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特開2025-1746超電導線材の製造方法、超電導コイルの製造方法、および単結晶引上装置の製造方法
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  • 特開-超電導線材の製造方法、超電導コイルの製造方法、および単結晶引上装置の製造方法 図1
  • 特開-超電導線材の製造方法、超電導コイルの製造方法、および単結晶引上装置の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001746
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】超電導線材の製造方法、超電導コイルの製造方法、および単結晶引上装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20241226BHJP
   H01F 6/06 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
H01B13/00 563Z
H01F6/06 140
H01F6/06 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101390
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松崎 栄仁
(72)【発明者】
【氏名】澤 史雄
(72)【発明者】
【氏名】小柳 圭
(72)【発明者】
【氏名】大谷 安見
(72)【発明者】
【氏名】戸坂 泰造
【テーマコード(参考)】
5G321
【Fターム(参考)】
5G321AA12
5G321BA03
5G321CA09
5G321CA36
5G321DD05
(57)【要約】
【課題】クエンチを抑制する。
【解決手段】超電導線材の製造方法は、外周側面を有し、銅を含むマトリクスと、マトリクス中に設けられ、ニオブチタン合金を含むフィラメントと、外周側面を覆い、ポリビニルホルマール樹脂を含む絶縁膜と、を有する線材に機械加工を施すことにより、マトリクスを加工硬化させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側面を有し、銅を含むマトリクスと、
前記マトリクス中に設けられ、ニオブチタン合金を含むフィラメントと、
前記外周側面を覆い、ポリビニルホルマール樹脂を含む絶縁膜と、
を有する線材に機械加工を施すことにより、前記マトリクスを加工硬化させる、
超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記機械加工は、前記線材に曲げ歪みを加える曲げ加工を含む、
請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記曲げ加工は、前記線材の上下方向および左右方向からなる群より選ばれる少なくとも一つの方向から行われる、
請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記曲げ加工により、前記線材に1.0%よりも大きい曲げ歪みを加える、
請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記機械加工は、前記線材の長手方向に引張応力を加える引張加工を含む、請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記引張加工は、前記線材を第1のリールから第2のリールに巻き替えるときに、前記線材の長手方向に前記引張応力を加えることを含む、
請求項5に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記超電導線材は、丸線材または平角線材である、
請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項8】
前記機械加工は、前記線材の線径を変えることなく行われる、
請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項9】
前記超電導線材を有する超電導コイルの製造方法であって、
前記超電導線材は、請求項1に記載の超電導線材の製造方法により製造される、
超電導コイルの製造方法。
【請求項10】
前記超電導線材を有する超電導コイルを備える単結晶引上装置の製造方法であって、
前記超電導線材は、請求項1に記載の超電導線材の製造方法により製造される、
単結晶引上装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超電導線材、超電導コイル、および単結晶引上装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超電導コイルの製造に用いられる超電導線材の開発が進められている。超電導コイルは、例えば単結晶引上装置等の様々な装置に用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-63366号公報
【特許文献2】特許第4532369号公報
【特許文献3】特許第7143147号公報
【特許文献4】特開2000-348548号公報
【特許文献5】特開2004-063128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、クエンチを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の超電導線材の製造方法は、外周側面を有し、銅を含むマトリクスと、マトリクス中に設けられ、ニオブチタン合金を含むフィラメントと、外周側面を覆い、ポリビニルホルマール樹脂を含む絶縁膜と、を有する線材に機械加工を施すことにより、マトリクスを加工硬化させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る超電導線材の製造方法によれば、クエンチを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】線材の例を示す模式図である。
図2】機械加工装置の第1の例を示す模式図である。
図3】機械加工の第1の例を説明するための模式図である。
図4】機械加工装置の第2の例を示す模式図である。
図5】機械加工の第2の例を説明するための模式図である。
図6】引張試験により測定された線材の残留歪みの比較結果を示すグラフである。
図7】単結晶引上装置の例を示す模式図である。
図8】超電導マグネット装置105の構造例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0009】
実施形態の超電導線材の製造方法は、ホルマール被覆NbTi系線材に機械加工を施すことを含む。以下、実施形態の超電導線材の製造方法の例についてさらに説明する。
【0010】
(線材)
図1は、線材の例を示す模式図である。図1は、ホルマール被覆NbTi系線材であって、機械加工が施される線材1を示す。ホルマール被覆NbTi系線材は、例えば、超電導コイルに用いることができる。図1は、X軸と、Y軸と、Z軸と、をさらに示す。X軸、Y軸、およびZ軸は、互いに垂直に交差する。図1は、Y軸とZ軸とを含むY-Z断面を示す。線材1のY-Z断面は、線材1の長手方向(長さ方向)と垂直に交差する断面に相当する。
【0011】
線材1は、マトリクス2と、フィラメント3と、絶縁膜4と、を有する。線材1は、例えば、丸線材または平角線材である。
【0012】
マトリクス2は、外周側面2aを有する線材である。マトリクス2は、銅(Cu)を主成分とする。主成分とは、構成成分のうち最も含有量が多い成分である。マトリクス2は、例えば、99原子%以上100原子%以下の銅を含有する。マトリクス2は、例えば、銅線からなる。マトリクス2は、不可避不純物を含んでいてもよい。マトリクス2は、例えば、線材1の長手方向に延在する。マトリクス2の径は、特に限定されないが、例えば1.20mmである。
【0013】
フィラメント3は、マトリクス2中に設けられる。Y-Z断面において、フィラメント3は、マトリクス2に隙間なく囲まれてもよい。フィラメント3は、例えば、線材1の長手方向に延在する。フィラメント3は、例えば、ニオブチタン合金からなる。ニオブチタン合金は、超電導体である。フィラメント3は、不可避不純物を含んでいてもよい。フィラメント3の径は、マトリクス2の径よりも小さく、特に限定されないが、例えば0.05mmである。図1は、複数のフィラメント3を示す。複数のフィラメント3は、線材1の中心軸Cを中心とする円に沿って配置される。換言すると、線材1の中心軸Cは、複数のフィラメント3で取り囲まれる。フィラメント3の数は、図1に示す数に限定されない。
【0014】
線材1の銅とニオブチタンの構成比Cu:NbTiは、特に限定されないが、例えば4:1~11:1である。構成比Cu:NbTiの例は、Cu:NbTi=11:1(平角線材)や、Cu:NbTi=4:1(丸線材)等が挙げられる。
【0015】
絶縁膜4は、マトリクス2の外周側面2aに設けられる。Y-Z断面において、絶縁膜4は、マトリクス2を覆う。絶縁膜4は、例えば、ポリビニルホルマール樹脂を含む。絶縁膜4は、例えば、マトリクス2の外周側面2aに対してホルマール被覆処理を行うことにより形成できる。絶縁膜4の厚さは、マトリクス2の径よりも小さく、特に限定されないが、例えば0.03mmである。
【0016】
超電導体は、外乱の印加によって、超電導状態から常伝導状態に変移することがある(超電導破壊、以下、クエンチという)。超電導コイルは、例えば、超電導体間を電気的に絶縁する絶縁体(例えば、樹脂)にクラックが生じると、クラック近傍で発熱して、クエンチを引き起こす可能性がある。大電流が流れる超電導コイルにクエンチが発生すると、超電導コイルが破壊されるおそれがある。このため、クエンチを防止することが求められている。
【0017】
クエンチを抑制する方法の一例としては、線材の表面に、硬化性樹脂を含浸した絶縁性繊維編組含有プラスチックからなる絶縁被覆層を形成する方法が知られている。クエンチを抑制する方法の他の例としては、線材の熱処理工程において、正反両方向から曲げ歪みを加える両振り曲げ加工を線材に施す方法が知られている。クエンチを抑制する方法の別の例としては、線材を被覆する繊維編組に含侵される樹脂硬化物として複数の無機材料の粒子を有する樹脂硬化物を用いる方法が知られている。しかしながら、これらの方法では十分にクエンチを抑制することは困難である。
【0018】
また、従来の線材の製造方法の一例としては、線材のツイスト加工の直前に軟化熱処理を行う方法が知られている。さらに、従来の線材の製造方法の他の例としては、リアクト処理した歪み依存性を示す化合物系超電導線に曲げ歪みを付加した後、該曲げ歪みを除荷する方法が知られている。しかしながら、実施形態の超電導線材の製造方法は、ホルマール被覆NbTi系線材を用いており、従来の線材の製造方法とは線材の構成が大きく異なる。また、従来の線材の製造方法は、一般的にインゴットを細く伸ばしながら線材を形成する際に機械加工を行うものであって、線径を変えずに機械加工するものではない。さらに、従来の線材は、加工硬化が好ましくないため、その後線材を熱処理することにより、線材の焼き鈍しが一般的に行われる。
【0019】
市販のホルマール被覆NbTi系線材は、弾性限界が低く、比較的低い応力で塑性変形する。この原因は、最終工程でホルマール被覆をする際、400℃程度にまで加熱されるため、マトリクス2の銅が焼き鈍しを起こすためである。よって、ホルマール被覆NbTi系線材を用いて製造された超電導コイルは、電磁力等で線材に引張応力が加えられると、塑性域に入る。塑性域に入ると、含浸材などの周囲とのひずみ差が大きくなるため、クエンチを起こしやすい。
【0020】
そこで、実施形態の超電導線材の製造方法は、ホルマール被覆NbTi系線材を用いて超電導コイルを形成する前に線材1に対して機械加工を施すことにより、マトリクス2を加工硬化させる。機械加工は、熱処理を行うことなく行われることが好ましい。これにより、クエンチを抑制できる。
【0021】
(機械加工の第1の例)
図2は、機械加工装置の第1の例を示す模式図である。図2は、機械加工装置10を示す。図2は、X軸と、Y軸と、Z軸と、をさらに示す。
【0022】
機械加工装置10は、線材1を水平方向に曲げることが可能な曲げ加工装置である。機械加工装置10は、表面11と、表面12と、ローラー13と、ローラー14と、を有する。
【0023】
表面11は、機械加工装置10の本体に設けられる。表面11は、X軸とY軸とを含むX-Y平面に沿って延在する。表面11は、X-Y平面と交差する方向(例えばZ軸方向)に延在する取付穴H1を有する。図2は、複数の取付穴H1を示す。取付穴H1の数は、図2に示す数に限定されない。
【0024】
表面12は、機械加工装置10の本体に設けられる。表面12は、表面11と交差する方向(例えばZ軸方向)に延在する。表面11は、X-Z平面と交差する方向(例えばY軸方向)に延在する取付穴H2を有する。図2は、複数の取付穴H2を示す。取付穴H2の数は、図2に示す数に限定されない。
【0025】
ローラー13は、表面11に設けられる。ローラー13は、表面11と交差する方向(例えばZ軸方向)に回転軸を有する。ローラー13は、線材1に曲げ歪みを加えるために設けられる。ローラー13は、例えば樹脂製であることが好ましい。樹脂製のローラー13は、例えば、金属製のローラー13よりも絶縁膜4の損傷を抑制できる。ローラー13の径は、特に限定されないが、例えば21mmである。
【0026】
図2は、複数のローラー13として、ローラー13aと、ローラー13bと、ローラー13cと、ローラー13dと、ローラー13eと、を示す。各ローラー13は、複数の取付穴H1の一つに取り付けられる。ローラー13aないしローラー13eは、表面11をジグザグに沿うように間隔を空けて配置される。ローラー13の数は、図2に示す数に限定されない。各ローラー13の位置や径に応じて、曲げ歪みの値を調整できる。
【0027】
ローラー14は、表面12に設けられる。ローラー14は、表面12と交差する方向(例えばX軸方向)に回転軸を有する。ローラー14は、例えば、線材1を送るために設けられる。ローラー14は、例えば樹脂製であることが好ましい。樹脂製のローラー14は、例えば、金属製のローラー14よりも絶縁膜4の損傷を抑制できる。ローラー14の径は、特に限定されないが、例えば21mmである。
【0028】
図2は、複数のローラー14を示す。各ローラー14は、複数の取付穴H2の一つに取り付けられる。複数のローラー14は、ローラー14aと、ローラー14bと、を含む。ローラー14aは、表面12における線材1の導入側の端部に設けられる。ローラー14bは、表面12における線材1の導出側の端部に設けられる。ローラー14の数は、図2に示す数に限定されない。
【0029】
図3は、機械加工の第1の例を説明するための模式図である。ここでは、機械加工装置10を用いた曲げ加工の例について説明する。図3は、線材1と、ローラー13aと、ローラー13bと、ローラー13cと、ローラー13dと、ローラー13eと、ローラー14aと、ローラー14bと、を示す。図3に示すように、線材1は、ローラー14aからローラー14bまで、ローラー13a、ローラー13b、ローラー13c、ローラー13d、ローラー13eを順に経由して送られる。線材1は、例えば一つのリールに巻かれてから各ローラーに送られ、各ローラーを経由した後に他の一つのリールに巻き替えられてもよい。
【0030】
線材1は、ローラー13aからローラー13eまでを経由することによりX-Y平面に沿って線材1の左方向および線材1の右方向から交互に曲げ歪みが加えられる。これにより、線材1の左右方向から曲げ加工を行うことができ、線材1のマトリクス2を加工硬化させることができる。線材1に対する曲げ歪みの程度については、クエンチを抑制するために必要な加工硬化の程度に基づいて各ローラー13の位置や径を調整することにより、適宜調整できる。
【0031】
(機械加工の第2の例)
図4は、機械加工装置の第2の例を示す模式図である。図4は、機械加工装置20を示す。図4は、X軸と、Y軸と、Z軸と、をさらに示す。
【0032】
機械加工装置20は、線材1を垂直方向に曲げることが可能な曲げ加工装置である。機械加工装置20は、表面21と、ローラー22と、ローラー23と、を有する。
【0033】
表面21は、機械加工装置20の本体に設けられる。表面21は、X軸とZ軸とを含むX-Z平面に沿って延在する。表面21は、X-Z平面と交差する方向(例えばY軸方向)に延在する取付穴H3を有する。図4は、複数の取付穴H3を示す。取付穴H3の数は、図4に示す数に限定されない。
【0034】
ローラー22は、表面21に設けられる。ローラー22は、表面21と交差する方向(例えばY軸方向)に回転軸を有する。ローラー22は、線材1に曲げ歪みを加えるために設けられる。ローラー22は、例えば樹脂製であることが好ましい。樹脂製のローラー22は、例えば、金属製のローラー22よりも絶縁膜4の損傷を抑制できる。ローラー22の径は、特に限定されないが、例えば21mmである。
【0035】
図4は、複数のローラー22として、ローラー22aと、ローラー22bと、ローラー22cと、ローラー22dと、ローラー22eと、を示す。各ローラー22は、各取付穴H3に取り付けられる。ローラー22aないしローラー22eは、表面21をジグザグに沿うように間隔を空けて配置される。ローラー22の数は、図4に示す数に限定されない。
【0036】
ローラー23は、表面21に設けられる。ローラー23は、表面21と交差する方向(例えばY軸方向)に回転軸を有する。ローラー23は、例えば、線材1を送るために設けられる。ローラー23は、例えば樹脂製であることが好ましい。樹脂製のローラー23は、例えば、金属製のローラー23よりも絶縁膜4の損傷を抑制できる。ローラー23の径は、特に限定されないが、例えば21mmである。
【0037】
図4は、複数のローラー23を示す。複数のローラー23は、ローラー23aと、ローラー23bと、を含む。ローラー23aは、表面21における線材1の導入側の端部に設けられる。ローラー23bは、表面21における線材1の導出側の端部に設けられる。ローラー23の数は、図4に示す数に限定されない。
【0038】
図5は、機械加工の第2の例を説明するための模式図である。ここでは、機械加工装置20を用いた曲げ加工の例について説明する。図5は、線材1と、ローラー22aと、ローラー22bと、ローラー22cと、ローラー22dと、ローラー22eと、ローラー23aと、ローラー23bと、を示す。図5に示すように、線材1は、ローラー23aからローラー23bまで、ローラー22a、ローラー22b、ローラー22c、ローラー22d、ローラー22eを順に経由して送られる。線材1は、例えば一つのリールに巻かれてから各ローラーに送られ、各ローラーを経由した後に他の一つのリールに巻き替えられてもよい。
【0039】
線材1は、ローラー22aからローラー22eまで経由することによりX-Z平面に沿って線材1の上方向および線材1の下方向から交互に曲げ歪みが加えられる。これにより、線材1の上下方向から曲げ加工を行うことができ、線材1のマトリクス2を加工硬化させることができる。線材1に対する曲げ歪みの程度については、クエンチを抑制するために必要な加工硬化の程度に基づいて各ローラー22の位置や径を調整することにより、適宜調整できる。
【0040】
機械加工の第1の例と第2の例は、適宜組み合わせることができる。例えば、機械加工装置10を用いて線材1の左右方向に曲げ加工を施した前または後に機械加工装置20を用いて線材1の上下方向に曲げ加工を施してもよい。これらの曲げ加工により、線材に1.0%よりも大きい曲げ歪みを加えることが好ましい。これにより、マトリクス2を加工硬化させてクエンチを抑制しやすくできる。
【0041】
機械加工装置10および/または機械加工装置20を用いて、線材1に引張応力を加える引張加工を施してもよい。例えば、複数のローラー22および複数のローラー23を用い、線材1を長手方向に引っ張ることにより、線材1に引張応力を加えることができる。これに限定されず、線材1を第1のリールから第2のリールに巻き替えるときに、線材1の長手方向に張力を加えることにより、引張加工を施してもよい。引張加工を施すことにより、線材1のマトリクス2を加工硬化させることができる。線材1に対する引張加工の程度については、クエンチを抑制するために必要な加工硬化の程度に基づいて各ローラー22の位置や径を調整することにより、適宜調整できる。引張加工は、曲げ加工を施すことなく行われてもよい。
【0042】
機械加工は、例えば、ホルマール被覆処理により絶縁膜4を形成した後であって超電導コイルを形成するための巻線を行う前に行われることが好ましい。また、機械加工により、線材1の径は、変化しないことが好ましい。線材1の径は、例えば、曲げ歪み量や引張応力を調整することにより制御できる。
【0043】
超電導体のクエンチを抑制できることの評価方法として、線材の残留歪みを測定する方法がある。残留歪みは、線材に対して引張試験を行うことにより、測定される。引張試験は、以下の条件により行われる。試験片は、超電導線材であり、径が約1.2mmの丸線であり、長手方向の長さが約60mmである2種類の線材(線材A、線材B)を試験片として用いる。試験温度は、-196℃であり、試験速度は1時間で0.30%程度と可能な限り低速度である。試験ひずみ範囲は0~0.30%であり、0.05%毎に除荷、負荷を繰り返し、0.30%まで実施する。除荷は荷重の0%までに設定する。負荷は、JIS H 7303に準拠する方法により実施される。
【0044】
図6は、引張試験により測定された線材の残留歪みの比較結果を示すグラフである。図6に示すように、線材Aの機械加工前(機械加工なし)の残留歪みの相対値を1.00とすると、機械加工後(機械加工あり)の残留歪みの相対値は0.839である。線材Bの機械加工前の残留歪みの相対値を1.00とすると、機械加工後の残留歪みの相対値は0.753である。これらの結果から、機械加工を施すことにより線材の残留歪みを低減できるため、超電導体のクエンチを抑制できることがわかる。なお、機械加工後の線材は、機械加工装置10を用いた曲げ加工と、機械加工装置20を用いた曲げ加工と、の両方を施した後の線材である。
【0045】
(処理されたホルマール被覆NbTi系線材の使用方法例)
実施形態の超電導線材の製造方法により処理されたホルマール被覆NbTi系線材を用い、例えば超電導コイルを有する単結晶引上装置を製造できる。図7は、単結晶引上装置の例を示す模式図である。図7は、磁界印加型チョクラルスキー(MCZ)法を用いる単結晶引上装置100を示す。
【0046】
単結晶引上装置100は、チャンバー101と、坩堝102と、支持体103と、ヒーター104と、超電導マグネット装置105と、を有する。
【0047】
チャンバー101は、単結晶シリコン等の単結晶半導体である単結晶体203を製造するための空間を有する。チャンバー101内には、例えばアルゴンガス等の不活性ガスが導入されてもよい。
【0048】
坩堝102は、チャンバー101内に設けられる。坩堝102は、シリコン等の単結晶材料の溶融物201を収容できる。坩堝102は、例えば、グラファイト製である。
【0049】
支持体103は、坩堝102の下に設けられる。支持体103は、坩堝102を支持できる。単結晶引上装置100は、支持体103を回転軸として坩堝102を回転させることができる。
【0050】
ヒーター104は、坩堝102の周りに設けられる。ヒーター104は、坩堝102を加熱できる。ヒーター104は、例えば、チャンバー101の内壁と坩堝102との間に配置される。
【0051】
超電導マグネット装置105は、溶融物201に一方向の横磁場を印加して、坩堝102内の溶融物201の対流を抑制できる。
【0052】
図8は、超電導マグネット装置105の構造例を示す模式図である。超電導マグネット装置105は、クライオスタット151と、超電導コイル152と、冷凍機153と、を有する。図8は、便宜のため、クライオスタット151を点線で示し、超電導コイル152および冷凍機153を実線で示す。
【0053】
クライオスタット151は、円筒状である。クライオスタット151は、図7に示すチャンバー101の側面を囲むように配置される。クライオスタット151の内部は真空に保持されてもよい。
【0054】
超電導コイル152は、クライオスタット151内に設けられる。超電導コイル152は、クライオスタット151の外周側面に沿って湾曲する。図8は、2つの超電導コイル152を示す。2つの超電導コイル152は、図7に示すチャンバー101を挟むように互いに対向して設けられる。
【0055】
超電導コイル152は、実施形態の超電導線材の製造方法により加工硬化されたホルマール被覆NbTi系線材を用いて製造できる。超電導コイル152は、例えば、ホルマール被覆NbTi系線材の巻回体からなる超導電体と、複数の超電導体の間を電気的に絶縁する絶縁体と、を有する。なお、超電導コイル152の構造は、上記構造に限定されない。
【0056】
冷凍機153は、クライオスタット151の外周側面に設けられる。冷凍機153は、超電導コイル152が超電導を発現する極低温まで超電導コイル152を冷却できる。
【0057】
単結晶引上装置100を用いた単結晶体203の製造では、坩堝102内に単結晶材料を投入し、ヒーター104により加熱して溶融させる。単結晶材料の溶融物201中に、種結晶202を、坩堝102に挿入し、種結晶202を引き上げていく。これにより、結晶が成長し、単結晶体203を生成できる。
【0058】
このとき、ヒーター104の加熱によって誘起される、溶融物201の坩堝102内での対流を防止するために、超電導マグネット装置105の超電導コイル152へ通電がなされる。坩堝102内の溶融物201は、超電導コイル152が発生する横磁場によって動作抑止力を受け、坩堝102内で対流することなく、種結晶202の引上げに伴ってゆっくりと引き上げられ、固体の単結晶体203として製造される。
【0059】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1…線材、2…マトリクス、2a…外周側面、3…フィラメント、4…絶縁膜、10…機械加工装置、11…表面、12…表面、13…ローラー、13a…ローラー、13b…ローラー、13c…ローラー、13d…ローラー、13e…ローラー、14…ローラー、14a…ローラー、14b…ローラー、20…機械加工装置、21…表面、22…ローラー、22a…ローラー、22b…ローラー、22c…ローラー、22d…ローラー、22e…ローラー、23…ローラー、23a…ローラー、23b…ローラー、100…単結晶引上装置、101…チャンバー、102…坩堝、103…支持体、104…ヒーター、105…超電導マグネット装置、151…クライオスタット、152…超電導コイル、153…冷凍機、201…溶融物、202…種結晶、203…単結晶体、C…中心軸、H1…取付穴、H2…取付穴、H3…取付穴。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8