(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025017519
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】車両およびエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/207 20060101AFI20250130BHJP
B60R 21/2338 20110101ALI20250130BHJP
B60R 21/2346 20110101ALI20250130BHJP
【FI】
B60R21/207
B60R21/2338
B60R21/2346
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120601
(22)【出願日】2023-07-25
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】岡田 慎治
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA07
3D054AA21
3D054CC04
3D054CC10
3D054CC11
3D054CC14
3D054EE22
3D054EE26
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】斜め前方から衝突荷重が入力された場合にも乗員の保護を図ることができる車両およびエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】車両は、車両用シート11と、車両用シート11に対して車幅方向外側に隣接して配置されるドアと、斜め前方からの衝突荷重入力時に、車両用シート11に着座の乗員とドアとの間に膨張展開するエアバッグ230を有するエアバッグ装置と、を備える。エアバッグ230は、左斜め前方からの衝突荷重入力時に、乗員500の腹部500dの内の車幅方向外側部分から前側部分の一部に亘る領域を囲むように膨張展開する腹膨張部230bを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートと、
前記車両用シートに対して車幅方向外側に隣接して配置されるドアと、
斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記車両用シートに着座した乗員と前記ドアとの間に膨張展開するエアバッグを有するエアバッグ装置と、
を備え、
前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記乗員の腹部における車幅方向外側部分から前側部分の一部に亘る領域に位置するように膨張展開する腹膨張部を有する、
車両。
【請求項2】
前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記乗員における車幅方向外側の肩と前記ドアとの間で膨張展開する肩膨張部をさらに有し、
前記エアバッグ装置は、前記斜め前方からの衝突荷重入力時において、前記腹膨張部および前記肩膨張部にガスを供給する1つのインフレータをさらに有する、
請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記腹膨張部への前記ガスの供給流路は、前記肩膨張部を通るように形成されている、
請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記エアバッグは、前記ガスの供給流路中における前記腹膨張部と前記肩膨張部との間の部分に設けられるとともに、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記肩膨張部から前記腹膨張部へのガスの流れを制限する絞り部をさらに有する、
請求項3に記載の車両。
【請求項5】
前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記腹膨張部が前方に向けて膨張展開するのを規制するテザーをさらに有する、
請求項1から請求項4の何れかに記載の車両。
【請求項6】
前記テザーは、前記腹膨張部における車幅方向内側の先端部と車幅方向外側の根元部とに接合されている、
請求項5に記載の車両。
【請求項7】
斜め前方からの衝突荷重入力時に、車両用シートに着座した乗員と当該車両用シートの車幅方向外側に隣接して配置されるドアとの間に膨張展開するエアバッグと、
前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記エアバッグにガスを供給するインフレータと、
を備え、
前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記乗員の腹部における車幅方向外側部分から前側部分の一部に亘る領域を囲むように膨張展開する腹膨張部を有する、
エアバッグ装置。
【請求項8】
前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記乗員における車幅方向外側の肩と前記ドアとの間で膨張展開する肩膨張部をさらに有し、
前記インフレータは、当該エアバッグ装置に1つ設けられており、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記腹膨張部および前記肩膨張部の両方に前記ガスを供給する、
請求項7に記載のエアバッグ装置。
【請求項9】
前記腹膨張部への前記ガスの供給流路は、前記肩膨張部を通るように形成されている、
請求項8に記載のエアバッグ装置。
【請求項10】
前記エアバッグは、前記ガスの供給経路中における前記腹膨張部と前記肩膨張部との間の部分に設けられるとともに、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記肩膨張部から前記腹膨張部へのガスの流れを制限する絞り部をさらに有する、
請求項9に記載のエアバッグ装置。
【請求項11】
前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記腹膨張部が前方に向けて膨張展開するのを規制するテザーをさらに有する、
請求項7から請求項10の何れかに記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両およびエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突時に乗員の保護を図るために、車両にはエアバッグ装置が取り付けられている。特許文献1に開示の車両では、前席のシートバックにサイドエアバッグ装置が内蔵され、車両衝突時に座席とドアとの間における乗員の頭部から上腕部にかけての部分の側方に膨張展開するように構成されている。
【0003】
また、特許文献2には、車両衝突時に乗員の胸部および腰部を保護する大型のサイドエアバッグ装置が開示されている。特許文献2に開示のサイドエアバッグ装置では、エアバッグの前端上部に一端が固定され、前端下部に他端が固定されたストラップを備える。ストラップは、シートクッションおよびシートバックの内部を配策されており、連結ロッドおよびリクライニングロッドに巻き付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-135016号公報
【特許文献2】特開2008-201297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来技術では、斜め前方から衝突荷重が入力された場合に乗員の保護を図ることが十分ではない場合がある。具体的には、左斜め前方から衝突荷重が入力された場合には乗員は左斜め前方に向けて動く。この場合に、車両の左側に着座している乗員は、ドアトリムの左斜め前方部分や左斜め前方のピラーなどに衝突する場合が考えられる。
【0006】
また、逆に右斜め前方から衝突荷重が入力された場合には乗員は右斜め前方に向けて動く。この場合に、車両の右側に着座している乗員は、ドアトリムの右斜め前方部分や右斜め前方のピラーなどに衝突する場合が考えられる。このような斜め前方から衝突荷重が入力される場合に対して、乗員の保護をより確実になすことが求められる。
【0007】
本発明は、上記のような問題の解決を図ろうとなされたものであって、斜め前方から衝突荷重が入力された場合にも乗員の保護を図ることができる車両およびエアバッグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る車両は、車両用シートと、前記車両用シートに対して車幅方向外側に隣接して配置されるドアと、斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記車両用シートに着座した乗員と前記ドアとの間に膨張展開するエアバッグを有するエアバッグ装置と、を備える。本態様に係る車両において、前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記乗員の腹部における車幅方向外側部分から前側部分の一部に亘る領域に位置するように膨張展開する腹膨張部を有する。
【0009】
上記態様に係る車両では、エアバッグ装置におけるエアバッグが腹膨張部を有するので、斜め前方からの衝突荷重入力時に、腹膨張部が腹部に巻き付いた状態で乗員が斜め前方に動く。このため、乗員の腹部に巻き付いた腹膨張部によって乗員の腹部や胸部が斜め前方の構造物(ピラーやドアトリムなど)との衝突による強い衝撃力を受けるのを抑制することができる。よって、上記態様に係る車両では、斜め前方から衝突荷重が入力された場合にも乗員の保護を図ることができる。
【0010】
上記態様に係る車両において、前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記乗員における車幅方向外側の肩と前記ドアとの間で膨張展開する肩膨張部をさらに有してもよい。また、上記態様に係る車両において、前記エアバッグ装置は、前記斜め前方からの衝突荷重入力時において、前記腹膨張部および前記肩膨張部にガスを供給する1つのインフレータをさらに有してもよい。
【0011】
上記態様に係る車両では、1つのインフレータにより腹膨張部と肩膨張部とを膨張展開することができるので、腹膨張部と肩膨張部とで別々のインフレータを備える場合に比べて、装置サイズおよび製造コストの低減を図ることができる。また、1つのインフレータにより腹膨張部と肩膨張部とを膨張展開させるので、展開開始タイミングのズレなどを生じ難く、安定した状態で乗員を保護することができる。
【0012】
上記態様に係る車両において、前記腹膨張部への前記ガスの供給流路は、前記肩膨張部を通るように形成されていてもよい。
【0013】
上記態様に係る車両では、腹膨張部へのガスの供給流路が肩膨張部を通るように形成されているので、ガスの供給流路を腹膨張部と肩膨張部とで別々に設ける場合に比べて、装置サイズおよび製造コストの低減を図ることができる。
【0014】
上記態様に係る車両において、前記エアバッグは、前記ガスの供給流路中における前記腹膨張部と前記肩膨張部との間の部分に設けられるとともに、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記肩膨張部から前記腹膨張部へのガスの流れを制限する絞り部をさらに有してもよい。
【0015】
上記態様に係る車両では、腹膨張部と肩膨張部との間に絞り部を有するので、腹膨張部と肩膨張部との間でのガスの流通が制限され、腹膨張部および肩膨張部の膨張形状を安定させることができる。よって、上記態様に係る車両では、斜め前方からの衝突荷重の入力時において、乗員の保護を図るのに優位である。
【0016】
上記態様に係る車両において、前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記腹膨張部が前方に向けて膨張展開するのを抑制するテザーをさらに有してもよい。
【0017】
上記態様に係る車両では、腹膨張部が前方に向けて膨張展開するのを規制するテザーが設けられているので、腹膨張部の膨張展開時に当該腹膨張部を乗員の腹部を囲むよう(腹部に巻き付くよう)にすることができる。
【0018】
上記態様に係る車両において、前記テザーは、前記腹膨張部における車幅方向内側の先端部と車幅方向外側の根元部とに接合されていてもよい。
【0019】
上記態様に係る車両では。テザーが腹膨張部における先端部と根元部とを結ぶように接合されているので、膨張展開時に腹膨張部が乗員の腹部を確実に囲むようにすることができる。
【0020】
本発明の一態様に係るエアバッグ装置は、斜め前方からの衝突荷重入力時に、車両用シートに着座した乗員と当該車両用シートの車幅方向外側に隣接して配置されるドアとの間に膨張展開するエアバッグと、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記エアバッグにガスを供給するインフレータと、を備える。本態様に係るエアバッグ装置において、前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記乗員の腹部における車幅方向外側部分から前側部分の一部に亘る領域を囲むように膨張展開する腹膨張部を有する。
【0021】
上記態様に係るエアバッグ装置では、エアバッグが腹膨張部を有するので、当該エアバッグ装置が搭載された車両に対して斜め前方から衝突荷重が入力された場合に、腹膨張部が腹部に巻き付いた状態で乗員が斜め前方に動く。このため、乗員の腹部に巻き付いた腹膨張部によって乗員の腹部や胸部が斜め前方の構造物(ピラーやドアトリムなど)との衝突による強い衝撃力を受けるのを抑制することができる。よって、上記態様に係るエアバッグ装置では、車両に対して斜め前方から衝突荷重が入力された場合にも乗員の保護を図ることができる。
【0022】
上記態様に係るエアバッグ装置において、前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記乗員における車幅方向外側の肩と前記ドアとの間で膨張展開する肩膨張部をさらに有し、前記インフレータは、当該エアバッグ装置に1つ設けられており、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記腹膨張部および前記肩膨張部の両方に前記ガスを供給してもよい。
【0023】
上記態様に係るエアバッグ装置では、1つのインフレータにより腹膨張部と肩膨張部とを膨張展開することができるので、腹膨張部と肩膨張部とで別々のインフレータを備える場合に比べて、装置サイズおよび製造コストの低減を図ることができる。また、1つのインフレータにより腹膨張部と肩膨張部とを膨張展開させるので、展開開始タイミングのズレなどを生じ難く、安定した状態で乗員を保護することができる。
【0024】
上記態様に係るエアバッグ装置において、前記腹膨張部への前記ガスの供給流路は、前記肩膨張部を通るように形成されていてもよい。
【0025】
上記態様に係るエアバッグ装置では、腹膨張部へのガスの供給流路が肩膨張部を通るように形成されているので、ガスの供給流路を腹膨張部と肩膨張部とで別々に設ける場合に比べて、装置サイズおよび製造コストの低減を図ることができる。
【0026】
上記態様に係るエアバッグ装置において、前記エアバッグは、前記ガスの供給流路中における前記腹膨張部と前記肩膨張部との間の部分に設けられるとともに、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記肩膨張部から前記腹膨張部へのガスの流れを制限する絞り部をさらに有してもよい。
【0027】
上記態様に係るエアバッグ装置では、腹膨張部と肩膨張部との間に絞り部を有するので、腹膨張部と肩膨張部との間でのガスの流通が制限され、腹膨張部および肩膨張部の膨張形状を安定させることができる。よって、上記態様に係るエアバッグ装置では、車両が斜め前方から衝突荷重の入力を受けた場合において、乗員の保護を図るのに優位である。
【0028】
上記態様に係るエアバッグ装置において、前記エアバッグは、前記斜め前方からの衝突荷重入力時に、前記腹膨張部が前方に向けて膨張展開するのを規制するテザーをさらに有してもよい。
【0029】
上記態様に係るエアバッグ装置では、腹膨張部が前方に向けて膨張展開するのを規制するテザーが設けられているので、腹膨張部の膨張展開時に当該腹膨張部を乗員の腹部を囲むよう(腹部に巻き付くよう)にすることができる。
【発明の効果】
【0030】
上記の各態様では、斜め前方から衝突荷重が入力された場合にも乗員の保護を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】実施形態に係る車両前部の一部構成を示す平面図である。
【
図2】シートベルト5およびその周辺の構成を示す正面図である。
【
図3】膨張展開した状態でエアバッグ装置を示す側面図である。
【
図4】膨張展開した状態でエアバッグ装置を示す斜視図である。
【
図5】乗員に対するエアバッグ装置の展開形態を示す平面図である。
【
図6】乗員に対するエアバッグ装置の展開形態を示す正面図である。
【
図7】乗員に対するエアバッグ装置の展開形態を示す側面図である。
【
図10】前方斜め衝突時における乗員の動きを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明を例示的に示すものであって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0033】
なお、以下の説明で用いる図において、「FR」は車両前方、「RR」は車両後方、「LH」は車両左方、「RH」は車両右方、「UP」は車両上方、「LO」は車両下方を示す。
【0034】
1.車両1の前部構造
車両1の前部構造について、
図1を用いて説明する。なお、
図1では、車両1の前部構造の内の一部のみを抜き出して図示している。
【0035】
図1に示すように、車両1は、車室1aの前部に車幅方向に延びるように設けられたインストルメントパネル10を備える。車室1内におけるインスト面とパネル10の後方には、車両用シート11,12が配置されている。車両用シート11,12は、車幅方向に並ぶように配置され、間にセンターコンソール14が配置されている。
【0036】
左側の車両用シート11の前方には、ステアリングホイール13が配されている。さらに、車両1には、当該車両1に衝突荷重が入力された際に乗員500を保護するためのシートベルト15が設けられている。なお、
図1では図示を省略するが、車両1における他の車両用シートに対しても乗員に対して装着可能にシートベルトが配設されている。
【0037】
なお、車両1においては、車両用シート11,12はそれぞれ前後方向にスライド可能に配されている。
【0038】
2.シートベルト15の装着形態とエアバッグ装置23の配置箇所
シートベルト15の装着形態とエアバッグ装置23の配置箇所について、
図2を用いて説明する。
図2は、車両用シート11に着座した乗員500を前方側から見た正面図である。
【0039】
図2に示すように、シートベルト15の一端部には、当該シートベルト15を巻き取り可能に支持するリトラクター18が連結されている。シートベルト15の他端部には、当該他端部を車体(一例として、フロアパネルFP上のサイドシルSS)に固定するラップアンカー21が連結されている。
【0040】
また、シートベルト15には、当該シートベルト15に沿って摺動可能に設けられたタング19が連結されている。タング19は、車両用シート11のシートクッション11bに固定されたバックル20に係止可能となっている。
【0041】
なお、車両1のセンターピラー16には、車両用シート11のシートバック11aよりも上方の位置にショルダーアンカー17が取り付けられている。シートベルト15は、ショルダーアンカー17を経由して巻き取り/引き出しが可能になっている。
【0042】
シートベルト15は、車両用シート11に着座した乗員500に対して、左側の肩部500aから胸部500bを経由して右側の腰部500cに至る部分と、腰部500cの右側から左側に至る部分とが隙間なく沿う。
【0043】
なお、シートベルト15は、乗員500の腹部500dについては拘束しないように構成されている。
【0044】
車両用シート11のシートバック11aには、車幅方向外側の部分Aにエアバッグ装置23が内蔵されている。エアバッグ装置23は、車両1に対して所定以上の横Gが検知された場合に膨張展開するように構成されている。
【0045】
3.エアバッグ装置23におけるエアバッグ230の展開形態
エアバッグ装置23におけるエアバッグ230の展開形態について、
図3および
図4を用いて説明する。
【0046】
図3および
図4に示すように、エアバッグ装置23におけるエアバッグ230は、車両用シート11のシートバック11aとドア22との間に膨張展開可能な肩膨張部230aと、車両用シートのシートバック11aの下部からシートバック11aの前方で車幅方向に膨張展開可能な腹膨張部230bとを有する。
【0047】
また、エアバッグ230は、腹膨張部230bにおける展開先端部と展開根元部とに接合されたテザー230cを有する。テザー230cは、膨張展開時における腹膨張部230bの先端部側の部分が、前方に向けて膨張展開するのを規制し、シートバック11aから前方に離間しつつ車幅方向におけるシートバック11aの中程部分まで延びるように、腹膨張部230bの先端部を後ろ向きに引き付ける機能を有する。
【0048】
図3に示すように、エアバッグ230の腹膨張部230bは、シートバック11aの下端に近い部分からドア22に沿って斜め上方に向けて延びる部分と、ドア22のアームレスト22aの近傍部分からシートバック11aに沿って車幅方向内方に向けて延びる部分とを有する。このような腹膨張部230bの膨張展開姿勢は、テザー230cにより実現される。
【0049】
ここで、エアバッグ装置23は、車両用シート11のシートバック11aに固定されているため、車両用シート11が前後方向にスライド移動された場合にも、膨張展開時における肩膨張部230aおよび腹膨張部230bと車両用シート11との相対的な位置関係は変化しない。
【0050】
4.乗員500に対するエアバッグ230の展開形態
乗員500に対するエアバッグ230の展開形態について、
図5から
図7を用いて説明する。
【0051】
図5から
図7に示すように、車両1に対して所定以上の横Gが検知された場合に、肩膨張部230aと腹膨張部230bとが膨張展開する。肩膨張部230aは、乗員500の肩部(車幅方向の外側の肩部)500aとドア22やセンターピラー16との間に展開する。
【0052】
車両1に対して所定以上の横Gが検知された場合に、腹膨張部230bは、乗員500の腹部500dにおける外側脇腹部から車幅方向の中程部分を囲むように展開する。
図6に示すように、腹膨張部230bは、シートベルト15における肩部500aから腰部500cに至る斜め方向に延びる部分よりも下側で展開する。また、腹膨張部230bは、乗員500の腕部(車幅方向の外側の腕部)500eよりも下側で展開する。
【0053】
ここで、車両用シート11に着座している乗員500は、車両1に対して衝突荷重が入力される前の状態において車幅方向外側の腕部500eをドア22のアームレスト22aに載せている場合もある。このような場合においても、
図7に示すように、車両1に対して所定以上の横Gが検知された場合に、膨張展開する腹膨張部230bは、乗員500の腕部500eを上方に持ち上げて、アームレスト22aと腕部500eとの間の部分Bから腹部500dの前に回り込むように展開する。
【0054】
5.エアバッグ装置23の詳細構造
エアバッグ装置23の詳細構造について、
図8を用いて説明する。
図8は、エアバッグ装置23におけるエアバッグ230が展開した状態を示す展開図である。
【0055】
図8に示すように、エアバッグ装置23は、基布により構成されたエアバッグ230と、所定以上の横Gが検知された場合にエアバッグ230にガスを供給するインフレータ231とを備える。
【0056】
エアバッグ230は、肩膨張基布部230a1,230a2と、腹膨張基布部230b1,230b2と、テザー230cと、絞り部230e1,230e2とを有する。肩膨張部230a(
図4などを参照。)は、折り返し線Lpで基布を折り返して、肩膨張基布部230a1の縁部と肩膨張基布部230a2の縁部とを接合することにより構成される。なお、インフレータ231は、肩膨張基布部230a2における折り線Lpの近傍に固定されている。
【0057】
腹膨張部230b(
図4などを参照。)は、折り返し線Lpで基布を折り返して、腹膨張基布部230b1の縁部と腹膨張基布部230b2の縁部とを接合することにより構成される。テザー230cは、腹膨張部230bの外側(後側)を通り後端部230dが腹膨張部230bの根元部に接合される。
【0058】
絞り部230e1および絞り部230e2のそれぞれは、半円形の孔である絞り孔230f1,230f2を有する。絞り部230e1と絞り部e2とは、絞り孔230f1と絞り孔230f2とにより略円形の孔が構成されるように互いに接合される。これにより、肩膨張部230aと腹膨張部230bとは、ガスの供給流路が連続されながら、相互のガスの流れが制限される。腹膨張部230bの反乗員側に該当する腹膨張基布部230b1には、ベントホール230mが形成され、ガスをエアバッグ230外に放出することでエアバッグ230の膨張度合いを調整している。
【0059】
6.車両1への衝突荷重入力時の乗員500の保護
車両1に対して衝突荷重が入力された際の乗員500の保護について、
図9および
図10を用いて説明する。
【0060】
図9に示すように、本実施形態では、矢印C1,C2のような斜め前方からの衝突を対象として説明する。ここで、車両1の車幅方向中心を通り、前後方向に延びる仮想線L1を想定する。この場合に、矢印C1,C2で示す衝突荷重の入力方向は、仮想線L1に対して角度θ1で引いた仮想線L2,L3と、仮想線L1に対して角度θ2で引いた仮想線L4,L5との間の領域からの斜め衝突荷重が車両1に入力されると仮定する。
【0061】
なお、角度θ1は0°より大きく、30°未満(例えば、25°)、角度θ2は30°以上60°以下(例えば、55°)である。
【0062】
車両1に対して矢印C1で示すような衝突荷重が入力した場合には、車両1に乗車している乗員500は矢印C1とは反対向きに動くことになる。例えば、左前の車両用シート11に着座の乗員500は、
図10に示すように、矢印Dのように左斜め前方に向けて動く。
【0063】
このように衝突によって乗員500が斜め前方に動く場合、乗員500の移動先にあるフロントピラーやドアトリムなどに腹部500dや胸部500bなどを打ち付けることが考えられる。
【0064】
しかしながら、本実施形態に係る車両1に備えられるエアバッグ装置23では、エアバッグ230が肩膨張部230aに加えて腹膨張部230bを備えるので、乗員500の肩部500aを保護しつつ、膨張展開した腹膨張部230bが腹部500dに巻き付いた状態で乗員500は矢印Dで示すように動く。この場合に、エアバッグ装置23はシートバック11aに固定されているので、乗員500とともにエアバッグ230の腹膨張部230bも移動する。
【0065】
このように、車両1に対して斜め衝突荷重が入力された場合に、腹部500dに腹膨張部230bが巻き付いた状態で乗員500が動くので、腹部500dや胸部500bなどがフロントピラーやドアトリムなどとの衝突による強い衝撃力を受けるのを抑制することができる。よって、
図9に示すような斜め衝突時においても、乗員500の保護を図ることができる。
【0066】
なお、詳細な説明および図示を省略したが、本実施形態に係る車両1では、車室1aの前部における右側の車両用シート12にも同様の構成を有するエアバッグ装置23が内蔵されている。また、後部の車両用シートについても左右両側にエアバッグ装置23が内蔵されている。これより、車両1の車室1a内の各乗員500を斜め衝突時に保護することができる。
【0067】
7.効果
本実施形態に係るエアバッグ装置23およびこれを備える車両1では、エアバッグ230が腹膨張部230bを有するので、斜め前方(
図9の矢印C1,C2で示す方向)からの衝突荷重入力時に、腹膨張部230bが腹部500dに巻き付いた状態で乗員500が斜め前方(実施形態では、左斜め前方)に動く。このため、乗員500の腹部500dに巻き付いた腹膨張部230bによって乗員500の腹部500dや胸部500bが斜め前方の構造物(ピラーやドアトリムなど)から衝撃力を受けるのを抑制することができる。よって、エアバッグ装置23およびこれを備える車両1では、斜め前方から衝突荷重が入力された場合にも乗員500の保護を図ることができる。
【0068】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置23およびこれを備える車両1では、1つのインフレータ231により腹膨張部230bと肩膨張部230aとを膨張展開することができるので、腹膨張部230bと肩膨張部230aとで別々のインフレータを備える場合に比べて、装置サイズおよび製造コストの低減を図ることができる。また、1つのインフレータ231により腹膨張部230bと肩膨張部230aとを膨張展開させるので、展開開始タイミングのズレなどを生じ難く、安定した状態で乗員500を保護することができる。
【0069】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置23およびこれを備える車両1では、エアバッグ230の腹膨張部230bへのガスの供給流路が肩膨張部230aを通るように形成されているので、ガスの供給流路を腹膨張部230bと肩膨張部230aとで別々に設ける場合に比べて、装置サイズおよび製造コストの低減を図ることができる。
【0070】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置23およびこれを備える車両1では、エアバッグ230の腹膨張部230bと肩膨張部230aとの間に絞り部230e1,230e2を有するので、腹膨張部230bと肩膨張部230aとの間でのガスの流通が制限され、腹膨張部230bおよび肩膨張部230aの膨張形状を安定させることができる。よって、エアバッグ装置23およびこれを備える車両1では、
図9の矢印C1,C2で示すような斜め前方からの衝突荷重の入力時において、乗員500の保護を図るのに優位である。
【0071】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置23およびこれを備える車両1では、エアバッグ230の腹膨張部230bが前方に膨張展開するのを規制するテザー230cが設けられているので、腹膨張部230bの膨張展開時に当該腹膨張部230bを乗員500の腹部500dに巻き付くようにすることができる。
【0072】
また、本実施形態に係るエアバッグ装置23およびこれを備える車両1では。テザー230cが腹膨張部230bにおける先端部と根元部とを結ぶように接合されているので、膨張展開時に腹膨張部230bが乗員500の腹部500dを囲み、乗員500が斜め前方に移動しようとするのを抑制するのに優位である。
【0073】
以上のように、本実施形態に係るエアバッグ装置23およびこれを備える車両1では、斜め前方(例えば、
図9の矢印C1,C2で示す方向)から衝突荷重が入力された場合にも乗員500の保護を図ることができる。
【0074】
[変形例]
上記実施形態では、エアバッグ装置23のエアバッグ230が肩膨張部230aと腹膨張部230bとを有する構成としたが、本発明では、少なくとも腹膨張部を有するエアバッグを採用することもできる。即ち、肩膨張部は、必ずしも腹膨張部と一体に設けられている必要はない。
【0075】
また、上記実施形態では、1つのインフレータ231から肩膨張部230aと腹膨張部230bとに対してガス供給が可能に構成したが、本発明では、肩膨張部と腹膨張部とのそれぞれに対してインフレータを備えることとしてもよい。なお、この場合には、肩膨張部へのガスの供給流路が腹膨張部を通るようにする必要はなく、肩膨張部および腹膨張部の互いのサイズにかかわらず安定した膨張形状を実現することができる。
【0076】
上記実施形態では、エアバッグ230が絞り部230e1,23oe2を有する構成としたが、本発明では、必ずしもエアバッグが絞り部を有する必要はない。
【0077】
上記実施形態では、エアバッグ230において、腹膨張部230bの外側にテザー230cを配することとしたが、腹膨張部の内方空間にテザーを設けることとしてもよい。即ち、膨張展開時において、腹膨張部が乗員の腹部の周りに巻き付くように引き付けられれば、テザーの形態は上記実施形態に限定されない。
【符号の説明】
【0078】
1 車両
11,12 車両用シート
15 シートベルト
22 ドア
22a アームレスト
23 エアバッグ装置
230 エアバッグ
230a 肩膨張部
230b 腹膨張部
230c テザー
230e1,230e2 絞り部
230f1,230f2 絞り孔
231 インフレータ