IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

2025-20229繊維状物質分散液、及び繊維強化樹脂組成物
<>
  • -繊維状物質分散液、及び繊維強化樹脂組成物 図1
  • -繊維状物質分散液、及び繊維強化樹脂組成物 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020229
(43)【公開日】2025-02-12
(54)【発明の名称】繊維状物質分散液、及び繊維強化樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20250204BHJP
   C08J 3/05 20060101ALI20250204BHJP
【FI】
C08L1/02
C08J3/05 CEP
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024189455
(22)【出願日】2024-10-29
(62)【分割の表示】P 2019191935の分割
【原出願日】2019-10-21
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケブラー
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】上野 功一
(57)【要約】
【課題】配管及び/又はポンプ中での凝集塊の発生が極めて少ないために、製造プロセスの安定化及び樹脂中での繊維状物質の良好な分散が可能であり、良好かつ安定した物性の樹脂組成物を与えることができる、繊維状物質分散液を提供する。
【解決手段】分散媒100質量部と、前記分散媒中に分散している繊維状物質0.01~20質量部と、を含む繊維状物質分散液であって、前記繊維状物質分散液から調製された試験用分散液の、下記式(1):α=1-([A]/[B])・・・(1)(式(1)中、[A]は分散液底面から分離界面までの高さであり、[B]は分散液底面から分散液上面までの高さである。)に従って求められる沈降度αが、80%以下である、繊維状物質分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒100質量部と、
前記分散媒中に分散している繊維状物質0.01~20質量部と、
を含む繊維状物質分散液であって、
前記繊維状物質がセルロース繊維であり、
前記繊維状物質分散液から調製された試験用分散液の、下記式(1):
α=1-([A]/[B])・・・(1)
(式(1)中、[A]は分散液底面から分離界面までの高さであり、[B]は分散液底面から分散液上面までの高さである。)
に従って求められる沈降度αが、80%以下であり、
前記試験用分散液は、前記繊維状物質分散液中の前記繊維状物質の濃度が0.05質量%である場合には前記繊維状物質分散液自体であり、前記濃度が0.05質量%でない場合には、前記濃度が0.05質量%となるように前記繊維状物質分散液が濃縮又は前記分散媒と同じ分散媒で希釈されて調製されている、繊維状物質分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状物質分散液、及び繊維状物質を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されている。しかしながら、樹脂単体では、機械特性、寸法安定性等が不十分である場合が多く、樹脂と各種繊維状物質をコンポジットしたものが一般的に用いられている。
【0003】
近年、繊維状物質として、セルロースナノファイバー(CNF)をはじめとしたナノ繊維が用いられるようになってきている。CNFをはじめとしたナノ繊維は、乾燥状態では凝集する性質があるため、安定分散が可能な水分散液として製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特許文献1には、化粧料や、スプレー品などの性能向上を目的として、増粘性の高い親水性セルロース繊維と、増粘剤とを併用した水分散液が、特許文献2には、紙おむつ等の吸収性物品からリサイクルされた成型体の表面光沢の向上を目的として、パルプ繊維と高吸収性ポリマーとを含む熱可塑性樹脂が、特許文献3及び特許文献4には、セルロース繊維と増粘剤とを食品及び保冷剤において併用した例が、それぞれ記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2014-141675号公報
【特許文献2】特開2016-069543号公報
【特許文献3】特開2013-236585号公報
【特許文献4】特開2014-133826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、熱可塑性樹脂のための新たな繊維強化材として、疎水変性CNFをはじめとした疎水性繊維が用いられるようになってきている。疎水性繊維は、熱可塑性樹脂との親和性が高いため、樹脂中での分散性が高く、機械特性、寸法安定性を大きく改良することが期待されている。
【0007】
疎水性繊維は乾燥状態で凝集する性質があるため、安定分散が可能な水分散液として製造される。しかしながら疎水性繊維は本質的に水との親和性が高くないため、配管中の狭い流路、ポンプ内での往復運動により形成される隙間等で疎水性繊維分散液が圧搾され、疎水性繊維の凝集塊が形成されるといった課題がある。圧搾された凝集塊は、疎水性繊維を主成分とするために、水の再浸透がほとんど起こらず、水を媒体として膨潤・分散をさせることは困難である。
【0008】
圧搾によって形成された疎水性繊維凝集塊は、配管詰まりやポンプ詰まりといった製造プロセス上の問題を招くだけでなく、樹脂組成物の組成のばらつき、凝集塊の樹脂中への混入によって、樹脂組成物の密度及び強度を不安定にするという問題を招く。
【0009】
また、疎水性繊維を含む分散液は、保水性が低く、親水性繊維の分散液と比較して短時間で乾燥してしまうという課題もあった。前述の通り、乾燥した疎水性繊維の凝集塊は、樹脂中で再分散することが困難であるため、樹脂組成物中での分散不良、及びこれによる不十分な物性を招来する。
【0010】
特許文献1~4に記載される技術は、分散液の送液性、及び樹脂組成物の機械特性に関する上記のような問題に対処するものではない。
【0011】
本発明は、疎水性繊維を含むスラリーに特有の上記課題を解決し、例えば疎水性繊維を用いた場合であっても、配管及び/又はポンプ中での凝集塊の発生が極めて少ないために、製造プロセスの安定化及び樹脂中での繊維状物質の良好な分散が可能であり、良好かつ安定した物性の樹脂組成物を与えることができる、繊維状物質分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するため、鋭意検討を進めた結果、分散液中の繊維状物質の沈降を制御することによって表記の課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
[1] 分散媒100質量部と、
前記分散媒中に分散している繊維状物質0.01~20質量部と、
を含む繊維状物質分散液であって、
前記繊維状物質がセルロース繊維であり、
前記繊維状物質分散液から調製された試験用分散液の、下記式(1):
α=1-([A]/[B])・・・(1)
(式(1)中、[A]は分散液底面から分離界面までの高さであり、[B]は分散液底面から分散液上面までの高さである。)
に従って求められる沈降度αが、80%以下であり、
前記試験用分散液は、前記繊維状物質分散液中の前記繊維状物質の濃度が0.05質量%である場合には前記繊維状物質分散液自体であり、前記濃度が0.05質量%でない場合には、前記濃度が0.05質量%となるように前記繊維状物質分散液が濃縮又は前記分散媒と同じ分散媒で希釈されて調製されている、繊維状物質分散液。
[2] 前記分散媒100質量部に対して、増粘剤0.0001~2質量部を更に含み、
前記繊維状物質の数平均繊維径が、1~1000nmである、上記態様1に記載の繊維状物質分散液。
[3] 増粘剤が、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、アルギン酸及びその塩、からなる群から選択される1種以上である、上記態様2に記載の繊維状物質分散液。
[4] 前記繊維状物質の表面が疎水性である、上記態様1~3のいずれかに記載の繊維状物質分散液。
[5] 繊維状物質がセルロースナノファイバーである、上記態様1~4のいずれかに記載の繊維状物質分散液。
[6] 前記セルロースナノファイバーが、重量平均分子量(Mw)100000以上、及び重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)6以下を有する、上記態様5に記載の繊維状物質分散液。
[7] 前記セルロースナノファイバーが、アルカリ可溶多糖類平均含有率12質量%以下、及び結晶化度60%以上を有する、上記態様5又は6に記載の繊維状物質分散液。
[8] 前記セルロースナノファイバーの酸不溶成分平均含有率が10質量%以下である、上記態様5~7のいずれかに記載の繊維状物質分散液。
[9] 分散媒が水である、上記態様1~8のいずれかに記載の繊維状物質分散液。
[10] 粒子状成分を含む、上記態様1~9のいずれかに記載の繊維状物質分散液。
[11] エマルションである、上記態様10に記載の繊維状物質分散液。
[12] 界面活性剤を含む、上記態様1~11のいずれかに記載の繊維状物質分散液。
[13] 分散媒と、前記分散媒中に分散している繊維状物質とを含む繊維状物質分散液の送液性を向上させる方法であって、
前記方法は、
前記繊維状物質分散液から調製された試験用分散液の、下記式(1):
α=1-([A]/[B])・・・(1)
(式(1)中、[A]は分散液底面から分離界面までの高さであり、[B]は分散液底面から分散液上面までの高さである。)
に従って求められる沈降度αが、80%以下となるように、前記繊維状物質分散液に増粘剤を含有させることを含み、
前記試験用分散液は、前記繊維状物質分散液中の前記繊維状物質の濃度が0.05質量%である場合には前記繊維状物質分散液自体であり、前記濃度が0.05質量%でない場合には、前記濃度が0.05質量%となるように前記繊維状物質分散液を濃縮又は前記分散媒と同じ分散媒で希釈されて調製されている、方法。
[14] 樹脂100質量部と、平均繊維径1~1000nmの繊維状物質0.001~50質量部と、増粘剤0.00001~5質量部とを含む、樹脂組成物。
[15] 前記樹脂が熱可塑性樹脂である、上記態様14に記載の樹脂組成物。
[16] 引張降伏伸度(TEy)と引張破断伸度(TEb)とが、下記関係式:
[TEb/TEy]≧1
を満たす、上記態様14又は15に記載の樹脂組成物。
[17] 前記増粘剤を含まない他は同組成の比較の樹脂組成物と比較して、引張強度が1.01倍以上に向上している、上記態様14~16のいずれかの樹脂組成物。
[18] 熱可塑性樹脂と繊維状物質とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
上記態様1~12のいずれかに記載の繊維状物質分散液を調製することと、
前記繊維状物質分散液と前記熱可塑性樹脂とを溶融混練することと、
を含む、方法。
[19] 熱可塑性樹脂と繊維状物質とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
上記態様1~12のいずれかに記載の繊維状物質分散液を調製することと、
前記繊維状物質分散液を乾燥させて乾燥体を調製することと、
前記乾燥体と前記熱可塑性樹脂とを溶融混練することと、
を含む、方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、例えば疎水性繊維を用いた場合であっても、配管及び/又はポンプ中での凝集塊の発生が極めて少ないために、製造プロセスの安定化及び樹脂中での繊維状物質の良好な分散が可能であり、良好かつ安定した物性の樹脂組成物を与えることができる、繊維状物質分散液が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】IRインデックス1730及びIRインデックス1030の算出法の説明図である。
図2】セルロースの水酸基の平均置換度の算出法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の例示の態様について以下具体的に説明するが、本発明はこれらの態様に限定されるものではない。
【0016】
≪繊維状物質分散液≫
本発明の一態様は、分散媒と、該分散媒中に分散している繊維状物質とを含む繊維状物質分散液(本開示で、単に分散液ともいう。)を提供する。一態様において、繊維状物質はセルロース繊維である。一態様において、分散液中の繊維状物質の量は、分散媒100質量部に対して0.01~20質量部である。
【0017】
一態様において、繊維状物質分散液から調製された試験用分散液の、下記式(1):
α=1-([A]/[B])・・・(1)
(式(1)中、[A]は分散液底面から分離界面までの高さであり、[B]は分散液底面から分散液上面までの高さである。)
に従って求められる沈降度αは、80%以下である。ここで、該試験用分散液は、繊維状物質分散液中の繊維状物質の濃度が0.05質量%である場合には繊維状物質分散液自体であり、当該濃度が0.05質量%でない場合には、当該濃度が0.05質量%となるように繊維状物質分散液が濃縮又は上記分散液中の分散媒と同じ(すなわち同じ物質である)分散媒で希釈されて調製されている。希釈は、分散液に分散媒を必要量添加することで行う。濃縮は、分散液を濾布、メンブレンフィルター、遠心分離等によって分散媒と繊維状物質に分離することで行う。試験用分散液20mlを30ml容量のガラスバイアルに分取した後、ホモジナイザー(回転数10000rpm、1分間)で分散させ、その後素早く試験用分散液8mlを15ml容量のネジ口試験管(アズワン品番:4-565-06)に入れて密封し、手動で振り混ぜて分散液を一様にした後、温度23℃、常圧にて24時間静置する。液中分散安定性評価装置(例えば、FORMULACTION社製「Turbiscan」)によって分離界面を画定し、[A]及び[B]を計測する。
【0018】
本開示の沈降度αは、分散液の繊維状物質の分散安定性(分散媒中での沈降し難さ)の指標であり、値が小さいほど沈降し難い(すなわち、分散媒の繊維状物質からの経時的な分離、滲出が生じ難い)ことを表す。本開示の分散液は種々の繊維状物質濃度を有し得るため、沈降度αは、繊維状物質濃度を0.05質量%に調整したのち測定される。沈降度αは、繊維状物質の良好な分散性の観点から、80%以下であり、好ましくは、70%以下、又は60%以下、又は50%以下である。分散液の調製の容易性の観点から、沈降度αは、1%以上、又は5%以上、又は10%以上であってよい。本開示の分散液の沈降度αを上記範囲に制御する方法としては、繊維状物質の形状の制御(例えば繊維状物質の表面に凹凸、毛羽等を持たせる方法等)、各種添加剤(例えば増粘剤)の使用等が挙げられる。
【0019】
<繊維状物質>
繊維状物質としては、セルロース繊維、合成高分子繊維、ガラス繊維、炭素繊維などを挙げることができる。一態様において、繊維状物質はセルロース繊維、特にセルロースナノファイバーである。セルロースナノファイバーとは、パルプ等を100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロースを加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル、ミキサー(例えばホモミキサー)等の粉砕法により解繊したセルロースを指す。セルロース繊維は後述の化学修飾がされたものであってもよい。
【0020】
一態様において、繊維状物質の数平均繊維径は、繊維状物質による物性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは1~1000nmである。繊維状物質の数平均繊維径は、より好ましくは4nm以上、より好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上であり、更に好ましくは20nm以上であり、より好ましくは500nm以下、より好ましくは450nm以下、より好ましくは400nm以下、より好ましくは350nm以下、より好ましくは300nm以下、更に好ましくは250nm以下である。
繊維状物質が上記の数平均繊維径を有するセルロースナノファイバーであることは特に好ましい。
【0021】
繊維状物質(好ましくはセルロースナノファイバー)の平均L/Dの下限は、好ましくは50であり、より好ましくは80であり、より好ましくは100であり、さらにより好ましくは120であり、最も好ましくは150である。上限は特に限定されないが、取扱い性の観点から好ましくは5000以下である。繊維状物質を含む樹脂組成物の機械的特性を少量の繊維状物質で良好に向上させる観点から、繊維状物質の平均L/D比は上述の範囲内であることが望ましい。
【0022】
本開示で、繊維状物質の各々の長さ、径、及びL/D比は、繊維状物質の水分散液を水溶性溶媒(例えば、水、エタノール、tert-ブタノール等)で0.01~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本の繊維状物質が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本の繊維状物質の長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。繊維状物質について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
【0023】
なお、後述の組成物中の繊維状物質の長さ、径、及びL/D比は、固体である組成物を測定サンプルとして、上述の測定方法により測定することで確認することができる。又は、組成物中の繊維状物質の長さ、径、及びL/D比は、組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中の樹脂成分を溶解させ、繊維状物質を分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒を純水に置換した水分散液を調製し、繊維状物質濃度を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定する繊維状物質は無作為に選んだ100本以上での測定を行う。
【0024】
繊維状物質がセルロース繊維である場合の当該セルロース繊維の結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース繊維自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、セルロース繊維を樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、さらにより好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロース繊維の結晶化度についても上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0025】
植物由来のセルロースのミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、及びリグニン等の酸不溶成分が存在する。ヘミセルロースはマンナン、キシラン等の糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。またリグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。セルロース繊維中のリグニン等の不純物の残存量が多いと、加工時の熱により変色をきたすことがあるため、押出加工時及び成形加工時の樹脂組成物の変色を抑制する観点からも、セルロース繊維の結晶化度は上述の範囲内にすることが望ましい。
【0026】
ここでいう結晶化度は、セルロース繊維がセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]-[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100
【0027】
また結晶化度は、セルロース繊維がセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =h1 /h0 ×100
【0028】
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示のセルロース繊維(一態様においてセルロースナノファイバー)としては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロース繊維を樹脂に分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂組成物が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロース繊維が好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロース繊維がより好ましい。
【0029】
また、セルロース繊維の重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上、より好ましくは200以上、より好ましくは300以上、好ましくは400以上、より好ましくは420以上であり、より好ましくは430以上、より好ましくは440以上、より好ましくは450以上であり、好ましくは3500以下、より好ましく3300以下、より好ましくは3200以下、より好ましくは3100以下、より好ましくは3000以下である。
【0030】
加工性と機械的特性発現との観点から、セルロース繊維の重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0031】
セルロース繊維の重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
【0032】
一態様において、セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロース繊維のセルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性のセルロース繊維、及びセルロース繊維と樹脂とを含む樹脂組成物が得られる。セルロース繊維の重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)はセルロース繊維の製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、せん断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。
【0033】
ここでいうセルロースの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースを塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
【0034】
セルロース繊維の重合度(すなわち平均重合度)又は分子量を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース繊維内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロースやリグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。
【0035】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースをセルロース原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌しながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調製されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース繊維内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース原料の分散液は、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
【0036】
セルロース繊維が含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロース繊維の強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
【0037】
一態様において、セルロース繊維中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、セルロース繊維の良好な分散性を得る観点から、セルロース繊維100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下である。上記含有率は、セルロース繊維の製造容易性の観点から、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上であってもよい。
【0038】
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。
【0039】
一態様において、セルロース繊維中の酸不溶成分平均含有率は、セルロース繊維の耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、セルロース繊維100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、セルロース繊維の製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
【0040】
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。
【0041】
セルロース繊維は、化学処理(例えば酸化、又は修飾化剤を用いた化学修飾)がされていてもよい。一例として、Cellulose(1998)5,153-164に示されているような2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカルによってセルロース繊維を酸化させた後に、洗浄、機械解繊を経ることにより得られる、微細化セルロース繊維を使用してもよい。
【0042】
セルロースの修飾化剤としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤が挙げられる。好ましい態様において、化学修飾は、エステル化剤を用いたアシル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステルが好ましい。
【0043】
酸ハロゲン化物は、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってよい。
-C(=O)-X (1)
(式中、Rは炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~24のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基を表し、XはCl、Br又はIである。)
酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。尚、酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として働くと同時に副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物;が挙げられるが、これに限定されない。
【0044】
酸無水物としては、任意の適切な酸無水物類を用いることができる。例えば、
酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;
シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸無水物;
安息香酸、4-メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;
二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、無水1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸、及び、無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等;
3塩基以上の多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。
尚、酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又は金属塩化物、金属トリフラート等のルイス酸、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0045】
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式(1):
R-COO-CH=CH2 …式(1)
{式中、Rは、炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基のいずれかである。}で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。カルボン酸ビニルエステルによるエステル化反応のとき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上を添加しても良い。
【0046】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。 アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
【0047】
1~3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0048】
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0049】
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
【0050】
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0051】
これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、及び酪酸ビニルからなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
【0052】
本実施形態の化学修飾セルロース繊維の修飾度は水酸基の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数、DSともいう)として表される。一態様において、化学修飾セルロース繊維のDSは0.01以上2.0以下が好ましい。DSが0.01以上であれば、熱分解開始温度が高い化学修飾セルロースを含む樹脂組成物を得ることができる。一方、2.0以下であると、化学修飾セルロース中に未修飾のセルロース骨格が残存するため、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高い熱分解開始温度を兼ね備えた化学修飾セルロースを含む樹脂組成物を得ることができる。DSはより好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上、特に好ましくは0.2以上、最も好ましくは0.3以上であって、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。
【0053】
化学修飾セルロース繊維の修飾基がアシル基の場合、アシル置換度(DS)は、エステル化セルロース繊維の反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する(図1及び2参照)。エステル化セルロース繊維のDSは、後述するエステル化セルロース繊維の固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
【0054】
固体NMRによるエステル化セルロース繊維のDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化セルロース繊維について13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
【0055】
化学修飾セルロース繊維の繊維全体の修飾度(DSt)(これは上記のアシル置換度(DS)と同義である。)に対する繊維表面の修飾度(DSs)の比率で定義されるDS不均一比(DSs/DSt)は、好ましくは1.05以上である。DS不均一比の値が大きいほど、鞘芯構造様の不均一構造(すなわち、繊維表層が高度に化学修飾される一方で繊維中心部が元の未修飾に近いセルロースの構造を保持している構造)が顕著であり、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性を有しつつ、樹脂との複合化時の樹脂との親和性の向上、及び樹脂組成物の寸法安定性の向上が可能である。DS不均一比は、より好ましくは、1.1以上、又は1.2以上、又は1.3以上、又は1.5以上、又は2.0であり、化学修飾セルロース繊維の製造容易性の観点から、好ましくは、30以下、又は20以下、又は10以下、又は6以下、又は4以下、又は3以下である。
DSsの値は、エステル化セルロースの修飾度に応じて変わるが、一例として、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上、さらに好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上であり、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。DStの好ましい範囲は、アシル置換基(DS)について前述したとおりである。
【0056】
化学修飾セルロース繊維のDS不均一比の変動係数(CV)は、小さいほど、樹脂組成物の各種物性のバラつきが小さくなるため好ましい。上記変動係数は、好ましくは、50%以下、又は40%以下、又は30%以下、又は20%以下である。上記変動係数は、例えば、セルロース原料を解繊した後に化学修飾を行って化学修飾セルロース繊維を得る方法(すなわち逐次法)ではより低減され得る一方、セルロース原料の解繊と化学修飾とを同時に行う方法(すなわち同時法)では増大され得る。この作用機序は明確になっていないが、同時法では、解繊の初期に生成した細い繊維において化学修飾がより進行しやすく、そして、化学修飾によってセルロースミクロフィブリル間の水素結合が減少すると解繊がさらに進行する結果、DS不均一比の変動係数が増大すると考えられる。
【0057】
DS不均一比の変動係数(CV)は、化学修飾セルロース繊維の水分散体(固形分率10質量%以上)を100g採取し、10gずつ凍結粉砕したものを測定サンプルとし、10サンプルのDSt及びDSsからDS不均一比を算出した後、得られた10個のサンプル間でのDS不均一比の標準偏差(σ)及び算術平均(μ)から、下記式で算出できる。
DS不均一比=DSs/DSt
変動係数(%)=標準偏差σ/算術平均μ×100
【0058】
DSsの算出方法は以下のとおりである。すなわち、凍結粉砕により粉末化したエステル化セルロースを2.5mmφの皿状試料台に載せ、表面を抑えて平らにし、X線光電子分光法(XPS)による測定を行う。XPSスペクトルは、サンプルの表層のみ(典型的には数nm程度)の構成元素及び化学結合状態を反映する。得られたC1sスペクトルについてピーク分離を行い、セルロースのピラノース環由来の炭素C2-C6帰属されるピーク(289eV、C-C結合)の面積強度(Ixp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるピークの面積強度(Ixf)より下記式で求めることができる。
DSs=(Ixf)×5/(Ixp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、C1sスペクトルを285eV、286eV,288eV,289eVでピーク分離を行った後、Ixpには289evのピークを、Ixfにはアセチル基のO-C=O結合由来のピーク(286eV)を用いれば良い。
用いるXPS測定の条件は例えば以下の通りである。
使用機器 :アルバックファイVersaProbeII
励起源 :mono.AlKα 15kV×3.33mA
分析サイズ :約200μmφ
光電子取出角 :45°
取込領域
Narrow scan:C 1s、O 1s
Pass Energy:23.5eV
【0059】
一態様において、繊維状物質は合成高分子繊維である。合成高分子繊維としては、ポリアミド(例えばポリアミド66)繊維、アラミド繊維、ケブラー、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリウレタン繊維、及び、これらを後述する解繊方法によって更に解繊したナノ繊維などが挙げられる。
【0060】
合成高分子繊維の製造方法としては、溶融紡糸法、湿式紡糸法、電界紡糸法、炭酸ガスレーザー超音速延伸法、高圧ホモジナイザー解繊、水中対向衝突法などが挙げられる。これらの方法を単一又は複数併用して合成高分子繊維を製造してよい。
【0061】
繊維状物質は、複数の種類を組み合わせて用いても良い。また繊維状物質は、表面修飾剤、界面活性剤等によって表面処理されていても良い。
【0062】
一態様において、繊維状物質は疎水性である。本開示における疎水性とは、極性の低い又は無極性の官能基によって分子の親水性が低くなっている状態を言う。疎水性の繊維状物質の具体例としては、アラミド繊維が挙げられる。繊維状物質がセルロース繊維(一態様においてセルロースナノファイバー)である場合、セルロース自体は親水性の高い物質であるが、セルロースの水酸基を、前述のような方法によって、アセチル化、プロピオニル化、ブチル化、ベンジル化、アダマンチル化などの方法によってエステル化することで、疎水性繊維状物質を得ることができる。
【0063】
<分散媒>
繊維状物質分散液の分散媒としては、水、有機溶媒等の液体媒体を使用できる。有機溶媒としては一般的に用いられる水混和性有機溶媒を使用できる。水混和性有機溶媒としては、ポリオール(例えばポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールのようなポリエーテルポリオール等)、エタノール、メタノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、酢酸、t-ブタノール等を使用できる。取り扱い性の観点から、特に水が好ましい。一態様において、分散液中の分散媒は水である。
【0064】
<増粘剤>
増粘剤は、分散媒の粘度を増大させ、繊維状物質分散液を安定化することができるものであれば特に制限されない。ここでいう安定化としては、繊維状物質分散液の、相分離性の改善(すなわち、繊維状物質と分散媒との親和性の増大)、繊維状物質の凝集抑制、通液性の改善などが挙げられる。
【0065】
分散媒100質量部に対する増粘剤の量は、増粘効果を良好に得る観点から、好ましくは0.0001質量部以上、より好ましくは0.001質量部以上、更に好ましくは0.005質量部以上であり、分散液を用いて樹脂組成物を製造した場合に樹脂組成物中の増粘剤の残存による不都合を回避する観点から、好ましくは、2質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。
【0066】
増粘剤としては、親水性基(例えば、水酸基、アミノ基等)を有するポリマー(例えば、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、多糖類(例えば、セルロース誘導体、デンプン、アルギン酸及びその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)、グアーガム、ジェランガム、ゼラチン等)、ポリビニルアルコール等)、親水性基を有するモノマー(例えば、プロピレングリコール、N-ビニルアセトアミド等)が挙げられる。これらは分散媒(一態様において水を含む分散媒)中で良好な増粘効果を有し、繊維状物質の良好な分散に寄与する。中でも、ポリアクリルアミド、ポリアルキレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、アルギン酸及びその塩、からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0067】
ポリアルキレンオキシドのアルキレンオキシド単位としては、炭素数2~4のアルキレンオキシド、好ましくはエチレンオキシド及びプロピレンオキシドを例示できる。好ましい態様において、ポリアルキレンオキシドは、エチレンオキシド単位及び/又はプロピレンオキシド単位で構成される。特に好ましいポリアルキレンオキシドはポリエチレンオキシドである。
【0068】
セルロース誘導体としては、セルロースエーテル(例えばメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)を例示できる。
【0069】
増粘剤の重量平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは5000以上、更に好ましくは10000以上であり、好ましくは5×10以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは5×10以下である。
【0070】
一態様において、増粘剤は界面活性剤である。界面活性剤は、親水性の置換基を有する部位と疎水性の置換基を有する部位とが共有結合した化学構造を有する。界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、及び陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、繊維状物質の分散液中での沈降をより良好に低減できる点で、非イオン系界面活性剤が好ましい。
【0071】
界面活性剤の親水基としては、繊維状物質(特にセルロース繊維)との親和性の点で、ポリオキシエチレン鎖、カルボキシル基、及び水酸基が好ましく、ポリオキシエチレン鎖が特に好ましい。非イオン系のポリオキシエチレン誘導体は特に好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長は、1以上、又は4以上、又は10以上、又は15以上であってよい。鎖長が長いほど疎水性の繊維状物質との親和性が高まるが、繊維状物質と樹脂とを含む樹脂組成物の特性(例えば機械特性等)とのバランスの観点から、ポリオキシエチレン鎖長は、60以下、又は50以下、又は40以下、又は30以下、又は20以下であってよい。
【0072】
界面活性剤の疎水基の構造としては、樹脂との親和性が高い点で、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型が好ましい。疎水基のアルキル鎖の炭素数(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)は、好ましくは、5以上、又は10以上、又は12以上、又は16以上である。例えば樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合、界面活性剤の炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まる。上記炭素数は、例えば30以下、又は25以下であってよい。
【0073】
一態様において、分散液は、粒子状成分を含む。粒子状成分は、固体又は液体であり得る。固体としては、球状シリカ、セルロースナノクリスタル、ナノクレイ、ナノタルク等を例示でき、液体としては、エマルションにおける分散相(例えば、ポリウレタン、ポリアミド、変性ポリプロピレン、酢酸ビニル、ABS等)を例示できる。粒子状成分のサイズとしては、0.001~20μm、又は0.01~10μm、又は0.1~1μmを例示できる。
【0074】
<分散安定剤>
一態様において、分散液は分散安定剤を更に含んでよい。本開示の分散安定剤とは、繊維状物質を安定に分散させる機能を有し、樹脂中での繊維状物質の分散状態を向上又は制御することによって、分散液を用いて製造される樹脂組成物の力学物性を向上させる化合物を意味する。分散安定剤は、繊維状物質の沈降度αへの寄与が小さいことによって、本開示の増粘剤とは区別される。一態様においては、繊維状物質が濃度0.05質量%で分散している分散液(沈降度Aを有する)100質量部に対して2質量部添加されたときの沈降度(沈降度Bとする)が、関係式:(沈降度B)<(沈降度A)×0.9を満たすものを増粘剤、関係式:(沈降度A)×0.9≦(沈降度B)≦(沈降度A)×1.1を満たすものを分散安定剤とする。好ましい態様においては、繊維状物質が、分散安定剤と、該分散安定剤中に分散された繊維状物質とを含む分散体の形態で樹脂組成物中に分散されている。すなわち樹脂組成物は、好ましくは、分散安定剤中に繊維状物質が分散されてなる分散体が、樹脂中に分散されているものである。繊維状物質と分散安定剤との合計100質量%に対する繊維状物質の質量比率は、好ましくは5質量%以上、又は10質量%以上、又は20質量%以上であり、好ましくは90質量%以下、又は80質量%以下、又は50質量%以下である。分散安定剤は、界面活性剤(増粘剤に包含されるものを除く)、沸点160℃以上の有機化合物、及び繊維状物質を高度に分散可能な化学構造を有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができ、好ましくは、界面活性剤、及び沸点160℃以上の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0075】
分散安定剤としての界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、及び陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、繊維状物質との親和性の点で、陰イオン系界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。
【0076】
界面活性剤の親水基としては、繊維状物質との親和性の点で、ポリオキシエチレン鎖、カルボキシル基、及び水酸基が好ましく、ポリオキシエチレン鎖が特に好ましい。非イオン系のポリオキシエチレン誘導体は特に好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長は、3以上、又は5以上、又は10以上、又は15以上であってよい。鎖長が長いほど繊維状物質(特にセルロース繊維)との親和性が高まるが、樹脂組成物の所望の特性(例えば機械特性)とのバランスの観点から、ポリオキシエチレン鎖長は、60以下、又は50以下、又は40以下、又は30以下、又は20以下であってよい。
【0077】
界面活性剤の疎水基の構造としては、樹脂との親和性が高い点で、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、及び硬化ひまし油型が好ましい。疎水基のアルキル鎖の炭素数(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)は、好ましくは、5以上、又は10以上、又は12以上、又は16以上である。例えば樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合、界面活性剤の炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まる。上記炭素数は、例えば30以下、又は25以下であってよい。
【0078】
疎水基としては、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものがより好ましい。環状構造を有する疎水基としては、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、及びスチレン化フェニル型の基が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型(例えば硬化ひまし油エーテル)の基が好ましい。ロジンエステル型、及び硬化ひまし油型は特に好ましい。
【0079】
好ましい態様において、界面活性剤は、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリプロピレングリコール(PPG)共重合体である。
【0080】
<凝集体>
繊維状物質分散液においては、繊維状物質同士の絡まりによって凝集体が形成されると液組成が不均一になる。凝集体の形成程度は、繊維状物質分散液を適量採取し、2枚の平板(例えばガラス板)に挟み、0.05MPaの力で挟み込むことで押しつぶしたものを観察し、凝集体の個数及び大きさを測定することで評価できる。例えば、0.3gの分散液を採取して上記方法で測定される凝集体の個数は、好ましくは50以下、又は10以下、又は1以下であり、大きさは、好ましくは25mm以下、又は10mm以下、又は1mm以下である。上記の個数及び大きさの値は小さいほど好ましい。
【0081】
<通液性>
繊維状物質分散液を、狭い流路に通すとき、前述した相分離(すなわち液成分の分離・滲出)及び/又は凝集体の形成により、通液性が低下する場合がある。通液性の評価方法としては、適当な目開き(具体的には400μm)のストレーナーに繊維状物質分散液を通液し、詰まりが発生するまでの時間を計測する方法がある。上記方法で測定される通液性は、好ましくは、10分以上、又は1時間以上、又は24時間以上である。分散液の通液性は大きいほど好ましいが、分散液の製造容易性の観点から、例えば、5000時間以下、又は1000時間以下、又は100時間以下であってもよい。
【0082】
<繊維状物質分散液の安定供給性>
繊維状物質分散液の安定供給性の評価方法としては、ポンプ等の移送装置を用いて繊維状物質分散液を移送しようとしたときの供給量及び繊維状物質濃度を経時的に測定し、安定的に繊維状物質分散液を供給できているか判断する方法がある。一態様において、配管内径5mmのチューブポンプを用い、移送条件を、蒸留水が150g/minで移送されるのと同じチューブポンプ回転数として、配管径10mmの樹脂配管への繊維状物質分散液の移送を行い、吐出物を容器に受け、その濃度及び供給量(g/min)を1分ごとに計測したときに、供給量の標準偏差(n=10)が50%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内、濃度の標準偏差(n=10)が30%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内であることが好ましい。
【0083】
本発明の一態様は、
分散媒と、分散媒中に分散している繊維状物質とを含む繊維状物質分散液の送液性を向上させる方法を提供する。該方法は、
繊維状物質分散液から調製された試験用分散液の、下記式(1):
α=1-([A]/[B])・・・(1)
(式(1)中、[A]は分散液底面から分離界面までの高さであり、[B]は分散液底面から分散液上面までの高さである。)
に従って求められる沈降度αが、80%以下となるように、繊維状物質分散液に増粘剤を含有させることを含む。試験用分散液は、繊維状物質分散液中の記繊維状物質の濃度が0.05質量%である場合には繊維状物質分散液自体であり、濃度が0.05質量%でない場合には、濃度が0.05質量%となるように繊維状物質分散液を濃縮又は分散媒と同じ分散媒で希釈されて調製されている。沈降度αの測定方法、試験用分散液の調製方法、及び増粘剤の詳細は前述したのと同様である。
【0084】
≪樹脂組成物≫
本発明の一態様は、繊維状物質と樹脂とを含む樹脂組成物も提供する。一態様において繊維状物質は平均繊維径1~1000nmを有する。一態様において樹脂組成物は増粘剤を含む。一態様において樹脂組成物は本開示の分散液を用いて製造できる。
【0085】
<樹脂>
樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂を用いることができる。樹脂はエラストマーであってもよい。成形性及び生産性の観点から、熱可塑性樹脂がより好ましい。
【0086】
(熱可塑性樹脂)
樹脂が熱可塑性樹脂である場合の当該熱可塑性樹脂の融点は、樹脂組成物の用途等に応じて適宜選択してよい。熱可塑性樹脂の融点としては、例えば比較的低融点の樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂)について、150℃~190℃、又は160℃~180℃、また例えば比較的高融点の樹脂(例えばポリアミド系樹脂)について、220℃~350℃、又は230℃~320℃、を例示できる。
【0087】
熱可塑性樹脂は、好ましくは、ポリオレフィン系樹脂、ポリアセテート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、及びアクリル系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0088】
熱可塑性樹脂として好ましいポリオレフィン系樹脂は、オレフィン類(例えばα-オレフィン類)及び/又はアルケン類をモノマー単位として重合して得られる高分子である。ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、低密度ポリエチレン(例えば線状低密度ポリエチレン)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等に例示されるエチレン系(共)重合体、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体等に例示されるポリプロピレン系(共)重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等に代表されるエチレンとα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0089】
ここで最も好ましいポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンが挙げられる。特に、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されたメルトマスフローレイト(MFR)が、3g/10分以上30g/10分以下であるポリプロピレンが好ましい。MFRの下限値は、より好ましくは5g/10分であり、さらにより好ましくは6g/10分であり、最も好ましくは8g/10分である。また、上限値は、より好ましくは25g/10分であり、さらにより好ましくは20g/10分であり、最も好ましくは18g/10分である。MFRは、樹脂組成物の靱性向上の観点から上記上限値を超えないことが望ましく、樹脂組成物の流動性の観点から上記下限値を超えないことが望ましい。
【0090】
また、繊維状物質(特にセルロース繊維)との親和性を高めるため、酸変性されたポリオレフィン系樹脂も好適に使用可能である。酸変性に用いる酸としては、モノ又はポリカルボン酸を使用でき、例えば、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、フタル酸及びこれらの無水物、並びにクエン酸等を例示できる。変性率の高めやすさから、マレイン酸又はその無水物が特に好ましい。変性方法については特に制限はないが、過酸化物の存在下又は非存在下でポリオレフィン系樹脂を融点以上に加熱して溶融混練する方法が一般的である。酸変性するポリオレフィン樹脂としては前出のポリオレフィン系樹脂をすべて使用可能であるが、ポリプロピレンが特に好適である。酸変性されたポリプロピレン系樹脂は、単独で用いても構わないが、樹脂全体としての変性率を調整するため、変性されていないポリプロピレン系樹脂と混合して使用することがより好ましい。この際のすべてのポリプロピレン系樹脂に対する酸変性されたポリプロピレン系樹脂の割合は、好ましくは0.5質量%~50質量%である。より好ましい下限は、1質量%、又は2質量%、又は3質量%、又は4質量%、又は5質量%である。また、より好ましい上限は、45質量%、又は40質量%、又は35質量%、又は30質量%、又は20質量%である。樹脂と繊維状物質(特にセルロース繊維)との界面強度を維持するためには、下限以上が好ましく、樹脂としての延性を維持するためには、上限以下が好ましい。
【0091】
酸変性されたポリプロピレン系樹脂の、ISO1133に準拠して230℃、荷重21.2Nで測定されるメルトマスフローレイト(MFR)は、樹脂と繊維状物質(特にセルロース繊維)との界面における親和性を高める観点から、好ましくは、50g/10分以上、又は100g/10分以上、又は150g/10分以上、又は200g/10分以上である。上限は特に限定されないが、機械的強度の維持から、好ましくは500g/10分である。
【0092】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアミド系樹脂としては:ラクタム類の重縮合反応により得られるポリアミド(例えばポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等);ジアミン類(例えば1,6-ヘキサンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1-6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,7-ヘプタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、m-キシリレンジアミン等)とジカルボン酸類(例えばブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ベンゼン-1,2-ジカルボン酸、ベンゼン-1,3-ジカルボン酸、ベンゼン-1,4ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸等)との共重合体として得られるポリアミド(例えばポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12、ポリアミド6,T、ポリアミド6,I、ポリアミド9,T、ポリアミド10,T、ポリアミド2M5,T、ポリアミドMXD,6、ポリアミド6、C、ポリアミド2M5,C等);及びこれらがそれぞれ共重合された共重合体(例えばポリアミド6,T/6,I等)、が挙げられる。
【0093】
これらポリアミド系樹脂の中でも、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,6、ポリアミド6,10、ポリアミド6,11、ポリアミド6,12等の脂肪族ポリアミド、及び、ポリアミド6,C、ポリアミド2M5,C等の脂環式ポリアミドがより好ましい。
【0094】
樹脂組成物の耐熱性を良好にする観点から、ポリアミド系樹脂の融点は、好ましくは220℃以上、又は230℃以上、又は240℃以上、又は245℃以上、又は250℃以上であり、樹脂組成物の製造容易性の観点から、上記融点は、好ましくは、350℃以下、又は320℃以下、又は300℃以下である。
【0095】
ポリアミド系樹脂の末端カルボキシル基濃度に特に制限はないが、好ましくは、20μモル/g以上、又は30μモル/g以上であり、好ましくは、150μモル/g以下、又は100μモル/g以下、又は80μモル/g以下である。
【0096】
ポリアミド系樹脂において、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、繊維状物質(特にセルロース繊維)の樹脂組成物中での分散性の観点から、好ましくは、0.30以上、又は0.35以上、又は0.40以上、又は0.45以上であり、樹脂組成物の色調の観点から、好ましくは、0.95以下、又は0.90以下、又は0.85以下、又は0.80以下である。
【0097】
ポリアミド系樹脂の末端基濃度は、公知の方法で調整できる。調整方法としては、ポリアミドの重合時に、所定の末端基濃度となるように末端基と反応する末端調整剤(例えば、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコール等)を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0098】
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格等の点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0099】
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0100】
ポリアミド系樹脂のアミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めることができる。この方法は、精度及び簡便さの点で好ましい。より具体的には、特開平7-228775号公報に記載された方法を用い、測定溶媒として重トリフルオロ酢酸を用い、積算回数を300スキャン以上とすることが推奨される。
【0101】
ポリアミド系樹脂の、濃硫酸中30℃の条件下で測定した固有粘度[η]は、樹脂組成物を例えば射出成形する際に、金型内流動性が良好で成形片の外観が良好であるという観点から、好ましくは、0.6~2.0dL/g、又は0.7~1.4dL/g、又は0.7~1.2dL/g、又は0.7~1.0dL/gである。本開示において、「固有粘度」とは、一般的に極限粘度と呼ばれている粘度と同義である。固有粘度は、96%濃硫酸中、30℃の温度条件下で、濃度の異なるいくつかの測定溶媒のηsp/cを測定し、そのそれぞれのηsp/cと濃度(c)との関係式を導き出し、濃度をゼロに外挿する方法で求められる。このゼロに外挿された値が固有粘度である。上記方法の詳細は、例えば、Polymer Process Engineering(Prentice-Hall,Inc 1994)の291ページ~294ページ等に記載されている。上記の濃度の異なるいくつかの測定溶媒における濃度は、少なくとも4点(例えば、0.05g/dL、0.1g/dL、0.2g/dL、0.4g/dL)とすることが精度の観点から望ましい。
【0102】
熱可塑性樹脂として好ましいポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリアリレート(PAR)等から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。中でも、PET、PBS、PBSA、PBT及びPENがより好ましく、PBS、PBSA、及びPBTが特に好ましい。
【0103】
ポリエステル系樹脂の末端基は、重合時のモノマー比率、末端安定化剤の添加の有無及び量、等によって任意に変えることができる。ポリエステル系樹脂の全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、樹脂組成物中の繊維状物質(特にセルロース繊維)の分散性の観点から、好ましくは、0.30以上、又は0.35以上、又は0.40であり、又は0.45であり、樹脂組成物の色調の観点から、好ましくは、0.95以下、又は0.90以下、又は0.85以下、又は0.80以下である。
【0104】
熱可塑性樹脂として好ましいポリアセタール系樹脂としては、ホルムアルデヒドを原料とするホモポリアセタールと、トリオキサンを主モノマーとし、1,3-ジオキソランをコモノマー成分として含むコポリアセタールとが一般的であり、両者とも使用可能であるが、加工時の熱安定性の観点から、コポリアセタールが好ましい。コモノマー成分(例えば1,3-ジオキソラン)由来構造の量は、押出加工及び成形加工時の熱安定性の観点から、好ましくは、0.01モル%以上、又は0.05モル%以上、又は0.1モル%以上、又は0.2モル%以上であり、機械的強度の観点から、好ましくは、4モル%以下、又は3.5モル%以下、又は3.0モル%以下、又は2.5モル%以下、又は2.3モル%以下である。
【0105】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、グリシジルメタアクリレート共重合系エポキシ樹脂、シクロヘキシルマレイミドとグリシジルメタアクリレートとの共重合エポキシ樹脂、エポキシ変性のポリブタジエンゴム誘導体、CTBN変性エポキシ樹脂、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、フェニル-1,3-ジグリシジルエーテル、ビフェニル-4,4’-ジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコール又はプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリス(2,3-エポキシプロピル)イソシアヌレート、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂、フェノキシ樹脂、尿素(ユリア)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環含有樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、ノルボルネン系樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリアゾメチン樹脂、熱硬化性ポリイミド等が挙げられる。
【0106】
(光硬化性樹脂)
光硬化性樹脂としては、(メタ)アクリレート樹脂、ビニル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、反応機構により、概ね光により発生したラジカルによりモノマーが反応するラジカル反応型と、モノマーがカチオン重合するカチオン反応型とに分類される。ラジカル反応型のモノマーには、(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物(例えばある種のビニルエーテル)等が該当する。カチオン反応型としては、エポキシ化合物、ある種のビニルエーテル等が該当する。なお、例えば、カチオン反応型として用いることができるエポキシ化合物は、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂の両者のモノマーとなり得る。
【0107】
(メタ)アクリレート化合物は、(メタ)アクリレート基を分子内に一つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレート化合物としては、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられる。
【0108】
ビニル化合物としては、ビニルエーテル、スチレン及びスチレン誘導体等が挙げられる。ビニルエーテルとしては、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル等が挙げられる。スチレン誘導体としては、メチルスチレン、エチルスチレン等が挙げられる。その他のビニル化合物としては、トリアリルイソイシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0109】
光硬化性樹脂の原料として、いわゆる反応性オリゴマーを用いてもよい。反応性オリゴマーとしては、(メタ)アクリレート基、エポキシ基、ウレタン結合、及びエステル結合から選ばれる任意の組合せを同一分子内に併せ持つオリゴマー、例えば、(メタ)アクリレート基とウレタン結合とを同一分子内に併せ持つウレタンアクリレート、(メタ)アクリレート基とエステル結合とを同一分子内に併せ持つポリエステルアクリレート、エポキシ樹脂から誘導され、エポキシ基と(メタ)アクリレート基とを同一分子内に併せ持つエポキシアクリレート、等が挙げられる。
【0110】
(エラストマー)
エラストマー(すなわちゴム)としては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、改質天然ゴム(エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム、脱タンパク天然ゴム等)、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0111】
樹脂(一態様において熱可塑性樹脂)100質量部に対する繊維状物質の量は、好ましくは0.001~100質量部の範囲内である。繊維状物質の量の下限は、より好ましくは0.01質量部、さらに好ましくは0.1質量部、最も好ましくは1質量部である。繊維状物質の量の上限は、より好ましくは80質量部、さらに好ましくは70質量部、最も好ましくは50質量部である。加工性と機械的特性のバランスの観点から、繊維状物質の量を上述の範囲内とすることが望ましい。
【0112】
一態様において、樹脂(一態様において熱可塑性樹脂)100質量部に対する増粘剤の量は、好ましくは、0.00001質量部以上、又は0.0001質量部以上、又は0.001質量部以上、又は0.01質量部以上であってよく、好ましくは、5質量部以下、又は3質量%以下、又は1質量%以下、又は0.5質量%以下であってよい。
【0113】
本開示の樹脂組成物の、引張降伏伸度TEyと引張破断伸度TEbとの比(TEb/TEy)は、繊維状物質の分散性向上による伸度向上の観点から大きい方が好ましく、1.0以上、又は1.5以上、又は2.0以上が好ましい。上記比が大きい場合、樹脂組成物は破断前に降伏し、良好な伸度を発現する。上記比は、伸度向上の観点からは大きい程好ましいが、製造容易性の観点から、一態様において、1000以下、又は100以下、又は10以下であってよい。
【0114】
本開示の樹脂組成物が増粘剤を含む場合、当該樹脂組成物の引張強度の、増粘剤を含まない他は同組成である比較樹脂組成物の引張強度に対する比は、繊維状物質の分散性向上による強度向上の観点から大きい方が好ましく、1.01倍以上、又は1.05倍以上、又は1.10倍以上、又は1.15倍以上が好ましい。上記比は、伸度向上の観点からは大きい程好ましいが、製造容易性の観点から、一態様において、100倍以下、又は10倍以下、又は5倍以下であってよい。
【0115】
≪樹脂組成物の製造方法≫
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、本開示の繊維状物質分散液、又は当該分散液を乾燥させて得た乾燥体(以下、単に乾燥体ともいう。)を熱可塑性樹脂と混練して樹脂組成物を製造できる。樹脂組成物のより具体的な製造方法としては、
-樹脂モノマーと繊維状物質分散液又は乾燥体とを混合し、重合反応を行い、得られた樹脂組成物をストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と繊維状物質分散液又は乾燥体との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と繊維状物質分散液又は乾燥体との混合物を溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体を得る方法、
-単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と繊維状物質分散液又は乾燥体との混合物を溶融混練し、Tダイより押出しシート、又はフィルム状の成形体を得る方法、
等が挙げられる。好ましい態様においては、単軸又は二軸押出機を用いて、樹脂と繊維状物質分散液又は乾燥体との混合物を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体を得る。
樹脂と繊維状物質分散液又は乾燥体の溶融混練方法の具体例としては、樹脂と、所望の比率で搬送された繊維状物質分散液又は乾燥体とを混合した後、溶融混練する方法が挙げられる。
樹脂が熱可塑性樹脂である場合、熱可塑性樹脂供給業者が推奨する最低加工温度は、ナイロン66では255~270℃、ナイロン6では225~240℃、ポリアセタール樹脂では170℃~190℃、ポリプロピレンでは160~180℃である。加熱設定温度は、これらの推奨最低加工温度より20℃高い温度の範囲が好ましい。混合温度をこの温度範囲とすることにより、繊維状物質と樹脂とを均一に混合することができる。
【0116】
樹脂として熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
【0117】
樹脂として熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に関しては特に制限はなく、いずれの製造方法でも構わないが、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、発泡成形法などが使用可能である。これらの中では射出成形法がデザイン性とコストの観点より、最も好ましい。
【0118】
樹脂が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂である場合、例えば、樹脂溶液又は樹脂粉末分散体中に繊維状物質分散液又は乾燥体を十分に分散させて乾燥する方法、樹脂モノマー液中に繊維状物質分散液又は乾燥体を十分に分散させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法、繊維状物質分散液の乾燥体からなる成形体(例えば、シート、粉末粒子成形体等)に樹脂溶液又は樹脂粉末分散体を十分に含浸させて乾燥する方法、繊維状物質分散液の乾燥体からなる成形体に樹脂モノマー液を十分に含浸させて熱、UV照射、重合開始剤等によって重合する方法等によって、樹脂組成物を製造できる。硬化に際し、種々の重合開始剤、硬化剤、硬化促進剤、重合禁止剤等を配合することができる。
【0119】
樹脂が熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂である場合、未硬化又は半硬化のプリプレグと呼ばれるシートを作製した後、プリプレグを単層又は積層にして、加圧及び加熱によって樹脂を硬化及び成形する方法を用いてよい。加圧及び加熱の方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等が挙げられる。
【0120】
樹脂が光硬化性樹脂である場合、活性エネルギー線を用いた各種硬化方法を用いて樹脂成形体を製造できる。
【0121】
樹脂がエラストマーである場合、繊維状物質分散液の乾燥体と原料ゴムとを乾式で混練する方法、繊維状物質分散液の分散体又は乾燥体と原料ゴムとを分散媒中に分散又は溶解させた後、乾燥させて混合する方法等によって、樹脂組成物を製造できる。混合方法としては、高い剪断力と圧力とをかけ、分散を促進できる点で、ホモジナイザーによる混合方法が好ましいが、その他、プロペラ式攪拌装置、ロータリー攪拌装置、電磁攪拌装置、手動による攪拌、等の方法を用いることもできる。エラストマーを含む樹脂組成物を、金型成形、射出成形、押出成形、中空成形、発泡成形等の所望の成形方法を用いて成形し、シート、ペレット、粉末等の所望の形状の未加硫の成形体を得ることができる。未加硫の成形体を、必要に応じて熱処理等で加硫して、樹脂成形体を得ることができる。
【0122】
熱可塑性樹脂又はエラストマーを含む樹脂成形体は、その一部(例えば数箇所)を加熱処理して溶融させ、例えば樹脂又は金属の基板に接着して用いても構わない。また、樹脂成形体は、樹脂又は金属の基板に塗布された塗膜であってもよく、基板との積層体を形成してもよい。また、シート状、フィルム状又は繊維状の樹脂成形体には、アニール処理、エッチング処理、コロナ処理、プラズマ処理、シボ転写、切削、表面研磨等の二次加工を行っても構わない。
【0123】
本開示の樹脂組成物は、繊維状物質の搬送性が向上されていることで、安定な製造が可能であり、バラツキが少なく、安定した物性を発現することができる。
【実施例0124】
本発明を実施例に基づいて更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0125】
[原料及び評価方法]
以下に、使用した原料及び、評価方法について説明する。
【0126】
≪熱可塑性樹脂(ポリアミド樹脂)≫
・「UBEナイロン 1013B」宇部興産株式会社製
ポリアミド6(以下、PAと称す。)
カルボキシル末端基比率が、([COOH]/[全末端基])=0.59
【0127】
≪熱可塑性樹脂(ポリプロピレン樹脂)≫
・プライムポリプロ J105G プライムポリマー製
【0128】
≪繊維状物質(セルロース繊維)≫
・セルロース繊維A(以下、CNF-Aと略すことがある)
ろ紙を裁断後、1質量部、一軸撹拌機(アイメックス社製 DKV-1 φ125mmディゾルバー)を用いジメチルスルホキサイド(DMSO)30質量部中で500rpmにて1時間、常温で攪拌した。続いて、ホースポンプでビーズミル(アイメックス社製 NVM-1.5)にフィードし、DMSOのみで180分間循環運転させ、固形分率3.2質量%の微細セルロース繊維スラリー(S1、DMSO溶媒)を31質量部得た。
循環運転の際、ビーズミルの回転数は2500rpm、周速12m/sとし、用いたビーズはジルコニア製で、φ2.0mm、充填率70%とした(ビーズミルのスリット隙間は0.6mmとした)。また、循環運転の際は、摩擦による発熱を吸収するためにチラーによりスラリー温度を40℃に温度管理した。
スラリーS1に純水30質量部を加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度30質量部の純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、DMSOを除去し、固形分率10質量%の微細セルロース繊維ケーキ(K1、水溶媒)を10質量部得た。
【0129】
(アセチル化工程)
得られたセルロース繊維前駆体Aをアセチル化し、セルロース繊維Aを得た。
実施例2におけるスラリーS2を防爆型ディスパーザータンクに投入した後、酢酸ビニル3.2質量部、炭酸水素ナトリウム0.49質量部を加え、タンク内温度を50℃とし、120分間撹拌を行い、固形分率2.9質量%のスラリー(DMSO溶媒)を35質量部得た。反応を停止するため、純水30質量部を加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度30質量部の純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返すことで、未反応試薬及び溶媒等を除去し、固形分率10質量%のアセチル化された微細セルロース繊維ケーキ(K3、水溶媒)を10質量部得た。
平均繊維径=90nm
結晶化度=80%
変性度(DS)=1.02
Mw=360000、Mw/Mn=2
アルカリ可溶多糖類平均含有率=8.3質量%
【0130】
・セルロース繊維B(以下、CNF-Bと略すことがある)
タンク内温度を40℃、攪拌時間を60分とした他はCNF-Aの製造と同様の手順で、CNF-Bのスラリーを得た。得られたCNFの特性を後述の方法で評価した。結果を下記に示す。
平均繊維径=90nm
結晶化度=82%
変性度(DS)=0.50
Mw=410000、Mw/Mn=3.2
アルカリ可溶多糖類平均含有率=7.1質量%
【0131】
・セルロース繊維C(以下、CNF-Cと略すことがある)
タンク内温度を30℃、攪拌時間を30分とした他はCNF-Aの製造と同様の手順で、CNF-Bのスラリーを得た。得られたCNFの特性を後述の方法で評価した。結果を下記に示す。
平均繊維径=92nm
結晶化度=84%
変性度(DS)=0.30
Mw=380000、Mw/Mn=2.5
アルカリ可溶多糖類平均含有率=7.5質量%
【0132】
≪セルロース繊維の評価≫
セルロース繊維の物性は下記手法で作製された多孔質シートを用いて評価した。
[多孔質シート]
まず、ウェットケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。セルロース繊維固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過し、150℃にて乾燥させた後、ろ紙を剥離してシートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0133】
[DS]
多孔質シートの5か所のATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000~600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
得られたIRスペクトルよりIRインデックスを、下記式(1):
IRインデックス= H1730/H1030・・・(1)
に従って算出した。式中、H1730及びH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、各測定場所の平均置換度をIRインデックスより下記式(2)に従って算出し、その平均値をDSとした。
DS=4.13×IRインデックス・・・(2)
【0134】
[結晶化度]
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
【0135】
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
【0136】
[平均繊維径]
ウェットケーキをtert-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型顕微鏡で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロース繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロース繊維の長径(L)を測定し、100本のセルロース繊維の加算平均を算出した。
【0137】
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比]
多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN、N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN、N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N-ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。セルロースを溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC-8120
カラム:TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N、N-ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
【0138】
[アルカリ可溶多糖類平均含有率]
アルカリ可溶多糖類含有率はセルロース繊維について非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求めた。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をセルロース繊維のアルカリ可溶多糖類平均含有率とした。
【0139】
≪繊維状物質(アラミド繊維 PA-Fiber)≫
市販のアラミド繊維として、ダイセルファインケム製のティアラKY400Sを使用した。
≪木粉≫
スギ木材をカッターミルにより2~5mm程度に粉砕し、木粉を得た。
【0140】
≪増粘剤≫
市販の増粘剤として、
ポリアクリルアミド MTアクアポリマー製のアコフロックN-104
カルボキシメチルセルロースナトリウム 東京化成工業製
ヒドロキシプロピルセルロース 東京化成工業製
ヒドロキシエチルセルロース 東京化成工業製
ポリアクリル酸 富士フイルム和光純薬製
ポリビニルアルコール 東京化成工業製
N-ビニルアセトアミド 東京化成工業製
ポリエチレンオキシド 明成化学製のアルコックスE-300
プロピレングリコール 東京化成工業製
可溶性でんぷん ナカライテスク製
グアーガム 東京化成工業製
ジェランガム ナカライテスク製
ゼラチン ナカライテスク製
アルギン酸ナトリウム ナカライテスク製
を使用した。
【0141】
≪粒子状成分≫
市販の粒子状成分として、球状シリカ スノーテックス(親水性、50nm) 日産化学製を使用した。
【0142】
≪界面活性剤≫
市販の界面活性剤としてPEG-PPG GL-3000 三洋化成製、硬化ひまし油エーテル RCW-20 青木油脂製を使用した。
【0143】
≪繊維状物質分散液の調製と評価≫
得られた繊維状物質と蒸留水と上記市販の増粘剤、粒子状成分、界面活性剤とを表1及び2に示す割合で混合した後、300rpmで回転する撹拌羽で1時間撹拌して、繊維状物質分散液を調製した。
【0144】
[沈降度α]
得られた繊維状物質分散液に、繊維状物質が0.05質量%になるよう蒸留水を添加して試験用分散液を調製した。試験用分散液20mlを30ml容量のガラスバイアルに分取した後、ホモジナイザー(回転数10000rpm、1分間)で分散させ、その後素早く試験用分散液8mlを15ml容量のネジ口試験管(内径12mm)に入れて密封し、手動で振り混ぜて分散液を一様にした。このときの分散液の波長850nmにおける透過度(以下、初期透過度ともいう。)を、液中分散安定性評価装置 Turbiscan(FORMULACTION社製)を用いて測定した。また、この試験管を23℃で24時間静置した後、分散液の底面から分離界面までの高さと、分散液底面から分散液上面までの高さとを、上記液中分散安定性評価装置を用い、上記波長で透過度50%になる高さを分離界面と定義して測定し、下記式(1):
α=1-([A]/[B])・・・(1)
(式(1)中、[A]は分散液底面から分離界面までの高さであり、[B]は分散液底面から分散液上面までの高さである。)
に従って、沈降度αを求めた。なお、上記の透過度50%になる高さが画定されない場合には、上記初期透過度よりも透過度が高い領域を上澄部、低い領域を堆積部とし、上澄部と体積部との境界を分離界面と定義し、上記(1)に従って沈降度αを求めた。沈降度αが小さいほど、繊維状物質分散液としての安定性に優れ、後述するポンプでの供給安定性が良好で、分散液を移送する上での取り扱い性に優れるため、工業的に有用である。また、沈降度αが小さいほど、繊維状物質の分散性が良好であり、したがって樹脂組成物の機械特性(特に引張伸度及び引張強度)が良好である。
【0145】
[分散性]
繊維状物質分散液を十分に撹拌した後、1滴(約0.3mL)をスライドグラス上に滴下し、2枚のスライドグラスで0.05MPaの力で挟みこむことで、配管内での圧搾を再現した。この方法で観察される直径(すなわち最大差し渡し長さ)1mm以上の凝集体の個数により、分散性を評価した。
A・・・0個
B・・・1個
C・・・2~10個
D・・・11個以上
【0146】
[供給量及び濃度安定性]
配管内径5mmのチューブポンプを用い、移送条件を、蒸留水を150g/minで移送する回転数として、配管径10mmの樹脂配管への繊維状物質分散液の移送を行い、吐出物を容器に受け、その濃度及び供給量(g/min)を1分ごとに計測し、供給量安定性及び濃度安定性を以下の基準で評価した。
(供給量安定性)
A・・・30分間の運転でポンプの詰まりが無く、供給量の標準偏差が5%以内
B・・・30分間の運転でポンプの詰まりが無く、供給量の標準偏差が5%超10%以内
C・・・5~30分の運転でポンプが詰まる若しくは、供給量の標準偏差が10%超50%以内
D・・・5分未満でポンプが詰まり、運転不能
(濃度安定性)
A・・・濃度の標準偏差が5%以内
B・・・濃度の標準偏差が5%超10%以内
C・・・濃度の標準偏差が10%超30%以内
D・・・濃度の標準偏差が30%超
【0147】
≪樹脂組成物の調製と評価≫
繊維状物質分散液をプラネタリーミキサー(プライミクス株式会社、商品名「ハイビスミックス2P-1」)中で50rpm、10分間、25℃、大気圧で撹拌処理した後、ジャケット温度80℃、-0.1MPaの減圧条件、50rpmで8時間減圧乾燥処理を行い、繊維状物質乾燥体を得た。
【0148】
得られた繊維状物質と熱可塑性樹脂とをシリンダーブロック数が13個ある二軸押出機(STEER社製 OMEGA30H、L/D=60)を用いて表1及び2に示す割合で下記条件で溶融混練し、繊維状物質強化熱可塑性樹脂のペレットを得た。
(溶融混練条件)
回転数:300rpm
シリンダー温度:250℃(実施例35及び比較例15以外について)又は200℃(実施例35及び比較例15について)
【0149】
[引張降伏強度、引張降伏伸度(TEy)、引張破断伸度(TEb)]
最大型締圧力75トンの射出成形機を用いて、ISO294-3に準拠した多目的試験片を成形し、JIS K6920-2に準拠した条件でn=10で実施した。なお、ポリアミド樹脂は、吸湿による変化が起きるため、成形直後にアルミ防湿袋に保管し、吸湿を抑制した。
引張降伏伸度(TEy)と引張破断伸度(TEb)との比[TEb/TEy]を算出した。
【0150】
表1及び2から明らかなように、実施例1~28で得られた繊維状物質分散液は、増粘剤を含む繊維状物質分散液であって繊維状物質が高度に分散しているため、分散性に加えて、ポンプ移送時の供給量及び供給濃度の安定性に優れていた。一方、比較例1~8の繊維状物質分散液は、繊維状物質が低濃度であっても移送時の供給量や濃度が安定せず、ポンプ内での詰まりが発生し、繊維状物質が高濃度になると、送液ができない状態となった。
【0151】
表3から明らかなように、実施例29~40で得られた繊維状物質強化熱可塑性樹脂は、増粘剤による保水効果により、繊維状物質の凝集が抑制され、繊維状物質が高度に分散しているために、引張強度及び引張伸度に優れていた。一方、比較例9~15の繊維状物質強化熱可塑性樹脂は、繊維状物質の分散が不十分であるために、いずれも実施例よりも劣る引張強度及び引張伸度であった。
【0152】
【表1】
【0153】
【表2】
【0154】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0155】
本開示の繊維状物質分散液は、繊維状物質の高度の分散によって高い強度を樹脂成形体に与えることができるため、例えば自動車の内装材料及び外装材料用途等の分野で好適に利用できる。
図1
図2