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特開2025-162785ポリウレタン樹脂水系分散体、複合成形体、及び、複合成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025162785
(43)【公開日】2025-10-28
(54)【発明の名称】ポリウレタン樹脂水系分散体、複合成形体、及び、複合成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/00 20060101AFI20251021BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20251021BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20251021BHJP
   C08G 18/44 20060101ALI20251021BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20251021BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20251021BHJP
   C08G 18/75 20060101ALI20251021BHJP
   C08G 18/28 20060101ALI20251021BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20251021BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20251021BHJP
   C08J 3/215 20060101ALI20251021BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20251021BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20251021BHJP
【FI】
C08G18/00 C
C08G18/08 019
C08G18/42
C08G18/44
C08G18/48
C08G18/73
C08G18/75
C08G18/28 015
C08L1/00
C08L75/04
C08J3/215 CEP
C08J3/215 CFF
H01B5/14 B
H05K1/03 610H
H05K1/03 610S
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066203
(22)【出願日】2024-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】591018051
【氏名又は名称】明成化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(74)【代理人】
【識別番号】100121005
【弁理士】
【氏名又は名称】幸 芳
(72)【発明者】
【氏名】笠松 由芽
(72)【発明者】
【氏名】岩井 花梨
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4J034
【Fターム(参考)】
4F070AA02
4F070AA53
4F070AB11
4F070AC72
4F070AC89
4F070AD02
4F070AE01
4F070FA05
4F070FA17
4F070FB06
4F070FC03
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4J002CK04X
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4J034QC03
4J034QC05
4J034RA05
4J034RA12
4J034RA14
(57)【要約】
【課題】本発明は、濾過法によりフィルム作製ができる平均繊維径が10nm以上の繊維状セルロースを用いた場合でも、複合化した際にその複合成形体の透明性を高くでき、かつ、導電性パターン層との密着性を高くできるポリウレタン樹脂の水系分散体、及び、ポリウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との複合成形体を製造するために用いるポリウレタン樹脂水系分散体であって、
前記繊維状セルロースの繊維径が10nm以上であり、
前記ポリウレタン樹脂が、少なくとも
ポリオールに由来する構造、ポリイソシアネートに由来する構造、及び、ポリアミンに由来する構造を有し、
かつ、前記ポリウレタン樹脂水系分散体のイオン性が、アニオン性である、
ポリウレタン樹脂水系分散体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との複合成形体を製造するために用いるポリウレタン樹脂水系分散体であって、
前記繊維状セルロースの繊維径が10nm以上であり、
前記ポリウレタン樹脂が、少なくとも
ポリオールに由来する構造、ポリイソシアネートに由来する構造、及び、ポリアミンに由来する構造を有し、
かつ、前記ポリウレタン樹脂水系分散体のイオン性が、アニオン性である、
ポリウレタン樹脂水系分散体。
【請求項2】
前記ポリオールが、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール、及び、ポリエーテルジオールからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載のポリウレタン樹脂水系分散体。
【請求項3】
前記ポリオールが、ポリカーボネートジオールを含む、請求項1に記載のポリウレタン樹脂水系分散体。
【請求項4】
前記ポリイソシアネートが、脂肪族イソシアネート、及び、脂環式イソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載のポリウレタン樹脂水系分散体。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂が、さらに、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルに由来する構造を有する、請求項1に記載のポリウレタン樹脂水系分散体。
【請求項6】
請求項1に記載のポリウレタン樹脂水系分散体と、繊維状セルロースとを含むポリウレタン樹脂組成物であって、
前記繊維状セルロースの繊維径が10nm以上である、ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項7】
少なくともポリオールに由来する構造、ポリイソシアネートに由来する構造、及び、ポリアミンに由来する構造を有し、かつ、イオン性がアニオン性である、ポリウレタン樹脂と、繊維状セルロースとの複合成形体であって、
前記繊維状セルロースの繊維径が10nm以上である、複合成形体。
【請求項8】
前記ポリウレタン樹脂の含有量が、前記繊維状セルロース100質量部に対して、10~150質量部である、請求項7に記載の複合成形体。
【請求項9】
請求項7に記載の複合成形体、及び、その表面に導電性パターンを有する、導電性回路基板。
【請求項10】
請求項6に記載のポリウレタン樹脂組成物を濾取することにより、水を含む繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との複合物を得る工程を備える、請求項7に記載の複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂水系分散体、複合成形体、及び、複合成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化及び脱炭素の観点から、多くの分野において化石資源の代替となるバイオマス由来の材料開発が望まれている。その中で、バイオマス由来材料の一種である微細繊維状セルロースである、いわゆる、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」という。)は、高機能性材料として注目されている。
CNFは、高強度、透明性、低線熱膨張率、柔軟性等の優れた特性を有しているため、CNFと樹脂との複合成形体(以下、「CNF-樹脂複合成形体」という。)は、自動車材料分野、電子材料分野等への応用が種々検討されている。特に、電子材料分野において、透明性の高いCNF-樹脂複合成形体シートは、有機EL等の液晶ディスプレイ用のフレキシブル透明基板として非常に大きな期待が寄せられている。
【0003】
CNFと樹脂とを複合化させる方法としては、例えば、化学修飾したCNFとオレフィン系の樹脂とを二軸混錬機中で複合化させる方法;CNFの水分散体と樹脂の水溶液又は水分散体とを混合して複合化させる方法等がある。
さらに、具体的には、例えば、特許文献1では、繊維径が3~5nmのCNFと樹脂とを複合化して、透明なCNF-樹脂複合成形体を作製する方法が開示されている。
また、特許文献2では、機械解繊CNFの水分散体と樹脂の水分散体との混合液を濾過した後、濾物を有機溶剤と接触させることで多孔質なフィルム状のCNF-樹脂複合成形体を作製する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、平均繊維径が10nm未満になるまで解繊したCNFを使用しているので透明性の高いフィルムが形成できたが、平均繊維径が10nm未満のCNFは、水との親和性が大きいことから、CNFの水分散体と樹脂の水分散体との混合液に含まれる水分を、全て加熱乾燥により除去する必要がある。加熱乾燥のみで水を除去してCNF-樹脂複合成形体を作製した場合、水を除去するために多大なエネルギーが必要となることが問題であった。
一方、上記特許文献2では、CNFの水分散体と樹脂の水分散体との混合液を濾過により脱水している。濾過法は、省エネルギー、かつ、簡便であるが、上記特許文献2に記載の多孔質なフィルム状のCNF-樹脂複合成形体は、白く不透明である。
また、本発明者らが、平均繊維径が10nm未満のCNFの水分散体と樹脂の水分散体との混合液を濾過することにより透明なCNF-樹脂複合成形体を作製しようと試みたところ、濾水性が非常に悪く、濾過によるCNF-樹脂複合成形体の作製は困難であった。
【0005】
ところで、CNF単独成形体又はCNF-樹脂複合成形体を、フレキシブル透明基板等の電子材料分野に応用する場合は、例えば、CNF-樹脂複合成形体上に導電性塗料を塗布及び乾燥して導電性パターン層を形成する必要がある。
しかしながら、CNFは、導電性パターン層との密着性が低く、導電性パターン層が成形体から容易に剥離してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-193258号公報
【特許文献2】特開2012-116905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、濾過法によりフィルム作製ができる平均繊維径が10nm以上の繊維状セルロースを用いた場合でも、複合化した際にその複合成形体の透明性を高くでき、かつ、導電性パターン層との密着性を高くできるポリウレタン樹脂の水系分散体、及び、ポリウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体を提供することを課題とする。また、平均繊維径が10nm以上の繊維状セルロースを用いて、濾過法により、少ない消費エネルギーで、ポリウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との複合成形体を製造するために用いるポリウレタン樹脂水系分散体であって、
前記繊維状セルロースの繊維径が10nm以上であり、
前記ポリウレタン樹脂が、少なくとも
ポリオールに由来する構造、ポリイソシアネートに由来する構造、及び、ポリアミンに由来する構造を有し、
かつ、前記ポリウレタン樹脂水系分散体のイオン性が、アニオン性である、
ポリウレタン樹脂水系分散体。
[2]
前記ポリオールが、ポリカーボネートジオール、ポリエステルジオール、及び、ポリエーテルジオールからなる群より選ばれる少なくとも1つである、[1]に記載のポリウレタン樹脂水系分散体。
[3]
前記ポリオールが、ポリカーボネートジオールを含む、[1]又は[2]に記載のポリウレタン樹脂水系分散体。
[4]
前記ポリイソシアネートが、脂肪族イソシアネート、及び、脂環式イソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、[1]~[3]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂水系分散体。
[5]
前記ポリウレタン樹脂が、さらに、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルに由来する構造を有する、[1]~[4]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂水系分散体。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載のポリウレタン樹脂水系分散体と、繊維状セルロースとを含むポリウレタン樹脂組成物であって、
前記繊維状セルロースの繊維径が10nm以上である、ポリウレタン樹脂組成物。
[7]
少なくともポリオールに由来する構造、ポリイソシアネートに由来する構造、及び、ポリアミンに由来する構造を有し、かつ、イオン性がアニオン性である、ポリウレタン樹脂と、繊維状セルロースとの複合成形体であって、
前記繊維状セルロースの繊維径が10nm以上である、複合成形体。
[8]
前記ポリウレタン樹脂の含有量が、前記繊維状セルロース100質量部に対して、10~150質量部である、[7]に記載の複合成形体。
[9]
[7]又は[8]に記載の複合成形体、及び、その表面に導電性パターンを有する、導電性回路基板。
[10]
[6]に記載のポリウレタン樹脂組成物を濾取することにより、水を含む繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との複合物を得る工程を備える、[7]又は[8]に記載の複合成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、濾過法によりフィルム作製ができる平均繊維径が10nm以上の繊維状セルロースを用いた場合でも、複合化した際にその複合成形体の透明性を高くでき、かつ、導電性パターン層との密着性を高くできるポリウレタン樹脂の水系分散体、及び、ポリウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体を提供することができる。また、本発明によれば、平均繊維径が10nm以上の繊維状セルロースを用いて、濾過法により、少ない消費エネルギーで、ポリウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ポリウレタン樹脂水系分散体
ポリウレタン樹脂水系分散体は、繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との複合成形体を製造するために用いるポリウレタン樹脂水系分散体であって、
前記繊維状セルロースの繊維径が10nm以上であり、
前記ポリウレタン樹脂が、少なくとも
ポリオールに由来する構造、ポリイソシアネートに由来する構造、及び、ポリアミンに由来する構造を有し、
かつ、前記ポリウレタン樹脂水系分散体のイオン性が、アニオン性である。
上記のようなポリウレタン樹脂水系分散体を使用することで、繊維径が10nm以上の繊維状セルロースと複合させた、ウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体は、高い透明性を有する。
【0011】
繊維状セルロース
繊維状セルロースは、特に限定はなく、例えば、セルロース原料を解繊して得られるセルロース繊維のことをいう。本明細書においては、前記繊維状セルロースの中でも、平均繊維径が1000nm以下の繊維状セルロースを、「微細繊維状セルロース」又は「CNF」(Cellulose Nano Fiber)と呼ぶこともある。
前記繊維状セルロースの原料であるセルロース原料は、公知のものであれば特に限定されず、任意の材料を用いることができる。例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えば、ホヤ類)、藻類、微生物(例えば、酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。これらのセルロース原料は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよい。
前記繊維状セルロースは、前記セルロース原料を解繊することによって得ることができる。解繊方法は、公知のものであれば特に制限されない。解繊方法として、例えば、TEMPO酸化法、酵素加水分解法、イオン選択液体溶解法等の化学的処理;水中対向衝突法、水圧貫通微細化法、高圧ホモジナイザー法、マイクロフルイダイザー法、グラインダー法、2軸混錬法、ボールミル粉砕法等の機械的(物理的)処理が挙げられる。また、これらの方法を組み合わせて解繊してもよい。
【0012】
繊維状セルロースの平均繊維径は、10nm以上であり、好ましくは10~150nm、より好ましくは11~80nmであり、特に好ましくは12~30nmである。なお、平均繊維径は、平均繊維幅ということもできる。なお、平均繊維径については、電子顕微鏡等を用いて測定することができる。
繊維状セルロースの平均繊維長は、特に制限はない。
繊維状セルロースの断面の形は、特に限定はない。
【0013】
ポリウレタン樹脂
前記ポリウレタン樹脂水系分散体に含まれるポリウレタン樹脂は、少なくともポリオールに由来する構造、ポリイソシアネートに由来する構造、及び、ポリアミンに由来する構造を有している。
前記ポリウレタン樹脂水分散体は、ポリオール化合物、ポリイソシアネート化合物、及び、アニオン性親水性基を有する化合物を反応させて得られるウレタンプレポリマーと、鎖伸長剤であるポリアミン化合物とを反応させて得られるポリウレタン樹脂が水に分散されてなるアニオン性ポリウレタン樹脂の水分散体であることが好ましい。
【0014】
ポリオールに由来する構造
ポリウレタン樹脂の中のポリオールに由来する構造は、原料であるポリオール化合物がウレタン反応した後の構造である。
【0015】
前記ポリオール化合物は、1つの分子中に水酸基(-OH)を2個以上有する化合物であれば、特に限定されない。前記ポリオール化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、多価アルコール等が挙げられる。
【0016】
前記ポリエステルポリオールとしては、例えば、酸成分とポリオール化合物との直接エステル化反応、エステル交換反応による反応生成物等を挙げることができる。酸成分としては、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等の芳香族カルボン酸;これらの芳香族カルボン酸の水素添加物等の脂環族カルボン酸;マロン酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、アルキルコハク酸、リノレイン酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の脂肪族カルボン酸等を挙げることができる。また、これらの無水物、塩、誘導体(アルキルエステル、酸ハライド)等も用いることができる。ポリオール化合物としては、ジオール、トリオール等の多価アルコール、下記のポリエーテルポリオールとして例示した化合物等を挙げることができる。更にポリエステルポリオールとしては、ポリオール化合物と、カプロラクトン、バレロラクトン、ブチロラクトン等のラクトン類、又は、その加水分解開環反応によって得られるヒドロキシカルボン酸との、直接エステル化反応による反応生成物等も挙げられる。
【0017】
前記ポリカーボネートポリオールとしては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の炭素数2~20の多価アルコールの1種又は2種以上と、ホスゲン、アルキル基の炭素数1~6のジアルキルカーボネート、炭素数2~6のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート、炭素数6~9のアリール基を有するジアリールカーボネート、環式カーボネート等との反応生成物が挙げられ、例えば、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリネオペンチルカーボネートジオール、3-メチル-5-ペンタン-カーボネートジオール、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレンカーボネート)ジオール等、これらのランダム/ブロック共重合体等を用いることができる。
また、前記ポリカーボネートジオールは、ポリエステルポリカーボネートポリオールであってもよい。前記ポリエステルポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリカプロラクトンポリオール等のポリエステルグリコールとアルキレンカーボネートとの反応生成物;アルキレンカーボネートと多価アルコールとの反応生成物に、カプロラクトン、バレロラクトン、ブチロラクトン等のラクトン類又は有機ジカルボン酸を反応させて得られる反応生成物等が挙げられる。
【0018】
前記ポリエーテルポリオールとしては、特に限定されることなく、当該技術分野で一般的に使用されるポリエーテルポリオールを使用することができる。前記ポリエーテルポリオールとしては、分子構造中に炭素数2~12のアルキレンオキサイドの繰り返し構造を有するポリアルキレンエーテルグリコール;1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ポリグリセリン、ペンタエリスリトール等の炭素数2~20の脂肪族多価アルコールへの、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等の炭素数2~12のアルキレンオキサイドの付加物;ビスフェノールA等の芳香族ポリオールへの、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等の炭素数2~12のアルキレンオキサイド付加物;エチレンジアミン等のアミン化合物等への、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等の炭素数2~12のアルキレンオキサイド付加物等が挙げられ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール/ポリテトラメチレングリコールのブロックまたはランダム共重合体、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等を用いることができる。
これらは、1種単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0019】
前記多価アルコールは、特に限定されない。前記多価アルコールとして、具体的には、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール等の二価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の三価以上のアルコールが挙げられる。
【0020】
前記ポリオール化合物は、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエーテルジオール、及び、多価アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
前記ポリオール化合物の水酸基価は、特に限定されず、例えば1~500mgKOH/gでもよく、2~350mgKOH/gでもよく、5~200mgKOH/gでもよく、10~150mgKOH/gでもよい。本明細書において、水酸基価はJIS K1557-1:2007のA法に準じて測定される。
【0021】
ポリイソシアネートに由来する構造
ポリウレタン樹脂の中のポリイソシアネートに由来する構造は、原料であるポリイソシアネート化合物がウレタン反応した後の構造である。
【0022】
ポリイソシアネート化合物は、1つの分子中にイソシアネート基(-NCO)を2個以上有する化合物である。ポリイソシアネート化合物としては、従来ポリウレタンの製造に使用されるものを、特に制限なく使用することができる。ポリイソシアネート化合物は、例えば、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート等の有機ポリイソシアネート化合物;これらの有機ポリイソシアネート化合物の誘導体を含むポリイソシアネート誘導体等を含む。前記有機ポリイソシアネート化合物は、2官能のもの、すなわち、1つの分子中にイソシアネート基(-NCO)を2個有する化合物、例えば、芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、又は、脂肪族ジイソシアネートのいずれも用いることができる。また、3官能以上のもの、すなわち、1つの分子中にイソシアネート基(-NCO)を3個以上有する化合物、例えば、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、又は、脂肪族ポリイソシアネートのいずれも用いることができる。
ポリイソシアネート化合物は、1種単独で用いてもよく、又は、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記ポリイソシアネート化合物は、脂肪族イソシアネート化合物、及び、脂環式イソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでいることが好ましい。
【0024】
脂肪族イソシアネート化合物は、脂肪族ジイソシアネート、及び、3官能以上の脂肪族ポリイソシアネートを含む。
【0025】
前記脂肪族ジイソシアネートは、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-又は、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプロエート等が挙げられる。
【0026】
前記3官能以上の脂肪族ポリイソシアネートは、例えば、リジンエステルトリイソシアネート、1,4,8-トリイソシアネートオクタン、1,6,11-トリイソシアネートウンデカン、1,8-ジイソシアネート-4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-トリイソシアネートヘキサン、2,5,7-トリメチル-1,8-ジイソシアネート-5-イソシアネートメチルオクタン等の3官能の脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0027】
脂環式イソシアネート化合物は、脂環式ジイソシアネート、及び、3官能以上の脂環式ポリイソシアネートを含む。
【0028】
前記脂環式ジイソシアネートは、例えば、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0029】
前記3官能以上の脂環式ポリイソシアネートは、例えば、1,3,5-トリイソシアネートシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルイソシアネートシクロヘキサン、2-(3-イソシアネートプロピル)-2,5-ジ(イソシアネートメチル)ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、2-(3-イソシアネートプロピル)-2,6-ジ(イソシアネートメチル)ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、3-(3-イソシアネートプロピル)-2,5-ジ(イソシアネートメチル)ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアネートエチル)-2-イソシアネートメチル-3-(3-イソシアネートプロピル)ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6-(2-イソシアネートエチル)-2-イソシアネートメチル-3-(3-イソシアネートプロピル)ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、5-(2-イソシアネートエチル)-2-イソシアネートメチル-2-(3-イソシアネートプロピル)ビシクロ(2.2.1)ヘプタン、6-(2-イソシアネートエチル)-2-イソシアネートメチル-2-(3-イソシアネートプロピル)ビシクロ(2.2.1)ヘプタン等が挙げられる。
【0030】
前記ポリイソシアネート化合物は、さらに、芳香族イソシアネート化合物を含んでいてもよい。
芳香族イソシアネート化合物としては、特に限定はなく、例えば、芳香族ジイソシアネート、及び、3官能以上の芳香族ポリイソシアネートを含む。
前記芳香族ジイソシアネートは、例えば、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-トルイジンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート等が挙げられる。
【0031】
前記3官能以上の芳香族ポリイソシアネートは、例えば、トリフェニルメタン-4,4’,4”-トリイソシアネート、1,3,5-トリイソシアネートベンゼン、2,4,6-トリイソシアネートトルエン等の3官能の芳香族ポリイソシアネート;4,4’-ジフェニルメタン-2,2’,5,5’-テトライソシアネート等の4官能の芳香族ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0032】
前記ポリイソシアネート誘導体としては、特に限定はなく、例えば、上記したポリイソシアネート(単量体)の多量体(例えば、2量体、3量体(例えば、イソシアヌレート変性体、イミノオキサジアジンジオン変性体)、5量体、7量体等)、アロファネート変性体(例えば、上記したポリイソシアネート(単量体)と、後述する低分子量ポリオールとの反応により形成されたウレタン基に更にポリイソシアネート(単量体)のイソシアネート基が付加することにより生成するアロファネート変性体等)、アダクト体(例えば、ポリイソシアネート(単量体)と後述する低分子量ポリオールとの反応により生成するアダクト体(アルコール付加体)等)、ビウレット変性体(例えば、上記したポリイソシアネート(単量体)と、水又はアミン類との反応により生成するビウレット変性体等)、ウレア変性体(例えば、上記したポリイソシアネート(単量体)とジアミンとの反応により形成されたウレア基に更にポリイソシアネート(単量体)のイソシアネート基が付加することにより生成するウレア変性体等)、オキサジアジントリオン変性体(例えば、上記したポリイソシアネート(単量体)と炭酸ガスとの反応により生成するオキサジアジントリオン等)、カルボジイミド変性体(上記したポリイソシアネート(単量体)の脱炭酸縮合反応により生成するカルボジイミド変性体等)、ウレトジオン変性体、ウレトンイミン変性体等が挙げられる。更に、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)等も挙げられる。
【0033】
前記ポリイソシアネート化合物の含有量は、前記ポリオール化合物100質量部に対して、通常10~100質量部であり、20~70質量部が好ましく、30~60質量部がより好ましい。
前記ポリオール化合物、及び、必要に応じて用いる後述のモノオール化合物の水酸基と、前記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基とのモル比(R値:NCO基/OH基)は、0.5~4が好ましく、0.8~3がより好ましく、0.9~2がさらに好ましい。ここで、R値は、INDEXともいう。
【0034】
ポリアミンに由来する構造
ポリウレタン樹脂の中のポリアミンに由来する構造は、鎖伸長剤であるポリアミン化合物が反応した後の構造である。
前記ポリアミン化合物は、特に限定はなく、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、プロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン;メタキシレンジアミン、トリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン;ピペラジン、イソホロンジアミン等の脂環式ポリアミン;ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド等のポリヒドラジドを含む。前記ポリアミン化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記ポリアミン化合物に加えて、ポリアミン化合物以外の鎖伸長剤、例えば、水、アンモニア等を使用することができる。
【0035】
前記ポリアミン化合物の含有量は、前記ポリオール化合物100質量部に対して、通常0.1~5.0質量部であり、0.3~3.0質量部が好ましく、0.4~1.0質量部がより好ましい。
【0036】
アニオン性親水性基を含有する化合物
ポリウレタン樹脂水系分散体のイオン性を、アニオン性とするためには、アニオン性親水性基を有する化合物を添加すればよい。
アニオン性親水性基として、具体的には、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ハロゲン基、硫酸基等が挙げられる。
アニオン性親水性基を有する親水性化合物として、具体的には、アニオン性基と活性水素基とを併せて有する化合物が挙げられ、より具体的には、例えば、モノヒドロキシカルボン酸、ポリヒドロキシカルボン酸のカルボキシ基をアニオン性基として有する化合物が挙げられる。
モノヒドロキシカルボン酸としては、例えば、1-ヒドロキシ酢酸、3-ヒドロキシプロパン酸、12-ヒドロキシ-9-オクタデカン酸、ヒドロキシピバル酸(ヒドロキシピバリン酸)、乳酸等が挙げられる。
ポリヒドロキシカルボン酸のカルボキシ基をアニオン性基として有する化合物としては、例えば、ジメチロール酢酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロールペンタン酸、ジヒドロキシコハク酸、ジメチロールプロピオン酸等が挙げられる。
また、スルホン酸基と活性水素基とを併せて有する化合物も挙げられ、より具体的には、例えば、イセチオン酸等が挙げられる。
中でも、アニオン性基と活性水素基とを併せて有する化合物としては、ヒドロキシピバル酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等が好ましい。
【0037】
ポリイソシアネートに付加されたアニオン性親水性基は、塩基性物質であるアミン系化合物で中和することが好ましい。
アミン系化合物として、具体的には、例えば、アンモニア、水溶性アミノ化合物等が挙げられる。
水溶性アミノ化合物として、具体的には、例えば、モノエタノールアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリエタノールアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、メチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン等が挙げられる。また、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等の第3級アミンも挙げられ、これらを用いることもできる。これらのアミン系化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
前記アニオン性親水性基を有する化合物が、ジメチロールプロピオン酸又はジメチロールブタン酸のように、水酸基を2つ有する化合物である場合には、ポリオール化合物ということもできる。この場合、ジメチロールプロピオン酸又はジメチロールブタン酸は、反応後にポリウレタン樹脂のポリオールに由来する構造を形成することになる。
【0039】
前記アニオン性親水性基を有する化合物の含有量は、前記ポリオール化合物100質量部に対して、通常2.0~20質量部であり、4.0~15.0質量部が好ましく、6.0~10.0質量部がより好ましい。
【0040】
モノオール化合物
ポリウレタン樹脂は、ポリオールに由来する構造に加えて、モノオールに由来する構造を有していてもよい。ポリウレタン樹脂がモノオールに由来する構造を有する場合、ポリウレタン構造の中のモノオールに由来する構造は、モノオール化合物が反応した後の構造である。
前記モノオール化合物は、水酸基を1個含有する化合物である。
前記モノオール化合物として、例えば、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール等が挙げられる。
これらは、1種単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0041】
前記モノオール化合物としては、下記一般式で表されるポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルに由来する構造を有していることが好ましい。
RO-(C24O)m(C36O)n-H (1)
ここで、Rは炭素数1~10のアルキル基、mは1以上の整数、nは0以上の整数を表す。
前記ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、炭素数1~10のモノアルコールにエチレンオキサイドと、必要に応じプロピレンオキサイドが付加重合した化合物であり、モノアルコールに由来する炭素数1~10のアルキル基Rを有する。アルキル基Rは直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。アルキル基Rの炭素数は1~4であることが好ましい。mは1以上の整数であり、100以下であることが好ましく、nは0以上の整数であり、100以下であることが好ましい。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドが共に付加している場合には、モノアルコールへの付加はエチレンオキサイドが先であっても、プロピレンオキサイドが先であってもよく、それらの付加状態はブロック付加であってもランダム付加であってもよい。一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルの数平均分子量は、500~5000であることが好ましい。一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等が好ましい。
【0042】
モノオール化合物を含有する場合、前記ポリオール化合物100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましく、25質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0043】
ポリウレタン樹脂水系分散体の製造方法
ポリウレタン樹脂水系分散体の製造方法は、公知の方法を用いることができる。
例えば、ポリオール化合物と、ポリイソシアネート化合物、及び、アニオン性親水性基含有化合物とを反応させ、必要に応じて、含まれる親水基を中和することでウレタンプレポリマーを得、水を用いて乳化し、さらにポリアミンで鎖伸長反応することにより得ることができる。
なお、ポリオール化合物と、ポリイソシアネート化合物とを反応させる際には、必要に応じて溶媒を使用してもよい。溶媒として、任意の有機溶媒を使用することができる。有機溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
反応条件は、例えば、60~80℃で、2~4時間程度、好ましくは約70℃で3時間程度であり、必要に応じで、5~45℃に冷却して、次の工程(含まれる親水基の中和)を行うことができる。
【0044】
反応を促進させるため、公知のウレタン化触媒を制限なく使用することができる。ウレタン化触媒は、例えば、無機金属触媒、有機金属触媒、アミン触媒等が挙げられる。
無機金属触媒は、無機スズ触媒、無機ビスマス触媒等が挙げられる。
有機金属触媒は、有機スズ触媒、有機鉛触媒、有機ビスマス触媒等が挙げられる。
有機スズ触媒は、例えば、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジアセテート等が挙げられる。
有機鉛触媒は、例えば、オクチル酸鉛、オクテン酸鉛、ナフテン酸鉛等が挙げられる。
有機ビスマス触媒は、例えば、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマス等が挙げられる。
アミン触媒は、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0045】
前記ウレタンプレポリマーを得るために用いるイソシアネート基と水酸基との割合(モル当量比)は、イソシアネート基:水酸基=1.0以上:1であれば特に限定されない。ウレタンプレポリマーを低粘度とし、安定な乳化物を得ることができることから、1.05~3:1が好ましく、1.20~2.2:1であることがより好ましい。
【0046】
前記親水性基は、アニオン性基である。
アニオン性親水性基を導入し得る化合物は、アニオン性親水性基を有する化合物である。
アニオン性親水性基として、具体的には、カルボキシ基、スルホン酸基、リン酸基、ハロゲン基、硫酸基等が挙げられる。
前記アニオン性親水性基を導入し得る化合物としては、ヒドロキシピバル酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等が好ましい。
前記ウレタンプレポリマー中のアニオン性親水性基の含有量(モル数)は、特に限定されない。アニオン性親水性基の含有量は、0.01~2.5mmol/gが好ましく、0.02~1.8mmol/gがより好ましく、0.03~1.6mmol/gがさらに好ましい。
【0047】
前記乳化に使用する水は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して100~900質量部程度添加することが好ましい。
【0048】
前記鎖伸長に際しては、鎖伸長剤として、前述したポリアミン化合物を使用する。前記ポリアミン化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記ポリアミン化合物に加えて、ポリアミン化合物以外の鎖伸長剤、例えば、水、アンモニア等を使用してもよい。
前記鎖伸長の条件は、例えば、40~60℃程度で0.5~2時間程度、好ましくは約50℃で1時間程度である。
【0049】
前記ポリウレタン樹脂水系分散体中のポリウレタン樹脂(固形分)の含有量は、特に限定されず、例えば、ポリウレタン樹脂水系分散体全量に対して、1~60質量%が好ましく、3~55質量%がより好ましく、4~50質量%がさらに好ましい。
【0050】
ポリウレタン樹脂組成物
ポリウレタン樹脂組成物は、前記ポリウレタン樹脂水系分散体と、前記繊維状セルロースとを含んでいる。
ポリウレタン樹脂組成物は、上記のように製造したポリウレタン樹脂水系分散体と、繊維径が10nm以上の繊維状セルロースとを混合することにより得ることができる。
【0051】
前記繊維状セルロースは、前記繊維状セルロースの水系分散体として使用することが好ましい。
前記繊維状セルロースの水系分散体は、分散媒として水を含み、繊維状セルロースが分散媒中に分散した状態で含まれたものである。分散媒としては、水性媒体が用いられ、水単独でもよいが、例えば、水に可溶なアルコール類(例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等の水と混和性のある親水性有機溶媒を併用してもよい。
前記繊維状セルロースの水系分散体中の繊維状セルロースの濃度は、特に限定されず、下限値は、例えば、0.01質量%以上、又は、0.05質量%以上であってもよい。また、上限値は、例えば、20質量%以下、10質量%以下、又は0.5質量%以下であってもよい。
【0052】
ポリウレタン樹脂組成物中の前記ポリウレタン樹脂(固形分)の含有量は、前記繊維状セルロース(固形分)100質量部に対して、通常10~150質量部であり、好ましくは15~125質量部であり、より好ましくは20~100質量部である。
【0053】
ポリウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体
ポリウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体(以下、「ポリウレタン樹脂-繊維状セルロース複合成形体」、又は、単に「複合成形体」という場合もある。)は、少なくともポリオールに由来する構造、ポリイソシアネートに由来する構造、及び、ポリアミンに由来する構造を有し、かつ、イオン性がアニオン性である、ポリウレタン樹脂と、平均繊維径が10nm以上の繊維状セルロースとの複合成形体である。
前記複合成形体は、少なくともポリオールに由来する構造、ポリイソシアネートに由来する構造、及び、ポリアミンに由来する構造を有するポリウレタン樹脂を含有し、かつ、イオン性がアニオン性であるポリウレタン樹脂水系分散体を使用して製造されているので、複合している繊維状セルロースの平均繊維径が10nm以上と大きいにもかかわらず、透明性が高い。
【0054】
前記複合成形体中の前記ポリウレタン樹脂(固形分)の含有量は、前記繊維状セルロース(固形分)100質量部に対して、通常10~150質量部であり、好ましくは15~125質量部であり、より好ましくは20~100質量部である。
【0055】
複合成形体の製造方法
前記複合成形体の製造方法は、上述したポリウレタン樹脂組成物を濾取することにより、水を含む繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との複合物を得る工程を備えている。
前記複合成形体の製造方法は、好ましくは、
上記ポリウレタン樹脂水系分散体と、上記繊維状セルロースとを混合することによりポリウレタン樹脂組成物を得る第1工程、
第1工程で得られたポリウレタン樹脂組成物を濾取することにより、水を含む繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との複合物を得る第2工程、及び
第2工程で得られた複合物を乾燥して、ポリウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体を得る第3工程を備えている。
【0056】
第1工程における混合方法は、特に限定されない。例えば、ポリウレタン樹脂水系分散体と、繊維状セルロースの水分散体とを攪拌することにより、ポリウレタン樹脂組成物を得ることができる。
【0057】
第2工程における濾取方法は、ポリウレタン樹脂組成物から濾過によって水分を除去して、(半)固体状の複合物を形成し採取する方法である。ポリウレタン樹脂組成物に含まれる全水分を除去する必要はない。前記濾過は、例えば、自然濾過、減圧濾過(吸引濾過)、加圧濾過等により行うことができる。
【0058】
第3工程における乾燥方法は、特に限定されない。乾燥方法として、例えば、加熱乾燥方式、減圧乾燥方式、送風乾燥方式、マイクロ波乾燥方式、赤外線乾燥方式、凍結乾燥方式等が挙げられる。
【0059】
本発明の製造方法によれば、濾過法により複合成形体を容易に作製することができる。また、濾過法によって複合成形体を作製できるので、濾過できずに加熱乾燥によって全ての水分を除去する場合と比べて消費エネルギーを小さくすることができる。
【0060】
導電性回路基板
導電性回路基板は、前記複合成形体、及び、その表面に導電性パターンを有する。
前記導電性回路基板は、前記複合成形体と前記導電性パターンとの密着性に優れている。
【実施例0061】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0062】
<原材料の説明>
ポリウレタン樹脂水系分散体の製造(製造例1~6、並びに、比較製造例1及び2)
[ポリオール化合物]
・エタナコール(登録商標)UH-100:ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、数平均分子量1000、UBE株式会社製、水酸基価(mgKOH/g):約110
・エタナコール(登録商標)UHC50-100:ポリヘキサメチレンカーボネートジオールとカプロラクトンとの反応生成物、数平均分子量1000、UBE株式会社製、水酸基価(mgKOH/g):約110
・PTG-1000SN:ポリテトラメチレンエーテルグリコール、数平均分子量1000、保土谷化学工業株式会社製、水酸基価(mgKOH/g):112
・ニッポラン(登録商標)4009、数平均分子量1000、東ソー株式会社製、水酸基価(mgKOH/g):112
・PES:ポリエステルポリオール、東ソー株式会社製、水酸基価(mgKOH/g):約350
・1,4-ブタンジオール:三菱ケミカル株式会社製、分子量:90.12
・トリメチロールプロパン:パーストープ社製
[アニオン性親水性基含有化合物]
・ジメチロールプロピオン酸(Bis-MPA、パーストープ社製)
[カチオン性親水性基含有化合物]
・N-メチルジエタノールアミン(アミノアルコールMDA):日本乳化剤株式会社製
【0063】
[モノオール化合物]
・ユニオックス(登録商標)M-2000:ポリオキシエチレングリコールモノメチルエーテル、平均分子量2000、日油株式会社製
【0064】
[ポリイソシアネート化合物]
・デスモジュール(登録商標)W:メチレンビス(1,4-シクロヘキサンジイル)ビスイソシアナート、コベストロ社製
・VESTANAT(登録商標)IPDI、エボニック社製
・デュラネート(登録商標)50M、旭化成ケミカルズ株式会社製
【0065】
[鎖伸長剤(ポリアミン化合物)]
・ジエチレントリアミン:東ソー株式会社製
・エチレンジアミン:東ソー株式会社製
[中和剤]
・トリエチルアミン:株式会社ダイセル製
[四級化剤]
・ジメチル硫酸:東京化成工業株式会社
[触媒]
・ネオスタン(登録商標)U-600:ビスマス系触媒、日東化成株式会社製
【0066】
アクリル系樹脂の製造(比較製造例3)
・ステアリルアクリレート:共栄社化学株式会社製
・2-ヒドロキシエチルアクリレート:富士フイルム和光純薬株式会社製
・メタクリル酸:富士フイルム和光純薬株式会社製
・アゾビスイソブチロニトリル:富士フイルム和光純薬株式会社製
【0067】
ポリウレタン樹脂-繊維状セルロース複合成形体の作製(実施例1~8及び比較例3~5)
[繊維状セルロース水系分散体]
・CNF-1:機械解繊CNF水系分散体(竹漂白パルプ系、中越パルプ工業株式会社製)、平均繊維径13nm(測定値。薄膜状乾燥物に対して、セイコーインスツル株式会社製の原子間力顕微鏡SPA-400で表面観察を行い、3本の繊維の幅を平均した)。
・CNF-2:TEMPO酸化CNF水系分散体(製品名レオクリスタ(登録商標)I-2SP、第一工業製薬株式会社製)、平均繊維径3nm(測定値。薄膜状乾燥物に対して、セイコーインスツル株式会社製の原子間力顕微鏡SPA-400で表面観察を行い、3本の繊維の幅を平均した)。
【0068】
[樹脂水系分散体]
・製造例1~6、並びに、比較製造例1及び2のポリウレタン樹脂水系分散体
・比較製造例3のアクリル系樹脂水系分散体
【0069】
<製造例>
製造例1
エタナコールUH-100(59.42質量部)、Bis-MPA(4.85質量部)、ユニオックスM-2000(3.87質量部)、デスモジュールW(31.46質量部)、トリエチルアミン(3.48質量部)、ネオスタンU-600(0.05質量部)及びメチルエチルケトン(62.91質量部)をフラスコに加えて70℃で加熱攪拌し、NCO%が1.15%になるまで反応させた。原材料の仕込み量から計算した反応後の理論NCO%である1.18%以下になったため、十分にウレタン化反応が進行し、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーが生じたと判断した。続いて、この反応液を30℃まで冷却した後、強攪拌下にて水(308質量部)を滴下して乳化した後、ジエチレントリアミン(0.40質量部)を水(10質量部)に溶解して滴下した。さらに、45℃で1時間加熱攪拌した後、メチルエチルケトンを減圧留去し、水を加えて固形分を30%に調整し、製造例1のポリウレタン樹脂水系分散体1を得た。
【0070】
<NCO%の測定>
上記製造例1において、NCO%は、例えば、JIS K 1603-1:2007のA法に準拠して測定した。具体的には、反応液中の残存NCO基を過剰量のジブチルアミンと反応させ、その後、残存ジブチルアミンを塩酸により逆滴定することにより算出した。また、反応液中にアミン化合物を含む場合は、反応液中のアミン化合物と反応する塩酸の量を測定し、逆滴定に要した塩酸量の補正を行うことでNCO%を算出した。
【0071】
製造例2~6
表1に記載の原料を、表1に記載の量(質量部)で使用した以外は、上記製造例1と同様に操作を行い、製造例2~6のポリウレタン樹脂水系分散体2~6をそれぞれ得た。
【0072】
比較製造例1
エタナコールUH-100(67.10質量部)、ユニオックスM-2000(10.02質量部)、デスモジュールW(22.59質量部)、ネオスタン U-600(0.05質量部)及びメチルエチルケトン(42.63質量部)をフラスコに加えて70℃で加熱攪拌し、NCO%が0.86%になるまで反応させた。原材料の仕込み量から計算した反応後の理論NCO%である0.97%以下になったため、十分にウレタン化反応が進行し、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーが生じたと判断した。続いて、この反応液を30℃まで冷却した後、強攪拌下にて水(235質量部)を滴下して乳化した後、ジエチレントリアミン(0.28質量部)を水(10質量部)に溶解して滴下した。さらに、45℃で1時間加熱攪拌した後、メチルエチルケトンを減圧留去し、水を加えて固形分を30%に調整し、比較製造例1のポリウレタン樹脂水系分散体を得た。
【0073】
比較製造例2
エタナコールUH-100(59.42質量部)、アミノアルコールMDA(4.31質量部)、ユニオックスM-2000(3.87質量部)、デスモジュールW(31.46質量部)、ネオスタンU-600(0.005質量部)及びメチルエチルケトン(64.18質量部)をフラスコに加えて70℃で加熱攪拌し、NCO%が1.11%になるまで反応させた。原材料の仕込み量から計算した反応後の理論NCO%である1.20%以下になったため、十分にウレタン化反応が進行し、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーが生じたと判断した。続いて、ジメチル硫酸(4.33質量部)を加え、50℃で加熱攪拌し、カチオン性ウレタンプレポリマーを得た。次に、この反応液を30℃まで冷却した後、強攪拌下にて水(258質量部)を滴下して乳化した後、ジエチレントリアミン(0.40質量部)を水(10質量部)に溶解して滴下した。さらに、45℃で1時間加熱攪拌した後、メチルエチルケトンを減圧留去し、水を加えて固形分を30%に調整し、比較製造例2のポリウレタン樹脂水系分散体を得た。
【0074】
比較製造例3
ステアリルアクリレート(78質量部)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(16質量部)、メタクリル酸(6質量部)、アゾビスイソブチロニトリル(0.6質量部)及びメチルエチルケトン(100質量部)をフラスコに加えて、65~75℃の窒素雰囲気下で12時間混合攪拌して共重合させた。続けて、この反応液に、0.3%のNaOH水溶液(568質量部)を添加して分散させた後、エバポレーターを用いて加熱しながらメチルエチルケトンを減圧留去した。そして、これに水を加えて固形分を15%に調整し、比較製造例3のアクリル樹脂水系分散体を得た。
【0075】
【表1】
【0076】
<ポリウレタン樹脂-繊維状セルロース(CNF)複合成形体フィルムの作製及び評価>
実施例1
あらかじめ固形分を0.5%に調整したCNF-1を10gと蒸留水20gとを混合した後、さらに、あらかじめ固形分を0.5%に調整した製造例1のポリウレタン樹脂水系分散体1を3g加えて混合した。各混合工程には、自転公転ミキサーあわとり練太郎(株式会社シンキー製)を使用した(回転数2000rpm、5分間)。
調製した繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との混合分散液を、メンブレンフィルター(グレード:A100A047A、直径:47mm、孔サイズ:1.0μm)を用いて吸引濾過し、ポリウレタン樹脂-繊維状セルロース複合成形体の含水フィルムを得た。ここで、吸引濾過する際に、吸引濾過時間を測定した。
得られた含水フィルムをPTFE濾紙で上下から挟み、更にそれをセルロース濾紙で上下から挟み、最後にアルミ板で上下から挟んだ。
これに1kgの重りを載せて65℃のオーブンで1日乾燥することで、実施例1のポリウレタン樹脂-繊維状セルロース複合成形体フィルム1を得た。
【0077】
実施例2~8
表2に記載の組成及び含有量にて、実施例1と同様の方法で、実施例2~8のポリウレタン樹脂-繊維状セルロース複合成形体フィルム2~8をそれぞれ得た。
【0078】
比較例1
表3に記載の組成及び含有量にて、製造例1のポリウレタン樹脂水系分散体1を含まないこと以外は実施例1と同様の方法で、比較例1の比較フィルム1を得た。
【0079】
比較例2
表3に記載の組成及び含有量にて、CNF-1を含まないこと以外は実施例1と同様の方法でフィルム作製を行った。比較例2は、含水フィルムを得ることができなかったため、フィルム平均膜厚、全光透過率、ヘイズ、及び密着性試験を測定できなかった。
【0080】
比較例3
表3に記載の組成及び含有量にて、CNF-1をCNF-2に変更した以外は実施例1と同様の方法で、比較例3の比較フィルム3を得た。
【0081】
比較例4~6
表3に記載の組成及び含有量にて、製造例1のポリウレタン樹脂水系分散体1を比較製造例1~3にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様の方法で比較例4~6の比較フィルム4~6を得た。
【0082】
調製した実施例1~8及び比較例1~6の繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との混合分散液と、得られた実施例1~8並びに比較例1及び3~6のポリウレタン樹脂-繊維状セルロース複合成形体フィルムについて、以下の試験を行い、結果を表2及び表3に示す。
【0083】
<試験方法>
[濾液固形分]
濾液固形分(%)は、下記式に従い算出した。具体的には、ポリウレタン樹脂-繊維状セルロース複合成形体作製時に得られた濾液20gを測り取り、110℃の送風乾燥機で4時間乾燥させ、乾燥後の残存物の質量を測定することにより、算出した。
式:濾液固形分(%) = [濾液乾燥後の残存物の質量(g)/濾液20g]×100
【0084】
[歩留まり率]
下式に従い、歩留まり率を算出した。
式:歩留まり率(%) = [1 - 濾液固形分(%)/濾過前の固形分(%)]×100
ここで、濾過前の固形分(%)とは、繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との複合成形体を製造するために調製した繊維状セルロースとポリウレタン樹脂との混合水系分散液中に含まれる固形分を意味している。
【0085】
[フィルム平均膜厚]
フィルム平均膜厚(μm)は、得られた各フィルムを、株式会社ミツトヨ製のデジマチックマイクロメータを用いて、3箇所を測定し、その平均を求めた。
【0086】
[全光透過率及びヘイズ]
全光透過率(%)及びヘイズ(%)は、日本電色工業株式会社製の濁度計NDH 4000で測定した。
【0087】
[導電性インク層の密着性試験]
フィルム状に成形した各ポリウレタン樹脂-繊維状セルロース複合成形体に、ドータイト(登録商標)FE-107(溶剤系導電性インク、藤倉化成株式会社製)を乾燥平均膜厚約100μmとなるように塗工した。続いて、塗膜にセロハンテープ(ニチバン(登録商標):No.405)を、2kgの圧着ゴムローラーで4往復させて貼り付け、水平に剥離した。
試験後のサンプルを撮影してソフトウェア(ImageJ)で二値化処理することにより、残存面積(%)を求めた。二値化処理の閾値は、ソフトウェアの規定値、すなわち、閾値=(背景の平均輝度値 + 対象部分の平均輝度値)÷2とした。
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
<試験結果>
その結果、表2及び表3に記載されているとおり、実施例1~8のポリウレタン樹脂-繊維状セルロース複合成形体は、比較例1~6と比べて、透明性(全光透過率及びヘイズ値)が高く、かつ、導電性パターン層との密着性の高い複合成形体が得られた。
繊維状セルロースのみを含み、ポリウレタン樹脂を含まない比較例1は、ヘイズが高く(透明性が低く)、密着性も悪かった。
ポリウレタン樹脂のみを含み、繊維状セルロースを含まない比較例2は、フィルムを作製できなかった。
繊維径が10nm未満の繊維状セルロースを含む比較例3は、吸引濾過時間が長すぎるため、乾燥に多大なエネルギーが必要となった。
アニオン性ではないポリウレタン樹脂水系分散体を使用した比較例4及び5は、比較例1と比べてヘイズが高かった(透明性が低かった)。
ウレタン樹脂ではない樹脂(アクリル樹脂)を含む比較例6は、比較例1と比べて密着性が悪かった。
したがって、製造例1~8のポリウレタン樹脂水系分散体を用いることにより、平均繊維径が10nm以上の繊維状セルロースを含んでいても、濾過法により、少ない消費エネルギーで、透明性が高く、かつ、導電性パターン層との密着性が高い、ポリウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体を製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のポリウレタン樹脂と繊維状セルロースとの複合成形体は、透明性が高く、かつ、導電性パターン層との密着性が高いので、フレキシブル透明基板等の電子材料分野に応用することが可能である。