(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025016234
(43)【公開日】2025-01-31
(54)【発明の名称】藻類培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20250124BHJP
【FI】
C12N1/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119374
(22)【出願日】2023-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】516047175
【氏名又は名称】三菱重工パワーインダストリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡垣内 俊成
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健治
(72)【発明者】
【氏名】田原 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】田谷 和宏
(72)【発明者】
【氏名】徳永 孝伸
(72)【発明者】
【氏名】前田 範之
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA83X
4B065BC41
4B065CA41
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】藻類培養にかかるコストの上昇を抑制することができる。
【解決手段】藻類培養方法は、浮灰を水面に散布して浮遊させるステップと、水面に浮遊する浮灰に藻類を付着させるステップと、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮遊担持体を水面に散布して浮遊させるステップと、
前記水面に浮遊する前記浮遊担持体に藻類を付着させるステップと、を備える、
藻類培養方法。
【請求項2】
前記浮遊担持体は、粒子径の範囲が30μm以上800μm以下の複数の粒子から構成される、
請求項1に記載の藻類培養方法。
【請求項3】
前記複数の粒子のそれぞれは、内部に空孔が形成され、且つ密度1g/cm3以下である、
請求項2に記載の藻類培養方法。
【請求項4】
前記水面に散布する前記浮遊担持体の量は、330g/m2以上である、
請求項1から3の何れか一項に記載の藻類培養方法。
【請求項5】
前記水面に散布された前記浮遊担持体に付着した前記藻類が前記水面に浮遊している際に、前記藻類を回収するステップをさらに備える、
請求項1から3の何れか一項に記載の藻類培養方法。
【請求項6】
前記藻類を回収するステップは、前記水面に浮遊している前記藻類が部分的に沈降を開始したら実行される、
請求項5に記載の藻類培養方法。
【請求項7】
前記浮遊担持体に前記藻類を付着させるステップの後、且つ前記藻類を回収するステップの前に、前記浮遊担持体の上面の少なくとも一部が前記藻類によって覆われるまで前記藻類を増殖させるステップをさらに備える、
請求項5に記載の藻類培養方法。
【請求項8】
前記浮遊担持体を前記水面に散布して浮遊させるステップの後、且つ前記藻類を回収するステップの前に、前記藻類に対して浮力を与える浮力体を前記水面に散布するステップをさらに備える、
請求項5に記載の藻類培養方法。
【請求項9】
前記浮力体は、パーライト粒子、バーミキュライト粒子、および植物の不完全燃焼によって炭化することで生成されたバイオ炭粒子のうちの少なくとも1つを含む、
請求項8に記載の藻類培養方法。
【請求項10】
前記浮遊担持体は、浮灰である、
請求項1から3の何れか一項に記載の藻類培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、藻類培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスの一種である二酸化炭素を大気中や火力発電所などの排ガスから回収する方法の一つとして、藻類を培養し、その光合成の作用により二酸化炭素を固定する方法がある。この方法によって増殖した藻類は、回収・加工され、食糧や医薬品、ないしは燃料などの有用物質へと変換し利用される。培養液に分散して存在している藻類を分離回収するためには、大量に存在する水と藻類とを分離するために、例えば、凝集剤を用いて藻類を培養液表面に浮上させる方法、あるいは藻類を含む培養液を遠心分離機に投入し遠心分離する方法などが従来から用いられている。このほかにも、例えば、特許文献1には、培養した微細藻類を濃縮する方法として、培養している微細藻類を誘引する波長の光と、忌避する波長の光を組み合わせる技術が開示されている。また、特許文献2には、回収を容易とするために水面で藻類を培養する方法として、無機質材料と硬化材と藻類培養養分とを含む原料を混合した混合物を成形体に成形し、この成形体を養生することによって、水に浮遊可能な藻類培養媒体を製造する技術が開示されている。また、特許文献3には、水面に浮遊可能な発泡ガラス担体を水面に散布し、海藻または水藻を養殖する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6183825号公報
【特許文献2】特開2000-245278号公報
【特許文献3】特開2020-000214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、凝集剤による分離方法においては、凝集剤が残存するために培養液を再利用することができなくなり、大量の廃液処理が必要となるという課題がある。また、遠心分離する方法では、大量の培養液を遠心分離機にかける必要があり、遠心分離機の運転に多大なエネルギが消費されてしまうという課題がある。特許文献1に記載の技術は、光を利用して省エネルギで藻類を濃縮する方法であるが、この方法が適用される藻類は、光に誘引される特性をもっている藻類に限定される。特許文献2に記載の技術は、見かけ比重が1以下であって、水面に浮上するような担持体によって、藻類を水面近くで増殖させることによって回収を容易としている反面、担持体の原料を混合するための混合装置、および混合物の養生が必要であり、藻類培養にかかるコストを上昇させている。特許文献3に記載の技術も同様に、見かけ比重が1未満で水面に浮上するような担持体を用いて、藻類回収を容易としている。しかしながら担持体のサイズはハンドリング性などの要求から10mmよりも大きくする必要があり、アオノリなどの大型藻類の付着・成長は期待できる反面、微細藻類を大量生産する用途には適さないという課題があった。
【0005】
本開示は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、藻類培養および藻類回収にかかるコストの上昇を抑制可能な藻類培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る藻類培養方法は、浮遊担持体を水面に散布して浮遊させるステップと、前記水面に浮遊する前記浮遊担持体に藻類を付着させるステップと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の藻類培養方法によれば、藻類培養および藻類回収にかかるコストの上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る藻類培養方法のフローチャートである。
【
図2】一実施形態に係る浮灰の構成を概略的に示す図である。
【
図3A】一実施形態に係る水槽内の状態を示す図である。
【
図3B】一実施形態に係る水槽内の状態を示す図である。
【
図3C】一実施形態に係る水槽内の状態を示す図である。
【
図3D】一実施形態に係る水槽内の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態による藻類培養方法について、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
<藻類培養方法>
図1は、一実施形態に係る藻類培養方法のフローチャートである。
図1に示すように、藻類培養方法は、準備ステップS1と、浮遊ステップS2と、付着ステップS3と、増殖ステップS4と、浮力体散布ステップS5と、回収ステップS6と、を含む。一実施形態では、準備ステップS1、浮遊ステップS2、付着ステップS3、増殖ステップS4、浮力体散布ステップS5、および回収ステップS6の順に実行されている。培養対象である藻類は、光合成を行う生物のうち地上に生息するコケ植物、シダ植物、および種子植物を除いたものである。藻類の種類は、特に限定されず、体長が1μm以上1mm以下の微細藻類(例えば、スピルリナやユーグレナ)であってもよいし、体長が1mmよりも大きくなる大型藻類(例えば、アオサ)であってもよいし、淡水で生息する淡水藻類(例えば、アオミドロ、珪藻、イシクラゲ)であってもよい。
【0011】
準備ステップS1では、培養対象の藻類20を水面に浮かびながら付着させる浮遊担持体として浮灰2を準備する。ここで、浮灰2について説明する。
図2は、一実施形態に係る浮灰2の構成を概略的に示す図である。浮灰2は、石炭の燃焼によって生成されるフライアッシュに僅か(約1~2%)に含まれており、例えば、石炭火力発電所から排出される。浮灰2は、球形状を有し、且つ粒子径の範囲が30μm以上800μm以下の複数の粒子4から構成されており、フライアッシュを比重選別することで取得される。そして、
図2に示すように、複数の粒子4のそれぞれには、内部に空孔6が形成されている。この粒子4は、白色であり、密度1g/cm3以下である(水に浮遊可能である)。また、粒子4は、主成分がシリカ(SiO
2)であり、次に高い含有率を有する成分がアルミナ(Al
2O
3)である。さらに、粒子4は、酸化鉄(Fe
2O
3)、酸化カルシウム(CaO)、酸化チタン(TiO
2)など、シリカおよびアルミナ以外の成分を僅かに含んでいる。粒子4の成分の一例を下記の表1に示す。一実施形態では、準備ステップS1は、市販されている浮灰2を購入することで浮灰2の準備が実行される。尚、準備ステップS1で準備した浮灰2は、粒子4のみ、または浮灰2の質量の90%を超える大部分が粒子4で構成されており、水面3に浮上する。この浮灰2の粒子4は、真球状に限定されず、卵形状であってもよい。ところで、本開示は、浮遊担持体を浮灰2に限定するものではなく、藻類20に応じた任意の粒子の集合体が選択される。
【0012】
【0013】
浮遊ステップS2では、浮灰2を水面3に散布して浮遊させる。一実施形態では、浮灰2は、水槽8に貯留されている培養液10の水面3に散布されて浮遊している。培養液10は、海水である。培養液10の水面3に散布した浮灰2の量は、330g/m2以上である。また、水面3に散布した浮灰2の量は、1200g/m2以下である。浮遊ステップS2では、浮灰2のみが水面3に散布され、浮灰2以外のものは水面3に散布されていない。尚、本開示では、藻類20が海水に含まれている場合を例にして説明するが、培養液10に浮灰2が散布される前後に培養対象とする藻類20を培養液10に投入してもよい。
【0014】
図3A~
図3Dのそれぞれは、一実施形態に係る水槽8内の状態を示す図である。
図3A、
図3B、
図3C、および
図3Dの順に時間が経過している。一実施形態では、
図3Aに示すように、上述した浮遊ステップS2の実行によって、浮灰2は水面3の全体を覆うように水面3に浮遊している。尚、浮灰2を水面3に広く浮遊させるために、移動しながら浮灰2を散布してもよいし、水槽8の水をくみ上げ、浮灰2を混合したうえで水槽8に戻してもよいし、水面3に浮遊している浮灰2を撹拌してもよい。
【0015】
付着ステップS3では、水面3に浮遊する浮灰2に藻類20を付着させる。一実施形態では、浮遊ステップS2の実行後からある程度の期間が経過するまで水槽8内に対して処理を行っていない。そして、
図3Bに示すように、所定の期間が経過すると、水面3が膜状の藻類20によって覆われている。
【0016】
増殖ステップS4では、付着ステップS3の後、且つ回収ステップS6の前に、浮灰2の上面の少なくとも一部が藻類20によって覆われるまで藻類20を増殖させる。一実施形態では、付着ステップS3の実行後からある程度の期間が経過するまで水槽8内に対して処理を行っていない。そして、
図3Cに示すように、
図3Bに示す状態からある程度の期間が経過すると、水面3に藻類20の塊30が複数形成されている。この藻類20の塊30が形成されるまでの過程について説明すると、藻類20は、重力方向に沿って厚くなるように成長し、成長する際に浮灰2の粒子4を凝集する。このため、水面3には、藻類20や粒子4に覆われていない隙間部分40が形成され、藻類20の塊30が形成される。藻類20の塊30は、内部に藻類20が光合成によって発生させた酸素の泡を補足しており、凝集した浮灰2の粒子4および泡の浮力によって水面3に浮遊している。尚、
図3Cに示すように、複数の藻類20の塊30のそれぞれは、互いに離間していてもよい。
【0017】
浮力体散布ステップS5では、浮遊ステップS2の後、且つ回収ステップS6の前に、藻類20に対して浮力を与える浮力体42を水面3に散布する。一実施形態では、浮力体散布ステップS5は、増殖ステップS4の後、且つ回収ステップS6の前に実行されている。浮力体42は、隙間部分40を埋めるように散布され、藻類20の塊30がこの浮力体42を取り込んで浮力を獲得し、より大きな塊に成長するようになる。浮力体42は、パーライト粒子、バーミキュライト粒子、および植物の不完全燃焼によって炭化することで生成されたバイオ炭粒子のうちの少なくとも1つを含む。幾つかの実施形態では、浮力体散布ステップS5は、浮遊ステップS2の後、且つ付着ステップS3の前に実行される。幾つかの実施形態では、浮力体散布ステップS5は、付着ステップS3の後、且つ増殖ステップS4の前に実行される。
【0018】
幾つかの実施形態では、藻類培養方法は、付着ステップS3の後に、水面3に藻類20や粒子4によって覆われていない隙間部分40が形成されると、追加で浮灰2を水面3に散布する追加ステップをさらに含む。このような方法によれば、隙間部分40を利用して藻類20を培養し、藻類20の回収量を増やすことができる。
【0019】
図3Cに示す状態からある程度の期間が経過すると、藻類20がさらに成長し、藻類20の塊30は、凝集した浮灰2の粒子4および泡の浮力よりも重くなる。そして、
図3Dに示すように、複数の藻類20の塊30のうちの1つが水面3よりも下方に沈降している。
【0020】
回収ステップS6では、水面3に散布された浮灰2に付着した藻類20が水面3に浮遊している際に、藻類20を回収する。一実施形態では、回収ステップS6は、培養液10の水面3を上方から視認した際に藻類20が視認される領域が設定値より大きくなると実行される。例えば、粒子4(白色)と藻類20(緑色)との色彩の違いを利用して、藻類20が視認される領域を決定する。
【0021】
(作用・効果)
一実施形態に係る藻類培養方法の作用・効果について説明する。一実施形態によれば、浮灰2を水面3に散布して浮遊させるだけで、この浮遊する浮灰2に藻類20を付着させて培養している。このため、浮灰2に添加剤を添加するための添加装置や培養液10を撹拌するための撹拌装置のような処理装置の設置が不要である。よって、藻類培養にかかるコストの上昇を抑制することができる。
【0022】
さらに、一実施形態によれば、藻類20が成長するにつれて藻類20から分泌される増粘多糖類(カラギナンやフコイダン、アルギン酸など)の粘膜が浮灰2の粒子4を取り込みながら、水面3上で増殖を続けることで凝集して、藻類20の塊30が形成される。藻類20の塊30は、凝集した浮灰2の粒子4および藻類20の光合成によって生じた酸素の泡の浮力が作用するため水面3に浮遊し続ける。この過程において、水面3で藻体が乾燥していくので、低水分量の藻類20の塊30を回収可能となり、藻類20の回収効率が向上し、藻類20の回収コストの上昇を抑制することができる。さらに、藻類20は、水面3に位置するので太陽光を水による減衰無しで光合成に利用できるとともに、大気から二酸化炭素をほぼ直接的に取り込むことが可能である。このため、藻類20が培養液10中に沈んでいる場合と比較して高い増殖速度を実現することができる。
【0023】
尚、一実施形態では、水槽8内で藻類20を培養していたが、本開示はこの形態に限定されない。幾つかの実施形態では、浮遊ステップS2は、浮灰2を海洋または湖沼の水面3に一様に散布して浮遊させる。このような方法によれば、培養地を容易に拡大し、大量の藻類20の培養を実現することができる。また、藻類20の培養の段階において特殊な機械設備や動力が不要となる。さらに、水面3に浮遊した藻類20の塊30を吸引機等で回収することができ、回収に必要な動力や手間を低減できるだけでなく、回収された藻類20の塊30は、水分含有量が概ね80~90%程度の固体状態で得られるので、藻類20を含む培養液10の薬品による分離やくみ上げた培養液10を遠心分離装置で脱水するという従来から行われているような培養液10の濃縮工程を省略することができる。
【0024】
一実施形態によれば、粒子4の粒子径の範囲が30μm以上800μm以下であるので、複数の粒子4のそれぞれが培養液10の流れと一緒に動く。このため、水面3に浮遊している粒子4同士の衝突が抑制され、粒子4間の隙間での藻類20の増殖がおきるとともに、波浪による浮灰2からの藻類20の脱落を抑制することができる。なお、800μmよりも大きい粒子4の場合、波浪などによって粒子4の移動や回転がおき、藻類20の培養の初期段階において散布した場合、藻類20の増殖は粒子4の表面に限定される状態となり、大きな収率を得ることができなくなる。また、30μmよりも小さい粒子は十分な浮力を備えていないので、散布直後に表面の汚れ、藻類20の付着などによって容易に沈降してしまい、水面3に浮上した状態を維持することができない。幾つかの実施形態では、粒子4の粒径が30μm以上200μm以下であり、粒子4同士の衝突がさらに抑制され、浮灰2からの藻類20の脱落をさらに抑制することができる。
【0025】
一実施形態によれば、粒子4は、内部に空孔6が形成され、且つ密度1g/cm3以下であるので、水面3に浮遊し、且つ藻類20を培養するための担持体として適用することができる。このような粒子4が適用されることで、粒子4の表面で5~20μm程の大きさの藻類20である微細藻類を増殖させたり、粒子4を取り込ませることで、それ自体は浮力をもたない、糸状藻類などの大きく成長する藻類20を増殖させたりすることができる。さらに一実施形態によれば、粒子4には鉄分が含まれているので藻類20の成長を促進させることができる。
【0026】
水面3に散布する浮灰2の量が過少の場合、藻類20は水面3の全体を覆うマット状の塊にはならずに、直径5mm程度の粒状で水面3に点在するようになり、収量が得られない。これに対して、一実施形態によれば、水面3に散布する浮灰2の量が330g/m2以上であるので、水面3を浮灰2が完全に覆い隠すことができ、藻類20の回収量を最大化することができる。藻類20は、浮灰2に付着して増殖することで藻類20のマットで水面3を覆うように成長するので、藻類20の回収量を増やすことができる。
【0027】
水面3に散布する浮灰2の量が過多であると、水面3に浮遊できない浮灰2の量が増える。そして、水面3に浮遊していない浮灰2は、風によって舞い散ってしまう。また、過剰な浮灰2は陰を作り藻類20の光合成を阻害するとともに、水面3と接触していない浮灰2は乾燥しており脱水作用があるので藻類20を枯らせてしまう。これに対して、一実施形態によれば、培養液10の水面3に散布した浮灰2の量が1200g/m2以下であるので、水面3で水に濡れながら浮遊しない浮灰2の量を減らし、浮灰2の消耗や浮灰2による藻類20の生長阻害を抑制することができる。
【0028】
一実施形態によれば、藻類20が水面3に塊30として浮遊している際に藻類20の回収が実行されるので、藻類20が水中で培養される場合と比較して、回収した藻類20から水分を取り除くために必要なエネルギを小さくすることができる。また、藻類20が水中で培養される場合と比較して、水面3に高密度の藻類20の塊30が浮遊しながら増殖するので、藻類20の回収が容易であり、且つ、回収した時点で藻類20は濃縮されている。
【0029】
幾つかの実施形態では、回収ステップS6は、水面3に浮遊している藻類20が部分的に沈降を開始したら実行される。具体的には、回収ステップS6は、
図3Dに示すように、複数の藻類20の塊30のうちの1つが、沈降を開始したら実行される。つまり、回収ステップS6は、藻類20の塊30が藻類20の増殖によって浮力よりも大きい重量になると実行される。このような方法によれば、藻類20の回収量を増やしつつ、回収した藻類20から水分を取り除くために必要なエネルギを小さくすることができる。
【0030】
一実施形態によれば、増殖ステップS4が実行されることで、藻類20が浮灰2の上面を覆う前に回収される場合と比較して、藻類20の回収量を増やすことができる。一実施形態によれば、浮力体散布ステップS5が実行されることで、浮力体42が藻類20の塊30に浮力を与える。このため、水面3に浮遊可能な藻類20の量を増やすことができる。
【0031】
<実施例1>
本開示の発明者らは、浮灰2の粒子4を藻類20の担持体として適用することにより、低コストで藻類20の培養を実現できることを見出した。上述した表1の粒子4で構成される浮灰2を水面3に散布する場合を実施例1とする。培養に用いた水槽8の容積は80Lであり、広島県呉市で採取した60Lの海水を注入したところ、水面3の面積は0.3m2であった。この水槽8内に100gの浮灰2を散布した。散布密度に換算すると330g/m2である。その他の栄養は添加せず、培養期間は2月初旬~3月末の2か月間とした。
【0032】
浮灰2を散布してから10日後には、水面3が緑色の薄い膜状の藻類20に覆われ、この藻類20が次第に厚く成長しマット状の塊になった(
図3Bを参照)。25日後には、マット状の藻類20が分かれて、多数の島状の藻類20の塊30が水面3に浮遊した状態となった(
図3Cを参照)。これは、藻類20の塊30は、光合成で生じた酸素の泡を捕捉しており、浮灰2の浮力に加えて酸素の泡の浮力で水面3に浮遊しているものと考えられる。35日以降でも、複数の藻類20の塊30のそれぞれがさらに厚く成長している様子が見られた。50日以降に、藻類20の塊30の一部の沈降が観察されたため、水槽8内の藻類20の回収を行った。藻類20の塊30が浮力で支えきれなくなり沈降を始める直前が、好適な回収時期であると考えられる。
【0033】
図4を参照して、藻類20の塊30の切れ端を光学顕微鏡により拡大観察した結果について説明する。
図4は、浮灰2に付着した藻類20の拡大写真である。
図4に示すように、粒子4の直径は約150μmであった。この粒子4は、表面に直径約5~10μmの藍藻と思われる粒状の微細藻類20A(20)と繊維状の微細藻類20B(20)が付着していた。粒子4間にも粒状の微細藻類20Aおよび繊維状の微細藻類20Bが存在しており、粒子4同士が粒状の微細藻類20Aおよび繊維状の微細藻類20Bによって緩やかに結合されていた。
【0034】
藻類20を2か月培養してから、目開き425μmの篩で水槽8内の藻類20を回収した。水切りした状態で730gの藻体が得られた。藻類20を回収した後の水槽8内の水面3には、藻類20が付着していない浮灰2が残ったが、計算のため回収した藻体には100gの浮灰2が含まれるものとした。計算の結果、藻類の回収量は約2.1kg/m2・2か月であった。藻類20の水分量を仮に85%とすると、乾燥重量は0.3kg/m2・2か月である。この結果を1ヘクタールの培養池と期間1年間に換算すると、18.9t/ha・年である。尚、藻類20を培養した期間は真冬の低温・低日照条件であり、温暖な期間に藻類20を培養した場合にはより多くの回収量が得られるものと予想される。
【0035】
<実施例2>
次に、水面3に浮遊させる担持体の違いによる影響について説明する。浮灰2(粒子径範囲30~200μm)を水面3に散布する場合を実施例2とし、比較例としてフライアッシュ(粒子径範囲20~500μm)、真珠岩パーライト(粒子径範囲500μm~2mm)、真珠岩パーライトの粉砕・比重選別した粒子(粒子径範囲50~800μm)、バーミキュライト(粒子径範囲1~8mm)、木質バイオマス由来の未燃粒子(長軸寸法が2~5mm)、もみ殻くん炭(長軸寸法が3~6mm)、およびステアリン酸粒子(約2mm)のそれぞれを水面3に散布した場合も説明する。実験は、実施例1と同様に、広島県呉市で採取した海水を培養液10として個別に水槽8に注入した状態から、3週間以内に藻類20のマットが得られた場合に「藻類の発生」の欄に〇、マット状にならずに散布粒子表面での藻類20の成長が見られた場合は△、藻類20の発生が見られない場合は×と記載した。また、上記の実験に加え、実施例1で得られたマット状の藻類を10mm×10mmに切り出し、散布粒子と藻類20のマットを水槽8に投入する実験を行った。この実験において、2週間以内に水面を覆う藻類20のマットが得られた場合に「藻類の成長の欄」に〇、変化が見られない場合は×と記載した。この水槽8は、室内の日当たりのよい場所に設置されている。8種類の粒子のそれぞれは、水槽8内の水面3の全体が覆われるように散布されている。そして、20日経過後に水槽8内における藻類20の状態を確認した。尚、8種類の粒子のうちすみやかに沈降する粒子については、水槽8の底面が覆われる量を散布している。
【0036】
下記の表2に示すように、浮灰2は水面3に浮遊し続け、時間の経過とともに藻類20の付着と成長が認められた。これに対し、フライアッシュ(石炭由来)は、散布後すみやかに沈降し、沈殿したフライアッシュの表面で藻類20が成長する様子が認められた。真珠岩パーライトは水面3に浮遊し続けたが、パーライト粒子間の隙間と、真珠岩パーライトの表面のみに藻類20の増殖が限られており、水面3を覆うような状態に成長しなかったが、藻類20のマットを一緒に投入した実験では、藻類20のマットがパーライト粒子を取り込み水面3での成長を続けた。粉砕したパーライトは浮灰2と同様、水面3に浮遊し続け藻類20の発生と成長の両方が認められた。バーミキュライト、木質バイオマス由来の未燃粒子、もみ殻くん炭は、散布直後は水面3に浮遊したが3日経過後には吸水によりほぼ全て沈降し、藻類20の発生は認められなかった。これに対し、藻類20のマットを一緒に投入した実験では、藻類20のマットが粗大なパーライト粒子を取り込み、浮遊を続けた。ステアリン酸粒子は、水面3に浮遊し続けたものの、藻類20の発生と成長はともに認められなかった。
【0037】
【0038】
以上の結果からは、藻類20の発生に適した粒子は、浮灰2ならびに粉砕したパーライト粒子であって、その粒子径は20~800μmの範囲と考えられる。また、藻類20の成長段階においては、数mm程度あっても藻類20のマットに取り込むことができる。これにより藻類20のマットは浮力が増大し、より長時間で水面3に浮遊し成長し続けることがわかった。なお、未燃粒子やもみ殻くん炭には、藻類20の成長に必要な元素であるカリウムやリンを含むものの、藻類20の発生段階においては親和性を有さないと考えられる。このほか、ステアリン酸粒子は撥水性を有しており、藻類20の付着が抑制されたものと考えられる。
【0039】
<実施例3>
次に、浮灰2を用いて藻類20のうち淡水藻類を培養する場合について実施例3として説明する。淡水藻類は、比較的入手性の良いイシクラゲ(藻類20)を適用した。イシクラゲは広島県呉市内で採取されたものを使用した。イシクラゲは採取時点では乾燥状態であったので、その重量を培養前重量とした。水槽8は容量300mL、水面3の面積が約8000mm2である。ミネラルウォーターを培養液10として用い、この培養液10は、乾燥状態の2gのイシクラゲを含めて250mLに維持されている。その他の栄養素になりうる物質は添加していない。2つの水槽8が室内の日当たりのよい場所に設置されており、第1の水槽8A(8)には5g(散布密度640g/m2)の浮灰2を水面3に散布し、第2の水槽8B(8)には浮灰2を水面3に散布しなかった。第1の水槽8Aおよび第2の水槽8Bの両方において、イシクラゲは水面3に浮遊した状態であった。そして、30日経過後に、第1の水槽8Aおよび第2の水槽8Bのそれぞれからイシクラゲを取り出した。取り出されたイシクラゲは、吸引濾過によって浮灰2が分離され、熱風乾燥炉を用いて40℃で5時間の乾燥工程を経たのちに質量が測定された。尚、第1の水槽8A内のイシクラゲは、浮灰2を分離することが困難であったため、イシクラゲと浮灰2を合計した数値で評価している。
【0040】
表3に示すように、浮灰2を散布した第1の水槽8A内のイシクラゲの質量(浮灰2の質量が加算されている)は、7.0gから8.3gに増加した(イシクラゲのみの重量は2.0gから3.1gに増加した)。これに対し、浮灰2を散布していない第2の水槽8B内のイシクラゲの質量は、2.0g→2.2gに増加した。このように、浮灰2の散布によるイシクラゲの増殖効果が得られた。
【0041】
【0042】
尚、第1の水槽8A内のイシクラゲの色は濃緑をしていたのに対し、第2の水槽8B内のイシクラゲは日数の経過とともに色が薄くなり、光合成によって生じる酸素の泡の量も減少していった。このため、浮灰2は、イシクラゲに対して浮力の付与のほかに施肥効果を有するものと考えられる。
【0043】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0044】
[1]本開示に係る藻類培養方法は、
浮遊担持体(2)を水面(3)に散布して浮遊させるステップ(S2)と、
前記水面に浮遊する前記浮遊担持体に藻類(20)を付着させるステップ(S3)と、を備える。
【0045】
上記[1]に記載の構成によれば、浮遊担持体を水面に散布して浮遊させ、この浮遊する浮遊担持体に藻類を付着させて藻類を培養するので、浮遊担持体に添加剤を添加するための添加装置や培養液を撹拌するための撹拌装置のような処理装置の設置が不要である。このため、藻類培養にかかるコストの上昇を抑制することができる。
【0046】
さらに、上記[1]に記載の構成によれば、藻類が成長するにつれて、浮遊担持体を構成する粒子同士を凝集する。そして、藻類は、凝集した浮遊担持体の粒子および光合成によって発生させた泡の浮力によって水面に浮遊し続ける。このため、水面で藻体が凝集・乾燥するので、低水分量の藻類を取得可能となり、藻類の回収コストの上昇を抑制することができる。
【0047】
[2]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載の方法において、
前記浮遊担持体は、粒子径の範囲が30μm以上800μm以下の複数の粒子(4)から構成される。
【0048】
上記[2]に記載の方法によれば、複数の粒子のそれぞれが培養液の流れと一緒に動くので、粒子同士の衝突が抑制される。このため、浮遊担持体からの藻類の脱落を抑制することができる。
【0049】
[3]幾つかの実施形態では、上記[2]に記載の方法において、
前記複数の粒子のそれぞれは、内部に空孔が形成され、且つ密度1g/cm3以下である。
【0050】
上記[3]に記載の方法によれば、浮遊担持体の粒子を藻類の担持体として適用することができる。
【0051】
[4]幾つかの実施形態では、上記[1]から[3]の何れか1つに記載の方法において、
前記水面に散布する前記浮遊担持体の量は、330g/m2以上である。
【0052】
上記[4]に記載の方法によれば、水面に浮遊担持体が浮遊していない部分が形成されることを抑制し、藻類の回収量の低減を抑制することができる。
【0053】
[5]幾つかの実施形態では、上記[1]から[4]の何れか1つに記載の方法において、
前記水面に散布された前記浮遊担持体に付着した前記藻類が前記水面に浮遊している際に、前記藻類を回収するステップ(S4)をさらに備える。
【0054】
上記[5]に記載の方法によれば、回収した藻類から水分を取り除くために必要なエネルギを小さくすることができる。
【0055】
[6]幾つかの実施形態では、上記[5]に記載の方法において、
前記藻類を回収するステップは、前記水面に浮遊している前記藻類が部分的に沈降を開始したら実行される。
【0056】
上記[6]に記載の方法によれば、藻類の回収量を増やしつつ、回収した藻類から水分を取り除くために必要なエネルギを小さくすることができる。
【0057】
[7]幾つかの実施形態では、上記[5]又は[6]に記載の方法において、
前記浮遊担持体に前記藻類を付着させるステップの後、且つ前記藻類を回収するステップの前に、前記浮遊担持体の上面の少なくとも一部が前記藻類によって覆われるまで前記藻類を増殖させるステップをさらに備える。
【0058】
上記[7]に記載の方法によれば、藻類の回収量を増やすことができる。
【0059】
[8]幾つかの実施形態では、上記[5]から[7]の何れか1つに記載の方法において、
前記浮遊担持体を前記水面に散布して浮遊させるステップの後、且つ前記藻類を回収するステップの前に、前記藻類に対して浮力を与える浮力体を前記水面に散布するステップをさらに備える。
【0060】
上記[8]に記載の方法によれば、藻類に浮力が与えられることで水面に浮遊させる藻類の量を増やすことができる。
【0061】
[9]幾つかの実施形態では、上記[8]に記載の方法において、
前記浮力体は、パーライト粒子、バーミキュライト粒子、および植物の不完全燃焼によって炭化することで生成されたバイオ炭粒子のうちの少なくとも1つを含む。
【0062】
上記[9]に記載の方法によれば、藻類への浮力の付与を容易に実現することができる。
【0063】
[10]幾つかの実施形態では、上記[1]から[9]の何れか1つに記載の方法において、
前記浮遊担持体は、浮灰である。
【0064】
上記[10]に記載の方法によれば、浮遊担持体を容易に準備することができる。
【符号の説明】
【0065】
2 浮灰
3 水面
4 粒子
6 空孔
8 水槽
8A 第1の水槽
8B 第2の水槽
10 培養液
20 藻類
20A 粒状の微細藻類
20B 繊維状の微細藻類
30 藻類の塊
40 隙間部分
42 浮力体
S1 準備ステップ
S2 浮遊ステップ
S3 付着ステップ
S4 増殖ステップ
S5 浮力体散布ステップ
S6 回収ステップ