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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025018905
(43)【公開日】2025-02-06
(54)【発明の名称】拡管治具及び拡管方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 53/08 20060101AFI20250130BHJP
   B21D 39/20 20060101ALI20250130BHJP
【FI】
B21D53/08 J
B21D39/20 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024045194
(22)【出願日】2024-03-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2023122683
(32)【優先日】2023-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】523286314
【氏名又は名称】株式会社BABAエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 芳広
(57)【要約】
【課題】位置調整された熱交換チューブの先端部を確実に把持して拡管でき、拡管終了の拡管ビレットの抜き出しが簡単な拡管治具を提供する。
【解決手段】拡管治具10は、拡管ビレット18a付きマンドレル18bに外挿した筒状体20aの先端部の複数の把持片20bが弓状に反り、把持片20b間のスリット21が長穴20eと幅狭の開口部20fから先端方向に徐々に拡幅する扇状スリット部20gであるチャックスリーブ20と、チャックスリーブ20のスリット21全体を縮幅して把持片20bの各々を筒状に拘束し又は解除方向に摺動するスライドスリーブ22とを有し、先端部14aが挿入された把持片20bがスライドスリーブ22により筒状に拘束されることにより、位置調整された熱交換チューブ14に拡管ビレット18aが挿入されて拡管されたとき把持片20bの各内壁面の凸条20hの先端部のみが拡管部分の内径を縮径せずに外周面に食い込み把持する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の放熱フィンが積層されたフィン層を貫通して、前記フィン層から先端部及び後端部が突出する熱交換チューブを、その長手方向の収縮を防止できるように前記先端部及び前記後端部を把持して拡管し、前記放熱フィンの各々と一体化する拡管治具であって、
前記後端部が把持された前記熱交換チューブの先端部から挿入されて、前記熱交換チューブを拡管する拡管ビレットが先端に接続され、後端が前記拡管ビレットを前記熱交換チューブに挿脱する方向に移動可能に設けられた圧入手段に接続されているマンドレルと、
前記マンドレルに摺動自在に外挿された筒状体であって、前記熱交換チューブの先端部が挿入される前記筒状体の先端部が分割されて形成された複数の把持片は、その有するバネ力により前記筒状体の外側面方向に弓状に反っており、前記把持片間のスリットが前記筒状体の後端側の周面に開口する内壁が曲面の穴部と前記穴部の横幅よりも幅狭の開口部から前記筒状体の先端方向に徐々に拡幅する扇状スリット部とから成り、且つ前記把持片の内壁面の各々から前記筒状体の内方に突出する凸部が形成されているチャックスリーブと、
前記チャックスリーブの外周面に沿って摺動自在に外挿され、前記チャックスリーブの前記把持片間の前記スリットの全体を縮幅して前記把持片の各々を筒状に拘束するように、前記把持片の各々を前記バネ力に抗して締め付ける方向に摺動し、又は前記拘束を解除する方向に摺動するスライドスリーブとを具備し、
前記凸部の前記把持片の内壁面からの突出長が、前記熱交換チューブの前記先端部が挿入された前記チャックスリーブの前記把持片の各々が前記スライドスリーブにより筒状に拘束されて、前記拡管ビレットとの軸芯が一致する方向に位置調整された前記熱交換チューブの前記先端部に前記拡管ビレットが挿入されて拡管された拡管部分の外周面に、前記拡管部分の内径を縮径することなく前記凸部の各先端部が食い込み、前記熱交換チューブの前記拡管部分を把持する把持部が形成されたとき、前記把持片の前記凸部を除く各内壁面と前記拡管部分の外周面との間に空間部が形成される突出長であることを特徴とする拡管治具。
【請求項2】
前記チャックスリーブの前記スリットを構成する前記穴部が長穴部であって、前記長穴部の先端部に形成された前記扇状スリット部の開口部が前記長穴部の横幅よりも幅狭であり、前記把持部の拘束が解除されているとき、前記長穴部の横幅が前記開口部方向に徐々に拡幅されていることを特徴とする請求項1に記載の拡管治具。
【請求項3】
前記チャックスリーブの前記把持片の前記凸部が形成された部分が、その外面方向に前記筒状部の他部よりも肉厚の肉厚部に形成されており、前記肉厚部の後端に傾斜面が接続され、前記傾斜面及び前記肉厚部を含む全体が、その有するバネ力により前記筒状体の外側面方向に弓状に反っていることを特徴とする請求項1に記載の拡管治具。
【請求項4】
前記チャックスリーブの前記把持片の各内壁面に形成された凸部が凸条であり、前記スライドスリーブにより前記把持片の各々が筒状に拘束されたとき、前記凸条から成る環状凸条が形成されることを特徴とする請求項1に記載の拡管治具。
【請求項5】
前記環状凸条が複数本形成されていることを特徴とする請求項4に記載の拡管治具。
【請求項6】
前記スライドスリーブには、その途中の表面に開口された内壁面が曲面の孔部と、前記孔部に形成された開口から先端方向に、前記孔部よりも幅狭の幅狭スリット部とが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の拡管治具。
【請求項7】
複数枚のフィンが積層されたフィン層を貫通し、先端部及び後端部が前記フィン層から突出する熱交換チューブを、その長手方向の収縮を防止できるように前記後端部が把持された前記熱交換チューブの先端部を請求項1に記載の拡管治具を用いて把持して拡管し前記フィンの各々と一体化する熱交換チューブの拡管方法であって、
前記拡管治具を構成する前記チャックスリーブの先端部を形成する複数の前記把持片内に前記熱交換チューブの先端部を挿入し、
前記スライドスリーブを前記チャックスリーブの複数の前記把持片のバネ力に抗して前記把持片の上面側にスライドし、前記スリットの全体を縮幅して筒状に拘束し、前記熱交換チューブを前記拡管ビレットとの軸芯が一致する方向に位置調整した後、
前記拡管ビレットを前記熱交換チューブの先端部に挿入して拡管した拡管部分の外周面に、前記拡管部分の内径を縮径することなく前記凸部の先端部を食い込ませ、前記把持片の前記凸部を除いた各内壁面と前記拡管部分の外周面との間に空間部が形成された把持部を形成し、
引き続き、前記拡管ビレットを停止することなく前記先端部を前記把持部で把持した前記熱交換チューブの拡管を、前記熱交換チューブの後端部側方向に続行することを特徴とする熱交換チューブの拡管方法。
【請求項8】
前記熱交換チューブの拡管が完了した後、前記把持部で把持された状態の拡管した前記熱交換チューブから前記拡管ビレットを引き抜き、
次いで、前記スライドスリーブを前記チャックスリーブの複数の前記把持片の上面側からスライドし、複数の前記把持片を筒状とする拘束状態を解除して、前記把持片の各々が有するバネ力により前記筒状体の外側方向に弓状に反らせることにより、前記凸部の先端部が前記拡管部分の外周面に食い込んで形成された前記把持部による把持を解除することを特徴とする請求項7に記載の熱交換チューブの拡管方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換チューブの拡管に用いられる拡管治具及び拡管方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭用のルームクーラー等に使用されている熱交換器を製造する際に、複数枚の放熱フィンが積層されたフィン層を貫通する銅製の熱交換チューブを拡管して、放熱フィンと熱交換チューブとを一体化する拡管治具が用いられている。拡管治具を用いた熱交換チューブの拡管の際に、拡管に伴って発生する熱交換チューブの長手方向の収縮に因るフィン同士が密着するアベック現象が発生することがある。
最近では、省エネルギー等のために熱交換器の熱特性の向上と熱交換器の軽量化を図るべく、銅製の熱交換チューブの薄肉化が要請されている。薄肉化された銅製の熱交換チューブに拡管を施すと、通常厚の熱交換チューブを拡管した場合に比較して、長手方向の収縮が大きくなる。また、熱交換器の軽量化には、銅製の熱交換チューブに代えて、アルミニウム製の熱交換チューブを用いたい。しかし、アルミニウムは銅よりも熱伝導率が低いことから、アルミニウム製の熱交換チューブの熱特性を向上すべく、更なる薄肉化が要請されている。
【0003】
このように薄肉化された熱交換チューブの拡管の際に、拡管による熱交換チューブの収縮は、フィン層の最上プレートから突出している熱交換チューブの上端部及び最下プレートから突出している熱交換チューブの下端部を把持して拡管を施すことで防止可能であるが、熱交換チューブの下端部は拡管が施されない部分であるからレシバー等の把持治具により簡単に把持できる。しかし、拡管が施される熱交換チューブの先端部を把持して拡管を施すことは困難である。このような熱交換チューブの先端部を把持して拡管を施すことができる拡管治具が下記特許文献1に提案されている。
【0004】
特許文献1には、所定間隔を空けて積層された複数の伝熱フィンの挿通孔に挿通された状態の複数の伝熱管の軸方向の一端部を掴持する掴持部と、前記伝熱管の軸方向に移動することによって前記掴持部の周囲を覆う第1状態と前記掴持部の周囲を覆わない第2状態とが切り換わる移動部と、を有する伝熱管固定装置と前記伝熱管の軸方向の一端部側から前記伝熱管内に挿入されるマンドレルを有するマンドレル装置と、を備え、前記移動部は、ガイド孔が形成された板状部材であり、前記第1状態は、前記ガイド孔の内面が前記掴持部の周囲を覆う位置まで移動する状態であり、前記第2状態は、前記ガイド孔の内面が前記掴持部の周囲を覆わない位置まで移動する状態であり、前記移動部が前記第1状態にある状態で、前記マンドレルを前記伝熱管内に挿入して前記伝熱管を拡管することで、前記掴持部が前記伝熱管を軸方向に動かないように固定するとともに、前記伝熱フィンと前記伝熱管とを固定する伝熱管拡管装置が提案されている。この把持部が設けられた部材は、筒状体の先端部が分割されて形成された複数の掴持片が、その途中で筒状体の外方に放射状に湾曲され、掴持片間に先端方向に徐々に拡幅された扇状スリットが先端面に開口されているコレットチャックであって、把持片が把持部である。
【0005】
この伝熱管拡管装置によれば、一枚の板状部材により多数の伝熱管(熱交換チューブという)の先端部を同時に掴持して拡管を実施できる。しかし、ルームクーラー等は、近年、多品種少量生産に移行しており、その熱交換器のフィン層に挿通される熱交換チューブの配列や配置密度等も頻繁に変更されている。このような熱交換チューブの配列や配置密度等が変更される都度、変更される熱交換チューブの配列や密度等に適合する板状部材に変更しなければならず煩雑な交換作業を要する。
特許文献1で提案された一枚の板状部材により多数の熱交換チューブの先端部を同時に掴持して拡管を施す拡管治具に対して、熱交換器に用いられる熱交換チューブ毎に先端部を掴持して拡管を実施できる拡管治具が下記特許文献2及び下記特許文献3に提案されている。
【0006】
特許文献2に提案された拡管治具の一例の概略図を図9に示す。図9に示す拡管治具100が拡管する対象は、複数枚の所定高さのカラー付き透孔が形成された放熱フィン102が積層されたフィン層内のカラー付き透孔に挿通され、先端部104aがフィン層の最上プレート106から突出している熱交換チューブ104である。
尚、フィン層の最下プレートから突出している熱交換チューブ104の下端部は、レシバー等の把持治具(図示せず)により把持されている。
【0007】
この拡管治具100は、熱交換チューブ104を拡管して放熱フィン102の各々と一体化する拡管ビレット108aが先端に装着され、後端が拡管ビレット108aを熱交換チューブ104に挿脱する方向に移動可能に設けられた圧入手段(図示せず)に接続されているマンドレル108bとを具備する拡管マンドレル108と、拡管マンドレル108に摺動自在に外挿された筒状体112aであって、筒状体112aの先端部が分割されて形成された複数の掴持片112bが、その途中で筒状体112aの外方に放射状に湾曲され、掴持片112b,112bの間に形成されたスリット112cは、その筒状体112aの後端側に所定長の細幅スリット部112を残留させつつ、先端方向に徐々に拡幅された扇状スリット部に形成され、掴持片112bの内壁面に形成された筒状体112aの内方に突出する突出部112dに対応する部分の外面が傾斜面112eに形成されている掴持体112と、掴持体112の長手方向に摺動可能に外挿された筒体114とで構成されている。
【0008】
図9に示す拡管治具100を用いた熱交換チューブ104を拡管する拡管方法は、図10(a)に示す最上プレート106から突出する熱交換チューブ104の先端部104aの上方に位置する掴持体112を、図10(b)に示すように、その先端面が最上プレート106に当接するように降下し、熱交換チューブ104の先端部104aを掴持体112の複数の掴持片112bで囲む。次いで、図10(c)に示すように拡管マンドレル108を降下して熱交換チューブ104の先端部104aを含む部分を拡管ビレット108aにより拡管して拡管部104bとし、拡管マンドレル108の降下を停止する。拡管された拡管部104bと最上プレート106とは一体化される。更に、図10(d)に示すように、筒体114を掴持体112に沿って降下し、その先端部が掴持体112の傾斜面112eに乗り上げて、スリット112cの扇状スリット部を残留していた細幅スリット部と略同一幅に減幅する。その際に、掴持片112bの内壁面の突出部112dにより、拡管部104bを押圧して縮径したかしめ部104cを形成する。突出部112dとかしめ部104cとは、拡管マンドレル108の降下を再開して熱交換チューブ104のフィン層から突出する下端部に至るまで熱交換チューブ104を拡管する際に、熱交換チューブ104の把持部となり、熱交換チューブ104の下端部を把持するレシバー等の把持治具と共に熱交換チューブ104の拡管による収縮を防止できる。
【0009】
特許文献3に提案された拡管治具の一例の概略図を図11(a)に示す。図11(a)の拡管治具200が拡管する対象は、特許文献2の拡管治具100と同様に、複数枚の所定高さのカラー付き透孔が形成された放熱フィン202が積層されたフィン層内のカラー付き透孔に挿通され、先端部204aがフィン層の最上プレート206から突出している熱交換チューブ204である。このフィン層の最下プレートから突出している熱交換チューブ204の下端部は、レシバー等の把持治具(図示せず)により把持されている。
【0010】
拡管治具200は、フィン層を貫通し最上プレート206から突出している熱交換チューブ204の先端部204aから挿入した、拡管ビレット208aの最大外径となる外周面と熱交換チューブ204の内壁面とを直接接触して、熱交換チューブ204を拡管し放熱フィン202と一体化するものである。この拡管治具200は、締め付け力によって縮径可能であって、先端部の内壁面212dが他部の内壁面よりも内方に張り出して厚肉部212bに形成されているチャックスリーブ212aと、チャックスリーブ212aを締め付ける方向又は締め付けを開放する方向に、チャックスリーブ212aの外周面に沿って摺動可能に設けられたクランプブッシュ214とを備え、チャックスリーブ212aの厚肉部212bの内壁面には、凹溝212cが形成されている。更に、チャックスリーブ212a内には、拡管された熱交換チューブ204の拡管部の先端部内に挿入されるガイド部216aが先端部に形成され、中途部に拡管部の先端部を更に拡管してフレア部を形成するフレア形成部が中途部に形成されたフレアポンチ216が、拡管ビレット208aが先端に装着されたマンドレル208bに沿って上下方向に摺動可能に装着されている。
【0011】
図11(a)に示す拡管治具200を用いて、図11(b)に示すように熱交換チューブ204を拡管する際には、先ず、後端部が把持治具(図示せず)により把持された熱交換チューブ204がフィン層を貫通してから突出する先端部204aを、チャックスリーブ212aの先端部に形成された厚肉部212b内に挿入し、クランプブッシュ214を降下して、厚肉部212bを含むチャックスリーブ212aを締め付ける。このとき、チャックスリーブ212aの厚肉部212bも縮径されて、熱交換チューブ204の先端部204aを拡管ビレット208aとの軸芯が一致する方向に位置調整される。この際の熱交換チューブ204の先端部204aはチャックスリーブ212aの厚肉部212bで把持されておらず、チャックスリーブ212aの先端面で最上プレート206を押圧することにより、最上プレート206から突出する熱交換チューブ204の先端部204aの長さを調整可能である。
次いで、拡管ビレット208aを熱交換チューブ204の先端部204aに挿入して拡管し、拡管部204bの外周面をチャックスリーブ212aの厚肉部212bの内壁面212dに押し付けて生じる把持力により把持した後、拡管ビレット208aの熱交換チューブ204への挿入を一旦停止し、拡管部204b内にフレアポンチ216のガイド部216aを挿入する。このガイド部216aの挿入により、拡管ビレット208aの通過後に、拡管部204bのスプリングバック現象による縮径に起因して発生する把持力の低下を防止する。
更に、拡管ビレット208aを熱交換チューブ204の後端部側の方向への挿入を再開して拡管し、熱交換チューブ204と放熱フィン202とを一体化する。
その後、熱交換チューブ204の拡管が終了した後、クランプブッシュ214を上昇してチャックスリーブ212aの厚肉部212bよる熱交換チューブの拡管部204bの把持を解除し、更に、チャックスリーブ212aを上昇してから、フレアポンチ216をマンドレル208bに沿って降下して拡管部204bの先端部にフレア部を形成した後、拡管ビレット208aを拡管された熱交換チューブ204から引き抜く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第5696745号公報
【特許文献2】特許第5870418号公報
【特許文献3】特開2010-247190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前述した特許文献2の拡管治具100によれば、熱交換チューブ104毎にその先端部を把持して、熱交換チューブ104の拡管を実施でき、拡管による熱交換チューブ104の収縮を可及的に防止できる。更に、拡管治具100は、熱交換チューブ104毎に設けられているので、フィン層に挿通される熱交換チューブ104の配列や配置密度等の変更に対し、変更された熱交換チューブ104毎に対応できるので、熱交換チューブ104の配列や配置密度等が頻繁に変更されても迅速に対応できる。
しかし、拡管治具100は、図10(c)に示すように、フィン層の最上プレート106等に未固定の熱交換チューブ104の先端部104aに、拡管マンドレル108を降下して拡管ビレット108aを挿入し拡管している。フィン層の最上プレート106等に未固定の熱交換チューブ104は、最上プレート106から突出する先端部104aが傾斜状態となっていることがある。このように傾斜状態の熱交換チューブ104の先端部104aと拡管マンドレル108との軸芯は不一致であり、拡管マンドレル108を降下して、熱交換チューブ104の先端部104aに拡管ビレット108aを挿入すると、熱交換チューブ104の先端部104aが座屈するおそれがある。例え、熱交換チューブ104の先端部104aと拡管マンドレル108との軸芯が一致していたとしても、未固定状態で熱交換チューブ104の先端部104aを拡管すると、先端部104aに収縮が発生する。
また、熱交換チューブ104の先端部104aを拡管する拡管ビレット108aが所定位置に到達したときに拡管マンドレル108の降下を一旦停止して、掴持体112を降下して拡管部104bにかしめ部104cを形成した後、拡管マンドレル108の降下を再開して拡管ビレット108aによる拡管を再開する。このように拡管ビレット108aが熱交換チューブ104を拡管している際に、拡管マンドレル108の降下の停止・再開を拡管ビレット108aが所定位置に到達したとき実施できるように、拡管マンドレル108の駆動手段を制御することは複雑な制御手段を必要とする。更に、熱交換チューブ104の拡管が終了して拡管ビレット108aを抜き出す際に、加工硬化が生じているかしめ部104cを拡管ビレット108aで再拡管することを要し、熱交換チューブ104の後端部を把持するレシバー等の把持手段に過大な負荷を掛けることになり、レシバー等の把持手段及び/又は熱交換チューブ104の後端部が損傷されるおそれもある。
【0014】
また、拡管治具100の掴持体112に形成されたスリット112cは、所定長の細幅スリット部を残留させつつ、先端方向に徐々に拡幅された扇状スリット部を形成したものである。このスリット112cは、扇状スリット部のみの拡縮が予定されているものである。細幅スリット部も拡縮すると、拡縮応力が細幅スリット部の後端部115に集中し、後端部115に亀裂が発生するおそれがあるからである。このようなスリット112cが形成された掴持体112を有する拡管治具100を用いた場合、熱交換チューブ104の拡管部104bの外径のバラツキを可及的に小さくすることを要する。しかし、熱交換チューブ104の拡管部104bには、熱交換チューブ104自体の外径等のバラツキに加え拡管でのバラツキも加えられており、このようにバラツキが積層された拡管部104bを掴持体112の複数の掴持片112bにより扇状スリット部が拡縮して把持する際に、扇状スリット部に続く細幅スリット部も拡縮することがあり、細幅スリット部の後端部115に拡縮応力が集中し破損するおそれがある。このことは特許文献1の伝熱管拡管装置に把持部が形成された部材として用いられている、扇状スリットが先端面に開口されているコレットチャックも同様である。
【0015】
特許文献3の拡管治具200によれば、拡管ビレット208aを熱交換チューブ204の先端部204aに挿入する際に、チャックスリーブ212aによって熱交換チューブ204の先端部204aが拡管ビレット208aとの軸芯が一致する方向に位置調整されているから、特許文献2の拡管治具100のように、傾斜状態となっている熱交換チューブ204の先端部204aに拡管ビレット208aを挿入する事態を防止できる。また、拡管終了した熱交換チューブの内壁面は滑面であるから、拡管された熱交換チューブから拡管ビレット208aを簡単に引き抜くことができる。
【0016】
拡管治具200でも、拡管治具100と同様に、熱交換チューブ204の先端部204aを拡管したとき、拡管ビレット208aの熱交換チューブ203内の挿入を一旦停止して、拡管部204b内にフレアポンチ216のガイド部216aを挿入した後、拡管ビレット208aの挿入を再開している。このように拡管ビレット208aが熱交換チューブ104を拡管している際に、拡管マンドレル208の降下の停止・再開を拡管ビレット208aが所定位置に到達したとき実施できるように、拡管マンドレル208の駆動手段を制御することは複雑な制御手段を必要とする。
また、拡管治具200は、熱交換チューブ204の拡管部204bのチャックスリーブ212aの厚肉部212bによる把持は、後述するように、拡管ビレット208aの外周面とチャックスリーブ212aの厚肉部212bの内壁面212dとが最小間隙となったとき、拡管ビレット208aの外周面が拡管部204bの外周面をチャックスリーブ212aの内壁面212dに押し付けて生じる把持力によるものである。つまり、拡管ビレット208aによる熱交換チューブ204の拡管は、拡管ビレット208aの進行に伴って管肉を減肉させつつ内径を拡大する操作であって、拡管ビレット208aの外周面とチャックスリーブ212aの内壁面212dとの最小間隙に、管厚が減肉された管厚の拡管部204bであっても、所定厚さの管厚であれば、拡管ビレット208aから所定の押圧力で拡管部204bがチャックスリーブ212aの内壁面212dに押し付けられて所定の把持力が発揮される。このようにチャックスリーブ212aの内壁面212dは、拡管ビレット208aから押圧されるから、拡管ビレット208aの押圧力に対抗できる強度を有していることが必要である。また、拡管を施す「熱交換チューブ204には、通常、管厚及び/又は外径のバラツキを有しており、管厚が薄く及び/又は外径が小径の方向にシフトした拡管ビレット204の拡管では、拡管ビレット208aとチャックスリーブ212aの内壁面212dとの最小間隙に至った、拡管されて減肉された拡管部204bの管厚が所定厚さ未満となって、拡管部204bの把持力が急激に低下するおそれがある。このため、拡管治具200の熱交換チューブ204の管厚及び/又は外径のバラツキに対応できる範囲は狭い。
ところで、チャックスリーブ212aの内壁面212dに形成された凹溝212cは、後述するように、管厚が厚く及び/又は外径が大径の方向にシフトした拡管ビレット204の拡管の際に、拡管ビレット208aの外周面とチャックスリーブ212aの内壁面212dとの最小間隙で生じた拡管部204bの管肉余りの逃げ代であって、チャックスリーブ212aの破損や拡管された熱交換チューブの変形を防止するためのものである。従って、拡管ビレット208aとチャックスリーブ212aとの最小間隙で管肉余りが生じないような管肉厚さ及び/又は外径の熱交換チューブ204の拡管では、凹溝212cは元の空間が保存されており、拡管部204bの把持力は拡管ビレット208aによるチャックスリーブ212aの内壁面212dに対する押圧力のみで生じている。
【0017】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、スリットが形成されたチャックスリーブを有する拡管治具を用い、フィン層の最上プレート等に未拡管の熱交換チューブの先端部が傾斜状態となっていても、拡管ビレットの軸芯と一致する方向に熱交換チューブの先端部を位置調整して拡管でき、拡管の際に、拡管ビレットの熱交換チューブへの挿入を一旦停止することなく連続挿入して拡管を終了でき、拡管が終了した拡管ビレットを熱交換チューブから抜き出す際に、熱交換チューブの後端部を把持する把持手段及び熱交換チューブの後端部を損傷することなく簡単に抜き出すことが可能であること、管肉厚さ及び/又は外径のバラツキを有する熱交換チューブの先端部をチャックスリーブで簡単に且つ確実に把持できること、及びチャックスリーブのスリットの拡縮に伴う応力を分散できる拡管治具及び拡管方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記の目的を達成するためになされた拡管治具は、複数枚の放熱フィンが積層されたフィン層を貫通して、前記フィン層から先端部及び後端部が突出する熱交換チューブを、その長手方向の収縮を防止できるように前記先端部及び前記後端部を把持して拡管し、前記放熱フィンの各々と一体化する拡管治具であって、前記後端部が把持された前記熱交換チューブの先端部から挿入されて、前記熱交換チューブを拡管する拡管ビレットが先端に接続され、後端が前記拡管ビレットを前記熱交換チューブに挿脱する方向に移動可能に設けられた圧入手段に接続されているマンドレルと、前記マンドレルに摺動自在に外挿された筒状体であって、前記熱交換チューブの先端部が挿入される前記筒状体の先端部が分割されて形成された複数の把持片は、その有するバネ力により前記筒状体の外側面方向に弓状に反っており、前記把持片間のスリットが前記筒状体の後端側の周面に開口する内壁が曲面の穴部と前記穴部の横幅よりも幅狭の開口部から前記筒状体の先端方向に徐々に拡幅する扇状スリット部とから成り、且つ前記把持片の内壁面の各々から前記筒状体の内方に突出する凸部が形成されているチャックスリーブと、前記チャックスリーブの外周面に沿って摺動自在に外挿され、前記チャックスリーブの前記把持片間の前記スリットの全体を縮幅して前記把持片の各々を筒状に拘束するように、前記把持片の各々を前記バネ力に抗して締め付ける方向に摺動し、又は前記拘束を解除する方向に摺動するスライドスリーブとを具備し、前記凸部の前記把持片の内壁面からの突出長が、前記熱交換チューブの前記先端部が挿入された前記チャックスリーブの前記把持片の各々が前記スライドスリーブにより筒状に拘束されて、前記拡管ビレットとの軸芯が一致する方向に位置調整された前記熱交換チューブの前記先端部に前記拡管ビレットが挿入されて拡管された拡管部分の外周面に、前記拡管部分の内径を縮径することなく前記凸部の各先端部が食い込み、前記熱交換チューブの前記拡管部分を把持する把持部が形成されたとき、前記把持片の前記凸部を除く各内壁面と前記拡管部分の外周面との間に空間部が形成される突出長であることを特徴とするものである。
【0019】
前記チャックスリーブの前記スリットを構成する前記穴部が長穴部であって、前記長穴部の先端部に形成された前記扇状スリット部の開口部が前記長穴部の横幅よりも幅狭であり、前記把持部の拘束が解除されているとき、前記長穴部の横幅が前記開口部方向に徐々に拡幅されていることにより、スリットの拡縮による応力を長孔部の曲面状の内壁面で十分に分散でき好ましい。
【0020】
前記チャックスリーブの前記把持片の前記凸部が形成された部分が、その外面方向に前記筒状部の他部よりも肉厚の肉厚部に形成されており、前記肉厚部の後端に傾斜面が接続され、前記傾斜面及び前記肉厚部を含む全体が、その有するバネ力により前記筒状体の外側面方向に弓状に反っていることにより、スライドスリーブが肉厚部に乗り上げたとき、把持片の各々を強力に筒状に拘束でき好ましい。
【0021】
前記チャックスリーブの前記把持片の各内壁面に形成された凸部が凸条であり、前記スライドスリーブにより前記把持片の各々が筒状に集合されたとき、前記凸条から成る環状凸条が形成されることにより、熱交換チューブの先端部の拡管部分の外周面に環状凸条の先端が環状に食い込み把持を確実とすることができ好ましい。
【0022】
前記環状凸条が複数本形成されていることにより、熱交換チューブの先端部の拡管部分の外周面に複数本の環状凸条の先端が食い込み把持を更に確実とすることができ好ましい。
【0023】
前記スライドスリーブには、その途中の表面に開口された内壁面が曲面の孔部と、前記孔部に形成された開口から先端方向に、前記孔部よりも幅狭の幅狭スリット部とが形成されていることにより、熱交換チューブの外径等のバラツキ等により、過剰な応力がチャックスリーブや拡管ビレットに加えられたとき、スライドスリーブの幅狭のスリットが拡幅して吸収でき好ましい。
【0024】
前記の目的を達成するためになされた拡管方法は、複数枚のフィンが積層されたフィン層を貫通し、先端部及び後端部が前記フィン層から突出する熱交換チューブを、その長手方向の収縮を防止できるように前記後端部が把持された前記熱交換チューブの先端部を請求項1に記載の拡管治具を用いて把持して拡管し前記フィンの各々と一体化する熱交換チューブの拡管方法であって、前記拡管治具を構成する前記チャックスリーブの先端部を形成する複数の前記把持片内に前記熱交換チューブの先端部を挿入し、前記スライドスリーブを前記チャックスリーブの複数の前記把持片のバネ力に抗して前記把持片の上面側にスライドし、前記スリットの全体を縮幅して筒状に拘束し、前記熱交換チューブを前記拡管ビレットとの軸芯が一致する方向に位置調整した後、前記拡管ビレットを前記熱交換チューブの先端部に挿入して拡管した拡管部分の外周面に、前記拡管部分の内径を縮径することなく前記凸部の先端部を食い込ませ、前記把持片の前記凸部を除いた各内壁面と前記拡管部分の外周面との間に空間部が形成された把持部を形成し、引き続き、前記拡管ビレットを停止することなく前記先端部を前記把持部で把持した前記熱交換チューブの拡管を、前記熱交換チューブの後端部側方向に続行することを特徴とするものである。
【0025】
前記熱交換チューブの拡管が完了した後、前記把持部で把持された状態の拡管した前記熱交換チューブから前記拡管ビレットを引き抜き、次いで、前記スライドスリーブを前記チャックスリーブの複数の前記把持片の上面側からスライドし、複数の前記把持片を筒状とする拘束状態を解除して、前記把持片の各々が有するバネ力により前記筒状体の外側方向に弓状に反らせることにより、前記凸部の先端部が前記拡管部分の外周面に食い込んで形成された前記把持部による把持を簡単に解除できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る拡管治具によれば、未拡管の熱交換チューブの先端部を拡管ビレットとの軸芯が一致する方向に位置調整された状態で拡管を施すことができ、熱交換チューブの先端部の座屈等の発生を防止できる。
また、熱交換チューブの拡管部の内径を減径することなく外周面にチャックスリーブの凸部の先端部のみが食い込んで把持部が形成されるから、拡管ビレットを一旦停止することなく連続して熱交換チューブを拡管でき、且つ拡管が終了して拡管ビレットの熱交換チューブからの抜き出しを、熱交換チューブの後端部を把持する把持手段及び熱交換チューブの後端部を損傷することなく簡単に行うことができる。
この把持部内には、チャックスリーブの凸部を除いた内壁面と拡管部の外周面との間に隙間が形成されており、未拡管の熱交換チューブの管肉厚さ及び/又は外径にバラツキがあっても、熱交換チューブの拡管部の外周面へのチャックスリーブの凸部の先端部の食い込み幅で対応できるから、熱交換チューブの管肉厚さ及び/又は外径のバラツキに対して簡単に対応できる。
このようにチャックスリーブの凸部を除いた内壁面が熱交換チューブの拡管部の外周面と直接接触しておらず、拡管ビレットの押圧力を熱交換チューブの拡管部の外周面を介して受けないから、チャックスリーブの厚肉化等の堅固化対策を不要にでき、チャックスリーブの軽量化を図ることができる。
更に、スライドスリーブによりチャックスリーブの把持片を筒状に拘束したり、拘束を解除したりしたとき、チャックスリーブの把持片間に形成されたスリットの拡縮に伴うスリットの後端部に加わる拡縮応力を分散でき、スリットの後端部への拡縮応力集中による亀裂等の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明を適用する拡管治具の一例を説明するための部分断面図である。
図2図1に示す拡管治具のチャックスリーブの先端部内に未拡管の熱交換チューブの先端部が挿入された状態を説明する部分断面図である。
図3図1に示す拡管治具のスライドスリーブにより、チャックスリーブの先端部を筒状に収束した状態を説明する部分断面図である。
図4図1に示す拡管治具のチャックスリーブの先端部内に挿入された未拡管の熱交換チューブの先端部が傾斜状態であって、先端部の軸芯が拡管ビレットの軸芯と一致してないとき、熱交換チューブの先端部が位置調整されることを説明する部分断面図である。
図5図1に示す拡管治具のチャックスリーブの先端部内に挿入された未拡管の熱交換チューブの先端部を含む部分を拡管ビレットにより拡管された状態を説明する部分断面図である。
図6】熱交換チューブの先端部を含む部分を拡管ビレットにより拡管された状態を説明する部分断面図である。
図7】拡管熱交換チューブの先端部にフレア部を形成した状態を説明する部分断面図である。
図8】本発明を適用するスライドスリーブの他の例を説明する部分正面図である。
図9】従来の拡管治具を説明する部分断面図である。
図10図9に示す従来の拡管治具を用いた拡管方法を説明する部分断面図である。
図11】従来の拡管治具を説明する部分断面図である。
図12図11に示す従来の拡管治具で形成される把持部を説明する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0029】
本発明を適用する拡管治具の一例を図1(a)に示す。図1(a)に示す拡管治具10は熱交換チューブの拡管のみを専用に行う拡管機に装着されるものである。この拡管治具10が拡管する対象は、複数枚の所定高さのカラー付き透孔が形成された放熱フィン12が積層されたフィン層17内のカラー付き透孔に挿通され、先端部14aがフィン層17の最上プレート16から突出している熱交換チューブ14である。熱交換チューブ14は、通常、直管又はヘアピン管が用いられており、直管の場合、下端部がフィン層17の最下プレートから突出し、ヘアピン管の場合、U字状部がフィン層の最下プレートから突出している。フィン層17の最下プレートから突出している突出部はレシバー等の把持治具(図示せず)により把持されている。
【0030】
拡管治具10は、熱交換チューブ14の先端から挿入されて熱交換チューブ14を拡管して放熱フィン12の各々と一体化する拡管ビレット18aが先端に装着され、後端が拡管ビレット18aを熱交換チューブ14に挿脱する方向に移動可能に設けられた圧入手段(図示せず)に接続されているマンドレル18bとを有する拡管マンドレル18と、拡管マンドレル18に摺動自在に外挿されるチャックスリーブ20と、チャックスリーブ20に摺動自在に外挿されたスライドスリーブ22とから構成される。図1(b)にチャックスリーブ20の拡大部分断面図を示す。チャックスリーブ20は、拡管マンドレル18のマンドレル18bに摺動自在に外挿された筒状体20aであって、筒状体20aの先端部が等分に分割されて複数の把持片20bに形成されている。把持片20bは、その先端側に筒状体20aの外側に膨出して他部よりも肉厚に形成された肉厚部20cが形成され、把持片20bの本体側と肉厚部20cとの間は傾斜面20dに形成されている。把持片20bは、肉厚部20c及び傾斜面20dを含めて、その有するバネ力により筒状体20aの外側面方向に弓状に反っている。把持片20bのバネ力は、後述するように把持片20bの加熱処理によって得られたものである。
【0031】
筒状体20aの外側面方向に弓状に反っている把持片20b,20bの間には、筒状体20aの中途の周面に、筒状体20aの長手方向に開口する内壁が曲面の長穴部20eと、長穴部20eの先端部に形成され、長穴部20eの横幅よりも幅狭の開口部20fと、開口部20fから筒状体20aの先端方向に徐々に拡幅する扇状スリット部20gとから成るスリット21が形成されている。長穴部20eも、その横幅が開口部20f方向に徐々に拡大されているが、開口部20fで横幅が幅狭になっている。更に、把持片20bの肉厚部20cに対応する各内壁面20ciには、筒状体20aの内方に突出する複数の凸条20hが形成されている。この凸条20hは、図1(b)の部分拡大断面図に示すように、その横断面形状が基部から先端方向に徐々に幅狭となる台形状又は三角形状であって、凸条20hの内壁面20ciからの高さは0.5~0.8mmとすることが好ましい。
【0032】
このようなチャックスリーブ20には、その外周面沿って摺動自在にスライドスリーブ22が外挿されている。スライドスリーブ22を下方にスライドし、チャックスリーブ20の把持片20bの各バネ力に抗して、図1(c)に示すように、チャックスリーブ20の把持片20bの各々の肉厚部20cに乗り上げたとき、長穴部20e、開口部20f及びを含む扇状スリット部20gから成るスリット21の全体を縮幅して把持片20bの各々を筒状に拘束するように締め付ける。把持片20bの各々が筒状に拘束されたとき、長穴部20eが縮幅されて横幅が一定の長穴スリット部23aとなり、開口部20f及び扇状スリット部20gも減幅されて長穴スリット部23aの横幅よりも幅狭の細幅開口部23bと同一幅の細幅スリット部23cとなる。長穴スリット部23a及び細幅開口部23bと同一幅の細幅スリット部23cはスリット23を構成する。また、把持片20bの各内壁面に形成されている複数の凸条20hは、複数の環状凸条20Hを形成する。この環状凸条20Hの横断面形状も基部から先端方向に徐々に幅狭となる台形状又は三角形状である。
【0033】
図1(c)に示すように把持片20bの各々を筒状に拘束していたスライドスリーブ22を、図1(b)に示すように上方にスライドしたとき、把持片20bの各々が筒状に拘束されている状態が解除され、図1(b)に示すように、把持片20bの各々は、その有するバネ力により筒状体20aの外側面方向に反り、図1(c)に示すスリット23を構成する長穴スリット部23a、細幅開口部23b及び細幅スリット部23cの各々は拡幅され、図1(b)に示す横幅が開口部20f方向に徐々に拡大された長穴部20e、細幅開口部23bよりも拡幅された開口部20f、及び細幅スリット部23cは開口部20fから筒状体20aの先端方向に徐々に拡幅する扇状スリット部20gとなり、スリット21を構成する。
【0034】
チャックスリーブ20の把持片20bの間のスリット21が、スライドスリーブ22による把持片20bが筒状に拘束されたとき、図1(c)に示す長穴スリット部23a、細幅開口部23b及び細幅スリット部23cとから成る状態となり、この拘束が解除されたとき、図1(b)に示す長穴部20e、開口部20f及び扇状スリット部20gから成る状態となる。このように、把持片20bの間に形成されたスリット21の全体が、把持片20bが筒状に拘束された状態と拘束が解除された状態とで拡縮されることから、スリット21の全体の拡縮に伴う拡縮応力は長穴部20e(長穴スリット部23a)の後端に加わるが、拡縮応力は長穴部20e(長穴スリット部23a)の後端の曲面状の内壁により分散され、扇状スリットのみが形成された特許文献1のコレットチャックや特許文献2の掴持体のように応力集中による亀裂が発生するおそれを解消できる。
このような図1に示す拡管治具10のチャックスリーブ20は、研削加工によって作製でき、研削加工によって形成した把持片20bに加熱処理を施すことによってバネ性が付加され、自身のバネ力により把持片20bを筒状体20aの外方に反らすことができる。このバネ力は長穴スリット部23aが形成されていることにより大きくできる。
【0035】
図1に示す拡管治具10を用い、複数枚の所定高さのカラー付き透孔が形成された放熱フィン12が積層されたフィン層17内にカラー付き透孔で形成された透孔に挿通され、先端部14aがフィン層17の最上プレート16から突出している熱交換チューブ14に拡管を施す。先ず、図2(a)に示すように、チャックスリーブ20の把持片20b内に熱交換チューブ14の先端部14aを挿入した把持片20bの先端面をフィン層17の最上プレート16に当接して、熱交換チューブ14の先端部14aの所定長を最上プレート16から突出する。フィン層17内のカラー付き透孔に挿通された熱交換チューブ14は、図2(b)に示すように最上プレート16及び放熱フィン12と一体化されておらず、最上プレート16からの熱交換チューブ14の先端部14aが所定長突出されていない場合があるからである。
【0036】
次いで、図3(a)に示すように、スライドスリーブ22をチャックスリーブ20の弓状に反っている把持片20bの各々のバネ力に抗して傾斜面20dを通過して肉厚部20c上に摺動して把持片20bの各々を筒状に拘束する。筒状に拘束された把持片20bの間のスリット21は全体が縮幅され、扇状スリット部20gは細幅スリット部23cとなり、把持片20bの各内壁面に形成されていた凸条20hは、図3(b)に示すように環状凸条20Hを形成する。複数の環状凸条20Hは、熱交換チューブ14の先端部14aの先端近傍に位置し、熱交換チューブ14の先端部14aと拡管ビレット18aとの軸芯が一致していると、環状凸条20Hの先端は、図3(b)に示すように先端部14aの外周面に近接している。
【0037】
ところで、図2に示すように、チャックスリーブ20の把持片20b内に熱交換チューブ14の先端部14aを挿入したとき、熱交換チューブ14はフィン層17の最上プレート16及び放熱フィン12に固定されておらず、図4(a)に示すように把持片20b内に挿入された熱交換チューブ14の先端部14aが傾斜状態となっており、先端部14aと拡管ビレット18aとの軸芯が不一致状態となっていることがある。このような状態で拡管ビレット18aを熱交換チューブ14の先端部14aに挿入すると、先端部14aが座屈するおそれがある。この点、図1に示す拡管治具10によれば、図4(b)に示すように、スライドスリーブ22によりチャックスリーブ20の把持片20bを筒状に拘束することにより、傾斜状態の先端部14aを拡管ビレット18aの軸芯と一致する方向に位置調整できる。
【0038】
このように熱交換チューブ14の先端部14aと拡管ビレット18aとの軸芯が一致した状態で図5に示すように拡管ビレット18aを先端部14aに挿入して拡管を開始する。拡管開始直後の拡管部14bは、その部分拡大図である図6に示すように、拡管部14bの外周面がフィン層17を形成する最上プレート16の透孔及び放熱フィン12のカラー付き透孔の内壁面に押し付けられて一体化される。更に、熱交換チューブ14の拡管部14bの先端部では、その部分拡大断面図に示すように、把持片20bの肉厚部20cに対応する各内壁面20ciに形成された複数の環状凸条20Hの先端部が、拡管部14bの内径を縮径することなく拡管部14bの外周面に食い込んで把持部を形成している。このようにチャックスリーブ20の把持片20bは、その環状凸条20Hの先端部が拡管部14bの外周面に食い込んでいるのみであり、肉厚部20cの環状凸条20Hを除く内壁面20ciは拡管部14bの外周面と接触しておらず、内壁面20ciと拡管部14bの外周面との間には空間部20kが形成されている。最先端の環状凸条20Hの先端部が食い込んでいる箇所と拡管部14bの先端との間の距離Lは、2~3mm程度とすることが好ましい。また、環状凸条20Hの先端部の食い込み幅tは0.01mm以上、0.05~0.07mm程度となるように調整することが好ましい。環状凸条20Hの先端部の食い込み幅tが0.01mm未満の場合、拡管ビレット18aが通過した後に生じる拡管部14bのスプリングバック現象による縮径により不十分となる傾向があり、食い込み幅tが0.07mmを超える場合、拡管ビレット18aの先端部14a内への挿入圧力が急激に高くなる傾向がある。この把持部は、熱交換チューブ14の先端部14aに挿入した拡管ビレット18aを一旦停止することなく連続して熱交換チューブ14を拡管する最中で形成でき、拡管による熱交換チューブ14の収縮を防止できる。
【0039】
図6に示すようにチャックスリーブ20の把持片20bは、その内壁面20ciが拡管部14bの外周面と接触しておらず、内壁面20ciと拡管部14bの外周面との間には空間部20kが形成されている。このため、拡管に付す熱交換チューブ14の管肉厚さ及び/又は外径のバラツキがあっても、環状凸条20Hの先端部の食い込み幅tが増減することにより簡単に対応できる。例えば、熱交換チューブ14の管肉厚さ及び/又は外径がバラツキの中央値よりも厚い方向及び/又は大径の方向にバラついたとしても、図6の部分拡大図に示すように、環状凸条20Hの先端部の食い込み幅tがt′と増加することにより対応できる。一方、熱交換チューブ14の管肉厚さ及び/又は外径がバラツキの中央値よりも薄い方向及び/又は小径の方向にバラついたとしても、環状凸条20Hの先端部食い込み幅tが減少することにより対応できる。
【0040】
拡管ビレット18aがフィン層17の最下プレートから突出している熱交換チューブ14の下端突出部に到達したとき、拡管ビレット18aによる拡管は終了する。このように図1図6に示す拡管治具10によれば、拡管ビレット18aを一旦停止することなく連続して熱交換チューブ14を拡管できる。更に、拡管を終了した拡管ビレット18aを拡管した熱交換チューブ14から抜き出す際に、熱交換チューブ14の把持部の内径は縮径されておらず拡管ビレット18aをスムーズに抜き出すことができ、拡管ビレット18a及び熱交換チューブ14の下端部を把持するレシバー等の把持治具に過度の負荷を掛けることもない。このため、拡管ビレット18aを拡管した熱交換チューブ14から抜き出す際に、熱交換チューブ14の下端部を把持するレシバー等の把持治具に過度の負荷を掛けることにより発生する、レシバー等の把持治具及び/又は熱交換チューブ14の下端部が損傷するおそれも解消できる。
その後、スライドスリーブ22をスライドしてチャックスリーブ20の把持片20bを筒状とする拘束を解除すると、把持片20bは有するバネ力により筒状体20aの外方に弓状に反り、環状凸条20Hの先端の拡管部14bの外周面への食い込みが外れ、拡管治具10をフィン層17から上方に移動できる。
【0041】
拡管が終了して拡管熱交換チューブと一体化されたフィン層17は、拡管機から取り出されて、フレア部形成装置により、図7に示すように拡管熱交換チューブ15のフィン層17の最上プレート16から突出する拡管熱交換チューブ15の先端部にフレア部15aを形成する。フレア部15aには、他の拡管熱交換チューブ15と連結される連結チューブ30の端部が挿入されてロウ付け31がなされる。このフレア部15aのロウ付け31の箇所に対応する外周面には、チャックスリーブ20の把持片20bに形成された環状凸条20Hの先端部の食い込み溝24が形成されているが、ロウ付け31により補強されており、食い込み溝24によってフレア部15aの強度が低下することはない。
【0042】
近年の多品種少量生産されるルームクーラー等の熱交換器の生産においては、拡管機の部品交換を可及的に少なくして生産効率を向上することが望まれており、拡管治具においても、若干の管径又は管肉の異なる熱交換チューブの拡管にも対応できるものが求められている。
図1図7に示す拡管治具10により管径又は管肉の異なる熱交換チューブを把持して拡管する際に、図5及び図6に示すように、管径又は管肉の異なる熱交換チューブの先端部が挿入されたチャックスリーブ20の把持片20bを筒状に拘束するとき、スライドスリーブ22に過剰な力が作用しスライドスリーブ22が変形するおそれがある。このようなおそれは、図8に示すようにチャックスリーブ20の中途部に開口された、内壁面が曲面の孔部としての丸孔22aと、丸孔22aに形成された開口部から先端方向に、丸孔22a幅狭の幅狭スリット部22bを形成することにより、チャックスリーブ20にバネ性を付加することにより解消できる。図8に示すチャックスリーブ20を用いた拡管治具は、管肉厚さ及び/又は外径のバラツキが大きな熱交換チューブの拡管にも用いることができる。
【0043】
図1図7では、熱交換チューブ14の拡管部14bに複数の環状凸条20Hを形成していたが、1本の環状凸条20Hでもよい。或いは、チャックスリーブ20の把持片20bの各内壁面に1個又は複数個の突起を形成し、突起先端が拡管部14bの外周面に食い込むようにしてもよい。また、拡管熱交換チューブ15のフレア部15aは、拡管機と別のフレア部形成装置で形成していたが、熱交換チューブ14を拡管する拡管機にフレアポンチを設けて、拡管が終了した拡管熱交換チューブ15の先端部にフレア部15aを形成してもよい。
更に、図1図7に示す拡管治具は、縦型フィン層に挿入された熱交換チューブの拡管に用いられているが、横型フィン層に挿入された熱交換チューブの拡管に用いてもよい。
【0044】
ところで、図1に示す把持片20bの肉厚部20cに対応する内壁面に複数の環状凸条20Hが形成されたチャックスリーブ20に代えて、図11に示す拡管治具200を構成する、厚肉部212bの内壁面212dに凹溝212cが形成されたチャックスリーブ212aを用いた場合の熱交換チューブ204の拡管について図12を用いて説明する。図12に示す拡管ビレット208a及びチャックスリーブ212aでは、通常、拡管ビレット208aの最大外径Rとなる外周面とチャックスリーブ212aの肉厚部212bの内壁面212dとの最小間隙Dが、拡管に付される熱交換チューブ204の管肉厚さ及び/又は外径のバラツキの中心値に基づいて調整されている。
【0045】
図12(a)は、管肉厚さ及び/又は外径がバラツキの中心値近傍の熱交換チューブ204の拡管をする場合である。図12(a1)に示すようにチャックスリーブ212a内に挿入され、肉厚部212bの内壁面212dに外周面が近接する熱交換チューブ204の先端部204aに、図12(a2)に示すように挿入された拡管ビレット208aの進行に伴って、先端部204aは管肉厚さを減肉させつつ内径が拡大されるが、拡管ビレット208aの最大外径Rの外周面で押圧される前は、拡管部204bの外周面はチャックスリーブ212aの内壁面212dに当接しない。更に、拡管ビレット208aの挿入が進行して、図12(a3)の部分断面拡大図に示すように、拡管ビレット208aが、その最大外径Rの外周面とチャックスリーブ212aの内壁面212dとの最小間隙Dに至ったとき、拡管ビレット208aの最大外径Rの外周面により、拡管部204bの外周面がチャックスリーブ212aの内壁面212dに当接して所定の押圧力で押圧されて把持される。このとき、拡管ビレット208aの最大外径Rの外周面とチャックスリーブ212aの内壁面212dとの最小間隙Dが拡管されて減肉された拡管部204bの管肉厚と略等しくなり、拡管部204bには管肉余りは生ぜず、凹溝212cの空間はそのまま保持される。
ここで、バラツキの中央値から管肉厚さが薄く及び/又は外径が小径となる方向にシフトした熱交換チューブ204を拡管では、拡管ビレット208aが、その最大外径Rの外周面とチャックスリーブ212aの内壁面212dとの最小間隙Dに至ったとき、拡管部204bの肉厚が所定肉厚よりも減肉される場合がある。このような場合、拡管ビレット208aの最大外径Rの外周面による、拡管部204bの外周面を介してチャックスリーブ212aの内壁面212dを押圧する押圧力が低下し把持力が低下するおそれがある。従って、図1に示すチャックスリーブ20に代えて、図11に示す厚肉部212bの内壁面212dに凹溝212cが形成されたチャックスリーブ212aを採用した場合、バラツキの中央値から管肉厚さが薄く及び/又は外径が小径となる方向にシフトした熱交換チューブに対して対応できる範囲は狭い。
【0046】
一方、バラツキの中央値よりも管肉厚さが厚い熱交換チューブ204の拡管をする場合を図12(b)に示す。図12(b1)に示すようにチャックスリーブ212a内に挿入された熱交換チューブ204の先端部204aに挿入された拡管ビレット208aは、図12(b2)に示すように先端部204aの管肉厚さを減肉させつつ内径を拡大する。拡管された拡管部204bの外周面は、拡管ビレット208aの最大外径Rの外周面がチャックスリーブ212aの内壁面212dとの最小間隙Dに至る前に、チャックスリーブ212aの内壁面212dに当接して押圧されつつ更に最小間隙Dに向かって減肉される。減肉された管肉は、拡管ビレット208aの先端側であって、熱交換チューブ204とチャックスリーブ212aの内壁面212dとの間に管肉余り204cが生じる。この管肉余り204cを放置して拡管を続行すると、チャックスリーブ212aに過大な押圧力が掛かって破損されるおそれ及び/又はチャックスリーブ212aの下端面近傍で熱交換チューブ204を変形させるおそれがある。このため、図12(b3)及びその部分断面拡大図に示すように管肉余り204cを凹溝212c内に逃がし、チャックスリーブ212aに過大な押圧力が加えられること及び熱交換チューブ204の変形を防止している。
【0047】
図12(b3)に示すように管肉余り204cを凹溝212c内に逃がしたとき、拡管部204bの外周面に突起部が形成され、チャックスリーブ212aの内壁面212dに対する押圧力と相俟って拡管部204bの引張に対して確実に把持できる。このため、バラツキの中心値の中央値よりも管肉厚さが薄く及び/又は外径が小径となる方向にシフトした熱交換チューブ204の拡管でも、図12(b3)に示すように管肉余り204cを凹溝212c内に逃がして拡管部204bの外周面に突起部を形成することが、拡管部204bの引張に対する把持に有効ではないかとも考えられる。
しかしながら、拡管ビレット208aの最大外径Rとチャックスリーブ212aの内壁面212dとの最小間隙Dを、バラツキの中央値よりも管肉厚さが薄く及び/又は外径が小径となる方向にシフトした熱交換チューブ204の拡管でも、管肉余り204cが生じるように調整した場合、バラツキの中央値よりも管肉厚さが厚く及び/又は外径が大径となる方向にシフトした熱交換チューブ204を拡管すると、最小間隙Dの近傍では過大な管肉余り204cが生じるため、チャックスリーブ212aの内壁面212dに過大な管肉余り204cが生じる。このような過大な管肉余り204cの逃げ代として大形の凹溝212cを形成すると、チャックスリーブ212aの強度が低下するから、強度を保持すべくチャックスリーブ212a及びクランプブッシュ214を厚肉化することを要し、拡管治具が大型化・重量化するおそれがある。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の拡管治具は、家庭用のルームクーラー等に使用されている熱交換器の製造に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
10,100,200:拡管治具、12,102,202:放熱フィン、14,104,204:熱交換チューブ、14a,104a,204a:先端部、14b,104b,204b:拡管部、15:拡管熱交換チューブ、15a:フレア部、16、106,206:最上プレート、17:フィン層、18,108:拡管マンドレル、18a,108a,208a:拡管ビレット、18b,108b、208b:マンドレル、20:チャックスリーブ、20h:凸条、20H:環状凸条、20a,112a:筒状体、20b:把持片、20c:肉厚部、20ci:内壁面、20d:傾斜面、20e:長穴部、20f:開口部、20g:扇状スリット部、20k:空間部、21,23,112c:スリット、22:スライドスリーブ、22a:丸孔、22b:幅狭スリット部、23a:長穴スリット部、23b:細幅開口部、23c:細幅スリット部、24:食い込み溝、30:連結チューブ、31:ロウ付け、104c:かしめ部、112:掴持体、112b:掴持片、112d:突出部、112e:傾斜面、114:筒体、115:スリット112cを構成する細幅スリット部の後端部、204c:肉余り、212a:チャックスリーブ、212b:厚肉部、212c:凹溝、212d:厚肉部212bの内壁面、214:クランプブッシュ、216:フレアポンチ、t、t′:食い込み幅、D:最小間隙、L:距離,R:最大外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2024-06-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の放熱フィンが積層されたフィン層を貫通して、前記フィン層から先端部及び後端部が突出する熱交換チューブを、その長手方向の収縮を防止できるように前記先端部及び前記後端部を把持して拡管し、前記放熱フィンの各々と一体化する拡管治具であって、
前記後端部が把持された前記熱交換チューブの先端部から挿入されて、前記熱交換チューブを拡管する拡管ビレットが先端に接続され、後端が前記拡管ビレットを前記熱交換チューブに挿脱する方向に移動可能に設けられた圧入手段に接続されているマンドレルと、
前記マンドレルに摺動自在に外挿された筒状体であって、前記熱交換チューブの先端部が挿入される前記筒状体の先端部が分割されて形成された複数の把持片は、その有するバネ力により前記筒状体の外側面方向に弓状に反っており、前記把持片間のスリットが前記筒状体の後端側の周面に開口する内壁が曲面の穴部と前記穴部の横幅よりも幅狭の開口部から前記筒状体の先端方向に徐々に拡幅する扇状スリット部とから成り、且つ前記把持片の内壁面の各々から前記筒状体の内方に突出する凸部が形成されているチャックスリーブと、
前記チャックスリーブの外周面に沿って摺動自在に外挿され、前記チャックスリーブの前記把持片間の前記スリットの全体を縮幅して前記把持片の各々を筒状に拘束するように、前記把持片の各々を前記バネ力に抗して締め付ける方向に摺動し、又は前記拘束を解除する方向に摺動するスライドスリーブとを具備し、
前記凸部の前記把持片の内壁面からの突出長が、前記熱交換チューブの前記先端部が挿入された前記チャックスリーブの前記把持片の各々が前記スライドスリーブにより筒状に拘束されて、前記拡管ビレットとの軸芯が一致する方向に位置調整された前記熱交換チューブの前記先端部に前記拡管ビレットが挿入されて拡管された拡管部分の外周面に、前記拡管部分の内径を縮径することなく前記凸部の各先端部が食い込み、前記熱交換チューブの前記拡管部分を把持する把持部が形成されたとき、前記把持片の前記凸部を除く各内壁面と前記拡管部分の外周面との間に空間部が形成される突出長であり、
前記スライドスリーブには、その途中の表面に開口された内壁面が曲面の孔部と、前記孔部に形成された開口から先端方向に、前記孔部よりも幅狭の幅狭スリット部とが形成されていることを特徴とする拡管治具。
【請求項2】
前記チャックスリーブの前記スリットを構成する前記穴部が長穴部であって、前記長穴部の先端部に形成された前記扇状スリット部の開口部が前記長穴部の横幅よりも幅狭であり、前記把持部の拘束が解除されているとき、前記長穴部の横幅が前記開口部方向に徐々に拡幅されていることを特徴とする請求項1に記載の拡管治具。
【請求項3】
前記チャックスリーブの前記把持片の前記凸部が形成された部分が、その外面方向に前記筒状部の他部よりも肉厚の肉厚部に形成されており、前記肉厚部の後端に傾斜面が接続され、前記傾斜面及び前記肉厚部を含む全体が、その有するバネ力により前記筒状体の外側面方向に弓状に反っていることを特徴とする請求項1に記載の拡管治具。
【請求項4】
前記チャックスリーブの前記把持片の各内壁面に形成された凸部が凸条であり、前記スライドスリーブにより前記把持片の各々が筒状に拘束されたとき、前記凸条から成る環状凸条が形成されることを特徴とする請求項1に記載の拡管治具。
【請求項5】
前記環状凸条が複数本形成されていることを特徴とする請求項4に記載の拡管治具。
【請求項6】
複数枚のフィンが積層されたフィン層を貫通し、先端部及び後端部が前記フィン層から突出する熱交換チューブを、その長手方向の収縮を防止できるように前記後端部が把持された前記熱交換チューブの先端部を請求項1に記載の拡管治具を用いて把持して拡管し前記フィンの各々と一体化する熱交換チューブの拡管方法であって、
前記拡管治具を構成する前記チャックスリーブの先端部を形成する複数の前記把持片内に前記熱交換チューブの先端部を挿入し、
前記スライドスリーブを前記チャックスリーブの複数の前記把持片のバネ力に抗して前記把持片の上面側にスライドし、前記スリットの全体を縮幅して筒状に拘束し、前記熱交換チューブを前記拡管ビレットとの軸芯が一致する方向に位置調整した後、
前記拡管ビレットを前記熱交換チューブの先端部に挿入して拡管した拡管部分の外周面に、前記拡管部分の内径を縮径することなく前記凸部の先端部を食い込ませ、前記把持片の前記凸部を除いた各内壁面と前記拡管部分の外周面との間に空間部が形成された把持部を形成し、
引き続き、前記拡管ビレットを停止することなく前記先端部を前記把持部で把持した前記熱交換チューブの拡管を、前記熱交換チューブの後端部側方向に続行することを特徴とする熱交換チューブの拡管方法。
【請求項7】
前記熱交換チューブの拡管が完了した後、前記把持部で把持された状態の拡管した前記熱交換チューブから前記拡管ビレットを引き抜き、
次いで、前記スライドスリーブを前記チャックスリーブの複数の前記把持片の上面側からスライドし、複数の前記把持片を筒状とする拘束状態を解除して、前記把持片の各々が有するバネ力により前記筒状体の外側方向に弓状に反らせることにより、前記凸部の先端部が前記拡管部分の外周面に食い込んで形成された前記把持部による把持を解除することを特徴とする請求項6に記載の熱交換チューブの拡管方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
前記の目的を達成するためになされた拡管治具は、複数枚の放熱フィンが積層されたフィン層を貫通して、前記フィン層から先端部及び後端部が突出する熱交換チューブを、その長手方向の収縮を防止できるように前記先端部及び前記後端部を把持して拡管し、前記放熱フィンの各々と一体化する拡管治具であって、前記後端部が把持された前記熱交換チューブの先端部から挿入されて、前記熱交換チューブを拡管する拡管ビレットが先端に接続され、後端が前記拡管ビレットを前記熱交換チューブに挿脱する方向に移動可能に設けられた圧入手段に接続されているマンドレルと、前記マンドレルに摺動自在に外挿された筒状体であって、前記熱交換チューブの先端部が挿入される前記筒状体の先端部が分割されて形成された複数の把持片は、その有するバネ力により前記筒状体の外側面方向に弓状に反っており、前記把持片間のスリットが前記筒状体の後端側の周面に開口する内壁が曲面の穴部と前記穴部の横幅よりも幅狭の開口部から前記筒状体の先端方向に徐々に拡幅する扇状スリット部とから成り、且つ前記把持片の内壁面の各々から前記筒状体の内方に突出する凸部が形成されているチャックスリーブと、前記チャックスリーブの外周面に沿って摺動自在に外挿され、前記チャックスリーブの前記把持片間の前記スリットの全体を縮幅して前記把持片の各々を筒状に拘束するように、前記把持片の各々を前記バネ力に抗して締め付ける方向に摺動し、又は前記拘束を解除する方向に摺動するスライドスリーブとを具備し、前記凸部の前記把持片の内壁面からの突出長が、前記熱交換チューブの前記先端部が挿入された前記チャックスリーブの前記把持片の各々が前記スライドスリーブにより筒状に拘束されて、前記拡管ビレットとの軸芯が一致する方向に位置調整された前記熱交換チューブの前記先端部に前記拡管ビレットが挿入されて拡管された拡管部分の外周面に、前記拡管部分の内径を縮径することなく前記凸部の各先端部が食い込み、前記熱交換チューブの前記拡管部分を把持する把持部が形成されたとき、前記把持片の前記凸部を除く各内壁面と前記拡管部分の外周面との間に空間部が形成される突出長であり、前記スライドスリーブには、その途中の表面に開口された内壁面が曲面の孔部と、前記孔部に形成された開口から先端方向に、前記孔部よりも幅狭の幅狭スリット部とが形成されていることを特徴とするものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
近年の多品種少量生産されるルームクーラー等の熱交換器の生産においては、拡管機の部品交換を可及的に少なくして生産効率を向上することが望まれており、拡管治具においても、若干の管径又は管肉の異なる熱交換チューブの拡管にも対応できるものが求められている。
図1図7に示す拡管治具10により管径又は管肉の異なる熱交換チューブを把持して拡管する際に、図5及び図6に示すように、管径又は管肉の異なる熱交換チューブの先端部が挿入されたチャックスリーブ20の把持片20bを筒状に拘束するとき、スライドスリーブ22に過剰な力が作用しスライドスリーブ22が変形するおそれがある。このようなおそれは、図8に示すようにチャックスリーブ20の中途部に開口された、内壁面が曲面の孔部としての丸孔22aと、丸孔22aに形成された開口部から先端方向に、丸孔22aよりも幅狭の幅狭スリット部22bを形成することにより、チャックスリーブ20にバネ性を付加することにより解消できる。図8に示すチャックスリーブ20を用いた拡管治具は、管肉厚さ及び/又は外径のバラツキが大きな熱交換チューブの拡管にも用いることができる。