(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025162755
(43)【公開日】2025-10-28
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20251021BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20251021BHJP
B60C 3/04 20060101ALI20251021BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20251021BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20251021BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20251021BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20251021BHJP
【FI】
B60C11/00 F
B60C5/00 H
B60C3/04 B
B60C11/03 Z
B60C9/00 C
B60C9/00 D
B60C9/00 G
B60C9/22 C
B60C9/00 A
B60C9/08 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066159
(22)【出願日】2024-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 泰之
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA34
3D131AA35
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3D131EB11V
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3D131EB23V
3D131EB23W
3D131EB23X
3D131EB24V
3D131EB24W
3D131EB24X
3D131EC01X
3D131EC01Z
(57)【要約】
【課題】優れたドライ操縦安定性を維持しながら、ウェット操縦安定性を向上することを可能にした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、トレッド部1に形成された複数の陸部20の少なくとも1列をタイヤ子午線断面における踏面の輪郭線がタイヤ径方向外側に突出した凸リブとし、且つ、トレッド部1の輪郭線上の接地端Eの位置を点P
A、接地端Eからタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅Wの5%の位置を点P
B、接地端Eからタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅Wの10%の位置を点P
Cとしたとき、車両内側において点P
A、点P
B、および点P
Cの3点を通る円弧の曲率半径SRinと、車両外側において点P
A、点P
B、および点P
Cの3点を通る円弧の曲率半径SRoutとが1.1≦SRout/SRin≦2.0の関係を満たすようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記サイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架された少なくとも1層のカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有し、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部に、タイヤ周方向に延びる少なくとも3本の主溝が形成され、これら主溝により少なくとも4列の陸部が区画され、これら陸部の少なくとも1列がタイヤ全周に亘って連続して延在する凸リブであり、前記凸リブはタイヤ子午線断面における踏面の輪郭線がタイヤ径方向外側に突出した膨出部を含み、
タイヤ子午線断面において、前記トレッド部の輪郭線上の接地端位置を点PA、接地端からタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅の5%の位置を点PB、接地端からタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅の10%の位置を点PCとしたとき、車両装着時に車両に対して内側となる車両内側において前記点PA、前記点PB、および前記点PCの3点を通る円弧の曲率半径SRinと、車両装着時に車両に対して外側となる車両外側において前記点PA、前記点PB、および前記点PCの3点を通る円弧の曲率半径SRoutとが、1.1≦SRout/SRin≦2.0の関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
車両内側における前記曲率半径SRinが30mm~200mmであることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記陸部のうちタイヤ赤道よりも車両外側かつタイヤ赤道側に配置された陸部が前記凸リブであることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記凸リブの突出量Lが前記凸リブの幅Wに対して0.1%≦L/W×100≦5.0%の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記陸部がタイヤ幅方向に隣り合う少なくとも2列の凸リブを含み、タイヤ幅方向に隣り合う前記凸リブの突出量の差ΔLが0.1mm≦ΔL≦0.8mmの関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
タイヤ断面高さが150mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記トレッド部において、タイヤ赤道よりも車両内側となる車両内側領域での溝面積比率Ginとタイヤ赤道よりも車両外側となる車両外側領域での溝面積比率GoutとがGin>Goutの関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ベルトカバー層を構成するカバーコードがナイロン繊維およびアラミド繊維からなるハイブリッドコードであることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記カーカス層を構成するカーカスコードがレーヨン繊維コードであることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
リム組み状態において前記ビード部の外表面がリムフランジから離反する点をリム離反点P1とし、前記サイドウォール部がタイヤ最大幅位置においてタイヤ幅方向外側に最も突き出す点をタイヤ最大突出点P2とし、前記リム離反点P1とタイヤ最大突出点P2とを通る直線がタイヤ幅方向に対して成す角度を背面角としたとき、車両内側の背面角θinと車両外側の背面角θoutとが1.05≦θin/θout≦1.3を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ドライ路面における操縦安定性とウェット路面における操縦安定性とを両立することを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ドライ路面における操縦安定性(ドライ操縦安定性)を向上するために空気入りタイヤの偏平率を低く設定する(例えば偏平率30%~50%程度)ことが知られている(例えば特許文献1を参照)。その反面、偏平率が低いタイヤは、偏平率が高いタイヤ(例えば偏平率が55%~80%程度のタイヤ)に比べて接地長が短くなり、ウェット路面における操縦安定性(ウェット操縦安定性)を確保しにくい傾向がある。また、一般的にネガティブキャンバーに設定される空気入りタイヤでは、車両外側の接地長が車両内側の接地長に比べて短くなるため、コーナリング時のハイドロプレーニング現象を防止できず、この点でウェット操縦安定性を確保しにくい傾向がある。更に、車両がロールして(旋回中の車両が横方向に傾いて)荷重が車両内側から車両外側へ移行した際に、車両内側と車両外側との接地長差から、車両外側の排水性が不足し、コーナリング時に突然のオーバーステアを誘発するなど車両挙動が不安定になりやすいといった問題がある。そのため、優れたドライ操縦安定性を維持したまま、ウェット操縦安定性(特にウェット路面におけるコーナリング性能)を向上することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、優れたドライ操縦安定性を維持しながら、ウェット操縦安定性を向上することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記サイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架された少なくとも1層のカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有し、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、前記トレッド部に、タイヤ周方向に延びる少なくとも3本の主溝が形成され、これら主溝により少なくとも4列の陸部が区画され、これら陸部の少なくとも1列がタイヤ全周に亘って連続して延在する凸リブであり、前記凸リブはタイヤ子午線断面における踏面の輪郭線がタイヤ径方向外側に突出した膨出部を含み、タイヤ子午線断面において、前記トレッド部の輪郭線上の接地端位置を点PA、接地端からタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅の5%の位置を点PB、接地端からタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅の10%の位置を点PCとしたとき、車両装着時に車両に対して内側となる車両内側において前記点PA、前記点PB、および前記点PCの3点を通る円弧の曲率半径SRinと、車両装着時に車両に対して外側となる車両外側において前記点PA、前記点PB、および前記点PCの3点を通る円弧の曲率半径SRoutとが、1.1≦SRout/SRin≦2.0の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の発明者は、空気入りタイヤの断面形状(プロファイル)について鋭意研究した結果、溝面積を増加するような一般的なウェット性能の改善方法ではドライ操縦安定性が低下するところ、上述の膨出部を備えた凸リブを採用することで、膨出部において接地圧が増加し、ウェット路面走行時における路面に対する接地特性が向上してウェット性能を向上できることを知見した。尚、凸リブを設けた場合、溝面積増加による陸部の剛性低下は生じないためドライ性能は維持される。また、本発明の発明者は、一般的にネガティブキャンバーに設定される空気入りタイヤでは車両外側の接地長が車両内側の接地長に比べて短くなる傾向があるところ、車両外側の曲率半径SRoutを車両内側の曲率半径SRinよりも大きくして車両外側のサイドウォール部の縦バネを下げることで車両内側と車両外側の接地長の差を抑制し(つまり車両外側の接地長を大きくし)、コーナリング時のハイドロプレーニング現象を抑制し、ウェット操縦安定性を向上できることを知見した。これに加えて、前述のように車両内側と車両外側の接地長の差を抑制することで、コーナリング時のオーバーステア挙動も抑制することができ、この点でもウェット操縦安定性を向上できることを知見した。本発明は、これら知見に基づくものであり、少なくとも1列の陸部を凸リブとし、且つ前述の部位の曲率半径が1.1≦SRout/SRin≦2.0の関係を満たすようにすることで、前述の効果をバランスよく発揮することができ、優れたドライ操縦安定性を維持しながら、ウェット操縦安定性を向上し、これら性能を高度に両立することが可能になる。
【0007】
本発明においては、車両内側における曲率半径SRinが30mm~200mmであることが好ましい。これにより、車両内側の接地長を十分に確保し、且つ、前述の比SRout/SRinの関係により車両外側の接地長も十分に確保できるため、ウェット操縦安定性を向上するには有利になる。
【0008】
本発明においては、陸部のうちタイヤ赤道よりも車両外側かつタイヤ赤道側に配置された陸部が凸リブであることが好ましい。このように車両外側の陸部を凸リブとすることで、コーナリング時のハイドロプレーニング現象を効果的に防止し、ウェット操縦安定性を向上するには有利になる。
【0009】
本発明においては、凸リブの突出量Lが凸リブの幅Wに対して0.1%≦L/W×100≦5.0%の関係を満たすことが好ましい。これにより、凸リブが適度に膨出するため、ウェット操縦安定性を向上するには有利になる。
【0010】
本発明においては、陸部がタイヤ幅方向に隣り合う少なくとも2列の凸リブを含み、タイヤ幅方向に隣り合う凸リブの突出量の差ΔLが0.1mm≦ΔL≦0.8mmの関係を満たすことが好ましい。これにより、隣り合う凸リブの間での接地長の差を抑制し、隣り合う凸リブの接地長を略均一に揃えることができるので、コーナリング時の荷重移行時における性能変化を抑制することができる。
【0011】
本発明においては、タイヤ断面高さが150mm以下であることが好ましい。このように断面高さが小さいタイヤ(低偏平タイヤ)は断面高さが大きいタイヤ(高偏平タイヤ)に比べてトレッド部のショルダー領域の接地長が短くなりやすいため、本発明を適用することで効果的にウェット操縦安定性を向上することが可能になる。
【0012】
本発明においては、トレッド部において、タイヤ赤道よりも車両内側となる車両内側領域での溝面積比率Ginとタイヤ赤道よりも車両外側となる車両外側領域での溝面積比率GoutとがGin>Goutの関係を満たすことが好ましい。このように車両内側において溝面積比率を大きくすることで、高い排水性が得られるので、ウェット操縦安定性を向上するには有利になる。
【0013】
本発明においては、ベルトカバー層を構成するカバーコードがナイロン繊維およびアラミド繊維からなるハイブリッドコードであることが好ましい。このようなハイブリッドコードはコーナリングパワーに優れる傾向があるので、上述の本発明と組み合わせることで、高速域でのウェット操縦安定性の向上を図ることができる。
【0014】
本発明においては、カーカス層を構成するカーカスコードがレーヨン繊維コードであることが好ましい。このようにカーカス層がレーヨン繊維コードからなる場合、縦バネ特性に優れることが望ましいが、前述の比SRout/SRinの関係により優れた縦バネ特性が得られるため、高速域でのウェット操縦安定性の向上を図ることができる。
【0015】
本発明においては、リム組み状態においてビード部の外表面がリムフランジから離反する点をリム離反点P1とし、サイドウォール部がタイヤ最大幅位置においてタイヤ幅方向外側に最も突き出す点をタイヤ最大突出点P2とし、リム離反点P1とタイヤ最大突出点P2とを通る直線がタイヤ幅方向に対して成す角度を背面角としたとき、車両内側の背面角θinと車両外側の背面角θoutとが1.05≦θin/θout≦1.3を満たすことが好ましい。このように背面角設定し、車両内側の背面角θinを車両外側の背面角θoutよりも大きくすることで、車両外側の縦バネを上げることで車両外側の接地圧を向上することができ、排水性を高めてウェット性能を向上するには有利になる。
【0016】
本発明において、「接地端」とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときに形成される接地領域のタイヤ軸方向の端部である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【0017】
本発明において、「リム離反点」を定義する際の「リム組み状態」とは、タイヤを前述の「正規リム」にリム組みして「正規内圧」を充填した状態である。「タイヤ最大突出点」は、「リム離反点」と同様の「リム組み状態」において、タイヤ総幅(タイヤの側面の模様、文字を含むタイヤ断面幅)が最大となるタイヤ径方向の位置(タイヤ最大幅位置)においてタイヤ外表面がタイヤ幅方向外側に最も突き出す点である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】
図1のトレッド部の要部を拡大して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
本発明の空気入りタイヤは、
図1に示すように、路面に当接するトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示し、符号Eは接地端を示す。尚、
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0021】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コード(カーカスコード)を含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側へ折り返されている。カーカス層4を構成するカーカスコードの材質は特に限定されず、空気入りタイヤにおいて一般的に使用される各種材料を用いることができる。但し、カーカスコードがレーヨン繊維コードである場合、タイヤ構造により縦バネ特性を補うことが好ましいため、後述の本発明と好適に組み合わせることができる。ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。ビードフィラー6は例えば図示のような断面略三角形状を有し、ゴム組成物で構成される。
【0022】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コード(ベルトコード)を含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、少なくとも1層のベルトカバー層8が設けられている。ベルトカバー層8は、タイヤ周方向に配向する補強コード(カバーコード)を含む。ベルトカバー層8において、補強コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。ベルトカバー層8を構成するカバーコードの材質は特に限定されず、空気入りタイヤにおいて一般的に使用される各種有機繊維コードを用いることができる。但し、カバーコードがナイロン繊維およびアラミド繊維からなるハイブリッドコードである場合、このようなハイブリッドコードはコーナリングパワーに優れる傾向があるので、後述の本発明と組み合わせて適用することで、高速域でのウェット操縦安定性の向上を図ることができる。
【0023】
本発明の空気入りタイヤは、車両装着時におけるタイヤ表裏の装着方向が指定されたタイヤである。
図1において、「IN」は車両装着時の車両内側であり、「OUT」は車両装着時の車両外側である。車両に対する装着方向が指定されたタイヤは、例えば、少なくとも車両外側のサイドウォール部2に、車両に対する装着方向を示す装着方向表示部(不図示)が形成される。装着方向表示部は、車両外側では例えば「OUTSIDE」という文字列をタイヤ周方向に沿って表示し、車両内側では例えば「INSIDE」という文字列をタイヤ周方向に沿って表示する。
【0024】
本発明のタイヤは、
図1に示すように、トレッド部1に、タイヤ周方向に延びる少なくとも3本(図示の例では4本)の主溝10が形成され、これら複数本の主溝10により少なくとも4列(図示の例では5列)の陸部20が区画される。主溝10は主要な排水機能を担持する溝であり、その溝幅が5.0mm~20.0mmの範囲に設定され、その溝深さが5.0mm~10.0mmの範囲に設定される。以降の説明では、タイヤ赤道CLの両側に配置された一対の主溝10を内側主溝11、タイヤ幅方向最外側に配置された一対の主溝10を外側主溝12、一対の内側主溝11の間に区画された陸部20をセンター陸部21、内側主溝11と外側主溝12との間に区画された陸部20を中間陸部22、外側主溝12のタイヤ幅方向外側に区画された陸部20をショルダー陸部23と呼ぶ場合がある。本発明は、主として、タイヤの断面形状(ショルダー陸部23からビード部3にかけてのプロファイルラインや、後述の凸リブAの膨出形状)に関するので、タイヤの基本構造(内部構造)は上述の一般的な構造に限定されない。
【0025】
本発明では、前述の少なくとも4列の陸部20のうち少なくとも1列がタイヤ全周に亘って連続して延在する凸リブAである。凸リブAとは、
図2に拡大して示すように、タイヤ子午線断面における踏面の輪郭がタイヤ径方向外側に突出した膨出部を含むリブである。
図2は、タイヤ赤道よりも車両外側のトレッド部1を拡大して示すものであり、センター陸部21の一部、車両外側の中間陸部22、および車両外側のショルダー陸部23の3列の陸部が描写されており、このうち車両外側の中間陸部22およびショルダー陸部23が凸リブAとして構成されている。
【0026】
上記に加えて、本発明では、
図1に示すように、タイヤ子午線断面において、トレッド部1の輪郭線上の接地端Eの位置を点P
A、接地端Eからタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅NWの5%の位置を点P
B、接地端Eからタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅NWの10%の位置を点P
Cと定義する。このとき、車両内側において点P
A、点P
B、および点P
Cの3点を通る円弧の曲率半径をSRinとし、車両外側において点P
A、点P
B、および点P
Cの3点を通る円弧の曲率半径をSRoutとすると、これら曲率半径SRinと曲率半径SRoutとの比SRout/SRinは、1.1≦SRout/SRin≦2.0の関係、好ましくは1.1≦SRout/SRin≦1.5の関係を満たす。尚、曲率半径SRin,SRoutはそれぞれ点P
A、点P
B、および点P
Cの3点に基づいて描画される円弧の曲率半径であり、タイヤ形状によっては実際のトレッド部1のタイヤ子午線断面における輪郭線とは完全に一致しない場合がある。尚、タイヤ呼び幅Wは一般的にタイヤサイズとして表示される数値であり、後述の背面角(リム離反点)を決定する際に使用する断面幅SWとは異なる値である。
【0027】
上記のように凸リブAを採用することで、凸リブAの膨出部において接地圧が増加し、ウェット路面走行時における路面に対する接地特性が向上してウェット性能を向上できる。また、車両外側の曲率半径SRoutを車両内側の曲率半径SRinよりも大きくすることで、車両外側のサイドウォール部2の縦バネを下げて車両内側と車両外側の接地長の差を抑制し(つまり一般的にネガティブキャンバーに設定される空気入りタイヤでは接地長が短くなる傾向のある車両外側の接地長を大きくし)、コーナリング時のハイドロプレーニング現象を抑制し、ウェット操縦安定性を向上することができる。これに加えて、前述の比SRout/SRinの関係により車両内側と車両外側の接地長の差を抑制することができるので、コーナリング時のオーバーステア挙動も抑制することができ、この点でもウェット操縦安定性を向上することができる。尚、上述の構造(凸リブAおよび比SRout/SRin)によりウェット性能の向上を図るので、例えば溝面積増加による陸部20の剛性低下は生じずドライ性能は維持することができる。
【0028】
比SRout/SRinが1.1未満であると、車両内側および車両外側の接地長の差を抑制することができず、ウェット操縦安定性を向上する効果が見込めなくなる。比SRout/SRinが2.0を超えると、車両内側において十分な接地長が確保できずドライ路面およびウェット路面の両方における操縦安定性が低下する。凸リブAを備えないと、凸リブA(膨出部)による接地圧を向上する効果が見込めず、ウェット操縦安定性を向上することができない。
【0029】
凸リブAは、複数列の陸部20のうちに少なくとも1列が含まれていればよいが、
図2に示すように、陸部20のうちタイヤ赤道よりも車両外側の陸部が凸リブAであることが好ましい。また、車両外側に複数列の陸部(例えば図示の中間陸部22およびショルダー陸部23)を含む場合は、少なくともタイヤ赤道CL側に配置された陸部(つまり図示の例では中間陸部22)が凸リブAであるとよく、より好ましくは車両外側のすべての陸部(つまり図示の例では中間陸部22およびショルダー陸部23の両方)が凸リブAであるとよい。このように車両外側の陸部を凸リブAとすることで、コーナリング時のハイドロプレーニング現象を効果的に抑制し、ウェット操縦安定性を向上するには有利になる。
【0030】
凸リブAの突出量Lは凸リブAの幅Wに対して、好ましくは0.1%≦L/W×100≦5.0%の関係を満たし、より好ましくは0.3%≦L/W×100≦2.0%の関係を満たすとよい。これにより、凸リブAが適度に膨出するため、凸リブA(膨出部)による接地圧を向上する効果が十分に見込めて、ウェット操縦安定性を向上するには有利になる。比L/Wが0.1%未満であると、凸リブAにより接地長を確保することができず、排水性を十分に向上することができない。比L/Wが5.0%を超えると凸リブAの接地長が過大になり、操舵時の横力を効率良く路面に伝えらず、ドライ操縦安定性を良好に維持することが難しくなる。また、接地圧が過大になり高速耐久性が低下する虞がある。尚、凸リブAの幅Wは、凸リブAのタイヤ幅方向両側に主溝10を有する場合(例えば図示の中間陸部22の幅Wmの場合)は、この凸リブAのタイヤ幅方向両側のエッジp間のタイヤ幅方向に沿って測定された長さである。また、凸リブAのタイヤ幅方向内側だけに主溝10を有する場合(例えば図示のショルダー陸部23の幅Wsの場合)は、この凸リブAのタイヤ幅方向内側のエッジpと接地端Wとの間のタイヤ幅方向に沿って測定された長さである。凸リブAの突出量Lは、凸リブAのタイヤ幅方向両側に主溝10を有する場合(例えば図示の中間陸部22の突出量Lmの場合)は、子午線断面において、この凸リブAのタイヤ幅方向の両側に隣接する2本の主溝10の開口部における4つのエッジpのうちの少なくとも3点を通り、タイヤ径方向内側に中心を持って最大曲率半径となる円弧を基準線(
図2の破線を参照)とし、この基準線から最も膨出した点までの垂直距離である。また、凸リブAのタイヤ幅方向内側だけに主溝10を有する場合(例えば図示のショルダー陸部23の突出量Lsの場合)は、子午線断面において、この凸リブAのタイヤ幅方向内側に隣接する1本の主溝10の開口部における2つのエッジpと接地端Eとの3点を通り、タイヤ径方向内側に中心を持って最大曲率半径となる円弧を基準線(
図2の破線を参照)とし、この基準線から最も膨出した点までの垂直距離である。突出量L(中間陸部22の突出量Lm、ショルダー陸部23の突出量Ls)の実数範囲は、タイヤサイズ等の条件により上記の比L/Wに応じて変動するため特に限定されないが、例えば0.1mm~1.0mmに設定することができる。
【0031】
複数列の陸部20がタイヤ幅方向に隣り合う少なくとも2列の凸リブAを含む場合、例えば
図2のようにタイヤ幅方向に隣り合う中間陸部22およびショルダー陸部23が凸リブAである場合には、各凸リブAの突出量L(Lm,Ls)は同一であってもよいが、好ましくはタイヤ赤道CL側の陸部20(図示の例では中間陸部22)ほど突出量Lが大きいとよい。例えば図示の例の場合、中間陸部22の突出量Lmがショルダー陸部23の突出量Lsよりも大きいことが好ましい。このように、タイヤ幅方向に隣り合う凸リブAの突出量が異なる場合、これら凸リブAの突出量の差ΔL(図示の場合、突出量LmおよびLsの差)は、好ましくは0.1mm≦ΔL≦0.8mmの関係を満たし、より好ましくは0.3mm≦ΔL≦0.5mmの関係を満たすとよい。これにより、隣り合う凸リブAの間での接地長の差を抑制し、隣り合う凸リブAの接地長を略均一に揃えることができるので、コーナリング時の荷重移行時における性能変化を抑制することができる。突出量の差ΔLが0.1mm未満であると、突出量が実質的に同一であり、隣り合う凸リブAの間での接地長の差を抑制する効果が見込めなくなる。突出量の差ΔLが0.8mmを超えると、突出量が相対的に大きい側の凸リブAにおいて接地長が過大になり、操舵時の横力を効率良く路面に伝えらず、ドライ操縦安定性を良好に維持することが難しくなる。また、接地圧が過大になり高速耐久性が低下する虞がある。
【0032】
車両内側における曲率半径SRinは好ましくは30mm~200mm、より好ましくは30mm~100mmであるとよい。これにより、車両内側の接地長を十分に確保し、且つ、前述の比SRout/SRinの関係により車両外側の接地長も十分に確保できるため、ウェット操縦安定性を向上するには有利になる。曲率半径SRinが30mm未満であると、車両内側の接地長が十分に確保できずドライ路面およびウェット路面の両方における操縦安定性が低下する虞がある。曲率半径SRinが200mmを超えると、接地長が長くなることでショルダー部が蓄熱しやすくなり高速耐久性を悪化させる懸念がある。車両外側における曲率半径SRoutは特に限定されないが例えば35mm~220mmに設定することができる。
【0033】
上記の構造に加えて、本発明では、
図1に示すようなリム組み状態において、ビード部3の外表面がリムRのリムフランジから離反する点をリム離反点P1とし、サイドウォール部2がタイヤ最大幅位置(タイヤ断面幅SWが最大となるタイヤ径方向の位置)においてタイヤ幅方向外側に最も突き出す点をタイヤ最大突出点P2とし、リム離反点P1とタイヤ最大突出点P2とを通る直線がタイヤ幅方向に対して成す角度を背面角と定義すると、車両内側の背面角θinと車両外側の背面角θoutとは、好ましくは1.05≦θin/θout≦1.3の関係、より好ましくは1.05≦θin/θout≦1.2の関係を満たすとよい。このように背面角を設定し、車両内側の背面角θinを車両外側の背面角θoutよりも大きくすることで、車両外側の縦バネを上げることで車両外側の接地圧を向上することができ、排水性を高めてウェット性能を向上するには有利になる。比θin/θoutが1.05未満であると、車両内側および車両外側の背面角が実質的に同じになるため、上述のウェット性能を向上する効果が見込めなくなる。比θin/θoutが1.3を超えると、車両内側と車両外側とでサイドウォール部2の縦バネの差が大きくなり操縦安定性が低下する。
【0034】
車両内側における背面角θinは好ましくは65°~90°、より好ましくは70°~80°であるとよい。これにより車両内側のサイドウォール部2において十分な縦バネを確保することができ、荷重耐久性を向上するには有利になる。背面角θinが65°未満であると、十分な縦バネを確保できず荷重耐久性を向上する効果が限定的になる。車両外側における背面角θoutは特に限定されないが例えば62°~85に設定することができる。尚、リム組みされた空気入りタイヤは、構造上、その背面角θin,θoutが90°を超えることは無い。
【0035】
上述の本発明は、各種空気入りタイヤに適用できるが、断面高さが小さいタイヤ(低偏平タイヤ)はドライ操縦安定性に優れる反面、断面高さが大きいタイヤ(高偏平タイヤ)に比べてトレッド部1のショルダー領域(ショルダー陸部21)のショルダー部の接地長が短くなりやすい傾向があるため、本発明を適用することで効果的にウェット操縦安定性の向上を図ることができる。具体的には、本発明を適用する空気入りタイヤのタイヤ断面高さが好ましくは150mm以下であるとよい。また、本発明を適用する空気入りタイヤの偏平率は、ドライ操縦安定性を向上する観点から、好ましくは20%~55%、より好ましくは35%~55%であるとよい。
【0036】
本発明を適用する空気入りタイヤのトレッド部1におけるトレッドパターンは特に限定されないが、タイヤ赤道CLよりも車両内側となる車両内側領域での溝面積比率Ginとタイヤ赤道CLよりも車両外側となる車両外側領域での溝面積比率Goutとが好ましくはGin>Goutの関係を満たしているとよい。特に、車両内側領域での溝面積比率Ginと車両外側領域での溝面積比率Goutとの差(Gin-Gout)が好ましくは1%以上であるとよい。このように車両内側において溝面積比率が大きいトレッドパターンでは、接地長の長い車両内側において高い排水性が得られるので、トレッドパターンに基づくウェット操縦安定性の更なる向上を図ることができる。
【0037】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0038】
図1に例示する基本構造(内部構造)を有し、タイヤ子午線断面におけるタイヤ断面形状(プロファイルライン)について、接地端Eの位置(点P
A)と、接地端Eからタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅の5%の位置(点P
B)と、接地端Eからタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅の10%の位置(点P
C)との3点を通る円弧の曲率半径をSRin(車両内側)およびSRout(車両外側)としたときの比SRout/SRin、曲率半径SRout、曲率半径SRin、凸リブの有無、凸リブの配置、中間陸部が凸リブである場合の突出量Lmと中間陸部の幅Wmとの関係(Lm/Wm×100%)、ショルダー陸部が凸リブである場合の突出量Lsとショルダー陸部の幅Wsとの関係(Ls/Ws×100%)、突出量の差ΔL(=Lm-Ls)、溝面積比率の大小関係、カバーコードの材質、カーカスコードの材質、リム組み状態におけるリム離反点P1とタイヤ最大突出点P2とを通る直線がタイヤ幅方向に対して成す角度を背面角θin(車両内側)およびθout(車両外側)としたときの比θin/θout、背面角θout、背面角θinをそれぞれ表1~2のように設定した従来例、比較例1~2、実施例1~11の空気入りタイヤ(試験タイヤ)を作製した。尚、試験タイヤのタイヤサイズは、フロント用を275/45R21 110Yとし、リア用を315/40R21 115Yとした。
【0039】
表1~2の「凸リブの配置」の欄については、車両内側/車両外側のいずれの陸部であるかと、センター陸部、中間陸部、ショルダー陸部のいずれが凸リブであるかを表示した。例えば、「車両外側 中間+ショルダー」との表示は、車両外側の中間陸部およびショルダー陸部の2列の陸部が凸リブであることを意味する。表1~2の「溝面積比率の大小関係」の欄については、トレッド部のタイヤ赤道よりも車両内側となる車両内側領域での溝面積比率Ginとタイヤ赤道よりも車両外側となる車両外側領域での溝面積比率Goutとの大小関係を等号や不等号で示した。表1~2の「カバーコードの材質」および「カーカスコードの材質」の欄については、各コードを構成する有機繊維の種類を記載した。尚、ナイロン繊維およびアラミド繊維からなるハイブリッドコードである場合は「ナイロン+アラミド」と記載した。
【0040】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、ドライ操縦安定性、ウェット操縦安定性、および高速耐久性を評価し、その結果を表1~2に併せて示した。
【0041】
ドライ操縦安定性
各試験タイヤを、フロント用のタイヤについてはリムサイズ21×9.5Jのホイールに組み付け、リア用のタイヤについてはリムサイズ21×11.5Jのホイールに組み付けて、排気量4000ccのSUV車輌(4WD)に装着し、フロントタイヤおよびリタイヤに共通して空気圧250kPaを充填し、乾燥した舗装路面(ドライ路面)からなるテストコースにて、操縦安定性(特に直進性およびリニアリティ)についてテストドライバーによる官能評価を実施した。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどドライ操縦安定性に優れることを意味する。
【0042】
ウェット操縦安定性
各試験タイヤを、フロント用のタイヤについてはリムサイズ21×9.5Jのホイールに組み付け、リア用のタイヤについてはリムサイズ21×11.5Jのホイールに組み付けて、排気量4000ccのSUV車輌(4WD)に装着し、フロントタイヤおよびリタイヤに共通して空気圧250kPaを充填し、濡れた舗装路面(ウェット路面)からなるテストコースにて、操縦安定性(特にコーナリング時のハイドロプレーニング現象を抑制する性能やリニアリティ)についてテストドライバーによる官能評価を実施した。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどウェット操縦安定性に優れることを意味する。
【0043】
高速耐久性
各試験タイヤを、フロント用のタイヤの場合はリムサイズ21×9.5Jのホイールに組み付け、リア用のタイヤの場合はリムサイズ21×11.5Jのホイールに組み付けて、室内ドラム試験機(ドラム径:1707mm)に装着し、空気圧を360kPaとし、ETRTO規格の最大荷重の68%を負荷し、キャンバー各-3°の条件で、10分毎に10km/hずつ速度を増加し、タイヤが破壊した際に達した最大速度を測定した。評価結果は、従来例の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどタイヤ破壊時に達した最大速度が大きく、高速耐久性に優れることを意味する。
【0044】
【0045】
【0046】
表1~2から判るように、実施例1~11のタイヤは、従来例との対比において、ドライ操縦安定性、ウェット操縦安定性、および高速耐久性をそれぞれ向上し、これら性能を高度に両立した。一方、比較例1は、比SRout/SRinが本発明の条件を満たさないため、ウェット操縦安定性を十分に向上することができず、また高速耐久性を向上する効果が得られなかった。比較例2は、凸リブを備えないため、ウェット操縦安定性を十分に向上することができなかった。
【0047】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、前記サイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記一対のビード部間に装架された少なくとも1層のカーカス層と、前記トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置された複数層のベルト層と、前記ベルト層の外周側に配置されたベルトカバー層とを有し、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記トレッド部に、タイヤ周方向に延びる少なくとも3本の主溝が形成され、これら主溝により少なくとも4列の陸部が区画され、これら陸部の少なくとも1列がタイヤ全周に亘って連続して延在する凸リブであり、前記凸リブはタイヤ子午線断面における踏面の輪郭線がタイヤ径方向外側に突出した膨出部を含み、
タイヤ子午線断面において、前記トレッド部の輪郭線上の接地端位置を点PA、接地端からタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅の5%の位置を点PB、接地端からタイヤ幅方向内側にタイヤ呼び幅の10%の位置を点PCとしたとき、車両装着時に車両に対して内側となる車両内側において前記点PA、前記点PB、および前記点PCの3点を通る円弧の曲率半径SRinと、車両装着時に車両に対して外側となる車両外側において前記点PA、前記点PB、および前記点PCの3点を通る円弧の曲率半径SRoutとが、1.1≦SRout/SRin≦2.0の関係を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
発明[2] 車両内側における前記曲率半径SRinが30mm~200mmであることを特徴とする発明[1]に記載の空気入りタイヤ。
発明[3] 前記陸部のうちタイヤ赤道よりも車両外側かつタイヤ赤道側に配置された陸部が前記凸リブであることを特徴とする発明[1]または[2]に記載の空気入りタイヤ。
発明[4] 前記凸リブの突出量Lが前記凸リブの幅Wに対して0.1%≦L/W×100≦5.0%の関係を満たすことを特徴とする発明[1]~[3]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
発明[5] 前記陸部がタイヤ幅方向に隣り合う少なくとも2列の凸リブを含み、タイヤ幅方向に隣り合う前記凸リブの突出量の差ΔLが0.1mm≦ΔL≦0.8mmの関係を満たすことを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
発明[6] タイヤ断面高さが150mm以下であることを特徴とする発明[1]~[5]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
発明[7] 前記トレッド部において、タイヤ赤道よりも車両内側となる車両内側領域での溝面積比率Ginとタイヤ赤道よりも車両外側となる車両外側領域での溝面積比率GoutとがGin>Goutの関係を満たすことを特徴とする発明[1]~[6]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
発明[8] 前記ベルトカバー層を構成するカバーコードがナイロン繊維およびアラミド繊維からなるハイブリッドコードであることを特徴とする発明[1]~[7]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
発明[9] 前記カーカス層を構成するカーカスコードがレーヨン繊維コードであることを特徴とする発明[1]~[8]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
発明[10] リム組み状態において前記ビード部の外表面がリムフランジから離反する点をリム離反点P1とし、前記サイドウォール部がタイヤ最大幅位置においてタイヤ幅方向外側に最も突き出す点をタイヤ最大突出点P2とし、前記リム離反点P1とタイヤ最大突出点P2とを通る直線がタイヤ幅方向に対して成す角度を背面角としたとき、車両内側の背面角θinと車両外側の背面角θoutとが1.05≦θin/θout≦1.3を満たすことを特徴とする発明[1]~[9]のいずれかに記載の空気入りタイヤ。