射線硬化型樹脂組成物の硬化物が挙げられる。層間密着性の観点からは、熱硬化型樹脂組成物の硬化物が好ましい。
【0028】
光輝性層に用いられる熱硬化型樹脂組成物としては、ポリエステル樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、ポリウレタン樹脂組成物、アミノアルキッド樹脂組成物、メラミン樹脂組成物、グアナミン樹脂組成物、尿素樹脂組成物及び熱硬化型アクリル樹脂組成物等が挙げられる。これら熱硬化型樹脂組成物は、各樹脂を構成するモノマー及び/又はプレポリマーと、必要に応じて添加する硬化剤等が挙げられる。光輝性層に用いられる電離放射線硬化型樹脂組成物としては、後述する表面保護層5の電離放射線硬化型樹脂組成物と同様のものを用いることができる。
【0029】
光輝性層中における光輝性顔料の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上90質量部以下であることが好ましく、50質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。光輝性顔料の含有量を10質量部以上とすることにより、艶感を充分に付与することができ、90質量部以下とすることにより、絵柄層3の視認性が損なわれることを抑制できる。同様の観点から、光輝性層の厚みは、1μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。
【0030】
光輝性層は、付与したい意匠によって任意のパターンを形成することができる。例えば、木目模様、レザー模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、幾何学図形、文字、記号、抽象模様、草花模様、風景、キャラクター等が挙げられる。また、任意のパターンは、意匠効果をより高めるために、濃淡を有することが好ましい。濃淡は、網点の大小や網点の厚みから形成してもよいが、網点の粗密から形成すること(つまり、網点の大きさは均一として網点の密度で濃淡を形成すること)が好ましい。
【0031】
光輝性層は、例えば、光輝性顔料及びバインダー樹脂を含む塗布液を、グラビア印刷等の汎用の印刷手段で形成できる。なお、光輝性層の濃淡を網点の粗密から形成する場合、印刷版の網点をFM(frequency modulation)スクリーンによって形成すればよい。
【0032】
〔透明熱可塑性樹脂層〕
透明熱可塑性樹脂層4は、意匠的に厚みや深みを出すとともに、化粧シート1の耐候性、耐磨耗性能が向上するように、絵柄層3を保護して良好な表面物性を付与するための樹脂層である。透明熱可塑性樹脂層4の材料としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂)を用いることができる。特に、環境適合性、加工性、価格の点で、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。また、樹脂のグレードや組成は、環境適合性、加工性、価格の他にも、シーティングの容易さ、印刷適性、曲げ加工に対する適性を考慮して選択することができる。曲げ加工に対する適性としては、曲げ部の白化や割れが発生しないことを考慮して選択することが重要である。
【0033】
透明熱可塑性樹脂層4の形成方法としては、ラミネート手法を採用することができる。また、例えば、透明熱可塑性樹脂層4と接着層(不図示)とを同時に形成する場合、共押し出しで両者を同時に押し出して形成する方法を採用できる。
透明熱可塑性樹脂層4の厚みは、特に限定されるものではない。
【0034】
〔表面保護層〕
表面保護層5は、化粧シート1に耐磨耗性等の表面物性を付与するための層である。また、表面保護層5は、化粧シート1の表面の光沢を調節するための層でもある。表面保護層5は、単層でもよく、多層でもよい。例えば、表面保護層5として、透明熱可塑性樹脂層4の上に、第1表面保護層(不図示)及び第2表面保護層(不図示)の2層をこの順に設けることもできる。第1表面保護層(不図示)および第2表面保護層(不図示)からなる表面保護層5を設ける場合には、それぞれの層を、硬化型樹脂の種類に応じて、既知のコーティング装置、熱乾燥装置、電離放射線照射装置を用いて塗布、塗膜の硬化を行えばよい。
【0035】
表面保護層5は、硬化型樹脂を主成分とする。すなわち、表面保護層5の樹脂成分が実質的に硬化型樹脂から構成されることが好ましい。実質的とは、例えば、樹脂全体を100質量部とした場合に80質量部以上を指す。表面保護層5には、必要に応じて、耐侯剤、可塑剤、安定剤、充填剤、分散剤、染料、顔料等の着色剤、溶剤等を含んでもよい。
【0036】
表面保護層5の材料は、特に限定されるものではなく、例えば、電離放射線硬化型樹脂、2液硬化型ウレタン系樹脂を採用できる。電離放射線硬化型樹脂としては、特に限定されるものではない。例えば、赤外線、紫外線、電子線等の電離放射線の照射により重合架橋反応可能なラジカル重合性二重結合を分子中に含むプレポリマー(オリゴマーを含む)および/又はモノマーを主成分とする透明性樹脂を採用できる。これらのプレポリマー又はモノマーは、単体又は複数を混合して使用できる。具体的には、プレポリマー又はモノマーとしては、分子中に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基等のラジカル重合性不飽和基、エポキシ基等のカチオン重合性官能基等を有する化合物が挙げられる。また、ポリエンとポリチオールとの組み合わせによるポリエン/チオール系のプレポリマーも好ましい。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基の意味である。
【0037】
ラジカル重合性不飽和基を有するプレポリマーとしては、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの分子量としては、250~10万程度が好ましい。
【0038】
また、ラジカル重合性不飽和基を有するモノマーとしては、例えば、単官能モノマーとして、メチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、多官能モノマーとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイドトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
また、カチオン重合性官能基を有するプレポリマーとしては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ化合物等のエポキシ系樹脂、脂肪酸系ビニルエーテル、芳香族系ビニルエーテル等のビニルエーテル系樹脂のプレポリマーが挙げられる。
また、ポリエン系のプレポリマーとしては、例えば、ジオールおよびジイソシアネートによるポリウレタンの両端にアリルアルコールを付加したものが挙げられる。また、チオール系のプレポリマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラチオグリコレート等のポリチオールが挙げられる。
【0040】
電離放射線としては、例えば、電離放射線硬化型樹脂(組成物)中の分子を硬化反応させ得るエネルギーを有する電磁波又は荷電粒子を採用できる。硬化反応としては、例えば、架橋硬化反応が挙げられる。また、紫外線源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト、メタルハライドランプ等の光源を採用できる。紫外線の波長としては、例えば、190nm以上380nm以下が好ましい。また、電子線源としては、例えば、コッククロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の電子線加速器を採用できる。特に、100keV以上1000keV以下のエネルギーをもつ電子(より好ましくは100keV以上300keV以下のエネルギーをもつ電子)を照射できるものが好ましい。
【0041】
また、2液硬化型ウレタン系樹脂は、特に限定されるものではない。例えば、主剤としてOH基を有するポリオール成分と、硬化剤成分としてイソシアネート成分とを含むものを採用できる。OH基を有するポリオール成分としては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、エポキシポリオールが挙げられる。また、イソシアネート成分としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メタキシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0042】
また、表面保護層5は、アクリル系樹脂組成物を主成分として形成されていてもよく、電離放射線硬化型樹脂とアクリル系樹脂組成物との両方または、電離放射線硬化型樹脂を主成分として形成されていてもよい。
表面保護層5の厚みは、特に限定されるものではない。
【0043】
〔鏡面領域〕
表面保護層5の表面には、所与の意匠性を付与するために、表面が鏡面である鏡面領域5aが形成されている。
鏡面領域5aの形成方法としては、フラットな鏡面版を版押しする方法を適用することができる。
【0044】
〔非鏡面領域〕
表面保護層5の鏡面領域5aを除く領域である非鏡面領域5bは、鏡面加工がされていない領域である。
この非鏡面領域5bは、鏡面加工がされていなければよく、例えば、凹凸模様が形成されていてもよい。凹凸模様としては、例えば、木目板導管溝、石板表面凹凸(花崗岩劈開面等)、布表面テクスチャア、梨地、砂目、ヘアライン、万線条溝が挙げられる。
【0045】
非鏡面領域5bの凹凸模様の形成方法としては、例えば、エンボス加工を採用できる。エンボス加工の方法は、特に限定されない。例えば、公知の枚葉式のエンボス機、輪転式のエンボス機を採用できる。これにより、実際の木材や石材といった本物に近い良好な質感を化粧シート1に付与することができる。
【0046】
〔グロスマット発現用柄部〕
グロスマット発現用柄部6は、所定波長の光に対して他の波長の光よりも光吸収性を有する材料であり、且つ所定の波長の光に対して着色熱可塑性樹脂層2よりも光吸収性の高い所定の材料で形成され、例えば赤外線吸収作用を有する材料で形成される。つまり、グロスマット発現用柄部6として赤外線透過率が低い材料を使用しており、且つ他の層と比較して赤外線透過率が顕著に低い材料を使用している。グロスマット発現用柄部6は、例えば、カーボンブラックを有する墨インキを含む材料で形成され、ウレタン系印刷インキ等で形成される。
【0047】
グロスマット発現用柄部6は、着色熱可塑性樹脂層2の絵柄層3とは逆側の、絵柄層3の絵柄と同調する位置に配置される。例えば、大理石調の絵柄層3である場合には、平面視で絵柄層3のベースとなる色調である部分と重なる位置にグロスマット発現用柄部6が形成される。なお、ここでいう同調とは平面視でグロスマット発現用柄部6と絵柄層3の絵柄とが重なる位置に形成されていることを言う。
【0048】
グロスマット発現用柄部6の厚みは、後述の鏡面加工時に、表面保護層5に鏡面形状を十分に形成することができる程度に透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を軟化させることができる厚みであればよい。また、十分なグロスマット効果を得るためには、平面視でグロスマット発現用柄部6が形成された部分と、形成されていない部分との光沢度差が5以上あることが好ましく、すなわち画像濃度水準が60%以上であることが好ましい。
【0049】
〔プライマー層〕
プライマー層7は、下地となる層であって、化粧シート1を貼り付ける図示しない基材との密着性及び耐食性を向上させるための層である。プライマー層7は、着色熱可塑性樹脂層2の絵柄層3とは逆側の面に、グロスマット発現用柄部6を覆うように形成される。
プライマー層7は、例えば、ポリエステルウレタン樹脂等のポリエステル系樹脂、有機添加剤、顔料等を用いて形成される。プライマー層7には、耐食性を向上させる目的で防錆顔料を配合してもよい。プライマー層7の厚さは、例えば、1μm以上10μm以下の範囲内である。
【0050】
〔化粧シートの製造方法〕
次に、本実施形態に係る化粧シートの製造方法の一例を、
図2を伴って説明する。
まず、着色熱可塑性樹脂層2を形成する。例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂からなる、厚さ50μmの着色フィルムを着色熱可塑性樹脂層2として用いる(
図2(a))。
【0051】
次に、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面の上に、例えばウレタン系印刷インキを用いて絵柄層3を印刷する。
次に、着色熱可塑性樹脂層2の、絵柄層3とは逆側の面に、グロスマット発現用柄部6を形成する。例えばカーボンブラックを有する墨インキを含む、ウレタン系印刷インキを用いて絵柄層3の絵柄と同調する所定の位置にグロスマット発現用柄部6を形成する(
図2(b))。
【0052】
次に、グロスマット発現用柄部6を含む着色熱可塑性樹脂層2の上に、グロスマット発現用柄部6同士の隙間を埋めると共に、その上面を覆うようにして、例えばポリエステルウレタン樹脂からなる、プライマー層7を形成する(
図2(c))。
【0053】
次に、絵柄層3の、着色熱可塑性樹脂層2とは逆側の面の上に、透明熱可塑性樹脂層4として例えば厚さ80μmのPP(ポリプロピレン)樹脂と、例えば、アクリル系樹脂組成物を主成分とする表面保護層5とを積層する。例えば押出ラミネート法により透明熱可塑性樹脂層4を積層した後、表面保護層5を積層する。
【0054】
これにより、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に、絵柄層3と、透明熱可塑性樹脂層4と、表面保護層5とがこの順に積層される(
図2(d))。
なお、非鏡面領域5bに凹凸形状を設ける場合には、透明熱可塑性樹脂層4を積層する際に、ラミネートとエンボス付与とを同時に行う押出ラミネート同時エンボス法を採用し、透明熱可塑性樹脂層4に梨地等をエンボス加工するようにしてもよい。
【0055】
また、絵柄層3と透明熱可塑性樹脂層4との間に、接着層を設けてもよく、絵柄層3に塗布したウレタン系接着剤とウレタン系接着剤に積層した接着性樹脂とを、接着層として設けてもよい。
【0056】
続いて、これら各層が積層された
図2(d)に示す積層体全体に表面保護層5側から赤外線照射を行い(
図2(e))、この照射の直後に表面保護層5の表面に鏡面版を取り付けたロールを押し当てる(
図2(f))。これによって、平面視で表面保護層5のうち、グロスマット発現用柄部6と重なる領域は凹凸が潰されて鏡面状となって鏡面領域5aが形成され、グロスマット発現用柄部6と重ならない部分は凹凸が残った非鏡面領域5bとなり、化粧シート1が形成される。
【0057】
つまり、グロスマット発現用柄部6は、赤外線吸収特性を有する墨インキで形成されている。また、グロスマット発現用柄部6は、他の層と比較して赤外線透過率が顕著に低い材料を使用している。そのため、平面視でグロスマット発現用柄部6が形成された領域の赤外線透過率に比較して、グロスマット発現用柄部6が形成されていない領域の赤外線透過率はより高くなり、平面視で
図2(d)に示す積層体において赤外線透過率に差が生じる。そのため、積層体に赤外線照射を行うと、平面視で表面保護層5の、グロスマット発現用柄部6と重なる部分、すなわち赤外線吸収率が高い部分は、グロスマット発現用柄部6と重ならない部分と比較して透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5が軟化しやすい。つまり、赤外線照射を行った後の透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5には、軟化しやすい部分と軟化しにくい部分とが存在する。そのため、この状態で表面保護層5に鏡面版を版押しすると、軟化した部分は鏡面が形成されやすく、軟化しにくい部分は鏡面が形成されにくい。つまり、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5の軟化した部分、すなわち、平面視でグロスマット発現用柄部6と重なる部分には鏡面が形成されやすい。その結果、平面視で表面保護層5のグロスマット発現用柄部6と重なる位置のみにグロスマット発現用柄部6と同調した鏡面領域5aが形成され易くなる。
【0058】
これによって、絵柄層3と同調した位置に鏡面領域5aを形成することができ、すなわち、高精度な位置決め操作を行うことなく、絵柄層3と同調した鏡面領域5aを容易に作成することができる。そして、このように表面保護層5に、鏡面領域5aと、非鏡面領域5bとが存在することから、グロスマットが発現することになる。また、透明熱可塑性樹脂層4を積層する際に、押出しラミネート同時エンボス法を用いて透明熱可塑性樹脂層4にエンボス加工を行った場合には、鏡面である鏡面領域5aとエンボス加工が施された非鏡面領域5bとが形成されるため、より意匠性の高いグロスマットが発現することになる。
【0059】
なお、赤外線照射によりグロスマット発現用柄部6が保持する熱エネルギは、積層体を構成する各層の赤外線透過率や反射率により影響を受けることが考えられるが、他の層が保持する熱エネルギは、グロスマット発現用柄部6が形成された領域及び形成されていない領域に関わらず一様となる。また、赤外線照射により各層が保持する熱エネルギは、グロスマット発現用柄部6における吸収エネルギに比較して微小であり、無視できる程度である。そのため、他の層の赤外線透過率や反射率が、グロスマットの発現に与える影響は無視できる程度とみなすことができ、グロスマット発現用柄部6が形成された領域が保持する熱エネルギと、グロスマット発現用柄部6が形成されていない領域が保持する熱エネルギとの相対差によってグロスマットが発現するとみなすことができる。
【0060】
なお、赤外線照射を行った後に表面保護層5に鏡面版を版押しするタイミングは、赤外線照射を行った直後に限るものではなく、表面保護層5の表面に版押しすることで、赤外線照射により軟化した部分に選択的に鏡面形状を形成することができるタイミングであればよい。
また、表面保護層5を作成する工程と、赤外線照射を行う工程との間に、他の工程が含まれていてもよく、要は、赤外線照射は、表面保護層5が形成されている状態で行われればよい。
【0061】
〔本実施形態の効果〕
(1)本実施形態に係る化粧シート1は、鏡面領域5aと非鏡面領域5bとを設けることで、グロスマット表現を行っているため、グロスマットの柄取れ等が生じることを抑制することができる。つまり、例えば艶調節層を設けることでグロスマット意匠性を発現させる場合等には、摩耗等により艶調節層が剥がれ、グロスマット意匠性が低下する可能性がある。これに対し、鏡面領域5aと非鏡面領域5bとを設けることでグロスマット表現を発現させているため、化粧シート1の表面強度を向上させることができる。また、このように、表面強度を向上させることができるため、例えば床材等の化粧シートとして適用することもできる。
【0062】
また、グロスマット発現用柄部6を、絵柄層3の絵柄と同調させて設けているため、絵柄層3の絵柄と同調した鏡面領域5aを形成することができ、絵柄と同調したグロスマット効果を容易に発現させることができる。さらに、グロスマット発現用柄部6の絵柄層3とは逆側の面に設けているため、グロスマット発現用柄部6に例えば墨インキが含まれる場合であってもグロスマット発現用柄部6の色味が化粧シート1の表面側に与える影響を抑制することができ、すなわち、淡色での同調グロスマット表現が可能となる。
【0063】
(2)また、表面保護層5の、鏡面領域5aと、非鏡面領域5bとの光沢値差が「3」より大きいため、グロスマット意匠性を十分発現させることができる。
(3)また、非鏡面領域5bに凹凸形状を形成することで、より一層グロスマット意匠性を向上させることができる。
【0064】
(4)本実施形態に係る化粧シート1の製造方法によれば、各層が積層された積層体に赤外線照射を行った後に表面保護層に鏡面版を版押しすることで、表面保護層5の、グロスマット発現用柄部6と重なる部分のみに鏡面領域5aを形成するができる。つまり、鏡面領域5aを形成するための位置決め等を高精度に行わなくとも、所望の位置に容易に鏡面領域5aを形成することができる。その結果、優れた意匠性を有する化粧シート1を容易に形成することができる。
【0065】
〔変形例〕
(1)上記実施形態においては、グロスマット発現用柄部6として墨インキを含む材料を用い、赤外線照射を行うことで、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を部分的に軟化させる場合について説明したがこれに限るものではない。グロスマット発現用柄部6の材料として所定波長の光に対して他の波長の光よりも光吸収性を有し、且つ着色熱可塑性樹脂層2よりも光吸収性を有する成分からなるITO(スズドープ酸化インジウム)やATO(アンチモンドープ酸化スズ)等を含む材料を用い、所定波長の光を照射する光源を用いることで、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を部分的に軟化させるようにしてもよい。
【0066】
(2)上記実施形態においては、非鏡面領域5bに凹凸形状を形成する場合について説明したが、凹凸形状を形成しなくてもよい。つまり、透明熱可塑性樹脂層4の上に表面保護層5を積層したとき、表面保護層5の表面は鏡面ではなく凹凸が生じた状態である。そのため、鏡面版を版押ししたとき、鏡面領域5aは鏡面となるが、非鏡面領域5bは軟化しにくいため凹凸が残った状態となる。その結果、鏡面領域5aと非鏡面領域5bとに光沢度差が生じるため、この場合もグロスマット表現を発現させることができる。
【0067】
(3)上記実施形態では、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に絵柄層3を積層し、続いて着色熱可塑性樹脂層2の他方の面にグロスマット発現用柄部6及びプライマー層7を形成し、その後、絵柄層3の着色熱可塑性樹脂層2とは逆側の面に、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を形成しているが、これに限るものではない。例えば、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に絵柄層3、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5を順に形成した後、他方の面にグロスマット発現用柄部6及びプライマー層7を順に形成してもよい。
【0068】
(4)また、
図3に示すように、上記実施形態による化粧シート1を基材9に貼り合せて、化粧部材10としてもよい。化粧部材10において化粧シート1は基材9の少なくとも一方の面側に設けられていればよく、両面に設けてもよい。
【0069】
〔基材〕
基材9としては、木質基材、樹脂基材、不燃基材及び金属基材のうちのいずれかを使用することができる。木質基材としては、例えば木材単板、木材合板、集成材、パーティクルボード、中密度繊維板、硬質繊維板を採用することができる。樹脂基材としては、例えば、プラスチックなどの樹脂、またはそれらの複合材料を採用することができる。不燃基材としては、例えば不燃仕様の鋼板又は建設省告示1400号で定められた不燃材料から構成された基材を採用することができる。また、金属基材としては、鋼板・アルミ板などを採用することができる。また、基材9は、プラスチックなどの樹脂、またはそれらの複合材料であっても良い。すなわち、基材9は樹脂基材であってもよい。また基材9は、例えば不燃仕様の鋼板又は建設省告示1400号で定められた不燃材料から構成された不燃基材であってもよい。
【0070】
このように、化粧部材10は、基材9と、基材9の少なくとも一方の面側に設けられた化粧シート1と、を備える。また基材9として、木質基材、樹脂基材、不燃基材または金属基材のうちいずれかを用いることができる。
【0071】
上述のように、化粧シート1は、プライマー層7を有しており、基材9との接着性を確保することができるため、化粧部材10が、化粧シート1側と基材9側との間で剥離することを抑制することができる。また、鏡面領域5aを形成する際に、熱を加えることで化粧シート1の表面強度を向上させているため、この化粧シート1を用いることで表面強度を担保しつつ、良好な曲げ加工適正を有する化粧部材10を得ることができる。つまり、グロスマット意匠性の高い化粧シート1を用いることで、グロスマット意匠性の高い化粧部材10を容易に得ることができる。
【実施例0072】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明する。なお、本発明は下記例に制限されるものではない。
(実施例の化粧シートの作成)
実施例の化粧シートは、グロスマット発現用柄部6が異なること以外、同一の手順で作成した。
具体的には、厚さ50μmのPBT層からなる着色フィルムを着色熱可塑性樹脂層2として用い、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面に、ウレタン系印刷インキを用いて印刷し絵柄層3を形成した。
【0073】
次に、着色熱可塑性樹脂層2の他方の面に、ウレタン系インキからなる墨インキをベタ印刷し、グロスマット発現用柄部6を形成した。グロスマット発現用柄部6の印刷方法については後述する。
【0074】
次に、絵柄層3aの上にウレタン系接着剤を塗布した。
次に、接着性樹脂と透明熱可塑性樹脂層4となるPP樹脂とを共押出ラミネート同時エンボス法により積層し、梨地をエンボス加工した。これにより、絵柄層3aの上に厚さ80μmの透明熱可塑性樹脂層4を積層し、透明熱可塑性樹脂層4の絵柄層3aとは逆側の面に梨地を形成した。次に、透明熱可塑性樹脂層4の上にアクリル系樹脂組成物を主成分とする樹脂を塗工し、透明熱可塑性樹脂層4の上に表面保護層5を積層した。
【0075】
続いて、着色熱可塑性樹脂層2の一方の面にグロスマット発現用柄部6が形成され、着色熱可塑性樹脂層2の他方の面に絵柄層3、透明熱可塑性樹脂層4及び表面保護層5が形成された積層体に対してアフターエンボス工程を行い、化粧シートを得た。具体的には、この積層体を赤外線ヒーターにより加熱し、その後、鏡面版を表面保護層5に押し当てて鏡面領域5aを形成し、実施例の化粧シートを得た。
【0076】
グロスマット発現用柄部6は、画像濃度水準を変化させた印刷版を用いて墨インキをベタ印刷して形成することで、画像濃度水準の異なるグロスマット発現用柄部6を有する複数の化粧シートを作成した。画像濃度水準は、0%、20%、40%、60%、70%、80%、90%とした。なお、ここでいう画像濃度水準とは、網点面積率(画像の中で網点部分が占める面積の割合を百分率で示したものを意味する。
【0077】
画像濃度水準が20%~90%である化粧シートは、化粧シートの鏡面領域5a部分に相当し、画像濃度水準が0%である化粧シートは、化粧シートの非鏡面領域5b部分に相当する。また、画像濃度水準が0%である化粧シートは、グロスマット発現用柄部6を有していない化粧シートに相当する。
【0078】
(評価)
画像濃度水準の異なる実施例の化粧シートそれぞれについて、グロスマット表現の見え方に影響する、下記の効果項目について評価を行った。
【0079】
〔光沢度〕
画像濃度水準の異なる実施例の各化粧シート(画像濃度水準が0%~90%)について、BYK社製のmicro-TRI-glossを用いて、入射角60°で鏡面光沢度測定を行い、光沢度を得た。
〔光沢度差〕
各化粧シートの光沢度をもとに、画像濃度水準が20%~90%である化粧シートそれぞれについて、各化粧シートの光沢度と画像濃度水準が0%である化粧シートの光沢度との差を、光沢度差として求めた。
〔表面粗さ〕
画像濃度水準の異なる実施例の各化粧シート(画像濃度水準が0%~90%)について、表面粗さの指標として、算術平均高さ(Sa)と最大高さ(Sz)とを測定した。
【0080】
具体的には、ISO25178に準拠した装置であるオリンパス株式会社製のレーザー顕微鏡(LEXT OLS4100)を用いて表面観察画像(650μm×650μm)を取得した。次いで、ISO25178に準拠して所定の観察箇所の表面の算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)を測定した。観察倍率は200倍(対物レンズ:20倍)とし、観察モードは「高精度」とし、カットオフ値はλc=800.00μm、λs=0とした。また、測定の際は観察した領域内から無作為に選択した3点を用いて傾き補正を行った。
【0081】
〔表面粗さの差〕
各化粧シートの表面粗さをもとに、画像濃度水準が20%~90%である化粧シートそれぞれについて、算術平均高さ(Sa)と画像濃度水準が0%である化粧シートの算術平均高さ(Sa)との差を、算術平均高さの差ΔGM(Sa)として求めた。同様に、各化粧シートの最大高さ(Sz)と画像濃度水準が0%である化粧シートの最大高さ(Sz)との差を、最大高さの差ΔGM(Sz)として求めた。
【0082】
〔GM意匠性(官能評価)〕
目視により、グロスマットの発現具合を観察し、グロスマットの発現具合と光沢度差とをもとに、GM意匠性を評価した。
【0083】
評価基準は、以下の通りである。
◎:光沢度差が「6」よりも大きく、生産上のブレを加味しても安定してグロスマットが発現している。
○:光沢度差が「3」よりも大きく、グロスマットが確認可能である。
×:グロスマット表現が視認不可である。
評価及び測定結果を、表1に示す。
【0084】
【0085】
表1において、画像濃度水準が20%~90%である化粧シートの光沢度は、鏡面領域5aと非鏡面領域5bとを備える化粧シートにおける鏡面領域5aの光沢度に相当し、画像濃度水準が0%である化粧シートの光沢度は非鏡面領域5bの光沢度に相当する。そのため、光沢度差は、鏡面領域5aと非鏡面領域5bとを備える化粧シートにおける鏡面領域5aと非鏡面領域5bとの光沢度差を示す。
【0086】
同様に、画像濃度水準が20%~90%である化粧シートの算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)は、鏡面領域5aと非鏡面領域5bとを備える化粧シートにおける鏡面領域5aの算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)に相当し、画像濃度水準が0%である化粧シートの算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)は、非鏡面領域5bの算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)に相当する。そのため、算術平均高さの差ΔGM(Sa)及び最大高さの差ΔGM(Sz)は、非鏡面領域5bの算術平均高さ(Sa)及び最大高さ(Sz)は、鏡面領域5aと非鏡面領域5bとを備える化粧シートにおける鏡面領域5aと非鏡面領域5bとの算術平均高さの差ΔGM(Sa)及び最大高さの差ΔGM(Sz)を示す。
【0087】
表1に示すように、画像濃度水準が0%である化粧シートよりも、画像濃度水準が20%~90%である化粧シートの方が光沢度は大きく、算術平均高さ及び最大高さは小さくい。すなわち、グロスマット発現用柄部を設けた方が、鏡面版による鏡面加工がし易く「12以上」の光沢度を得ることができることが確認され、また、画像濃度水準が高いほど鏡面加工がし易く、鏡面の光沢度がより高くなることが確認された。また、画像濃度水準が0%である化粧シートと、画像濃度水準が20%~90%である化粧シートとの光沢度差が「3」以上、つまり、鏡面領域5aと非鏡面領域5bとの光沢度差が「3」以上であればグロスマットが発現することが確認できた。同様に、算術平均高さの差ΔGM(Sa)つまり鏡面領域5aと非鏡面領域5bとの算術平均高さの差が「0.6」以上であり、鏡面領域5aと非鏡面領域5bとの最大高さの差(ΔGM(Sz))が「3」以上であれば、グロスマットが発現することが確認された。
【0088】
また、画像濃度水準によって、鏡面版の版押しに伴う表面保護層の表面の賦形状態が異なり、表面粗さの相違から光の散乱性が変化し、画像濃度水準が異なることに伴い、表面保護層の表面の光沢値が異なることが確認された。そのため、グロスマット発現用柄部がある部分と、ない部分との表面粗さの違いによって、グロスマットが発現できることが確認された。
また、実際の、官能評価においても、十分なグロスマット意匠性が得られることが確認された。
【0089】
なお、本発明は、例えば、以下のような構成をとることができる。
(1)
着色樹脂層の一方の面に順に積層された絵柄層、透明樹脂層及び表面保護層と、
前記着色樹脂層の他方の面に前記絵柄層の絵柄と同調して配置され、所定の波長の光に対して他の波長の光よりも光吸収性を有し且つ当該所定の波長の光に対して前記着色樹脂層よりも光吸収性を有する所定の材料で形成されたグロスマット発現用柄部と、
を備え、
前記表面保護層の、平面視で前記所定の材料が配置された部分と重なる位置に、鏡面領域を備えることを特徴とする化粧シート。
(2)
前記表面保護層の、前記鏡面領域を除いた領域である非鏡面領域に、凹凸形状が形成されていることを特徴とする上記(1)に記載の化粧シート。
(3)
前記表面保護層の、前記鏡面領域と、当該鏡面領域を除いた領域である非鏡面領域との光沢度差が3以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の化粧シート。
(4)
前記鏡面領域の光沢度は12以上であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の化粧シート。
(5)
前記所定の材料は、カーボンブラックを有する墨インキを含むことを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の化粧シート。
(6)
基材と、
当該基材の少なくとも一方の面に設けられた上記(1)から(5)のいずれか一項に記載の化粧シートと、を備え、
前記基材は、木質基材、樹脂基材、不燃基材及び金属基材のうちいずれかであることを特徴とする化粧部材。
(7)
着色樹脂層、絵柄層、透明樹脂層及び表面保護層をこの順に積層する工程と、
前記着色樹脂層の他方の面の前記絵柄層の絵柄と同調した位置に、所定波長の光を他の波長の光よりも吸収し且つ前記着色樹脂層よりも吸収する特性を有する所定の材料を用いてグロスマット発現用柄部を形成する工程と、
前記積層する工程及び前記グロスマット発現用柄部を形成する工程の後に、前記所定波長の光のパワーが他の波長の光のパワーよりも大きい波長の光を照射する工程と、
当該光を照射する工程の後に、前記表面保護層に、当該表面保護層の表面を鏡面にする鏡面加工を施して鏡面領域を形成する工程と、を備えることを特徴とする化粧シートの製造方法。
(8)
前記鏡面加工は、前記表面保護層に鏡面からなる鏡面版を版押しする工程であることを特徴とする上記(7)に記載の化粧シートの製造方法。