IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人金沢大学の特許一覧 ▶ 学校法人順天堂の特許一覧

<>
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図1
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図2
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図3
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図4
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図5
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図6
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図7
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図8
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図9
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図10
  • 特開-FOXO阻害剤、及び医薬組成物 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017191
(43)【公開日】2025-02-05
(54)【発明の名称】FOXO阻害剤、及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/787 20060101AFI20250129BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20250129BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20250129BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20250129BHJP
   A61K 47/59 20170101ALI20250129BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250129BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20250129BHJP
【FI】
A61K31/787 ZNA
A61P35/02
A61K47/55
A61K31/196
A61K47/59
A61K48/00
C12Q1/6876 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120148
(22)【出願日】2023-07-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「次世代がん医療創生研究事業」「代謝シグナルによる未分化性制御機構を標的とした新規がん治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平尾 敦
(72)【発明者】
【氏名】倉吉 健太
(72)【発明者】
【氏名】上野 将也
(72)【発明者】
【氏名】杉山 弘
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 浩喜
【テーマコード(参考)】
4B063
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ28
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX01
4C076AA95
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE26
4C076EE59
4C076FF68
4C084AA13
4C084NA13
4C084ZB271
4C084ZB272
4C086AA01
4C086AA02
4C086FA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086ZB27
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA31
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA13
4C206ZB27
(57)【要約】
【課題】vivoでも高い薬効を示す新規なFOXO阻害剤、及びそれを用いた急性骨髄性白血病の治療薬を提供することを目的とする。
【解決手段】FOXO結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミド及びアルキル化剤の複合体を含むFOXO阻害剤である。このFOXO阻害剤は、急性骨髄性白血病(AML)を予防又は治療するための医薬組成物として用いることができる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FOXO結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミド構造を有するポリマーを含むFOXO阻害剤。
【請求項2】
前記ポリマーが、ピロール-イミダゾールポリアミド及びアルキル化剤の複合体である請求項1に記載のFOXO阻害剤。
【請求項3】
前記アルキル化剤が、クロラムブシルである請求項2に記載のFOXO阻害剤。
【請求項4】
前記ポリマーが、下記構造を有する請求項3に記載のFOXO阻害剤。
【化1】
【請求項5】
前記FOXO結合配列が、
(1)5'-TGTTTAC-3'
(2)5'-TGTTTAG-3'
(3)5'-TGTTTTC-3'
(4)5'-TGTTTTG-3'
(5)5'-TATTTAC-3'
(6)5'-TATTTAG-3'
(7)5'-TATTTTC-3'又は
(8)5'-TATTTTG-3'
を含む請求項1に記載のFOXO阻害剤。
【請求項6】
TRIB1の発現を抑制する請求項1に記載のFOXO阻害剤。
【請求項7】
急性骨髄性白血病(AML)を予防又は治療するための医薬組成物であって、請求項1に記載のFOXO阻害剤を含む医薬組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FOXO阻害剤、及びそれを用いた医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)は、日本における発症率が人口10万人当たり約2~3人とされ、発症数は年齢が高くなるにつれて増加し、好発年齢は60歳代である。急性骨髄性白血病では、長期生存率は5割を下回っている。
【0003】
AMLは、造血幹・前駆細胞から生じる悪性腫瘍であり、骨髄球細胞の分化ブロックとそれに伴う異常増殖を特徴とする。そのため、分化ブロックの解除がAMLの有効な治療戦略として注目されてきた。
【0004】
分化ブロックのキーファクターとして、転写因子FOXOタンパク質が注目されている。FOXOは、FOXO1、3、6から構成され、特に、FOXO1及び3がAMLにおける骨髄球細胞の未分化維持に重要であるとされている。一般的に、転写因子の直接の阻害剤の開発は難しいとされているが、FOXOに直接結合して阻害作用を発揮する分子として、AS1842856(5-アミノ-7-(シクロヘキシルアミノ)-1-エチル-6-フルオロ-4-オキソ-1,4-ジヒドロキノリン-3-カルボン酸)が同定されている(非特許文献1)。
【0005】
実際に、AS1842856の薬効を評価したところ、AS1842856は分化マーカーであるCD11b陽性細胞を増加させ、分化を誘導した。したがって、AS1842856は有望な分化誘導剤となることが示唆された。しかし、このFOXO阻害剤は、vivoでの有効性が低いという課題がある。そのため、AMLの治療薬として用いることができる、新たなFOXO阻害剤の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Nagashima, et al., Mol Pharmacol., 2010 Nov;7 8(5): 961-70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、vivoでも高い薬効を示す新規なFOXO阻害剤、及びそれを用いた急性骨髄性白血病の治療薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは、FOXO阻害剤の候補分子として、DNA結合分子であるピロール-イミダゾールポリアミド(PIP)に着目した。PIPは、ピロールとイミダゾールがペプチド結合したヘアピンペプチドの一種であり、PIはCG、PPはAT又はTAを認識する。したがって、ピロールとイミダゾールの並び順を調整することで特定のDNA配列に結合するPIPを作製することができる。PIPはエンハンサーに結合すると、シスエレメントと転写因子との結合を阻害し、遺伝子発現を抑制する。また、PIPにアルキル化剤を結合させると、PIPの標的配列がアルキル化され、不可逆的にPIPが標的配列と結合し、さらに強力に標的遺伝子の発現を抑制することが知られている。さらに、転写因子Runx1の結合配列を標的としたPIPはin vivoで抗がん作用を示し、PIPはvivoでも薬効を示す分子であることが判明している(J Clin Invest. 2017; 127(7): 2815-2828)。したがって、FOXO配列を標的とするPIPはvivoで有効なFOXO阻害剤となる可能性がある。
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、FOXO配列を標的とするPIPが、実際にvivoでFOXOの機能を阻害し、AMLの治療薬として有用であることを見出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]FOXO結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミド構造を有するポリマーを含むFOXO阻害剤。
[2]前記ポリマーが、ピロール-イミダゾールポリアミド及びアルキル化剤の複合体である上記[1]に記載のFOXO阻害剤。
[3]前記アルキル化剤が、クロラムブシルである上記[2]に記載のFOXO阻害剤。
[4]前記ポリマーが、下記構造を有する上記[3]に記載のFOXO阻害剤。
【化1】
[5]前記FOXO結合配列が、
(1)5'-TGTTTAC-3'
(2)5'-TGTTTAG-3'
(3)5'-TGTTTTC-3'
(4)5'-TGTTTTG-3'
(5)5'-TATTTAC-3'
(6)5'-TATTTAG-3'
(7)5'-TATTTTC-3'又は
(8)5'-TATTTTG-3'
を含む上記[1]に記載のFOXO阻害剤。
[6]TRIB1の発現を抑制する上記[1]に記載のFOXO阻害剤。
[7]急性骨髄性白血病(AML)を予防又は治療するための医薬組成物であって、上記[1]に記載のFOXO阻害剤を含む医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のFOXO阻害剤は、FOXO応答エレメントへの結合することで、未分化維持因子であるTRIB1の発現を抑制し、様々なAML細胞株で分化を誘導することができる。また、このFOXO阻害剤は、高い抗腫瘍効果を有し、AMLの有効な治療薬として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例におけるPIPの標的配列、及びFOXO応答エレメント(FRE)を示す図である。
図2】FRE-chbについてのゲルシフトアッセイの結果を示す図である。プローブとして、PIPの結合配列が野生型のFRE-chb野生型DNAプローブ(wt probe)と結合配列に変異を加えたFRE-chb変異型DNAプローブ(mt probe)を用いた。
図3】実施例におけるチップアッセイの結果を示す図である。FRE-chbは、Chb-S(コントロール)に比べてFOXO3とTRIB1プロモーターとの会合を有意に阻害した。
図4】実施例におけるチップアッセイの結果を示す図である。FRE-chbは、Chb-S(コントロール)に比べてTRIB1の発現を有意に阻害した。
図5】分化マーカーCD11b+を指標として、HL-60細胞及びMOLM-14細胞の分化誘導能を調べた結果を示す図である。FRE-chbは、Chb-S(コントロール)に対してAML細胞株の分化をより誘導した。
図6】MOLM-14細胞、MV4-11細胞、THP-1細胞、SKM-1細胞及びU-937細胞について、非特異性エステラーゼ(NSE)解析を行った結果を示す図である。FRE-chbはChb-S(コントロール)に比べて様々なAML細胞株の分化をより誘導できることが示された。
図7】FRE-chb及びChb-S(コントロール)存在下における、MOLM-14細胞、MV4-11細胞、THP-1細胞、HL-60細胞、SKM-1細胞及びU-937細胞の生存率を定量した結果を示す図である。
図8】FRE-chb及びChb-S(コントロール)存在下での、AML細胞株(HL-60、SKM-1)及び正常造血細胞のコロニー形成アッセイの結果を示す図である。
図9】皮下腫瘍マウスにFRE-chb及びChb-S(コントロール)を投与した場合の、腫瘍体積の変化を示す図である。
図10】皮下腫瘍マウスにFRE-chb及びChb-S(コントロール)を投与した場合の、体重の変化を示す図である。
図11】皮下腫瘍マウスにFRE-chb及びChb-S(コントロール)を投与した場合の、血液成分(白血球数WBC、赤血球数RBC、血小板数PLT及びヘモグロビンHGB)の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態に基づき本発明を詳細に説明する。
本実施形態のFOXO阻害剤は、FOXO結合配列に結合するピロール-イミダゾールポリアミド構造を有するポリマーを含む。ピロール-イミダゾールポリアミド(以下「PIポリアミド」という)は、アミド結合により連結されたN-メチルピロールとN-メチルイミダゾールから構成される合成リガンドであり、DNAの副溝に塩基配列選択的に結合する化合物である。PIポリアミドは、一般に、N-メチルピロール(Py)残基及びN-メチルイミダゾール(Im)残基からなる逆平行に配向した2本の鎖を含み、Py及びImは互いにアミド結合「-C(=O)-NH-」で連結されている(Trauger et al, Nature, 382, 559-61(1996); White et al, Chem.Biol., 4,569-78(1997); 及びDervan, Bioorg. Med. Chem., 9, 2215-35(2001))。ここで「逆平行」とは、PIポリアミドの2本のポリアミド鎖が平行に並んでおり、かつ、その2本のポリアミド鎖のN及びC末端が互いに逆向きになるよう配向されていることをいう。PIポリアミドはいくつかの形態をとることができ、例えば、ヘアピン型、環状、H-pin型、U-pin型等のPIポリアミドが知られている。ヘアピン型PIポリアミドは、上記した2本のポリアミド鎖の他にγ-アミノ酪酸部分(以下、「γ-リンカー」又は「γ-ターン」ともいう)を含み、一方の鎖のC末端ともう一方の鎖のN末端がγ-リンカーによって連結されたU字型のコンフォメーション(ヘアピン型)をとる。PyとImとγ-アミノ酪酸部分とは互いにアミド結合で連結される。環状PIポリアミドは、ヘアピン構造の末端を第2のγ-ターンによって閉環させて環状のコンフォメーションをとったものである。H-pin型及びU-pin型PIポリアミドは、γ-ターンを含まず、一般に、それぞれ2本のポリアミド鎖の中央のPyのN-メチル基間及び末端のPy及びImのN-メチル基間が脂肪族リンカーによって連結されている。本実施形態において、いずれの形態のPIポリアミドを使用してもよく、例えば、ヘアピン型、環状、H-pin型、又はU-pin型のPIポリアミドが使用され、好ましくは、ヘアピン型のPIポリアミドが使用される。
【0013】
PIポリアミドは、上記2本のポリアミド鎖間で向かい合うPy及び/又はImからなる対(以下、「ピロール-イミダゾール対」ともいう)が特定の組み合わせ(Py/Im対、Im/Py対、又はPy/Py対)のときに、DNA中の特定の塩基対に高い親和性で結合する。例えば、Py/Im対はC(シトシン)・G(グアニン)塩基対を、Im/Py対はG・C塩基対を、Py/Py対はA(アデニン)・T(チミン)塩基対及びT・A塩基対の両方を認識し、結合することができる。また、PIポリアミドには、Py及びImの他に、3-ヒドロキシピロール(Hp)及びβ-アラニン残基(β)が含まれていてもよく、PyをHp又はβに置き換えることができる。Hp/Py対は、T・A塩基対に結合することができる。Py/Hp対は、A・T塩基対に結合することができる。β/β対は、T・A塩基対及びA・T塩基対の両方に結合することができる。β/Im対は、C・G塩基対に結合することができる。Im/β対は、G・C塩基対に結合することができる。β/Py対及びPy/β対は、T・A塩基対及びA・T塩基対の両方に結合することができる。さらに、γ-ターン部分は、T・A塩基対及びA・T塩基対の両方に結合することができる。さらに、PIポリアミドのN末端に付加したβ-アラニン残基も、T・A塩基対及びA・T塩基対の両方に結合することができる。Py、Im、Hp、及び/又はβによって形成される対の構成、順序、及び組み合わせ等を適宜変更することにより、所望のDNA配列を特異的に認識し、結合するPIポリアミドを設計することができる。例えば、ポリアミドのN末端側が標的DNA配列の5'-側にくるように設計する。
【0014】
本実施形態において、PIポリアミドを構成するPy及びImの1位の窒素上のメチル基は、水素又はメチル基以外のアルキル基で置き換わっていてもよい。メチル基以外のアルキル基の例としては、炭素数2~10個の直鎖、分枝鎖又は環状の飽和又は不飽和アルキル基、好ましくは、炭素数2~5個の直鎖、分枝鎖直鎖、分枝鎖又は環状の飽和又は不飽和アルキル基が挙げられ、例えば、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等が挙げられる。また、メチル基を含め、アルキル基は置換されていてもよく、例えば、アルキル基中のメチレンは、酸素等で置換されていてもよい。さらに、上記したように、PIポリアミドを構成するPyの3位はヒドロキシ基で置換されていてもよい。本明細書においてPIポリアミドに関して用いる場合、「Py」又は「ピロール」及び「Im」又は「イミダゾール」の語は、上記したようなN置換又はN非置換ピロール、3-ヒドロキシピロール、及びN置換又はN非置換イミダゾールを包含する。
【0015】
PIポリアミドのγ-ターン部分は置換されていてもよく、好ましくはγ-ターン部分のα位又はβ位に置換基を有していてもよく、さらに好ましくはγ-ターン部分のα位に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、限定するものではないが、アミノ基、アセチルアミノ基、ジメチルアミノプロピルアミノ基、水酸基、メトキシ基等が挙げられる。例えば、γ-ターン部分は、α位又はβ位がアミノ基で置換された、N-α-N-γ-ジアミノ酪酸残基又はN-β-N-γ-ジアミノ酪酸残基であってもよい。
【0016】
PIポリアミドのN末端及びC末端には、種々の官能基又は分子が付加されていてもよい。PIポリアミドのN末端及びC末端に付加する官能基又は分子は、当業者が適宜決定することができる。例えば、アミド結合を介して様々な官能基を付加することができる。そのような官能基の例としては、限定するものではないが、β-アラニン残基、γ-アミノ酪酸残基等のカルボキシ基、アセチル基、クロロアセチル基、アミノ基等が挙げられる。例えば、限定するものではないが、N末端にはアセチル基が付加されていてもよい。例えば、限定するものではないが、C末端にはジメチルアミノプロピルアミノ基が付加されていてもよい。
【0017】
PIポリアミドのN末端、C末端、及びγ-ターン部分はまた、蛍光基やビオチン、イソフタル酸等の分子で修飾されていてもよい。本明細書において、蛍光基としては、限定するものではないが、例えば、フルオレセイン、ローダミン系色素、TAMRA(5-カルボキシテトラメチルローダミン)、シアニン系色素、ATTO系色素、Alexa Fluor系色素、BODIPY等が挙げられる。フルオレセインには、フルオレセイン誘導体(例えば、フルオレセインイソチオシアネート等)も含まれる。
【0018】
環状PIポリアミドは、ヘアピン構造の末端を第2のγ-ターンによって閉環させることにより得ることができる。具体的には、例えば、PIポリアミド鎖中にシステインを有し、且つN末端にクロロアセチル基を有するヘアピン構造のPIポリアミドを用い、N末端のクロロアセチル基とシステインのスルフヒドリル基とを反応させ環化させることによって得ることができる(Roberts,K.D.; Lambert,J.N.; Ede,N.J.; Bray, A.M. Tetrahedron Lett. 1998, 39, 8357-8360.及びYu,L.; Lai,Y.; Wade,J.V.; Coutts,S.M. Tetrahedron Lett. 1998, 39, 6633-6636.を参照)。
【0019】
PIポリアミドの設計方法及び製造方法は公知である(例えば、特許第3045706号公報、特開2001-136974号公報、国際公開第03/000683号、特開2013-234135号公報、特開2014-173032号公報を参照)。例えば、Fmoc(9-フルオレニルメトキシカルボニル)を用いた固相合成法(Fmoc固相合成法)による自動合成によって簡便に製造することができる。また、液相合成法によって製造することもできる。
【0020】
また、本実施形態において、PIポリアミドは、DNAに対する結合能力を維持又は向上するように修飾されたPIポリアミド修飾物であってもよい。そのようなPIポリアミド修飾物としては、例えば、PIポリアミドのγ-ターンのα位又はβ位にアミノ基を付加した修飾物、すなわち、N-α-N-γ-ジアミノ酪酸残基又はN-β-N-γ-ジアミノ酪酸残基からなるγ-ターンを有する修飾物、当該修飾物の上記アミノ基を蛍光基やビオチン等の分子で修飾した修飾物、PIポリアミドのN末端を蛍光基やビオチン等の分子で修飾した修飾物、及びPIポリアミドのC末端をイソフタル酸等の分子で修飾した修飾物等が挙げられる。
【0021】
本実施形態において使用されるPIポリアミドは、ゲノム上のFOXO結合部位のコンセンサス配列を認識するように設計される、FOXO結合配列に結合するPIポリアミドである。このコンセンサス配列としては、(1)5'-TGTTTAC-3'、(2)5'-TGTTTAG-3'(3)5'-TGTTTTC-3'(4)5'-TGTTTTG-3'(5)5'-TATTTAC-3'(6)5'-TATTTAG-3'(7)5'-TATTTTC-3'(8)5'-TATTTTG-3'等が知られている。したがって、標的となるFOXO結合配列に基づいて、PIポリアミドを構成するピロール-イミダゾール対の組み合わせ(ピロール-イミダゾール対の数、種類、及びその順序)を決定すればよい。なお、本実施形態において用いられる場合、「ピロール-イミダゾール対」なる語は、Py、Im、Hp、及びβのいずれの組み合わせからなる対も包含する。
【0022】
本実施形態において使用されるPIポリアミドの例として、限定するものではないが、
(1)βPyPyβPyPyIm-γ-PyPyImβPyPy
(2)βPyPyPyβPyIm-γ-PyPyImβPyPy
(3)βPyβPyPyPyIm-γ-PyPyImβPyPy
(4)βPyPyβPyPyIm-γ-PyPyImPyβPy、又は
(5)βPyPyPyβPyIm-γ-PyPyImPyβPy
で示される構造を有するPIポリアミドが挙げられる。ここで、γはγ-ターンを示し、隣接するPy、Im及びγ-ターンは互いにアミド結合で連結されている。
【0023】
なお、本明細書においてPIポリアミドのピロール-イミダゾール対に関して使用される場合、「Py」は下記式:
【化2】
[式中、XはCH又はCOHを示し、R'はH又はアルキル基等の有機基を示す。]
で示されるピロール単位を示し、「Im」は下記式:
【化3】
[式中、R''はH又はアルキル基を示す。]
で示されるイミダゾール単位を示し、「β」は下記式:
【化4】
で示されるβアラニン残基を示す。
【0024】
本明細書で使用される場合、「複合体」(又は「コンジュゲート」ともいう)とは、安定したより大きな構築物を形成するのに十分な結合(例えば、共有結合)を介して連結されて、当該構築物を形成している2つまたはそれより多くの分子を指す。本実施形態において、上記PIポリアミドとアルキル化剤とを含む複合体が提供される。
【0025】
アルキル化剤とは、DNAと共有結合を作る官能基を有する化合物であり、例えば、DNAをアルキル基を有する分子に変化(アルキル化)させることによって、DNAの合成を阻害することができる。本実施形態において使用されるアルキル化剤としては、特に限定されないが、後述する医薬組成物における使用を考慮して、細胞毒性が低いか又は無いものが好ましい。そのようなアルキル化剤としては、例えば、クロラムブシル、デュオカルマイシン、seco-CBI(1-クロロメチル-5-ヒドロキシ-1,2-ジヒドロ-3H-ベンゾ[e]インドール)、CBI(1,2,9,9a-テトラヒドロシクロプロパン[c]ベンゾ[e]インドール-4-オン)、ピロロベンゾジアゼピン、ナイトロジェンマスタード、ナイトラミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファランチオテパ、カルボコン、ブスルファン、塩酸ニムスチン等が挙げられる。seco-CBI又はCBIとPIポリアミドとの複合体を製造する場合は、PIポリアミドとseco-CBI又はCBIとの間にインドール又はビニルピロールを挿入してもよい。
【0026】
上記アルキル化剤の例として挙げられたクロラムブシル、下記の化学式で表される。
【0027】
【化5】
【0028】
アルキル化剤は、PIポリアミドのN末端、C末端、又はγ-ターン部分のいずれに結合していてもよい。また、N末端、C末端、及びγ-ターン部分から選ばれる2以上の位置に結合していてもよい。例えば、アルキル化剤は、PIポリアミドのN末端又はC末端に結合される。アルキル化剤がPIポリアミドのN末端、C末端及びγ-ターン部分から選ばれる2以上の位置に結合する場合、各位置に結合するアルキル化剤は同一であってもよく、又は異なっていてもよい。
【0029】
アルキル化剤は、例えばアミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、エーテル結合等を介して、PIポリアミドに直接結合していてもよく、又はリンカーを介して結合していてもよい。リンカーとしては、アルキル化剤の作用を妨げず、かつPIポリアミドの標的配列認識を妨げないものであれば特に限定されない。リンカーの例としては、限定するものではないが、アミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、エーテル結合等からなる群から選択される1種類以上の結合を形成する官能基を含む分子であってもよい。リンカーのさらなる例としては、限定するものではないが、β-アラニンリンカー、ポリエチレングリコールリンカー、ペプチドリンカー、アルキルリンカー、アミノアルキルリンカー、ポリエーテルリンカー等が挙げられる。リンカーの末端は、PIポリアミド及びアルキル化剤と、例えばアミド結合、ホスホジスルフィド結合、エステル結合、配位結合、又はエーテル結合等を介して結合される。上記リンカーは当業者により適宜決定することができる。
【0030】
PIポリアミドとアルキル化剤との結合(コンジュゲーション)は、既知のカップリング方法又は合成方法にしたがって行うことができる。
【0031】
本実施形態におけるPIポリアミド及びアルキル化剤の複合体の例としては、下記構造を有するポリマーが挙げられる。
【0032】
【化6】
【0033】
本実施形態のFOXO阻害剤は、FOXO結合配列に結合する上記のピロール-イミダゾールポリアミド構造を有するポリマーを含み、標的配列に結合することによって、未分化維持因子であるTRIB1遺伝子のプロモーターとFOXOとの会合を阻害する。その結果、本実施形態のFOXO阻害剤は、TRIB1の発現を抑制することができる。
【0034】
本発明の一態様において、急性骨髄性白血病(AML)を予防又は治療するための医薬組成物が提供される。この医薬組成物は、本実施形態のFOXO阻害剤を含む。本明細書において、「急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)」は、急性白血病の一種であり、骨髄において白血病細胞が異常増殖する疾患である。骨髄における白血病細胞が異常増殖する結果、正常な造血機能が著しく阻害され、白血球減少、貧血、血小板減少に伴う様々な症状を示し得る。急性骨髄性白血病では、形態学的/細胞生化学的分類に基づくFAB分類(French-American-British classification)や染色体異常に基づくWHO分類が知られている。FAB分類では、急性骨髄性白血病は、MPO染色、エステラーゼ染色、PAS染色、細胞表面マーカー等に基づいて、最未分化型急性骨髄性白血病(AML-M0)、未分化型急性骨髄性白血病(AML-M1)、分化型急性骨髄性白血病(AML-M2)、急性前骨髄球性白血病(AML-M3)、急性骨髄単球性白血病(AML-M4)、急性単球性白血病(AML-M5)、急性赤白血病(AML-M6)、及び急性巨核芽球性白血病(AML-M7)に分類することができる。急性骨髄性白血病の従来の治療方法としては、アントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用薬、CD33抗体医薬、アザシチヂン、及び/又はベネトクラクスの投薬治療、同種造血幹細胞移植、並びにこれらの任意の組み合わせが挙げられる。通常は、初回治療としてアントラサイクリン系薬剤とシタラビンとの併用療法が実施され得る。再発リスクの高い患者に対しては、アントラサイクリン系薬剤とシタラビンとの併用療法の後、同種造血幹細胞移植が実施され得る。急性骨髄性白血病の治療では、初回治療後に骨髄中の白血病細胞の割合が十分に低下せず、治療抵抗性を獲得する場合や、再発する場合がある。
【0035】
本発明の医薬組成物は、必須の構成成分として有効成分を、また選択成分として薬学的に許容可能な担体、又は他の薬剤を包含する。本発明の医薬組成物は、有効成分のみで構成することもできる。しかし、剤形形成を容易にし、有効成分の薬理効果及び/又は剤形を維持するためには後述する薬学的に許容可能な担体を包含した医薬組成物として構成されていることが好ましい。
【0036】
本発明の医薬組成物を構成する各成分について具体的に説明をする。
本発明の医薬組成物における有効成分は、急性骨髄性白血病を予防又は治療するためのFOXO阻害剤である。その構成については既に詳述していることから、ここではその具体的な説明を省略する。本発明の医薬組成物に含まれる急性骨髄性白血病を治療するためのFOXO阻害剤の数は限定せず、1つ又は複数であってもよい。
【0037】
「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用し得る溶媒及び/又は添加剤であって、生体に対して有害性がほとんどないか又は全くないものをいう。
【0038】
薬学的に許容可能な溶媒には、例えば、水、ひまし油、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。これらは、殺菌されていることが望ましく、必要に応じて血液と等張に調整されていることが好ましい。
【0039】
また、薬学的に許容可能な添加剤には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0040】
賦形剤としては、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中又は高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック(登録商標)、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
結合剤としては、例えば、トウモロコシ、コムギ、コメ、もしくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0042】
崩壊剤としては、例えば、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸もしくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が挙げられる。
【0043】
充填剤としては、例えば、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、もしくはリン酸水素カルシウム)が挙げられる。
【0044】
乳化剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられる。
【0045】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、例えば、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが挙げられる。
【0046】
上記の添加剤の他、必要に応じて溶解補助剤(可溶化剤)、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤(例えば、第4級アンモニウム塩類、ラウリル硫酸ナトリウム)、増量剤、保湿剤(例えば、グリセリン、澱粉)、吸着剤(例えば、澱粉、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸)、コーティング剤、保存剤、抗酸化剤、緩衝剤等を含むこともできる。
【0047】
本発明の医薬組成物は、上記有効成分が有する薬理効果を失わない範囲において、他の薬剤を含有することもできる。ここで「他の薬剤」とは、FOXO阻害剤と同様に急性骨髄性白血病に対して治療効果を有する薬剤等が挙げられる。本発明の医薬組成物が他の薬剤を含む複合製剤である場合、急性骨髄性白血病を多面的に抑制できる等の相乗的な効果を期待することができるので便利である。
【0048】
本発明の医薬組成物の剤形は、有効成分であるFOXO阻害剤を不活化させないか、させにくく、かつ投与後に生体内でその薬理効果を十分に発揮し得る剤形であれば特に限定されない。
【0049】
剤形は、その形態により液体剤形又は固体剤形(ゲルのような半固体剤形を含む)に分類できるが、本発明の医薬組成物は、そのいずれであってもよい。また剤形は投与方法により経口剤形と非経口剤形とに大別できるが、これに関してもいずれであってもよい。具体的な剤形としては、経口剤形であれば、例えば、懸濁剤、乳剤、及びシロップ剤のような液体剤形、散剤(粉剤、粉末剤、飴粉剤を含む)、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、舌下剤、及びトローチ剤等の固体剤形が挙げられる。また、非経口剤形であれば、例えば、注射剤、懸濁剤、乳剤等の液体剤形が挙げられる。
【0050】
本発明の医薬組成物は、急性骨髄性白血病の予防又は治療のために、有効成分であるFOXO阻害剤を生体に有効量投与することができる方法であれば、当該分野で公知のあらゆる方法を適用することができる。
【0051】
本明細書において「有効量」とは、有効成分がその機能を発揮する上で必要な量、すなわち、急性骨髄性白血病を予防又は治療する上で必要な量であって、かつそれを適用する生体に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。この有効量は、被験体の情報、投与経路、及び投与回数等の条件によって変化し得る。
【0052】
「被験体」又は「対象」とは、本発明のFOXO阻害剤やそれを含む急性骨髄性白血病を予防又は治療するための医薬組成物の適用対象となる動物個体をいう。具体的には哺乳動物であり、例えば霊長類、ペット動物、家畜類、競技用動物等を含む哺乳動物であり、特にヒトが好ましい。「被験体の情報」とは、被験体の様々な個体情報であって、例えば、被験体の年齢、体重、性別、全身の健康状態、薬剤感受性、服用中の医薬品の有無等を含む。有効量、及びそれに基づいて算出される投与量は、個々の被験体の情報等に応じて医師又は獣医師の判断によって決定される。急性骨髄性白血病の予防又は治療の十分な効果を得る上で、本発明の医薬組成物を大量投与する必要がある場合、被験者に対する負担軽減のために、数回に分割して投与することもできる。
【0053】
本発明の医薬組成物の投与方法は、全身投与又は局所的投与のいずれであってもよい。全身投与の例としては、静脈注射等の血管内注射や経口投与等が挙げられる。また局所投与の例としては、骨髄内投与、腫瘍内投与、直腸投与、腹腔内投与等が挙げられる。好ましい投与方法は、静脈投与、皮下投与、骨髄内投与、腫瘍内投与、又は経口投与である。経口投与の場合には、有効成分を消化酵素による分解から保護するために適当なDDS(薬剤送達システム)を用いる等、適切な処置を施すことが好ましい。
【0054】
本発明の医薬組成物を投与又は摂取する場合、その投与量又は摂取量は、対象の年齢、体重、症状、健康状態、組成物の種類等に応じて、適宜選択される。例えば、アルファ線放出核種で標識されたFOXO阻害剤の放射線量に基づいて、0.001 MBq/kg体重~1000 MBq/kg体重、0.01 MBq/kg体重~500 MBq/kg体重、0.1 MBq/kg体重~200 MBq/kg体重、1 MBq/kg体重~100 MBq/kg体重、2 MBq/kg体重~50 MBq/kg体重、5 MBq/kg体重~40 MBq/kg体重、又は10 MBq/kg体重~30 MBq/kg体重、例えば4.4 MBq/kg体重~44 MBq/kg体重であってもよい。あるいは、アルファ線放出核種で標識されたFOXO阻害剤の重量に基づいて、0.001 mg/kg/日~1000 mg/kg/日、0.01 mg/kg/日~500 mg/kg/日、0.1 mg/kg/日~200 mg/kg/日、1 mg/kg/日~100 mg/kg/日、5 mg/kg/日~50 mg/kg/日、又は10 mg/kg/日であってもよい。
【0055】
一態様において、急性骨髄性白血病に対する初回治療として本発明の医薬組成物を対象に投与することができる。例えば、本発明の医薬組成物を単独で投与してもよいし、本発明の医薬組成物をアントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用薬、CD33抗体医薬、アザシチヂン、及び/又はベネトクラクスと併用することもできる。
【0056】
別の実施形態において、急性骨髄性白血病に対する初回治療としてアントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用療法を実施した後の対象に対して、本発明の医薬組成物を投与してもよい。例えば、初回治療後に治療抵抗性を示す対象に対して本発明の医薬組成物を投与することができる。
【0057】
また、さらなる実施形態では、急性骨髄性白血病に対する初回治療としてアントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用療法を実施した後の対象に対して本発明の医薬組成物を投与し、その後に同種造血幹細胞移植を実施してもよい。アントラサイクリン系薬剤/シタラビン併用療法と同種造血幹細胞移植の間に本発明の医薬組成物を投与することによって、通常治療では寛解しない患者において再発率を低下させることができる。
【0058】
本発明の医薬組成物が対象とする急性骨髄性白血病の種類は、特に限定されない。急性骨髄性白血病の具体例としては、最未分化型急性骨髄性白血病(AML-M0)、未分化型急性骨髄性白血病(AML-M1)、分化型急性骨髄性白血病(AML-M2)、急性前骨髄球性白血病(AML-M3)、急性骨髄単球性白血病(AML-M4)、急性単球性白血病(AML-M5)、急性赤白血病(AML-M6)、及び急性巨核芽球性白血病(AML-M7)が挙げられる。
【0059】
一実施形態において、急性骨髄性白血病は、治療抵抗性及び/又は再発性である。治療抵抗性の急性骨髄性白血病とは、初回治療後に骨髄における白血病細胞等の割合が十分に低下しない病態をいう。例えば、急性骨髄性白血病では、アントラサイクリン系薬剤及びシタラビンを併用する標準化学療法を行っても骨髄中の白血病細胞割合が5%未満にならない状態が挙げられる。一方、正常造血が回復し、骨髄中の白血病細胞割合が5%未満になることを完全寛解(CR)という。再発性の急性骨髄性白血病とは、完全寛解(CR)になった後に白血病を再発することをいい、急性骨髄性白血病では、完全寛解後、骨髄中の芽球が増加したり、多臓器に白血病細胞からなる腫瘤を形成する状態を指す。
【実施例0060】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
1.PIポリアミドの合成に関する一般的記載
試薬及び溶媒は、標準的な供給元から入手し、さらに精製することなく使用した。PSSM-8システム(Shimadzu)を用いて自動ポリアミド合成を行った。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析は、JASCO PU-2080 Plusポンプ、JSCO UV-2075 Plus UV/vis検出器、Chemcobond5-ODS-H4.6mm×150mmカラム(Chemo Plus Scientific)で行った。移動相は、流速1.0mL/分のアセトニトリル-TFA(水中0.1%、v/v)とした。マトリックス支援レーザー脱離/イオン化マススペクトロメトリー(MALDI-TOFMS)をMicroflex-KSII(Bruker Daltonics)上で得た。TA30(0.1%TFA/MeCN=7/3)中の飽和HCCA(α-シアノ-4-ヒドロキシ桂皮酸)をペプチド較正基準と共にマトリックスに用いた。
PIポリアミドの合成は、以前に報告されたFmoc固相合成法によって行った。全ての合成においてオキシム樹脂を用いた。
【0061】
2.ゲルシフトアッセイ
PIPを用いて新たなFOXO阻害剤を開発するために、分化ブロックに寄与するFOXO結合配列を探索した。遺伝子発現解析及びCRISPR screeningにより、FOXO下流の未分化維持因子として、ユビキチンリガーゼコンプレックスの構成因子であるTRIB1を特定した。また、FOXOは、典型的なFOXO応答エレメント(FRE)を介し、TRIB1を発現誘導し、分化ブロックに寄与することも判明した。そこで、TRIB1プロモーターに存在するFREを標的とするPIPを開発した。効率的にTRIB1の発現を抑制するために、PIPにクロラムブシル(chb)を結合させた。合成したPIPとクロラムブシルの複合体の構造を下記に示す。
【0062】
【化7】
【0063】
上記複合体におけるPIPの標的配列は、図1の下線部のとおりである。これに対し、図1における5'-TGTTTAC-3'は、FOXOのコンセンサス配列である。合成した複合体はFOXO応答エレメント(FRE)を標的としているため、この複合体をFRE-chbと名付けた。
【0064】
FRE-chbの合成は、FmocHN-Py-CO2H、FmocHN-Im-CO2H、FmocHN-β-アラニン-CO2H、及びFmocHN-γ-アミノ酪酸を用いて行った。各原料を順番に、86mgのFmocHN-Py-オキシム樹脂(0.44mmol/g)に加えた。続いて、1000μLのN,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミンにより55℃、3時間の開裂反応を行い、ろ過し、52.2mgのEt2O沈殿物を得た。この沈殿物を522μLのジメチルホルムアミドに溶解し、クロラムブシル(Chb、19mg、2当量)、ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシ-トリス-ピロリジノ-ホスホニウム ヘキサフルオロホスフェート(PyBOP、67mg、4当量)、及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA、65μL、12当量)と混合し室温で2時間攪拌した。Et2O沈殿の後、FRE-chbを得た。粗生成物は、DMFに溶解し、HPLCで精製しオフホワイト粉末として純粋なFRE-chb(24.1mg)を得た。HPLCによる精製において、保持時間は21.6分であった(流速1.0mL/分で40分間の直線勾配による0~100%アセトニトリルを含有する0.1%TFAにより、254nmで検出された)。MALDI-TOFMS:m/z calcd for C90H112Cl2N29O15 +[M+H]+理論値1908.82, 実測値; 1910.41.
【0065】
まず、このFRE-chbが標的配列に結合するのかを、ゲルシフトアッセイで確認した。プローブとして、PIPの結合配列が野生型のFRE-chb野生型DNAプローブと結合配列に変異を加えたFRE-chb変異型DNAプローブを用いた。FRE-chb野生型DNAプローブとFRE-T変異型DNAプローブは、以下のオリゴヌクレオチドをアニーリングして作製した。
FRE-chb wtFw ACCCGGCTTCCCAACTGTTTACACA(配列番号1)
FRE-chb wtRv TGTGTAAACAGTTGGGAAGCCGGGT(配列番号2)
FRE-chb mtFw ACCCGGCTTCCCACAGAGGGACACA(配列番号3)
FRE-chb mtRv TGTGTCCCTCTGTGGGAAGCCGGGT(配列番号4)
【0066】
FRE-chbは、反応液(13.3 mM NaCl、13.3 mM KCl)中でDNAプローブ(12 μM)と1時間反応させた。Loading Dyeを添加後、サンプルは20%ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動を行った。エチジウムブロマイドでDNAプローブを染色し、FUSION FX7 EDGE Imaging System(Witec AG)を使用してシグナルを検出した。電気泳動の結果を図2に示す。
【0067】
図2に示すように、FRE-chbはwt特異的に結合した。したがって、FRE-chbはPIPの標的配列に結合することが確認された。
【0068】
3.チップアッセイ
続いて、FRE-chbがFOXOとTRIB1プロモーターとの会合を阻害するか否かをChIP assayで確認した。まず、HL-60細胞を2日間、Chb-S、FRE-chb(400 nM)存在下で培養した。ここで、Chb-Sは下記構造を有する。
【0069】
【化8】
【0070】
上記Chb-Sの合成は、文献(Genetic regulation of the RUNX transcription factor family has antitumor effects. J Clin Invest 2017, 127(7): 2815-2828.)に記載の手順に従って行った。粗生成物をHPLCによって精製し、保持時間は21.8分であった(流速1.0mL/分で30分間の直線勾配による0~75%アセトニトリルを含有する0.1%TFAにより、254nmで検出された)。
MALDI-TOFMS:m/z calcd for C70H87Cl2N25O11 +[M+H]+理論値1524.647,実測値; 1525.620.
1H NMR (600 MHz, DMSO-d6): d = 10.34 (s, 2H), 10.33 (s, 1H), 10.32 (s, 1H), 9.93 (s, 2H), 9.33 (s, 1H), 9.31 (s, 1H), 8.15 (t, J = 5.5 Hz, 1H), 8.04 (t, J = 5.2 Hz, 1H), 7.89 (t, J = 5.5 Hz, 1H), 7.58 (s, 2H), 7.55 (s, 1H), 7.52 (s, 1H), 7.26 (s, 2H), 7.17 (s, 4H), 6.97 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 6.95 (s, 1H), 6.91 (s, 1H), 6.61 (d, J = 7.6 Hz, 2H), 4.01 (s, 6H), 3.99 (s, 3H), 3.98 (s, 3H), 3.85 (s, 6H), 3.813 (s, 3H), 3.807 (s, 3H), 3.66 (m, 8H), 3.32 (q, J = 6.2 Hz, 2H), 3.23 (m, 4H), 3.06 (m, 2H), 2.79 (d, J = 3.4 Hz, 6H), 2.52 (m, 2H), 2.38 (m, 4H), 2.04 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 1.82 (m, 4H), 1.70 (m, 2H).
【0071】
細胞は0.5%ホルマリンで10分間クロスリンクし、0.125 Mグリシンにてその反応を停止させた。細胞をPBSで洗浄し、NP-40緩衝液(10 mM Tris-HCl(pH 8.0)、10 mM NaCl、0.5%NP-40)で細胞を破砕した。遠心分離後、ペレットは100μLの溶解液(50 mM Tris-HCl(pH 8.0)、176 mM NaCl、1.1%デオキシコール酸ナトリウム)で再懸濁し、さらに400μLのChIP希釈液(10 mM Tris-HCl(pH 8.0)、1%SDS、及び10 mM EDTA(pH 8.0))を添加した。DNAを断片化し、遠心分離した後、可溶性クロマチンはFOXO3抗体(ab12162; Abcam)と磁気ビーズの複合体にて免疫沈降した。150 mM RIPAバッファー(50 mM Tris-HCl(pH 8.0)、150 mM NaCl、1 mM EDTA(pH 8.0)、0.1%SDS、1%Triton X-100、及び0.1%デオキシコール酸ナトリウム)、500 mM RIPAバッファー(50 mM Tris-HCl(pH 8.0)、500 mM NaCl、1 mM EDTA(pH 8.0)、0.1%SDS、1%Triton X-100、及び0.1%デオキシコール酸ナトリウム)で各1回洗浄し、TEバッファーで2回洗浄した。結合したDNAは、200μLの溶出液(10 mM Tris-HCl(pH 8.0)、300 mM NaCl、5 mM EDTA(pH 8.0)、0.5%SDS)で溶出し、65℃で脱クロスリンクした。その後、サンプルは1μgのRNase(37℃、30分)及び100μgのプロテアーゼK(55℃、1時間)と反応させた後、フェノール/クロロホルムで精製した。ChIP-qPCRは、Mx3000P qPCRシステム(Agilent)を使用して実施した。ChIP-qPCR用プライマー配列を、以下に示す。
FRE-TFw CATTGCACAACCCGGCTTCC(配列番号5)
FRE-TRv GACTCACGCTGTATACACACACA(配列番号6)
【0072】
その結果、図3に示すように、FOXO3はTRIB1プロモーターと会合し、FRE-chbはFOXO3とTRIB1プロモーターとの会合を阻害することが分かった。
【0073】
次に、FRE-chbがTRIB1の発現に与える影響を調べた。HL-60細胞を4日間、Chb-S、FRE-chb(400 nM)存在下で培養した後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を使用してRNA抽出を行った。cDNAはAdvantage(登録商標)RT-for-PCRキット(Clontech Laboratories、Inc.)を使用して作成した。定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)は、Mx3000P qPCR System(Agilent)を使用して実施した。遺伝子発現は、GAPDHにて正規化した。qRT-PCRのプライマー配列を、以下に示す。
GAPDHFw ATGGTTGCCACTGGGGATCT(配列番号7)
GAPDHRv TGCCAAAGCCTAGGGGAAGA(配列番号8)
TRIB1Fw TTCAAGCAGATTGTCTCCGC(配列番号9)
TRIB1Rv AGTGGTGTTGAGGATCTCAG(配列番号10)
【0074】
FRE-chbがFOXO3とTRIB1プロモーターとの会合を阻害する上記結果と一致して、図4に示すように、FRE-chbはTRIB1の発現も抑制することが明らかとなった。したがって、FRE-chbはFOXO3-TRIB1 axisを阻害できることが分かった。続いて、薬効評価を行った。
【0075】
4.FRE-chbの分化誘導能の評価
FRE-chbの分化誘導能を、分化マーカーCD11b及び非特異的エステラーゼ(NSE)活性を指標に調べた。
【0076】
(1)細胞表面マーカーCD11bの定量
HL-60細胞、MOML-14細胞は4日間薬剤処理した後、APC標識した抗ヒトCD11b抗体(BDバイオサイエンス(Cat#550019))と氷上で30分反応させた。細胞を2%FBS添加PBS(F-PBS)で洗浄し、7-AADを含むF-PBSに再懸濁した。CD11b陽性細胞集団は、FACS Lyric(商標)(BD Biosciences)を使用して定量化した。その結果を図5に示す。
【0077】
(2)NSE活性の定量
THP-1細胞は200 nMで3日間、SKM-1細胞は100 nMで5日間、U-937細胞は400 nMで4日間、MOLM-14細胞及びMV4-11細胞は20 nMで4日間、薬剤処理した後、非特異性エステラーゼ(NSE)解析を行った。細胞はサイトスピンを用いて、ガラススライドに付着させ、α-NAエステラーゼ染色キット(武藤化学株式会社)を使用してNSE活性を定量した。NSE活性の強度の定量には、ImageJソフトウェアを用いた。その結果を図6に示す。
【0078】
図5及び図6の結果より、実験に使用した6種類のAML細胞株で、FRE-chbはCD11bもしくはNSE活性を亢進することが分かった。したがって、FRE-chbは様々なAML細胞株で分化を誘導できることが判明した。
【0079】
5.FRE-chbの抗増殖能の評価
続いて、IC50を算出し、FRE-chbの抗増殖能を定量した。具体的には、AML細胞株を、AS1842856、コントロールPIPであるChb-S及びFRE-chb存在下でそれぞれ6日間及び3日間培養し、Cell Counting Kit 8(Dojindo)を使用して、生存率を定量した。吸光度はInfinite Pro 200 Reader(Tecan)を使用して測定した。その結果を図7及び表1に示す。
【0080】
図7に示すように、FRE-chbはコントロールPIPよりも抗増殖作用が高く、全ての細胞株でIC50はnMレベルであった。また、既存のFOXO阻害剤であるAS1842856と比較したところ、表1に示すように、6種類の細胞中、枠で囲った4種類でFRE-chbの方が低いIC50を示した。特に、MV4-11ではIC50が1/10以下、MOLM-14、SKM-1では1/100以下であり、新たなFOXO阻害剤のin vitroでの優位性が明らかとなった。
【0081】
【表1】
【0082】
6.コロニー形成アッセイ
次に、コロニー形成アッセイにて、FRE-chbの正常造血細胞とAMLへの影響を比較した。正常造血細胞としてのCD34+ Lin-細胞は、Diamond CD34 Isolation Kit human(Miltenyi Biotec)を使用して、ヒト臍帯血から分離した。分離したCD34+ Lin-細胞は、100 ng/ml FLT3 ligand、100 ng/ml human recombinant TPOを添加したMethoCult H4034 Optimum(StemCell Technologies)で培養した。12日間の培養後、コロニー数をAll-in-One Fluorescence Microscope BZ-X800(KEYENCE)にて定量化した。SKM-1細胞及びHL-60細胞は、20%FBSとペニシリン/ストレプトマイシンを添加した1.5%メチルセルロース培地で培養した。12日間の培養後、コロニー数を定量化した。その結果を図8に示す。
【0083】
図8の左2つがAMLであり、右のCord bloodが正常造血細胞である。FRE-chbは、AMLで特異的にコロニー形成を阻害し、AMLの治療に有望であることが判明した。
【0084】
7.FRE-chbの治療効果
FRE-chbの治療効果について皮下腫瘍マウスモデルにて調べた。NOD.Cg-Prkdc scid Il2rg tm1Wjl/SzJ(NSG)マウスは、ニノックスラボサプライ株式会社(石川県、日本)から購入した。SKM-1細胞は、1匹あたり5×106個をNSGマウスに皮下移植し、腫瘍マウスモデルを作製した。NSG移植後3日目に、マウスはvehicle群、Chb-S群、又はFRE-chb群に無作為に分け、1.28 mg/kg、尾静脈注射にて2日おきに投与した。腫瘍の体積は{(長径)×(短径)}/2にて算出した。血液成分は全自動血球計数器セルタックα(日本光電)にて測定した。測定した結果を図9~11に示す。
【0085】
図9に示すように、FRE-chbは腫瘍体積の増幅を阻害し、抗腫瘍効果があることが判明した。一方、図10及び図11に示すように、体重、血液成分に対して大きな影響は観察できなかった。したがって、FRE-chbは副作用を避けつつ、抗腫瘍効果を示す有効な治療薬となる可能性が示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
2025017191000001.xml