(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025176513
(43)【公開日】2025-12-04
(54)【発明の名称】電解セル及びそれを用いた化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 3/26 20210101AFI20251127BHJP
C25B 3/07 20210101ALI20251127BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20251127BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20251127BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20251127BHJP
H01M 8/0656 20160101ALI20251127BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20251127BHJP
【FI】
C25B3/26
C25B3/07
C25B9/00 G
C25B13/04 301
C25B11/032
H01M8/0656
H01M8/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024082719
(22)【出願日】2024-05-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.電気化学会第91回大会要旨集 2.10th Catalysis and Sensing for Our Environment Symposium(CASE 2024)at TMU要旨集
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】天野 史章
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 琢也
(72)【発明者】
【氏名】野本 晃汰
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H127
【Fターム(参考)】
4K011AA12
4K011DA10
4K021AC09
4K021DB18
4K021DC11
5H127AA00
5H127AB21
5H127BA01
5H127BB02
(57)【要約】
【課題】水素の副生を抑制し、エネルギーキャリアとして有用且つエネルギー効率に優れるギ酸製造のための電解セル、これを用いるギ酸の製造方法、得られたギ酸を用いる燃料電池、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】多孔質のアノード膜、非多孔質のプロトン交換膜、多孔質の親水性濾過膜、及び多孔質で且つ親水性のカソード膜がこの順に積層されたユニット膜を備える電解セルであって、前記親水性濾過膜、及び前記カソード膜は、細孔を介して連通している、電解セル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質のアノード膜、非多孔質のプロトン交換膜、多孔質の親水性濾過膜、及び多孔質で且つ親水性のカソード膜がこの順に積層されたユニット膜を備える電解セルであって、
前記親水性濾過膜、及び前記カソード膜は、細孔を介して連通している、電解セル。
【請求項2】
前記アノード膜は被酸化性物質の電気分解によりプロトン及び電子を生成し、前記プロトン交換膜にプロトンを供給し、電子を前記カソード膜に供給し、
前記親水性濾過膜は、前記プロトン交換膜から供給されたプロトンと、重炭酸イオンとを反応させてCO2と水とを生成し、
前記カソード膜は、前記親水性濾過膜で生成したCO2を、前記アノード膜から供給された電子と反応させてギ酸を生成するよう構成されている、請求項1に記載の電解セル。
【請求項3】
前記重炭酸イオンは、CO2のアルカリ吸収液として前記カソード膜側から前記親水性濾過膜に供給され、
前記重炭酸イオンの濃度は、3mmol/L~3mol/Lである、請求項2に記載の電解セル。
【請求項4】
前記親水性濾過膜の厚さが、0.1μm超5mm以下である、請求項1に記載の電解セル。
【請求項5】
前記カソード膜の、前記親水性濾過膜側とは反対側に、重炭酸塩水溶液を流すための流路を有するカソード側フロープレートとを有する、請求項1に記載の電解セル。
【請求項6】
前記流路が、サーペンタイン流路、格子溝流路、又は並列流路である、請求項5に記載の電解セル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の電解セルを用いるギ酸の製造方法。
【請求項8】
前記ユニット膜内にCO2のアルカリ吸収液を供給すること、及び生成したギ酸水溶液を回収することを含む、請求項7に記載のギ酸の製造方法。
【請求項9】
CO2のアルカリ吸収液を循環させてギ酸を製造する循環式又はアルカリ吸収液を循環させず連続的に供給する連続式である、請求項7に記載のギ酸の製造方法。
【請求項10】
請求項7に記載のギ酸の製造方法で得られたギ酸含有組成物、燃料電池の燃料としての使用。
【請求項11】
請求項7に記載のギ酸の製造方法で得られたギ酸を燃料として用いる、燃料電池。
【請求項12】
請求項1に記載の電解セルと、請求項11に記載の燃料電池とを備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解セル及びそれを用いる化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネガティブエミッション及び再生可能エネルギー活用の観点から、DAC(Direct Air Capture)及び二酸化炭素(CO2)の電解還元による燃料生産は最も注目すべき技術である。CO2電解セルとしては、CO2ガス及びカソード溶液と接触するカソードと、アノード溶液と接触するアノードと、カソードとアノードとを分離するイオン交換膜(多くはアニオン交換膜、あるいはバイポーラ膜)とを備える構造が検討されている(特許文献1)。しかし、ガス供給型のCO2電解セルでは、CO2ガスの精製や圧縮にコストがかかるとともに、アノードとカソードが離れているためセル抵抗が高く電圧の損失が大きい。また、アノードへのクロスオーバー及びCO2還元反応の遅さ故にCO2の利用効率が低く、未反応のCO2がアノード及びカソードから排出されてしまう問題があった。DAC技術においても、アルカリ吸収されたCO2をガスとして回収するためには多大なエネルギー損失が生じる問題があった。そこで、アルカリ吸収液を直接利用するRCC(Reactive CO2 Capture)技術の開発が期待されている。近年、アルカリ吸収液である炭酸水素塩(重炭酸塩)水溶液や炭酸塩水溶液を原料としたCO2電解による有用化合物の製造法が報告されている(特許文献2)。再生可能エネルギーを有効活用するための水素キャリアとしてギ酸は最も有望な化合物であり、これまでに重炭酸塩水溶液電解によるギ酸生成も報告されている(非特許文献1及び2)。
【0003】
非特許文献1によれば、高純度のCO2ガスの代わりに、CO2をアルカリ水溶液と反応させ重炭酸イオンとした重炭酸塩水溶液を炭素源として用いることにより、CO2の回収、精製、圧縮等の多大なエネルギー消費を要する工程を削減することができ、総じてエネルギー消費量を削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-157252号公報
【特許文献2】国際公開第2019/204938号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ACS Energy Lett. 2020, 5, 2624-2630 Conversion of Bicarbonate to Formate in an Electrochemical Flow Reactor
【非特許文献2】ACS Appl. Mater. Interfaces 2022, 14, 30760-30771 Engineering Aspects for the Design of a Bicarbonate Zero-Gap Flow Electrolyzer for the Conversion of CO2 to Formate
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1及び2を含めて重炭酸塩電解セルにおけるギ酸生成の電流効率(ファラデー効率)は最大でも60%であった。
例えば、非特許文献1の電解セルでは、下記式(1)及び(2)で表される反応が進行することによりギ酸を生成するが、下記(2)の反応と競合して、下記式(3)の反応が進行することが原因で、ファラデー効率が低下するものと考えられる。
【0007】
HCO3
-+H+→CO2+H2O ・・・(1)
CO2+2H++2e-→HCOOH ・・・(2)
2H++2e-→H2 ・・・(3)
【0008】
ガス供給型のCO2電解セル(特許文献1)では、CO2ガスの精製コストが高く、炭素利用効率が低いという問題がある。アルカリ吸収液の供給では、一酸化炭素やエチレン等のガスを生成する重炭酸及び炭酸電解セル(特許文献2等)が報告されている。しかし、ガス状の生成物はエネルギーキャリアとして活用することはできない。アルカリ吸収液の供給によって、液体であるギ酸を生成するCO2電解セル(非特許文献1及び2)は有望なRCC技術である。しかしながら、ギ酸生成のファラデー効率が最大でも60%であり、水素が副生してしまう課題があった。また、従来のガス供給型のCO2電解セルの問題、すなわち、高いセル抵抗、低い炭素利用効率、及び長時間反応における不安定性の問題は解決されていない。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、水素の副生を抑制できるギ酸製造のための電解セル、これを用いるCO2のアルカリ吸収液からのギ酸の製造方法、得られたギ酸を用いる燃料電池、及びその電解セルと燃料電池を備えたシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カソード内部へと速やかに重炭酸塩水溶液を輸送し、親水性濾過膜を介して、アノードとカソードを分離するプロトン交換膜へ連続的に重炭酸イオンを供給することによって、カソード内部で効率的にCO2を発生させることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
親水性濾過膜において重炭酸イオンとプロトンが効率よく中和反応することによって、プロトンが消費されるためカソードでの水素発生反応が抑制される。重炭酸塩水溶液を供給し、多孔質輸送層及び触媒層を含むカソードを親水性とし、プロトン交換膜とカソードの中間に親水性の多孔質膜である親水性濾過膜を設置することにより、重炭酸塩水溶液をプロトン交換膜の近傍に速やかに輸送することで、高効率なRCC技術を提供するという点で従来の先行技術と相違する。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を有する。
[1] 多孔質のアノード膜、非多孔質のプロトン交換膜、多孔質の親水性濾過膜、及び多孔質で且つ親水性のカソード膜がこの順に積層されたユニット膜を備える電解セルであって、
前記親水性濾過膜、及び前記カソード膜は、細孔を介して連通している、電解セル。
[2] 前記アノード膜は被酸化性物質の電気分解によりプロトン及び電子を生成し、前記プロトン交換膜にプロトンを供給し、電子を前記カソード膜に供給し、
前記親水性濾過膜は、前記プロトン交換膜から供給されたプロトンと、重炭酸イオンとを反応させてCO2と水とを生成し、
前記カソード膜は、前記親水性濾過膜で生成したCO2を、前記アノード膜から供給された電子と反応させてギ酸を生成するよう構成されている、[1]に記載の電解セル。
[3] 前記重炭酸イオンは、CO2のアルカリ吸収液として前記カソード膜側から前記親水性濾過膜に供給され、
前記重炭酸イオンの濃度は、3mmol/L~3mol/Lである、[2]に記載の電解セル。
[4] 前記親水性濾過膜の厚さが、0.1μm超5mm以下である、[1]に記載の電解セル。
[5] 前記カソード膜の、前記親水性濾過膜側とは反対側に、重炭酸塩水溶液を流すための流路を有するカソード側フロープレートとを有する、[1]に記載の電解セル。
[6] 前記流路が、サーペンタイン流路、格子溝流路、又は並列流路である、[5]に記載の電解セル。
[7] [1]~[6]のいずれか1項に記載の電解セルを用いるギ酸の製造方法。
[8] 前記ユニット膜内にCO2のアルカリ吸収液を供給すること、及び生成したギ酸水溶液を回収することを含む、[7]に記載のギ酸の製造方法。
[9] CO2のアルカリ吸収液を循環させてギ酸を製造する循環式又はアルカリ吸収液を循環させず連続的に供給する連続式である、[7]に記載のギ酸の製造方法。
[10] [7]に記載のギ酸の製造方法で得られたギ酸含有組成物の、燃料電池の燃料としての使用。
[11] [7]に記載のギ酸の製造方法で得られたギ酸を燃料として用いる、燃料電池。
[12] [1]に記載の電解セルと、[11]に記載の燃料電池とを備える、システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水素の副生を抑制できるギ酸製造のための電解セル、これを用いるCO2のアルカリ吸収液からのギ酸の製造方法、得られたギ酸を用いる燃料電池、及びその電解セルと燃料電池を備えたシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の電解セルの一例を示す正面図である。
【
図2】本発明の電解セルの一例を示す分解図である。
【
図3】(a)本発明の連続式の電解セルの一例を示す正面図であり、(b)本発明の循環式の電解セルの一例を示す正面図である。
【
図4】本発明の電解セルで製造したギ酸を燃料とする直接ギ酸形燃料電池の一例を示す概念図である。
【
図5】本発明の電解セルと、ギ酸を燃料とする直接ギ酸形燃料電池とを備える重炭酸イオン循環型発電システムの概念図である。
【
図6】pHによる水溶液中のCO
2の状態を表すグラフである。
【
図7】疎水性のカソード膜を用いた場合と、親水性のカソード膜を用いた場合との、ギ酸のファラデー効率を比較したグラフである。
【
図8】親水性のカソード膜を用いた場合における、親水性濾過膜を設けない場合と、設けた場合との、ギ酸のファラデー効率を比較したグラフである。
【
図9A】(a)カソード側のフロープレートとしてのサーペンタイン流路の一例を示す斜視図であり、(b)カソード側のフロープレートとしての格子溝流路の一例を示す斜視図である。
【
図9B】(c)サーペンタイン流路を用いた場合と格子溝流路を用いた場合との、ギ酸のファラデー効率を比較したグラフであり、(d)サーペンタイン流路を用いた場合と格子溝流路を用いた場合との、生成物のモル濃度比を比較したグラフである。
【
図10】(a)カソード側のフロープレートとしてサーペンタイン流路を用いた場合に、重炭酸塩水溶液の流量を変更した場合の、ギ酸のファラデー効率を比較したグラフであり、(b)カソード側のフロープレートとして格子溝流路を用いた場合に、重炭酸塩水溶液の流量を変更した場合の、ギ酸のファラデー効率を比較したグラフである。
【
図11】電流密度を変更した場合の、ギ酸のファラデー効率を示すグラフである。
【
図12】本発明の電解セルと、ガス拡散電極を有する従来のガス供給型CO
2電解セルとの、ギ酸のファラデー効率を比較したグラフである。
【
図13】濃度3mol/LのKHCO
3水溶液を用い、100mA/cm
2の電流密度で30時間反応させた際の、ギ酸のファラデー効率及びセル電圧を示すグラフである。
【
図14】濃度3mol/LのKHCO
3水溶液を用い、100mA/cm
2の電流密度で30時間反応させた際の、生成したギ酸水溶液におけるギ酸のモル濃度及び重量分率を表すグラフである。
【
図15】本発明の電解セルと、従来技術の電解セルとの、触媒の種類、ギ酸のファラデー効率、及び100mA/cm
2の電流密度に必要な電圧値を比較した表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
≪電解セル≫
本発明の電解セルは、多孔質のアノード膜、非多孔質のプロトン交換膜、多孔質の親水性濾過膜、及び多孔質で且つ親水性のカソード膜がこの順に積層されたユニット膜を備える電解セルであって、前記親水性濾過膜、及び前記カソード膜は、細孔を介して連通している。
前記アノード膜は水の電気分解によりプロトン及び電子を生成し、前記プロトン交換膜にプロトンを供給し、電子を前記カソード膜に供給し、前記親水性濾過膜は、前記プロトン交換膜から供給されたプロトンと、重炭酸イオンとを反応させてCO2と水とを生成し、前記カソード膜は、前記親水性濾過膜で生成したCO2を、前記アノード膜から供給された電子と反応させてギ酸を生成するよう構成されている。
多孔質膜は、隣接する多孔質膜と連通し、気体や液体の透過を妨げない細孔を有する。
非多孔質膜は隣接する膜と連通する細孔を有しない。
【0016】
図1に示す電解セル1は、アノード膜3、プロトン交換膜4、親水性濾過膜5、及びカソード膜6を一体化させたユニット膜を有する。前記ユニット膜は、プロトン交換膜以外はすべて多孔質材料から構成されており、その内部はカソード膜6から親水性濾過膜5まで液体や気体を導入できるよう連通している。カソード膜6の外側からCO
2のアルカリ吸収液が導入される。アノード膜3の外側から被酸化性物質が供給される。
【0017】
まず、アノード膜3では、電子を放出する酸化反応が起こる。具体的には、純水を供給した場合、下記式(4)で表される水の電気分解による酸素発生反応が起こる。
2H2O→O2+4H++4e- ・・・(4)
生成したプロトンはアノード膜3に隣接するプロトン交換膜4に供給され、電子はリード線及び電源を介してカソード膜6に供給される。
一方、親水性濾過膜5では、アノード膜3側から供給されたCO2のアルカリ吸収液に含まれる重炭酸イオンと、プロトン交換膜4から供給されるプロトンとの中和反応が進行し、CO2と水とが生成される。具体的には、下記式(1)で表される中和反応が起こる。
HCO3
-+H+→CO2+H2O ・・・(1)
生成したCO2は中性やアルカリ性の水溶媒にほとんど溶解せずガスとして多孔質膜である親水性濾過膜5内に保持され、気泡の状態で供給液の流れに乗り、隣接する多孔質膜であるカソード膜6に供給される。
最後に、カソード膜6では、生成したCO2をギ酸に変換する還元反応が起こる。具体的には、下記式(2)で表されるCO2の還元反応によるギ酸の生成反応が起こる。
CO2+2H++2e-→HCOOH ・・・(2)
生成したギ酸は、1価の脂肪族カルボン酸の中で最も酸が強く、水溶液中ではギ酸イオンと平衡が成立している。供給している重炭酸塩水溶液のpHは中性付近である場合には、変換されたギ酸のほとんどは水溶液中でギ酸イオンとして存在している。したがって、式(2)は下記式(5)及び(6)として表記することもできる。
CO2+H++2e-→HCOO- ・・・(5)
CO2+H2O+2e-→HCOO-+OH- ・・・(6)
【0018】
図2に示すように、本発明の電解セル100は、アノード膜3とカソード膜6との外側に、それぞれフロープレート7、8を有し、前記フロープレート7、8の外側に、それぞれ集電体9、10を有し、前記集電体9、10の外側に、それぞれエンドプレート11、及び12を有してもよい。アノード側エンドプレート11には、被酸化性物質を供給する供給口13Aと、酸化生成物を排出する排出口13Bとを有する。カソード側エンドプレートには、CO
2のアルカリ吸収液を供給する供給口14Aと、生成したギ酸を排出する排出口14Bとを有する。
【0019】
図3(a)及び(b)に示すように、本発明の電解セル100aは連続式であってもよく、循環式であってもよい。
図3(a)に示すように、本発明の電解セル100aは、カソード膜側のエンドプレート12に設けられた供給口14Aに所定の濃度の重炭酸塩水溶液を連続して供給し、生成したギ酸水溶液をカソード膜側のエンドプレート12に設けられた排出口14Bから回収するよう構成されていてもよい。
連続して行うことにより大量のギ酸水溶液を高選択的に製造することができる。
ギ酸は、ギ酸水溶液から慣用の手段、例えば、蒸留又は抽出、逆浸透膜を備えた分離膜等の公知の分離手段によって濃縮し、所望の濃度にすることができる。ギ酸イオンはプロトン化してもよい。また、濃縮及び乾燥によって固体のギ酸塩として回収することもできる。
【0020】
図3(b)に示すように、本発明の電解セル100bは、カソード膜6の外側にCO
2のアルカリ吸収液を貯留するタンク15が設けられていてもよい。タンクに貯留した重炭酸イオンを含む水溶液がカソード膜6に供給され、生成したギ酸水溶液がタンク内に排出され、生成したギ酸水溶液を含む重炭酸塩水溶液がタンク15からカソード膜6に供給されるよう構成されており、タンク15に貯留した重炭酸塩水溶液が循環するよう構成されていてもよい。
循環させて行うことによりギ酸の濃度が高いギ酸水溶液を製造することができる。
【0021】
<アノード膜>
本発明で用いるアノード膜は、多孔質の導電性支持体、及びアノード活物質を含む触媒電極であることが好ましい。
【0022】
導電性支持体としては、特に限定されないが、例えば、金属繊維からなる不織布、金属粒子の多孔質焼結体、多孔質導電性炭素材料等が挙げられる。多孔質導電性炭素材料としては、カーボンペーパー及びカーボンクロス等が挙げられる。
【0023】
本発明において、アノード膜では、電子を放出する酸化反応が起こる。具体的には、被酸化性物質として水を供給した場合、下記式(4)で表される水の電気分解による酸素発生反応が起こる。
2H2O→O2+4H++4e- ・・・(4)
アノード膜には、水の酸化反応を進めるための、アノード活物質が存在する。
前記式(4)の反応を進めるためのアノード活物質としては、水をプロトンと酸素と電子とにするための公知な触媒であればよい。水酸化物イオンを酸素と電子とにするための公知な触媒であってもよい。例えば、周期表の4~12族から選ばれる金属又はこれらの金属化合物を用いることができる。金属又は金属化合物としては、ルテニウム、イリジウム、ニッケル、マンガン、鉄、白金及びパラジウム、並びにこれらの金属を含む金属化合物等が挙げられ、中でもルテニウム酸化物やイリジウム酸化物がより好ましい。導電性炭素材料及び導電性支持体にアノード活物質を付着させた触媒電極を用いてもよい。導電性炭素材料としては、好ましくはカーボンブラック、カーボンファイバー、グラフェン、カーボンウィスカー、及びカーボンナノチューブ等が挙げられる。導電性支持体としては、チタンメッシュ、及びチタン繊維焼結体等が挙げられる。
【0024】
本発明において、アノード膜では、電子を放出する酸化反応が起こればよく、触媒電極として機能するアノード膜を用い、電気エネルギー駆動型の電解セルとしてもよく、アノード膜として半導体電極として機能する光アノード膜を用い、光エネルギー駆動型の電解セルとしてもよい。光エネルギーとしては太陽光エネルギーを使用してもよい。
上記式(4)の酸化反応を進めるための前記光アノード膜としては、多孔質の導電性支持体に付着させた酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、バナジン酸ビスマス、酸化鉄等の酸化物、及びオキシナイトライド、オキシサルファイド等のn型半導体が挙げられる。
【0025】
<プロトン交換膜>
本発明のプロトン交換膜は、非多孔質の高分子電解質膜であり、電子伝導性を有しないプロトン伝導体である。固体電解質膜であれば、カチオン交換膜であってもアニオン交換膜であってもバイポーラ膜であってもよいが、プロトン交換膜が好ましい。プロトン交換膜の材料は、特に限定されるものではないが、その一例としては、パーフルオロスルホン酸系高分子等のスルホン酸基を有するフッ素系高分子膜がある。具体的には、ナフィオン(登録商標)及びアクイヴィオン(登録商標)等が挙げられる。本発明のプロトン交換膜は、非多孔質膜であることにより、アノード膜で生成した酸素等の生成物が容易にカソード膜に到達すること(クロスオーバー)を抑制することができる。また、本発明のプロトン交換膜は、親水性及び疎水性の部位を有している。親水性濾過膜から供給される重炭酸イオンのアノード膜へのクロスオーバーを抑制するため、カチオン性であることが好ましい。バイポーラ膜を用いるとセル抵抗が大きくなるため、膜抵抗の小さなイオン交換膜を用いることが好ましい。
【0026】
<親水性濾過膜>
本発明の親水性濾過膜は、絶縁性の材料からなる親水性の多孔質膜である。本発明の親水性濾過膜としては、電子伝導性を有しない絶縁体であることが好ましいが、半導体や導電体であってもよい。イオン伝導体であってもよい。また、本発明の親水性濾過膜としては、物質拡散性を有する必要があるため、多孔質であることが好ましい。
親水性濾過膜では、下記式(1)で表されるプロトンによる重炭酸イオンの中和反応が起こり、CO2が発生する。
HCO3
-+H+→CO2+H2O ・・・(1)
下記式(7)で表される炭酸イオンの中和反応によって重炭酸イオンが生成し、この重炭酸イオンの中和反応によってCO2が発生してもよい。
CO3
2-+H+→HCO3
- ・・・(7)
親水性濾過膜の材料は上記中和反応に寄与しないが、多孔質で且つ親水性の膜である親水性濾過膜が中和反応のための大表面積の反応場を提供し、プロトン交換膜から供給されたプロトンが速やかに重炭酸イオンと反応できるようにしている。
ところで、カソードは還元反応を促進する触媒を持つため、カソードにプロトンが供給されると、上記式(2)のCO2還元反応と競合して、上記式(3)の反応、すなわち2H++2e-→H2のプロトン還元反応が進行してしまう。上記(3)の反応が進行することが、従来の電解セルのファラデー効率が60%以下となる原因と考えられる。そのため、プロトン交換膜とカソードとの間に、還元触媒を持たない親水性濾過膜を設けることで、親水性濾過膜にて、重炭酸イオンとの反応でプロトンを消費させ、プロトンのカソードへの到達を抑えることができる。これにより、高選択的にギ酸を製造することができる。
重炭酸イオンは炭酸水素カリウム等が電離することにより生じたイオンであり、水溶液中で炭酸イオン及びCO2と平衡が成立している。重炭酸イオンそのものは水溶液中で安定であり、電子との反応は進行しにくい。プロトン交換膜からプロトンが供給されると、局所的にプロトンの濃度が増大するため、プロトンと電子との反応による水素発生反応が進行しやすい。そこで、プロトン交換膜とカソードとの間に親水性濾過膜を設けると、プロトン交換膜から供給されたプロトンが、カソードで還元され水素を副生する前に、重炭酸イオンと速やかに反応させることができる。これにより、プロトンがカソードに供給され還元されることによる水素の副生を抑制することができる。また、中和反応により発生したCO2は、水溶媒への溶解性が低いため、ガスの状態で多孔質膜である親水性濾過膜及び隣接するカソード膜により保持される。CO2が高濃度のガスの状態でカソードに供給され還元されることにより、高選択的にギ酸を製造することができる。
【0027】
親水性濾過膜としては、膜表面に微細な孔があいているセルロースフィルター、ナイロンフィルター、親水性ポリテトラフルオロエチレンフィルター、ガラス繊維や化学繊維からなる不織布等が挙げられる。本発明においては、セルロース混合エステルからなるメンブレンフィルターが好ましく用いられている。エレクトロスピニング法で製造したナノファイバーや、微粒子の焼結体等を用いてもよい。
【0028】
<カソード膜>
本発明で用いるカソード膜は親水性であり、多孔質の導電性支持体、及びカソード活物質を含む触媒電極であることが好ましい。
多孔質の導電性支持体としては、アノード膜について上述したものと同様のものが挙げられる。
カソードは、例えば触媒層と多孔質の導電性支持体とを有し、前記触媒層がカソード活物質を有する多層構造であってもよいし、触媒としてのカソード活物質を多孔質の導電性支持体に担持させた単層構造であってもよい。
【0029】
カソード活物質としては、CO2の還元反応を促進する公知の触媒であればよい。還元反応とは、物質が酸素を失う、あるいは水素と結合する反応のことであり、より一般的には電子を得る反応全般を意味する。
本発明において、前記カソード膜において、下記式(2)で表されるCO2還元反応が起こり、ギ酸が生成する。
CO2+2H++2e-→HCOOH ・・・(2)
CO2還元反応の生成物としては、ギ酸、一酸化炭素、メタノール、エチレン、エタノール、プロパノール、酢酸、エタン、メタン等が挙げられる。
【0030】
CO2還元反応の触媒としては、周期表の4~15族から選ばれる金属、金属酸化物、水酸化物、それらの金属を少なくとも1つ含む合金や金属間化合物、複合金属酸化物等が挙げられる。窒化物、硫化物、セレン化物等を使用することもできる。銅、銀、金、亜鉛、パラジウム、カドミウム、ビスマス、インジウム、錫、鉛、水銀等を含む触媒が好ましい。ギ酸を生成するにはビスマス、インジウム、錫、鉛等を含む触媒が好ましい。
【0031】
還元触媒は多孔質の導電性支持体に固定化して使用することもできる。支持体としては、特に限定されないが、例えば、多孔質導電性炭素材料、金属繊維からなる不織布、金属粒子の多孔質焼結体等が挙げられる。多孔質導電性炭素材料としては、カーボンペーパー及びカーボンクロス等が挙げられる。還元触媒や導電性支持体は必要に応じて親水性処理、及び疎水性処理を施してもよい。還元触媒に第二及び第三成分を添加して触媒活性、反応選択性、及び触媒寿命等の触媒性能を向上させてもよい。還元触媒自体を多孔質化して使用することもできる。
【0032】
還元触媒を支持体に担持させる方法としては、例えば、支持体に還元触媒を含む溶媒を滴下し乾燥して担持させる方法、支持体に還元触媒を含む溶媒を含浸させ乾燥して担持させる方法、及び支持体に還元触媒を含む溶媒をスプレーし乾燥して担持させる方法等が挙げられる。電解析出、真空蒸着、及びスパッタリング等の方法で導電性支持体に固定化させてもよい。
【0033】
その他の触媒としては、含窒素有機化合物を配位させた金属錯体と導電性炭素材料の混合物を熱処理したものを使用することが好ましい。導電性炭素材料としては、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラフェン、カーボンウィスカー、及びカーボンナノチューブ等が挙げられる。熱処理は、酸素、空気、又は不活性ガス中で行うことができるが、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス中で熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は、好ましくは100~1000℃、より好ましくは300~900℃、さらに好ましくは500~800℃である。
触媒を支持体に担持させる方法としては、触媒を含む溶媒を滴下し乾燥して担持させる方法、支持体に触媒を含む溶媒を含浸させ乾燥して担持させる方法、及び支持体に触媒を含む溶媒をスプレーし乾燥して担持させる方法等が挙げられる。
【0034】
本発明において、カソード膜では、CO2還元反応が起こればよく、触媒電極として機能するカソード膜を用い、電気エネルギー駆動型の電解セルとしてもよく、カソード膜として半導体電極として機能する光カソード膜を用い、光エネルギー駆動型の電解セルとしてもよい。光エネルギーとしては太陽光エネルギーを使用してもよい。
CO2還元反応を進めるための前記光カソード膜としては、多孔質の導電性支持体に付着させた酸化物及び硫化物等のp型半導体が挙げられる。
【0035】
本発明においては、上記アノード膜、プロトン交換膜、親水性濾過膜、及びカソード膜を圧着し、一体化させてシート状にしたユニット膜を本発明の電解セルに設置する。圧着するときには80~120℃の熱を加えてもよい。アノード膜、プロトン交換膜、親水性濾過膜、及びカソード膜はそれぞれ、例えば、塗布法やドロップキャスト法等、一般的に燃料電池及び電解セルで採用されている方法を用いることができる。
【0036】
アノード膜の厚さは、好ましくは0.001~2.0mm、より好ましくは0.01~1.0mm、さらに好ましくは0.1~0.5mmである。
プロトン交換膜の厚さは、好ましくは10~300μm、より好ましくは20~200μm、さらに好ましくは30~70μmである。
親水性濾過膜の厚さは、好ましくは0.1μm超5.0mm、より好ましくは10~500μm、さらに好ましくは50~150μmである。
カソード膜の厚さは、好ましくは0.001~2.0mm、より好ましくは0.01~1.0mm、さらに好ましくは0.1~0.5mmである。
ユニット膜の厚さは、好ましくは0.003~10mm、より好ましくは0.03~3.0mm、さらに好ましくは0.3~1.5mmである。
【0037】
本発明の電解セルが
図2に示すようにフロープレートを有する場合、フロープレートは、導体であれば特に限定されないが、コストの観点から、カーボンから形成されたフロープレートがカソード側に好ましい。流路の形状は特に限定されないが、蛇行流路であるサーペンタイン流路、流路となる溝が格子状である格子溝流路、溝が並列状である並列流路が好ましい。フロープレートは、設けても設けなくてもよいが、少なくともカソード側に設けることが好ましい。大きな圧力損失がなく、重炭酸イオンを速やかにプロトン交換膜の近傍に供給できることから、サーペンタイン流路、又は格子溝流路がより好ましい。
【0038】
サーペンタイン流路を有するフロープレートの溝の幅は、好ましくは5mm、より好ましくは2mm、さらに好ましくは1mmである。
サーペンタイン流路を有するフロープレートの溝の深さは、好ましくは5mm、より好ましくは2mm、さらに好ましくは1mmである。
【0039】
格子溝流路を有するフロープレートの溝の幅は、好ましくは5mm、より好ましくは2mm、さらに好ましくは1mmである。
格子溝流路を有するフロープレートの溝の深さは、好ましくは5mm、より好ましくは2mm、さらに好ましくは1mmである。
【0040】
本発明の電解セルが
図2に示すように集電体を有する場合、集電体は、導体であれば特に限定されないが、金属の腐食防止及び電気伝導率の観点から、金メッキした銅板から形成されたものが好ましい。
【0041】
本発明の電解セルが
図2に示すようにエンドプレートを有する場合、エンドプレートは、導体であってもよく絶縁体であってもよいが、耐久性の観点から、ステンレスが好ましい。
各供給口及び排出口は、導体であってもよく絶縁体であってもよいが、耐久性の観点から、ステンレスが好ましい。
【0042】
本発明でカソード膜に供給する水溶液としては、CO2のアルカリ吸収液であれば特に限定されないが、炭酸塩水溶液、又は重炭酸塩水溶液が好ましく用いられる。水への溶解度が高い炭酸カリウム水溶液、又は重炭酸カリウム水溶液がより好ましい。
炭酸カリウムの濃度は、飽和濃度以下であることが好ましく、1mmol/L~8mol/Lが好ましく、0.1~8mol/Lがより好ましく、1~8mol/Lがさらに好ましい。重炭酸カリウムの濃度は、飽和濃度以下であることが好ましく、1mmol/L~3mol/Lが好ましく、0.1~3mol/Lがより好ましく、1~3mol/Lがさらに好ましい。
CO2のアルカリ吸収液のpHは、5~12が好ましく、6~11がより好ましく、7~10がさらに好ましい。
【0043】
本発明においては、電解セルのスケールに伴い変わる種々の条件(例えば、重炭酸塩水溶液の流量、電流等)は、電解セルのスケールにあわせて適宜選択できる。例えば、重炭酸塩水溶液の流量は電解セルのスケールに合わせて適宜選択できるが、好ましくは1~10000mL/分、より好ましくは10~1000mL/分とすることができる。
【0044】
本発明において、アノード膜とカソード膜の両極間に流れる電流密度は、好ましくは1.0~3000mA/cm2、より好ましくは10~1000mA/cm2、さらに好ましくは100~300mA/cm2とすることができる。
本発明においては、アノード膜とカソード膜の両極間に電圧を印加することにより、反応を加速させることができる。酸素発生反応用のアノードとの組み合わせで電圧を印加する場合の電圧は、好ましくは5V以下、より好ましくは2.5V以下とすることができる。光エネルギー駆動型の場合においは、電圧を印可せずに反応を起こすことができるが、反応を加速させるために電圧を印可してもよい。
反応温度は、好ましくは0~80℃、より好ましくは5~30℃の範囲から選択される。
反応時間は、反応生成物の選択率や収率の実質的な目標値を定め、適宜選択すればよく、特に限定されないが、好ましくは数時間ないし数十時間である。
【0045】
電解セルの大きさは、特に限定されないが、例えば、カソード室の容積は約0.1cm3から約1m3の範囲から選択することができ、アノード膜、プロトン交換膜、親水性濾過膜、及びカソード膜、ならびにこれらから構成されるユニット膜のサイズもそれに合わせて調整することができる。
【0046】
≪ギ酸の製造方法≫
本発明のギ酸の製造方法は、本発明の電解セルを用いる。
本発明のギ酸の製造方法は、本発明の電解セルのユニット膜内に重炭酸塩水溶液を供給する工程、及び生成したギ酸水溶液を回収する工程を含むことが好ましい。
反応温度は、好ましくは0~80℃、より好ましくは5~30℃である。反応温度が上記範囲内であると、加熱や冷却のためのエネルギー消費量を低減することができる。
反応時間は、特に限定されないが、少なくとも30時間以上は電解セルの耐久性を維持することができ、高いファラデー効率を維持したままギ酸を高選択的に製造することができる。
【0047】
≪ギ酸の使用方法≫
本発明のギ酸の製造方法で得られたギ酸を含むギ酸含有組成物は、燃料電池の燃料として使用できる。ギ酸含有組成物は、ギ酸の他、水、有機溶剤等を含むことができる。
【0048】
≪燃料電池≫
本発明の燃料電池は、本発明のギ酸の製造方法で得られたギ酸イオンを燃料として用いる。
図4は、本発明の電解セルで製造したギ酸イオンを燃料とする直接ギ酸塩形燃料電池の一例を示す概念図である。
図4の燃料電池20は、第1の拡散層23、及び酸化触媒24を備えるアノード21と、電解質膜25と、還元触媒26、及び第2の拡散層27を備えるカソード29とがこの順で積層されている。アノード21、及びカソード29の外側には、それぞれ第1の集電体22、及び第2の集電体28が設けられ、リード線と負荷装置等の電気設備とを介して通電している。
アノード21では下記式(8)で表される反応が進行し、カソード29では、下記式(9)で表される反応が進行する。
HCOO
-+3OH
-→CO
3
2-+2H
2O+2e
- ・・・(8)
O
2+2H
2O+4e
-→4OH
- ・・・(9)
アノード21には燃料としてのギ酸イオンが供給され、カソード27には酸素源としての空気が供給される。アノード21では、酸化触媒24により、第1の拡散層から供給されるギ酸イオンとカソード27で生成した水酸化物イオンから炭酸イオン、水、及び電子が生成する。生成した炭酸イオン及び水は第1の拡散層23を通過して系外に排出される。カソード27では、還元触媒26により、第2の拡散層27から供給される酸素とアノード21で生成した電子とを反応させ水酸化物イオンを生成する。カソード27で生成した水酸化物イオンは電解質膜25を通過してアノード21に供給される。
燃料電池に供給するギ酸イオンとしては、本発明の電解セルで製造されたものであればよく、本発明の電解セルに直接接続された燃料電池であってもよく、電解セルとは独立した燃料電池であってもよい。
【0049】
≪システム≫
本発明のシステムは、本発明の電解セルと、本発明の燃料電池とを備える。
本発明のシステムは、本発明の電解セルで生成したギ酸を、配管及び運搬等の輸送を介して直接燃料電池の燃料として供給する。
図5は、本発明の電解セルと、ギ酸を燃料とする直接ギ酸塩形燃料電池とを備える重炭酸イオン循環型発電システムの一例である。
図5のシステム30では、電解セル1で製造したギ酸イオンはプロトン化されずにそのまま燃料電池20のアノードに供給される。
電解セル1のアノード膜では下記(4)の反応が進行し、親水性濾過膜では下記(1)の反応が進行し、カソード膜では下記(6)の反応が進行する。
2H
2O→O
2+4H
++4e
- ・・・(4)
HCO
3
-+H
+→CO
2+H
2O ・・・(1)
CO
2+H
2O+2e
-→HCOO
-+OH
- ・・・(6)
燃料電池20のアノードでは下記(8)の反応が進行し、カソードでは下記(9)の反応が進行する。
HCOO
-+3OH
-→CO
3
2-+2H
2O+2e
- ・・・(8)
O
2+2H
2O+4e
-→4OH
- ・・・(9)
【0050】
燃料電池20において、アノードでは、ギ酸イオンと水酸化物イオンとを反応させ炭酸イオン、水、及び電子を生成する。カソードでは、前記アノードで生成した電子及び水と酸素とを反応させ水酸化物イオンを生成する。カソードには酸素源として加湿された空気が供給される。空気の代わりに高濃度の酸素を供給してもよく、被還元性物質として過酸化水素を供給してもよい。過酸化水素を供給した場合には下記(10)の反応が進行する。
H
2O
2+2e
-→2OH
- ・・・(10)
図6は、pHによる水溶液中のCO
2の状態を表すグラフである。
図6に示すように、炭酸イオンはpHに依存して重炭酸イオンに変化する。アノードで生成した炭酸塩水溶液は酸性のCO
2を吸収することによってpHが中性付近となり、重炭酸塩水溶液に変換される。これを電解セルのカソード側から供給することで、空気中のCO
2を削減できる。
このように、本発明のシステムによれば、本発明の電解セルで製造したギ酸を、ギ酸イオンを燃料とする直接ギ酸塩形燃料電池に供給して発電し、前記直接ギ酸塩形燃料電池から排出される廃液に含まれる炭酸イオンを重炭酸イオンに変換して、前記電解セルで再利用することで、CO
2を排出することなくエネルギーを有効に利用できる。
【0051】
本発明の電解セルは、有用な化合物を穏和な条件で選択性高く、効率的かつ経済的な方法で製造し、従来の触媒プロセスが抱える問題点を克服することの可能な電解セルである。また、本発明の電解セルを用いて、ギ酸を穏和な条件で選択性高く、効率的かつ経済的に製造することができる。特に、本発明の電解セルを用いて、水と重炭酸イオンとからギ酸を製造することにより、従来の製造法における高いエネルギー消費量等の問題点を解決することができる。
【0052】
さらに、本発明の電解セルにおいては、親水性濾過膜を備えるため、水素の副生を抑制し、且つセル抵抗を大きくしすぎることなく電気エネルギー消費を低減することができる。本発明によれば、下記実施例に示すように、本発明の電解セルを用いることで、水と重炭酸イオンとからギ酸を高選択的に製造することができる。
また、本発明の電解セルは、従来のガス供給型のCO2電解セルの問題、すなわち、高いセル抵抗、低い炭素利用効率、及び長時間反応における不安定性の問題を解決し、高選択的なギ酸の製造を実現することができる。
【実施例0053】
以下、実施例及び比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。当業者は、以下に示す実施例のみならず様々な変更を加えて実施することが可能であり、かかる変更も本特許請求の範囲に包含される。
【0054】
[製造例1]
製造例1では
図1及び2に示す電解セルを用いて、ギ酸の製造を行った。電解セルとして、アノード膜3、プロトン交換膜4、親水性濾過膜5、及びカソード膜6を一体化させたユニット膜を製造した。アノード膜3の外側にサーペンタイン流路を有するフロープレート7を、カソード膜6の外側に格子溝を有するフロープレート8を設け、さらにその外側に金めっきした銅板からなる集電体9、10を設け、さらにその外側にステンレスからなるエンドプレート11、12を設けた。エンドプレート11、12の外側からボルトで締め付けて固定した。ボルトは2.0N・mのトルクで締め付けた。アノード側のエンドプレート11には、水を供給するための供給口13Aと、酸素を排出する排出口13Bを設けた。カソード側のエンドプレート12には、重炭酸塩水溶液を供給するための供給口14Aと、生成したギ酸水溶液を排出する排出口14Bを設けた。集電体9、10にはリード線が接続され、フロープレート、集電体、及びリード線を介してアノードとカソードを電源に接続した。
【0055】
アノード膜3、プロトン交換膜4、親水性濾過膜5、及びカソード膜6の作製方法は以下の通りである。
【0056】
アノード膜3は以下の手順で調製した。多孔質支持体には、カーボンペーパーSigracetGDL39BC(SGLカーボンジャパン株式会社、厚さ0.32mm)を用いた。まず、IrO2粉末(田中貴金属工業、Ir75%)0.2gをエタノール8mLに入れ、ボールミルを用いて500rpmで3時間粉砕した。続いて、得られた粉末1.1mgと1-プロパノール1.2mL、2-プロパノール7.2mLを加えて超音波撹拌した。この混合液に5wt%ナフィオン分散液(富士フイルム和光純薬株式会社)を300μL加え、再度超音波撹拌して触媒インクを調製した。得られた触媒インクを、触媒担持量が1mg/cm2となるようにカーボンペーパーのマイクロポーラス層面にスプレーコートし、一晩乾燥させてアノードとした。
【0057】
プロトン交換膜4は、パーフルオロスルホン酸(PFSA)系高分子膜であるNafion NR212(ケマーズ社、厚さ50μm)を用いた。
【0058】
親水性濾過膜は、セルロース混合エステルメンブレンフィルター(メルク・ミリポア社、厚さ0.14mm、空隙率84%、孔径8μm)を2cm角に切り出したものを用いた。
【0059】
カソード膜6は、以下の手順で作製した。
多孔質支持体にはカーボンペーパーSigracetGDL39AA(SGLカーボンジャパン株式会社、厚さ0.28mm、空隙率80%)を用いた。まず、硝酸ビスマス五水和物(富士フイルム和光純薬株式会社、純度99.9%)を0.80g量り取り、0.5mol/L硝酸を加えて50mLとし、10分間超音波撹拌して電解液を調製した。次に、作用極に縦4.0cm及び横2.0cmに切断したカーボンペーパーの下端から2.0cmまでを電解液に浸し、電流密度-32mA(-8mA/cm2)の定電流を5分間流すことで金属ビスマス触媒をカーボンペーパーの表面上に電解析出させた。その後イオン交換水で洗浄し、80℃で10分間乾燥させ、親水性のカソード膜6を得た。またその後にPTFE分散液(FUELCELLStore)を80μLドロップキャストし、乾燥器を用いて250℃で30分間の加熱を行うことで疎水性のカソード膜6を得た。
【0060】
上記アノード膜3、プロトン交換膜4、親水性濾過膜5、及びカソード膜6を重ね合わせてユニット膜とした電解セルを用いて以下のようにして反応を行った。カソード膜6に常圧下、所定の流量で重炭酸塩水溶液を供給した。アノード膜3に常圧下、所定の流量で純水を供給し、電気化学測定装置(Ivium社、Vertex1A)を用いて電流密度を所定の値に制御して、室温(25℃付近)にて反応を行った。電解セルを循環している水溶液を30分ごとに1mL採取し、生成したギ酸イオンの濃度をイオンクロマトグラフ分析装置(メトローム社、EcoIC)で定量した。気体成分はガスクロマトグラフ分析装置(株式会社島津製作所、GC8A)で定量した。
この間、アノード膜3とカソード膜6との間に外部から印可された電圧を、電気化学測定装置を用いて測定した。また、流れた電流値をもとにしてギ酸生成のファラデー効率を下記の式によって求めた。
ファラデー効率(%)=ギ酸生成量(mol)×2×96485(C/mol)×100/通過電気量(C)
式中の通過電気量(C)とは、電流値(A)に時間(s)を掛け合わせた値である。電流値は、電流密度(mA/cm2)にカソード膜の幾何面積(cm2)を掛け合わせた値である。
同様にして、副生成物である水素及び、一酸化炭素のファラデー効率を算出した。
【0061】
[実施例1]
疎水性のカソード膜を用いた場合と、親水性のカソード膜を用いた場合との、ギ酸のファラデー効率を比較した。
格子溝フロープレートを用い、3mol/LのKHCO
3水溶液の流量を32mL/分とし、電流密度は100mA/cm
2とし、反応時間は1時間として、試験を行った。
図7は、疎水性のカソード膜を用いた場合と、親水性のカソード膜を用いた場合との、ギ酸のファラデー効率を比較したグラフである。
通常、CO
2電解セルにおけるカソード膜としては疎水性のものを使用するが、疎水性のカソード膜用いた場合、
図7の左側のグラフのようにギ酸のファラデー効率が10%未満であった。一方、親水性のカソード膜用いた場合、
図7の右側のグラフのようにギ酸のファラデー効率が90%以上であった。従来技術の電解セルでは、ギ酸のファラデー効率が最大でも60%であったが、親水性のカソード膜を用いることでギ酸のファラデー効率を大幅に改善できることが分かった。これは、親水性のカソードを用いることにより、重炭酸イオンを親水性濾過膜に供給しやすくなるためと考えられる。
【0062】
[実施例2]
親水性のカソード膜を用いた場合における、親水性濾過膜を設けない場合と、設けた場合との、ギ酸のファラデー効率を比較した。
格子溝フロープレートを用い、3mol/LのKHCO
3水溶液の流量を32mL/分とし、電流密度は100mA/cm
2とし、反応時間は1時間として、試験を行った。
図8は、親水性のカソード膜を用いた場合における、親水性濾過膜を設けない場合と、設けた場合との、ギ酸のファラデー効率を比較したグラフである。
親水性濾過膜を設けずにプロトン交換膜とアノード膜とを密着させた場合、
図8の左側のグラフのようにギ酸のファラデー効率が45%程度であった。一方、プロトン交換膜とアノード膜との間に親水性濾過膜を設けた場合、
図8の右側のグラフのようにギ酸のファラデー効率が90%以上であった。これらの結果から、親水性濾過膜をプロトン交換膜とアノード膜との間に設けることにより、ギ酸のファラデー効率を改善できることが分かった。これは、親水性濾過膜を用いることにより、カソードのプロトン濃度が減少したため、プロトンと電子との反応よりも早くプロトンと重炭酸イオンとの反応が進行しやすくなるためと考えられる。
【0063】
[実施例3]
フロープレートとして、サーペンタイン流路を用いた場合と格子溝流路を用いた場合との、ギ酸及びその他生成物のファラデー効率と生成速度を比較した。
それぞれのフロープレートを用い、3mol/LのKHCO
3水溶液の流量を4mL/分とし、電流密度は100mA/cm
2とし、反応時間は1時間として、試験を行った。
図9Aは、(a)カソード側のフロープレートとしてのサーペンタイン流路の一例を示す斜視図であり、(b)カソード側のフロープレートとしての格子溝流路の一例を示す斜視図である。
図9Bは(c)サーペンタイン流路を用いた場合と格子溝流路を用いた場合との、ギ酸のファラデー効率を比較したグラフであり、(d)サーペンタイン流路を用いた場合と格子溝流路を用いた場合との、生成物の生成速度を比較したグラフである。
カソード側のフロープレートとしてのサーペンタイン流路を用いた場合、
図9B(c)の左側のグラフのように、ギ酸のファラデー効率は約70%であった。また、格子溝流路を用いた場合、
図9B(c)の右側のグラフのように、ギ酸のファラデー効率は約80%であった。格子溝流路を用いた場合、重炭酸イオンをプロトン交換膜に速やかに供給することができ、プロトン交換膜におけるプロトンと重炭酸イオンとの反応を促進したためと考えられる。
カソード側のフロープレートとしてサーペンタイン流路を用いた場合と、格子溝流路を用いた場合との、各生成物の生成速度を比較すると、
図9B(d)の左側のグラフのように、サーペンタイン流路を用いた場合より、
図9B(d)の右側のグラフのように、格子溝流路を用いた場合の方が、水素の生成速度が小さく、且つギ酸の生成速度が大きいことが分かった。従来のガス供給型のCO
2電解セルを用いた場合には未反応のCO
2排出量が多かったが、本試験のいずれの流路を用いた場合においても、CO
2の排出量が少なかった。この結果から、本試験で用いた電解セル内部で発生したCO
2(上記式(1)の反応により生成したCO
2)のほとんど(約80%)が、ギ酸製造のための原料として用いられ、炭素の利用効率に優れることが分かった。
【0064】
[実施例4]
フロープレートとして、サーペンタイン流路を用いた場合と格子溝流路を用いた場合に、重炭酸塩水溶液の流量を変更した場合の、ギ酸及びその他生成物のファラデー効率を比較した。
それぞれのフロープレートを用い、3mol/LのKHCO
3水溶液の流量を4、16、及び32mL/分とし、電流密度は100mA/cm
2とし、反応時間は1時間として、試験を行った。
図10は、(a)カソード側のフロープレートとしてサーペンタイン流路を用いた場合に、重炭酸塩水溶液の流量を変更した場合の、ギ酸及びその他生成物のファラデー効率を比較したグラフであり、(b)カソード側のフロープレートとして格子溝流路を用いた場合に、重炭酸塩水溶液の流量を変更した場合の、ギ酸及びその他生成物のファラデー効率を比較したグラフである。
図10(a)に示す通り、カソード側のフロープレートとしてサーペンタイン流路を用いた場合のギ酸のファラデー効率は、重炭酸塩水溶液の流量を大きくすると向上することが分かった。同様に、
図10(b)に示す通り、カソード側のフロープレートとして格子溝流路を用いた場合のギ酸のファラデー効率もまた、重炭酸塩水溶液の流量を大きくすると向上することが分かった。これは、プロトン交換膜から供給されたプロトンと反応するために充分な量の重炭酸イオンを、親水性濾過膜に速やかに供給できたために、電解セル内部でCO
2が効率的に発生し、CO
2の還元反応によるギ酸の生成が促進されたためと考えられる。
また、
図10(a)及び(b)に示す通り、重炭酸塩水溶液の流量が大きい方が、水素の副生を抑制できたことが分かった。これは、プロトン交換膜から供給されたプロトンが、親水性濾過膜に供給された充分量の重炭酸イオンと速やかに反応することで、カソードへのプロトンの供給が抑制され、これによりカソードでプロトンと電子との反応による水素生成の副反応が抑制されたためと考えられる。
【0065】
[実施例5]
電流密度を変更した場合の、ギ酸及びその他生成物のファラデー効率を比較した。
格子溝フロープレートを用い、3mol/LのKHCO
3水溶液の流量を32mL/分とし、電流密度は50、100、200、及び300mA/cm
2とし、反応時間は1時間として、試験を行った。
図11は、電流密度を変更した場合の、ギ酸及びその他生成物のファラデー効率を示すグラフである。
電流密度50mA/cm
2、及び100mA/cm
2の場合において、ギ酸のファラデー効率が90%以上であった。電流密度200mA/cm
2、及び300mA/cm
2の場合においても、ギ酸のファラデー効率80%以上を維持していた。これらの結果から、電流密度を変更した場合であっても、従来よりも高い選択率でギ酸を生成できることが分かった。
【0066】
[実施例6]
ガス拡散電極を有する従来のガス供給型CO
2電解セルと、本発明の電解セルとの、ギ酸のファラデー効率を比較した。
従来のガス供給型CO
2電解セルとしては、ガス流通室、カソード室、アノード室からなる3室セルを用い、ガス流通室におけるCO
2ガスの流量を50mL/分、カソード室における3mol/LのKHCO
3水溶液の流量を4mL/分とした。本発明の電解セルでは、3mol/LのKHCO
3水溶液の流量を32mL/分とした。いずれも、電流密度は100mA/cm
2とし、反応時間は1時間として、試験を行った。
図12は、ガス拡散電極を有する従来のガス供給型CO
2電解セルと、本発明の電解セルとの、ギ酸及びその他生成物のファラデー効率を比較したグラフである。
ガス拡散電極を有する従来のガス供給型CO
2電解セルと、本試験における本発明の電解セルとのファラデー効率を比較すると、
図12の右側のグラフのようにガス拡散電極を有する従来のガス供給型CO
2電解セルのファラデー効率と、本試験における本発明の電解セルのファラデー効率とは、ほぼ同等であり、同等の選択率でギ酸を生成できることが分かった。
【0067】
[実施例7]
3mol/LのKHCO
3水溶液を用い、100mA/cm
2の電流密度で30時間反応させた際の、電解セルの耐久性を確認した。
格子溝フロープレートを用い、アノード膜の酸素発生触媒として酸化イリジウムを用い、アノード膜には純水を供給した。カソード膜側から供給する電解液の流量は32mL/分とし、重炭酸イオンの濃度は3mol/Lとした。なお、電解液は新しい3mol/Lの重炭酸塩水溶液を連続的に供給するのではなく、循環させて用いた。具体的には、
図3(b)に示すように、カソード側に3mol/LのKHCO
3水溶液を貯めたタンクを設け、タンク内の水溶液を電解セル供給し、生成したギ酸水溶液をタンク内に排出し、タンク内のギ酸水溶液を含む重炭酸塩水溶液を再び電解セルに供給した。一定時間経過後のタンク内のギ酸濃度を測定することで、ギ酸の生成量を特定できるよう設計した。電流密度は100mA/cm
2とし、反応時間は30時間として、試験を行った。
図13は、3mol/LのKHCO
3水溶液を用い、100mA/cm
2の電流密度で30時間反応させた際の、ギ酸のファラデー効率及びセル電圧を示すグラフである。
図13に示す通り、30時間にわたって一定のセル電圧(3.1V)でギ酸を製造し続けることができることが分かった。従来のガス供給型CO
2電解セルでは、ガス拡散電極の疎水性の低下によってカソード室の電解液がガス拡散電極に浸透するフラッディング現象や、フロープレートへの炭酸塩の析出などによってCO
2ガスの供給が阻害されるため、長時間のCO
2還元反応を安定して進行できない課題があった。本発明の電解セルではこのような問題が生じないため、長時間反応においても高い安定性を示すことができる。ファラデー効率についても80%以上を維持していた。約10時間経過後からファラデー効率が90%台から80%台に低下しているようにも見えるが、これは、3mol/LのKHCO
3水溶液を循環させて使用したため、重炭酸イオンがギ酸の製造に用いられることでプロトン交換膜に供給される重炭酸イオンの量が減ったため、ファラデー効率が90%から80%に低下したものと推察される。これは、循環型ではなく、常に3mol/Lの重炭酸カリウム水溶液を供給する連続式とすることにより、ファラデー効率を90%に維持できる耐久性を有すると推察される。
【0068】
図14は、3mol/LのKHCO
3水溶液を用い、100mA/cm
2の電流密度で30時間反応させた際の、生成したギ酸水溶液におけるギ酸のモル濃度及び重量分率を表すグラフである。
本試験では、
図14に示す通り、3mol/LのKHCO
3水溶液から30時間後に2mol/Lのギ酸水溶液を製造することができた。重炭酸イオンの転化率としても約70%であり、炭素源である重炭酸イオンの大部分をギ酸に変換できたことが分かった。得られた水溶液のギ酸の重量分率は9wt%であり、循環型とすることによりギ酸を高濃度で蓄積できることも分かった。
【0069】
[実施例8]
本発明の電解セルと、従来技術の電解セルとの、触媒の種類、ギ酸のファラデー効率、及び100mA/cm
2の電流密度におけるセル電圧を比較した。
従来技術の電解セルの触媒の種類、ギ酸のファラデー効率、及びセル電圧としては、文献に記載の値を採用した。本発明の電解セルとしては、実施例7と同様の条件でギ酸を製造するものを採用した。
図15は、本発明の電解セルと、従来技術の重炭酸塩電解セルとの、触媒の種類、ギ酸のファラデー効率、及び100mA/cm
2におけるセル電圧を比較した表である。
本発明の電解セルと、従来技術の重炭酸塩電解セルとを比較すると、本願発明の電解セルは従来技術よりもはるかに高い選択率でギ酸を製造することができ、従来技術では100mA/cm
2にて4V程度必要だったセル電圧を100mA/cm
2にて3V程度にまで抑制できることが分かった。従来技術ではバイポーラ膜が用いられていたのに対して、本研発明ではプロトン交換膜を用いたことによってセル電圧が大幅に低下した。
本発明によれば水素の副生を抑制し、エネルギーキャリアとして有用且つエネルギー効率に優れるギ酸製造のための電解セル、これを用いるギ酸の製造方法、得られたギ酸を用いる燃料電池、及びその製造方法を提供することができる。