(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025001881
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】放射性同位体の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
G21G 4/08 20060101AFI20241226BHJP
G21K 1/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
G21G4/08
G21K1/00 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023101624
(22)【出願日】2023-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯原 勝
(72)【発明者】
【氏名】岡部 寛史
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄生
(72)【発明者】
【氏名】早川 敦郎
(57)【要約】
【課題】アスタチン同位体をはじめとする揮発性の放射性同位体を効率的に製造することのできる放射性同位体の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】ターゲットを加熱し、放射性同位体を加熱により蒸発させる蒸発工程と、蒸発した放射性同位体とエアロゾルとを混合する混合工程と、前記混合工程で混合した放射性同位体及びエアロゾルを捕集用フィルタで捕集する捕集工程と、前記捕集用フィルタを、超音波洗浄を用いて洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程で使用した洗浄液を回収する回収工程と、を具備した放射性同位体の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットを加熱し、放射性同位体を加熱により蒸発させる蒸発工程と、
蒸発した放射性同位体とエアロゾルとを混合する混合工程と、
前記混合工程で混合した放射性同位体及びエアロゾルを捕集用フィルタで捕集する捕集工程と、
前記捕集用フィルタを、超音波洗浄を用いて洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程で使用した洗浄液を回収する回収工程と、
を具備したことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の放射性同位体の製造方法であって、
前記回収工程が、吸引により前記捕集用フィルタを脱水する工程を含む
ことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項3】
ターゲットを加熱し、放射性同位体を加熱により蒸発させる蒸発工程と、
蒸発した放射性同位体とエアロゾルとを混合する混合工程と、
前記混合工程で混合した放射性同位体及びエアロゾルを捕集用フィルタで捕集する捕集工程と、
前記捕集用フィルタを、洗浄する洗浄工程と、
吸引により前記捕集用フィルタを脱水する工程を含み、前記洗浄工程で使用した洗浄液を回収する回収工程と、
を具備したことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の放射性同位体の製造方法であって、
前記洗浄工程では、前記捕集用フィルタに対して前記洗浄液を循環させる
ことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の放射性同位体の製造方法であって、
放射能計測器により、前記捕集用フィルタに捕集されている放射性同位体の量の変化、又は前記洗浄液に移行した放射性同位体の量の変化を検出し、前記洗浄工程における前記洗浄液の循環を停止する
ことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の放射性同位体の製造方法であって、
前記ターゲットは、ビスマスターゲットであり、アスタチン-211を製造する
ことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項7】
ターゲットを加熱し、放射性同位体を加熱により蒸発させるターゲット加熱炉と、
蒸発した放射性同位体と混合するためのエアロゾルを発生させるエアロゾル発生器と、
混合した放射性同位体及びエアロゾルを捕集用フィルタで捕集するフィルタ収容部と、
洗浄液を供給するとともに超音波振動を与えて前記捕集用フィルタを洗浄する洗浄機構と、
前記捕集用フィルタの洗浄を終えた前記洗浄液を回収する洗浄液回収部と、
を具備したことを特徴とする放射性同位体の製造装置。
【請求項8】
請求項7記載の放射性同位体の製造装置であって、
前記洗浄液回収部が、吸引により前記捕集用フィルタの脱水を行うポンプを有する
ことを特徴とする放射性同位体の製造方法。
【請求項9】
ターゲットを加熱し、放射性同位体を加熱により蒸発させるターゲット加熱炉と、
蒸発した放射性同位体と混合するためのエアロゾルを発生させるエアロゾル発生器と、
混合した放射性同位体及びエアロゾルを捕集用フィルタで捕集するフィルタ収容部と、
洗浄液を供給して前記捕集用フィルタを洗浄する洗浄機構と、
前記捕集用フィルタの洗浄を終えた前記洗浄液を回収し、且つ、吸引により前記捕集用フィルタの脱水を行うポンプを有する洗浄液回収部と、
を具備したことを特徴とする放射性同位体の製造装置。
【請求項10】
請求項9記載の放射性同位体の製造装置であって、
前記洗浄機構は、前記捕集用フィルタに対して前記洗浄液を循環させる循環ラインを有する
ことを特徴とする放射性同位体の製造装置。
【請求項11】
請求項10記載の放射性同位体の製造装置であって、
前記捕集用フィルタに捕集されている放射性同位体の量の変化、又は前記洗浄液に移行した放射性同位体の量の変化を検出する放射能計測器と、
前記放射能計測器からの測定信号に基づき洗浄の終了時期を判定し、前記洗浄機構による前記洗浄液の循環を停止して前記洗浄液回収部に前記洗浄液を回収するよう制御する制御用コンピュータと、
を具備したことを特徴とする放射性同位体の製造装置。
【請求項12】
請求項7乃至11の何れか1項に記載の放射性同位体の製造装置であって、
前記ターゲットは、ビスマスターゲットであり、アスタチン-211を製造する
ことを特徴とする放射性同位体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射性同位体の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がん治療において、アルファ線を用いたがん治療が注目されている。アルファ線は飛程が短いため、アルファ線を放射する薬剤を用いて、標的となるがん細胞を選択的に攻撃することができる。そのため、アルファ線を用いたがん治療では、正常細胞に対するダメージが小さいという利点がある。
【0003】
アルファ線を放射する薬剤として様々な放射性同位体が検討されている。特に、アスタチン-211は、半減期が短く、速やかに安定核種に崩壊することから、最も期待されている放射性同位体の1つである。その一方で半減期が7.2時間と短いために、分離に時間をかけてしまうと、生成したアスタチン-211が減少してしまう。
【0004】
このため、生成したアスタチン-211の迅速な分離方法が求められている。迅速かつ簡易な分離方法として、ターゲット材であるビスマスとの融点・沸点の差を利用した分離技術が知られている。しかし、この従来の分離技術では、回収部または搬送部である配管などの壁面にアスタチン-211が付着するため、有機溶剤またはアルカリ溶液などを用いて、付着したアスタチン-211を溶離または回収する必要がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、エアロゾルを用いた新たな分離技術を開発した。この新たな分離技術は、配管などの壁面へのアスタチン-211の付着を低減するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/195042号
【特許文献2】国際公開第2019/088113号
【特許文献3】国際公開第2019/112034号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E.Aneheim,“Automated astatination of biomolecules - a stepping stone towards multicenter clinical trials,”Science Reports,2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、アスタチン同位体をはじめとする揮発性の放射性同位体をガス化し、フィルタにて捕集した場合、フィルタから洗浄回収できない放射性同位体が存在し、放射性同位体の回収率が低くなるという課題がある。
【0009】
本発明は、上述した従来の事情に対処してなされたもので、その解決しようとする課題は、アスタチン同位体をはじめとする揮発性の放射性同位体を効率的に製造することのできる放射性同位体の製造方法及び製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る放射性同位体の製造方法は、ターゲットを加熱し、放射性同位体を加熱により蒸発させる蒸発工程と、蒸発した放射性同位体とエアロゾルとを混合する混合工程と、前記混合工程で混合した放射性同位体及びエアロゾルを捕集用フィルタで捕集する捕集工程と、前記捕集用フィルタを、超音波洗浄を用いて洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程で使用した洗浄液を回収する回収工程と、を具備したことを特徴とする。
【0011】
本発明の実施形態に係る放射性同位体の製造装置は、ターゲットを加熱し、放射性同位体を加熱により蒸発させるターゲット加熱炉と、蒸発した放射性同位体と混合するためのエアロゾルを発生させるエアロゾル発生器と、混合した放射性同位体及びエアロゾルを捕集用フィルタで捕集するフィルタ収容部と、洗浄液を供給するとともに超音波振動を与えて前記捕集用フィルタを洗浄する洗浄機構と、前記捕集用フィルタの洗浄を終えた前記洗浄液を回収する洗浄液回収部と、を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態により、アスタチン同位体をはじめとする揮発性の放射性同位体を効率的に製造することのできる放射性同位体の製造方法及び製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る放射性同位体の製造方法を示すフロー図。
【
図2】第1実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図。
【
図3】第1実施形態に係るエアロゾル成分洗浄回収率を従来技術と比較して示すグラフ。
【
図4】第2実施形態に係る放射性同位体の製造方法を示すフロー図。
【
図5】第2実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図。
【
図6】第2実施形態に係るKCl洗浄回収率と脱水率との関係を示すグラフ。
【
図7】第3実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図。
【
図8】第4実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態に係る放射性同位体の製造方法及び製造装置について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施形態)
先ず、第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係る放射性同位体の製造方法の工程を示すフロー図であり、
図2は、第1実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図である。
【0016】
図2に示すように、第1実施形態に係る放射性同位体の製造装置は、キャリアガスボンベ1、キャリアガス流量調整弁2、差圧計3、エアロゾル発生器4、放射性同位体含有ターゲット加熱炉5、フィルタ収容部6、洗浄液貯留部7、洗浄液回収部8、超音波洗浄装置9、電磁弁10a、10b、制御用コンピュータ11を具備している。制御用コンピュータ11は、電磁弁10a、10bの切り替え動作、超音波洗浄装置9の作動・停止等を予め設定されたプログラムに基づいて自動で制御する。
【0017】
この装置では、キャリアガスボンベ1、キャリアガス流量調整弁2、差圧計3により、乾燥したキャリアガス、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスをエアロゾル発生器4に流し込む。エアロゾル発生器4内には、エアロゾル源となる物質、例えば、KCl、NaCl、NaOH等の固体を設置し、塩の融点付近まで加熱することで昇華した成分と導入したキャリアガスが接触し、温度の変化により昇華成分が析出することでエアロゾル化する。エアロゾルは、例えば、粒径が1nm程度から1mm程度の粒子である。このようにして発生したエアロゾルを含むキャリアガスを放射性同位体含有ターゲット加熱炉5に導入する。このように、放射性同位体とエアロゾルとを混合し、エアロゾルに放射性同位体が付着することにより、放射性同位体の輸送中に放射性同位体が配管に付着することによって失われる量を低減することができる。また、放射性同位体が捕集用フィルタにより捕集されやすい形態となる。
【0018】
図1に示すように、第1実施形態では、先ず、放射性同位体含有ターゲット加熱炉5において、アスタチン-211などの揮発性放射性同位体を含むターゲットを加熱し、ターゲット中に存在する放射性同位体を蒸発させガス化する(101)。放射性同位体含有ターゲット加熱炉5では、例えば、ビスマスターゲット等に、加速されたヘリウムイオン(アルファ線)を照射し、図示しない加熱機構によって、ビスマスターゲットを所定温度、例えばアスタチンの沸点である337℃以上の温度、且つ、ビスマスターゲットの沸点以下の温度例えば500℃程度に加熱する。これによって、アスタチン-211をガス化し、ビスマスターゲットと分離する。
【0019】
次に、ガス化したアスタチン-211等の放射性同位体を、エアロゾル発生器4において発生させたエアロゾルと混合してこれに付着させる(102)。そして、キャリアガスボンベ1からのキャリアガスの流れで放射性同位体及びエアロゾルを運び、その下流側に設置されたフィルタ収容部6に装着された捕集用フィルタにて捕集する(103)。なお、フィルタ収容部6に装着された捕集用フィルタとしては、例えば、ガラス繊維などからなるフィルタを使用することができる。
【0020】
図2に示す装置において、洗浄液貯留部7には、洗浄液が貯留されており、上記した捕集用フィルタによる捕集の工程では、洗浄液貯留部7は、電磁弁10aにより切り離されている。捕集が完了した段階で、予め時間設定などでプログラムされた制御用コンピュータ11によって電磁弁10aを洗浄液貯留部7側に切り替え、電磁弁10bを閉じて、洗浄液貯留部7から洗浄液をフィルタ収容部6に流し込む。そして、制御用コンピュータ11により、超音波洗浄装置9を遠隔起動し、超音波洗浄を行う(104)。この超音波洗浄により捕集用フィルタに捕集されたエアロゾル及び放射性同位体を離脱させる。
【0021】
上記の洗浄工程が終了すると、制御用コンピュータ11により超音波洗浄装置9を遠隔停止し、電磁弁10bを開けてフィルタ収容部6内の洗浄液を、洗浄液回収部8内に導入し、洗浄液中に含まれる放射性同位体を回収する(105)。
【0022】
以上のように、本実施形態では、フィルタ収容部6内の捕集用フィルタに捕集されたエアロゾル及び放射性同位体を離脱させる洗浄を行う際に、超音波洗浄装置9から洗浄液に超音波を供給して超音波洗浄を行う。これによって従来、捕集用フィルタに捕集されたままで洗浄による離脱が困難であったエアロゾル及び放射性同位体を効率良く離脱させることができ、その回収率を向上させることができる。
【0023】
図3のグラフは、実際にKClのエアロゾルを含むガスを捕集用フィルタに1時間通流させエアロゾルを捕集させた後、所定時間洗浄を行った際の洗浄液中のカリウムイオン濃度をイオンメータで測定してエアロゾル成分洗浄回収率(%)を求めた結果を示している。
図3中左側が超音波を使用せずに洗浄した場合を示しており、右側が超音波を使用して洗浄した場合を示している。超音波洗浄は、28kHz、45kHz、100kHzの複数のパターンの周波数を3秒ずつ順に合計3分間行った。夫々の試験は、複数回実施し、得られた測定結果の範囲を四角のエリアで示している。
【0024】
図3に示すように、超音波を使用せずに洗浄した場合、エアロゾル成分洗浄回収率は、78%以下の範囲であった。一方、超音波を使用して洗浄した場合、エアロゾル成分洗浄回収率は、86%以上を安定して達成した。このように、超音波洗浄を使用することによって超音波振動により、捕集用フィルタの繊維中に入り込んだ捕集物が接液し易くなり、洗浄液の回収率を向上させることができ、洗浄液に含まれる放射性同位体の回収率を向上させることができる。
【0025】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。
図4は、第2実施形態に係る放射性同位体の製造方法の工程を示すフロー図であり、
図5は、第2実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図である。
【0026】
図5に示すように、第2実施形態に係る放射性同位体の製造装置は、キャリアガスボンベ1、キャリアガス流量調整弁2、差圧計3、エアロゾル発生器4、放射性同位体含有ターゲット加熱炉5、フィルタ収容部6、洗浄液貯留部7、洗浄液回収部8、ポンプ9a、9b、電磁弁10a、10b、制御用コンピュータ11を具備している。制御用コンピュータ11は、電磁弁10a、10bの切り替え動作、ポンプ9a、9bの作動・停止等を予め設定されたプログラムに基づいて自動で制御する。
【0027】
図4に示すように、第2実施形態に係る放射性同位体の製造方法では、
図1に示した第1実施形態と同様に、先ず、放射性同位体含有ターゲット加熱炉5において、アスタチン-211などの揮発性放射性同位体を含むターゲットを加熱し、ターゲット中に存在するアスタチン-211などの放射性同位体を蒸発させガス化する(201)。
【0028】
次に、ガス化した放射性同位体を、エアロゾル発生器4において発生させたエアロゾルと混合してこれに付着させ(202)、キャリアガスボンベ1からのキャリアガスの流れで運び、その下流側に設置されたフィルタ収容部6に装着された捕集用フィルタにて捕集する(203)。
【0029】
次に、捕集が完了した段階で、予め時間設定などでプログラムされた制御用コンピュータ11によって電磁弁10aを洗浄液貯留部7側に切り替え、電磁弁10bを閉じて、洗浄液貯留部7から洗浄液をフィルタ収容部6に流し込み洗浄を行う(204)。この洗浄により捕集用フィルタに捕集されたエアロゾル及び放射性同位体を離脱させる。なお、この洗浄工程では、第1実施形態と同様に超音波洗浄を用いても良い。
【0030】
上記の洗浄工程が終了すると、制御用コンピュータ11により、電磁弁10bを開けてフィルタ収容部6内の洗浄液を洗浄液回収部8内に導入するとともに、ポンプ9bを作動させてフィルタ収容部6から吸引することによって捕集用フィルタの吸引脱水を行い洗浄液及び洗浄液中に含まれる放射性同位体を回収する(205)。
【0031】
なお、
図5に示す例では、洗浄液貯留部7側にもポンプ9aが設けられている。このポンプ9aを、洗浄液貯留部7からフィルタ収容部6に洗浄液を流し込む際に作動させて、洗浄液をフィルタ収容部6内に押し込むように作用させ、洗浄効率を向上させることもできる。
【0032】
以上のように第2実施形態では、フィルタ収容部6内の洗浄液を洗浄液回収部8内に回収する際に、吸引脱水を行うことによって、洗浄液の回収率を向上させることができ、この洗浄液に含まれるアスタチン-211等の放射性同位体の回収率を向上させることができる。
【0033】
図6のグラフは、エアロゾル成分である「KClの回収率(%)」と、「脱水率(%)=回収液量/添加液量」との関係を調べた結果を示すものである。
図6のグラフに示されるように、脱水率が低い条件ではKClの洗浄回収率も低下している。これは、一定の水量がフィルタに残存することにより回収ロスが生じているためで、この残存水を減らすことで回収率を向上させることができる。
【0034】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。
図7は、第3実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図である。この第3実施形態は、
図5に示した第2実施形態の変形例に関するものであり、第2実施形態と対応する部分には、同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0035】
この第3実施形態では、電磁弁10aとフィルタ収容部6との間に電磁弁10cが設けられ、電磁弁10bとポンプ9bとの間に電磁弁10dが設けられている。そして、電磁弁10cと電磁弁10dとの間には、循環ライン12が設けられており、この循環ライン12にはポンプ9cが介挿されている。本第3実施形態では、制御用コンピュータ11は、電磁弁10a、10b、10c、10dの切り替え動作、ポンプ9a、9b、9cの作動・停止等を予め設定されたプログラムに基づいて自動で制御する。
【0036】
上記構成の第3実施形態では、循環ライン12によって洗浄液をフィルタ収容部6に循環させることができ、これによって同じ洗浄液量で、洗浄液と捕集用フィルタとの接液時間を長くすることができ、洗浄液濃度の低下を招くこと無く、放射性同位体の回収率を向上させることができる。
【0037】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。
図8は、第4実施形態に係る放射性同位体の製造装置の概略構成を模式的に示す図である。この第4実施形態は、
図7に示した第3実施形態の変形例に関するものであり、第3実施形態と対応する部分には、同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0038】
この第4実施形態では、フィルタ収容部6内の放射能を計測するための放射能計測器13が設けられており、この放射能計測器13の測定信号が制御用コンピュータ11に入力されるように構成されている。本第4実施形態においても、前述した第3実施形態と同様に、制御用コンピュータ11は、電磁弁10a、10b、10c、10dの切り替え動作、ポンプ9a、9b、9cの作動・停止等を予め設定されたプログラムに基づいて自動で制御する。
【0039】
上記構成の第4実施形態では、洗浄液を循環させた際の放射能計測器13で観測された放射能の変化割合から循環洗浄の終了を判定し、電磁弁10cおよび電磁弁10dの開閉、ポンプ9cの停止、ポンプ9bの起動を制御用コンピュータ11で行い、放射性同位体を自動的に分離回収する。なお、放射能計測器13による放射能の測定は、フィルタ収容部6内の捕集用フィルタに捕集されている放射性同位体からの放射能の変化を測定しても良く、洗浄液回収部等において洗浄液に移行した放射性同位体からの放射能の変化を測定しても良い。
【0040】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1……キャリアガスボンベ、2……キャリアガス流量調整弁、3……差圧計、4……エアロゾル発生器、5……放射性同位体含有ターゲット加熱炉、6……フィルタ収容部、7……洗浄液貯留部、8……洗浄液回収部、9……超音波洗浄装置、9a,9b,9c……ポンプ、10a,10b,10c,10d……電磁弁、11……制御用コンピュータ、12……循環ライン、13……放射能計測器。