(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025161060
(43)【公開日】2025-10-24
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及びタイヤ加硫金型
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20251017BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20251017BHJP
【FI】
B60C11/03 300E
B29C33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024063945
(22)【出願日】2024-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 信行
(72)【発明者】
【氏名】栗山 ひかる
【テーマコード(参考)】
3D131
4F202
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BC17
3D131BC44
3D131EC14V
3D131EC14X
4F202AH20
4F202CA21
4F202CU01
4F202CU02
(57)【要約】
【課題】トレッド面の溝に起因した騒音を低減するとともに悪路走破性能を向上できる空気入りタイヤ及びタイヤ加硫金型を提供する。
【解決手段】空気入りタイヤは、トレッド面3fに設けられた主溝7を備える。主溝7は、その主溝7の溝縁74と主溝7の溝底面71との間に凹凸領域70を含む。凹凸領域70では、溝長さ方向及び溝深さ方向に沿って突起10が並べられている。突起10は、主溝7の溝壁面72から立ち上がって溝長さ方向を向いた立ち上がり面11と、溝壁面72に対する突出高さを漸減させながら溝長さ方向に延びた傾斜頂面12とを有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド面に設けられた溝を備え、
前記溝は、前記溝の溝縁と前記溝の溝底面との間に凹凸領域を含み、
前記凹凸領域では、溝長さ方向及び溝深さ方向に沿って突起が並べられており、
前記突起は、前記溝の溝壁面から立ち上がって溝長さ方向を向いた立ち上がり面と、前記溝壁面に対する突出高さを漸減させながら溝長さ方向に延びた傾斜頂面とを有する空気入りタイヤ。
【請求項2】
溝深さ方向に隣接する前記突起は、前記立ち上がり面の向く方向を揃えて配置されている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
回転方向が指定されており、
前記立ち上がり面が蹴り出し側を向いている請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記突起は、矢羽形状に形成されており、前記立ち上がり面を矢羽後端側に有している請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
矢羽形状の方向が同じ前記突起を溝深さ方向に並べてなる突起列が形成され、
溝長さ方向に隣接する前記突起列が溝深さ方向の位相をずらして配置されている請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
矢羽形状の方向が同じ前記突起を溝深さ方向に並べてなる突起列が形成され、
溝長さ方向に隣接する前記突起列が、矢羽形状の方向を互いに反対にしつつ、溝深さ方向の位相を揃えて配置されている請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記溝壁面に対する前記突起の突出高さが0.5mm以下である請求項1~6いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
タイヤのトレッド面に設けられる溝を成形するための突部を備え、
前記突部は、前記溝の溝縁に対応する入隅縁と前記溝の溝底面に対応する頂面との間に凹凸領域を含み、
前記凹凸領域では、溝長さ方向及び溝深さ方向に沿って窪みが並べられており、
前記窪みは、前記突部の側壁面から落ち窪んで溝長さ方向を向いた落ち窪み面と、前記側壁面に対する陥没深さを漸減させながら溝長さ方向に延びた傾斜底面とを有するタイヤ加硫金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤと、空気入りタイヤの加硫成形に用いるタイヤ加硫金型とに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、それぞれ、気柱共鳴音やポンピング音などのトレッド面の溝に起因した騒音を低減することを目的として、その溝の溝壁面に複数の微小突起を形成した空気入りタイヤが記載されている。また、特許文献2に記載の空気入りタイヤでは、マッド性能の向上効果が謳われているものの、微小突起の形状として円錐台状、円柱状、角錐状が挙げられているに過ぎず、泥濘地などでの悪路走破性能に関して改善の余地があると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-96534号公報
【特許文献2】特開2022-128121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、トレッド面の溝に起因した騒音を低減するとともに悪路走破性能を向上できる空気入りタイヤ及びタイヤ加硫金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の空気入りタイヤは、トレッド面に設けられた溝を備え、前記溝は、前記溝の溝縁と前記溝の溝底面との間に凹凸領域を含み、前記凹凸領域では、溝長さ方向及び溝深さ方向に沿って突起が並べられており、前記突起は、前記溝の溝壁面から立ち上がって溝長さ方向を向いた立ち上がり面と、前記溝壁面に対する突出高さを漸減させながら溝長さ方向に延びた傾斜頂面とを有する。
【0006】
本開示のタイヤ加硫金型は、タイヤのトレッド面に設けられる溝を成形するための突部を備え、前記突部は、前記溝の溝縁に対応する入隅縁と前記溝の溝底面に対応する頂面との間に凹凸領域を含み、前記凹凸領域では、溝長さ方向及び溝深さ方向に沿って窪みが並べられており、前記窪みは、前記突部の側壁面から落ち窪んで溝長さ方向を向いた落ち窪み面と、前記側壁面に対する陥没深さを漸減させながら溝長さ方向に延びた傾斜底面とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態の空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図
【
図7】凹凸領域に含まれる三本の突起列を示す拡大図
【
図8】変形例における主溝の溝壁面を正面から見た図
【
図9】変形例における主溝の溝壁面を正面から見た図
【
図11】本実施形態のタイヤ加硫金型の一例を示すタイヤ子午線断面図
【
図13】(A)突部の側壁面を正面から見た図と(B)X-X断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、本実施形態の空気入りタイヤTの一例を示すタイヤ子午線断面図である。空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、そのビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備えた自動車用空気入りタイヤである。トレッド部3の外周面を構成するトレッド面3fには、要求されるタイヤ性能や使用条件に応じたトレッドパターンが形成されている。
【0010】
ここで、タイヤ子午線断面は、タイヤTの中心軸(タイヤ回転軸)を含む平面で切断したときの断面である。タイヤ径方向は、タイヤTの直径に沿った方向である。タイヤTの中心軸に近付く側がタイヤ径方向内側となり、タイヤTの中心軸から離れる側がタイヤ径方向外側となる。タイヤ幅方向は、タイヤTの中心軸と平行な方向である。タイヤTのタイヤ幅方向中央に位置するタイヤ赤道TCに近付く側がタイヤ幅方向内側となり、タイヤ赤道TCから離れる側がタイヤ幅方向外側となる。タイヤ周方向は、タイヤTの中心軸周りの方向である。
【0011】
ビード部1には、環状をなすビードコア1a及びビードフィラー1bが埋設されている。ビードコア1aは、ゴム被覆した鋼線などの収束体により形成されている。ビードフィラー1bは、断面略三角形状のゴムにより形成されており、ビードコア1aのタイヤ径方向外側に配置されている。
【0012】
カーカス層4は、一対のビード部1の間でトロイド状に設けられている。カーカス層4の端部は、ビードコア1a及びビードフィラー1bを挟み込むようにして巻き上げられている。カーカス層4は、タイヤ周方向に対して略直角に延びるカーカスコードをゴム被覆して形成されたカーカスプライにより構成されている。カーカスコードとしては、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維コードが好ましく用いられる。カーカス層4のタイヤ径方向外側にはベルト層5が積層され、ベルト層5のタイヤ径方向外側にはベルト補強層6が積層されている。
【0013】
ベルト層5は、複数枚(本実施形態では2枚)のベルトプライにより構成されている。各ベルトプライは、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるベルトコードをゴム被覆して形成されており、そのベルトコードがプライ間で互いに逆向きに交差するように積層されている。ベルトコードには、スチールコードが好ましく用いられる。ベルト補強層6は、タイヤ周方向に沿って延びる補強コードをゴム被覆して形成された補強プライにより構成されている。補強コードとしては、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維コードが好ましく用いられる。
【0014】
図2は、トレッド面3fに形成されるトレッドパターンの一例を示す平面展開図である。タイヤTは、トレッド面3fにてタイヤ周方向に沿って延びる主溝7を備えている。主溝7は直線状に延在しているが、これに限られず、例えばタイヤ周方向に対して5度以下の角度で傾斜した部分を含んだ形状でもよく、したがってタイヤ周方向に沿ってジグザグ状に延びる溝であってもよい。ジグザグ状に延びる溝の場合は、シースルー領域(タイヤ周方向に見て主溝7の溝壁面72によって遮られることなく見通すことができる領域)を含むことが好ましい。
【0015】
図3は、主溝7のタイヤ子午線断面図である。
図4は、主溝7の溝壁面72を正面から見た図である。
図5は、(A)後述する突起10の三面図と(B)A-A断面図である。B-B,C-C断面は、A-A断面と同じ形状なので図示を省略する。
図6は、突起10の斜視図である。以下で説明する主溝7の構成は、トレッド面3fに設けられた複数の主溝7のうち何れに適用してもよく、全ての主溝7に適用することも可能である。
【0016】
図2に示すように、本実施形態では、タイヤ赤道TCに関して対称なトレッドパターンが採用されている。当該トレッドパターンは、いわゆるブロックパターンであるが、これに限られない。タイヤTは、トレッド面3fに設けられた溝としての主溝7及び横溝8を備える。主溝7はタイヤ周方向に沿って連続して延びており、横溝8はその主溝7と交差する方向に延びている。
【0017】
本実施形態における空気入りタイヤTは、回転方向が指定された回転方向指定型タイヤである。回転方向の指定は、例えばサイドウォール部2の外表面に付された表示により行われる。矢印RD1は回転方向の前方側を示し、車両が前進する際に先に接地する「踏み込み側」に相当する。矢印RD2はタイヤ回転方向の後方側を示し、車両が前進する際に後で接地する「蹴り出し側」に相当する。
【0018】
図3及び4に示すように、主溝7は、溝底面71と、溝底面71からタイヤ径方向外側に延びる一対の溝壁面72とを有する。溝底面71は、溝壁面72に滑らかに連なる断面円弧状の連結面73を含む。連結面73の曲率半径Rは、例えば1.5~2.75mmである。本実施形態では、トレッド面3fと溝壁面72とがなす溝縁74と、連結面73のタイヤ径方向外側端75との間で、溝壁面72が直線状に延びている。タイヤ幅方向における主溝7の溝幅W7は、例えば4.0mm以上、好ましくは6.0mm以上である。タイヤ径方向における主溝7の溝深さD7は、例えば4.0mm以上、好ましくは6.0mm以上である。
【0019】
主溝7は、主溝7の溝縁74と主溝7の溝底面71との間に凹凸領域70を含む。凹凸領域70は少なくとも一方の溝壁面72に形成されていればよいが、本実施形態のように一対の溝壁面72の各々に形成されていることが好ましい。溝底面71には凹凸領域70が形成されていないことが好ましい。凹凸領域70では、溝長さ方向及び溝深さ方向に沿って突起10が並べられている。
図4における左右方向及び上下方向は、それぞれ溝長さ方向(主溝7の場合はタイヤ周方向)及び溝深さ方向(タイヤ径方向)に相当する。
【0020】
突起10は、溝壁面72から立ち上がって溝長さ方向を向いた立ち上がり面11と、溝壁面72に対する突出高さを漸減させながら溝長さ方向に延びた傾斜頂面12とを有する。かかる構成によれば、凹凸領域70に並べられた突起10が溝の内部で生じた音を乱反射することにより、気柱共鳴音やポンピング音などのトレッド面3fの溝に起因した騒音を低減できる。また、その突起10が、上記の如き立ち上がり面11と傾斜頂面12とを有することにより、溝の内部に進入した泥土などに対してトラクションを発揮しやすく、泥濘地などでの悪路走破性能を向上できる。
【0021】
突起10は、溝幅方向内側(溝中心に近付く側)に向けて突出している。溝壁面72に対する突起10の突出高さは、立ち上がり面11の上端で最大となり、立ち上がり面11から離れるにつれて小さくなるように変化している。溝壁面72に対する突起10の突出高さH10(最大高さ)は、主溝7の内部を流れる空気や水の抵抗を抑える観点から、0.5mm以下であることが好ましい。また、上述した騒音の低減効果を確保する観点から、突出高さH10は0.1mm以上であることが好ましい。
【0022】
突起10の突出高さH10が0.1~0.5mm程度に小さい場合は、凹凸領域70における粗面の起伏が適度に小さくなるため、走行時の主溝7での空気抵抗を抑えて燃費性能を向上するうえで都合がよい。これは、走行時に主溝7の内部を流れる空気が凹凸領域70に接触した際に、突起10の頂部で比較的小さな空気渦が発生し、空気の剥離を抑制することで、或いはより後方で空気を剥離させることで、圧力抵抗を低減し得るためである。かかる効果を適切に奏する観点から、溝長さ方向における突起10の配列ピッチP10r(
図7参照)は、突出高さH10の2~8倍が好ましく、2~6倍がより好ましい。
【0023】
溝長さ方向における突起10の長さL10は、突出高さH10よりも大きいことが好ましい。長さL10は、例えば0.8mm以上に設定される。溝長さ方向に並べられる突起10の個数を確保する観点から、長さL10は2.8mm以下であることが好ましい。凹凸領域70では、好ましくは4つ以上、より好ましくは6つ以上の突起10が溝長さ方向に沿って並べられる。
【0024】
溝深さ方向における突起10の長さD10は、突出高さH10よりも大きいことが好ましい。長さD10は、例えば1.0mm以上に設定される。溝深さ方向に並べられる突起10の個数を確保する観点から、長さD10は3.0mm以下であることが好ましい。凹凸領域70では、好ましくは4つ以上、より好ましくは6つ以上の突起10が溝深さ方向に沿って並べられる。本実施形態において、長さD10は、
図5に示す長さE10及び長さF10と同じ大きさに設定されているが、これに限られない。
【0025】
溝壁面72に対する立ち上がり面11の角度θ11は、例えば80度以上に設定される。加硫成形時にタイヤTを金型から取り出すときの脱型し易さを考慮すると、角度θ11は90度以上が好ましく、90度を超えることがより好ましい。角度θ11は、例えば110度以下に設定される。傾斜頂面12は、立ち上がり面11の上端に位置する一端と、溝壁面72に対する突出高さを実質的にゼロとする他端との間で直線状に延びている。傾斜頂面12の他端は、立ち上がり面11よりも低い突出高さで溝壁面72から離れた位置にあってもよい。
【0026】
突起10は、上述した立ち上がり面11と傾斜頂面12とに加えて、更に、溝壁面72から立ち上がって溝深さ方向を向いた一対の側壁面13を有する。側壁面13は、溝深さ方向から見て三角形状に形成されており、本実施形態では後述する矢羽形状の側端Esに配置されている。溝壁面72に対する側壁面13の角度θ13は、例えば80~110度に設定される。溝深さ方向に隣接する突起10の間隔G10(側壁面13同士の間隔)を小さくして突起10の配置密度を高める観点から、角度θ13は実質的に90度であることが好ましい。
【0027】
図4及び6に示すように、溝深さ方向に隣接する突起10は、立ち上がり面11の向く方向を揃えて配置されている。この例では、溝長さ方向の一方側を向いた立ち上がり面11と、溝長さ方向の他方側へ向かって突出高さを漸減させた傾斜頂面12とを有する突起10が溝深さ方向に繰り返し並べられている。かかる構成によれば、所定方向に対する突起10によるトラクションが高められるため、悪路走破性能を向上するうえで都合がよい。溝深さ方向に隣接する突起10の間隔G10は、例えば0.05~0.3mmであり、本実施形態では0.1mmに設定されている。
【0028】
本実施形態では、立ち上がり面11が蹴り出し側(回転方向の後方側RD2)を向いている。したがって、傾斜頂面12は踏み込み側(回転方向の前方側RD1)に向かって突出高さを漸減させている。かかる構成によれば、泥濘地や砂場などの悪路面、または水溜まりなどの濡れた路面を走行する際に、蹴り出し側で掻き出す効果が得られるためトラクションが向上しやすい。また、突起10の突出高さが踏み込み側に向かって漸減することは、主溝7の内部を流れる空気や水の抵抗を抑えるうえで都合がよい。かかる観点から、溝壁面72に対する傾斜頂面12の角度θ12は120度以上であることが好ましく、150度以上であることがより好ましい。
【0029】
溝壁面72を正面から見て、突起10は多角形状に形成されている。本実施形態において、突起10は、矢羽形状(多角形状の一例)に形成されており、立ち上がり面11を矢羽後端Er側に有している。かかる矢羽形状の突起10によれば、泥土などを立ち上がり面11で掻き出す効果を高めてトラクションを発揮しやすく、それでいて溝内を流れる空気や水の抵抗が抑えられる。当該矢羽形状は、溝長さ方向(本実施形態では回転方向の前方側RD1)に凹となる矢羽後端Erと、当該方向に凸となる矢羽先端Efと、それらを連ねるようにして溝長さ方向に延びた一対の側端Esとを含む。
【0030】
図4に示すように、本実施形態では、矢羽形状の方向が同じ突起を溝深さ方向に並べてなる突起列C10が形成されている。かかる突起列C10は、溝深さ方向に沿ってジグザグ状に延在している。凹凸領域70では、溝長さ方向に沿って突起列C10が繰り返し配置されている。
図7は、凹凸領域70に含まれる三本の突起列C10を示す拡大図である。
図7(A)は
図4に示す本実施形態であり、
図7(B)及び(C)はその変形例である。
図7(A)及び(B)は、溝長さ方向に隣接する突起10が立ち上がり面11の向く方向を揃えて配置されている例であり、
図7(C)はそうでない例である。
【0031】
図7(A)の例では、溝長さ方向に隣接する突起列C10が溝深さ方向の位相(ジグザグの位相)をずらして配置されている。このため、溝長さ方向に隣接する突起列C10の間には、立ち上がり面11と傾斜頂面12とで囲まれた空所14が設けられている。かかる構成によれば、空所14に入り込んだ泥土などのせん断効果によりトラクションが高められ、悪路走破性能を良好に向上できる。また、空所14が傾斜頂面12に面していることは、空所14での泥詰まりを防ぐうえで都合がよい。本実施形態では、上記位相を溝深さ方向における突起10の配列ピッチP10cの半分ずらすことで、菱形状の空所14が設けられている。
【0032】
図7(B)の例では、溝長さ方向に隣接する突起列C10が溝深さ方向の位相(ジグザグの位相)を揃えて配置されている。このため、溝長さ方向における突起10の配列ピッチP10rは
図7(A)の例と同じでありながら、立ち上がり面11と傾斜頂面12とで囲まれた空所14が設けられておらず、したがってトラクションを高める上記効果が得られにくい。かかる構成を適用することも可能ではあるが、悪路走破性能を向上する観点から、
図7(A)のように隣接する突起列C10の間で溝深さ方向の位相をずらして配置することが好ましい。
【0033】
図7(C)の例では、溝長さ方向に隣接する突起列C10が、矢羽形状の方向を互いに反対にしつつ、溝深さ方向の位相(ジグザグの位相)を揃えて配置されている。このため、溝長さ方向に隣接する突起列C10の間には、立ち上がり面11で囲まれた空所15と、傾斜頂面12で囲まれた空所16とが設けられている。かかる構成によれば、空所15に入り込んだ泥土などのせん断効果によりトラクションが高められ、悪路走破性能を良好に向上できる。しかも、溝長さ方向における両方向で空所15が立ち上がり面11に面するため、いずれの溝長さ方向に対してもトラクションを高めることができる。
【0034】
気柱共鳴音などの騒音の低減効果を確保する観点から、溝長さ方向における凹凸領域70の長さL70は、溝長さ方向における溝壁面72の長さL72の50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。主溝7の溝壁面72に横溝8が開口している場合、長さL70及び長さL72は、それぞれタイヤ周方向に隣り合う横溝8と横溝8との範囲で測定される。主溝7の溝壁面72に横溝8が開口していない場合、長さL70及び長さL72は、それぞれタイヤ周方向の1周分の範囲で測定される。長さL72は、溝縁74で求められるものとする。
【0035】
本実施形態では、凹凸領域70のタイヤ径方向外側端76が溝縁74に配置され、凹凸領域70のタイヤ径方向内側端77が、溝底面71と溝壁面72とを連結する断面円弧状の連結面73のタイヤ径方向外側端75に配置されている。かかる構成によれば、溝深さ方向における凹凸領域70の大きさを確保しやすいため、気柱共鳴音などの騒音の低減効果や、悪路走破性能を向上する効果が高められる。凹凸領域70の内側端77は、連結面73の外側端75かそれよりもタイヤ径方向外側に位置することが好ましい。
【0036】
図8に示す変形例では、凹凸領域70のタイヤ径方向外側端76が、主溝7の溝縁74からタイヤ径方向内側に離れて配置されている。かかる構成によれば、タイヤ周方向に沿って直線状に延びるエッジ成分が溝縁74に出現するため、横方向に対する主溝7のエッジ効果を高めることができる。溝縁74に対する外側端76の離隔距離D1は、例えば1.0~2.0mmに設定される。
図7の例では離隔距離D1がタイヤ周方向に沿って一定であるが、これに限られず、例えば横溝8に近付くにつれて離隔距離D1が小さくなるように変化してもよい。
【0037】
図9に示す変形例では、凹凸領域70のタイヤ径方向内側端77が、連結面73のタイヤ径方向外側端75からタイヤ径方向外側に離れて配置されている。泥土などに接触する可能性が低い溝底面71ではトラクションに対する寄与が小さいうえ、溝底面71の近傍で泥土が突起10に接触すると泥詰まりを生じる恐れがあるため、このようにして内側端77を溝底面71から遠ざけることが好ましい。連結面73の外側端75に対する内側端77の離隔距離D2は、例えば1.0~2.0mmに設定される。離隔距離D2は、一律に設定されるものに限られず、タイヤ周方向に沿って変化してもよい。離隔距離D2は、上述した離隔距離D1と共に設定することも可能である。
【0038】
本実施形態では、空気入りタイヤTが回転方向指定型タイヤである例を示したが、これに限られず、回転方向が指定されていないタイヤであってもよい。かかる場合には、
図10に示すようなタイヤ赤道TCに関して非対称なトレッドパターンを採用することも可能である。当該トレッドパターンは、いわゆるリブパターンであるが、これに限られない。回転方向が指定されていないタイヤでは、矢羽形状の突起10を並べてなる凹凸領域70を適用するに際して、
図7(C)に示した形態とすることが考えられる。
【0039】
本実施形態では、主溝7が上記の如き凹凸領域70を含む例を示したが、これに代えてまたは加えて、トレッド面3fに設けられた横溝8が上記の如き凹凸領域を含む構成としてもよい。冬用タイヤまたはオールシーズンタイヤ(例えば「M&S」や「M+S」の表記が付されるマッド&スノータイヤ)が備える横溝において、上述した離隔距離D1(
図8参照)を横溝8の溝深さの50%付近(例えば40~60%)とした場合には、摩耗中期までは横溝8の溝縁によるエッジ効果を奏し、それ以降の夏用タイヤとしての機能を果たす段階では、溝壁面の凹凸領域によって悪路走破性能を向上することができる。
【0040】
図11は、空気入りタイヤTの加硫成形に用いられるタイヤ加硫金型Mのタイヤ子午線断面図である。
図11ではタイヤTを破線で示しており、当該タイヤTはタイヤ幅方向を上下に向けて金型Mにセットされている。金型Mは、タイヤTのビード部1が嵌合される一対のビードリングMbと、タイヤTのサイドウォール部2を成形する一対のサイド型部Msと、タイヤTのトレッド部3を成形するトレッド型部Mtとを備える。
【0041】
金型Mは、金型MにセットされたタイヤTの外表面に接するタイヤ成形面Mfを備える。タイヤ成形面Mfは、一対のサイド型部Msの内面と、トレッド型部Mtの内面とを含む。トレッド型部Mtの内面には、トレッドパターンを形成するための凹凸面が設けられている。トレッド型部Mtは、タイヤ周方向に分割された複数のセクターで構成されており、それらが寄り集まって環状に連なっている。金型Mは、かかる分割構造のトレッド型部Mtを備えたセグメンテッドモールドであるが、これに限定されず、例えばトレッド型部の中央部で上下に二分割された2ピースモールドであってもよい。
【0042】
金型Mは、タイヤTのトレッド面3fに設けられる溝を成形するための突部を備える。具体的には、金型Mは、主溝7を成形するための突部9と、横溝8を成形するための突部89(
図13(A)参照)とを備える。加硫成形時には、突部9や突部89を含むタイヤ成形面Mfが未加硫タイヤのトレッド面に押し当てられ、それにより主溝7や横溝8を含むトレッドパターンが形成される。
【0043】
図12は、突部9のタイヤ子午線断面図である。
図13は、(A)突部9の側壁面92を正面から見た図と(B)X-X断面図である。Y-Y,Z-Z断面は、X-X断面と同じ形状なので図示を省略する。突部9は、頂面91と、頂面91からタイヤ径方向外側に延びる一対の側壁面92とを有する。頂面91は、側壁面92に滑らかに連なる断面円弧状の連結面93を含む。突部9は、主溝7の溝縁74に対応する入隅縁94と主溝7の溝底面71に対応する頂面91との間に凹凸領域90を含む。凹凸領域90では、溝長さ方向(突部の長さ方向)及び溝深さ方向(突部の突出方向)に沿って窪み20が並べて配置されている。
【0044】
窪み20は、突部9の側壁面92から落ち窪んで溝長さ方向を向いた落ち窪み面21と、側壁面92に対する陥没深さを漸減させながら溝長さ方向に延びた傾斜底面22とを有する。かかる金型Mを用いた加硫成形により得られる空気入りタイヤTの主溝7は、突部9の凹凸領域90に対応した凹凸領域70を含む。また、その凹凸領域70に並べられた突起10は、落ち窪み面21に対応した立ち上がり面11と、傾斜底面22に対応した傾斜頂面12とを有する。突部9や窪み20に関する好ましい寸法、形状、配置などの詳細については、主溝7や突起10に関する既述の説明を参照できる。
【0045】
上述した実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者によって理解される。
【0046】
[1]
本開示の空気入りタイヤは、トレッド面に設けられた溝を備え、前記溝は、前記溝の溝縁と前記溝の溝底面との間に凹凸領域を含み、前記凹凸領域では、溝長さ方向及び溝深さ方向に沿って突起が並べられており、前記突起は、前記溝の溝壁面から立ち上がって溝長さ方向を向いた立ち上がり面と、前記溝壁面に対する突出高さを漸減させながら溝長さ方向に延びた傾斜頂面とを有する。
【0047】
かかる構成によれば、凹凸領域に並べられた突起が溝の内部で生じた音を乱反射することにより、気柱共鳴音やポンピング音などのトレッド面の溝に起因した騒音を低減できる。また、その突起が、上記の如き立ち上がり面と傾斜頂面とを有することにより、溝の内部に進入した泥土などに対してトラクションを発揮しやすく、泥濘地などでの悪路走破性能を向上できる。
【0048】
[2]
上記[1]の空気入りタイヤにおいて、溝深さ方向に隣接する前記突起は、前記立ち上がり面の向く方向を揃えて配置されていてもよい。かかる構成によれば、所定方向に対する突起10によるトラクションが高められるため、悪路走破性能を向上するうえで都合がよい。
【0049】
[3]
上記[1]または[2]の空気入りタイヤにおいて、回転方向が指定されており、前記立ち上がり面が蹴り出し側を向いている、という構成でもよい。かかる構成によれば、泥濘地や砂場などの悪路面、または水溜まりなどの濡れた路面を走行する際に、蹴り出し側で掻き出す効果が得られるためトラクションが向上しやすい。
【0050】
[4]
上記[1]~[3]いずれか1つの空気入りタイヤにおいて、前記突起は、矢羽形状に形成されており、前記立ち上がり面を矢羽後端側に有している、という構成でもよい。かかる構成によれば、泥土などを立ち上がり面で掻き出す効果を高めてトラクションを発揮しやすく、それでいて溝内を流れる空気や水の抵抗が抑えられる。
【0051】
[5]
上記[4]の空気入りタイヤにおいて、矢羽形状の方向が同じ前記突起を溝深さ方向に並べてなる突起列が形成され、溝長さ方向に隣接する前記突起列が溝深さ方向の位相をずらして配置されている、という構成でもよい。かかる構成によれば、立ち上がり面と傾斜頂面とで囲まれた空所が設けられるため、その空所に入り込んだ泥土などのせん断効果によりトラクションを高めて、悪路走破性能を良好に向上できる。また、空所が傾斜頂面に面することになるので、空所での泥詰まりを防ぐうえで都合がよい。
【0052】
[6]
上記[4]の空気入りタイヤにおいて、矢羽形状の方向が同じ前記突起を溝深さ方向に並べてなる突起列が形成され、溝長さ方向に隣接する前記突起列が、矢羽形状の方向を互いに反対にしつつ、溝深さ方向の位相を揃えて配置されている、という構成でもよい。かかる構成によれば、立ち上がり面で囲まれた空所が設けられるため、その空所に入り込んだ泥土などのせん断効果によりトラクションを高めて、悪路走破性能を良好に向上できる。しかも、溝長さ方向の一方側及び他方側の両方で空所が立ち上がり面に面するため、いずれの溝長さ方向に対してもトラクションを高めることができる。
【0053】
[7]
上記[1]~[6]いずれか1つの空気入りタイヤにおいて、前記溝壁面に対する前記突起の突出高さが0.5mm以下でもよい。このような高さを有する突起は、溝内を流れる空気や水の抵抗を抑えるうえで好ましい。
【0054】
[8]
本開示のタイヤ加硫金型は、タイヤのトレッド面に設けられる溝を成形するための突部を備え、前記突部は、前記溝の溝縁に対応する入隅縁と前記溝の溝底面に対応する頂面との間に凹凸領域を含み、前記凹凸領域では、溝長さ方向及び溝深さ方向に沿って窪みが並べられており、前記窪みは、前記突部の側壁面から落ち窪んで溝長さ方向を向いた落ち窪み面と、前記側壁面に対する陥没深さを漸減させながら溝長さ方向に延びた傾斜底面とを有する。かかる構成によれば、上記の如きトレッド面の溝に起因した騒音を低減するとともに悪路走破性能を向上可能な空気入りタイヤが得られる。
【0055】
本開示の空気入りタイヤは、トレッド面の溝を上記の如く構成したこと以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成でき、従来公知の材料や形状、構造、製法などは何れも採用することが可能である。
【0056】
本開示のタイヤ加硫金型は、トレッド面の溝を成形するための突部を上記の如く構成したこと以外は、通常のタイヤ加硫金型と同等に構成でき、従来公知の材料や形状、構造、機構などは何れも採用することが可能である。
【0057】
本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、更に、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0058】
本開示の空気入りタイヤ及びタイヤ加硫金型は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものではない。本開示の空気入りタイヤ及びタイヤ加硫金型は、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。また、上述した実施形態で採用されている各構成を任意に組み合わせて採用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 ビード部、2 サイドウォール部、3 トレッド部、3f トレッド面、7 主溝、8 横溝、9 突部、10 突起、11 立ち上がり面、12 傾斜頂面、21 落ち窪み面、22 傾斜底面、70 凹凸領域、71 溝底面、72 溝壁面、73 連結面、74 溝縁、90 凹凸領域、91 頂面、92 側壁面、94 入隅縁、C10 突起列、Ef 矢羽先端、Er 矢羽後端