(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025023723
(43)【公開日】2025-02-17
(54)【発明の名称】共鳴管型スピーカーエンクロージャー
(51)【国際特許分類】
H04R 1/02 20060101AFI20250207BHJP
H04R 1/28 20060101ALI20250207BHJP
【FI】
H04R1/02 101B
H04R1/28 310B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128107
(22)【出願日】2023-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】514040583
【氏名又は名称】田原 達政
(72)【発明者】
【氏名】田原 達政
【テーマコード(参考)】
5D017
【Fターム(参考)】
5D017AD16
(57)【要約】
【課題】 スピーカーユニット裏側から放たれた音を利用して低音域を増強する共鳴管型スピーカーエンクロージャーにあって、製作や試作を簡易化し、開口部から放たれる音の周波数と音圧の調整を容易にしたもの。
【解決手段】 バッフル部品2、空気室部品3、仕切り部品4、音道部品5、リアパネル部品6、というように役割を分割した部品を、
図1や
図6のようにして重ね合わせて完結する構造とし、音道部品内の道の流れを音道部品冠状断面の正面から見てXY軸方向とすることでZ軸方向へ音道部品を拡縮することによって増強する音圧の調整を可能とし、主に音道部品の内部構造を変えることで増強する周波数の調整を可能とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれバッフル、空気室、仕切り、音道、リアパネルの役割を持った部品を重ね、音道の入り口を折り曲げることで音の進行方向を音道部品冠状断面の正面から見てZ軸からXY軸に変換し、音道断面積の増減を音道部品冠状断面の正面から見てZ軸方向に限ったことを特徴にする、共鳴管型スピーカーエンクロージャー。
【請求項2】
請求項1の共鳴管型スピーカーエンクロージャーにあって、重ねる方向が途中で曲げられたもの。
【請求項3】
請求項1~2のいずれかにあって、空気室、仕切り、音道の部品が繰り返されて配置されるもの。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかにあって、バッフル、空気室、仕切り、音道、リアパネル、のうち複数の役割が一体化した部品を重ねたもの。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかにあって、バッフル、空気室、仕切り、音道、リアパネル、全ての役割が一つの部品として一体化したもの。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかにあって、空気室や音道の容量を変更することで増強する音圧を調整し、音道の内部構造を変更することで増強する共振周波数を調整できるもの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共鳴管型スピーカーエンクロージャーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
共鳴管型スピーカーエンクロージャーは、内部に音道とも呼ばれる管を持ち、スピーカーユニットの背面に放射される音を利用して管の中に気柱共鳴を起こし、それを開口端から放射することで低音域の音圧増強を図るスピーカーエンクロージャーである。なお、共鳴管型スピーカーエンクロージャーにおいて最も普遍的な片側開口共鳴管の共振周波数は音速(メートル)/共鳴管の長さ(メートル)/4で求めることができ、音圧の低下や上昇は共鳴管全体の断面積増減と基本的に比例する。
【0003】
しかし、低音域の増強にはより容易な手段としてバスレフ型やパッシブラジエーター型が存在しており、それらに比すると共鳴管型スピーカーエンクロージャーは低音域だけではなく中高音域まで増強することがあるなど、補強する周波数の調整が難しい欠点があり、長い管が必要となることも合わさって製作難易度が比較的高い。
【0004】
また、管の断面積が小さいと十分な低音増強効果を得られない。断面積は製作後の調整が難しいことから予め大きくする手法が多く取られ、共鳴管型スピーカーエンクロージャーには巨大な作例が目立つ。また、この長い管をそのまま見せてしまうと外観形状も奇抜になりやすい。
【0005】
管にスピーカーユニット正面から見て左右へ渡す板を加えて前後に音道の折り返しを作り、箱型にまとめた箱型共鳴管構造(折り返しの多いものは音響迷路型とも呼ばれる)もあるが、この場合、音道長を変えずに音道の断面積だけを拡大しようとすると正面から見て横方向へ大きくしなければならず、外観への影響が大きく、設置性や音質面への影響(バッフル回折など)もある。これらは同じ箱型のバスレフ型やパッシブラジエーター型エンクロージャーにはほとんど無い制約である。
【0006】
以上、複数の欠点により、共鳴管型スピーカーエンクロージャーを採用した商業製品や自作スピーカーは、他の低音増強技術のエンクロージャーに比べて極めて少ない。
【0007】
なお、共鳴管現象を利用した楽器は、主にフルート、サックス、チューバのような管楽器である。チューバのように低い音を鳴らす管楽器は管が長く大きくなるため、管を巻くなどして形状が複雑となり、製作難易度も上がる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】発行者 堀内久美雄「スピーカーをつくろう!」音楽之友社 2022年 p12、13 p66、67 p72、73 p80、81
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする課題は、共鳴管型スピーカーエンクロージャーにおいて音圧や周波数の調整自由性を提供し、製作難易度を簡易化し、スピーカーエンクロージャーの種類決定において共鳴管型をバスレフ型やパッシブラジエーター型のように選びやすくすることである。なお、音圧や周波数の調整自由性は小型化にも寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、役割ごとに異なる内部形状の部品をCNC工作機械や3Dプリンターなどで成形し、その部品を重ね合わせて構成された共鳴管型スピーカーエンクロージャーである。また、音道の入り口を折り曲げることで音の進行方向を音道部品冠状断面の正面から見てZ軸からXY軸に変換し、音道断面積の増減を音道部品冠状断面の正面から見てZ軸方向とした。
【0011】
但し、量産するために金型を使ったり、手作業で加工したりも可能であることから、材料の成型技術には拘らない。また複数の役割を持つ形状の部品も成形可能であり、特に調整が済んだものを同じ形状のまま量産化する場合などには、全ての役割を一体化することもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の共鳴管型スピーカーエンクロージャーを簡潔に記した構造(
図1)では、スピーカーユニットを取り付けるバッフル部品2から順に、スピーカーユニット直後にあり片側開口共鳴管であれば閉塞端となる空気室部品3、空気室と音道部を仕切る仕切り部品4、共鳴管の大部分を占める音道部品5、最後に音道奥側をふさぐリアパネル部品6に分かれている。この中の主に空気室部品3と音道部品5の機能を含む部品を、厚みや重ねる枚数を変化させることで、増強する音圧の調整が可能となる。調整が可能であれば、予め大きく製作する必要はなく、音圧を計測しながら好ましい点を探ったり、もしくは音のバランスを取りながら小型化を追求したりすることも可能である。
【0013】
また、CNC工作機械や3Dプリンターなどを用いることで、部品内部に複雑な空洞や溝を形成することが可能となり、特に音道の部品では複雑な内部形状により余分な中高音域の増強を抑える作用を試みたり、開口部へ向かってホーン状に広げたりなどができる。音道の長さも設計により調整でき、長さが変われば共鳴管の共振周波数も変わる。音道の長さ調整はほとんど音道部の部品交換のみで行えるため、複数の音道パターンを試す場合にエンクロージャー全体を作り直す必要はなく、音道部を差し替えるだけで済む。
【0014】
それぞれの部品外観が立方体形状であれば、重ね合わせた形も立方体となるため、従来の箱型スピーカーのように直角に板を張り合わせることなく、重ね合わせるだけで普遍的なスピーカーデザインである立方体形状(箱型)のエンクロージャーを作ることができる。また、音道の断面積増減を音道部品冠状断面の正面から見てZ軸方向としたことから、音道の断面積拡大のために筐体を音道部品冠状断面の正面から見てXY軸方向へ拡大する制約がなくなり、外観や設置性、音質への影響も低減する。更に共鳴管の内部形状がすでに形成されているため、音道を作るための部品点数も従来の箱型共鳴管構造のエンクロージャーに比して減る。但し、部品の外観形状が立方体であることは本発明の構成要件ではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明によって製作された簡易な共鳴管型スピーカーエンクロージャーの一例であり、その外観図である。
【
図4】空気室と音道を仕切る、仕切り部品4の正面図である。
【
図6】本発明によって製作された拡張的な共鳴管型スピーカーエンクロージャーの一例であり、その外観図である。
【
図7】
図6に使用した部品のうち14、15、16の正面図である。
【
図8】
図6に使用した部品のうち19、20、21、22、23の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
役割毎に部品を製作し、重ね合わせていくものである。但し、複数の役割を持つ部品を製作したり、調整が済んだ後に決まった形状で量産したりする場合などに全ての役割が合わさった形を作ることも可能である。
【実施例0017】
図1は、本発明を簡便に構成したエンクロージャーの外観図である。部品の厚みが揃っていることは便宜上であり実際に揃っている必要はなく、ユニットの取り付け穴や共鳴管の開口端は正面に向いていなくてもよい。
【0018】
正面から見て最初の部品が
図2であり、バッフル部品と呼ぶ。
図2、
図3、
図4、
図5の斜線部は冠状断面であり、部品の底面でもある。
図2の7、8は空洞であり、7はスピーカーユニットの取り付け穴で、8が共鳴管の開口端である。7に取り付けられたスピーカーユニットの背面に放射された音が、空気室や音道で気柱共鳴現象を起こし、8の開口端から放射される。
【0019】
図3は空気室を作る部品3の正面図である。9、10は空洞である。9は手前側が8の開口端へ繋がり、奥側は12を通り音道へ繋がる。10は空気室を作り出す空間である。
図3部品の手前には
図2のバッフル部品が設けられ、スピーカーユニットを取り付けることによって10が閉塞される。後方には
図4の仕切り部があり11のみが音道へ繋がるため、10の空間は直接外気と触れ合わない。また、
図3の部品を重ねる枚数を増減、もしくは部品の厚みを変化させることで、空気室の容量を調整できる。ここで書く空気室は便宜上の名称であり、空気室も管の一部である。
【0020】
図4は空気室と音道を仕切る部品4の正面図である。9、11は空洞である。9は手前側が8の開口端へ繋がり、11は手前側が10へ、奥側が12へとつながる。
【0021】
図5は音道の形を作る音道部品5の正面図である。9、12、13は全て音道の一部であり、空洞であり、奥側にリアパネル部品6が置かれることで蓋がされ、10から8へ繋がる管の一部となる。音道は正面から見てXY軸に流れているため、当該部品の内部形状はCNC工作機械や3Dプリンターでの制作に適している。9は手前側が8の開口端まで繋がり、12は手前側が11を通して10へ繋がる。
【0022】
図1は、役割毎に部品を五つに分けているが、空洞部分を溝の形とするなどにより、一つの部品に複数の役割を持たせることが可能である。
14はバッフル部品で、共鳴管は15の空間部品内部の10から始まり、16の仕切り部品で音道部品を重ねる向きが下向きに切り替わる。但し、下向きに切り替わっても音道は音道部品冠状断面の正面から見てXY軸に流れている。17と24は一枚板であり蓋の役割を果たす。
音道部が二つあり、19と21に分かれている。二つの音道の間には20の仕切り部品が入る。このように音道を複数設けることも音道長を調整する方法の一つであるが、仕切りで分けられた各音道の内部形状は必ず音道部品冠状断面の正面から見てXY軸に流れる。また、音道と同じように空気室を複数設けることもできる。
22は21の音道部と23の開口部を仕切る板であり、24は一枚板である。8は共鳴管の開口端であり、ここから増強する音が放射される。25の細線は14のバッフル部品から8の開口端まで、エンクロージャー内の管の流れを簡易的に可視化したものである。