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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025161554
(43)【公開日】2025-10-24
(54)【発明の名称】鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20251017BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20251017BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20251017BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20251017BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20251017BHJP
   B22D 11/16 20060101ALI20251017BHJP
   B22D 11/22 20060101ALI20251017BHJP
   B22D 30/00 20060101ALI20251017BHJP
【FI】
C21D9/00 101W
C22C38/06
C22C38/00 301A
B22D11/124 L
B22D11/00 A
B22D11/16 104P
B22D11/22 Z
B22D30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024064845
(22)【出願日】2024-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】山下 悠衣
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MC01
4E004MC30
4E004NB01
4E004NC01
4E004SE10
(57)【要約】
【課題】連続鋳造鋳片の置き割れの発生を低減可能な技術を開示する。
【解決手段】所定の化学組成を有する鋼の連続鋳造鋳片の冷却過程において、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面における代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で、鋳片に温度分布を付与するための工程を開始し、開始後に(A)当該表面の長手方向に沿って2000mmの長さの間における最高温度と最低温度との差ΔTが150℃以上であること、及び、(B)当該表面の長手方向に沿って2000mmの長さの間における最高温度を有する部分と最低温度を有する部分との間隔I1が180mm以上1000mm以下であること、の2つの条件が満たされるように、当該表面に対して温度分布を付与する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法であって、
前記連続鋳造鋳片の化学組成が、
質量%で、
C:0.03~1.50%、
Si:0.10~2.50%、
Mn:0.30~3.50%、
P:0.200%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.0003~2.5000%、
N:0.0100%以下、及び
O:0.0100%以下を含有し、かつ
0.50以上の炭素当量(Ceq)を有するか、又は、
質量%で、
C:0.03~1.50%、
Si:0.80~2.50%、
Mn:0.30~3.50%、
P:0.200%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.0003~2.5000%、
N:0.0100%以下、及び
O:0.0100%以下を含有し、かつ
0.20以上の炭素当量(Ceq)を有し、
前記連続鋳造鋳片の冷却過程において、前記連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面における代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で、鋳片に温度分布を付与するための工程を開始し、開始後に下記条件(A)及び(B):
(A)前記表面の長手方向に沿って2000mmの長さの間における最高温度と最低温度との差が150℃以上であること、
(B)前記表面の長手方向に沿って2000mmの長さの間における前記最高温度を有する部分と前記最低温度を有する部分との間隔が180mm以上1000mm以下であること、
が満たされるように、前記表面に対して温度分布が付与される、
鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法であって、
前記温度分布を付与するための工程は、
前記連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面における代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で、前記連続鋳造鋳片の長手方向に間隔を有しつつ複数配置された冷片の上に前記連続鋳造鋳片を載せること、
を含む、
鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
自動車用鋼板に代表される高強度用鋼板は、省CO化を目的とした軽量化(薄肉化)が求められるとともに、車両の衝突時における車体等の変形を防ぎ、乗員の安全を確保する観点から強度を高めることが求められている。このような鋼板を用いた部材の素材である鋳片は強度を高める目的として、C、Si及びMnを多く含有しているため、鋳片の靭性が低く、連続鋳造後の鋳片を室温まで冷却するまでに割れが発生しやすいことが知られている。この割れは「置き割れ」と言われている。また、軸受、工具及びばね等の製品の素材として使用される高炭素鋼は、C含有量が多いために、同様に置き割れが発生しやすい。一般的に、鋳片の冷却工程や加熱工程では、鋳片表面と内部との温度差に起因する熱ひずみや、変態に伴う変態ひずみが生じ、応力が発生する。鋳片に生じる応力が高いと、鋳片を冷却する過程で割れが生じることとなる。上記の理由から、従来技術においては、連続鋳造後の鋳片の冷却速度を制御して緩やかに冷却し、鋳片の表面と内部との間にできるだけ温度差を生じさせないようにすることで、冷却過程における鋳片の割れを抑制している(例えば、特許文献1~6)。しかしながら、設備制約上、このような温度制御が困難な場合があることに加え、長時間の冷却に伴い工程逼迫を生じさせる懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-167560号公報
【特許文献2】特開2019-167559号公報
【特許文献3】特開2007-083274号公報
【特許文献4】特開2023-047054号公報
【特許文献5】特開2020-139209号公報
【特許文献6】特開2020-139210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願は、鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法であって、当該鋳片の置き割れの発生を低減可能な新たな方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法であって、
前記連続鋳造鋳片の化学組成が、
質量%で、
C:0.03~1.50%、
Si:0.10~2.50%、
Mn:0.30~3.50%、
P:0.200%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.0003~2.5000%、
N:0.0100%以下、及び
O:0.0100%以下を含有し、かつ
0.50以上の炭素当量(Ceq)を有するか、又は、
質量%で、
C:0.03~1.50%、
Si:0.80~2.50%、
Mn:0.30~3.50%、
P:0.200%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.0003~2.5000%、
N:0.0100%以下、及び
O:0.0100%以下を含有し、かつ
0.20以上の炭素当量(Ceq)を有し、
前記連続鋳造鋳片の冷却過程において、前記連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面における代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で鋳片に温度分布を付与するための工程を開始し、開始後に下記条件(A)及び(B):
(A)前記表面の長手方向に沿って2000mmの長さの間における最高温度と最低温度との差が150℃以上であること、
(B)前記表面の長手方向に沿って2000mmの長さの間における前記最高温度を有する部分と前記最低温度を有する部分との間隔が180mm以上1000mm以下であること、
が満たされるように、前記表面に対して温度分布が付与される、
鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法。
<態様2>
態様1の鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法であって、
前記温度分布を付与するための工程は、
前記連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面における代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で、前記連続鋳造鋳片の長手方向に間隔を有しつつ複数配置された冷片の上に前記連続鋳造鋳片を載せること、
を含む、
鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の方法によれば、連続鋳造鋳片の置き割れの発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の方法による連続鋳造鋳片の表面の温度分布状態の一例を概略的に示している。
図2】本開示の方法の実施形態の一例を概略的に示している。
図3】間隔I1と温度差ΔTが鋳片の応力に及ぼす影響について、計算機を用いて熱応力解析を行った結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
従来技術においては、連続鋳造後の鋳片の冷却速度を制御して緩やかに冷却して、鋳片の表面と内部との間にできるだけ温度差を生じさせないようにすることで、鋳片の置き割れを抑制している。しかしながら、設備制約上、このような温度制御が難しい場合がある。本発明者は、熱応力解析を活用して、鋳片の置き割れを低減可能な鋳片の冷却条件を探索した。その結果、連続鋳造後の鋳片の冷却過程において、鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面に所定の温度分布を付与することで、鋳片の中心に生じる引張残留応力を低減でき、鋳片の置き割れの発生を低減できることを見出した。本開示の技術によれば、従来技術と比較して、鋳片の冷却条件の自由度を高めることも可能となる。以下、本開示の鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法の一実施形態について説明する。
【0009】
本開示の鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法においては、
前記連続鋳造鋳片の化学組成が、
質量%で、
C:0.03~1.50%、
Si:0.10~2.50%、
Mn:0.30~3.50%、
P:0.200%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.0003~2.5000%、
N:0.0100%以下、及び
O:0.0100%以下を含有し、かつ
0.50以上の炭素当量(Ceq)を有するか、又は、
質量%で、
C:0.03~1.50%、
Si:0.80~2.50%、
Mn:0.30~3.50%、
P:0.200%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.0003~2.5000%、
N:0.0100%以下、及び
O:0.0100%以下を含有し、かつ
0.20以上の炭素当量(Ceq)を有することが重要である。
また、本開示の鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法においては、
前記連続鋳造鋳片の冷却過程において、前記連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面における代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で鋳片に温度分布を付与するための工程を開始し、開始後に下記条件(A)及び(B):
(A)前記表面の長手方向に沿って2000mmの長さの間における最高温度と最低温度との差が150℃以上であること、
(B)前記表面の長手方向に沿って2000mmの長さの間における前記最高温度を有する部分と前記最低温度を有する部分との間隔が180mm以上1000mm以下であること、
が満たされるように、前記表面に対して温度分布が付与されることが重要である。
【0010】
1.連続鋳造鋳片の形状
本開示の方法において、連続鋳造鋳片は、スラブであっても、ブルームであっても、ビレットであってもよい。特に、スラブ又はブルームであることが好ましく、スラブであることがより好ましい。鋳片は、連続鋳造方向と直交する断面形状において、幅及び厚みを有し、また、連続鋳造方向に長さを有するものであってよい。鋳片がスラブである場合、その幅は、連続鋳造方向と直交する断面形状における長辺(鋳型長辺と対応)に相当し、その厚みは、当該断面形状における短辺(鋳型短辺と対応)に相当する。また、鋳片がブルームまたはビレットである場合、一般に、スラブに比べてアスペクト比(長辺の長さ/短辺の長さ)が小さい。鋳片がスラブである場合、その幅は、例えば、800mm以上1300mm以下であってもよく、その厚みは、例えば、100mm以上300mm以下であってもよく、その長さは、例えば、6m以上10m以下であってもよい。鋳片がブルームである場合、その幅は、例えば、300mm以上600mm以下であってもよく、その厚みは、例えば、200mm以上400mm以下であってもよく、その長さは、例えば、6m以上10m以下であってもよい。
【0011】
2.連続鋳造鋳片の化学組成
本開示の方法は、C等の必須元素を所定量含み、任意にその他の元素を含む鋼の連続鋳造鋳片の冷却方法に関するものである。連続鋳造鋳片は、例えば、高張力鋼板の素材として用いられるものであってもよく、軸受、工具及びばね等の製品の素材として使用される高炭素鋼であってもよい。本願において「高張力鋼板」とは、引張強さが500MPa以上の鋼板をいう。引張強さは780MPa以上、980MPa以上、1180MPa以上又は1470MPa以上であってよく、2100MPa以下、2000MPa以下又は1900MPa以下であってもよい。尚、鋼板の引張試験は、例えば、JIS Z 2241に準拠し、試験片の長手方向が鋼板の圧延直角方向と平行になる向きからJIS5号試験片を採取して行う。
【0012】
以下に説明される第1実施形態又は第2実施形態に係る化学組成を有する連続鋳造鋳片は、靭性が低く、置き割れが発生しやすいものであるところ、本開示の方法によれば、このような靭性が低い連続鋳造鋳片であっても、置き割れの発生を低減することができる。尚、本明細書において化学組成についての「%」は質量%を意味する。さらに、本明細書において、数値範囲を示す「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0013】
2.1 第1実施形態の基本元素
第1実施形態において、連続鋳造鋳片の化学組成は、質量%で、C:0.03~1.50%、Si:0.10~2.50%、Mn:0.30~3.50%、P:0.200%以下、S:0.020%以下、Al:0.0003~2.5000%、N:0.0100%以下、及び、O:0.0100%以下を含有し、かつ、0.50以上の炭素当量(Ceq)を有する。
【0014】
(C:0.03~1.50%)
Cは鋼の静的強度だけでなく、疲労強度、靭性、延性に影響する最も基本的な元素である。Cの含有量が少な過ぎると鋼の静的強度及び疲労強度が不十分となる場合がある。この点、Cの含有量は0.03%以上である。C含有量は、0.05%以上、又は、0.10%以上であってもよい。一方、Cの含有量が多過ぎると鋼の靭性が過度に劣化し易い。この点、Cの含有量は1.50%以下である。C含有量は、1.30%以下、又は、1.10%以下であってもよい。
【0015】
(Si:0.10~2.50%)
Siは強化能が大きい重要な元素である。高張力鋼を得る場合はSiの濃度を高濃度とするとよい。第1実施形態において、Siの含有量は0.10%以上である。Siの含有量は、0.20%以上又は0.40%以上であってもよい。一方で、Siの含有量が多過ぎると靭性や加工性を劣化させる虞がある。この点、Siの含有量は2.50%以下である。Siの含有量は、2.30%以下又は2.10%以下であってもよい。
【0016】
(Mn:0.30~3.50%)
Mnは焼入れ性を向上させ、冷却速度が不十分な場合でも鋼材の内部まで硬度を確保するのに重要な元素である。高張力鋼を得る場合はMnの濃度を高濃度とするとよい。具体的には、Mnの含有量は0.30%以上である。Mnの含有量は、0.50%以上又は1.00%以上であってもよい。一方で、Mnの含有量が多過ぎると靭性や加工性を劣化させる虞がある。この点、Mnの含有量は3.50%以下である。Mnの含有量は、3.00%以下又は2.50%以下であってもよい。
【0017】
(P:0.200%以下)
Pは、溶鋼の凝固過程において未凝固部へのMn濃化を促進する元素であり、負偏析部のMn濃度を下げ、フェライトの面積率の増加を促す元素であり、少ないほど好ましい。また、Pを過度に含有すると鋼強度は増加する一方で鋼の脆性的な破壊を招く場合がある。この点、Pの含有量は、0.200%以下である。Pの含有量は、0.100%以下、0.050%以下又は0.020%以下であってもよい。一方で、Pの含有量の下限は特に限定されるものではない。Pの含有量は、0%以上又は0.001%以上であってもよい。
【0018】
(S:0.020%以下)
Sは、鋼中でMnS等の非金属介在物を生成し、鋼の延性の低下を招く元素であり、少ないほど好ましい。この点、Sの含有量は0.020%以下である。Sの含有量は、0.010%以下又は0.005%以下であってもよい。一方で、Sの含有量の下限は特に限定されるものではない。Sの含有量は、0%以上又は0.001%以上であってもよい。
【0019】
(Al:0.0003~2.5000%)
Alは、鋼の脱酸剤として作用する元素である。Alの含有量が0.0003%以上である場合に、このような効果が得られ易い。Alの含有量は0.0010%以上又は0.0020%以上であってもよい。一方、Alを過度に含有するとフェライト変態及びベイナイト変態が過度に促進されて鋼の強度が低下する場合がある。この点、Alの含有量は2.5000%以下である。Alの含有量は、2.0000%以下、1.5000%以下又は1.0000%以下であってもよい。
【0020】
(N:0.0100%以下)
Nは、粗大な窒化物を形成し、鋼の加工性を低下させる元素であり、少ないほど好ましい。Nの含有量は0.0100%以下であり、0.0070%以下又は0.0050%以下であってもよく、また、0%以上、0.0001%以上又は0.0010%以上であってもよい。
【0021】
(O:0.0100%以下)
Oは、製造工程で混入し得る元素であり、少ないほど好ましい。しかしながら、Oの含有量を極限にまで低減するためには精錬に時間を要し、生産性の低下を招く。一方で、Oを過度に含有すると、粗大な介在物が形成されて鋼材の靭性を低下させる場合がある。この点、Oの含有量は0.0100%以下である。Oの含有量は、0.0070%以下、0.0050%以下又は0.0030%以下であってもよい。O含有量は、0%以上、0.0005%以上又は0.0010%以上であってもよい。
【0022】
(炭素当量(Ceq):0.50以上)
第1実施形態において、炭素当量(Ceq)は0.50以上である。炭素当量(Ceq)が高いほど、靭性が低下して、置き割れの問題が生じ易いところ、本開示の方法によれば、第1実施形態に係る連続鋳造鋳片の炭素当量(Ceq)が0.50以上である場合でも、鋳片の置き割れの発生を低減することができる。第1実施形態において、炭素当量(Ceq)は、0.55以上又は0.60以上であってもよい。また、炭素当量(Ceq)の上限は特に限定されるものではなく、目的とする鋼の性状に応じて適宜決定され得る。第1実施形態において、炭素当量(Ceq)は、1.50以下、1.30以下、1.10以下、0.90以下又は0.70以下であってもよい。
【0023】
尚、本明細書において、「炭素当量(Ceq)」とは、以下の式(1)にしたがって計算されるものである(JIS G 3475:2014)。
Ceq=[C]+[Si]/24+[Mn]/6+[Ni]/40+[Cr]/5+[Mo]/4+[V]/14 ・・・(1)
上記式(1)において、[C]、[Si]、[Mn]、[Ni]、[Cr]、[Mo]及び[V]は、連続鋳造鋳片における各々の元素の含有量(質量%)である。
【0024】
2.2 第2実施形態の基本元素
第2実施形態において、連続鋳造鋳片の化学組成は、質量%で、C:0.03~1.50%、Si:0.80~2.50%、Mn:0.30~3.50%、P:0.200%以下、S:0.020%以下、Al:0.0003~2.5000%、N:0.0100%以下、及び、O:0.0100%以下を含有し、かつ、0.20以上の炭素当量(Ceq)を有する。
【0025】
第2実施形態において、Cの含有量、Mnの含有量、Pの含有量、Sの含有量、Alの含有量、Nの含有量及びOの含有量については、第1実施形態に係るものと同様であり、ここでは説明を省略する。
【0026】
(Si:0.80~2.50%)
上述の通り、Siは強化能が大きい重要な元素であり、高張力鋼を得る場合はSiの濃度を高濃度とするとよい。第2実施形態において、Siの含有量は0.80%以上である。Siの含有量は、0.90%以上又は1.00%以上であってもよい。一方で、Siの含有量が多過ぎると靭性や加工性を劣化させる虞がある。この点、Siの含有量は2.50%以下である。Siの含有量は、2.30%以下又は2.10%以下であってもよい。
【0027】
(炭素当量(Ceq):0.20以上)
第2実施形態において、炭素当量(Ceq)は0.20以上である。上述の通り、第2実施形態に係るSiの含有量の下限値は、第1実施形態に係るそれよりも大きい。すなわち、炭素当量(Ceq)がある程度小さい場合でも、Siを多量に含むことにより、鋳片の置き割れが問題となり易い。本開示の方法は、このようにSiの含有量が多い一方で、炭素当量(Ceq)が小さいような連続鋳造鋳片についても、置き割れの発生を低減することができる。第2実施形態において、炭素当量(Ceq)は、0.30以上、0.40以上又は0.50以上であってもよい。また、炭素当量(Ceq)の上限は特に限定されるものではなく、目的とする鋼の性状に応じて適宜決定され得る。第2実施形態において、炭素当量(Ceq)は、1.50以下、1.30以下、1.10以下、0.90以下又は0.70以下であってもよい。
【0028】
2.3 任意元素
第1実施形態及び第2実施形態において、連続鋳造鋳片は、上記の基本元素のほか、上記以外の任意元素を含んでいてもよい。任意元素は、本開示の方法の課題解決メカニズムに実質的な影響を与えない。任意元素は含まれなくてもよいため、その下限は0%である。連続鋳造鋳片の化学組成は、例えば、質量%で、Ni:0~0.50%、Cr:0~2.00%、Mo:0~1.50%、V:0~0.500%、Ti:0~0.500%、Nb:0~0.500%、Co:0~0.50%、B:0~0.0100%、Cu:0~0.50%、Te:0~0.500%、W:0~0.10%、Ta:0~0.100%、Hf:0~0.050%、Sn:0~0.050%、Sb:0~0.050%、As:0~0.050%、Mg:0~0.0500%、Ca:0~0.0500%、Zr:0~0.0500%、Bi:0~0.050%、及び、REM:0~0.050%から選ばれる1種以上を含んでいてもよい。尚、上記の任意元素の種類及び含有量は単なる例示であり、鋳片に含まれ得る任意元素の種類や量は、上記のもの限定されない。尚、「REM」とは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)、及びランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)の17元素の総称であり、「REM含有量」はこれら元素の合計含有量である。
【0029】
3.連続鋳造鋳片の冷却過程における鋳片表面の温度分布
本開示の方法においては、上述の化学組成を有する連続鋳造鋳片の冷却過程において、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面における代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で、鋳片に温度分布を付与するための工程を開始し、開始後に上記条件(A)及び(B)が満たされるように、当該表面に対して温度分布が付与されることが重要である。
【0030】
本開示の方法において、「連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面」とは、例えば、連続鋳造鋳片の広面をいう。本開示の方法において、「代表温度」は、当該表面の鋳片長さ方向中央部、かつ、鋳片幅方向中央部における温度であって、温度分布が付与される直前の温度をいう。また、「最高温度」及び「最低温度」は、各々、当該表面の幅方向中央部における温度に基づいて定められる。
【0031】
3.1 条件(A)及び(B)が満たされる時点
本開示の方法において、条件(A)及び(B)が満たされるのは、連続鋳造鋳片の冷却過程において、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面における代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で鋳片に温度分布を付与するための工程を開始し、その後の冷却過程であればよい。例えば、一実施形態においては、連続鋳造鋳片の冷却過程において、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面における代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で鋳片に温度分布を付与するための工程を開始し、開始後、当該代表温度が600℃に至るまでの間に、条件(A)及び(B)が満たされてもよい。代表温度が600℃を下回る低温領域から温度分布を付与すると、降伏応力が高くなり、鋳片に所望の塑性変形を生じさせることが困難となる。1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で鋳片に温度分布を付与する工程を開始し、その後の冷却過程のいずれかの時点において上記条件(A)及び(B)が満たされることで、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面の一部に圧縮の塑性変形を生じさせるとともに、一部に引張の塑性変形を生じさせることができる。連続鋳造鋳片に生じた塑性変形は、その後の冷却過程においても残存し得る。本開示の方法においては、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面において、鋳片の長手方向に沿って、圧縮の塑性変形と引張の塑性変形とを所定の間隔で交互に生じさせることで、連続鋳造鋳片の中心部に生じる引張応力が分散され、これにより鋳片の置き割れの発生が低減される。
【0032】
3.2 条件(A)
条件(A)は、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面において、長手方向に沿って2000mmの長さの間における最高温度と最低温度との差が150℃以上であること、である。図1に、本開示の方法による連続鋳造鋳片の表面の温度分布状態の一例を概略的に示す。図1に示されるように、本開示の方法においては、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面の幅方向中央において、任意の位置P1から長さ方向に2000mm離れた位置P2に至るまでの間に、150℃以上の最大温度差ΔTが生じる。当該最大温度差ΔTが大きいほど、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面に対して圧縮の塑性変形と引張の塑性変形とをより適切に生じさせることができる。当該最大温度差ΔTは、170℃以上、190℃以上又は210℃以上であってもよい。当該最大温度差ΔTの上限は、特に限定されるものではない。当該最大温度差ΔTは、例えば、500℃以下、490℃以下、470℃以下、450℃以下、430℃以下又は410℃以下であってもよい。尚、図1には、連続鋳造鋳片の幅方向中央における鋳片長手方向に沿った温度分布に関して、最高温度と最低温度とが一定周期で繰り返され、かつ、最大温度差ΔTがいずれの周期においても同じである場合を例示したが、本開示の方法における温度分布は図示されたものに限定されない。本開示の方法において最高温度と最低温度とはランダムな周期で繰り返されてもよく、また、最大温度差ΔTは周期毎に異なっていてもよい。
【0033】
3.3 条件(B)
条件(B)は、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面において、長手方向に沿って2000mmの長さの間における上記の最高温度を有する部分と上記の最低温度を有する部分との間隔が180mm以上1000mm以下であること、である。図1に示されるように、本開示の方法においては、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面の幅方向中央において、任意の位置P1から長さ方向に2000mm離れた位置P2に至るまでの間に、150℃以上の最大温度差ΔTが生じる。ここで、最高温度を有する部分Pmaxと最低温度を有する部分Pminとの間には、間隔I1が存在する。本開示の方法においては、当該間隔I1が180mm以上1000mm以下であることが重要である。当該間隔I1が180mm以上1000mm以下であることで、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面に対して圧縮の塑性変形と引張の塑性変形とを適切に生じさせることができ、連続鋳造鋳片の中心部において引張応力を分散させることができる。当該間隔I1は、250mm以上又は300mm以上であってもよく、900mm以下又は800mm以下であってもよい。尚、図1には、任意の位置P1から長さ方向に2000m離れた位置P2に至るまでの間(2000mm長さ)における最高温度と最低温度との差ΔTが、どの2000mm長さにおいても同じである場合を例示したが、最高温度と最低温度との差ΔTは、2000mm長さの位置によって異なっていてもよい。
【0034】
3.4 条件(A)及び(B)を達成するための具体例
上記の条件(A)及び(B)は、例えば、連続鋳造鋳片の表面を鋳片の長手方向に沿って断続的に冷却することによって達成することができる。図2に条件(A)及び(B)を達成するための具体例を示す。図2に示されるように、上記の温度分布を付与するための工程は、連続鋳造鋳片10の幅方向及び長手方向に沿った表面10aにおける代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で、当該連続鋳造鋳片10の長手方向に間隔I2を有しつつ複数配置された冷片20の上に、当該連続鋳造鋳片10を載せることにより、その後の冷却過程において、上記の条件(A)及び(B)が満たされるように、当該表面10aに対して温度分布が付与されるものであってもよい。尚、この場合の間隔I2は、上記の間隔I1の2倍の間隔とみなすことができる。この場合の冷片20の温度や材質や形状やサイズについては、上記の条件(A)及び(B)が満たされるように、適宜決定・選択されればよい。例えば、冷片20の温度は、500℃以下であってもよい。また、冷片20は、金属片であってもよい。また、冷片20の形状は、四角柱状であってもよい。また、冷片20の長さは、連続鋳造鋳片10の幅と同じであってもよく、当該幅よりも大きくてもよい。また冷片20の体積は、3.0×10mm以上であってもよく、2.0×10mm以下であってもよい。
【0035】
3.5 温度分布を付与する面
本開示の方法においては、連続鋳造鋳片の冷却過程において、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った2つの面のうち、どちらか一方の面のみが上記の条件(A)及び(B)を満たす温度分布を有するようにしてもよいし、両方の面が上記の条件(A)及び(B)を満たす温度分布を有するようにしてもよい。また、本開示の方法においては、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った2つの面のうち、一方の面に付与される温度分布と、他方の面に付与される温度分布とが、同じ(表と裏とで対称)であってもよいし、異なっていてもよい。また、本開示の方法においては、連続鋳造鋳片の長さ方向先端から2000mmの範囲を除いて、上記の関係(A)及び(B)を満たす温度分布となっていればよい。また、連続鋳造鋳片の厚み方向に沿った面については、特に温度制御の必要はない。
【0036】
本開示の方法において、連続鋳造鋳片の冷却速度に特に制限はない。連続鋳造鋳片は、上記の条件(A)及び(B)が満たされるように温度分布が付与された後に、例えば、放冷されてもよいし、他の鋳片と積み重ねる、所謂段積みをして放冷されてもよい。なお本発明における「放冷」とは、他から強制的に風や水などを受けない状態で放置して冷却することを意味する。
【0037】
4.効果
以上の通り、本開示の方法によれば、連続鋳造鋳片の冷却過程において鋳片に対して所定の温度分布を付与することで、鋳片に生じる圧縮塑性変形及び引張塑性変形の状態を制御することができ、これにより鋳片の置き割れの発生を低減することができる。また、本開示の方法においては、従来技術のように鋳片の冷却速度を細かく制御する必要がない。本開示の方法によれば、冷却制御のための特別な設備は不要であり、従来技術と比較して冷却条件の自由度を高めることが可能である。
【実施例0038】
以下に本発明に係る実施例を示すが、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明においては、その要旨を逸脱せず、その目的を達する限りにおいて、種々の条件が採用され得る。
【0039】
1.実験1(熱応力解析)
連続鋳造後の鋳片(0.25%C-1.5%Si-1.5%Mn鋼の厚み240mm、幅1000mm、長さ7500mmの鋳片)の冷却過程において、長手方向に温度分布を付与し、その後室温まで冷却した後の鋳片の応力分布に及ぼす影響について、計算機を用いて熱応力解析を行った。熱応力解析は相変態を考慮した一般的な熱弾塑性解析によって行った。解析に用いた物性値には、試験片を用いた一般的な試験方法による測定値を用いた。熱応力解析では、鋳片の代表温度が1200℃から600℃までの間の所定の温度に達した時点で、図2に示されるように複数の冷片の上に鋳片を載せることを想定し、鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面に温度分布を付与したうえで、そのまま室温まで放冷する計算を行った。冷片の温度を変更することで、鋳片表面に生じる最高温度と最低温度との差を制御し、かつ、冷片の間隔I2を変更することで、鋳片表面に生じる温度分布における最高温度位置と最低温度位置との間隔I1(図1参照)を制御した。なお鋳片幅方向中央、かつ、2つの冷片間の中央となる位置の温度を抽出し、これを最高温度とした。また、鋳片幅方向中央、かつ、冷片と鋳片との間の冷片中央となる位置の温度を抽出し、これを最低温度とした。最高温度と最低温度との温度差をΔTとした。また、上記鋼種と併せて、割れが生じにくい鋼種である0.2%C-0.3%Si-0.3%Mn鋼の同じ形状の鋳片についても同様の計算を行った。鋳片の置き割れは、鋳片の中心部(厚さ、幅、長さとも)を起点とする場合が多く、計算においても中心部の応力が最も大きな引張り応力になることから、室温まで冷却した場合の、この部分の応力に着目した。図3に、I1と温度差ΔTが鋳片の応力に及ぼす影響について、計算機を用いて熱応力解析を行った結果を示す。図3において、「●」は0.25%C-1.5%Si-1.5%Mn鋼鋳片の室温での中心部の引張り応力値が、0.2%C-0.3%Si-0.3%Mn鋼鋳片の冷却過程において温度分布を付与するための工程を含まない条件での計算値の1.2倍未満の応力値になったものを示し、「×」は1.2倍以上の応力値となったものを表示した。図3に示されるように、鋳片の置き割れのリスクを抑制するためには、鋳片の冷却過程において、鋳片の表面に鋳片長手方向に150℃以上の温度差ΔTが付与され、かつ、最高温度位置と最低温度位置との間隔I1が180mm以上1000mm以下である場合に、鋳片の置き割れが低減される可能性が高いことが分かった。
【0040】
2.実験2
所定の化学組成を有する溶鋼を用いて連続鋳造を行い、鋳片を製造した。下記表1に連続鋳造により製造した鋳片の化学組成を示す。表1に示される化学組成において、残部はFe及び不純物である。連続鋳造は、厚み240~280mm、幅1050mmのスラブ鋳造用の鋳型、又は、厚み300mm、幅410mmのブルーム鋳造用の鋳型を用い、鋳造速度は0.65~1.35m/minとした。その後、鋳片を7000~9700mm長さに切断し、冷却を開始した。鋳片に意図的な温度差を生じさせる直前において、鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面の鋳片長さ方向中央部、かつ、鋳片幅方向中央部の表面温度を鋳片の「代表温度」とした。
【0041】
【表1】
【0042】
引き続き、鋳片の冷却工程において、鋳片表面の長さ方向に意図的に温度差を生じさせるため、図2に示されるように冷片(240mm厚、300mm幅、1100mm長さを有し、かつ、下記表2に記載の温度を有するもの)を所定の間隔I2にて複数配置し、その上に冷却対象材である鋳片を、表2に記載の鋳片の代表温度の時点で設置した。この際、鋳片の代表温度の測温には放射温度計を用いた。また鋳片の長さ方向の片端部から2000mm離れた位置を始点として、その片端から4000mmまで、つまり鋳片表面の長さ方向に2000mm長さの温度分布の測温を行った。当該測温は、物体表面の二次元の温度分布を非接触で測定する温度計であるサーモグラフィ(日本アビオニクス株式会社製、型番:InfRec R500EX)を用いて、設置後10分毎に1時間後まで、つまり6回行った。10分毎の測定で、測定範囲内で最も高い温度を表面温度の仮最高値(最高温度)とした。但し、冷片と接触している部分はこの方法では測定できないため、2000mm長さに含まれる冷片との接触部については鋳片幅中央部に相当する部分に熱電対を挟み込んで設置後10分毎に1時間後まで測温を行い、この測定値を表面温度の仮最低値(最低温度)とした。6回の測温の内、仮最高値と仮最低値の差が最も大きくなった測定時間での表面の最高温度と最低温度との差を算出した。また、上記の間隔I2を変更することで、最高温度位置と最低温度位置との間の間隔I1(図1参照)を変更した。
【0043】
鋳片に対して上記の通りに温度分布を付与した後、任意に段積みを行ったうえで、室温まで放冷した。表2に、段積み時の鋳片広面幅中央・長手中央の鋳片温度、段積み枚数、段積みでの配置位置を示す。段積みする際の上下鋳片は当該鋳片の温度と比較して±100℃未満の温度を有する鋳片を用いた。尚、下記表2の「段積み枚数」で「-」とあるのは、一枚のままで室温まで放冷したものである。また表2中の下線のある数値は、本発明の範囲を外れたものを示す
【0044】
いずれの鋳片も室温まで冷却後、鋳片広面の上面及び下面を長さ中央部の3mについて目視で観察することにより、置き割れの有無を確認した。長さ10mm以上の割れが1か所でも見つかった場合は、鋳片の「割れ有り」と判定し、加熱炉内や熱間圧延段階での割れリスクをふまえ、熱間圧延は実施せず「置き割れ有り」と判定した。また、鋳片目視観察で10mm以上の割れが見つからなかった幅が1050mmの鋳片については一般的な条件で熱間板圧延を行い、厚さ2.5mmの鋼板を得た。加熱工程を含む熱間板圧延中に破断、又は、圧延中に目視で欠陥が見つかった場合は、圧延を中断し、「置き割れ有り」と判定した。長さ10mm以上の割れが見つからなかった幅が410mmの鋳片は一般的な条件で分塊圧延を行い、断面が150mm角の鋼片を得た。この鋼片を一般的な条件で、熱間棒鋼圧延を行い、直径25mmの棒鋼を得た。加熱工程を含む分塊圧延及び棒鋼圧延において破断、又は、圧延中に目視で欠陥が見つかった場合は、圧延を中断し、「置き割れ有り」と判定した。結果を下記表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示される結果から明らかなように、比較例1~9については、いずれも置き割れが生じた一方で、実施例1~21については、いずれも置き割れは生じなかった。
【0047】
3.まとめ
以上の結果から、以下の要件(I)及び(II)を満たす連続鋳造鋳片の冷却方法によれば、鋳片の置き割れの発生を低減できるといえる。
【0048】
(I)連続鋳造鋳片の化学組成が、
質量%で、
C:0.03~1.50%、
Si:0.10~2.50%、
Mn:0.30~3.50%、
P:0.200%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.0003~2.5000%、
N:0.0100%以下、及び
O:0.0100%以下を含有し、かつ
0.50以上の炭素当量(Ceq)を有するか、又は、
質量%で、
C:0.03~1.50%、
Si:0.80~2.50%、
Mn:0.30~3.50%、
P:0.200%以下、
S:0.020%以下、
Al:0.0003~2.5000%、
N:0.0100%以下、及び
O:0.0100%以下を含有し、かつ
0.20以上の炭素当量(Ceq)を有する。
【0049】
(II)連続鋳造鋳片の冷却過程において、連続鋳造鋳片の幅方向及び長手方向に沿った表面における代表温度が1200℃から600℃に至るまでの間のいずれかの時点で、鋳片に温度分布を付与するための工程を開始し、開始後に下記条件(A)及び(B):
(A)当該表面の長手方向に沿って2000mmの長さの間における最高温度と最低温度との差が150℃以上であること、
(B)当該表面の長手方向に沿って2000mmの長さの間における最高温度を有する部分と最低温度を有する部分との間隔が180mm以上1000mm以下であること、
が満たされるように、当該表面に対して温度分布が付与される。
【符号の説明】
【0050】
10 鋳片
20 冷片
図1
図2
図3