(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025020282
(43)【公開日】2025-02-12
(54)【発明の名称】AIチップオンチップ臨床予測エンジン
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6837 20180101AFI20250204BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20250204BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20250204BHJP
G06Q 50/10 20120101ALI20250204BHJP
【FI】
C12Q1/6837 Z
C12Q1/02
C12M1/00 A
G06Q50/10
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024192558
(22)【出願日】2024-11-01
(62)【分割の表示】P 2023519276の分割
【原出願日】2021-09-26
(31)【優先権主張番号】63/082,561
(32)【優先日】2020-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】523108267
【氏名又は名称】クリス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ベントウィッチ イザック
(72)【発明者】
【氏名】ハラン ヨッシ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】薬物の特徴を評価する方法を提供する。
【解決手段】組織試料を前記薬物で処理する工程と、前記組織試料から、処理された前記組織試料の少なくとも1つの特徴を抽出する工程と、前記少なくとも1つの特徴をエンジンに提供する工程と、前記エンジンから予測を取得する工程と、前記予測を前記薬物と関連付ける工程とを含む方法であって、一態様として、前記少なくとも1つの特徴が複数の特徴を含み、前記複数の特徴からの各特徴が、前記組織を前記薬物で処理した後の所定の時間に前記組織試料から抽出される方法、とする。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物の特徴を評価する方法であって、
組織試料を前記薬物で処理する工程と、
前記組織試料から、処理された前記組織試料の少なくとも1つの特徴を抽出する工程と、
前記少なくとも1つの特徴をエンジンに提供する工程と、
前記エンジンから予測を取得する工程と、
前記予測を前記薬物と関連付ける工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの特徴が複数の特徴を含み、前記複数の特徴からの各特徴が、前記組織を前記薬物で処理した後の所定の時間に前記組織試料から抽出される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの特徴が、化学的又は生物学的試験を前記組織に適用することよって取得される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの特徴が、前記組織の画像を取り込み、画像解析技術を使用して前記画像から特徴を抽出することによって取得される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記エンジンが人工知能(AI)エンジンである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記AIエンジンが、畳み込みニューラルネットワーク、ディープニューラルネットワーク、又はランダムフォレストエンジンである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記予測が前記薬物の毒性レベルに関連する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記エンジンを生成する工程をさらに含み、この生成する工程が、
複数の組織試料を複数の薬物で処理することであって、前記複数の薬物からの各薬物は特性と関連する処理すること、
前記複数の組織試料の少なくともいくつかから少なくとも1つの特徴を抽出すること、
前記複数の組織試料の少なくともいくつかからの前記少なくとも1つの特徴及び前記組織試料を処理した前記薬物に関連する前記特性を人工知能(AI)訓練モジュールに提供すること、並びに
訓練されたAIエンジンを取得すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記エンジンを生成する工程をさらに含み、この生成する工程が、
複数の組織試料を複数の薬物で処理することであって、前記複数の薬物からの各薬物は特性と関連する処理すること、
前記複数の組織試料の少なくともいくつかから少なくとも1つの特徴を抽出すること、
前記複数の組織試料の少なくともいくつかからの前記少なくとも1つの特徴及び前記組織試料を処理した前記薬物に関連する前記特性を人工知能(AI)訓練モジュールに提供すること、並びに
訓練されたAIエンジンを取得すること
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ヒトチップデバイスであって、
複数のヒューマノイドを含む第1の生物学的チップであって、前記複数のヒューマノイドの各々は複数のオルガノイドチャンバを含み、前記オルガノイドチャンバの各々は少なくとも1つのオルガノイドを含有する第1の生物学的チップと、
第2の生物学的チップであって、
前記第1のチップの前記複数のオルガノイドチャンバから測定値を収集するように動作する複数のセンサ、及び
前記複数のオルガノイドチャンバの少なくとも一部分を流体的に連結する循環チャネル
を含む第2の生物学的チップと、
前記第2のチップを前記第1のチップに対して移動させるように動作するアクチュエータと
を含むデバイス。
【請求項11】
前記アクチュエータの動作を制御するためのコントローラと、前記第2の生物学的チップを前記第1の生物学的チップに対して移動させるための一組の規則を含むメモリとをさらに含む請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
循環流体を前記複数のオルガノイドチャンバのうちの少なくとも1つのオルガノイドチャンバにポンピングするように動作するポンプをさらに含む請求項10に記載のデバイス。
【請求項13】
前記循環チャネルを介して前記複数のチャンバに流体を送達するための投与ポートをさらに含む請求項10に記載のデバイス。
【請求項14】
前記オルガノイドチャンバの少なくとも一部分が、二次循環チャネル及び二次ポンプをさらに含む請求項10に記載のデバイス。
【請求項15】
対応するオルガノイドチャンバから抽出された流体を貯蔵するための、前記二次循環チャネルに連結された排出チャンバをさらに含む請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記オルガノイドチャンバの少なくとも一部分がチャンバ弁と連結され、前記チャンバ弁が、前記循環チャネルから前記オルガノイドチャンバへの内容物のフローを可能にするか又は不能にする請求項10に記載のデバイス。
【請求項17】
前記第1の生物学的チップ及び前記第2の生物学的チップのうちの少なくとも1つがマイクロ流体用である請求項10に記載のデバイス。
【請求項18】
前記第2の生物学的チップが、前記複数のオルガノイドチャンバのうちの1つに位置するオルガノイドから単細胞を抽出するための抽出デバイスをさらに含む請求項1に記載のデバイス。
【請求項19】
前記第2の生物学的チップが、前記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞及び前記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞を受け取るように動作する分析器をさらに含み、
前記分析器が、表現型と前記処理との間の相関を決定するようにさらに動作し、前記表現型が、ゲノムデータ及びエピジェネティックデータを含む群から選択される請求項9に記載のデバイス。
【請求項20】
前記複数のセンサのうちの少なくともいくつかが、前記第2の生物学的チップの底部に位置するナノチューブを含み、前記ナノチューブが、前記オルガノイドチャンバから流体を抽出するか又は前記オルガノイドチャンバに流体を送達するように動作する請求項19に記載のデバイス。
【請求項21】
前記複数のヒューマノイドが、それぞれの複数の患者を表し、
前記複数のオルガノイドチャンバが、前記複数の患者の複数の組織を表す複数のオルガノイドを含有し、
前記デバイスが、前記複数の患者における薬物の有効性を予測するように動作する分析器をさらに含む
請求項10に記載のデバイス。
【請求項22】
前記複数のオルガノイドチャンバの上部に位置するオルガノイド蓋をさらに含み、前記オルガノイド蓋が、前記第2の生物学的チップが前記オルガノイドチャンバ内部の内容物にアクセスすることができる開放位置と、前記第2の生物学的チップが前記オルガノイドチャンバ内部の内容物にアクセスすることができる閉鎖位置とを有する請求項10に記載のデバイス。
【請求項23】
前記第1の生物学的チップ及び前記第2の生物学的チップのうちの少なくとも1つがマイクロ流体用である請求項10に記載のデバイス。
【請求項24】
前記オルガノイドに処理を適用する前の細胞の少なくとも1つの測定値及び前記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞を受け取るように動作する分析器をさらに含み、
前記分析器が、表現型と前記処理との間の相関を決定するようにさらに動作し、前記表現型が、ゲノムデータ及びエピジェネティックデータを含む群から選択される請求項10に記載のデバイス。
【請求項25】
異なる数のプローブを有する複数の異なる第2の生物学的チップをさらに含む請求項10に記載のデバイス。
【請求項26】
前記第2の生物学的チップが、センシングされたデータを遠隔デバイスに送信するための送信機をさらに含む請求項10に記載のデバイス。
【請求項27】
前記第2の生物学的チップが複数のプローブをさらに、前記複数のプローブの各プローブが、前記複数のオルガノイドチャンバのうちのオルガノイドチャンバに挿入されるように構成される含み請求項10に記載のデバイス。
【請求項28】
前記複数のプローブのうちの少なくとも1つのプローブが、前記プローブの底部にナノセンサを有する請求項27に記載のデバイス。
【請求項29】
前記複数のプローブのうちの少なくとも1つのプローブが前記プローブの上部にナノセンサを有する請求項27に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薬物開発の効率を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品を開発するプロセスは、二次元組織培養及び動物モデルにおける試験に依拠する。このプロセスは、効果が極めて低く、これがヒト臨床試験において90%を超える失敗につながっている。医薬品を開発し試験するための改善された方法の必要性は満たされていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の好ましい実施形態は、ゲノムセンシング方法であって、生物組織によって発現されるRNA分子の存在を検出する工程を含み、この検出することは、第1の時間における第1の検出及び第2の時間における第2の検出を含み、第2の時間は第1の時間に続き、第2の検出は第1の検出によって影響を受けない方法を提供する。
【0004】
本発明の別の好ましい実施形態は、ゲノムセンシング方法であって、生物組織によって発現されるRNA分子の存在を検出する工程を含み、この検出することは、第1の時間における第1の検出及び第2の時間における第2の検出を含み、第2の時間は第1の時間に続き、第2の検出は第1の検出によって影響を受けず、上記RNA分子は増幅されない方法を提供する。
【0005】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、ゲノムセンシング方法であって、生物組織によって発現される環状RNA分子の存在を検出することを含み、この検出することは、第1の時間における第1の検出及び第2の時間における第2の検出を含み、第2の時間は第1の時間に続き、第2の検出は第1の検出によって影響を受けない方法を提供する。
【0006】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、ゲノムセンシング方法であって、生物組織によって発現される環状RNA分子の存在を検出する工程を含み、この検出することは、第1の時間における第1の検出及び第2の時間における第2の検出を含み、第2の時間は第1の時間に続き、第2の検出は第1の検出によって影響されず、上記環状RNA分子は増幅されない方法を提供する。
【0007】
本発明の別の好ましい実施形態は、チップオンチップ(chip-on-chip)デバイスであって、オルガノイドを含有するオルガノイドチャンバと、このオルガノイドによって発現されるRNA分子の存在を検出するように動作するセンサとを含み、このセンサの動作は上記オルガノイドに影響を与えないチップオンチップデバイスを提供する。
【0008】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、チップオンチップデバイスであって、オルガノイドを含有するオルガノイドチャンバと、このオルガノイドによって発現されるRNA分子の存在を検出するように動作するセンサとを含み、このセンサの動作は上記オルガノイドに影響を与えず、上記RNA分子は増幅されないチップオンチップデバイスを提供する。
【0009】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、チップオンチップデバイスであって、それぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含む複数のヒューマノイドを含むチップと、この複数のオルガノイドのうちの1つによって発現されるRNA分子の存在を検出するように動作するセンサとを含み、このセンサの動作は、上記複数のオルガノイドのうちの上記1つに影響を与えないチップオンチップデバイスを提供する。
【0010】
本発明の別の好ましい実施形態は、臓器チップデバイスであって、第1のチャンバ及び第2のチャンバであって、この第1のチャンバ及び第2のチャンバは隣接し、膜によって隔てられる第1のチャンバ及び第2のチャンバと、この膜の第1の側で第1のチャンバ内で培養される第1の組織層と、上記膜の第2の側で第2のチャンバ内で培養される第2の組織層とを含み、上記膜は上下(鉛直、vertical)方向に存在する臓器チップデバイスを提供する。
【0011】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、チップオンチップシステムであって、複数のヒューマノイドを含む第1のチップであって、この複数のヒューマノイドの各々はそれぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含む第1のチップと、第1のチップ上で複数のアクションを実行するように動作する複数のバイオチップであって、この複数のアクションは、診断動作及びポンピングアクションのうちの少なくとも1つを含む複数のバイオチップと、マイクロ流体チップ及び上記複数のバイオチップを相互動作させるように動作するアクチュエータとを含むチップオンチップシステムを提供する。
【0012】
本発明の別の好ましい実施形態は、上記ポンピングアクションが、上記複数のオルガノイドチャンバのうちの2つ以上を相互接続するマイクロ流体循環を能動的にポンピング及び選択的に経路選定(経路制御、ルーティング)することを含む、システムを提供する。
【0013】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、上記診断アクションが、それぞれの複数のナノセンサを動作させることによって、上記複数のオルガノイドチャンバのサブセットにおける化学物質のレベルを測定することを含む、システムを提供する。
【0014】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、第1のチップ及び第2のチップを含むチップオンチップシステムであって、この第1のチップは複数のヒューマノイドを含み、この複数のヒューマノイドの各々は、それぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含むチップオンチップシステムを提供する。複数のオルガノイドチャンバの各1つは、独立したマイクロ流体循環トンネルを含む。上記第2のチップは、ヒューマノイド内に含まれる複数のオルガノイドチャンバを相互接続するマイクロ流体循環プロセスを実行するように動作し、この循環は、コントローラ又はプロセッサからのコマンドに従って能動的にポンピングされ、選択的に経路選定される。
【0015】
本発明の別の好ましい実施形態は、ハイスループットゲノムヒトチップシステムであって、複数のヒューマノイドを含む第1のチップであって、この複数のヒューマノイドの各々はそれぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含む第1のチップと、それぞれの複数のオルガノイドチャンバ内の環状RNA分子を検出するように動作する複数のセンサを含むバイオチップとを含むハイスループットゲノムヒトチップシステムを提供する。
【0016】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、第1のチップであって、複数のヒューマノイドであって、この複数のヒューマノイドの各々は、それぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含む複数のヒューマノイド、及び上記複数のオルガノイドチャンバを相互接続する循環を含む第1のチップと、複数のセンサを含み、上記第1のチップの上記複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出しその試料を上記複数のセンサに送達するように動作する第2のマイクロ流体チップと、上記第2のチップを上記第1のチップに対して移動させるように動作するアクチュエータとを含むヒトチップデバイスを提供する。
【0017】
本発明の別の好ましい実施形態は、複数のヒューマノイドであって、この複数のヒューマノイドの各1つはそれぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含む複数のヒューマノイド、及びこの複数のオルガノイドチャンバを相互接続する循環であって、この循環は能動的にポンピングされ、選択的に経路選定され、電子的に制御される循環を含む第1のマイクロ流体チップと、複数のセンサを含み、上記第1のチップの上記複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出しその試料を上記複数のセンサに送達するように動作する第2のマイクロ流体チップと、上記第2のチップを上記第1のチップに対して移動させるように動作するアクチュエータとを含むヒトチップデバイスを提供する。
【0018】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、オルガノイドを含有するオルガノイドチャンバを含む第1のマイクロ流体チップと、そのオルガノイドから単細胞を非破壊的に抽出するように動作する第2のマイクロ流体チップとを含むゲノムヒトチップデバイスを提供する。
【0019】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、オルガノイドを含有するオルガノイドチャンバを含む第1のチップと、このオルガノイドから単細胞を非破壊的に抽出するように動作する第2のチップとを含むゲノムヒトチップシステムを提供する。この第2のチップは、オルガノイドに処理を適用する前に1つの細胞を抽出し、処理を適用した後に別の1つ以上の細胞を抽出してもよい。当該システムは、抽出に少なくとも部分的に基づいて、抽出された細胞から特定された表現型と処理との間の相関を決定するように動作する分析器も含む。この表現型は、ゲノムデータ及びエピジェネティックデータを含む群から選択されてもよい。
【0020】
本発明の別の好ましい実施形態は、それぞれの複数の患者を反映する複数のヒューマノイドを含む第1のチップを含むオンチップ臨床試験システムであって、この複数のヒューマノイドの各々は、上記複数の患者の1人からのそれぞれの複数の組織を反映するそれぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含むオンチップ臨床試験システムを提供する。当該システムは、複数のセンサを含み、第1のチップの複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出すように動作する第2のチップも含む。この第2のチップは、第2のチップ上に位置しない複数の遠隔センサにも上記試料を送達してもよい。当該システムは、第2のチップを第1のチップに対して移動させるように動作するアクチュエータも含む。当該システムは、少なくとも部分的に、第1のチップ、第2のチップ、及びアクチュエータに基づいて、複数の患者における薬物の有効性を予測するように動作する分析器も含む。
【0021】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、ヒトチップ自動タグ付け方法を提供する。この方法は、オルガノイドから抽出された未処理表現型、及びそのオルガノイドに第1の処理を適用した後に同じオルガノイドから抽出された処理後表現型を取得する工程を含む。この方法は、未処理表現型と処理後表現型との間の差異を特定する工程も含む。当該方法は、特定された差異に少なくとも部分的に基づいて、処理後表現型をタグ付けする工程も含む。当該方法は、上記タグ付けに少なくとも部分的に基づいて、オルガノイドに対する第2の処理の有効性を予測する工程も含む。
【0022】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、複数のヒューマノイドを含むヒトチップデバイスであって、この複数のヒューマノイドの各々は複数のオルガノイドチャンバを含み、この複数のオルガノイドチャンバの各々はそれぞれのオルガノイドを含有するヒトチップデバイスを提供する。このデバイスは、複数のオルガノイドチャンバを相互接続する循環トンネルも含む。当該システムは、循環トンネル内のポンピング及び経路選定のプロセスを制御するためのコントローラ又はプロセッサを含む。当該デバイスは、複数のセンサ及びセンサ試料循環を含むセンシングエンジンも含む。このセンシングエンジンは、上記複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出しその試料を上記複数のセンサに送達するように動作する。
【0023】
本発明の別の好ましい実施形態は、複数のヒューマノイドを含むヒトチップデバイスであって、この複数のヒューマノイドの各々は複数のオルガノイドチャンバを含み、この複数のオルガノイドチャンバの各々はそれぞれのオルガノイドを含有するヒトチップデバイスを提供する。このデバイスは、複数のオルガノイドチャンバを相互接続する循環トンネル、並びにこの循環トンネル内で行われる循環、ポンピング、及び経路選定のプロセスを制御するためのコントローラも含む。当該デバイスは、複数のセンサを有し、上記複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出しその試料を上記複数のセンサの各1つに送達するように動作するセンシングエンジンも含む。場合によっては、上記複数のヒューマノイドは5個を超えるヒューマノイドである。場合によっては、上記複数のオルガノイドチャンバの各々の容積とそれぞれのオルガノイドとの比は2より小さく、そのため、オルガノイドがチャンバの容積の半分より多くを占める。場合によっては、上記複数のオルガノイドチャンバの各1つの容積と試料の体積との比は1000より大きく、そのため、試料はチャンバの容積の0.1%未満しか占めない。
【0024】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、ヒトチップデバイスとコントローラとを含むヒトチップシステムを提供する。このコントローラは、第1のオルガノイド及び第2のオルガノイドに、ヒト身体におけるそれらの対応する第1の組織及び第2の組織の薬力学をよりよく模倣させるように動作し、このさせることは、循環を制御し、これによりその循環への曝露を第1のオルガノイドに送達し、上記循環への異なる曝露を第2のオルガノイドに送達することと、第1のオルガノイドからの試料に対するセンサ読み取り値に計算調整を適用することと、第2のオルガノイドからの試料に対するセンサ読み取り値に異なる計算調整を適用することとを含む。
【0025】
本発明の別の好ましい実施形態は、ヒトチップデバイスとコントローラとを含むヒトチップシステムであって、このコントローラは、少なくとも部分的にセンシングエンジンに基づいて、欠陥のあるオルガノイドを特定(識別)するアクション、並びにそれぞれのオルガノイドのうちの欠陥のあるオルガノイドを回避するように、上記特定に基づいて、センシング、循環、ポンピング及び経路選定のうちの少なくとも1つを制御するアクションを実行するように動作するヒトチップシステムを提供する。
【0026】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、ヒトチップデバイスとコントローラとを含むヒトチップシステムであって、このコントローラは、少なくとも部分的にセンシングエンジンに基づいて、複数のセンサのうちの欠陥のあるセンサを特定するアクション、並びに上記複数のセンサのうちの欠陥のあるセンサを回避するように、上記特定に基づいて、センサ収集循環を制御するアクションを実行するように動作するヒトチップシステムを提供する。
【0027】
本発明のなおさらに別の好ましい実施形態は、免疫細胞を複数のオルガノイドチャンバのうちの1つに送達するように動作するセンシングエンジンを有するヒトチップデバイスを提供する。このセンシングエンジンは、処理前の上記複数のオルガノイドチャンバのうちの上記1つから上記免疫細胞の第1の試料を抽出し、処理後の上記複数のオルガノイドチャンバから上記免疫細胞の第2の試料を抽出し、これにより上記免疫細胞の第1の試料及び上記免疫細胞の第2の試料の免疫状態の評価を可能にするようにも動作する。
【0028】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、薬物製剤を設計する方法であって、複数の薬物製剤の各々の生物学的作用を予測する工程と、ヒトチップデバイスを使用して上記複数の薬物製剤のサブセットの各々の生物学的作用をスクリーニングする工程であって、このスクリーニングは少なくとも部分的に上記予測に基づく工程とを含む方法を提供する。上記ヒトチップデバイスは、複数のヒューマノイドであって、この複数のヒューマノイドの各々が複数のオルガノイドチャンバを含み、この複数のオルガノイドチャンバの各々がそれぞれのオルガノイドを含有する複数のヒューマノイドを含む。上記デバイスは、複数のオルガノイドチャンバを相互接続する循環トンネルも含む。上記デバイスは、循環、ポンピング、及び経路選定のプロセスを制御するためのコントローラをも含む。上記デバイスは、複数のセンサを含み、上記複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出しその試料を上記複数のセンサの各1つに送達するように動作するセンシングエンジンも含み、少なくとも部分的に上記スクリーニングに基づいて上記予測を精緻化する。当該方法は、少なくとも部分的に上記予測、スクリーニング、及び精緻化に基づいて、薬物を製剤化する工程も含み、上記予測する工程、スクリーニングする工程、精緻化する工程、及び製剤化する工程は、少なくとも1つのプロセッサデバイスによって行われる。
【0029】
本主題の別の目的は、薬物の特性を評価する方法であって、組織試料をその薬物で処理する工程と、その組織試料から、処理された(as treated)上記組織試料の少なくとも1つの特徴を抽出する工程と、この少なくとも1つの特徴をエンジンに提供する工程と、このエンジンから予測を取得する工程と、この予測を上記薬物と関連付ける工程とを含む方法を開示することである。
【0030】
場合によっては、上記少なくとも1つの特徴は複数の特徴を含み、この複数の特徴からの各特徴は、上記組織を上記薬物で処理した後の所定の時間に組織試料から抽出される。
【0031】
場合によっては、上記少なくとも1つの特徴は、化学的又は生物学的試験を上記組織に適用することによって取得される。
【0032】
場合によっては、上記少なくとも1つの特徴は、上記組織の画像を取り込み、画像解析技術を使用して画像から特徴を抽出することによって取得される。
【0033】
場合によっては、上記エンジンは、人工知能(AI)エンジンである。
【0034】
場合によっては、上記AIエンジンは、畳み込みニューラルネットワーク、ディープニューラルネットワーク、又はランダムフォレストエンジンである。
【0035】
場合によっては、上記予測は、上記薬物の毒性レベルに関連する。
【0036】
場合によっては、当該方法は、上記エンジンを生成する工程をさらに含み、この生成する工程は、
複数の組織試料を複数の薬物で処理することであって、この複数の薬物からの各薬物は特性と関連する処理することと、
上記複数の組織試料の少なくともいくつかから少なくとも1つの特徴を抽出することと、
上記複数の組織試料の少なくともいくつかからの上記少なくとも1つの特徴及び上記組織試料を処理した薬物に関連する特性をAI訓練モジュールに提供することと、
訓練されたAIエンジンを取得することと
を含む。
【0037】
場合によっては、当該方法は、上記エンジンを生成する工程をさらに含み、この生成する工程は、
複数の組織試料を複数の薬物で処理することであって、この複数の薬物からの各薬物は特性と関連する処理することと、
上記複数の組織試料の少なくともいくつかから少なくとも1つの特徴を抽出することと、
上記複数の組織試料の少なくともいくつかからの上記少なくとも1つの特徴及び上記組織試料を処理した薬物に関連する特性をAI訓練モジュールに提供することと、
訓練されたAIエンジンを取得することと
を含む。
【0038】
本主題の別の目的は、ヒトチップデバイスであって、複数のヒューマノイドを含む第1の生物学的チップであって、この複数のヒューマノイドの各々は複数のオルガノイドチャンバを含み、このオルガノイドチャンバの各々は少なくとも1つのオルガノイドを含有する第1の生物学的チップと、上記第1のチップの上記複数のオルガノイドチャンバから測定値を収集するように動作する複数のセンサを含む第2の生物学的チップとを含むヒトチップデバイスを開示することである。この第2のチップは、上記複数のオルガノイドチャンバの少なくとも一部分を流体的に連結する循環チャネルと、第2のチップを第1のチップに対して移動させるように動作するアクチュエータとを含む。
【0039】
場合によっては、当該デバイスは、上記アクチュエータの動作を制御するためのコントローラと、上記第2の生物学的チップを上記第1の生物学的チップに対して移動させるための一組の規則を含むメモリとをさらに含む。
【0040】
場合によっては、当該デバイスは、循環流体を上記複数のオルガノイドチャンバのうちの少なくとも1つのオルガノイドチャンバにポンピングするように動作するポンプをさらに含む。
【0041】
場合によっては、当該デバイスは、上記循環チャネルを介して上記複数のチャンバに流体を送達するための投与ポートをさらに含む。
【0042】
場合によっては、上記オルガノイドチャンバの少なくとも一部分は、二次循環チャネル及び二次ポンプをさらに含む。
【0043】
場合によっては、当該デバイスは、対応するオルガノイドチャンバから抽出された流体を貯蔵するための、上記二次循環チャネルに連結された排出チャンバをさらに含む。
【0044】
場合によっては、上記オルガノイドチャンバの少なくとも一部はチャンバ弁と結合され、このチャンバ弁は、上記循環チャネルからオルガノイドチャンバへの内容物のフローを可能にするか又は不能にする。
【0045】
場合によっては、上記第1の生物学的チップ及び第2の生物学的チップのうちの少なくとも1つはマイクロ流体用である。
【0046】
場合によっては、上記第2の生物学的チップは、上記複数のオルガノイドチャンバのうちの1つに位置するオルガノイドから単細胞を抽出するための抽出デバイスをさらに含む。
【0047】
場合によっては、上記第2の生物学的チップは、上記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞、及び上記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞を受け取るように動作する分析器をさらに含み、この分析器は、表現型と上記処理との間の相関を決定するようにさらに動作し、この表現型は、ゲノムデータ及びエピジェネティックデータを含む群から選択される。
【0048】
場合によっては、上記複数のセンサのうちの少なくともいくつかは、上記第2の生物学的チップの底部に位置するナノチューブを含み、このナノチューブは、上記オルガノイドチャンバから流体を抽出するか、又は上記オルガノイドチャンバに流体を送達するように動作する。
【0049】
場合によっては、上記複数のヒューマノイドは、それぞれの複数の患者を表し、
上記複数のオルガノイドチャンバは、上記複数の患者の複数の組織を表す複数のオルガノイドを含有し、
当該デバイスは、前記複数の患者における薬物の有効性を予測するように動作する分析器をさらに含む。
【0050】
場合によっては、当該デバイスは、上記複数のオルガノイドチャンバの上部に位置するオルガノイド蓋をさらに含み、このオルガノイド蓋は、上記第2の生物学的チップがオルガノイドチャンバ内部の内容物にアクセスすることができる開放位置と、第2の生物学的チップがオルガノイドチャンバ内部の内容物にアクセスすることができる閉鎖位置とを有する。
【0051】
場合によっては、上記第1の生物学的チップ及び第2の生物学的チップのうちの少なくとも1つはマイクロ流体用である。
【0052】
場合によっては、当該デバイスは、上記オルガノイドに処理を適用する前の細胞の少なくとも1つの測定値、及び上記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞を受け取るように動作する分析器をさらに含み、この分析器は、表現型と上記処理との間の相関を決定するようにさらに動作し、この表現型は、ゲノムデータ及びエピジェネティックデータを含む群から選択される。
【0053】
場合によっては、当該デバイスは、異なる数のプローブを有する複数の異なる第2の生物学的チップをさらに含む。
【0054】
場合によっては、上記第2の生物学的チップは、センシングされたデータを遠隔デバイスに送信するための送信機をさらに含む。
【0055】
場合によっては、上記第2の生物学チップは、複数のプローブをさらに含み、この複数のプローブの各プローブは、上記複数のオルガノイドチャンバのうちのオルガノイドチャンバに挿入されるように構成される。
【0056】
場合によっては、複数のプローブのうちの少なくとも1つのプローブは、そのプローブの底部にナノセンサを有する。場合によっては、上記複数のプローブのうちの少なくとも1つのプローブは、そのプローブの上部にナノセンサを有する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
本発明の特性であると考えられる新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。しかしながら、本発明自体、並びにその好ましい使用モード、さらなる客体及び利点は、添付の図面と併せて読むと、例示的実施形態の以下の詳細な説明を参照することによって最もよく理解されるであろう。
【0058】
【
図1A】
図1Aは、本発明の好ましい実施形態に係る、薬物の特徴を予測するように適合された人工知能(AI)エンジンを訓練する方法のフローチャートを概略的に提示する。
【
図1B】
図1Bは、本発明の好ましい実施形態に係る、薬物の特徴を予測するための装置を概略的に提示する。
【
図1C】
図1Cは、センサ測定値の分類を準備する方法の一実施形態のフローチャートを示す。
【
図1D】
図1Dは、薬物の特徴を予測するためのシステムのブロック図を概略的に提示する。
【
図2A】
図2Aは、本発明の好ましい実施形態に係るチップオンチップシステムの概説を概略的に提示する。
【
図2B】
図2Bは、本発明の好ましい実施形態に係るチップオンチップシステムの説明図を概略的に提示する。
【
図3A】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Aは、本発明のチップオンチップの実装の一例を提示する(全システム図)。
【
図3B】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Bは、本発明の実装の一例を提示する(チップオンチップ図)。
【
図3C】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Cは、本発明の実装の一例を提示する(全チップ図)。
【
図3D】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Dは、本発明の実装の一例を提示する(ヒューマノイド図)。
【
図3E】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Eは、本発明の実装の一例を提示する(オルガノイド図)。
【
図3F】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Fは、本発明の実装の一例(化学センシングチップ)を提示する。
【
図3G】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Gは、本発明の実装の一例(循環チップ)を提示する。
【
図4】
図4は、循環アーキテクチャの一例を概略的に示す。
【
図5】
図5は、循環ポンピングの一例を概略的に示す。
【
図6】
図6は、短絡されたフローの一例を概略的に示す。
【
図7】
図7は、オンチップスケーリングの一例を概略的に示す。
【
図8A】
図8A、8B、8C、8D及び8Eは、オルガノイドのアーキテクチャ及び作製を示す。
図8Aは、球体オルガノイドのアーキテクチャ及び作製プロセスを示す。
【
図8B】
図8A、8B、8C、8D及び8Eは、オルガノイドのアーキテクチャ及び作製を示す。
図8Bは、灌流オルガノイドのアーキテクチャを示す。
【
図8C】
図8A、8B、8C、8D及び8Eは、オルガノイドのアーキテクチャ及び作製を示す。
図8Cは、灌流オルガノイドの伸張された膜を示す。
【
図8D】
図8A、8B、8C、8D及び8Eは、オルガノイドのアーキテクチャ及び作製を示す。
図8Dは、灌流オルガノイドの作製を示す。
【
図8E】
図8A、8B、8C、8D及び8Eは、オルガノイドのアーキテクチャ及び作製を示す。
図8Dは、灌流オルガノイドの代替的な作製を示す。
【
図9A】
図9A及び9Bは、合わせて、ヒューマノイドアーキテクチャ、循環アーキテクチャの一例を概略的に示す。
【
図9B】
図9A及び9Bは、合わせて、ヒューマノイドアーキテクチャ、循環アーキテクチャの一例を概略的に示す。
【
図12】
図12は、特異的及び非特異的センサアレイの例を概略的に示す。
【
図13D】
図13Dは、circ-RNAプローブ設計の方法のフローチャートを概略的に示す。
【
図15】
図15は、創薬プロセスの概要のフローチャートを概略的に示す。
【
図16A】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。
【
図16B】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。
【
図16C】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。
【
図16D】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。
【
図16E】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下の好ましい実施形態の詳細な説明では、本発明が実施されてもよい特定の実施形態を例示するために示されている、本明細書の一部を形成する添付の図面を参照する。本発明の範囲から逸脱しない範囲で他の実施形態が利用されてもよく、構造的変更がなされてもよいことが理解される。本発明は、これらの具体的な詳細のいくつか又はすべてを伴わずに、特許請求の範囲に従って実施されてもよい。明確にするために、本発明に関連する技術分野において公知である技術的事項は、本発明が不必要に不明瞭にされないように、詳細には説明されていない。
【0060】
新しい薬物を開発することの困難さ及び複雑さは、より短くより容易な様式で、ヒトに対する薬物の影響を評価するためのシステム及び方法の必要性を提起する。この影響は、例えば、ヒトにおいて薬物性肝障害を発症するリスクのレベルを予測する、有効性及び安全性等であるがこれらに限定されない様々な特徴を使用して評価されてもよい。
【0061】
本開示の1つの解決手段は、分類された薬物の集合を取得することを含み、各薬物の分類は、1つ以上の特徴に関連する。例えば、その集合は、複数の薬物を含んでもよく、各薬物の毒性レベルは既知であり、すなわち、DILIrankは、薬物性肝障害(DILI)を引き起こす可能性に従って4つのクラスに分けられる1,036種のFDA承認薬からなる。
【0062】
次いで、以下に詳述されるように、薬物がヒト組織に適用(投与)されてもよい。次いで、その組織が経時的に、例えば1週間にわたり1時間に1回検査されてもよい。収集された測定値は、検査される身体組織に適用される特定の薬物の各分類に関連付けられる。身体組織の特性は、実験室技術、組織の取り込んだ画像の画像解析等を使用して測定されてもよい。身体測定値はデジタルデータに変換され、収集された各測定値は、特定の薬物及び特定の身体組織に関連付けられる。次いで、測定値は、測定値が関連付けられる特定の薬物の分類に従ってタグ付けされる。
【0063】
組織測定値から抽出された特徴、及び収集された測定値の分類(この分類は、その測定値に関連する特定の組織に適用された薬物の分類に合致する)は、次いで、人工知能(AI)エンジンを訓練するために使用されてもよい。
【0064】
次いで、AIエンジンが訓練され、新しい薬物が開発プロセス下に置かれた後、その新しい薬物が1つ以上の組織試料に適用されてもよい。次いで、新しい薬物で組織を処理するときに経時的に採取された組織試料の測定値の特徴が抽出され、訓練されたAIエンジンに提供されてもよい。
【0065】
次いで、AIエンジンは、その新しい薬物の分類、例えばその毒性レベルを予測してもよい。
【0066】
このプロセスは、新しい薬物が患者ではなく組織試料に適用されるとき、初期段階で薬物の有効性及び危険性に対する指標を提供することによって、複数の試験及び分析段階を節約する可能性がある。これは、新しい薬物を試験する時間、費用及び複雑さを大幅に低減する可能性がある。
【0067】
薬物の特徴を予測するように適合された人工知能(AI)エンジンを訓練する方法のフローチャートを提示する
図1Aをここで参照する。
【0068】
様々な特性、例えば毒性レベルの薬物、例えば毒性レベル1の薬物(2)、毒性レベル2の薬物(2’)等、毒性レベルNまでの薬物(2”)が取得されてもよい。従って、各薬物は、その毒性レベルを表す値等の特定の値に関連付けられる。
【0069】
工程8で、毒性レベル等の特性は、バイオ変換、すなわち、複数の特徴への変換を受けてもよい。
【0070】
バイオ変換を実施するために、複数の組織試料4が受け入れられてもよい。工程12、12’及び12”で、薬物2、2’及び2”がそれぞれ組織試料に適用されてもよい。
【0071】
W個のウェルを有するプレートが使用されてもよく、各ウェルは、ある器官のヒト細胞のスフェロイド及び液体等の培地を含有する。このスフェロイドは約C個の細胞からなってもよい。各ウェルは、対照、ビヒクル又は薬物投与量等の所定の目的を有してもよい。対照ウェルは、他のウェルから取得された特徴値を正規化するために使用されてもよい。
【0072】
例示的な実験では、以下の設定が使用されている。
D - 日数 14
W - 非終了データ収集のためのウェルの数 96
Wt - 終了データ収集のためのウェルの数 4
F - 特徴の数 5
S - 1日当たりの試料採取回数 - 例えば1日に1回 1
C - スフェロイド中の細胞数 約1000
DILI - 薬物性肝障害
【0073】
それぞれ工程16、16’及び16”において、関連する特徴が、処理された試料から取得されてもよい。
【0074】
上記特徴は、化学的又は生物学的特徴、例えばグルコース、乳酸、酸素、尿素、カリウム、アンモニア、pH等を含んでもよい。
【0075】
例えば、特徴は、以下のタイプであってもよい。
1. 時系列 - 規則的な間隔であらゆる組織について収集されるデータ。収集は、センサによって、又は非終了着色及び自動検査によって行われてもよい。
2. 顕微鏡画像 - 各組織は定期的な間隔で顕微鏡を使用して撮影されてもよい。
3. エンドポイント - いくつかの組織は、データ収集のために「犠牲にされる」ように選択されてもよく、これはスフェロイドがさらに生きるのを妨げる。
【0076】
ドメインエキスパートの知識に基づいて、追加の又は異なる特徴も提供されてもよいということが理解されよう。例えば、「細胞呼吸タイプ」ベクトルが、グルコースと乳酸との間の関係をモデル化することによって追加されてもよい。グルコース消費が低下又は停止され、乳酸レベルが上昇している場合、スフェロイド細胞の呼吸が好気性から嫌気性に変化すると結論付けられてもよい。異なる測定値の間の関係は、必ずしも同時に測定されるわけではなく、1時間、1日等の所定の時間枠内で判定されてもよいことを理解されたい。この所定の時間枠は、細胞のタイプ、測定されるパラメータ又は事象等の様々なパラメータに従って変化してもよい。例えば、ウィンドウサイズ(window_size)及びシフト(shift)が与えられると、細胞呼吸タイプを決定するために、以下のアルゴリズムが使用されてもよい。
【0077】
乳酸及びグルコースの測定値を含む各ベクトルについて、長さウィンドウサイズのローリングウィンドウ(rolling window)にわたって対応する値を平均することによって、新しいベクトルが作成されてもよい。それらのうちの1つ、例えば乳酸ベクトルについては、ウィンドウは、シフトの量だけ右にシフトされ、すなわち、後の測定を行ってもよい。
【0078】
次いで、新しいベクトルの一次微分及び二次微分が計算されてもよい。
【0079】
同じ指数における両方の二次微分が所定の閾値よりも大きく、同じ指数における一次微分が正であり、より低いグルコース消費及び高いラクトース産生を示す場合、TRUEを返し、そうでなければFALSEを返す。
【0080】
このアルゴリズムは、以下のパラメータのすべての可能な組み合わせ(合計9つの組み合わせ)に対して実行されてもよい:シフト:{-1,0,1}及びウィンドウサイズ:{1,2,3}。
【0081】
実行のいずれかがTRUEを戻すと、細胞呼吸の変化が発生したと推定されてもよい。
【0082】
測定された特徴又は他の方法で評価された特徴に生物学的知識が追加されてもよい。
【0083】
特徴は、W個のウェルからF個の特徴を収集することを含む、例えば、D日間1日にS回収集されてもよい。従って、ベクトルの総数は、
D*S*F*W
であってもよい。
【0084】
加えて、D日後、1つ以上の顕微鏡画像が、W個のウェルのそれぞれについて収集されてもよく、各像は、グレースケール2048×2048解像度で保存されてもよい。
【0085】
いくつかの実施形態では、顕微鏡画像内のウェル内のスフェロイドの位置を検出するために、以前に注釈された画像上でコンピュータビジョンニューラルネットワークが訓練されてもよい。その訓練されたコンピュータビジョンニューラルネットワークは、スフェロイドが位置するバウンディングボックス(境界ボックス)を決定するために使用されてもよく、画像は、それに応じてトリミングされてもよく、例えば、412×412の解像度にサイズ変更されてもよい。
【0086】
上記画像は正規化されてもよく、例えば、正規化後の各ピクセルの値は、以下のように設定されてもよい:p[i,j]=(p[i,j]-0.5)/0.5。
【0087】
Scaling Vision Transfomer(スケーリング・ビジョン・トランスフォーマ)等のモデルは、重症度クラスラベルを使用して教師あり様式で顕微鏡画像を重症度クラスに分類するために訓練されてもよい。次いで、分類ヘッドへの入力として使用されるログが、各組織の特徴に付加される。
【0088】
1つの例では、組織試料4は、未処理のオルガノイドから抽出されたせん断細胞(shear cell)であってもよく、特徴抽出は1つ以上の細胞のゲノム配列決定を含んでもよく、そのため、抽出された特徴がゲノム発現又はエピジェネティックプロファイルを含んでもよい。さらに別の例では、組織試料4は免疫細胞及び血清であってもよく、抽出された特徴は細胞の免疫プロファイルを含んでもよい。
【0089】
各特徴は、薬物の適用後の所定の時間に取得される複数の値と関連付けられてもよく、従って、値のベクトルを構成することが理解されるであろう。
【0090】
従って、バイオ変換工程8は、複数のデータセットを含む訓練データ20を出力する。この複数のデータセットは、そのデータセットを形成する特徴が抽出されたもととなった試料に関連する薬物と同じ分類で分類されている。例えば、値のベクトルからなり、(関連する試料に適用された薬物2が第1の値を有するものとして分類されたため)特性の第1の値を有するものとして分類されたデータセット24、他の値のベクトルからなり、(関連する試料に適用された薬物2’が第2の値を有するものとして分類されたため)特性の第2の値を有するものとして分類されたデータセット24’など、値のベクトルからなり、(関連する試料に適用された薬物2”がN番目の値を有するものとして分類されたため)特性のN番目の値を有するものとして分類されたデータセット24”まで続く。特徴は、毒性のレベルであってもよい。従って、上記ベクトルは、バイオ変換プロセス中に分析される特定の体組織に関連する薬物と同じ分類を有する。
【0091】
工程28において、関連する分類とともにデータセット24、24’及び24”を含む訓練データ20が、AIエンジンを訓練するために使用されてもよい。そのAIエンジンは、ランダムフォレストエンジン、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、任意の他のタイプのニューラルネットワーク、又は任意の他のタイプのAIエンジンであってもよい。
【0092】
訓練は、訓練されたエンジン28、例えば畳み込みニューラルネットワーク、ディープニューラルネットワーク、任意の他のタイプのネットワーク、又は任意の他のタイプのAIエンジンを生成する。
【0093】
例示的な実験では、XGBoostライブラリv1.5.0によって実装され、https://xgboost.readthedocs.io/en/latest/から入手可能な勾配ブースト決定木(Gradient Boosted Decision Trees、GBDT)ライブラリを使用して、各薬物が分類された。10分割交差検証を用いて評価されたブルートフォースグリッドサーチハイパーパラメータチューニングが、以下のパラメータグリッドとともに使用されている。
{”learning_rate(学習率)”:[0.05,0.10,0.15,0.20,0.25,0.30]、
”max_depth(最大深度)”:[3,4,5,6,8,10,12,15]、
”min_child_weight(葉を構成する最小データ数)”:[1,3,5,7]、
”gamma(ガンマ)”:[0.0,0.1,0.2,0.3,0.4]、
「colsample_bytree(各木を構築する際の列のサブサンプルの比率)」:[0.3,0.4,0.5,0.7]}
従って、6*8*4*5*4=3840のモデルが評価されてもよく、10分割交差検証検定の平均スコアによって最良のモデルが選択されてもよい。
訓練は100エポック続いた。その際、各エポックについて、データセット全体が使用される。XGBoostを使用してGBDTを訓練するとき、num_round(木の本数)パラメータは100に設定される。以下の訓練コードが使用されている。
num_round=100
evallist=[(data_test,’eval’),(data_train,’train’)]
bst=xgb.train(param,data_train,num_round,evallist)
【0094】
上記の工程は、訓練段階とも呼ばれる準備段階において実行されてもよいことが理解されよう。以下に開示される工程は、開発されている新しい薬物を分類することが必要とされるとき、テスト段階において行われてもよい。
【0095】
収集されたデータは、訓練セットとテストセットとに、例えば90%の訓練セットと10%のテストセットとの比率で分割されてもよい。いくつかの実施形態では、10分割交差検証が、モデル選択のため、例えば、モデルの種類毎に最良のハイパーパラメータを見つけるために訓練セット上で使用されてもよい。
【0096】
テスト段階において、未分類の薬物36が提供されてもよい。
【0097】
組織試料への新しい薬物36の処理又は適用12を含む、上記で説明されるようなバイオ変換工程8、及び処理された組織からの特徴抽出工程16を行うために、1つ以上の組織試料4が使用されてもよい。
【0098】
次いで、訓練されたエンジン32が、身体組織への新しい薬物の適用から抽出された未分類のデータセット40を含む、抽出されたデータに適用されてもよい。次いで、訓練されたエンジン28は、予測48、例えば、分類されていない薬物36の分類を出力してもよい。予測48は、薬物2、2’、2”について提供されたラベル、例えば毒性レベルに対応してもよい。
【0099】
各試料がM個のクラスのうちの1つに分類されるN個の試料のバッチの例示的な分類では、訓練されたエンジンは、N×M行列を出力してもよく、各行は、試料のクラス分布であり、各(i,j)エントリは、i番目の試料が第j番目のクラスに属する確率を表す。
【0100】
最終分類は、各試料iについて、第i行内のすべての値の中で行列の(i,j)エントリが最も高くなるようにクラスjを選択することを含んでもよい。
【0101】
従って、工程49において、予測は、試料について受け取られるが、適用された薬物と関連付けられ、これにより、薬物の分類が提供されてもよい。
【0102】
毒性レベルは単なる例であり、当該方法は、薬物36の任意の他の1つ以上の特性を予測するために適用されてもよいことが理解されるであろう。
【0103】
訓練段階及びテスト段階は、同じエンティティ、例えば、特定の研究室又は機関によって行われてもよいことが理解されるであろう。しかしながら、これらの段階は、異なる機関によって別々に実行されてもよい。例えば、第1の機関は、既知の薬物に関するデータを収集し、バイオ変換を実行し、エンジンを訓練してもよい。次いで、第1の機関は、他の機関によって開発された新しい薬物を試験するために、訓練されたエンジンを1つ以上の他の機関に提供してもよい。
【0104】
特徴は、処理前に試料から抽出されてもよいことが理解されるであろう。加えて、又は代替として、特徴は、処理が施され(適用され)ない組織試料の対照群から抽出されてもよい。処理された試料から抽出された特徴は、対照群試料から抽出された特徴と比較されてもよい。特徴が有意に同一である、例えば、所定のメトリック(metric)による距離が閾値より小さい場合、その特徴はスキップされ、エンジンを訓練するため、又は薬物分類を評価するために使用されなくてもよい。これは、その薬物の適用が組織に影響を及ぼさないと仮定されてもよいためである。
【0105】
本開示のいくつかの実施形態に係る、薬物を分類するためのソフトウェアモデルを訓練する方法の一実施形態のフローチャートを示す
図1Bをここで参照する。
【0106】
工程50において、薬物の毒性レベル等の各薬物の特性を示す分類された薬物データが取得されてもよい。このデータは、信頼できるソースから取得されてもよく、既知の試験された薬物に関連するデータを含んでもよい。
【0107】
工程52において、薬物は、限定されないが、ヒト組織等の組織に適用されてもよい。
【0108】
工程54において、センサ測定値が、薬物が適用された組織から取得されてもよい。各組織は、複数の時間点において、複数のパラメータについて試験され、従って、各組織についての複数のデータセットが取得されてもよいということが理解されるであろう。
【0109】
工程55において、生物学的知識に基づく追加データが抽出され、測定値を強化し、データのいくつかを追加、削除、又は変更するために使用されてもよい。
【0110】
工程56において、データセットは分類されてもよく、すなわち、組織に適用された薬物の分類に従った分類に関連付けられてもよい。従って、第1の薬物が適用された組織から取得された測定値を表すベクトルは、第1の薬物の毒性レベル等によって分類される。データセットの分類により、AIエンジン等のソフトウェアエンジンが、身体組織に適用された既知の薬物に関する分類に従って、他の薬物、例えば開発中の薬物に関する決定を行うことが可能になる。既知の薬物に関する分類は、FDA、学術研究等の公的ソースから得てもよい。
【0111】
工程58において、ソフトウェアモデル等のモデルは、分類されたベクトルに対して訓練されてもよい。訓練されたモデル(学習済みモデル)は、薬物が適用される組織を表すベクトルを受け取り、その薬物の分類を提供してもよい。
【0112】
本開示のいくつかの実施形態に係る、例えば上記の工程56と工程58との間で実行されてもよいような、センサ測定値の分類を準備する方法の一実施形態のフローチャートを示す
図1Cをここで参照する。
【0113】
工程60において、工程56で作製された分類されたセンサ測定値が取得されてもよい。
【0114】
工程62において、分類された測定値は、順序付けられたベクトルに変換されてもよい。例えば、そのような各ベクトルは、その第1のエントリにおいて特定の測定値を有してもよく、その第2のエントリにおいて別の特定の測定値を有してもよい、等である。
【0115】
いくつかの実施形態では、ベクトルは正規化されてもよい。
【0116】
いくつかの実施形態では、工程63において、生物学的知識がベクトルに適用されて、それらが強化されてもよい。従って、特徴は、ドメインエキスパート知識に従って変更、追加、又は削除されてもよい。例えば、他の特徴の間の関係に基づいて1つ以上の特徴が追加されてもよく、例えば、グルコースと乳酸との間の関係をモデル化することによって追加されてもよい「細胞呼吸タイプ」がある。グルコース消費が低下又は停止され、乳酸レベルが上昇しているとき、スフェロイド細胞の呼吸が好気性から嫌気性に変化すると判定されてもよい。
【0117】
工程64において、適用された薬物の同じ特性又は生物学的状態により、同じクラスに分類されたベクトル間の距離が取得されてもよい。理想的な分類は、同じクラスに割り当てられた要素間の距離が、異なる群に割り当てられた要素間の距離よりも小さいような分類であることが理解されよう。
【0118】
従って、工程66において、不規則なベクトル、例えば、同じクラスに割り当てられた1つ以上の他のベクトルからの距離が閾値より大きいベクトル、又は同じクラスに割り当てられたベクトル間の他の距離の平均よりも少なくとも所定の閾値だけ大きいベクトルがフィルタリング除去されてもよい。モデルが訓練セットに非常によく適合するがランタイム中に他のベクトルに対して信頼できる結果をもたらすほど柔軟ではない過剰適合状況を作り出さないために、過度に多くのベクトルが除去されないように、例えば、ベクトルの所定のパーセンテージを超えないように、フィルタリングは実行されるべきであることが理解されるであろう。
【0119】
次いで、残りのベクトルは、上記の工程58でモードを訓練するために使用されてもよい。
【0120】
薬剤の特徴を予測するためのシステムのブロック図を概略的に提示する
図1Dをここで参照する。
図1Bに示されるシステムは、予測の計算態様を提供することが理解されるであろう。試料の設定、薬物の適用、画像の取り込み、生物学的又は化学的試験の適用等の機械的動作は、同じシステムの他の構成要素によって、異なるシステムによって、などで制御及び実行されてもよい。
【0121】
当該システムは、1つ以上のコンピューティングプラットフォーム80を含んでもよい。いくつかの実施形態では、コンピューティングプラットフォーム80は、研究室、機関などの内部に位置してもよい。しかしながら、コンピューティングプラットフォーム80は、他の場所に位置し、クラウドコンピューティングネットワーク等の研究室又は機関に動作可能に接続されるネットワークを通してアクセスされてもよい。
【0122】
コンピューティングプラットフォーム80は、1つ以上の中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ、電子回路、集積回路(IC)等であってもよいプロセッサ81を含んでもよい。プロセッサ81は、例えば、メモリにロードし、以下に詳述される記憶装置86上に記憶されたモジュールを起動することによって、要求される機能性を提供するように構成されてもよい。
【0123】
コンピューティングプラットフォーム80は、並置されてもよくされなくてもよい1つ以上のコンピューティングプラットフォームとして実装されてもよく、それらのコンピューティングプラットフォームは互いに通信してもよいことが理解されるであろう。プロセッサ81は、同じプラットフォーム上に位置するか否かによらず、1つ以上のプロセッサとして実装されてもよいことも理解されるであろう。
【0124】
コンピューティングプラットフォーム80は、ディスプレイ、ポインティングデバイス、キーボード、タッチスクリーン等の入出力(I/O)装置82も含んでもよい。I/O装置82は、例えばパラメータを設定する、開発された薬物の毒性レベル等の予測を表示する等、オペレータからの入力を受信し、オペレータに出力を提供するために利用されてもよい。
【0125】
コンピューティングプラットフォーム80は、セルラーネットワーク、広域ネットワーク、ローカルエリアネットワーク、イントラネット、インターネット等の任意の通信チャネルを介して、他のコンピューティングプラットフォーム、例えばサーバ又はクラウド内の他のコンピューティングプラットフォームと通信するための通信装置84を含んでもよい。
【0126】
コンピューティングプラットフォーム80は、ハードディスクドライブ、フラッシュディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、メモリチップ等の記憶装置86も含んでもよい。いくつかの例示的実施形態では、記憶装置86は、プロセッサ81に、以下に列挙されるモジュール又は上記の
図1A、
図1B、及び
図1Cの方法の工程のうちのいずれかと関連付けられるアクション(動作、行為)を実行させるように動作するプログラムコードを保持してもよい。このプログラムコードは、以下に詳述される命令を実行するように適合された、モジュール、機能、ライブラリ、スタンドアロンプログラム等の1つ以上の実行可能ユニットを含んでもよい。
【0127】
記憶装置86は、処理された試料の1つ以上の取り込まれた画像を分析するための画像解析モジュール(複数可)88を含んでもよい。この画像は、カメラ、ビデオカメラ、ハイパースペクトルカメラ、マルチスペクトルカメラ、IRカメラ等の任意の撮影デバイスを使用して取り込まれてもよい。適用される画像解析技術は、取り込まれた画像のタイプ及び抽出される特徴に対応してもよいことが理解されよう。
【0128】
記憶装置86は、画像解析結果から、又は化学的若しくは生物学的試験等の他のソースから、1つ以上の特徴を抽出するための特徴抽出エンジン90を含んでもよい。
【0129】
記憶装置86は、画像から、化学的若しくは生物学的試験から、又は任意の他のソースから抽出された特徴と、適用後の所定の時間に関連する毒性レベル等の、各特徴ベクトルに関連する薬物に割り当てられた分類とを取得するためのエンジン訓練モジュール92を含んでもよい。エンジン訓練モジュール92は、1つ以上のAIエンジン98を訓練して、開発中の薬物を組織に適用した結果を表す特徴ベクトルを受け取り、分類、例えば毒性レベルに対応する予測を提供してもよい。
【0130】
記憶装置86は、受け取られた特徴ベクトルにAIエンジン98を適用して予測を出力するためのエンジン適用モジュール94を含んでもよい。
【0131】
記憶装置86は、関連するモジュールを必要な入力を用いて正しい順序で起動するためのデータ及び制御フローモジュール96を含んでもよい。例えば、エンジン訓練モジュール92を起動するための特徴ベクトル及び対応する分類を取得すること、予測を取得するために、特徴ベクトル及びAIエンジン98へのアクセスをエンジン適用モジュール94に提供すること等。
【0132】
図1Aのバイオ変換工程8を実行するために使用される、本発明のヒトチップオンチップの概要の概略図である
図2Aをここで参照する。
【0133】
臓器チップは、とりわけ複数の臓器チップを利用する場合に、薬物開発を加速することを可能にする。本発明は、薬物開発を劇的に加速するために2つの主要な障害を克服する。第1に、ハイスループットでかつAI統合されたヒトオンチッププラットフォーム、すなわち、数万個のヒトオンチップでの薬物候補の迅速で安価な生物学的走査を可能にするシステムは現在のところ存在しない。第2に、統合されたゲノム発現プロファイリングを有するヒトオンチッププラットフォームは現在のところ存在しない。
【0134】
本発明は、これらの課題の両方に対処する。本発明のチップオンチップアーキテクチャは、第1の課題に対処し、ハイスループットのリアルタイムセンシングヒトチッププラットフォームを提供する。そして、ナノワイヤベースの非増幅ゲノムセンシング、特に環状RNAのセンシング(感知)は、第2の課題に対する解決手段を提供する。
【0135】
現在の臓器チップシステムのゲノム関連の課題は以下の通りである。臓器チップシステムは、動物研究の予測精度を時折超える予測精度を示すので、非常に有望である。しかし、現在まで、動物研究は、1つの独特の利点を有していた。動物研究は、豊富なゲノムデータをもたらしたが、臓器チップシステムは、それらの小型化のために、その豊富なゲノムデータに単純に匹敵することができなかった。ゲノムデータを伴わない薬物の開発を試みることは、「当て推量で行うこと」と同様である。
【0136】
それゆえ、本発明は、現在、環状RNAの非破壊的なリアルタイムの非増幅検出をもたらし、これによりほとんどの主要な疾患に関連する遺伝子プロファイルをもたらすという点で独特である。ハイスループットヒトオンチッププラットフォーム内で環状RNAを正確に特定する能力は、劇的な影響を有する。一例として、約330種のcircRNAは、様々なタイプの癌、アルツハイマー病、心血管疾患、自閉症、及び多くの他のものを含む48種の主要な疾患に関連することが示されている。
【0137】
薬物開発のための現在の方法論は、非常に非効率的であり、耐え難いほどに高価であり、現在、薬物を開発するコストは20億ドルを超える。本発明は、このプロセスを劇的に改善するデバイス及び方法を提供する。
【0138】
医薬品開発は、100年以上にわたってあまり変化していない2つの基本的なツール、平らな細胞培養皿(細胞培養物)及びマウス実験、に基づいている。平らな細胞培養皿での実験は手軽であり、研究者らに、候補薬物が様々な組織において有すると予想される効果についての初期の指標を与えると考えられている。次いで、ヒトとあまり異ならないと思われる生きている哺乳動物における薬物の有効性を検証するために、マウス実験が使用される。
【0139】
このアプローチの有効性は惨憺たるものである。平らな(二次元の)細胞培養試験及びマウス実験の両方に成功裏に合格するすべての薬物の92%超は臨床試験に合格しない。しかも、驚くべきことに、臨床試験に合格し使用が承認された8%の薬物のうち、約3分の1は、試験のいずれもが明らかにしなかった重篤な副作用のため、やはり中止又は異なる目的に再利用されることになる。
【0140】
これらの数字の重大さを理解するために、以下の類推を考える。超高層建築物を建設するビジネスが同様の成功率を有する世界を想像されたい。10棟の超高層建築物を建造する。そして、建造した10棟の建造物のうち9棟が倒壊するという現実を平然と受け入れなければならない。1棟だけが生存することになるが、どの1棟なのかを知る方法はない。これが、医薬品開発の現状である。
【0141】
それゆえ、医薬品産業が必要とするものは、薬物製剤を評価及び試験するための確実でハイスループットのプラットフォームであり、平らな組織培養皿及びマウス実験の現在の92%失敗率よりも劇的に高い予測精度を有するものである。
【0142】
本発明は、この課題に対処するプラットフォームを提供する。当該プラットフォームは、2つの新興分野、臓器チップ及び深層学習(ディープラーニング)、における進歩を活用し、現在のそのようなシステムの基本的な科学、技術、及びアーキテクチャ上の欠点を克服し、これにより、ハイスループットな解決手段をもたらす。
【0143】
臓器チップは、マイクロ流体デバイスに入れられた、小型化された三次元組織を使用することを含意し、マイクロ流体デバイスにおいて、その組織は、「血液のような」フローにさらされる。確実かつハイスループットである臓器チップシステムは現在のところ存在しないが、それらは、組織培養及びマウスの根本的な欠点を克服する。
【0144】
簡潔に述べると、平らな組織培養皿に関する科学的問題は、それらが由来する天然組織を実際に代表するものではないことである。これは、研究者にとって便利である「不死化」された、基本的に癌性になった組織であるが、そのゲノム特性を変化させる。組織培養皿は、単一の癌細胞の平らな不動の複製物である。それらは、現在よく確立されているように、ヒト身体内の生体組織の多様性、分化、形態、及び生理機能を有さない。また、明らかに、それらは、体内で起こる極めて重要な器官間相互作用を完全に欠いている。「心臓」組織皿において潜在的な薬物を試験することが、その薬物がどのように腸を通して吸収され、肝臓によって代謝され、腎臓によって濾過されるか等を無視するなら、そのような試験にどんな意味があるのか。
【0145】
マウス実験は、これらの制限の多くを克服すると思われる。それらは、哺乳動物で高度に異ならないと思われる生きている哺乳動物の体内で薬物がどのように作用するか、及び薬物がすべての重要な器官間相互作用にどのように反応するかを観察する機会を我々に与える。しかし、究極的には、我々は、マウスではなく、ヒトの「頭痛」のための「アスピリン」を開発するのに労力を要する。結果は明白である。マウスにおける試験の92%は、ヒト身体内での成功を予測できない。過去10年間の進歩は、エピジェネティクス及びゲノムの非コード領域の重要性を強調しており、ヒト-マウス相同性は85%から50%未満に低下している。これは、マウス実験がハイスループットでも安価でもない(残酷であることは言うまでもない)という事実を突きつける。
【0146】
それゆえ、臓器チップは、次の最先端領域を表し、非常に有望である。とりわけ、複数の臓器チップをともに連結すること、及び次世代の多臓器チップ、すなわち「ヒトオンチップ」が最近出現している。重要なことに、最近の初期の研究は、今では、複数の臓器チップをともに連結することが、ヒト身体における薬力学、及び薬物毒性を、平らな組織培養、及び重要なことにマウス実験を劇的に上回る様式で実際に予測するということを確立している。
【0147】
しかし、現在のところ、これらは、繊細で複雑な研究ツールであるデバイスであり、ハイスループットではないものである。臓器チップは単純に見えるかもしれないが、実際には、洗練された「ラボオンチップ(lab-on-a-chip)」というよりはむしろ、これらは、現実には、現在まだまさに「非常に散らかったラボのチップ(a-chip-in-a-big-messy-lab)」である。それゆえ、既存の臓器チップの製品及びアプローチは、現在、全くスケーラブルではない。
【0148】
本発明は、ハイスループットヒトチップを提供する。これは、数年の創薬を数週間に短縮することを可能にする。本主題において開示されるデバイスは、手動で又は他のロボットデバイスによって、複数の臓器チップ、センシングデバイス等を接続することを試みる現在の解決手段とは異なり、完全に自律的である。
【0149】
本主題の目的は、ポンピング循環並びに完全投与及び排出(ADME)機能を有する完全に統合された多臓器チップシステムであって、7つの主要な独自性の態様、(i)ハイスループット、完全自動化;(ii)自動リアルタイム「細胞」ナノセンサアレイ代謝産物センシング、(iii)オンチップ統合組織スケーリングを可能にするフレキシブルな循環経路選定制御、(iv)自動のオルガノイド作製、検証及び再経路選定、(v)統合された非破壊的なゲノム及びエピジェネティック分析、(vi)リアルタイム免疫プロファイリング;並びに(vii)自動自己学習システム統合、を提示する多臓器チップシステムを開示することである。これら並びに他の発明及び独自性の態様は、以下でさらに説明される。
【0150】
チップオンチップシステム100は、本発明の好ましい実施形態に従って構築されたデバイスであって、3つのコア要素である、マルチヒトチップアレイ110、1つ以上の自動化チップ120、及びアクチュエータ150、を含む。これら3つの要素及びそれらの相互作用は、本発明の独自性の重要な態様である。用語「チップ」は、身体組織を担持することができる容器を指す。当該チップは、当業者によって所望される任意のサイズ及び形状のものであってもよい。当該チップは、身体組織をセンシングすることを可能にする開口部を有してもよい。
【0151】
明確にするために、これらの3つの要素がまず簡単に説明される。マルチヒトチップアレイ110は、複数の「ヒトオンチップ」を含み、このヒトオンチップの各々は、複数の小型化された「臓器チップ」を含む。1つ以上の自動化チップ120は、マルチヒトチップアレイ110上でアクション、化学物質を測定する等の診断アクションと、栄養素又は薬剤を投与する等の処理アクションとの両方、を実行する一組の専用のラボオンチップデバイスであってもよい。アクチュエータ150は、マルチヒトチップアレイ110及び自動化チップ120の少なくとも一方を移動させる装置である。この移動は、マルチヒトチップアレイ110と自動化チップ120との間の相互作用、一例として、自動化チップ120のうちの1つをマルチヒトチップアレイ110のそれぞれのオルガノイドチャンバに挿入して、その中に含まれるオルガノイドの測定値を収集すること、をもたらす。
【0152】
アクチュエータ150、マルチヒトチップアレイ110及び自動化チップ120を有するデバイスは、以下の利点を提供する。1.センサが各オルガノイド113の周囲に構築されるのではなく、むしろ、多数のオルガノイド113によって「共有される」ため、複雑さを低減する。好ましくは数百個のヒューマノイド111及び数千個のオルガノイド113を含んでもよいチップでは、これは極めて重要となる。2.センサはマルチヒトチップアレイ110から分離されているので、センサの容易かつ迅速な交換を可能にする。3.試料をオルガノイド113から自動化チップ120内のセンサに運ぶために必要なマイクロ流体チャネルの長さを最小限に抑えることによって、試料サイズを最小限に抑える。
【0153】
マルチヒトチップ110は、複数のヒューマノイド111を含み、各ヒューマノイド111は、複数のオルガノイドチャンバ112を含み、各オルガノイドチャンバ112は、オルガノイド113を含む。各オルガノイド113は、マルチヒトチップ110内に配置された小型化された三次元生物組織である。この生物組織は、ヒト身体の臓器(器官)の機能を表すものであってもよい。本発明の好ましい実施形態では、複数のヒューマノイド111は、少なくとも300個、少なくとも200個、少なくとも100個、少なくとも90個、少なくとも80個、少なくとも70個、少なくとも60個、少なくとも50個、又は少なくとも40個のヒューマノイド111を含んでもよい。チップオンチップシステム100は、ヒューマノイド111内のそれぞれのオルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113上にマイクロ流体フローを送達してもよい。チップオンチップシステム100は、3つの異なるタイプのマイクロ流体フローを含み、1つのタイプは、マルチヒトチップ110によって送達され、他の2つのタイプは、以下のように自動化チップ120によって送達される。
【0154】
第1のタイプのマイクロ流体フローは、オルガノイドチャンバ112内のフローである。これは、オルガノイド113の活力のために必要とされるフロー誘発せん断力を提供する「オルガノイド内」フローである。このフローは、オルガノイド113間の接続とは無関係であり、マルチヒトチップアレイ110によって実行される。
【0155】
他の2つのタイプのマイクロ流体フローは、自動化チップ120によって提供され、本明細書において以下で説明される。簡潔には、第2のタイプのマイクロ流体フローは、ヒューマノイド111内の複数のオルガノイドチャンバ112を接続するフローであり、それゆえ、身体内の異なる器官を接続する心血管フローを模倣する「オルガノイド間」フローである。このフローは、本明細書において以下で説明される自動化チップ120のうちの1つによって提供され、断続的である。第3のタイプのマイクロ流体フローは、栄養素の流入フロー及び排泄物の除去の流出フローであり、投与及び排出(ADME)身体機能を模倣する。この第2及び第3のフローは、自動化チップ120のうちの1つによって提供される。両方のタイプのフローは、それらを実行する自動化チップ120に関して本明細書において以下で説明される。
【0156】
本発明は、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113上へのこれらの3つの異なるタイプのマイクロ流体フローを実行するときに、極度のスケーラビリティ(拡張性)及びコスト削減のための手段としてチップオンチップアーキテクチャを強化することが理解される。
【0157】
オルガノイド内フローに重点を置いたチップオンチップシステム100の循環能力の別の態様は、それがオンチップスケーリング、つまり、体内の対応する組織を正確に表すように組織-オルガノイドを「スケーリング」するために、異なる組織-オルガノイドに異なるレベルの栄養素及び薬物曝露を提供すること、に利用されてもよいということである。
【0158】
本主題のいくつかの例示的な実施形態では、自動化チップ120は、一組の診断チップ130と一組の処理チップ140の2種類のチップを含む。いくつかの他の場合において、自動化チップ120は、単一のタイプのチップを含む。診断チップ130は、オルガノイド113のパラメータの測定値を収集するために使用される。診断チップ130は、化学センシングチップ131、ゲノムチップ132、及び細胞抽出チップ133のうちの少なくとも1つを含む。
【0159】
化学センシングチップ131は、オルガノイドチャンバ112内の流体内の化学物質を自動的に測定し、これにより、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113の監視を提供するように動作する。
【0160】
ゲノムチップ132は、オルガノイドチャンバ112内の流体内のRNA配列のゲノム発現及びDNA配列の存在を自動的に測定し、これによりオルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113のゲノム解析を提供するように動作する。
【0161】
細胞抽出チップ133は、フローせん断力を用いてオルガノイド113から単細胞を自動的に抽出し、オルガノイド113を収容するオルガノイドチャンバ112内の流体からこれらの単細胞を抽出するように動作する。それゆえ、細胞抽出チップ133は、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113のゲノム解析を提供する。これは、薬物168が組織上に投与される前及び後にオルガノイド113のゲノムプロファイル及びエピジェネティックプロファイルを取得することを可能にし、これにより、オルガノイド113によって表される組織に対する薬物168のゲノム発現の影響の分析を可能にする。細胞抽出チップ133はさらに、オルガノイドチャンバ112の流体からの免疫細胞の抽出を可能にし、これによりオルガノイド113の免疫プロファイリングを可能にする。
【0162】
処理チップ140は、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113に対してアクションを実行するために使用される。処理チップ140は、開始チップ141、循環チップ142、ADMEチップ143及びmedsチップ144のうちの少なくとも1つを含む。
【0163】
開始チップ141は、システムのユーザが提供した組織164を受け取り、これらの組織を使用して、これらの組織の臓器を模倣するオルガノイド113を自動的に作製し、それらをそれぞれのオルガノイドチャンバ112内に設置するように動作する。各組織に関連するそれぞれのオルガノイドチャンバ112の識別子は、チップオンチップシステム100によって実行されるプロセスを管理するコントローラによってアクセスされるメモリアドレスに記憶される。組織164は、一例として、肺、腸、肝臓、心臓、腎臓、毛細血管上皮、血液脳関門、脳、及び様々な他の組織を含む。
【0164】
循環チップ142は、体内の異なる器官を接続する心血管フローを模倣する、「オルガノイド間」マイクロ流体フロー、すなわち、ヒューマノイド111内の異なるオルガノイド113を接続するフローを作動させるように動作可能である。上述のように、開始チップ141によって提供される循環フローは、各オルガノイドチャンバ112内に別個のフローを送達する「オルガノイド内」フローとは別個であり、「オルガノイド内」フローに加えてのものである。
【0165】
循環チップ142は、(他のオルガノイド113のそれぞれのオルガノイドチャンバ112を迂回することによって)他のオルガノイド113を迂回しながら、短絡された(shunted)フローを送達して、特定のオルガノイド113の間のフロー(技術的には、このフローは、これらのオルガノイド113をそれぞれ「収容する」オルガノイドチャンバ112へのものである)を選択的に接続し方向付けるようにも動作する。例として、循環チップ142は、ヒューマノイド111内のすべての他のオルガノイド113を迂回しながら腸及び肝臓オルガノイド113のみを通過するフローを模倣し、これにより体内の初回通過血液循環を模倣するために使用されてもよい。
【0166】
ADMEチップ143は、ヒト身体における吸収(又は投与)及び排出を模倣する機能を実行するように動作可能である。頭字語ADMEは、吸収(Absorption)/投与(Administration)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)及び排泄(Excretion)を表す。これら4つの機能のうち、ADMEチップ143は、吸収及び排出を作動させるように動作可能である。というのも、他の2つの機能である分布及び代謝はチップオンチップシステム100の他の要素によって提供されるためである。
【0167】
ADMEチップ143は、栄養素及び他の試薬を特定のオルガノイドチャンバ112に流入させることによって、吸収/投与機能を実行する。次いで、この栄養素は、ヒューマノイド111の循環を通して循環されてもよい(循環チップ142によって行われる)。
【0168】
ADMEチップ143は、同様に、オルガノイドチャンバ112から老廃物、特に灌流タイプの老廃物を流出させることによって排出機能を果たす。一例として、ネフロン灌流型オルガノイド113によって生成された「尿」を除去する。
【0169】
アクチュエータ150は、マルチヒトチップ110と1つ以上の自動化チップ120との間の相互作用を自動的に行うように動作するロボットデバイスであってもよい。本発明の好ましい実施形態では、アクチュエータ150は、好ましくは、以下の構成要素のうちの少なくとも1つを含む:コントローラ151、精密ロボット154、循環ポンプ155、インキュベータ156、一組の試薬チャンバ157及び一組の薬物チャンバ158。
【0170】
アクチュエータ150に含まれることが好ましいコントローラ151は、好ましくはプリント回路基板又はコンピュータであり、アクチュエータ150の自動動作を制御する。コントローラ151は、アクチュエータ150から遠隔に配置され、有線通信又は無線通信を介してアクチュエータ150と通信してもよい。コントローラ151は、入力として試験計画160を受信してもよく、これは、記憶された試験計画152としてコントローラ151に結合されたメモリに記憶される。コントローラ151は、記憶された結果153としてコントローラ151にアクセス可能なメモリに記憶された結果162の出力を提供してもよい。コントローラ151は、記憶された試験計画152の命令を自動的に実行するようにアクチュエータ150に命令する。コントローラ151は、診断チップ130から入力を受け取ってその入力を記憶結果メモリ153に保存してもよい。
【0171】
精密ロボット154は、コントローラ151の命令に従って、マルチヒトチップ110及び自動化チップ120を自動的及び協調的に動作させることによって、チップオンチップシステム100のすべての動作を実行するロボットデバイスであってもよい。精密ロボット154は、好ましくは、サブミリメートル精度で、一例として、10ミクロン(10μm)精度で、又は50ミクロン(50μm)精度で、又は100ミクロン(100μm)精度で動作するように構築される。この精度は、好ましくは直径50ミクロン(50μm)又は100ミクロン(100μm)であってもよい自動化チップ120のキャピラリ(毛細管)又はプローブを、マルチヒトチップ110のオルガノイドチャンバ112に挿入するために必要とされる。オルガノイドチャンバ112は、直径1mm以下のサイズを有してもよい。本発明の好ましい実施形態では、複数のセンサプローブが同じオルガノイドチャンバ112に同時に挿入されてもよく、この際にはさらに高い精度を必要とする。本発明の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、そのようなプローブ(複数可)をオルガノイドチャンバ112の中に挿入するときに、そのようなミクロンレベルの精度の移動を達成するように、カメラ及び画像処理技法を利用してもよい。
【0172】
本発明の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、複数のマルチヒトチップ110が使用される実験のワークフローも自動化する。1つのアクチュエータ150が取り扱うことができるマルチヒトチップ110の数は、以下の特性のうちの少なくとも1つに応じて変わる:(i)動作(センシング及び循環等)の頻度、(ii)マルチヒトチップ110内のヒューマノイド111及びオルガノイド113の数、(iii)自動化チップ120が行なうことが可能な並行動作の数(一例として、いくつのセンサプローブが隣接するオルガノイドチャンバ112に同時に挿入されるか)、(iv)データ分析及びスマート試料試験に基づいて動作の数を削減することを可能にする最適化、等。一例として、本発明の例示的な実施形態では、単独の精度ロボット154が、好ましくは、多数のマルチヒトチップ110を取り扱ってもよく、その数は、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも15個、及び少なくとも20個のマルチヒトチップ110から選択されてもよい。
【0173】
本発明の他の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、光学分析機器、顕微鏡光学分析、及びマルチヒトチップ110の分析に有用な他のデバイスを動作させてもよい。例えば、精密ロボット154は、マルチヒトチップ110内のオルガノイド113の測定値を収集するように、マルチヒトチップ110内のオルガノイドチャンバ112に対して適切に配置されるように、そのような器具を移動させてもよい。
【0174】
循環ポンプ155は、マルチヒトチップ110上のオルガノイドチャンバ112の少なくともいくつかの内部のマイクロ流体フローのポンピング(ポンプ輸送)を駆動するポンプデバイスである。
【0175】
インキュベータ156は、マルチヒトチップ110、ナノセンサ、及びチップオンチップシステム100の他の構成要素内のオルガノイド113の生物学的及び化学的動作のための所望の条件を確実にするように、チップオンチップシステム100内の環境条件を所望のレベルに維持するように動作可能である。このような条件としては、所望のレベルの温度、水分、並びに酸素及びCO2等のガスの存在が挙げられるが、これらに限定されない。
【0176】
試薬チャンバ157及び薬物チャンバ158は、それぞれ、チップオンチップシステム100に提供されアップロードされる複数の試薬166及び薬物168を貯蔵する2組のチャンバである。試薬チャンバ157及び薬物チャンバ158は、アクチュエータ150内に位置してもよい。試薬166は、例として、血液置換共通循環媒体、すすぎ試薬、及び様々な他の試薬を含む。薬物168は、試験される様々な薬物製剤を含み、異なる用量又は濃度の薬物製剤を含んでもよい。
【0177】
試薬チャンバ157内に貯蔵された試薬166は、各ヒューマノイド111及び各オルガノイド113の機能のためにチップオンチップシステム100によって使用される。一例として、循環媒体は、試薬チャンバ157のうちのその対応するものから、各ヒューマノイド111の心血管様循環へポンピングされてもよい。本発明の別の好ましい実施形態では、試薬166は、好ましくは、肺によって吸入される空気を模倣する吸入試薬、消化器系によって摂取される食物、混入物質、感染体、又はユーザがヒューマノイド111に影響を及ぼすことを望む他の物質を含んでもよいが、これらに限定されない。本発明の別の好ましい実施形態では、チップオンチップシステム100が分析されるべきオルガノイドチャンバから試料を採取する(引き出す)とき、「すすぎ」試薬が、試料管類等をすすぐために使用されてもよい。本発明の別の好ましい実施形態では、追加の試薬チャンバ157及び追加の薬物チャンバ158のうちの1つ以上も、マルチヒトチップ110自体に含まれてもよく、その結果、マルチヒトチップ110は、それ自体のリザーバから試薬及び薬物を引き出してもよい。
【0178】
薬物チャンバ158内に貯蔵された薬物168は、本明細書で後述する試験プロトコルに従って、チップオンチップシステム100によって使用され、複数の薬物168のうちの所望の1つが薬物チャンバ158のうちの対応する1つから所望の用量でポンピングされ、それがマルチヒトチップ110上の適切なヒューマノイド111のオルガノイド113に送達される。チップオンチップシステム100は、複数のヒューマノイド111に対する異なる用量での、多数の薬物の安価で自動化されたハイスループット試験を可能にする。従って、本発明の好ましい実施形態では、アクチュエータ150は、medsチップ144とともに、複数の薬物168の各々を、マルチヒトチップ110上のヒューマノイド111を有するそれぞれのオルガノイドチャンバ112に自動的に投与するように動作する。
【0179】
本発明の別の好ましい実施形態では、複数の薬物168のうちの1つは、各ヒューマノイド111がこの同じ薬物145の異なる用量を受けるように、複数のヒューマノイド111に送達されてもよい。本発明の別の好ましい実施形態では、medsチップ144及びアクチュエータ150は、複数の薬物168のうちの1つの異なる用量を、ヒューマノイド111内の異なるオルガノイド113に投与してもよく、その結果、同じヒューマノイド111内の異なるオルガノイド113は、異なる用量の薬物168を受け取り、それにより、ヒト身体内の状態をより正確に模倣する。このとき、薬物168は、異なる身体器官中に異なる濃度で存在することが既知であってもよい。medsチップ144は、マイクロ流体力学を使用して、薬物168の正確な滴定量(すなわち、異なる用量)を一連の異なるオルガノイドチャンバ112、例えば、異なるヒューマノイド111に自動的に送達する。
【0180】
ディープマッチング(deep-matching)エンジン170は、好ましくは、結果162を分析し、従って、試験計画160を反復的に調整するために使用される人工知能深層学習ソフトウェアであり、この調整は、次いで、チップオンチップシステム100上で改変された次の実験を推進するように、好ましくは、記憶された試験計画152にフィードバックされてもよい。
【0181】
本発明のチップオンチップシステム100は、以下に簡単に概説するいくつかの独特の利点を提供することが理解される。
【0182】
本発明の第1の利点は、本発明は完全に自動化されたハイスループットのヒトチップシステムを初めて提供することである。現在、統合されたヒトオンチップデバイス、すなわち、複数の小型化された相互接続された器官の統合を含み、ヒトの吸収、循環代謝及び排出を模倣する単一のデバイス、しかも、完全に自動化されたハイスループット試験プラットフォーム、すなわち、各オルガノイド113に対する代謝の影響を連続的に監視及び分析しながら、数千のオルガノイド113を含む数百のヒューマノイド111に対して並行して実行される試験を開始から終了まで完全に自動的に実行する試験プラットフォーム、でもある単一のデバイスは存在しない。
【0183】
本発明の第2の独特の利点は、吸収、分布、代謝及び排出を含む統合型ADMEである。現在、自動化されたハイスループットでもあるADME機能を有する統合されたヒトチップは存在しない。
【0184】
本発明の第3の独特の利点は、オルガノイドの作製及び検証である。現在の臓器チップシステムでは、オルガノイド又は小型化組織の作製プロセスは、手作業で時間がかかり、膜様灌流型オルガノイド113の場合、組織-膜の完全性の検証も手作業である。この制限は単一臓器チップにおいて管理可能であるが、完全に自動化されたハイスループットにスケールアップしようとすると法外なものになり、多臓器チップのハイスループットではさらに大きくなる。
【0185】
本発明の第4の独特の利点は、オンチップ統合組織スケーリングである。効果的なヒトチップを製造するための既存の試みの主な制限は、複数の臓器チップを単に接続することは、そのような臓器チップがそれぞれ単独で効果的であっても、ヒト身体を効果的に表さないことである。これは、「臓器チップ」の各々が、異なる組織の異なる質量及び循環基準を反映するように異なるようにスケーリングされなければならないからである。一例として、類似のサイズ、例えば1000個の細胞を有する心筋オルガノイド113及び肝臓組織オルガノイド113は、その場合、一例として、心筋組織と比較して肝臓組織のより大きい質量及びはるかに大きい「循環曝露」を反映するように、ヒト身体を適切に表すために、それぞれ非常に異なってスケーリングされなければならない。マルチヒトチップ110は、コンピュータ化された外挿補正とともに物理的オンチップ補償の組み合わせを通して、統合されたスケーリングを提供するという点で独特である。
【0186】
本発明の第5の独特の利点は、リアルタイム細胞代謝センシングである。現在、自動化された反復的なリアルタイムの偏りのない細胞代謝センシングを提供するハイスループットヒトチップは存在しない。頻繁な反復代謝測定へのアクセスは、当該技術分野で周知のように、試験される薬物の薬力学及び薬物動態の評価の一部として、組織及びそのミトコンドリアの機能を評価する際に重要である。そのような測定値は、好ましくは、グルコース、乳酸、尿素、カリウム、アンモニア及びpHを含んでもよいが、これらに限定されない。本発明の重要な独特の特徴は、本発明が、独特のリアルタイム細胞代謝センシングをもたらす自動化チップ120(又は別の好ましい実施形態ではオンチップ周辺センシング155)を組み込むことである。
【0187】
本発明は、薬物145による処理に応答して、各ヒューマノイド111における各オルガノイド113のゲノム発現及びエピジェネティック分析を提供するという独特の利点をもたらす。本明細書中で非破壊的は、オルガノイド113を破壊することなくオルガノイド113のゲノム発現を実行する能力を意味し、そのため、一例として、前処理されたオルガノイド113のゲノム発現が、薬物168のうちの1つによって処理された後の同じオルガノイド113のゲノム発現と比較されてもよい。
【0188】
本発明の第7の独特の利点は、薬物168の1つの投与に対する各オルガノイド113の免疫応答の自動の試験及び分析を提供するリアルタイム免疫プロファイリングである。
【0189】
本発明の第8の独特の新規性は、自律自己学習である。現在の臓器チップシステムは、本発明に独特の以下の特徴を欠いているので、現在の臓器チップシステムは、この能力を欠いていることが理解される:リアルタイム細胞センシングを伴う、自動化された自己訓練人工知能分析、及びこれらすべてを自己学習システムに統合するアーキテクチャを伴う完全自動化されたハイスループット能力。
【0190】
本発明の好ましい実施形態に係るヒトチップオンチップシステム100の説明図を概略的に提示する
図2Bをここで参照する。
【0191】
本発明の好ましい実施形態では、チップオンチップシステム100は、3つの主要な要素、マルチヒトチップ110、自動化チップ120、及びアクチュエータ150を含む。
【0192】
マルチヒトチップ110は、複数のヒューマノイド111を含み、各ヒューマノイド111は、好ましくは異なる組織タイプ、例えば肺、肝臓、脳等の対応する複数のオルガノイド113を含む複数のオルガノイドチャンバ112を含むことが好ましい。
図1Bに示される例では、ヒューマノイド111は、6つの隣接するオルガノイドチャンバ112の「列」を含み、ヒューマノイド111は、6つのみのヒューマノイド(6つのそのような列)を含む。チャンバの数は、一例としてのみ示されており、限定することを意図していないことが理解される。本発明の好ましい実施形態では、マルチヒトチップ110は、好ましくは、100を超えるそのようなヒューマノイド111を含んでもよく、各ヒューマノイド111は、6つを超えるオルガノイド113を含んでもよい。
【0193】
オルガノイドチャンバ112の各々は、関連するオルガノイドフローチューブ114を有してもよい。オルガノイドチャンバ112は、オルガノイドフローチューブ114の底部に位置するオルガノイドチューブ嚢115も含んでもよい。オルガノイドチューブ嚢115が、アクチュエータ150によってヒューマノイド111の真下で作動される蠕動ポンプ(図示せず)によって押圧されると、この押圧は、オルガノイドチューブ嚢115の体積の収縮を引き起こし、これにより、流体をポンピングし、その流体をオルガノイドフローチューブ114及びオルガノイドチャンバ112内に流動させる。このフローは、オルガノイド113にせん断流効果を引き起こし、これは、オルガノイド113の活力のために必要とされる。
【0194】
自動化チップ120は、マルチヒトチップ110のヒューマノイド111及びオルガノイド113に対して多種多様なアクションを実行するように設計された一組のチップを含む。
図1Bは、ヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112間に流体をポンピングし、これにより身体の心血管循環を模倣する「循環チップ」である例示的なチップを示す。この図に示されるように、この自動化チップ120は、一組のキャピラリを含み、各そのようなキャピラリチューブは、2つの隣接するオルガノイドチャンバ112内に延び、流体を1つのオルガノイドチャンバ112からその隣接するオルガノイドチャンバ112にポンピングする(及び、1つのより長いキャピラリは、流体を最も右側のオルガノイドチャンバ112から最も左側のオルガノイドチャンバに移送し、これによりサイクルを閉じる)。この循環チップは、循環の経路選定も誘導し、例えば、「腸」及び「肝臓」のみを通って流れ、従って肝臓の初回通過循環を模倣するようにフローを方向付けるように動作する。
【0195】
アクチュエータ150は、チップオンチップシステム100の動作を実行する。アクチュエータ150は、例えば、所定の計画に基づいて、ユーザの入力に従って、等によりアクチュエータ150の動作を命令するコントローラ151を含む。アクチュエータ150は、マルチヒトチップ110及び自動化チップ120を動作させる精密ロボット154も含む。この図で示されるように、精密ロボット154は、複数の自動化チップ120のうちの適切なものを持ち上げ、それを動かすように動作して、(自動化チップ120の種類に応じて)そのキャピラリチューブ又はプローブが一連のオルガノイドチャンバ112内に配置され、それらのアクションを実行するようにするロボットアームを含む。
図1Bが示すように、本発明の好ましい実施形態では、アクチュエータ150は、チップオンチップシステム100の要素のすべてを包囲して、アクチュエータ150がインキュベータ機能(示さず)を提供することを可能にし、温度、湿度等の所望のレベルの特性を維持する「ボックスエンクロージャ」も含んでもよい。
図1Bは、アクチュエータ150のエンクロージャ内の単独のマルチヒトチップ110のみを示すが、本主題は、単一のアクチュエータ150が複数のマルチヒトチップ110、好ましくは9つを超えるそのようなマルチヒトチップ110を「収容」してもよく、そのようなマルチヒトチップ110を同時に取り扱うように動作可能である実施形態も開示することを理解されたい。
【0196】
図2Bは、3つの追加のチップ、化学センシングチップ131、ゲノムチップ132、及びmedsチップ144、も示す。この3つの追加のチップは、自動化チップ120の組の一部であってもよく、例としてのみ示されている。これらのチップは、精密ロボット154が実行されるべき所望の動作のための適切なチップを持ち上げてもよいように、アクチュエータ150のエンクロージャ内に配置されることが理解される。化学センシングチップ131は、一組のナノセンサを含み、複数のオルガノイドチャンバ112内で、一例としてヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112内で、好ましくは並行して、生物学的に関連する化学物質のリアルタイム測定を実行するように動作する。ゲノムチップ132は、オルガノイドチャンバ112の流体中のRNA又はDNA等の無細胞核酸の発現の高感度の非増幅測定を実行するように動作する。ゲノムチップ132は、細胞外で極めて安定であり、癌、心疾患、及び自閉症を含む多くの主要な疾患に関連する短鎖RNAの一種である、循環RNA(circRNA)の発現を検出するようにも動作可能であってもよい。medsチップ144は、オルガノイドチャンバ112に薬剤を投与するように動作する自動化チップ120である。
【0197】
本発明の重要な独自性は、オルガノイド113が、能動的にポンピングされ制御されたマイクロ流体フローの2つの相補的モードにさらされるということであることが理解される。マイクロ流体フローの第1のモードは、「オルガノイド内」循環、すなわち、個々のオルガノイドチャンバ112内で、例えばオルガノイドフローチューブ114を通って流れ、オルガノイド113の一定のせん断力刺激を引き起こす循環である。マイクロ流体フローの第2のモードは、「オルガノイド間」循環であり、これは体内の心血管循環を模倣し、「循環」タイプの自動化チップ120によって作動される。さらに、オルガノイド間循環は動的に柔軟であり、必要に応じて特定のオルガノイド113を迂回してもよいことが理解される。
【0198】
本発明に従って構築された診断チップの例を概略的に示す
図2Cをここで参照する。
【0199】
図2Cは、診断チップの2つの例の概略図を提供する。第1の例は、「化学的及びゲノム診断チップ」と指定された図に描かれている。化学センシングチップ131は、オルガノイドチャンバ112の流体中に存在する化学物質のナノセンサ試験を実行するように構築され動作する診断チップである。
【0200】
化学センシングチップ131は、ヒューマノイド111内に含まれる6つのそれぞれのオルガノイドチャンバ112の流体の中へ(例えば、図示されていない精密ロボット154によって)降下されれるように構築され動作する6つのプローブ200を含む。この設計は、化学センシングチップ131が、ヒューマノイド111の6つのオルガノイドチャンバ112の同時化学試験を実行することを可能にする。
【0201】
化学ナノセンサ201は、プローブ200上に取り付けられ、オルガノイドチャンバ112の流体中に見出され、従ってオルガノイド113と相関する化学化合物のレベルの測定を実行するように動作する。
【0202】
各プローブ200は、好ましくは、いくつかの化学ナノセンサ201を含んで、各プローブ200が、同時にいくつかの化学試験を行うことを可能にしてもよい。
図2Aは、プローブ200の各々に取り付けられた3つの化学ナノセンサ201を描く。プローブ中の化学ナノセンサ201の数は、当業者によって選択されてもよい。
【0203】
オルガノイドチャンバの少なくともいくつかは、関連するオルガノイドフローチューブ114及びオルガノイドチューブ嚢115を有し、これらは両方ともオルガノイド内フローを可能にする。
【0204】
この図は、ゲノムセンシングにも関連し、化学ナノセンサ201の少なくともいくつかは、特定の核酸分子のハイブリダイゼーションを特定するように構築され作動するナノセンサであることが理解される。
【0205】
第2の例は、「細胞抽出チップ」と指定された図で描かれている。細胞抽出チップ133は、オルガノイドチャンバ112の流体から単細胞を抽出するように構築され動作する診断チップであり、そのため、これらの単細胞は、単細胞ゲノム配列決定及びエピジェネティック分析を含んで分析されてもよい。
【0206】
細胞抽出チップ133は、ヒューマノイド111内に含まれる6つのそれぞれのオルガノイドチャンバ112の流体の中へ(例えば、図示されていない精密ロボット154によって)降下されるように構築され動作する6つの細胞抽出ナノチューブ202を含む。この設計は、細胞抽出チップ133が、ヒューマノイド111のそれぞれの6つのオルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113からの単細胞の同時抽出を行うことを可能にする。
【0207】
本発明に従って構築された処理チップの例を概略的に示す
図2Dをここで参照する。
【0208】
図2Dは、それぞれ「開始チップ」、「循環チップ」、「ADMEチップ」、及び「medsチップ」と指定された処理チップ140の4つの例をそれぞれ示す4つの図を含む。
【0209】
開始チップ141は、オルガノイドを自動的に作製し、オルガノイドチャンバ112内にそのオルガノイドを配置するように構築され動作する。開始チップ141は、ヒューマノイド111の複数のオルガノイドチャンバ112に対応する複数の設置ノズル203を含み、開始チップ141は、オルガノイド113をそれぞれのオルガノイドチャンバ112内に配置することができる。
図2Bは、スフェロイドオルガノイドの作製を描くが、これは限定を意図するものではなく、開始チップ141は灌流型オルガノイドを作製するようにも動作することが理解される。
【0210】
循環チップ142は、ヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112内に配置されたオルガノイド113間で体内の心血管循環を模倣する流体の循環を実行するように構築され動作する。循環チップ142は、複数のオルガノイドチャンバ112を有するヒューマノイド111に循環を提供する。循環チップ142は、複数の循環チューブ204と、1つの長い循環チューブ205とを含む。複数の循環チューブ204は、1つのオルガノイドチャンバ112から隣接するオルガノイドチャンバ112に流体を移送し、長い循環チューブ205は、ヒューマノイド111の最も右側のオルガノイドチャンバ112から最も左側のオルガノイドチャンバ112に流体を移送する。循環チップによって提供される循環は、オルガノイド間フロー、すなわち、ヒューマノイド111の異なるオルガノイドチャンバ112間の流体のフローであることが理解される。
【0211】
ADMEチップ143は、ヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112上での投与/吸収及び排出の機能を実行するように構築され動作する。ADMEチップ143は、ヒューマノイド111の複数のオルガノイドチャンバ112に対応する複数のADMEチューブ206を含む。ADMEチューブ206は、ヒューマノイド111のそれぞれのオルガノイドチャンバ112の流体の中へ(例えば、図示されていない精密ロボット154によって)降下されて、(i)栄養素を投与し、(ii)オルガノイド113の老廃物を排出するように動作する。
【0212】
medsチップ144は、ヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112に薬物208を投与するように構築され動作する。medsチップ144は、ヒューマノイド111の複数のオルガノイドチャンバ112に対応する複数のmedsチューブ209を含む。medsチューブ209は、ヒューマノイド111のそれぞれのオルガノイドチャンバ112の流体の中へ(例えば、図示されていない精密ロボット154によって)降下されて、薬物208をオルガノイド113に投与するように動作する。medsチップ144は、異なる用量の薬物208を異なるオルガノイド113に自動的に送達するようにも動作することも理解される。
【0213】
本発明のチップオンチップの実装の概要の一例を示す
図3Aをここで参照する。
図3Aは、本発明のチップオンチップシステム100の一実施形態の製造におけるプロトタイプを示し、その主要な構成要素、マルチヒトチップ110、一組の自動化チップ120、及びアクチュエータ150、並びにそれらの緊密な相互作用を明らかにする。チップオンチップシステム100は、床、テーブル等の表面上に置かれるように構成された本体を含む。この本体は、アクチュエータ150を担持するフレーム、例えば、マルチヒトチップ110に含まれるオルガノイドチャンバのラインに沿って自動化チップ120を移動させるロボットアームを含んでもよい。
【0214】
本発明の実装の一例を示し、そのチップオンチップ態様とその主要な構成要素、マルチヒトチップ110、一組の自動化チップ120、化学センシングチップ131、循環チップ142、アクチュエータ150、並びに較正及びすすぎウェル300とを示す
図3Bをここで参照する。アクチュエータ150が自動化チップ120を担持してもよいことが示されている。自動化チップ120は、例えば、自動化チップ120のフレームをアクチュエータ150の本体に引き付ける磁場を使用して、又はチップオンチップシステム100のコントローラによって制御可能な別のコネクタを使用して、アクチュエータ150に結合されてもよい。
【0215】
較正及びすすぎウェル300は、一組のオルガノイドチャンバ112に対してアクション又は測定を実行した後でかつ同じ又は別の組のオルガノイドチャンバ112に対して次のアクション又は測定を実行する前に自動化チップ120をすすぎ、それにより、前の組のオルガノイドチャンバ112からの流体によって他の組のオルガノイドチャンバ112が汚染されることを回避するために利用されてもよいことが理解される。較正及びすすぎウェル300は、診断チップ130の自動較正を可能にするのにも重要であることがさらに理解される。
【0216】
本発明の好ましい実施形態では、マルチヒトチップ110上で自動化チップ120によって実施される試験又はアクションの間の精密ロボット154の移動の距離を最小限にし、自動化チップ120のすすぎ及び較正のアクションを頻繁に実施することができるように、較正及びすすぎウェル300は各マルチヒトチップ110に近接して配置される。いくつかの例示的な場合において、較正及びすすぎウェル300は、自動化チップ120とともにマルチヒトチップ110に沿って移動してもよい。
【0217】
本発明のチップオンチップの実装の一例を示す
図3Cをここで参照する。
図3Cは、本発明の好ましい実施形態に従って構築され動作する自動化チップ120の組の1つであるマルチヒトチップ110及び化学センシングチップ131の実装形態、並びにこれらの2つのチップ間の相互作用の全体図を提供する。
【0218】
図3Cから分かるように、マルチヒトチップ110の例示的な実装形態は、合わせて648個のオルガノイド113を含む108個のヒューマノイド111を含む。オルガノイドの寸法は、3mm×60mm×70mmであってもよい。
【0219】
例として、1つのヒューマノイドが強調表示され、破線で囲まれている。各ヒューマノイドは、6つの相互接続された「ウェル」の「列」を含み、各ウェルは、オルガノイド113(図示せず)を含むオルガノイドチャンバ112であることが理解される。一例として、そのようなオルガノイドチャンバ112の1つは、同様に強調表示され、破線で囲まれている。
【0220】
本発明の別の好ましい実施形態では、オルガノイド間循環は、循環チップによってではなく、両方ともマルチヒトチップ110内に位置する循環ポンプ及び循環チャネル285によって達成される。この実施形態では、各ヒューマノイド111は、ヒューマノイド循環ポンプも含み、このヒューマノイド循環ポンプは、そのヒューマノイドのオルガノイドチャンバ間の循環をポンピングし、ヒト身体内の血液循環のための「心臓」に類似している。オルガノイドチャンバ112間の循環は受動的ではなく、むしろ能動的にポンピングされ、選択的に経路指定され、電子的に制御されることが理解される。
【0221】
自動化チップ120の組の1つである、マルチヒトチップ110と相互作用する化学センシングチップ131も示される。化学センシングチップ131は、複数のオルガノイドチャンバ112と同時に相互作用し、チャンバ112から試料を引き出し、それらを同時に化学センシングチップ131上の複数の対応するナノセンサアレイに流すことが理解される。オルガノイドチャンバ112から引き出された試料は、例えば、組織の生存率、及び特定の所望のアッセイを示すために、複数の化学物質を測定する複数のナノセンサのアレイに分配される。いくつかの例示的実施形態では、各そのようなセンサアレイは7つのセンサを含み、それらの7つのセンサは、好ましくは、細胞及びミトコンドリアの活力を示す化学物質を測定してもよい。このセンサは、酸素、グルコース、乳酸、尿素、カリウム、アンモニア及びpH等を測定してもよい。
【0222】
化学センシングチップ131をマルチヒトチップ110に対して移動させること(すなわち、それをオルガノイドチャンバ112の列上に移動させ、それを降下させて、その複数のキャピラリが、試験されるべき次のヒューマノイド111のそれぞれの複数のオルガノイドチャンバ112内に「浸漬」されるようにすること)は、アクチュエータ150の精密ロボット154(両方とも図示せず)によって行われてもよいが、これは当業者には周知であろう。
【0223】
本発明のチップオンチップの実装の例の別の図を示す
図3Dをここで参照する。
図3Dは、本発明の好ましい実施形態に従って構築され動作する、マルチヒトチップ110及び化学センシングチップ131(自動化チップ120の組のうちの1つ)の実装形態、並びにこれらの2つのチップ間の相互作用の拡大図を提供する。
【0224】
この図で見られるように、
図3Dは「ズームイン」して、それぞれが6つのオルガノイドチャンバ112(それぞれが対応するオルガノイド113(図示せず)を含む)を含む6つのヒューマノイド111の図をより詳細に示し、6つのオルガノイドチャンバ112と同時に相互作用する化学センシングチップ131を示す。
【0225】
図3Dは、3つの図面を含み、これらはともに本発明の重要な機能への洞察を提供する。「1.ヒューマノイドの6つの組織」と指定された第1の図面は、本発明のチップオンチップシステム100が、ハイスループットスクリーニング、この例では、単一のヒューマノイド111内に含まれる6つのオルガノイド113を同時に、完全に自動化された様式で試験するようにどのように動作するかを描く。上述のように、6つの「ウェル」の各列は、ヒューマノイド111である。従って、この第1の図が示すように、化学センシングチップ131が「ウェル」の列を同時に試験するとき、化学センシングチップ131はヒューマノイド111の6つのオルガノイド113を試験している。
【0226】
「2.同じ組織、6つのヒューマノイド」と指定された第2の図面は、本発明のチップオンチップシステム100がハイスループットスクリーニングを実行するようにどのように動作するかを描く。この例では、化学センシングチップ131は、6つの異なるヒューマノイド111からの同じ関心組織(例えば、「肝臓」)を同時に完全に自動化された様式で試験する。
【0227】
マルチヒトチップ110は、「ヒューマノイドによる」試験(すなわち、ヒューマノイド111内のすべてのオルガノイド113の試験)に焦点を当てるか、又は、複数のヒューマノイド111内の「組織による」試験(すなわち、特定の組織(例えば、肝臓)を同時に試験すること)に焦点を当てることも可能にすることが理解される。
【0228】
「3.6つのヒューマノイドの「循環」」と指定された第3の図面は、循環自体の中から試料を採取することを描く。本実施形態では、「循環」のサンプリングは、各ヒューマノイドが含む「ウェル」の列の終わりに位置する循環ウェルを通して行われる。循環ウェルは、「全身チャンバ」と指定された空のウェルである。他の6つのウェルはすべてオルガノイド113を含むが、「全身チャンバ」ウェルはオルガノイドを含有しない空の「ウェル」であり、その機能は循環から試料を採取することを可能にすることである。
【0229】
この機能性は、患者の器官から「生検」を採取することに邁進する前に、患者の末梢血試料からの試料を試験する有用性に類似していることが理解される。本発明の一実施形態では、「全身チャンバ」からのそのような試料は、「スクリーニング」の手段として使用されてもよい。そのスクリーニングは、特定のオルガノイド113から試料を引き出す(採取する)か否かを決定するために使用されてもよい。そうすることは、行われる試験の量を劇的に低減する可能性があり、従って、非線形スケーリング及びコスト削減をさらにサポートする。
【0230】
「スクリーニング」能力を利用するための第1の例として、ヒューマノイド111のすべてのオルガノイドチャンバ112からの複合試料を反映する「全身チャンバ」からの試料が乳酸の上昇を示す場合、これは、どの試料が乳酸の上昇を有するかを決定するためにそのヒューマノイド111のすべてのオルガノイドチャンバ112からの試料の採取を促してもよい。別の例として、「全身チャンバ」からの試験が、可能性のある高レベルの1つ以上の肝臓酵素を示す可能性がある結果をもたらす場合、生きている人における全身血液検査と同様に、これは、この異常を確認、検証、及び定量化するために肝臓オルガノイドチャンバ112から試料を採取することを促してもよい。
【0231】
このスクリーニング能力は、本発明の深層学習及び自動タグ付け能力に直接結び付けられ、それらに依存してもよい。「全身チャンバ」試験と個々のオルガノイド113の試験との間の相関を手動で決定することは不可能である可能性があるが、自動タグ付け及び深層学習は、実際に、そのような相関を発見し、自動的に学習し実装することができる。あらゆる実験サイクルで、当該システムは、「全身チャンバ」に適用された試験からの所見と個々のオルガノイド113に対して行われた試験との間の相関を観察し、自動的に改善し、「全身チャンバ」試験の使用を最適化する。
【0232】
本発明のチップオンチップの実装の例のさらに別の図を示す
図3Eをここで参照する。
図3Eはさらに「ズームイン」して、1つのオルガノイド113、及びそれと自動化チップ120の1つである化学センシングチップ131との相互作用の図をより詳細に示す。
【0233】
「1.オルガノイド図」と指定された第1の図は、単一のセンサアレイユニット(自動化チップ120の1つである化学センシングチップ131の一部である)と相互作用する単一のオルガノイドチャンバ112ユニット(マルチヒトチップ110の一部である)の「断面様」の図を描く。
【0234】
図は、オルガノイドチャンバ112と、オルガノイドチャンバ112の底部に配置されたオルガノイド113とを描く。オルガノイド113の活力を高めるために、オルガノイドチャンバ112の底部を通って流れ、従ってオルガノイド113にせん断力を加える代替的な循環チャネル285も描かれている。オルガノイドチャンバ112の縁部は、オルガノイドチャンバ112内へのキャピラリ1112の安全な挿入を支援するようにテーパ状であってもよい。ヒューマノイド111の複数のオルガノイド113を通って流れ、それを接続するオルガノイド間循環は、循環チップ142によって提供されるのではなく、両方ともマルチヒトチップ110の固定部分として存在する循環ポンプ及び循環チャネル285によって提供されることが理解される。
【0235】
図示のセンサアレイユニットは、(自動化チップ120の1つである)化学センシングチップ131の一部である。キャピラリ1112は、自動化チップ120から突出するキャピラリであり、オルガノイドチャンバ112内に配置される。自動化チップ120をマルチヒトチップ110上のその位置に移動させるアクションは、両方とも図示されていないアクチュエータ150の精密ロボット154によって行われる。
【0236】
本発明の別の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバ112は、その上部で密閉されてもよく、キャピラリ1112がオルガノイドチャンバ112内に直接挿入される代わりに、第2のウェルが、オルガノイドチャンバ112に隣接して作製され、流体は、例として、迷宮(ラビリンス)様機構、又は当該技術分野で公知であるような他の類似機構を通して、オルガノイドチャンバ112と第2のウェルとの間に相互移送される。これは、オルガノイドチャンバ112が密閉されたままであることを可能にし、同時に、各試験サイクルのための「蓋」を開閉する余分な工程を排除する。
【0237】
ここで描かれる実施形態では、キャピラリ1112は、各々が1つ以上のナノセンサを含む7つのセンサチャンバに開口する。ナノセンサは、好ましくは、以下のセンサを含んでもよいが、これらに限定されない:酸素、グルコース、乳酸、尿素、カリウム、アンモニア及びpH。センサは、当該技術分野で周知であるとおり、それらの所望の標的を特定するために必要とされるように、好適な膜コーティング若しくは酵素コーティングを用いて若しくは用いずに電気化学的であってもよく、又はそれらは、蛍光ベースであってもよく、又は当該技術分野で公知の他のナノセンサ技術に基づいてもよい。
【0238】
換気細孔が、キャピラリ1112の遠位端に設けられる。換気細孔は、キャピラリ1112を通るフローを可能にしてもよい。本発明の別の実施形態では、能動的にポンピングされるフラッシング機構が換気細孔に接続されてもよく、その結果、各試料の後、キャピラリ1112及びセンサチャンバがフラッシングされ、すすがれてもよい。
【0239】
球形オルガノイド113は、典型的には直径100~300ミクロン(100~300μm)であることが理解される。この実施形態におけるオルガノイドチャンバ112は、直径1mmで深さ800ミクロン(800μm)である。好ましくは、オルガノイドチャンバ112は、オルガノイド113を快適に収容するように、そしてオルガノイド113を取り囲む充分な栄養補給流体の必要性を考慮して、直径が400ミクロン(400μm)以上である。しかしながら、以下を含むがそれらに限定されない他の重要な考慮事項が考慮される。自動化チップ120の縁部から突出するキャピラリ1112の「壁」の幅は、充分な構造強度を有し、オルガノイド113内に安全に挿入されることが可能な程度である。厚さ50~100ミクロン(50~100μm)の壁は、当該技術分野で公知のように、ガラス材料中でエッチングを使用してチップを製造するときに充分に強いので、好ましく使用されてもよい。試料抽出ナノチューブ297の所望の内径は、商業的に利用可能な費用対効果の高い製造方法を使用して製造するのに実行可能である必要があり、組織支持流体の効率的で妨げられないフローに対応しなければならない。50~100ミクロン(50~100μm)の内径が好ましくかつ安全に使用されてもよい。キャピラリ1112の先端の構造は、とりわけオルガノイド113内に繰り返し挿入されることを考慮すると、充分な堅牢性をそれに提供するために重要である。キャピラリ1112の先端の壁の断面は、好ましくは、その基部においてより堅牢であり、その先端においてより薄いが、好ましくは50~100ミクロン(50~100μm)以上である。
【0240】
本実施形態は、好ましくは、直径100~300ミクロン(100~300μm)のオルガノイド113を使用する。オルガノイドチャンバ112は、好ましくは内径が700ミクロン(700μm)~1mmであってもよい(本明細書に描かれる実施形態では1mm)。循環チャネル285の内径は、直径50~100ミクロン(50~100μm)であってもよい(本明細書に描かれる実施形態では100ミクロン(100μm))。構造体の「壁」は好ましくは100ミクロン(100μm)以上であり、キャピラリ1112の先端は好ましくはその狭い遠位端で100ミクロン(100μm)以上、好ましくはそのより太い近位端で300~500ミクロン(300~500μm)であってもよい。循環チャネル285は、その底部でオルガノイドチャンバ112に入る。他の好ましい実施形態では、循環チャネル285は、他の位置でオルガノイドチャンバ112に入ってもよい。自動化チップ120内のナノセンサウェルは、描かれる実施形態では100ミクロン(100μm)である。
【0241】
循環チャネル285内のフローを駆動するために使用されるポンプは、好ましくは圧電ポンプであってもよい。著しく小さいポンプが使用されてもよいので、ポンプの寸法は2mm×2mmであってもよい。試料抽出ナノチューブ297に流入する流体試料は、好ましくは、キャピラリ及びナノセンサウェルの排出物であってもよいように、ポンプなしで毛細管力によって駆動されてもよい。代替として、上記で説明されるものに類似するポンプが使用されてもよく、試験試料間でナノセンサウェルを洗い流すために使用されてもよい。
【0242】
上記のアーキテクチャを使用して、108個のヒューマノイド及び648個のオルガノイドを含むチップが構築されてもよく、これは約60mm×70mm×3mmの大きさになる。
【0243】
「2.化学センシングチップ」と指定された第2の図面は、この実施形態では、ヒューマノイド111の6つのオルガノイド113すべてを同時にサンプリングするように6つのナノセンサアレイを含む化学センシングチップ131の図を提供する。
【0244】
化学センシングチップ131の実装の一例を示す
図3Fをここで参照する。この好ましい実施形態では、化学センシングチップ131は、6つのそれぞれのオルガノイドチャンバ112内の化学物質を測定するように動作する6つの化学センサを含む。この好ましい実施形態では、各センサは、長さが1.1mmで合計幅が0.6mmの2つのプローブを含む。このプローブは、オルガノイドチャンバ112内に嵌合し、オルガノイドチャンバ112内の流体内に突出する。
【0245】
好ましい実施形態では、そのような各センサは、
図3Fに描かれるように、3つの電極を含む。センサの第1のプローブ上には、好ましくは金で作製されてもよい第1の電極があることが好ましい。第2のプローブ上には、好ましくは、2つの他の電極、好ましくは銀又は塩化銀で作製された第2の電極、及び好ましくは白金で作製された第3の電極があってもよい。センサの本体及びその2つのプローブは、好ましくはケイ素又は二酸化ケイ素で作製されてもよい。
【0246】
上記金電極は、好ましくは、標的化学物質と相互作用するように動作する「作用」電極として機能する。上記白金電極は、好ましくは「対」電極として機能してもよい。また、上記銀電極は、好ましくは「参照」電極として機能してもよい。
【0247】
対電極(白金)及び参照電極(銀)は、いくつかの「作用」(金)電極に共通であってもよいことが理解される。本発明の別の好ましい実施形態(図示せず)では、第1のプローブは、いくつかの別個のより小さい金作用電極を含み、より小さい金作用電極の各々は、異なる標的化学物質を検出するように動作し、単一の対電極及び単一の参照電極は、これらのより小さい金作用電極のすべてが共通である。このような実施形態では、単一の2プローブセンサユニットが、2種、又は3種、又は4種、又は5種、又は6種、又は7種、又は8種、又は9種、又は10種の異なる標的化学物質等、複数の標的化学物質を同定するように動作する。このような実施形態では、センサユニットは、1つの大きい金作用電極ではなく、複数の小さな金作用電極を含み、より小さい金作用電極の各々は、それぞれの標的化学物質を検出するように動作可能であり、より小さい金作用電極のすべては、単一の白金対電極及び単一の銀対電極と併せて動作する。
【0248】
本発明の好ましい実施形態では、センサの前面及び背面の2つの面は、その2つの面のそれぞれが、2つ又は3つ又は4つ又は5つの金作用電極と、単一の白金対電極と、単一の銀対電極とを含んでもよいように、利用されてもよく、これにより、センサデバイスは、4種、又は6種、又は8種又は10種の化学物質を同定するように動作してもよい。
【0249】
較正及びすすぎウェル300は、試験されるべき次のオルガノイドチャンバ112が、試験されたオルガノイドチャンバ112の前の組からの流体によって汚染されることを回避するように、測定が行われた後でかつ次の測定が行われる前に、化学センシングチップ131をすすぐために利用されてもよいことが理解される。
【0250】
循環チップ142の実装を示す、本発明の実装の一例を示す
図3Gをここで参照する。この好ましい実施形態では、循環チップ142は、ヒューマノイド111の6つのオルガノイドチャンバ112の間で流体をポンピングするように動作する。6つのオルガノイド113が、6つのそれぞれのオルガノイドチャンバ112の底部に見られる。この好ましい実施形態では、流体は左から右に流れており、
図3Gに表示される画像は、フローが左側から4つめまでのチャンバに達した時点を捉えている。実線の矢印は、左から4つめまでのオルガノイドチャンバ112への流体の流入及び流出を示し、破線の矢印は、第4のオルガノイドチャンバ112から先に向かう流体のフローの経路を示す。
【0251】
本発明の循環アーキテクチャを概略的に示す
図4をここで参照する。
【0252】
チップオンチップシステム100は、ヒューマノイド111内のそれぞれのオルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113へのマイクロ流体フローの2つの相補的な形態を含む。
【0253】
第1のタイプのマイクロ流体フローは、オルガノイドチャンバ112内の連続的な独立した能動的にポンピングされるフローである。これは、オルガノイド113の活力のために必要とされる必要なフロー誘発せん断力を提供する「オルガノイド内」フローである。これは、オルガノイド113間の接続とは無関係であり、以下のようにマルチヒトチップ110によって実行される。オルガノイドチャンバ112の各々は、関連するオルガノイドフローチューブ114と、オルガノイドチューブ嚢115とを有する。オルガノイドフローチューブ114及びオルガノイドチューブ嚢115は、異なる方法で実装されてもよい。
図4に描かれる本発明の1つの実施形態では、オルガノイドフローチューブ114は、オルガノイドチャンバ112から流体を流し、そしてオルガノイドチャンバ112に流体を流して戻すように動作する環状チューブである。この実施形態では、オルガノイドチューブ嚢115は、オルガノイドフローチューブ114の広がった部分であり、
図4では、オルガノイドチャンバ112の下にあるものとして描かれている。オルガノイドチューブ嚢115が、好ましくは蠕動運動(本明細書において以下に記載される)によって圧縮されると、流体は、オルガノイドフローチューブ114を通り、オルガノイドチャンバ112を通り、それを横切って環状に流れ、オルガノイド113にせん断力を加える。
【0254】
本発明の別の好ましい実施形態(図示せず)では、オルガノイドチューブ嚢115は、好ましくは、オルガノイドチャンバ112に隣接し、オルガノイドフローチューブ114によってオルガノイドチャンバ112に接続されるチャンバであってもよく、この実施形態では、オルガノイドフローチューブ114は、流体を前後に、つまりオルガノイドチャンバオルガノイドチャンバ112からオルガノイドチューブ嚢115へ、そしてオルガノイドチューブ嚢115からオルガノイドチャンバ112へ戻るように流すように動作する、環状チューブではなく線状(非環状)のチューブである。この実施形態では、このチャンバの底部(オルガノイドチューブ嚢115)は可撓性であり、従って、圧縮され(本明細書中以下で説明される)、解放されると、流体は、環状ではなく行き来する様式で、オルガノイドチャンバ112と隣接するチャンバ(この実施形態では、オルガノイドチューブ嚢115である)との間で流れる。このフローも、オルガノイドチャンバ112を横断しないが、依然として充分なせん断流刺激をオルガノイド113に加える。
【0255】
本発明の好ましい実施形態では、複数のオルガノイドチューブ嚢115は、好ましくは、圧縮軸402及びエンジンポンプ400によって駆動される圧縮ホイール(圧縮機翼車)404によって律動的に圧縮されてもよい。圧縮ホイール404、圧縮軸402、及びエンジンポンプ400はすべて、アクチュエータ150の一部であり、アクチュエータ150の基部にマルチヒトチップ110の直下にしっかりと配置され、その結果、圧縮ホイール404が上方に突出すると、複数のオルガノイドチューブ嚢115を圧縮し、これにより、対応するオルガノイドフローチューブ114及びオルガノイドチャンバ112を通して流体を駆動する。上記の代替実施形態(図示せず)では、圧縮ホイール404は、隣接する区画(この実施形態では、オルガノイドチューブ嚢115である)の可撓性底部を圧縮し、これにより、同様に、オルガノイド内フローを生成する。
【0256】
本発明の別の好ましい実施形態では、オルガノイドチューブ嚢115の圧縮は、圧縮ホイール404を回す圧縮軸402ではなく、他の手段によって、一例として突起を有する回転バンドによって作動されてもよく、このバンドの回転は、突起のそれぞれがオルガノイドチューブ嚢115と整列するので、オルガノイドチューブ嚢115の反復的圧縮を引き起こす。本発明の別の好ましい実施形態では、圧縮ホイール404又は摺動突起は、オルガノイドチューブ嚢115を直接押すのではなく、上下方向に拘束されたロッドを押してもよく、このロッドがオルガノイドチューブ嚢115を押す。
【0257】
第2のタイプのマイクロ流体フローは、ヒューマノイド111内の複数のオルガノイドチャンバ112を接続するフローであり、それゆえ、身体内の異なる器官を接続する心血管フローを模倣する「オルガノイド間」フローである。このフローは循環チップ142によって提供される。循環チップ142は、ヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112内に配置されたオルガノイド113間で流体の循環を行う体内の心血管循環を模倣するように構築され動作する。
図4に描かれる循環チップ142は、5本の循環チューブ204と、1本の長い循環チューブ205とを含んでいる。循環チューブ204の各1つは、流体を1つのオルガノイドチャンバ112から隣接するオルガノイドチャンバ112に流し、長い循環チューブ205は、流体をヒューマノイド111の最も右側のオルガノイドチャンバ112から最も左側のオルガノイドチャンバ112に流す。循環チップ142が6つのオルガノイドチャンバ112を有するヒューマノイド111に循環を提供する、
図4に描かれる実施例は、単なる例であり、限定することを意味せず、ヒューマノイド111は、異なる数のオルガノイドチャンバ112を含んでもよいことが理解される。
【0258】
本明細書中上記
図4で説明した循環ポンピングの動作を概略的に示す
図5をここで参照する。
【0259】
図5は、「側面図」及び「3D図」と指定された2つの図を含み、これらはまとめて循環ポンピングの動作を説明する。「側面図」と指定された説明図は、3つの時相を描く3つの図面を含む。圧縮ホイール404は同心的であり、それゆえ、圧縮ホイール404が回転すると、それはオルガノイドチューブ嚢115を圧縮し、オルガノイドフローチューブ114内にフローを生じさせることが理解される。「3D図」と指定された図は、エンジンポンプ400によって駆動される共通の圧縮軸402によって圧縮ホイール404の列をどのように一緒に回転させてもよいかを示す。
【0260】
ヒューマノイド111の短絡されたフローの一例を概略的に示す
図6をここで参照する。
【0261】
循環チップ142は、ユーザが所望するようにオルガノイドチャンバ112のいずれか1つの「短絡」又は迂回が可能になるように、オルガノイドチャンバ112間の流体のフローの経路選定の完全な制御をもたらすように設計され動作する。この短絡は、迂回チューブ600と、循環チューブ類、循環チューブ204及び長い循環チューブ205内のフローを制御する符号602~644と指定された複数の弁とによって達成される。
【0262】
図6は、短絡機能の一例を提供する。この例では、チップオンチップシステム100は、流体が肝臓オルガノイド646及び心臓オルガノイド648のオルガノイドチャンバ112のみを通って流れるが、このヒューマノイド111内の他のすべてのオルガノイドチャンバ112を迂回するように、ヒューマノイド111を通るフローを方向転換する。そのために、以下の弁、弁602、608、614、616、622、626、628、634、636及び642が開かれ、その他のすべての弁が閉鎖される。その結果、独特の方向転換された流路が作動され、その流路で流体が肝臓オルガノイド646のチャンバに流入し、そこから心臓オルガノイド648のチャンバに流入する一方で、ヒューマノイド111内の他のすべてのオルガノイドチャンバ112を迂回する。
【0263】
この例は、本発明の2つの別々の循環モードの重要性を示すことが理解される。
図6に示される短絡は、循環チップ142によって行われ、オルガノイドチャンバ112を接続する循環を変化させた。しかし、同時に、これらのオルガノイドチャンバ112の各々のオルガノイドフローチューブ114及びオルガノイドチューブ嚢115を通して行われるオルガノイドチャンバ112の各々の別個の循環は、不変のままである。これは、各オルガノイドチャンバ112内の不変のせん断流を依然として維持しながら、オルガノイド間フローが短絡されてもよいことを意味するので、重要である。
【0264】
上記は、単なる例として意図されており、限定することを意図していないことが理解される。本発明の好ましい実施形態では、迂回は、上で詳述したような完全な短絡によってではなく、断続的な短絡によって達成されてもよく、その結果、短絡されたオルガノイドチャンバへのせん断力及び栄養素を奪わないように、短絡されたオルガノイドチャンバへの最小限のフローが可能になるが、迂回されたオルガノイドへのフローは最小限に保たれる。別の好ましい実施形態では、弁は様々な程度に開かれてもよく、従って、「迂回された」オルガノイドチャンバへの弁はわずかに開いたままであり、「迂回された」オルガノイドチャンバへの連続的な制限されたフローを可能にするが、非迂回オルガノイドチャンバへの弁は完全に開いたままであり、これらの器官に完全なフローを与える。本発明のなお別の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバが受け取る流量を変化させることが、弁が開いている程度によってではなく、開いているチャネルの数によって制御されるように、複数の並行チャネルが存在する。
【0265】
本発明のなお別の好ましい実施形態では、フローが「迂回された」オルガノイドチャンバまで先細りになる程度は、化学センシングチップ等の診断チップ130の1つによってオルガノイド113の活力を監視することによって自律的に調整される。本発明の別の好ましい実施形態では、「迂回された」オルガノイドチャンバへのフローの先細りの程度は、対応するオルガノイド113の組織タイプに依存し、これは、異なる組織が異なるフローを必要とするのが好ましい場合があるためである。本発明の別の好ましい実施形態では、この短絡されたフローのメカニズムは、器官を一時的に短絡させるのではなく、オルガノイド113の組織タイプごとに適切なフローを調整するために使用される。本発明のなおさらに別の好ましい実施形態では、短絡されたフローは、組織タイプ一般にではなく、オルガノイド113の各事例に対してフローを調整するため、例えば、「肝臓」オルガノイド一般に対してではなく、むしろマルチヒトチップ110上の肝臓オルガノイドの各事例に対して流量を調整するために使用される。それは、肝臓オルガノイドの1つの事例は、好ましくは、肝臓オルガノイドの異なる事例とは異なるフローを必要としてもよいということであってもよい。
【0266】
この点において、本発明の重要な独特の新規性は、自律自己学習の能力であることが理解される。上記の好ましい実施形態からの異なるアーキテクチャを評価及び比較する場合、並びに好ましい実施形態を異なる組織タイプに適合させる場合、並びにシステムの「ランタイム」動作中に所与の組織のオルガノイドの異なる事例に微調整する場合のいずれにおいても、すべてのこれらの事例において、診断チップ130が、ディープマッチングエンジン170の強力な人工知能と組み合わせて使用されてもよく、好ましくは、組織オルガノイド113に最もよく働くフローを自律的に評価し、微調整し、最適化してもよい。
【0267】
ヒューマノイド111のオンチップ統合組織スケーリングの一例を概略的に示す
図7をここで参照する。
【0268】
当業者であれば、複数の臓器チップを単に接続することは、そのような各臓器チップが単独で効果的であっても、ヒト身体を効果的に表さないということを理解するであろう。これは、「臓器チップ」の各々が、異なる組織の異なる質量及び循環基準を反映するように異なるようにスケーリングされなければならないからである。一例として、類似のサイズ、例えば1000個の細胞を有する心筋オルガノイド700及び肝臓組織オルガノイド702は、その場合、一例として、心筋組織と比較して肝臓組織のより大きい質量及びはるかに大きい「循環曝露」を反映するように、ヒト身体を適切に表すために、それぞれ非常に異なってスケーリングされなければならない。
【0269】
現在の臓器チップシステムは、実験後の計算補正に頼ることによってこの課題に対処する初期の試みを行った。簡単に言えば、それらシステムは、生物学的実験を、それが高度に偏っていることを知りながら、臓器チップ上で単純に行い、次いでその偏りのいくらかをコンピュータで補正しようと試みる。そのような試みは、有益であるが、重大な欠陥がある。経験は、生物系が複雑であり、理論モデルにあまり適合しないことを示している。
【0270】
本発明は、オルガノイド個別循環及び短絡能力を利用して、計算微調整補正と統合されたオンチップ物理的スケーリングを提供する。
【0271】
図7は、オンチップスケーリングが、肝臓オルガノイド702が心臓オルガノイド700の2倍多く「循環曝露」を受けることを必要とする例を提供する。オルガノイド個別循環特徴は、これに対処するための重要な鍵である。というのは、各オルガノイド113はヒューマノイド111内の他のすべてのオルガノイド113に接続されると同時に、各オルガノイド113は他のオルガノイド113から完全に分離もされ、オルガノイド個別循環に連続的に供されるが、他のオルガノイド113とのその接続の完全な制御並びにその栄養素、クリアランス及び薬物暴露の完全な制御を伴うためである。従って、心臓オルガノイド700が受ける栄養素704、クリアランス706、及びmeds(薬物)708の量は、好ましくは、肝臓オルガノイド702が受ける栄養素710、クリアランス712及びmeds714とは適切に異なるように設定される。短絡能力は、同様に、この目的のために使用されてもよい。
【0272】
適切にスケールアップするために、異なる臓器を表す臓器チップを概してどのくらい多く補償する必要があるかを決定することは、当該技術分野で周知である。本発明の好ましい実施形態では、そのような補償は、ここでは、異なる臓器チップを通る差分「血液」フローのオンチップ物理的補正を生成するために利用され、単に実験後の計算調整を適用するのではない。本発明の好ましい実施形態では、調整の量は、ヒト身体内の既知の薬剤のPK/PDプロファイルをヒトチップ上のそれらのパターンに適合させることによってさらに微調整されてもよい。
【0273】
上記は、単なる例として意図されており、限定することを意図していないことが理解される。上述のように、差分フローは、種々の手段及び戦略によって達成されてもよい。
【0274】
本発明の好ましい実施形態に従って構築され動作する球形オルガノイド113のアーキテクチャの例、及び本発明の好ましい実施形態に従ってそのような球形オルガノイド113を作製する方法を概略的に示す
図8Aをここで参照する。
【0275】
オルガノイド113は、オルガノイド113の一種である。球体オルガノイド800は、オルガノイドチャンバ112内に配置されるか、又は形成させられる。本発明の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバは、球体オルガノイド800にぴったりと適合するように成形及びサイズ決定される。一例として、球体オルガノイドは、好ましくは、直径が100~300ミクロン(100~300μm)である球体であってもよく、従って、オルガノイドチャンバは、好ましくは、400~500ミクロン(400~500μm)の丸い被包有物に近いような形状、又は球体オルガノイド800の寸法及び形状に近いような他の寸法であってもよい。
【0276】
共通循環媒体は、オルガノイドフローチューブ114によってオルガノイドチャンバ112を通って連続的に流れ、ポンピング機構によって律動的に圧縮されるオルガノイドチューブ嚢115によってポンピングされる。この循環媒体は、循環チップ142によってヒューマノイド111内の他のオルガノイド113とも断続的に共有される。共通循環媒体は、球体オルガノイド800に栄養を与える機能と、球体オルガノイド800にせん断力を加え、それにより球体オルガノイドを活性化する機能との両方を果たす。
【0277】
オルガノイドチャンバ112内の流体のフローを実行するチューブの最適な寸法を選択することは、診断チップ130からのリアルタイム測定によって非常に容易になることが理解される。オルガノイドフローチューブ114及び循環チップ142のチューブ(循環チューブ204及び長い循環チューブ205)の両方の幅、圧力及び流速は、球状オルガノイド800に加えられるせん断力の量及び球状オルガノイド800が曝露される栄養素の量を決定する。加えられるせん断が大きすぎるか若しくは少なすぎる場合、又は充分な栄養素がフローによって提供されない場合、診断チップ130のリアルタイム測定に反映されるように、球形オルガノイド800の組織の活力は妨げられる。
【0278】
図8Aは、オルガノイド800をオルガノイドチャンバ112内に設置する好ましいプロセスを示し、このプロセスは、好ましくはアクチュエータ150の精密ロボット154によって実行される。本発明の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、当該技術分野で周知のように、最初に球体オルガノイド800(ここでは図示せず)を形成してもよい。球体オルガノイド800を作製する様々な方法は、当該技術分野で周知である。本発明の別の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、単細胞解像度3D印刷によることを含む3D印刷によって球体オルガノイド800を作製してもよく、又はそのようなプロセスによって、若しくは商業的に利用可能な他のプロセスによって外部で作製された球体オルガノイド800を受け取ってもよい。
【0279】
本発明の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、チャンバ蓋804を開放し(このアクションはここでは図示せず)、これにより、球形オルガノイド800をオルガノイドチャンバ112に挿入するプロセスのために、オルガノイドチャンバを開放して「開放ウェル」として露出させる。
【0280】
「挿入前」と表題が付けられた右側の図は、「開放ウェル」オルガノイドチャンバ112の上方で、精密ロボット154の設置ノズル802によって保持され、オルガノイドチャンバ112内に配置される準備ができている球体オルガノイド800を描く。
【0281】
「挿入後」と表題が付けられた中央の図は、精密ロボット154の設置ノズル802によってオルガノイドチャンバ112内に配置された後の、オルガノイドチャンバ112内に配置された球体オルガノイド800を描く。
【0282】
「蓋閉鎖」と表題が付けられた左側の図は、中に球体オルガノイド800が入っているオルガノイドチャンバ112を封止するように配置されたチャンバ蓋804を描く。球体オルガノイド800をオルガノイドチャンバ112に挿入した後、精密ロボット154はチャンバ蓋804を閉じる。
【0283】
本発明の好ましい実施形態では、精密ロボット精密ロボット154は、各オルガノイドチャンバ112のチャンバ蓋804を閉じてもよい。本発明の別の好ましい実施形態では、チップオンチップシステム100は、チャンバ蓋804を使用せずに「開放ウェル」で動作する。本発明のさらに他の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバ112の設計は、好ましくは、オルガノイドチャンバ112が、オルガノイドチャンバ112の設置のために開放され、その後、オルガノイドチャンバ112の進行中の維持(例えば、循環チップ142及び化学センシングチップ131の使用)が隣接する接続されたウェルを通して行われることを除いて、閉鎖されるチャンバ蓋804を有するような設計である。この実装態様では、各オルガノイドチャンバ112は、オルガノイドチャンバ112が接続チューブによって接続される関連チャンバを有し、オルガノイドチャンバ112は、オルガノイド113が作製されオルガノイドチャンバ112に挿入された後、マルチヒトチップ110上での実験の継続時間を通して、そのチャンバ蓋804が閉じられたままであり、自動化チップ120とオルガノイドチャンバ112との相互作用のすべては、自動化チップ120が隣接する接続されたチャンバと相互作用することによって行われ、次いで、この隣接する接続されたチャンバは、重力流によって駆動される流体を交換する。
【0284】
本発明の好ましい実施形態では、球状オルガノイド800をオルガノイドチャンバ112に挿入する前に、マルチヒトチップ110は、好ましくは、オルガノイドチャンバ112を充填し、オルガノイドフローチューブ114からいかなる気泡も排出するように、オルガノイドチャンバ112に関連付けられたオルガノイドフローチューブ114を通して共通循環媒体を連続的に流す。本発明の好ましい実施形態では、このプロセスは、好ましくは、球体オルガノイド800がオルガノイドチャンバ112に挿入され、チャンバ蓋804が閉じられた後に繰り返されてもよい。共通循環媒体のこの第2のポンピングは、球状オルガノイド800が挿入された後にオルガノイドチャンバ112を完全に充填し、再びいかなる気泡もオルガノイドフローチューブ114から取り除く。
【0285】
精密ロボット154によって挿入される球体オルガノイド800の上記の説明は、単なる例として意図されており、限定することを意図していないことが理解される。本発明の別の好ましい実施形態では、球体オルガノイドは、最初に作製され、次いで、その中に全体が挿入されるのではなく、オルガノイドチャンバ112自体の中に形成されてもよい。このような実施形態では、異なる細胞型の所望の割合の所望の組織の細胞の適切な混合物が、球体オルガノイドチャンバ112に流し込まれ、当該技術分野で周知の方法を用いて、オルガノイドチャンバ112内で3Dスフェロイドが形成されるようにされる。一例として、オルガノイドチャンバ112の構築材料又はそのコーティングは、好ましくは、細胞がオルガノイドチャンバ112の表面に付着することを防止し、これにより凝集してスフェロイドを形成するようなものであってもよい。そのような細胞の混合物は、精密ロボット154及びインキュベータ156によって操作される開始チップ141の設置ノズル802を通って流されてもよい。
【0286】
オルガノイド113の灌流タイプのアーキテクチャの例を概略的に示す
図8Bをここで参照する。
【0287】
本発明の好ましい実施形態では、灌流型オルガノイドは、好ましくは膜形状であってもよく、多くの場合、2つの隣接する組織層を含み、これにより、ヒト体内の灌流部位を模倣する。灌流型オルガノイドの例としては、肺、腸、腎臓、及び血液脳関門(BBB)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0288】
具体的には、肺は、好ましくは、毛細血管上皮組織層に隣接する肺胞上皮組織層を含み、これにより肺の血液ガス灌流界面を模倣してもよく、腸は、好ましくは、毛細管上皮組織層に隣接する腸上皮組織層を含み、これにより胃腸栄養素吸収灌流界面を模倣してもよく、腎臓は、好ましくは、隣接するネフロン糸球体組織層に隣接する毛細血管上皮組織層を含み、これにより、腎分泌機能を模倣してもよく、血液脳関門は、好ましくは、脳関門組織に隣接する毛細血管上皮組織層を含み、これにより、血液脳関門灌流界面を模倣してもよい。
【0289】
図8Bは、本発明の好ましい実施形態に従って構築され動作する灌流オルガノイドユニット830を描く。明確にするために、3D図、並びに上面図及び側面図の両方が提供される。
【0290】
灌流オルガノイドユニット830は、ここではチャンバ-1 806及びチャンバ-2 808と指定された2つのチャンバを有するオルガノイドチャンバ112の一種であり、これらのチャンバは、それぞれオルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された2つの灌流オルガノイド832を含有する。本発明の好ましい実施形態では、灌流オルガノイド832は、平らな膜様の形態で形成され、それを通して灌流を可能にする組織である。
【0291】
膜816は、上述の2つの隣接するチャンバを分離する。膜816は、多孔性の弾性膜である。本発明の好ましい実施形態では、この膜は、好ましくは、2つの隣接する灌流オルガノイド832、オルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812が上に形成される足場としての役割を果たしてもよい。本発明の好ましい実施形態では、膜816は、これらの隣接する灌流オルガノイド832が膜上に形成された後、膜816が、次いで、灌流を調節するのは灌流オルガノイド832であるように、単に、膜を通した中断のない灌流を可能にするように構築され動作する。本発明の好ましい実施形態では、膜816は、当該技術分野で周知のように、充分に大きい細孔を有する合成の生物学的に不活性な膜であってもよい。本発明の別の好ましい実施形態では、膜816は、好ましくは灌流オルガノイド832がその側面に形成された後に崩壊する生分解性膜であってもよい。
【0292】
チャンバ-1 806は、オルガノイドフローチューブ114と関連付けられ、このオルガノイドフローチューブ114は、このチャンバ内で連続循環を提供する、すなわち、任意の「通常の」球形オルガノイドと同じく他のオルガノイドに接続されない。チャンバ-2 808は、図示されていない専用の二次ポンプによってポンピングされる二次循環814を含む。二次循環814は、オルガノイドフローチューブ114と構造が類似しており、好ましくは、同様の機構によって、又はオルガノイドフローチューブ114をポンピングし、
図4及び
図5を参照して上述した機構と同じ機構によってポンピングされてもよいことが理解される。
【0293】
以下は、灌流オルガノイド832のいくつかの例である。「肺」タイプの灌流オルガノイド832では、チャンバ-1 806は肺胞の空気側を表してもよく、オルガノイド-1 810は、肺胞組織であってもよい。チャンバ-2 808は血管を表してもよく、オルガノイド-2 812は、上皮組織であってもよく、酸素は、灌流オルガノイド832の2つの隣接する層を通過し、チャンバ-2 808の「血液」成分に吸収される。
【0294】
「腸」タイプの灌流オルガノイド832では、チャンバ-1 806は腸管腔を表してもよく、オルガノイド-1 810は腸壁組織であってもよい。チャンバ-2 808は、血管を表してもよく、オルガノイド-2 812は上皮組織であってもよく、消化された栄養素は、灌流オルガノイド832の2つの隣接する層を横断し、チャンバ-2 808の「血液」成分に吸収される。
【0295】
「腎臓」タイプの灌流オルガノイド832では、チャンバ-1 806は血管を表してもよく、オルガノイド-1 810は上皮組織であってもよい。チャンバ-2 808は、腎管腔を表してもよく、オルガノイド-2 812は糸球体組織であってもよく、尿濾過産物は、灌流オルガノイド832の2つの隣接する層を横断し、チャンバ-2 808の「尿」成分に排泄される。
【0296】
ADMEチップ143は、そのADMEチューブ206がチャンバ-2 808内のその定位置に下げられた状態で描かれている。一例として、
図8Bは、「腎臓」灌流オルガノイドユニット830のシナリオを描き、この図では、チャンバ-1 806は「血液」成分であり、チャンバ-2 808は「尿」成分である。この例では、ADMEチップ143のADMEチューブ206は、チャンバ-2 808内に降下され、このチャンバ内に蓄積した「尿」を吸引して除去し、腎臓から膀胱への尿の除去等のアクションを模倣する。ADMEチューブ206によって除去された流体は、収集、試験、又は廃棄されてもよい。
【0297】
本発明の重要な発明の態様は、膜816並びに灌流型オルガノイド-オルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812-が上下方向(竪型)であるということであることが理解される。これは以前には行われていない。すべての従来の装置において、灌流型オルガノイドの膜は水平に配置された。これは、細胞の重力による膜上の「沈降」を用いて組織を培養するのに水平配置が不可欠であると考えられていたためと、手動で取り扱う場合、とりわけ主なモニタリング手段が顕微鏡法である場合に水平配置がより便利であると思われるためである。本発明の好ましい実施形態では、膜816並びに灌流型オルガノイド-オルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812-は上下方向である。本発明のこの態様は、本発明のハイスループット能力を可能にする独特の利点を提供する。一例として、これは、精密ロボット154の上方から、両方の隣接する灌流チャンバへの自動化されたハイスループットアクセスを可能にする。
【0298】
灌流オルガノイドユニット830の伸張を概略的に示す
図8Cをここで参照する。
【0299】
1つ以上のPZT収縮器818が灌流オルガノイドユニット830の壁に内蔵され、膜816並びにオルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された灌流オルガノイド832が、1つ以上のPZT収縮器818の間で伸張されるようにされる。PZT収縮器818は、収縮又は変形するように動作し、これにより膜816並びにオルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された灌流オルガノイド832を伸張及び弛緩させるように動作する、小型圧電素子である。
図8Bにおいて、「天然状態」と表題が付けられた左側の図は、弛緩状態にあるPZT収縮器818の2つの要素を示し、従って、膜816並びにオルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された灌流オルガノイド832は、天然状態にあり、伸張されていない。
【0300】
「伸張された膜」と表題が付けられた右側の図では、PZT収縮器818の2つの要素が収縮し、これにより膜816並びにオルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された灌流オルガノイド832が伸張される。
【0301】
PZT収縮器818の機能は、異なるモードで実装されてもよいことが理解される。本発明の別の好ましい実施形態では、当該技術分野で公知のように、PZT収縮器818が膜816に織り込まれ、これにより膜を変形させ、たとえばドーム形状を形成し、これにより膜を伸張させてもよい。
【0302】
膜及び灌流オルガノイド832が律動的に伸張及び弛緩し、胃腸組織における蠕動運動、肺組織における呼吸等を模倣し、それらがそのような灌流オルガノイド832の透過性及びそれらの真の三次元組織活動性を効果的に模倣するのに重要であるように、コントローラ151は、マルチヒトチップ110上の複数の灌流オルガノイド832内の複数のPZT収縮器818を作動させてもよいことが理解される。
【0303】
灌流オルガノイド832のPZT駆動伸張及び弛緩のこの移植は、本発明にとって独自に新規であることが理解される。現在の臓器チップは、膜組織の伸張を用いるが、空気圧チャネルによってそのように駆動され、これはそのような蠕動を駆動するために外部空気圧デバイスを必要とする。本発明は、膜の伸張のために小型化され、自律的なオンチップ機構を使用するという点で独特である。この要素は、完全に自律的な、オールオンチップ、ハイスループット、真にスケーラブルな、ヒトオンチップシステム上で膜伸張を可能にするために必要な鍵であるということが理解される。
【0304】
開始チップ141及び精密ロボット154の両方による灌流オルガノイドの作製のモードを概略的に示す
図8Dをここで参照する。
【0305】
図8Dは、4つの図を含み、これらは合わせて、本発明の好ましい実施形態によると、灌流オルガノイドがどのように作製され、検証されるかを示す。この4つの図は、以下のそれぞれの4つの工程のシーケンスを描く。
【0306】
「1.組織を設置する-1」と表題が付けられ、任意の灌流オルガノイド832が灌流オルガノイドチャンバの中に設置される前の2つの隣接する空の灌流オルガノイドチャンバの初期状態を単純に示す
図8Dの第1の図をここで参照する。このデュアルチャンバは、チャンバ-1 806と指定された第1のチャンバと、チャンバ-2 808と指定された第2のチャンバとを含み、この第1の図では、第1のチャンバは上部に示され、第2のチャンバは下部に示されることに留意することが重要である。これらのチャンバは膜816によって隔てられている。循環流入810及び循環流出815は、チャンバ-1 806に接続される。
【0307】
符号822と指定されチャンバ-1 806の上部を密封するオルガノイドチャンバ蓋-1と、符号824と指定されチャンバ-2 808の底部を密閉するオルガノイドチャンバ蓋-2、の2つのオルガノイドチャンバ蓋がここに示されていることが理解される。これらのオルガノイドチャンバ蓋は、灌流オルガノイド832を作製するための機構の一部として機能し、それゆえ、理解を明確にするために、
図8B及び8Cには示されなかった。
【0308】
図8Dの「1.組織を設置する-1」と表題が付けられた第1の図をここで参照する。この第1の工程では、オルガノイドチャンバ蓋-1 822(図示せず)は、精密ロボット154によって除去され、これにより、チャンバ-1 806は「開放ウェル」になる。精密ロボット154は、設置ノズル802をチャンバ-1 806の開放ウェルの真上に置き、ここでは符号820と指定された組織-1-細胞流体を右側で膜816と直接接触しているチャンバ-1 806に注ぎ込む。
【0309】
膜816は、細胞が付着するのに最適な適切な多孔性表面を含む。そして、組織-1-細胞流体820は、従って、数日間(例えば、4日間)の好適な継続時間にわたってインキュベートされ、これにより、その中の細胞は、膜816に接着する薄い膜様組織に組織化することができ、また、これらの細胞が由来する天然のヒト組織と同様の形態及び生理機能が取得される。膜又は他の多孔性表面の上部でインキュベートされた細胞から膜様器官を形成することに関するすべての態様(そのいくつかは、この図を参照して本明細書中上記に記載される)は、当業者に周知であるので、簡潔に記載されるにすぎない。
【0310】
簡単にするために、2つのPZT収縮器818は示されていない。これは、それらの役割が
図8Cを参照して上記で論じられており、灌流オルガノイドの作製のプロセスの理解に関連しないためである。この第1段階では、「1.立てる」と表題が付けられた図に示されているように、両方の蓋が適所にあり、2つのチャンバの上部及び下部をそれぞれ閉じることが理解される。
【0311】
図8Dの「2.蓋を閉じる-1」と表題が付けられた第2の図をここで参照する。この工程では、オルガノイド-1 810と指定された組織の固体層が形成され、膜816に接着し、過剰の流体及び細胞の上清は、当該技術分野で周知のように、穏やかに洗い流されている。本発明の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、精密ロボット154によって操作される開始チップ141の設置ノズル802を通して行われてもよく、開始チップ141は、チャンバから過剰の流体を吸引及び洗浄するように動作可能である。オルガノイドチャンバ蓋-1 822は、チャンバ-1 806を閉鎖するように再装着される。最後に、マルチヒトチップ110は、好ましくは、チャンバ-1 806を充填し、チャネル及び二次循環からいかなる気泡も排出するように、循環及びチャネルを通して好適な流体媒体を連続的に流す。この工程の最終結果は、オルガノイド-1 810と指定された灌流オルガノイド830がチャンバ-1 806内で形成され、膜816に付着し、適切な循環流体によって囲まれていることである。
【0312】
図8Dの「3.組織を設置する-2」と表題が付けられた第3の図をここで参照する。この第3の工程では、オルガノイドチャンバ蓋-2 824は、精密ロボット154によって除去され、これにより、チャンバ-2 808は「開放ウェル」になる。精密ロボット154は、設置ノズル802をチャンバ-2 808の開放ウェルの真上に置き、ここでは符号826と指定された組織-2-細胞流体を左側で膜816と直接接触しているチャンバ-2 808に注ぎ込む。組織-2-細胞流体826は、数日間(例えば、4日間)の好適な継続時間にわたってインキュベートされ、これにより、その中の細胞は、膜816に接着する薄い膜様組織に組織化することができ、また、これらの細胞が由来する天然のヒト組織と同様の形態及び生理機能が得られる。
【0313】
図8Dの「4.蓋を閉じる-2」と表題が付けられた第4の図をここで参照する。この工程では、オルガノイド-2 812と指定された組織の固体層が形成され、膜816に接着し、過剰の流体及び細胞の上清は、当該技術分野で周知のように、穏やかに洗い流されている。本発明の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、精密ロボット154によって操作される開始チップ141の設置ノズル802を通して行われてもよく、開始チップ141は、チャンバから過剰の流体を吸引及び洗浄するように動作可能である。オルガノイドチャンバ蓋-2 824は、チャンバ-2 808を閉鎖するように再装着される。最後に、マルチヒトチップ110は、好ましくは、チャンバ-2 808を充填し、二次循環並びにチャネル860及び865からいかなる気泡も排出するように、循環及びチャネルを通して好適な流体媒体を連続的に流す。この工程の最終結果は、オルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された2つの灌流オルガノイド832が、チャンバ-1 806及びチャンバ-2 808内でそれぞれ形成され、膜816の両側に付着し、適切な循環流体によって囲まれていることである。
【0314】
「4.蓋を閉じる-2」と表題が付けられた図は、上記のプロセスによって形成された灌流オルガノイドの完全性の自動検証のための独特の方法であって、検証プロセスが以下のように実施される方法も示すことが理解される。この図が示すように、上記2つのチャンバは、符号892と指定されたチャンバ-1-膜検証センサと、符号894と指定されたチャンバ-2-膜検証センサとの2つの検証センサも含む(分かりやすくするために、上述の5つの図及び
図8Bには示されていない)。これらの2つのセンサは、好ましくは、膜を横断する電位降下を検出するように構築され動作する電極である。当該技術分野で周知のように、上記の方法において形成されたオルガノイド-2 812及びオルガノイド-1 810等の生物学的膜(生体膜)が欠陥のあるものであり、かつ/又は完全に形成されていない場合、これは、このようにして電位降下を測定することによって検出されてもよい。それゆえ、本発明は、マルチヒトチップ110上の灌流型オルガノイド113のそれぞれについて、これらのセンサ826及び828からの入力を自動的に検出及び分析する。重要なことに、ディープマッチングエンジン170は、オルガノイドの作製中にこれらのセンサからの入力を分析し、この評価によって灌流オルガノイド830が欠陥のあるものと判定された場合、ディープマッチングエンジン170は実験を再設計し、灌流オルガノイドが欠陥のあるものと判定されたオルガノイドを無視する。
【0315】
同様に、球体オルガノイド及び灌流オルガノイド832の両方について、リアルタイム細胞代謝センシングは、ミトコンドリア機能を含む組織の健康を示すオルガノイドの代謝産物を連続的に測定する。これらの測定値も、オルガノイド、球体オルガノイド及び灌流オルガノイド832の両方の作製中に、ディープマッチングエンジン170によって評価され、マルチヒトチップ110上の各オルガノイド113の「健康」が評価される。従って、良好に機能していないと評価されるオルガノイド113は、ディープマッチングエンジン170によって自動的に識別され、ディープマッチングエンジン170は、次いで実験を再設計し、これらのオルガノイドを無視する。
【0316】
自動オルガノイド検証の本発明のこの態様は、非常に重要かつ独特であることが理解される。マルチヒトチップ110は、好ましくは、数百ものオルガノイド113を含んでもよく、そして、かなりの量のオルガノイド(灌流及び球体の両方)が、実験の開始時に欠陥のあるものであることがしばしば見出され、さらに、いくつかのオルガノイドが、実験中、例えば、薬物の投与前に欠陥のあるものになることが当該技術分野で周知である。現在の臓器チップは、各オルガノイドを分析し、その健康を判定し、実験を自動的に再設計し、欠陥のあるものを無視し、関連する場合には、他のオルガノイドとの流体相互接続においてそれらを迂回する自動手段を有していない。これを手動で対処することは、手動のスタンドアロンの単一の臓器チップを用いた小規模な実験については、困難かつ時間がかかっても、可能である。しかしながら、そのような自動検証及び自動実験再計画がなければ、ハイスループットが不可能になることが理解される。
【0317】
膜又は他の多孔性表面の上部でインキュベートされた細胞からの膜様器官の形成、それらのインキュベーション、及びその後のリンス等に関するすべての態様(そのいくつかは、
図8Eの6つの図を参照して本明細書中上記で言及されている)は、当業者に周知であるので、簡潔にのみ言及されることが理解される。
【0318】
オルガノイド113の灌流型の作製及び検証を概略的に示す
図8Eをここで参照する。
【0319】
図8Eは、本発明の好ましい実施形態によれば、
図8Bの灌流オルガノイドがどのように作製され検証されるかをまとめて示す6つの図を含む。この6つの図は、以下のそれぞれの6つの工程のシーケンスを描く。
【0320】
「1.立てる」と表題が付けられ、任意の灌流オルガノイド832が灌流オルガノイドチャンバの中に設置される前の
図8Bの2つの隣接する空の灌流オルガノイドチャンバの初期状態を単純に示す
図8Eの第1の図をここで参照する。
図8Bと同様に、このデュアルチャンバは、チャンバ-1 806と指定された第1のチャンバと、チャンバ-2 808と指定された第2のチャンバとを含み、この第1の図では、第1のチャンバは上部に示され、第2のチャンバは下部に示されることに留意することが重要である。チャンバは膜816によって隔てられている。循環流入810及び循環流出815は、チャンバ-1 806に接続される。
【0321】
符号822と指定されチャンバ-1 806の上部を密封するオルガノイドチャンバ蓋-1と、符号824と指定されチャンバ-2 808の底部を密閉するオルガノイドチャンバ蓋-2、の2つのオルガノイドチャンバ蓋がここに示されていることが理解される。これらのオルガノイドチャンバの蓋は、灌流オルガノイド832を作製するための機構の一部として機能し、それゆえ、理解を明確にするためであった。
【0322】
簡単にするために、2つのPZT収縮器818は示されていない。これは、それらの役割が
図8Cを参照して上記で論じられており、灌流オルガノイドの作製のプロセスの理解に関連しないためである。この第1段階では、「1.立てる」と表題が付けられた図に示されているように、両方の蓋が適所にあり、2つのチャンバの上部及び下部をそれぞれ閉じることが理解される。
【0323】
図8Eの「2.組織を設置する-1」と表題が付けられた第2の図をここで参照する。この第2の工程では、先の図のオルガノイドチャンバ蓋-1 822は、精密ロボット154によって除去され、これによりチャンバ-1 806は「開放ウェル」になる。精密ロボット154は、設置ノズル802をチャンバ-1 806の開放ウェルの真上に置き、膜816の上部のチャンバ-1 806の中に、ここでは符号820と指定された組織-1-細胞流体を注ぎ込む。膜816は、細胞が付着するのに最適な適切な多孔性表面を含む。そして、組織-1-細胞流体820は、従って、数日間(例えば、4日間)の好適な継続時間にわたってインキュベートされ、それにより、その中の細胞は、膜816に接着する薄い膜様組織に組織化することができ、また、これらの細胞が由来する天然のヒト組織と同様の形態及び生理機能が得られる。膜又は他の多孔性表面の上部でインキュベートされた細胞から膜様器官を形成することに関するすべての態様(そのいくつかは、この図を参照して上記に記載される)は、当業者に周知であるので、簡潔に記載されるにすぎない。
【0324】
図8Eの「3.蓋を閉じる」と表題が付けられた第3の図をここで参照する。この工程では、オルガノイド-1 810と指定された組織の固体層が形成され、膜816に接着し、過剰の流体及び細胞の上清は、当該技術分野で周知のように、穏やかに洗い流されている。本発明の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、精密ロボット154の設置ノズル802を通して行われてもよく、本発明の別の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、循環チャネル300を通して行われてもよい。オルガノイドチャンバ蓋-1 822は、チャンバ-1 806を閉鎖するように再装着される。そして最後に、マルチヒトチップ110は、好ましくは、チャンバ-1 806を充填し、循環チャネル300からいかなる気泡も排出するように、共通の循環媒体を、
図3の循環チャネル300を通り、循環流入810及び循環流出815を通って連続的に流す。この工程の最終結果は、オルガノイド-1 810と指定された灌流オルガノイド830がチャンバ-1 806内で形成され、膜816に付着し、適切な循環流体によって囲まれていることである。
【0325】
図8Eの「3.反転」と表題が付けられた第4の図をここで参照する。この工程では、マルチヒトチップ110は、チャンバ-2 808を上に置くように、精密ロボット154によって反転(フリップ)される。
【0326】
図8Eの「5.組織を設置する-2」と表題が付けられた第5の図をここで参照する。この第5の工程では、先の図のオルガノイドチャンバ蓋-2 824は、精密ロボット154によって除去され、これにより、チャンバ-2 808は「開放ウェル」になる。精密ロボット154は、設置ノズル802をチャンバ-2 808の開放ウェルの真上に置き、ここでは符号826と指定された組織-2細胞流体を膜816の上部のチャンバ-2 808の中に注ぎ込む。膜816は、細胞が付着するのに最適な適切な多孔性表面を含む。そして、組織-2-細胞流体826は、従って、数日間(例えば、4日間)の好適な継続時間にわたってインキュベートされ、これにより、その中の細胞は、膜816に接着する薄い膜様組織に組織化することができ、また、これらの細胞が由来する天然のヒト組織と同様の形態及び生理機能が得られる。
【0327】
図8Eの「6蓋を閉じる-2」と表題が付けられた第6の図をここで参照する。この工程では、オルガノイド-2 812と指定された組織の固体層が形成され、膜816に接着し、過剰の流体及び細胞の上清は、当該技術分野で周知のように、穏やかに洗い流されている。本発明の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、精密ロボット154の設置ノズル802を通して行われてもよく、本発明の別の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、二次循環並びにチャネル860及び865を通して行われてもよい。オルガノイドチャンバ蓋-2 824は、チャンバ-2 808を閉鎖するように再装着される。そして最後に、マルチヒトチップ110は、好ましくは、チャンバ-2 808を充填し、二次循環並びにチャネル860及び865からいかなる気泡も排出するように、好適な流体媒体を、二次循環並びにチャネル860及び865を通って連続的に流す。この工程の最終結果は、オルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された2つの灌流オルガノイド832がチャンバ-1 806及びチャンバ-2 808においてそれぞれ形成され、膜816の両側に付着し、適切な循環流体によって囲まれていることである。
【0328】
「6.蓋を閉じる-2」と表題が付けられた図は、上記のプロセスによって形成された灌流オルガノイドの完全性の自動化された検証のための独特の方法であって、検証プロセスが以下のように実施される方法も示すことが理解される。この図が示すように、上記2つのチャンバは、符号892と指定されたチャンバ-1-膜検証センサと、符号894と指定されたチャンバ-2-膜検証センサとの2つの検証センサも含む(分かりやすくするために、上述の5つの図及び
図8Bには示されていない)。これらの2つのセンサは、好ましくは、膜を横断する電位降下を検出するように構築され動作する電極である。当該技術分野で周知のように、上記の方法において形成されたオルガノイド-2 812及びオルガノイド-1 810等の生物学的膜が欠陥のあるものであり、かつ/又は完全に形成されていない場合、これは、このようにして電位降下を測定することによって検出されてもよい。それゆえ、本発明は、マルチヒトチップ110上の灌流型オルガノイド113のそれぞれについて、これらのセンサ826及び828からの入力を自動的に検出及び分析する。重要なことに、ディープマッチングエンジン170は、オルガノイドの作製中にこれらのセンサからの入力を分析し、この評価によって灌流オルガノイド830が欠陥のあるものと判定された場合、ディープマッチングエンジン170は実験を再設計し、灌流オルガノイドが欠陥のあるものと判定されたオルガノイドを無視する。
【0329】
同様に、球体オルガノイド及び灌流オルガノイド832の両方について、リアルタイム細胞代謝センシングは、ミトコンドリア機能を含む組織の健康を示すオルガノイドの代謝産物を連続的に測定する。これらの測定値も、オルガノイド、球体オルガノイド及び灌流オルガノイド832の両方の作製中に、ディープマッチングエンジン170によって評価され、マルチヒトチップ110上の各オルガノイド113の「健康」が評価される。従って、良好に機能していないと評価されるオルガノイド113は、ディープマッチングエンジン170によって自動的に識別され、ディープマッチングエンジン170は、次いで、これらのオルガノイドを無視して実験を再設計する。
【0330】
自動オルガノイド検証の本発明のこの態様は、非常に重要かつ独特であることが理解される。マルチヒトチップ110は、好ましくは、数百のオルガノイド113を含んでもよく、そして、かなりの量のオルガノイド、灌流及び球体の両方、が、実験の開始時に欠陥のあるものであることがしばしば見出され、さらに、いくつかのオルガノイドが、実験中、例えば、薬物の投与前に欠陥のあるものになることが当該技術分野で周知である。現在の臓器チップは、各オルガノイドを分析し、その健康を判定し、実験を自動的に再設計し、欠陥のあるものを無視し、関連する場合には、他のオルガノイドとの流体相互接続においてそれらを迂回する自動手段を有していない。これを手動で対処することは、手動のスタンドアロンの単一の臓器チップを用いた小規模な実験については、困難かつ時間がかかっても、可能である。しかしながら、そのような自動検証及び自動実験再計画がなければ、ハイスループットが不可能になることが理解される。
【0331】
膜又は他の多孔性表面の上部でインキュベートされた細胞からの膜様器官の形成、それらのインキュベーション、及びその後のリンス等に関するすべての態様(そのいくつかは、
図8Eの6つの図を参照して本明細書中上記で言及されている)は、当業者に周知であるので、簡潔にのみ言及されることが理解される。
【0332】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、細胞混和物を含む流体は、チャンバ-1 806及びチャンバ-2 808に入れられ、それらの後続のすすぎ(リンスアウト)は、それぞれの蓋822及び824を開放し、精密ロボット154及びその設置ノズルによって流体を注入し、その後排出することによって行われるのではなく、これは、好ましくは、マイクロ流体チャネルを通してこれらのチャンバにその流体を流し込み、充分にインキュベートした後に同じチャネルを通してそれらをすすぐことによって行われてもよい。
【0333】
合わせて、本発明に従って構築され動作するヒューマノイド111のアーキテクチャの一例を概略的に示す
図9A及び
図9Bをここで参照する。
【0334】
本発明のヒューマノイド111は、ユーザの好みに応じて、かつ求める実験の目的に適合するように柔軟に構築されてもよい。以下は、ヒューマノイド111の典型的な可能なアーキテクチャの一例であり、その異なる構成要素及び考慮事項の説明である。
【0335】
ヒューマノイド111は、「球体」又は「灌流」型であってもよいオルガノイド113のそれぞれの組を含む一組のオルガノイドチャンバ112から構成される。オルガノイド113及びそれらのそれぞれのオルガノイドチャンバ112はモジュール式であり、従って、多くの異なるヒューマノイド111が、ヒューマノイド111に含まれるべきオルガノイド113の組織型及びそれらの配列を選択することによって、本発明に従って実装されてもよい。
【0336】
図9Aは、本発明に従って構築され動作し、以下の9つの要素を含む、マルチヒトチップ110上のヒューマノイド111の一例を示す:(i)「肺」と指定された「肺型」灌流オルガノイドユニット830;(ii)「GI」と指定された「腸型」灌流オルガノイドユニット830;(iii)「肝臓」と指定された「肝臓型」オルガノイドチャンバ112;(iv)「肝臓」と指定された「心臓型」オルガノイドチャンバ112;(v)「腎臓」と指定された「腎臓型」灌流オルガノイドユニット830;(vi)「bbb」と指定された「bbb型」灌流オルガノイドユニット830;(vii)脳と指定された「脳型」オルガノイドチャンバオルガノイドチャンバ112;及び「全身チャンバ」。
【0337】
上記の灌流オルガノイドユニット830は、以下のように、身体の吸収及び排出を模倣し、脳送達を支持するのに重要であることが理解される。「肺」灌流オルガノイドユニット830は、吸入による吸収を模倣し、吸入された内容物は、その左区画に入り、血流を模倣するその右区画に吸収される。「GI」灌流オルガノイドユニット830は、胃腸吸収を模倣し、摂取された内容物は、その左区画に入り、血流を模倣するその左区画に吸収される。「腎臓」灌流オルガノイドユニット830は糸球体排出を模倣し、その左区画は、身体の血流内容物を模倣し、これは次いで、糸球体組織によって濾過され、その左区画に排出される。そして、「bbb」灌流オルガノイドユニット830は、血液脳関門を模倣し、その左区画は、身体の血流内容物を模倣し、これは次いで、脳循環を反映するその右区画に選択的に濾過される。
【0338】
「肝臓」オルガノイドチャンバ112も重要である。というのは、「肝臓」オルガノイドチャンバ112は、体内で行われるように、それを通過する循環内容物を代謝するからである。「脳」は、目下の特定の研究にとって興味深い特定の脳組織及び/又は遺伝子座を含んでもよい。組織-Xは、ユーザが含むことを選択してもよい別の組織である。
【0339】
全身チャンバは、その中にいかなるオルガノイドも含まないチャンバであり、体内の「末梢血採血」を模倣し、特定のオルガノイド113から試料を採取するか否かのさらなる決定がなされる基礎となる「スクリーニング」の手段として使用されてもよい。チップオンチップシステム100は、これまでにない規模で大規模な反復検査を実行するように動作するが、「全身チャンバ」から「事前スクリーニング」試料を採取し、これらの結果に基づいて、さらなる検査が正当化されるかどうかを決定することは劇的な利点である。そうすることは、行われる試験の量を劇的に低減する可能性があり、従って非線形スケーリング及びコスト削減をさらにサポートする。この能力を利用するための第1の例として、ヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112のすべてからの複合試料を反映する「全身チャンバ」からの試料が乳酸の上昇を示す場合、これは、それらのうちのいずれが乳酸の上昇を有するかを決定するためにそのヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112のすべてからの試料の採取を促してもよい。別の例として、「全身チャンバ」からの試験が、可能性のある高レベルの1つ以上の肝臓酵素を示す可能性がある結果をもたらす場合、生きている人における全身血液検査と同様に、これは、この異常を確認、検証、及び定量化するために肝臓オルガノイドチャンバ112から専用試料を採取することを促してもよい。
【0340】
それゆえ、本発明のチップオンチップシステム100の重要な利点は、実験設計及び必要条件に応じてヒューマノイド111の構成を定義する際の柔軟性である。
図9Aに提供される例は、摂取及び排出の主な形態を包含するが、これは、他の関与する組織の数を犠牲にする。一例として、特定の実験は、肝臓代謝と結びついた(例えば、肺、腎臓、bbbなしの)腸単独使用のみで精密であり、これにより多くの追加の標的組織を含む余地を残すことが可能になる。
【0341】
本発明に従って構築され動作するヒューマノイド111のアーキテクチャの一例を概略的に示す
図9Bをここで参照する。
【0342】
図9Bは、
図9Aによって説明されたマルチヒトチップ110上のヒューマノイド111を示すが、この図では循環チップ142とのその相互作用を追加する。
【0343】
図9Bは、8つの循環チューブ204及び1つの長い循環チューブ205が循環チップ142及び精密ロボット154によってどのように使用されて、ヒューマノイド111のすべてのオルガノイド113を、体内の心血管循環を模倣する1つの循環に連結するかを示す。一例として、
図9Bは、経口摂取され、腸によって血流に吸収され、肝臓「初回通過」を模倣する様式で肝臓に到達し、肝臓によって代謝され、次いで、腎臓によって濾過及び排出され、最終的に、重要ないくつかの標的組織に到達する、薬物208のプロセスをヒューマノイド111がどのように模倣するかを描く。
【0344】
図9Bは、オルガノイドチャンバ112及び灌流オルガノイドユニット830の各1つが「オルガノイド内」循環、すなわち、オルガノイドフローチューブ114を通り(オルガノイドチャンバ112の場合)、オルガノイドフローチューブ114及び二次循環814を通る(灌流オルガノイドユニット830の場合)内部独立オルガノイド特異的フローにどのように供されるかも示す。
【0345】
ヒューマノイド111のアーキテクチャは柔軟であり、オルガノイドチャンバ112のみ、又は灌流オルガノイドユニット830のみ、又はこれらの任意の組み合わせを含んでもよいことが理解される。
【0346】
チップオンチップシステム100の統合された吸収及び投与の例を概略的に示す
図10Aをここで参照する。
【0347】
チップオンチップシステム100は、ヒトの吸収/投与、分布、代謝及び排出(ADME)をシミュレート及び模倣するように設計され動作することが理解される。
図10Aは、吸収及び投与の3つの例を示す。
【0348】
全身投与1010と指定された第1の使用事例は、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して全身チャンバ1012に栄養素又は薬物208を投与することを含む。これは、薬物208の全身動静脈投与を模倣する。というのは、薬物208は、腸等を介した吸収を必要とすることなく、循環チップ142を介してヒューマノイド111の他のすべてのオルガノイド113に分配されるからである。
【0349】
経口投与1020と指定された第2の使用事例は、経口投与を模倣することを示す。薬物208は、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して、「GI」と指定された「腸型」灌流オルガノイドユニット830内に、腸管腔を模倣する1022と指定されたその左区画内に投与される。次いで、薬物208は、ともにGIオルガノイドユニット830の胃腸膜及び隣接する毛細血管上皮を横切って、腸血管を模倣する1024と指定された右区画に吸収される。
【0350】
ヒト身体内に経口投与される薬物208は、最初に腸を通って血流に吸収され、次いで肝臓に循環し、そこで代謝され、これが「初回通過」代謝として知られるプロセスであることが理解される。同様に、チップオンチップシステム100では、薬物208は、灌流型GI灌流オルガノイドユニット830によって吸収され、次いで、循環チップ142によって提供される循環を通って、「肝臓」と指定された球体型肝臓オルガノイド113に流れ、そこで薬物208は実際に、この三次元肝臓組織によって代謝され、その後、ヒューマノイド111の他の「組織」に循環し続ける。
【0351】
吸入投与1030と指定された第3の使用事例は、吸入投与を模倣することを示す。薬物208は、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して、「肺」と指定された「肺型」灌流オルガノイドユニット830内に、換気肺胞腔を模倣する1032と指定されたその左区画内に投与される。次いで、薬物208は、ともに肺オルガノイドユニット830の肺胞膜及び隣接する毛細血管上皮を横切って、肺胞血管を模倣する1034と指定された右区画に吸収される。次いで、薬物208は、循環チップ142によって提供される循環を通って、ヒューマノイド111の他の「器官」に流れる。
【0352】
チップオンチップシステム100の統合された排出の例を概略的に示す
図10Bをここで参照する。
【0353】
「尿排出」1040と指定された第1の使用事例は、尿排出を模倣することを示す。薬物208及びその薬物代謝産物は、循環チップ142によって提供される循環を通って流れ、従って、「腎臓」と指定された「腎臓型」灌流オルガノイドユニット830に入り、1042と指定されたその左区画に入る。次いで、この薬物208及びその代謝産物は、ともに腎臓灌流オルガノイドユニット830の毛細血管上皮及びネフロン糸球体の隣接層を横断して、腎管腔を模倣する1044と指定されたその右区画に拡散し、次いで、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して排出され、関連するものとして収集、廃棄、又は分析されてもよい。
【0354】
「GI排出」1050と指定された第2の使用事例は、胃腸排出を模倣することを示す。薬物208及びその薬物代謝産物は、循環チップ142によって提供される循環を通って流れ、従って、「GI」と指定された「GI型」灌流オルガノイドユニット830に入り、1052と指定されたその右区画に入る。次いで、この薬物208及びその代謝産物は、ともにGI灌流オルガノイドユニット830の毛細血管上皮及び隣接する胃腸膜を横断して、胃腸管腔を模倣する1054と指定されたその左区画に拡散し、次いで、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して排出され、関連するものとして収集、廃棄、又は分析されてもよい。
【0355】
「肺排出」1060と指定された第3の使用事例は、肺排出を模倣することを示す。薬物208及びその薬物代謝産物は、循環チップ142によって提供される循環を通って流れ、従って、「肺」と指定された「肺型」灌流オルガノイドユニット830に入り、1062と指定されたその右区画に入る。次いで、この薬物208及びその代謝産物は、ともに肺灌流オルガノイドユニット830の毛細血管上皮及び隣接する肺胞膜を横断して、換気肺胞腔を模倣する1064と指定されたその左区画に拡散し、次いで、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して排出され、関連するものとして収集、廃棄、又は分析されてもよい。
【0356】
チップオンチップシステム100の並行ADME機能を概略的に示す
図10Cをここで参照する。
【0357】
図10Cは、本発明のADMEチップ143のADMEアクションの各々が、符号1070と指定された「異なるヒューマノイドからの同じ組織型」である複数の灌流オルガノイドユニット830上で同時にどのように好ましく実行されてもよいかを示す。
【0358】
図10Cは、符号1071~1076と指定された6つのそれぞれの灌流オルガノイドユニット830の区画に降下され、同時にそこから流体を抽出する、ADMEチップ143の6つのADMEチューブ206を描く。一例として、1071~1076と指定された灌流オルガノイドユニット830が「腎臓」タイプである場合、
図10Cは、ADMEチップ143がこれらの6つのユニットから尿を同時に除去する方法を示す。
【0359】
マルチヒトチップ110、自動化チップ120及びアクチュエータ150はすべて、自動化チップ120が、複数のヒューマノイド(ヒューマノイド111内の複数のオルガノイドチャンバ112に対してアクションを実行するために特に指定される、循環チップ142のようなチップ以外のもの)に対して同時にアクションを実行してもよいように設計されることが理解される。
【0360】
本発明に従って構築され動作する化学センシングチップ131のいくつかの好ましい実施形態を概略的に示す
図11Aをここで参照する。
【0361】
図11Aは、本発明が、オルガノイドチャンバ112内の流体又はその中のオルガノイド113のナノセンサベースの化学分析を行う様式に関する、本発明の異なる実施形態を示す。
【0362】
「好ましい実施形態」と指定された図面は、化学センシングチップ131の好ましい実施形態の概略図を提供する。この好ましい実施形態では、プローブ1100は、その一部分が上清流体中に浸漬されるようにオルガノイドチャンバ112に挿入される。プローブ1100は中実であり、キャピラリではない。好ましくは、プローブ1100のセグメントは、1つ以上のナノセンサ1102でコーティングされ、このプローブは、これらの1つ以上のナノセンサ1102が上清流体中に浸漬されるように配置される。本発明の好ましい実施形態では、表面又はプローブ上にナノコーティングすることによって装着(付与)される電気化学ナノセンサ等の複数のナノセンサ1102が、好ましくは、同じ区画内で使用されてもよく、ナノセンサ1102の各1つは、異なる標的化学物質のレベルを示してもよい。いずれも当該技術分野で周知のように、そのような電気化学センサはそれぞれ、標的化学物質を、その電荷を通して直接、又はセンサを所望の化学物質に特異的にする、電極上にコーティングされた膜、若しくは電極を所望の標的化学物質の検出に特定的にする酵素によってコーティングされる膜と併せてのいずれかで、検出するように動作してもよい。
【0363】
複数のそのような異なる電気化学センサは、センサのそれぞれに電気的に対合され、従って、これらの異なるセンサに「共通」である、単一の「第2の電極」を利用してもよいことが理解される(電気的に対合されるとは、この共通の電極が、異なる電気化学ナノセンサの各々とそれぞれ電気化学回路を閉鎖するように、異なる電気化学ナノセンサの各々に対合されることを意味する)。
【0364】
本発明の別の好ましい実施形態では、単一の電気化学ナノセンサが、好ましくは、複数の異なる化学物質を同定するために使用されてもよく、これに関して、異なる化学物質のレベルの範囲は一般に公知である。一例として、単一の電気化学ナノセンサは、生物学的流体中の2つの化学物質の各々の生理学的範囲を考慮することによって、それらの電気化学電荷が類似している場合であってもその2つの化学物質を区別するように動作してもよい。一例として、Na+が所与の生物学的媒体中で見出されることが予想される濃度の予想範囲が、K+がその所与の生物学的媒体中で見出されることが予想される濃度の範囲よりも何倍も高い場合、当該技術分野で周知のように、センサの読み取り値から、2つの化学物質を「仮に」識別することを自動的に「推論」することが可能である。
【0365】
図11Aは、本発明の他の好ましい実施形態に係る、使用されてもよい化学センシングチップ131の、「他の実施形態」と指定された、さらなる構成をさらに示す。
【0366】
「#1」と指定された図面は、試料試験プローブの第1の好ましい実施形態の概略図を提供する。分析器ナノセンサチップ1100に接続されたキャピラリ1112が、その先端が上清流体に浸漬されるように、オルガノイドチャンバ112に挿入される。毛細管力は、流体をキャピラリ1112の中に引き込み、それを分析器ナノセンサチップ1100内に含まれるナノセンサ及び/又はセンサアレイに駆動する。試料が試験された後、及び後続の試料を試験する前の、キャピラリの洗浄及び浄化は、好ましくは、同様に表面張力を活用することによって、例えば、キャピラリ及び分析器ナノセンサチップ1100から流体を引き出す多孔質表面(スポンジ、ペーパータオル等)とキャピラリの開放先端を接触させることによって行われてもよい。キャピラリ1112は、好ましくは単一のキャピラリ(図示せず)であってもよいし、又はキャピラリ1112は、好ましくは、複数のサブキャピラリに分岐し、従って、さらに毛細管力を使用して、流体を分析器ナノセンサチップ1100内に含まれる複数のセンサに駆動してもよい。分岐する副キャピラリは、好ましくは、主キャピラリよりも細くてもよい。
【0367】
「#2」と指定された図面は、試料試験プローブの第2の好ましい実施形態の概略図を提供する。この好ましい実施形態では、1つ以上の蛍光ベースのナノセンサ1120は、オルガノイドチャンバ112の底部の内面に固定されるか、又はオルガノイドチャンバ112内の流体中で自由に浮遊する。蛍光ベースのナノセンサ1120は、好ましくは、蛍光ビーズ若しくは蛍光コーティング、又は他の蛍光ベースのナノセンサを含んでもよく、酸素又は他の生物学的に関連する化学物質のレベルを検出するように動作してもよい。光検出器1122は、当該技術分野で周知のように、蛍光ベースのナノセンサ1120から放出され、それらが検出するように動作する化学物質を示す光の量を検出するために使用される。この光検出器は、アクチュエータ150によって自動的に作動される。ナノセンサ1102がオルガノイドチャンバ112の底部内面に固定される場合、重力によって、オルガノイド113は、それらと直接接触するか、又はそれらに近接し、より正確な読取値を与える可能性が高いことが理解される。
【0368】
「#3」と指定された図面は、試料試験プローブの第3の好ましい実施形態の概略図を提供する。この好ましい実施形態では、キャピラリ1134が使用されるが、キャピラリ1134は、分析器ナノセンサチップ1100に接続するのではなく、その遠位端において、複数のナノセンサ1132が含まれるナノセンサ空洞1130に広がる。一例として、ナノセンサ1132は、ナノセンサ空洞1130の内面上にナノコーティングされてもよい。この第3の実施形態の利点は、ナノセンサが上清流体に挿入されないことであることが理解される。当該技術分野で周知のように、いくつかのナノセンサは、流体の中へイオンを放出する可能性があり、従って、それらが試験している生体液に害を及ぼし、かつ/又は別の態様で影響を及ぼす可能性がある。それゆえ、この第3の実施形態は、この単純なプローブ設計を使用するが、流体は、ナノセンサ空洞1130内に引き込まれ、そこで、オルガノイドチャンバ112及びその流体の外部でナノセンサ1132と相互作用する。
【0369】
本実施形態は、論理的に「#1」と指定された第1の実施形態とあまり異ならないが、実用的な構造には重要な違いがあることがさらに理解される。この第3の実施形態は、最も単純であり、単にキャピラリの端部で広がる「空洞」であり、1つ以上のナノセンサ1132は、好ましくは、空洞内にコーティングされるか又は別様に埋め込まれてもよい。
【0370】
「#4」と指定された図面は、試料試験プローブの第4の好ましい実施形態の概略図を提供する。この好ましい実施形態では、可撓性プローブ1140が使用される。1つ以上のナノセンサ1142は、可撓性プローブ1140の対応するセグメント上にコーティングされる。本発明の好ましい実施形態によれば、可撓性プローブ1140は、それが、好ましくは「ゆらめき(フラップし)」、オルガノイド113との接触を達成し、これにより、その上にコーティングされたナノセンサ1142を、オルガノイド113の細胞と直接接触させるか又はそれに非常に近接させるように設計される。光検出器1144は、酸素及び他の生物学的に関連する化学物質の検出等のために、蛍光ナノセンサと併せて使用されてもよい。理解される。
【0371】
上記の実施形態は例としてのみ提供され、これらの組み合わせが好ましく使用されてもよいことが理解される。一例として、本発明の好ましい実施形態では、好ましくは、実施形態「#4」の可撓性プローブ1140は、蛍光性であるナノセンサ1142、及び/又はイオンを著しくは放出せず、従って、試験試料に有意に影響を及ぼすことなく試験試料に安全に浸漬されてもよい他のナノセンサ1142とともに使用されてもよく、この際、可撓性プローブ1140の「弛み」は、蛍光センサとオルガノイド113自体との物理的接触、又はその近接を達成する。これは、好ましくは、実施形態「#3」の態様と併せて使用されてもよく、電気化学センサが、キャピラリ1134の遠位端のナノセンサ空洞1130内で使用されてもよく、その結果、これらの電気化学センサは、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113を取り囲む上清流体に浸漬されず、それに影響を与えない。
【0372】
本発明の上記の実施形態のすべてにおいて、ナノセンサは、当該技術分野で周知のように、一例として酸素及び他の生物学的に関連する化学物質のレベルの検出のための1つ以上の蛍光ベースのセンサ(実施形態「#2」のものと同様)も含んでもよいことが理解される。光検出器1212は、蛍光ベースのセンサから放出される光の量を検出するために使用され、この光検出器は、好ましくは、プローブ1100の一部でなくてもよく、アクチュエータ150によって自動的に操作される。
【0373】
リアルタイム細胞センシングのアーキテクチャを概略的に示す
図11Bをここで参照する。
【0374】
化学センシングチップ131は、リアルタイム細胞代謝センシングを可能にし、これは本発明の独特の利点である。
図11Bは、リアルタイム細胞代謝センシングを可能にする独特の機能的及びアーキテクチャ的概念を説明する。
【0375】
図11Bは、本発明のマルチヒトチップ110及び化学センシングチップ131のいくつかの重要な特性の間の相互作用の抽象化された説明図を提供する。明確にするために、提供される例は、球体型のオルガノイド113であるが、同じことが灌流オルガノイド又は他のタイプのオルガノイドにも当てはまることが理解される。
【0376】
オルガノイドチャンバ1150の容積は、オルガノイドチャンバ112内の容積からオルガノイド113の体積を引いたものに等しい。嵌まり込みがきついほど、オルガノイドチャンバ1150の容積は小さくなる。一例として、オルガノイド113は、典型的には、非常に小さく、例えば、直径100~300ミクロン(100~300μm)であってもよい。従って、オルガノイドチャンバ112は、オルガノイド113を収容するのに充分でありながら、本明細書で後述するさらなる要因を考慮しながら、実施可能な限り小さいように設計され製作される。一例として、オルガノイドチャンバ112の直径が1ミリメートル未満である場合、オルガノイドの直径が100~300ミクロン(100~300μm)であると仮定すると、オルガノイドチャンバ1150の容積は、オルガノイドチャンバ112がはるかに大きい、例えば4ミリメートルの場合とは対照的に、非常に小さい。
【0377】
一例として、本発明の好ましい実施形態では、オルガノイドは典型的に直径100~300ミクロン(100~300μm)であってもよく、オルガノイドチャンバは400ミクロン(400μm)又は500ミクロン(500μm)又は1000ミクロン(1000μm)であってもよい。従って、このような実施形態では、オルガノイドチャンバの容積とオルガノイドの体積との比は、2.8(500ミクロンチャンバ対300ミクロンオルガノイド)、25(500ミクロンチャンバ対100ミクロンオルガノイド)、11(1000ミクロンチャンバ対300ミクロンオルガノイド)、又は100(1000ミクロンチャンバ対100ミクロンオルガノイド)である。
【0378】
試料チューブ1158の容積は、オルガノイドチャンバ112からナノセンサチャンバ1154に至るまでのチューブ全体の容積である。試料チューブ1152が長く、幅が広いほど、試料チューブ1158の容積は大きくなる。ナノセンサチャンバ容積1160は、単に、ナノセンサチャンバ1154の内容積からナノセンサ1156の体積を引いたものである。実際には、ナノセンサ1156は、典型的には、細小体積を有し、ナノセンサチャンバ1154は、はるかに大きく、単純に、使用される製造に依存する。一例として、現行のナノセンサアレイは、ナノセンサチャンバ1154のサイズが数ミクロンであることが多いが、上記ナノセンサ自体は、その1000分の1のサイズ、すなわちナノメートルで測定されるサイズであってもよい。
【0379】
試料体積1160は、ナノセンサ1156がその測定を行うことができるように、オルガノイドチャンバ112から取り出され、試料チューブ1152を通って流れ、ナノセンサチャンバ1154内に配置されなければならない体積である。それゆえ、試料体積1160は、試料チューブ1158の容積及びナノセンサチャンバ容積1160を反映する。簡単に言えば、試料チューブ1152が長く、幅が広いほど、またナノセンサチャンバ1154が大きいほど、試料体積1160は大きくなる。実際には、試料体積は、上記の説明よりも数倍大きくなってもよいが、これは、上記の説明が単一のナノセンサ1156にのみ試料を採取することを記載しているのに対し、実際には、オルガノイドチャンバ112から採取された試料は、ナノセンサアレイに含まれる複数のナノセンサ1156の各々に送達される複数の試料を含むのに充分であることを必要とする可能性があるためであることが理解される。
【0380】
オルガノイドチャンバ1150の容積は、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113の周囲の上清中にオルガノイド113によって放出される代謝産物の高感度で正確な測定値を取得する能力に強く影響することが理解される。オルガノイドチャンバ1150の容積が小さいほど、オルガノイドチャンバ112から採取された試料は、オルガノイド113の細胞によって放出された代謝産物をより正確に反映するであろう。これは、以下の例によって例示されてもよい。角氷を非常に小さなグラスのウイスキーに入れる場合、その角氷は、同じ角氷を大きいバレルのウイスキーに入れる場合よりも、ウイスキーを薄めることがはるかに少ない。
【0381】
試料体積1160は、オルガノイドチャンバ112から取得されてもよい測定の頻度に強く影響を及ぼすことも理解される。簡単に言えば、極端な場合として、試料体積1160がオルガノイドチャンバ1150の容積と等しい場合、1つの試料を採取すると、オルガノイドチャンバ112が完全に「無になる」。逆に、試料体積1160がオルガノイドチャンバ1150の容積の1000分の1である場合、オルガノイドチャンバを著しく枯渇させることなく、従ってオルガノイド113を著しく乱すことなく、100回の測定が行われる可能性がある。これは、以下の例によって例示されてもよい。玄人のワインテイスターのグループを採用して、その各々にグラス中のワインを味見させようとする場合で、ワインがグラス中に存在し、そして空気が入るときにどのように変化するかを測定するように、数日間にわたって15分毎に反復してそれを行うために、ワインテイスターらが各々小さい細小の一口をすする場合、それは妥当であるが、これに対してワインテイスターらが大きくごくごくと摂取する場合、その味見はグラスをすぐに完全に空にすることになる。
【0382】
ナノセンサは無害でない可能性があり、典型的にはイオンを直接の環境に放出し、これによりナノセンサが試験している組織又は流体に影響を及ぼす可能性があるという点で、ナノセンサ又は他の測定デバイス若しくは化合物をオルガノイドチャンバ112自体の中に又はそれに直接近接して配置することは不利である可能性があるということがさらに理解され、当該技術分野で周知である。
【0383】
それゆえ、
図11Bは、本発明の中心的な二重の独自性、第1に、正確な「細胞」代謝センシングを得る能力であり、第2に、リアルタイムでそうする能力、すなわち頻繁な反復的なそのような測定を提供する能力を示す。オルガノイド113によってオルガノイドチャンバ112内に放出される代謝産物の「細胞」代謝センシング又は高感度の代謝センシングは、オルガノイドチャンバ1150の容積が小さくなるように、オルガノイドチャンバ112のサイズ及び形状をオルガノイドに近く保つ、オルガノイドチャンバ112の前例のない小型化された設計及び製作によって達成される。また、リアルタイムの頻繁な反復的な試験は、試料チューブ1152の長さ及び幅、並びにナノセンサチャンバ1154のサイズが最小限に抑えられ、これにより試料体積が最小限に抑えられ、これによりオルガノイドチャンバ1150の容積と試料体積1160との間の高い比が達成される、独特のアーキテクチャ及びサブミクロン製作によって可能にされる。
【0384】
当該チップオンチップアーキテクチャは、アクチュエータ150によってセンサをオルガノイドチャンバ112に近づけることによって、試料チューブ1152の長さ及び幅を絶対最小まで小さくすることが理解される。それゆえ、当該チップオンチップアーキテクチャは、(i)試料チューブ1152の長さを短縮し、(ii)多数の弁/チャネル/ポンプの複雑性を排除し、これにより、(iii)費用を低減し、(iv)堅牢性を向上させるという利点を伴って、2つのマイクロ流体チップが「1つとして作用する」ことを可能にする。
【0385】
一例として、本発明の好ましい実施形態では、オルガノイド113は、好ましくは直径が100~300ミクロン(100~300μm)であってもよく、オルガノイドチャンバ112は、好ましくは直径が400ミクロン(400μm)又はであってもよく、試料チューブ1152は、直径がサブミクロンであってもよく、長さが数ミリメートルであってもよい。
【0386】
実用的な例として、15分毎に1回の単一のセンサへの試料の採取は、2週間にわたる1344個の試料を意味し、かつ/又は10個のセンサが使用される場合、13440個の試料を意味する。それゆえ、少なくとも1つのセンサ、好ましくは10個を超えるセンサを仮定すると、反復リアルタイム測定は、オルガノイドチャンバ1150の容積と試料体積1160との間の少なくとも1,000、好ましくは10,000の比を必要とすることになる。
【0387】
本発明の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバ1150の容積と試料体積1160との間の比は、好ましくは100000超、50000超、10000超、1000超、500超、100超、50超、又は10超である。
【0388】
本発明の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバの容積とオルガノイドの体積との比は、1未満、2未満、3未満、5未満、10未満、又は30未満、100未満、又は500未満である。
【0389】
本発明の好ましい実施形態では、(i)オルガノイドチャンバ112のサイズは、流体がオルガノイド113を可能な限り近く反映するように、実用的な最小限に保たれ、(ii)媒体流体に影響を及ぼすことなく、オルガノイドチャンバ112内の流体に安全に挿入されてもよいナノセンサが使用され、これにより、たとえ試料が非常に小さい体積であって短いチューブを通してであっても試料を採取することを必要とせずに、チャンバ内で直接測定が行われる。サイズ及び容積という実用面での制限がある、例えばオルガノイドチャンバ112又はナノセンサチャンバの容積が1mmより著しく小さい場合、蒸発は制限的な問題となることも理解される。従って、ここでも、試料を抽出するのではなく、オルガノイドチャンバ112に挿入されるナノセンサが好ましい。
【0390】
特異的及び非特異的センサアレイの使用を概略的に示す
図12をここで参照する。
【0391】
本発明は、特異的センサアレイ及び非特異的センサアレイという2種類のナノセンサアレイを利用する。
図11Aによって説明されるように、化学センシングチップ131は、好ましくは、複数のナノセンサ1102がコーティング又は付着されたプローブ1100を含む。
【0392】
「特異的センサアレイを有するプローブ」と指定された第1の図は、特異的センサアレイ1210と指定された、ナノセンサの取り付けられた群を有するプローブ1100を示す。特異的センサアレイ1210は、当該技術分野で周知のように、各ナノセンサが特定の化学物質を識別するように作製され訓練されている、ナノセンサのアレイである。本発明の好ましい実施形態では、特異的センサアレイ1210は、酸素、グルコース、乳酸、尿素、カリウム、アンモニア、及びpHのためのセンサを含んでもよいが、これらに限定されない。
図12に描かれるように、特異的センサアレイ1210は、このアレイが曝露された試料について、これらの代謝産物の各々の異なるレベルを示す。当該技術分野で周知のように、これらの測定値は、組織における細胞の活力、及びこれらの細胞におけるミトコンドリアの活力を示す。それゆえ、これらの測定値は、組織に対する薬物の毒性を含む、投与された薬物に対するその組織中の細胞の応答を示すのに有用である。
【0393】
「非特異的センサアレイを有するプローブ」と指定された第2の図は、特異的センサアレイ1210と指定された、ナノセンサの取り付けられた群を有するプローブ1100を示す。非特異的センサアレイ1220は、当該技術分野で周知のように、センサアレイが群として一緒に働き、人工知能の支援によって、非常に広い範囲の化合物を集合的に同定するために「学習」してもよいように動作可能に構築されるナノセンサのアレイである。非特異的センサアレイ1220は、化合物に典型的なパターンを特定するために「学習する」。非特異的センサアレイ1220は、この図に示されている7つのセンサの各々が登録した信号のレベルの、ここに描かれている特定のパターンを特定するために「学習」し、従って、そのようなパターンが特定の化学化合物に典型的であることを「学習」する。これはすべて、当該技術分野で周知であるとおりである。
【0394】
上記は、単なる例として意図されており、限定することを意図していないことが理解される。本発明の他の好ましい実施形態では、特異的及び非特異的センサの組み合わせが使用されてもよく、一度により多くのナノセンサを使用するように、複数のプローブ1100が同じオルガノイドチャンバ112内で同時に使用されてもよい。「分析器ナノセンサチップ」と指定された第3の図は、分析器ナノセンサチップ1110を示し、この図では、分析器ナノセンサチップ1110のセンサは、特異的センサアレイ1230と、非特異的センサアレイ1240とを含んでもよい。オルガノイドチャンバ112内の流体から微小な試料を引き出し、それをセンサアレイ内のセンサのそれぞれに運ぶためにキャピラリ1112が使用される。これらの特異的及び非特異的センサアレイは、上記で説明されるものと同様であるが、オルガノイドチャンバ112の流体に沈められ、そこで化学物質を直接測定するのではなく、分析器ナノセンサチップ1110上に設置され、従って、引き出された試料を分析する。
【0395】
任意選択で、ITP濃縮器エンジン1205を使用して、引き出された試料内の化学化合物が濃縮される。ITP濃縮器エンジン1205は、当該技術分野で公知のように、試料チャネル290を通して引き出された試料流体内の化学化合物を濃縮するために、等速電気泳動を使用するマイクロ流体デバイスである。
【0396】
ゲノムチップ132によって実行されるゲノムナノセンシングの一例を概略的に示す
図13Aをここで参照する。
【0397】
臓器チップは、とりわけ複数のそのような臓器チップを利用する場合に、薬物開発を劇的に加速する強力な機会を開く。本発明は、現在まで存在し、本発明が実際に薬物開発を劇的に加速することを可能にする2つの主要な障害を克服する。第1に、現在、ハイスループットかつAI統合されたヒトオンチッププラットフォーム、すなわち、数万個のヒトオンチップでの薬物候補の迅速で安価な生物学的走査を可能にするシステムは存在しない。第2に、現在、統合されたゲノム発現プロファイリングを有するヒトオンチッププラットフォームは存在しない。
【0398】
本発明は、これらの課題の両方に対処する。本発明のチップオンチップアーキテクチャは、第1の課題に対処し、真にハイスループットのリアルタイムセンシングヒトチッププラットフォームを初めて提供する。そして、ナノワイヤベースの非増幅ゲノムセンシング、特に環状RNAのセンシングは、第2の課題に対する革命的な解決手段を提供する。
【0399】
現在の臓器チップシステムのゲノム関連の課題は以下の通りである。臓器チップシステムは、動物研究の予測精度を時折超える予測精度を示すので、非常に有望である。しかし、現在まで、動物研究は、1つの独特の利点を有していた。動物研究は、豊富なゲノムデータをもたらしたが、臓器チップシステムは、それらの小型化のために、その豊富なゲノムデータに単純に匹敵することができなかった。ゲノムデータを伴わない薬物の開発を試みることは、「当て推量で行うこと」と同様である。
【0400】
それゆえ、本発明は、現在、環状RNAの非破壊的なリアルタイムの非増幅検出をもたらし、これによりほとんどの主要な疾患に関連する、匹敵するものがない、前例のない遺伝子プロファイルをもたらすという点で独特である。ハイスループットヒトオンチッププラットフォーム内で環状RNAを正確に同定する能力は、劇的な影響を有する。一例として、約330種のcircRNAは、様々なタイプの癌、神経変性障害、心血管疾患、自閉症、及び多くの他の主要な疾患を含む48種の主要な疾患に関連することが示されている。
【0401】
図13は、ハイスループットマルチヒトチップ110内のオルガノイドチャンバ112内の上清流体中にオルガノイド113によって分泌された微小量の環状RNA分子を増幅することなく正確に同定及び定量するように動作する超高感度ナノセンサ及びシステムを示す。
【0402】
環状RNA(circRNA)は、環状である新規の短いRNA遺伝子であり、癌、心臓疾患、神経変性疾患、自閉症及び多くの他の実体を含む複数の主要な疾患と関連付けられており、脳において高度に発現され、細胞分化と関連している。驚くべきことに、「通常の」mRNAとは異なり、数千ものcircRNA分子が、これらの様々な主要な疾患状態において、細胞外を意味する「無細胞」であることが見出されている。circRNA分子の環状構造は、細胞の外側にあるときに崩壊する通常の「線状」mRNAとは異なり、それらをリボヌクレアーゼに耐性にする。
【0403】
circ-RNAゲノムナノセンサ1300は、ゲノムチップ132の一例であるナノセンサデバイスである。circ-RNAゲノムナノセンサ1300はプローブ1100を含み、このプローブ上に複数のゲノムセンサが付着又はコーティングされている。
【0404】
circ-RNAゲノムナノセンサ1300は、オルガノイドチャンバ112内の流体中に降下される。オルガノイドチャンバ112は、オルガノイド113を含み、オルガノイドフローチューブ114を通る制御された能動的にポンピングされるマイクロ流体フローに供され、このフローは、オルガノイド113の活性化にとって重要である。オルガノイド113は、オルガノイドチャンバ112の流体中に無細胞circRNA分子を自然に分泌し、このcircRNAは、オルガノイドチャンバ112の流体中で無細胞形態で分解されずに頻繁に生存するという点で、通常のより長いmRNAとは異なり、従って、circ-RNAゲノムナノセンサ1300によって特定される可能性がある。
【0405】
circ-RNAゲノムナノセンサ1300は、関心対象の特定のcircRNA分子、例えば、特定の疾患状態に相関することが示されているcircRNAを検出するように動作する。
【0406】
図12によって提供される例では、circ-RNAゲノムナノセンサ1300は、3つのゲノムナノセンサを含み、これらの3つのゲノムナノセンサの各々は、特定の環状RNA分子に結合し、それを検出することができる。circセンサ1302と指定された第1のセンサは、circRNA1312と指定された環状RNA分子を同定する。circセンサ1304と指定された第2のセンサは、circRNA1314と指定された環状RNA分子を同定する。circセンサ1306と指定された第3のセンサは、circRNA1316と指定された環状RNA分子を同定する。
【0407】
これらの3つのセンサの各々は、その標的circRNAの核酸配列に対するアンチセンス配列で設計された核酸分子を含み、その核酸分子は、その標的にハイブリダイズし結合するが、他のcircRNA分子には結合しないことを含め、他の分子には結合しない。いったんセンサ、好ましくはナノワイヤ型ナノセンサがその標的circRNAに結合すると、この結合はセンサの電場特性を変化させ、その結合の電子的指標を提供する。
【0408】
一例として、
図13は、それぞれ符号1322、1324及び1326と指定された、オルガノイドチャンバ112の流体中の3つのcircRNAを示し、これらのcircRNAは、センサが結合するように設計される核酸配列に合致しないため、それらは、結合されず、センサによって識別されない。
【0409】
本発明の好ましい実施形態では、上記センサは、当該技術分野で公知のように、標的化されたcircRNAに特有に結合するアンチセンス配列を用いて設計されてもよい。
【0410】
本発明の一態様は、circ-RNAゲノムナノセンサ1300が、好ましくは、その標的へのその結合が、線状の非環状RNAの物理的特性とは対照的に、その環状構造に起因するcircRNAの独特の物理的特性を使用して増強されるように設計されてもよいことである。
【0411】
一例として、circRNA配列が実際に環状形態である場合にのみcircRNA配列に結合し、そのRNAが線状形態である場合はcircRNAに結合しない「尾―頭(テールヘッド)プローブ」が好ましくは設計されてもよい。
【0412】
別の例として、上記センサは、それらの結合核酸自体が環状形態であり、これによりそれらの標的の核酸配列に適合するだけでなく、それらの環状形態がその標的へのそれらの結合を有意に増強するように設計されてもよい。
【0413】
さらに別の例では、上記センサは、circRNAの環状による物理的特性に由来するそれらの標的の他の物理的特性を活用するように設計されてもよく、これらには、ポリA尾部の不存在、遊離5’及び3’末端の不存在、並びに環状リボース骨格が含まれるが、これらに限定されない。そのような活用は、センサのアンチセンスプローブが標的circRNA内の相補的配列に特異的に結合するのでセンサがその標的に結合するだけでなく、このアンチセンス結合がこれらの環状による物理的特性によってさらに増強されることを意味する。
【0414】
本発明の重要な部分は、ナノセンサによる高感度で正確な検出を達成するために、circRNAの独特の構造を活用することであることが理解される。ナノセンサ、特にナノワイヤベースのセンサ等の高感度のナノセンサの主な課題は、ナノセンサが非常に敏感であり、その標的の種類及びサイズが電子信号に大きく影響を及ぼすことである。異なるサイズの標的は異なる較正を必要とし、このため、そのようなセンサの設計、較正、製造及び操作は、異なる標的を検出するための数百又は数千個のセンサの急速な開発を追求するには非実用的であるほどまで、非常に困難かつ高価になる。一例として、RNA標的に結合する場合、より長い標的化RNA分子は、より短い標的化RNA分子とは非常に異なるシグナルを与えることになる。
【0415】
それゆえ、本発明は、このセンサを実現可能にする2つの進歩性を提供する。第1に、circRNAの群を標的とすることに焦点を当てることによって。それらはすべて、群として、比較的小さい分子、及び重要なことには、サイズが比較的一定であり多くは300~360bp程度の分子であるため、これは、ナノワイヤセンサによるcircRNAの結合の電子信号の群内分散を、タンパク質の結合(非常に大きい分散)、又は通常のmRNAの結合(mRNAは、数十~数千ヌクレオチド長で変動するため)と比較して劇的に減少させる。第2に、circRNAの環状構造から生じてcircRNAを線状非環状RNAの物理的特性と区別するcircRNAの独特の物理的特性を使用することによって。
【0416】
circ-RNAフォールディングの例を概略的に示す
図13Bをここで参照する。
図13Bは、2つの例示的なcirc-RNAの二次元構造を示す。
図13Bが示すように、circRNAはそれら自体の上に折りたたまれ、各circRNAに極めて固有で、典型的には中心円を形成し、1つ以上の二本鎖(DS)「ヘアピン様」セグメントがこの円から突出する二次元構造を形成する。
【0417】
「環状RNA例1」と指定された
図13Bの第1の例は、425ヌクレオチド長であり、3つの二本鎖ヘアピンを有するcircCAMSAP1と命名されたcircRNAのフォールディングを示す。「環状RNA例2」と指定された
図13Bの第2の例は、268ヌクレオチド長であり、2つの二本鎖ヘアピンを有するcircFCHO2と命名されたcircRNAのフォールディングを示す。
【0418】
二本鎖RNAヘアピン内にあるcircRNAの配列に結合するアンチセンスプローブを設計することは、circRNAに結合するその能力を著しく低下させる可能性があるため、ナノセンサによってcircRNAを検出することを試みる場合、各個々の環状RNAの二次構造フォールディングを理解することが重要である。
【0419】
図13Bはさらに、示される2つのcircRNAのバックスプライスジャンクション(back splice junction、BSJ)を示す。各circRNAは、当該技術分野で周知のように、circRNAの線状配列の「頭部」及び「尾部」が結合して環を形成した環状RNA内の点であるバックスプライスジャンクションを有する。BSJは、circRNAの環状一本鎖部分内に位置してもよく、又は二本鎖ヘアピン部分内に位置してもよいことが理解される。
図13Bに提供される例では、「例1」ではBSJがcircRNAの円形部分内にあるのに対し、「実施例2」ではBSJが二本鎖ヘアピンセクション内にあることが理解される。
【0420】
本発明の好ましい実施形態では、この態様は、circRNAを同定するのに適したプローブを設計する際に分析され考慮される。
【0421】
circ-RNAプローブ設計の例を概略的に示す
図13Cをここで参照する。
【0422】
「線状circ-RNA」と指定された図は、線状形態のcirc-RNAの構造を概略的に表す。線状circ-RNA1330は、環状RNA分子であり、これは、当該技術分野で周知のように、リボヌクレアーゼ酵素による分解に対してより高い耐性を有する、環状を自然に形成することを特徴とするタイプのRNA分子である。この図が示すように、線状circ-RNA1330は、頭部1332及び尾部1334を含む。頭部1332は、線状circ-RNA1330の核酸配列の、5’末端を意味する、先頭の核酸配列である。尾部1334は、線状circ-RNA1330の核酸配列の、3’末端を意味する、末端の核酸配列である。
【0423】
「ループ状circ-RNA」と指定された図は、その「ループ状」又は環状形態のcirc-RNAの構造を概略的に表す。ループ状circ-RNA1340は、線状circ-RNA1330と同じRNA分子であり、同じ核酸配列を含むことが理解される。ループ状circ-RNA1340と線状circ-RNA1330との間の差異は、ループ状circ-RNA1340が環状の形状を形成し、尾部1334が頭部1332に接続していることだけである。
【0424】
本発明の好ましい実施形態では、尾―頭プローブ1342は好ましく設計され、尾―頭プローブ1342は、尾部1334の核酸配列に対するアンチセンスと、それに続く頭部1332の核酸配列に対するアンチセンスとを含む核酸配列を有する。それゆえ、尾―頭プローブ1342は、尾部1334の核酸配列が頭部1332の核酸配列に隣接するループ状circ-RNA1340に選択的かつ強力に結合する。しかし、尾―頭プローブ1342は、頭部1332及び尾部1334の核酸配列が隣接していない線状circ-RNA1330には結合するか、又は弱くしか結合しない。
【0425】
一例として、尾―頭プローブ1342は、好ましくは20ヌクレオチド長であってよく、これは、当該技術分野で周知のように、アンチセンスプローブにとって有効な長さであり、尾部1334及び頭部1332はそれぞれ10ヌクレオチド長である。そのようなシナリオでは、ループ状circ-RNA1340に結合する場合、尾―頭プローブ1342の全20ヌクレオチドが尾部1334配列及び隣接する頭部1332配列に結合することが理解される。一方、線状circ-RNA1330に結合しようとする場合、尾―頭プローブ1342配列の20ヌクレオチドのうち10ヌクレオチドのみが、線状circ-RNA1330に結合してもよく、頭部1332又は尾部1334のいずれかに結合するが、両方に同時に結合するわけではない。当該技術分野で周知のように、20ヌクレオチド全体の強力な結合のみを識別し、10ヌクレオチドのみの部分的結合を識別しないように、センシングを較正してもよいことが理解される。
【0426】
尾部1334が頭部1332に結合されるループ状circ-RNA1340の配列における点は、circ-RNAが形成される方法に関する用語であるバックスプライスジャンクション、すなわちBSJとして当該技術分野で公知である。「ループ状circ-RNA」と指定された図面は、2つの可能なプローブ設計を示す。第1のプローブ設計は、隣接する尾部1334及び頭部1332の配列を標的とすることによってループ状circ-RNA1340のBSJ領域を標的とするように設計された尾―頭プローブ1342である。
【0427】
第2のプローブ設計は、BSJを含まないループ状circ-RNA1340内の任意の配列に対処する。この際、ループ状circ-RNA1340のそのような配列は、非BSJ1344と指定され、そのアンチセンスプローブは、非BSJプローブ1346と指定されている。
【0428】
尾―頭プローブ1342は、いくつかの重要な点で、非BSJプローブ1346よりもはるかに有利であることが理解される。第1に、尾―頭プローブ1342は、環状RNA分子に、そのループ状circ-RNA1340形態でのみ結合し、その線状circ-RNA1330形態では結合しない。第2に、circ-RNAはしばしば推定的であり、従って、尾―頭プローブ1342は、仮想のものとは対照的に、実際の環状RNAの検出を確実にするので、このプローブは環状RNAを識別するためのはるかに高い特異性を有する。第3に、尾―頭プローブ1342は、はるかに高い特異性、及び他のゲノム配列への意図しない結合を意味するオフターゲット結合のより低いリスクを有する。具体的には、circRNAは、多くの場合、ある遺伝子のmRNAの一部であるので、それゆえ、非BSJ1344配列は、そのcircRNAが含まれる1つ以上のmRNAの一部でもある。従って、非BSJプローブ1346は、circRNAが含まれるこれらの1つ以上のmRNAに意図せずに結合する可能性があるが、尾―頭プローブ1342は、ループ状circRNA1340にのみ結合する。第4に、尾―頭プローブ1342の核酸配列が天然に存在する核酸配列に対するアンチセンスではなく、2つの核酸配列、頭部1332及び尾部1334の人工的な組み合わせに対するアンチセンスであるので、尾―頭プローブ1342がゲノム中の他の場所の「オフターゲット」配列に意図せずに結合する可能性が低いため、尾―頭プローブ1342ははるかに高い特異性を有する。当該技術分野で周知のように、複製及び保存の進化過程のため、天然に存在するゲノム配列は、ゲノム中の他の場所に人工配列を見出す可能性よりも、その天然に存在するゲノム配列に類似し、ゲノム中の他の場所に見出されるゲノム配列を有する可能性が高い。
【0429】
目的のcircRNAが、
図13Bの「例2」に描かれるように、BSJが二本鎖ヘアピン内に見出されるものである場合、尾―頭プローブ1342は、ループ状circRNA1340に最適に結合しない可能性があることが理解される。これは、尾部1334及び頭部1332の配列は、RNA分子の二本鎖二次フォールディング内に見出され、それゆえ、相補的RNA鎖に結合しており、そのプローブに結合する可能性が低いからである。そのような場合、非BSJプローブ1346の使用は、BSJがcircRNAの二本鎖領域内にあるため、より効果的であり、従って、circRNAの二本鎖領域内ではなくcircRNAのループ領域内にあり、非BSJプローブ1346が二本鎖RNA結合によって妨げられず容易に結合する可能性がある非BSJ1344核酸配列を選択することが好ましい。
【0430】
circ-RNAプローブ設計の方法のフローチャートを概略的に示す
図13Dをここで参照する。
【0431】
本発明の好ましい実施形態では、以下の工程は、当該技術分野で周知のように、測定されることが望まれる複数のcirc-RNA配列、例えば、関心対象の疾患に関連することが公知である複数のcircRNA、の各々について実施される。
【0432】
第1に、工程1350において、circ-RNA配列1350が、本明細書に開示されるシステムのメモリに受け取られるか、又は別様に記憶される。このcirc-RNA配列は、関心対象の疾患に、又は生物学的プロセスに関連することが公知である複数のcirc-RNA配列の1つであってもよい。
【0433】
次に、工程1352は、当該技術分野で周知の様々なアルゴリズム及びソフトウェアを使用して、circ-RNA配列1350のRNA分子のRNAフォールディングを計算することを開示する。この工程は、典型的には、circ-RNA配列1350の1つの環状領域及び主要な環状領域、並びに典型的には、1つ以上の二本鎖ヘアピン構造を解明する。
【0434】
次に、工程1356は、circ-RNA配列1350のバックスプライスジャンクションが二本鎖ヘアピン領域内又は非二本鎖領域内に見出されるかどうかを判定する。circRNAのバックスプライスジャンクションを発見する方法は、当該技術分野で周知である。
【0435】
BSJがcirc-RNA配列の非二本鎖領域に見出される場合、当該プロセスは、ユニークなアンチセンス尾―頭プローブを設計するための工程1358に進む。これは、プローブ1342がcirc-RNA配列1350のBSJ領域に対するアンチセンス配列を含むように尾―頭プローブ1342を設計することによって行われてもよい。
【0436】
BSJがcirc-RNA配列1350の二本鎖領域に見出される場合、当該プロセスは、ユニークなアンチセンスプローブを設計するための工程に進む。これは、プローブ1346が、circ-RNA配列1350の二本鎖領域内にない非BSJ1344配列に対するアンチセンス配列を含むように、非BSJプローブ1346を設計することによって行われてもよい。
【0437】
上記の場合の両方において、プローブは、circ-RNA配列1350内の核酸配列であって、ゲノム内でユニークであり、ゲノム内の配列に対して最も低い類似性を有し、最適なプローブ-標的結合及び最小限の意図しないオフターゲット結合を達成するように、当該技術分野で周知のように、アンチセンスプローブを設計するという他の基準に従う核酸配列を標的とするように設計されることが理解される。
【0438】
次に、当該方法は、それぞれ、符号1358及び1360と指定された前の工程によって判定された核酸配列に従ってプローブを合成するアンチセンスプローブを生成する工程1362を含む。そのようなプローブを安定かつ有効にする化学修飾を含むアンチセンスプローブの合成は、当該技術分野で周知である。
【0439】
次に、当該方法は、当該技術分野で周知のように、ナノチップに前の工程で生成されたアンチセンスプローブをナノチップ、又はナノワイヤセンサ等のナノセンサに取り付ける工程1364を含む。多数のナノセンサが当該技術分野で公知であり、核酸プローブをナノセンサに取り付けるための多数の方法が当該技術分野で公知である。
【0440】
次に、当該方法は、ナノチップ検出無細胞circ-RNA1366を検出する工程1366を含む。この工程は、無細胞環状RNAを検出するために、固定された核酸プローブを有するナノチップを利用してもよい。
【0441】
上記の説明は、単なる例として意図されており、限定することを意図していないことが理解される。他の好ましい実施形態では、検出されるRNAは、環状RNA又は他のタイプの短いRNA又は他のタイプのRNAでなくてもよい。本発明の他の好ましい実施形態では、当該技術分野で公知のように、異なるナノセンサが使用されてもよく、異なるプローブ設計方法が適用されてもよく、増幅の方法が使用されてもよい。
【0442】
非破壊的ゲノム解析の一例を概略的に示す
図14Aをここで参照する。
【0443】
図14Aは、特定のオルガノイド113のゲノム発現プロファイルを、そのオルガノイドが薬物に曝露される前と、薬物に曝露された後との両方で得ることを可能にする、本発明の独自の革新的な態様を示す。
【0444】
この点において、独自性の2つの重要な態様があることが理解される。第1に、現在、臓器チップのオルガノイドの自動化されたハイスループットゲノム発現分析を提供する臓器チップは存在しない。第2に、現在、非破壊的な方法でオルガノイドのゲノム解析を行う臓器チップの方法又は装置は存在しない。ゲノム発現分析を実施することは、典型的には、組織の溶解、それゆえその破壊を必要とする。それゆえ、薬物介入の前後に同じオルガノイド組織のゲノム解析を臓器チップ内で行うことは現在不可能である。一方が処理され他方が未処理である2つの異なるオルガノイドの発現プロファイリング又はエピジェネティックプロファイリング等のゲノム解析を比較することは、その2つのオルガノイドが同一ではないので、理想的ではないことが理解される。
【0445】
本発明は、オルガノイドへの薬物の適用の前後に、球体オルガノイドから少数の単細胞を切り離し、単細胞ゲノム解析のためにこれらの細胞を送ることによって、非破壊的ゲノム配列決定分析を達成する。このプロセスは以下のように説明される。
【0446】
ポンプ1410は、循環流体を、オルガノイド113を含むオルガノイドチャンバ112にポンピングする。
【0447】
図14Aによって描かれるように、ポンプ1410は、オルガノイド113上にせん断力を印加し、これにより、1つ以上の単細胞1400を切り離す。当該システムは、マイクロ流体チャネルを通って流れる細胞を計数するように動作する細胞計数器1420を含んでもよい。1つ以上の単細胞1400は、オルガノイドチャンバ112から流出し、細胞計数器1420によって計数される。
【0448】
少数の単細胞1400をせん断するために、細胞計数器1420は、好ましくは、ポンプ1410と連動して動作してもよいことが理解される。一例として、ポンプ1410によって生成されるフロー及び/又は圧力は、低くなり始め、次いで、所望の少数の単細胞1400がオルガノイド113から引き離され、細胞計数器によって検出される時まで、徐々に増加されてもよい。
【0449】
チャネルの場所、角度口径及び圧力、並びにオルガノイドチャンバ112に対するその場所等を含むがこれらに限定されない、上記の機構の正確な実装を設計するとき、類似の方法論、つまり、球体オルガノイドを損傷することなく、少なすぎず多すぎない所望の単細胞1400を切り離すための最良の設定を決定することを可能にするフィードバックとして細胞カウンタ1420を使用すること、が採用されてもよいことが同様に理解される。このように、異なる組織タイプに対して異なる設定が使用されてもよく、また上記の方法は、球体オルガノイドだけでなく灌流オルガノイド及び他のタイプのオルガノイドにも関連することがさらに理解される。
【0450】
任意の貯蔵アレイ1430は、任意選択で、本明細書中以下でさらに説明されるように、外部試験のための外部デバイスへの後の通過のために、単細胞1400を貯蔵してもよい。任意の貯蔵アレイ1430の必要性は、本明細書に説明される機構が、非常に大きい複数のオルガノイド150のそれぞれから少数の単細胞1400を受け取るからであり、従って、ゲノム配列決定等の外部処理のためにすべての単細胞1400が外部デバイスに移送されてもよいように、各オルガノイド113からの少数の単細胞1400を任意の貯蔵アレイ1430内の別個の区画に貯蔵することが有利であってもよい。任意選択の貯蔵アレイ1430は、マルチヒトチップ150上の保管場所であってもよく、又はマルチヒトチップ150とは別個のデバイスであってもよいことがさらに理解される。
【0451】
従って、単細胞1400は捕捉され、任意選択で貯蔵(保管)され、次いで、外部分析のために外部デバイスに移送されてもよい。単細胞1400のそのようなさらなる分析は、外部単細胞ゲノムシーケンサ1440及び外部単細胞エピジェネティックアナライザ1440を含むが、これらに限定されない。
【0452】
本発明の非破壊ゲノム解析態様の一部として、チップオンチップ細胞せん断の3つの実施形態を概略的に示す
図14Bをここで参照する。
【0453】
本発明の「チップオンチップ」アーキテクチャの実施形態では、本明細書中上記の
図1Aに概略的に示すように、オルガノイド113からの細胞は、細胞抽出チップ133の細胞抽出ナノチューブ202によってせん断剥離される。これらの抽出された単細胞は、続いて、単細胞ゲノム解析若しくはエピジェネティック分析、又は他の望ましい形態の分析によって分析されてもよい。いくつかの実施形態は、オルガノイド113からの細胞のそのようなせん断剥離を作動させるように動作する。
【0454】
チップオンチップ細胞せん断剥離の第1の実施形態は、「#1」と指定された図面によって概略的に示される。この実施形態では、細胞抽出ナノチューブ202は、せん断流ポンプ1460を備えた単一のチューブである。この実施形態では、オルガノイド113からの単細胞のせん断剥離は、それぞれ「パルス-1」及び「パルス-2」と指定された2つの図面によって概略的に示されている2つのアクションによって達成される。「パルス-1」と指定された図面によって示される第1のアクションでは、せん断流ポンプ1460は、1つ以上の単細胞1400をオルガノイド113から引き離すように、流体のパルスをオルガノイドチャンバ112にポンピングする。「パルス-2」と指定された図面によって示される第2のアクションでは、せん断流ポンプ1460は、その方向を逆転させ、「パルス-1」の以前のアクションによってオルガノイド113から剥離された後にオルガノイドチャンバ112内の流体中で自由に浮遊する1つ以上の単細胞1400を吸引するように、流体のパルスをオルガノイドチャンバ112からポンピングする。本発明の好ましい実施形態では、細胞抽出ナノチューブ202は、流体リザーバ(図示せず)に接続し、「パルス1」と指定された図面ではその流体リザーバから流体がポンピングされ、「パルス2」と指定された図面ではその流体リザーバに流体が流れる。本発明の別の好ましい実施形態では、別々のリザーバが使用され、「パルス1」ではそのリザーバの1つから流体が流れ、「パルス2」ではそのリザーバの他方から流体が流れてもよく、この2つのリザーバは別々であってもよく、又は接続されてもよい。
【0455】
チップオンチップ細胞せん断剥離の第2の実施形態は、「#2」と指定された図面によって概略的に示される。この実施形態では、細胞抽出ナノチューブ202は、外部チューブ1475内に含まれる内部チューブ1470を含む。1つ以上のせん断流ポンプ1460は、図面「#2」によって示されるように、外部チューブ1475を通してオルガノイドチャンバ112の中へ流体をポンピングし、内部チューブ1470を通してオルガノイドチャンバ112から流体をポンピングするように動作する。これは単なる例として意図されることが理解される。1つ以上のせん断流ポンプ1460は、同様に、内部チューブ1470を通してオルガノイドチャンバ112の中へ流体をポンピングし、外部チューブ1475を通してオルガノイドチャンバ112から流体をポンピングしてもよい。本発明の好ましい実施形態では、内部チューブ1470及び外部チューブ1475は、好ましくは、共通のリザーバ又は別個のリザーバ(図示せず)に接続され、それぞれ、そのリザーバから流体が外部チューブ1475に流入し、そのリザーバに流体が内部チューブ1470からポンピングで戻される。
【0456】
図面「#2」が示すように、本発明の好ましい実施形態では、外部チューブ1475を通ってオルガノイドチャンバ112に入る並流と、内部チューブ1480を通ってオルガノイドチャンバ112から出る流れ(又はその逆)とによって水平せん断力が引き起こされる。この水平せん断力は、オルガノイド113の表面に加えられ、好ましくは、単細胞1400をせん断してオルガノイド113から離してもよく、その結果、それらは、続いて、細胞抽出ナノチューブ202を通してオルガノイドチャンバ112から吸引されてもよく、好ましくは、続いて、ゲノム解析若しくはエピジェネティック分析又は他の所望の分析のために分析されてもよい。
【0457】
チップオンチップの細胞せん断剥離の第3の実施形態は、「#3」と指定された図面によって概略的に示される。この実施形態では、細胞抽出ナノチューブ202は、好ましくは、第1のチューブ1480及び第2のチューブ1485の2つのチューブを含んでもよい。1つ以上のせん断流ポンプ1460は、第1のチューブ1480を通してオルガノイドチャンバ112に流体をポンピングし、第2のチューブ1485を通してオルガノイドチャンバ112から流体をポンピングするように動作する。図面「#3」が示すように、本発明の好ましい実施形態では、第1のチューブ1480を通ってオルガノイドチャンバ112に入る並流と、第2のチューブ1485を通ってオルガノイドチャンバ112から出る流れとによって水平せん断力が引き起こされる。この水平せん断力は、オルガノイド113の表面に加えられ、好ましくは、単細胞1400をせん断してオルガノイド113から離してもよく、その結果、それらは、続いて、細胞抽出ナノチューブ202を通してオルガノイドチャンバ112から吸引されてもよく、好ましくは、続いて、ゲノム解析若しくはエピジェネティック分析又は他の所望の分析のために分析されてもよい。本発明の好ましい実施形態では、第1のチューブ1480及び第2のチューブ1485は、好ましくは、共通のリザーバ又は別個のそれぞれのリザーバ(図示せず)に接続され、それぞれ、そのリザーバから流体が第1のチューブ1480に流入し、そのリザーバに流体が第2のチューブ1485からポンピングで戻される。
【0458】
上記の3つの実施形態のすべてにおいて、1つ以上のせん断流ポンプ1460は、摩擦ホイール(図示されている)、当該技術分野で公知の種々の圧電ポンプ、又は当該技術分野で周知のように電気浸透によって駆動される流体フローが挙げられるがそれらに限定されない、マイクロ流体チャネル内の流体のフローを作動させる、異なる種類のデバイス又は方法を含んでもよいことが理解される。
【0459】
上記の実施形態の各々は、単一のせん断流ポンプ1460によって、又は複数のせん断流ポンプ1460によって作動されてもよいことがさらに理解される。例として、実施形態「#1」では、単一のせん断流ポンプ1460が使用されてもよく、この場合、その方向を逆にして、流入対流出が達成されるか、又はこの目的のために2つの別個のポンプが使用されてもよい(この場合、ポンプはその流れ方向を変える必要がない)。実施形態「#2」及び「#3」では、単一摩擦ホイールポンプタイプのせん断流ポンプ1460を使用して、実施形態「#2」のそれぞれの内部チューブ及び外部チューブ並びに実施形態「#3」のそれぞれの第1のチューブ及び第2のチューブにおける流入及び流出が作動されてもよい。せん断流ポンプ1460が電気浸透を利用する本発明の「#1」、「#2」及び「#3」の実施形態に関しては、好ましくは、(「#2」の)外部チューブ及び内部チューブに、又は(「#3」の)第1のチューブ及び第2のチューブに異なる電場が印加されてもよい。
【0460】
チップオンチップシステム100を利用する創薬プロセスの概要のフローチャートを概略的に示す
図15をここで参照する。
【0461】
本発明の好ましい実施形態では、チップオンチップシステム100は、
図15が示す創薬プロセスの中心的存在として使用される。
【0462】
当該方法は、製剤1800の生物学的作用を予測する工程1500を含む。この予測は、人工知能(AI)プロセスであってもよく、このプロセスでは、可能な製剤の大きいプールからの製剤が、AIプロセス、好ましくは深層学習プロセスによって評価される。生物学的作用は、様々な生物学的作用、製剤の所望の疑わしい生物学的活性(例えば、それが特定の種類の癌細胞を死滅させる可能性)、又は望ましくない生物学的活性(例えば、それが特定の組織において特定の望ましくない副作用を有する可能性)であってもよい。製剤の予測される生物学的作用は、好ましくは、評価された製剤の「プール」中のあらゆる製剤、目的の各所望の又は望ましくない「生物学的作用」についての尤度のスコアを出力する。
【0463】
次に、当該方法は、製剤のサブセットを生物学的にスクリーニングし、工程1500の間に生成されたすべての製剤のスコアを評価し、最も高いスコアを有する製剤を選択する工程1510を含む。次いで、選択された製剤は、これらの予測を検証する目的で、チップオンチップシステム100上でスクリーニングされる。
【0464】
当該方法は、次いで、リアルタイムゲノムナノセンシングを収集する工程1520を含む。本発明の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバ112の流体中に存在し、従って、オルガノイド113と関連付けられる、関心目的の特定の核酸分子の非増幅検出を達成するためにナノワイヤセンサが使用される。特に興味深いのは、細胞外で分解されず、疾患に関連する無細胞核酸分子、特に環状RNA(circRNA)分子の検出である。一例として、特定のcircRNAは、自閉症と関連しており、初期のエビデンスは、自閉症の治療における大麻の有効性の可能性を示し、それゆえ、ハイスループット多臓器チップシステムにおけるcircRNAのナノワイヤ非増幅検出の使用は、自閉症のための新規薬剤の開発に有用である可能性がある。ヒトオンチップシステムにおけるcircRNAの非増幅ゲノムセンシング及び特異的非増幅センシングは、これまで行われていないことが理解される。センサがヒトオンチップシステム内のオルガノイドチャンバ112に直接関連しないが、むしろすべてのオルガノイドチャンバ112によって「共有」され、チップオンチップアーキテクチャによって送達される、リアルタイムナノセンシングも、以前に行われたことがないということがさらに理解される。リアルタイムゲノムナノセンシング1820は、本明細書中上記で明示されている。
【0465】
当該方法は、次いで、例えば、能動的にポンピングされ完全に制御されるマイクロ流体フローを使用して、フレキシブルな循環をポンピングする工程1530を含み、従って、その経路選定はフレキシブルである。この循環は、短絡及びオンチップ臓器スケーリングの両方を可能にする。一例として、腸チャンバから肝臓チャンバへ通過し他のすべての器官を迂回するマイクロ流体フローを提供し、これにより、「肝臓の初回通過循環」を模倣する。この能力は独特であり、重力流に依存し、フローの経路選定が固定されている既存のシステムとは異なることが理解される。
【0466】
次に、当該方法は、マルチヒトチップ150からの結果に基づいて、そしてディープマッチングエンジン170を使用して上記予測を精緻化する工程1540を含む。次いで、この予測は、工程1500にフィードバックされてもよい。
【0467】
充分な検証が達成されるまでこれらの工程が行われ、工程1550に示すように薬剤が得られることが理解される。
【0468】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。この複数のオルガノイドチャンバは、マルチヒトチップ110内に配置される。マルチヒトチップ110内のオルガノイドチャンバのいくつかは、循環トンネルを介して接続されてもよいが、他のオルガノイドチャンバは、いかなる他のオルガノイドチャンバにも接続されない。
【0469】
図16Aは、ヒトチップのアレイを示す。このアレイは、フレーム1600によって制限される。アレイは、相互接続されたオルガノイドチャンバの複数の群1610、1615、1618を含む。各群は、群内のチャンバが他の群内のチャンバに接続されないように隔てられる。各群のチャンバの数は、同じであってもよいし異なっていてもよい。チャンバの数は、各群のチャンバ内の組織によって表される器官に従って決定されてもよい。
【0470】
図16Bは、相互接続されたオルガノイドチャンバ1622、1625、1628の群の等角図を示す。オルガノイドチャンバ1622、1625、1628の各々は、細胞等の生物学的材料を含む。オルガノイドチャンバ1622、1625、1628の形状は、試料を抽出するために、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628にセンサを通す(到達させる)ことができるようになっている。オルガノイドチャンバ1622、1625、1628は、その群から別の群のオルガノイドチャンバへの漏出を防止するように構成される障壁1640によって囲繞されてもよい。この障壁は、表面1660上に載置されてもよい。表面1660は、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628を担持する本体の一部であってもよい。
【0471】
図16Cは、相互接続されたオルガノイドチャンバ1622、1625、1628の群の側面図を示す。オルガノイドチャンバ1622、1625、1628は、主チャンバ1640を介して接続される。例えば、内容物は、主チャンバ1640のみを介してオルガノイドチャンバ1622からオルガノイドチャンバ1625に流れることができる。主チャンバ1640は膨張可能であってもよい。例えば、主チャンバ1640が膨張すると、主チャンバ1640はオルガノイドチャンバ1622、1625、1628を押圧し、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628から内容物を引き出す。その後、内容物は、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628に流され、センサチップ120に関係なく、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628の間の内部循環を行う。主チャンバ1640は、主チャンバ1640を膨張及び収縮させるための空気チューブ1630に連結されてもよい。
【0472】
図16Dは、相互接続されたオルガノイドチャンバ1622、1625、1628の群の上面図を示す。この上面図は主チャンバ1640も示す。この上面図は、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628を主チャンバ1640に接続する循環トンネル1642、1645、1648も示す。
【0473】
図16Eは、相互接続されたオルガノイドチャンバ1622、1625、1628の群の底面図を示す。この底面図は、空気チューブ1630が表面1660の下に位置するので、空気チューブ1630及び主チャンバ1640も示す。
【0474】
当業者は、本発明が、上記で具体的に示され、説明されたものによって限定されないことを理解する。むしろ、本発明の範囲は、本明細書中上記で説明された様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに本明細書を読めば当業者に思い浮かぶであろうが先行技術にはない変形例及び改変例を含む。
【手続補正書】
【提出日】2024-12-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイスループットのヒトチップデバイスであって、
複数のヒューマノイドを含む第1の生物学的チップであって、前記複数のヒューマノイドの各々は複数のオルガノイドチャンバを含み、前記オルガノイドチャンバの各々は少なくとも1つのオルガノイドを含有する第1の生物学的チップと、
第2の生物学的チップであって、
前記第1のチップの前記複数のオルガノイドチャンバから測定値を収集するように動作する複数のセンサ、及び
前記複数のオルガノイドチャンバの少なくとも一部分を流体的に連結する循環チャネルを含む第2の生物学的チップと、
前記第2のチップを前記第1のチップに対して移動させ、それにより前記複数のセンサを前記複数のオルガノイドで共有できるように動作するアクチュエータと
を含むデバイス。
【請求項2】
前記アクチュエータの動作を制御するためのコントローラと、前記第2の生物学的チップを前記第1の生物学的チップに対して移動させるための一組の規則を含むメモリとをさらに含む請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
循環流体を前記複数のオルガノイドチャンバのうちの少なくとも1つのオルガノイドチャンバにポンピングするように動作するポンプをさらに含む請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記循環チャネルを介して前記複数のチャンバに流体を送達するための投与ポートをさらに含む請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記オルガノイドチャンバの少なくとも一部分が、二次循環チャネル及び二次ポンプをさらに含む請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
対応するオルガノイドチャンバから抽出された流体を貯蔵するための、前記二次循環チャネルに連結された排出チャンバをさらに含む請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記オルガノイドチャンバの少なくとも一部分がチャンバ弁と連結され、前記チャンバ弁が、前記循環チャネルから前記オルガノイドチャンバへの内容物のフローを可能にするか又は不能にする請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記第1の生物学的チップ及び前記第2の生物学的チップのうちの少なくとも1つがマイクロ流体用である請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記第2の生物学的チップが、前記複数のオルガノイドチャンバのうちの1つに位置するオルガノイドから単細胞を抽出するための抽出デバイスをさらに含む請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記第2の生物学的チップが、前記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞を受け取るように動作する分析器をさらに含み、
前記分析器が、表現型と前記処理との間の相関を決定するようにさらに動作し、前記表現型が、ゲノムデータ及びエピジェネティックデータを含む群から選択される請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記複数のセンサのうちの少なくともいくつかが、前記第2の生物学的チップの底部に位置するナノチューブを含み、前記ナノチューブが、前記オルガノイドチャンバから流体を抽出するか又は前記オルガノイドチャンバに流体を送達するように動作する請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記複数のヒューマノイドが、それぞれの複数の患者を表し、
前記複数のオルガノイドチャンバが、前記複数の患者の複数の組織を表す複数のオルガノイドを含有し、
前記デバイスが、前記複数の患者における薬物の有効性を予測するように動作する分析器をさらに含む
請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
前記複数のオルガノイドチャンバの上部に位置するオルガノイド蓋をさらに含み、前記オルガノイド蓋が、前記第2の生物学的チップが前記オルガノイドチャンバ内部の内容物にアクセスすることができる開放位置と、前記第2の生物学的チップが前記オルガノイドチャンバ内部の内容物にアクセスすることができない閉鎖位置とを有する請求項1に記載のデバイス。
【請求項14】
前記オルガノイドに処理を適用する前の細胞の少なくとも1つの測定値及び前記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞を受け取るように動作する分析器をさらに含み、
前記分析器が、表現型と前記処理との間の相関を決定するようにさらに動作し、前記表現型が、ゲノムデータ及びエピジェネティックデータを含む群から選択される請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
異なる数のプローブを有する複数の異なる第2の生物学的チップをさらに含む請求項1に記載のデバイス。
【請求項16】
前記第2の生物学的チップが、センシングされたデータを遠隔デバイスに送信するための送信機をさらに含む請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
前記第2の生物学的チップが複数のプローブをさらに含み、前記複数のプローブの各プローブが、前記複数のオルガノイドチャンバのうちのオルガノイドチャンバに挿入されるように構成される請求項1に記載のデバイス。
【請求項18】
前記複数のプローブのうちの少なくとも1つのプローブが、前記プローブの底部にナノセンサを有する請求項17に記載のデバイス。
【請求項19】
前記複数のプローブのうちの少なくとも1つのプローブが前記プローブの上部にナノセンサを有する請求項17に記載のデバイス。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正6】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薬物開発の効率を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品を開発するプロセスは、二次元組織培養及び動物モデルにおける試験に依拠する。このプロセスは、効果が極めて低く、これがヒト臨床試験において90%を超える失敗につながっている。医薬品を開発し試験するための改善された方法の必要性は満たされていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の好ましい実施形態は、ゲノムセンシング方法であって、生物組織によって発現されるRNA分子の存在を検出する工程を含み、この検出することは、第1の時間における第1の検出及び第2の時間における第2の検出を含み、第2の時間は第1の時間に続き、第2の検出は第1の検出によって影響を受けない方法を提供する。
【0004】
本発明の別の好ましい実施形態は、ゲノムセンシング方法であって、生物組織によって発現されるRNA分子の存在を検出する工程を含み、この検出することは、第1の時間における第1の検出及び第2の時間における第2の検出を含み、第2の時間は第1の時間に続き、第2の検出は第1の検出によって影響を受けず、上記RNA分子は増幅されない方法を提供する。
【0005】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、ゲノムセンシング方法であって、生物組織によって発現される環状RNA分子の存在を検出することを含み、この検出することは、第1の時間における第1の検出及び第2の時間における第2の検出を含み、第2の時間は第1の時間に続き、第2の検出は第1の検出によって影響を受けない方法を提供する。
【0006】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、ゲノムセンシング方法であって、生物組織によって発現される環状RNA分子の存在を検出する工程を含み、この検出することは、第1の時間における第1の検出及び第2の時間における第2の検出を含み、第2の時間は第1の時間に続き、第2の検出は第1の検出によって影響されず、上記環状RNA分子は増幅されない方法を提供する。
【0007】
本発明の別の好ましい実施形態は、チップオンチップ(chip-on-chip)デバイスであって、オルガノイドを含有するオルガノイドチャンバと、このオルガノイドによって発現されるRNA分子の存在を検出するように動作するセンサとを含み、このセンサの動作は上記オルガノイドに影響を与えないチップオンチップデバイスを提供する。
【0008】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、チップオンチップデバイスであって、オルガノイドを含有するオルガノイドチャンバと、このオルガノイドによって発現されるRNA分子の存在を検出するように動作するセンサとを含み、このセンサの動作は上記オルガノイドに影響を与えず、上記RNA分子は増幅されないチップオンチップデバイスを提供する。
【0009】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、チップオンチップデバイスであって、それぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含む複数のヒューマノイドを含むチップと、この複数のオルガノイドのうちの1つによって発現されるRNA分子の存在を検出するように動作するセンサとを含み、このセンサの動作は、上記複数のオルガノイドのうちの上記1つに影響を与えないチップオンチップデバイスを提供する。
【0010】
本発明の別の好ましい実施形態は、臓器チップデバイスであって、第1のチャンバ及び第2のチャンバであって、この第1のチャンバ及び第2のチャンバは隣接し、膜によって隔てられる第1のチャンバ及び第2のチャンバと、この膜の第1の側で第1のチャンバ内で培養される第1の組織層と、上記膜の第2の側で第2のチャンバ内で培養される第2の組織層とを含み、上記膜は上下(鉛直、vertical)方向に存在する臓器チップデバイスを提供する。
【0011】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、チップオンチップシステムであって、複数のヒューマノイドを含む第1のチップであって、この複数のヒューマノイドの各々はそれぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含む第1のチップと、第1のチップ上で複数のアクションを実行するように動作する複数のバイオチップであって、この複数のアクションは、診断動作及びポンピングアクションのうちの少なくとも1つを含む複数のバイオチップと、マイクロ流体チップ及び上記複数のバイオチップを相互動作させるように動作するアクチュエータとを含むチップオンチップシステムを提供する。
【0012】
本発明の別の好ましい実施形態は、上記ポンピングアクションが、上記複数のオルガノイドチャンバのうちの2つ以上を相互接続するマイクロ流体循環を能動的にポンピング及び選択的に経路選定(経路制御、ルーティング)することを含む、システムを提供する。
【0013】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、上記診断アクションが、それぞれの複数のナノセンサを動作させることによって、上記複数のオルガノイドチャンバのサブセットにおける化学物質のレベルを測定することを含む、システムを提供する。
【0014】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、第1のチップ及び第2のチップを含むチップオンチップシステムであって、この第1のチップは複数のヒューマノイドを含み、この複数のヒューマノイドの各々は、それぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含むチップオンチップシステムを提供する。複数のオルガノイドチャンバの各1つは、独立したマイクロ流体循環トンネルを含む。上記第2のチップは、ヒューマノイド内に含まれる複数のオルガノイドチャンバを相互接続するマイクロ流体循環プロセスを実行するように動作し、この循環は、コントローラ又はプロセッサからのコマンドに従って能動的にポンピングされ、選択的に経路選定される。
【0015】
本発明の別の好ましい実施形態は、ハイスループットゲノムヒトチップシステムであって、複数のヒューマノイドを含む第1のチップであって、この複数のヒューマノイドの各々はそれぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含む第1のチップと、それぞれの複数のオルガノイドチャンバ内の環状RNA分子を検出するように動作する複数のセンサを含むバイオチップとを含むハイスループットゲノムヒトチップシステムを提供する。
【0016】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、第1のチップであって、複数のヒューマノイドであって、この複数のヒューマノイドの各々は、それぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含む複数のヒューマノイド、及び上記複数のオルガノイドチャンバを相互接続する循環を含む第1のチップと、複数のセンサを含み、上記第1のチップの上記複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出しその試料を上記複数のセンサに送達するように動作する第2のマイクロ流体チップと、上記第2のチップを上記第1のチップに対して移動させるように動作するアクチュエータとを含むヒトチップデバイスを提供する。
【0017】
本発明の別の好ましい実施形態は、複数のヒューマノイドであって、この複数のヒューマノイドの各1つはそれぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含む複数のヒューマノイド、及びこの複数のオルガノイドチャンバを相互接続する循環であって、この循環は能動的にポンピングされ、選択的に経路選定され、電子的に制御される循環を含む第1のマイクロ流体チップと、複数のセンサを含み、上記第1のチップの上記複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出しその試料を上記複数のセンサに送達するように動作する第2のマイクロ流体チップと、上記第2のチップを上記第1のチップに対して移動させるように動作するアクチュエータとを含むヒトチップデバイスを提供する。
【0018】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、オルガノイドを含有するオルガノイドチャンバを含む第1のマイクロ流体チップと、そのオルガノイドから単細胞を非破壊的に抽出するように動作する第2のマイクロ流体チップとを含むゲノムヒトチップデバイスを提供する。
【0019】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、オルガノイドを含有するオルガノイドチャンバを含む第1のチップと、このオルガノイドから単細胞を非破壊的に抽出するように動作する第2のチップとを含むゲノムヒトチップシステムを提供する。この第2のチップは、オルガノイドに処理を適用する前に1つの細胞を抽出し、処理を適用した後に別の1つ以上の細胞を抽出してもよい。当該システムは、抽出に少なくとも部分的に基づいて、抽出された細胞から特定された表現型と処理との間の相関を決定するように動作する分析器も含む。この表現型は、ゲノムデータ及びエピジェネティックデータを含む群から選択されてもよい。
【0020】
本発明の別の好ましい実施形態は、それぞれの複数の患者を反映する複数のヒューマノイドを含む第1のチップを含むオンチップ臨床試験システムであって、この複数のヒューマノイドの各々は、上記複数の患者の1人からのそれぞれの複数の組織を反映するそれぞれの複数のオルガノイドを含有する複数のオルガノイドチャンバを含むオンチップ臨床試験システムを提供する。当該システムは、複数のセンサを含み、第1のチップの複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出すように動作する第2のチップも含む。この第2のチップは、第2のチップ上に位置しない複数の遠隔センサにも上記試料を送達してもよい。当該システムは、第2のチップを第1のチップに対して移動させるように動作するアクチュエータも含む。当該システムは、少なくとも部分的に、第1のチップ、第2のチップ、及びアクチュエータに基づいて、複数の患者における薬物の有効性を予測するように動作する分析器も含む。
【0021】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、ヒトチップ自動タグ付け方法を提供する。この方法は、オルガノイドから抽出された未処理表現型、及びそのオルガノイドに第1の処理を適用した後に同じオルガノイドから抽出された処理後表現型を取得する工程を含む。この方法は、未処理表現型と処理後表現型との間の差異を特定する工程も含む。当該方法は、特定された差異に少なくとも部分的に基づいて、処理後表現型をタグ付けする工程も含む。当該方法は、上記タグ付けに少なくとも部分的に基づいて、オルガノイドに対する第2の処理の有効性を予測する工程も含む。
【0022】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、複数のヒューマノイドを含むヒトチップデバイスであって、この複数のヒューマノイドの各々は複数のオルガノイドチャンバを含み、この複数のオルガノイドチャンバの各々はそれぞれのオルガノイドを含有するヒトチップデバイスを提供する。このデバイスは、複数のオルガノイドチャンバを相互接続する循環トンネルも含む。当該システムは、循環トンネル内のポンピング及び経路選定のプロセスを制御するためのコントローラ又はプロセッサを含む。当該デバイスは、複数のセンサ及びセンサ試料循環を含むセンシングエンジンも含む。このセンシングエンジンは、上記複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出しその試料を上記複数のセンサに送達するように動作する。
【0023】
本発明の別の好ましい実施形態は、複数のヒューマノイドを含むヒトチップデバイスであって、この複数のヒューマノイドの各々は複数のオルガノイドチャンバを含み、この複数のオルガノイドチャンバの各々はそれぞれのオルガノイドを含有するヒトチップデバイスを提供する。このデバイスは、複数のオルガノイドチャンバを相互接続する循環トンネル、並びにこの循環トンネル内で行われる循環、ポンピング、及び経路選定のプロセスを制御するためのコントローラも含む。当該デバイスは、複数のセンサを有し、上記複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出しその試料を上記複数のセンサの各1つに送達するように動作するセンシングエンジンも含む。場合によっては、上記複数のヒューマノイドは5個を超えるヒューマノイドである。場合によっては、上記複数のオルガノイドチャンバの各々の容積とそれぞれのオルガノイドとの比は2より小さく、そのため、オルガノイドがチャンバの容積の半分より多くを占める。場合によっては、上記複数のオルガノイドチャンバの各1つの容積と試料の体積との比は1000より大きく、そのため、試料はチャンバの容積の0.1%未満しか占めない。
【0024】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、ヒトチップデバイスとコントローラとを含むヒトチップシステムを提供する。このコントローラは、第1のオルガノイド及び第2のオルガノイドに、ヒト身体におけるそれらの対応する第1の組織及び第2の組織の薬力学をよりよく模倣させるように動作し、このさせることは、循環を制御し、これによりその循環への曝露を第1のオルガノイドに送達し、上記循環への異なる曝露を第2のオルガノイドに送達することと、第1のオルガノイドからの試料に対するセンサ読み取り値に計算調整を適用することと、第2のオルガノイドからの試料に対するセンサ読み取り値に異なる計算調整を適用することとを含む。
【0025】
本発明の別の好ましい実施形態は、ヒトチップデバイスとコントローラとを含むヒトチップシステムであって、このコントローラは、少なくとも部分的にセンシングエンジンに基づいて、欠陥のあるオルガノイドを特定(識別)するアクション、並びにそれぞれのオルガノイドのうちの欠陥のあるオルガノイドを回避するように、上記特定に基づいて、センシング、循環、ポンピング及び経路選定のうちの少なくとも1つを制御するアクションを実行するように動作するヒトチップシステムを提供する。
【0026】
本発明のなお別の好ましい実施形態は、ヒトチップデバイスとコントローラとを含むヒトチップシステムであって、このコントローラは、少なくとも部分的にセンシングエンジンに基づいて、複数のセンサのうちの欠陥のあるセンサを特定するアクション、並びに上記複数のセンサのうちの欠陥のあるセンサを回避するように、上記特定に基づいて、センサ収集循環を制御するアクションを実行するように動作するヒトチップシステムを提供する。
【0027】
本発明のなおさらに別の好ましい実施形態は、免疫細胞を複数のオルガノイドチャンバのうちの1つに送達するように動作するセンシングエンジンを有するヒトチップデバイスを提供する。このセンシングエンジンは、処理前の上記複数のオルガノイドチャンバのうちの上記1つから上記免疫細胞の第1の試料を抽出し、処理後の上記複数のオルガノイドチャンバから上記免疫細胞の第2の試料を抽出し、これにより上記免疫細胞の第1の試料及び上記免疫細胞の第2の試料の免疫状態の評価を可能にするようにも動作する。
【0028】
本発明のさらに別の好ましい実施形態は、薬物製剤を設計する方法であって、複数の薬物製剤の各々の生物学的作用を予測する工程と、ヒトチップデバイスを使用して上記複数の薬物製剤のサブセットの各々の生物学的作用をスクリーニングする工程であって、このスクリーニングは少なくとも部分的に上記予測に基づく工程とを含む方法を提供する。上記ヒトチップデバイスは、複数のヒューマノイドであって、この複数のヒューマノイドの各々が複数のオルガノイドチャンバを含み、この複数のオルガノイドチャンバの各々がそれぞれのオルガノイドを含有する複数のヒューマノイドを含む。上記デバイスは、複数のオルガノイドチャンバを相互接続する循環トンネルも含む。上記デバイスは、循環、ポンピング、及び経路選定のプロセスを制御するためのコントローラをも含む。上記デバイスは、複数のセンサを含み、上記複数のオルガノイドチャンバから試料を引き出しその試料を上記複数のセンサの各1つに送達するように動作するセンシングエンジンも含み、少なくとも部分的に上記スクリーニングに基づいて上記予測を精緻化する。当該方法は、少なくとも部分的に上記予測、スクリーニング、及び精緻化に基づいて、薬物を製剤化する工程も含み、上記予測する工程、スクリーニングする工程、精緻化する工程、及び製剤化する工程は、少なくとも1つのプロセッサデバイスによって行われる。
【0029】
本主題の別の目的は、薬物の特性を評価する方法であって、組織試料をその薬物で処理する工程と、その組織試料から、処理された(as treated)上記組織試料の少なくとも1つの特徴を抽出する工程と、この少なくとも1つの特徴をエンジンに提供する工程と、このエンジンから予測を取得する工程と、この予測を上記薬物と関連付ける工程とを含む方法を開示することである。
【0030】
場合によっては、上記少なくとも1つの特徴は複数の特徴を含み、この複数の特徴からの各特徴は、上記組織を上記薬物で処理した後の所定の時間に組織試料から抽出される。
【0031】
場合によっては、上記少なくとも1つの特徴は、化学的又は生物学的試験を上記組織に適用することによって取得される。
【0032】
場合によっては、上記少なくとも1つの特徴は、上記組織の画像を取り込み、画像解析技術を使用して画像から特徴を抽出することによって取得される。
【0033】
場合によっては、上記エンジンは、人工知能(AI)エンジンである。
【0034】
場合によっては、上記AIエンジンは、畳み込みニューラルネットワーク、ディープニューラルネットワーク、又はランダムフォレストエンジンである。
【0035】
場合によっては、上記予測は、上記薬物の毒性レベルに関連する。
【0036】
場合によっては、当該方法は、上記エンジンを生成する工程をさらに含み、この生成する工程は、
複数の組織試料を複数の薬物で処理することであって、この複数の薬物からの各薬物は特性と関連する処理することと、
上記複数の組織試料の少なくともいくつかから少なくとも1つの特徴を抽出することと、
上記複数の組織試料の少なくともいくつかからの上記少なくとも1つの特徴及び上記組織試料を処理した薬物に関連する特性をAI訓練モジュールに提供することと、
訓練されたAIエンジンを取得することと
を含む。
【0037】
場合によっては、当該方法は、上記エンジンを生成する工程をさらに含み、この生成する工程は、
複数の組織試料を複数の薬物で処理することであって、この複数の薬物からの各薬物は特性と関連する処理することと、
上記複数の組織試料の少なくともいくつかから少なくとも1つの特徴を抽出することと、
上記複数の組織試料の少なくともいくつかからの上記少なくとも1つの特徴及び上記組織試料を処理した薬物に関連する特性をAI訓練モジュールに提供することと、
訓練されたAIエンジンを取得することと
を含む。
【0038】
本主題の別の目的は、ヒトチップデバイスであって、複数のヒューマノイドを含む第1の生物学的チップであって、この複数のヒューマノイドの各々は複数のオルガノイドチャンバを含み、このオルガノイドチャンバの各々は少なくとも1つのオルガノイドを含有する第1の生物学的チップと、上記第1のチップの上記複数のオルガノイドチャンバから測定値を収集するように動作する複数のセンサを含む第2の生物学的チップとを含むヒトチップデバイスを開示することである。この第2のチップは、上記複数のオルガノイドチャンバの少なくとも一部分を流体的に連結する循環チャネルと、第2のチップを第1のチップに対して移動させるように動作するアクチュエータとを含む。
【0039】
場合によっては、当該デバイスは、上記アクチュエータの動作を制御するためのコントローラと、上記第2の生物学的チップを上記第1の生物学的チップに対して移動させるための一組の規則を含むメモリとをさらに含む。
【0040】
場合によっては、当該デバイスは、循環流体を上記複数のオルガノイドチャンバのうちの少なくとも1つのオルガノイドチャンバにポンピングするように動作するポンプをさらに含む。
【0041】
場合によっては、当該デバイスは、上記循環チャネルを介して上記複数のチャンバに流体を送達するための投与ポートをさらに含む。
【0042】
場合によっては、上記オルガノイドチャンバの少なくとも一部分は、二次循環チャネル及び二次ポンプをさらに含む。
【0043】
場合によっては、当該デバイスは、対応するオルガノイドチャンバから抽出された流体を貯蔵するための、上記二次循環チャネルに連結された排出チャンバをさらに含む。
【0044】
場合によっては、上記オルガノイドチャンバの少なくとも一部はチャンバ弁と結合され、このチャンバ弁は、上記循環チャネルからオルガノイドチャンバへの内容物のフローを可能にするか又は不能にする。
【0045】
場合によっては、上記第1の生物学的チップ及び第2の生物学的チップのうちの少なくとも1つはマイクロ流体用である。
【0046】
場合によっては、上記第2の生物学的チップは、上記複数のオルガノイドチャンバのうちの1つに位置するオルガノイドから単細胞を抽出するための抽出デバイスをさらに含む。
【0047】
場合によっては、上記第2の生物学的チップは、上記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞、及び上記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞を受け取るように動作する分析器をさらに含み、この分析器は、表現型と上記処理との間の相関を決定するようにさらに動作し、この表現型は、ゲノムデータ及びエピジェネティックデータを含む群から選択される。
【0048】
場合によっては、上記複数のセンサのうちの少なくともいくつかは、上記第2の生物学的チップの底部に位置するナノチューブを含み、このナノチューブは、上記オルガノイドチャンバから流体を抽出するか、又は上記オルガノイドチャンバに流体を送達するように動作する。
【0049】
場合によっては、上記複数のヒューマノイドは、それぞれの複数の患者を表し、
上記複数のオルガノイドチャンバは、上記複数の患者の複数の組織を表す複数のオルガノイドを含有し、
当該デバイスは、前記複数の患者における薬物の有効性を予測するように動作する分析器をさらに含む。
【0050】
場合によっては、当該デバイスは、上記複数のオルガノイドチャンバの上部に位置するオルガノイド蓋をさらに含み、このオルガノイド蓋は、上記第2の生物学的チップがオルガノイドチャンバ内部の内容物にアクセスすることができる開放位置と、第2の生物学的チップがオルガノイドチャンバ内部の内容物にアクセスすることができる閉鎖位置とを有する。
【0051】
場合によっては、上記第1の生物学的チップ及び第2の生物学的チップのうちの少なくとも1つはマイクロ流体用である。
【0052】
場合によっては、当該デバイスは、上記オルガノイドに処理を適用する前の細胞の少なくとも1つの測定値、及び上記オルガノイドに処理を適用する前の少なくとも1つの細胞を受け取るように動作する分析器をさらに含み、この分析器は、表現型と上記処理との間の相関を決定するようにさらに動作し、この表現型は、ゲノムデータ及びエピジェネティックデータを含む群から選択される。
【0053】
場合によっては、当該デバイスは、異なる数のプローブを有する複数の異なる第2の生物学的チップをさらに含む。
【0054】
場合によっては、上記第2の生物学的チップは、センシングされたデータを遠隔デバイスに送信するための送信機をさらに含む。
【0055】
場合によっては、上記第2の生物学チップは、複数のプローブをさらに含み、この複数のプローブの各プローブは、上記複数のオルガノイドチャンバのうちのオルガノイドチャンバに挿入されるように構成される。
【0056】
場合によっては、複数のプローブのうちの少なくとも1つのプローブは、そのプローブの底部にナノセンサを有する。場合によっては、上記複数のプローブのうちの少なくとも1つのプローブは、そのプローブの上部にナノセンサを有する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
本発明の特性であると考えられる新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。しかしながら、本発明自体、並びにその好ましい使用モード、さらなる客体及び利点は、添付の図面と併せて読むと、例示的実施形態の以下の詳細な説明を参照することによって最もよく理解されるであろう。
【0058】
【
図1A】
図1Aは、本発明の好ましい実施形態に係る、薬物の特徴を予測するように適合された人工知能(AI)エンジンを訓練する方法のフローチャートを概略的に提示する。
【
図1B】
図1Bは、本発明の好ましい実施形態に係る、薬物の特徴を予測するための装置を概略的に提示する。
【
図1C】
図1Cは、センサ測定値の分類を準備する方法の一実施形態のフローチャートを示す。
【
図1D】
図1Dは、薬物の特徴を予測するためのシステムのブロック図を概略的に提示する。
【
図2A】
図2Aは、本発明の好ましい実施形態に係るチップオンチップシステムの概説を概略的に提示する。
【
図2B】
図2Bは、本発明の好ましい実施形態に係るチップオンチップシステムの説明図を概略的に提示する。
【
図3A】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Aは、本発明のチップオンチップの実装の一例を提示する(全システム図)。
【
図3B】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Bは、本発明の実装の一例を提示する(チップオンチップ図)。
【
図3C】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Cは、本発明の実装の一例を提示する(全チップ図)。
【
図3D】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Dは、本発明の実装の一例を提示する(ヒューマノイド図)。
【
図3E】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Eは、本発明の実装の一例を提示する(オルガノイド図)。
【
図3F】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Fは、本発明の実装の一例(化学センシングチップ)を提示する。
【
図3G】
図3A~
図3Gは、本発明の好ましい実施形態の実装態様を概略的に示す。
図3Gは、本発明の実装の一例(循環チップ)を提示する。
【
図4】
図4は、循環アーキテクチャの一例を概略的に示す。
【
図5】
図5は、循環ポンピングの一例を概略的に示す。
【
図6】
図6は、短絡されたフローの一例を概略的に示す。
【
図7】
図7は、オンチップスケーリングの一例を概略的に示す。
【
図8A】
図8A、8B、8C、8D及び8Eは、オルガノイドのアーキテクチャ及び作製を示す。
図8Aは、球体オルガノイドのアーキテクチャ及び作製プロセスを示す。
【
図8B】
図8A、8B、8C、8D及び8Eは、オルガノイドのアーキテクチャ及び作製を示す。
図8Bは、灌流オルガノイドのアーキテクチャを示す。
【
図8C】
図8A、8B、8C、8D及び8Eは、オルガノイドのアーキテクチャ及び作製を示す。
図8Cは、灌流オルガノイドの伸張された膜を示す。
【
図8D】
図8A、8B、8C、8D及び8Eは、オルガノイドのアーキテクチャ及び作製を示す。
図8Dは、灌流オルガノイドの作製を示す。
【
図8E】
図8A、8B、8C、8D及び8Eは、オルガノイドのアーキテクチャ及び作製を示す。
図8Dは、灌流オルガノイドの代替的な作製を示す。
【
図9A】
図9A及び9Bは、合わせて、ヒューマノイドアーキテクチャ、循環アーキテクチャの一例を概略的に示す。
【
図9B】
図9A及び9Bは、合わせて、ヒューマノイドアーキテクチャ、循環アーキテクチャの一例を概略的に示す。
【
図12】
図12は、特異的及び非特異的センサアレイの例を概略的に示す。
【
図13D】
図13Dは、circ-RNAプローブ設計の方法のフローチャートを概略的に示す。
【
図15】
図15は、創薬プロセスの概要のフローチャートを概略的に示す。
【
図16A】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。
【
図16B】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。
【
図16C】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。
【
図16D】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。
【
図16E】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下の好ましい実施形態の詳細な説明では、本発明が実施されてもよい特定の実施形態を例示するために示されている、本明細書の一部を形成する添付の図面を参照する。本発明の範囲から逸脱しない範囲で他の実施形態が利用されてもよく、構造的変更がなされてもよいことが理解される。本発明は、これらの具体的な詳細のいくつか又はすべてを伴わずに、特許請求の範囲に従って実施されてもよい。明確にするために、本発明に関連する技術分野において公知である技術的事項は、本発明が不必要に不明瞭にされないように、詳細には説明されていない。
【0060】
新しい薬物を開発することの困難さ及び複雑さは、より短くより容易な様式で、ヒトに対する薬物の影響を評価するためのシステム及び方法の必要性を提起する。この影響は、例えば、ヒトにおいて薬物性肝障害を発症するリスクのレベルを予測する、有効性及び安全性等であるがこれらに限定されない様々な特徴を使用して評価されてもよい。
【0061】
本開示の1つの解決手段は、分類された薬物の集合を取得することを含み、各薬物の分類は、1つ以上の特徴に関連する。例えば、その集合は、複数の薬物を含んでもよく、各薬物の毒性レベルは既知であり、すなわち、DILIrankは、薬物性肝障害(DILI)を引き起こす可能性に従って4つのクラスに分けられる1,036種のFDA承認薬からなる。
【0062】
次いで、以下に詳述されるように、薬物がヒト組織に適用(投与)されてもよい。次いで、その組織が経時的に、例えば1週間にわたり1時間に1回検査されてもよい。収集された測定値は、検査される身体組織に適用される特定の薬物の各分類に関連付けられる。身体組織の特性は、実験室技術、組織の取り込んだ画像の画像解析等を使用して測定されてもよい。身体測定値はデジタルデータに変換され、収集された各測定値は、特定の薬物及び特定の身体組織に関連付けられる。次いで、測定値は、測定値が関連付けられる特定の薬物の分類に従ってタグ付けされる。
【0063】
組織測定値から抽出された特徴、及び収集された測定値の分類(この分類は、その測定値に関連する特定の組織に適用された薬物の分類に合致する)は、次いで、人工知能(AI)エンジンを訓練するために使用されてもよい。
【0064】
次いで、AIエンジンが訓練され、新しい薬物が開発プロセス下に置かれた後、その新しい薬物が1つ以上の組織試料に適用されてもよい。次いで、新しい薬物で組織を処理するときに経時的に採取された組織試料の測定値の特徴が抽出され、訓練されたAIエンジンに提供されてもよい。
【0065】
次いで、AIエンジンは、その新しい薬物の分類、例えばその毒性レベルを予測してもよい。
【0066】
このプロセスは、新しい薬物が患者ではなく組織試料に適用されるとき、初期段階で薬物の有効性及び危険性に対する指標を提供することによって、複数の試験及び分析段階を節約する可能性がある。これは、新しい薬物を試験する時間、費用及び複雑さを大幅に低減する可能性がある。
【0067】
薬物の特徴を予測するように適合された人工知能(AI)エンジンを訓練する方法のフローチャートを提示する
図1Aをここで参照する。
【0068】
様々な特性、例えば毒性レベルの薬物、例えば毒性レベル1の薬物(2)、毒性レベル2の薬物(2’)等、毒性レベルNまでの薬物(2”)が取得されてもよい。従って、各薬物は、その毒性レベルを表す値等の特定の値に関連付けられる。
【0069】
工程8で、毒性レベル等の特性は、バイオ変換、すなわち、複数の特徴への変換を受けてもよい。
【0070】
バイオ変換を実施するために、複数の組織試料4が受け入れられてもよい。工程12、12’及び12”で、薬物2、2’及び2”がそれぞれ組織試料に適用されてもよい。
【0071】
W個のウェルを有するプレートが使用されてもよく、各ウェルは、ある器官のヒト細胞のスフェロイド及び液体等の培地を含有する。このスフェロイドは約C個の細胞からなってもよい。各ウェルは、対照、ビヒクル又は薬物投与量等の所定の目的を有してもよい。対照ウェルは、他のウェルから取得された特徴値を正規化するために使用されてもよい。
【0072】
例示的な実験では、以下の設定が使用されている。
D - 日数 14
W - 非終了データ収集のためのウェルの数 96
Wt - 終了データ収集のためのウェルの数 4
F - 特徴の数 5
S - 1日当たりの試料採取回数 - 例えば1日に1回 1
C - スフェロイド中の細胞数 約1000
DILI - 薬物性肝障害
【0073】
それぞれ工程16、16’及び16”において、関連する特徴が、処理された試料から取得されてもよい。
【0074】
上記特徴は、化学的又は生物学的特徴、例えばグルコース、乳酸、酸素、尿素、カリウム、アンモニア、pH等を含んでもよい。
【0075】
例えば、特徴は、以下のタイプであってもよい。
1. 時系列 - 規則的な間隔であらゆる組織について収集されるデータ。収集は、センサによって、又は非終了着色及び自動検査によって行われてもよい。
2. 顕微鏡画像 - 各組織は定期的な間隔で顕微鏡を使用して撮影されてもよい。
3. エンドポイント - いくつかの組織は、データ収集のために「犠牲にされる」ように選択されてもよく、これはスフェロイドがさらに生きるのを妨げる。
【0076】
ドメインエキスパートの知識に基づいて、追加の又は異なる特徴も提供されてもよいということが理解されよう。例えば、「細胞呼吸タイプ」ベクトルが、グルコースと乳酸との間の関係をモデル化することによって追加されてもよい。グルコース消費が低下又は停止され、乳酸レベルが上昇している場合、スフェロイド細胞の呼吸が好気性から嫌気性に変化すると結論付けられてもよい。異なる測定値の間の関係は、必ずしも同時に測定されるわけではなく、1時間、1日等の所定の時間枠内で判定されてもよいことを理解されたい。この所定の時間枠は、細胞のタイプ、測定されるパラメータ又は事象等の様々なパラメータに従って変化してもよい。例えば、ウィンドウサイズ(window_size)及びシフト(shift)が与えられると、細胞呼吸タイプを決定するために、以下のアルゴリズムが使用されてもよい。
【0077】
乳酸及びグルコースの測定値を含む各ベクトルについて、長さウィンドウサイズのローリングウィンドウ(rolling window)にわたって対応する値を平均することによって、新しいベクトルが作成されてもよい。それらのうちの1つ、例えば乳酸ベクトルについては、ウィンドウは、シフトの量だけ右にシフトされ、すなわち、後の測定を行ってもよい。
【0078】
次いで、新しいベクトルの一次微分及び二次微分が計算されてもよい。
【0079】
同じ指数における両方の二次微分が所定の閾値よりも大きく、同じ指数における一次微分が正であり、より低いグルコース消費及び高いラクトース産生を示す場合、TRUEを返し、そうでなければFALSEを返す。
【0080】
このアルゴリズムは、以下のパラメータのすべての可能な組み合わせ(合計9つの組み合わせ)に対して実行されてもよい:シフト:{-1,0,1}及びウィンドウサイズ:{1,2,3}。
【0081】
実行のいずれかがTRUEを戻すと、細胞呼吸の変化が発生したと推定されてもよい。
【0082】
測定された特徴又は他の方法で評価された特徴に生物学的知識が追加されてもよい。
【0083】
特徴は、W個のウェルからF個の特徴を収集することを含む、例えば、D日間1日にS回収集されてもよい。従って、ベクトルの総数は、
D*S*F*W
であってもよい。
【0084】
加えて、D日後、1つ以上の顕微鏡画像が、W個のウェルのそれぞれについて収集されてもよく、各像は、グレースケール2048×2048解像度で保存されてもよい。
【0085】
いくつかの実施形態では、顕微鏡画像内のウェル内のスフェロイドの位置を検出するために、以前に注釈された画像上でコンピュータビジョンニューラルネットワークが訓練されてもよい。その訓練されたコンピュータビジョンニューラルネットワークは、スフェロイドが位置するバウンディングボックス(境界ボックス)を決定するために使用されてもよく、画像は、それに応じてトリミングされてもよく、例えば、412×412の解像度にサイズ変更されてもよい。
【0086】
上記画像は正規化されてもよく、例えば、正規化後の各ピクセルの値は、以下のように設定されてもよい:p[i,j]=(p[i,j]-0.5)/0.5。
【0087】
Scaling Vision Transfomer(スケーリング・ビジョン・トランスフォーマ)等のモデルは、重症度クラスラベルを使用して教師あり様式で顕微鏡画像を重症度クラスに分類するために訓練されてもよい。次いで、分類ヘッドへの入力として使用されるログが、各組織の特徴に付加される。
【0088】
1つの例では、組織試料4は、未処理のオルガノイドから抽出されたせん断細胞(shear cell)であってもよく、特徴抽出は1つ以上の細胞のゲノム配列決定を含んでもよく、そのため、抽出された特徴がゲノム発現又はエピジェネティックプロファイルを含んでもよい。さらに別の例では、組織試料4は免疫細胞及び血清であってもよく、抽出された特徴は細胞の免疫プロファイルを含んでもよい。
【0089】
各特徴は、薬物の適用後の所定の時間に取得される複数の値と関連付けられてもよく、従って、値のベクトルを構成することが理解されるであろう。
【0090】
従って、バイオ変換工程8は、複数のデータセットを含む訓練データ20を出力する。この複数のデータセットは、そのデータセットを形成する特徴が抽出されたもととなった試料に関連する薬物と同じ分類で分類されている。例えば、値のベクトルからなり、(関連する試料に適用された薬物2が第1の値を有するものとして分類されたため)特性の第1の値を有するものとして分類されたデータセット24、他の値のベクトルからなり、(関連する試料に適用された薬物2’が第2の値を有するものとして分類されたため)特性の第2の値を有するものとして分類されたデータセット24’など、値のベクトルからなり、(関連する試料に適用された薬物2”がN番目の値を有するものとして分類されたため)特性のN番目の値を有するものとして分類されたデータセット24”まで続く。特徴は、毒性のレベルであってもよい。従って、上記ベクトルは、バイオ変換プロセス中に分析される特定の体組織に関連する薬物と同じ分類を有する。
【0091】
工程28において、関連する分類とともにデータセット24、24’及び24”を含む訓練データ20が、AIエンジンを訓練するために使用されてもよい。そのAIエンジンは、ランダムフォレストエンジン、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)、任意の他のタイプのニューラルネットワーク、又は任意の他のタイプのAIエンジンであってもよい。
【0092】
訓練は、訓練されたエンジン28、例えば畳み込みニューラルネットワーク、ディープニューラルネットワーク、任意の他のタイプのネットワーク、又は任意の他のタイプのAIエンジンを生成する。
【0093】
例示的な実験では、XGBoostライブラリv1.5.0によって実装され、https://xgboost.readthedocs.io/en/latest/から入手可能な勾配ブースト決定木(Gradient Boosted Decision Trees、GBDT)ライブラリを使用して、各薬物が分類された。10分割交差検証を用いて評価されたブルートフォースグリッドサーチハイパーパラメータチューニングが、以下のパラメータグリッドとともに使用されている。
{”learning_rate(学習率)”:[0.05,0.10,0.15,0.20,0.25,0.30]、
”max_depth(最大深度)”:[3,4,5,6,8,10,12,15]、
”min_child_weight(葉を構成する最小データ数)”:[1,3,5,7]、
”gamma(ガンマ)”:[0.0,0.1,0.2,0.3,0.4]、
「colsample_bytree(各木を構築する際の列のサブサンプルの比率)」:[0.3,0.4,0.5,0.7]}
従って、6*8*4*5*4=3840のモデルが評価されてもよく、10分割交差検証検定の平均スコアによって最良のモデルが選択されてもよい。
訓練は100エポック続いた。その際、各エポックについて、データセット全体が使用される。XGBoostを使用してGBDTを訓練するとき、num_round(木の本数)パラメータは100に設定される。以下の訓練コードが使用されている。
num_round=100
evallist=[(data_test,’eval’),(data_train,’train’)]
bst=xgb.train(param,data_train,num_round,evallist)
【0094】
上記の工程は、訓練段階とも呼ばれる準備段階において実行されてもよいことが理解されよう。以下に開示される工程は、開発されている新しい薬物を分類することが必要とされるとき、テスト段階において行われてもよい。
【0095】
収集されたデータは、訓練セットとテストセットとに、例えば90%の訓練セットと10%のテストセットとの比率で分割されてもよい。いくつかの実施形態では、10分割交差検証が、モデル選択のため、例えば、モデルの種類毎に最良のハイパーパラメータを見つけるために訓練セット上で使用されてもよい。
【0096】
テスト段階において、未分類の薬物36が提供されてもよい。
【0097】
組織試料への新しい薬物36の処理又は適用12を含む、上記で説明されるようなバイオ変換工程8、及び処理された組織からの特徴抽出工程16を行うために、1つ以上の組織試料4が使用されてもよい。
【0098】
次いで、訓練されたエンジン32が、身体組織への新しい薬物の適用から抽出された未分類のデータセット40を含む、抽出されたデータに適用されてもよい(44適用エンジン)。次いで、訓練されたエンジン28は、予測48、例えば、分類されていない薬物36の分類を出力してもよい。予測48は、薬物2、2’、2”について提供されたラベル、例えば毒性レベルに対応してもよい。
【0099】
各試料がM個のクラスのうちの1つに分類されるN個の試料のバッチの例示的な分類では、訓練されたエンジンは、N×M行列を出力してもよく、各行は、試料のクラス分布であり、各(i,j)エントリは、i番目の試料が第j番目のクラスに属する確率を表す。
【0100】
最終分類は、各試料iについて、第i行内のすべての値の中で行列の(i,j)エントリが最も高くなるようにクラスjを選択することを含んでもよい。
【0101】
従って、工程49において、予測は、試料について受け取られるが、適用された薬物と関連付けられ、これにより、薬物の分類が提供されてもよい。
【0102】
毒性レベルは単なる例であり、当該方法は、薬物36の任意の他の1つ以上の特性を予測するために適用されてもよいことが理解されるであろう。
【0103】
訓練段階及びテスト段階は、同じエンティティ、例えば、特定の研究室又は機関によって行われてもよいことが理解されるであろう。しかしながら、これらの段階は、異なる機関によって別々に実行されてもよい。例えば、第1の機関は、既知の薬物に関するデータを収集し、バイオ変換を実行し、エンジンを訓練してもよい。次いで、第1の機関は、他の機関によって開発された新しい薬物を試験するために、訓練されたエンジンを1つ以上の他の機関に提供してもよい。
【0104】
特徴は、処理前に試料から抽出されてもよいことが理解されるであろう。加えて、又は代替として、特徴は、処理が施され(適用され)ない組織試料の対照群から抽出されてもよい。処理された試料から抽出された特徴は、対照群試料から抽出された特徴と比較されてもよい。特徴が有意に同一である、例えば、所定のメトリック(metric)による距離が閾値より小さい場合、その特徴はスキップされ、エンジンを訓練するため、又は薬物分類を評価するために使用されなくてもよい。これは、その薬物の適用が組織に影響を及ぼさないと仮定されてもよいためである。
【0105】
本開示のいくつかの実施形態に係る、薬物を分類するためのソフトウェアモデルを訓練する方法の一実施形態のフローチャートを示す
図1Bをここで参照する。
【0106】
工程50において、薬物の毒性レベル等の各薬物の特性を示す分類された薬物データが取得されてもよい。このデータは、信頼できるソースから取得されてもよく、既知の試験された薬物に関連するデータを含んでもよい。
【0107】
工程52において、薬物は、限定されないが、ヒト組織等の組織に適用されてもよい。
【0108】
工程54において、センサ測定値が、薬物が適用された組織から取得されてもよい。各組織は、複数の時間点において、複数のパラメータについて試験され、従って、各組織についての複数のデータセットが取得されてもよいということが理解されるであろう。
【0109】
工程55において、生物学的知識に基づく追加データが抽出され、測定値を強化し、データのいくつかを追加、削除、又は変更するために使用されてもよい。
【0110】
工程56において、データセットは分類されてもよく、すなわち、組織に適用された薬物の分類に従った分類に関連付けられてもよい。従って、第1の薬物が適用された組織から取得された測定値を表すベクトルは、第1の薬物の毒性レベル等によって分類される。データセットの分類により、AIエンジン等のソフトウェアエンジンが、身体組織に適用された既知の薬物に関する分類に従って、他の薬物、例えば開発中の薬物に関する決定を行うことが可能になる。既知の薬物に関する分類は、FDA、学術研究等の公的ソースから得てもよい。
【0111】
工程58において、ソフトウェアモデル等のモデルは、分類されたベクトルに対して訓練されてもよい。訓練されたモデル(学習済みモデル)は、薬物が適用される組織を表すベクトルを受け取り、その薬物の分類を提供してもよい。
【0112】
本開示のいくつかの実施形態に係る、例えば上記の工程56と工程58との間で実行されてもよいような、センサ測定値の分類を準備する方法の一実施形態のフローチャートを示す
図1Cをここで参照する。
【0113】
工程60において、工程56で作製された分類されたセンサ測定値が取得されてもよい。
【0114】
工程62において、分類された測定値は、順序付けられたベクトルに変換されてもよい。例えば、そのような各ベクトルは、その第1のエントリにおいて特定の測定値を有してもよく、その第2のエントリにおいて別の特定の測定値を有してもよい、等である。
【0115】
いくつかの実施形態では、ベクトルは正規化されてもよい。
【0116】
いくつかの実施形態では、工程63において、生物学的知識がベクトルに適用されて、それらが強化されてもよい。従って、特徴は、ドメインエキスパート知識に従って変更、追加、又は削除されてもよい。例えば、他の特徴の間の関係に基づいて1つ以上の特徴が追加されてもよく、例えば、グルコースと乳酸との間の関係をモデル化することによって追加されてもよい「細胞呼吸タイプ」がある。グルコース消費が低下又は停止され、乳酸レベルが上昇しているとき、スフェロイド細胞の呼吸が好気性から嫌気性に変化すると判定されてもよい。
【0117】
工程64において、適用された薬物の同じ特性又は生物学的状態により、同じクラスに分類されたベクトル間の距離が取得されてもよい。理想的な分類は、同じクラスに割り当てられた要素間の距離が、異なる群に割り当てられた要素間の距離よりも小さいような分類であることが理解されよう。
【0118】
従って、工程66において、不規則なベクトル、例えば、同じクラスに割り当てられた1つ以上の他のベクトルからの距離が閾値より大きいベクトル、又は同じクラスに割り当てられたベクトル間の他の距離の平均よりも少なくとも所定の閾値だけ大きいベクトルがフィルタリング除去されてもよい。モデルが訓練セットに非常によく適合するがランタイム中に他のベクトルに対して信頼できる結果をもたらすほど柔軟ではない過剰適合状況を作り出さないために、過度に多くのベクトルが除去されないように、例えば、ベクトルの所定のパーセンテージを超えないように、フィルタリングは実行されるべきであることが理解されるであろう。
【0119】
次いで、残りのベクトルは、上記の工程58でモードを訓練するために使用されてもよい。
【0120】
薬剤の特徴を予測するためのシステムのブロック図を概略的に提示する
図1Dをここで参照する。
図1Bに示されるシステムは、予測の計算態様を提供することが理解されるであろう。試料の設定、薬物の適用、画像の取り込み、生物学的又は化学的試験の適用等の機械的動作は、同じシステムの他の構成要素によって、異なるシステムによって、などで制御及び実行されてもよい。
【0121】
当該システムは、1つ以上のコンピューティングプラットフォーム80を含んでもよい。いくつかの実施形態では、コンピューティングプラットフォーム80は、研究室、機関などの内部に位置してもよい。しかしながら、コンピューティングプラットフォーム80は、他の場所に位置し、クラウドコンピューティングネットワーク等の研究室又は機関に動作可能に接続されるネットワークを通してアクセスされてもよい。
【0122】
コンピューティングプラットフォーム80は、1つ以上の中央処理装置(CPU)、マイクロプロセッサ、電子回路、集積回路(IC)等であってもよいプロセッサ81を含んでもよい。プロセッサ81は、例えば、メモリにロードし、以下に詳述される記憶装置86上に記憶されたモジュールを起動することによって、要求される機能性を提供するように構成されてもよい。
【0123】
コンピューティングプラットフォーム80は、並置されてもよくされなくてもよい1つ以上のコンピューティングプラットフォームとして実装されてもよく、それらのコンピューティングプラットフォームは互いに通信してもよいことが理解されるであろう。プロセッサ81は、同じプラットフォーム上に位置するか否かによらず、1つ以上のプロセッサとして実装されてもよいことも理解されるであろう。
【0124】
コンピューティングプラットフォーム80は、ディスプレイ、ポインティングデバイス、キーボード、タッチスクリーン等の入出力(I/O)装置82も含んでもよい。I/O装置82は、例えばパラメータを設定する、開発された薬物の毒性レベル等の予測を表示する等、オペレータからの入力を受信し、オペレータに出力を提供するために利用されてもよい。
【0125】
コンピューティングプラットフォーム80は、セルラーネットワーク、広域ネットワーク、ローカルエリアネットワーク、イントラネット、インターネット等の任意の通信チャネルを介して、他のコンピューティングプラットフォーム、例えばサーバ又はクラウド内の他のコンピューティングプラットフォームと通信するための通信装置84を含んでもよい。
【0126】
コンピューティングプラットフォーム80は、ハードディスクドライブ、フラッシュディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、メモリチップ等の記憶装置86も含んでもよい。いくつかの例示的実施形態では、記憶装置86は、プロセッサ81に、以下に列挙されるモジュール又は上記の
図1A、
図1B、及び
図1Cの方法の工程のうちのいずれかと関連付けられるアクション(動作、行為)を実行させるように動作するプログラムコードを保持してもよい。このプログラムコードは、以下に詳述される命令を実行するように適合された、モジュール、機能、ライブラリ、スタンドアロンプログラム等の1つ以上の実行可能ユニットを含んでもよい。
【0127】
記憶装置86は、処理された試料の1つ以上の取り込まれた画像を分析するための画像解析モジュール(複数可)88を含んでもよい。この画像は、カメラ、ビデオカメラ、ハイパースペクトルカメラ、マルチスペクトルカメラ、IRカメラ等の任意の撮影デバイスを使用して取り込まれてもよい。適用される画像解析技術は、取り込まれた画像のタイプ及び抽出される特徴に対応してもよいことが理解されよう。
【0128】
記憶装置86は、画像解析結果から、又は化学的若しくは生物学的試験等の他のソースから、1つ以上の特徴を抽出するための特徴抽出エンジン90を含んでもよい。
【0129】
記憶装置86は、画像から、化学的若しくは生物学的試験から、又は任意の他のソースから抽出された特徴と、適用後の所定の時間に関連する毒性レベル等の、各特徴ベクトルに関連する薬物に割り当てられた分類とを取得するためのエンジン訓練モジュール92を含んでもよい。エンジン訓練モジュール92は、1つ以上のAIエンジン98を訓練して、開発中の薬物を組織に適用した結果を表す特徴ベクトルを受け取り、分類、例えば毒性レベルに対応する予測を提供してもよい。
【0130】
記憶装置86は、受け取られた特徴ベクトルにAIエンジン98を適用して予測を出力するためのエンジン適用モジュール94を含んでもよい。
【0131】
記憶装置86は、関連するモジュールを必要な入力を用いて正しい順序で起動するためのデータ及び制御フローモジュール96を含んでもよい。例えば、エンジン訓練モジュール92を起動するための特徴ベクトル及び対応する分類を取得すること、予測を取得するために、特徴ベクトル及びAIエンジン98へのアクセスをエンジン適用モジュール94に提供すること等。
【0132】
図1Aのバイオ変換工程8を実行するために使用される、本発明のヒトチップオンチップの概要の概略図である
図2Aをここで参照する。
【0133】
臓器チップは、とりわけ複数の臓器チップを利用する場合に、薬物開発を加速することを可能にする。本発明は、薬物開発を劇的に加速するために2つの主要な障害を克服する。第1に、ハイスループットでかつAI統合されたヒトオンチッププラットフォーム、すなわち、数万個のヒトオンチップでの薬物候補の迅速で安価な生物学的走査を可能にするシステムは現在のところ存在しない。第2に、統合されたゲノム発現プロファイリングを有するヒトオンチッププラットフォームは現在のところ存在しない。
【0134】
本発明は、これらの課題の両方に対処する。本発明のチップオンチップアーキテクチャは、第1の課題に対処し、ハイスループットのリアルタイムセンシングヒトチッププラットフォームを提供する。そして、ナノワイヤベースの非増幅ゲノムセンシング、特に環状RNAのセンシング(感知)は、第2の課題に対する解決手段を提供する。
【0135】
現在の臓器チップシステムのゲノム関連の課題は以下の通りである。臓器チップシステムは、動物研究の予測精度を時折超える予測精度を示すので、非常に有望である。しかし、現在まで、動物研究は、1つの独特の利点を有していた。動物研究は、豊富なゲノムデータをもたらしたが、臓器チップシステムは、それらの小型化のために、その豊富なゲノムデータに単純に匹敵することができなかった。ゲノムデータを伴わない薬物の開発を試みることは、「当て推量で行うこと」と同様である。
【0136】
それゆえ、本発明は、現在、環状RNAの非破壊的なリアルタイムの非増幅検出をもたらし、これによりほとんどの主要な疾患に関連する遺伝子プロファイルをもたらすという点で独特である。ハイスループットヒトオンチッププラットフォーム内で環状RNAを正確に特定する能力は、劇的な影響を有する。一例として、約330種のcircRNAは、様々なタイプの癌、アルツハイマー病、心血管疾患、自閉症、及び多くの他のものを含む48種の主要な疾患に関連することが示されている。
【0137】
薬物開発のための現在の方法論は、非常に非効率的であり、耐え難いほどに高価であり、現在、薬物を開発するコストは20億ドルを超える。本発明は、このプロセスを劇的に改善するデバイス及び方法を提供する。
【0138】
医薬品開発は、100年以上にわたってあまり変化していない2つの基本的なツール、平らな細胞培養皿(細胞培養物)及びマウス実験、に基づいている。平らな細胞培養皿での実験は手軽であり、研究者らに、候補薬物が様々な組織において有すると予想される効果についての初期の指標を与えると考えられている。次いで、ヒトとあまり異ならないと思われる生きている哺乳動物における薬物の有効性を検証するために、マウス実験が使用される。
【0139】
このアプローチの有効性は惨憺たるものである。平らな(二次元の)細胞培養試験及びマウス実験の両方に成功裏に合格するすべての薬物の92%超は臨床試験に合格しない。しかも、驚くべきことに、臨床試験に合格し使用が承認された8%の薬物のうち、約3分の1は、試験のいずれもが明らかにしなかった重篤な副作用のため、やはり中止又は異なる目的に再利用されることになる。
【0140】
これらの数字の重大さを理解するために、以下の類推を考える。超高層建築物を建設するビジネスが同様の成功率を有する世界を想像されたい。10棟の超高層建築物を建造する。そして、建造した10棟の建造物のうち9棟が倒壊するという現実を平然と受け入れなければならない。1棟だけが生存することになるが、どの1棟なのかを知る方法はない。これが、医薬品開発の現状である。
【0141】
それゆえ、医薬品産業が必要とするものは、薬物製剤を評価及び試験するための確実でハイスループットのプラットフォームであり、平らな組織培養皿及びマウス実験の現在の92%失敗率よりも劇的に高い予測精度を有するものである。
【0142】
本発明は、この課題に対処するプラットフォームを提供する。当該プラットフォームは、2つの新興分野、臓器チップ及び深層学習(ディープラーニング)、における進歩を活用し、現在のそのようなシステムの基本的な科学、技術、及びアーキテクチャ上の欠点を克服し、これにより、ハイスループットな解決手段をもたらす。
【0143】
臓器チップは、マイクロ流体デバイスに入れられた、小型化された三次元組織を使用することを含意し、マイクロ流体デバイスにおいて、その組織は、「血液のような」フローにさらされる。確実かつハイスループットである臓器チップシステムは現在のところ存在しないが、それらは、組織培養及びマウスの根本的な欠点を克服する。
【0144】
簡潔に述べると、平らな組織培養皿に関する科学的問題は、それらが由来する天然組織を実際に代表するものではないことである。これは、研究者にとって便利である「不死化」された、基本的に癌性になった組織であるが、そのゲノム特性を変化させる。組織培養皿は、単一の癌細胞の平らな不動の複製物である。それらは、現在よく確立されているように、ヒト身体内の生体組織の多様性、分化、形態、及び生理機能を有さない。また、明らかに、それらは、体内で起こる極めて重要な器官間相互作用を完全に欠いている。「心臓」組織皿において潜在的な薬物を試験することが、その薬物がどのように腸を通して吸収され、肝臓によって代謝され、腎臓によって濾過されるか等を無視するなら、そのような試験にどんな意味があるのか。
【0145】
マウス実験は、これらの制限の多くを克服すると思われる。それらは、哺乳動物で高度に異ならないと思われる生きている哺乳動物の体内で薬物がどのように作用するか、及び薬物がすべての重要な器官間相互作用にどのように反応するかを観察する機会を我々に与える。しかし、究極的には、我々は、マウスではなく、ヒトの「頭痛」のための「アスピリン」を開発するのに労力を要する。結果は明白である。マウスにおける試験の92%は、ヒト身体内での成功を予測できない。過去10年間の進歩は、エピジェネティクス及びゲノムの非コード領域の重要性を強調しており、ヒト-マウス相同性は85%から50%未満に低下している。これは、マウス実験がハイスループットでも安価でもない(残酷であることは言うまでもない)という事実を突きつける。
【0146】
それゆえ、臓器チップは、次の最先端領域を表し、非常に有望である。とりわけ、複数の臓器チップをともに連結すること、及び次世代の多臓器チップ、すなわち「ヒトオンチップ」が最近出現している。重要なことに、最近の初期の研究は、今では、複数の臓器チップをともに連結することが、ヒト身体における薬力学、及び薬物毒性を、平らな組織培養、及び重要なことにマウス実験を劇的に上回る様式で実際に予測するということを確立している。
【0147】
しかし、現在のところ、これらは、繊細で複雑な研究ツールであるデバイスであり、ハイスループットではないものである。臓器チップは単純に見えるかもしれないが、実際には、洗練された「ラボオンチップ(lab-on-a-chip)」というよりはむしろ、これらは、現実には、現在まだまさに「非常に散らかったラボのチップ(a-chip-in-a-big-messy-lab)」である。それゆえ、既存の臓器チップの製品及びアプローチは、現在、全くスケーラブルではない。
【0148】
本発明は、ハイスループットヒトチップを提供する。これは、数年の創薬を数週間に短縮することを可能にする。本主題において開示されるデバイスは、手動で又は他のロボットデバイスによって、複数の臓器チップ、センシングデバイス等を接続することを試みる現在の解決手段とは異なり、完全に自律的である。
【0149】
本主題の目的は、ポンピング循環並びに完全投与及び排出(ADME)機能を有する完全に統合された多臓器チップシステムであって、7つの主要な独自性の態様、(i)ハイスループット、完全自動化;(ii)自動リアルタイム「細胞」ナノセンサアレイ代謝産物センシング、(iii)オンチップ統合組織スケーリングを可能にするフレキシブルな循環経路選定制御、(iv)自動のオルガノイド作製、検証及び再経路選定、(v)統合された非破壊的なゲノム及びエピジェネティック分析、(vi)リアルタイム免疫プロファイリング;並びに(vii)自動自己学習システム統合、を提示する多臓器チップシステムを開示することである。これら並びに他の発明及び独自性の態様は、以下でさらに説明される。
【0150】
チップオンチップシステム100は、本発明の好ましい実施形態に従って構築されたデバイスであって、3つのコア要素である、マルチヒトチップアレイ110、1つ以上の自動化チップ120、及びアクチュエータ150、を含む。これら3つの要素及びそれらの相互作用は、本発明の独自性の重要な態様である。用語「チップ」は、身体組織を担持することができる容器を指す。当該チップは、当業者によって所望される任意のサイズ及び形状のものであってもよい。当該チップは、身体組織をセンシングすることを可能にする開口部を有してもよい。
【0151】
明確にするために、これらの3つの要素がまず簡単に説明される。マルチヒトチップアレイ110は、複数の「ヒトオンチップ」を含み、このヒトオンチップの各々は、複数の小型化された「臓器チップ」を含む。1つ以上の自動化チップ120は、マルチヒトチップアレイ110上でアクション、化学物質を測定する等の診断アクションと、栄養素又は薬剤を投与する等の処理アクションとの両方、を実行する一組の専用のラボオンチップデバイスであってもよい。アクチュエータ150は、マルチヒトチップアレイ110及び自動化チップ120の少なくとも一方を移動させる装置である。この移動は、マルチヒトチップアレイ110と自動化チップ120との間の相互作用、一例として、自動化チップ120のうちの1つをマルチヒトチップアレイ110のそれぞれのオルガノイドチャンバに挿入して、その中に含まれるオルガノイドの測定値を収集すること、をもたらす。
【0152】
アクチュエータ150、マルチヒトチップアレイ110及び自動化チップ120を有するデバイスは、以下の利点を提供する。1.センサが各オルガノイド113の周囲に構築されるのではなく、むしろ、多数のオルガノイド113によって「共有される」ため、複雑さを低減する。好ましくは数百個のヒューマノイド111及び数千個のオルガノイド113を含んでもよいチップでは、これは極めて重要となる。2.センサはマルチヒトチップアレイ110から分離されているので、センサの容易かつ迅速な交換を可能にする。3.試料をオルガノイド113から自動化チップ120内のセンサに運ぶために必要なマイクロ流体チャネルの長さを最小限に抑えることによって、試料サイズを最小限に抑える。
【0153】
マルチヒトチップ110は、複数のヒューマノイド111を含み、各ヒューマノイド111は、複数のオルガノイドチャンバ112を含み、各オルガノイドチャンバ112は、オルガノイド113を含む。各オルガノイド113は、マルチヒトチップ110内に配置された小型化された三次元生物組織である。この生物組織は、ヒト身体の臓器(器官)の機能を表すものであってもよい。本発明の好ましい実施形態では、複数のヒューマノイド111は、少なくとも300個、少なくとも200個、少なくとも100個、少なくとも90個、少なくとも80個、少なくとも70個、少なくとも60個、少なくとも50個、又は少なくとも40個のヒューマノイド111を含んでもよい。チップオンチップシステム100は、ヒューマノイド111内のそれぞれのオルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113上にマイクロ流体フローを送達してもよい。チップオンチップシステム100は、3つの異なるタイプのマイクロ流体フローを含み、1つのタイプは、マルチヒトチップ110によって送達され、他の2つのタイプは、以下のように自動化チップ120によって送達される。
【0154】
第1のタイプのマイクロ流体フローは、オルガノイドチャンバ112内のフローである。これは、オルガノイド113の活力のために必要とされるフロー誘発せん断力を提供する「オルガノイド内」フローである。このフローは、オルガノイド113間の接続とは無関係であり、マルチヒトチップアレイ110によって実行される。
【0155】
他の2つのタイプのマイクロ流体フローは、自動化チップ120によって提供され、本明細書において以下で説明される。簡潔には、第2のタイプのマイクロ流体フローは、ヒューマノイド111内の複数のオルガノイドチャンバ112を接続するフローであり、それゆえ、身体内の異なる器官を接続する心血管フローを模倣する「オルガノイド間」フローである。このフローは、本明細書において以下で説明される自動化チップ120のうちの1つによって提供され、断続的である。第3のタイプのマイクロ流体フローは、栄養素の流入フロー及び排泄物の除去の流出フローであり、投与及び排出(ADME)身体機能を模倣する。この第2及び第3のフローは、自動化チップ120のうちの1つによって提供される。両方のタイプのフローは、それらを実行する自動化チップ120に関して本明細書において以下で説明される。
【0156】
本発明は、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113上へのこれらの3つの異なるタイプのマイクロ流体フローを実行するときに、極度のスケーラビリティ(拡張性)及びコスト削減のための手段としてチップオンチップアーキテクチャを強化することが理解される。
【0157】
オルガノイド内フローに重点を置いたチップオンチップシステム100の循環能力の別の態様は、それがオンチップスケーリング、つまり、体内の対応する組織を正確に表すように組織-オルガノイドを「スケーリング」するために、異なる組織-オルガノイドに異なるレベルの栄養素及び薬物曝露を提供すること、に利用されてもよいということである。
【0158】
本主題のいくつかの例示的な実施形態では、自動化チップ120は、一組の診断チップ130と一組の処理チップ140の2種類のチップを含む。いくつかの他の場合において、自動化チップ120は、単一のタイプのチップを含む。診断チップ130は、オルガノイド113のパラメータの測定値を収集するために使用される。診断チップ130は、化学センシングチップ131、ゲノムチップ132、及び細胞抽出チップ133のうちの少なくとも1つを含む。
【0159】
化学センシングチップ131は、オルガノイドチャンバ112内の流体内の化学物質を自動的に測定し、これにより、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113の監視を提供するように動作する。
【0160】
ゲノムチップ132は、オルガノイドチャンバ112内の流体内のRNA配列のゲノム発現及びDNA配列の存在を自動的に測定し、これによりオルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113のゲノム解析を提供するように動作する。
【0161】
細胞抽出チップ133は、フローせん断力を用いてオルガノイド113から単細胞を自動的に抽出し、オルガノイド113を収容するオルガノイドチャンバ112内の流体からこれらの単細胞を抽出するように動作する。それゆえ、細胞抽出チップ133は、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113のゲノム解析を提供する。これは、薬物168が組織上に投与される前及び後にオルガノイド113のゲノムプロファイル及びエピジェネティックプロファイルを取得することを可能にし、これにより、オルガノイド113によって表される組織に対する薬物168のゲノム発現の影響の分析を可能にする。細胞抽出チップ133はさらに、オルガノイドチャンバ112の流体からの免疫細胞の抽出を可能にし、これによりオルガノイド113の免疫プロファイリングを可能にする。
【0162】
処理チップ140は、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113に対してアクションを実行するために使用される。処理チップ140は、開始チップ141、循環チップ142、ADMEチップ143及びmedsチップ144のうちの少なくとも1つを含む。
【0163】
開始チップ141は、システムのユーザが提供した組織164を受け取り、これらの組織を使用して、これらの組織の臓器を模倣するオルガノイド113を自動的に作製し、それらをそれぞれのオルガノイドチャンバ112内に設置するように動作する。各組織に関連するそれぞれのオルガノイドチャンバ112の識別子は、チップオンチップシステム100によって実行されるプロセスを管理するコントローラによってアクセスされるメモリアドレスに記憶される。組織164は、一例として、肺、腸、肝臓、心臓、腎臓、毛細血管上皮、血液脳関門、脳、及び様々な他の組織を含む。
【0164】
循環チップ142は、体内の異なる器官を接続する心血管フローを模倣する、「オルガノイド間」マイクロ流体フロー、すなわち、ヒューマノイド111内の異なるオルガノイド113を接続するフローを作動させるように動作可能である。上述のように、開始チップ141によって提供される循環フローは、各オルガノイドチャンバ112内に別個のフローを送達する「オルガノイド内」フローとは別個であり、「オルガノイド内」フローに加えてのものである。
【0165】
循環チップ142は、(他のオルガノイド113のそれぞれのオルガノイドチャンバ112を迂回することによって)他のオルガノイド113を迂回しながら、短絡された(shunted)フローを送達して、特定のオルガノイド113の間のフロー(技術的には、このフローは、これらのオルガノイド113をそれぞれ「収容する」オルガノイドチャンバ112へのものである)を選択的に接続し方向付けるようにも動作する。例として、循環チップ142は、ヒューマノイド111内のすべての他のオルガノイド113を迂回しながら腸及び肝臓オルガノイド113のみを通過するフローを模倣し、これにより体内の初回通過血液循環を模倣するために使用されてもよい。
【0166】
ADMEチップ143は、ヒト身体における吸収(又は投与)及び排出を模倣する機能を実行するように動作可能である。頭字語ADMEは、吸収(Absorption)/投与(Administration)、分布(Distribution)、代謝(Metabolism)及び排泄(Excretion)を表す。これら4つの機能のうち、ADMEチップ143は、吸収及び排出を作動させるように動作可能である。というのも、他の2つの機能である分布及び代謝はチップオンチップシステム100の他の要素によって提供されるためである。
【0167】
ADMEチップ143は、栄養素及び他の試薬を特定のオルガノイドチャンバ112に流入させることによって、吸収/投与機能を実行する。次いで、この栄養素は、ヒューマノイド111の循環を通して循環されてもよい(循環チップ142によって行われる)。
【0168】
ADMEチップ143は、同様に、オルガノイドチャンバ112から老廃物、特に灌流タイプの老廃物を流出させることによって排出機能を果たす。一例として、ネフロン灌流型オルガノイド113によって生成された「尿」を除去する。
【0169】
アクチュエータ150は、マルチヒトチップ110と1つ以上の自動化チップ120との間の相互作用を自動的に行うように動作するロボットデバイスであってもよい。本発明の好ましい実施形態では、アクチュエータ150は、好ましくは、以下の構成要素のうちの少なくとも1つを含む:コントローラ151、精密ロボット154、循環ポンプ155、インキュベータ156、一組の試薬チャンバ157及び一組の薬物チャンバ158。
【0170】
アクチュエータ150に含まれることが好ましいコントローラ151は、好ましくはプリント回路基板又はコンピュータであり、アクチュエータ150の自動動作を制御する。コントローラ151は、アクチュエータ150から遠隔に配置され、有線通信又は無線通信を介してアクチュエータ150と通信してもよい。コントローラ151は、入力として試験計画160を受信してもよく、これは、記憶された試験計画152としてコントローラ151に結合されたメモリに記憶される。コントローラ151は、記憶された結果153としてコントローラ151にアクセス可能なメモリに記憶された結果162の出力を提供してもよい。コントローラ151は、記憶された試験計画152の命令を自動的に実行するようにアクチュエータ150に命令する。コントローラ151は、診断チップ130から入力を受け取ってその入力を記憶結果メモリ153に保存してもよい。
【0171】
精密ロボット154は、コントローラ151の命令に従って、マルチヒトチップ110及び自動化チップ120を自動的及び協調的に動作させることによって、チップオンチップシステム100のすべての動作を実行するロボットデバイスであってもよい。精密ロボット154は、好ましくは、サブミリメートル精度で、一例として、10ミクロン(10μm)精度で、又は50ミクロン(50μm)精度で、又は100ミクロン(100μm)精度で動作するように構築される。この精度は、好ましくは直径50ミクロン(50μm)又は100ミクロン(100μm)であってもよい自動化チップ120のキャピラリ(毛細管)又はプローブを、マルチヒトチップ110のオルガノイドチャンバ112に挿入するために必要とされる。オルガノイドチャンバ112は、直径1mm以下のサイズを有してもよい。本発明の好ましい実施形態では、複数のセンサプローブが同じオルガノイドチャンバ112に同時に挿入されてもよく、この際にはさらに高い精度を必要とする。本発明の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、そのようなプローブ(複数可)をマルチヒトチップのオルガノイドチャンバ112の中に挿入するときに、そのようなミクロンレベルの精度の移動を達成するように、カメラ及び画像処理技法を利用してもよい。
【0172】
本発明の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、複数のマルチヒトチップ110が使用される実験のワークフローも自動化する。1つのアクチュエータ150が取り扱うことができるマルチヒトチップ110の数は、以下の特性のうちの少なくとも1つに応じて変わる:(i)動作(センシング及び循環等)の頻度、(ii)マルチヒトチップ110内のヒューマノイド111及びオルガノイド113の数、(iii)自動化チップ120が行なうことが可能な並行動作の数(一例として、いくつのセンサプローブが隣接するオルガノイドチャンバ112に同時に挿入されるか)、(iv)データ分析及びスマート試料試験に基づいて動作の数を削減することを可能にする最適化、等。一例として、本発明の例示的な実施形態では、単独の精度ロボット154が、好ましくは、多数のマルチヒトチップ110を取り扱ってもよく、その数は、少なくとも9個、少なくとも10個、少なくとも15個、及び少なくとも20個のマルチヒトチップ110から選択されてもよい。
【0173】
本発明の他の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、光学分析機器、顕微鏡光学分析、及びマルチヒトチップ110の分析に有用な他のデバイスを動作させてもよい。例えば、精密ロボット154は、マルチヒトチップ110内のオルガノイド113の測定値を収集するように、マルチヒトチップ110内のオルガノイドチャンバ112に対して適切に配置されるように、そのような器具を移動させてもよい。
【0174】
循環ポンプ155は、マルチヒトチップ110上のオルガノイドチャンバ112の少なくともいくつかの内部のマイクロ流体フローのポンピング(ポンプ輸送)を駆動するポンプデバイスである。
【0175】
インキュベータ156は、マルチヒトチップ110、ナノセンサ、及びチップオンチップシステム100の他の構成要素内のオルガノイド113の生物学的及び化学的動作のための所望の条件を確実にするように、チップオンチップシステム100内の環境条件を所望のレベルに維持するように動作可能である。このような条件としては、所望のレベルの温度、水分、並びに酸素及びCO2等のガスの存在が挙げられるが、これらに限定されない。
【0176】
試薬チャンバ157及び薬物チャンバ158は、それぞれ、チップオンチップシステム100に提供されアップロードされる複数の試薬166及び薬物168を貯蔵する2組のチャンバである。試薬チャンバ157及び薬物チャンバ158は、アクチュエータ150内に位置してもよい。試薬166は、例として、血液置換共通循環媒体、すすぎ試薬、及び様々な他の試薬を含む。薬物168は、試験される様々な薬物製剤を含み、異なる用量又は濃度の薬物製剤を含んでもよい。
【0177】
試薬チャンバ157内に貯蔵された試薬166は、各ヒューマノイド111及び各オルガノイド113の機能のためにチップオンチップシステム100によって使用される。一例として、循環媒体は、試薬チャンバ157のうちのその対応するものから、各ヒューマノイド111の心血管様循環へポンピングされてもよい。本発明の別の好ましい実施形態では、試薬166は、好ましくは、肺によって吸入される空気を模倣する吸入試薬、消化器系によって摂取される食物、混入物質、感染体、又はユーザがヒューマノイド111に影響を及ぼすことを望む他の物質を含んでもよいが、これらに限定されない。本発明の別の好ましい実施形態では、チップオンチップシステム100が分析されるべきオルガノイドチャンバから試料を採取する(引き出す)とき、「すすぎ」試薬が、試料管類等をすすぐために使用されてもよい。本発明の別の好ましい実施形態では、追加の試薬チャンバ157及び追加の薬物チャンバ158のうちの1つ以上も、マルチヒトチップ110自体に含まれてもよく、その結果、マルチヒトチップ110は、それ自体のリザーバから試薬及び薬物を引き出してもよい。
【0178】
薬物チャンバ158内に貯蔵された薬物168は、本明細書で後述する試験プロトコルに従って、チップオンチップシステム100によって使用され、複数の薬物168のうちの所望の1つが薬物チャンバ158のうちの対応する1つから所望の用量でポンピングされ、それがマルチヒトチップ110上の適切なヒューマノイド111のオルガノイド113に送達される。チップオンチップシステム100は、複数のヒューマノイド111に対する異なる用量での、多数の薬物の安価で自動化されたハイスループット試験を可能にする。従って、本発明の好ましい実施形態では、アクチュエータ150は、medsチップ144とともに、複数の薬物168の各々を、マルチヒトチップ110上のヒューマノイド111を有するそれぞれのオルガノイドチャンバ112に自動的に投与するように動作する。
【0179】
本発明の別の好ましい実施形態では、複数の薬物168のうちの1つは、各ヒューマノイド111がこの同じ薬物145の異なる用量を受けるように、複数のヒューマノイド111に送達されてもよい。本発明の別の好ましい実施形態では、medsチップ144及びアクチュエータ150は、複数の薬物168のうちの1つの異なる用量を、ヒューマノイド111内の異なるオルガノイド113に投与してもよく、その結果、同じヒューマノイド111内の異なるオルガノイド113は、異なる用量の薬物168を受け取り、それにより、ヒト身体内の状態をより正確に模倣する。このとき、薬物168は、異なる身体器官中に異なる濃度で存在することが既知であってもよい。medsチップ144は、マイクロ流体力学を使用して、薬物168の正確な滴定量(すなわち、異なる用量)を一連の異なるオルガノイドチャンバ112、例えば、異なるヒューマノイド111に自動的に送達する。
【0180】
ディープマッチング(deep-matching)エンジン170は、好ましくは、結果162を分析し、従って、試験計画160を反復的に調整するために使用される人工知能深層学習ソフトウェアであり、この調整は、次いで、チップオンチップシステム100上で改変された次の実験を推進するように、好ましくは、記憶された試験計画152にフィードバックされてもよい。
【0181】
本発明のチップオンチップシステム100は、以下に簡単に概説するいくつかの独特の利点を提供することが理解される。
【0182】
本発明の第1の利点は、本発明は完全に自動化されたハイスループットのヒトチップシステムを初めて提供することである。現在、統合されたヒトオンチップデバイス、すなわち、複数の小型化された相互接続された器官の統合を含み、ヒトの吸収、循環代謝及び排出を模倣する単一のデバイス、しかも、完全に自動化されたハイスループット試験プラットフォーム、すなわち、各オルガノイド113に対する代謝の影響を連続的に監視及び分析しながら、数千のオルガノイド113を含む数百のヒューマノイド111に対して並行して実行される試験を開始から終了まで完全に自動的に実行する試験プラットフォーム、でもある単一のデバイスは存在しない。
【0183】
本発明の第2の独特の利点は、吸収、分布、代謝及び排出を含む統合型ADMEである。現在、自動化されたハイスループットでもあるADME機能を有する統合されたヒトチップは存在しない。
【0184】
本発明の第3の独特の利点は、オルガノイドの作製及び検証である。現在の臓器チップシステムでは、オルガノイド又は小型化組織の作製プロセスは、手作業で時間がかかり、膜様灌流型オルガノイド113の場合、組織-膜の完全性の検証も手作業である。この制限は単一臓器チップにおいて管理可能であるが、完全に自動化されたハイスループットにスケールアップしようとすると法外なものになり、多臓器チップのハイスループットではさらに大きくなる。
【0185】
本発明の第4の独特の利点は、オンチップ統合組織スケーリングである。効果的なヒトチップを製造するための既存の試みの主な制限は、複数の臓器チップを単に接続することは、そのような臓器チップがそれぞれ単独で効果的であっても、ヒト身体を効果的に表さないことである。これは、「臓器チップ」の各々が、異なる組織の異なる質量及び循環基準を反映するように異なるようにスケーリングされなければならないからである。一例として、類似のサイズ、例えば1000個の細胞を有する心筋オルガノイド113及び肝臓組織オルガノイド113は、その場合、一例として、心筋組織と比較して肝臓組織のより大きい質量及びはるかに大きい「循環曝露」を反映するように、ヒト身体を適切に表すために、それぞれ非常に異なってスケーリングされなければならない。マルチヒトチップ110は、コンピュータ化された外挿補正とともに物理的オンチップ補償の組み合わせを通して、統合されたスケーリングを提供するという点で独特である。
【0186】
本発明の第5の独特の利点は、リアルタイム細胞代謝センシングである。現在、自動化された反復的なリアルタイムの偏りのない細胞代謝センシングを提供するハイスループットヒトチップは存在しない。頻繁な反復代謝測定へのアクセスは、当該技術分野で周知のように、試験される薬物の薬力学及び薬物動態の評価の一部として、組織及びそのミトコンドリアの機能を評価する際に重要である。そのような測定値は、好ましくは、グルコース、乳酸、尿素、カリウム、アンモニア及びpHを含んでもよいが、これらに限定されない。本発明の重要な独特の特徴は、本発明が、独特のリアルタイム細胞代謝センシングをもたらす自動化チップ120(又は別の好ましい実施形態ではオンチップ周辺センシング155)を組み込むことである。
【0187】
本発明は、薬物145による処理に応答して、各ヒューマノイド111における各オルガノイド113のゲノム発現及びエピジェネティック分析を提供するという独特の利点をもたらす。本明細書中で非破壊的は、オルガノイド113を破壊することなくオルガノイド113のゲノム発現を実行する能力を意味し、そのため、一例として、前処理されたオルガノイド113のゲノム発現が、薬物168のうちの1つによって処理された後の同じオルガノイド113のゲノム発現と比較されてもよい。
【0188】
本発明の第7の独特の利点は、薬物168の1つの投与に対する各オルガノイド113の免疫応答の自動の試験及び分析を提供するリアルタイム免疫プロファイリングである。
【0189】
本発明の第8の独特の新規性は、自律自己学習である。現在の臓器チップシステムは、本発明に独特の以下の特徴を欠いているので、現在の臓器チップシステムは、この能力を欠いていることが理解される:リアルタイム細胞センシングを伴う、自動化された自己訓練人工知能分析、及びこれらすべてを自己学習システムに統合するアーキテクチャを伴う完全自動化されたハイスループット能力。
【0190】
本発明の好ましい実施形態に係るヒトチップオンチップシステム100の説明図を概略的に提示する
図2Bをここで参照する。
【0191】
本発明の好ましい実施形態では、チップオンチップシステム100は、3つの主要な要素、マルチヒトチップ110、自動化チップ120、及びアクチュエータ150を含む。
【0192】
マルチヒトチップ110は、複数のヒューマノイド111を含み、各ヒューマノイド111は、好ましくは異なる組織タイプ、例えば肺、肝臓、脳等の対応する複数のオルガノイド113を含む複数のオルガノイドチャンバ112を含むことが好ましい。
図2Bに示される例では、ヒューマノイド111は、6つの隣接するオルガノイドチャンバ112の「列」を含み、ヒューマノイド111は、6つのみのヒューマノイド(6つのそのような列)を含む。チャンバの数は、一例としてのみ示されており、限定することを意図していないことが理解される。本発明の好ましい実施形態では、マルチヒトチップ110は、好ましくは、100を超えるそのようなヒューマノイド111を含んでもよく、各ヒューマノイド111は、6つを超えるオルガノイド113を含んでもよい。
【0193】
オルガノイドチャンバ112の各々は、関連するオルガノイドフローチューブ114を有してもよい。オルガノイドチャンバ112は、オルガノイドフローチューブ114の底部に位置するオルガノイドチューブ嚢115も含んでもよい。オルガノイドチューブ嚢115が、アクチュエータ150によってヒューマノイド111の真下で作動される蠕動ポンプ(図示せず)によって押圧されると、この押圧は、オルガノイドチューブ嚢115の体積の収縮を引き起こし、これにより、流体をポンピングし、その流体をオルガノイドフローチューブ114及びオルガノイドチャンバ112内に流動させる。このフローは、オルガノイド113にせん断流効果を引き起こし、これは、オルガノイド113の活力のために必要とされる。
【0194】
自動化チップ120は、マルチヒトチップ110のヒューマノイド111及びオルガノイド113に対して多種多様なアクションを実行するように設計された一組のチップを含む。
図2Bは、ヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112間に流体をポンピングし、これにより身体の心血管循環を模倣する「循環チップ」である例示的なチップを示す。この図に示されるように、この自動化チップ120は、一組のキャピラリを含み、各そのようなキャピラリチューブは、2つの隣接するオルガノイドチャンバ112内に延び、流体を1つのオルガノイドチャンバ112からその隣接するオルガノイドチャンバ112にポンピングする(及び、1つのより長いキャピラリは、流体を最も右側のオルガノイドチャンバ112から最も左側のオルガノイドチャンバに移送し、これによりサイクルを閉じる)。この循環チップは、循環の経路選定も誘導し、例えば、「腸」及び「肝臓」のみを通って流れ、従って肝臓の初回通過循環を模倣するようにフローを方向付けるように動作する。
【0195】
アクチュエータ150は、チップオンチップシステム100の動作を実行する。アクチュエータ150は、例えば、所定の計画に基づいて、ユーザの入力に従って、等によりアクチュエータ150の動作を命令するコントローラ151を含む。アクチュエータ150は、マルチヒトチップ110及び自動化チップ120を動作させる精密ロボット154も含む。この図で示されるように、精密ロボット154は、複数の自動化チップ120のうちの適切なものを持ち上げ、それを動かすように動作して、(自動化チップ120の種類に応じて)そのキャピラリチューブ又はプローブが一連のオルガノイドチャンバ112内に配置され、それらのアクションを実行するようにするロボットアームを含む。
図2Bが示すように、本発明の好ましい実施形態では、アクチュエータ150は、チップオンチップシステム100の要素のすべてを包囲して、アクチュエータ150がインキュベータ機能(示さず)を提供することを可能にし、温度、湿度等の所望のレベルの特性を維持する「ボックスエンクロージャ」も含んでもよい。
図2Bは、アクチュエータ150のエンクロージャ内の単独のマルチヒトチップ110のみを示すが、本主題は、単一のアクチュエータ150が複数のマルチヒトチップ110、好ましくは9つを超えるそのようなマルチヒトチップ110を「収容」してもよく、そのようなマルチヒトチップ110を同時に取り扱うように動作可能である実施形態も開示することを理解されたい。
【0196】
図2Bは、3つの追加のチップ、化学センシングチップ131、ゲノムチップ132、及びmedsチップ144、も示す。この3つの追加のチップは、自動化チップ120の組の一部であってもよく、例としてのみ示されている。これらのチップは、精密ロボット154が実行されるべき所望の動作のための適切なチップを持ち上げてもよいように、アクチュエータ150のエンクロージャ内に配置されることが理解される。化学センシングチップ131は、一組のナノセンサを含み、複数のオルガノイドチャンバ112内で、一例としてヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112内で、好ましくは並行して、生物学的に関連する化学物質のリアルタイム測定を実行するように動作する。ゲノムチップ132は、オルガノイドチャンバ112の流体中のRNA又はDNA等の無細胞核酸の発現の高感度の非増幅測定を実行するように動作する。ゲノムチップ132は、細胞外で極めて安定であり、癌、心疾患、及び自閉症を含む多くの主要な疾患に関連する短鎖RNAの一種である、循環RNA(circRNA)の発現を検出するようにも動作可能であってもよい。medsチップ144は、オルガノイドチャンバ112に薬剤を投与するように動作する自動化チップ120である。
【0197】
本発明の重要な独自性は、オルガノイド113が、能動的にポンピングされ制御されたマイクロ流体フローの2つの相補的モードにさらされるということであることが理解される。マイクロ流体フローの第1のモードは、「オルガノイド内」循環、すなわち、個々のオルガノイドチャンバ112内で、例えばオルガノイドフローチューブ114を通って流れ、オルガノイド113の一定のせん断力刺激を引き起こす循環である。マイクロ流体フローの第2のモードは、「オルガノイド間」循環であり、これは体内の心血管循環を模倣し、「循環」タイプの自動化チップ120によって作動される。さらに、オルガノイド間循環は動的に柔軟であり、必要に応じて特定のオルガノイド113を迂回してもよいことが理解される。
【0198】
本発明に従って構築された診断チップの例を概略的に示す
図2Cをここで参照する。
【0199】
図2Cは、診断チップの2つの例の概略図を提供する。第1の例は、「化学的及びゲノム診断チップ」と指定された図に描かれている。化学センシングチップ131は、オルガノイドチャンバ112の流体中に存在する化学物質のナノセンサ試験を実行するように構築され動作する診断チップである。
【0200】
化学センシングチップ131は、ヒューマノイド111内に含まれる6つのそれぞれのオルガノイドチャンバ112の流体の中へ(例えば、図示されていない精密ロボット154によって)降下されれるように構築され動作する6つのプローブ200を含む。この設計は、化学センシングチップ131が、ヒューマノイド111の6つのオルガノイドチャンバ112の同時化学試験を実行することを可能にする。
【0201】
化学ナノセンサ201は、プローブ200上に取り付けられ、オルガノイドチャンバ112の流体中に見出され、従ってオルガノイド113と相関する化学化合物のレベルの測定を実行するように動作する。
【0202】
各プローブ200は、好ましくは、いくつかの化学ナノセンサ201を含んで、各プローブ200が、同時にいくつかの化学試験を行うことを可能にしてもよい。
図2Aは、プローブ200の各々に取り付けられた3つの化学ナノセンサ201を描く。プローブ中の化学ナノセンサ201の数は、当業者によって選択されてもよい。
【0203】
オルガノイドチャンバの少なくともいくつかは、関連するオルガノイドフローチューブ114及びオルガノイドチューブ嚢115を有し、これらは両方ともオルガノイド内フローを可能にする。
【0204】
この図は、ゲノムセンシングにも関連し、化学ナノセンサ201の少なくともいくつかは、特定の核酸分子のハイブリダイゼーションを特定するように構築され作動するナノセンサであることが理解される。
【0205】
第2の例は、「細胞抽出チップ」と指定された図で描かれている。細胞抽出チップ133は、オルガノイドチャンバ112の流体から単細胞を抽出するように構築され動作する診断チップであり、そのため、これらの単細胞は、単細胞ゲノム配列決定及びエピジェネティック分析を含んで分析されてもよい。
【0206】
細胞抽出チップ133は、ヒューマノイド111内に含まれる6つのそれぞれのオルガノイドチャンバ112の流体の中へ(例えば、図示されていない精密ロボット154によって)降下されるように構築され動作する6つの細胞抽出ナノチューブ202を含む。この設計は、細胞抽出チップ133が、ヒューマノイド111のそれぞれの6つのオルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113からの単細胞の同時抽出を行うことを可能にする。
【0207】
本発明に従って構築された処理チップの例を概略的に示す
図2Dをここで参照する。
【0208】
図2Dは、それぞれ「開始チップ」、「循環チップ」、「ADMEチップ」、及び「medsチップ」と指定された処理チップ140の4つの例をそれぞれ示す4つの図を含む。
【0209】
開始チップ141は、オルガノイドを自動的に作製し、オルガノイドチャンバ112内にそのオルガノイドを配置するように構築され動作する。開始チップ141は、ヒューマノイド111の複数のオルガノイドチャンバ112に対応する複数の設置ノズル203を含み、開始チップ141は、オルガノイド113をそれぞれのオルガノイドチャンバ112内に配置することができる。
図2Bは、スフェロイドオルガノイドの作製を描くが、これは限定を意図するものではなく、開始チップ141は灌流型オルガノイドを作製するようにも動作することが理解される。
【0210】
循環チップ142は、ヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112内に配置されたオルガノイド113間で体内の心血管循環を模倣する流体の循環を実行するように構築され動作する。循環チップ142は、複数のオルガノイドチャンバ112を有するヒューマノイド111に循環を提供する。循環チップ142は、複数の循環チューブ204と、1つの長い循環チューブ205とを含む。複数の循環チューブ204は、1つのオルガノイドチャンバ112から隣接するオルガノイドチャンバ112に流体を移送し、長い循環チューブ205は、ヒューマノイド111の最も右側のオルガノイドチャンバ112から最も左側のオルガノイドチャンバ112に流体を移送する。循環チップによって提供される循環は、オルガノイド間フロー、すなわち、ヒューマノイド111の異なるオルガノイドチャンバ112間の流体のフローであることが理解される。
【0211】
ADMEチップ143は、ヒューマノイド207のオルガノイドチャンバ112上での投与/吸収及び排出の機能を実行するように構築され動作する。ADMEチップ143は、ヒューマノイド207の複数のオルガノイドチャンバ112に対応する複数のADMEチューブ206を含む。ADMEチューブ206は、ヒューマノイド207のそれぞれのオルガノイドチャンバ112の流体の中へ(例えば、図示されていない精密ロボット154によって)降下されて、(i)栄養素を投与し、(ii)オルガノイド113の老廃物を排出するように動作する。
【0212】
medsチップ144は、ヒューマノイド210のオルガノイドチャンバ112に薬物208を投与するように構築され動作する。medsチップ144は、ヒューマノイド210の複数のオルガノイドチャンバ112に対応する複数のmedsチューブ209を含む。medsチューブ209は、ヒューマノイド210のそれぞれのオルガノイドチャンバ112の流体の中へ(例えば、図示されていない精密ロボット154によって)降下されて、薬物208をオルガノイド113に投与するように動作する。medsチップ144は、異なる用量の薬物208を異なるオルガノイド113に自動的に送達するようにも動作することも理解される。
【0213】
本発明のチップオンチップの実装の概要の一例を示す
図3Aをここで参照する。
図3Aは、本発明のチップオンチップシステム100の一実施形態の製造におけるプロトタイプを示し、その主要な構成要素、マルチヒトチップ110、一組の自動化チップ120、及びアクチュエータ150、並びにそれらの緊密な相互作用を明らかにする。チップオンチップシステム100は、床、テーブル等の表面上に置かれるように構成された本体を含む。この本体は、アクチュエータ150を担持するフレーム、例えば、マルチヒトチップ110に含まれるオルガノイドチャンバのラインに沿って自動化チップ120を移動させるロボットアームを含んでもよい。
【0214】
本発明の実装の一例を示し、そのチップオンチップ態様とその主要な構成要素、マルチヒトチップ110、一組の自動化チップ120、化学センシングチップ131、循環チップ142、アクチュエータ150、並びに較正及びすすぎウェル300とを示す
図3Bをここで参照する。アクチュエータ150が自動化チップ120を担持してもよいことが示されている。自動化チップ120は、例えば、自動化チップ120のフレームをアクチュエータ150の本体に引き付ける磁場を使用して、又はチップオンチップシステム100のコントローラによって制御可能な別のコネクタを使用して、アクチュエータ150に結合されてもよい。
【0215】
較正及びすすぎウェル300は、一組のオルガノイドチャンバ112に対してアクション又は測定を実行した後でかつ同じ又は別の組のオルガノイドチャンバ112に対して次のアクション又は測定を実行する前に自動化チップ120をすすぎ、それにより、前の組のオルガノイドチャンバ112からの流体によって他の組のオルガノイドチャンバ112が汚染されることを回避するために利用されてもよいことが理解される。較正及びすすぎウェル300は、診断チップ130の自動較正を可能にするのにも重要であることがさらに理解される。
【0216】
本発明の好ましい実施形態では、マルチヒトチップ110上で自動化チップ120によって実施される試験又はアクションの間の精密ロボット154の移動の距離を最小限にし、自動化チップ120のすすぎ及び較正のアクションを頻繁に実施することができるように、較正及びすすぎウェル300は各マルチヒトチップ110に近接して配置される。いくつかの例示的な場合において、較正及びすすぎウェル300は、自動化チップ120とともにマルチヒトチップ110に沿って移動してもよい。
【0217】
本発明のチップオンチップの実装の一例を示す
図3Cをここで参照する。
図3Cは、本発明の好ましい実施形態に従って構築され動作する自動化チップ120の組の1つであるマルチヒトチップ110及び化学センシングチップ131の実装形態、並びにこれらの2つのチップ間の相互作用の全体図を提供する。
【0218】
図3Cから分かるように、マルチヒトチップ110の例示的な実装形態は、合わせて648個のオルガノイド113を含む108個のヒューマノイド111を含む。オルガノイドの寸法は、3mm×60mm×70mmであってもよい。
【0219】
例として、1つのヒューマノイドが強調表示され、破線で囲まれている。各ヒューマノイドは、6つの相互接続された「ウェル」の「列」を含み、各ウェルは、オルガノイド113(図示せず)を含むオルガノイドチャンバ112であることが理解される。一例として、そのようなオルガノイドチャンバ112の1つは、同様に強調表示され、破線で囲まれている。
【0220】
本発明の別の好ましい実施形態では、オルガノイド間循環は、循環チップによってではなく、両方ともマルチヒトチップ110内に位置する循環ポンプ及び循環チャネル285によって達成される。この実施形態では、各ヒューマノイド111は、ヒューマノイド循環ポンプも含み、このヒューマノイド循環ポンプは、そのヒューマノイドのオルガノイドチャンバ間の循環をポンピングし、ヒト身体内の血液循環のための「心臓」に類似している。オルガノイドチャンバ112間の循環は受動的ではなく、むしろ能動的にポンピングされ、選択的に経路指定され、電子的に制御されることが理解される。
【0221】
自動化チップ120の組の1つである、マルチヒトチップ110と相互作用する化学センシングチップ131も示される。化学センシングチップ131は、複数のオルガノイドチャンバ112と同時に相互作用し、チャンバ112から試料を引き出し、それらを同時に化学センシングチップ131上の複数の対応するナノセンサアレイに流すことが理解される。オルガノイドチャンバ112から引き出された試料は、例えば、組織の生存率、及び特定の所望のアッセイを示すために、複数の化学物質を測定する複数のナノセンサのアレイに分配される。いくつかの例示的実施形態では、各そのようなセンサアレイは7つのセンサを含み、それらの7つのセンサは、好ましくは、細胞及びミトコンドリアの活力を示す化学物質を測定してもよい。このセンサは、酸素、グルコース、乳酸、尿素、カリウム、アンモニア及びpH等を測定してもよい。
【0222】
化学センシングチップ131をマルチヒトチップ110に対して移動させること(すなわち、それをオルガノイドチャンバ112の列上に移動させ、それを降下させて、その複数のキャピラリが、試験されるべき次のヒューマノイド111のそれぞれの複数のオルガノイドチャンバ112内に「浸漬」されるようにすること)は、アクチュエータ150の精密ロボット154(両方とも図示せず)によって行われてもよいが、これは当業者には周知であろう。
【0223】
本発明のチップオンチップの実装の例の別の図を示す
図3Dをここで参照する。
図3Dは、本発明の好ましい実施形態に従って構築され動作する、マルチヒトチップ110及び化学センシングチップ131(自動化チップ120の組のうちの1つ)の実装形態、並びにこれらの2つのチップ間の相互作用の拡大図を提供する。
【0224】
この図で見られるように、
図3Dは「ズームイン」して、それぞれが6つのオルガノイドチャンバ112(それぞれが対応するオルガノイド113(図示せず)を含む)を含む6つのヒューマノイド111の図をより詳細に示し、6つのオルガノイドチャンバ112と同時に相互作用する化学センシングチップ131を示す。
【0225】
図3Dは、3つの図面を含み、これらはともに本発明の重要な機能への洞察を提供する。「1.ヒューマノイドの6つの組織」と指定された第1の図面は、本発明のチップオンチップシステム100が、ハイスループットスクリーニング、この例では、単一のヒューマノイド111内に含まれる6つのオルガノイド113を同時に、完全に自動化された様式で試験するようにどのように動作するかを描く。上述のように、6つの「ウェル」の各列は、ヒューマノイド111である。従って、この第1の図が示すように、化学センシングチップ131が「ウェル」の列を同時に試験するとき、化学センシングチップ131はヒューマノイド111の6つのオルガノイド113を試験している。
【0226】
「2.同じ組織、6つのヒューマノイド」と指定された第2の図面は、本発明のチップオンチップシステム100がハイスループットスクリーニングを実行するようにどのように動作するかを描く。この例では、化学センシングチップ131は、6つの異なるヒューマノイド111からの同じ関心組織(例えば、「肝臓」)を同時に完全に自動化された様式で試験する。
【0227】
マルチヒトチップ110は、「ヒューマノイドによる」試験(すなわち、ヒューマノイド111内のすべてのオルガノイド113の試験)に焦点を当てるか、又は、複数のヒューマノイド111内の「組織による」試験(すなわち、特定の組織(例えば、肝臓)を同時に試験すること)に焦点を当てることも可能にすることが理解される。
【0228】
「3.6つのヒューマノイドの「チャンバ」」と指定された第3の図面は、循環自体の中から試料を採取することを描く。本実施形態では、「循環」のサンプリングは、各ヒューマノイドが含む「ウェル」の列の終わりに位置する循環ウェルを通して行われる。循環ウェルは、「全身チャンバ」と指定された空のウェルである。他の6つのウェルはすべてオルガノイド113を含むが、「全身チャンバ」ウェルはオルガノイドを含有しない空の「ウェル」であり、その機能は循環から試料を採取することを可能にすることである。
【0229】
この機能性は、患者の器官から「生検」を採取することに邁進する前に、患者の末梢血試料からの試料を試験する有用性に類似していることが理解される。本発明の一実施形態では、「全身チャンバ」からのそのような試料は、「スクリーニング」の手段として使用されてもよい。そのスクリーニングは、特定のオルガノイド113から試料を引き出す(採取する)か否かを決定するために使用されてもよい。そうすることは、行われる試験の量を劇的に低減する可能性があり、従って、非線形スケーリング及びコスト削減をさらにサポートする。
【0230】
「スクリーニング」能力を利用するための第1の例として、ヒューマノイド111のすべてのオルガノイドチャンバ112からの複合試料を反映する「全身チャンバ」からの試料が乳酸の上昇を示す場合、これは、どの試料が乳酸の上昇を有するかを決定するためにそのヒューマノイド111のすべてのオルガノイドチャンバ112からの試料の採取を促してもよい。別の例として、「全身チャンバ」からの試験が、可能性のある高レベルの1つ以上の肝臓酵素を示す可能性がある結果をもたらす場合、生きている人における全身血液検査と同様に、これは、この異常を確認、検証、及び定量化するために肝臓オルガノイドチャンバ112から試料を採取することを促してもよい。
【0231】
このスクリーニング能力は、本発明の深層学習及び自動タグ付け能力に直接結び付けられ、それらに依存してもよい。「全身チャンバ」試験と個々のオルガノイド113の試験との間の相関を手動で決定することは不可能である可能性があるが、自動タグ付け及び深層学習は、実際に、そのような相関を発見し、自動的に学習し実装することができる。あらゆる実験サイクルで、当該システムは、「全身チャンバ」に適用された試験からの所見と個々のオルガノイド113に対して行われた試験との間の相関を観察し、自動的に改善し、「全身チャンバ」試験の使用を最適化する。
【0232】
本発明のチップオンチップの実装の例のさらに別の図を示す
図3Eをここで参照する。
図3Eはさらに「ズームイン」して、1つのオルガノイド113、及びそれと自動化チップ120の1つである化学センシングチップ131との相互作用の図をより詳細に示す。
【0233】
「1.オルガノイド図」と指定された第1の図は、単一のセンサアレイユニット(自動化チップ120の1つである化学センシングチップ131の一部である)と相互作用する単一のオルガノイドチャンバ112ユニット(マルチヒトチップ110の一部である)の「断面様」の図を描く。
【0234】
図は、オルガノイドチャンバ112と、オルガノイドチャンバ112の底部に配置されたオルガノイド113とを描く。オルガノイド113の活力を高めるために、オルガノイドチャンバ112の底部を通って流れ、従ってオルガノイド113にせん断力を加える代替的な循環チャネル285も描かれている。オルガノイドチャンバ112の縁部は、オルガノイドチャンバ112内へのキャピラリ1112の安全な挿入を支援するようにテーパ状であってもよい。ヒューマノイド111の複数のオルガノイド113を通って流れ、それを接続するオルガノイド間循環は、循環チップ142によって提供されるのではなく、両方ともマルチヒトチップ110の固定部分として存在する循環ポンプ及び循環チャネル285によって提供されることが理解される。
【0235】
図示のセンサアレイユニットは、(自動化チップ120の1つである)化学センシングチップ131の一部である。キャピラリ1112は、自動化チップ120から突出するキャピラリであり、オルガノイドチャンバ112内に配置される。自動化チップ120をマルチヒトチップ110上のその位置に移動させるアクションは、両方とも図示されていないアクチュエータ150の精密ロボット154によって行われる。
【0236】
本発明の別の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバ112は、その上部で密閉されてもよく、キャピラリ1112がオルガノイドチャンバ112内に直接挿入される代わりに、第2のウェルが、オルガノイドチャンバ112に隣接して作製され、流体は、例として、迷宮(ラビリンス)様機構、又は当該技術分野で公知であるような他の類似機構を通して、オルガノイドチャンバ112と第2のウェルとの間に相互移送される。これは、オルガノイドチャンバ112が密閉されたままであることを可能にし、同時に、各試験サイクルのための「蓋」を開閉する余分な工程を排除する。
【0237】
ここで描かれる実施形態では、キャピラリ1112は、各々が1つ以上のナノセンサを含む7つのセンサチャンバに開口する。ナノセンサは、好ましくは、以下のセンサを含んでもよいが、これらに限定されない:酸素、グルコース、乳酸、尿素、カリウム、アンモニア及びpH。センサは、当該技術分野で周知であるとおり、それらの所望の標的を特定するために必要とされるように、好適な膜コーティング若しくは酵素コーティングを用いて若しくは用いずに電気化学的であってもよく、又はそれらは、蛍光ベースであってもよく、又は当該技術分野で公知の他のナノセンサ技術に基づいてもよい。
【0238】
換気細孔が、キャピラリ1112の遠位端に設けられる。換気細孔は、キャピラリ1112を通るフローを可能にしてもよい。本発明の別の実施形態では、能動的にポンピングされるフラッシング機構が換気細孔に接続されてもよく、その結果、各試料の後、キャピラリ1112及びセンサチャンバがフラッシングされ、すすがれてもよい。
【0239】
球形オルガノイド113は、典型的には直径100~300ミクロン(100~300μm)であることが理解される。この実施形態におけるオルガノイドチャンバ112は、直径1mmで深さ800ミクロン(800μm)である。好ましくは、オルガノイドチャンバ112は、オルガノイド113を快適に収容するように、そしてオルガノイド113を取り囲む充分な栄養補給流体の必要性を考慮して、直径が400ミクロン(400μm)以上である。しかしながら、以下を含むがそれらに限定されない他の重要な考慮事項が考慮される。自動化チップ120の縁部から突出するキャピラリ1112の「壁」の幅は、充分な構造強度を有し、オルガノイド113内に安全に挿入されることが可能な程度である。厚さ50~100ミクロン(50~100μm)の壁は、当該技術分野で公知のように、ガラス材料中でエッチングを使用してチップを製造するときに充分に強いので、好ましく使用されてもよい。試料抽出ナノチューブ297の所望の内径は、商業的に利用可能な費用対効果の高い製造方法を使用して製造するのに実行可能である必要があり、組織支持流体の効率的で妨げられないフローに対応しなければならない。50~100ミクロン(50~100μm)の内径が好ましくかつ安全に使用されてもよい。キャピラリ1112の先端の構造は、とりわけオルガノイド113内に繰り返し挿入されることを考慮すると、充分な堅牢性をそれに提供するために重要である。キャピラリ1112の先端の壁の断面は、好ましくは、その基部においてより堅牢であり、その先端においてより薄いが、好ましくは50~100ミクロン(50~100μm)以上である。
【0240】
本実施形態は、好ましくは、直径100~300ミクロン(100~300μm)のオルガノイド113を使用する。オルガノイドチャンバ112は、好ましくは内径が700ミクロン(700μm)~1mmであってもよい(本明細書に描かれる実施形態では1mm)。循環チャネル285の内径は、直径50~100ミクロン(50~100μm)であってもよい(本明細書に描かれる実施形態では100ミクロン(100μm))。構造体の「壁」は好ましくは100ミクロン(100μm)以上であり、キャピラリ1112の先端は好ましくはその狭い遠位端で100ミクロン(100μm)以上、好ましくはそのより太い近位端で300~500ミクロン(300~500μm)であってもよい。循環チャネル285は、その底部でオルガノイドチャンバ112に入る。他の好ましい実施形態では、循環チャネル285は、他の位置でオルガノイドチャンバ112に入ってもよい。自動化チップ120内のナノセンサウェルは、描かれる実施形態では100ミクロン(100μm)である。
【0241】
循環チャネル285内のフローを駆動するために使用されるポンプは、好ましくは圧電ポンプであってもよい。著しく小さいポンプが使用されてもよいので、ポンプの寸法は2mm×2mmであってもよい。試料抽出ナノチューブ297に流入する流体試料は、好ましくは、キャピラリ及びナノセンサウェルの排出物であってもよいように、ポンプなしで毛細管力によって駆動されてもよい。代替として、上記で説明されるものに類似するポンプが使用されてもよく、試験試料間でナノセンサウェルを洗い流すために使用されてもよい。
【0242】
上記のアーキテクチャを使用して、108個のヒューマノイド及び648個のオルガノイドを含むチップが構築されてもよく、これは約60mm×70mm×3mmの大きさになる。
【0243】
「2.化学センシングチップ」と指定された第2の図面は、この実施形態では、ヒューマノイド111の6つのオルガノイド113すべてを同時にサンプリングするように6つのナノセンサアレイを含む化学センシングチップ131の図を提供する。
【0244】
化学センシングチップ131の実装の一例を示す
図3Fをここで参照する。この好ましい実施形態では、化学センシングチップ131は、6つのそれぞれのオルガノイドチャンバ112内の化学物質を測定するように動作する6つの化学センサを含む。この好ましい実施形態では、各センサは、長さが1.1mmで合計幅が0.6mmの2つのプローブを含む。このプローブは、オルガノイドチャンバ112内に嵌合し、オルガノイドチャンバ112内の流体内に突出する。
【0245】
好ましい実施形態では、そのような各センサは、
図3Fに描かれるように、3つの電極を含む。センサの第1のプローブ上には、好ましくは金で作製されてもよい第1の電極があることが好ましい。第2のプローブ上には、好ましくは、2つの他の電極、好ましくは銀又は塩化銀で作製された第2の電極、及び好ましくは白金で作製された第3の電極があってもよい。センサの本体及びその2つのプローブは、好ましくはケイ素又は二酸化ケイ素で作製されてもよい。
【0246】
上記金電極は、好ましくは、標的化学物質と相互作用するように動作する「作用」電極として機能する。上記白金電極は、好ましくは「対」電極として機能してもよい。また、上記銀電極は、好ましくは「参照」電極として機能してもよい。
【0247】
対電極(白金)及び参照電極(銀)は、いくつかの「作用」(金)電極に共通であってもよいことが理解される。本発明の別の好ましい実施形態(図示せず)では、第1のプローブは、いくつかの別個のより小さい金作用電極を含み、より小さい金作用電極の各々は、異なる標的化学物質を検出するように動作し、単一の対電極及び単一の参照電極は、これらのより小さい金作用電極のすべてが共通である。このような実施形態では、単一の2プローブセンサユニットが、2種、又は3種、又は4種、又は5種、又は6種、又は7種、又は8種、又は9種、又は10種の異なる標的化学物質等、複数の標的化学物質を同定するように動作する。このような実施形態では、センサユニットは、1つの大きい金作用電極ではなく、複数の小さな金作用電極を含み、より小さい金作用電極の各々は、それぞれの標的化学物質を検出するように動作可能であり、より小さい金作用電極のすべては、単一の白金対電極及び単一の銀対電極と併せて動作する。
【0248】
本発明の好ましい実施形態では、センサの前面及び背面の2つの面は、その2つの面のそれぞれが、2つ又は3つ又は4つ又は5つの金作用電極と、単一の白金対電極と、単一の銀対電極とを含んでもよいように、利用されてもよく、これにより、センサデバイスは、4種、又は6種、又は8種又は10種の化学物質を同定するように動作してもよい。
【0249】
較正及びすすぎウェル300は、試験されるべき次のオルガノイドチャンバ112が、試験されたオルガノイドチャンバ112の前の組からの流体によって汚染されることを回避するように、測定が行われた後でかつ次の測定が行われる前に、化学センシングチップ131をすすぐために利用されてもよいことが理解される。
【0250】
循環チップ142の実装を示す、本発明の実装の一例を示す
図3Gをここで参照する。この好ましい実施形態では、循環チップ142は、ヒューマノイド111の6つのオルガノイドチャンバ112の間で流体をポンピングするように動作する。6つのオルガノイド113が、6つのそれぞれのオルガノイドチャンバ112の底部に見られる。この好ましい実施形態では、流体は左から右に流れており、
図3Gに表示される画像は、フローが左側から4つめまでのチャンバに達した時点を捉えている。実線の矢印は、左から4つめまでのオルガノイドチャンバ112への流体の流入及び流出を示し、破線の矢印は、第4のオルガノイドチャンバ112から先に向かう流体のフローの経路を示す。
【0251】
本発明の循環アーキテクチャを概略的に示す
図4をここで参照する。
【0252】
チップオンチップシステム100は、ヒューマノイド111内のそれぞれのオルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113へのマイクロ流体フローの2つの相補的な形態を含む。
【0253】
第1のタイプのマイクロ流体フローは、オルガノイドチャンバ112内の連続的な独立した能動的にポンピングされるフローである。これは、オルガノイド113の活力のために必要とされる必要なフロー誘発せん断力を提供する「オルガノイド内」フローである。これは、オルガノイド113間の接続とは無関係であり、以下のようにマルチヒトチップ110によって実行される。オルガノイドチャンバ112の各々は、関連するオルガノイドフローチューブ114と、オルガノイドチューブ嚢115とを有する。オルガノイドフローチューブ114及びオルガノイドチューブ嚢115は、異なる方法で実装されてもよい。
図4に描かれる本発明の1つの実施形態では、オルガノイドフローチューブ114は、オルガノイドチャンバ112から流体を流し、そしてオルガノイドチャンバ112に流体を流して戻すように動作する環状チューブである。この実施形態では、オルガノイドチューブ嚢115は、オルガノイドフローチューブ114の広がった部分であり、
図4では、オルガノイドチャンバ112の下にあるものとして描かれている。オルガノイドチューブ嚢115が、好ましくは蠕動運動(本明細書において以下に記載される)によって圧縮されると、流体は、オルガノイドフローチューブ114を通り、オルガノイドチャンバ112を通り、それを横切って環状に流れ、オルガノイド113にせん断力を加える。
【0254】
本発明の別の好ましい実施形態(図示せず)では、オルガノイドチューブ嚢115は、好ましくは、オルガノイドチャンバ112に隣接し、オルガノイドフローチューブ114によってオルガノイドチャンバ112に接続されるチャンバであってもよく、この実施形態では、オルガノイドフローチューブ114は、流体を前後に、つまりオルガノイドチャンバオルガノイドチャンバ112からオルガノイドチューブ嚢115へ、そしてオルガノイドチューブ嚢115からオルガノイドチャンバ112へ戻るように流すように動作する、環状チューブではなく線状(非環状)のチューブである。この実施形態では、このチャンバの底部(オルガノイドチューブ嚢115)は可撓性であり、従って、圧縮され(本明細書中以下で説明される)、解放されると、流体は、環状ではなく行き来する様式で、オルガノイドチャンバ112と隣接するチャンバ(この実施形態では、オルガノイドチューブ嚢115である)との間で流れる。このフローも、オルガノイドチャンバ112を横断しないが、依然として充分なせん断流刺激をオルガノイド113に加える。
【0255】
本発明の好ましい実施形態では、複数のオルガノイドチューブ嚢115は、好ましくは、圧縮軸402及びエンジンポンプ400によって駆動される圧縮ホイール(圧縮機翼車)404によって律動的に圧縮されてもよい。圧縮ホイール404、圧縮軸402、及びエンジンポンプ400はすべて、アクチュエータ150の一部であり、アクチュエータ150の基部にマルチヒトチップ110の直下にしっかりと配置され、その結果、圧縮ホイール404が上方に突出すると、複数のオルガノイドチューブ嚢115を圧縮し、これにより、対応するオルガノイドフローチューブ114及びオルガノイドチャンバ112を通して流体を駆動する。上記の代替実施形態(図示せず)では、圧縮ホイール404は、隣接する区画(この実施形態では、オルガノイドチューブ嚢115である)の可撓性底部を圧縮し、これにより、同様に、オルガノイド内フローを生成する。
【0256】
本発明の別の好ましい実施形態では、オルガノイドチューブ嚢115の圧縮は、圧縮ホイール404を回す圧縮軸402ではなく、他の手段によって、一例として突起を有する回転バンドによって作動されてもよく、このバンドの回転は、突起のそれぞれがオルガノイドチューブ嚢115と整列するので、オルガノイドチューブ嚢115の反復的圧縮を引き起こす。本発明の別の好ましい実施形態では、圧縮ホイール404又は摺動突起は、オルガノイドチューブ嚢115を直接押すのではなく、上下方向に拘束されたロッドを押してもよく、このロッドがオルガノイドチューブ嚢115を押す。
【0257】
第2のタイプのマイクロ流体フローは、ヒューマノイド111内の複数のオルガノイドチャンバ112を接続するフローであり、それゆえ、身体内の異なる器官を接続する心血管フローを模倣する「オルガノイド間」フローである。このフローは循環チップ142によって提供される。循環チップ142は、ヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112内に配置されたオルガノイド113間で流体の循環を行う体内の心血管循環を模倣するように構築され動作する。
図4に描かれる循環チップ142は、5本の循環チューブ204と、1本の長い循環チューブ205とを含んでいる。循環チューブ204の各1つは、流体を1つのオルガノイドチャンバ112から隣接するオルガノイドチャンバ112に流し、長い循環チューブ205は、流体をヒューマノイド111の最も右側のオルガノイドチャンバ112から最も左側のオルガノイドチャンバ112に流す。循環チップ142が6つのオルガノイドチャンバ112を有するヒューマノイド111に循環を提供する、
図4に描かれる実施例は、単なる例であり、限定することを意味せず、ヒューマノイド111は、異なる数のオルガノイドチャンバ112を含んでもよいことが理解される。
【0258】
本明細書中上記
図4で説明した循環ポンピングの動作を概略的に示す
図5をここで参照する。
【0259】
図5は、「側面図」及び「3D図」と指定された2つの図を含み、これらはまとめて循環ポンピングの動作を説明する。「側面図」と指定された説明図は、3つの時相を描く3つの図面を含む。圧縮ホイール404は同心的であり、それゆえ、圧縮ホイール404が回転すると、それはオルガノイドチューブ嚢115を圧縮し、オルガノイドフローチューブ114内にフローを生じさせることが理解される。「3D図」と指定された図は、エンジンポンプ400によって駆動される共通の圧縮軸402によって圧縮ホイール404の列をどのように一緒に回転させてもよいかを示す。
【0260】
ヒューマノイド111の短絡されたフローの一例を概略的に示す
図6をここで参照する。
【0261】
循環チップ142は、ユーザが所望するようにオルガノイドチャンバ112のいずれか1つの「短絡」又は迂回が可能になるように、オルガノイドチャンバ112間の流体のフローの経路選定の完全な制御をもたらすように設計され動作する。この短絡は、迂回チューブ600と、循環チューブ類、循環チューブ204及び長い循環チューブ205内のフローを制御する符号602~644と指定された複数の弁とによって達成される。
【0262】
図6は、短絡機能の一例を提供する。この例では、チップオンチップシステム100は、流体が肝臓オルガノイド646及び心臓オルガノイド648のオルガノイドチャンバ112のみを通って流れるが、このヒューマノイド111内の他のすべてのオルガノイドチャンバ112を迂回するように、ヒューマノイド111を通るフローを方向転換する。そのために、以下の弁、弁602、608、614、616、622、626、628、634、636及び642が開かれ、その他のすべての弁が閉鎖される。その結果、独特の方向転換された流路が作動され、その流路で流体が肝臓オルガノイド646のチャンバに流入し、そこから心臓オルガノイド648のチャンバに流入する一方で、ヒューマノイド111内の他のすべてのオルガノイドチャンバ112を迂回する。
【0263】
この例は、本発明の2つの別々の循環モードの重要性を示すことが理解される。
図6に示される短絡は、循環チップ142によって行われ、オルガノイドチャンバ112を接続する循環を変化させた。しかし、同時に、これらのオルガノイドチャンバ112の各々のオルガノイドフローチューブ114及びオルガノイドチューブ嚢115を通して行われるオルガノイドチャンバ112の各々の別個の循環は、不変のままである。これは、各オルガノイドチャンバ112内の不変のせん断流を依然として維持しながら、オルガノイド間フローが短絡されてもよいことを意味するので、重要である。
【0264】
上記は、単なる例として意図されており、限定することを意図していないことが理解される。本発明の好ましい実施形態では、迂回は、上で詳述したような完全な短絡によってではなく、断続的な短絡によって達成されてもよく、その結果、短絡されたオルガノイドチャンバへのせん断力及び栄養素を奪わないように、短絡されたオルガノイドチャンバへの最小限のフローが可能になるが、迂回されたオルガノイドへのフローは最小限に保たれる。別の好ましい実施形態では、弁は様々な程度に開かれてもよく、従って、「迂回された」オルガノイドチャンバへの弁はわずかに開いたままであり、「迂回された」オルガノイドチャンバへの連続的な制限されたフローを可能にするが、非迂回オルガノイドチャンバへの弁は完全に開いたままであり、これらの器官に完全なフローを与える。本発明のなお別の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバが受け取る流量を変化させることが、弁が開いている程度によってではなく、開いているチャネルの数によって制御されるように、複数の並行チャネルが存在する。
【0265】
本発明のなお別の好ましい実施形態では、フローが「迂回された」オルガノイドチャンバまで先細りになる程度は、化学センシングチップ等の診断チップ130の1つによってオルガノイド113の活力を監視することによって自律的に調整される。本発明の別の好ましい実施形態では、「迂回された」オルガノイドチャンバへのフローの先細りの程度は、対応するオルガノイド113の組織タイプに依存し、これは、異なる組織が異なるフローを必要とするのが好ましい場合があるためである。本発明の別の好ましい実施形態では、この短絡されたフローのメカニズムは、器官を一時的に短絡させるのではなく、オルガノイド113の組織タイプごとに適切なフローを調整するために使用される。本発明のなおさらに別の好ましい実施形態では、短絡されたフローは、組織タイプ一般にではなく、オルガノイド113の各事例に対してフローを調整するため、例えば、「肝臓」オルガノイド一般に対してではなく、むしろマルチヒトチップ110上の肝臓オルガノイドの各事例に対して流量を調整するために使用される。それは、肝臓オルガノイドの1つの事例は、好ましくは、肝臓オルガノイドの異なる事例とは異なるフローを必要としてもよいということであってもよい。
【0266】
この点において、本発明の重要な独特の新規性は、自律自己学習の能力であることが理解される。上記の好ましい実施形態からの異なるアーキテクチャを評価及び比較する場合、並びに好ましい実施形態を異なる組織タイプに適合させる場合、並びにシステムの「ランタイム」動作中に所与の組織のオルガノイドの異なる事例に微調整する場合のいずれにおいても、すべてのこれらの事例において、診断チップ130が、ディープマッチングエンジン170の強力な人工知能と組み合わせて使用されてもよく、好ましくは、組織オルガノイド113に最もよく働くフローを自律的に評価し、微調整し、最適化してもよい。
【0267】
ヒューマノイド111のオンチップ統合組織スケーリングの一例を概略的に示す
図7をここで参照する。
【0268】
当業者であれば、複数の臓器チップを単に接続することは、そのような各臓器チップが単独で効果的であっても、ヒト身体を効果的に表さないということを理解するであろう。これは、「臓器チップ」の各々が、異なる組織の異なる質量及び循環基準を反映するように異なるようにスケーリングされなければならないからである。一例として、類似のサイズ、例えば1000個の細胞を有する心筋オルガノイド700及び肝臓組織オルガノイド702は、その場合、一例として、心筋組織と比較して肝臓組織のより大きい質量及びはるかに大きい「循環曝露」を反映するように、ヒト身体を適切に表すために、それぞれ非常に異なってスケーリングされなければならない。
【0269】
現在の臓器チップシステムは、実験後の計算補正に頼ることによってこの課題に対処する初期の試みを行った。簡単に言えば、それらシステムは、生物学的実験を、それが高度に偏っていることを知りながら、臓器チップ上で単純に行い、次いでその偏りのいくらかをコンピュータで補正しようと試みる。そのような試みは、有益であるが、重大な欠陥がある。経験は、生物系が複雑であり、理論モデルにあまり適合しないことを示している。
【0270】
本発明は、オルガノイド個別循環及び短絡能力を利用して、計算微調整補正と統合されたオンチップ物理的スケーリングを提供する。
【0271】
図7は、オンチップスケーリングが、肝臓オルガノイド702が心臓オルガノイド700の2倍多く「循環曝露」を受けることを必要とする例を提供する。オルガノイド個別循環特徴は、これに対処するための重要な鍵である。というのは、各オルガノイド113はヒューマノイド111内の他のすべてのオルガノイド113に接続されると同時に、各オルガノイド113は他のオルガノイド113から完全に分離もされ、オルガノイド個別循環に連続的に供されるが、他のオルガノイド113とのその接続の完全な制御並びにその栄養素、クリアランス及び薬物暴露の完全な制御を伴うためである。従って、心臓オルガノイド700が受ける栄養素704、クリアランス706、及びmeds(薬物)708の量は、好ましくは、肝臓オルガノイド702が受ける栄養素710、クリアランス712及びmeds714とは適切に異なるように設定される。短絡能力は、同様に、この目的のために使用されてもよい。
【0272】
適切にスケールアップするために、異なる臓器を表す臓器チップを概してどのくらい多く補償する必要があるかを決定することは、当該技術分野で周知である。本発明の好ましい実施形態では、そのような補償は、ここでは、異なる臓器チップを通る差分「血液」フローのオンチップ物理的補正を生成するために利用され、単に実験後の計算調整を適用するのではない。本発明の好ましい実施形態では、調整の量は、ヒト身体内の既知の薬剤のPK/PDプロファイルをヒトチップ上のそれらのパターンに適合させることによってさらに微調整されてもよい。
【0273】
上記は、単なる例として意図されており、限定することを意図していないことが理解される。上述のように、差分フローは、種々の手段及び戦略によって達成されてもよい。
【0274】
本発明の好ましい実施形態に従って構築され動作する球形オルガノイド113のアーキテクチャの例、及び本発明の好ましい実施形態に従ってそのような球形オルガノイド113を作製する方法を概略的に示す
図8Aをここで参照する。
【0275】
オルガノイド113は、オルガノイド113の一種である。球体オルガノイド800は、オルガノイドチャンバ112内に配置されるか、又は形成させられる。本発明の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバは、球体オルガノイド800にぴったりと適合するように成形及びサイズ決定される。一例として、球体オルガノイドは、好ましくは、直径が100~300ミクロン(100~300μm)である球体であってもよく、従って、オルガノイドチャンバは、好ましくは、400~500ミクロン(400~500μm)の丸い被包有物に近いような形状、又は球体オルガノイド800の寸法及び形状に近いような他の寸法であってもよい。
【0276】
共通循環媒体は、オルガノイドフローチューブ114によってオルガノイドチャンバ112を通って連続的に流れ、ポンピング機構によって律動的に圧縮されるオルガノイドチューブ嚢115によってポンピングされる。この循環媒体は、循環チップ142によってヒューマノイド111内の他のオルガノイド113とも断続的に共有される。共通循環媒体は、球体オルガノイド800に栄養を与える機能と、球体オルガノイド800にせん断力を加え、それにより球体オルガノイドを活性化する機能との両方を果たす。
【0277】
オルガノイドチャンバ112内の流体のフローを実行するチューブの最適な寸法を選択することは、診断チップ130からのリアルタイム測定によって非常に容易になることが理解される。オルガノイドフローチューブ114及び循環チップ142のチューブ(循環チューブ204及び長い循環チューブ205)の両方の幅、圧力及び流速は、球状オルガノイド800に加えられるせん断力の量及び球状オルガノイド800が曝露される栄養素の量を決定する。加えられるせん断が大きすぎるか若しくは少なすぎる場合、又は充分な栄養素がフローによって提供されない場合、診断チップ130のリアルタイム測定に反映されるように、球形オルガノイド800の組織の活力は妨げられる。
【0278】
図8Aは、オルガノイド800をオルガノイドチャンバ112内に設置する好ましいプロセスを示し、このプロセスは、好ましくはアクチュエータ150の精密ロボット154によって実行される。本発明の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、当該技術分野で周知のように、最初に球体オルガノイド800(ここでは図示せず)を形成してもよい。球体オルガノイド800を作製する様々な方法は、当該技術分野で周知である。本発明の別の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、単細胞解像度3D印刷によることを含む3D印刷によって球体オルガノイド800を作製してもよく、又はそのようなプロセスによって、若しくは商業的に利用可能な他のプロセスによって外部で作製された球体オルガノイド800を受け取ってもよい。
【0279】
本発明の好ましい実施形態では、精密ロボット154は、チャンバ蓋804を開放し(このアクションはここでは図示せず)、これにより、球形オルガノイド800をオルガノイドチャンバ112に挿入するプロセスのために、オルガノイドチャンバを開放して「開放ウェル」として露出させる。
【0280】
「挿入前」と表題が付けられた右側の図は、「開放ウェル」オルガノイドチャンバ112の上方で、精密ロボット154の設置ノズル802によって保持され、オルガノイドチャンバ112内に配置される準備ができている球体オルガノイド800を描く。
【0281】
「挿入後」と表題が付けられた中央の図は、精密ロボット154の設置ノズル802によってオルガノイドチャンバ112内に配置された後の、オルガノイドチャンバ112内に配置された球体オルガノイド800を描く。
【0282】
「蓋閉鎖」と表題が付けられた左側の図は、中に球体オルガノイド800が入っているオルガノイドチャンバ112を封止するように配置されたチャンバ蓋804を描く。球体オルガノイド800をオルガノイドチャンバ112に挿入した後、精密ロボット154はチャンバ蓋804を閉じる。
【0283】
本発明の好ましい実施形態では、精密ロボット精密ロボット154は、各オルガノイドチャンバ112のチャンバ蓋804を閉じてもよい。本発明の別の好ましい実施形態では、チップオンチップシステム100は、チャンバ蓋804を使用せずに「開放ウェル」で動作する。本発明のさらに他の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバ112の設計は、好ましくは、オルガノイドチャンバ112が、オルガノイドチャンバ112の設置のために開放され、その後、オルガノイドチャンバ112の進行中の維持(例えば、循環チップ142及び化学センシングチップ131の使用)が隣接する接続されたウェルを通して行われることを除いて、閉鎖されるチャンバ蓋804を有するような設計である。この実装態様では、各オルガノイドチャンバ112は、オルガノイドチャンバ112が接続チューブによって接続される関連チャンバを有し、オルガノイドチャンバ112は、オルガノイド113が作製されオルガノイドチャンバ112に挿入された後、マルチヒトチップ110上での実験の継続時間を通して、そのチャンバ蓋804が閉じられたままであり、自動化チップ120とオルガノイドチャンバ112との相互作用のすべては、自動化チップ120が隣接する接続されたチャンバと相互作用することによって行われ、次いで、この隣接する接続されたチャンバは、重力流によって駆動される流体を交換する。
【0284】
本発明の好ましい実施形態では、球状オルガノイド800をオルガノイドチャンバ112に挿入する前に、マルチヒトチップ110は、好ましくは、オルガノイドチャンバ112を充填し、オルガノイドフローチューブ114からいかなる気泡も排出するように、オルガノイドチャンバ112に関連付けられたオルガノイドフローチューブ114を通して共通循環媒体を連続的に流す。本発明の好ましい実施形態では、このプロセスは、好ましくは、球体オルガノイド800がオルガノイドチャンバ112に挿入され、チャンバ蓋804が閉じられた後に繰り返されてもよい。共通循環媒体のこの第2のポンピングは、球状オルガノイド800が挿入された後にオルガノイドチャンバ112を完全に充填し、再びいかなる気泡もオルガノイドフローチューブ114から取り除く。
【0285】
精密ロボット154によって挿入される球体オルガノイド800の上記の説明は、単なる例として意図されており、限定することを意図していないことが理解される。本発明の別の好ましい実施形態では、球体オルガノイドは、最初に作製され、次いで、その中に全体が挿入されるのではなく、オルガノイドチャンバ112自体の中に形成されてもよい。このような実施形態では、異なる細胞型の所望の割合の所望の組織の細胞の適切な混合物が、球体オルガノイドチャンバ112に流し込まれ、当該技術分野で周知の方法を用いて、オルガノイドチャンバ112内で3Dスフェロイドが形成されるようにされる。一例として、オルガノイドチャンバ112の構築材料又はそのコーティングは、好ましくは、細胞がオルガノイドチャンバ112の表面に付着することを防止し、これにより凝集してスフェロイドを形成するようなものであってもよい。そのような細胞の混合物は、精密ロボット154及びインキュベータ156によって操作される開始チップ141の設置ノズル802を通って流されてもよい。
【0286】
オルガノイド113の灌流タイプのアーキテクチャの例を概略的に示す
図8Bをここで参照する。
【0287】
本発明の好ましい実施形態では、灌流型オルガノイドは、好ましくは膜形状であってもよく、多くの場合、2つの隣接する組織層を含み、これにより、ヒト体内の灌流部位を模倣する。灌流型オルガノイドの例としては、肺、腸、腎臓、及び血液脳関門(BBB)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0288】
具体的には、肺は、好ましくは、毛細血管上皮組織層に隣接する肺胞上皮組織層を含み、これにより肺の血液ガス灌流界面を模倣してもよく、腸は、好ましくは、毛細管上皮組織層に隣接する腸上皮組織層を含み、これにより胃腸栄養素吸収灌流界面を模倣してもよく、腎臓は、好ましくは、隣接するネフロン糸球体組織層に隣接する毛細血管上皮組織層を含み、これにより、腎分泌機能を模倣してもよく、血液脳関門は、好ましくは、脳関門組織に隣接する毛細血管上皮組織層を含み、これにより、血液脳関門灌流界面を模倣してもよい。
【0289】
図8Bは、本発明の好ましい実施形態に従って構築され動作する灌流オルガノイドユニット830を描く。明確にするために、3D図、並びに上面図及び側面図の両方が提供される。
【0290】
灌流オルガノイドユニット830は、ここではチャンバ-1 806及びチャンバ-2 808と指定された2つのチャンバを有するオルガノイドチャンバ112の一種であり、これらのチャンバは、それぞれオルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された2つの灌流オルガノイド832を含有する。本発明の好ましい実施形態では、灌流オルガノイド832は、平らな膜様の形態で形成され、それを通して灌流を可能にする組織である。
【0291】
膜816は、上述の2つの隣接するチャンバを分離する。膜816は、多孔性の弾性膜である。本発明の好ましい実施形態では、この膜は、好ましくは、2つの隣接する灌流オルガノイド832、オルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812が上に形成される足場としての役割を果たしてもよい。本発明の好ましい実施形態では、膜816は、これらの隣接する灌流オルガノイド832が膜上に形成された後、膜816が、次いで、灌流を調節するのは灌流オルガノイド832であるように、単に、膜を通した中断のない灌流を可能にするように構築され動作する。本発明の好ましい実施形態では、膜816は、当該技術分野で周知のように、充分に大きい細孔を有する合成の生物学的に不活性な膜であってもよい。本発明の別の好ましい実施形態では、膜816は、好ましくは灌流オルガノイド832がその側面に形成された後に崩壊する生分解性膜であってもよい。
【0292】
チャンバ-1 806は、オルガノイドフローチューブ114と関連付けられ、このオルガノイドフローチューブ114は、このチャンバ内で連続循環を提供する、すなわち、任意の「通常の」球形オルガノイドと同じく他のオルガノイドに接続されない。チャンバ-2 808は、図示されていない専用の二次ポンプによってポンピングされる二次循環814を含む。二次循環814は、オルガノイドフローチューブ114と構造が類似しており、好ましくは、同様の機構によって、又はオルガノイドフローチューブ114をポンピングし、
図4及び
図5を参照して上述した機構と同じ機構によってポンピングされてもよいことが理解される。
【0293】
以下は、灌流オルガノイド832のいくつかの例である。「肺」タイプの灌流オルガノイド832では、チャンバ-1 806は肺胞の空気側を表してもよく、オルガノイド-1 810は、肺胞組織であってもよい。チャンバ-2 808は血管を表してもよく、オルガノイド-2 812は、上皮組織であってもよく、酸素は、灌流オルガノイド832の2つの隣接する層を通過し、チャンバ-2 808の「血液」成分に吸収される。
【0294】
「腸」タイプの灌流オルガノイド832では、チャンバ-1 806は腸管腔を表してもよく、オルガノイド-1 810は腸壁組織であってもよい。チャンバ-2 808は、血管を表してもよく、オルガノイド-2 812は上皮組織であってもよく、消化された栄養素は、灌流オルガノイド832の2つの隣接する層を横断し、チャンバ-2 808の「血液」成分に吸収される。
【0295】
「腎臓」タイプの灌流オルガノイド832では、チャンバ-1 806は血管を表してもよく、オルガノイド-1 810は上皮組織であってもよい。チャンバ-2 808は、腎管腔を表してもよく、オルガノイド-2 812は糸球体組織であってもよく、尿濾過産物は、灌流オルガノイド832の2つの隣接する層を横断し、チャンバ-2 808の「尿」成分に排泄される。
【0296】
ADMEチップ143は、そのADMEチューブ206がチャンバ-2 808内のその定位置に下げられた状態で描かれている。一例として、
図8Bは、「腎臓」灌流オルガノイドユニット830のシナリオを描き、この図では、チャンバ-1 806は「血液」成分であり、チャンバ-2 808は「尿」成分である。この例では、ADMEチップ143のADMEチューブ206は、チャンバ-2 808内に降下され、このチャンバ内に蓄積した「尿」を吸引して除去し、腎臓から膀胱への尿の除去等のアクションを模倣する。ADMEチューブ206によって除去された流体は、収集、試験、又は廃棄されてもよい。
【0297】
本発明の重要な発明の態様は、膜816並びに灌流型オルガノイド-オルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812-が上下方向(竪型)であるということであることが理解される。これは以前には行われていない。すべての従来の装置において、灌流型オルガノイドの膜は水平に配置された。これは、細胞の重力による膜上の「沈降」を用いて組織を培養するのに水平配置が不可欠であると考えられていたためと、手動で取り扱う場合、とりわけ主なモニタリング手段が顕微鏡法である場合に水平配置がより便利であると思われるためである。本発明の好ましい実施形態では、膜816並びに灌流型オルガノイド-オルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812-は上下方向である。本発明のこの態様は、本発明のハイスループット能力を可能にする独特の利点を提供する。一例として、これは、精密ロボット154の上方から、両方の隣接する灌流チャンバへの自動化されたハイスループットアクセスを可能にする。
【0298】
灌流オルガノイドユニット830の伸張を概略的に示す
図8Cをここで参照する。
【0299】
1つ以上のPZT収縮器818が灌流オルガノイドユニット830の壁に内蔵され、膜816並びにオルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された灌流オルガノイド832が、1つ以上のPZT収縮器818の間で伸張されるようにされる。PZT収縮器818は、収縮又は変形するように動作し、これにより膜816並びにオルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された灌流オルガノイド832を伸張及び弛緩させるように動作する、小型圧電素子である。
図8Bにおいて、「天然状態」と表題が付けられた左側の図は、弛緩状態にあるPZT収縮器818の2つの要素を示し、従って、膜816並びにオルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された灌流オルガノイド832は、天然状態にあり、伸張されていない。
【0300】
「伸張された膜」と表題が付けられた右側の図では、PZT収縮器818の2つの要素が収縮し、これにより膜816並びにオルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された灌流オルガノイド832が伸張される。
【0301】
PZT収縮器818の機能は、異なるモードで実装されてもよいことが理解される。本発明の別の好ましい実施形態では、当該技術分野で公知のように、PZT収縮器818が膜816に織り込まれ、これにより膜を変形させ、たとえばドーム形状を形成し、これにより膜を伸張させてもよい。
【0302】
膜及び灌流オルガノイド832が律動的に伸張及び弛緩し、胃腸組織における蠕動運動、肺組織における呼吸等を模倣し、それらがそのような灌流オルガノイド832の透過性及びそれらの真の三次元組織活動性を効果的に模倣するのに重要であるように、コントローラ151は、マルチヒトチップ110上の複数の灌流オルガノイド832内の複数のPZT収縮器818を作動させてもよいことが理解される。
【0303】
灌流オルガノイド832のPZT駆動伸張及び弛緩のこの移植は、本発明にとって独自に新規であることが理解される。現在の臓器チップは、膜組織の伸張を用いるが、空気圧チャネルによってそのように駆動され、これはそのような蠕動を駆動するために外部空気圧デバイスを必要とする。本発明は、膜の伸張のために小型化され、自律的なオンチップ機構を使用するという点で独特である。この要素は、完全に自律的な、オールオンチップ、ハイスループット、真にスケーラブルな、ヒトオンチップシステム上で膜伸張を可能にするために必要な鍵であるということが理解される。
【0304】
開始チップ141及び精密ロボット154の両方による灌流オルガノイドの作製のモードを概略的に示す
図8Dをここで参照する。
【0305】
図8Dは、4つの図を含み、これらは合わせて、本発明の好ましい実施形態によると、灌流オルガノイドがどのように作製され、検証されるかを示す。この4つの図は、以下のそれぞれの4つの工程のシーケンスを描く。
【0306】
「1.組織を設置する-1」と表題が付けられ、任意の灌流オルガノイド832が灌流オルガノイドチャンバの中に設置される前の2つの隣接する空の灌流オルガノイドチャンバの初期状態を単純に示す
図8Dの第1の図をここで参照する。このデュアルチャンバは、チャンバ-1 806と指定された第1のチャンバと、チャンバ-2 808と指定された第2のチャンバとを含み、この第1の図では、第1のチャンバは上部に示され、第2のチャンバは下部に示されることに留意することが重要である。これらのチャンバは膜816によって隔てられている。循環流入810及び循環流出815は、チャンバ-1 806に接続される。
【0307】
符号822と指定されチャンバ-1 806の上部を密封するオルガノイドチャンバ蓋-1と、符号824と指定されチャンバ-2 808の底部を密閉するオルガノイドチャンバ蓋-2、の2つのオルガノイドチャンバ蓋がここに示されていることが理解される。これらのオルガノイドチャンバ蓋は、灌流オルガノイド832を作製するための機構の一部として機能し、それゆえ、理解を明確にするために、示されている。
【0308】
図8Dの「1.組織を設置する-1」と表題が付けられた第1の図をここで参照する。この第1の工程では、オルガノイドチャンバ蓋-1 822(図示せず)は、精密ロボット154によって除去され、これにより、チャンバ-1 806は「開放ウェル」になる。精密ロボット154は、設置ノズル802をチャンバ-1 806の開放ウェルの真上に置き、ここでは符号820と指定された組織-1-細胞流体を右側で膜816と直接接触しているチャンバ-1 806に注ぎ込む。
【0309】
膜816は、細胞が付着するのに最適な適切な多孔性表面を含む。そして、組織-1-細胞流体820は、従って、数日間(例えば、4日間)の好適な継続時間にわたってインキュベートされ、これにより、その中の細胞は、膜816に接着する薄い膜様組織に組織化することができ、また、これらの細胞が由来する天然のヒト組織と同様の形態及び生理機能が取得される。膜又は他の多孔性表面の上部でインキュベートされた細胞から膜様器官を形成することに関するすべての態様(そのいくつかは、この図を参照して本明細書中上記に記載される)は、当業者に周知であるので、簡潔に記載されるにすぎない。
【0310】
簡単にするために、2つのPZT収縮器818は示されていない。これは、それらの役割が
図8Cを参照して上記で論じられており、灌流オルガノイドの作製のプロセスの理解に関連しないためである。この第1段階では、「1.立てる」と表題が付けられた図に示されているように、両方の蓋が適所にあり、2つのチャンバの上部及び下部をそれぞれ閉じることが理解される。
【0311】
図8Dの「2.蓋を閉じる-1」と表題が付けられた第2の図をここで参照する。この工程では、オルガノイド-1 810と指定された組織の固体層が形成され、膜816に接着し、過剰の流体及び細胞の上清は、当該技術分野で周知のように、穏やかに洗い流されている。本発明の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、精密ロボット154によって操作される開始チップ141の設置ノズル802を通して行われてもよく、開始チップ141は、チャンバから過剰の流体を吸引及び洗浄するように動作可能である。オルガノイドチャンバ蓋-1 822は、チャンバ-1 806を閉鎖するように再装着される。最後に、マルチヒトチップ110は、好ましくは、チャンバ-1 806を充填し、チャネル及び二次循環からいかなる気泡も排出するように、循環及びチャネルを通して好適な流体媒体を連続的に流す。この工程の最終結果は、オルガノイド-1 810と指定された灌流オルガノイド830がチャンバ-1 806内で形成され、膜816に付着し、適切な循環流体によって囲まれていることである。
【0312】
図8Dの「3.組織を設置する-2」と表題が付けられた第3の図をここで参照する。この第3の工程では、オルガノイドチャンバ蓋-2 824は、精密ロボット154によって除去され、これにより、チャンバ-2 808は「開放ウェル」になる。精密ロボット154は、設置ノズル802をチャンバ-2 808の開放ウェルの真上に置き、ここでは符号826と指定された組織-2-細胞流体を左側で膜816と直接接触しているチャンバ-2 808に注ぎ込む。組織-2-細胞流体826は、数日間(例えば、4日間)の好適な継続時間にわたってインキュベートされ、これにより、その中の細胞は、膜816に接着する薄い膜様組織に組織化することができ、また、これらの細胞が由来する天然のヒト組織と同様の形態及び生理機能が得られる。
【0313】
図8Dの「4.蓋を閉じる-2」と表題が付けられた第4の図をここで参照する。この工程では、オルガノイド-2 812と指定された組織の固体層が形成され、膜816に接着し、過剰の流体及び細胞の上清は、当該技術分野で周知のように、穏やかに洗い流されている。本発明の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、精密ロボット154によって操作される開始チップ141の設置ノズル802を通して行われてもよく、開始チップ141は、チャンバから過剰の流体を吸引及び洗浄するように動作可能である。オルガノイドチャンバ蓋-2 824は、チャンバ-2 808を閉鎖するように再装着される。最後に、マルチヒトチップ110は、好ましくは、チャンバ-2 808を充填し、二次循環並びにチャネル860及び865からいかなる気泡も排出するように、循環及びチャネルを通して好適な流体媒体を連続的に流す。この工程の最終結果は、オルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された2つの灌流オルガノイド832が、チャンバ-1 806及びチャンバ-2 808内でそれぞれ形成され、膜816の両側に付着し、適切な循環流体によって囲まれていることである。
【0314】
「4.蓋を閉じる-2」と表題が付けられた図は、上記のプロセスによって形成された灌流オルガノイドの完全性の自動検証のための独特の方法であって、検証プロセスが以下のように実施される方法も示すことが理解される。この図が示すように、上記2つのチャンバは、符号892と指定されたチャンバ-1-膜検証センサと、符号894と指定されたチャンバ-2-膜検証センサとの2つの検証センサも含む(分かりやすくするために、上述の5つの図及び
図8Bには示されていない)。これらの2つのセンサは、好ましくは、膜を横断する電位降下を検出するように構築され動作する電極である。当該技術分野で周知のように、上記の方法において形成されたオルガノイド-2 812及びオルガノイド-1 810等の生物学的膜(生体膜)が欠陥のあるものであり、かつ/又は完全に形成されていない場合、これは、このようにして電位降下を測定することによって検出されてもよい。それゆえ、本発明は、マルチヒトチップ110上の灌流型オルガノイド113のそれぞれについて、これらのセンサ826及び828からの入力を自動的に検出及び分析する。重要なことに、ディープマッチングエンジン170は、オルガノイドの作製中にこれらのセンサからの入力を分析し、この評価によって灌流オルガノイド830が欠陥のあるものと判定された場合、ディープマッチングエンジン170は実験を再設計し、灌流オルガノイドが欠陥のあるものと判定されたオルガノイドを無視する。
【0315】
同様に、球体オルガノイド及び灌流オルガノイド832の両方について、リアルタイム細胞代謝センシングは、ミトコンドリア機能を含む組織の健康を示すオルガノイドの代謝産物を連続的に測定する。これらの測定値も、オルガノイド、球体オルガノイド及び灌流オルガノイド832の両方の作製中に、ディープマッチングエンジン170によって評価され、マルチヒトチップ110上の各オルガノイド113の「健康」が評価される。従って、良好に機能していないと評価されるオルガノイド113は、ディープマッチングエンジン170によって自動的に識別され、ディープマッチングエンジン170は、次いで実験を再設計し、これらのオルガノイドを無視する。
【0316】
自動オルガノイド検証の本発明のこの態様は、非常に重要かつ独特であることが理解される。マルチヒトチップ110は、好ましくは、数百ものオルガノイド113を含んでもよく、そして、かなりの量のオルガノイド(灌流及び球体の両方)が、実験の開始時に欠陥のあるものであることがしばしば見出され、さらに、いくつかのオルガノイドが、実験中、例えば、薬物の投与前に欠陥のあるものになることが当該技術分野で周知である。現在の臓器チップは、各オルガノイドを分析し、その健康を判定し、実験を自動的に再設計し、欠陥のあるものを無視し、関連する場合には、他のオルガノイドとの流体相互接続においてそれらを迂回する自動手段を有していない。これを手動で対処することは、手動のスタンドアロンの単一の臓器チップを用いた小規模な実験については、困難かつ時間がかかっても、可能である。しかしながら、そのような自動検証及び自動実験再計画がなければ、ハイスループットが不可能になることが理解される。
【0317】
膜又は他の多孔性表面の上部でインキュベートされた細胞からの膜様器官の形成、それらのインキュベーション、及びその後のリンス等に関するすべての態様(そのいくつかは、
図8Eの6つの図を参照して本明細書中上記で言及されている)は、当業者に周知であるので、簡潔にのみ言及されることが理解される。
【0318】
オルガノイド113の灌流型の作製及び検証を概略的に示す
図8Eをここで参照する。
【0319】
図8Eは、本発明の好ましい実施形態によれば、
図8Bの灌流オルガノイドがどのように作製され検証されるかをまとめて示す6つの図を含む。この6つの図は、以下のそれぞれの6つの工程のシーケンスを描く。
【0320】
「1.立てる」と表題が付けられ、任意の灌流オルガノイド832が灌流オルガノイドチャンバの中に設置される前の
図8Bの2つの隣接する空の灌流オルガノイドチャンバの初期状態を単純に示す
図8Eの第1の図をここで参照する。
図8Bと同様に、このデュアルチャンバは、チャンバ-1 806と指定された第1のチャンバと、チャンバ-2 808と指定された第2のチャンバとを含み、この第1の図では、第1のチャンバは上部に示され、第2のチャンバは下部に示されることに留意することが重要である。チャンバは膜816によって隔てられている。循環流入810及び循環流出815は、チャンバ-1 806に接続される。
【0321】
符号822と指定されチャンバ-1 806の上部を密封するオルガノイドチャンバ蓋-1と、符号824と指定されチャンバ-2 808の底部を密閉するオルガノイドチャンバ蓋-2、の2つのオルガノイドチャンバ蓋がここに示されていることが理解される。これらのオルガノイドチャンバの蓋は、灌流オルガノイド832を作製するための機構の一部として機能し、それゆえ、理解を明確にするためであった。
【0322】
簡単にするために、2つのPZT収縮器818は示されていない。これは、それらの役割が
図8Cを参照して上記で論じられており、灌流オルガノイドの作製のプロセスの理解に関連しないためである。この第1段階では、「1.立てる」と表題が付けられた図に示されているように、両方の蓋が適所にあり、2つのチャンバの上部及び下部をそれぞれ閉じることが理解される。
【0323】
図8Eの「2.組織を設置する-1」と表題が付けられた第2の図をここで参照する。この第2の工程では、先の図のオルガノイドチャンバ蓋-1 822は、精密ロボット154によって除去され、これによりチャンバ-1 806は「開放ウェル」になる。精密ロボット154は、設置ノズル802をチャンバ-1 806の開放ウェルの真上に置き、膜816の上部のチャンバ-1 806の中に、ここでは符号820と指定された組織-1-細胞流体を注ぎ込む。膜816は、細胞が付着するのに最適な適切な多孔性表面を含む。そして、組織-1-細胞流体820は、従って、数日間(例えば、4日間)の好適な継続時間にわたってインキュベートされ、それにより、その中の細胞は、膜816に接着する薄い膜様組織に組織化することができ、また、これらの細胞が由来する天然のヒト組織と同様の形態及び生理機能が得られる。膜又は他の多孔性表面の上部でインキュベートされた細胞から膜様器官を形成することに関するすべての態様(そのいくつかは、この図を参照して上記に記載される)は、当業者に周知であるので、簡潔に記載されるにすぎない。
【0324】
図8Eの「3.蓋を閉じる」と表題が付けられた第3の図をここで参照する。この工程では、オルガノイド-1 810と指定された組織の固体層が形成され、膜816に接着し、過剰の流体及び細胞の上清は、当該技術分野で周知のように、穏やかに洗い流されている。本発明の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、精密ロボット154の設置ノズル802を通して行われてもよく、本発明の別の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、循環チャネル300を通して行われてもよい。オルガノイドチャンバ蓋-1 822は、チャンバ-1 806を閉鎖するように再装着される。そして最後に、マルチヒトチップ110は、好ましくは、チャンバ-1 806を充填し、循環チャネル300からいかなる気泡も排出するように、共通の循環媒体を、
図3の循環チャネル300を通り、循環流入810及び循環流出815を通って連続的に流す。この工程の最終結果は、オルガノイド-1 810と指定された灌流オルガノイド830がチャンバ-1 806内で形成され、膜816に付着し、適切な循環流体によって囲まれていることである。
【0325】
図8Eの「3.反転」と表題が付けられた第4の図をここで参照する。この工程では、マルチヒトチップ110は、チャンバ-2 808を上に置くように、精密ロボット154によって反転(フリップ)される。
【0326】
図8Eの「5.組織を設置する-2」と表題が付けられた第5の図をここで参照する。この第5の工程では、先の図のオルガノイドチャンバ蓋-2 824は、精密ロボット154によって除去され、これにより、チャンバ-2 808は「開放ウェル」になる。精密ロボット154は、設置ノズル802をチャンバ-2 808の開放ウェルの真上に置き、ここでは符号826と指定された組織-2細胞流体を膜816の上部のチャンバ-2 808の中に注ぎ込む。膜816は、細胞が付着するのに最適な適切な多孔性表面を含む。そして、組織-2-細胞流体826は、従って、数日間(例えば、4日間)の好適な継続時間にわたってインキュベートされ、これにより、その中の細胞は、膜816に接着する薄い膜様組織に組織化することができ、また、これらの細胞が由来する天然のヒト組織と同様の形態及び生理機能が得られる。
【0327】
図8Eの「6蓋を閉じる-2」と表題が付けられた第6の図をここで参照する。この工程では、オルガノイド-2 812と指定された組織の固体層が形成され、膜816に接着し、過剰の流体及び細胞の上清は、当該技術分野で周知のように、穏やかに洗い流されている。本発明の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、精密ロボット154の設置ノズル802を通して行われてもよく、本発明の別の好ましい実施形態では、過剰の流体及び細胞の洗浄は、好ましくは、二次循環並びにチャネル860及び865を通して行われてもよい。オルガノイドチャンバ蓋-2 824は、チャンバ-2 808を閉鎖するように再装着される。そして最後に、マルチヒトチップ110は、好ましくは、チャンバ-2 808を充填し、二次循環並びにチャネル860及び865からいかなる気泡も排出するように、好適な流体媒体を、二次循環並びにチャネル860及び865を通って連続的に流す。この工程の最終結果は、オルガノイド-1 810及びオルガノイド-2 812と指定された2つの灌流オルガノイド832がチャンバ-1 806及びチャンバ-2 808においてそれぞれ形成され、膜816の両側に付着し、適切な循環流体によって囲まれていることである。
【0328】
「6.蓋を閉じる-2」と表題が付けられた図は、上記のプロセスによって形成された灌流オルガノイドの完全性の自動化された検証のための独特の方法であって、検証プロセスが以下のように実施される方法も示すことが理解される。この図が示すように、上記2つのチャンバは、符号892と指定されたチャンバ-1-膜検証センサと、符号894と指定されたチャンバ-2-膜検証センサとの2つの検証センサも含む(分かりやすくするために、上述の5つの図及び
図8Bには示されていない)。これらの2つのセンサは、好ましくは、膜を横断する電位降下を検出するように構築され動作する電極である。当該技術分野で周知のように、上記の方法において形成されたオルガノイド-2 812及びオルガノイド-1 810等の生物学的膜が欠陥のあるものであり、かつ/又は完全に形成されていない場合、これは、このようにして電位降下を測定することによって検出されてもよい。それゆえ、本発明は、マルチヒトチップ110上の灌流型オルガノイド113のそれぞれについて、これらのセンサ826及び828からの入力を自動的に検出及び分析する。重要なことに、ディープマッチングエンジン170は、オルガノイドの作製中にこれらのセンサからの入力を分析し、この評価によって灌流オルガノイド830が欠陥のあるものと判定された場合、ディープマッチングエンジン170は実験を再設計し、灌流オルガノイドが欠陥のあるものと判定されたオルガノイドを無視する。
【0329】
同様に、球体オルガノイド及び灌流オルガノイド832の両方について、リアルタイム細胞代謝センシングは、ミトコンドリア機能を含む組織の健康を示すオルガノイドの代謝産物を連続的に測定する。これらの測定値も、オルガノイド、球体オルガノイド及び灌流オルガノイド832の両方の作製中に、ディープマッチングエンジン170によって評価され、マルチヒトチップ110上の各オルガノイド113の「健康」が評価される。従って、良好に機能していないと評価されるオルガノイド113は、ディープマッチングエンジン170によって自動的に識別され、ディープマッチングエンジン170は、次いで、これらのオルガノイドを無視して実験を再設計する。
【0330】
自動オルガノイド検証の本発明のこの態様は、非常に重要かつ独特であることが理解される。マルチヒトチップ110は、好ましくは、数百のオルガノイド113を含んでもよく、そして、かなりの量のオルガノイド、灌流及び球体の両方、が、実験の開始時に欠陥のあるものであることがしばしば見出され、さらに、いくつかのオルガノイドが、実験中、例えば、薬物の投与前に欠陥のあるものになることが当該技術分野で周知である。現在の臓器チップは、各オルガノイドを分析し、その健康を判定し、実験を自動的に再設計し、欠陥のあるものを無視し、関連する場合には、他のオルガノイドとの流体相互接続においてそれらを迂回する自動手段を有していない。これを手動で対処することは、手動のスタンドアロンの単一の臓器チップを用いた小規模な実験については、困難かつ時間がかかっても、可能である。しかしながら、そのような自動検証及び自動実験再計画がなければ、ハイスループットが不可能になることが理解される。
【0331】
膜又は他の多孔性表面の上部でインキュベートされた細胞からの膜様器官の形成、それらのインキュベーション、及びその後のリンス等に関するすべての態様(そのいくつかは、
図8Eの6つの図を参照して本明細書中上記で言及されている)は、当業者に周知であるので、簡潔にのみ言及されることが理解される。
【0332】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、細胞混和物を含む流体は、チャンバ-1 806及びチャンバ-2 808に入れられ、それらの後続のすすぎ(リンスアウト)は、それぞれの蓋822及び824を開放し、精密ロボット154及びその設置ノズルによって流体を注入し、その後排出することによって行われるのではなく、これは、好ましくは、マイクロ流体チャネルを通してこれらのチャンバにその流体を流し込み、充分にインキュベートした後に同じチャネルを通してそれらをすすぐことによって行われてもよい。
【0333】
合わせて、本発明に従って構築され動作するヒューマノイド111のアーキテクチャの一例を概略的に示す
図9A及び
図9Bをここで参照する。
【0334】
本発明のヒューマノイド111は、ユーザの好みに応じて、かつ求める実験の目的に適合するように柔軟に構築されてもよい。以下は、ヒューマノイド111の典型的な可能なアーキテクチャの一例であり、その異なる構成要素及び考慮事項の説明である。
【0335】
ヒューマノイド111は、「球体」又は「灌流」型であってもよいオルガノイド113のそれぞれの組を含む一組のオルガノイドチャンバ112から構成される。オルガノイド113及びそれらのそれぞれのオルガノイドチャンバ112はモジュール式であり、従って、多くの異なるヒューマノイド111が、ヒューマノイド111に含まれるべきオルガノイド113の組織型及びそれらの配列を選択することによって、本発明に従って実装されてもよい。
【0336】
図9Aは、本発明に従って構築され動作し、以下の9つの要素を含む、マルチヒトチップ110上のヒューマノイド111の一例を示す:(i)「肺」と指定された「肺型」灌流オルガノイドユニット830;(ii)「GI」と指定された「腸型」灌流オルガノイドユニット830;(iii)「肝臓」と指定された「肝臓型」オルガノイドチャンバ112;(iv)「肝臓」と指定された「心臓型」オルガノイドチャンバ112;(v)「腎臓」と指定された「腎臓型」灌流オルガノイドユニット830;(vi)「bbb」と指定された「bbb型」灌流オルガノイドユニット830;(vii)脳と指定された「脳型」オルガノイドチャンバオルガノイドチャンバ112;及び「全身チャンバ」。
【0337】
上記の灌流オルガノイドユニット830は、以下のように、身体の吸収及び排出を模倣し、脳送達を支持するのに重要であることが理解される。「肺」灌流オルガノイドユニット830は、吸入による吸収を模倣し、吸入された内容物は、その左区画に入り、血流を模倣するその右区画に吸収される。「GI」灌流オルガノイドユニット830は、胃腸吸収を模倣し、摂取された内容物は、その左区画に入り、血流を模倣するその左区画に吸収される。「腎臓」灌流オルガノイドユニット830は糸球体排出を模倣し、その左区画は、身体の血流内容物を模倣し、これは次いで、糸球体組織によって濾過され、その左区画に排出される。そして、「bbb」灌流オルガノイドユニット830は、血液脳関門を模倣し、その左区画は、身体の血流内容物を模倣し、これは次いで、脳循環を反映するその右区画に選択的に濾過される。
【0338】
「肝臓」オルガノイドチャンバ112も重要である。というのは、「肝臓」オルガノイドチャンバ112は、体内で行われるように、それを通過する循環内容物を代謝するからである。「脳」は、目下の特定の研究にとって興味深い特定の脳組織及び/又は遺伝子座を含んでもよい。組織-Xは、ユーザが含むことを選択してもよい別の組織である。
【0339】
全身チャンバは、その中にいかなるオルガノイドも含まないチャンバであり、体内の「末梢血採血」を模倣し、特定のオルガノイド113から試料を採取するか否かのさらなる決定がなされる基礎となる「スクリーニング」の手段として使用されてもよい。チップオンチップシステム100は、これまでにない規模で大規模な反復検査を実行するように動作するが、「全身チャンバ」から「事前スクリーニング」試料を採取し、これらの結果に基づいて、さらなる検査が正当化されるかどうかを決定することは劇的な利点である。そうすることは、行われる試験の量を劇的に低減する可能性があり、従って非線形スケーリング及びコスト削減をさらにサポートする。この能力を利用するための第1の例として、ヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112のすべてからの複合試料を反映する「全身チャンバ」からの試料が乳酸の上昇を示す場合、これは、それらのうちのいずれが乳酸の上昇を有するかを決定するためにそのヒューマノイド111のオルガノイドチャンバ112のすべてからの試料の採取を促してもよい。別の例として、「全身チャンバ」からの試験が、可能性のある高レベルの1つ以上の肝臓酵素を示す可能性がある結果をもたらす場合、生きている人における全身血液検査と同様に、これは、この異常を確認、検証、及び定量化するために肝臓オルガノイドチャンバ112から専用試料を採取することを促してもよい。
【0340】
それゆえ、本発明のチップオンチップシステム100の重要な利点は、実験設計及び必要条件に応じてヒューマノイド111の構成を定義する際の柔軟性である。
図9Aに提供される例は、摂取及び排出の主な形態を包含するが、これは、他の関与する組織の数を犠牲にする。一例として、特定の実験は、肝臓代謝と結びついた(例えば、肺、腎臓、bbbなしの)腸単独使用のみで精密であり、これにより多くの追加の標的組織を含む余地を残すことが可能になる。
【0341】
本発明に従って構築され動作するヒューマノイド111のアーキテクチャの一例を概略的に示す
図9Bをここで参照する。
【0342】
図9Bは、
図9Aによって説明されたマルチヒトチップ110上のヒューマノイド111を示すが、この図では循環チップ142とのその相互作用を追加する。
【0343】
図9Bは、8つの循環チューブ204及び1つの長い循環チューブ205が循環チップ142及び精密ロボット154によってどのように使用されて、ヒューマノイド111のすべてのオルガノイド113を、体内の心血管循環を模倣する1つの循環に連結するかを示す。一例として、
図9Bは、経口摂取され、腸によって血流に吸収され、肝臓「初回通過」を模倣する様式で肝臓に到達し、肝臓によって代謝され、次いで、腎臓によって濾過及び排出され、最終的に、重要ないくつかの標的組織に到達する、薬物208のプロセスをヒューマノイド111がどのように模倣するかを描く。
【0344】
図9Bは、オルガノイドチャンバ112及び灌流オルガノイドユニット830の各1つが「オルガノイド内」循環、すなわち、オルガノイドフローチューブ114を通り(オルガノイドチャンバ112の場合)、オルガノイドフローチューブ114及び二次循環814を通る(灌流オルガノイドユニット830の場合)内部独立オルガノイド特異的フローにどのように供されるかも示す。
【0345】
ヒューマノイド111のアーキテクチャは柔軟であり、オルガノイドチャンバ112のみ、又は灌流オルガノイドユニット830のみ、又はこれらの任意の組み合わせを含んでもよいことが理解される。
【0346】
チップオンチップシステム100の統合された吸収及び投与の例を概略的に示す
図10Aをここで参照する。
【0347】
チップオンチップシステム100は、ヒトの吸収/投与、分布、代謝及び排出(ADME)をシミュレート及び模倣するように設計され動作することが理解される。
図10Aは、吸収及び投与の3つの例を示す。
【0348】
全身投与1010と指定された第1の使用事例は、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して全身チャンバ1012に栄養素又は薬物208を投与することを含む。これは、薬物208の全身動静脈投与を模倣する。というのは、薬物208は、腸等を介した吸収を必要とすることなく、循環チップ142を介してヒューマノイド111の他のすべてのオルガノイド113に分配されるからである。
【0349】
経口投与1020と指定された第2の使用事例は、経口投与を模倣することを示す。薬物208は、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して、「GI」と指定された「腸型」灌流オルガノイドユニット830内に、腸管腔を模倣する1022と指定されたその左区画内に投与される。次いで、薬物208は、ともにGIオルガノイドユニット830の胃腸膜及び隣接する毛細血管上皮を横切って、腸血管を模倣する1024と指定された右区画に吸収される。
【0350】
ヒト身体内に経口投与される薬物208は、最初に腸を通って血流に吸収され、次いで肝臓に循環し、そこで代謝され、これが「初回通過」代謝として知られるプロセスであることが理解される。同様に、チップオンチップシステム100では、薬物208は、灌流型GI灌流オルガノイドユニット830によって吸収され、次いで、循環チップ142によって提供される循環を通って、「肝臓」と指定された球体型肝臓オルガノイド113に流れ、そこで薬物208は実際に、この三次元肝臓組織によって代謝され、その後、ヒューマノイド111の他の「組織」に循環し続ける。
【0351】
吸入投与1030と指定された第3の使用事例は、吸入投与を模倣することを示す。薬物208は、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して、「肺」と指定された「肺型」灌流オルガノイドユニット830内に、換気肺胞腔を模倣する1032と指定されたその左区画内に投与される。次いで、薬物208は、ともに肺オルガノイドユニット830の肺胞膜及び隣接する毛細血管上皮を横切って、肺胞血管を模倣する1034と指定された右区画に吸収される。次いで、薬物208は、循環チップ142によって提供される循環を通って、ヒューマノイド111の他の「器官」に流れる。
【0352】
チップオンチップシステム100の統合された排出の例を概略的に示す
図10Bをここで参照する。
【0353】
「尿排出」1040と指定された第1の使用事例は、尿排出を模倣することを示す。薬物208及びその薬物代謝産物は、循環チップ142によって提供される循環を通って流れ、従って、「腎臓」と指定された「腎臓型」灌流オルガノイドユニット830に入り、1042と指定されたその左区画に入る。次いで、この薬物208及びその代謝産物は、ともに腎臓灌流オルガノイドユニット830の毛細血管上皮及びネフロン糸球体の隣接層を横断して、腎管腔を模倣する1044と指定されたその右区画に拡散し、次いで、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して排出され、関連するものとして収集、廃棄、又は分析されてもよい。
【0354】
「GI排出」1050と指定された第2の使用事例は、胃腸排出を模倣することを示す。薬物208及びその薬物代謝産物は、循環チップ142によって提供される循環を通って流れ、従って、「GI」と指定された「GI型」灌流オルガノイドユニット830に入り、1052と指定されたその右区画に入る。次いで、この薬物208及びその代謝産物は、ともにGI灌流オルガノイドユニット830の毛細血管上皮及び隣接する胃腸膜を横断して、胃腸管腔を模倣する1054と指定されたその左区画に拡散し、次いで、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して排出され、関連するものとして収集、廃棄、又は分析されてもよい。
【0355】
「肺排出」1060と指定された第3の使用事例は、肺排出を模倣することを示す。薬物208及びその薬物代謝産物は、循環チップ142によって提供される循環を通って流れ、従って、「肺」と指定された「肺型」灌流オルガノイドユニット830に入り、1062と指定されたその右区画に入る。次いで、この薬物208及びその代謝産物は、ともに肺灌流オルガノイドユニット830の毛細血管上皮及び隣接する肺胞膜を横断して、換気肺胞腔を模倣する1064と指定されたその左区画に拡散し、次いで、ADMEチップ143のADMEチューブ206を通して排出され、関連するものとして収集、廃棄、又は分析されてもよい。
【0356】
チップオンチップシステム100の並行ADME機能を概略的に示す
図10Cをここで参照する。
【0357】
図10Cは、本発明のADMEチップ143のADMEアクションの各々が、符号1070と指定された「異なるヒューマノイドからの同じ組織型」である複数の灌流オルガノイドユニット830上で同時にどのように好ましく実行されてもよいかを示す。
【0358】
図10Cは、符号1071~1076と指定された6つのそれぞれの灌流オルガノイドユニット830の区画に降下され、同時にそこから流体を抽出する、ADMEチップ143の6つのADMEチューブ206を描く。一例として、1071~1076と指定された灌流オルガノイドユニット830が「腎臓」タイプである場合、
図10Cは、ADMEチップ143がこれらの6つのユニットから尿を同時に除去する方法を示す。
【0359】
マルチヒトチップ110、自動化チップ120及びアクチュエータ150はすべて、自動化チップ120が、複数のヒューマノイド(ヒューマノイド111内の複数のオルガノイドチャンバ112に対してアクションを実行するために特に指定される、循環チップ142のようなチップ以外のもの)に対して同時にアクションを実行してもよいように設計されることが理解される。
【0360】
本発明に従って構築され動作する化学センシングチップ131のいくつかの好ましい実施形態を概略的に示す
図11Aをここで参照する。
【0361】
図11Aは、本発明が、オルガノイドチャンバ112内の流体又はその中のオルガノイド113のナノセンサベースの化学分析を行う様式に関する、本発明の異なる実施形態を示す。
【0362】
「好ましい実施形態」と指定された図面は、化学センシングチップ131の好ましい実施形態の概略図を提供する。この好ましい実施形態では、プローブ1100は、その一部分が上清流体中に浸漬されるようにオルガノイドチャンバ112に挿入される。プローブ1100は中実であり、キャピラリではない。好ましくは、プローブ1100のセグメントは、1つ以上のナノセンサ1102でコーティングされ、このプローブは、これらの1つ以上のナノセンサ1102が上清流体中に浸漬されるように配置される。本発明の好ましい実施形態では、表面又はプローブ上にナノコーティングすることによって装着(付与)される電気化学ナノセンサ等の複数のナノセンサ1102が、好ましくは、同じ区画内で使用されてもよく、ナノセンサ1102の各1つは、異なる標的化学物質のレベルを示してもよい。いずれも当該技術分野で周知のように、そのような電気化学センサはそれぞれ、標的化学物質を、その電荷を通して直接、又はセンサを所望の化学物質に特異的にする、電極上にコーティングされた膜、若しくは電極を所望の標的化学物質の検出に特定的にする酵素によってコーティングされる膜と併せてのいずれかで、検出するように動作してもよい。
【0363】
複数のそのような異なる電気化学センサは、センサのそれぞれに電気的に対合され、従って、これらの異なるセンサに「共通」である、単一の「第2の電極」を利用してもよいことが理解される(電気的に対合されるとは、この共通の電極が、異なる電気化学ナノセンサの各々とそれぞれ電気化学回路を閉鎖するように、異なる電気化学ナノセンサの各々に対合されることを意味する)。
【0364】
本発明の別の好ましい実施形態では、単一の電気化学ナノセンサが、好ましくは、複数の異なる化学物質を同定するために使用されてもよく、これに関して、異なる化学物質のレベルの範囲は一般に公知である。一例として、単一の電気化学ナノセンサは、生物学的流体中の2つの化学物質の各々の生理学的範囲を考慮することによって、それらの電気化学電荷が類似している場合であってもその2つの化学物質を区別するように動作してもよい。一例として、Na+が所与の生物学的媒体中で見出されることが予想される濃度の予想範囲が、K+がその所与の生物学的媒体中で見出されることが予想される濃度の範囲よりも何倍も高い場合、当該技術分野で周知のように、センサの読み取り値から、2つの化学物質を「仮に」識別することを自動的に「推論」することが可能である。
【0365】
図11Aは、本発明の他の好ましい実施形態に係る、使用されてもよい化学センシングチップ131の、「他の実施形態」と指定された、さらなる構成をさらに示す。
【0366】
「#1」と指定された図面は、試料試験プローブの第1の好ましい実施形態の概略図を提供する。分析器ナノセンサチップ1100に接続されたキャピラリ1112が、その先端が上清流体に浸漬されるように、オルガノイドチャンバ112に挿入される。毛細管力は、流体をキャピラリ1112の中に引き込み、それを分析器ナノセンサチップ1100内に含まれるナノセンサ及び/又はセンサアレイに駆動する。試料が試験された後、及び後続の試料を試験する前の、キャピラリの洗浄及び浄化は、好ましくは、同様に表面張力を活用することによって、例えば、キャピラリ及び分析器ナノセンサチップ1100から流体を引き出す多孔質表面(スポンジ、ペーパータオル等)とキャピラリの開放先端を接触させることによって行われてもよい。キャピラリ1112は、好ましくは単一のキャピラリ(図示せず)であってもよいし、又はキャピラリ1112は、好ましくは、複数のサブキャピラリに分岐し、従って、さらに毛細管力を使用して、流体を分析器ナノセンサチップ1100内に含まれる複数のセンサに駆動してもよい。分岐する副キャピラリは、好ましくは、主キャピラリよりも細くてもよい。
【0367】
「#2」と指定された図面は、試料試験プローブの第2の好ましい実施形態の概略図を提供する。この好ましい実施形態では、1つ以上の蛍光ベースのナノセンサ1120は、オルガノイドチャンバ112の底部の内面に固定されるか、又はオルガノイドチャンバ112内の流体中で自由に浮遊する。蛍光ベースのナノセンサ1120は、好ましくは、蛍光ビーズ若しくは蛍光コーティング、又は他の蛍光ベースのナノセンサを含んでもよく、酸素又は他の生物学的に関連する化学物質のレベルを検出するように動作してもよい。光検出器1122は、当該技術分野で周知のように、蛍光ベースのナノセンサ1120から放出され、それらが検出するように動作する化学物質を示す光の量を検出するために使用される。この光検出器は、アクチュエータ150によって自動的に作動される。ナノセンサ1102がオルガノイドチャンバ112の底部内面に固定される場合、重力によって、オルガノイド113は、それらと直接接触するか、又はそれらに近接し、より正確な読取値を与える可能性が高いことが理解される。
【0368】
「#3」と指定された図面は、試料試験プローブの第3の好ましい実施形態の概略図を提供する。この好ましい実施形態では、キャピラリ1134が使用されるが、キャピラリ1134は、分析器ナノセンサチップ1100に接続するのではなく、その遠位端において、複数のナノセンサ1132が含まれるナノセンサ空洞1130に広がる。一例として、ナノセンサ1132は、ナノセンサ空洞1130の内面上にナノコーティングされてもよい。この第3の実施形態の利点は、ナノセンサが上清流体に挿入されないことであることが理解される。当該技術分野で周知のように、いくつかのナノセンサは、流体の中へイオンを放出する可能性があり、従って、それらが試験している生体液に害を及ぼし、かつ/又は別の態様で影響を及ぼす可能性がある。それゆえ、この第3の実施形態は、この単純なプローブ設計を使用するが、流体は、ナノセンサ空洞1130内に引き込まれ、そこで、オルガノイドチャンバ112及びその流体の外部でナノセンサ1132と相互作用する。
【0369】
本実施形態は、論理的に「#1」と指定された第1の実施形態とあまり異ならないが、実用的な構造には重要な違いがあることがさらに理解される。この第3の実施形態は、最も単純であり、単にキャピラリの端部で広がる「空洞」であり、1つ以上のナノセンサ1132は、好ましくは、空洞内にコーティングされるか又は別様に埋め込まれてもよい。
【0370】
「#4」と指定された図面は、試料試験プローブの第4の好ましい実施形態の概略図を提供する。この好ましい実施形態では、可撓性プローブ1140が使用される。1つ以上のナノセンサ1142は、可撓性プローブ1140の対応するセグメント上にコーティングされる。本発明の好ましい実施形態によれば、可撓性プローブ1140は、それが、好ましくは「ゆらめき(フラップし)」、オルガノイド113との接触を達成し、これにより、その上にコーティングされたナノセンサ1142を、オルガノイド113の細胞と直接接触させるか又はそれに非常に近接させるように設計される。光検出器1144は、酸素及び他の生物学的に関連する化学物質の検出等のために、蛍光ナノセンサと併せて使用されてもよい。
【0371】
上記の実施形態は例としてのみ提供され、これらの組み合わせが好ましく使用されてもよいことが理解される。一例として、本発明の好ましい実施形態では、好ましくは、実施形態「#4」の可撓性プローブ1140は、蛍光性であるナノセンサ1142、及び/又はイオンを著しくは放出せず、従って、試験試料に有意に影響を及ぼすことなく試験試料に安全に浸漬されてもよい他のナノセンサ1142とともに使用されてもよく、この際、可撓性プローブ1140の「弛み」は、蛍光センサとオルガノイド113自体との物理的接触、又はその近接を達成する。これは、好ましくは、実施形態「#3」の態様と併せて使用されてもよく、電気化学センサが、キャピラリ1134の遠位端のナノセンサ空洞1130内で使用されてもよく、その結果、これらの電気化学センサは、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113を取り囲む上清流体に浸漬されず、それに影響を与えない。
【0372】
本発明の上記の実施形態のすべてにおいて、ナノセンサは、当該技術分野で周知のように、一例として酸素及び他の生物学的に関連する化学物質のレベルの検出のための1つ以上の蛍光ベースのセンサ(実施形態「#2」のものと同様)も含んでもよいことが理解される。光検出器1212は、蛍光ベースのセンサから放出される光の量を検出するために使用され、この光検出器は、好ましくは、プローブ1100の一部でなくてもよく、アクチュエータ150によって自動的に操作される。
【0373】
リアルタイム細胞センシングのアーキテクチャを概略的に示す
図11Bをここで参照する。
【0374】
化学センシングチップ131は、リアルタイム細胞代謝センシングを可能にし、これは本発明の独特の利点である。
図11Bは、リアルタイム細胞代謝センシングを可能にする独特の機能的及びアーキテクチャ的概念を説明する。
【0375】
図11Bは、本発明のマルチヒトチップ110及び化学センシングチップ131のいくつかの重要な特性の間の相互作用の抽象化された説明図を提供する。明確にするために、提供される例は、球体型のオルガノイド113であるが、同じことが灌流オルガノイド又は他のタイプのオルガノイドにも当てはまることが理解される。
【0376】
オルガノイドチャンバ1150の容積は、オルガノイドチャンバ112内の容積からオルガノイド113の体積を引いたものに等しい。嵌まり込みがきついほど、オルガノイドチャンバ1150の容積は小さくなる。一例として、オルガノイド113は、典型的には、非常に小さく、例えば、直径100~300ミクロン(100~300μm)であってもよい。従って、オルガノイドチャンバ112は、オルガノイド113を収容するのに充分でありながら、本明細書で後述するさらなる要因を考慮しながら、実施可能な限り小さいように設計され製作される。一例として、オルガノイドチャンバ112の直径が1ミリメートル未満である場合、オルガノイドの直径が100~300ミクロン(100~300μm)であると仮定すると、オルガノイドチャンバ1150の容積は、オルガノイドチャンバ112がはるかに大きい、例えば4ミリメートルの場合とは対照的に、非常に小さい。
【0377】
一例として、本発明の好ましい実施形態では、オルガノイドは典型的に直径100~300ミクロン(100~300μm)であってもよく、オルガノイドチャンバは400ミクロン(400μm)又は500ミクロン(500μm)又は1000ミクロン(1000μm)であってもよい。従って、このような実施形態では、オルガノイドチャンバの容積とオルガノイドの体積との比は、2.8(500ミクロンチャンバ対300ミクロンオルガノイド)、25(500ミクロンチャンバ対100ミクロンオルガノイド)、11(1000ミクロンチャンバ対300ミクロンオルガノイド)、又は100(1000ミクロンチャンバ対100ミクロンオルガノイド)である。
【0378】
試料チューブ1158の容積は、オルガノイドチャンバ112からナノセンサチャンバ1154に至るまでのチューブ全体の容積である。試料チューブ1152が長く、幅が広いほど、試料チューブ1158の容積は大きくなる。ナノセンサチャンバ容積1159は、単に、ナノセンサチャンバ1154の内容積からナノセンサ1156の体積を引いたものである。実際には、ナノセンサ1156は、典型的には、細小体積を有し、ナノセンサチャンバ1154は、はるかに大きく、単純に、使用される製造に依存する。一例として、現行のナノセンサアレイは、ナノセンサチャンバ1154のサイズが数ミクロンであることが多いが、上記ナノセンサ自体は、その1000分の1のサイズ、すなわちナノメートルで測定されるサイズであってもよい。
【0379】
試料体積1160は、ナノセンサ1156がその測定を行うことができるように、オルガノイドチャンバ112から取り出され、試料チューブ1152を通って流れ、ナノセンサチャンバ1154内に配置されなければならない体積である。それゆえ、試料体積1160は、試料チューブ1158の容積及びナノセンサチャンバ容積1159を反映する。簡単に言えば、試料チューブ1152が長く、幅が広いほど、またナノセンサチャンバ1154が大きいほど、試料体積1160は大きくなる。実際には、試料体積は、上記の説明よりも数倍大きくなってもよいが、これは、上記の説明が単一のナノセンサ1156にのみ試料を採取することを記載しているのに対し、実際には、オルガノイドチャンバ112から採取された試料は、ナノセンサアレイに含まれる複数のナノセンサ1156の各々に送達される複数の試料を含むのに充分であることを必要とする可能性があるためであることが理解される。
【0380】
オルガノイドチャンバ1150の容積は、オルガノイドチャンバ112内のオルガノイド113の周囲の上清中にオルガノイド113によって放出される代謝産物の高感度で正確な測定値を取得する能力に強く影響することが理解される。オルガノイドチャンバ1150の容積が小さいほど、オルガノイドチャンバ112から採取された試料は、オルガノイド113の細胞によって放出された代謝産物をより正確に反映するであろう。これは、以下の例によって例示されてもよい。角氷を非常に小さなグラスのウイスキーに入れる場合、その角氷は、同じ角氷を大きいバレルのウイスキーに入れる場合よりも、ウイスキーを薄めることがはるかに多い。
【0381】
試料体積1160は、オルガノイドチャンバ112から取得されてもよい測定の頻度に強く影響を及ぼすことも理解される。簡単に言えば、極端な場合として、試料体積1160がオルガノイドチャンバ1150の容積と等しい場合、1つの試料を採取すると、オルガノイドチャンバ112が完全に「無になる」。逆に、試料体積1160がオルガノイドチャンバ1150の容積の1000分の1である場合、オルガノイドチャンバを著しく枯渇させることなく、従ってオルガノイド113を著しく乱すことなく、100回の測定が行われる可能性がある。これは、以下の例によって例示されてもよい。玄人のワインテイスターのグループを採用して、その各々にグラス中のワインを味見させようとする場合で、ワインがグラス中に存在し、そして空気が入るときにどのように変化するかを測定するように、数日間にわたって15分毎に反復してそれを行うために、ワインテイスターらが各々小さい細小の一口をすする場合、それは妥当であるが、これに対してワインテイスターらが大きくごくごくと摂取する場合、その味見はグラスをすぐに完全に空にすることになる。
【0382】
ナノセンサは無害でない可能性があり、典型的にはイオンを直接の環境に放出し、これによりナノセンサが試験している組織又は流体に影響を及ぼす可能性があるという点で、ナノセンサ又は他の測定デバイス若しくは化合物をオルガノイドチャンバ112自体の中に又はそれに直接近接して配置することは不利である可能性があるということがさらに理解され、当該技術分野で周知である。
【0383】
それゆえ、
図11Bは、本発明の中心的な二重の独自性、第1に、正確な「細胞」代謝センシングを得る能力であり、第2に、リアルタイムでそうする能力、すなわち頻繁な反復的なそのような測定を提供する能力を示す。オルガノイド113によってオルガノイドチャンバ112内に放出される代謝産物の「細胞」代謝センシング又は高感度の代謝センシングは、オルガノイドチャンバ1150の容積が小さくなるように、オルガノイドチャンバ112のサイズ及び形状をオルガノイドに近く保つ、オルガノイドチャンバ112の前例のない小型化された設計及び製作によって達成される。また、リアルタイムの頻繁な反復的な試験は、試料チューブ1152の長さ及び幅、並びにナノセンサチャンバ1154のサイズが最小限に抑えられ、これにより試料体積が最小限に抑えられ、これによりオルガノイドチャンバ1150の容積と試料体積1160との間の高い比が達成される、独特のアーキテクチャ及びサブミクロン製作によって可能にされる。
【0384】
当該チップオンチップアーキテクチャは、アクチュエータ150によってセンサをオルガノイドチャンバ112に近づけることによって、試料チューブ1152の長さ及び幅を絶対最小まで小さくすることが理解される。それゆえ、当該チップオンチップアーキテクチャは、(i)試料チューブ1152の長さを短縮し、(ii)多数の弁/チャネル/ポンプの複雑性を排除し、これにより、(iii)費用を低減し、(iv)堅牢性を向上させるという利点を伴って、2つのマイクロ流体チップが「1つとして作用する」ことを可能にする。
【0385】
一例として、本発明の好ましい実施形態では、オルガノイド113は、好ましくは直径が100~300ミクロン(100~300μm)であってもよく、オルガノイドチャンバ112は、好ましくは直径が400ミクロン(400μm)又はであってもよく、試料チューブ1152は、直径がサブミクロンであってもよく、長さが数ミリメートルであってもよい。
【0386】
実用的な例として、15分毎に1回の単一のセンサへの試料の採取は、2週間にわたる1344個の試料を意味し、かつ/又は10個のセンサが使用される場合、13440個の試料を意味する。それゆえ、少なくとも1つのセンサ、好ましくは10個を超えるセンサを仮定すると、反復リアルタイム測定は、オルガノイドチャンバ1150の容積と試料体積1160との間の少なくとも1,000、好ましくは10,000の比を必要とすることになる。
【0387】
本発明の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバ1150の容積と試料体積1160との間の比は、好ましくは100000超、50000超、10000超、1000超、500超、100超、50超、又は10超である。
【0388】
本発明の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバの容積とオルガノイドの体積との比は、1未満、2未満、3未満、5未満、10未満、又は30未満、100未満、又は500未満である。
【0389】
本発明の好ましい実施形態では、(i)オルガノイドチャンバ112のサイズは、流体がオルガノイド113を可能な限り近く反映するように、実用的な最小限に保たれ、(ii)媒体流体に影響を及ぼすことなく、オルガノイドチャンバ112内の流体に安全に挿入されてもよいナノセンサが使用され、これにより、たとえ試料が非常に小さい体積であって短いチューブを通してであっても試料を採取することを必要とせずに、チャンバ内で直接測定が行われる。サイズ及び容積という実用面での制限がある、例えばオルガノイドチャンバ112又はナノセンサチャンバの容積が1mmより著しく小さい場合、蒸発は制限的な問題となることも理解される。従って、ここでも、試料を抽出するのではなく、オルガノイドチャンバ112に挿入されるナノセンサが好ましい。
【0390】
特異的及び非特異的センサアレイの使用を概略的に示す
図12をここで参照する。
【0391】
本発明は、特異的センサアレイ及び非特異的センサアレイという2種類のナノセンサアレイを利用する。
図11Aによって説明されるように、化学センシングチップ131は、好ましくは、複数のナノセンサ1102がコーティング又は付着されたプローブ1100を含む。
【0392】
「特異的センサアレイを有するプローブ」と指定された第1の図は、特異的センサアレイ1210と指定された、ナノセンサの取り付けられた群を有するプローブ1100を示す。特異的センサアレイ1210は、当該技術分野で周知のように、各ナノセンサが特定の化学物質を識別するように作製され訓練されている、ナノセンサのアレイである。本発明の好ましい実施形態では、特異的センサアレイ1210は、酸素、グルコース、乳酸、尿素、カリウム、アンモニア、及びpHのためのセンサを含んでもよいが、これらに限定されない。
図12に描かれるように、特異的センサアレイ1210は、このアレイが曝露された試料について、これらの代謝産物の各々の異なるレベルを示す。当該技術分野で周知のように、これらの測定値は、組織における細胞の活力、及びこれらの細胞におけるミトコンドリアの活力を示す。それゆえ、これらの測定値は、組織に対する薬物の毒性を含む、投与された薬物に対するその組織中の細胞の応答を示すのに有用である。
【0393】
「非特異的センサアレイを有するプローブ」と指定された第2の図は、特異的センサアレイ1210と指定された、ナノセンサの取り付けられた群を有するプローブ1100を示す。非特異的センサアレイ1220は、当該技術分野で周知のように、センサアレイが群として一緒に働き、人工知能の支援によって、非常に広い範囲の化合物を集合的に同定するために「学習」してもよいように動作可能に構築されるナノセンサのアレイである。非特異的センサアレイ1220は、化合物に典型的なパターンを特定するために「学習する」。非特異的センサアレイ1220は、この図に示されている7つのセンサの各々が登録した信号のレベルの、ここに描かれている特定のパターンを特定するために「学習」し、従って、そのようなパターンが特定の化学化合物に典型的であることを「学習」する。これはすべて、当該技術分野で周知であるとおりである。
【0394】
上記は、単なる例として意図されており、限定することを意図していないことが理解される。本発明の他の好ましい実施形態では、特異的及び非特異的センサの組み合わせが使用されてもよく、一度により多くのナノセンサを使用するように、複数のプローブ1100が同じオルガノイドチャンバ112内で同時に使用されてもよい。「分析器ナノセンサチップ」と指定された第3の図は、分析器ナノセンサチップ1110を示し、この図では、分析器ナノセンサチップ1110のセンサは、特異的センサアレイ1230と、非特異的センサアレイ1240とを含んでもよい。オルガノイドチャンバ112内の流体から微小な試料を引き出し、それをセンサアレイ内のセンサのそれぞれに運ぶためにキャピラリ1112が使用される。これらの特異的及び非特異的センサアレイは、上記で説明されるものと同様であるが、オルガノイドチャンバ112の流体に沈められ、そこで化学物質を直接測定するのではなく、分析器ナノセンサチップ1110上に設置され、従って、引き出された試料を分析する。
【0395】
任意選択で、ITP濃縮器エンジン1250を使用して、引き出された試料内の化学化合物が濃縮される。ITP濃縮器エンジン1250は、当該技術分野で公知のように、試料チャネル290を通して引き出された試料流体内の化学化合物を濃縮するために、等速電気泳動を使用するマイクロ流体デバイスである。
【0396】
ゲノムチップ132によって実行されるゲノムナノセンシングの一例を概略的に示す
図13Aをここで参照する。
【0397】
臓器チップは、とりわけ複数のそのような臓器チップを利用する場合に、薬物開発を劇的に加速する強力な機会を開く。本発明は、現在まで存在し、本発明が実際に薬物開発を劇的に加速することを可能にする2つの主要な障害を克服する。第1に、現在、ハイスループットかつAI統合されたヒトオンチッププラットフォーム、すなわち、数万個のヒトオンチップでの薬物候補の迅速で安価な生物学的走査を可能にするシステムは存在しない。第2に、現在、統合されたゲノム発現プロファイリングを有するヒトオンチッププラットフォームは存在しない。
【0398】
本発明は、これらの課題の両方に対処する。本発明のチップオンチップアーキテクチャは、第1の課題に対処し、真にハイスループットのリアルタイムセンシングヒトチッププラットフォームを初めて提供する。そして、ナノワイヤベースの非増幅ゲノムセンシング、特に環状RNAのセンシングは、第2の課題に対する革命的な解決手段を提供する。
【0399】
現在の臓器チップシステムのゲノム関連の課題は以下の通りである。臓器チップシステムは、動物研究の予測精度を時折超える予測精度を示すので、非常に有望である。しかし、現在まで、動物研究は、1つの独特の利点を有していた。動物研究は、豊富なゲノムデータをもたらしたが、臓器チップシステムは、それらの小型化のために、その豊富なゲノムデータに単純に匹敵することができなかった。ゲノムデータを伴わない薬物の開発を試みることは、「当て推量で行うこと」と同様である。
【0400】
それゆえ、本発明は、現在、環状RNAの非破壊的なリアルタイムの非増幅検出をもたらし、これによりほとんどの主要な疾患に関連する、匹敵するものがない、前例のない遺伝子プロファイルをもたらすという点で独特である。ハイスループットヒトオンチッププラットフォーム内で環状RNAを正確に同定する能力は、劇的な影響を有する。一例として、約330種のcircRNAは、様々なタイプの癌、神経変性障害、心血管疾患、自閉症、及び多くの他の主要な疾患を含む48種の主要な疾患に関連することが示されている。
【0401】
図13は、ハイスループットマルチヒトチップ110内のオルガノイドチャンバ112内の上清流体中にオルガノイド113によって分泌された微小量の環状RNA分子を増幅することなく正確に同定及び定量するように動作する超高感度ナノセンサ及びシステムを示す。
【0402】
環状RNA(circRNA)は、環状である新規の短いRNA遺伝子であり、癌、心臓疾患、神経変性疾患、自閉症及び多くの他の実体を含む複数の主要な疾患と関連付けられており、脳において高度に発現され、細胞分化と関連している。驚くべきことに、「通常の」mRNAとは異なり、数千ものcircRNA分子が、これらの様々な主要な疾患状態において、細胞外を意味する「無細胞」であることが見出されている。circRNA分子の環状構造は、細胞の外側にあるときに崩壊する通常の「線状」mRNAとは異なり、それらをリボヌクレアーゼに耐性にする。
【0403】
circ-RNAゲノムナノセンサ1300は、ゲノムチップ132の一例であるナノセンサデバイスである。circ-RNAゲノムナノセンサ1300はプローブ1100を含み、このプローブ上に複数のゲノムセンサが付着又はコーティングされている。
【0404】
circ-RNAゲノムナノセンサ1300は、オルガノイドチャンバ112内の流体中に降下される。オルガノイドチャンバ112は、オルガノイド113を含み、オルガノイドフローチューブ114を通る制御された能動的にポンピングされるマイクロ流体フローに供され、このフローは、オルガノイド113の活性化にとって重要である。オルガノイド113は、オルガノイドチャンバ112の流体中に無細胞circRNA分子を自然に分泌し、このcircRNAは、オルガノイドチャンバ112の流体中で無細胞形態で分解されずに頻繁に生存するという点で、通常のより長いmRNAとは異なり、従って、circ-RNAゲノムナノセンサ1300によって特定される可能性がある。
【0405】
circ-RNAゲノムナノセンサ1300は、関心対象の特定のcircRNA分子、例えば、特定の疾患状態に相関することが示されているcircRNAを検出するように動作する。
【0406】
図12によって提供される例では、circ-RNAゲノムナノセンサ1300は、3つのゲノムナノセンサを含み、これらの3つのゲノムナノセンサの各々は、特定の環状RNA分子に結合し、それを検出することができる。circセンサ1302と指定された第1のセンサは、circRNA1312と指定された環状RNA分子を同定する。circセンサ1304と指定された第2のセンサは、circRNA1314と指定された環状RNA分子を同定する。circセンサ1306と指定された第3のセンサは、circRNA1316と指定された環状RNA分子を同定する。
【0407】
これらの3つのセンサの各々は、その標的circRNAの核酸配列に対するアンチセンス配列で設計された核酸分子を含み、その核酸分子は、その標的にハイブリダイズし結合するが、他のcircRNA分子には結合しないことを含め、他の分子には結合しない。いったんセンサ、好ましくはナノワイヤ型ナノセンサがその標的circRNAに結合すると、この結合はセンサの電場特性を変化させ、その結合の電子的指標を提供する。
【0408】
一例として、
図13は、それぞれ符号1322、1324及び1326と指定された、オルガノイドチャンバ112の流体中の3つのcircRNAを示し、これらのcircRNAは、センサが結合するように設計される核酸配列に合致しないため、それらは、結合されず、センサによって識別されない。
【0409】
本発明の好ましい実施形態では、上記センサは、当該技術分野で公知のように、標的化されたcircRNAに特有に結合するアンチセンス配列を用いて設計されてもよい。
【0410】
本発明の一態様は、circ-RNAゲノムナノセンサ1300が、好ましくは、その標的へのその結合が、線状の非環状RNAの物理的特性とは対照的に、その環状構造に起因するcircRNAの独特の物理的特性を使用して増強されるように設計されてもよいことである。
【0411】
一例として、circRNA配列が実際に環状形態である場合にのみcircRNA配列に結合し、そのRNAが線状形態である場合はcircRNAに結合しない「尾―頭(テールヘッド)プローブ」が好ましくは設計されてもよい。
【0412】
別の例として、上記センサは、それらの結合核酸自体が環状形態であり、これによりそれらの標的の核酸配列に適合するだけでなく、それらの環状形態がその標的へのそれらの結合を有意に増強するように設計されてもよい。
【0413】
さらに別の例では、上記センサは、circRNAの環状による物理的特性に由来するそれらの標的の他の物理的特性を活用するように設計されてもよく、これらには、ポリA尾部の不存在、遊離5’及び3’末端の不存在、並びに環状リボース骨格が含まれるが、これらに限定されない。そのような活用は、センサのアンチセンスプローブが標的circRNA内の相補的配列に特異的に結合するのでセンサがその標的に結合するだけでなく、このアンチセンス結合がこれらの環状による物理的特性によってさらに増強されることを意味する。
【0414】
本発明の重要な部分は、ナノセンサによる高感度で正確な検出を達成するために、circRNAの独特の構造を活用することであることが理解される。ナノセンサ、特にナノワイヤベースのセンサ等の高感度のナノセンサの主な課題は、ナノセンサが非常に敏感であり、その標的の種類及びサイズが電子信号に大きく影響を及ぼすことである。異なるサイズの標的は異なる較正を必要とし、このため、そのようなセンサの設計、較正、製造及び操作は、異なる標的を検出するための数百又は数千個のセンサの急速な開発を追求するには非実用的であるほどまで、非常に困難かつ高価になる。一例として、RNA標的に結合する場合、より長い標的化RNA分子は、より短い標的化RNA分子とは非常に異なるシグナルを与えることになる。
【0415】
それゆえ、本発明は、このセンサを実現可能にする2つの進歩性を提供する。第1に、circRNAの群を標的とすることに焦点を当てることによって。それらはすべて、群として、比較的小さい分子、及び重要なことには、サイズが比較的一定であり多くは300~360bp程度の分子であるため、これは、ナノワイヤセンサによるcircRNAの結合の電子信号の群内分散を、タンパク質の結合(非常に大きい分散)、又は通常のmRNAの結合(mRNAは、数十~数千ヌクレオチド長で変動するため)と比較して劇的に減少させる。第2に、circRNAの環状構造から生じてcircRNAを線状非環状RNAの物理的特性と区別するcircRNAの独特の物理的特性を使用することによって。
【0416】
circ-RNAフォールディングの例を概略的に示す
図13Bをここで参照する。
図13Bは、2つの例示的なcirc-RNAの二次元構造を示す。
図13Bが示すように、circRNAはそれら自体の上に折りたたまれ、各circRNAに極めて固有で、典型的には中心円を形成し、1つ以上の二本鎖(DS)「ヘアピン様」セグメントがこの円から突出する二次元構造を形成する。
【0417】
「環状RNA例1」と指定された
図13Bの第1の例は、425ヌクレオチド長であり、3つの二本鎖ヘアピンを有するcircCAMSAP1と命名されたcircRNAのフォールディングを示す。「環状RNA例2」と指定された
図13Bの第2の例は、268ヌクレオチド長であり、2つの二本鎖ヘアピンを有するcircFCHO2と命名されたcircRNAのフォールディングを示す。
【0418】
二本鎖RNAヘアピン内にあるcircRNAの配列に結合するアンチセンスプローブを設計することは、circRNAに結合するその能力を著しく低下させる可能性があるため、ナノセンサによってcircRNAを検出することを試みる場合、各個々の環状RNAの二次構造フォールディングを理解することが重要である。
【0419】
図13Bはさらに、示される2つのcircRNAのバックスプライスジャンクション(back splice junction、BSJ)を示す。各circRNAは、当該技術分野で周知のように、circRNAの線状配列の「頭部」及び「尾部」が結合して環を形成した環状RNA内の点であるバックスプライスジャンクションを有する。BSJは、circRNAの環状一本鎖部分内に位置してもよく、又は二本鎖ヘアピン部分内に位置してもよいことが理解される。
図13Bに提供される例では、「例1」ではBSJがcircRNAの円形部分内にあるのに対し、「実施例2」ではBSJが二本鎖ヘアピンセクション内にあることが理解される。
【0420】
本発明の好ましい実施形態では、この態様は、circRNAを同定するのに適したプローブを設計する際に分析され考慮される。
【0421】
circ-RNAプローブ設計の例を概略的に示す
図13Cをここで参照する。
【0422】
「線状circ-RNA」と指定された図は、線状形態のcirc-RNAの構造を概略的に表す。線状circ-RNA1330は、環状RNA分子であり、これは、当該技術分野で周知のように、リボヌクレアーゼ酵素による分解に対してより高い耐性を有する、環状を自然に形成することを特徴とするタイプのRNA分子である。この図が示すように、線状circ-RNA1330は、頭部1332及び尾部1334を含む。頭部1332は、線状circ-RNA1330の核酸配列の、5’末端を意味する、先頭の核酸配列である。尾部1334は、線状circ-RNA1330の核酸配列の、3’末端を意味する、末端の核酸配列である。
【0423】
「ループ状circ-RNA」と指定された図は、その「ループ状」又は環状形態のcirc-RNAの構造を概略的に表す。ループ状circ-RNA1340は、線状circ-RNA1330と同じRNA分子であり、同じ核酸配列を含むことが理解される。ループ状circ-RNA1340と線状circ-RNA1330との間の差異は、ループ状circ-RNA1340が環状の形状を形成し、尾部1334が頭部1332に接続していることだけである。
【0424】
本発明の好ましい実施形態では、尾―頭プローブ1342は好ましく設計され、尾―頭プローブ1342は、尾部1334の核酸配列に対するアンチセンスと、それに続く頭部1332の核酸配列に対するアンチセンスとを含む核酸配列を有する。それゆえ、尾―頭プローブ1342は、尾部1334の核酸配列が頭部1332の核酸配列に隣接するループ状circ-RNA1340に選択的かつ強力に結合する。しかし、尾―頭プローブ1342は、頭部1332及び尾部1334の核酸配列が隣接していない線状circ-RNA1330には結合するか、又は弱くしか結合しない。
【0425】
一例として、尾―頭プローブ1342は、好ましくは20ヌクレオチド長であってよく、これは、当該技術分野で周知のように、アンチセンスプローブにとって有効な長さであり、尾部1334及び頭部1332はそれぞれ10ヌクレオチド長である。そのようなシナリオでは、ループ状circ-RNA1340に結合する場合、尾―頭プローブ1342の全20ヌクレオチドが尾部1334配列及び隣接する頭部1332配列に結合することが理解される。一方、線状circ-RNA1330に結合しようとする場合、尾―頭プローブ1342配列の20ヌクレオチドのうち10ヌクレオチドのみが、線状circ-RNA1330に結合してもよく、頭部1332又は尾部1334のいずれかに結合するが、両方に同時に結合するわけではない。当該技術分野で周知のように、20ヌクレオチド全体の強力な結合のみを識別し、10ヌクレオチドのみの部分的結合を識別しないように、センシングを較正してもよいことが理解される。
【0426】
尾部1334が頭部1332に結合されるループ状circ-RNA1340の配列における点は、circ-RNAが形成される方法に関する用語であるバックスプライスジャンクション、すなわちBSJとして当該技術分野で公知である。「ループ状circ-RNA」と指定された図面は、2つの可能なプローブ設計を示す。第1のプローブ設計は、隣接する尾部1334及び頭部1332の配列を標的とすることによってループ状circ-RNA1340のBSJ領域を標的とするように設計された尾―頭プローブ1342である。
【0427】
第2のプローブ設計は、BSJを含まないループ状circ-RNA1340内の任意の配列に対処する。この際、ループ状circ-RNA1340のそのような配列は、非BSJ1344と指定され、そのアンチセンスプローブは、非BSJプローブ1346と指定されている。
【0428】
尾―頭プローブ1342は、いくつかの重要な点で、非BSJプローブ1346よりもはるかに有利であることが理解される。第1に、尾―頭プローブ1342は、環状RNA分子に、そのループ状circ-RNA1340形態でのみ結合し、その線状circ-RNA1330形態では結合しない。第2に、circ-RNAはしばしば推定的であり、従って、尾―頭プローブ1342は、仮想のものとは対照的に、実際の環状RNAの検出を確実にするので、このプローブは環状RNAを識別するためのはるかに高い特異性を有する。第3に、尾―頭プローブ1342は、はるかに高い特異性、及び他のゲノム配列への意図しない結合を意味するオフターゲット結合のより低いリスクを有する。具体的には、circRNAは、多くの場合、ある遺伝子のmRNAの一部であるので、それゆえ、非BSJ1344配列は、そのcircRNAが含まれる1つ以上のmRNAの一部でもある。従って、非BSJプローブ1346は、circRNAが含まれるこれらの1つ以上のmRNAに意図せずに結合する可能性があるが、尾―頭プローブ1342は、ループ状circRNA1340にのみ結合する。第4に、尾―頭プローブ1342の核酸配列が天然に存在する核酸配列に対するアンチセンスではなく、2つの核酸配列、頭部1332及び尾部1334の人工的な組み合わせに対するアンチセンスであるので、尾―頭プローブ1342がゲノム中の他の場所の「オフターゲット」配列に意図せずに結合する可能性が低いため、尾―頭プローブ1342ははるかに高い特異性を有する。当該技術分野で周知のように、複製及び保存の進化過程のため、天然に存在するゲノム配列は、ゲノム中の他の場所に人工配列を見出す可能性よりも、その天然に存在するゲノム配列に類似し、ゲノム中の他の場所に見出されるゲノム配列を有する可能性が高い。
【0429】
目的のcircRNAが、
図13Bの「例2」に描かれるように、BSJが二本鎖ヘアピン内に見出されるものである場合、尾―頭プローブ1342は、ループ状circRNA1340に最適に結合しない可能性があることが理解される。これは、尾部1334及び頭部1332の配列は、RNA分子の二本鎖二次フォールディング内に見出され、それゆえ、相補的RNA鎖に結合しており、そのプローブに結合する可能性が低いからである。そのような場合、非BSJプローブ1346の使用は、BSJがcircRNAの二本鎖領域内にあるため、より効果的であり、従って、circRNAの二本鎖領域内ではなくcircRNAのループ領域内にあり、非BSJプローブ1346が二本鎖RNA結合によって妨げられず容易に結合する可能性がある非BSJ1344核酸配列を選択することが好ましい。
【0430】
circ-RNAプローブ設計の方法のフローチャートを概略的に示す
図13Dをここで参照する。
【0431】
本発明の好ましい実施形態では、以下の工程は、当該技術分野で周知のように、測定されることが望まれる複数のcirc-RNA配列、例えば、関心対象の疾患に関連することが公知である複数のcircRNA、の各々について実施される。
【0432】
第1に、工程1350において、circ-RNA配列1350が、本明細書に開示されるシステムのメモリに受け取られるか、又は別様に記憶される。このcirc-RNA配列は、関心対象の疾患に、又は生物学的プロセスに関連することが公知である複数のcirc-RNA配列の1つであってもよい。
【0433】
次に、工程1352は、当該技術分野で周知の様々なアルゴリズム及びソフトウェアを使用して、circ-RNA配列1350のRNA分子のRNAフォールディングを計算することを開示する。この工程は、典型的には、circ-RNA配列1350の1つの環状領域及び主要な環状領域、並びに典型的には、1つ以上の二本鎖ヘアピン構造を解明する。
【0434】
次に、工程1356は、circ-RNA配列1350のバックスプライスジャンクションが二本鎖ヘアピン領域内又は非二本鎖領域内に見出されるかどうかを判定する。circRNAのバックスプライスジャンクションを発見する方法は、当該技術分野で周知である。
【0435】
BSJがcirc-RNA配列の非二本鎖領域に見出される場合、当該プロセスは、ユニークなアンチセンス尾―頭プローブを設計するための工程1358に進む。これは、プローブ1342がcirc-RNA配列1350のBSJ領域に対するアンチセンス配列を含むように尾―頭プローブ1342を設計することによって行われてもよい。
【0436】
BSJがcirc-RNA配列1350の二本鎖領域に見出される場合、当該プロセスは、ユニークなアンチセンスプローブを設計するための工程に進む。これは、プローブ1346が、circ-RNA配列1350の二本鎖領域内にない非BSJ1344配列に対するアンチセンス配列を含むように、非BSJプローブ1346を設計することによって行われてもよい。
【0437】
上記の場合の両方において、プローブは、circ-RNA配列1350内の核酸配列であって、ゲノム内でユニークであり、ゲノム内の配列に対して最も低い類似性を有し、最適なプローブ-標的結合及び最小限の意図しないオフターゲット結合を達成するように、当該技術分野で周知のように、アンチセンスプローブを設計するという他の基準に従う核酸配列を標的とするように設計されることが理解される。
【0438】
次に、当該方法は、それぞれ、符号1358及び1360と指定された前の工程によって判定された核酸配列に従ってプローブを合成するアンチセンスプローブを生成する工程1362を含む。そのようなプローブを安定かつ有効にする化学修飾を含むアンチセンスプローブの合成は、当該技術分野で周知である。
【0439】
次に、当該方法は、当該技術分野で周知のように、ナノチップに前の工程で生成されたアンチセンスプローブをナノチップ、又はナノワイヤセンサ等のナノセンサに取り付ける工程1364を含む。多数のナノセンサが当該技術分野で公知であり、核酸プローブをナノセンサに取り付けるための多数の方法が当該技術分野で公知である。
【0440】
次に、当該方法は、ナノチップ検出無細胞circ-RNA1366を検出する工程1366を含む。この工程は、無細胞環状RNAを検出するために、固定された核酸プローブを有するナノチップを利用してもよい。
【0441】
上記の説明は、単なる例として意図されており、限定することを意図していないことが理解される。他の好ましい実施形態では、検出されるRNAは、環状RNA又は他のタイプの短いRNA又は他のタイプのRNAでなくてもよい。本発明の他の好ましい実施形態では、当該技術分野で公知のように、異なるナノセンサが使用されてもよく、異なるプローブ設計方法が適用されてもよく、増幅の方法が使用されてもよい。
【0442】
非破壊的ゲノム解析の一例を概略的に示す
図14Aをここで参照する。
【0443】
図14Aは、特定のオルガノイド113のゲノム発現プロファイルを、そのオルガノイドが薬物に曝露される前と、薬物に曝露された後との両方で得ることを可能にする、本発明の独自の革新的な態様を示す。
【0444】
この点において、独自性の2つの重要な態様があることが理解される。第1に、現在、臓器チップのオルガノイドの自動化されたハイスループットゲノム発現分析を提供する臓器チップは存在しない。第2に、現在、非破壊的な方法でオルガノイドのゲノム解析を行う臓器チップの方法又は装置は存在しない。ゲノム発現分析を実施することは、典型的には、組織の溶解、それゆえその破壊を必要とする。それゆえ、薬物介入の前後に同じオルガノイド組織のゲノム解析を臓器チップ内で行うことは現在不可能である。一方が処理され他方が未処理である2つの異なるオルガノイドの発現プロファイリング又はエピジェネティックプロファイリング等のゲノム解析を比較することは、その2つのオルガノイドが同一ではないので、理想的ではないことが理解される。
【0445】
本発明は、オルガノイドへの薬物の適用の前後に、球体オルガノイドから少数の単細胞を切り離し、単細胞ゲノム解析のためにこれらの細胞を送ることによって、非破壊的ゲノム配列決定分析を達成する。このプロセスは以下のように説明される。
【0446】
ポンプ1410は、循環流体を、オルガノイド113を含むオルガノイドチャンバ112にポンピングする。
【0447】
図14Aによって描かれるように、ポンプ1410は、オルガノイド113上にせん断力を印加し、これにより、1つ以上の単細胞1400を切り離す。当該システムは、マイクロ流体チャネルを通って流れる細胞を計数するように動作する細胞計数器1420を含んでもよい。1つ以上の単細胞1400は、オルガノイドチャンバ112から流出し、細胞計数器1420によって計数される。
【0448】
少数の単細胞1400をせん断するために、細胞計数器1420は、好ましくは、ポンプ1410と連動して動作してもよいことが理解される。一例として、ポンプ1410によって生成されるフロー及び/又は圧力は、低くなり始め、次いで、所望の少数の単細胞1400がオルガノイド113から引き離され、細胞計数器によって検出される時まで、徐々に増加されてもよい。
【0449】
チャネルの場所、角度口径及び圧力、並びにオルガノイドチャンバ112に対するその場所等を含むがこれらに限定されない、上記の機構の正確な実装を設計するとき、類似の方法論、つまり、球体オルガノイドを損傷することなく、少なすぎず多すぎない所望の単細胞1400を切り離すための最良の設定を決定することを可能にするフィードバックとして細胞カウンタ1420を使用すること、が採用されてもよいことが同様に理解される。このように、異なる組織タイプに対して異なる設定が使用されてもよく、また上記の方法は、球体オルガノイドだけでなく灌流オルガノイド及び他のタイプのオルガノイドにも関連することがさらに理解される。
【0450】
任意の貯蔵アレイ1430は、任意選択で、本明細書中以下でさらに説明されるように、外部試験のための外部デバイスへの後の通過のために、単細胞1400を貯蔵してもよい。任意の貯蔵アレイ1430の必要性は、本明細書に説明される機構が、非常に大きい複数のオルガノイド150のそれぞれから少数の単細胞1400を受け取るからであり、従って、ゲノム配列決定等の外部処理のためにすべての単細胞1400が外部デバイスに移送されてもよいように、各オルガノイド113からの少数の単細胞1400を任意の貯蔵アレイ1430内の別個の区画に貯蔵することが有利であってもよい。任意選択の貯蔵アレイ1430は、マルチヒトチップ150上の保管場所であってもよく、又はマルチヒトチップ150とは別個のデバイスであってもよいことがさらに理解される。
【0451】
従って、単細胞1400は捕捉され、任意選択で貯蔵(保管)され、次いで、外部分析のために外部デバイスに移送されてもよい。単細胞1400のそのようなさらなる分析は、外部単細胞ゲノムシーケンサ1440及び外部単細胞エピジェネティックアナライザ1450を含むが、これらに限定されない。
【0452】
本発明の非破壊ゲノム解析態様の一部として、チップオンチップ細胞せん断の3つの実施形態を概略的に示す
図14Bをここで参照する。
【0453】
本発明の「チップオンチップ」アーキテクチャの実施形態では、本明細書中上記の
図1Aに概略的に示すように、オルガノイド113からの細胞は、細胞抽出チップ133の細胞抽出ナノチューブ202によってせん断剥離される。これらの抽出された単細胞は、続いて、単細胞ゲノム解析若しくはエピジェネティック分析、又は他の望ましい形態の分析によって分析されてもよい。いくつかの実施形態は、オルガノイド113からの細胞のそのようなせん断剥離を作動させるように動作する。
【0454】
チップオンチップ細胞せん断剥離の第1の実施形態は、「#1」と指定された図面によって概略的に示される。この実施形態では、細胞抽出ナノチューブ202は、せん断流ポンプ1460を備えた単一のチューブである。この実施形態では、オルガノイド113からの単細胞のせん断剥離は、それぞれ「パルス-1」及び「パルス-2」と指定された2つの図面によって概略的に示されている2つのアクションによって達成される。「パルス-1」と指定された図面によって示される第1のアクションでは、せん断流ポンプ1460は、1つ以上の単細胞1400をオルガノイド113から引き離すように、流体のパルスをオルガノイドチャンバ112にポンピングする。「パルス-2」と指定された図面によって示される第2のアクションでは、せん断流ポンプ1460は、その方向を逆転させ、「パルス-1」の以前のアクションによってオルガノイド113から剥離された後にオルガノイドチャンバ112内の流体中で自由に浮遊する1つ以上の単細胞1400を吸引するように、流体のパルスをオルガノイドチャンバ112からポンピングする。本発明の好ましい実施形態では、細胞抽出ナノチューブ202は、流体リザーバ(図示せず)に接続し、「パルス1」と指定された図面ではその流体リザーバから流体がポンピングされ、「パルス2」と指定された図面ではその流体リザーバに流体が流れる。本発明の別の好ましい実施形態では、別々のリザーバが使用され、「パルス1」ではそのリザーバの1つから流体が流れ、「パルス2」ではそのリザーバの他方から流体が流れてもよく、この2つのリザーバは別々であってもよく、又は接続されてもよい。
【0455】
チップオンチップ細胞せん断剥離の第2の実施形態は、「#2」と指定された図面によって概略的に示される。この実施形態では、細胞抽出ナノチューブ202は、外部チューブ1475内に含まれる内部チューブ1470を含む。1つ以上のせん断流ポンプ1460は、図面「#2」によって示されるように、外部チューブ1475を通してオルガノイドチャンバ112の中へ流体をポンピングし、内部チューブ1470を通してオルガノイドチャンバ112から流体をポンピングするように動作する。これは単なる例として意図されることが理解される。1つ以上のせん断流ポンプ1460は、同様に、内部チューブ1470を通してオルガノイドチャンバ112の中へ流体をポンピングし、外部チューブ1475を通してオルガノイドチャンバ112から流体をポンピングしてもよい。本発明の好ましい実施形態では、内部チューブ1470及び外部チューブ1475は、好ましくは、共通のリザーバ又は別個のリザーバ(図示せず)に接続され、それぞれ、そのリザーバから流体が外部チューブ1475に流入し、そのリザーバに流体が内部チューブ1470からポンピングで戻される。
【0456】
図面「#2」が示すように、本発明の好ましい実施形態では、外部チューブ1475を通ってオルガノイドチャンバ112に入る並流と、内部チューブ1480を通ってオルガノイドチャンバ112から出る流れ(又はその逆)とによって水平せん断力が引き起こされる。この水平せん断力は、オルガノイド113の表面に加えられ、好ましくは、単細胞1400をせん断してオルガノイド113から離してもよく、その結果、それらは、続いて、細胞抽出ナノチューブ202を通してオルガノイドチャンバ112から吸引されてもよく、好ましくは、続いて、ゲノム解析若しくはエピジェネティック分析又は他の所望の分析のために分析されてもよい。
【0457】
チップオンチップの細胞せん断剥離の第3の実施形態は、「#3」と指定された図面によって概略的に示される。この実施形態では、細胞抽出ナノチューブ202は、好ましくは、第1のチューブ1480及び第2のチューブ1485の2つのチューブを含んでもよい。1つ以上のせん断流ポンプ1460は、第1のチューブ1480を通してオルガノイドチャンバ112に流体をポンピングし、第2のチューブ1485を通してオルガノイドチャンバ112から流体をポンピングするように動作する。図面「#3」が示すように、本発明の好ましい実施形態では、第1のチューブ1480を通ってオルガノイドチャンバ112に入る並流と、第2のチューブ1485を通ってオルガノイドチャンバ112から出る流れとによって水平せん断力が引き起こされる。この水平せん断力は、オルガノイド113の表面に加えられ、好ましくは、単細胞1400をせん断してオルガノイド113から離してもよく、その結果、それらは、続いて、細胞抽出ナノチューブ202を通してオルガノイドチャンバ112から吸引されてもよく、好ましくは、続いて、ゲノム解析若しくはエピジェネティック分析又は他の所望の分析のために分析されてもよい。本発明の好ましい実施形態では、第1のチューブ1480及び第2のチューブ1485は、好ましくは、共通のリザーバ又は別個のそれぞれのリザーバ(図示せず)に接続され、それぞれ、そのリザーバから流体が第1のチューブ1480に流入し、そのリザーバに流体が第2のチューブ1485からポンピングで戻される。
【0458】
上記の3つの実施形態のすべてにおいて、1つ以上のせん断流ポンプ1460は、摩擦ホイール(図示されている)、当該技術分野で公知の種々の圧電ポンプ、又は当該技術分野で周知のように電気浸透によって駆動される流体フローが挙げられるがそれらに限定されない、マイクロ流体チャネル内の流体のフローを作動させる、異なる種類のデバイス又は方法を含んでもよいことが理解される。
【0459】
上記の実施形態の各々は、単一のせん断流ポンプ1460によって、又は複数のせん断流ポンプ1460によって作動されてもよいことがさらに理解される。例として、実施形態「#1」では、単一のせん断流ポンプ1460が使用されてもよく、この場合、その方向を逆にして、流入対流出が達成されるか、又はこの目的のために2つの別個のポンプが使用されてもよい(この場合、ポンプはその流れ方向を変える必要がない)。実施形態「#2」及び「#3」では、単一摩擦ホイールポンプタイプのせん断流ポンプ1460を使用して、実施形態「#2」のそれぞれの内部チューブ及び外部チューブ並びに実施形態「#3」のそれぞれの第1のチューブ及び第2のチューブにおける流入及び流出が作動されてもよい。せん断流ポンプ1460が電気浸透を利用する本発明の「#1」、「#2」及び「#3」の実施形態に関しては、好ましくは、(「#2」の)外部チューブ及び内部チューブに、又は(「#3」の)第1のチューブ及び第2のチューブに異なる電場が印加されてもよい。
【0460】
チップオンチップシステム100を利用する創薬プロセスの概要のフローチャートを概略的に示す
図15をここで参照する。
【0461】
本発明の好ましい実施形態では、チップオンチップシステム100は、
図15が示す創薬プロセスの中心的存在として使用される。
【0462】
当該方法は、製剤1800の生物学的作用を予測する工程1500を含む。この予測は、人工知能(AI)プロセスであってもよく、このプロセスでは、可能な製剤の大きいプールからの製剤が、AIプロセス、好ましくは深層学習プロセスによって評価される。生物学的作用は、様々な生物学的作用、製剤の所望の疑わしい生物学的活性(例えば、それが特定の種類の癌細胞を死滅させる可能性)、又は望ましくない生物学的活性(例えば、それが特定の組織において特定の望ましくない副作用を有する可能性)であってもよい。製剤の予測される生物学的作用は、好ましくは、評価された製剤の「プール」中のあらゆる製剤、目的の各所望の又は望ましくない「生物学的作用」についての尤度のスコアを出力する。
【0463】
次に、当該方法は、製剤のサブセットを生物学的にスクリーニングし、工程1500の間に生成されたすべての製剤のスコアを評価し、最も高いスコアを有する製剤を選択する工程1510を含む。次いで、選択された製剤は、これらの予測を検証する目的で、チップオンチップシステム100上でスクリーニングされる。
【0464】
当該方法は、次いで、リアルタイムゲノムナノセンシングを収集する工程1520を含む。本発明の好ましい実施形態では、オルガノイドチャンバ112の流体中に存在し、従って、オルガノイド113と関連付けられる、関心目的の特定の核酸分子の非増幅検出を達成するためにナノワイヤセンサが使用される。特に興味深いのは、細胞外で分解されず、疾患に関連する無細胞核酸分子、特に環状RNA(circRNA)分子の検出である。一例として、特定のcircRNAは、自閉症と関連しており、初期のエビデンスは、自閉症の治療における大麻の有効性の可能性を示し、それゆえ、ハイスループット多臓器チップシステムにおけるcircRNAのナノワイヤ非増幅検出の使用は、自閉症のための新規薬剤の開発に有用である可能性がある。ヒトオンチップシステムにおけるcircRNAの非増幅ゲノムセンシング及び特異的非増幅センシングは、これまで行われていないことが理解される。センサがヒトオンチップシステム内のオルガノイドチャンバ112に直接関連しないが、むしろすべてのオルガノイドチャンバ112によって「共有」され、チップオンチップアーキテクチャによって送達される、リアルタイムナノセンシングも、以前に行われたことがないということがさらに理解される。リアルタイムゲノムナノセンシング1820は、本明細書中上記で明示されている。
【0465】
当該方法は、次いで、例えば、能動的にポンピングされ完全に制御されるマイクロ流体フローを使用して、フレキシブルな循環をポンピングする工程1530を含み、従って、その経路選定はフレキシブルである。この循環は、短絡及びオンチップ臓器スケーリングの両方を可能にする。一例として、腸チャンバから肝臓チャンバへ通過し他のすべての器官を迂回するマイクロ流体フローを提供し、これにより、「肝臓の初回通過循環」を模倣する。この能力は独特であり、重力流に依存し、フローの経路選定が固定されている既存のシステムとは異なることが理解される。
【0466】
次に、当該方法は、マルチヒトチップ150からの結果に基づいて、そしてディープマッチングエンジン170を使用して上記予測を精緻化する工程1540を含む。次いで、この予測は、工程1500にフィードバックされてもよい。
【0467】
充分な検証が達成されるまでこれらの工程が行われ、工程1550に示すように薬剤が得られることが理解される。
【0468】
図16A~16Eは、主題の例示的な実施形態に係る、複数のオルガノイドチャンバを接続する循環トンネルを有する複数のオルガノイドチャンバを示す。この複数のオルガノイドチャンバは、マルチヒトチップ110内に配置される。マルチヒトチップ110内のオルガノイドチャンバのいくつかは、循環トンネルを介して接続されてもよいが、他のオルガノイドチャンバは、いかなる他のオルガノイドチャンバにも接続されない。
【0469】
図16Aは、ヒトチップのアレイを示す。このアレイは、フレーム1600によって制限される。アレイは、相互接続されたオルガノイドチャンバの複数の群1610、1615、1618を含む。各群は、群内のチャンバが他の群内のチャンバに接続されないように隔てられる。各群のチャンバの数は、同じであってもよいし異なっていてもよい。チャンバの数は、各群のチャンバ内の組織によって表される器官に従って決定されてもよい。
【0470】
図16Bは、相互接続されたオルガノイドチャンバ1622、1625、1628の群の等角図を示す。オルガノイドチャンバ1622、1625、1628の各々は、細胞等の生物学的材料を含む。オルガノイドチャンバ1622、1625、1628の形状は、試料を抽出するために、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628にセンサを通す(到達させる)ことができるようになっている。オルガノイドチャンバ1622、1625、1628は、その群から別の群のオルガノイドチャンバへの漏出を防止するように構成される障壁
1620によって囲繞されてもよい。この障壁は、表面1660上に載置されてもよい。表面1660は、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628を担持する本体の一部であってもよい。
【0471】
図16Cは、相互接続されたオルガノイドチャンバ1622、1625、1628の群の側面図を示す。オルガノイドチャンバ1622、1625、1628は、主チャンバ1640を介して接続される。例えば、内容物は、主チャンバ1640のみを介してオルガノイドチャンバ1622からオルガノイドチャンバ1625に流れることができる。主チャンバ1640は膨張可能であってもよい。例えば、主チャンバ1640が膨張すると、主チャンバ1640はオルガノイドチャンバ1622、1625、1628を押圧し、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628から内容物を引き出す。その後、内容物は、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628に流され、センサチップ120に関係なく、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628の間の内部循環を行う。主チャンバ1640は、主チャンバ1640を膨張及び収縮させるための空気チューブ1630に連結されてもよい。
【0472】
図16Dは、相互接続されたオルガノイドチャンバ1622、1625、1628の群の上面図を示す。この上面図は主チャンバ1640も示す。この上面図は、オルガノイドチャンバ1622、1625、1628を主チャンバ1640に接続する循環トンネル1642、1645、1648も示す。
【0473】
図16Eは、相互接続されたオルガノイドチャンバ1622、1625、1628の群の底面図を示す。この底面図は、空気チューブ1630が表面1660の下に位置するので、空気チューブ1630及び主チャンバ1640も示す。
【0474】
当業者は、本発明が、上記で具体的に示され、説明されたものによって限定されないことを理解する。むしろ、本発明の範囲は、本明細書中上記で説明された様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに本明細書を読めば当業者に思い浮かぶであろうが先行技術にはない変形例及び改変例を含む。
【外国語明細書】