(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025022586
(43)【公開日】2025-02-14
(54)【発明の名称】レンズ、シミュレーション方法及び自由曲面形状特定方法
(51)【国際特許分類】
G02B 3/00 20060101AFI20250206BHJP
【FI】
G02B3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127298
(22)【出願日】2023-08-03
(71)【出願人】
【識別番号】523296829
【氏名又は名称】ANAX Optics株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ブカン アントニー
(72)【発明者】
【氏名】桐野 宙治
(57)【要約】
【課題】レンズからの距離が異なる様々な焦点位置から集められた光の強度を均一にすることができるレンズ、シミュレーション方法及び自由曲面形状特定方法を提供する。
【解決手段】レンズは、複数のレンズセグメントを備えるレンズであって、複数のレンズセグメントそれぞれは、レンズからの焦点位置が異なる光をレンズから適長離れた焦点面に集光し、複数のレンズセグメントそれぞれが集光した光の量が同等になるように前記複数のレンズセグメントそれぞれの開口数が異なる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のレンズセグメントを備えるレンズであって、
前記複数のレンズセグメントそれぞれは、前記レンズからの焦点位置が異なる光を前記レンズから適長離れた焦点面に集光し、
前記複数のレンズセグメントそれぞれが集光した光の量が同等になるように前記複数のレンズセグメントそれぞれの開口数が異なる、
レンズ。
【請求項2】
前記複数のレンズセグメントそれぞれの光の入射面の面積が異なることで前記開口数が異なる、
請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記複数のレンズセグメントの形状は、前記レンズの中心から半径方向の2つの線分で画定され、
前記複数のレンズセグメントそれぞれの前記2つの線分が挟む中心角が異なることで前記開口数が異なる、
請求項2に記載のレンズ。
【請求項4】
前記複数のレンズセグメントの形状は、前記レンズの中心を共有する2つの同心円で画定され、
前記複数のレンズセグメントそれぞれの前記2つの同心円の間の径方向寸法が異なることで前記開口数が異なる、
請求項2に記載のレンズ。
【請求項5】
前記複数のレンズセグメントの形状は、矩形状をなし、
前記複数のレンズセグメントそれぞれの前記矩形状の縦寸法及び横寸法の少なくとも一方が異なることで前記開口数が異なる、
請求項1に記載のレンズ。
【請求項6】
複数のレンズセグメントを備えるレンズの前記複数のレンズセグメントレイアウトを決定するシミュレーション方法であって、
前記レンズの境界内に複数の領域を有する初期パターンを設定し、
前記複数の領域それぞれに所要の熱膨張係数を割り当て、
前記レンズの境界内の温度を変化させて前記複数の領域を前記境界内で熱膨張させ、
熱膨張した前記複数の領域に基づいて前記複数のレンズセグメントレイアウトを決定する、
シミュレーション方法。
【請求項7】
複数のレンズセグメントを備えるレンズの前記複数のレンズセグメントの自由曲面形状特定方法であって、
前記レンズの中心から対象物までの第1距離、及び前記レンズの中心から焦点面までの第2距離に基づいて焦点距離を算出し、
算出した焦点距離を有するレンズの曲率半径の組合せを特定する第1条件式と、前記曲率半径に基づいて算出されるコンディントン形状ファクターが、前記第1距離及び前記第2距離に基づいて算出される球面収差が最小となる形状ファクターと等しくなる第2条件式とに基づいて、前記レンズの最適曲率半径を算出し、
算出した最適曲率半径を用いて前記複数のレンズセグメントの初期自由曲面形状を特定する、
自由曲面形状特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ、シミュレーション方法及び自由曲面形状特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、二次元状でマトリク状に配列されるマイクロレンズの縦方向と横方向の各曲率が同一のレンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなレンズは、撮像素子の表面に光が集光されるように焦点距離が調整されている。このため、焦点面から集められた光線は同じ距離から来る傾向があるため、光の強度は均一になる。しかし、レンズからの距離が異なる焦点面から来る光の強度は、焦点面がレンズに近いほど強くなり、光の強度が均一にならない。
【0005】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、レンズからの距離が異なる様々な焦点位置から集められた光の強度を均一にすることができるレンズ、シミュレーション方法及び自由曲面形状特定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、レンズは、複数のレンズセグメントを備えるレンズであって、前記複数のレンズセグメントそれぞれは、前記レンズからの焦点位置が異なる光を前記レンズから適長離れた焦点面に集光し、前記複数のレンズセグメントそれぞれが集光した光の量が同等になるように前記複数のレンズセグメントそれぞれの開口数が異なる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レンズからの距離が異なる様々な焦点位置から集められた光の強度を均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態のレンズの構造の一例を模式的に示す図である。
【
図2】比較例1のレンズの構造の一例を模式的に示す図である。
【
図3】比較例2のレンズの構造の一例を模式的に示す図である。
【
図4】本実施形態のレンズの構造の他の例を模式的に示す図である。
【
図5】本実施形態のシミュレータの構成の一例を示す図である。
【
図6】シミュレーションの出力結果の一例を示す図である。
【
図7】熱膨張係数と集光可能な光の量との関係を示す図である。
【
図8】本実施形態の複数のレンズセグメントの一般的な配置の一例を示す図である。
【
図9】自由曲面形状特定方法の処理手順の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態のレンズ10の構造の一例を模式的に示す図である。本実施形態のレンズ10は、複数のレンズセグメントを備えるマイクロレンズアレイである。
図1の例では、レンズ10の平面視(光の入射面又は出射面から見た状態)が円形(具体的には、同心円)である。中央部には円形状の開口が形成されている。なお、開口部は必須の構成ではない。複数のレンズセグメントを符号1~6で表す。なお、便宜上、レンズセグメントの数を6個としているが、レンズセグメントの数は6個に限定されるものではない。また、実際のレンズでは、レンズセグメントの数はもっと多い場合がある。なお、
図1の例では、複数のレンズセグメントが隣接して配置されているが、複数のレンズセグメントは、隣接して配置されてなくてもよい。
【0010】
レンズ10からの焦点距離がL5である焦点位置F5からの光がレンズセグメント5に入射すると、入射した光は焦点面としての撮像面上で焦点が合うとともに撮像面に集光される。焦点位置F5とレンズセグメント5の上下の境界を繋ぐ2本の線分のなす角をΩ5とする。また、レンズ10からの焦点距離がL4である焦点位置F4からの光がレンズセグメント4に入射すると、入射した光は撮像面上で焦点が合うとともに撮像面に集光される。焦点位置F4とレンズセグメント4の上下の境界を繋ぐ2本の線分のなす角をΩ4とする。また、レンズ10からの焦点距離がL3である焦点位置F3からの光がレンズセグメント3に入射すると、入射した光は撮像面上で焦点が合うとともに撮像面に集光される。焦点位置F3とレンズセグメント3の上下の境界を繋ぐ2本の線分のなす角をΩ3とする。他のレンズセグメントも同様である。なお、焦点面は撮像面に限定されない。
【0011】
Ω3、Ω4、Ω5は、それぞれ開口数に相当する物理量であり、各レンズセグメント3、4、5で集光される光の量又は撮像面における明るさに相当する。焦点位置までの距離が長いほど、当該焦点位置からの光を集光するレンズセグメントの面積は大きい。逆に言えば、焦点位置までの距離が短いほど、当該焦点位置からの光を集光するレンズセグメントの面積は小さい。これにより、レンズからの距離がより短い焦点位置から多くの光がレンズセグメントに入射することを抑制できるので、複数のレンズセグメントそれぞれが集光した光の量(又は撮像面での明るさ)が同等(均一)になる。
図1の例では、Ω3=Ω4=Ω5となる。他のレンズセグメントも同様である。
【0012】
すなわち、本実施形態のレンズ10では、複数のレンズセグメントそれぞれは、レンズ10からの焦点位置が異なる光をレンズ10から適長離れた撮像面に集光し、複数のレンズセグメントそれぞれが集光した光の量(又は撮像面での明るさ)が同等(均一)になるように複数のレンズセグメントそれぞれの開口数を異ならせている。
【0013】
上述のように、本実施形態のレンズ10では、複数のレンズセグメントそれぞれの光の入射面の面積が異なることで開口数が異ならせている。
【0014】
図2は比較例1のレンズ100の構造の一例を模式的に示す図である。比較例1のレンズ100は、両面が凸である凸レンズである。レンズ100は、焦点距離が定まった単焦点レンズである。
図2に示すように、焦点位置F4からの光は、撮像面で焦点が合う。すなわち、ある特定の焦点距離からの光のみ焦点を合わせることができる。他の焦点位置F5、F3からの光は焦点が合わない。
【0015】
図3は比較例2のレンズ200の構造の一例を模式的に示す図である。比較例2のレンズ200は、マイクロレンズアレイである。レンズ200は、6つのレンズセグメント1~6を有し、各レンズアレイの面積は同一になっている。
図3に示すように、焦点位置F5からの光がレンズセグメント5に入射すると、入射した光は撮像面上で焦点が合うとともに撮像面に集光される。焦点位置F4からの光がレンズセグメント4に入射すると、入射した光は撮像面上で焦点が合うとともに撮像面に集光される。焦点位置F3からの光がレンズセグメント3に入射すると、入射した光は撮像面上で焦点が合うとともに撮像面に集光される。
【0016】
図3の例では、各レンズセグメントの面積が同一であるため、レンズ200からの距離がより長い焦点位置からレンズセグメントに入射する光の量は少ない。逆に言えば、レンズ200からの距離がより短い焦点位置からレンズセグメントに入射する光の量は多くなる。すなわち、レンズ200では、Ω3>Ω4>Ω5となり、撮像面の明るさ(光の量)が焦点の位置に応じて異なってしまう。
【0017】
図1に示すように、本実施形態のレンズ10によれば、撮像面の明るさ(光の量)が焦点の位置にかかわらず同じ(均一)になる。これにより、レンズ10からの距離が異なる様々な焦点位置から集められた光の強度を均一にすることができる。
【0018】
図4は本実施形態のレンズ10の構造の他の例を模式的に示す図である。
図4Aに示すレンズ10は、
図1の例と同じである。
図4Aに示すように、各レンズセグメントの形状は、レンズ100の中心から半径方向に延びる2つの線分で画定してもよい。各レンズセグメントの形状を画定する2つの線分が挟む中心角が異なることで、各レンズセグメントの開口数を異ならせている。
図4Aの例では、レンズセグメント1~6の中心角をθ1~θ6とすると、θ1<θ2<θ3<θ4<θ5<θ6となっており、レンズセグメント1~6の面積をS1~S6とすると、S1<S2<S3<S4<S5<S6となっている。
【0019】
また、
図4Bに示すように、各レンズセグメントの形状は、レンズ10の中心を共有する2つの同心円で画定してもよい。各レンズセグメントの形状を画定する2つの同心円の間の径方向寸法が異なることで各レンズセグメントの開口数を異ならせている。
図4Bの例では、レンズセグメント1~6の径方向寸法をr1~r6とすると、r1<r2<r3<r4<r5<r6となっており、レンズセグメント1~6の面積をS1~S6とすると、S1<S2<S3<S4<S5<S6となっている。
【0020】
また、
図4Cに示すように、各レンズセグメントの形状は、レンズ100の中心から半径方向に延びる2つの線分及びレンズ10の中心を共有する2つの同心円で画定してもよい。レンズセグメント1については中心角がθ11であり、径方向寸法がr11である。レンズセグメント2については中心角がθ12であり、径方向寸法がr11である。レンズセグメント3については中心角がθ13であり、径方向寸法がr11である。レンズセグメント4については中心角がθ11であり、径方向寸法がr12である。レンズセグメント5については中心角がθ12であり、径方向寸法がr12である。レンズセグメント6については中心角がθ13であり、径方向寸法がr12である。レンズセグメント7については中心角がθ11であり、径方向寸法がr13である。レンズセグメント8については中心角がθ12であり、径方向寸法がr13である。レンズセグメント9については中心角がθ13であり、径方向寸法がr13である。レンズセグメント1~9の面積をS1~S9とすると、S1<S4<S7<S2<S5<S8<S3<S6<S9となっている。
【0021】
また、
図4Dに示すように、各レンズセグメントの形状は、矩形状をなし、各レンズセグメントそれぞれの矩形状の縦寸法及び横寸法の少なくとも一方が異なることで各レンズセグメントの開口数を異ならせている。レンズセグメント1については横寸法がx1であり、縦寸法がy1である。レンズセグメント2については横寸法がx2であり、縦寸法がy1である。レンズセグメント3については横寸法がx3であり、縦寸法がy1である。レンズセグメント4については横寸法がx1であり、縦寸法がy2である。レンズセグメント5については横寸法がx2であり、縦寸法がy2である。レンズセグメント6については横寸法がx3であり、縦寸法がy2である。レンズセグメント7については横寸法がx1であり、縦寸法がy3である。レンズセグメント8については横寸法がx2であり、縦寸法がy3である。レンズセグメント9については横寸法がx3であり、縦寸法がy3である。レンズセグメント1~9の面積をS1~S9とすると、S1<S2<S3<S4<S5<S6<S7<S8<S9となっている。
【0022】
本実施形態のレンズ10(マイクロレンズアレイ)は、撮像素子を備え、光を計測するデバイスに適用することができる。このようなデバイスは、例えば、レンズ10からの距離が離散的に異なる複数の焦点位置から光を、複数の焦点位置それぞれに対応する複数のレンズセグメントで集光して撮像面に均一化して受光することができる。レンズセグメントの数を増やせば、焦点位置の数を増やすことができ、広範囲の焦点距離に亘って、均一の光を受光できるデバイスを提供できる。
【0023】
レンズ10の各レンズセグメントの自由曲面形状は、公知の方法を用いて計算することができる。例えば、“Automated design of freeform imaging system”,Tong Yang, Guo-Fan Jin and Jun Zhu, Light: Science & Applications (2017)などの論文に記載の手法を用いることができる。自由曲面は、平面、球面、非球面及び自由曲面を含む。
【0024】
次に、レンズ10のレンズセグメントのレイアウトをトポロジー的に最適化するためのシミュレーション方法について説明する。
【0025】
図5は本実施形態のシミュレータ50の構成の一例を示す図である。シミュレータ50は、パーソナルコンピュータ(PC)等で構成することができる。シミュレータ50は、シミュレータ全体を制御する制御部51、入力部52、メモリ53、操作部54、表示部55、及び記憶部56を備える。
【0026】
制御部51は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等が所要数組み込まれて構成されてもよい。また、制御部51は、DSP(Digital Signal Processors)、FPGA(Field-Programmable Gate Arrays)等を組み合わせて構成してもよい。
【0027】
入力部52は、シミュレーションに用いる入力データが入力される。また、入力部52は、シミュレータ50が処理するために必要な入力データを受け付ける。
【0028】
表示部55は、液晶パネル又は有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等で構成することができる。
【0029】
操作部54は、タッチパネル等で構成され、表示部55に表示される情報に対する操作を受け付けることができる。なお、操作部54は、キーボード、マウス、タッチパッドなどで構成してもよい。
【0030】
記憶部56は、例えば、ハードディスク又は半導体メモリ等で構成することができ、コンピュータプログラム(プログラム製品)61、62、及び所要の情報を記憶する。コンピュータプログラム61は、レンズ10のレンズセグメントのレイアウトをトポロジー的に最適化するための処理を実行するためのものである。コンピュータプログラム62については後述する。
【0031】
メモリ53は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリで構成することができる。コンピュータプログラム61、62をメモリ53に展開して、制御部51がコンピュータプログラム61、62を実行することができる。
【0032】
シミュレータ50を用いてレンズ10のレンズセグメントのレイアウトをトポロジー的に最適化するためのシミュレーションを行うためには、入力部52に対して、複数の領域を有する初期パターン、及び当該複数の領域それぞれに割り当てた熱膨張係数を含む入力データを入力する。熱膨張を利用することにより、弾性材料の内部に内部応力を作り出すことができる。弾性シミュレーションでは、初期応力テンソル行列を介して内部応力を指定することができる。なお、熱シミュレーション(熱膨張)は、弾性材料の内部に内部応力を作り出す手法の一例であって、弾性材料の内部に内部応力を作り出すことでできる手法であれば、熱シミュレーションに限定されるものではない。
【0033】
図6はシミュレーションの出力結果の一例を示す図である。
図6に示す出力結果は、表示部55に表示される。
図6Aは、初期パターンが設定された状態を示す。初期パターンは、レンズ10のレンズセグメントレイアウトが目標のイルミネーションパターンに応じて決められたパターンである。初期パターンは、複数の領域1~7を有している。各領域1~7の形状や配置は、目標とするイルミネーションパターンに応じて異なる。各領域1~7には、所要の熱膨張係数が割り当てられている。熱膨張係数は、領域毎に異なっていてもよく、複数の領域で同一の熱膨張係数が割り当てられてもよい。シミュレーション結果に応じて割り当てる熱膨張係数の値は適宜変更してもよい。図中の円形は、レンズ10の境界を示す。境界は設定温度を変更しても幾何学的に固定され変形しないものとする。境界内の初期パターン以外の領域には、複数の領域に割り当てられる熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数が割り当てられている。
【0034】
図6Aの状態において設定温度を上昇させると、
図6Bに示すように複数の領域1~7それぞれの熱膨張係数に応じて複数の領域1~7は、境界内で熱膨張し、平面視において、各領域1~7の面積が大きくなる。各領域1~7の面積の変化は、各領域1~7の熱膨張係数によって決まる。
【0035】
図6Bの状態において設定温度を上昇させると、
図6Cに示すように複数の領域1~7それぞれの熱膨張係数に応じて複数の領域1~7は、境界内でさらに熱膨張し、平面視において、各領域1~7の面積が大きくなる。最終的には、各領域1~7の面積の合計は、境界の面積に近づく。すなわち、レンズ10のレンズセグメントのレイアウトをトポロジー的に最適化する手法においては、レンズの表面エリアのほぼ100%をレンズセグメントで占めることができる。
【0036】
上述のように、本実施形態のシミュレーション方法では、レンズの境界内に複数の領域を有する初期パターンを設定し、複数の領域それぞれに所要の熱膨張係数を割り当て、レンズの境界内の温度を変化させて複数の領域を境界内で熱膨張させ、熱膨張した複数の領域に基づいて複数のレンズセグメントレイアウトを決定することができる。レイアウトを決定することで、各レンズセグメントの面積も決定することができる。
【0037】
次に、複数の領域に割り当てる熱膨張係数を変えることで複数の領域それぞれで集光できる光の量を調整できる点について説明する。
【0038】
図7は熱膨張係数と集光可能な光の量との関係を示す図である。
図7Aは、目標イルミネーションパターンを示す。
図7Aでは、便宜上、トンボを模したようなパターンとなっているが、目標イルミネーションパターンは
図7の例に限定されない。目標イルミネーションパターンは、便宜上7つの領域1~7で構成されている。目標イルミネーションパターンに応じて予め設定された初期パターン(7つの領域1~7で構成されている)を用いて、
図6に示す手法で得られた結果を
図7B~
図7Dに示す。
【0039】
図7Bにおいて、領域4に注目する。領域4に割り当てた熱膨張係数は、
図7C及び
図7Dの場合よりも小さい。これにより、領域4に含まれるレンズセグメント全体で集光できる光の量は、他の領域1~3、5~7と同等である。
【0040】
図7Cにおいて、領域4に注目する。領域4に割り当てた熱膨張係数は、
図7Bの場合よりも大きく、
図7Dの場合よりも小さい。これにより、領域4に含まれるレンズセグメント全体で集光できる光の量は、
図7Bの場合の1.25倍とすることができる。
図7Cでは、領域4に対応するイルミネーションパターンの領域4が
図7Bの場合よりも明るいことが分かる。
【0041】
図7Dにおいて、領域4に注目する。領域4に割り当てた熱膨張係数は、
図7B及び
図7Cの場合よりも大きい。これにより、領域4に含まれるレンズセグメント全体で集光できる光の量は、
図7Bの場合の1.5倍とすることができる。
図7Dでは、領域4に対応するイルミネーションパターンの領域4が
図7Cの場合よりも明るいことが分かる。
【0042】
図6に例示したシミュレーション方法によって複数のレンズセグメントの面積を決定した後は、前述の公知の方法を用いて、レンズ10の各レンズセグメントの自由曲面形状を計算すればよい。
【0043】
前述のイルミネーションパターンは、例えば、フィルム、スクリーン、プレート、ウエハなどの様々な材料表面のパターンとすることができる。より具体的には、(1)光応答性を有するポリマーを含有する水を含むフィルタ機能を有するフィルムであり、フィルムにUV光が照射されると、照射されたポリマーは高粘性の状態となり、可視青色光が照射されると、照射されたポリマーは低粘性の状態となり、ポリマーを含有する水を流動させることができるもの、(2)光の波長及び強度に応じて様々な文字や図形、模様、テクスチャを表示させることができるスクリーン、(3)ガラス表面の金膜上でマランゴニ対流を発生させるための焦点パターンが形成されたプレート、(4)超微細な回路パターン(ナノパターン)をウエハ上に転写する半導体リソグラフィ技術、(5)光学材料上で偏光マップを生成するためのプレート等に適用することができる。
【0044】
図8は本実施形態の複数のレンズセグメントの一般的な配置の一例を示す図である。
図8に示すレンズは、複数のレンズセグメント#1~#10を備える。複数のレンズセグメント#1~#10は、お互いに接触させることなく、組み合わせることができる。なお、複数のレンズセグメントは、隣接して配置される必要はないが、一部隣接して配置してもよい。レンズセグメント#1~#5の形状は四角形であり、Var1及びVar2で示す座標位置にレンズセグメントの所定箇所(例えば、中心や角など)が配置され、Var3及びVar4で示す縦横寸法を有する。レンズセグメント#6~#9の形状は六角形であり、Var1~Var4は、レンズセグメント#1~#5と同様である。レンズセグメント#10~#11の形状はリング形状(同心円状であって円弧の一部をなす形状)であり、Var1及びVar2は、同心円状の半径を示し、Var3及びVar4は、円弧の一部を画定する中心角を示す。なお、レンズセグメントの形状は、四角形、六角形、リング状に限定されるものではなく、例えば、三角形、五角形、七角形以上の多角形、円、半円、楕円形状などであってもよい。
【0045】
一般的にレンズの自由曲面形状は、平行光線入射時にレンズの入射位置によって光軸上の異なる位置に焦点を結ぶという球面収差が生じる。以下、球面収差を低減するための初期自由曲面形状を特定するための自由曲面形状特定方法について説明する。自由曲面形状特定方法は、
図5に示すコンピュータプログラム62を実行することで行うことができる。この場合、入力部52に入力するデータは、例えば、レンズの中心から対象物までの距離(第1距離)S0、レンズの中心から撮像面(焦点面)までの距離(第2距離)S1、レンズの屈折率nなどのデータを含む。
【0046】
図9は自由曲面形状特定方法の処理手順の一例を示す図である。以下、便宜上処理の主体を制御部51として説明する。制御部51は、レンズの中心から対象物までの距離(第1距離)、レンズの中心から撮像面(焦点面)までの距離(第2距離)に基づいて焦点距離を算出する(S11)。
【0047】
【0048】
焦点距離fの算出は、式(1)で算出することができる。S0はレンズの中心から対象物までの距離(第1距離)であり、S1はレンズの中心から撮像面(焦点面)までの距離(第2距離)である。
【0049】
制御部51は、算出した焦点距離を有するレンズの曲率半径の組合せを特定する第1条件式と、曲率半径に基づいて算出されるコンディントン形状ファクターが、第1距離及び第2距離に基づいて算出される、球面収差が最小となる形状ファクターと等しくなる第2条件式とに基づいて、レンズの最適曲率半径を算出する(S12)。
【0050】
第1条件式は、式(2)で表すことができる。式(2)において、nはレンズの屈折率を表し、R1、R2はレンズの両面の曲率半径を表す。式(2)に示すように、特定の焦点距離を有するレンズの両面の曲率半径の組合せは無数に存在する。
【0051】
第2条件式は、式(3)で表すことができる。式(3)の左辺は、コンディントン形状ファクターCを表す。すなわち、コンディントン形状ファクターC=(R1+R2)/(R1-R2)である。式(3)の右辺は球面収差が最小となる形状ファクターを表す。2つの変数R1、R2に対して、2つの条件式(2)、(3)が存在するので、変数R1、R2を計算できる。
【0052】
制御部51は、算出した最適曲率半径を用いてレンズの両面(前面及び後面)の初期自由曲面形状を特定する(S13)。
【0053】
制御部51は、レンズの自由曲面形状と入射光線(又は出射光線)との交点を特定し、特定した交点における法線ベクトルを算出し、算出した法線ベクトルと直交する面に基づいて新しい自由曲面形状を特定する(S14)。入射光線の数は、レンズの入射面のレンズセグメント毎に1又は複数の入射光線を設定すればよい。また、出射光線の数は、レンズの出射面のレンズセグメント毎に1又は複数の入射光線を設定すればよい。ステップS14の具体的な方法は、例えば、“Automated design of freeform imaging system”,Tong Yang, Guo-Fan Jin and Jun Zhu, Light: Science & Applications (2017)などの論文に記載の手法を用いることができる。
【0054】
制御部51は、自由曲面形状を特定する処理の回数が所定回数に到達したか否かを判定し(S15)、所定回数に到達していない場合(S15でNO)、ステップS14の処理を続ける。所定回数は、例えば、5回程度とすることができるが、これに限定されない。所定回数に到達した場合(S15でYES)、制御部51は、特定した自由曲面形状をレンズセグメントの形状とし(S16)、処理を終了する。
【0055】
本実施形態の自由曲面形状特定方法は、レンズセグメントの前面(例えば、光の入射面)のみ、または前面及び背面(例えば、光の出射面)の自由曲面を最適化することができる。すなわち、本実施形態の自由曲面形状特定方法は、レンズセグメントの背面を自由曲面形状にすることができる。
【0056】
上述のように、本実施形態の自由曲面形状特定方法では、制御部51が、レンズの中心から対象物までの第1距離、及びレンズの中心から焦点面までの第2距離に基づいて焦点距離を算出し、算出した焦点距離を有するレンズの曲率半径の組合せを特定する第1条件式と、レンズの曲率半径に基づいて算出されるコンディントン形状ファクターが、第1距離及び第2距離に基づいて算出される球面収差が最小となる形状ファクターと等しくなる第2条件式とに基づいて、レンズの最適曲率半径を算出し、算出した最適曲率半径を用いて複数のレンズセグメントの初期自由曲面形状を特定することができる。そして、特定した初期自由曲面形状を元に、公知の手法を適用してレンズの各レンズセグメトの形状を求めることができる。これにより、球面収差が最小となるレンズ10を実現できる。
【0057】
本実施形態のレンズは、両面にレンズセグメントを形成してあってもよく、片面だけにレンズセグメントを形成してあってもよい。
【0058】
(付記1)レンズは、複数のレンズセグメントを備えるレンズであって、前記複数のレンズセグメントそれぞれは、前記レンズからの焦点位置が異なる光を前記レンズから適長離れた焦点面に集光し、前記複数のレンズセグメントそれぞれが集光した光の量が同等になるように前記複数のレンズセグメントそれぞれの開口数が異なる。
【0059】
(付記2)レンズは、付記1において、前記複数のレンズセグメントそれぞれの光の入射面の面積が異なることで前記開口数が異なる。
【0060】
(付記3)レンズは、付記1又は付記2において、前記複数のレンズセグメントの形状は、前記レンズの中心から半径方向の2つの線分で画定され、前記複数のレンズセグメントそれぞれの前記2つの線分が挟む中心角が異なることで前記開口数が異なる。
【0061】
(付記4)レンズは、付記1から付記3のいずれか一つにおいて、前記複数のレンズセグメントの形状は、前記レンズの中心を共有する2つの同心円で画定され、前記複数のレンズセグメントそれぞれの前記2つの同心円の間の径方向寸法が異なることで前記開口数が異なる。
【0062】
(付記5)レンズは、付記1において、前記複数のレンズセグメントの形状は、矩形状をなし、前記複数のレンズセグメントそれぞれの前記矩形状の縦寸法及び横寸法の少なくとも一方が異なることで前記開口数が異なる。
【0063】
(付記6)シミュレーション方法は、複数のレンズセグメントを備えるレンズの前記複数のレンズセグメントレイアウトを決定するシミュレーション方法であって、前記レンズの境界内に複数の領域を有する初期パターンを設定し、前記複数の領域それぞれに所要の熱膨張係数を割り当て、前記レンズの境界内の温度を変化させて前記複数の領域を前記境界内で熱膨張させ、熱膨張した前記複数の領域に基づいて前記複数のレンズセグメントレイアウトを決定する。
【0064】
(付記7)自由曲面形状特定方法は、複数のレンズセグメントを備えるレンズの前記複数のレンズセグメントの自由曲面形状特定方法であって、前記レンズの中心から対象物までの第1距離、及び前記レンズの中心から焦点面までの第2距離に基づいて焦点距離を算出し、算出した焦点距離を有するレンズの曲率半径の組合せを特定する第1条件式と、前記曲率半径に基づいて算出されるコンディントン形状ファクターが、前記第1距離及び前記第2距離に基づいて算出される球面収差が最小となる形状ファクターと等しくなる第2条件式とに基づいて、前記レンズの最適曲率半径を算出し、算出した最適曲率半径を用いて前記複数のレンズセグメントの初期自由曲面形状を特定する。
【0065】
各実施形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 レンズ
50 シミュレータ
51 制御部
52 入力部
53 メモリ
54 操作部
55 表示部
56 記憶部
61、62 コンピュータプログラム